アイシャ・ジャクソンの半生記 (72)

あらすじ

戦災孤児のアイシャ・ジャクソンが渡米して成長する物語。
大人になってから幼馴染と再会し、その子供と仕事仲間にも出会う。
彼らにニューヨーク案内をするが、
婚約者はそれをよく思っておらず、陰湿な妨害をする。
その後、婚約者との確執を乗り越えて結婚し、一人の子供を設ける。
あるとき、ドバイの大学で幼馴染の娘と何年かぶりに再会する。
彼女は進路に悩んでいたが、アイシャは自分の信じた道を進めとアドバイスする。
彼女へのアドバイスは自分自身を見直すきっけになった。
アイシャは教育者の道へ進む。



概要

・11年ほど前、作者が高校生の時に書いた作品です
・初めて書いたSSで、かつ物語系の書き物の処女作でもあります
・本家2ちゃんねるの今や過疎化した板に投稿しました
・今の自分からみると、色々と稚拙な部分は多いです
・それでも、高校生当時に書いた文であることを重視し、修正はほぼなしです
・明らかな誤字脱字を発見出来た箇所は修正してあります

当時の文章表現を大切にしたいので、
あえて稚拙な部分も残してはありますが。
付き合っていただければ幸いです。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1446219254

わたしは両親の名前をしらない 両親の顔も知らない

アリ「アイシャの作る飯は美味いなァ」
彼の名はアリ、この廃墟の村では一番若い
歳も近いせいか、彼とはよく話すし、彼もわたしに優しくしてくれる。

アフマド「おい! アイシャ! 時間だ!」
彼の名はアフマド、この廃墟の村では一番偉い、
ムジャビディン(戦士)たちのリーダー格の男だ。

アフマド「なんだ、その不満そうな顔は?」

ピシャッ!

わたしは頬をはたかれた
アリ「アフマドさん!!」
アフマド「なんだ? 勘違いはよくネェな、これも愛の鞭だ…」
アリ「でも…」
アフマド「でも じゃねえだろ?シオニストの軍隊に村を焼き払われ
行き場を失ったおめーらを拾ったのは誰だ?ん?」
アイシャ「アフマドさん…」
アフマド「分かってるじゃねえか、いい娘だな。
…そういうことだアリよ、勘違いすんじゃねーぞ?ん?コラ?」

アリは悔しそうにしている…
わたしはアフマドに手を引かれ連れて行かれる。
アフマドに連れて行かれる所はいつも同じ、
兵士たちの宿舎…

そう、わたしはココで兵士たちの「女」になるのだ。

兵士A「へへ、今日も頼むぜ」

いくつものいやらしい目で見られる、こんなのにはもう慣れっこだ…

兵士たちは粗末な食事を楽しみながら、談笑している…
わたしは兵士たちにしてみれば「食事と談笑」の次に楽しむ楽しみなのだ。
「これから何人もに犯される」こんな恐怖心には、
いつになっても慣れることなど出来ない…

兵士A「なぁ、聞いたか?隣の拠点、アメリカ人にやられたそうだぞ」
兵士B「少し離れたトコにはシオニスト、ここらにはアメリカか……畜生が」

わたしはシオニストが怖い、軍隊も戦争も兵隊も怖い、
しかし、この束縛から解放してくれるのなら、この生活を変えてくれるなら、
もう誰でもいいと思っていた……。

ドガーン!

ウーーーーーーーウウウーーー…  ウウーーー…ウウウウーーーー…

爆発音とサイレンの音が鳴り響く

タタタ! ┣¨┣¨┣¨┣¨ドド! タタタタタタタタ!

外の兵士「アメリカ人だ! アメリカ人が来たぞォォォォ!」

どうやらこの廃墟の村は襲撃されたようだ

アフマド「アイシャ! とりあえずおまえは退避しろ!」
兵士A「クソ! これからお楽しみだってのによ!」

わたしは村の西の方、何かあったら逃げる場所へと急いだ

アリ「アイシャ!」
アイシャ「アリ!」

兵士の宿舎のすぐ外にアリがいた…

アリ「その…心配で…迎えにきたんだ」
アイシャ「アリ…」

タタタ!ダダダ!ドン!

銃声が段々近付いてくる

アリ「早く逃げよう! ここも危ない!」
わたしはアリと西を目指した!

しかし…

「リョウテヲアゲテ! トウコウシローーー!」

西はすでにアメリカ人に制圧されていた、
わたしたちは逃げることが出来ず、アメリカ人に捕まった…

アリとわたしは雑用係という仕事が幸いしたのか、
その時銃を持っていなかった、そのため運良く撃たれないですんだ。

わたしとアリ、何人かの大人たちはアメリカのトラックに乗せられ、
どこかへと連れて行かれるのであった。

女「あら? やっと起きたようね」

わたしはいつの間にか眠っていたらしい…
気がつくと辺りは明るくなっていて、わたしはテントの中のようなところにいた…

女「ハロー、あたしはジェシカ、あなたの名前は?」

この女の人よく見るとアメリカ人だ!
わたしの心は、自分の置かれた状況と目の前の人間を認識し、急に恐怖でいっぱいになった。

ジェシカ「オー!そんなに怖がらないで! アタシ何もしませーン!」
アイシャ「・・・・・・・・」
ジェシカ「あなたは戦災孤児としてユニセフの協力で保護されマース!」

片言だが、わたしたちの言葉を喋るアメリカ人…わたしは彼女に、
「ユニセフって何よ?」と聞いた。

彼女がいうには、わたしのような「戦災孤児」が沢山いて、
ユニセフっていうのは、わたし達のような子供を助ける団体らしい。

アイシャ「あの、アリ… 一緒にいた男の子はどこにいますか?」

わたしは彼女にアリのことを聞いた、
大人は捕まれば犯罪者として拘束される、アリもまさか…と思ったのだ。

ジェシカ「あの勇敢なボーイね! アリくんっていうのね…あの子は…」

この基地に到着してから、引き離されるまで、
ずっとわたしのそばで、わたしを守っていたらしい…

引き離された後は、ユニセフの人に連れられ、
孤児収容センターとかいう所に運ばれたという…
わたしはジェシカに案内され、収容センターとかいう所に連れて行かれた
アリがいるかと思って探したけど、ソコにはいなかった…
施設の人が言うには「そのコは別の施設にいるのかも」ってことらしい…

施設に入って1年と少したったころ、
アメリカの「ジャクソン夫妻」っていう人たちが、
わたしを養子として引き取りたいと申し出た。
わたしは外の世界を見てみたいと思い、その申し出を受け入れアメリカへ渡った。

アリに会いたいとも思ったけど…今はどうにかなりそうにない…
外の世界で機会を伺うことにしたのだ。
もちろん…純粋に外の世界、アメリカという国を見たいという気持ちや。
本当の両親じゃなくても、両親が欲しいという気持ちも有った……………。

ジャクソン夫妻はとてもいい人たちで、とても優しかった、
アラブの戦災孤児、自分でさえ自分の素性をよく知らない、そんな女の子を快く迎えてくれた。

ジャクソン夫妻は「慈善家」としては有名な人たちで、
わたしは義父さんと義母さんから
「人間は平等なんだよ」「誰にも自由に生きる権利、学ぶ権利はある」って育てられた。
わたしのような子供を差別する人はアメリカには大勢いたけど、
義父さん義母さんは一生懸命かばってくれて、力になってくれた。

わたしはアメリカの学校で必死に勉強し、大学へ進学した……

―201×年

私は弁護士「アイシャ・ジャクソン」になっていた。
「弱い人たちの力になりたい」という想いで弁護士になったのだ!



―ニューヨーク マンハッタン

ジム「ミス・リバティーは綺麗だったね」
アイシャ「ええ…」

ジム「ま、キミほどではないが」
アイシャ(そんな月並みな台詞を、よくもまぁ…)

彼は恋人のジム、義父の紹介で知り合った、大きな石油会社の御曹司。
言うなれば「坊ちゃん」といった感じで…見た目も雰囲気もそんな感じ……。
ま、ハンサムで教養があるから女性には人気がある。
でも…私はそんな彼をなんだか好きになれない…



―ロックフェラーセンター

ジム「今日はここのレストランを予約したんだ、夜景がとっても綺麗なんだよ」

ジムの言うとおり、高層階から見る摩天楼はとても綺麗だった…
アラブの星空、月の砂漠、米国の実家に近い五大湖の景色…
…それらに負けないくらい綺麗だと私は思った。

アイシャ(この街も悪くないわね…)

私は来月からジムとこの町で暮らす。
ジムと結婚しNY郊外の高級住宅街に移り住むのだ…

本当はあまり結婚なんかしたくない。
ジムをそこまで嫌ってるわけじゃなく、
まだ「結婚」というもの自体をする気になれないのだ…。

しかし、義父や義母のこともある…
義父はジムをとても気に入っている、彼と結婚させたいというのが正直なところらしい…
私は義理の両親をとても感謝している、私が花嫁になったところを見せてあげたいという、

一種の「恩返し」みたいな気持ちが…もしかしたら強いかもしれない。

アメリカに来て十年以上…色々あって、弁護士になったし…
そして…ついには結婚と。

今までを振り返りながら、ふとアラブにいた頃のことを思い返した…

アイシャ(アリは元気にしているかしら?)

もう十年以上会ってないし、どこで何をしているのかすら全然分からない…
私は勇敢で優しい彼のことを忘れたことはない、いつかは会いたいと、心の片隅で思っている。
だけど…何の手がかりもないし、情報もないのだ…

ジェシカとはアラブにいた頃から手紙のやり取りを続けているし、
米国で暮らし始めてからだけど、何度か会ってもいる。
彼女は、私がアメリカに着いて数年経った頃、
結婚し軍を辞め、現在はシカゴで普通に暮らしている…

ジム「どうしたの?料理が口に合わないかな?さっきからボーっと窓の外を眺めてばかりで…」

アイシャ「え?なんでもないわ…あまりに景色が綺麗だったから見とれてたのよ」

食事を済ませ、私とジムは市内のホテルに戻る。
有名な音楽家が一時自宅代わりにしていたとかいう、そういうホテルらしい…

ホテルに戻るとジムは疲れているのかすぐに寝てしまった。

アイシャ(こんな早い時間に寝るなんて…一人じゃ退屈じゃない… もう!)

私は寝ているジムを置いて、一人で夜のNY観光をすることにした。



―ダウンタウン

アイシャ「ココがダウンタウンね!」
ジムはこういうところが嫌いだ、彼と一緒だったら行けなかったろう…

私は夜食を食べに、ダウンタウンの中華レストランに入った。

アイシャ「中華饅頭を」
ウェイター「あいヨ」

ウェイターに商品の注文をし、辺りを眺める

アイシャ「狭いけど、なかなかいい店じゃない」

ふと見ると、近くの席の男が何やら誰かと揉めている…

男「はぁ?ふざけんな!太てェアラブ野郎だな!」

アラブ人「アノ…ワタシホントニシラナイ!ヤテナイ!」

男「うるせー!つべこべ言い訳してんじゃねーよ!警察に突き出してやる!」

アイシャ「ちょっと!何があったんですか?」

男「ああ?このアラブ野郎がよ、俺の財布をパクりやがったんだ!」

アイシャ(アラビア語で)「本当なの?」

アラブ人(アラビア語で)「違う!やってない!本当なんだ!」

アイシャ「証拠とかは?」

男「会計しようと思ったらよ、財布がねーんだ!店に入るときは確かに有ったんだがな!
   ということだ、隣にずっと座ってたこのアラブ野郎が怪しいってことだ!」

アイシャ「それだけで疑うのは証拠としては不十分よ…?」

男「アラブ人ってだけで疑うには十分じゃねーか!オメーもアラブ人だろ?だから仲間をかばってんだろ!」

アイシャ「私はアメリカ人です!アメリカ国籍を持つアメリカ人です!」

男「…フン!どう見てもアラブ人だろ!国が認めても俺は認めねーぞ!」

そう言うと男はアラブ人の襟を掴む!

