男「ここはどこだ……ま、まさかあの漫画の世界か!?」(318)

男「う……ん」

男「!? なんだこの町並み……ゲーム風中世みたいな」ガバッ

男「だいたい家で寝ていたはずだぞ。こんな何とか村的なテーマパークや施設に来た覚えは……」キョロキョロ

男「あっちに人だかりか……行ってみるか」


広場
「かくして女騎士様率いる部隊は敵軍を退かせ、劣勢であった戦況を立て直したという訳です!!」

「おおーーー!」
「女騎士様ー!」
「このまま隣国を叩き潰せー!」

男(ちょっとした演劇か? つーかこの内容って……まさかあの漫画?!)

男(しかもこの場面、漫画でもあったな……五巻あたりか?)

男(おいおい嘘だろこんな……どうなってんだよ……)

男(落ち着け。自分の取るべき行動を考えろ)

男(確か前の巻で戦争は勝利して終わったはずだ……)

男(が、それも俺の知っている漫画の内容でしかない)

男(俺がここに居る時点で既にIFの世界に突入している。言わば世界線はずれつつある)

男(こういう時、バカみたいな安直な内容だと……)

男(こっから助言したりなんだり、預言者的な事してのし上がるんだろうが完全に自殺行為だ)

男(自らのアドバンテージは『今いる世界に極近い世界の未来』を知っているだけ)

男(そこにイレギュラーの自分が『本編』に干渉し続ければ、未来はズレまくってただの狼少年)

男(そうなれば自陣の人間からすら淘汰される事になる……)ゾッ

男(とすれば、自分が取るべき行動は……元の世界への生還とか二の次だ)

男(生き残る。ただそれだけだ……静かにひっそりと生き残る!)

男(何とか住むところを手に入れて、仕事をして……)

男(……)

男(ま、待てよ……この町……確かこの後……)


門番A「な、ななな……」

門番B「魔物! 魔物が襲撃してきたぞ!!」

「ギャアアア!!」
「いやあ! いやああ!」
「だ、誰か、助」

男「はっはっはっ!」タタタタ

男(地獄絵図……! 地獄絵図だ……! こんな……)

男(何とか生き延びろ! 隠れろ! 時間を稼げば、主人公の女騎士の部隊が鎮圧に来る!)

少女「助けて! 誰か!」

男「!」ビクッ

オーク「フー……ゴフー」

男「……」ゴクリ

男(あの娘はあっさりオークに殺されたはず……本編の隅とは言え、助ければ干渉する事になる)ブルブル

男(これがあの娘の運命だ。俺が関わるべきじゃない。逃げろ、切り捨てろ)ガタガタガタ

オーク「フー……」スッ

少女「いや! いやぁ!」

男「……!」グッ

ゴシャ

少女「あ……」

男「ふー! ふー!」

オーク「フゴ……?」クル

男(ダメだ! 木の棒でぶっ叩いたぐらいじゃ……)

男(干渉した! いや、死ぬ! 殺される! 今からでいい! 逃げろ! 動け足!)ガタガタガタ

ゾンビ「……」スッ

オーク「ゴフゴフ……」

オーク「ゴフー」スゴスゴ

男(オークが去った……? そうだ、魔物は同レベル同士でないと争わない。相手が上なら相手に従う)

男(このゾンビ、普通に動けるやつ……確か、ファイターゾンビ。通称チンピラゾンビ!)

ゾンビ「……」チャリ

男(ゾンビとしてはそれなりの素早さで、ナイフを使って攻撃してくる……だけどオークに比べたら……)

男(比べたら……)

男(無理ぃ! ナイフ持ってるDQNとか倒せないって!)

ゾンビ「……」ダッ

男「おわぁ!」バッ

ゾンビ「……」ジリ

男(不良漫画を思い出せ……刃物を持っている相手には手の甲を向けるように構える)

男(切られても動脈をやられる事はない……でも、そもそも切られたくねぇ……)ジリジリ

ゾンビ「……」ビュッヒュン

男「っくぅ!」ビッ

男(いってぇぇぇぇ! つーか女の子!)チラ

少女「……」ガタガタガタ

男(完全に腰を抜かしてやがる! 逃げてくれれば俺も逃げ出せれるのにぃ……)

ゾンビ「……」ジリ

男(だ、ダメだ、そこら辺の木片を拾う余裕もない。ジリ貧で負ける……)ゾォ

「雷撃!!」カッ

ゾンビ「」シュゥゥゥ

男「お、おお……」

女騎士「よく持ち応えた! 勇敢な青年! あとは我々に任せろ!」

女騎士「総員、敵戦力を殲滅せよ!」

兵士達「おおおおおお!!」ドドドド

男(い、生き延びた……生き残れた……)ヘニャヘニャ

男(だ、だが……)ペタン

男(干渉した……それも主人公に……。これからどうなる。どうしたら……)

一時間後
兵士「暖かい飲み物です、どうぞ」

男「ありがとうございます」

少女「あ、ありがとうございま、す……」

男「……」ズズ

少女「……」ス

男「ふー……」

男(人心地ついたけども)

男(これから本当にどうしようかねぇ……)ズーン

少女「あ、あの……」

男「んー?」

少女「助けてくれて、ありがとうございます」

男「……」

男「礼なんて要らないさ。あの時、あの場にいたのが君でなくても助けていた」

男「だから、君が特定の誰かに感謝する必要はないさ。自分の幸運と神様にでも祈りなよ」

男(何言ってんだこいつ)

男(もう意味が分からないけど、極力俺に触れないでくれ……何がどうに干渉扱いになるか分からないんだから)

少女(命がけで守ってくださったのに、なんて謙虚な方なんだろう)キュン

女騎士「ああ、いたいた」

男(げっ! なんで来るの!)

女騎士「その格好、君は異国の旅人だろうか?」

男「え、ええまあ」

女騎士「もし、君さえよければ我々と共に来ないか?」

女騎士「勿論兵士ではない。が、楽な仕事ではないが、男手はいくらあっても困らないからな」

男「え、ええと、なんで俺に?」

女騎士「あまりにも軽装だからな。荷物を失ったか既に盗られた後なんじゃないか?」

女騎士「それに、個人的な事で公私混同だと糾弾されそうだが……君のように勇気ある者に何かしらしてやりたいんだ」

男(そういう事か……)

男(……この町以外にも直接の描写はないが、襲撃された町の報告があったな)

男(ひっそりと暮らすにしても、それはそれでロシアンルーレットみたいな博打になるのか)ゾォォ

男(努力次第で自分の暮らしは良い方向に向けられる可能性と……)

男(過干渉による未来の変化のリスクか……)

男(いや、努力次第ではそのリスクだって減らせる。であれば)

男「できれば、よろしくお願いいたします」

女騎士「おお、本当か? こちらこそ有り難い」

少女「あ、あの!」

男(え? なに? ここでなに?!)

少女「あ、あたしも連れて行ってください!」

女騎士「え、ええ?! いや、君はここで暮らしていたのではないのか……?」

少女「もう……家も、お母さん達も……」

男「あ……」

女騎士「……」

女騎士「分かった。君も連れて行こう……と言いたいが、部屋をどうするか」

女騎士「女性用の部屋は多くないんだよなぁ……」ウーン

少女「あの、もし差し支えないようでしたら……」チラ

男「え? な、なに?」


第六駐屯地 宿舎 男の部屋

少女「ふ、不束者ですがよろしくお願いします」

男(くそ! くそ! くそぉぉ! 干渉率上がるぅぅ!)

……
少女『……正直に言えば、どうしていいか分かりません』

少女『家も、両親も亡くした事を現実の事として受け止め切れてもいません……』

少女『だから、という訳ではないのですが、せめてあたしの事を助けて下さった方の傍で』

少女『少しでもその方の力になれたら、と……』

女騎士『……』

女騎士『……』ニマッ

男(あ、そうだこの人恋バナ大好きだったんだ。地雷っ)

女騎士『男性と一つ屋根の下に暮らす、という意味を理解しているんだな?』

少女『はいっ』

女騎士『……』ニヨニヨ

男(これは拒否権ないパターンっ)

男(これからどうすりゃあ……しかも二人で暮らすほど広くないし)

少女「えっと、一先ずこれからどうしましょうか……」

男「女騎士、様の話、全部覚えてる?」

少女「えっと、その……」タジタジ

男(まあ、町からここまでの移動では、疲れきっていた様子だったし無理もないか)

男「じゃあ、そこの確認からしようか」

少女「えっ!」

男「え? なに? なんで?」

少女「あ、いえ、怒られるかと、思ったので……」

男「そんな事で怒ったりしないよ」ポンポン

少女「……」キュンッ

男「えーと、まず俺なんだけど、ここで備品や装備、物資の整理等……まあ雑用だな」

男「それが主な仕事で、君はここの食堂で働いたり掃除が仕事になるのかな」

男「料理とか……できる?」

少女「え、えと、ふ、普通、ぐらいには?」

男(うーん、きつそうかなぁ。基本は運んだり、も不安だなぁ……ちっちゃいし転んじゃわないかな……)

男「お給料は出る。高額じゃないけどね。あとは高価なものじゃないけども、食材の配給もあるみたいだ」

少女「あたし達は食堂が利用できないという事ですね」

男「いや、利用は出来るけど、足りなくなる事が多いらしいからって事。まあ兵士優先は当然だよなぁ」

男「そして配給される食材って事だから、質や量はあまり期待できないんだろうな」

少女「なるほど……」

男「仕事は来週から。それまではここでの生活に慣れてくれってさ」

少女「いいんでしょうか……?」

男「ここはお気遣いに感謝して甘えよう。これから先、そうそうお休みなんてないだろうからね」

少女「そ、そうですね」

少女「……」

少女「あの、もしよろしければ昼食、お作りしましょうか?」

男「……」

男(こ、これは頼んでいいルートなのか……? 大丈夫か? いや待て、食堂で食中毒を抑える為にここは……)

男「そうだな、悪いがお願いしようか」ニコ

少女「!」パァッ

……
男「と言っても……」

少女「これは中々ですね……」

男「裂けたトマトがそれなりに……しなびれかけの小さい人参と玉葱」

少女「各種調味料に小麦粉とジャガイモですか……」

男「何が作れるんだろうなぁ……」

少女「うーん……うーん……トマトは早めに使わなくちゃだし……うーん」

男(へぇ……)

男「幸いなのは魔法の冷蔵室があるって事か」

少女「え……この大きさは幸いと呼べるのでしょうか?」

男(あ、いかん、感覚のズレが。気をつけないと)

男「……」グツグツ

男「こんなもんかなぁ」

少女「凄い……ケチャップ作っちゃった……」

男「これで残りは人参とイモと小麦粉かぁ」

少女「贅沢はできないですし、節約しないとですね……」

少女「スープにでもしましょうか?」

男「そうだな、任せるよ」

男(あー白米が食べたい……あっつあつのご飯に明太子のっけてはふっはふって)

男(納豆もいいなぁ……納豆に山形だしのっけてかっ込むのも)

