雪ノ下雪乃は比企谷八幡の部屋に住む。 (593)
『昨日、〇〇区のマンションの不良が発覚した問題を受けて…』
『販売していた〇〇不動産はこの問題を関連企業である雪ノ下建設に責任があると発表しました。』
『ですが発覚と同時に雪ノ下建設の代表であり県議でもある雪ノ下氏は…』
『現在、家族共々行方不明の状況となっています。』
今朝、各報道機関によってこのニュースが大々的に報じられた。
雪ノ下建設、つまり俺たち奉仕部の部長である雪ノ下雪乃の父親が経営する会社。
その会社によるマンションの設計ミスが発覚。
しかし社長はその問題が取り上げられる前に家族と一緒に夜逃げしたという内容だった。
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~総武高校~
「雪ノ下ー!出てこーい!!」
「いるのはわかってんだぞ!?」
「教師どもも匿ってるんじゃねーぞ!あいつらが何をしたのかわかってんのか!?」
その影響は俺たちが通う高校にも影響を及ぼした。
今、校門の前で叫んでいるのは、
雪ノ下建設による設計ミスでマンションに住めなくなった住人たちだ。
ヤツらの要求はこうだ。
『この学校に通う雪ノ下建設の令嬢を出せ!そいつに全ての責任を負ってもらう!!』
どう考えても横暴すぎる要求だ。
いくら令嬢とはいえ単なる女子高生に何ができるっていうんだ…?
「キミたち総武高校の生徒だよね?」
「この学校に雪ノ下建設の令嬢が通っている話なんだけど…」
「よかったら彼女の事について知っている事を話してくれないかな?」
さらにはマスコミどもが挙ってやってきた。
連中は通学途中だろうがお構いなくインタビューしてくる…
正直、俺を含む全校生徒がこの事態に辟易していた。
結衣「ねぇ…ヒッキー。
どうしてこんな事になったのかな?ゆきのん大丈夫なのかな?」
八幡「さあな、俺だって何がなんだかの状態だ。むしろ聞きたいのはこっちの方だよ。」
葉山「比企谷、結衣、二人に話したい事があるんだ。」
八幡「葉山か。お前は今回の事情に詳しいようだな…」
この事態に由比ヶ浜は雪ノ下の安否を気遣っていた。
だがそこへやってきた葉山から意外な話が…
葉山「二人とも、雪乃ちゃんの事はもう忘れた方がいい。」
八幡「やっぱり…そういう話か。」
結衣「何で…どうして?何でゆきのんが大変な時にそんな事を言うの!?」
葉山「聞いてくれ。
これは大人の話だが雪ノ下の家はスケープゴートにあった。
全ての責任を押し付けられたんだ。」
八幡「なるほどな、雪ノ下建設も所詮は下請けだからか…」
結衣「でも…だからって…何で…?」
八幡「当然だろ。
今、外で叫んでいる連中は大金払って買った家なのに住めなくなっちまったんだ。
そして親元の会社はその責任を雪ノ下の家に押し付けた。
だからなんとか元通りにしろと叫んでんだよ。」
葉山「雪ノ下の家が彼らに与えた被害は大きい。
いくら雪ノ下の会社でも全てを保証するなんてできるはずもない。
だから一家全員で夜逃げしたんだ。」
葉山の家は親が雪ノ下家の顧問弁護士をしている。
だからその辺の事情を父親から聞いたのだろう。
だがここまでの話は前振り、葉山の話はここからが肝心だった。
葉山「だから二人とも、雪乃ちゃんの事は全部忘れろ。」
結衣「そんな…親のした事なんて子供には関係ないじゃん!」
八幡「そんな言い訳があの連中に通じると思っているのか。
お前、今のセリフを外にいる連中に言ってみろ。即リンチに合うぞ。」
葉山「比企谷の言う通りだ。
俺の家も既に雪ノ下の家とは縁を切り何も関係ないと装っている。
それに俺のグループにも雪ノ下とは何も関わりはない。
話した事さえないと既にみんなにきつく言っておいた。
そうでないと俺たちですら狙われる…」
確かに葉山の対応は正解だ。
この場合、自分は無関係だという素振りを見せた方が正解なんだろうが…
八幡「お前、雪ノ下とは幼馴染だろ。随分と冷たいんだな。」
葉山「あぁ、雪乃ちゃんに陽乃さん。
二人とも子供の頃から知り合っていた。けど俺も今の生活を守らなきゃいけない。」
葉山「比企谷、キミだって同じはずだろ。
キミにだって居場所があるはずだ。俺がやっているのは当然の事だ。
今はわからないかもしれないがいずれはキミだって同じ事をするはずだ…
誰だって今の居場所が大切なんだ。」
結衣「隼人くん行っちゃった…なんだかつらそう…」
八幡「まあ…あいつの言いたい事もわかる。
これから進路に向かって大事な時にあんな連中に彷徨かれたら迷惑この上ないからな。
さてと、俺もやるべき事をやらなきゃいけないか。」
結衣「ヒッキー!こんな時にどこへ行く気!?」
葉山からの忠告を受けた俺たち。
その足で平塚先生のいる職員室へ向かった。
静「悪いが話している時間はない。雪ノ下の件で色々と対応に追われていてな…」
八幡「その事で相談があってきたんです。実は…」
結衣「そっか!先生たちならなんとかしてくれるかも!」
静「そんなわけにいくか。
この状況をよく見ろ、今朝からずっと電話が鳴りっぱなしで仕事にならん。
教師として本来こんな事は口にしたくないが…
雪ノ下の親もとんでもない事をしてくれたよ。」
教室内で鳴り響く電話。
どれも先日の雪ノ下建設の件が原因だ。
平塚先生だけでなく他の教師たちも対応に追われてこれでは授業にすらならない状況だ。
八幡「それでお話なんですが、
この学校にある雪ノ下の写真を俺たち奉仕部で全て処分させてくれませんか。」
結衣「ちょっとヒッキー!なんて事を言うの!?」
静「比企谷、どういうわけか説明してもらおうか?」
八幡「簡単な話です。
今の状況を見てわかる通り、雪ノ下の家は世間さまに多大な迷惑を掛けました。
その被害はこうして俺たちにまで趣いています。
恐らくこれから雪ノ下の写真をマスコミに流すヤツだって現れるはずですよね。」
静「それで何が言いたい?」
八幡「その写真には他の生徒も写っている可能性が十分あります。
他の生徒には罪はないはず、
だから他の生徒たちに影響が及ぶ前に俺たちで回収したいんですよ。」
静「比企谷…今の話は正気か…?」
八幡「正気です、こんな話冗談で言えますか?」
結衣「ちょっとヒッキーやめなよ…」
八幡「嫌なら俺一人でやる。お前は何もしなくていい。」
こうして俺は先生たちから雪ノ下に関する写真を全て提出してもらった。
それだけじゃない。
雪ノ下の教室、
それに一色や城廻先輩たちまで回ってあいつの写真や画像を出してもらった。
勿論、こんな写真を持っていたら今度はお前らのとこに外の連中が来るぞと脅して…
結衣「ヒッキー、よくそんなに集めたね。」
八幡「これで全部だと思いたいがな…
ところで平塚先生、タバコに使うライター貸してもらえますか?」
静「これで一体何をするつもりだ?」
八幡「勿論、燃やすために使うんですよ。」
俺は平塚先生から借りたライターで雪ノ下の写真を全て焼いた。
焼け落ちる雪ノ下の数々の写真…
それが全て灰になって焼け落ちるまでの確認してから火を消した。
結衣「あ…あぁ…ゆきのんの写真が…ヒッキー!酷すぎるよ!?」
八幡「しょうがないだろ。これもみんなのためだ。葉山と同じ考えだよ。」
静「だがここまでしなくても…」
八幡「それと先生、
奉仕部に雪ノ下がいた痕跡を消しておいてもらえますか。
こうなると今度は同じ部員である俺たちも危ない。」
結衣「ヒッキー!何もそこまでやらなくても…!?」
八幡「外にいるヤツらならどんな手段を使ってでも雪ノ下の情報を手に入れようとする。
お前、自分の家族にまであんなヤツらが押し寄せてきたら耐えられるのか?
俺は嫌だね、小町があんなヤツらに何かされたら正直耐えられない。」
結衣「それは…」
静「だがそうなると…
雪ノ下のこの学校での痕跡がクラス名簿の名前くらいしかなくなるぞ。
いくらなんでもそれはやり過ぎだ。」
八幡「そんな悠長な事を言ってられますか?
先生のところにだってあいつら来ますよ。
その時になって今と同じセリフ言ってられるんですか…?」
静「…」
結局、平塚先生は俺の言う通り雪ノ下の名前を奉仕部から消した。
いや、消したのではない。
彼女がいた痕跡を全て無かった事にした。
こうして学校で最も優秀な生徒が親の所業で全ての記録から削除された。
そして帰り道…
結衣「酷い…何もここまでしなくたって…
おまけに部室にあったゆきのんの私物だったお菓子やお茶の道具まで持ってきて…」
八幡「もう泣くな由比ヶ浜。それよりもまずいなマスコミだ。」
記者「ねえキミたち、確か奉仕部の部員だよね。
雪ノ下雪乃さんの件でお話があるんですけど伺ってもいいかな~?」
八幡「雪ノ下ですか。
それならこの封筒にヤツの写真がありますが譲りますよ。ただしお金が発生しますがね。」
結衣「ヒッキー何考えてんの!?」
記者「よしいいだろう。5万円で買ってあげよう!」
こうして記者はろくに中身も確認せずに封筒入りの写真を5万で買った。
俺は5万を受け取ると由比ヶ浜と一緒にさっさとその場を去った。
だが由比ヶ浜は今の俺の行動に不快感を抱いてしまった。
結衣「ヒッキー!何であんなヤツにゆきのんの写真を渡したの!?」
八幡「構わねえだろ。あれだけ他人に迷惑かけたんだ。当然の報いだろうよ。」
結衣「ふざけないで!
私…ヒッキーだけはゆきのんの事を信じていると思っていた!だから…!?」
八幡「だから何だよ?
これ以上雪ノ下の事を口にするな。お前もみんなと同じで無関係を装え。いいな!」
結衣「う…うぅ…グスッ…
信じてたのに…お金なんか貰って…ヒッキー最低だよ!?」
俺は由比ヶ浜に散々罵られた。
仕方ないだろ。
誰だってそんなに強くはないんだ。
自分の居場所を守るので精一杯なんだよ…
~比企谷家~
八幡「ただいま、小町無事か?」
小町「お帰りお兄ちゃん!大変だったみたいだね!」
八幡「どうやらその様子だと無事のようだな。」
小町「でも…雪乃さんは一体どうなったの?
お兄ちゃん雪乃さんとは親しかったんだし何か聞いてるんでしょ!?」
帰宅するとさっそく小町が事件の詳細を聞いてきた。
そりゃそうだ。
知人の一家がこんな大事になってんだしなんとも思わない方がおかしい。
だが俺はそんな小町に対して由比ヶ浜と同じ対応を取った。
八幡「悪いが何も聞いてない。
それよりもこれからこの家にもマスコミが押し寄せるかもしれないからな。
その時は絶対雪ノ下雪乃なんて知りませんと言うんだ。わかったか?」
小町「そんな事を…?でも雪乃さんは…!?」
八幡「いいか小町、あいつらは大変な事をやらかしたんだ!
もうあんなヤツらを知人だとか絶対思うな!人から聞かれても何も言うな!
もしも擁護なんてしてみろ。
あのTVで喚いている連中がお前を襲ってくるかもしれないんだぞ!!」
小町「そんな…でも…
雪乃さんを裏切れなんて…お兄ちゃん…小町ポイントが最低ランクだよ…」
八幡「悪いが今はあまりお前の冗談に付き合ってられないんだ。
ところで今夜は部屋でメシを食うから小町は一人で食べていてくれないか。」
小町「いいよもう…勝手にしなよ…」
小町に呆れられながら俺は自分の部屋へと向かった。
結局、俺は雪ノ下を悪者にする事で由比ヶ浜や小町たちを守る事ができない。
我ながら最低な男だ。
~八幡の部屋~
八幡「さてと、ただいま。」
雪乃「……お帰り……なさい……」
八幡「これ、夕飯持ってきた。
食欲ないかもしれないがお前昨日から何も食ってないだろ。遠慮せず食っておけ。」
雪乃「要らない…今は何も食べたくない…」
八幡「そっか…そりゃそうだよな…」
俺の部屋に雪ノ下雪乃がいる。
簡単に説明すると雪ノ下は家族と逃げ遅れてしまった。
その原因はマンションでの一人暮らしにあった。
他の家族は自分たちの事で精一杯で、
離れて暮らしていた雪ノ下の安否まで気遣う余裕がなかったのだろう。
今はそれほど大変な事態なんだ。
八幡「とにかく今は無理してでも食った方がいい。じゃないと身体がもたないぞ。」
雪乃「いいわよ…私なんか死んでも…」
八幡「何言ってんだお前…?」
雪乃「今日…あなたが学校に行った後…
ずっとTVを観ていたわ…みんな私たち一家の事を悪く言っていた…
誰も彼もが…お金を返せ…家を返せ…まるで呪詛のように繰り返して…」
八幡「悪い…俺にはこいつらを止める力なんてなくて…」
雪乃「…謝らなくていいのよ…全部本当の事なんだし…」
家族に見捨てられ、
さらに外ではこいつは何も関わっていないのにやってもいない事で悪者扱いされている。
今の雪ノ下の心情を考えれば食い物なんて喉を通さないだろう。
あの気丈な雪ノ下がこれほど気弱になるとは…
上手いこと時事ネタを絡めてんなー。
期待できそうだけど、まさかこれもハチマンコじゃないだろうな……。
八幡「すまない、実は学校にあったお前の写真…全部処分しちまったんだ。
どっかの馬鹿がお前の写真をネットに上げないように徹底的にやった。
だから由比ヶ浜には随分恨まれる形になったが…
だからこれはあの学校でお前が撮られた最後の写真だよ。」
雪乃「これ…いつだったか…
タウン誌の記事を書いた時に由比ヶ浜さんや小町さんたちと一緒に撮った写真…!」
雪乃「馬鹿はあなたの方よ…
どうせ由比ヶ浜さんだけじゃなく他の人たちからも嫌われたんでしょう…
本当に馬鹿…」
雪乃「でも無駄よ…
どうせ今頃、私の顔写真がネットに出回っているはずよ。
そろそろ私も出て行くわ。」
八幡「馬鹿言うな。
親もいないし財産も一銭もないお前に行くところなんかないだろ。
大体それに関しては恐らく大丈夫だろ。ちょっとネットを見てみろ。」
気になった雪ノ下は俺のPCを使ってこの事件に関する情報を調べた。
するとそこに載っていたのは…
雪乃「これって…葉山くんの画像…?」
八幡「あいつ…お前とは幼馴染なのにいの一番に裏切ってたからな。
それでさっき近づいてきたマスコミに、
お前の写真探していた時に何故か見つかった葉山の写真を渡しておいた。
まさか中身も確認せずに上げるとは思わなかったが…
あいつへのお仕置きはこんなもんでいいだろ。」
雪乃「フフ、あなたって本当に小狡い男なのね。」
八幡「そうだよ、俺はしがない小市民だ。でっかいモノなんて守れやしないんだ。」
俺が守れるモノなんてたかが知れている。
由比ヶ浜や小町、それに雪ノ下雪乃。こいつらくらいだ。
葉山が俺に言った言葉。
『誰だって今の居場所が大切なんだ。』
俺はこの言葉は正しいと思っている。
俺だって大切なモノを守るためならどんな事だってやってやる。
だから俺は守りたい。
この俺の部屋にのみ居場所を許された雪ノ下雪乃を…
たとえ誰もが雪ノ下に敵意を向けようとも俺一人くらいは味方でいてやりたい。
とりあえずここまで
>>28で八幡がゆきのんに渡した写真は1期番外編のラストシーンでみんなのウエディングドレス来た時の写真です
>>24
なんでわかるんですかこのやろー
今回に限ってはハチマ〇コ封印だよチクショー
~しま〇ら~
八幡「何故俺はこんなところにいる?」
八幡「しかも婦人服売り場…」
八幡「俺が一体何をしたというんだ…?」
俺は庶民の味方、ファッションセンターしま〇らの婦人服売り場へやってきていた。
何で男の俺がここに…という疑問があるが…
事の発端は俺の部屋に住む雪ノ下雪乃のある言葉が原因だった。
雪乃「いい加減着替えたいわ。特に下着を…」
八幡「あれからもう3日だもんな。」
雪乃「そうよ、3日も同じ服着ているのよ…女の子が耐えられるわけ無いわ…」
雪ノ下雪乃は荷物など持たず着の身着のままで俺の部屋にやってきた。
だからこいつの服は今着ているモノしかない。
他には何もない。
八幡「服は俺のがあるからなんとかなるが…下着はなぁ…」
雪乃「この家には小町さんがいるはず、彼女の部屋から下着を借りてくるしかないわね。」
八幡「馬鹿言うな。
大事な妹の下着を拝借なんてとんでもない!
第一もし小町の下着がなくなってみろ!その嫌疑がまず俺に降りかかる!?」
雪乃「すぐに身内が疑われるなんてあなた随分信用がないのね。」
八幡「この家には男が俺と父ちゃんしかいないからな。
父ちゃんと母ちゃんは都合のいい事に仕事で夜が遅いから必然的に俺が疑われる!
