【ゆるゆり】ちなつ「私の、気持ち」 (49)
こんばんは。
あまり書いた事なかったのですが、ちなつ視点のSSを書きました。
お付き合い頂けると嬉しいです。
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暑いのが苦手な私にとって、秋は本当に過ごしやすい季節。
どこか切ない空気を含んだ風がすうっと流れて、まるで私の気持ちを代弁してくれてるみたい。
かさかさと乾いた音を立てて滑っていく枯れ葉達。
寒い冬を必死に堪えて、暖かい春には眠い目をこすりながら、慌てて咲いて。
咲き誇れる時間は短くても、精一杯「ここにいるよ」って主張して、花粉を飛ばして。
来年咲き誇るであろう子供達のために、少しでも元気を絞り出して、絞り出して。
精一杯頑張ったら、「あとはよろしくね」って、地面に落ちて休むの。
今の姿は、いっぱい頑張った証。
だから私は、枯れた花でも美しいと思う。
今は部室に私一人。
結衣先輩はまりちゃんのお世話、京子先輩は漫画を買いに行くとか。
あかりちゃんは日直をするはずだった子が風邪で休んだから、そのお手伝い。
宿題も今はやる気起きないし、かと言って他にやる事もないし。
いつもが騒がしいから、こういう時って想像以上に淋しい。
駄菓子屋にでも行こうかな。
この部室に初めて来た日、結衣先輩が入学祝いに奢ってあげる、なんて言って連れて行ってくれたっけ。
……んー、でもやっぱいいや。
お昼休みにも向日葵ちゃんのクッキー食べたし、あんまり食べ過ぎると太っちゃう。
普段なら結衣先輩の事を考えてたら気が付いたら1時間経ってる、なんて事はしょっちゅうなんだけど。
今日は、そういう風に頭が動かないっていうか、からっぽ。
なんでからっぽなのか、考える気も起きない。
考える気が起きない自分を責める気も起きない。
原因は分かってる。
でも、私にはどうしようもない事。
そもそも私が結衣先輩と幼馴染に生まれなかった事を悔やんだり、結衣先輩と幼馴染である京子先輩やあかりちゃんのどちらかが、もしも自分だったら、なんて考えはない。
考えた事はあったかもしれないけど、今はそうは思わない。
確かに私と結衣先輩が幼馴染だったなら、私のこのもどかしさも、幾らか取り除かれると思う。
だけどもし私が、ごらく部以外で結衣先輩と出会っていたら、今のように結衣先輩に恋していたかどうかは分からない。
私が結衣先輩を好きになった切っ掛けを作ったのは、皮肉にも京子先輩。
傍若無人で、強引で。
だけど何だかんだで皆を見ていて、気付けばあのペースに巻き込まれてる。
聞いた話じゃ、ごらく部を作ろうって言ったのも京子先輩らしい。
京子先輩があの性格じゃなかったら、京子先輩が魔女っ娘ミラクるんを好きじゃなかったら、私が同じ外見でも、食い付かなかったかもしれない。
つまり京子先輩が居なかったら、私は誰もいない茶道部室に落胆して帰って、ごらく部に入らなかったと思う。
今の京子先輩を作り上げた環境すらも、私が結衣先輩と出会うために必要なものだったなら。
結衣先輩に、あかりちゃん。過不足無く、この二人が幼馴染だったから、京子先輩はそんな風になったんだとしたら。
私が結衣先輩と出会えたのは、京子先輩と、あかりちゃんのお陰だとも言える。
なんだかんだ言って結衣先輩は京子先輩の事が好きなんだと思う。
ずっと結衣先輩の事を見てるんだもん。それくらい分かる。
結衣先輩と結ばれるためには、そんな京子先輩という存在を、私は超えなきゃいけない。
そして、もう一人。
結衣先輩が少なからず愛情を持っているのが、あかりちゃん。
あかり「お待たせぇ、ごめんねちなつちゃん!