男「ステイツはおめーみたいなアラブの悪党は認めてねーんだ!観念しないとぶっ飛ばすぞ!」

アイシャ「やめなさい!あなたの暴力こそステイツは認めていません!!」

男「やかましいわ!アラブ女がステイツとか語るなァ!口の達者なメス犬がァ!」

男は今にもアラブ人の男に殴りかかりそうだ。

今日はとりあえずココまでです
分量的に見て、全部投稿し終わるまで5日前後掛かると考えられます。
完結した作品をワードに入れて保管しているので、エタる心配はしないで下さい。

長いので少しずつ投稿しますが……
お付き合いいただければ幸いです。

ではまた。

老人「あの…」

騒ぎの中にひとりの老人が突然割り込んできた。

老人「さっきトイレの中でこれを拾ったんじゃが、もしかしておまえさんのかの?」

老人は黒い牛革の財布を差し出す。

男「間違いねェ!それは俺の財布だ!ありがとうよ爺さん!」

老人「洗面台のそばに落ちてたぞい」

男「そうか…ハンカチを出す時に…」

アイシャ「どうやら財布はあなたがトイレで落としたようね…」

男「そ、そうだな…」 

アイシャ「彼に一言謝りなさいよ」

男「アラブ野郎に頭なんか下げられるか!ふざけんなクソアマ!

アラブ人ってだけで嫌疑を掛けられても仕方ねーんだ!俺が謝ることはないぜ!」

男「サノバビッチ! おまえらみたいのは早く国にケエレ!」

男はそう言うと、レジで会計を済ませ、ズカズカ足早に店を出て行った。
あの男のせいで店の中の空気は冷めてしまった……

アイシャはアラビア語でアラブ人の男に話し掛ける。

アイシャ「大丈夫?」

アラブ人「大丈夫…大丈夫…」

アイシャ「ああいうのもいるけど、この国も悪い人ばかりじゃないのよ?」

アラブ人「うん、分かってるさ…ああいうのは慣れっこだよ」

アイシャ「そう…」
    
アラブ人「ありがとう、勇敢な人、本当にありがとう…」

アイシャとアラブ人は中華饅頭を食べながら話をした。

アラブ人「あなた、アメリカで生まれ育った人ですね?」

アイシャ「そうだけど…やっぱり分かる?」

アラブ人「雰囲気もそんな感じだ」

アイシャ「でも、昔はアラブにいたのよ?その頃の名残りは今でもあるわ、
      たとえば…向こうではタブーだった豚肉は今でも食べないもの」

アイシャの食べている中華饅頭はアンマンだ。

アラブ人「なるほど…」

外国で同郷の者同士や、同人種同士が会うと、だいたいこんな世間話になる…
私は彼と他愛もない世間話をしていたのだが、その最中にトンでもない事実を知ることになる……

アラブ人「僕の名は アリ・ハッサン …よろしく」

アイシャ「…アリ…ハッサン」

アリ「どうかしたのですか?」

アイシャ「えと…私がもう何年も会っていない幼馴染と同じ名前だったのよ」

アリ「はは、ムスリムは同じ名前が多いからね」

アイシャ「私は アイシャ・ジャクソン よろしく」

アリ「え!驚いた! アイシャっていう名…僕の何年も会っていない幼馴染と同じ名だ!」

アイシャ「え…? で、でも、よくある名前だから…」
 
アリ「失礼なことを聞いてすまないが…もしかしたらキミのご両親は…」

アイシャ「義理の両親よ…私は孤児だったから」

アリ「・・・・・・・・・」

アイシャ「アラブにいた私を引き取ってくれたのがジャクソン夫妻…」

アリ「僕も孤児だった、ハッサンていう父親の名前しかしらない、両親の顔もよく覚えていない…

アフマドっていう男に拾われ、物心ついた頃にはゲリラのキャンプにいた」

アイシャ「まさか…」

アリ「そこにいた女の子がアイシャ、両親の顔も名前も知らない子…」

アイシャ「間違いない…」

アリ「面影があったから、名前を聞いた時まさかと思ったんだが…」

アイシャ「こんな…偶然があるなんて…」

アリ「本当に懐かしい…」

アイシャ「何年ぶりかしら…あなたはすっかり逞しくなって…分かんなかったわ…」

あの地獄から解放された後、お互いにどう生きてきたか……
十数年ぶりに会うアリと夢中になって話をした。

アリは国内で資金を貯め、トルコに渡り、商売を始めたらしい。

トルコで独立し、エジプト、サウジアラビアなどにも買い付けに行ったりして…
最近、「西側の国」であるクウェートとのコネクションを持つようになり、その関係でアメリカに来たという。

渡航規制だのなんだので、色々苦労したそうだが、
クウェート人の友人としばらくアメリカに滞在する予定らしい……。

アリ「アメリカは初めてなんだ! よかったらアメリカ人のキミに…
    明日、僕と友人のガイドをして貰いたいんだけど…いいかな?」

アイシャ「ええ、もちろんOKよ!」

私もNYの街は初めてなのだが…簡単な案内くらいなら出来るだろうと思って引き受けてしまった。

アイシャ(明日ならジムも仕事で一日いないし好都合ね…)

ジムは私の人付き合いに、いちいち干渉して来てウルサイ。
少しでも男と話していると「浮気だ!」
外国人と話をすると「ああいう連中とは程々にな…」
こういった感じなので、今回のガイドの件も秘密にしておくつもりだ…

―翌日  セントラルパーク

アイシャ(ココって結構広いんだけど、アリは迷ってないかしら…)

アリ「お待たせー!」

アリは友人と一2人の子供を連れてやって来た。

アリ「紹介するよ!友人のカトー、息子のアニス、娘のミナだ」

カトーという男はアジア人風、アニスは小さな男の子で、
ミナはアニスより年上の10歳くらいの女の子。
アリが言うにはミナとアニスは姉弟らしい。

アイシャ「あら?あなた結婚したのね?昨日は聞かなかったけど…」

アリ「その…まぁ、うん」

なんかワケ有りの様だけど…私はあえて詮索しなかった。

ミナ「見て! 大きな鳥が飛んでるよ!?」

アイシャ「ああ、あれはハヤブサね」

アリ「こんな都会にハヤブサが?」

アイシャ「ニューヨークにはハヤブサがたくさん住んでるの、
     この公園の緑を利用し、高層ビルを岸壁の代わりにし、そこに巣を作って暮らしてるのよ」

アリ「へ~、こんな所でも逞しいものだな…」

アイシャ「ココはいい所だけど…一日で周るには広すぎるわ」

私はジムの会社の運転手と車を用意していた。

アイシャ「車を用意してきたのよ、これで市内を周りましょう?」

車でNY巡りをすることとなり、みんなは私が用意したバンに乗り込む。
運転席には運転手のトム、助手席には私、その後ろにアリとカトーさん、
一番後ろにアリの二人の子供が座る。

―ミッドタウンエリア

アニス「おねーさん、ココは大きな建物いっぱいだね!」

アイシャ「あれがクライスラービル、あっちはエンパイアステートビルよ」

カトー「二つのビルは昔、高さを競い合ったっていうビルですよね?」

アイシャ「そうね、そんなエピソードが有名かしら」

アリ「映画とかによく出てくる建物だから、ビル自体が有名だろうと思うよ」

ミナ「ねぇ、ビルの高さなんか競って何になるの?」

アイシャ「えーと…アメリカ人は高い所が好きなんじゃないかな?ねぇ、トム?」

トム「う~ん、おいらは個人的には好きじゃないですけど…」

ミナ「あたしはあんな所住みたくないな…」

カトー「アメリカ人は競争するのが好きなのさ」

ミナ「ビルの高さで張り合うの? なにそれ? なんかバッカみたい…」

NYの代表的な場所である、ミッドタウンを一通り見て周ってから、
ミッドタウンイーストのレストランで食事をとった。

その後は、ミッドタウンイーストやチェルシーにある、
オシャレな店やアートギャラリーを見て周った。
アリは「さすがNYだ、色々と参考になる!」「いい勉強になった」と喜んでいた、
彼なりに色々と「NY」を吸収したようで、とても満足そうだった。

WTC跡地の前を通った…

アニス「ここは何があった場所なの?」

アイシャ「ココでは多くの尊い命が失われたの…」

カトー「昔、イスラム系のテロリストが多くの人を殺したのさ…」

ミナ「…アメリカ人だって、外国でたくさん人を殺してるじゃない、自業自得だよ」

アリ「人は憎しみ合い、殺し合いをしてきた …そんな歴史を歩んできたんだが」

アイシャ「でもね、あなた達の時代はみんなで仲良く暮らして欲しいと思うの
      ミナちゃんたちの時代、これからの時代にはそういう争いを残したくないの」

アリ「自業自得とか誰が悪いとか言ったら、みんな悪い奴かもしれないよ?」

カトー「いろんな国で殺したり殺されたり…僕の先祖の国、日本もそう。
     戦争ってヤツは、みんなどこかで悪人になってしまう物だ…」

ミナ「…そうなのかしら、わたしにはわからない」

トム「すいませんアイシャさん、こんな所を通って…」

アイシャ「気にしないで」

アリ「歴史を学んで考えるのも大事なことだ…」

昔の私ならたぶんミナと同じことを言っていただろう。
それを言わなくなったのは私が大人になったから?賢くなったから?
いや、単にアメリカナイズされただけ?私がアメリカ人になっただけ?
…なんだか少し複雑な気持ちになった。

本当に何が正しいのか誰が正しいのか、何が正しかったのか誰が正しかったのか、
私には分からないし、たぶん誰にも分からないと思う。
過去のことなんかは、今になっては分かりようのない事も沢山あると思う。

「私は私の正しいと思えることをミナに言って伝えた」

私にはこれしか出来なかったけど、これでよかったんだと思う……

アイシャ「さ、もうすぐローワーマンハッタンよ!」

車はマンハッタンの一番端、ミスリバティーに近い場所へと向かう。

―バッテリパーク

マンハッタンの一番端にある、海辺の公園についた。

アニス「ねぇ、自由の女神よく見えないねー」

アイシャ「思ったより遠くにあるのね…」

トム「こんなこともあろうと、双眼鏡を持ってきましたぜ!」

アイシャ「あら、気が利くわね」

双眼鏡を使い、みんなでミスリバティーを見る。
アリやアニスも喜んでくれたし、何だかんだ言ってるミナも観光気分で嬉しそうだ。
アイシャ(こうして見るとミナもどこにでもいる女の子ね…)

ミスリバティーを眺めた後は、NYにある彼女以外の「有名な銅像」を見に、
と、ある場所へと向かった……。

―フェデラルホール

アイシャ「あれが合衆国初代大統領、ジョージワシントンよ」

アニス「へー!」   アニスは写真を撮っている

ミナ「・・・・・」   ミナは黙って像を見つめている…

ウォール街の真ん中に位置する建物、そこには合衆国初代大統領の銅像がある。

私は有名なミスリバティーとワシントンを見るコースで観光計画を立てていた、
ここはその最終ポイントというわけだ…

アリ「有名な銅像を二つも見たよ」

カトー「ありがとう、アイシャさん」

アイシャ「いえいえ…」

観光気分で浮かれていると、意外な人物が、よりによってこんな時に現れた…

ジム「あれ?アイシャじゃないか!」

アイシャ「あ!」

昨日は広い世界で偶然アリと出会ったが、今日は広いNYで偶然ジムと出会ってしまった。
昨日の出会いは幸運に思ったが………今日のこの出会いは「まずい」と思った。

アイシャ「あら…ジム…どうしたのこんな所で?」

ジム「僕は仕事だよ、ココはビジネス街だからね、どうしたのってのはこっちが聞きたいよ!
    キミは確かホテルにいるはずじゃ…」

アイシャ「その…」

ジム「なんだ? 僕にウソを付いてまで何してるんだ? こいつらは誰なんだ?」

アイシャ「あの…! 昔の友達なの! アラブにいた頃のね!」

ジム「ふん…なんでもいい…アイシャ、帰ったら話があるぞ」

ジムはとても不機嫌そうだ…
物静かだが怒った口調で私にそう言うと、
仕事の途中だからか、足早に何処かへ行ってしまった。

アリ「知り合いかい?」   

アイシャ「えーと…フィアンセなの」

アリ「彼が昨日話してたフィアンセか…」

最後は予想外のハプニングで少し気まずい雰囲気になってしまったけど、
アメリカに始めてくるみんなは楽しんでくれたようだ。

アリ「今日はありがとうね」

アニス「ありがとおねーちゃん!」

ミナ「ありがとうアイシャさん」  

カトー「楽しかったよ」

ガイドなんて不安だったけどなんとか、うまく行ったようでアイシャは安心した。

アリ「そうだ…つい渡しそびれたけど」

一枚の名刺をアイシャに渡した

アリ「僕の連絡先、今度暇な時にでも遊びにおいでよ!」

アイシャ「うん、また会おうねアリ!」

名刺にはアリのNYでのオフィス、トルコのオフィスの場所と連絡先が書かれていた。

もう夕暮れが終わろうとしている………
私はその名刺を大事にしまって、不安はあるけどホテルに戻ることにした……

旧友とその仲間を連れてニューヨーク観光をしたアイシャ。
ホテルに戻った後、ジムと一波乱あります。

今日はここまでです。

―ホテル

私はホテルに戻ってソファに座ると、カフェオレを飲みながらジムを待った…

アイシャ「ジムのことだからきっと怒ってるだろな…」

ジム「ただいま」      

ピシャッ!!