それに俺と小町の仲は先日マスコミが来たらお前の事を悪く言えと注意した所為で、
すっかり嫌われちまった!?」
雪乃「つまりあなたの親族から調達するという方法は無理なのね。そうなると…」
八幡「?」
そして現在に至る。
八幡「雪ノ下はこの状況だから外に出られないし俺が直接買うしかない事になるのか…」
八幡「金はこの前アホのマスコミから調達した5万でどうにかなるが…」
「コレナンテドウカシラ?」
「アラ、イインジャナイノ。」
八幡「恥ずっ!メチャクチャ恥ずかしい!この場に居る事自体がメッチャ恥ずいよ!?」
腐っても俺こと比企谷八幡は青春真っ盛りの高校生である。
それが婦人服売り場で女性の下着や服を購入する事などプライドが許さない。
八幡「ハァ…本当なら知り合いの女の子に頼むべきだが…」
八幡「先日雪ノ下の写真を処分した時に由比ヶ浜とは気まずくなっているし…」
八幡「平塚先生になんか頼んだら怪しまれて絶対その理由を聞かされる!」
八幡「ていうかこんなところでブツブツ独り言呟いてると他の人たちに怪しまれるー!?」
俺の男の子としての葛藤はその後30分以上続いた。
けどそんな時、俺の目の前に天使が現れたんだ。
戸塚「あれ?八幡どうしたの?八幡も家族のお遣いで来たの?」
八幡「オォッ!俺の天使!いいタイミングで現れた!?」
戸塚「え?どうかしたの?」
俺は戸塚の協力を得てそのまま下着や服を抱えてレジへと向かった。
この服はこの子が着るんですよ。
ちなみにこの子、
俺の彼女なんすよアピールを店員さんに盛大に披露しながら購入を完了した。
~帰り道~
八幡「悪いな戸塚、買い物に付き合わせちまって。」
戸塚「別にいいんだよ、僕もお母さんから買い物を言付かっていたらか。」
八幡「あの店の婦人服売り場への買い物を、
平然と息子に押し付けるなんてお前のお義母さん何考えてんの!?」
戸塚「あ、ここは…」
買い物の帰り道、俺たちは雑談をしながらある場所に立ち寄った。
そこはかつて雪ノ下が住んでいたマンションだ。
そしてそこにもあいつらが押し寄せていた。
「おい!ここに雪ノ下の娘が住んでいるんだろ!」
「早く出しなさい!あの一家がやった事は許さないんだから!?」
戸塚「雪ノ下さんって確かこのマンションに住んでいたんだよね。」
八幡「あぁ、けど既にもぬけの殻だろ。
このマンションだってとっくに金融機関が差し押さえを行っているはずだ。
あいつはもうここにはいない。」
当然、俺は雪ノ下がこのマンションにいない事を知っている。
だがその事を今ここで怒鳴り散らしている連中に教える義理はない。
確かにアンタらが住む場所を奪われた仕打ちには俺だって同情する。
だからといって年端もいかない女の子にその責任を押し付けるのはどうかと思うが…
八幡「戸塚、雪ノ下の事を聞かれたら関係ないって答えておけよ。」
戸塚「八幡の気遣いは嬉しいけど知っている人をそんな風に言いたくはないな…」
八幡「戸塚は優しいな、さすがは天使。けど今回だけは俺の言う通りにしてくれ。」
戸塚「うん、わかったよ。しょうがないよね…」
八幡「さぁ、もう行こうぜ。こんなところ長居するとろくな事が…あれ…?」
戸塚と一緒に急いでかつての雪ノ下のマンションを出ようとする俺たち。
だがそんな時、俺はマンションのゴミ捨て場であるモノを見つけた。
~八幡の部屋~
八幡「ただいま、今帰ったぞ。」
雪乃「遅かったわね、それで買ってきてくれたの。」
八幡「オゥ、とりあえず服やら下着を全部買ってきたぞ。これで当分なんとかなるだろ。」
雪乃「こういう時…素直にお礼を言うべきなのかしら…ありがと…」
八幡「あの雪ノ下が素直に礼を言う方が却って不気味だ。
いつもならこんな〇まむらなんて大衆の服私には着られないわとか返すはずなのに!?」
雪乃「せっかくお礼をしたのにこの男は…フフ…」
雪ノ下も昨日よりは状態が落ち着いたようだ。
買ってきた服や下着に満足する雪ノ下。
それにもうひとつ、お土産にあるモノを渡した。
八幡「ほれ、お前の部屋にあったパンさんのぬいぐるみだ。」
雪乃「え…確かにこれは私のパンさん…?けどそれがどうしてここに!?」
八幡「何故だか知らんがマンションのゴミ捨て場に落ちてあった。
あまり考えたくはないが、
債権者どもがお前の部屋を差し押さえた時にゴミと判断して処分しちまったんだろ。」
雪乃「そう、もう私のモノなんてあなたが持ってきてくれた奉仕部で使っていた用品と…
それにこのパンダのパンさんくらいしかないのね。
あれだけあった私のモノがすぐに手元からなくなるなんて…」
八幡「出来ればお前のマンションに入って、
他にもあるかもしれない私物を取りたかったけどあの部屋は差し押さえられている。
わかっていると思うがあそこへは絶対に近づくなよ。
俺が行った時でさえヤツらが騒いでいたからな。」
雪乃「もういいわ、
あの人たちにしてみれば私はまだこうして住める場所があるだけマシだと思われるでしょうね。
でもパンさんだけは…ありがとう…比企谷くん…」
八幡「…」
その夜、雪ノ下雪乃は俺のベッドでパンさん人形を抱いてぐっすり眠っていた。
この部屋に住み着いて以来、こいつがこうしてゆっくり眠れたのは恐らく数日ぶりだろう。
雪乃「う…うぅ…ん…パンさん…」
八幡「まったく、この三日間はうなされる様に寝てたのに…パンさんスゲーな。」
八幡「それにしても雪ノ下がここにいる事を知っているのは俺とあと一人しか知らない。」
八幡「いつまでもこんな生活が続けられるはずがない。」
八幡「一体どうしたらいいんだ…?」
ベッドで寝静まった雪ノ下を見つめながら俺は床に引いた掛け布団を被り寝ようとした。
けどその時、携帯が鳴った。
その相手は雪ノ下の姉、雪ノ下陽乃からだ。
~サイゼ~
八幡「ここが待ち合わせの場所か。」
八幡「あの人、今こんなところに来て大丈夫なのか?」
八幡「まあ俺がそんな事を心配しても仕方ないが…」
今から2時間前、雪ノ下陽乃からの連絡があった。
このサイゼへ絶対に一人で来てくれ。
それが連絡の内容だった。
恐らく直接話さなきゃならない事なんだろうが…
雪ノ下さんが来る間に俺は今回の事件が起こる前日の夜の事を思い出していた。
~八幡の部屋~
八幡「さてと、もう24時過ぎたし深夜アニメの時間だな。」
八幡「夜はここからが本番だ。」
八幡「あん?
また〇〇不動産がやったマンション設計ミスのニュースかよ。
一体いつまでこんなの流すんだ?それよりもアニメだ、アニメを流せ!」
その日、俺は深夜アニメを見ようと夜遅くまで起きていた。
だがこれが後に幸運な事であったと今でも感謝している。ありがとう深夜アニメ!
まあそれは置いておいてそこに雪ノ下さんからの連絡が入った。
八幡「あ…雪ノ下さん…こんな夜遅くにどうしたんですか?」
陽乃『もしもし、比企谷くん?
今から言う事をよく聞いて!すぐに雪乃ちゃんをマンションから連れ出して!』
八幡「雪ノ下をマンションから?」
陽乃『そうよ、なんでもいいからとにかくあの子をすぐに!お願い!!』
八幡「すぐに切っちまいやがった。なんだか焦ってたようだし一体何がどうなってんだ?」
電話はすぐに切られた。
だがその時、TVの画面に速報が流れた。
あの雪ノ下建設がスケープゴートにされたニュースだ。
それを知り俺はすぐに雪ノ下のマンションへと急いだ。
~雪乃のマンション~
雪乃「比企谷くん…?
あなたこんな時間にやってくるなんてどういう要件…?私寝ていたのだけど…?ふぁぁ…」
八幡「よし、出てくれたな!そのままの格好でいい!急いでこの部屋から出るぞ!!」
雪乃「ちょっと…待ちなさい!
急に手を引っ張って…?一体何のつもり!警察を呼ぶわよ!?」
八幡「とにかく今は俺の言う通りにしてくれ!お前の身が危ないんだ!!」
俺は嫌がる雪ノ下を無理やり引っ張り出しマンションの外へと出た。
だがこの行動は正解だった。
マンションを出た俺たちと入れ替わりである怪しげな連中がやってきた。
「ここが雪ノ下の娘が住んでるマンションか。」
「ここも差し押さえるぞ。価値のあるモノは全部押さえろ!」
雪乃「何よこれ…?雪ノ下の娘って…まさか私の事?何がどうなっているの!?」
八幡「あれって…〇〇銀行の車…
あいつらこんな時間に来るのかよ!おい逃げるぞ!ほら、早くしろ!!」
俺は呆然と立ち尽くす雪ノ下を引っ張り小町にも内緒で自分の部屋に招いた。
そして雪ノ下は自分の一家が破産した事を知り絶望した。
それから今に至ったわけで…
陽乃「比企谷くんひゃっはろ~!」
八幡「陽乃さん…よく無事でしたね…」
陽乃「まあね、こんな帽子とメガネでちょっとした変装でなんとか誤魔化せるから。」
八幡「感謝してくださいよ。
雪ノ下の写真を処分した時にあなたの学生時代のモノも一緒に処分したんですから…」
陽乃「だから顔バレしないんだ!
さっすが比企谷くん!気が利く~!
やっぱりキミに雪乃ちゃんを任せたのは正解だったよ~♪」
意気揚々と話す雪ノ下さん。
けどその表情はいつものモノと違って少しやつれている。
隠してはいるけど実は彼女も相当参っているのだろう。
するとそこへタイミングが悪い事にあいつらがやってきた。
「クソ、雪ノ下はどこに行ったんだ?」
「あいつら…一家揃って夜逃げしやがって!見つけたらタダじゃすまさないぞ!!」
八幡「例の住めなくなった連中が向かいの席に居座るなんて…場所変えましょうか?」
陽乃「いいよ面倒だし、変に動くよりここでやり過ごしましょう。」
八幡「それで、アンタたちは今まで一体何を…?
いや…聞かない事にしましょう。こんな事聞いても何もならないでしょうし…」
陽乃「そうしてくれると助かるな。
実際、私も逃げるのに精一杯で雪乃ちゃんを連れ出す余裕はなかったんだ。
だから信頼のおけるキミに雪乃ちゃんを頼んだの。
隼人になんか頼んだら絶対あの子をあいつらに引き渡すだろうから…」
茶化して言っているが恐らく葉山ならやりかねない。
あいつの親が一番初めに雪ノ下家を裏切ったらしい。
それに学校でもあいつが率先して雪ノ下の事を忘れろと言っていた。
もしもあの時、俺以外の人間が雪ノ下を連れ出していたらだなんて…
正直考えたくもない。
八幡「それじゃそろそろ本題に入ってもらえますか。」
陽乃「うんそうだね。比企谷くん、これはキミだから言うよ。
私たち雪ノ下家は知っての通り、とんでもない事になってしまったの。
これは私たちではもうどうにもならない問題…」
陽乃「お母さんも事件が明るみになる前日に各銀行に頭を下げて融資を頼んでたけど…
どこもダメだった。
みんなこうなる事を事前に知っていたんだろうね。」
八幡「なるほど、あの銀行のヤツら道理で行動が早かったわけだ。」
陽乃「今回、雪ノ下建設が抱えた負債は数百億になるわ。
銀行機関から口座を凍結されて、
全ての金融からそっぽを向かれた私たちにはそんな大金を集める余裕はない。
正直お手上げ、だからこの負債を私はともかく雪乃ちゃんにまで負わせるわけにはいかない。」
八幡「雪ノ下はまだ高校生ですからね。
就職すらしていないあいつにそんな大金を連中に支払う事なんて不可能ですよ。」
陽乃「そう、だから私たちは…」
八幡「つまり…掻い摘んで言うとトンヅラしようって腹ですね。」
俺のこの言葉に陽乃さんは頷いた。
もう雪ノ下家だけでどうにか出来る問題ではない。だから逃げるしかない。
今、向かいの席にいる連中にこの事を言えばすぐにも殺しに来るだろう。
雪ノ下をそんな目に合わせるわけにはいかない。
陽乃「こうなったら海外へ逃げるしか手はないわ…」
八幡「海外とか…随分飛躍しますね…
ところで気になってたんですがこんな時なのにあいつの親はどこにいるんですか?」
陽乃「聞いた話だとお母さんは先に海外での逃亡先を確保して、
お父さんは隠し財産を確保するために国内に残っているの。
笑っちゃうよね…
あれだけ私たちに英才教育を推し進めていた人たちが、
体裁も気にせず逃げ場所を整えてるんだからさ…」
八幡「…」
陽乃「明日の夜、千葉駅に雪乃ちゃんを連れて来て。それが最後の頼みよ。」
陽乃さんは苦笑いを浮かべてサイゼを出て行った。
恐らく彼女なりに強がっていたのだろう。
去りゆく彼女から薄ら涙が溢れていたような気がする…
~総武高校~
戸部「あの事件でネットを検索すると隼人くんの画像が出んだけど?マジありえねー!」
三浦「何で雪ノ下の画像じゃなくて隼人のが映るんだろうね?」
隼人「いい迷惑だ、そのおかげでこの前外の連中に殴られかけたからね…」
八幡「…」
葉山たちの雑談を聞き流しながら俺は陽乃さんの言葉と今の状況を深く考えていた。
雪ノ下を海外へ逃がす。
確かにいつまでも俺の部屋に置いとくわけにもいかないし、
もうこの手しかないのかもしれない。
だがそれであの外にいる連中の怒りが収まるか?
最悪、連中はどこまでも追いかけてくるぞ。
何か連中の怒りを和らげる方法があればいいのに…
静「比企谷、由比ヶ浜、ちょっといいか?」
八幡「平塚先生、何の用っすか?」
結衣「もしかしてゆきのんの居所がわかったの!?」
静「そんな事じゃない。
いずれ伝わるかもしれないが実は今日、雪ノ下の退学処分が決定した。」
結衣「そんな…」
八幡「…」
雪ノ下の退学処分。
今のところ、あいつの落ち度なんてこの数日間の不登校くらいしかない。
だがそれ自体まだ退学されるほどの理由にはならない。
つまり…
八幡「あいつの家が原因なんですね。」
静「あぁ、本来なら許されないかもしれないが…
学校側もこれ以上、他の生徒や授業に悪影響が及ばないようにとの配慮だ。」
結衣「そんな…ゆきのん今まで頑張ってたのに!
学校で勉強して学年のトップなのに親の所為でそれが全て台無しになるなんて?!」
由比ヶ浜の言いたい事はわかる。
親の所為で全ての人たちから悪者扱いされてしまった。
それだけでなく学校からは退学処分を下されるとは…
これで雪ノ下がこの学校に復学できる唯一の望みは絶たれたわけだ。
その報告を聞かされた直後、俺は早退した。
~比企谷家~
八幡「よし、いいぞ。早く入れ。」
雪乃「えぇ、わかったわ。」
学校を早退した俺は雪ノ下を風呂場へ連れてきた。
俺は小町や他の家族に雪ノ下が居る事を明かしてはいない。
勿論、小町の事は他の誰よりも信頼している。
だが壁に耳あり、障子に目ありのことわざがあるように誰かの口から漏れる可能性がある。
だから雪ノ下がこの家にいるのは俺と雪ノ下さんしか知らない。
こうして風呂場に入れるのも俺が付き添っていないと誰にバレるかヒヤヒヤするわけで…
雪乃「ところで比企谷くん、昨夜姉さんに会ったんですって?」
八幡「あぁ、今夜お前と一緒にこの街を出るそうだ。」
雪乃「そう…それじゃ今夜であなたとは永遠にお別れね…」
八幡「そうだな…新天地でも元気にやるんだぞ…」
俺は風呂場のドア越しで雪ノ下と夜の打ち合わせをしていた。
これから小町が帰ってくるタイミングを見計らって家を出て雪ノ下さんと合流、
そしてこいつを引き渡す。
ざっとした流れにしてみれば簡単だがそれまでにヤツらに見つかったらアウトだ。
これまでの苦労が全部水の泡になる。
だから慎重に行動しなきゃならない。
雪乃「う…うぅ…グスッ…」
八幡「…」
雪乃「どうして…どうしてこんな事に…」
雪乃「う…うぅ…」
八幡「雪ノ下…」
風呂の中で雪ノ下は泣いていた。
俺は言ってなかったがこいつ自身もう学校を退学になった事を察しているんだろう。
今まで頑張ってきた事が全部無駄になったんだ。
俺自身も思う。
本当にこれでいいのだろうか…?
こいつを家族に引き渡して大丈夫なのか…?
もしかしたらこれからもっと酷い事態が起きるんじゃないのかと…
雪ノ下が風呂から出るまでずっと考えていた。
小町「ただいま。」
八幡「帰ったか。変なヤツらに後を付けられなかったか?」
小町「お兄ちゃん過保護すぎ…そんな事あるわけ無いじゃん…」
八幡「いいや、用心に越した事はないんだ。」
小町が帰宅した。
こんな状況だ、小町だっていつ狙われるかわからない。
最近は小町が家に帰って無事を確認してから俺は外出するようになっていた。
八幡「ちょっと兄ちゃんこれから遅くまで出かけてくるから戸締りしっかりするんだぞ。」
小町「小町には無用心に外出するなって言っておきながら、
自分は普通に夜遊びとか意味わかんないんだけど…
まあ理由は聞かないけど遅くならないうちに帰っておいでよ。」
八幡「悪いな…」
小町に断りを入れて俺はこの後こっそり雪ノ下を外へ連れ出そうとしている。
だがまだ迷いはある。
俺は小町にある事を尋ねてみた。
八幡「なぁ…小町…聞きたい事がある…」
小町「急に改まって一体どうしたの…?」
八幡「もしも俺たちの親が、
今回の雪ノ下の親と同じくやばい事をやらかしたらお前は親を信じられるか?」
小町「急にとんでもない事を聞いてくるね。
でも…そうだね…家族なんだし小町はお父さんたちの事を信じるよ。」
八幡「そうか、そうだな。やっぱり家族は一緒にいた方がいいか。」
小町の反応を見て俺は雪ノ下を家族の下へ帰そうと決めようとした。
けれど…
小町「でも…もしもだよ…」
小町「もしもお父さんたちが小町たちを置いて逃げたのなら話は別だよ。」
小町「親が子供を見捨てて逃げたのならそんなのはもう親じゃないよ…
まあ、うちの親はそんな人でなしじゃないだろうし心配する事はないけどね!」
八幡「…」
小町の言葉は再び俺を迷わせてくれた。
だがもう時間がない。
俺は隙を見計らい、雪ノ下を外へ出そうとした。
八幡「よし、小町は自分の部屋に戻った。今がチャンスだ!」
雪乃「そうね、急ぎましょう。」
玄関までたどり着き俺は誰もいないのを確認して雪ノ下を家から出そうとする。
だがここで異変が起きた。
雪乃「何これ…気分が…ヲ゛ェ…」
雪ノ下が家の玄関を出ようとした瞬間、彼女の目の前は真っ暗になった。
~千葉駅~
陽乃「約束通り来てくれたんだね。雪乃ちゃんはどこ?姿が見えないんだけど?」
八幡「いや、来たのは俺だけです。雪ノ下は…」
陽乃「まさか…あいつらに見つかったの…?」
八幡「違います、今も俺の家にいます。
あいつ…俺の家を出ようとした瞬間に吐いたんです。」
陽乃「なんですって…?」
駅の前で対峙する俺と雪ノ下さん。
だがそこに雪ノ下雪乃の姿はない。
彼女はここには来られなかったからだ。
八幡「もっと早く気づくべきだった。
あいつ、この数日で外へ出る事に極度の恐怖心を植えつけらていたんですよ。
今のあいつを外に連れ出すなんて無茶ですよ。
正直な話、これから海外へ逃げるアンタらにしてみれば足でまといになります。」
陽乃「だからって放っておける訳ないでしょ。
キミには感謝しているけど、こうなったら私が直接行って連れ出さなきゃ…」
八幡「その前に待ってください。雪ノ下さんに聞きたい事があります。」
陽乃「時間がないんだけど…」
八幡「大丈夫です、手短に終わりますから…」
既に雪ノ下さんは俺に対して敵意を剥き出しだ。
当然だ、本来なら雪ノ下を連れ出してここへ来る予定が狂っているんだから。
だがこれはどうしても聞かなければならない事だ。
八幡「雪ノ下さん、あなたたちは一体何を守りたんですか?」
陽乃「勿論、雪ノ下家だよ。
両親がいて私がいてそれに雪乃ちゃんがいる。その家を守らなきゃいけないの。」
八幡「それなら何であの日、
赤の他人の俺に雪ノ下の危険を伝えるだけだったんですか?