お友達とお話してたら遅くなっちゃったよぉ」
ちなつ「あかりちゃん、お疲れ様。
今お茶入れるからね」
あかり「わぁ、ちなつちゃん、ありがとう!」
あかりちゃんは、とってもいい子。
京子先輩がどんなに場をかき回そうと、結衣先輩が京子先輩を叱ってる時でも。
私がそんな二人を羨ましがろうと。
あかりちゃんは、ニコニコしてる。
あかり「……ちなつちゃん、どうかした?」
ちなつ「ん……なんでもない」
あかり「そう? 何か悩んでる事があったら、あかりで良ければお話聞くからね」
ちなつ「……うん、ありがとね」
あかり「えへへ」
はぁ、ほんとに、なんでこんなにもいい子なんだろ。
私は他の人の悩みなんて聞いてる余裕なんてないし、聞いても大して考えずに適当な事言っちゃったりするくらいなのに。
あかりちゃんには何度も結衣先輩の事で相談に乗って貰ってる。
練習とは言え、キスも、した。
結衣先輩の唇、結衣先輩の身体、結衣先輩の声。
あの時私の心は、結衣先輩とキスをしていた。
でも、実際の相手は、あかりちゃん。
結衣先輩みたいに胸もなくて、結衣先輩みたいにかっこよくもないけど、優しくて可愛い、あかりちゃん。
私が誰かとしたキスは、後にも先にもあの一回だけ。
ちなつ「……あかりちゃん」
あかり「うん?」
ちなつ「……キスの練習、した時の事、覚えてる?」
あかり「えっ……!? う、うん……」
ちなつ「安心して。またしたいって話じゃないから」
あかり「そっ、そっか……あはは……」
ちなつ「あの時、どう……思った?」
あかり「え、えっ……どう……?」
ちなつ「私は、練習とは言ってもあかりちゃんとキスした。
私が聞いた話じゃ、あかりちゃんは初めてだったんでしょ?
私も初めてだったけど……」
あかり「……うん」
ちなつ「嫌だって思った? ……って、思わないわけないか」
あかり「え、あー……あの時は、嫌っていうか、どうしてあかりなんだろうって思ったの。
ちなつちゃんは、嫌じゃなかったの?」
ちなつ「私が? なんで?」
あかり「だ、だって、ちなつちゃんが……その、キスしたい相手は、結衣ちゃんなんでしょ?
練習でも、キスは、キスだから……」
ちなつ「まぁね。でも、私はあかりちゃんとキスするのは、嫌じゃないよ」
あかり「えっ……?」
ちなつ「ただの友達となら、キスなんかしないよ。
あかりちゃんは、大好きな友達だもん。
ただの友だちよりも、ずっとずっと特別なの」
あかり「……ちなつちゃん……」
ちなつ「でも……ごめん。
あかりちゃんの気持ちまで、考えられてなかったよね」
あかり「そん、な……」
ギュッ
あかり「ぁ……」
ちなつ「……ごめんね」
あかり「ん……」
ちなつ「あかりちゃんに、もし好きな人が出来て……
キスの練習したくなったら、私がいくらでも、相手になるから」
あかり「…………うん。その時は……お願いしよう、かな」
ちなつ「……もう、あかりちゃん、優しすぎ」
あかり「そうかな」
ちなつ「そうだよ」
あかりちゃんが私にそんなお願いをする事なんて、ないだろうな。
誰よりも、他の人の幸せそうな顔が、好きな子だもん。
そこまで考えて、私は自分のした事の罪深さに、気付いてしまった。
困っている子を見かけたら、自分のことも顧みずに手を差し伸べるような子の、純粋な心を。
そんな考えはなかったとは言え、結果として。
大切な友達という立場を利用して、弄んでしまったんだ。
将来、誰かがあかりちゃんを好きになって、キスをする事になって。
あかりちゃんみたいな純粋な子だもん、きっと初めてなんだろうなって、ドキドキして。
そう、思ってたら。
私みたいなのに「練習だから」って言って、初めては、奪われてて。
きっとあかりちゃんは、私を庇って、私の事を言わない。
自分がちゃんと断れなかったのが悪いんだって、自分が苦しむ事になっても、我慢するんだ。
私はそんな事を知らずに、のうのうと生きて。
久し振りに会ったあかりちゃんが、凄く疲れた顔をしていても。
あかりちゃんは何があったかなんて、言わない。
言っても、事実は変わらないから。
言っても、悲しむ人が一人、増えるだけだから。
あかり「ちなつちゃん!?
どうしたの!? 大丈夫っ!?」
ちなつ「……え?」
あかり「どこか具合でも悪いの? 保健室行く?
