咲「寄りかかる」恭子「寄り添ってる、やろ?」の続きです
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本棚から適当に選んだ短編小説は存外面白かった
ちらと前を見やると先ほどと全く変わらない咲の背中が目に映る
相も変わらず課題をやっているようだ
恭子「咲~まだ終わらんの?」
咲「もうちょっとですね」
恭子「それさっきも聞いたんやけど~」
咲「さっきも言いましたからね」
上の空……課題をやっている時に話しかける私が悪いのだけれど
……ん?そもそも恋人が来てんのに課題やってる方が悪いんとちゃう?
もうちょっと構ってくれてもええやん?
恭子「そんなん適当にパパッと終わらせたらええやん」
私に聞こえるようにため息をつき、こちらを向くと
咲「……末原さんは受験勉強しなくていいんですか」
久々に見た咲の顔は見慣れたあきれ顔だった
恭子「この時期に焦って受験勉強しても高が知れとるやろ」
咲「随分と余裕ですね」
恭子「勉強してないって訳じゃないで。そんなに根を詰めるとはないってことや 」
咲「それってやっぱり余裕ってことでしょ」
恭子「余裕って言うか、毎日普通にやっとけば大丈夫やって」
咲「……末原さんって勉強できる人だったんですね」
んん?
恭子「勉強は出来る出来ないやなくて、するかせんかやろ?」
咲「……その発言は多くの人を敵に回しますよ」
恭子「ええ?なんで?」
恭子「しなかったら分からんくて当然やろ?」
咲「でも、したからって誰もが理解できるわけではないでしょう?」
咲「1回で理解できる人もいれば10回やっても理解できない人もいるんですよ」
恭子「なら11回やればええやん」
私はいつもそうしてきた
咲「……末原さんは凄いですね」
恭子「え、これもあかんの?」
咲「いや違うんです。感服しました」
咲「末原さんの末原さんたる所以を垣間見た気がします」
なんやその褒められとるのか貶されとるのかよく分からん言い回しは
咲「というか勉強でき、してたなら末原さんが教えてくださいよ」
恭子「おっ、ええで。私が教えたる。美人家庭教師のアブナイ授業やな」
咲「え?」
恭子「ん?」
咲「危ない授業はスルーするとして……び……じん?」
恭子「そんなに引っかかるとこ?」
咲「引っかかりますよ」
恭子「アブナイ授業がスルーできるんなら美人もスルーできるやろ」
咲「いや、末原さんが美人って、私にはない感性だったんで……」
恭子「そこまで言うか」
咲「じゃあ聞きますけど、末原さんは生まれてから今まで美人と形容されたことあるんですか?」
恭子「いや……そんな悲しい事聞くなや……」
「……」
気まずい沈黙……
咲「なんかすいません……」
謝るんなら言うなや!
恭子「……咲だって美人って言われたことないやろ」
咲「そりゃないですけど」
咲「あ、でもクラスメイトにかわいいって言われたことありますよ」
なんやその得意げな顔。ムカつくわぁ
恭子「そんなん道端の蟻ん子にもかわいい言うとるアホみたいな奴らやろ。信用できんわ」
咲「う……確かにかわいいって言葉だけで三時間くらい話せるんじゃないかって人たちでしたけど」
恭子「やろ?」
恭子「それに、かわいいってのは立場が上の奴が下の奴に言う言葉だったらしいで」
咲「うーん。否定は出来ないですね。スクールカーストでいえば確実にあちらが上でしょうし」
まぁ咲はクラスの中心ってキャラじゃないわな
スクールカーストなんて気にするタマじゃないやろうし
咲「かわいいって元々は可哀想とか不憫って意味だったとも聞きますよ」
恭子「まぁな、欠点がないとか、そつが無い人のことを可愛げがないって言うし」
恭子「どこかしらに弱いところがないと共感とか庇護欲とかは生まれんわな」
咲「小さいものをかわいいと言いうのもそういうことなんですかね」
恭子「かく言う私もかわいいは言われたことあるわ」
「……」
気まずい沈黙その二
咲「ま、まぁ言葉は時代と共に変化していくものですし、ね」
恭子「せ、せやな。言ってる方もそんな深い意味はないわな」
「…………」
はいその三
……あかん。なんか暗なってもた
沈黙に耐えかねた咲が放った一言は
咲「……べ、勉強できるんなら、末原さんが教えてくださいよ~」
まさかのtake2
今までのくだり無かったことにする気か?