ジムは挨拶するといきなり私の頬を思い切りはたいた。

アイシャ「痛い! 何するの!」 

ジム「いい加減にしろ!」

アイシャ「何…?そりゃ黙って出て行ったのは私が悪いけどさ…」

ジム「違う! そんなことじゃない! 前々から言おうと思ってたがな…」

ジムは「怪しい外国人とあんまりつるむな」「他の男とつるむな」
僕の面子を考えろ、キミの立場を考えろ…と言う。

アイシャ「あなただって私の気持ちを少しは考えてよ!」

ジム「なにィ?」

アイシャ「あなたが私の気持ちを考えたことある?
      いつも僕が、会社が、面子が…」

ジム「・・・・・・」

アイシャ「ねぇ、私は…貴方のなんなの? 貴方にとって私って何よ?」

ジム「恋人さ…アイシャ、僕はキミを愛してるんだよ?」

アイシャ「愛しているなら少しは私のことも考えてよ…」

ジム「考えてるさ」

アイシャ「ウソ!考えてない!」

ジム「おまえのその服、その靴、その化粧品、買ったのは誰だ?
    ココのホテルに泊まれるのは誰のおかげだ?
    プールやエステに行くのは誰だ!?」

アイシャ「・・・・・・・・・・・」

ジム「今日おまえが使った車も運転手も僕ン家の会社の所有物だ…」

アイシャ「ねぇ、それじゃ私、人形みたいじゃない…」

ジム「そうかもな」   

アイシャ「!!」

ジムは笑みを浮かべながら私を見つめる。

ジム「人形でもなんでもいい!僕の妻になるヒトだろ?
    なら、それらしくしていて貰わなきゃ困るんだ!」

アイシャ「私…人形なんて嫌よ…あなたの言いなりになんかならない!」

ジム「なら今着てるものも全部脱げ、化粧も落とせ、そして、ホテルから出て行け!
    …都合のいい事ばかり言うなんて何を考えている?」

アイシャ「…そんな」 

ジム「泥棒かキミは!?」

アイシャ「なッ! 何よ! この服も化粧品も貴方が送ったんじゃない!
      私の髪型だって貴方の好みでしょ!」

ジム「結果的に受け取ったのはキミだし、髪型をそうしたのもキミの意志だ、違うか?」

私は何も言い返せなかったし、言い返す気力もなかった。
私に出来ることは、ジムとは寝たくないから、ダブルベットではなくソファに横になること。

…ソファに横になって泣きながら寝ることだけだった。

私は夢を見た。

広い場所、周りは真っ黒で何も見えないけど、足元と自分の姿はよく見える。

アイシャ「あ…ココ…砂漠…砂漠だ」

どこまでも続く砂の大地、私はアラブの民族衣装を身にまとっている、
自分の姿をよく見ると……それは子供の頃の私だった。

「おい」

呼ばれて後ろを振り返る

ビシャッ!

思い切りはたかれた。

アフマド「おい! アイシャ! 時間だ!」

鬼の形相でアフマド…ゲリラの村の男が立ちはだかる。
私は怖くなって走って逃げ出した。

アフマド「なんだ、その不満そうな顔は?」

アフマド「シオニストの軍隊に村を焼き払われ、行き場を失ったおめーらを拾ったのは誰だ?」

アフマド「愛の鞭だ!!」

アフマドの姿は見えないけど、走っても走ってもアフマドの怒鳴り声だけは聞こえる。

アフマド「逃がさない…逃げられない…」

突然目の前にアフマドが現れた!アフマドは私に掴みかかり服を剥ぎ取ろうとする!

アイシャ「いやぁぁぁぁぁ!」

私は目の前が真っ白になって気を失う……

気が付くと、私はホテルのソファに横になってた。
背格好も現在の私になっている。

アイシャ「…でも、ココはどこなの?」

地面も空も前後左右も、辺り一面真っ白い世界…

「なぁ、アイシャ」

声のする方を見ると、ジムが立っている…

ジム「泥棒かキミは!?」

ジム「その服、その靴、その化粧品、買ったのは誰だ? ココのホテルに泊まれるのは誰のおかげだ?
    プールやエステに行くのは誰だ!?」

ジム「今日おまえが使った車も運転手も僕ン家の会社の所有物だ…」

アイシャ「ねぇ、ジム…あなた私を愛してるの?」

ジム「愛しているさ」

ピシャッ!

ジムは私の頬を思い切りはたいた。

はたかれて一瞬目を瞑り、再びジムの顔を見ると…
なんと! ジムではなくアフマドが立っていた!

アフマド「愛の鞭だ!!」

アイシャ「いやぁぁ!なんで!?」

ジム「可愛い人形…アイシャ…」

ジムはいつの間にか私の後ろにいた。

アフマド「逃がさない…逃げられない…」

アフマドは私にカラシニコフ(自動小銃)を突き付ける…

アイシャ「いやだ! いやだ! いやだ! いやだ! やだよーーーーー!」

再び目の前が真っ白になる………

アイシャ「わぁ!」

ソファから飛び起きる、クッションは涙でぐしゃぐしゃに濡れている。

アイシャ「嫌な夢…」

私は汗びっしょりになっている。

アイシャ「シャワー浴びよ…」

辺りはもう明け方だ、外には美しい青い空が広がる…
こんな朝早くなのにジムはもういなくなってる…

シャワーを浴び終わると、服を着替え、化粧をする。

アイシャ「この服も化粧品もジムが買ったんだ…」

姿見で自分の姿を見ながらそう思う。

私は部屋にいる気になれず、朝も早いのに外に出る。

アイシャ(車は使えないし…歩いてどこに行こう…)

細かい地理は分からないNYの街、
私はとりあえず歩いて行ける、セントラルパークに向かった。

―セントラルパーク

早い時間なのでジョギングをしている人、犬の散歩をしている人が目立つ。
私はベンチに座ってこれからどうしようか考え込んだが、いいアイデアなんて浮かばなかった。

大空を堂々と飛ぶハヤブサを見て「私も飛べたらな…」と羨ましがってみるが、
それは何の足しにもならなかった……。
空を飛ぶことより、ハヤブサの逞しさを見習うべきなんだろうけど、
今の私はそんな逞しくもないし、逞しくも出来ない…と、思った。
辺りの店が開く時間になると、私は買い物に行く。
服や小物を買いかえるためだ。



私はジムの言ったことに腹を立て、ジムから貰った物を身に着けないことにした。
そのために服や小物を買い換えるなんて、子供じみた反抗だと思うけど、
今の私にはこんなことしか出来なかった………。

服を換え、化粧も変えると、私はカフェでコーヒーを飲む。
コーヒーを飲みながら、また考え込むけど、いいアイデアは浮かばない…。



アイシャ「半日でだいぶ、お金を使ってしまったようね…」

財布の中を確かめてみると、残金が残り少なくなっているのがすぐに分かった。

今まであまり意識しなかったが。
アラブにいた頃の生活と比べれば、ジムとの生活やジャクソン家での生活は、
だいぶ恵まれたものだと思った。
しかし、アメリカにおいても、今までの生活は裕福な人間の贅沢な生活なのだ…
……それがよく分かった。

そんな考え事をしながら何気なく財布を調べると、一枚の名刺を見つける。

アイシャ「アリの名刺だ…」

NYの街で行く当てなんかない私は、アリのオフィスを訪ねてみようと思った

一旦、間を置きます。

早ければ本日昼頃に、遅くとも月曜日の午前中には、
続きを投稿します。

~ここまでのあらすじ~

ジムと喧嘩したアイシャは、
アリのオフィスを目指す。
そこで、ある事件が起こる……

地下鉄を何本か乗り継ぎ、アリのオフィス、小さな雑居ビルに着く。

アイシャ「ごめんくださーい」

留守なのだろうか? 返事がない。

アイシャ「あのー、どなたかいないかしら?」  

ミナ「なんですか?」

アイシャ「あ、ミナちゃん」

ミナ「あ、アイシャさん、どうしたんですか?」

アイシャ「アリはいないかしら?」     

ミナ「うん? いるよ、二階に」

ミナはアリを呼んできた、二階の事務所にいたらしい。

アイシャ「ごめんね、忙しい時に…」

アリ「いや、いいんだよ、半分観光できたような物だし」

アイシャ「あのね…」    

アリ「こんなに早くに訪ねてくれるとは思わなかったよ、どうしたんだい?」

アイシャは事情を説明した。
ジムのこと、今まであったこと、色々な想いを旧友にぶつけてみた。

アリ「なるほど…ジムと喧嘩したんだね…」

アイシャ「ごめんなさい…NYではココ以外にアテがなくて…
      あなたには迷惑よね…?本当にごめんなさい…」

アリ「いや、別にいいんだよ、ゆっくりしていくといい…」

アイシャ「あなたには昔から迷惑掛けてばかり…ごめんなさい」

アリ「そんなことないって……」

私はミナが淹れてくれたコーヒーを飲んだ。
濃いターキッシュ・コーヒーは、いつものアメリカンコーヒーとは一味違う。
美味しいコーヒーを飲んで不安な心も少しは落ち着いた……。

アリのオフィス、現在のところ一階は倉庫みたいになっていて、
アリ一家とカトーさんはそこに寝泊りしているらしい。
二階は事務室、まだ事業を開始していないものの、だいぶ散らかっている……。

カトーさんとアニスは買い物に行っていて、夜まで帰ってこないらしい。
アリとミナは留守番をしているのだという…。

ミナ「カトーさんたちが来るまで食べ物は何もないんだ」

アリ「悪いけど夕食は遅くなるかもしれない」

アイシャ「そんな…いいのよ」

ミナ「ね! アイシャさん、明日一緒に買い物行こうよ!」

アイシャ「え?」

ミナ「洋服とか買うの、父さんやカトーさんと行くよりアイシャさんとがいいな!」

アイシャ「いいけど…」

ミナ「やった!!」

私はミナと買い物に行くことにした。
アリのところで世話になるのだから、このくらいは引き受けようと思ったし、
ミナの買い物に付き合うのはいい気分転換になると思ったのだ。

