【モバマス】彼女への贈り物 (20)

彼女の誕生日が迫ってきました。


とても大切な友人です。


いつも、どこへ行くのも一緒でした。


彼女はいつも本を読んでいました。


私と外で遊ぶ時も、学校で一人でいるときも。


彼女が私と遊ぶ時に本を読んでいることは嫌ではありませんでした。


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私が彼女を遊びに誘い、彼女が承諾し、走り回ったり、滑り台で滑ったり、ブランコで遊んだり。


彼女は体が弱いのかすぐに日陰の方に行きいつも持っている手提げから本を出して読むのです。


そして私はいつも「今日は何を読んでいるの」と聞くのです。


「文香ちゃん、今日は何を読んでいるの」


文香「これはね、外国の偉い人が書いた本なんだって、叔父さんが言ってた」


「外国、文香ちゃんはすごいね、外国の本が読めるんだ」


文香「違うよ、きちんと日本語になってるから読めるんだよ」


「でも偉い人の書いた本が読めるなんて、文香ちゃんはすごいや」

そう言うと彼女はそんなことないよと顔を赤くしながら俯向くのです。


「そろそろ暗くなってきたね」


文香「そろそろ帰らないとダメだね」


「一緒に帰ろっか」


文香「いいの」


「うん、男は女の子を守るんだ、ってお父さんに言われたんだ」


文香「ありがとう」


そう言って手をつないでゆっくりと文香ちゃんの家へと向かうのです。

この頃私は文香ちゃんのことが好きだとか嫌いだとか、そんな感情はありませんでした、ただ一緒にいて楽しい、面白いと感じるだけの子供でした。


そう、あの時の誕生日は、今でも忘れることのできない特別で不思議な誕生日でした。


彼女の誕生日が今日であることを知ったのは学校で帰りの会をしているときでした。


「文香ちゃん、今日誕生日なんだね、おめでとう」


文香「ありがとう」


「それでね、今日遊べるかな」


文香「うん、大丈夫」


「それじゃあ、5時に公園に集合ね、またね」


文香「あ...行っちゃった.......」

急いで家に帰り貯金箱を割り中身の小銭を数えます。


209円


何度数えても、何度財布の中を確認しても変わりません。


お小遣いというものを当時の私は貰えていませんでした、母の手伝いをし、たまにもらえるお金を使ったり貯めたりを繰り返しての結果がこれである。


私は209円をポケットに入れポケットのボタンを閉じて、外へ出て、様々な店を見て回りました。


あらかた店を見て回りなかなか良いと思えるものに出会えなかった不安を振り払うように足を進めていました。


露天商の前で足を止めました、綺麗な栞を見つけたのです。

青いステンドグラスを思わせるような何かで作られた鳥を金属で縁取り、本が傷つかないようにしっかりとヤスリがかけられていた栞でした。


私はすぐにこれだと思い、値段を見て絶望を覚えました。


2352円


私の手持ちでは到底手の届かないものでした。


家に帰る途中四つ葉のクローバーを見つけ、最悪これをプレゼントしようと考えました。


家に帰り、本棚に目が止まりました。

絵本がたくさん入った本棚、その中に1冊だけ古ぼけた大きな本が存在感を放っていました。


昔、父から貰った本です、父がよく読んでくれた本で自分で読めるようになってから何度も何度も読み返した、そんな本です。


父はこの本を好きにして良いと言ってくれました。


彼女の笑顔がふと、頭の中で浮かび上がりました。


本を手に取り、急いで家を出て、ある場所に向かいました。

「おや、珍しい、今日は君一人かい」


「あの...すみません叔父さん、本をお金にしてほし良いんですけど」


「どれどれ、見せてごらん」


「これなんですけど」


「ふーむ、これは....君のお父さんに貰ったのかな」


「はい」


「でもなんで売ろうと思ったんだい」


「今日は....その..文香ちゃんの....誕生日だから」


「覚えていてくれたのかい、嬉しいねえ.....でも、本当に良いのかい、これは君も気に入ってたはずだろ」