勿論アンタたちが大変だったのはわかる。
だが大事な娘なら親が直接迎えに行ってやるべきだろ。
しかも事件から3日経ってノコノコ迎えに来るとかありえねえよ…
これが小町だったら俺は3日どころか3分と掛からずに迎えに行ってたよ。」
陽乃「好き放題言ってくれるね。
でも確かにキミの言う事ももっともだよ…現に私だって…」
少し弱気になる陽乃さん。
そういえばサイゼに居た時は気付かなかったが彼女の服は汚れていた。
恐らくこの3日間、着の身着のままだったのだろう。
もしかしてこの人も…?
陽乃「でも…雪乃ちゃんが大切だというのは本当の事だよ!だから私たち家族のために…」
八幡「悪いんですけど俺は雪ノ下家のために動いたわけじゃない。」
陽乃「それじゃ…何で…?」
八幡「俺は見ての通り単なるボッチの庶民です。
そんな雪ノ下の家なんて大層なモノは守れないし守る気もありません。」
八幡「今の俺が守りたいのは…」
八幡「雪ノ下雪乃という一人の女の子だけですよ。」
その言葉と同時に駅の液晶から大々的にある緊急速報が流れた。
【雪ノ下氏、成田空港にて身柄を拘束!】
陽乃「嘘…何これ…?」
八幡「どうやら雪ノ下さんの親が用意した船は泥船だったようですね。」
陽乃「でもどうして…誰にも言ってなかったのに…あっ…まさか!」
何かを察した雪ノ下さんは鬼気迫る顔を俺に向けた。
そう、彼女が海外へ逃亡する情報を知っているのは雪ノ下家以外では俺しかいない。
八幡「そうっすよ、俺がネットに情報を流しました。
千葉から海外へ逃亡となるとやっぱり成田空港からってのが定番ですからね。」
陽乃「ふざけないで、どういうつもり?」
八幡「連中の怒りを和らげるためですよ。」
陽乃「え…怒り…?」
八幡「まあ雪ノ下の親父さんが全部悪いとは思いません。
でも今回被害にあったヤツらはその怒りの矛先を娘の雪ノ下にまで向けてきた。
いくら海外に逃げてもその恨みがいつか雪ノ下に向けられるのは確実。
それなら…」
陽乃「その人身御供が父さんなわけね…
哀れな父さん、親会社だけじゃなくこんな高校生にまで生贄にされるなんて…」
正直俺だって雪ノ下の父親を嵌めた事に罪悪感がないわけじゃない。
だが一度は娘を捨てて逃げた男だ。
同情はするものの当然の報いだと心の中で勝手に解釈していた。
そうでもないとやってられないからな…
陽乃「あ~ぁ…私どうしたらいいのかな…」
八幡「そういえばまだ聞いてませんけど、
雪ノ下さんってあの日…
俺に連絡をくれた日にもしかして両親と一緒にいなかったんじゃないんですか?」
陽乃「うん…そうだよ…私も雪乃ちゃんと同じで捨てられたようなものだよ。」
陽乃「あの日、ゼミのレポートで夜遅くまで大学にいた私にお父さんから連絡が来た。
うちの会社が全ての責任を負わされた。何でこんな事になったんだ…
と恨み言がね…でもそれだけだった。私たちに対する心配はまるでなかったの…」
八幡「それじゃ…あの時…
俺に雪ノ下を逃せと言ったのは両親の判断じゃなくて…?」
陽乃「そうだよ、キミに知らせたのは私の判断。
私はというとその間、
手元のお金を工面しながら逃げ回ってなんとか親と連絡を取ろうと必死だった。
私の口座まで凍結されてるんだもん。銀行って容赦ないよね…」
初めて見る涙を流す雪ノ下さんの顔…
普段は魔王だの強化外骨格だの思っていたがこの人だって一人の女性だ。
こんな事態になってここまで凹まなかったのは彼女の精神力の強さだろう…
雪ノ下なんて未だに俺の家から出れないしな。
だがそれも限界、彼女は心の拠り所を失ったかのようにその場に座り込んだ。
八幡「あの…行くとこありますか…?」
陽乃「そんなの…あるわけないじゃん…」
八幡「頼りになる人は…?」
陽乃「いないよ…」
八幡「それなら…」
俺は雪ノ下さんにそっと手を差し伸べた。
そして翌朝…
~比企谷家~
『昨夜、雪ノ下氏の所在が判明。』
『今回の事態は極めて悪質で雪ノ下氏の刑事告訴も検討されており…』
『また被害者たちも雪ノ下氏に対して訴訟の準備を…』
小町「どこも同じニュースだね。」
八幡「そうだな…」
翌朝、俺たちは朝食を取りながらTVを見ていた。
どうやら連中の怒りの矛先は雪ノ下の父ちゃんに向けられた。
悪く思うなよ。
これも全部アンタの娘のためなんだからな…
小町「でも…雪乃さんや陽乃さんはどこに行ったんだろうね?」
八幡「さあな、どっかで元気にやってんじゃないのか?」
小町「でもお父さんが逮捕されてんだよ!きっと今頃食事も喉が通らないはずだよ!」
八幡「…かもしれんな。それよりごちそうさま。
朝食の残りを部屋で食うわ。今日は少しやる事があるからな。」
小町「もー!お兄ちゃんは薄情なんだから!雪乃さんたちの事が心配じゃないの!?」
雪ノ下たちの心配ねぇ…
心配なんかする必要なんだよな。なんせお前が心配しているその二人は…
~八幡の部屋~
八幡「お~い、朝飯持ってきたぞ。」
雪乃「遅いわよ比企谷くん、お腹ペコペコなのだけど!」
陽乃「八幡~♪早く食べましょ~♪」
八幡「こうして父親が逮捕されても図太く元気にお前の隣の俺の部屋で暮らしてるからな。」
あの後、俺は雪ノ下さんこと陽乃さんを雪ノ下同様部屋に招いた。
まだ連中の怒りが完全に収まったわけではない。
もう暫くほとぼりが冷めるまで一緒にいてやるか。
雪乃「比企谷くん!おかわりよ!」
陽乃「私もー!今までの逃亡生活でお腹空いてるの!」
八幡「父親が逮捕されたのにメシのおかわりを要求かよ…?」
雪乃「そう言われても、考えてみたら父さんとはあまり親しくなかったし…」
陽乃「今にしてみればもうどうでもいい事だよね~♪」
八幡「怖え~!女ってマジ怖え~!?」
こうして俺の守る大切なモノが一人増えた。
でもお願いだから小町にバレないようにもう少し静かでいてください。
ここまで
これでシリアスパートは大体おしまい
次からはコミカルにやっていきます
ちなみに陽乃さんは八幡の事を好きになったので何気に名前で呼んでます
こりゃあ雪ノ下姉妹の八幡への好感度はカンストだな。
雪乃「私たちはあなたにお礼できるものが何もないの………」
陽乃「だ・か・ら、お礼はこの体を使って一生払い続けるね・・」
姉妹丼………ゴクリ………
~八幡の部屋~
八幡「ふぁぁ、おはよ…」
陽乃「う~ん、ちょっとまだ眠いかも…」
雪乃「そうね、退学になってもう遅刻する必要もないのだし…」
雪ノ下姉妹が俺の部屋にやってきて早3週間が経過した。
ベッドの所有権はこのわがまま姉妹に譲渡し俺は床で眠る日々が続いている。
おかげで首が痛くて敵わないのだが…
そんなある朝、俺はある変化に気づいた。
八幡「…」
雪乃「あら、ヒキガエルくんたら私を見つめていやらしいわね。」
八幡「雪ノ下…お前…」
雪乃「何かしら…?ようやく私の魅力に気づいたの?それなら私も少しはあなたに…」
八幡「いや、そういうんじゃなくて…」
八幡「お前…太った…?」
雪乃「」
俺がその言葉を発した瞬間、雪ノ下は見事に硬直した。
雪乃「な…何を言っているのかしらこの男は…?私が太ったなんてありえるはずが…!?」
八幡「いや、お前間違いなく太っているぞ。」
陽乃「そうだね、お腹のお肉がタプタプだよ。ポヨヨンだもん。三段腹になりつつあるよ。」
八幡「考えてみればお前、
うちに来てから食っちゃ寝の生活だったからそりゃ太るに決まってるよな。」
陽乃「だよね、私たちって基本外出無理だから身体を動かす事が出来ないし。
でもこれはさすがにちょっと自制心が足りなかったというか油断しちゃったね…」
忘れられているかもしれないが雪ノ下家はとある事情で破産。
その魔の手は娘であるこの二人にまで伸び、やむなく俺は二人を自分の部屋へ招いた。
ちなみにこの事は最愛の妹の小町にも内緒だ。
まあだから基本、外出させるわけにはいかないのだが…
雪乃「な…何故私だけ太るの!姉さんだって私と同じ環境に居るはずでしょ!?」
陽乃「お姉ちゃんは節制を心掛けてるし、
それに室内でも運動できるエクササイズで鍛えているから大丈夫なの~♪」
八幡「とにかくお前、このままだといずれ材木座クラスまで太るのは確実だぞ。」
陽乃「そうなったらデブのんだね!や~いデブのん~♪」
雪乃「デブのん…デブのんはいやぁぁぁぁぁぁぁ!!???」
デブのんになった自分を想像して発狂する雪ノ下。
こうして俺と陽乃さんは雪ノ下のデブのん化を止めるべく行動を開始した。
陽乃「とりあえず身体を動かす事から始めましょうか?」
八幡「…と言っても…」
雪乃「腕立て…3回…ぜぇ…ぜぇ…」
雪乃「腹筋…1回…ハァ…ハァ…」
雪乃「もうダメ…疲れたわ…」
八幡「ダメだ…準備体操ですら息を切らしてやがる…
これまでの引きこもり生活でまともに動いてなかったから体力が酷く低下しているのか。」
陽乃「意外と深刻過ぎて笑えないわね…」
元々体力のない雪ノ下がさらに体力を低下してしまったのは正直深刻だ。
しかしこんな事でも続けさせなければさすがに健康に影響を及ぼすだろう。
ぶっちゃけこいつを病院へ連れていける余裕は今のところ俺たちにはないわけで…
雪乃「ちょっといいかしら?
とりあえず運動という問題は置いて食事を変えるというのはどうかと思うのだけど…」
八幡「ハァ?食事だ?お前らの食事はいつも俺が作って持ってきてるモンだろうが!」
雪乃「それが問題なのではないかしら。
比企谷くんの献立に問題があったからこそ私の身体に影響があったのだと思うのだけど!」
陽乃「でも…私も雪乃ちゃんと同じモノ食べてるよ。
今朝の献立だってご飯にお味噌汁に卵焼きと質素だけど栄養も採れてるし…?」
八幡「ていうか人にメシ作ってもらっておいてその態度は何だおい?」
人がせっかく作った料理にケチをつけるとは許せん。
だがその時、俺は見た。
ゴミ箱に妙にゴミが捨てられているのを…!
八幡「ちょっと待て!何だこのゴミは?全部お菓子の袋ばっかだぞ!?」
陽乃「本当だ~!もしかして雪乃ちゃん…」
雪乃「比企谷くんと小町さんがいない間は、
いつも1階に降りてお菓子を食べているわ。それが何か問題なの?」
八幡「」
陽乃「」
さすがに俺と陽乃さんは開いた口が塞がらなかった。
それから俺たちはこのわがまま娘をみっちり説教してやった。
八幡「お前!確かに部屋に招いたのは俺だが…
勝手にお菓子を食べるヤツがあるか!
道理で最近お菓子の減りが早いなと思っていたがまさかお前が原因だとは…!?」
陽乃「雪乃ちゃん、ここは比企谷さんのお宅なのよ。
他人さまのモノを無断で食べるなんて泥棒も同然の事と教わったはずよ。
わかっているの!」
雪乃「だって…だって…お腹が空いて…」
八幡「だったらせめて俺に一言断りを入れてから食べろ!親しき者にも礼儀ありだぞ!!」
雪乃「ゴメンなさい…反省しているわ…」
八幡「まあ、俺も悪かったよ。
今度からお菓子もちゃんと用意しておくから。これでいいな?」
雪乃「うん、わかったわ…これからは気をつけるから…」
どうやら雪ノ下の急な増量は間食が原因だった。
こうして雪ノ下に食事制限に適度な室内運動を日課とするように改善を促したわけだが…
雪乃「ガツガツ、やはり平日に寝っ転がりながらお菓子食べるのはやめられないわね。」
陽乃「うわぁ、雪乃ちゃんたらデブのんまっしぐらだよ。」
どうやら俺の見てないところでは相変わらず食っちゃ寝の日々を送っているそうな…
かつての学校一の容姿端麗で秀才な美少女が何故こうなった…?
ここまで
とりあえずここからはこんな感じでやっていきます
>>160
ちなみにちょっと補足説明しますが雪ノ下姉妹が比企谷家にいる事は八幡以外には知りません
なので雪ノ下姉妹の料理や掃除は小町ちゃんにバレないように全部八幡が担当しています
~比企谷家~
小町「お兄ちゃん、これは何?」
八幡「…」
その日、俺は居間で怒り狂う小町を前に正座していた。
俺はあるヘマをやらかした。
それは俺の目の前に置かれている一枚の女モノのパンツが原因だ。
小町「何このパンツ?
こんな黒くて派手な勝負下着は小町のモノなんかじゃないよ!?」
八幡「だからといって何故俺を問い詰める?」
小町「いや、小町疑うんだけど…ゴミぃちゃんどっかで下着ドロしてるんじゃ…?」
八幡「そんな事あってたまるか!俺の名誉に賭けて誓うぞ!!」
小町「お兄ちゃんに名誉なんかないでしょ…」
そう、この俺の目の前にある派手な勝負下着のパンツ。
実はこれ陽乃さんのパンツだ。
現在、俺の部屋で匿っている雪ノ下姉妹。
その二人の衣類は基本俺が洗濯しなければならない。
だが洗濯物を出す時にどうやら陽乃さんのパンツを置き忘れてしまい、
それを運悪く小町に発見されてしまった。
しかも小町が発見したのはそれだけではなかった。
小町「あとこれ!ブラジャー!何なのこれ!?」
八幡「いや、それお前のだろ?小さい用のヤツだし…」
小町「失礼な!小町ポイント0だよ!
小町のおっぱいはBカップだもん!こんなAカップバストのブラジャー知らないもん!!」
八幡「わかったそれ以上は言うな。
お兄ちゃんが悪かった。それ以上そんな事を言うとどっかの貧乳がマジ泣きするから!?」
小町「まさかとは思うけどお兄ちゃんこの家に女連れ込んでるの?
しかもこの下着どう見ても別物だから最低二人はいるよね!
不潔だよゴミぃちゃん!小町ポイントマイナスだよ!?」
どうやら知らないうちに雪ノ下のブラジャーまで…
さて、どうしたものか…?
~八幡の部屋~
八幡「…というわけだ…スマン…」
陽乃「あら、小町ちゃんに下着見られちゃったんだ。ちょっと恥ずかしいかも~♪」
雪乃「私って…小町さんより小さかったのね…落ち込むわ…」
八幡「落ち込む雪ノ下は置いといて、
今回の件で小町は俺がこの家に女を連れ込んでいると疑惑を持っている。
ていうかまあ全部事実なんだけど…」
陽乃「私たちがこの部屋にいる事を小町ちゃんに教えるわけにいかないもんね。」
俺は事の一部始終を雪ノ下たちに伝えた。
茶化す陽乃さんとは対照的に小町より胸が小さい事を知り激しく落ち込む雪ノ下。
本来なら自分の洗濯物くらい自分で洗えと言いたいところだが…
下手に家の中を彷徨かれて、もしも他の家族と対面させるわけにもいかない。
だから俺が洗わなければならないわけなんだが…
八幡「ハァ…どうしたらいいんだ…?」
雪乃「あなたが何処かから下着を盗んできましたと言えばいいじゃない。
そうすれば小町さんもこの家に私たちがいるとは疑わず問題解決ではないのかしら?」
八幡「冗談じゃねえ!
その意見は却下、そんな事になったら俺がこの家から追い出される…!?」
陽乃「八幡が追い出されたら私たちもまずいしね。」
雪乃「面倒ね、ならどうしたら…」
なんとか俺への下着ドロの誤解を解くために頭を悩ませる俺たち。
そんな時、陽乃さんがある妙案を提示してくれたのだが…
陽乃「そうだ!お姉ちゃんいい事思いついちゃった!
八幡の女友達をでっち上げてさっきの下着はその彼女の物ですと教えればいいのよ!!」
八幡「いやいや、それだって無理でしょ。どこに俺の女友達がいるんですか?」
陽乃「それは勿論…ねぇ…フフフ~♪」
なにやら不敵な笑みを浮かべる陽乃さん。
それから…
とりあえずここまで
ちなみにゆきのんはまだデブになってません
ただほんのちょっとお腹の肉が気になっているだけです
~居間~
八幡「スマン小町!実はさっきの下着なんだがあれは俺の女友達のモノなんだ!」
小町「女友達って結衣さん以外にそんな人がお兄ちゃんにいるわけ?
しかもあんな派手な勝負下着とAカップブラジャーしている女友達だよね…?」
八幡「そうなんだ!つーか今二人ともここに呼んでるんだ!紹介するぞ!」
俺は居間のドアを開けてその女友達とやらを小町に紹介した。
だがその女友達ってのが…
のるは「ひゃっは…いえ…こんにちは~!八幡くんのお友達ののるはと言いま~す♪」
のきゆ「は…初めまして…のきゆと言います…」
小町「何この二人…?
二人揃って帽子にマスクにサングラスって小町的にすんごい怪しすぎるんだけど!?」
八幡「え…え~とこの二人は極度のシャイで素顔を見せられないんだよ!そうだよな!?」
のるは「そうで~す!私たちシャイなんで~す☆」
のきゆ「…」
小町「シャイって片方はそうだけど、
もう片方はシャイどころかテンションがハイになってるんだけど…?」
さすがにぼっちの俺に女友達など集められるわけがない。
なのでここは、今回の諸悪の根源である居候二人に協力してもらう事になった。
無論、正体は隠して変装してもらったけど…
小町「え~と…のるはさんでしたっけ?
この派手な勝負パンツはあなたの物なんでしょうか…?」
のるは「ハ~イ!私ので~す!♪」
小町「じゃあこの小っこいブラジャーはのきゆさんの…?」
のきゆ「小っこいは余計だと思うのだけど…!?」
小町「あの…それで…失礼ですがうちの兄とはどういうご関係なのでしょうか?」
さて、下着を返却してもらったところでさっそく本題だ。
小町は変装した二人に俺との仲を聞いてきた。
頼むぞ二人とも、見事小町の誤解を解いてくれ。
のきゆ「それは勿論…単なる知り合いです。」
小町「知り合いって…あなた…知り合いでこんなブラジャー置いてくんですか!?」
のきゆ「それは…忘れてしまっただけで…」
小町「知り合いって関係でブラジャー忘れるってどんな事態!小町疑問だよ!?」
のきゆ「ブラのホックが外れたのよ。それ…バストがきついから…」
小町「あぁ、なるほど~!そりゃ外れますよね。これAカップバストのヤツだし!」
のきゆ「ぐっ…!」
雪ノ下はその屈辱的な言葉に密かに握り拳だった…
もうやめてあげて!