男(生卵かけご飯と漬物なんてのも捨て難いなぁ)ゴクリ

少女「貧相ですが出来ましたよー」コト

男「……」

男「具なし……水溶きトマト?」

少女「ミネストローネです」

男「……トマト水」

少女「ミ・ネ・ス・ト・ロー・ネです」ニコ

男「……」ススッ

少女「ど、どうですか?」

男(薄いといえば薄いけど味はしっかり……多分、調味料で上手く調節しているんだな)

男(これ、結構料理スキル高いよな……凄いなこの子)

男「ああ、美味しいよ」

少女「良かったぁ。お口に合わなかったらどうしようかと思いました」

男「うん、よく出来てる。美味しい美味しい」

少女「えへへ」

男「えーと俺達が浴場に入れるのが……俺が9時で少女が8時か」

少女「まだ時間がありますね」

男「ま、ゆっくりするかぁ……」

男「あ、寝る準備しておかないと」ゴソゴソ

少女「?」

男「毛布を余分に貰えたし、俺はソファーで寝るからさ」

少女「そんな! 駄目ですよ! ちゃんとベッドで寝て下さい!」

男「レディファーストレディファースト」ナデナデ

少女「こ、これ絶対そうじゃないですよね? なんで頭を撫でるんですかぁ!」

入浴時間
男「ふいぃぃ……」

巨人兵士「……」ノッソ

巨人兵士「……」ザッバァァン

男(おーでけー……)

男(駐屯地の衛兵でいたなぁ……本当に大木みたいな人だ)

巨人「? なん、用か?」

男(微妙にちょっとあれなんだけども、基本的には良い人なんだよなぁ)

男「今日こちらに来まして、来週より勤めさせて頂きます男です。よろしくお願いします」

巨人「おで、巨人兵士。よろしく」ペコリ

男(すげぇ威圧感のあるおじきだ)

男「あー良い湯だった……」ホカホカ

少女「それじゃあそろそろ休みますか?」

男「まあ、疲れも残ってるしそうだね」

少女「ほ、本当にあたしがベッドを使ってしまっていいんですか?」

男「いいのいいの。じゃ、お休みー」

少女「お休み、なさい……」

少女「……」

少女「……ん、く……」


少女『お母さーん、何か手伝う事がある?』

少女母『……』

少女『お母さん? ね、ねえ? どうしたの?』

少女母『』グチャァッ

オーク『フゥゥ』

少女『っ!』


少女「嫌ぁっ!!」ガバッ

男「しょ、少女? どうしたんだ?」

少女「はぁっ……はぁっ……」カタカタカタ

男「……? !」

男(考えてみれば当然だ……フラッシュバックがない方がおかしい)ムク

男「少女……必要なら、狭いがそちらで寝ようか?」

少女「あ……は、はい……」

少女「あ、あの……」

男「どうした?」

少女「手を、握っていてもいいでしょうか?」

男「お安い御用だ」ギュッ

少女「……えへへ、ありがとうございます」

男「どういたしまして」

男(声は明るく振舞っているが、手は僅かに震えているな……なんとかケアしてあげたいが)

男(難しいよな……やっぱ)


男「う……」

男(ここ……どこだ……)スゥ

男(ああ、そうだ……漫画の世界だったな……ん?)スンスン

少女「あ、起こしてしまいましたか?」

男「いや、いい時間だ。寝過ごすところだったよ、ありがとう」ムク

男「朝食の準備か? 悪いな」

少女「いえ、料理は好きなんで気にしないで下さい」

男「お、ジャガイモが入っている」

少女「朝ですからねぇ」

少女「あ、そうだ。今日はこれからどうしますか?」

男「んーちょっと散策してこようかな。何か野草とかあれば取ってきておきたいし」

少女「分かるんですか?」

男「(向こうの世界の)よくある野草ならね。少女は何か考えていた?」

少女「ええっとここの建物とか周りを覚えておこうと思っていたのですが……」

男「ああ、別に俺に合わせる必要はないよ」

少女「そうですか? それでしたら、色々と見て回ってきます」

男「……」ザッザッ

男(この世界はよくあるファンタジーな中世。この国は主人公の女騎士のいる国で、今は隣国と戦争中)

男(この駐屯地には剣将率いる一番隊、女騎士の幼馴染の騎士が率いる二番隊)

男(女騎士率いる三番隊、あと四番隊がいる)

男(この駐屯地より、各戦線に援軍として出陣しては戻ってくる)

男(魔物もいるが魔王みたいなボスはいないものの、ある程度の数が徒党を組んで襲撃してきたりする)

男(ここにいれば大規模な襲撃ってのはなかったはずだから、当面は戦争の動向に注意しつつかな)

男(最もそれも……ストーリーが変わっていなければ、だけども)

男(とりあえずは静観しつつ、まずは自分の暮らしだよなぁ……あの子もどうするか)

男(あんなちっちゃい子と何時までも同じ部屋って事もないだろうし)

男(俺もある程度料理できるようになっておかないとか)

男「ただいまー」

少女「おかえりなさ、わあ、いっぱい!」

男「えーと、ヨモギ、タンポポ、フキにあと桑の実」

少女「へえー」

男「? あれ? レモン?」ヒョイ

少女「あ、はい。ちょっと掃除の手伝いをしましたらお礼にって事で」

男「なんでレモンなんだ……」

少女「不人気食材なんでしょうかね……」

男「確かに料理で使うとなると……」

少女「安かったんでしょうか……」

男「待てよ? 使い道に困っているならくれないか?」

少女「構いませんが……どうするんですか?」

男「まあ、使うと言ってもそんなに量は要らないが……」ゴソゴソ


男「桑の実ジャム完成ー」

少女「へええええジャムってそう作るんですか!」

男「あれ? 知らないんだ? 料理が出来るから知っているかと思ったよ」

少女「果物をジャムにするなんて中々贅沢な話ですからねぇ」チョン ペロ

少女「美味しいっ!」

男「そうかそうか」

男(まあ現状の食材から言って使いづらいんだけどねっ)

男「野草は全部塩茹でして食べちゃうか」

少女「はーい」ゴソゴソ

男(まあ、味はどう見てもあれなんだよなぁ……)


男「……」ズズ

少女「……」ズズ

少女「……これが、限界でした」ズゥゥン

男「いや、メチャクチャ草味だけど、思っていたよりもきつくないよ」

男「というかこの程度にどうやって抑えたんだこれ……凄すぎるだろ」ジー

男(そういえばここの世界の文字ってどうなってんだろ……今みたいに日本語に変換されてんのかな)ガササ

男(お、何か書いて、うわぁっ! 読めねぇ!)

男「あのー少女ちゃん?」

少女「は? は、はい!」

男「ここだけの話、喋る分には問題ないんだけどさ、ちょっとその、文字が読めない」ゴニョゴニョ

少女「ええ?! そうなんですか? 凄い流暢に喋るから読み書きも問題ないのかと……」

男「今まではなんとかなったけど、これからはなー……で、その、ご教授を……」

少女「あはは、いいですよ。任せて下さい」

少女「とりあえず本を借りてきました」

男「ここの人から?」

少女「いえ、本を納めてる部屋があるんですよ」

男「変わった事しているなぁ」

男(飽くまで各地の戦線に行ける様にって駐屯地だよなぁ……そういえば畑もあるらしいし)

男(ある程度、ここで暮らせるようにとか色々考えているのか?)

少女「では始めますねー」

翌々日
男(法則がローマ字系で助かった。丸暗記はまだだけど表さえあれば問題がないな)ペラペラ

男(うーん、色んな本があるな。なんかサバイバル関係の本とか充実しているなぁ。ここ自体が孤立してもいいとか?)

男(まあここで孤立ってどんな状況……相当やばい)

男(とりあえず、後で活用させてもらおうかなぁ)

騎士「おや、こんな所に人がいるとは珍しいな」

男(げっ女騎士の幼馴染であり後の恋人の騎士!)

男「あ、すみません、すぐに出ますので」

騎士「いいって、珍しかっただけだ」

騎士「そうか、君が例の……一人で魔物に立ち向かうとは勇敢な事だ」

男「あー……あの時はもう無我夢中だったので」

騎士「ははは、だろうな。まあ、窮屈なところではあるが、頑張ってくれ」

騎士「小さいお姫様もいるんだし、しっかりな」カツッカツッ

男「はは、ですね」

男「……」

男(だ、大丈夫だよな。これぐらいなら大した干渉にはならない、よな……)ハラハラ

少女「―――」

魔術師「―――」

男(ん? あの女性は)

男(げぇっ! 女騎士の親友にして一番隊の魔術師ぃ!)

男(しまった、あの子がメインキャラと絡むだけで干渉しかねない!)

男(かと言って止める方法もないし……やばいぞぉ思った以上に状況やっばいぞぉ!)アワアワ

少女「あ、男さん」

魔術「へえ、彼が」

魔術「初めまして。宮廷魔術師であり、一番隊の魔術師です」

男「わ、私は男と申します」

魔術「とまあ、挨拶は口調を正しただけだから、そんな堅苦しくなくていいわよ」

男「ええぇぇ……」

男(あ、でもそういやそういう感じだったか)

魔術「まあ、そんな訳だから貴方も気にせず話しかけて頂戴」

男(嫌だっ!)

少女「それではあたし達はこれで」

魔術「ええ、今度はゆっくりお茶でもね」

少女「はい!」

男(いやぁ! 明らかに休日イベント的な閑話ネタに干渉するぅ!)

