工藤忍「走り出した足が止まらない!」 (18)

デレマスは工藤忍さんのSSになります。

注:時間軸が結構しっちゃかめっちゃか。こういう設定だということでお願いします。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1446465734


「あれ、忍が宣伝に行ったまま帰ってこないっす。迷ってるのかなぁ……プロデューサー、知ってるっすか?」

「さぁ。彼女のプロデューサーにでも会いに行ったのかね。沙紀はなんだ、忍ちゃん待ち?」

「そうなんすよ。忍が帰ってこないとアタシが遊びに行けないっす」

「あぁそういう……」




 アタシは、はっきり言って努力が好き。

 東京に来る前からファッションの流行もずっとチェックしてたし、方言も頑張って抜いた。
 全部全部、アイドルになるため。

 ファッションなんか、結構自信持ってたんだけどね……「東京でも通用する!」なんて言ってさ。

 当時はなんとまぁ畏れ多いことを言ってたのかって、今となっては恥ずかしくて仕方ないなぁ。
 穴があったら埋まっちゃいたい。


 気をとり直して、じゃあ今はどうだって話。

 季節物の洋服が出た途端、トレンドはロケットスタートを決めたように移り変わっていく。
 それに追いつけ追い越せの集団を抜け出そうとしているのは、アイドルとしてのプライドのせいかな。

 今はもうそれだけじゃあないよね。

 ブザマな姿を見せたくなくて、ショーウィンドウに映る自分をなんども確かめるのだって、地元よりも足の早い東京のトレンドを、ここまで意地になって追っているのだって。
 今は全部全部、あの人にもっと見られたいからだから。

 全部、あの人。アタシのプロデューサーさん。

 飄々として、なんだかくったりしていて、三白眼が特徴的な、アタシのプロデューサーさん。




 アイドルっていうのはお伽話なんだ。

 アイドルになって、たくさん努力していれば、いつかステージ上でキラキラ輝く女の子になれる。っていうお伽話。

 アタシがそれに気付くのは早かった。

 いざ自分がその世界に入ってみたら、キラキラ輝いていく子はほんの一握り。
 女の子を誘い込む罠って言ったら言葉が悪いかもしれないけど、実際、諦めてしまう人たちもいて。
 それこそ、両親が反対してた理由の通りで。

 そりゃあ不安にもなった。お伽話のかぼちゃになんてなりたくない。

 アタシはなにがなんでもアイドルになりたい。
 アイドルになって、みんなに認められたい。
 プロデューサーさんとだったら上手くいくって信じていたし、今だって信じてるけど。


 それでも、不安は拭えなかったから、そういう時にはちゃんと口に出して確かめようと思ったんだ。

 だから、思ったことそのまま彼に打ち明けた。

「そりゃあ諦めちゃう子はどうしても出てくる。でも忍はどの子よりも努力してるだろ? それにどの子よりもアイドルになるっていう覚悟をしてる」

「それはもちろんだよ! でも……」

「大丈夫だって。そのために俺がいるんだよ。忍のお伽話を本当にするために」

 あの人は、ちょっとくさいこと言っちゃったなーなんて、ヘラヘラ笑っていた。
 いつも飄々として、少し猫背気味のあの人が、あのときばかりは胸をむんっと反らせて、俺を信じてくれって、ヘラヘラしながら言ったんだ。

 そして、プロデューサーさんは確かに、アタシのお伽話を本当にしてくれた。

 そんなわけでアタシはプロデューサーさんをすごく尊敬してるし、いつだって感謝してる。

 あと、できるなら、ずっと、お伽話を本当にし続けてほしいと思ってる。

 いつかはあの人の隣で「忍をプロデュースしてよかった!」って言ってもらうんだ。
 そしたらアタシが「貴方にプロデュースされて、アイドルになれて、よかった!」って言うんだ。

 近頃なんかおかしいんだ。プロデューサーさんが近くにいるときは、なんだか目で追っちゃうし、レッスンのときなんかは追ってるたび目が合っちゃうし。
 すぐにトレーナーさんに怒られちゃうけど。