カトー「ただいま」

カトーとアニスが買い物から帰ってきた。
三人で談笑をしていたら、いつの間にか夜遅くになっていたようだ……
時計を見ると、夜の11時を過ぎていた。

深夜、私とアリ以外は疲れて寝てしまった…

アイシャ「アリ…何してるの?」

アリは写真付きのファイルを眺めている。
壷や食器、コーヒーなどの商品情報のようだ……

アリ「ん?商品さ」

アイシャ「仕事熱心ね」

アイシャ「外国で雑貨商…いろいろ大変でしょう?」

アリ「大変だけど、僕はいい仲間に恵まれてる…」

アイシャ「カトーさん?」

アリ「カトーもそうだし、本国の仲間もそうさ」

アイシャ「あなたとカトーさんはいいコンビだと思うわ…」

アリ「ふふ カトーとは十年以上の付き合いだしな…」

アリが言うには、カトーはブラジル日系人の家系の男で、
先代がクウェートに渡り仕事を始め、彼はその二代目だという。
アリとは中東で仕事をする内に仲良くなったらしい。

ココ、NYの支店はカトーとの共同計画ということだそうだ。

アリ「小さい会社同士協力し、アメリカで商売ってわけなんだ」

アイシャ「へぇ…」

アリ「二人の子供の為にも頑張ろうと思うよ…」

アリはミナとアニスを優しく見つめる。

アリ「僕はアメリカンドリームって程大きな夢を見てるわけじゃないんだ…
    この子達を出来る限り幸せにしてあげたい、それが僕の願いさ」

アイシャ「・・・・・・・・」

この後もアリはずっとファイルの山と格闘していた…
私はそんなアリのほうを見ながら、いつの間にか眠ってしまった…

―翌日

今日はミナと買い物に行く日、ミナは私より早く起きて、朝からはしゃいでいた。

私は銀行で自分の貯金からお金を下ろし、ミナに服や小物を買ってあげた。

ミナ「ねぇ、自由の女神のキーホルダー欲しいな…」

アイシャ「いいわよ」

私は小さなミスリバティのキーホルダーをミナに買ってあげた。

ミナ「ねぇ、ドネルケバブが売ってるよ!」

アイシャ「ドネルケバブ?ああ、トルコの料理ね」

私とミナは屋台のドネルケバブを買って食べる。
チリソースの辛さとマトンの独特の風味がマッチしていて、とても美味しかった。

ミナ「みんなの分も買ってこ、いいでしょ?」

美味しいのでみんなの分も買って帰ることにした。

私とミナは公園のベンチで一休みする…
ミナは疲れているのか、私にもたれて眠ってしまった…

ミナ「…お母さん…お母さん…むにゃむにゃ」

アイシャ「このコ…」

彼女の寝言を聞くが、この子はこの子なりに苦労していて、寂しいんだろう…と思った。
私はミナ親子のことを詳しく知らないが、どこか自分が子供の頃と似ている気がした…

「アイシャさん」

突然、黒服の男たちが私に話しかけてきた。

アイシャ「なんですか?」

黒服A「一緒に来てもらいます」

アイシャ「ジムの命令ね?」

黒服B「…そこの車まで大人しくついてきてください」

黒服C「ジムさまは大事なお話があると仰っている…」

アイシャ「…わかった」

私はミナを起こし、二人でジムのリムジンの方へと向かった……

ジム「ふふ…ココから見てると、まるで母子みたいだったぞ」

アイシャ「何の用かしら?」

ジム「探したんだよ…」

アイシャ「どうせ…ずっとつけていたんでしょ? いやらしいわね!」

ジム「…その辺は想像に任せるよ とにかく車に乗りたまえ」

ミナ「昨日の人だね、アイシャの恋人でしょ?」

アイシャ「…そうね」

ジム「そっちの小さなアラブのお姫様は誰かね?
    見たところ、キミの本当の子供ってワケではなさそうだが」

アイシャ「当たり前でしょ…」

ジム「親戚というわけでもないだろうし…そうか、友人とやらの娘さんか?」

アイシャ「そうよ」

私とミナはジムのリムジンの後部座席に乗り込む。

ジム「ココはブランデーとウォッカしか置いていない。
    …すまんな、キミの好きなコーヒーがなくて」

アイシャ「別にいい…飲み物なんかいらないから」

ジム「実は…昨日のこと謝ろうと思ってね」

アイシャ「え?」

ジム「今日はそのお詫びに、キミにいい物を見せてやろうと思うんだ…」

ジムが言う「いい物」ってなんなのか?
高級料理や高価な服、貴金属…そういう物なら、いちいちもったいぶらないだろうし…
私にはジムが言う「いい物」が全く見当つかなかった…

アイシャ「いい物? 何よ…」

ジム「見てのお楽しみさ」

アイシャ「この子も連れて行っていいかしら?」  

ジム「別に構わんよ」

アイシャ「あと、あんまり遅くまでは付き合えないわよ…?」

ジム「子供がいるものな、何、時間はそんなに掛からないさ」

15分ほど走ったろうか…
リムジンはミッドタウンにある高いビルの駐車場に入る…

ジム「ココは僕ん家の会社の関係の建物さ、前にも来た事あるだろう?」

ジムは私とミナをエレベーターに案内すると、最上階行きのボタンを押す…。
最上階に着くと、今度は階段で屋上へと上がる…。

アイシャ「何?見せたいものってこのヘリなの?」

屋上には一機のヘリコプターが駐機してあった、
どうやらジムのヘリコプターらしいが…。

ジム「違う違う、このヘリで飛ばないと例の物はよく見えないんだよ…」

アイシャ「ミナ、ヘリは平気かしら? ダメならもう帰るけど…」

ミナ「別に平気だよ! ねぇ、面白そうだから早く行こうよー!」

ジム「アイシャ、キミはヘリに乗るの初めてだったかな?」

アイシャ「いいえ、アラブにいた頃、イロコイに乗せられたことがあるわ」

ジム「イロコイ!? アメリカ軍のヘリか!
    アハハハハハ! キミらしいな、実にキミらしいエピソードだな!」

アイシャ「…ふん」

三人でヘリに乗り込む。
ヘリは騒々しいエンジン音と羽音を立ててゆっくり飛び立つ…
夕暮れのマンハッタンのスカイクルージング…

ミナ「ねぇ! すごいすごい! とっても綺麗だよ!」

彼女は怖がるどころか、とっても喜んでくれている。

ミナ「今日はアイシャと来てホントによかったよ…」

ヘリはニューヨーク港方面に向かっている…
私はジムが見せたい「いい物」の見当が大体ついてきた…

ジム「見たまえ!わが社の所有する豪華客船!
    グランド・サラーキア号だ!」

ジムが指差す先には、巨大な豪華客船が停泊していた、
白い船体が眩しい巨大な船、大きな煙突やいくつもの窓があり、デッキにはプールも見える。
ジムが見せたい「いい物」とは、どうやらこれのことだったらしい…

ジム「クィーンエリザベス2世号あたりには負けるがね…
    …それでも私有の船としては大きい方だろう!!」

アイシャ「これがどうかしたの?」

ジム「ハネムーンはこれでアラブのリゾート…ドバイ辺りでも訪れようと思うんだ」

アイシャ「え!?」

ジム「何年も帰っていないんだろう?アラブには…」

アイシャ「そうだけど…」

ジム「懐かしい土地なんだろう? そこをハネムーンで訪れようというわけさ…」

アイシャ「別にいいわよ…そんな」

アラブ…懐かしいけど、地獄でもあった…
私はあまり帰る気にはなかった…

アイシャ「…あなた、私の気持ち全然考えてないわね?」

ジム「考えてるさ、このプランだってキミのことを考えてのプランさ」

アイシャ「私の気持ちなんて全然分かってないわ…」

ジム「妙な連中とはつるむくせに、故郷には帰りたくないか…」

アイシャ「!!」

アイシャ「…ねぇ、その、妙な連中とか、そういう言い方やめてくれないかな?
      私の友達なのよ? 友達を悪く言われて嬉しいと思う?」

ジム「友達? 僕の妻になるなら、それらしい友達と付き合ってくれよ!」

アイシャ「あなたいつもそうね? それらしいって何なのよ? アリの何がいけないの?」

ジム「…娘さんがいるようだしな、ココだと話しにくい、ビルに戻ってからゆっくり話をしないか?」

アイシャ「ふん、いいわよ…」

ビルに戻った後、ミナにはジムの会社の応接室で待っていて貰うことにした…
ミナはコーヒーを飲みながら応接室で私を待つ。

私はジムと彼のオフィスに行く。
大きな会社だが夜なので人は少ない、照明も半分以上が落ちていて薄暗い感じだ…。

ジムのオフィス…というか彼の「社長室」は、アリのオフィスとは大違い、
整然としていて、広くて、豪華な調度品なんかも置かれていて…
高価そうな絵画なんかも飾られている。
デスクだって、アリのデスクの数倍はありそうな巨大なもので…
PCもアリのデスクのような中古品ではなく、最新式の高性能マシンが置かれている。

ジム「さ、さっきの続きを始めようか? アリ君の何がいけないかだったかな?」

アイシャ「そうよ…」

ジム「簡単なことさ、あんな不潔なアラブ野郎と付き合うなってことだ」

アイシャ「…なにそれ! あなたってそういう差別する人だったんだ!!
     アラブ人だからダメ!? 何よ! 私だってアラブ系アメリカ人じゃないの!」

ジム「誤解するな、別にアラブ人差別をしてるんじゃないさ…キミを差別する気もない…」

アイシャ「じゃあ…どういうことなの…?」

ジム「僕と結婚するということはだな…上流階級の仲間入りをするということ。
    あんな貧相で不審なヤツとは付き合って欲しくない…
    ……アラブ人でも、上流階級のちゃんとした方々なら文句はないんだが」

アイシャ「サイテーね! アリをそんな風に言わないで!!」

ジム「何がサイテーなもんか! 身分を考えろ! 君のために言ってるんだぞ!!」

アイシャ「身分!? あなたっていつの時代の人間よ?」

ジム「ん? 現代人のつもりだが?」

アイシャ「何…その時代錯誤な台詞は、中世じゃないのよ?」

ジム「現代でも身分はあるさ」

アイシャ「そりゃ…英国とか一部の国には残ってるわ…
      欧州の多くの国でも慣習として残ってはいる…それは分かるけど。
      現代社会は基本的にみんな平等なのよ?」

ジム「ハハハ! さすが、いいトコのお嬢様で弁護士になるような女は言うことが違う!」

アイシャ「どういう意味よ!? この国、そして多くの先進国は民主主義社会じゃない! 私の何が間違ってるのよ?」

ジム「キミはおめでたいよ……何だかんだで育ちのいいお嬢様なのだな……」

ジムは言う、平等なんて幻想だ、下層の物を大人しく従わせるには幻想が必要なのだと…
身分格差は見えにくくなっただけで健在であり。
力の差、支配する者とされる者、それらも健在なのだ、強者と弱者の構図は変わらないのだという。

ジムは言う……

このNYの街はそれが顕著だ、
いや、合衆国自体が他の国よりそれが顕著かもしれない……。

車と地下鉄、二つの交通網を見て、使って、何を感じた?

低所得者とそうでない者が交通機関を使い分けているのに気が付かなかったか?

高級住宅街に住み、いい物を食べ、いい車に乗り、大学に行き、多くの人間がホワイトカラーワーカーになる…
貧民街に住み、粗末な物を食べ、安い車に乗り、ロクに教育も受けず、多くの人間がブルーカラーワーカーになる…
両者の間に、賃金格差や保障の差がどれだけあるだろう?

文化や娯楽、生活、身近な人間関係…
そういったものからして「人間層」「貧富の差」が関わってくるとは思わないか?

生まれた場所、親の学歴、親の職業…そういったモノが
子供の住む場所、学歴、職業に関わらないと言い切れるだろうか?
そういった物が関わってしまう方が事実としては多くはないだろうか?