あ、でももう放課後だし、先生帰っちゃってるかなぁ……」
ちなつ「あかりちゃん、急にどうしたの?
私はなんともないけど……」
あかり「だ、だってちなつちゃん、泣いてっ……!」
ちなつ「え? ……あ」
そっか。私、泣いてたんだ。
あはは。さっきあかりちゃんになんて事をって考えたばっかりなのに。
それで泣いて、また心配かけてたんじゃ世話ないよね。
ちなつ「ごめんねあかりちゃん、心配かけて。
大丈夫。ちょっと考え事してただけだから」
あかり「そんな、泣いちゃうまで我慢しないで……話して、欲しいな……」
ちなつ「あかりちゃん、違うの……いや、違……くもないけど」
あかり「ちなつちゃんが泣いちゃう程悩んでるのに、言って貰えないの、辛いよ……」
ちなつ「……ごめん。私の、問題だから」
あかり「それでもっ……あかりじゃ頼りないかもだけどっ……!」
ちなつ「……るさいなぁ」
あかり「っ……」ビクッ
ちなつ「私はあかりちゃんの事で悩んでるってのに。
私が許してって言ったら、あかりちゃんはきっと、許しちゃうよ!
でもそれじゃ、私は許された気にならない!
どうしたらいいのか、分かんないの!」
あかり「ちなつちゃん、あかりの事でって……なんの事か、分かんないよっ……!
あかりに悪いところがあるなら、直すからっ……」
ちなつ「違う! あかりちゃんは、何も悪くないの! 悪いのは私なの!
でも、だけどっ……!」
あかり「それでも、言ってくれなきゃっ……!」
ちなつ「……」
あかり「……」
ちなつ「……ごめん。今はまだ、私の頭の中も、ぐちゃぐちゃしてる。
だから……整理する時間が、欲しいの」
あかり「……うん、わかったよ」
ちなつ「あかりちゃんが悪いんじゃないのに、怒鳴ったりして、ごめん。
整理が出来たら、あかりちゃんにまた、相談する。約束する」
あかり「うん……約束だよ」
ちなつ「……じゃあ私、今日は帰るね。
また、明日」
あかり「うん。また明日ね」
いつも笑顔で「またね」って言ってくれるあかりちゃんが、今日は今にも泣き出しそうな顔をしていた。
─
──
───
ちなつ「最低だ、私……」
あかりちゃんは悪くないって言いながら、あかりちゃんの眩しさが悔しくて、あかりちゃんにあたったりして。
あかりちゃんはそれでも、私の悩みに気付けなかった自分を、責めるんだろうな。
私はこんなに嫌な子なのに。
こんな嫌な子を本気で心配して、涙まで流して。
優しすぎるよ。いい子すぎるよ。
あのキスを今更なかった事になんて、出来っこない。
仮に記憶を失わせる薬があったとして、あかりちゃんからその記憶を失くせたとしても。
私には、私の中からもその記憶を失くそうなんて、そんな甘えた事を考える資格なんてない。
結衣先輩や、京子先輩に見られた事なんて、この際関係ない。
私は、あかりちゃんに酷い事をした。
それを、どうやって償うか。それだけを、考えるの──
あかり「ちなつちゃん、今日、は……」
ちなつ「……ごめん」
あかり「そっ、か……」
ちなつ「……またね、あかりちゃん」
あかり「うん……またね……」
翌日も、そのまた翌日も。
私は、ごらく部に行かなかった。
考えても考えても、頭の中はずっと同じ事がぐるぐる回って、全然先に進まなかった。
向日葵「……吉川さん」
ちなつ「……なぁに? 向日葵ちゃん」
向日葵「その、赤座さんと……何か、あったんですの?」
ちなつ「……ごめん。あかりちゃんと、私の問題だから」
向日葵「あ……そ、うですの……ごめんなさい、差し出がましい事を言って……」
櫻子「……ちなつちゃん。同じ事を言うにしてもさ、もっと言い方ってもんがあるんじゃないの」
向日葵「櫻子」
櫻子「私達、友達だろ!?