男(こうなった以上、俺の方での干渉を極限までに減らさなくては……)ワナワナ

男(出来るか? そんな事。くっそぅ、町で暮らしたほうが良かったかもしれない)

少女「何か良い本ありましたか?」

男「あーちょっと借りてはきてみたよ」

少女「へえ、何の……狩猟?」

男「獲れればかなりプラスだろ?」

少女「え、ええまあそうですけども……出来るんでしょうか」

男「やるのさ」

晩御飯 吹かしジャガイモの塩かけ

少女「ごめんなさい……」

男「いや、他に食べる物ないし仕方ないって」

少女「せ、せめてジャムだけでも」スッ

男「待て止せ! 早まるな!」

少女「というかこのジャム本当にどうしましょう……」

男「うーん……いっそ他の人と物々交換とかにしちゃった方がいいかもなぁ」

週明け
先輩「はい、じゃあ今日から働いてもらうからね」

男「よろしくお願いします」

先輩「今日は在庫確認と足りない物の注文だ」


先輩「ここら辺は重たい物ばかりだから気をつけて」

先輩「在庫確認は必ず正確に個数を見る事。いいね」ズッシ

男「はいっ」ズッシ

男(あ、やばい。休日ヒキコモリ型にはきっついかもしれない)プルプルプル

男「ひぃ……ふぅ……」チラ

男(そろそろ昼、か……)

先輩「おーい、まだ休憩じゃないぞー」

男「え? あ、ああはい、分かってます」

先輩「? そういえば、あの女の子も働いているのか……」

男「そう、なんです」

先輩「どこ?」

男「食堂らしいです」

先輩「……少し見てくるか?」

男「……ありがたいです」

少女「……」トントントントントントン

少女「……」ジュジュァァジャッジャッ

「お鍋の方も見て頂戴っ!」

少女「はーい! ただいま!」


男先「なにあれすげぇ……」

先輩「ちょっと、あの子なんなの」

男「俺もびっくりです。なんなんだあれ……あそこまで凄かったのか」

先輩「貢献度的に俺らより上かも」

男「ですよね」

昼休憩
男「美味い美味い。この炒め物は少女が作ってたよな?」

少女「えっ! あ、もしかして見に来たんですか?」

男「あーうん、実はちょっとね」

少女「なんだか働いているところを見られるのは恥ずかしいですよぉ」

男「何ていうか、凄い頑張ってたじゃん。恥ずかしがる事はないんじゃないか?」

少女「とにかく恥ずかしいんですっ」プクー

男「悪かったよ」ナデナデ

少女「むぅ……そうやってすぐ子ども扱いですか」

男「それにしても、なんだかんだで食いっぱぐれはなさそうだからいいな」

少女「聞いた話ですと、朝、昼ぐらいならあたし達でもちゃんと食べられるそうです」

男「流石に夕食は激戦かぁ」

少女「です……」

男「当面は食料も心許ないし、夕食だけ家で作るか」

少女「あ、それならあたしが作りますよ」

男「いや、俺がやるよ。といいたいが、少女のご飯のが億倍美味しいんだよなぁ」

少女「あはは、ありがとうございます。料理は好きなんで、喜んでやらせてもらいますね」

男「ああ、お願いするよ」

男「さて、そろそろ午後の仕事かな……」ノビー

少女「それじゃああたしも。終わったらどうしましょうか?」

男「お互い待たずに部屋に行こう。というか俺の方がかかりそう」

少女「はーい」


男「……」ガチャ

少女「おかえり、なさ、い?」

男「……」フラフラー

男「……」ベチャ

少女「!?」ビク

少女「お、お、男さん!?」

男「めっちゃ……疲れた」

男「飯食ったら風呂まで寝てる……」

少女「わ、分かりました」


男「あー……」

雑務員A「お、新入りか。早速へばってんな」

男「いやまあ……ハハ……」

雑務B「ま、頑張れよ」バンバン

男「……はあ」ホクホク

男「少女はもう寝るか?」

少女「あ、あの……お疲れのところ申し訳ないのですが」

男「いいよいいよ」

少女「そ、それじゃあ」モゾモゾ

男「あーっこらせ」

男「えーと……おっ」ゴソゴソ ギュ

少女「えへへ、ありがとうございます」

男「というか大丈夫? 俺、手汗酷くない?」

少女「そんな事ないですよー」

男(これからこの仕事が続くのかー……)

男(やっていけるのかなぁ……)

少女「……男さん」

男「んー?」

少女「これからあたし達、どうしたらいいんでしょうかね……」

男「ま、戦争が終わるまではここでの仕事はなくならないだろうからなぁ」

男「出来るだけお金を貯めて、戦争が終わった後どうなるか、かなぁ」

少女「男さんは……故郷に帰ってしまったりするんですか?」

男「えっ!」

少女「へ!?」ビク

男(ああそうだ。俺は異邦人って扱いであって異世界人じゃないんだ。焦るな焦るな)

男「ごめんごめん、言ってなかったな。故郷そのものは魔物の襲撃で滅んでいるんだ」

少女「あ、ご、ごめんなさい……」

男「今更な話だし気にしないで」

男「まあ身軽なもんだからさ、少女とお別れする理由が特別ない限りは何時までもいるよ」

男(うん? あれ、言い回しがちょっとあれだ、言い過ぎたか? やばいか? 訂正しないと)

男「ええとなん」

少女「えへへ、本当ですか? それじゃあずっと傍にいようかなぁ」

男(あおーう! ま、まあいいか? いいのか? うーん……)

おおっと今日はここまでで

二週間後
男「ただいまぁ……あー疲れた」

少女「おかえりなさい」

少女「見て下さい! 今日、ちょっとですけど小麦粉を分けて貰えたんですよ!」

男「おー……焼いて桑の実ジャムを使うかぁ」

少女「ですかねぇ」

男「人気なかったもんなぁ」

少女「物々交換、成立しなかったですもんね」

男「……」モグモグ

男「うん、美味い!」

少女「ですねー」

男(それにしてももうすぐ一月が経つのか)

男(意外と何も起こらないもんだなぁ)モグモグ

男(このまんま普通に生活していくだけで済むといいんだけど……んな訳ないか)

男(あー……もう帰るとかどうでもいいから本当に生き残らせて欲しい)モグモグ

しばらく後
「―――」ガヤガヤ

男「? なんですか、この騒ぎ」

雑務B「あー……ある部隊が帰ってきたんだよ」

男「へー……あ」

クズ騎士「ふん、敵なんぞこの俺が蹴散らせてきてやったわ」

クズ騎士「なんだ? また見ない顔が増えたな。しかも男だらけか。全く、華がないところだな、ここは」

男(あーこの人かぁ……)

雑務A「その顔、噂は既に聞いてるって感じだな」

男(クズ騎士。四番隊の隊長にして、メインキャラ以外のモブに近い彼氏持ちの女性を悉く寝取るクズ)

男(しかもその後ポイだからなぁ)

クズ騎士従者「聞いた話ですととても可愛らしい女の子が、ここで男と同棲しているそうですよ」

クズ騎士「ほー? え? 同棲? 出切るのか?」

クズ従者「特殊な状況らしくて……」

男「……」

男(俺らの事か!?)

男(うわーーー! うわーーー! それは許せん! けど止めたら干渉待ったなし! うおーーー!)

クズ騎士「行くぞ、案内しろ!」バッ

クズ従者「ははぁっ!」

男(う゛ぁーーーー!)

雑務AB「……ご愁傷様」

クズ騎士「……」チラ

クズ従者「……」チラ

「そこの皿片付けておいて頂戴ー」

少女「はーい、分かりましたー」

クズ騎士「うん……可愛らしいな」

クズ従者「ですね」

クズ騎士「流石の俺も子供はなぁ……」

クズ従者「ですよね」

クズ騎士「さっきの話……兄と暮らしているとかじゃないか?」

クズ従者「私もそう思います」

男(変なところで倫理的だな……まあ良かったんだけども)

その晩
男「何もないとは思うが」

男「クズ騎士……様? の部隊が帰ってこられた」

少女「聞いてますよー」

少女「とりあえず先の細い髪飾りは常備しています」

男(殺る気っ!?)

少女「精神的に殺されるぐらいならいっそ」ボソリ

男(この子意外と闇が深いっ!)

少女「その……男さんはご迷惑、ですよね」

男「……」

男「君の身に危険が及ぶのなら、ここを追い立てられた方がいいかな」

少女「!」

少女「えへへ、えへへへ」ニコニコ

男(妹をもつってこんな感じなんだろうな)

男(というかクズ騎士が帰ってきたって事は……)


女騎士「皆、よくやってくれているようだな!」

男(干渉時の影響でかそうな人きちゃった!)

女騎士「兼ねてより要望のあったバーの開設許可が下りたぞ!」

「うおおおおおお!」

男「!?」

男(待て待て待て、あれは完全に却下されるはず! うおおおおおお! 変わってる! 変わっちゃってる!)

男(というかなんで許可下りたんだろう……普通に疑問だ)

女騎士(これで外出許可申請はより通り辛くなって、町でのトラブルも減るという訳か……上も狡賢い考えをするようになったな)

男「という訳だ」

少女「あまり関係ないですね……」

男「余分なお金持っていないしな」

少女「でもバーかぁ……どんな感じなんだろう」

男「どっかの部屋を空けてじゃないかな。わざわざ建設したりはしないだろうし」

男「意外としょぼいんだろうなぁ……」

少女「仮設バー、ですか」

男「要するに兵士達が堂々と酒が飲める場の提供ってことだろうからね」

少女「いいんですかね、それ」

男「ある程度、この日はこのグループのみとか限定されているんじゃないかな」

男(というかそうじゃないと困る。ノー防御の駐屯地とかやばすぎる)

男(ま、そこまで馬鹿じゃないだろうし、杞憂なんだろうけども)

男(最も、どの道俺達には縁のないものだろうな)

翌日
少女「もう営業しているんですよ、バーが!」

男「へー、そりゃ凄いな」

少女「で、行って来たんですよ!」

男「へー、えっ」

少女「魔術師さんが『お茶しよう、奢りだから』って引きずられてしまって……」

少女「あたし一人、贅沢してすみません……」

男「い、いや、謝らなくていいよ」

男(かんしょおぉぉぉぉぅぅぅぅ!!)

男「だけどまあ、少女自身気を遣っちゃうと思うし、ほどほどにね」

少女「そうなんですよねー……」

少女「……上手く断るコツってありますかね?」

男「え? 何で?」

少女「ええ、と……やっぱり魔術師様とか、年の近い同性が少ないからだと思うんですが」

少女「談笑のお誘いが猛プッシュなんです」

男(……年が近い?)

男「ま、まあ、いいん……いや駄目か。うーんでも……やんわりと断ってみて、駄目なら諦めるしかない」

少女「さっきと言ってる事が!」

男「色んな事情を考えると断りきれないからなぁ……」

……
男「ふー、そろそろ寝るかぁ」

少女「ですねー」モゾモゾ

男「よっと」モゾ

少女「……」チョンチョン

男「はいはい」ギュウ

少女「えへへ……」

男「これは責めてる訳とかじゃないから気楽に堪えてくれ」

男「やっぱり、まだフラッシュバック……あの時の記憶がふっと湧いたりするのか?」

少女「……」ビクッ

少女「……駄目、なんですよね。寝てしまうと、男さんが助けてくれる前までの事ばかり……」

男「ごめんな。俺にはこのぐらいしかしてやる事ができないんだ」

少女「謝らないで下さい。むしろありがとうございます。あの時から今尚、あたしは男さんに救われ続けているんですよ?」

男「だと、いいな……」

少女「じゃあ、いいんです。あたしはこうしているだけで……救われているんですから、男さんは凄いんです」

男「はは、逆に励まされちゃったな」

少女「何時も男さんから元気を貰っているんです。少しぐらい返させてくださいよー」

男「そっか。じゃあ遠慮なく貰っておくよ」ギュ

少女「はいっ」ギュウ

翌朝
男「今日は非番かぁ……」

少女「やっとのお休みですね~」ノビー

男「ちょっと書物庫とか行って来るかな」

少女「はーい」


男(狩猟に関する本は……これか。弓矢弓矢……お、あったあった)

男(ふんふんふーん……もうちっとしっかり読まないよく分からないな)

男(貸し出してもらうかなぁ)

仮設バー前
男(お、ここが例の……うわ、人少なっ!)

女騎士「寂しいものだろう」

男(おわーーー!!)