ジム「どう思うかね? お嬢様?」

アイシャ「私は…人生は自分の力、自分の意志で切り開くものだと思うわ…」

ジム「そんな精神論だけで勝ち組になれるなら誰も苦労しない…
    実際は勝ち組と負け組、利用する者とされる者、支配する者とされる者の差は歴然さ」

アイシャ「そんなことない! 希望を持って頑張れば誰でも幸せになれる!
     私はそうやって頑張ってきた! 夢は諦めなきゃ叶うわ!」

ジム「お嬢様…そんなのは奇麗事にすぎんよ、もっと現実を見たまえ…
    成功するやつ、夢を叶えるやつ、そういうのはごく一部だ!」

アイシャ「お嬢様お嬢様ってバカにしないで! 私が苦労知らずのノンキ者だと言いたいの!?」

ジム「…そういうわけではない」

アイシャ「あなたよりは苦労してるわ!」

ジム「…キミ、一昨日、外国の友達の観光案内をしたそうだが、どんな所を見たのかね?」

アイシャ「え?」

ジム「今日だって、小さなアラブのお姫様をエスコートしていたじゃないか。
    どんな所を見てきて、ドコがどうだったか話してくれないか?」

アイシャは案内した場所やソコでの出来事、ソコに行った時の感想をジムに話してみた…

ジム「ふふ…なるほど…お嬢様が好きそうな場所ばかり見てきたようだ…
    観光のルートや、キミの観光地案内の様子を聞くだけで分かるよ…」

アイシャ「どういうことよ?」

ジム「高そうな店、オシャレな店、裕福なお嬢様が好みそうなモンだ。
    ミッドタウンにローワーマンハッタン…お上品な場所だねェ……
    ハーレムとかには行かないのかい? うん?」

アイシャ「だって…危ないじゃない…」

ジム「キミの案内する店、キミが得意な店…聞けば高そうな店がほとんどだな…?
    …ファーストフードやジャンクフードの店を同じように案内できたかね?」

アイシャ「そ、それは…普段そういうの食べないし…」

ジム「キミはなんだかんだで良家のお嬢様さ。
    アラブでどれだけ大変だったかは知らないが…アメリカにおけるキミは…
    間違いなく育ちのいいお嬢様! ジャクソン家のご令嬢だ!」

悔しいけど言い返せなかった。

ジャクソン家の「アイシャ・ジャクソン」はお嬢様だ、
ジムの言うように私はお嬢様だ……。
昨日、自分のお金を使い一人ですごした時もそれを感じた…。

ジム「なんだかんだで、キミは特権階級の人間であり奇特な人間でもある…」

アイシャ「奇特?」

ジム「僕から見ると、キミはね……
    一昔前に亡くなった英国の元プリンセスとか、
    莫大な遺産を受け継いだギリシャの海運王の孫娘みたいなもんなのさ…」

アイシャ「どういうこと?」

ジム「悪い言い方すれば運のいい成り上がり物……つまり、ラッキーガールということだ」

アイシャ「私が…ラッキーガール…」

ジム「アラブのお姫様…いや、アラブのシンデレラだな…」

アイシャ「私がシンデレラ?」

ジム「シンデレラガールだよ! とっても運がいい! とてつもない強運の持ち主さ!
    ある意味、特別な人間だな!」

アイシャ「あなたと結婚して、玉の輿に乗るのがラッキーだって言いたいの?
      悪いけど、私は決してそうは思わない、あなたの考えについていけないもの……
       ……貧乏でも愛のある普通の夫婦の方がある意味幸せかもよ?」

ジム「ハハハ 勘違いはよせ、僕との結婚の話なんかしてない、それ以前の話をしているんだ」

アイシャ「え?」

ジム「戦災孤児…数え切れないほど世界中にいて、アラブだけでも相当な数だろう。
    キミはそんな戦災孤児たちの中の何人が先進国に行けると思ってる?
    何人がキミみたいな生活を出来ると思ってる?何人が教育を受けられると思ってる?
    アメリカに行けるだけでも超ラッキー…キミはその超ラッキーな上に…
    名家の養子になるというラッキーまで手に入れている!
    キミほどラッキーな人間は世界に何人もいない…キミは特別な人だ。
    キミは幸運の女神に相当気に入られている女ってことだ」

アイシャ「私は運だけの女じゃない…自分で頑張ってきたし、私なりに苦労もしてる…あなたは分かってない」

ジム「分かってないのはキミだろ? 幸運すぎて自分の幸運とその有り難味に気が付かない…気の毒に」

アイシャ「私は特別な人間じゃない…違う」

ジム「ふん、特別な人間さ」

ジム「戦場は世界中にある、戦災孤児は世界中にいる。
   そんな中、キミのご両親が、なぜアラブのキミを養子にしたか…考えたことあるかな?」

アイシャ「…なんなの?」

ジム「利害関係だよ! キミはジャクソン夫妻の人形なのさ!」

アイシャ「ウソ! そんなんじゃないわ!」

ジム「ウソじゃないよ、キミは一種のアイドルやマスコットみたいなものだ……」

アイシャ「それ以上、私の義父さん義母さんを悪く言わないで!」

ジム「ハハハ キミは何も知らないんだな」

アイシャ「どういうこと!?」

ジム「知らされてもいないのか…まぁ、無理はないな…。
    せっかくいい機会だから、ジャクソン家のことを教えてあげるよ…」

ジムが語るジャクソン家の真実…それは私には信じられないことだった…。
信じられないというより…信じたくはなかった!

ジム「ジャクソン家は石油商人…アラブ人をたくさん食い物にしてるぞォ…」

アイシャ「…え!」

ジム「キミのお母さんの方の家系だって、今は多角企業だが…
   元はイギリスの豪商、女王陛下お気に入り武器商人さ…」

アイシャ「そ、そんな…!」

ジム「19世紀に戦争と植民地支配で巨万の富と現在の地位を手に入れ
    現在の事業の基盤を作ったんだ…」

ジム「なんだかんだで、キミは戦争で得た富や、アラブ人から搾り取った富の恩恵を受けてるんだ」

アイシャ「信じられない…」

ジム「アジアから、アラブから、アフリカから集めた富の恩恵を受けているのは事実さ」

アイシャ「そんな…私…」

ジム「なに、金に綺麗も汚いもない、キミが罪悪感を感じる必要はない…。
    ただ、キミもなんだかんだで利害関係や富や権力の渦の中の人間だというのを分かって欲しかったんだよ。
     キミも支配側の人間で、それらから逃げられない人間…それを知って欲しかった」

アイシャ「・・・・・・・」

ジム「アラブの利害関係の渦で不幸になって、
    アラブの利害関係の渦で幸福にもなった…キミは数奇な運命のアラビアン・シンデレラだな」

アイシャ「私は…平和な国に生まれてたら普通の女として生きてたかもしれない…
      私は戦争と利害関係に振り回された…」

ジム「僕も少しは可哀想に思う…だがね…。
    支配される側の人間が支配する側にまわる例外、その例外を実現するチャンス…

    そう滅多にまわって来る物じゃないんだ!
    キミはとても幸運なんだ、その幸運を無駄にするのは勿体無いと思うんだよ!
    支配する側の人間にはなかなかなれない、一生掛かってもなれないことだって多い…

    そんな中、キミは幸運にも支配する側の人間になれるんだ!ラッキーなんだよ!?」

アイシャ「ラッキー…」

ジム「そう、ラッキーだ、支配者は凡人が出来ないことも出来る…
    僕と結婚すれば何不自由なく暮らせる。
    服だって旅行だって、キミ好みの慈善事業だって思いのままだよ?」

アイシャ「お金に縛られ貴方に縛られ…自分の気持ちに素直になれなくても自由なの?」

ジム「何不自由なく暮らせるんだ! 人形になるくらい安いモンだろう!
   僕の言うとおり上流階級の婦人として振舞ってくれれば、何も苦労することはないんだぞ!?」

アイシャ「…何で私なの?」

ジム「キミは可愛いから、僕好みの女だからだよ。
   そのパッチリとした大きな切れ長の目、整った鼻筋、グラマラスな体型、
   セクシーな褐色の肌、綺麗な黒髪…僕は大好きだ。
   ルックスも最高な上に頭も切れる、教養もある、文句ないワイフじゃないか」

アイシャ「他に理由はないの?」

ジム「利害関係もある! ジャクソン夫妻はアラブ人の戦災孤児の少女を養子にした!
   それは石油商人の彼にとっての、いいパフォーマンスになるからだ!
   僕がキミを妻にすることにも同じようなメリットがあるのさ!」

アイシャ「そんなこと…あなたがいちいち言わなくても分かるわ。
     私が聞きたいのはそういうことじゃないの」

ジム「なんなんだよ?」

アイシャ「ねぇ、体とかメリットとか、私を所有物か何かだと思ってるの?
      私はマネキンやダッチワイフじゃない」

ジム「何が言いたい?」

アイシャ「私の気持ちとか考え方、思想、理念…なんでもいいわ、そういう内面について考えたことある?」

ジム「あるさ」

アイシャ「それで、どう思うわけ?」

ジム「思春期の少女みたいに夢見がち、いや、今時はその辺の女子高生のがキミより損得が分かるだろうな…」

アイシャ「それだけ?」

ジム「何? こんなことどうでもいいじゃないか…」

アイシャ「どうでもよくないわ」

アイシャ「私はそういうあなたと結婚して生活する自信ない…」

ジム「どうして? 何を困ることがある?」

アイシャ「愛のない結婚は嫌、あなたとは家族になりたくない」

ジム「愛? 言わせて貰えばそんなものはタダの看板さ!
    愛なんてものは特定の人間同士巧くやっていくための欺瞞さ!」

アイシャ「そんな…あなたはそんな寂しい考えなの?」

ジム「騙し騙され…幻想を見て幻想を見せて…実にくだらん…」

アイシャ「幻想…」

ジム「下層の連中はそういう幻想の中で生きる、
    つらい現実から目を逸らし、綺麗な幻想を追う、そういう人間のいかに多いことか!   キミにもそういう傾向があるな?夢見がちなシンデレラよ…」

アイシャ「私が求めてるものは空虚な幻想だと言うの?」

ジム「幻想さ、つらいことがあれば幻想を見てまた頑張る…
    健気なものだ、実際は成功する者、力を持ち行使出来るものはごく一部なのに。 上を目指さないものも多い……幻想を見て、満足して、一生が終わる」

アイシャ「人間に上も下もないわ!」

ジム「それは東洋の誰だかの話だったか? 僕に言わせればそれも綺麗な幻想さ!」

アイシャ「生きている者は平等よ…命の重さは等しいわ…」

ジム「ハハハハハハハハハ! キミはまだそんなことを言うか! キミの口からよく言えるな!」

アイシャ「・・・・・・・・・・」

ジム「ジャクソン夫妻や僕がキミに使ってきた額の金…
    それを回せば何人死なずに済む子供がいると思う?」

アイシャ「・・・・・・・・・」

ジム「鯨を助けよう、野鳥を助けよう、犬猫を助けよう……多くの寄付金が集まるが。
    しかし、その金で何人の人間を救うことが出来ると思う?
   人間の命は小動物の命より軽いのだろうか?
    畜生を助ける金をキミの故郷にまわせたら何人が助かるだろうね…」

アイシャは故郷のことを思い出した…
貧しくてひもじい想いをする家族…職をなくす父親…売春をする母娘…
カラシニコフを持つミナやアニスくらいの子供たち…骨と皮だけのような赤ん坊…

ジム「偽善的な募金をしながら、目の前のホームレスを嘲る偽善者はたくさんいるよな?」

アイシャ「ねぇ…じゃあ…正義って何なのよ?」

ジム「利害関係さ! 正義は利害関係につく看板みたいなもんさ!」

アイシャ「人の命は金次第、人生も金次第だと言いたいの?」

ジム「まぁ、一言で言うならそういうことか」

アイシャ「バカにしてるわ…お金がある者が正しくて、そうでないものは正しくないの?」

ジム「おいおい、そこまで言ってない…」

アイシャ「あなたはお金は幸せに直結すると思ってるのね? じゃあ、言わせて貰うけど。 お金がいくらあっても、貴方に人形として縛られる不自由な生活がとは思えないわ!」