恭子「おっ、ええで。私が教えたる。美人家庭教師のアブナイ授業やな」
咲「……」
恭子「そんな睨まんでもええやん。天丼やんか」
咲「仏の顔も三度撫づれば腹立つ。天丼も三度は許されませんよ」
恭子「あれ?うちのとこでは天丼は三回までOKやったけどな」
恭子「仏さんもこらえ性ないな~三度目でもうアウトって」
咲「……」
あかん。本格的に御機嫌斜めになる前に話題を戻そう
コホンッとわざとらしい咳払いをして覗き込む
恭子「どこが分からんの?手取り足取り教えんで」
咲「末原さんは私に答えを教えてくれるだけでいいんですよ」
お姫様は気分を損ねてしまわれたようだ
恭子「それじゃ意味ないやん」
咲「適当に終わらせろって言ったのは末原さんじゃないですか」
恭子「そうじゃなくて、それやったら解答見た方が早いやん」
咲「それはいいんだ……」
恭子「悩んだところで分からんのなら答え見て理解する方が効率的やろ」
恭子「もっとこう……な、わかるやろ」
咲「いや分かりませんよ。あとその手つきやめて下さい」
恭子「家庭教師ってなんかイヤラシイ感じせぇへん?」
咲「まったくしませんね」
恭子「家庭の教師やで?生徒の部屋で何教えんねんって話や」
咲「そりゃ勉強でしょう」
恭子「ええ~」
咲「偏見に満ちてますね。えっちな漫画の知識じゃないですか」
恭子「ちゃうって!もうちょっとこう、甘酸っぱい感じの……」
咲「少女漫画の知識でしたか。あんまり変わらないでしょ」
恭子「変わるわ!全然ちゃうやろ!」
咲「描写と性別が変わるだけでやってることはほぼ同じでしょう」
恭子「えぇ~?いや、そんなことは……」
咲「現実的でないことには変わりないですよ」
咲「保健室の先生が美人で巨乳で白衣着てなおかつ胸元開けてますか?」
恭子「見てみたいな」
咲「新任の教師が高身長のイケメンで、遠い昔に遊んでくれてた近所の……なんてことないでしょ」
恭子「ありえんな」
恭子「それより、私は背はあんまり高くなくて優男系の方がいいな」
咲「草食系って奴ですか。昼行燈でこっちが引っ張っていくタイプ」
恭子「そうそう」
咲「でもイケメンってよりも男前な感じで、寡黙なタイプも良くないですか」
恭子「普段は素っ気無いけど、いざという時は頼りになる的な?」
咲「そんな感じです」
恭子「なるほどなーそれもええな。でもやっぱりイケメンは噛ませやな」
咲「イ、イケメンくんだっていいところはありますよ……いい人とか……?」
恭子「出た!いい人!それって自分にとって都合がいいってことやろ」
咲「褒めるとこに困ったときの常套句って感じではありますけど」
恭子「イケメンってだけでアドバンテージやけど、それだけじゃあかんな」
咲「自分を棚に上げて凄い上から目線……」
恭子「所詮漫画の世界の話やし。咲だってそうやろ?」
咲「ですね。こっちは読者で、神の視点から見てるんで仕方ないです」
恭子「神様視点ってそれめっちゃ上からやな」
咲「末原さんは白馬に乗った王子様を待ってるタイプじゃないですよね」
恭子「まぁな、私は迷子の迷子の子猫ちゃんを保護するタイプやな」
咲「ム」
恭子「あなたのおうちはどこですか~ってな」
咲「ここですけど!?」
咲「……確かに末原さんは犬っぽいですね」
恭子「そうか?」
咲「私には犬馬の心で接してください」
恭子「ふざけんな!この猫かぶりが!」
咲「飼い犬に手を噛まれるとはこのことですね」
恭子「ふんっ。鳴く猫は鼠を捕らぬってな」
咲「はぁ~犬に論語ってやつですか」