雪ノ下のハートはフルボッコだから!?
小町「え~と…それじゃ…
のるはさんはこのパンツはゴムがゆるいわけでもないので簡単には取れませんよね。
何で置き忘れちゃったんですか?」
のるは「そんなの~!決まってるじゃないですか!勿論セック…「コラー!」」
八幡「中学生の妹に何を言う気だよ!?」
のるは「ちなみに八幡さんとは結婚を前提にお付き合いしてるんです~♪」
小町「うちの兄を貰ってくれるんですか?こんなのでよければすぐに上げますよ?」
八幡「小町も実の兄を勝手に売りつけるんじゃない!?」
こうしてドタバタしながらもなんとか小町の誤解を解く事には成功した…のかな?
ちなみにその夜、
俺は昼間のドタバタ騒動で疲れて、
寝ていた時にふと目が覚めて雪ノ下たちのこんな会話を聞いてしまった。
~八幡の部屋~
雪乃「まったく結婚を前提になんて冗談をよくも恥ずかしげもなく言えたものね。」
陽乃「う~ん、あれ結構本気だよ。」
雪乃「本気って…姉さんは比企谷くんと結婚する気なの?」
陽乃「まあね、いずれ機会を伺って告白しようかなって…」
八幡「…」
なにやらとんでもない事を言い出す陽乃さん。
そんな陽乃さんに雪ノ下は反論する。
雪乃「姉さんともあろう人が一時の感情で動くなんてどうかしているわ。
確かに私たち姉妹は彼に借りがあるけど…
でもそれとこれとは話が別よ。私たちは雪ノ下家の者なのだから…」
陽乃「私は雪ノ下の家なんてもうどうでもいいと思っているよ。」
雪乃「そんな…でも私たちは…!?」
陽乃「私たちを見捨てたあんな家がこの先どうなろうと知った事じゃないよ。
それに雪ノ下家は既に破産しているしね…
一応、毎日TV観てあの事件の事をチェックしているけど正直お父さんはもうダメ…」
陽乃「お父さんってメディアが求めてる所謂みんなの悪役そのものなんだよね。
私たち雪ノ下家の人間って雪乃ちゃんも含めてだけど、
他人への配慮を欠いている人ばっかりだから…そういう内面が全部晒け出されている。
まあじっくり裁判をやれば勝ち目はあるだろうけど…
世間はそこまで私たちに好意的じゃないよ。」
雪乃「他人への配慮なんて痛いところを突くのね。
結局、私たちの家はもうダメなのはわかったけど…でも少し意外よ。
姉さんだったらどんな手を使ってでも家を再興しようと目論んでそうだけど…」
陽乃「私はそこまで野心家じゃないよ。
まあ少しはそんな思惑があったかもしれないけど、
お父さんが八幡に売られた時にその思いは断ち切ったよ。
原因はどうあれお父さんは正面切って立ち向かわずに逃げる事だけを考えた。
確かに葉山弁護士が真っ先に逃げたのは痛かったけどさ…
それでもあんな夜逃げするようなのじゃ今回の件がなくてもうちは必ず破産していたね。
今回がいい機会だったんじゃないかな?」
陽乃さんはいずれ雪ノ下家が破産する日が来る事を予期していたらしい。
確かにこの家の人間は能力については圧倒的に凄まじい。
でも人間性はというと…
普段俺に毒舌を浴びせる雪ノ下を見ればわかるが陽乃さんの言う通りかもしれない…
やはり最後にモノを言うのは人徳って事か。
雪乃「でもそれで何で彼を…?姉さんなら他に魅力的な男性がいくらでも…」
陽乃「私にとって魅力的な男性は私たちを守ってくれた人は八幡だけだよ。」
雪乃「それは…」
陽乃「この子は私たちを守るリスクを間近で知りながらそれでも匿ってくれた。
そんな素敵な人を好きになるならともかく、
嫌いになる理由なんてどこにもないと思うんだけどなぁ~?」
雪乃「姉さんは少し比企谷くんの事を買い被り過ぎだと思うのだけど…」
陽乃「そうかな、私は本気だよ。
もし雪乃ちゃんが八幡を狙う気がないのなら私が八幡を奪うからそのつもりでね~♪」
八幡「…」
俺は寝たふりをしながら今の話を聞き流していた。
別にこの二人と付き合いたいから助けたわけじゃない。
ただ…放っておけなかった…それだけなんだ。
雪ノ下たちがこれ以上追い詰められる姿なんか見たくなかっただけだ。
全ては俺の自己満足にしか過ぎない。
だから二人ともこんな事に負い目なんか感じなくてもいいのに…
ここまで
一応上記の件に触れていますがもう陽乃さんは家の事なんてもうどうでもいいと思っています
なのでこれ以上裁判だのなんだの面倒事に関わる気は一切ありません
雪ノ下姉妹さえ救済されれば、雪ノ下家もその他大勢もこの際どうでもいい!
ただ>>1が裁判事について関わるつもりが無いのか、はるのんが裁判事に関わるつもりが無いという意味合いで書いているのか、その真実はどっち?
~比企谷家~
八幡「ただいま…疲れた…」
小町「も~お兄ちゃん遅いよ~!待ちくたびれちゃったから先にご飯食べちゃったよ!」
八幡「そうか…すまないな…今日も晩飯は部屋で食うわ。」
雪ノ下姉妹との共同生活も遂に1ヶ月を突入した。
この頃、俺は帰宅するのが10時過ぎとかなり遅くなっていた。
~八幡の部屋~
八幡「それじゃこれが今週の分です。」
陽乃「八幡、いつも悪いわね。」
八幡「いや…俺に出来るのはこのくらいだから…」
陽乃「そんな事ないわよ。いつも助かっているんだからね。」
雪乃「あら?そのお金…比企谷くん!あなたまさか何か悪事をして得たの!?」
八幡「ちげーよ、ちゃんと働いて稼いで得た金だ。」
雪乃「何を言っているの!
将来の夢は専業主夫と言っていたあなたがどうやってお金を稼げたというの!?」
俺はお金の入った封筒を陽乃さんに渡していたが、
その光景を雪ノ下に見られて誤解を抱いたらしく仕方なくこの金を得た経緯を説明した。
八幡「実は雪ノ下、奉仕部を有料制にしたんだ。」
雪乃「なんですって…?」
八幡「俺はまだ学生だから時間が限られている。
それに俺は平塚先生のせいで部活には強制参加。
だがら俺が金を稼ぐには奉仕部の作業を有料にした方が手っ取り早いと思って…」
雪乃「あなたという男は…見損なったわ!
私が作った奉仕部をこんなお金儲けの道具に使うだなんて!
これでは私たちを見捨てて夜逃げした両親と同じじゃない!恥を知りなさい!!」
俺は雪ノ下に思い切り罵倒された。
その言葉はさすがに胸に突き刺さり思わず頬から涙が溢れるほどだった…
八幡「う…うぅ…グスッ…」
陽乃「ちょっと雪乃ちゃん、あなたいい加減にしなさい。」
雪乃「姉さんからも何か言ってあげなさい。この男が如何に卑しいかを!」
陽乃「ゴメンなさい、私たちが甘やかしたばかりにこんなわがままに育ってしまって…」
八幡「すいません…今のはちょっと心が折れそうになってしまいました…」
雪乃「どうして姉さんがクズ谷くんの事を擁護するのかしら?」
さすがに見かねた陽乃さんは何故俺が奉仕部を有料制したのかを雪ノ下に説明してくれた。
陽乃「よく聞きなさい、クズはあなたの方よ。
比企谷くんがお金を稼いでくれるのは私たちがここで生活するための生活費、
それに私たち姉妹がこの部屋から独立するための資金を稼いでくれているからよ。」
雪乃「独立するための資金ってどうして…?」
陽乃「雪乃ちゃんたら呆れるわね、あなたまさか一生この部屋で暮らす気だったの?
よく聞きなさいこの穀潰し…!
私たちだっていつまでも比企谷さん宅で居候しているわけにいかないのよ。
お金を貯めてなんとかアパートくらい見つけないといけないからに決まってるでしょ。」
八幡「そのためには最低でも100万くらいは貯めないとダメだ。
だがお前たちは殆ど着の身着のままの無一文でこの部屋に転がり込んできた。
そのために俺は奉仕部を有料化して金を稼いでいるんだ。」
陽乃「ちなみにお姉ちゃんも、
最近昼間は外でパートのお仕事を見つけて働いているのよ。
何も知らずにこの部屋で遊び呆けているのは雪乃ちゃんだけなの。わかった?」
陽乃さんは雪ノ下に事細かく事情を説明してくれた。
しかし雪ノ下はどうにも事の重大さを未だに理解出来ていないようで…
雪乃「姉さんたら何を言っているの?
100万円なんて我が家ならポンッと出せるお金じゃないの。」
陽乃「クズよ!ここに生粋のクズがいるわ!?」
八幡「こいつ…まさか未だに自分が資産家のお嬢さまだと錯覚しているのか…!?」
雪乃「なんだか酷い事を言われているような気がするのだけど…」
最早無自覚なまでにこの危機的状況を理解できない雪ノ下…
そんなわけで陽乃さんは思い切った荒療治に出た。
陽乃「クイズ!この家で一番のクズは誰でしょう?」
雪乃「そんなの決まっているわ。比企谷くんよ。」
陽乃「ブッブ~!
八幡は私たちの恩人で今も私たちの独立するためのお金を稼いでいる素晴らしい人だよ!
だからクズじゃありませ~ん!!」
雪乃「なら…小町さん…?」
陽乃「ブッブ~!小町ちゃんは真面目に学校に通う中学生だからクズじゃないよ~!」
八幡「つーか俺の妹をクズ呼ばわりなんてふざけんな!」
雪乃「それじゃあ…一体誰だというの…?」
陽乃「ヒントその1、その人は働いていません。」
陽乃「ヒントその2、その人は学校にも行ってません。」
陽乃「ヒントその3、その人はとある事情であまり外へは出られません。」
陽乃「ヒントその4、その人はそれをいい事に食っちゃ寝の毎日を送っています。」
陽乃「ヒントその5、その人はそろそろ私からいい加減にしなさいと怒られます。」
陽乃「ヒントその6、その人のイニシャルはYです。」
陽乃「ヒントその7、その人は…もう面倒臭いから言うけど雪乃ちゃんの事よ。」
陽乃「他所さまの家でダラけて働きもせず、
私の恩人である比企谷くんを悪く言うしか能のないクズニートはあなたよ、雪乃ちゃん。」
ネチネチと嫌味たらしく言ってのける陽乃さん。
これにはさすがの雪ノ下も応えたようで…
雪乃「そんな…私ってクズニートだったの…」
八幡「どうやら今の言葉が胸に突き刺さったようだな。わかってくれたらそれでいいが…」
陽乃「いいえ、それだけじゃダメよ。
今の私たちには雪乃ちゃんにこの部屋でクズニートさせている余裕はないわ。
それに丁度いい機会だしこの子にも外で働いてもらいましょう。」
雪乃「何を言っているの!まだ外にはあの連中が…!?」
八幡「それなら心配ない。あの事件からそろそろ一ヶ月が経つ。
もうさすがにうちの学校に、
お前にまで謝罪を求めさせるような過激な事を言うヤツらはいなくなった。
事件は沈静化しつつある。」
陽乃「だから私も働き始める事ができたのよ。」
そう、事件から一ヶ月が経ち連中の怒りは時間と共に和らげる事が出来たようだ。
しかしそれでも雪ノ下は…
雪乃「…」
八幡「外に出るのが怖いって顔をしているな。」
雪乃「そうよ…あなただって覚えているはずでしょう。
以前私がこの家から出ようとして吐いたのを…まだあの時の恐怖心が残っているのよ…」
八幡「そりゃあんな目にあった後ならわからなくもないがな…」
陽乃「…」
外へ出る事に極端に怖がる雪ノ下。
無理もない。
かつてどれほどの人たちに罵られた事か…
だが陽乃さんはそんな雪ノ下に対して思わぬ事を言ってのけてしまう。
陽乃「そういうのは気合と根性で乗り切っちゃえ!」
八幡「意外にも精神論!?」
陽乃「だってこのままだと、
雪乃ちゃんはいつまでもあーだこーだうじうじ言って引きこもりニートを延長しちゃうよ。
この際、ちょっとした荒療治で克服してもらいましょう。」
雪乃「待って姉さん!私は本当に…!?」
八幡「本気なんですね、それじゃ俺はこいつが勤まりそうな働き先を見つけてみます。」
陽乃「頼んだわよ、これも雪乃ちゃんのためだもの。
この部屋で一生ニートやってもらっちゃみんなの迷惑ですものねぇ…ウフフ~♪」
雪乃「あ…あぁ…」
さっきとは違った意味で恐怖に慄く雪ノ下。
俺はというとネットで雪ノ下の働き口を探すのだが…
雪ノ下が勤まりそうなバイト。
恐らく今の雪ノ下では働き先でろくにコミュニケーションが取れないだろう。
ならば他人との接点があまりない働き先は…やっぱあれしかないよな…
今日はここまで
作者が描くゆきのんは何故かクズ化してしまうのは何故なのでしょうか?
ちなみに次からゆきのんが働く話になります
ほとぼりが冷めてるんだったら、小町ちゃんには本当の事言っても良いような
気がする
>>261
まあ両方です
陽乃さんは親に見捨てられているし世間の心象も悪いので裁判に協力する気はなし
作者もそんな裁判の描写なんて詳しい展開出来ませんので…
>>273
沈静化しても万が一という心配があるから伝えにくいのです
まあオブラートに「その依頼なら今日のA定食分の報酬をいただこう」とか言ってれば金稼ぎのイメージも和らぐんじゃね?
リア充みたく「それやってやっからメシ三日分なwww」くらいなら学校も問題にしないでしょ
~総武高校校門前~
八幡「それじゃ雪ノ下、今日からお前にも働いてもらうぞ。」
陽乃「精一杯頑張るのよ~♪」
雪乃「その前に待ちなさい!何なのこの格好は!?」
ここは俺が通う総武高校の校門前。
そこで雪ノ下はかつての母校の前でメガネとマスクに帽子、
それに上下ダボダボなジャージ姿で立っていた。
八幡「まあここならいざという時、俺が助けに来れるからな。」
陽乃「その姿なら知り合いが見てもあなたが雪乃ちゃんだと思えないしね。」
雪乃「こんなぶざまな姿をかつての知り合いに見られるなんて屈辱よ…」
八幡「さて、それじゃいよいよ本題に入るぞ。今回お前がやるべき仕事はこれだ。」
俺は雪ノ下の前にある看板を取り出した。
それは何の変哲もない単なるこの先でやっているイベントの案内用の看板だ。
これをどうするのかというと…
八幡「ただこれを持ってイスに座っているだけでいい。それがお前のお金を稼ぐ初仕事だ。」
雪乃「それは果たして仕事と呼べるモノなの…?
大体これって看板を建てておけばそれで済む話だと思うのだけれど…?」
陽乃「そういうのは土地の持ち主の許可がないとやっちゃダメなの。」
八幡「それに一応これは案内役の仕事も含まれている。だから係員がいないとダメなんだよ。」
俺が雪ノ下のために用意したのは看板持ちの仕事だ。
椅子に座り看板を持ち、たまに簡単な案内もやっておく。
本当にそれだけの単調な仕事だ。
だがこの仕事内容を説明すると雪ノ下は文句を言い出した。
雪乃「この私が…
こんな…看板持ちの仕事ですって!
比企谷くん!これは何か悪質な嫌がらせだとしか思えないのだけれど!?」
八幡「そう言われても、そもそもお前何かやりたい仕事でもあるのか?」
雪乃「勿論よ、働くなら家庭教師や習い事のインストラクターがいいわね。
そういった華やかな職場で働くことこそが私には似合うと思わないかしら?」
八幡「」
陽乃「」
俺と陽乃さんは呆れた目で雪ノ下を見つめた。
そして世間知らずなこの箱入り娘のために俺たちはゆっくりと丁寧に説明してやった。
八幡「何が家庭教師だ。今のお前の最終学歴中卒だろ。
家庭教師なんて学歴社会だ。大学生でもないヤツじゃ門前払いされるのがオチだぞ。」
陽乃「それに雪乃ちゃんが人にモノを教えられるはずがないでしょ。
その人を小馬鹿にした毒舌じゃ苦情を言い渡されてすぐにクビになるのがオチよ。」
雪乃「何をわかった風な事を…やってみなければわからないでしょう!」
八幡「やってみなければなんて言われてもな…」
陽乃「これまで24時間一緒に居た私たちだからこそ、
今のあなたを冷静に分析して、
さらにコミュニケーションも取れない雪乃ちゃんのために八幡が選んでくれた仕事よ。
文句言わずにちゃんとやりなさい!」
俺たちが今の雪ノ下の状態を考慮して選んだこの仕事。
陽乃さんはとにかく雪ノ下の不平不満をスルーして強制的にやらせようとしていた。
まあこの仕事を選んだのはそれだけが理由ではないんだが…
八幡「それに言っておくが身元を調べられる仕事は全部NGだ。
いくら事件が沈静化してもまだ雪ノ下家の事を恨んでいる連中はいるはずだからな。
今回そうやって変装させているのも連中に正体がバレないようにって理由もある。」
陽乃「お姉ちゃんもパート先では新しい苗字を名乗っているのよ。比企谷陽乃ってね。」
雪乃「何よその偽名…姉さんもう比企谷くんのお嫁さんになった気でいるの…?」
陽乃「そうだよ。
どうせ八幡が18歳になったら私たち結婚するんだし今から名乗っても問題ないでしょ。」
八幡「いや…それについては初耳なんですけど…?
まあそれはともかくお前にも陽乃さんと同じく偽名を名乗ってもらう。
ここでのお前の名前は葉山隼人だ。わかったな。」
雪乃「何でよりにもよって葉山くんの名前なのよ!?」
八幡「俺の名前なんて使われてみろ。
昼間からこんなバイトしているのがバレて生徒指導室へ呼び出しを食らっちまうだろ。」
陽乃「隼人だったら私たちがそんな気にする必要ないから余裕で使えちゃうもんね~!」
まあ葉山ならどうでもいいしとか…
疎遠になった相手ほど、どうでもいい存在はないよな。
しかしそれでもまだ納得した様子を見せない雪ノ下。
これ以上駄々を捏ねられてもどうしようもないわけで…
八幡「悪いがそろそろ朝のHRだ。行かせてもらうぞ。」
陽乃「お姉ちゃんもこれからパートのお仕事があるから。それじゃあ頑張るのよ!」
雪乃「ちょっと…待ちなさい!姉さん!比企谷くん!?」
俺は学校へ、陽乃さんはメガネをかけて申し訳程度の変装で職場へ向かった。
唯一人その場に残された雪ノ下は呆然と立ち尽くし、
看板係の仕事をやるより他はなかった…
ここまで
ゆきのんの初仕事開始です
※これから再開しますがここからゆきのん視点になるます
雪乃(結局、看板係をやらされる羽目になったわ。)
雪乃(しかもよりにもよって葉山くんの名前で…)
雪乃(これは一体何の仕打ちなのかしら?)
雪乃(確かに今の私では、
比企谷くんと姉さん以外の人間とまともにコミュニケーションなんて取れやしない…)
雪乃(けどこんな仕事に何の意味があるのかしら…?)