ジム「不自由? 何が不自由なもんか、何でも出来る自由で楽しい生活だぞ?」

アイシャ「どこが! 全然自由じゃないわ! 私のこと何も考えてないじゃない!」

ジム「自由か…」

ジムは机に置いてある「ミスリバティ」の置物を手に取る…

ジム「リバティ…それは銅像の彼女のことじゃない!真のリバティ(自由)は」

そう言うとポケットからドル紙幣とカードを出して私に見せ付ける。

ジム「これだよ! これこそ真のリバティさ! これがあれば何でも出来る、これには無限の可能性がある!」

アイシャ「何よそれ!」

ジム「行きたい所にも行ける!食べたいものを食べられる!好きな物を買える!」

アイシャ「それはそうだけど…」

ジム「これがあればあるほど自由だし可能性は大きいが、逆に…ないとどうかね!?」

アイシャ「・・・・・・・・・・」

ジム「世の中の大半の物は、これで何とでもなる。
    金は資本主義社会における実質的な力、可能性、自由なのだ!
    人の命、愛、女…それらも金でどうにかなることの方が多いのだ!
    …キミは怒るだろうが、実際的には金でナントでもなる世の中なのだよ!」

アイシャ「そんな…そんな…」

ジム「新婚旅行はあの客船でドバイにハネムーン、楽しいぞ…?」

アイシャ「・・・・・」

ジム「同じアラブでも、キミのいたアラブとは大違いな場所だ」

ジム「キミは絵画が好きだろう? モネでもルノワールでもなんでも買ってあげるよ?
   五大湖近くのキミの実家、あれの何倍も大きな家にだって住ませてあげるよ?
   キミには綺麗でいてもらいたいから、服だって化粧品だって好きなだけ買ってやるよ!
   キミは猫が好きだっけ? 猫なんか何匹飼ってもいいぞ!」

アイシャ「・・・・・・・」

ジム「キミのことは考えているさ、キミには幸せでいて欲しい…
    だから…なんでも買ってあげるよ」

ジムはリモコンを操作し、プロジェクターを作動させる。
大きな航空母艦のCGが映し出される………

ジム「海軍で進行中の空母建造計画さ、これにも出資している」

アイシャ「これが何なのよ?」

ジム「今日見た小船なんか富の一部なのさ、原油タンカーだって空母だって…
    僕らの一族の思いのままになるんだよ!?」

アイシャ「別に…大きな船なんか欲しくないわ、私はその手のマニアじゃないもの」

ジム「何、船なんかは事業の一環にすぎん、これは力の一例だ…」

アイシャ「何が言いたいの?」

ジム「これだけ大きな力を持つ家の嫁だ、権力だってどれだけ持てると思う?」

アイシャ「え?」

ジム「政治的コネクション、各団体への影響力…キミが大好きな慈善事業を行うにも必要なもの。
    それらが簡単に手に入る、キミ好みの慈善事業も派手に出来るというわけだよ?」

アイシャ「そんな! あなたにそんな頼るつもりないわ!」

ジム「まぁ、アラブ人であるキミが、大統領に挑戦するのは無理があるかもしれんが、
    上院議員くらいには簡単になれるんだぞ? キミが好きな活動なんかにも大いに貢献できるんだぞ?」

アイシャ「…あなたがバックになるっていうの?」

ジム「そうだ!」

アイシャ「悪いけど…あなたに何を言われてもね…
     納得できないものは出来ないのよ?」

ジム「嫌だから嫌なのということか? 女の得意技だな」

アイシャ「なんとでも言いなさい…今日はもう遅いし、ミナを連れて帰るわ…」

ジム「ふん…まぁ、仕方ない…」

私はミナを連れ帰ることにした…

ミナ「あ、アイシャ、お話は終わったの?」

アイシャ「…うん、遅くなってごめんなさいね」

納得できない気持ちもある…しかし…
ジムの言った事と、今まで体験してきた事を重ね合わせて思い返しながら、
私の浅はかさ、甘さを認識してしまう…

私は何者…私はなんだったんだろう…
何の為に生まれてきて何の為に生きてるんだろう…
ただ振り回されただけの、無力なシンデレラだったかもしれない…

幸運って、幸せって一体なんなんだろう?
私は幸運の女神に気に入られた女なのだろうか?

…いや、もしかしたら、お気に入りの「玩具」なのかもしれない。
私は彼女に振り回されて遊ばれてるのかもしれない。

自分を持って生きてきたと思っていた、自分らしく生きてきたと思っていた。

でも、実際には私は人形だった…。

これからも人形として生きなければならないのだろうか…
そういう運命の人間なのだろうか?

アイシャ「ただいま……遅くなってごめんね……」

ミナ「ただいま!」

アリ「おかえり!」

ミナはアリに今日の出来事を楽しそうに話す。

アリ「へぇ、ジムさんにあってヘリコプターに乗せてもらったんだ!」

ミナ「うん! 楽しかったよ!」

アリ「ジムさんはいい人だな、よかったね…」

私にしてみればジムに会った事はラッキーと言える事じゃなかったが、
ミナにしてみればラッキーなことだったようだ……。

―その日の深夜

私はふと目が覚めた。
何か得体の知れない胸騒ぎがするのだ。

みんなはぐっすり眠っているのに…なぜ私だけ目が覚めたのだろうか…

私は冷蔵庫から牛乳を出し、コップに注いで飲む。

アイシャ「…3時、ヘンな時間に起きちゃったな」

ドンドンドン ドンドン

こんな遅い時間に誰だろう?誰かが外からドアを叩いている。

アイシャ(誰よ…こんな時間に…)

アイシャは不審に思いつつ、ドアを少し開け、誰が来たのかを確認する…

アイシャ「誰ですか?こんな遅くに…」

外の男「NYPDだ…」

アイシャ「え!」

男は私にバッジを見せると、ドアを強引にこじ開ける!
最初の男に続いて何人もの銃を持った男たちが建物の中に入ってきた!

警官「警察だ!」

警官「両手を頭の上に乗せて伏せろォ!」
警官「アリ・ハッサン! カルロス・カトー! 不法入国の容疑で逮捕する!」

建物の中にいた全員は拘束され、パトカーに乗せられ、警察署へと連行された…

アリとカトーさんが不法入国!?
私には信じられなかった…

~ここまでのあらすじ~

ジムの所から逃げ出したアイシャ。
NYで唯一頼れる場所であるアリのオフィスに向かった。

アリの娘・ミナと買物へ行き、そこでジムに捕まってしまう。

ジムは自分たちが特権階級の人間であることを説明し、
下流のアラブ人なんかと付き合うな、とアイシャを叱責する。
アイシャはそれに反抗しようとするが、巧い反論が思い付かなかった。

ミナを連れてアリのオフィスに戻ったアイシャは、深夜に目が覚める。
オフィスのドアを叩く人がいて……
なんと、それは警察だった!

続きは、また明日!

入国管理局職員「アイシャ・ジャクソン、アメリカ国籍…間違いないようだな……」

アイシャ「・・・・・」

入国管理局職員「…キミの身元は確認された、安心したまえ、すぐに解放するよ」

アイシャ「本当なんですか? 彼等が不法入国者だなんて…」

入国管理局職員「本当だとも」

アイシャ「そんな・・・・・・」

入国管理局職員「あなたもね…ああいう連中とつるまん方がいい…
         あらぬ嫌疑を掛けられたくはないだろう?」

アイシャ「どういうことです!?」

入国管理局職員「なに…単なる警告だよ……」

アイシャ「あなたにそんなこと言われる筋合いないわ!!」

入国管理局職員「やれやれ…」       

アリたちはこの後、入国管理局の取調べを受けることとなるだろう…

アリ「何かの間違いでしょう!? こんな…こんな…」

警官「うるさい! このアラブ人が! 楯突くとろくな事はないぞ!」

アイシャ「アリ!」

入国管理局職員「さぁ…あなたはもう関係ないんだ…大人しく家に帰ろう…」

アイシャ「アリ!!」

アリ「アイシャ! こんなはずはないんだ! 何かの間違いだきっと!
   キミからも何か言ってくれよ!」

警官「うるさい! おまえ…自分の立場がわかってねーのか!?」

入国管理局職員「ジャクソンさんはお帰りになる…迷惑を掛けるんじゃない…」

アイシャ「こ、これは何かの間違いじゃないの!? もう一度調べ直せないの!?  なんなら私が……」

入国管理局職員「我々の仕事です…」

アイシャ「アリ!」

警官「さ、行こうか…」

アリ「アイシャ!」

アイシャ「アリ! アリーーーーーッ!!」

私は警官に手を引かれ、半ば強引にアリから引き離された…

しばらくするとジムが迎えに来た…

ジム「話は聞いたよ…心配したんだぞ…」

アイシャ「ジム…あなたの仕業でしょ…」

ジム「何? 何のことだい?」

アイシャ「こんなこと…朝飯前でしょ…市長とも繋がりがあるあなたなら…」

ジム「何を言ってる? 気は確かか?」

アイシャ「今の警察は今の市長の子飼いみたいなものよ…市長に働きかければこんなことわけない…」

ジム「証拠もないのに何を言ってる! 弁護士のキミがそういうことを言うか! 証拠もなしに!」

アイシャ「…私だってバカじゃないわ! あの後、急にこんなことが起こるなんて、あなたが絡んでるとしか思えない!」

ジム「アイシャ! いい加減にしろ!」

私とジムはリムジンに乗る…

ジム「言ったろ、あんな妙な連中とは程々にしておけと…」

アイシャ「…うるさい」

ジム「…まぁ、僕が顔を利かせれば彼らはどうにでもなる」

アイシャ「!!」

ジム「このこともなかったことにしてみせるよ」

アイシャ「やっぱり! あなたってなんて人なの! この人でなし!」

ジム「何? 勘違いはよせ、僕の好意で彼らを救済してやろうってことだよ…」

アイシャ「好意!?」

ジム「キミが僕の言うことを聞いてくれるならの話だがね…」

アイシャ「やっぱり、そういうことなのね! サイテー! サイテーよ!」

ジム「怒るな怒るな…これも利害関係だ…」

アイシャ「あなたの裏工作でしょ!」

ジム「そんな証拠はないだろう?
    あくまでキミが言う事を聞けば彼らを助けるという条件を出しているにすぎん…
    僕は彼らにはまだ何もしてないよ?」

アイシャ「そうやって知らん振りするつもりね……? ふん、もういいわ……!」

ジム「で、どうなんだ? 僕の言う事を聞くのか?」

アイシャ「え?」

ジム「聞かなきゃ…彼らは不法入国で強制送還されてしまうだろう…
    恐らく二度とアメリカには来れないだろうね」

アイシャ「な!?」

ジム「アメリカでの事業計画は失敗さ。
   大変だろうね、あんな小さな会社が米国進出なんて大きな賭けだったろうに…
   それがダメになるとは…アリくん一家は気の毒だよ」

アイシャ「!?」

ジム「あの女の子は彼の娘さん? まぁ、彼女は可愛いからどうにかなるだろうね…フフフ。
    あの男の子は彼の息子さん? 小さいのに気の毒だ……。
    あの東洋人は…まぁ、イエローは小賢しいからどうにかやってくだろうが」

アイシャ「そんな…」

ジム「彼らの為にも、僕の言う事を聞いた方がいいってことだ…」

アイシャ「あなたってなんて奴なの…あんたなんか地獄に落ちろ…」

ジム「ハハハハハハハハハハ!!!」

私はジムの前で泣き崩れた。
降伏するしか出来ない自分が悔しかった、人形である運命を変えられない自分が悔しかった、
ジムの言いなりにしかなれないのが悔しかった……………。

アイシャ「わかった…あなたの言うとおりにします…。
      だから…おねがい、もう…」

ジム「分かればいいんだ! 分かれば!」

アイシャ「…おねがい」

ジム「泣くな泣くな! 来月はめでたい結婚式なんだぞ?
   それから楽しい夫婦生活が始まるんだぞ? 泣くな泣くな!」

こんなジムと結婚する…つらいけどそうするしかない…
私は結婚式前の一週間を実家で過ごした。
その時、義理の両親に気持ちをぶつけてみた…
騙された怒り、裏切られた寂しい気持ち、私を本当に人形としか見ていないのか…
そういう想いを全部ぶつけてみた!