 ぶっちゃけ、好きなんだと思う。

 あの人は「忍の努力が実ったんだ」って言うに決まってるけど、そうじゃない。

 アイドルデビューっていうお伽話のなかで、努力しなかった人はいないから。

 だから、アイドルになれたのは彼のおかげ。

 でも、確かに好きだけど、この感情はきっと恋じゃない。

 ずっとあの人の隣にいたいと思い始めちゃったのだって、なんかよくわからない感情であって、恋じゃない。

 アタシはアイドルだからね。最近は抑えるのもしんどくなってきたけれど、これは恋じゃないんだ。

 そういうことにしておいてある。




 宣伝に行くって口実で一人になった。

 周りを見渡しても、プロデューサーさんと思われる姿は見えず。
 せっかくだから一緒に宣伝しに行こうと思ったのにな。

 目的変更しよう。プロデューサーさんと一緒に宣伝するんじゃなくて、宣伝しながらプロデューサーさんを探そう。そうしよう。

 学園祭ということで、当然周りには同じくらいの歳の子ばっかりなわけで。
 その中から、くったりした背中の男の人を見つけるのは、それほど苦労しないはず。

 アタシは少し早足で歩き出した。


 あの人を探している理由としては、このあと始まるライブのことを話したいから。

 心の奥底にある理由としては、学園祭をプロデューサーさんと少しでも見て回りたいから。

 歩く速さは少しずつ上がっていく。

 あの人のことだから、きっと今日お世話になるスタッフの人たちや、先生たちにまた挨拶をしてるんだろう。

 廊下ですれ違う人たちに、ライブの宣伝は忘れない。アタシは今日ライブに来たんだから。

 出店のチェックも欠かさない。アタシは今日学園祭に来たんだから。

 校舎の中にはどうやらプロデューサーさんはいないみたいだ。
 じゃあ外にいるのかも。

 きっといつもみたいに、スーツに吹きかけた消臭剤の意味を無くしながら、タバコの煙に巻かれているに違いない。

 会社が全面禁煙になったのに、隠れてタバコを吸ってるのなんてとっくにバレバレなんだよ?


 出入り口で蹴っ飛ばすように来客用スリッパを脱いで、急いで履いたローファーでアスファルトを蹴りだす。

 外には涼しい風が吹いている。

 プロデューサーさんはどこかな。

 学園祭の人混みを縫うように、時々首から下げた宣伝の看板を掲げながら、それでも、走り出した足が止まらない。


 手を振ってくれる男の子。
 頑張って、見に行くから、と声をかけてくれる女の子。
 出店の焼きそばを分け合うカップルにも宣伝をしながら、アタシは走る。

 ぐるっと校舎を回ろう。きっと見つけにくい場所に喫煙所があるから。

 いつの間にか吹いた追い風がアタシの背中を強く押して、両足を急かしている。


 プロデューサーさんに会ってなにをしようかな。

 そうだな、ダンスレッスンを見てもらうんだ。みんなすごいから。
 特に伊吹ちゃんなんて、見ててもうビックリしちゃったから。
 少しでも追いつきたい。
 だからもっともっと、プロデューサーさんに練習見てほしいな。

 それから、プロデューサーさんのおかげでここでライブが出来るから、ありがとうって言うんだ。
 あと、アイドルになれて満足しちゃいそうだったから、これからもっと努力するから、よろしくお願いしますって言うんだ。

 それからそれから……そうだ! 焼きそば、焼きそばを食べる!
 カップルが食べてた、あの焼きそばを二人分買おう。
 タバコくさいであろうプロデューサーさんをソースの香りでいっぱいにしちゃおう!


 騒ぎ出した胸が止まらない。

 人気の無いところから、ふわふわと煙が出ているのが見えて、一層地面を蹴るスピードが上がる。

 くったりした背中が見えた。あの人は一人で、高い空を見上げて煙を吐いている。


 あの人の隣はもうすぐだ。

 たくさんお話して、これからも目一杯楽しんで、帰りも「今日は楽しかったね!」ってお話するんだ!

 走り出した感情は止まらない。行け! 行け! アタシの両足!

以上になります。今回の元ネタはチャットモンチーで「風吹けば恋」でした。→ https://youtu.be/KYOvPZH8tpo

吉岡くんの「忍が宣伝に行ったまま帰ってこないっす。迷ってるのかなぁ……?」ってセリフが忍とプロデューサーが逢引してるようにしか思えないって友人に言われたので書きました

過去作→芳乃「ディスコの神様でしてー」( 芳乃「ディスコの神様でしてー」 - SSまとめ速報
(http://ex14.vip2ch.com/test/read.cgi/news4ssnip/1445332251/) )

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