雪乃(それにしても時間が進むのがやけに遅く感じるわ…)
~1時間経過~
雪乃(ようやく1時間経過したわ。)
雪乃(ビックリするほど時間が遅く感じる。)
雪乃(奉仕部で読書していた頃だってここまで時間を遅く感じた事などなかったわ。)
雪乃(けれどこれは…まるで拷問に近い…)
~4時間経過~
雪乃(ようやく4時間経過したわ。)
雪乃(そろそろ休憩でもしたいのだけれど…)
雪乃(うっ…!)
雪乃(尿意が…)
雪乃(けどここにはトイレはない…どうしたら…?)
恥ずかしい。
私は尿意を我慢できずにいた。
けれどこの場にトイレなどないからどうすべきか迷っていたのだけれど…
八幡「ウス、お疲れさん。」
雪乃「比企谷くん…どうしてここに…?」
八幡「心配で様子を見に来た。
学校も昼休みだからな。それよりもお前トイレは大丈夫か?」
雪乃「へ…平気よ…」
八幡「嘘つけ、震えてるぞ。
まあこんな事だろうとは思っていたが…
ほら俺が暫く変わってやるから今のうちに学校のトイレでしてこい。」
雪乃「でも今の私は部外者…」
八幡「大丈夫だ、そこの離れにトイレがある。
ここは校舎から結構離れている場所だからあまり使われてないし誰とも遭遇しないだろ。」
間一髪、比企谷くんにこの場を任せて私はトイレへと向かった。
けどそれよりも私は惨めな気分に悩まされていた。
~女子トイレ~
雪乃(ふぅ、間に合ってよかったわ。)
雪乃(さすがにこの歳で漏らすなんて人に知られたら悲惨だわ。)
雪乃(それにしても久しぶりの学校、落ち着くわね…)
私は個室で用を足してほっとひと安心した。
離れとはいえ、久しぶりに校舎に入れた事に感慨深さを感じていた。
けれどそこへある女子のメンバーが入ってきたのだけど…
相模「あー!午前中の授業終わったー!」
ゆっこ「最近ようやく平和になったよね。」
遥「あの外で騒いでいた連中がいなくなったからね。」
雪乃(あれは…確か相模さんとそのグループの人たち…?)
この離れの女子トイレにやってきたのは文化祭で因縁のある相模グループだった。
私はトイレから出るタイミングを失い、
仕方なく彼女たちが出るまでやり過ごす事に…
相模「それにしても雪ノ下って最悪だよね!
あいつの所為でこの一ヶ月うちらがどれほどつらかったかわかってんのかね?」
ゆっこ「本人は家族揃って夜逃げしてトンヅラだからもう超最悪!」
遥「本当だよ、あの連中無関係な私らにまで襲って来そうな感じだったもんね。」
雪乃(言いたい放題言ってくれるわね…)
私は彼女たちの話を聞き、怒りを隠せずにいた。
確かに今回の件については巻き込んで申し訳ないと思う。
でもだからといってここまで言われる筋合いはない。
我慢できずに出ていこうかと思ったけど、そこで彼女たちはある話題に切り替えてきた。
相模「でも一番最悪なのは比企谷だよね。」
ゆっこ「そうそう!あいつ何でか知らないけど奉仕部で金を取り始めてるし!」
遥「きっと雪ノ下がいなくなったのをいい事にやってんだよ!あいつもワルだよね!」
「 「アハハハハッ!」 」
雪乃「…」
彼女たちはトイレを出るまでそのまま延々と比企谷くんの陰口を叩いていた。
その陰口を私は黙って聞いていた。
本当なら出て行って注意するべきだと思う。
けれどそもそも彼が奉仕部でお金を取らなければならなくなったのは誰の所為…?
私だ。
私たち姉妹が彼の家に転がり込んできたから…
雪乃「ただいま…」
八幡「やっと帰ってきたか。遅かったけど何かあったのか?まさかバレたとか…?」
雪乃「別に、何もないわ。」
八幡「そうか、今日のお前の仕事は夕方の5時までだ。
俺も今日は奉仕部の活動は一件くらいだからその頃には合流できるだろう。」
雪乃「ねぇ…」
八幡「あん?どうかしたか?」
雪乃「いえ、やはりなんでもないわ…」
私は比企谷くんにさっきの事を話そうかと思った。
けれどやはりやめた。
これ以上彼に余計な心配はさせたくない。
結局、私は惨めな気持ちのまま仕事を続けた。
雪乃(また看板係…)
雪乃(学校も授業が終わってみんな下校する時刻…)
雪乃(…)
雪乃(私って確か帰国子女よね…)
雪乃(まあ葉山くんと嫌な経緯があってだけど…自分を高めるため海外まで留学…)
雪乃(それで帰国後も努力を続けて勉学においてこの学校で学年1位になった。)
雪乃(でもそれも最早過去の栄光…)
雪乃(今の私はこんな看板係の仕事にしかありつけない…)
雪乃(今までやってきた事はこんな仕事をするためだったのかしら?)
雪乃(あの努力の日々は何だったというの?)
雪乃(そもそも私の人生って何だったの…?)
この仕事は今の私に自問自答を繰り返させた。
まさに非暴力による拷問。
リストラ候補の社員を窓際に追いやるとはよく聞くけどこの仕打ちはそれによく似ている。
でもそんな時、私はふと目にしてしまった。
「葉山!そっちにボールが行ったぞ!」
三浦「隼人!シュート!シュート!」
葉山「OK!」
雪乃(葉山くん、そういえば彼はサッカー部のレギュラーですもの。)
雪乃(けど彼は夢にも思ってないでしょうね。)
雪乃(私が校門の前で看板係やりながらあなたの名前を騙ってバイトしているなんて…)
私はサッカー部での葉山くんの活躍を見つめていた。
かつて私たち一家を真っ先に裏切った弁護士の息子。
私たち一家とは違い華やかな舞台で活躍を続けるその姿に私は憎しみと苛立ちが募らせた。
けど私の視界にもうひとつある光景が映った。
それは比企谷くんだ。
「比企谷ー!こっちも頼むー!」
八幡「へーい!」
雪乃(比企谷くん…?)
雪乃(彼…そういえば奉仕部を有料制にしたって…)
雪乃(あぁ…運動部の人たちに雑用やらを押し付けられているのね。)
雪乃(由比ヶ浜さんは手伝ってくれないのかしら?)
雪乃(きっと彼女の事だから、
比企谷くんが部を有料にすると言い出した時に怒って疎遠になってしまったのね。)
雪乃(でもあの彼が…怠け者だった彼があんなに一生懸命に働いて…)
雪乃(他の女子はみんな葉山くんに見惚れている。)
雪乃(でもどうしてだろう…私には…)
雪乃(比企谷くんの方が葉山くんよりも何倍も輝いて見える気がする…)
サッカー部に所属して誰からも持て囃され華々しく活躍する葉山くん。
それとは対照的に日陰で雑用を懸命にこなす比企谷くん。
殆どの女子が葉山くんに注目する中、恐らく私だけが比企谷くんを見つめていた。
私だけが比企谷くんの頑張る姿をこの仕事が終わるまでずっと見続けていた。
~帰り道~
八幡「今日はお疲れさん。」
雪乃「…」
八幡「あの仕事、俺も前にやったけどある意味拷問に近いよな。」
雪乃「…」
八幡「何で自分がこんな仕事やんなきゃいけないんだろう?
俺ってこんな仕事するために生まれてきたのかなって…そう思わされたよな。」
雪乃「…」
正直、比企谷くんの言葉は頭に入ってこなかった。
何故なら私はこの時ほど今までの自分の世界が狭かったのだと思い知らされたから。
私なんて雪ノ下家という後ろ盾がなければこんな仕事にしかありつけない小さな人間。
いえ、この仕事ですら比企谷くんが紹介してくれたもの。
それも彼の目の範囲に届いていつでも助けに行けるようにと考慮して選んでくれたもの。
そうでなければ私はこの仕事にすらありつける事も出来なかった…
以前の私は奉仕部を作り世界を変えようと粋がっていた愚か者。
今ならあの時の自分がどれほど愚かで、そして世間知らずだったのかがよくわかる…
八幡「なぁ、少しだけ寄り道していかないか?」
雪乃「寄り道って…何処へ行く気?」
八幡「陽乃さんが働いているパート先だよ。」
雪乃「姉さんの…?」
あの姉さんがどんな職場で働いているのか興味があった。
姉さんなら大抵の事はこなせるはず。
私と違って恐らく華やかな場所で働いているのだと思っていたのだけど…
~スーパー~
陽乃「いらっしゃいませ~♪」
雪乃「ね…姉さん…?」
八幡「ウス、お疲れさまです。」
陽乃「あら、二人とも来てくれたのね。もう少ししたらシフトが終わるから待っててね!」
姉さんはそのまま事務所に行き帰り支度をしに行った。
さすがに驚きを隠せなかった。
まさかあの姉さんがこんな場末のスーパーで働いているなんて…
私には信じられない光景だった。
雪乃「まったく今日は嫌というほど現実を突きつけられるわね…」
八幡「今まで雲の上にいた人間がいきなり地面に突き落とされたって顔しているな。
まあ気持ちはわからなくはないが…
けど人間食ってかなきゃいけないんだ。
いつまでも過去の栄光なんかに拘ってられないだろ。」
雪乃「過去…私にとって今までの生活はもう過去なのね…」
八幡「いきなり気持ち切り替えろなんて言うのはきついかもしれないが…
けどそれでも俺たちみんな前に進まなきゃいけない。
これからは親の力に頼る事もできない。自力で生きていかなきゃいけないんだ。」
雪乃「そう、私は今まで甘えて生きていたのがよく思い知らされたわ。」
私はこれまで間近で姉さんを見てきた。
こんなスーパーのパートなんて仕事をやるべき人ではないとわかっているつもり…
けれど生きていくためには働かなくてはならない。
将来の夢を絶たれようと懸命に生きなければならない。
たとえそれがどれほどつらい事であろうと…
パートのおばちゃん「あら、この子たちはるちゃんの弟妹かい?」
陽乃「そうなの!妹の方はね…男の子の方は私の旦那さまなんですよ~♪」
雪乃「けどさすが姉さん、もう仕事場で友好関係を築けているのね。」
八幡「ていうか俺…もう旦那さま扱いされてるし!?」
まあ姉さんはそれほどつらくもないようだけど…
今日はあんな看板係の仕事だけだったけど、
今までの人生で一番何か大きな事を学べたような気がするわ。
※ここでまた八幡視点に戻ります
~お風呂場~
陽乃「ふぅ、仕事後のお風呂はさっぱりして気持ちいい~♪
八幡見張り役ご苦労さま!
でもたまには一緒に入ってもいいんだよ~?お姉さんが背中流してあげるからね~♪」
八幡「茶化さないでください。
それにしても今日の仕事で雪ノ下は変わりましたかね?」
陽乃「本当はこんな荒療治やりたくなかったんだけどね。
正直私はあの子が仕事を放り出して逃げるんじゃないかと思っていたけど…」
八幡「それを最後までこなせたって事はあいつ自身今までの考えを改めたって事ですか?」
陽乃「まあそれはいい事だと思うよ。
いつまでも雪ノ下家なんてひきずってもしょうがないしね。」
八幡「俺はひきずるようなモノがない、
庶民の家に生まれてこれほどよかったと思った日はありませんよ。」
陽乃「アハハ!八幡は相変わらず面白いんだから!やっぱり一緒にお風呂入ろっか?」
八幡「ダメです!小町に気づかれたらどうすんですか!?」
さて、俺は帰宅後に陽乃さんの風呂を付き添いながら(小町に見つからないように)
今日の事を話し合っていた。
雪ノ下も今日の出来事でこれまでの自分の環境が一変しているとようやく気づいただろう。
今はまだ余裕がないがそれでもいつかあいつが何かを始めるために、
俺もこの姉妹をもう少しだけ手伝ってやりたい。
…と思って部屋に戻ったがどうやら早急にやらなきゃならない事が発生した…
~八幡の部屋~
雪乃「姉さん、比企谷くん、これを見てほしいの。
さっきネットの広告を見たのだけどFXですぐに億万長者になれるらしいわ!
今日のお金を元手にFXをやりましょう、そうすればすぐに大金を稼ぐ事ができるのよ!」
八幡「俺…思ったんですけど雪ノ下にだけは金の管理をさせちゃいけないと思います…」
陽乃「同感だわ、これからすぐに金庫を買いに行きましょう。」
この後、雪ノ下は俺たちに一時間たっぷりと怒られた。
そんな大金が簡単に手に入ったらお前んちは破産なんかしてねーんだよと…!
ちなみに後日、葉山は身に覚えもないバイトの事で生徒指導室へ呼ばれたそうだ。
ここまで
どんなに学ぼうがうちのゆきのんは基本クズです
※再開していきますが今回はずっとゆきのん視点になります
~八幡の部屋~
八幡「ゴホッ…ゴホッ…」
陽乃「39度…今日は学校を休んだ方がいいわね。」
雪乃「風邪なんてお馬鹿な比企谷くんが引くとは思わなかったわ。」
ある日の朝、比企谷くんは風邪を引いて寝込んでしまった。
こうなっては学校を休まなくてはならないのだけど…
八幡「うぅ…いや…奉仕部の仕事があるから行かないと…」
雪乃「あのぐーたらな比企谷くんが、
風邪を引いた身体を押して学校へ行こうとするだなんて…」
陽乃「ダメよ、今日は休みなさい。そんな身体で無理をしちゃいけないわ。」
八幡「けど奉仕部の仕事が…まだ…今日中にやらなきゃいけない仕事が…」
姉さんは彼の身体を心配して休むように注意するのだけど、
どうやら奉仕部の仕事で今日中にやらなければならない仕事があるようだ。
けれどさすがにこの身体で無理をさせるわけにもいかないし、
どうすればと悩んでいたのだけどそんな時、姉さんはある秘策を思いついた。
陽乃「そうだ雪乃ちゃん!
あなたどうせ暇なんだから八幡の代わりに学校へ行ってその仕事をやってきなさい!」
雪乃「何で私なの…?」
陽乃「だってお姉ちゃんはここで八幡の妻として看病をしなきゃいけないし、
雪乃ちゃんはこの前の看板係の仕事を一日で辞めちゃって暇だから行ってきなさい。」
雪乃「あんな仕事一日だけで懲りて当然でしょ。
ところで私はあの学校を既に退学になった身よ、今更どうやって行けというの?」
陽乃「それはお姉ちゃんにおっまかせ~♪」
そう言うと姉さんは比企谷くんの制服、
それにショートヘアのウィッグにマスクとグラサンを無理やり付けて男装させられた。
そして出来たのが…
陽乃「ジャーン!完成!偽八幡よ!!」
偽八幡「何よこれ…?そもそも偽八幡って何なの!?」
陽乃「雪乃ちゃんはこれから偽八幡として変装して学校へ行くの!
八幡から聞いた話だと残っている仕事は書類作業だから雪乃ちゃんでも務まるはずよ。」
八幡「あの…俺の事…舐め過ぎじゃね…?いくらなんでもそれじゃ疑われるだろ…!?」
まあ確かにこの交友関係ゼロのぼっちであるこの男を装うのならこのくらいでいいはず。
でも肝心の比企谷くんはこの案に反対だった…
八幡「おい…やめておけ…お前は学校へ行っちゃダメだ…行けばショックを受けるぞ…」
偽八幡「行っちゃダメってそこまで心配する必要もないと思うのだけど。」
陽乃「いいじゃない、それに雪乃ちゃんは知っておくべきだと思うわ。八幡の苦労をね…」
偽八幡「比企谷くんの苦労…?」
この時の私は姉さんの言葉をいまいち理解が出来なかった。
こうして私は比企谷くんの代理として久しぶりの学校へ行く事になった。
とりあえずここまで
続きは深夜までにやれたらいいなと
~総武高校~
静「それで比企谷…その格好は一体何だね…?」
偽八幡「何だと言われても…」
偽八幡「え~と…マスクは風邪をこじらせて…
サングラスはこの腐った目を周囲に見せたくないという意思があって…」
早速私は懐かしの母校である総武高校へとやってきた。
けれど登校したと同時に平塚先生に見つかりこの格好について問い質されてしまう。
まあここまでは予想していた通りの流れなのだけど…
静「うらっ!衝撃のファーストブリット!」
偽八幡「がはっ!?」
静「まあこれで許してやる。次からは気をつけるように。」
偽八幡「あ…ありがとうございます…
彼はいつもこんなきつい鉄拳を喰らっていたのね…本気で痛いわ…
ていうかこんな変装で誤魔化せた事に驚くわ…」
静「しかしだ、あまり目立つ行動は控えろ。
キミはあの件で他の生徒たちだけでなく教師たちからも不快に思われている。
今のキミには味方が殆どいない。その事を忘れるなよ。」
偽八幡「え…どういう事…?」
私は平塚先生からの鉄拳制裁とそれに奇妙な忠告を受けた。
けれどその言葉の意味は私にはわからない。
仕方なく教室へと向かったのだけれど…
~2年F組~
偽八幡「これは…」
私は朝のHR前に比企谷くんの机に着席した。
けどその机の中にあったのは…
[この守銭奴!]
[そこまでして金が欲しいか!?]
[意地汚いヤツ!恥を知れ!!]
彼への非難中傷が綴られた手紙を多数発見してしまった。
何故こんな事に…?
けどそんな事を気にしている暇はない。
授業の時間が迫ってしまった。
仕方なく私は比企谷くんに代わって授業を受ける事に…
先生「それでは各自にプリントを配る、今日はこれを元に授業を行うぞ!」
偽八幡「プリントが…私のだけない…?あの先生…プリントがないのですが…?」
先生「何だ比企谷、
先生の授業をタダで受ける気だったのか?守銭奴のお前には金を払ってもらわないとな!」
「 「ハハハハハハッ!」 」
クラス中から笑いの種にされた。
この時点で私にはもう察しがついた。
彼は嫌がらせを受けている。
それも生徒だけでなく教師まで加担するまでの深刻な嫌がらせ。
いえ、これは嫌がらせよりもさらに性質の悪い迫害だ。
静「…であるからしてこの文法は…」
偽八幡(あれから散々な目にあったわ。
殆どの授業で私は…いえ…比企谷くんは先生方から嫌がらせにあっている。)
偽八幡(まともに授業を受ける事が出来たのはこの平塚先生の国語だけ…)
偽八幡(あの男…一体何をやらかしたというの…?)