女騎士「そう驚かなくてもいいだろう……傷つくじゃないか」

男「す、すみません」

女騎士「暇ならどうだ? 付き合わないか?」

男「え、やー……酒は飲めませんので」

女騎士「流石に私も昼間っから飲酒など考えていないさ」

男(あ、これ逃げる口実与えず連れ込むつもりだ)

男(それにしても……)キョロキョロ

男(本当に人少ないなー)

女騎士「全く、上層部のアホどもは……」

男「何が原因なんですか?」

女騎士「とても不味い安酒ばかりだ」

マスター「……」ショボン

男(マスターめっちゃ可哀相な顔してる!)

男「でも、酒が飲める分にはいいんじゃないんですか?」

女騎士「そー簡単でもないのだよ」

男「……」

男「兵士の方ですとそこそこ給料を貰っているから、ここにあるような安酒は逆に飲まない、とか?」

女騎士「お、よく分かったな。そうなのだよ」

女騎士「しかも、割高販売だ……全く意味がない」

男「お、お疲れ様です」

女騎士「はは、ありがとうな」

女騎士「そうだ、君の方はどうだ? だいぶ経っただろう」

男「はい、お陰様で二人とも元気にやらせてもらっています」

女騎士「そうかそうか」ニコニコ

女騎士「どうだ? その、二人暮らしというのは」ソワソワ

男(これが目的かー)

男(面倒だしシリアスに振って終わらせよう)

男「やはり、難しいものですね」

女騎士「お、おおっ?」

男「少女は肉親が殺される光景も見ているようですし、日中はそんな様子はないのですが……」

男「就寝時はその記憶にうなされています」

女騎士「あ……そうか。こればかりは、私達でも手助けできないからな……」

男「ええ。せめて、傍にいてやる事しかできませんからね」

女騎士「何かあったら遠慮なく言ってくれ。私のできる範囲ならいくらでも協力しよう」

男「ありがとうございます」

男(よし、早々と話を切り上げられた!)

男「あー……疲れた」ガチャ

少女「お帰りなさい。書庫に行って来たんですよね……?」

男「女騎士様に会って、仮設バーに連れて行かれた」

少女「……皆さんやる事同じなんですね」

男「だね」

男「さて」ドッス

少女「狩猟の本……」

男「獲れるなら肉とか食べたいしね」

男「それに飽くまで戦時中だ」

男「何時どうなるともしれないから、こうした知識は蓄えられるだけで蓄えておきたいからね」

男(これには弓矢の作り方とかはのっていないんだな)

男(近くに林があったけど魔物が出てくる可能性があるんだよなぁ)

男(狩りにしても何にしても欲しいよなぁ)

男(弓矢の作り方の本ってあるかな……備品とかはどうなんだろう)


先輩「あー誰も使わないから持っていっていいよ。一応、貸出票に名前書いといて」

先輩「返すのは何時でもいいんじゃないかな。これ、持ち出された事一度もないだろうし」

男(おお……ラッキーな)

男「……」ビッ

的「」ガツッ

男「中々刺さらないなー」

少女「男さーん」

男「お、どうした?」

少女「弓矢の練習しているのが見えたので」ゴソゴソ

少女「えへへ、サンドイッチを持ってきたのでお昼にしましょうよ」

男「おお、ありがとうっ」

男「へえ……パンなんか貰えたんだ」

少女「端っこを貰えたんで、集めて押して固めただけなんですけどね……」

男「あー……まあそう貰えるもんじゃないもんなぁ」

少女「その……凄い固いと思うのですが」スッ

男「ああ、貰うよ」モグ

男「んぐ、もぐ……確かにハードだなぁ」ハハ

少女「……」

男「歯ごたえはあるけどは美味しいよ」

少女「!」パァッ

一時間後
男「……!」ビッ

的「」ガッ

少女「おぉー!」

男「ようやくコツが掴めてきた感じか……」

少女「そのうち狩りにでも行くんですか?」

男「この近辺の魔物の情報次第かなぁ……」

少女「あー……ですよね」

男「まあ、焦らずやるからあんまり心配しないでくれ」グシグシ

少女「もう……すぐそうやって子供扱い」


しばらく後
男「ウサギ獲れた!」

少女「」

少女「う、ウサギ……」

男「いや、うん、俺が解体するから心配しないでね?」

少女「で、できるんですか?」

男「知識だけならわずかに。何事も初めてというのはつきものだ」

少女「……」

男「無理して見てなくてもいいんだからね?」

少女「いえ、それでも食べるのですから……ここで目を背けるのは、間違っています」プルプル

男(強い子だなぁ……)

晩御飯「ウサギのスパイシーローストと萎びた葉菜類サラダ」

男「出来た出来た」

少女「う、ウサギ……」シゲシゲ

男「よしじゃあ」

少女「いただきます!」パク

少女「……」モグモグゴクン

少女「困ります……困りますよこんなの」

少女「美味しいじゃないですか!」

男「うん、うん。肉って感じでいいなぁ。しかも久しぶりの肉だからいいなぁ」モグモグ

男「萎びれていると言っても、最近は野菜の配給も少し増えているんじゃないか?」

少女「一応、あたし達の努力が認められてるって話みたいですよ」

男「給料アップか……まあ、町に行ける訳でもないし、そこそこの賃金とそれなりの食料の方がありがたいか」

少女「そういえば、もう少ししたらまた女騎士様達が帰ってくるそうですよ」

男「へえ、今回はちょっと長かったな」

男(今どの辺だっけか……そろそろ女騎士と騎士のフラグが明確になるんだっけかなぁ)

男「まあなんにせよ、俺達は俺達のやるべき事をするとしようか」

少女「ですねー」

先輩「今日の仕事は外だ」

男「うえー……マジっすか。今日暑いですよ」

先輩「人手が足りないって事だからな」



男「の、農作業……」

先輩「次の作物の為にも休めていた土地を耕さないといけないんだ」

先輩「今日はばっちり肉体労働だぞ」

男(うぐ、クワの使い方は流石に……)

男「ただい、ま……」ヘロヘロ

少女「おかえりなさい。今日は畑仕事だったみたいですね……」

男「知ってんだ……」

少女「食堂のおばちゃん達から聞きました……どうしましょうか?」

男「食べる……。食べて気力をつけないと」

少女「ですね。今日は多めに作りますねー」


翌朝
先輩「今日も畑仕事だ」

男「うおおおおおおぉぉぉぉ!!」

数日後
先輩「お疲れ。明日は休んでいいから。明後日からまた何時もの雑務だ」

男「うっす……」プルプル

先輩「ははは、腕足笑っているなぁ」ガクガク

男「先輩も先輩も」

先輩「足腰にくるなぁ」

男「ですねぇ」

先輩「因みにここで働いている人は、衛兵との副業だそうだ」

男「俺らじゃきっついわけですね」

翌々日 資材質
男「よっ、ほっ」ドサドサ

先輩「それ終わったら今日は終わりだからなー」

男「あーい」

男(うーんいい疲れだ。体もだいぶムッキリしているし、なんて健康的なんだろう)

少女「あ、いたいた」ガチャ

男「なんだ? どうしたんだ?」

少女「もうすぐ終わるって聞いたから来ちゃった」ニコ

男「部屋に帰っていればいいのに」

少女「むぅ……またそういう風に言う」プクゥ

男「ん……?」ズ

男(なんだ? 擦れる音が……外に誰かいる? でも足音は……)

少女「……?」

男「……」シー

少女「??」コクリ

男「……」ソソソ

男(何か妙だ、ちょっと隠れておこう)ヒソ

少女(は、はあ……)

ローブを着た男達「……」キィ

ローブを着た男達「……」スス

男(兵士? ……じゃない! まさかこいつら! 敵兵!?)ザワ

男(こ、こんなイベントなかったぞ! くそ……マズイ)

男(本隊をすり抜けて駐屯地を攻撃? このまま王都に向うつもり?)グルグルグル

男(何にしてもこのままだと俺らは……! 出口は一つ、何としても逃げ出さないと!)ダラダラダラ

ローブを来た男達「ちっ……食料庫じゃないのか」ボソ

ローブを着た男達「ここだって必要な物資はある。取ったら次に行くぞ」ゴソ

男(! 物を探す! 警戒が薄れるチャンスは他に……ないよな!)

男(……)チラ

少女(……)コクリ

ローブ男A「……」ゴソ

男(棚の向こうか、良い位置だ。この棚は上に重い物がある!)グッ

棚「」グラ

男(逃げ切る!)ダッ

少女(……!)タッ

ローブ男A「!? 逃がす」

ローブ男A「うおおおお!?」ズドォォォン

ローブ男B「ちぃっ!」バッ

ローブ男C「殺せ」ダッ

男「ひぃ! ひぃ!」

少女「あわわわ!」

ローブ男B(遅い! 非戦闘員か! 10秒も要らないな!)ダタ

男(くっそ! はえぇぇ! 敵兵二人! この状況、1秒の足止めだってできやしない!)

巨人「……」ノッソ

男「! 助けて巨人兵士さん!」

巨人「お?」

ローブ男C「ちっ!」

男(って、この人なんで屋内ででけぇ斧持ってんの!? こんなん敵を攻撃できないじゃん!)

ローブB「こいつじゃ攻撃できねえよ!」バッ

男(ややややばいぃぃ! これじゃあ巨人兵士殺されちまうぅぅ!!)

男(だだだ駄目だ! 思いつかない! ごめん! 嫌だ! 干渉するぅ!)

少女「きょ、巨人兵士さん!」

ローブB「死ね、木偶の坊」スラッ

巨人兵士「敵……敵!」ポイッ

大斧「」ゴットン

ローブBC「えっ」

男「ん? なんの音?!」クル

巨人兵士「おぉっ!!」ブッ

ローブB「ぶぇっ」ゴッ

ローブB「ぇぇ」メキャメキャメカ

ローブB「ぇふっ」ドォンッ

ローブC「うぉっ!」サッ

ローブB「」ズザァァァッ

男(おおおお……巨人兵士の拳、あいつの顔に結構めり込んでなかったか!?)