義父「ジムの奴…余計なことを…」

義母「出来ればあなたには…こんなこと知って欲しくなかった。
    知らないまま幸せに暮らして貰いたかったわ」

義父「たしかに…ジムの言うとおりだよ、アイシャ」

義母「ジムが言うような思惑はあったわ」

アイシャ「そんな…義父さん、義母さん…信じてたのに」

義父「だが! それだけじゃない!」

アイシャ「え?」

義母「私たち夫婦には子供がいなかったの、だから…あなたが来た時本当に嬉しかった」

義父「そりゃ可愛かったさ…義理でも僕らの娘だ…」

アイシャ「・・・・・・」

義父「アイシャは私たちにとって、大事な大事な子供だ」

義母「その気持ちには偽りがない…」

アイシャ「とうさん…かあさん…」

義父「可愛い我が娘よ…許しておくれ…」

義母「隠していたこと、本当にごめんなさい…」

義父「ジム…そんな男だとは思わなかったが…」

義母「ねぇ、嫌なら…今回の縁談は…」

アイシャ「ううん、いいの、私受け入れる」

義父「そんな! いいんだぞ、断っても!」

アイシャ「もう逃げられない…もう止まらないよ…動き出しちゃったもの」

義母「アイシャ…」

アイシャ「運命を受け入れる…でも、私は運命に負けないから!」

義父「本当にすまない…我が娘よ」



両親はジムとは違って…
なんだかんだで「愛」を持っていた、私を愛していた。
私には分かる、両親の愛は感じるし、今までも感じてきた。

ジムが言うように「愛」なんて姿の見えない幻想かもしれない…
でも、幻想でもなんでもいい、私は愛を感じて幸せだ…

幻想とかそんなことは問題じゃないのかもしれない。
世の中には幻想みたいなことはいっぱいある、
人生だって見方によっては長い夢みたいな物かもしれない……。

しかし、私はこうも思うのだった。

重要なのはその事実より…
「私が私なりに感じる」っていう事、そういう気持ちが大事なのではないかと。
それが人間らしいってことの一つで、それが私にとっての「事実」なんじゃないかと。

私とジムは結婚式を挙げた、それはそれは豪華な結婚式だ…

私にしてみれば、豪華だがちっとも嬉しいイベントではなかった。
指輪の交換も誓いのキスも、感動という感動なんてなかった……。
…式を終えた後は「結婚ばかりが人生ではない」と自分に言い聞かせてみた。

ハネムーンは、ジムの言った通りのプラン…
「グランド・サラーキア号」でドバイに行き、そこのリゾートで過ごすという形になった。

10年以上踏んでいないアラブの大地…砂の大地…
それは少し懐かしくもあったが、
ドバイという場所自体は、私のいたアラブとは全然違う場所だった。

ドバイで「~~国王」だとか「~~第~夫人」だとか、
そういう「偉い人たち」とも会った。

私は同じアラブ人でも
子供の頃に接してきたような人たちとは違うな…と思った。

気候や文化は似ているところがあるけど、
ドバイの地は「私のいたアラブ」とは何もかもが違う…。
「イスラム教国の人たち」と会ってみて、
私は「自分」と「彼ら、彼女ら」とのギャップを感じた。

私とは何かが違う…
姿形は同じでも、考え方とか内面的な部分とか、そういう細かな部分が微妙に違うのだ…。

私を「ヘンな女」を見るような目で見ることも少なくないが、
向こうにしてみれば確かに「ヘンな女」だから無理もないのだ。

姿形はアラブ人だがムスリムではない「文化や考え方はアンクルサム」という女なのだ。
アラブの人たちから見て私は外国人……、
ただの外国人ではなく「見た目は自分たちと同じ外国人」なのだ、
「ヘンな生き物」として見られてしまうことが多いのも無理はない。

アメリカにおいての私は「アメリカ国籍を持つアラブ女」
アメリカの「アメリカ白人」から見ると変わり者の部類だった、
いわゆる「マイノリティ」と言う奴だった……。

外国人呼ばわりされたり、国に帰れと言われたり、
そういう差別は何回も受けてきた……。

アメリカにおいて、そういう爪弾きや人種のギャップみたいな物を感じたが、
アラブでも感じてしまうとは…

一体私って「なに人」「何者」なんだろうか…?
何の為に生きてきて、何の為に生きているんだろう…?
私はこう思う。
「私は私」「私は私として生きてきて、私は私として生きていく」と。

私はいい人なのか悪い人なのか、本当のことは自分では分からない。
自分らしく生きるとか、自分の本当にやるべきこととか、
本当は何をすれば正しいのか…それは分からない。

私は私なりにやってみるだけ。
自分らしいとか私が本当は何者だとか、そんなの自分じゃわかんない。

しかし、自分なりに出来ることを出来るだけ頑張ってみる、
自分で感じ自分で考え、自分で自分なりにやってみる……
そういうことが「自分らしい」ってことに繋がるんだと思う。

どんな人間として、どう生きて何をしたいか、それを自分で思い描き、
その為に今、何が出来るか、何をするか、それを考えて、やってみる。
なりたい自分になる努力をし、なりたい自分になる…。
いや、なれるかどうかは分かんないけど、何もしないと何もないから何かする。

長い目で見ると人生は、それを実行して、味を味わう長い夢かもしれない…
そして、短い目で見ると、何かを感じて何かをする、それの連続なのかもしれない。

「私」とは何か?
それは分からない、分からない故に私は進むのだ…

「運命」はあると思うけど「運命」に私は流されるだけの生き方は嫌だ。

~ここまでのあらすじ~

不法入国の疑いを掛けられたアリとカトー。
彼らを助けるために、アイシャはジムの言いなりになる事となった。
友人たちを助ける。ジムの条件を飲み込む。
動き出した歯車は止められない。
アイシャはそんな運命を受け入れることを決意した。

アイシャとジムは愛のない結婚をした。
その後、ハネムーンでドバイを訪れたが、
そこでアイシャは疎外感を味わうこととなった。
自分は何者なのか、アイシャはアイデンティティについて悩む。
そんな中、生き方について、ひとつの決意を固めるのであった。

明日、完結します。

結婚して二年

私とジムの間に子供が出来た。
ジムはこの男の子に「ジョン」という名前を付けた。

ジムはジョンの為、優秀な家庭教師を雇い、何人かの専属家政婦も雇った。
高い玩具、綺麗な音楽、最新のコンピュータ…あらゆる物をジョンに買い与えた。
しかし、ジムにとってのジョンは、あくまで「自分の跡を継がす存在」

ジムはジョンに資金を惜しげもなく使うが。
父であるジムが、自分の子にすることは、ただそれだけであった。
普通の親子のような関係はない、私とジムが普通の夫婦でないように……。

私はジョンを可愛がった。
ジムは嫌いだったが、彼との子、ジョンのことは大好きだった。

ジムにとっては自分の子さえ「駒」の一つに過ぎないだろう。
しかし、私にとってこの子は…
お腹を痛めて生んだ私の分身であり、唯一の血を分けた肉親なのだ。

私はジムが与えない分の愛も注ぐつもりでジョンを愛した。
ジャクソン夫妻が私を愛したように……

結婚して七年

ジョン「ねぇ、カレンが死んじゃった…」

アイシャ「え!」

カレンとは私が結婚前から飼っている猫のことだ、
私がアメリカに来て3年目から一緒で、妹のように可愛がった。
友達の少なかった私にはかけがいのない大事な存在だったのだ。

アイシャ「カレン……」

ジョン「ねぇ、もう、動かないの…?」

アイシャ「ええ…もう動かないわ…」

ジョン「嫌だよ、僕もっと遊びたい」

アイシャ「生き物はいつか旅立つわ…カレンにもその時が来たのよ…」

ジョン「嫌だ! さよならしたくないよ僕!」

アイシャ「それはね…無理よ、カレンは逝かなきゃだめなの。
      でもね、ジョン、あなたがカレンを忘れなければ、あなたの心の中でずっと生き続けるわ」

ジョン「本当に?」

アイシャ「本当よ…」

ジム「何を臭いこと言ってるんだ、猫なんか僕がまた買ってあげるよ」

アイシャ「ジム!!」

ジム「何がいい? カレンと同じアメリカンショートヘアか? それともキミはペルシャ猫のがいいかな?」

アイシャ「ジム! やめなさい!」

ジム「何?」

アイシャ「お金の問題じゃないのよ!」

ジム「なんだ、猫なんか金で買えるだろ? 何匹でも買ってやるよ?」

アイシャ「やめて! カレンはもう生き返らないわ! あなたがお金をいくら積んでも!」

ジム「…おいおい、たかが猫でそんなにムキになるな」

アイシャ「たかが猫!? あなたってなんて人なの!」

ジョン「二人ともやめてよ!」

ジョン「パパとママが喧嘩してるの見たくない…」

アイシャ「ジョン…」

ジム「…フン、キミが猫くらいでムキになるから悪いんだ」

ジョンは私たちが喧嘩をすることを嫌がる…
私はジョンに、なるべくジムと言い合っている所を見て欲しくなかったが、
たまに、今回のようジョンの前で言い合ってしまうこともあった。

アイシャ「ごめんねジョン…」

私はジョンを抱きしめる。

ジム「キミが悪いんだぞキミが…」

アイシャ「おねがい…もう黙って…」

ジム「フン…」

ジムは不機嫌そうにし、何処かに行ってしまった。

アイシャ「…カレンのお墓作ろうか?」

ジョン「うん…」

私とジョンは、広い庭の片隅にある、
大きなコニファーの根元にカレンのお墓を作った。

アイシャ「カレン今までありがとうね…楽しい思い出をありがとうね…」

ジョン「ありがとう…」

カレンは私やジョンの中で生き続ける、私はいつまでも忘れない。
彼女は旅立ってしまったが、私たちの心に楽しい思い出を残してくれた、
私やジョンに愛することを教えてくれた、命の大切さを感じさせてくれた。

アイシャ(私もいつかは旅立つけど…)

何かを後世に残したい、私はそう思った。
生き物は必ず死んでしまうけど、後世に何かを残せる。
カレンが大切な物を私たちに残したように、
私も価値ある何か、信じる何かを探し、子供たちに残そうと思った。

―UAE(アラブ首長国連邦)    ドバイ

結婚してから12年…早いものだ、もう12年だ。

私は5~6年ほど前から、弁護士の仕事は半分休業という感じになっていた……。
ジョンは10歳になるが、父親より母親の私を慕ってくれている…

ジムは数年程前から、仕事で世界中を忙しく飛びまわるようになった。
ロンドン、シドニー、シャンハイ、トーキョー、モスクワ、アンマン…
色々な都市を家族で見てまわったが、なんだか疲れてしまった。

現在は数ヶ月前からドバイの別荘に暮らしていて、
あと一年半ほど滞在する予定だ。

このごろは、ジムとは実質的に別居状態……
ジムはドバイを拠点にアラブ中を忙しく飛びまわっているので、
今、家にほとんど帰ってはこないのだ。

しかし、私もジムも離婚は望んでいなかった…
私はジョンの為、ジムは世間体の為、離婚はしたくなかったのだ。

この頃、私はドバイの大学に講師として招かれた、
滞在期間中はそこで教鞭を取るつもりだ。
講師の経験はあまりないので自信はないのだが……精一杯頑張るつもりだ。

「ようこそジャクソンさん!」

大学の人は短い間しかいられない私を快く迎えてくれた。
ちなみに、私は外では「ジャクソン」という旧姓を使っている、
ジムの苗字を極力使いたくないからだ……。

アイシャ「短い間ですが、よろしくお願いします」

大学関係者「いえいえ、こちらこそ」

ドバイの大学を見て、思っていたほどアメリカの大学との違和感を感じなかった。
設備なども整っていたし、女生徒も多い。
UAEは教育に力を入れていると聞いていたが、それはココに来てよく分かった。

アイシャ(ま、アラブ近代化の先駆けってわけだもんね…)