この事態に疑問を抱いた私はあるこの事についてある心当たりを思い出した。
それは先日、看板係の仕事中に相模さんたちが言っていたあの噂話…
『一番最悪なのは比企谷だよね。』
『あいつ何でか知らないけど奉仕部で金を取り始めてるし!』
『あいつもワルだよね!』
あの話通りなら辻褄は合う。
彼は奉仕部の仕事を有料制にした所為で先生方からも疎まれてしまった。
恐らくこれはそういう話…
~2年J組~
「アハハ!」
「それでね!」
偽八幡「懐かしいわ…久しぶりの教室…でも…」
偽八幡「やはりもう私が使っていたものは全て撤去されているのね。」
放課後、授業が終わり私はにかつて自分がいた国際教養科のJ組のクラスを覗いていた。
みんな普通に帰宅や部活動の準備を始めている。
かつて私がいた事など既に忘れ去られているかのように…
まだ退学して1ヶ月程度なのにもう遠い日の出来事のように思える。
けどそんな感傷に浸っていた私にJ組の生徒たちが声をかけてきた。
女子A「あなた…確か奉仕部の比企谷くん?」
偽八幡「あなたたちは…」
女子B「よくも雪ノ下さんの奉仕部を汚してくれたわね!この恥さらし!」
女子C「雪ノ下さんはスゴイ人だったのに…それなのに…!?」
女子D「アンタなんか人間のクズよ!」
私を糾弾するのはクラスメイトの女子たちだった。
以前から彼女たちは私のシンパとも言うべき人たち…
けれど私は彼女たちの本性を知っている。
私の脳裏に今から1ヶ月前のあの忘れられない出来事が思い出されてきた。
女子A『雪ノ下さんの親がこんな事をしていたなんて凄くショックです!』
女子B『でも…雪ノ下さんって意外とそういうところがあったかも…』
女子C『普段からちょっと傲慢みたいなところがあったし…』
女子D『だからこれは仕方のない事なのかもしれないですね。』
1ヶ月前、私の両親が夜逃げして事件が発覚したあの日…
私は比企谷くんの家のTVで、
彼女たちがマスコミからインタビューを受けているのを観ていた。
クラスメイトの一員だというのに誰も私を擁護などせず、
マスコミに煽られたかのように悪く罵る彼女たちに私は嫌悪感を募らせた。
偽八幡(あなたたち…何で今頃になって擁護するの…?)
偽八幡(何であの時…その言葉をマスコミの前で言ってくれなかったの…?)
女子A「何よ!ハッキリ言いなさいよ!」
女子B「そうよ!雪ノ下さんは今でも苦しんでいるのよ!」
女子C「これも全部あなたの所為だわ!?」
女子D「雪ノ下さんに謝ったらどうなの!!」
本当ならすぐにでも正体を明かして反論してやりたい。
けれど今の私は比企谷くんの代理としてこの学校に来ている身。
ここで騒動を起こすわけにもいかず、この怒りを堪えるしかなかった…
~奉仕部~
偽八幡「これは…酷いわね…」
私は先ほどの女子たちからなんとか逃げ切り奉仕部の部室へとやって来ていた。
でもそこで見たのは…
[奉仕部(守銭奴)]
[金の亡者!]
[学校の恥さらし!]
こんな悪質な張り紙が部室の扉の前にいくつも貼られていた。
偽八幡(あの事件の直後に彼は奉仕部を有料制にしてしまった。)
偽八幡(それにこの1ヶ月はあの被害者たちが騒ぎ立てていた。)
偽八幡(そんな中で奉仕部を有料にしてしまえば、
校内の不満は一気に比企谷くんへ向けられる。だからこんな事になってしまったのね。)
偽八幡(けどそれなら何でわざわざ奉仕部でお金を取ろうなんてしたのかしら?)
偽八幡(こんな馬鹿げた事をしなければ誰にも文句は言われなかったはずなのに…)
扉に貼られた悪質な張り紙を外して私は作業に入った。
けどさすがにお金を取るだけあって、
その作業量は以前に行った文化祭の実行委員の仕事以上の量がある。
彼はいつもこんな事をしていたのだと改めて思い知らされた。
するとそこへ…
葉山「比企谷入るぞ!」
結衣「…」
偽八幡「葉山…くん…?それに由比ヶ浜さん…?」
葉山「比企谷、いつまでこんな事を続ける気だ?
今のお前は見ていられない。奉仕部なんてこれ以上続ける必要はないはずだ!」
結衣「そうだよヒッキー!いい加減にして!」
偽八幡「いきなり来て何の話を…」
葉山「惚けるな!奉仕部を有料制にして!
お前がやっている事は雪乃ちゃんが作った奉仕部を汚しているんだぞ!!」
結衣「ヒッキーはこんな事をしてゆきのんに申し訳ないと思わないの!?」
葉山くんと由比ヶ浜さんはいきなり部室に入り怒鳴り声を上げた。
そして葉山くんは私が作業を行っている机をバンッと叩きこう叫んだ。
葉山「何度言えばわかる!雪乃ちゃんの事は忘れろ!」
偽八幡「忘れろ…ですって…?」
葉山「そうだ!今のお前は雪乃ちゃんの事が忘れられないだけだ!」
葉山「いなくなった人間の事は忘れて前に進み出せ!彼女もそれを望んでいるはずだ!!」
そんな言葉を残して二人は去っていった。
恐らく二人は私の事を比企谷くんと思い叱咤したと思う。
けれど…私は比企谷くんじゃない…
私は…雪ノ下雪乃なのよ…
偽八幡(フ…フフ…)
偽八幡(いなくなった人間…?)
偽八幡(私の事は忘れろ…?)
偽八幡(私は…私は今でもここにいるのよ…)
偽八幡(雪ノ下雪乃は今だってちゃんとここにいるのよ!!)
葉山くんの言葉は確かに正論かもしれない。
けれど私は今この場にいる。
雪ノ下雪乃という人間はここにちゃんといる。
それなのに何で…
何で…忘れろなんて酷い事を言うの…?
「「う゛わ゛ぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」
私はこの部室で誰に構う事もなく大泣きした。
悔しさと惨めさ、
それに自分がこの学校の誰からも忘れ去られようとする悲しさに…
偽八幡(くっ…みっともなく泣いてしまったわ。)
偽八幡(葉山くんの言葉が今日ほど説得力のない綺麗事だと思った日はないわ。)
偽八幡(それにしてもこの部室も私がいた痕跡は何も残ってないのね。)
偽八幡(私が使ってたお茶の道具は比企谷くんが自宅へ持って行ったし…)
偽八幡(私の顔を知られないように比企谷くんは写真を全て処分したらしいとか。)
偽八幡(比企谷くんか…)
ふと急に比企谷くんの事を考えた。
彼はこの学校で迫害されている。
それも私の事に関して…
何故あんな酷い仕打ちに耐えられるんだろう?
今更ながら私はその事に疑問を抱いた。
静「やっているかね、校内一の嫌われ者!」
偽八幡「平塚先生!」
静「今さっき廊下で葉山と由比ヶ浜を見かけてな。
二人とも怒った顔して出て行ったぞ。
何があったんだ…と聞きたいがまあ大体の察しはつく。」
偽八幡「…」
葉山くんと由比ヶ浜さんたちと入れ替わりで部室へ入ってきたのは平塚先生だった。
私は思い切って平塚先生にある事について尋ねてみた。
偽八幡「あの…平塚先生は…奉仕部の有料制に反対しないんですか?」
静「何を言っている、私は今だって反対している。
いや、この学校の教師全員が有料制に反対しているに決まっているだろ。
キミが今やっている事はみんなから黙認されているだけなんだからな!」
偽八幡「黙認って…それなら何で…?」
静「何でって…それは1ヶ月前にキミ自身が職員室であんな啖呵を切ったからだろ。」
そして平塚先生は話してくれた。
それは私と姉さんが彼の家に転がり込んで3日くらい経った日の事だった。
~1ヶ月前~
静「奉仕部を有料にしたいって正気か!?」
八幡「はい、正気ですけどそれが何か…?」
静「比企谷…キミは…どこの学校に金を取る部活動があるか!?」
八幡「…」
今から1ヶ月前、
彼は職員室にいた平塚先生の前で堂々と奉仕部の有料化を宣言したらしい。
けどその話を聞いた他の先生方は思わず笑いが止まらなかったそうだ…
「比企谷は面白い事を言うな!」
「お前には笑いのセンスがあるな!」
「まったく数学は出来ないくせに金の計算なんかできるのか?」
八幡「それではお聞きしますが…」
八幡「今回の雪ノ下の件みたく、
俺たちの家が金に困ったらアンタら教師は俺たち生徒をすぐに見捨てるんですよね?
それなら今からでも部活動なりで金を稼いだ方がよっぽどマシだと思うんですけどねぇ!」
その言葉に他の先生方は誰一人として反論出来なかったらしい。
それもそのはず、私はこれでもかつてはこの学校で学年1位の生徒だった。
そんな模範的生徒ですら学校側が不利になればすぐに追い出される。
この事実を他の生徒たちに知られるわけにはいかなかった。
それ以来、彼はこの学校の殆どの人たちから疎まれるようになったそうだ。
静「まああんな無茶な真似をしたんだ。
ある程度はキミの自業自得だと思っているよ。
でも…私はあの時のキミの言葉を聞いて思うんだ。」
静「比企谷、キミは正しい。
結局他の先生方は誰一人として反論出来なかったからな。」
静「それに奉仕部を有料制にして悪評高くしているのにも理由があるんだろ。」
偽八幡「理由…?」
静「雪ノ下のためだな?」
彼が奉仕部を有料制にしたのは私のため…?
確かに彼が奉仕部を有料制にしたのは私たち姉妹の生活費を稼ぐためのもの。
けれど平塚先生はその事情を知らないはずでは…?
静「今までのキミの行動を見ていれば簡単にわかる。」
静「恐らくキミは今の自分だけの奉仕部を悪く思われてもらえれば、
かつて雪ノ下が部長を務めていた奉仕部の方がよかったと思われるだろうと考えている。」
静「事実、あの事件が発覚してから数日間は雪ノ下へのバッシングは強かった。
誰もが彼女を退学処分にしても仕方がない当然の事だと思えるほどにな…
だがキミが奉仕部を有料制にしてから他生徒の考えは変わった。」
静「彼らは次にキミを敵視するようになった。
当然だ、かつての奉仕部をいきなり悪く変えてしまったんだ。
それにこの学校の殆どの人間がこの1ヶ月、あの被害者団体にうんざりしていた。
キミは格好の餌食になってしまった。」
そう、やっとわかった。
彼があえて奉仕部でお金を取る意味が…
比企谷くんはもうこの学校にはいない私の名誉を守ってくれていた。
本来なら私の事なんて先日の相模さんたちみたく毛嫌いされてもおかしくはなかった。
けれど殆どの生徒たちは私に対して悪印象はない。
いつもと同じだ。
彼は自分が奉仕部で悪役を演じる事で私の風当たりを少しでも和らげてくれたからだ。
静「なぁ…比企谷…
キミはひょっとしていなくなった雪ノ下たちの行方を知っているんじゃないか?」
偽八幡「それは…」
静「いや、冗談だ。
まあキミの事だから奉仕部で稼いだお金を彼女たちに送金でもしているのかと思ってな。」
偽八幡「それは…ある意味間違ってはいないけど…」
静「もし雪ノ下に会ったら伝えておいてくれないか。守ってやれなくてすまないと…」
平塚先生はそう言葉を残して去った。
私は去っていく先生に深々とお辞儀をする。
感謝とそしてちゃんとしたお別れの両方の意味を込めてのお辞儀、
それを先生の姿が見えなくなっても続けていた…
結衣「ヒッキー、急に呼び出して何の用…?」
偽八幡「その…実は…奉仕部に戻ってきてほしいんだ。」
結衣「え…?」
私は先ほど奉仕部を出て行った由比ヶ浜さんを呼び出していた。
葉山くんとの仲は正直私自身が因縁が深すぎて元に戻す事など出来ない。
けれど彼女だけは、
せめて由比ヶ浜さんにだけは彼への誤解を解いて奉仕部へ戻ってきてほしい。
それが今まで彼に助けてもらってばかりいる私が今のところ唯一できる恩返しだ。
偽八幡「お前に戻ってきてほしい。お願いだ…」
結衣「そんな勝手すぎるよ!そう思うならもうお金を取るなんてやめてよ!」
偽八幡「それは出来ない…何故なら…」
なんとか適当な理由をでっち上げなければいけない。
一体何を言えばいいのかわからず私はとんでもない事を言ってしまった。
偽八幡「お前との結婚費用を稼いでいるからだ。」
結衣「結婚って…そんな…早すぎるよ!」
偽八幡「俺が18歳になったら結婚してくれ。俺はそのために稼いでいるんだ!」
結衣「でも…心の準備が…でもそんな事言ってられないもんね!
そっか…結婚か…ヒッキーはゆきのんの事をひきずっているのかと思っていたけど…」
偽八幡「愛している、結婚しよう!」
結衣「うん、そうだね!結婚しようね!
天国に居るゆきのんもきっと私たちの仲を応援してくれるはずだよ!!」
天国って…私まだ生きているのだけど…?
少し由比ヶ浜さんとの仲を考えたくなるわね…
比企谷くんの言う通りこの子本当にビッチなのかも…?
まあそれはともかくこれで彼と由比ヶ浜さんとの仲は元に戻せたし、
今回の彼の代理としての役目は無事果たせたわ。
~八幡の部屋~
八幡「あの…陽乃さん…添い寝はやめてください…風邪が移りますよ…?」
陽乃「何言ってんの!旦那さまが寝込んだら添い寝して治すのが妻の役目じゃない♡」
雪乃「まったく私にだけ働かせて二人とも何をしているのかしら!」
帰宅後、私は部屋でいちゃつく比企谷くんと姉さんの姿を見せつけられた。
いつもの姉さんの茶目っ気なのはわかるけど、
さすがにあんな出来事の後だと不快感は増すもので…
雪乃「まあいいわ、ところでお茶を淹れたから飲んでみてほしいのだけど。」
八幡「お茶って…これは俺が奉仕部から持ち出したお茶の道具か?」
陽乃「この家に来て以来、穀潰しだった雪乃ちゃんが初めてお茶を淹れてくれたわ!」
雪乃「小町さんがまだ帰ってないから淹れられただけよ。他意はないわ。」
私が用意したお茶を三人で飲んだ。
そして飲みながら私は今日の出来事を二人に話した。
その話を聞き比企谷くんは思いつめた表情で私に対してこう言った。
八幡「雪ノ下…すまなかった…」
雪乃「何であなたが謝るの…?」
八幡「お前が作った奉仕部を汚してしまって悪かった。
こんな今頃になって謝ってもとっくに遅いかもしれないけど本当にすまない…」
雪乃「頭を上げてよ…あなたに謝られたら私は…」
そう、彼にだけは謝ってほしくはない。
この人は今日まで私たちを守ってくれているのだから…
でも私は最後にこれだけは聞きたかった。
雪乃「でもこれだけは聞かせてほしい。何でまたみんなの悪役になろうと…?」
八幡「それは…お前の事を…今回の一件をみんなに忘れさせないためだ…」
雪乃「一体どういう意味…?」
八幡「もうあの事件から1ヶ月が経とうとしている。
1ヶ月も過ぎればどんな嫌な出来事でも自然に風化しちまうだろう。
でも俺はそれが嫌だ、あの事件の事を風化させたくはない。」
陽乃「つまり八幡はみんなの記憶から雪乃ちゃんが忘れられるのが嫌だったんだね。」
八幡「あの事件で雪ノ下をみんなで寄って集って追い出しちまった。
その責任は俺たち総武校の全員にある。
誰か一人くらいお前の退学を反対すべきだった。
だから俺がこの学校にいる間は絶対にあの事件を忘れさせないようにと思って…
これは俺たち総武校にいるみんなの罪だ。それを忘れてほしくなかったんだ。」
比企谷くんは申し訳なさそうな顔で私に語ってくれた。
彼が奉仕部を有料制にした真意、それに謝罪。
それは私はこれまで抱え込んでいた悩みがあっという間に吹き飛んだ気分になった。
雪乃「あなたという人は…
これ以上卑屈になるのはやめて、あなたは少なくとも私たちを救ってくれた。」
陽乃「そうだよ。
もし学校のみんながあなたの行いを、
恥だと罵っても私たちはあなたの事をちゃんと理解している。
だから自分が今やっている事に誇りを持っていいのよ。」
八幡「雪ノ下…陽乃さん…ありがとう…」
彼はお茶を飲み干しながら感謝の気持ちを述べてくれた。
お茶を飲み終えた彼の顔は涙を堪えるのに精一杯な顔だった…
雪乃「ところで、あの先日の看板係の仕事だけどまたやろうかと思っているの。」
陽乃「でも雪乃ちゃんあの仕事は凝りたって…?」
雪乃「私も…その…
いい加減前に進もうと思っただけよ…いつまでも立ち止まっていられないでしょう…」
八幡「あの雪ノ下が…
この部屋でクズニートやっていた雪ノ下が初めて自分から働く気になった!?」
陽乃「これはめでたいわ!お赤飯を炊きましょう!!」
雪乃「ちょっと!大袈裟すぎるのだけど!?」
小町「今帰ったけど…何このバカ騒ぎ…?お兄ちゃん風邪引いてるはずだよね…?」
こうして私も二人に遅れてだけど前に進み出した。
もうあの懐かしい学校生活は戻ってはこない。
けれど今の私には大切な人たちとの新たな生活の日々がある。
今はそれだけで充分だと思いたい。
それと後日、比企谷くんは由比ヶ浜さんから身に覚えのない結婚話を聞かされたとか…
一応ゴメンなさいと謝っておいたけど…
ここまで
なんとか深夜に間に合った
乙
>>427で小町がバカ騒ぎって言ってるけど2人がいることバレたの?
>>429
バレてませんよ
小町ちゃんは八幡たちの騒ぎ声を廊下で聞いているだけです
~八幡の部屋~
八幡「雪ノ下、ほれお前のパンツだ。」
雪乃「もっと可愛いのを選んで欲しいのだけど…
もういいから次はそっちの上着も取ってもらえるかしら。」
陽乃「八幡、私のブラも取って~♪」
八幡「へいへい、これでいいですか?つーか自分の服くらい自分で取ってくれる?」
雪ノ下姉妹がこの部屋に住み込んでからもう3ヶ月が経過した。
この頃になるとお互いの羞恥心なんて限りなくゼロに近く、
下着を見られる程度ならお構いがなくなってしまうほどだ。
慣れってマジ恐ろしい…
八幡「小町は先に出かけたようだしそれじゃ俺たちもそろそろ行くか。」
雪乃「久しぶりの遠出ね、少し張り切ってしまうわ。」
陽乃「それじゃ出発~♪」
今日は休日だ。
それにこれまで頑張って稼いだお金もある程度貯まり、
俺たちの生活にもようやく余裕が出来た。
それに陽乃さんからここらで息抜きをしようという提案があり、
そんなわけで今回少しばかり遠出する事になったのだが…
~自然公園~
陽乃「さぁ、公園に着いたわよ~!」
雪乃「まったく…
せっかくの外出なのだからせめてディスティニーランドに行きたかったわ。
パンさん…」
八幡「ランドなんて今は繁盛期だからめっちゃ混んでいるだろ。
それに金掛かるし…
ここは基本タダだし人もあまり来ないだろうし俺たちでもゆっくりと満喫できるからな。」
確かに予算の事もあるが、
ランドなんかでもしもあの連中とばったり遭遇なんて事になったら考えたくもない。
まったく娯楽の場を選ぶのも一苦労するとは思わなかったが…
だがひとつだけ問題はあった。
八幡「つーか昔小学校の遠足で来たけど相変わらず人が来なくて過疎化してるよな。
これなら家で休日を満喫すればよかったかも。家の中超最高だし…」
雪乃「その意見に賛成ね、一度ニート生活を味わうともう二度と抜け出せなくなるわ。」
陽乃「華の10代が揃って寂しい事を言っているよ…お姉ちゃんは悲しいなぁ…」
せっかくの遠出だというのに俺たちの姿を見て残念がる陽乃さん。
この自然公園、あんまり人気がなくて人が来ないのが問題だ。
それに元々インドア派な俺たちがアウトドアを満喫出来るはずがないわけで…
陽乃「もう!こうなったらお姉ちゃんだけで楽しんじゃうぞ!」
八幡「ちょ…陽乃さん!危ない!?」
((ドンッ!))