恭子「猫は虎の心を知らずやな」
咲「犬の遠吠えですね」
恭子「猫に小判」
咲「吠ゆる犬は打たるる」
恭子「……猫の手も借りたい?」
咲「いやそれは違うでしょ」
恭子「あかん。出てこん」
咲「猫に小判の時点で怪しかったですけどね」
恭子「くっ」
犬の方が絶対数多いやん。こっちが不利やんけ
咲「犬のおまわりさん、か。」
咲「でもあの歌、子猫も犬のおまわりさんも困っただけで結局問題解決してないんですよね」
恭子「そうやったっけ」
確かに一番も二番もただ困っとっただけやったような……
おまわり使えんな
咲「子猫は家に帰れたんでしょうか。そもそも帰る家があったのか……」
……咲?
恭子「帰れたんとちゃうかな。それか案外犬と子猫は仲良く暮らしたかもしれんしな」
咲「……そうだといいですね」
その笑みにそれ以上何も言えなかった
恭子「……話それすぎたな。ちっと真面目にやろか」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
課題もひと段落して、小休止
お昼にはちょっと早いですけど、と咲が持ってきてくれたのは
恭子「パンケーキ?」
咲「いやホットケーキです」
恭子「ふーん。美味そうやな」
それってどう違うんやろ?
ってかこんなに厚く焼けるもんなんやな。ふわっふわやん
咲「メープルシロップ大丈夫でしたよね?」
恭子「ん」
恭子「いただきます」
咲「いただきます」
恭子「……うん美味い」
想像通りの期待を裏切らない美味さ。安心さえするような味や
咲「良かったです。ホットケーキに美味しいも美味しくないもない気がしますけど」
恭子「そんなことないやろ。料理は味はもちろんやけど見た目も食感もかなり重要やで」
あかんなぁ割とカロリー高いのに。食べ過ぎて後悔しそう
咲「末原さんも来年は大学生なんですね」
恭子「何もやらかさんかったらな」
咲「なんか遠くに感じちゃうなぁ」
恭子「そうか?」
咲「小学生の頃は中学生とか高校生とか、すごく大きくて大人に見えませんでした?」
恭子「ああ、あるな。下級生の頃とか上級生の廊下を通るだけなのに躊躇したりな」
咲「自分がそうなってみるとそうでもないんですけどね」
恭子「せやな。中3と高1の違いとかただ一年経って年取ったかどうかやもんな」
咲「突然大人にはなれないですよね」
大人か……咲はどんな大人になるんやろか
私は大人になれるんかな
恭子「咲は進路とか考えとるん?」
咲「……いや、あんまり考えてないですね……」
考えてはいるみたいやな
恭子「まだ一年やしな。そこまで詰めて考えんでもいいか。でも時間はあっという間に過ぎんで」
私の言葉をどう受け取ったのか、咲は冗談めかして
咲「いいんですよ。私は末原さんのとこに永久就職しますから」
なんてのたまう
恭子「何言うとんのや。私が嫁やろ」
咲「いやいや、家は私が守るんで末原さんは安心して稼いできてくださいね」
恭子「えー、私も家で咲の狩りの帰りを待っときたいわ」
咲「私は木の実とか山菜くらいしか採れませんよ」
恭子「咲なら猪くらい獲れるんちゃう?」
咲「無理ですよ。野兎、いや栗鼠ですら無理ですから」
恭子「……リスって食べられるん?」
咲「さあ?……何処かの国では食用があるって聞いたような聞かないような」
恭子「いい加減やな」
恭子「ま、よっぽどじゃないと共働きやないと厳しいやろな」
もっと根本的に突っ込まなあかんとこがある気がするけど