「.....大丈夫です、もう覚えるまで読みましたから」


「そうかい....わかった買い取ろう、2240円で良いかい」


頭をすごい勢いで縦に振ったのを覚えています。


「はい、2240円、これからも文香となかよくしてやってくれ」


「うん、ありがとう叔父さん」


---------

「さて...ん?文香、どうしたんだい」


文香「叔父さん..少し....出かけてくるね...」


「そんな大荷物でかい?まあ、怪我だけしないでね」


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急いで公園へと向かいました。


公園の時計は5時5分と表示していました。


木の下では文香ちゃんが待っていました。


「ごめんね文香ちゃん、遅くなって」


文香「大丈夫、私も今来たばっかりだから」


「それでね、文香ちゃん」


ポケットから丁寧に包装されたプレゼントを出し彼女の前に差し出す。

「お誕生日おめでとう文香ちゃん」


文香「ありがとう、開けても良い」


「もちろん」


彼女は丁寧に包装開け中身を見て喜び....また栞を元に戻してしまいました。


「文香ちゃん、栞が好きだったでしょ、これからはこれも使って本を読んでくれると嬉しいな」


彼女は俯き、顔を上げると笑顔でありがとうと言ってくれました。


文香「ありがとう、大事にするねこれで私の持ってる本を全部読むね」


彼女はそう言って栞の入った袋を手提げに仕舞いました。

文香「あのね、実は私もプレゼントを持ってきたの」


文香「お誕生日おめでとう....やっと言えた」


言葉とともに文香ちゃんが手提げから袋を取り出す。


プレゼントのことで必死になっていて自分の誕生日が今日だったことを忘れてしまっていた。


「ありがとう文香ちゃん、開けても良い」


文香「はい、どうぞ」


袋を開け中身を見て、さっき文香ちゃんがしたのと多分同じ表情をしているでしょう。

袋の中にはブックカバーが入っていました。


革が使われていて高価そなものでした。


文香「ずっと大切にしてる本があったでしょ、繰り返し読んでるって聞いてたから、そういうのがあったほうが良いかな、って思って」


私はとても怖くなりました。


文香ちゃんが私のためにブックカバーを買ってくれたのは嬉しいのですが、それを使うための本を売ってしまったのです。


それが文香ちゃんのことを裏切ってしまっているような気がして怖かったのです。

涙が出てきて、震える声で彼女に謝りました。


「ごめん、文香ちゃん....本、もうないんだ」


文香「え」


「ごめんね....文香ちゃんに喜んでもらいたくって、売っちゃったんだ、本」


彼の告白を聞いて私は自分のことが嫌いになりそうでした。


勇気を出して本当のことを教えてくれたのに、私は彼に嘘をついてしまいました。

彼女は泣きながら謝りました。


文香「ごめんなさい、私も嘘を言いました、あなたに喜んで欲しくて、持っている本を全て売りました」


それからはお互いわんわん泣き合いました。


泣き終わるとお互いに手をつないでゆっくりと帰り道を歩きました。

待ち合わせの場所に着き、彼女を待ちました。


しばらくすると彼女が走ってこちらに向かってきました。


文香「すみません、遅くなってしまって」


「構いませんよ、ではいきましょうか」


文香「はい」


二人で歩き、公園へと向かいました。


文香「懐かしいですね...ここ」


「はい」


「......文香...誕生日おめでとう」


文香「お誕生日、おめでとうございます」


気恥ずかしさからか二人で少し笑う。

気恥ずかしさからか二人で少し笑う。


「あの時とはもう、違いますよ」


文香「.....そうですね、でも....とても嬉しかったです」


「私もです」


カバンから包みを取り出し彼女に渡す。


彼女もカバンから包みを取り出し私に渡してくる。


互いに頷いて、包みを破ると。


お互いに送ったのは全く同じ本だった。

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