巨人「んぬぅっ!」ブォッ

ローブC「え、あ」ォォッ

ゴシャァッ

巨人「ケガ、ないか? 大丈夫、か?」

男「た、助かりましたぁっ」

少女「こここ怖かったですぅ」

ローブBC「」

男(ある意味、怖いのは別にもあるんだけど……この人すっごいな……)ブルル

巨人「おで、守った。お前ら、無事嬉しい」

男「え、ええ本当に……」

衛兵A「どうしたぁ!」

衛兵B「なんだこいつら……まさか敵国のか!」

衛兵C「事情を聞いてもいいか?」

男「いやあ正直、自分達も分からない事だらけなんですが」

衛兵B「この二人では事情は聞けないだろう……」

ローブBC「」

男「あ、一人資材室にいます」

衛兵A「どういう事だ?」

男「棚を倒してきたので……」

衛兵B「なるほど……懸命な判断だ」

二時間後
男「やっと解放された……」グデー

少女「あたしの方は早々と終わりましたよ……」

男「まあ、そうだろうねぇ」

少女「それにしてもあの人達、なんであんな格好だったんでしょうか」

男「他の兵士さん達の話が聞こえていたんだけど、なんでも魔法による探知を回避するものらしい」

男「戦線や色んな所にそうした魔法があるらしいからね。そこを潜るためのものなんだろう」

男「とは言え、こういう駐屯地でも警備を兼ねて魔法が施されているから、今も着ていたんだろうて事みたいだ」

少女「あー……なるほど」

男「それにしても少数の破壊工作だったのが逆に救いになったもんだよ」

少女「どういう事ですか?」

男「もっと大規模なものだったら、ここの駐屯地そのものが落とされていたかもしれないって事」

少女「……ぞっとしない話ですね」

男「全くだよ」

男「でもこれで周辺の警戒も上がるだろうし、俺達からしてみたら実被害なしで安全面強化はありがたいよ」

少女「も、もう……あんな目はあいたくないですからね」

男「俺も御免被りたいよ」

先輩「今日は昨日の被害状況確認の作業なんだけど……俺達の出る幕はなしだってさ」

男「下っ端には任せないって事ですかね」

先輩「まあ、正直に報告されても困る事があるんだろうね。って訳でお休みだから」


男「とは言っても、少女はいつも通り仕事なんだよな」ザワザワ

男(なんだ? 外が騒がしいな)

男(どこの部隊だろ……帰還、じゃないよな)

雑務A「あーありゃあ警備強化に来た別の部隊だよ」

雑務B「ゲリラ戦闘で功績あげてるって話だ」

男「なんでこんな平地に……確かに林とかあるにはありますけども……」

雑務A「そのトラップを生かして色んな所にって事らしい」

男(狩りに行って引っかかったらやだなぁ……)ゾォ

雑務A「まあ連中もそうはでかい顔できないさ」

雑務B「もう少ししたら女騎士様の三番隊と、剣将様の一番隊が帰ってくるんだからなぁ」

男(既にだいぶズレつつあるからなぁ……油断は禁物なんだよなぁ)

ゲリラ隊「おーあんたが噂の」

男「はあ……」

ゲリラ隊「は、冴えない男だ。こんな奴が魔物と敵兵に立ち向かったのか」

ゲリラ隊「どうせ逃げ回っていただけだろ」

男(だいたい正解)

ゲリラ隊「そーだな。良い物をくれてやる、ついて来い」

男(なんかすげー面倒くさそうな事になったなぁ……嫌だなぁ干渉しそうだなぁ……)

少女「? なんなんですかね、あれ」

「はて? まあ、手も空いたし気になるなら見てきたら?」

少女「いいんですか?」

「昼の準備まで時間があるしねぇ」

少女「それじゃあ行ってきまーす」

「気をつけてお行きよ」

少女「はは……はぁ……子ども扱い」


男「……」

ゲリラ隊「……」ヘラヘラ

少女「なにこの状況っ」

少女「お、男さん?」

男「少女? 仕事はいいのか?」

少女「手が空いたので何事かと思って……」

ゲリラ隊「へえこれが……おい、妻って話は何だ」

ゲリラ隊「妹の間違いじゃねえか……つまんねぇ」

少女「ち、違います!」

ゲリラ隊「興醒めだなぁ」

男「あのーもう帰っていい?」

ゲリラ隊「まあまあ待てよ」

ゲリラ隊「そこの柵の中、鶏と仔牛がいるだろ」

男「ですね」

ゲリラ隊「あれをくれてやる」

男「!?」

ギャラリー「おお!」ザワッ

ゲリラ隊「ただーし! 今から柵の扉を全開にしてからお前を入れさせる」

ゲリラ隊「逃げられたら三分、時間をくれてやる。それまでに捕まえられなかったら没収だ」

男(完全に俺が右往左往する様子を見て楽しむためかぁ。で、自分達が食うだけ。陰湿な暇人なんだなぁ……)

ゲリラ隊「あと、この中で一頭か一羽は肉にしてもらう。それをお前の手でやれ」

ゲリラ隊「どれも殺せない。捌けないなら両方没収っ!」

ギャラリー「はあ! ふざけんなよ!」

ギャラリー「くれる気ねえだろ!」

ゲリラ隊「それはこのアンちゃん次第だろ?」ニタニタ

男「道具とか準備の時間は?」

ゲリラ隊「十分後にここを開ける。それまでに自分でどうにかしろ」

男(短いなぁ)

ゲリラ隊「まずは準備だ。そら走れ走れ」

男「はいはい」ダッ

男(鶏はモップでも持ってきて威嚇して柵の中に押し留めよう)

男(小学校の頃、三年間飼育委員として鶏を押さえ込んだこの腕、舐めんなよぉ)

男(後は仔牛か……飼葉飼葉、え、あるっけ?)

男(あ、北側の農地にヤギかなんか飼ってるっけ? どっかにあるはずだな)


十分後
男「準備完了だ」

ゲリラ隊「ほお……」

ゲリラ隊「よーし、では開けるぞ!」ギィィッ

鶏「コケーー!」ダダダ

男「……」ブォン

鶏「コッ!」ビク

男「……」ジリジリ

鶏「……」ジリ ダッ

男「……」ヒュンッ

鶏「コケ!」ガツッ

ギャラリー「あいつ、容赦ねえ……」

ギャラリー「そういえば最近狩りしてるって言ったしな。そういう割り切りできてんだろうな」

ゲリラ隊達(え? あれ?)

柵の中
男「よし、これで一先ず逃げられる心配はないな」

少女「あのー……どうするんですか?」

男「んー……牛は雄か。鶏は雌……ふむふむ」

男「よし。少女、移動式の高台っていうか何ていうか、あれ取ってきて」

少女「えーと……?」

雑務A「ああ、吊るして運ぶやつか」

少女「ああ、はい、分かりました」

男「二台ぐらい欲しいか……? あ、桶もないと困るのか」

雑務B「じゃあ俺も持ってくるよ」

ゲリラ隊「お、おい……」

男「制限時間十分はここを開ける時間でしたよね?」ニコッ

ゲリラ隊「こ、こいつ……」

少女「持ってきましたよー」ガラガラ

男「おお、ありがとう。そっちの柵につけておいてくれ」

雑務B「これどうすんだ?」

男「吊るす」

ゲリラ隊(あ、これつまらないパターン)

先輩「……し、絞めるのか」

男「お肉にするにはそれしかないでしょう」

少女「どっちをですか?」

男「牛だ。鶏は卵を産んでくれるからな。しかもここら辺の土はちょっと掘ればすぐミミズが出てくる」

男「うーん手間いらずっ」パァッ

雑務A「ビーフかぁ」

少女「えーと、はい、斧です」

男「おお、サンキュー。うんうん、このサイズなら上手くいけば一発だな」

ギャラリー「」ザワ

男「ごめんな、ちゃんと美味しく頂くからな」ナデナデ

仔牛「?」

男「ほらほら飼葉」

仔牛「……」ムシャムシャ

男「よっと」ブォン

男「よーし引っ張れー!」

雑務AB「おー!」ギギギ

男「うおーー! おし、こんなもん!」グググ

逆さ吊りの首なし仔牛「」ボタボタ

男「あ、ご馳走頂きあざーす」

ゲリラ隊「……お前、なんなんだ」

男「うーん、この大きさなら今日の昼か夕食に食堂へ提供もありか」

ギャラリー「まじか!」

少女「でもこれからまだ解体ですよね」

男「あ、そうか、流石に昼までに終わらせられる自信ないな」

男「よっと」ザクザク

男(サバイバル漫画好きで良かったし、何度かYou TVで蝦夷鹿解体動画見たのが大きいな……)

皮についた肉「」デロン

男(まあ、なんとなしの手順が分かっていてもな。お世辞に言ってもへったくそぉ)

男(実際にやったのはウサギや鳥ぐらいなもんだったからなぁ)ザザズズー

ギャラリー「おおお……」

ゲリラ隊「ちっ……行くぞ」

ゲリラ隊「え、あ、ああ」

男「あ、待ってくれ」

ゲリラ隊「んだよ……」

男「これ、まあお礼というかキャッシュバッ……ミートバック?」

ゲリラ隊「……ちっ! ありがとよ!」バシ

雑務A「お前凄いんだなぁ」

男「生きる上で必要になりそうな事なんで」

男「あ、食堂の方に伝えておかないとか」

少女「夕食に牛肉ですね。行ってきます」

男「ああ、お願いー」

雑務B「ほ、本当に俺達も食べちゃっていいのか……?」

男「まあ……夕食で残っているかは分かりませんが」


「あーもうないよ」

雑務AB「ヴァーーーー!」

先輩「だと思ったよ」

男「ですよねー」

男「あまり多くはありませんが」ゴソソ

先輩「おいおい……そんなにいいのか?」

男「まあ解体分の手間賃みたいなものは貰いましたし」

雑務A「有り難く」

雑務B「頂くぜ!」

先輩「ま、そういう事なら俺も遠慮なく頂くよ。ありがとうな」

男「どうぞどうぞ」

少女「ん~~美味しい!」

男「だな」

男「牛肉かぁ……当分食べられないんだろうな」

少女「元々そうは食べられるものじゃないですからね」

男「よぉく味わっておこうか」

少女「ですねー」

翌朝
男「お」

鶏「コッコッコッ」

男「完全栄養食ゲットォ!」


少女「わぁっ! 生みたて卵ぉ!」

男「食生活の水準がぐんと上がるなぁ」

少女「何にします?」

男「スクランブルエッグにして分けようか」

一週間後
女騎士「おっ」

男(帰還そうそうエンカウントとかあの人俺の事好き過ぎるだろぉ!)

女騎士「久しぶりだな。何でも勇敢な事と面白い事をしたそうだな」

男「ええ、まあ……いえ、巻き込まれたが正解なような」

男(あ、あれ……? あの時はクズ騎士の四番隊だけいたから、多少は平気かと思ったけども)

男(け、結局のところ、一方その頃駐屯地は的な扱いで干渉しまくりなんじゃあ)ゾォッ

女騎士「ははは、確かにそうだな。まあ、無事であり元気なようで何よりだよ」

女騎士「おっと、約束があるんだった。失礼するよ」

男(約束……? そんなイベントあったっけ……? 気になるな)

仮設バー
女騎士「っぷはぁぁ!」

魔術「ふうっ」

魔術「珍しいわね。貴女が自棄酒だなんて」

女騎士「自棄にもなるさ……」

魔術「……? どうかしたの?」

女騎士「騎士がな……」

魔術「! 何があったの? まさか……」

女騎士「騎士がな、城の侍女に惚れているらしいんだ!」ダンッ


盗み聞き中
男(ええぇぇぇーーー!)

魔術「あー……最近、なんかそんな雰囲気感じていたわ」

女騎士「おおぉぉぉ! なんで?! 私は?! 幼馴染の私は!!」ダンッダンッ

魔術「ご愁傷様ね」

女騎士「ぐっ……余裕そうだな……想い人が同じ隊だからか? 剣将さんが傍にいるからか? あぁ?」

魔術「先日ね」

女騎士「うん……」チビチビ

魔術「以前救った孤児の女の子と腕組んで歩いてた……」ズゥン

女騎士「ブゥゥッ!」


男(ブウウウゥゥゥ!!)