なんにしろ、お互いに一人で立ってられるようになってからやな
恭子「ん、ごちそうさまでした」
咲「あ、はい」
咲「……ごちそうさまでした」
咲「紅茶、淹れ直してきますね」
と、食器を下げる咲に私も手伝おうかと腰を上げたが、笑顔で制された
勝手が分からない所で手伝おうとしてもかえって気を遣わせる、か。大人しくしておこう
程なくして咲が帰ってくる
咲「はい、どうぞ。お砂糖入れます?」
恭子「今はいいや。ありがとう」
ほっと一息~ってな
恭子「……進路も遊びも、何でもそうやけど、選択肢は増やしとった方がええで」
未来は無限にあるように見えて、自分で選べる道は意外と少ない
生まれた処や生まれ持った資質とかで決まることもあるし、本人の努力次第で増やせる選択肢もある
恭子「もう決めてるなら別やけど」
私は進学やし、案外咲の方が早いかもな……それも咲の選択次第か
咲「遊びの選択肢って何ですか?」
恭子「うん?」
恭子「そうやな……ここにオセロとトランプがあるやろ?」
恭子「これやとオセロしか出来んけど、トランプやったらいろんなゲームができてお得やん」
咲「お得……?」
恭子「ほら、オセロは二人でしかできんけど、トランプは大人数でもできるやん?」
咲「何故オセロを例に……オセロに恨みでもあるんですか」
恭子「いやないけど、ここにあったから。もちろんオセロもおもろいけどな」
恭子「じゃあオセロやろか」
咲「突然ですね。いいですけど」
恭子「ただ遊ぶだけじゃ何やし、なんか賭けよか」
咲「え」
恭子「そうやな、咲のキスを賭けて勝負や」
咲「……私が勝った場合はどうなるんですか?」
恭子「そらもちろん、うちのキスをやるで」
咲「末原さんしか得しないじゃないですか」
恭子「じゃあ、うちが負けたら咲のお願い何か一つ聞くってのでどうや」
咲「うーん。なんか釈然としませんけど」
恭子「よし!じゃあ始めんで!」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
恭子「はい勝ち~」
咲「えぇ~??」
咲「絶対おかしいよ。四隅全部取ったのに……」
咲「60対4で負けるなんて……」
恭子「じゃあうちの勝ちってことでキス」
咲「ちょ、ちょっと待ってください」
咲「明らかに末原さんが得意なゲーム選びましたよね」
いや咲が弱すぎるってのもあるけどな
咲「今度は私にゲーム決めさせてください」
恭子「もういいやん」
咲「ズルいですよ!こんなの!」
珍しく身を乗り出してさえずっている
恭子「ズルいって、ルール違反したわけでもなし」
咲「でも……」
恭子「分かった分かった。じゃあ一回だけな」
咲「なんで私が聞き分け悪いみたいになってるんですか」
恭子「それで、なにするん?」
咲「神経衰弱にしましょう」
神経衰弱か。記憶力にはちょっと自信があるし、大丈夫やろ
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
咲「う~ん……これ、かな?」ペラッ
咲「やったぁ揃った!」
恭子「……」
咲「あと2枚で全部取りだ!」
咲「あとは……どれだろ?」
恭子「もうええやろ!その2枚で終わりや!」
カーペットに並べられたトランプはあっという間になくり
咲の手元に積み上げられている
恭子「おかしいやろ。こんなん」
咲「じゃあ私の勝ちですね!」
恭子「ありえへん……うち一回もめくっとらんのに……」
トランプに細工がしてあるようには見えんし、なんやこれ!?
