八幡「奴はとんでもない爆弾を投下していきました」 (16)

材木座「時に八幡よ。一つ聞いておきたいことがあるのだが」

1月が行き、2月が逃げた3月の始め。もういくつ寝れば卒業式という時節になったある日の放課後、うっかり材木座に捕まってしまった俺は教室でルーズリーフの束を抱えていた。

大きな窓から差し込む夕焼けに照らされ、教室の窓側半分はオレンジ色に染まっている。

廊下側のもう半分は既に暗く沈み、これから来る夜を一足先に象徴しているようですらある。

八幡「聞きたいこと?なんだよ。ていうか俺も聞きたいことあるんだけど」

材木座「ほう、よかろう。なれば主の質問とやらを先に聞くとしよう」

ふんぞり返って腕組みをし、鷹揚に頷く材木座。

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八幡「聞きたいことってもいくつかあるんだが」

材木座「構わん。申すがよい」

いつもながらやたら偉そうな態度だなこいつ。

八幡「じゃあとりあえず。これ、設定資料集だよな?」

材木座「ふむ、いかにも。最近の流行りである異世界俺TUEEE系ハーレム物を取り入れた新作だ」

いや、取り入れたっていうかごちゃ混ぜにして羅列しただけだろ。
最近の売れ筋ラノベ主人公オールスターズって感じだ。

八幡「いや、まあ内容についてはゴミの一言で片付けられるからいいとしてだな」

材木座「ホブウェ!?グッ……ほ、ほう、さすがは八幡。キャラを見る目の厳しさは大したものだ」

わざとらしく体を仰け反らせ、ずれたメガネを直す材木座。

おいおい、まだ俺の攻撃は始まってすらいないのに、今からそんなんで大丈夫か?
霊圧だけでかなり利いちゃってるじゃねえか。

八幡「何度も言ってるが設定資料じゃなくて原稿持ってこい。話はそれからだ」

材木座「バホンバホン、これだからトーシロウは困る。まず緻密で作り込まれた設定がなければ、世のオタクたちの目は誤魔化せん。我の書くラノベは萌えと練り込まれた設定の、隙を生じぬ二段構えよ」

八幡「そうだな。確かに設定はきちんと作り込むにこしたことはない。でも本文がなければそもそも何も始まらないんだぜ?」

まあ世の中には設定なんかクソ食らえ、大事なのはライブ感だというような作品もたくさんあるんだけどな。

某2000万パワーズとか、チャドの霊圧が消えるアレとか。

材木座「無論、その程度は先刻お見通しだ。故にこうしてまず設定を固め、万難を排して本文に挑もうというのではないか」

八幡「だからその設定固めだけで何ヵ月かかってんのかって話だよ。新作新作っていちいち持ってくるが、一つも本文に着手することなく次に移ってんじゃねえか。万難排しすぎて難どころかなんも残ってねえんだよお前は」

石橋を叩きすぎて橋が落ちちゃった的なね。

でも材木座の場合は単に、設定資料やプロットという形で妄想の垂れ流しをしたいだけなので、万難を排すなんてのは方便に過ぎない。

石橋叩くのが好きなだけ。おい、ブリジストンに謝れ。

材木座「ほむぅん、難を排しすぎてなんも残らん、か……。なかなか上手いことを言うではないか」

八幡「そこは食いつかなくていいんだよ。お前、RPGツクールやったことあんだろ?」

材木座「ふむ、やったことがあるかどうかと聞かれれば、我ほどやりこんだ人間もそうはおらんだろうな。一時はゲームクリエイターへの道を志したほどだ」

八幡「一本でもゲームを完成させたことあるか?ないだろ?」

材木座「な、なにを根拠にそう断言するのかわからぬでござるな!根拠もなしの決めつけはお断りいたそう!」

俺の問いにあからさまに動揺した材木座はわかりやすくキャラぶれを起こす。

八幡「いや、わかるから。いいから、そういう見栄はらなくて。あれだろ?まず呪文とかアイテムとか大量に作って、町とかダンジョンとかは1つ2つ作って投げっぱなしだろ?わかるわかる」

本当よくわかる。なんせ俺がそうだったからな。

材木座「な、なぜそれを……!さては八幡よ、それが貴様の持つ魔眼の力……!その目に写った者の過去を全て読み取るという恐ろしき能力か!」

おい、誰の目が禍々しいだ。
そういうのマジもういいから。雪ノ下一人で十分だから。

八幡「お前はラノベに関しても同じことやってんだよ。プロットや設定も大事なのは確かだが、あくまでそれは骨組みや背景に過ぎない。もっと言えばオマケみたいなもんだ。そんなもんだけ見せられてもこっちも困るんだよ」

だってほら、ビックリマンのウェハースだけ売ってても誰も買わないだろ?
握手券がないCDなんか誰も買わないのと同じ。

オマケだけで本体がなきゃ意味がない。

材木座「そ、そんなもんと言ったなお主……。我の作った大作の萌芽をそんなもんと……」

八幡「いや、そんなもんだろ。それが不満ならそんなゴミだ、ゴミ」

材木座「ぬぐぐぐぐ!!ゆ、許せんぞ、八幡!取り消せ!」

椅子から立ち上がり、両手の拳を握りしめて吠える材木座は、案外本気で怒っているように見えた。

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