雪乃「浮かれていた姉さんが他所の家族連れとぶつかってしまったわ!」
八幡「おいおい大丈夫っすか…って…あ…?」
陽乃さんがぶつかったのはある親子連れだ。
家族構成は夫、妻、それに娘二人の計4人のどこにでもいるありふれた家族だ。
だが俺はこの家族を…
いや、正確に言えばこの夫婦の顔を知っている。
陽乃「お姉さんがぶつかってゴメンねお嬢ちゃんたち、怪我してない?」
姉「大丈夫だよ!」
妹「平気だもん!」
父「そんなに気を使わなくても平気ですよ。」
母「うちの子も不注意でしたしこちらこそすみません。」
雪乃「どうやら相手側も何事もないようね、よかったわ。」
八幡「…」
どうやら父親はこの件を大した事ではないと気にしないようだ。
こちらとしても事にならずに済むのはなにより…
だが俺にとって気がかりなのはそんな事じゃなかった。
雪乃「迷惑かけてすいません、ほら行きましょう。」
陽乃「あ、待って!これも何かの縁ですしよかったら一緒に食事なんて如何ですか~?」
八幡「ちょっと待って陽乃さん!いきなりは相手側も迷惑じゃ!?」
姉「やったー!」
妹「よかったね!」
父「それではお言葉に甘えて…」
母「なんだかすいません。」
八幡「嘘だろ…マジか!?」
正直、俺はこの家族とは早々に離れたかった。
だがどういうわけかこの家族と一緒に食事を取る事に…
陽乃「ほら~♪これをこうして花冠の完成~♪」
姉「うわ~!キレイ~!」
妹「お姉ちゃんありがとう!」
母「この子たちがこんなに笑顔でいるのも久しぶりね。」
父「最近は忙しかったからな。」
雪乃「いいご家庭ね、なんだか昔の私たちの家族を思い出すわ。」
八幡「…」
俺たちはこの家族と一緒に食事を取りながら和やかなひと時に浸っている最中だ。
陽乃さんはこの家族の子供たちと和やかに遊んでいた。
一見、確かに和む光景だ。
だが俺だけは違う…
二人を連れて一刻も早くこの場を去りたい思いに駆られていた。
雪乃「ねぇ比企谷くん。
あなたさっきからその腐った目をさらに尖らせてどうしたの?
まさかあなたあの子たちに気があるのでは…このロリコン!汚らわしいわ!?」
八幡「そんなわけあるか…!
それよりもなんとか話を切り上げてこの家族から離れる事は出来ないか?」
雪乃「あの家族と…?
どう見ても普通の一家だけど…何か問題があるのかしら?」
八幡「あぁ、大問題だ。
もしこの一家に…特に夫婦に俺たちの素性が知られてみろ。
その時、俺らはここで半殺しにされるかもしれないぞ…」
雪乃「ちょっと…何を言っているの…?」
そうだ、俺たちはこの家族に絶対素性を知られるわけにはいかない。
何故俺がこの家族の…
それも夫婦の顔を知っているのか?
それは今俺たちが最も恐れている事態に繋がるからだ。
母「ところであなたたちは…どういったご関係なのかしら…?」
陽乃「それは勿論、私とそこの彼は夫婦でこっちは妹なんです~♪」
八幡「いえ、単なる兄妹ですから!」
雪乃「そちらは最近お忙しかったというのは何かお仕事の関係でしょうか?」
父「いや、実は…お恥ずかしながら私生活の問題でしてね…」
母「こんな事あまり言いたくはないのですけど…家を失いまして…」
雪乃「家を…?」
父「3ヶ月前に雪ノ下建設が起こした設計ミスの事件をご存知ですか?
私たちはあの事件で家を失った被害者なんですよ。」
父親のこの言葉に雪ノ下と陽乃さんは驚きを隠せずにいた。
そう、何故俺がこの夫妻の顔を知っていたか?
それはこの二人が俺の通う総武高校に、
何度も雪ノ下に謝罪をしろと要求してきた被害者たちの一員だからだ…
父「雪ノ下建設の所為で私たちの生活はメチャクチャになったしまった。」
母「せっかく苦労して買ったマンションに住めなくなってしまって…」
父「今はなんとか実家に住まわしてもらっているがそれでも許せない!」
雪乃「そう…この人たちが…」
陽乃「今まで間近で接した事ないもんね…」
八幡「…」
どうやらまだ二人の正体には気づいていないようだ。
俺が事前に行った顔バレ対策がここに来て効果が出て助かった。
しかしそれでも被害者の連中とこんなところで鉢合わせするとは俺たちは相当運がない。
八幡「でも確か雪ノ下社長は身柄を拘束されたと聞きましたよ。」
父「そんな事で納得できるか!」
母「そうですよ!私たちの苦しみなんて他人には理解できるはずがないわ!?」
姉「お母さん…」
妹「恐いよ…」
雪乃「…」
陽乃「…」
夫婦の怒りは見ず知らずの俺たちにすらぶつけられるような勢いだ。
子供たちはそんな両親を見て怯えているし、
雪ノ下やあの陽乃さんですら下を向いて黙りだ。
八幡「それじゃ…アンタたちはどうしたらその怒りの矛先を鎮める事が出来るんですか?」
父「勿論雪ノ下の一家全員に謝罪してもらいたいですよ!」
母「そのくらいやってもらわなきゃ気が済まないわ!」
八幡「ハァ…まあ想像していた通りだな…」
アンタらの怒りは嫌という程伝わってくるよ。
だけどな…
八幡「いつまでも恨み言を愚痴っても仕方ないっすよ。いい加減やめたらどうですか?」
父「何を知った風な事を!」
母「あなたに何がわかるのよ!?」
八幡「そりゃ俺はアンタらにしてみれば他人事です。でも子供さんたち怯えていますよ。」
姉「…」
妹「…」
夫婦は怯える娘たちの顔を見てようやく冷静さを取り戻した。
だが恐らくこの二人はそれでも怒りを収める気はないだろう。
それなら…
八幡「大体アンタらは住める場所があっていいじゃないですか。
俺たちはあの事件のせいでその住む場所すら失いましたからね…」
父「なんだって…?」
八幡「事実です、あの事件で俺らの両親はどっかへ逃げてしまいました。
その後は知り合いの家に転がり込んで今は住処を探すのに死に物狂いで働いてますから。」
母「そんな…」
俺の話は…多少脚色しているが大体は事実だ。
さすがに自分たちよりも重い境遇を聞かされた夫婦は口を閉ざしてしまう。
八幡「まあアンタらが悪いなんて言いませんよ。」
八幡「でもアンタたちは親じゃないですか。
その親がいつまでも子供の前で恨み言を呟いていてもしょうがないと思いますよ。
雪ノ下家全員に謝罪させて勝手に納得する前に子供たちの誇れる親であるべきでしょ。」
八幡「それにこんな事…あまり言いたくはないけど…
連中を恨んで今更どうなるものでもないですからね。
お互いこんな事件はさっさと忘れて、
自分たちが守れる大切なモノのために精一杯生きていきませんか。」
陽乃「それでは私たちはこの辺で失礼させてもらいます。」
雪乃「その…ゴメンなさい…」
「「………」」
両者は沈黙し、俺たちはすぐにその場を離れた。
俺の言葉があの家族にどう伝わったかなんてわからない。
でも雪ノ下たちだってある意味今回の事件の被害者だ。
これ以上、この家族に文句を言われる筋合いはない。
陽乃「何か…気分が削がれちゃったね…」
雪乃「私たち…もう帰った方がいいかも知れないわね…」
八幡「その…帰る前にちょっと連れて行きたい場所があるんだけどいいか…?」
俺は落ち込む二人を連れてある場所へと連れて行く。
そこは以前ぼっちの俺が一人で専有していた秘密の場所だ。
~高台~
陽乃「アハ!スゴいよ雪乃ちゃん!まさに絶景だよ!」
雪乃「本当ね、よくこんな場所を見つけたわね。」
八幡「ぼっち舐めんな。
小学生時代から単独行動しているから秘密の穴場を見つけるのはお手の物なんだよ!」
俺はこの公園から一番の絶景が見れる高台へと二人を連れてきた。
その光景を見て先程までの鬱屈した気分がようやく晴れたようだ。
陽乃「ありがとう、
こういう時は下手な言葉を掛けられるより励ましになるわ。
でもさっきの話だけどちょっと言い過ぎだったんじゃないかな?」
八幡「あの夫婦がどうなろうと知った事じゃないけど、
子供たちまで延々愚痴を聞かされるのは見てられませんでしたからね。
あのくらいが丁度いいと思っただけです。」
雪乃「そうね、親のやった事に子供は無関係だわ。」
そうだ、いつだって親の過ちに巻き込まれるのは子供だ。
それはどこの家族も同じだ。
この二人だって…
そんな時、陽乃さんは俺に対してなんだか申し訳なくこんな事を聞いてきた。
陽乃「八幡…ゴメンね…
せっかくの休日なのにこんな事になって…
あなただって学校でも苦労しているのに…いざとなれば私たちを見捨てたっていいのよ。」
八幡「別に構いませんよ。どうせ俺はぼっちで元々みんなから疎まれてるし…
それに俺一人くらい二人の味方になったところで問題ないでしょ。
ていうか今更見捨てる方が人としてどうかと思いますよ。」
陽乃「そう、ありがとう…」
八幡「むしろ俺は二人の方が、
急に何処かへいなくなるんじゃないかって心配するよ。
頼むから勝手にいなくなったりしないでくれよな。」
雪乃「安心して、今の私たちにはあなたのところしか居場所はないわよ…」
陽乃「そうよ、私たちの両親じゃあるまいしある日突然夜逃げなんかしないから安心して!」
そうだ、今の二人には俺しか味方がいない。
だから俺はこれからも二人の居場所をこれからも守っていきたいと思っている。
雪乃「ところで比企谷くん、そろそろ私の事を雪ノ下と呼ぶのをやめてほしいのだけど。」
八幡「いきなりどうしたんだよ?」
雪乃「だって…嫌なのよ…
今回みたいな事がまたあると一々雪ノ下という名前を嫌でも意識しなければいけないし…
だからこれからは…」
陽乃「つまり雪乃ちゃんは八幡に名前で呼んで欲しいって言ってるんだよ~♪」
あぁ、なるほど。
それもそうかと思い俺は雪ノ下の事を改めて名前で呼んだ。
八幡「それじゃあ…ゆ…雪乃…」
雪乃「それでいいのよひきが…いえ…八幡…」
陽乃「まだちょっとだけぎこちないけどまあいいでしょう。
これからも三人で仲良くやっていきましょうね~♪」
八幡「そう…だな…」
雪乃「よろしくね、八幡…」
俺と雪乃は陽乃さんに優しく抱きしめられながらいつまでもこの景色を眺めていた。
この公園の絶景を背景に二人の女性が俺と一緒に居てくれると言ってくれた。
他の男どもが見たら間違いなく羨むだろうこの関係…
正直俺たちの未来は前途多難だ。
でもだからといってこいつらを見捨てる気なんかない。
俺はこれからも大事な人たちを守っていきたい。
そう心に誓った。
ここまで
そろそろこのssも終盤かな
~八幡の部屋~
雪乃「八幡、そのお醤油を取りなさい。」
八幡「ほらよ。それと千葉名物バターピーナッツも食うか。」
陽乃「八幡、私にもバターピーナッツちょうだ~い♪」
あれから半年が過ぎた。
未だに俺の部屋では雪乃と陽乃さんとの共同生活の真っ最中だ。
今朝も一家団欒で食卓を囲んでいる。
リビングで一人寂しく食事を取る小町には不憫で申し訳ない気もするが…
陽乃「ところで今度パート先の上司から店長にならないかって誘われちゃったのよ。」
八幡「この前主任になってもう店長に出世とかさすが高スペック…!
でもいい話じゃないですか。給料だって上がるしその誘いは受けた方が…?」
陽乃「でもでも!そうなると八幡や雪乃ちゃんと一緒にいられる時間が少なくなるの~!」
雪乃「姉さんは仕事よりもプライベートを優先するものね。
ちなみに私も最近、
看板係をやっている仕事仲間のゲンさんからパチンコ遊びを教わったのだけど…」
八幡「お前は何を教わってんだよ…変な遊びを教わってくるんじゃねえ!?」
雪乃「変な遊びとは失礼ね、パチンコは素晴らしいのよ。
台の上で銀色の玉をジャラジャラ回すだけでお金が手に入る最高のシステムなのだから!」
八幡「こいつ…さらにダメさ加減が増してやがる…」
陽乃「今はお小遣いの範囲で遊んでいるけど…
うちのお金に手を出すようになったら問答無用で追い出しましょう。」
朝飯中に各々の近況を話し合っている俺たち。
ふと俺はこんな事を呟いた。
八幡「それにしてもあれから早半年か。
最初の頃はいつバレるか冷や冷やしたが未だに小町や両親に気づかれないとは…
つーかうちの家族ボンクラ過ぎるだろ。」
陽乃「本当だよ、八幡の部屋に美人姉妹がいるのに全然バレないんだもんねぇ~♪」
雪乃「ところで私たちってそもそも何故こんなコソコソと生活しているのかしら?」
何か雪乃がとんでもない事を言っているんだが…?
そんな時、TVからある気になるニュースが報道された。
なんとその内容は…
『昨日、これまで行方不明だった雪ノ下夫人が姿を現しました。』
『雪ノ下夫人は、
今から半年前にマンションの設計ミスが判明した雪ノ下建設の元社長の妻であり…』
『夫人は未だ拘束中の雪ノ下氏のために改めて裁判で控訴する姿勢だという事です。』
『雪ノ下夫人は今日の午後に千葉ホテルで会見を開く準備をしており…』
陽乃「あら、なんだかとんでもないニュースがやっているわね。」
雪乃「そうね、マンションの設計ミスなんて私たちにはどうでもいい話だけど…」
八幡「いや…どうでもいいって…これお前らの実家の話だろ…?」
「「………」」
雪乃「あ、今まですっかり忘れていたわ!」
陽乃「そういえば私たちって雪ノ下家の娘だったわね!」
八幡「マジか!マジで今まで忘れてたの!?」
時の経過とは本当に恐ろしい。
この二人の半年前の姿を知っている俺だからこそわかる。
あの時の二人は悲壮感が漂って、
放っとけばどこかで自殺するんじゃないかと思うくらい不幸のオーラ全開だった。
それが今ではこうして俺の部屋でのんきに一家団欒の如く朝飯食ってるんだからな…
とりあえずここまで
次回の更新で最後です
~奉仕部~
相模「比企谷、アンタもこれでおしまいだよ。」
ゆっこ「アンタのフェラは最高だよ、でも覚悟は出来てるよね?」
遥「ほら!もっと美味そうにしゃぶりなよ!」
八幡「ゲホッ…ゲホッ…」
相模「アハハ無様じゃん!何が最底辺の人間だよ!
ちょっと脅しただけで簡単にフェラしてるアンタが一番最底辺だっての!!」
私が部室の扉を開けた時、
比企谷くんは奉仕部の部室で相模グループに取り囲まれてレイプされていた。
彼の首元にカッターナイフを近づかせて脅す相模さんたち。
普通の男子なら女子三人程度に取り囲まれようとなんとかなるけど、
生憎彼は足が不自由で失明してさらに妊娠までしている。
そんな彼が自力でこの場を切り抜けるのは不可能だった。
やばい間違えたこれ無しで
陽乃「母さんが表舞台に戻ったという事は何か勝算があっての事でしょうね。」
八幡「…という事は…雪ノ下建設を裏切った連中を訴えるためっすか?」
雪乃「けどいくら母さんでも大企業を相手に裁判なんて勝ち目があるのかしら…?」
陽乃「そうね、難しいかもしれないわ…」
現在拘束されている雪ノ下の父ちゃんと、
一緒に夜逃げした二人の母ちゃんである雪ノ下夫人。
陽乃さんの話では一足早く海外に逃げていたとの事だが…
だがそれよりも俺は気になる事があった。
八幡「それで…え~と…どうします…?」
陽乃「うん…正直私はもうこの件に関わりたくはないんだよね。放っておこうよ…」
雪乃「同感ね、母さんが今頃何をしようと私たちには関係ないわ。」
八幡「…」
既に母親に見切りをつけている雪乃と陽乃さん。
当然だ、一度は自分たちを捨てた母親だ。
今更会ったところで何か変わるわけでもないのだろうが…
八幡「二人はここにいてくれ。俺がお前らの母ちゃんに会ってくる。」
陽乃「そんな…どうして!?」
雪乃「危険よ、大体あなただけ行ってまともに会わせてもらえるとは思えないわ!」
八幡「まあそうかもな…
けど俺はあの人にあってどうしても伝えなきゃいけない事があるんだ。」
雪乃たちの言う通り、本来なら会いに行く必要なんてないのだろう。
けれどこれだけはどうしてもケジメをつけておかなきゃならない。
以前から俺の中でそう思っていたからだ。
陽乃「ハァ、しょうがないな。八幡が行くなら私も一緒に行くよ。」
八幡「そんな…俺一人でいいですよ。陽乃さんが行ったら危ないだろ!」
陽乃「何言ってんの?
あの母さんがアポ無しで二度しか面識のない八幡と会うわけないじゃん。
それに私も母さんに伝えておきたい事もあるし雪ノ下の女としてのケジメをつけたいの。」
そう言うと陽乃さんは自分の荷物からある封筒を持ち出して準備を整えていた。
どうやら陽乃さんも本気らしい。
そうなるとこの部屋には雪乃一人残るわけなんだが…
雪乃「私は…」
八幡「お前まで行ったら危ない。ここで大人しく待っていてくれ。」
陽乃「確かにそうね。
雪乃ちゃんは待っていなさい。お姉ちゃんたちがお母さんと話してくるから。」
雪乃「いいえ、私も行くわ。私もこの件に決着をつけたいの。」
陽乃「あら、今までこの事件に怯えていた雪乃ちゃんが…」
雪乃「みくびらないで!私だって成長しているのよ!」
八幡「了解、それじゃ行きますか。」
こうして俺たち三人は覚悟を決めて雪ノ下夫人が会見を行うというホテルへと向かった。
~千葉ホテル~
八幡「着いたぞ、記者会見を開く千葉ホテルだ。」
雪乃「さすがにマスコミが大勢いるわね。正面から入るのは危険よ。」
陽乃「家の付き合いでよくこのホテルを利用していたから安心して!
裏口から入っていつも雪ノ下家が予約している〇号室の部屋に母さんはいるはずよ。
そこへ行きましょう。」
俺たちは陽乃さんの指示に従い千葉ホテルの裏口からこっそりと建物内へと入る。
そして雪ノ下の母ちゃんがいるだろう部屋へと向かった。
~〇号室~
雪ノ下母「陽乃…それに雪乃…あなたたち無事だったのね。」
雪乃「お母さん…」
陽乃「久しぶりね…」
八幡「…」
部屋へと向かった俺たちはそこで雪ノ下夫人と対面する。
だがその部屋には俺たちの他にもう一人ある客人が招かれていた。
葉山「雪乃ちゃん…陽乃さん…よかった無事だったのか。それに比企谷…何でキミまで…?」
八幡「そりゃこっちのセリフだ。
葉山、お前ら一家は雪ノ下家を裏切ったはずだろ?