咲「完勝!末原さんへのお願いは……」
恭子「ちょっと待てや!まだ一勝一敗でイーブンやろ。あと一回勝負や!」
カードが伏せてあるタイプの奴は不利や
完全情報ゲームやないと……いや待てよ
恭子「今度の勝負はスピードでどや?」
咲「スピードですか」
恭子「ええやん。別に今回は得意って訳じゃないで」
恭子「咲がやりたい奴が他になんかあるんならいいけど」
ターン制やないし、直接攻撃もない、速さを競うゲーム
運の要素もあるけどこれなら……
咲「……」
咲「分かりました」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
恭子「よっしゃー!」
咲「あー……負けちゃった」
速攻かければこんなもんや!
咲「む~もうちょっとだったのに」
恭子「残念やったな。よし、二勝一敗でうちの勝ちやな!
咲「やっぱりおかしいですよ。末原さんがやるゲーム二回決めたんですから有利じゃないですか」
恭子「いや、でもスピードでの勝負は咲も納得してたやろ?」
咲「それは……」
恭子「キース!キース!」
咲「……」
恭子「ちゅー!」
咲「末原さん、賭博は公営のものを除いて違法ですよ」
恭子「なっ」
咲「残念ですね~私もしてあげたかったんですが、違法なんで出来ないです」
言うに事欠いて……でもそれは悪手やろ
恭子「安心せい。刑法185条には『一時の娯楽に供する物を賭けたにとどまるときは、この限りでない』とある」
恭子「つまり金銭はアウトやけど、食べ物とかやったらセーフなんや!」
咲「私のキスは一時の娯楽に供する物だと?」
恭子「そういういうことやな」
咲「どういうことですか」
咲「大体私は最初の賭けのところでいいとは言ってないんですけど」
恭子「じゃあ賭けはいいから普通にしてくれ」
咲「えぇ……」
恭子「ん?『してあげたかった』んやろ?」
咲「それは……言葉の綾っていうか」
恭子「そんなにイヤ?」
咲「それ自体が嫌って訳じゃないですよ」
恭子「ほんまか」
咲「ほんまですよ。ほんまですからちょっと離れてください。近いですよ」
対面から横並びにポジション変更!
こっちの方が親近感湧いてリラックスできるんやって何かで読んだけど
ほんまなんかな?
咲「今更なんでキスにこだわってるんですか」
恭子「咲からってのが重要なんやって!」
咲「末原さんから強要されて私からするキスが?」
恭子「強要って……言い方!お願いやし」
咲「お願いされてするものでもないでしょ」
恭子「それはそうやけど」
それはそうやけど、咲は良い匂いすんな。香水?いやボディーソープか?
咲「私だってしたくなったらしますよ」
恭子「嘘やん。そんなん絶対無いやん」
うーん。なんやろ?シトラス系っぽいけどフローラルもはいってるような……
こういうのは体臭と混ざって香りが変わるもんやし、よく分からんな
咲「もうちょっと雰囲気とか気持ちとか大切にしてくださいってことです」
恭子「それはそれでこっぱずかしいやん?」
咲「いや、分かりますけど、お願いする方が恥ずかしいでしょ。人として」
人としてって……
恭子「そこまで言わんでも……大体そんな本気やなかったし……冗談やん」
咲「あ~もう。いじけないで下さいよ」
恭子「いじけてないし」
咲「ごめんなさいって。言い過ぎました」
恭子「ほんまにそう思っとる?」
少し咲にもたれかかってみると
咲「んっ。くすぐったいですよ」
なんて身を捩る。可愛いやっちゃな
恭子「……うちそんなに面倒くさくないよな……?」
咲「いや、正直面倒くさいですね」
恭子「えー?そんなことないやろ」
咲「もうこのやり取りが面倒くさいじゃないですか」
恭子「……せ、せやな。すまん」
結構ダメージあるなこれ
咲「……私も割と面倒くさいとこあるし、そこはほら、お互いさまというか、ね」
なんやそのフォロー。いらんわ
もたれかかっていた重心を少しずらし、そのまま倒れ込む……咲の膝枕ゲットー!