一言、相談とかしてくれたって……!」
向日葵「櫻子、やめなさい」
櫻子「それとも何? 私達は所詮、相談すらして貰えないような間柄だったって事なの!?」
向日葵「櫻子ッ!! やめなさいって言ってるでしょう!?」
普段の向日葵ちゃんからは、想像も出来ないような、大きい声だった。
ちなつ「……ごめん。帰るね」
櫻子「ちなつちゃん!? まだ話は終わってなおごぉっ……!?」
向日葵「……ごめんなさい、櫻子。
後でいくらでも殴っていいですから」
ちなつ「……ごめん」
静かに扉を閉めて、私は教室を後にした。
─
──
───
櫻子「あかりちゃん! 何があったの!? ちなつちゃんにいじめられたの!?」
あかり「心配してくれてありがとう、櫻子ちゃん。
でも、そういうんじゃ、ないんだよ」
櫻子「あかりちゃんも……私に話してくれないの……?」
あかり「……ごめんね。あかりも、ちなつちゃんが何で悩んでるのか、ちゃんとは分からないんだ」
櫻子「分からない、って……あかりちゃんは、それでいいの!?」
あかり「……ちなつちゃんはね、今あかりの事で、いっぱい悩んでくれてるんだ。
あかりは、ちなつちゃんの整理が付くまで待つって、ちなつちゃんと、約束したから」
櫻子「だからって、あんな態度っ……!」
向日葵「櫻子……簡単に整理が付かない事だって、ありますわ……」
櫻子「向日葵は悔しくないのかよ!
私は悔しい! 悔しい悔しい悔しいっ!」
あかり「……向日葵ちゃんも、櫻子ちゃんも、ありがとう。
でも、今はちなつちゃんを、責めないであげて欲しいな」
向日葵「分かりましたわ。
もし解決して……話せるような事なら、話して、下さいね……っ」
あかり「うん。向日葵ちゃん、ちなつちゃんの気持ちを考えてくれて、ありがとう」
櫻子「……ちなつちゃんと、また前みたいに、友達に戻れるよね……?」
あかり「戻れるよ。大丈夫。
櫻子ちゃんは、友達のために怒れて、凄いね」
……ちなつちゃん。
約束、したもんね。
待ってるからね。
─
──
───
『私達、友達だろ!?
一言、相談とかしてくれたって……!』
櫻子ちゃんの言う通りだよ。
分かってる。分かってるけど、相談出来るなら、とっくにしてるよ。
あかりちゃんにキスしちゃったんだなんて、そんな事。
誰にも、言えるわけないじゃない。
……でも、悪いのは全部私。
悪い事をしたら、悪い事をしたって、謝るのは当たり前の事。
人を傷付けておいて、自分が傷付くのが怖いなんて。
何言ってるの、私。大っ嫌い。
だけど。だからって。
それを逃げ道にしちゃ、いけない。
* * *
ちなつ「あかりちゃん。
……お待たせ」
あかり「……うん。部室でお話しよっか。
結衣ちゃんと京子ちゃんに、今日はお休みにしてって、お願いしとくね」
あれから二日。
私の心の中には、一つの答えがあった。
頭の中がまとまったわけじゃない。
ただ、いくら考えても何も始まらないって。
後先なんて二の次で、やらなきゃいけない事に向かって一直線。
それが、私なんだって、思い出しただけ。
ちなつ「あかりちゃん。
まず最初に、謝らせて、欲しいの」
あかり「……何の事を、かな」
ちなつ「私は、あかりちゃんの気持ちを考えないで、あかりちゃんに、キス、しちゃった」
あかり「……」
ちなつ「あかりちゃんが、頼まれたら断れないって、知ってたのに。
私は、私の事しか考えないで、あかりちゃんの、大切なものを、奪っちゃったんだ」
あかり「……大切なもの……かぁ」
ちなつ「女の子にとって、それが練習かどうかなんて、関係ない。
キスは、キス……大切なものには、違いない……」
あかり「……そうだね」
ちなつ「……私、ダメだね。
何日も考えたくせに、あの時あかりちゃんが言った事に、戻って来ちゃった」
あかり「……」
ちなつ「あかりちゃんだけじゃない、向日葵ちゃんや、櫻子ちゃんにまで迷惑かけたくせに。
ごらく部にも行かないで、結衣先輩や、京子先輩にまで心配かけて。
それなのに、一歩も、進めなくて」
あかり「一歩も進めてないなんて、そんな事、ないよ」
ちなつ「え……?」
あかり「ちなつちゃんは確かに、あかりの大切なもの、一つ持って行っちゃったかもしれない」
ちなつ「……」
あかり「でも、いっぱい悩んで、あかりにもっと大切なもの、返してくれたんだよ」
ちなつ「もっと大切なもの……?