ドバイというところ自体が経済や産業も開放政策、優遇政策を取っている、アラブの先進都市で。
比較的「西側」寄り、「自由主義」寄りのスタンスの場所である。
私はアメリカやロシア、ヨーロッパ、日本で生活した時との違和感をさほど感じない……

ハネムーンで訪れた時も感じたことだが、私が子供の頃いたアラブとは全然違うと思った。

そんな都市のそんな大学で講師を始めて一月経った頃、一人の女生徒が現れた。

女性徒「アイシャさん…」

アイシャ「あなたは?」

女生徒「アイシャさん…覚えてる…かな? 私だよ!」

アイシャ「…えーと」

女生徒はサイフにつけたミスリバティのキーホルダーを私に見せる…

女生徒「これ…昔、あなたに買ってもらったのよ」

アイシャ「…あ! まさか! あなたミナね!?」

ミナ「そうよ…」

アイシャ「まぁ…大きくなったわね、見違えたわ」

ミナ「今、19歳よ…今年で二十歳になるわ…」

アイシャ「素敵なレディになったじゃない?」

女生徒は昔一緒にNYを見てまわった少女ミナだった!
12年ぶりに、まさかドバイの地で会うなんて……

アイシャ「ここの学生なの?」

ミナ「そ、私は留学したの」

アイシャ「偶然ね…」

ミナ「私もアイシャ・ジャクソンっていう名前を見た時はビックリしたよ!」

私とミナはコーヒーを飲みながら色々な話をした。

現在、アリはエジプトに滞在し仕事をしているらしい、
しばらくはトルコに帰らないそうだ……。
最初は色々大変だったそうだが、事業の方はなんとか巧く軌道に乗り、
トルコの店もアメリカの支店も好調だという。

アニスはトルコの家に独り残り、現在は一時的に独り暮らしだという。
まぁ、独り暮らしといっても、アリの仲間が何かと面倒を見てくれてはいるそうだ…。
彼は経営学を学びにトルコの大学へ行くため、今必死に勉強しているらしい。

カトーさんは現在長期休暇を取って、
自分の先祖が生きてきた南米や日本を観に行ってるらしい…。

休日、私とジョンはミナとショッピングに行く。

ミナ「この子、アイシャさんのお子さんですか?」

アイシャ「そ、ジョンっていうの」

ジョン「ミナお姉さんはじめまして! 僕はジョン、10歳です!」

ミナ「ふふふ、礼儀正しいのね」

ミナ「そっちの人は? アイシャさんのお友達ですか?」

アイシャ「え? え、ええ…そうよ」

女「…ライラです」

ライラとの付き合いは長いが、彼女は友達ではない、
私とジョンのボディガードの一人だ。
むくつけきの大男を連れてくるのは堅苦しいので、今日は彼女を連れてきた。

ライラ「…奥様、危ない所に行くのはおやめくださいね?」

アイシャ「わ、わかってるわ…」

ライラ「旦那様が心配なさいますわ…」

アイシャ「ろくに家に帰ってこない人はいいのよ…」

ライラ「…旦那様だけではありません、私たちも奥様が心配ですわ。
     奥様はいつも危ない場所に行きたがるので、ハラハラしますわ」

アイシャ「私は好奇心旺盛なのよ! だ、だいじょうぶ、あなたに迷惑は掛けないわ!」

ライラ「奥様…」

ライラは心配性だが、頼りになるし信用出来る。
彼女と運転手のトムは10年以上の付き合いだ、
ジムの部下の中では一番信用できるし、私のよき理解者でもある。

―ジュメイラビーチ

ショッピングをたっぷり楽しんだ後、
私たちはジュメイラビーチまで海を観に行った。

ミナ「ココってとっても綺麗ですよね」

アイシャ「ええ、私もここの風景は大好きよ」

夕日のアラビア海、とても神秘的な光景だった。

ミナ「あの、相談…が、あるんですけど」

アイシャ「え、何かしら?」

ミナ「その…二人だけで話したいことなんですけど」

アイシャ「え? 何かしら? 大事な相談なようね…」

私はジョンとライラに、少しだけ離れたところにいて貰うことにした。

アイシャ「ジョン、ママ、大事なお話があるから、ライラと少しあっちで待っててくれる?」

ジョン「うん! 分かった!」

ライラ「…さ、行きましょうか、坊ちゃま」

アイシャ「さて、何かしら?」

ミナ「あの、進路についての相談なんです……」

アイシャ「進路?」

ミナ「私、卒業したらアメリカに行くつもりです」

アイシャ「アメリカに!」

ミナ「父の知り合いがアメリカにいます、その人が私の面倒を看るから、
    その気があるならアメリカの大学に留学しないかって…」

アイシャ「…それで、あなたはどうしたいの?」

ミナ「迷ってるんです…」

アイシャ「迷っている? 何を?」

ミナ「私はアメリカに憧れています、同時にアメリカを憎いとも思います」

アイシャ「…どういうことかしら?」

ミナ「覚えていますか?NYで私と一緒に買い物したことを。
    私は母さんとああいうことが出来なかったから…
    …一日だけでも、あなたとああいうことが出来て嬉しかったんですよ」

アイシャ「覚えているわ…私もあの時とても楽しかったわよ…?」

ミナ「…私の母さん、私とアニスが小さい頃に病気で死んだんですけど。
     私がアメリカを怖いと思うのには、その死んだ母さんが関係してるんです」

アイシャ「んー…どういうことかな…?」

ミナ「私、父の本当の子供じゃないの、アニスとも本当の姉弟じゃない…
    私は母の連れ子なんです」

アイシャ「え、連れ子なの?」

ミナ「私の本当の父はアメリカ人です」

アイシャ「え!」

ミナ「アメリカ人の父…私は顔も名前も知らないヤツよ…
    その人と母は付き合っていて、その間に出来た子供が私なの」

アイシャ「その…本当のお父さまはどうなったのかしら?」

ミナ「お腹にいる私と、身重だった母を置いて逃げた。
   きっと邪魔だったんでしょうね、何も言わずに突然消えたらしいわ…」

アイシャ「なんてこと…」

ミナ「アメリカ人の父にしてみれば、母との関係は単なる遊びだったみたい。
   子供が出来たなんて、マズイことだったみたいね」

アイシャ「・・・・・・・・・」

ミナ「ヤツは私と母を捨てたの! 私と母は捨てられたの!」

アイシャ「ひどい…」

ミナ「イスラム社会で私生児とシングルマザーは差別される…
    母はだいぶ苦労したそうよ…
    私だって、ハーフで変わった顔してたから、子供の頃だいぶ虐められたわ」

アイシャ「つらかったでしょう…私にもその気持ち分かる…」

ミナ「母と私を捨てて逃げたアメリカ人が憎かった!
    私は自分の生まれを呪った、愛もなく私を作った無責任なヤツを憎んだわ…でもね……」

ミナ「あなたと観たアメリカ、圧倒的だった! あなたと歩いたアメリカ、魅力的だった!
    アメリカで会ったあなた、とても素敵だった! あなたのような女性になりたいと思ったわ」

アイシャ「そ、そう、ありがとう、光栄だわ」

ミナ「私にもアメリカ人の血が流れてるのかしらね…あの自由の国に憧れたわ…」

アイシャ「…まぁ、決してすべての人に自由なわけではないんだけどね」

ミナ「ねぇ、アラブからアメリカに渡って成功したあなたにこそ聞きたいわ」

アイシャ「何かしら?」

ミナ「アメリカに行ってよかったと思う? 仮にもしアラブにずっといたらどうだったと思う?」

アイシャ「え?」

ミナ「私さ何がいいのかわかんないよ…ねぇ、アイシャ、教えて…」

アイシャ「甘ったれないで!」

ミナ「え?」

アイシャ「そんなのあなたが決めるべきことよ! あなたが決めるしかないこと!」

ミナ「…え?」

アイシャ「何がいいのか、何がよかったのか、何をすれば真に正しいかなんて人間に分からない、
      ある時の不運がある時に幸運になるなんてこともあるわ…。
      人生なんて曖昧で分からないことだらけよ、
      もし分かるとしたら、死ぬ瞬間にあるいは…ってくらいなものだと思う」

ミナ「・・・・・・」

アイシャ「仮にとか、もしもとか、私のそんな想像の話を聞きたいの?
      そういう話は一種の妄想よ、どっちを選んでたら幸せだったか本当のことは分からない」

ミナ「ごめんなさい…」

アイシャ「謝らなくていい、若い頃は誰でも悩むわよ…私なんか今でも色々悩むわ…一生悩むかもね…
      でもね、ミナ、自分の生き方は結局、自分でしか決められないわよ?
      今の自分とじっくり相談してみなさい…自分をよく見てみなさい、自問自答してみなさい…
      そうして自分で答えを見つけて、自分で行きなさい」

ミナ「・・・・・・・・・・」

アイシャ「ミナ、自分の信じた道を行きなさい!」

アイシャ「私から見て、あなたはとっても魅力的な女の子ですよ、自信を持ってください……」

ミナ「…自信なんてない、私たまに思うもん、私なんか生まれてこないほうがよかったって、
    私は愛もなく作られた、そんな私に価値なんてあると思う?」

アイシャ「悲しいことを言わないで…アリやアニスがそれを聞いたらどう思うかしら?
     仮に愛もなく作られた人間だとしても、アリやアニスはあなたを愛してる…
     私も親だから思うけど、家族があなたのそんな台詞を聞いたら悲しむわよ…」

ミナ「・・・・・・・・」

アイシャ「生まれてこない方がいい人間なんていません、価値のない人間もいませんよ」

ミナ「…アイシャ」

アイシャ「自分で自分を価値がないと思うなら、価値を得る努力をなさい、
      努力もしないで泣き言を言うのは逃げよ…」

ミナ「そんな…どれだけ頑張れば…」

アイシャ「それは分からない、あなた次第、あなたが納得いくまで頑張りなさい…」

ミナ「…アイシャ、私、頑張ってみるよ」

この後、私はミナをアパートまで送ってあげた

アイシャ「おやすみなさい…」

ミナ「アイシャ、今日はありがとうね…おやすみなさい…」

もう夜だ……私とジョンとライラも家に帰ることにした。
私はこの晩、一人で「教育」に関する資料を読み漁った。

アイシャ「教育…か…」

この頃、私は教育に関心を持っていた、教育に関わりたいと思っていた、
弁護士を辞め、新たに教育関係の「何か」を始めたいと思っていた。

アイシャ「これ…」

一つの資料が目に留まる、私はその資料を手に取る。

アイシャ「ユニセフ…」

私は資料を見ながら今までの人生を振り返った。
物心ついた頃から、ゲリラの村にいたあの少女時代から、自分の人生を振り返る。

アイシャ「劣悪な環境、つらいことの強制、閉ざされたチャンス…
      あの時代は地獄だった、今なんかあの頃に比べれば…」

生きるか死ぬかの世界で私に求められたものは「女である」ということだけだった。

アイシャ「私は知性と感情を持った人間よ…それはあの頃も変わらなかったはずなのに…」

この晩、私は一つの決意を固めた……

―翌日

ジョン「ママの作るカレーは美味しいなァ」

アイシャ「そう? ありがとう」

この日、私は朝早くから身支度をし、カバンにユニセフの資料を入れ、準備を整えた。

アイシャ「さ、出かけるわ! ジョン、行ってくるね!」

ジョン「いってらっしゃい! 気をつけてね!」

新しい生きがいを見つけた、
私は一番近いユニセフの事務所を目指す…。

アイシャ「さぁ、頑張らなくちゃ!」

私は私として今を生きる、それはとても貴重なこと、だから頑張る。


~THE END~

だいぶ長くなりましたが完結しました。
読んでくださった方、お付き合い頂きありがとうございます。

10年以上前に書いた処女作の再掲ですので、
読み難い部分もあったかとは思われますが。
それでも最後まで読んでくれた方がいらっしゃるなら、有り難い事です。

追伸・本作への質問等があれば、何なりとどうぞ

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