男(と、とんでもない事になったぞ……向こうの世界だったら公式カプ厨大発狂じゃないか)

男(と、というか凄い申し訳ない! 俺の所為でとんでもない余波が……)アワワワ


女騎士「で、でも子供なのだろう?」

魔術「そうそう、あたしの三つ下っ」ニパー

女騎士「……」

魔術「……」

女騎士「今日はとことん飲もうか」

魔術「付き合うわ。付き合ってもらうわ」


男(や、やばい、超カッコイイ主人公の女騎士が)

男(ラノベあるある結婚できないアラサー女教師へと凋落していくぅ!)

男(これならまだSSのダメな女騎士の方が、いやどっちも駄目か多分!)

男(うーん、これどうなんかなぁ。出来れば本編通りであってくれた方が)

男(けど、干渉はしたくないしな……)

男(というか騎士はちょっと会った事あるだけ。魔術師のお相手剣将に至っては、会った事すらないんだよなぁ)

男(……)

男(無理だな)ウン

男(……うん? なんか大切な事を忘れている気が)

男(なんだったっけかなぁ)

更に二週間後
少女「北北東の戦線が大変らしいですよ……」

男「一昨日、女騎士様が向ったところか」

少女「大丈夫かなぁ……」

男「まあ俺らが心配してもな。だからこそ、俺達がしっかりして、ここを守らないと」

少女「ですね!」

男(うん……? この間から何か引っかかるな……)

男(というかこれは……)ザワ

男(胸騒ぎ……? 何でだ? うん? 話し声?)

クズ騎士「ほう……敵が潜伏?」

クズ側近「場所はこの辺りです……」

クズ騎士「三番隊が向ったところか……まさか挟撃?」

クズ騎士「ふんふん……ふふん、良い事を思いついた。恩を売ってやろう」ニタニタ

クズ側近「では……」

クズ騎士「秘密裏に動くぞ。四番隊を召集しろ」

クズ側近「よろしいのですか?」

クズ騎士「奇襲するだけだ。半分連れて行くぞ」

男(……)

男(アーーーーー!! この展開ぃ!!)

男(た、確か女騎士の三番隊とクズ騎士の四番隊が戦線!)

男(斥候出していたクズ騎士が伏兵に気付き奇襲に向うも、それも織り込み済みの敵!)

男(両部隊ピーンチって時に、胸騒ぎのした騎士が自分の二番隊を動員して援護し切り抜けるって話のはず!)

男(い、今は女騎士と騎士のフラグが折れてるっ!)ダラダラダラ

男(しかも今からクズ騎士出発、というか元々二番隊のみの出撃ってぇ!)

男(わっわっ! まずい! 早く手を打たないと!)

男(BAD ENDが! DEAD ENDが確実に!)

男(どうすればいい!? どうしたらいい!?)

男(早く対策を、策、策……お、思いつかない!)オロオロオロ

騎士「?!」ビク

男(わあああああ! どうしたらぁ! 詰んだ?! 詰んじゃった!? 過干渉諦めて、暴露しちゃうぅ!?)

騎士「お、おい、どうしたんだ?」

男「!?」ビックゥ

騎士「さっきから様子が変だが……」

男「……」ゴクリ

男(考えろ……落ち着け……話の整合性を……)

男「そ、その……このような事を口にするのも……不敬罪であるのは重々承知なのですが」


騎士「なるほど……敵軍の伏兵が確認されて好機だ、と」

騎士「しかも独断での出陣……」

男(寝返って帰ってこないなら、無断出撃の命令違反もおかしくない……どうか納得してくれ!)

騎士「しかし、女騎士に借りを作りたいと思っているかもしれない」

騎士「というか未だに彼女に執着しているからなぁ」ハァ

男(そこなんだよなぁ! 何度ボッコボコにされてもめげないんだよなぁ! あのクズ!)

騎士「だが……見過ごす事も出来ないか」

男「で、では!」

騎士「しかし、俺の独断だけで隊を動かすわけにもいかない」

男「う、ぐ……」

騎士「……」

騎士「そうだな……もしバレたら、責任は二人で山分けとするか?」

男「は、はい?」

第六駐屯地 司令室
司令「なに……?」

騎士「飽くまで兵がそのように聞こえた、と……」

指令「……」

騎士「いかがなさい……」コンコン

指令「今日はよく人が来るな……入れ」

男「……」ギィィ

指令「? なんだ君は」

男「え、えと雑務員の男と申します。その……騎士様に報告すべき、かと、思う事が……」オド

騎士「なに? 俺にか?」

男(わー白々しー)

指令「騎士を探しにわざわざここに来たのか?」

男「こちらに向ったと聞きまして……」

騎士「火急の用件という事か?」

男「は、はい」

指令「ふむ、構わん。ここで話し給え」

男「えぇっ、あ、いえ……その」ゴニョゴニョ

指令「彼の上司である私の前では言い辛い事か?」

男「そ、その……不確定な情報を……その軍紀を乱しかねないと言いますか」

騎士「まさか、四番隊隊長についてだろうか?」

男「! ご、ご存知、なのですか?」

指令「ふむ……他にも聞いていた者がいたか。しかし何故騎士に?」

男「今現地におられる女騎士様とは旧知の仲と聞きましたので……不確定だからこそ、近しい方にと」

騎士「指令」ザッ

指令「……正直なところ、個人的な怨恨など含めてはならないが」

男(……? あ、この人の知り合いが、クズ騎士に食われたんだっけ!)

指令「騎士、二番隊の出陣を命じる。直ちに女騎士率いる三番隊の援護、並びに潜伏している敵陣を壊滅せよ」

指令「もしも裏切り行為であるならば、四番隊も鎮圧せよ」

騎士「はっ!」

指令「君もよく報告してくれた。その勇気に感謝する」

男「あ、えと、有り難きお言葉!」

騎士(それは言いすぎ)

騎士「……」カツッカツッカツッ

男「……」スタスタスタ

男「ふぉぉぉぉ」ヘニャヘニャヘニャ

騎士「良く頑張ってくれた。これで堂々と出陣できるというものだ」

男「良かったです……」ヘニャー

騎士「君はしばらくそこで休んでくれ。俺はすぐに出発する」

男「はい……あの」

騎士「うん?」

男「……ええと、武運長久を」

騎士「ああ、ありがとう。行ってくる」バッ

騎士「……」カツッカツッ カツッ カツッ カツッ...

男「……」

男「ふうぅぅぅ」フシュルルル

男(これで、最悪のケースは回避できるか……?)

男(何とか生き長らえそうだ)

男(けど……)

男(ふぉぉぉ! んほおおぉぉ! 干渉ぅ! 絶対に滅茶苦茶干渉したぁぁぁ!)ダラダラダラ

少女「今日は遅くなっちゃったなぁ」パタパタ

少女「男さん、心配してるかなぁ」

少女「帰ってきたら少女がいないもんだから心配したんだぞ。驚かさないでくれ、ギュッ」

少女「なんて、なんてねっ」キャッ

少女「ただいまー」ガチャ

男「」_(,'3」∠)_

少女「」ビックゥ

少女「お、おおお男さん!?」

少女「違いますから! 家出じゃないですから! 違いますから!」

男「お、おお……少女か、おかえり」

少女「どんだけショックだったんですか!? いくらなんでも弱すぎますよ!」

男「え? なに……? なんでそんなテンション高いの……?」


少女「ええぇぇ!? そ、そんな事が」

男「真偽の程は分からないけど、騎士様も出陣したんだ」

男「あとは、無事な帰還を祈るばかりだ」

男「まあ、一芝居打って疲れたし、俺はもうゆっくりしているよ」

少女「あーお疲れ様です……」

男「ほんと疲れたよ……ふあぁ」

少女「……」

少女「あ、あの、その……」

男「うーん?」

少女「も、もしよろしければ、ひ、膝枕などはいかがでしょうかっ」

男「へ? はは、ありがとう」

男「でも横になったらそのまま寝付いちゃいそうだから、ソファにでも座っているよ。風呂には入り損ねるのは嫌だしね」

少女「ソーデスカ」

二週間後
「第二、三、四番隊が帰ってきたぞ!」
「女騎士様もご無事なそうだ!」
「あの話、やっぱり違ったのか?」
「とは言え独断の出陣だったらしいしなぁ」

男(クズ騎士の話、広まってるぅ!)

騎士「……」ピク

騎士「……」ヒラヒラ

男「あ……」

男「……」ペコリ

男(とりあえず上手くいって良かった……)

男(しかしこれで、更に気が抜けない状態になっている、はず……)ワナワナワナ

男(もっと注意深く、慎重に行動しないと……)

男(ヘタをするともう、これ以上の僅かな干渉で状況がひっくり返るかもしれない)

男(今回はそれほどに干渉しているはずだ……気合入れるぞっ!)パンッ


仮設バー
女騎士「まあなんだ、熾烈極まる戦いだったが我が軍の勝利に乾杯っ」

魔術「乾杯っ!」

少女「か、乾杯っ」

_____
|       |

|  干滅い. |
|  渉茶ま  |
|  し 苦な  |
|  て.茶お  |
|  た     |
|_____|

女騎士「しかし……彼が動いてくれていなかったら私は確実に死んでいたな」

少女「あれ? 知ってたんですか?」

魔術「何かあったの?」

女騎士「騎士から聞いたよ。クズ騎士が不穏な動きを見せたのを報告してくれて」

女騎士「結果、二番隊も出陣になったとね。まあ、四番隊は純粋に援軍として来てくれたわけだが」

女騎士「それでも尚、敵の策略の前ではかなり不利な状況だったよ」

魔術「へえ……騎士を説得して動かしたなんて、どうやったのかしら」

女騎士「流石に詳しい事は聞いていないが、何でも指令への直談判で一芝居打ったらしい」

魔術「だ、大胆ね……」

女騎士「彼には何か手当てのようなものをしてやりたいものだが、大っぴらにしては色々と面倒だからなぁ」

魔術「彼、何気に色んな事しているわよねぇ」

少女「何気に有名人ですよ。食堂のおばちゃん達からも絶賛されてますし」

魔術「牛肉ね」

女騎士「牛肉だな」

少女「牛肉です」

少女「まーあの一件そのものが、更に知名度を上げる要因だったのは確かなんですけどね」

女騎士「そういえば君にも聞きたかったのだが」

少女「何でしょうか?」

魔術「うんうん、あたしもよー」

女騎士「彼とはどうなんだ?」ニヨニヨ

魔術「何かあるでしょー、一つ屋根どころか同じ部屋よー」ウリウリ

少女「えへへ、えへへへ」ニコニコ

魔術「なによー言えよー」

少女「えへへ、えへへへ」

女騎士「も、勿体ぶらなくてもいいだろう」

少女「えへへ、えへへへ……」

魔術(あれ、これ……)

女騎士(駄目な流れでは……)

少女「おかしいですよ! 何でですか! なんでまだ手しか握ってもらえないんですかぁ!」ダンッダンッ

女騎士「お、おお……」

魔術「え、ちょっと待って。ここに来てから結構経ってるわよね」

少女「三ヶ月は経ちましたともぉ!」

女騎士「三ヶ月以上で進展は手を握るだけか……」

少女「まあ手を握ってもらったのは初日からなんですけどね!」

魔術「実質、進展0じゃない!」

少女「そおおおですよおおお!」

魔術「まあ、うん、まだおさ、若いんだししばらくすればうん、絶対に手放さないというか」

少女「若いってなんですかぁ! 魔術師様と2つしか違いませんよぉ!」

女騎士「ん……? んん!?」

魔術「え? あ、あれ……えっ!?」

女騎士「……」チラッ

魔術(19)パクパク

魔騎(この子、17?!)