それが今更何をしに来たんだよ!?」
葉山「あぁ、俺がここに来たのは…
今回の裁判で勝算があるなら父にもう一度顧問弁護士を引き受けるよう頼み込もうとね!
この状況だ、大企業を相手に他の弁護士は引き受けようとしないだろう。
その事についておばさんと一緒に相談しようとここへ来たんだよ。」
八幡「…」
どうやら葉山は今回の裁判で、
もう一度親父さんに雪ノ下家の弁護士になってもらおうと頼み込むつもりらしい。
さて、そんな事より娘と再会した母親はどんな反応してんだ?
雪ノ下母「二人とも、よく無事でしたね。」
陽乃「はい、今日までここにいる八幡が私たちの事を守ってくれましたから。」
雪乃「だから私たちはどうにかやってこれたのよ。」
葉山「そんな…比企谷!何で俺に教えてくれなかったんだ!?」
八幡「うるせえ、あんな状況で誰にも言えるかよ!
由比ヶ浜や小町にすら未だに秘密なんだぞ!
ところで雪ノ下さん、俺はあなたに言わなければならない事があります。」
どうやら涙のご対面というわけではないが、
一見冷徹なこの母ちゃんもそれなりに娘たちの事を心配していたようだ。
とりあえずこれまでの状況を俺は雪ノ下の母ちゃんに全部説明した。
雪乃と陽乃さんを今日まで保護した事。
それに…
八幡「すいませんでしたっ!!」
雪ノ下母「どうして…あなたが頭を下げるの…?」
八幡「あなたの旦那さんが拘束されたのは俺が原因だからです。
今から半年前、俺は被害者団体の怒りを鎮めるために旦那さんの居所をリークしました。
だから…本当にごめんなさい…」
葉山「なんという事を…比企谷!お前は自分が何をやったのかわかっているのか!?」
陽乃「やめなさい隼人!あの時は仕方なかったのよ!
そのおかげで被害者の人たちの怒りを少しは鎮められたし私たちはどうにか生活できたの。
だからこの件に関して八幡に非はないわ。」
雪乃「そうよ、彼がいなければ私たちは今頃どうなっていたか…」
今回、雪ノ下の母ちゃんが表舞台に出戻った理由は、
雪ノ下の父ちゃんを自由にさせる事にあるんだろう。
だがその原因は俺にある。
だからこれだけはちゃんと謝らなければいけなかった。
けれど俺の話はこれだけじゃない。
八幡「勝手ですがお願いがあります。
どうか俺にあなたの娘さんたちをこれからも守らせてもらえますか?」
葉山「お前…何を言っているんだ!二人を親元に帰しに来たんじゃないのか!?」
雪ノ下母「比企谷さん…でしたね…お話を続けてもらえますか?」
葉山の反論を遮り雪ノ下の母ちゃんは俺に説明を求めてきた。
だから俺は自分の意思を全て伝えてみせた。
八幡「見ての通り、俺は庶民です…」
八幡「あなたにしてみれば目にもつかない男でしょう。」
八幡「前にも言ったかもしれないが俺に雪ノ下家なんて大層なモノは守れない。」
八幡「けど…大切な人たちなら…守れます!」
八幡「あなたにしてみれば厚かましい頼みだというのは重々承知です。」
八幡「けどお願いです!どうかこれからも俺に雪乃と陽乃さんを守らせてください!!」
俺は雪ノ下の母ちゃんの前で土下座をしてみせる。
雪ノ下の母ちゃんはそんな俺を見た後で今度は雪乃と陽乃さんに視線を向けた。
雪ノ下母「それで雪乃、陽乃、あなたたちは戻ってくるのですか。」
陽乃「その事だけど…まずはこの書類に目を通してほしいの。」
雪ノ下母「この書類は…何かしら…?」
陽乃「これは半年前の事件で私が逃げ回っている時に得た今回の事件の関連書類よ。」
葉山「なんだって!?」
さすがは陽乃さんと言うべきか。
半年前の事件で逃げ回っている際にその証拠書類を入手するとは…
やはりこの人は転んでもタダでは起きないか。
雪ノ下母「よくやったわ陽乃。
これでこの裁判にも勝算が出てきました。
さすがは我が家の跡取りというべきでしょうか。」
陽乃「いいえお母さん。私はもう雪ノ下家には戻りません。」
葉山「なっ…!?」
この陽乃さんの言葉に雪ノ下の母ちゃんと葉山は心底驚いた。
そりゃそうだ。
陽乃さんはこれまで雪ノ下家の跡取りとして育てられたんだ。
それがいきなり…なんだからなぁ…
だが俺はこうなるのではないかとなんとなく確信していた。
陽乃「私は今回の事件であなたたち親を信じる事が出来なくなった。」
陽乃「お父さんもお母さんも私と雪乃ちゃんを置いて真っ先に逃げた。」
陽乃「私たちを助けてくれたのは八幡だけ…」
陽乃「お母さん、陽乃は雪ノ下の家を捨てて八幡の下へ行きます。」
陽乃「その書類は私からの絶縁状だと思ってください。」
陽乃「これが雪ノ下の家に生まれた女としての最後のケジメです。」
陽乃「お母さん、今まで育ててくれてありがとう。そして…ごめんなさい…」
陽乃さんは母親の前でそう宣言すると、
頭を下げ続けている俺の隣で一緒に頭を下げてくれた。
陽乃さんが危険を冒してここへきた目的は雪ノ下家と絶縁するためだった。
俺と陽乃さんはこの場所へ来た目的を果たしている。
最後は…
雪ノ下母「雪乃はどうするのです。あなたも陽乃と同じなのですか?」
雪乃「私は…」
葉山「雪乃ちゃん!キミは戻ってくるよね!」
八幡「…」
雪ノ下の母ちゃんと葉山に迫られる雪乃。
俺は何も言えない。
これは雪乃自身に迫られている選択だ。
俺や陽乃さんが安易に口を挟む事は許されない。
雪乃自身に選ばせなきゃダメなんだ。
雪乃「お母さん、私も姉さんと同じ意見よ。あなたたちの事を信じる事は出来ない。」
雪ノ下母「そうですか…」
葉山「それなら僕のところへ来たらいい!
比企谷が匿っているところよりも快適な場所を提供する事くらいは出来るよ!」
雪乃「…」
自分のところへ雪乃を勧めようとする葉山。
ヤツは幼い頃から雪乃に対して好意を抱いていた。
だから自分の家に招こうとしているのだろう。
だが雪乃の出した答えは…
雪乃「葉山くん、それは冗談で言っているの?」
葉山「え…?」
雪乃「あなたは知らないでしょうけど私はこの半年の間にあなたと何度か遭遇しているの。」
雪乃「あなたは今もサッカー部で大層な活躍をしているそうね。」
雪乃「それでみんなに私の事は忘れろと言っていた、私自身この耳でハッキリ聞いたわ。」
雪乃「悪いけどそんな人に付いていく気はこれっぽっちもないわ。」
雪乃「私の事をご褒美に釣られて尻尾を振って喜ぶ犬と勘違いしているの?」
葉山「それは…」
そうだ、雪乃はこの半年間で何度か葉山と遭遇していたらしい。
葉山はこの事実を雪乃が知らないものだと思っていたので、
まさに寝耳に水の如くヤツの顔は真っ青だった。
雪ノ下母「だからといって、
あなたが一人で生きていけるほどこの世の中は甘くありませんよ。」
雪乃「それはこの半年間で私自身よく身に染みたわ。
ねえお母さん、今私がやっている仕事がなんだかわかる?」
雪乃「看板係よ。正直今まで叩き込まれた英才教育なんて何の役にも立たなかったわ。」
雪乃「それに私自身あの事件で他人への恐怖心が強くて、
あれ以来親しい人以外とろくにコミュニケーションなんて満足に取れやしない…」
雪乃「だからこれから先まともな仕事なんて就けやしないでしょうね…」
葉山「だったら尚更僕たちのところへ戻ってくるべきだ!キミは俺が守ってみせるよ!」
諦めきれない葉山は再度雪乃に迫った。
恐らくこれはヤツが何度も見捨てた雪乃へ対する贖罪だとでも思っているのだろう。
だが雪乃は…
雪乃「ねぇ、葉山くん。
あなたは大切な人のために自分が傷つく事が出来る?
この世界の人々を全て敵に回しても大切な人を守る覚悟はある?」
葉山「そ…それは…」
雪乃「やっぱりあなたにそんな覚悟はないわよね。」
雪乃「でも私は一人だけ知っている。
彼はあなたが華々しく活躍している時に私たちのために惨めな思いをして頑張っていた。」
雪乃「そして今も彼は学校の殆どの人たちから疎まれても私たちのために頑張っている…」
雪乃「もう学校に在籍していない私の名誉を守ってくれている。」
雪乃「そんな八幡を裏切ってまであなたなんかに守ってもらいたくはないわ!」
葉山にそんな言葉を吐き捨てた後、
雪乃もまた俺たちと一緒に母親に頭を下げてこう伝えてみせた。
雪乃「お母さん、私も八幡と一緒にいたい。」
雪乃「だから私も雪ノ下の家を捨てます…」
雪乃「ごめんなさい…」
気づけば俺たち三人は雪ノ下の母ちゃんに揃って頭を下げていた。
そんな俺たちを見つめながら雪ノ下の母ちゃんはその重い口を開いた。
雪ノ下母「三人とも、顔を上げなさい。」
雪ノ下母「そもそもあなたたちは謝る事はないのです。」
雪ノ下母「謝るのは私の方です。」
雪ノ下母「こんな事になってごめんなさい。」
俺たちが恐る恐る頭を上げると…
なんと今度は雪ノ下の母ちゃんが俺たちに対して頭を下げていた。
この予想外の行動に俺たちは驚きを隠せずにいる。
雪ノ下母「あの日…私と夫は事の重大さが発覚して逃げ出してしまった…」
雪ノ下母「葉山先生が真っ先に裏切ったせいでろくに対応も出来ませんでしたからね。」
葉山「…」
雪ノ下母「比企谷さんでしたね。
あなたが情報をリークしたから夫は身柄を拘束されてしまいましたが…
娘たちを置いて逃げた私たちならば当然の報いです。
あなたが気になさる必要はありませんよ。」
この雪ノ下の母ちゃんの言葉は俺を許すという意味だ。
それに対して葉山にはまるで親の敵かのようにヤツを睨んでいるが…
陽乃「お母さん、裁判で争う気かもしれないけど…正直厳しいわよ。
未だに世間に対する雪ノ下家の風当たりは厳しいし…
それにマンションの設計ミスだって実行したのは雪ノ下建設だから、
この裁判はよくて親会社と折半になるのが妥当なところだよ。」
雪ノ下母「えぇ、そうかもしれないわね。
今更私が立ち向かったところで雪ノ下家が元通りになる保証なんてどこにもないわ。」
雪乃「それならどうして…
お母さん一人だけならあのまま海外に逃げて一人でもやっていけたはずよ!?」
そうだ、雪乃の言う通りだ。
俺は今回の件で少し疑問を抱いていた。
何でこの人は不利な立場になるのも構わず表舞台に再び現れた?
この聡明な雪乃と陽乃さんの母親がこんなリスクを背負うのはわかっているはずなのに…
それが何で…?
雪ノ下母「惚れた男だからよ…」
雪乃「惚れた男…?」
陽乃「まさか母さん本気で言っているの…?」
雪ノ下母「本気よ、あなたたちだってそこにいる比企谷くんに惚れたのでしょう。
自慢じゃないけど私たちだって普通に恋愛して結婚したのよ。
あの人だって昔は素敵だった…
それが世俗にまみれていつしか守るべき子供たちすら蔑ろにする男になってしまった…」
八幡「そんな人でも…あなたは守るんですね…」
雪ノ下母「えぇ、あれでも私が好きになった人よ。私以外誰があの人を守るというの?」
雪ノ下の母ちゃんは恥ずかしげもなく自分の夫を守るためだと言った。
俺はその言葉に少しだけど納得した。
この人も大切な人の居場所を守るために戦っているんだなと…
葉山「とにかく証拠があるならこれで裁判でも戦えますよ!さっそく父に連絡します!」
雪ノ下母「いいえ、それは結構です。
隼人くん、帰ってお父さまに伝えなさい。
私は今回の件であなた方葉山家とは完全に縁を切りたいと思っています。
もう私たちとは関わらないで、出来れば娘たちとも永遠にね…」
葉山「そ…そんな…」
恐らく雪乃たちを守るためと意気揚々としてやってきたであろう葉山。
だがお前の父ちゃんこの件に関して真っ先に裏切ってるからね。
そりゃ雪ノ下の母ちゃんでなくても怒ると思うぞ…
雪ノ下母「それでは私は会見の場に行きます。あなたたちは騒がれる前にここを出なさい。」
陽乃「そんな…母さん一人で本当に大丈夫なの?」
雪ノ下母「私たち雪ノ下家がやってしまった罪滅ぼしみたいなものです。
被害者のご家族への謝罪、
それに陽乃、雪乃、あなたたち娘を置いて逃げてしまった事を含めてね…」
雪乃「お母さん…」
そして俺たちは誰にも気づかれないように部屋を出ようとする。
だが部屋を出て行く前に雪ノ下の母ちゃんは俺にだけある言葉を伝えてくれた。
雪ノ下母「比企谷さん、どうか娘たちの事をお願いします。」
八幡「俺の事…信じてくれるんですか…?あなたの夫を売った俺の事を…?」
雪ノ下母「雪乃と陽乃が信じた人なのでしょう。
私もあなたの事を信じます…だからこれからもあの子たちの事を…
勝手な頼みのように聞こえるけど、どうかお願いします。」
八幡「わかっています…
あの二人を助けた時から俺はずっと守っていこうと誓いましたから。」
俺は部屋の扉を閉じた。
だがホテルの裏口からこっそり抜け出そうとする俺たちの前に葉山が立ち塞がった。
葉山「比企谷…教えてくれ…俺は…どうしたらよかったんだ…」
八幡「別にお前が悪いわけじゃない。
お前は以前俺に、『誰だって今の居場所が大切なんだ』と言ってくれただろう。
俺はお前の言ったこの言葉は今でも正しいと思っている。」
葉山「なら…!」
雪乃「でもあなたが忘れろと言った私たちにだって大切な居場所があるの。
それを八幡が守ってくれた。」
陽乃「隼人、あなたはこれからも自分の大切な居場所を守っていけばいいのよ。
けど覚えておきなさい。そこに私たちの居場所はないって事をね…」
葉山「あ…」
葉山は今の俺たちの言葉を悟ったかのように膝から崩れ落ちた。
確かにこいつが悪いわけじゃない。
だが一度は見捨てた相手と、
もう一度寄りを戻そうというのはいくらなんでも虫の良すぎる話だろ。
八幡「ところで葉山、わかっていると思うが雪乃たちの事は…」
葉山「あぁ…この件は秘密にしておくよ…俺にだってその程度の罪滅ぼしは出来る…」
八幡「そうか…すまん…」
俺たちは一言、葉山との別れの挨拶を済ませるとそのまま外へと出た。
既にホテル内では会見の場が開かれており、
俺たちが裏口からホテルを出た事など誰一人として気にも止めなかった。
八幡「さて、これで決着がついたな。」
雪乃「まだ裁判は大変だけどあの母さんなら大丈夫そうね。」
八幡「けど意外だよな。
あの怖そうな母ちゃんが親父さんを助ける理由が惚れた相手だからっていうのは…」
陽乃「あら、私は意外とは思わないよ。
やっぱり私たちなんだかんだで親子なんだなって思ったし~♪」
雪乃「結局どれだけ否定しても私たちはあの母さんの娘なのよね…」
俺は二人のその言葉に少し頷きながらもこれからの事について考えていた。
改めて雪ノ下の母ちゃんから雪乃と陽乃さんの事を任されたんだ。
それならまずやるべき事は…
八幡「とりあえず小町やうちの両親、
それに由比ヶ浜にもそろそろ二人の事を話さなきゃいけないかな。」
雪乃「なんだか今更ね。」
陽乃「私はずっとこのままでもいいんだけどな~?」
八幡「さすがにそういうわけにもいかないでしょ。
それに…大事な人を家族に紹介するのは…まあ当然の事だから…」
雪乃「大事な人…」
陽乃「改めて言われるとちょっと照れちゃうね…」
八幡「それじゃ帰るか。」
陽乃「私たちの家に…」
雪乃「帰るべき大切な場所へ…!」
こうして俺たちはホテルを後にして家へと帰った。
後日、雪ノ下家とその親会社、それに被害者団体による、
和解が成立したという報道が流れたがそれは最早俺たちには何の関係もない話である。
[完]
終わりです
裁判についてもっと細かくやれとか思われるかもしれませんが
以前にも語られていた通り八幡に雪ノ下家を守る事なんて出来ません
大切な人たちを守ることしかできないのです
だからこんな終わり方になりましたすいません
あと葉山が情けない事になっているけど
これも話の都合上誰かに泥を被ってもらわないとなと思ったんで…
※最後にこれはssなので実際のあの事件とは無関係です。
このSSまとめへのコメント
漢やね!(o´∀`)b
続きハヨ(*´ω`*)
続き期待‼︎
デブのんワロタwwwww
ゆきのんはどんどんクズにして最終的にはるのんと八幡でイチャラブしてゆきのん捨てる方向で
新しい面白さです!!
頑張ってください!
面白い
面白いけど、偽八幡の言動はキチガイだろ。本人の意思に関係なくプロポーズするとか……
面白いんだが、なぜ名前さえまともに知られていなかった奉仕部がここまで叩かれているのかがよく分からん
↑ヒント
被害者団体、学校1の嫌われ者、有料化、相模
これで奉仕部なんて知らない叩かない言う奴はいないだろ
有料の奉仕部にわざわざ仕事持ってくるかね
雪乃がみんなに叩かれる←まあ分かる、八幡が生徒に叩かれる←まだ分かる、八幡が教師に叩かれる←??
元スレでキチガイが大発狂してて大草原
とても面白いです。続楽しみに待ってます
こういうの書けるんだから、はちまんこなんて書かなければいいのに
最近ははちまんこって見ただけで糞ssかって見るの止めてるし
えっ、はちま◯この人だったの?w
終盤さらっとハチマ○コを誤爆してるしなwww
後日談&結婚式が観たい
後日談超楽しみ
設定は面白いのに、あまりにもぶっ壊れたキャラクター達で少し戸惑ってしまったわ
面白いかどうかは人それぞれだろうけど、僕は好きじゃないかな。
プロットがまるみえ。
あーしたいこーしたいってのが前に出すぎて人間味が無さすぎる。
偽八幡もガバガバすぎるし、雪ノ下の奉仕部を汚したやつに 雪ノ下を忘れろっていう隼人も理解不能。 むしろ忘れたから料金とれるんだろ。
おもしろかったぞ。ところで妊娠した八幡ってのが気になって仕方ないんだが