渋谷凛「女の子が苦手なPとのお話」 (21)

前にここで書いてたけど途中で断念したネタのリベンジです

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凛「おはようございます」


その日も私はいつものように通い慣れた事務所へと入った。

扉を開けたら見慣れた風景が広がっている……と、思ったけど。

一つだけ、見慣れないものが……いや、ものじゃなく……人が。





P「……あっ」


凛「えっと……あなたは……誰?」

 

 
P「あ……えと……お、俺は……」


見たことがないその人は、私と目が合うなり途端に狼狽し始めた。

怪しい……もしかして……泥棒か何かじゃ……!?


P「そ……その……あの……き、今日から……その……」

明らかに動揺した様子のその人は、何事か呟きながらじりじりとこちらに寄ってきた……懐に手を入れつつ。

ま、まさか、凶器? 襲われるっ?

ど、どうしよう……こ、こういう時は……!


凛「だ、誰かー! きてー! 怪しい人が事務所にっ!」

P「え、ええっ!? ちょ、ちょっと待って……俺は怪しい者じゃなくって……!」

 

 




ちひろ「フンフフ~ン♪」

ちひろ「おはようございます!」

未央「あっ、ちひろさん! 丁度いいところに!」

ちひろ「どうしたの未央ちゃん。そんなに慌てて」

未央「不審者が出たんだよ事務所に!」

ちひろ「ええっ、不審者!? だ、大丈夫なの? 警察は?」

未央「意外と大人しい不審者だから、誰かが怪我とかはないけど……警察はこれから呼ぶとこ! とにかくちひろさんも来て!」

ちひろ「え、ええ!」

 

 




凛「……それで? ここで何してたの? 泥棒?」

P「そ、そんな……泥棒なんて……な、何もしてないです……」

奈緒「じゃあ何でウチのプロダクションに関係ないやつが事務所にいるんだよ?」

P「だ、だからそれは……」


ちひろ「みんな大丈夫!?」

P「あ…………ち、ちひろさーん!」

ちひろ「って……え? 不審者って……Pさん?」

凛「えっ? ちひろさん、この人の事知ってるの?」

ちひろ「いや……知ってるも何もその人は……」

 

 
『えーっ!? この人が新しいプロデューサー!?』


ちひろ「そうです! 彼はPさん! 今までは私の下で事務作業や、お仕事を取ってきたりしてくれてたけど、今日からあなた達のプロデューサーになる人……」

ちひろ「なんですけど……どうしてこんな騒ぎに!?」

奈緒「それは……凛がいきなり大声で叫ぶから! 元々は凛が勘違いしてこんな大事に……」

凛「ず、ずるい。奈緒だってこの人の顔見たら絶対不審者だって……」


P「す、すいません俺が悪いんです!」

全員『』ビクッ


P「あ、いや……お、俺が……怪しかったから……疑われて当然でした……す、すいません」

凛「……」

未央「ていうか……今日からプロデューサーが来ること知ってたのに、それを伝えてなかったちひろさんも問題な気が……」

ちひろ「ぎくっ! ……あ、あはは! いやー、まぁでも本当に不審者じゃなくてよかったじゃないですか! ね!」

ちひろ「という事でこのお話はおしまい! Pさん、今日からよろしくお願いしますね!」

  

 


凛「まさか、あの人が私たちのプロデューサーだったなんて……」

知らなかったとはいえ、出会って早々失礼なことしちゃったな……挨拶ついでに一言謝りに行こう。

そう思ってプロデューサーの元に行くと……


未央「さっきはごめんね、プロデューサー」

奈緒「わ、私も……酷い事言ったかも……ご、ごめん」


未央や奈緒などの子たちにすでに囲まれていた。

どうやら少し出遅れたみたい。また後で行こう。

そしてしばらく休憩室で時間を潰していると……。


P「……ふぅ」ガチャ

なんだか疲れた様子で、プロデューサーが入ってきた。

 

 
凛「あ……プロデューサー」

P「ん……? って、わっ! えっと……し、渋谷さん!」

自己紹介はまだだったけど、一応こっちのことは知ってるみたい。


P「あ、休憩中だった? ごめん、すぐ出るね……」

凛「え、いや別に……」

こっちが何か話を切り出す前に、プロデューサーがそそくさと出ていこうとしてしまう。

もしかして、あまりアイドルと交流を持ちたくない冷めたタイプのプロデューサーなのかな?

 

 
そう思ったけど、こっちとしても一言お詫びくらいはしておきたいので……

凛「あ、あのさ……さっきの勘違いの件……ごめんなさい」


すると背中を向けていたプロデューサーが、くるっとこちらに振り返って言った。

P「あはは、いいよいいよ……ていうか、アレだな。ここのアイドルの子達は本当に良い子ばかりだね」

凛「え? な、何でそうなる訳? こっちはアンタを不審者呼ばわりしちゃったのに……」

P「しょうがないよ……だって、実際不審者だったし俺。あれだけ挙動不審な奴がいたら俺だって疑うさ」

凛「そういえば……どうしてあの時あんなに動揺してたの? あれを見て私てっきりアンタが後ろめたい事してるのかと思っちゃって……」

P「あ、はは……ごめん。実は、俺……」



P「女の子が苦手なんだよね……」



 

 

え……。


凛「女の子が苦手って……な、なんでそれでアイドルのプロデューサーなんかやってるの?」

P「そ、そうですよねー……あはは」

P「じ、実は……」


話を聞くとプロデューサーは、元々最初は事務的な仕事や雑用などの小間使いをしていた。

だけど、最近ウチの事務所はどんどんアイドルが増えていて、それを支えるプロデューサーの数が圧倒的に足りなくなってきているらしい。

そこで社長が、これまでアイドル達とは直接関わりのないところで仕事をしていた彼にまでプロデューサーを頼んできたということみたい。

P「今日は大事な初日だったから、バッチリ決めてアイドルの子達に上手く溶け込むつもりだったんだけどな……」

凛「えっと……言ったら悪いけど怪しさしかなかったよ」

P「うう……」ズーン

 

 
凛「でも、そっか。人手が足りないから、仕方なくプロデューサーになったんだね」

P「あ、いや! そういう訳ではないよっ!」

凛「え?」

P「ごめん、誤解させる言い方だったね……ええと、経緯はどうあれ、今の立場は全然嫌ではないんだ! むしろ、すごく……嬉しい」

凛「……そうなの?」

P「うん……っていってもあんまり説得力ないよね……」

P「よ、よし……み、見ててね。これから堂々とみんなをプロデュースできるよう、頑張るから」グッ


あまり頼りになりそうにない声で意気込んでみせたプロデューサーを見て、なんだかなぁ、と思う。

まあでも、とりあえず冷めたタイプの人っていうのは勘違いだったかも。


けど、この人。間違いなく……


アイドルのプロデューサーには、向いてない……ね。


 

P「そんな私も1日20分のウォーキングですっかりこの通り」

凛「わぁ凄い。範馬勇次郎みたいな筋肉」

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