少女「……」ジトー

魔騎(はっ!)ビクッ

女騎士「い、いやあ私はうん、14ぐらいだと、思っていた、ぞ?」

少女「それ、もう一度あたしの目を見ていってもらっていいですか?」ジトー

女騎士「ごめんなさい!」

魔術「ぶっちゃけ……高くても12歳だと思っていたわ」

少女「う……」

女騎士「……10歳」ボソリ

少女「うううぅぅぅ!!」

男「……」ペラ

男(罠かぁ……ゲリラ隊の人達に教わってみるのもいいかもなぁ)ペラ

少女「……ただいま」ガチャリ

男「おーおかえ、酒くさ! え?! どういう事!?」

男「あ……ま、魔術師様や女騎士様か?」

少女「ですですぅー」

男(おああああ! 干渉、ってあれ、少女自身酔っ払っていないかこれ)

少女「男しゃん!」

男「は、はい!」

少女「あたしはなんしゃいに見えますか!」

男「え? うーん……えー……8から10ぐらいだと思っていたんだけど」

少女「あああぁぁぁぁ一桁あああぁぁぁ!!!」

男「しょ、少女……?」

少女「17です!」

男「は?」

少女「あたし17しゃいですぅ!!」

男「ええぇぇぇぇ!?」

男(あの作者無駄に設定盛りす、てか二つ下ーー!?)

少女「ううぅぅ……男しゃぁん……」ヒシ

男「お、おう……」

男(うーん、幼いが故の年上への憧れ的なものかと思ったけど、これは本当に俺の事を想っていてくれているのか……)

男(おおぉぉ急展開過ぎて、マジか、マジなのか……。というかメシウマ合法ロリ嫁とか超勝ち組か?)

男(……)

男(超勝ち組だ)

男「その、悪かった」ナデ

少女「しぇきにん取ってくだしゃい!」

男「俺、致してないよね!?」

男「だけどまあ……その、うーん」

男「ごめん、ずっと妹のように想っていた」

少女「うぅぅ……」

男「けど、これからは君を一人の女性として見て、接していくと約束する」

男「そして、君の事を異性として愛していけるよう努力する」

男「だから泣き止んでくれ」

少女「……」

少女「すぅ……すぅ……」

男「ちょ、えええぇぇ……かなり勇気出したのに」

翌朝
少女「……」ニコニコ

男「お、お早う……」

少女「えへへ、えへへへ」テレテレ

男(これ絶対覚えて、狸寝入り?!)

少女「男さん!」

男「は、はい」

少女「努力、だけじゃいやですからね?」

男「う……分かったよ」

男(でもまあ……悪い気は元々しなかったし……)

男(見た目はあれだけど17歳かぁ……)

男(……)ニヤァ

男(ま、まずい、顔がにやける。いやだって、ええ? 嘘だろこんなご都合主義)ニヤニヤ

男(うん、もっと頑張ろう)

男(うひょー、もう向こうの世界とかどーでもいー)ニヤニヤ

先輩「今日のお前、すっごい気持ち悪いなぁ……」

今日はここまでで
AAはJane Styleに合わせたけどブラウザで見るとズレるのね

こんなもんぐらいかなぁ

._____

|        |
|  干滅い  |
|  渉茶ま  |
|  し 苦な  |
|  て.茶お  |
|  た.     |
|_____|

……
男「よっと」ガッチャガチャ

先輩「これ運んだら休憩入ろう」

男「うーす」

ネズミ「……」タタタ

男「うおっと! あっぶな、踏むところだった」

先輩「最近、ネズミが増えているらしいな」

男「そうなんですか?」

先輩「ああ、結構食料がやられているらしい」

男(うおおおい……ペスト流行フラグじゃないか)

ネズミ「チューチュー」

少女「!! ネズミ!」ガッ

少女「たあっ! やあっ!」ブン ガン

「またかい……まいったもんだねぇ」

少女「このままだと危ないですよね」

「とは言え、どうしたらいいもんかねぇ」

少女(魔術師様はまだいらっしゃるし、ちょっと聞いてみようかなぁ)


魔術「そんな都合のいい魔法ないわよ……」

少女「ですよねー」

魔術「ここには殺鼠剤なんてないしねぇ。食料庫のネズミ対策とか、捕まえるとかするしかないんじゃないかしら?」

少女「困ったなぁ」

魔術「彼はどうなのよ。知ってそうじゃない」

少女「男さんを何だと思っているんですかぁ……」

魔術「割と未開の山育ちだと思っているわよ」

少女「ちょ……」

魔術「そこまでは冗談だとしても、聞くだけ聞いてみたら?」

少女「うーん、ですかねぇ」


男「ああ、次の休みにちょっと行動するつもりだよ」

少女「えええぇぇぇ!」

男「え? 聞いておいてそのリアクションは一体……」

少女「いや、その、なんでネズミ対策まで知っているんですか」

男「以前(漫画)本で読んだ事があるだけだよ」

男「それも上手くいくか分からないけどね」

少女「へえ~」

男「まあ、そんな感じだからさ、あまり期待しないでくれるとありがたいかな」

少女「まあ、あたしは男さんの事を信じてますけどねっ!」

男「プレッシャー止めてね」

クズ従者「聞きましたか?」

クズ騎士「ネズミの問題か?」

クズ従者「違いますよぅ! 例の少女が17歳だっていう話です!」

クズ騎士「なに!? 17歳だと!?」

クズ従者「騎士様のストライクゾーンに入りましたね!」

クズ騎士「ああ!」ニタニタ

男(!)ピクッ

少女「はーい! 今持ってきまーす!」パタパタ

クズ騎士「……」

クズ従者「……」

クズ騎士「俺は、誰かに陥れられようとしていないか?」

クズ従者「とても見えませんよね」

男(このクズ、本当に変なところでまともだなぁ……まあおかげで俺もこの角材を振り回さなくて済んだけど)

雑務A(遂にか? 遂にクズ騎士殺されるか?)ワクワク

雑務B(れっ……! 振れっ……! 振れっ……!)

休日
男「じゃあお願いします」

衛兵「おう」

ゲリラ隊「任せろよ」


ゲリラ隊「この間は同僚が悪い事をしたな。まあ気軽に使い走りにしてくれよ」

男「いやーそういう内容でもないんで」

衛兵「外に出るって聞いただけなんだが何が目的なんだ?」

男「蛇を捕まえてきます」

ゲリラ隊「なんでまた。バーのマスターにでも頼まれたか」

衛兵「なんでだ……?」

ゲリラ隊「東の国には蛇を酒に漬けるらしい」

衛兵「おえ……マジかよ」

男(東方の酒=蛇酒扱いっ!)

男「ネズミ対策で蛇が欲しいんですよ」

衛兵「ああ、そういえば最近増えているって話だったか」

ゲリラ隊「駐屯地に蛇を放つのか?」

男「いえ、蛇がいるだけでネズミは逃げ出す、そうです。それだけ天敵なんでしょうね」

男「という事で、何箇所かで蛇を飼いたいので、数が多ければ多いほどいいです」

男「近くの林に入ったりするので、魔物の遭遇、既に設置されているトラップの対策が欲しかったんです」

衛兵「なるほど」

ゲリラ隊「そういう事なら任せてくれよ」

男「よっと」ガササ

ゲリラ隊「待て」

男「はいっ」ビタッ

ゲリラ隊「ここに糸があるのは分かるか?」

衛兵「……?」ジー

男「えぇ……? あ、見えた!」

衛兵「これ引っかかるとどうなるんだ?」

ゲリラ隊「ちょっとした魔法が発動して、駐屯地の方にここの仕掛けが作動した事を伝える」

男「物理接触によって発動する探知魔法って事ですか」

ゲリラ隊「対策されて駐屯地まで敵が来たそうだからな」

衛兵「? なあ、これはなんだ?」

ゲリラ隊「燃料みたいなもんだ」

男「火攻めですか」

ゲリラ隊「他のやつと連動しているからな。結構な早さで火の海になる」

ゲリラ隊「まあ、天候に左右され易いから効果の程は何とも言えないんだけどな」

男「へえ……」ガサ

男「見つけた!」バッ

衛兵「袋よーし!」

男「おっしゃあああ獲ったどおおおお!」ポイッ

袋「」ガササ

カァー カァー
男「……すっご」ドッサリ

衛兵「こんなに必要か?」

男「い、いえ……十匹もいればいいかと。過剰分は逃がすか」

ゲリラ隊「何匹か分けてくれ、食う」

男「蛇……蛇!」ゴクリ

衛兵「お前も?! お前本当に凄いな……」

数日後
少女「最近、ネズミ見ませんね」

「全くだねぇ。ヘビってのは凄いもんだね」


「おい、聞いたか」
「ああ、またあいつがやったんだろう」
「あいつ、まさか賢者様じゃあないだろうな」
「仔牛を解体する賢者様がいるかよ」
「おい、最近高熱をおこす奴が増えている。お前達も気をつけろよ」
「「「うーす」」」」


患者「うう……」

魔術「どう思うかしら?」

男(なんで俺が……)

男(こんなん分かるわけがないだろ……高熱に関節痛? インフルエンザか? うん……? 待てよ)

男「あの……もしかしてネズミに噛まれたりは……?」

患者「あ、ああ……やられた。くそ……それが原因、かよ」

男(この症状……目つきの鋭い東洋人の人の漫画で読んだな)

男(恐らく、ペストじゃなくて鼠咬症スタンピード? スタロピード? ってやつか……)

男(あれって実際に自然治癒できるんだっけ……? ワクチン? ないよなぁ)ダラダラ

魔術「噛まれたのは何時頃かしら?」

患者「いつ……確か、10日ぐらい、前……」

魔術「なるほど、鼠性感染症ってやつね」

男「鼠性?」

魔術「ネズミに噛まれる事で発症する病気よ。ペストじゃないだけ良かったわね」

男「もしかしてペストとの違いって発症までの時間が違うんですか?」

魔術「ええ、ペストだったら一週間も平気ではいられないものね」

男「治療とかってできるんですか?」

魔術「死亡率は決して低くないわね……。ここで出来る事は薬草の投与としっかりと休養をとるしかないわ」

魔術「指示の方はあたしが出しておくわ」

男「分かりました。俺は失礼しますね」

魔術「あたしもね、そこまで病気に詳しい訳じゃないのよ」

魔術「あなたがいなかったら、辿りつけなかったわ。ありがとうね」

男「ふー……疲れた」

男(とは言え、ネズミをどうにかできたのは大きいな)