咲「ちょっと……もう」
見上げた咲の顔は困ったような怒ったような照れたような、つまりよく分からない顔だった
恭子「せやな。咲は割と、一人で居るのが好きな癖に寂しがり屋やもんな」
咲「そんなこと」
咲はなんで私と一緒にいてくれるんやろか
恭子「不意に近づかれるのは嫌やけど、こうやって触れられるのは好きやろ?」
手を伸ばしその柔らかい頬に触れる
咲「……その言い方はなんか」
そのまま少し伸びた前髪を流してみる
恭子「咲は綺麗やな」
咲「はぁ?何言ってるんですか」
……はぁ?って……超クール!冷めすぎやろ
恭子「……思ったことを言っただけや」
確かに脆くて儚いものは人の心を捉える。その様はなるほど美しいとも思う
一方で不純物のない、純粋で混じり気のないものは強い。そして綺麗なもんや
それがたとえどんなモノであろうとも
咲は後者だと私は思う
私は……何かになりたくて、未だ何者にもなれずにいる
咲「なんの皮肉かと思いましたよ」
恭子「ちゃうって!」
どんな私になれば咲の望む人になれるのだろう
咲の傍にいるために、私はどれ程の強さを纏えばいい?
咲「末原さんは可愛いですね」
恭子「……私が可哀想だとでも言いたいんか」
咲「額面通りの意味ですよ。それに私は何にでも可愛いとは言いません」
確かに咲は可愛いを多用しない
会話の中で同意や共感を生む言葉として使ってないからだろう
やばい。嬉しい
頬が緩むのを抑えきれない
咲「変な顔しないで下さい」
恭子「ぐへぇ!」
咲の一言で一喜一憂している。私も単純なモンやな
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
静寂である部屋で秒針の音と息遣いがだけが聞こえてくる
邪魔なものがない分咲の顔がよく見えるな
なんて膝枕を堪能していると咲がぽつりと呟いた
咲「私、この季節、意外と好きなんです」
恭子「ん?」
咲「外は風が吹いて寒いけど、部屋の窓際は柔らかな陽の暖かさが感じられて」
小春日和ってやつやな
恭子「せやなぁ」
このぬるま湯のような温度に微睡んでしまう
咲「ふふっおねむですか?」
恭子「んー」
咲の少し冷たい手が気持ちいい
咲「足が痺れちゃいそうなんですけど」
恭子「もうちょっとだけ……」
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―――――
――
陽が頂点まで昇り傾いてゆく
だらしない顔で寝ちゃってるよ、もう……
咲「ふわぁ……」
私も眠くなってきちゃったな
少しだけお昼寝しよう
冬の優しい陽射しと末原さんの体温を感じながら眠りに落ちてゆく
そんな贅沢な時間がゆっくりと過ぎる
――ホントは賭け事は好きじゃないんだけど
負けは負けだから仕方ない……仕方ない、よね?
……甘い。さっき食べていたメープルシロップの味がする
紅茶飲んでたはずなのに……なんで?
時代も人も変わり続ける
私も末原さんも、いくつもの分かれ道を選び進んでここにいる
これからも道は続くし、選び取っていくんだろう
いつかこの何気ない日々を懐かしむ日がくるのかな?
その時にも末原さんが私の横に居てくれたら……
いや、私が末原さんの横にいるんだ
私がこの場所を守る
沢山の選択肢の中から私が選んだのだから
選んだものを大切にする。当たり前のことだ
じゃないと失礼でしょ?選んだものに。選べなかったものに。
なんて決意もむなしく私は睡魔に負け意識を手放した
了
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