なに……? わかんない……わかんないよ……」
ギュッ
ちなつ「……あかり、ちゃん……?」
あかり「ちなつちゃんだよ」
ちなつ「……!」
あかり「キスの事は……ちょっぴり悲しかったけど。そんな事より、お友達の方が大事なの」
ちなつ「あ……あかりちゃ……」
あかり「結衣ちゃんも京子ちゃんも、向日葵ちゃんも櫻子ちゃんも、ちなつちゃんも。
みんなみんな、大好きで、大切なお友達。あかりの宝物なの」
ちなつ「ぁ……」
あかり「いっぱい悩んで、ちゃんと約束通り、あかりにお話ししてくれて、嬉しかったよ。
ありがとね、ちなつちゃん」
そうだ。
私はまた、あかりちゃんを、勘違いしてた……ううん、ちゃんと分かってなかった。
あかりちゃんは、そういう子。
自分の事なんかより、他の人の事を優先しちゃうような。
私と、まるで正反対。
ちなつ「……あかりちゃんには、敵わないな」
あかり「どうして?」
ちなつ「我が儘も言わない、人の嫌がる事もしない。
99%相手が悪くても、1%でも自分が悪いなら、自分が悪いって思っちゃう」
あかり「あかりは……そんなにいい子じゃないよ」
ちなつ「そうかな」
あかり「……あかりだって、拗ねたり、悔しくなっちゃう事はあるよ」
ちなつ「例えば……どんな事?」
あかり「ちなつちゃんが、あかりに悩みを話してくれなかった事」
ちなつ「あ……」
あかり「誰にでも、秘密にしたい事や、一人で考えたい事はあると思うんだ。
でもね、あかりの事で悩んでるなら、あかりに話して欲しいな、って」
ちなつ「……うん。これからは、そうする」
あかり「うんっ」
ちなつ「……あかりちゃん。ありがと」ギュ
あかり「ふわっ……」
ちなつ「あかりちゃんが友達で、ほんとによかった……大好き」ポソッ
あかり「……ちなつ、ちゃん……」ドキ
あかり「ちなつちゃん、その、今ね……練習、付き合って欲しくなっちゃった」
ちなつ「え……?」
あかり「あかりが、練習したくなったら。
いつでも、手伝ってくれるんだよね……?」
ちなつ「……そっ……か。
あかりちゃんも、好きな人が出来たんだね」
あかり「えへへ……そう、みたい」
私は結衣先輩が好きで、結衣先輩と結ばれるなら、他はどうだっていい。
そう思ってる筈なのに。
どうして、苦しいんだろう。
あかりちゃんが誰かを好きになっても、おかしくなんてない。
私にあかりちゃんを縛り付ける権利なんてないのに。
あかりちゃんが、少し遠くに行っちゃう。
私の事、一番じゃなくなっちゃう。
ちなつ「……やだ……」
あかり「……えっ……?」
ちなつ「あかりちゃんが誰かを好きになるの……やだ」
あかり「……あかりと練習、出来なくなるから?」
ちなつ「そうじゃ、ないよ」
あかり「じゃあ……どうして?」
ちなつ「分かんない……でも。
あかりちゃんが、他の人とキスするの、考えると……胸が、ぎゅうって、なる」
あかり「……あかりも、だよ」
ちなつ「え……?」
あかり「ちなつちゃんにキスされた時ね、思ったの。
今ちなつちゃんは、あかりじゃなくて、結衣ちゃんとキスしてるんだ、って」
ちなつ「……」
あかり「あかりは、結衣ちゃんじゃないのにって思ったら。
胸がね、ぎゅうってなったの」
ちなつ「あかり、ちゃん……」
あかり「どうして胸がぎゅうってなったんだろうって、いっぱい悩んでね。
あかり、気付いちゃったんだ。
あかりは……ちなつちゃんの事が、好きなんだ、って」
ちなつ「……」
あかり「あかり、嫌な子だね。
ちなつちゃんを応援するって、言ったのに。
心の中では、結衣ちゃんとキスして欲しくないって、思ってる」
そっか。
あかりちゃんと私は、同じ気持ちだったんだね。
意地張って、気付かなくて。
ずっと、待たせて。苦しませて。ごめんね。
ちなつ「……あかりちゃん。
キス……しよ?」
あかり「え……でも……」
ちなつ「そうしたら、私の気持ちも、わかるから」
あかり「…………うん」
ちなつ「あかりちゃ……ん……」
あかり「ん……ひなっちゃ……」
あかりちゃんの目……潤んでる。
泣かないで、あかりちゃん。
大丈夫だよ。
だって。
ちなつ「あかりちゃん……今私はね、あかりちゃんを、見てるんだよ」
あかり「ちなつ……ちゃん……?」
ちなつ「頭の中も、心の中も。
あかりちゃんだけを、見てるんだよ」
あかり「……ちな……っちゃぁん……」
ちなつ「ん……あはり、ひゃん……っ」
気付いちゃった、苦しい想いも。
あかり「だい……すきなの……んっ」
大切で、切ない想いも。
ちなつ「ん……私も……あかりちゃんが……だい、すきだよ……」
みんな、みんな。
ちなつ「あかりちゃん……私の全部はもう、あかりちゃんだけのものだよ」
あかり「……ちなつ、ちゃん……!」
「「大好き」」
─
──
───
ちなつ「あかりちゃん、お茶飲み終わった? お代わりする?」
あかり「あ、えと……う、うん、じゃあ……貰おうカナ……」
ちなつ「わかった! 待っててね、いっぱい入れてくるからっ!」
あかり「あっえとっ、程々でっ……!」
結衣「あはは……ちなつちゃん、すっかりあかり贔屓だね」
京子「新人歓迎会でビールを飲まされ続ける新入社員と先輩、って感じだな」
あかり「うぅっ……お腹たぽたぽするよぅ……」
ちなつ「あかりちゃん、お待たせっ♪」ドンッ
あかり「ひいぃ!? ヤカン! ヤカンごとなの!?」
櫻子「おっ、やってるやってるー」
向日葵「こんにちは、お邪魔いたしますわ」
京子「おー、ちっぱいちゃんにでっぱいちゃん」
向日葵「でっ……あ、あの歳納先輩? でっぱいちゃんはちょっと……」
京子「ちっぱい&でっぱい。なかなかいいコンビ名だろ?」
向日葵「は……恥ずかしいだけです……」
櫻子「漫才コンビみたいで面白そう!
ども~、ちっぱい&でっぱいでーす!」
京子「おー、始まった! いいぞー!」
結衣(本当に新人歓迎会みたいだ……)
櫻子「こないだコイツ、太ったからダイエット手伝え~とか行ってきたんですよ~」
向日葵「ちょ、ちょっと櫻子! あなたそれ!?」
櫻子「三日もご飯抜いて『野菜ジュース飲んでるから大丈夫ですわよ(キリッ』とか言って、妹にすーっごい心配かけた挙句、胸がまたデカくなったっていうオチ! 酷いと思いません!? ちょっとは私に分けろこのおっぱい大魔神!」
向日葵「さーくーらーこぉぉ……?
放っておけば図に乗って、あなた人のプライバシーなんだと思ってますの!?」ゴゴゴ
櫻子「ま、一番心配してたのは妹より私なんですけどねー!」
向日葵「えっ……///」
櫻子「ども、ありがとうございましたー!」
向日葵「も……もうっ!///」
京子「おー、ツンデレ夫婦漫才だな!」パチパチ
結衣「……とりあえず、あかりとちなつちゃんが仲直りして、よかったよ」
向日葵「ええ、そうですわね」
櫻子「一時はどうなる事かと思ったよねー」
ちなつ「あかりちゃん、お茶美味しい?」ニコニコ
あかり「う、うん……美味しいよぉ……げぷ」
ちなつ「ふふっ、良かったぁ♪
まだまだいっぱいあるから、沢山飲んでね♪」
あかり「ふえぇぇ~ん! 誰か助けてぇ~!」
おしまい
ありがとうございました。
最近の原作のちなあか、仲良しでいいよね!
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