男(だけど潜伏期間を考えると、発症する人はこれから増えるだろうな……)

男(まあ、噛まれた人は申し出るように連絡がいくか)


男の部屋
少女「お、男さんって賢者様なんですか?」

男「ぶううう!」

男「な、なんなのその話」

少女「い、いえ、色んな事を知ってらっしゃいますし、何かの病気も判別したとか……」

男「あれはどちらかという、俺の考えから魔術師様が正解を引き当てただけだよ」

少女「それも十分凄いんじゃ……それにヘビだって男さんの案なんですよね?」

男「それだって本から得た知識に過ぎないからな。それにヘビっていうのは結構神様の扱いだったりするんだ」

少女「神様……やっぱり知識量が凄いじゃないですか」

男「そうでもないよ。というか好みの本読んでいるだけで賢者とか……全く、本当にやめてくれ」

少女「皆そう言っているものだったんで」

男「み、皆……」

男「な、なんなのその話」

少女「い、いえ、色んな事を知ってらっしゃいますし、何かの病気も判別したとか……」

男「あれはどちらかという、俺の考えから魔術師様が正解を引き当てただけだよ」

少女「それも十分凄いんじゃ……それにヘビだって男さんの案なんですよね?」

男「それだって本から得た知識に過ぎないからな。それにヘビっていうのは結構神様の扱いだったりするんだ」

少女「神様……」

男「神話とかでも多いけど、ネズミの件やその生態が農耕の神として崇められる由縁だったりするのさ」

少女「やっぱり知識量が凄いじゃないですか!」

男「そうでもないよ。というか好みの本読んでいるだけで賢者とか……全く、本当にやめてくれ」

少女「皆そう言っているものだったんで」

男「み、皆……」

男(うん? ちょっと待て)

男(それってこの駐屯地で、俺が有名である事の裏づけじゃないのか?)

男(……これ、もうどうしようもないぐらい干渉、いや俺自身が存在しているだけで大きな干渉をし続けている、か?)

男(とは言え、今のところあまりにも大きな変化は……!)ハッ

男(考え方が間違っているのか……? いや、もう今までの考え方じゃ駄目なぐらいに状況は変容しているんじゃ)

男(既にここはもう、原作との近似値で揺れ動いている状態じゃない。"原作に似ただけの世界線"と見るべきじゃ)

男(そうだよ……ネズミ騒動なんて、俺が動かなかったら最悪、ここが潰されていたぞ)

男(も、もう干渉がどうとかいうレベルじゃないんだ……俺自身、積極的に動かないと超えられない事態も起こりうる)

男(言ってしまえば、今まではフラグ立て中だったんだ。多少イベントの差異はあっても大まかは同じ話)

男(だが、今はもう特定のルートに入ってしまっている)

男(確かに、な。女騎士やら魔術師やら騎士やら何やら、色々と接触されたもんな)

男(俺がヒロインかよ、しかもある意味俺のハーレムルートっていう)

男(少女、女騎士、魔術師、騎士、ゲリラ隊、雑務員の面々……やだこのハーレムルート過半数男よ)

男(兎にも角にも、完全に漫画のストーリーから分岐したと考えたほうがいい)

男(最早、自分の行動如何に関わらず……)

男(だとしたら、俺が放出して良い知識はこの世界のパワーバランスを崩さないように……)

男(……そんな知識ないなぁ。いや気をつけないとマズイか。当たり前の知識がここじゃ違うって事もあるだろうし)

男(実はここはまだ天動説でしたーみたいな素敵なオチが待っているかもしれないし)

男(うわーーーー難しいなああぁぁ)

男(とにかく今は更に知識を溜め込まないと……いよいよ何が起こるか分からなくなってきたぞ……)

男(手始めに弓の整備……あとは罠か)

男(ナイフも何本か持っていれば、サバイバルになっても少しは安心できる)

男(……非常食、干し肉とか作っておくか)

非番
男(うーん、いくつか肉が残っているんだよなぁ)

男(干し肉って言っても微妙に作り方分からないんだよな……)

男(そのまま日干し? 腐らない? でも魚の干物とか日干しだよなぁ)

男(待てよ、干すだけが保存食じゃないよな)


少女「ここにいたんですか男さん! お休みですし二人で一緒に……」

男「えっほえっほ」ホリホリ

少女(なんか凄い穴掘ってる!!)

少女「燻製、ですか? でもこの穴って一体……」

男「この深いところで燃して、これとこの細い穴には筒か何かを入れて埋める」

男「片方は燃やすところへ空気を送り、もう片方は煙を送る」

男「で、こっちの穴に被せ物と肉類を置けば、燻製装置の出来上がりって訳だ」

少女「凄いっ。凄い……ですけどなんか原始的ですね」

男「いやうん、的というか古代に行われていた燻製方法だよ?」

少女「なんで知ってるんですか!?」

男「(漫画)本とは、叡智の結晶なんだよ」

少女「! なんか凄いカッコイイ!」

男(まあ、漫画と言ってもサバイバル系は結構、しっかりした取材しているからなぁ。ここまで役立つとは思わなかったけど)

男「これをこうしてこうっ。で被せ物を作っていく」

少女「お任せ下さいっ」ムンッ

男「よし、俺は穴掘りを続ける」ムンッ


男少女「」キャッキャッ

女騎士「……」

魔術「どうしたのよ?」

女騎士「釣ろうともしなかった魚は……存外、大きかったかもしれないな、と思ってな」フゥ

魔術「でもまあ、どうあってもあちらに向けて、竿を振る気には……」

女騎士「まあ、初めから少女がいたからなぁ……」

数時間後……
男「できたぁっ」モァッ

少女「わー!」パチパチパチ

男「下拵えなしでちょっと塩を振っただけだから、出来はあまりよくないだろうけどね」

少女「そうなんですか?」

男「本来すべき過程をだいぶ端折ったからなぁ」

男「中は半生だろうし、茹でてから保存? でもまあ、少しぐらい食べてみるか」


男「むぐ……!」

少女「美味しいですね!」

男「うーん、こんなんでもそれっぽくなるんだな」

少女「ああ……美味しかった」

男「今後はもっと下拵えして、ちゃんとしたベーコン作って保存するかなぁ」

少女「手伝いますよー」

男「はは、お願いするよ」

少女「……」

少女(今日、デートしようと思ってたのになんか違った!)

男「うん? どうかしたか?」

……
先輩「今日もいい天気だな」

男「良い天気過ぎて暑いぐらいですよ」

先輩「まあな。ああそうだ、雲行きが悪そうだったらすぐに教えてくれ」

男「どうかしたんですか?」

先輩「何でも食料を大量に干しているそうだ」

男「へえ……」

先輩「一応皆で気をつけてはいるが、って話だ」

間もなく夕暮れ時
男「ふう、ふう……」サァァァ

男「おー良い風……」

男(というか一気に風が強くなったし冷たくなったな)

男(おまけに黒い雲か……ちょっと時期外れだけどこりゃ夕立がくるな)

男「夕立がきますよ。今朝話してた日干しはどうなってますか?」

先輩「え? 夕立? 本当に?」

男「た、多分……」

十数分後
「急げぇぇぇ!!」ゴロゴロゴロ

「あっちの倉庫いっぱいだぞ!」

「こっちに回せ! 降ってくるぞ!」

「ラストぉ!」ポツポツ

男「おぉ……間に合った」ポポポポポ

先輩「すっご……本当に」サァァァ

男「でもこれ、宿舎の方に戻れませんね」ザアァァァァ

先輩「止むの待つかぁ」

先輩「しっかし、よく分かったな」

男「以前、夕立の多い地域にいたので」

男(パスポート必要とか未開とか土人とかネットで言われてる場所だしなぁ)

衛兵「またお前か。まあ助かったよ」

男(もう干渉とかどうでもいいと思うと、気が楽だなー)フニャ

男(……)ゴロゴロッドォォン

男(少し、懐かしいな……。とは言え、親には悪いけど、俺はここで生きていきたいしな)ザアアアア

男(ま、たまにぐらい、感傷に浸るのも有りか)ザアアアア

……
ゲリラ隊「で、ここをこうするとこうなる」

男「ふんふん」

ゲリラ隊「しっかしなんで急に罠の事なんかを。狩猟ならお前の弓があんだろ?」

男「いえ……まあ、こういう知識はあって困らないので」

ゲリラ隊「ほー……? 正直に言えよ、なんか企んでるんだろ?」

男「いやあ、企むだなんて」

ゲリラ隊「白々しい。お前の今までの様子から、何かあるから知ろうとしているんだろうが」

男(流石に出しゃばり過ぎたかなぁ……もっともらしい理由、もっともらしい理由)

男「戦況は良いですからね。敵がこの状況を覆すには凄い策略を練るか」

男「ここや王都を狙い撃ちにする事だと思います」

ゲリラ隊「前回の事もあるし、か?」

男「です。出来る事なら周囲の警備を強化しておきたいですからね」

男「いざとなったらここを放棄して、生き延びなければなりませんし」

ゲリラ隊「なるほど、な」

ゲリラ隊「因みにお前ならトラップ強化を何処にする?」

男「……耕作地の周りですかね」

ゲリラ隊「おいおい、食料は敵にもありがたい話じゃないのか? そう無闇に近づくもんじゃないだろう」

男「飽くまで周囲に、です。この駐屯地の周りは遮蔽物が少ない」

男「ですが、夜間に畑に紛れ込まれたら……無風の環境でもない限り、出てこなければ見つけられません」

ゲリラ隊「……そこで準備を整えて攻め込まれたら」

男「目の前まで敵が来ているのに気付いていない時点で、だいぶ詰んでますけどね」

ゲリラ隊「だがまあ、良いたい事は分かった。俺らももうちっと考えて行動しよう」

ゲリラ隊「……あとこの地図を持っとけ」

ゲリラ隊「林で話した発火罠と周囲の罠の位置だ」

男「発火罠……駐屯地にまで伸びているんですが」

ゲリラ隊「導火線だよ」

男「ああ、なるほど……」

男「ふーただいまー」

少女「……」ブスー

男「どうした?」

少女「折角のお休みなのに」ボソボソ

男「……あー」

少女「あーじゃないですよぅ!」

男(……もう一歩踏み込んでもいいのか、な)

男「少女」グィッ

少女「えっえっ」グッ

男「……」ギュッ

少女「えーーわーーー!」カァァッ

女騎士「男、少女! 付き合え!」バァンッ

魔術「あたし達は明日が休み! バーに行くわよ!」ザッ

男少女「」

騎魔「」

騎魔「ご、ごゆっくり」

男少女「は、はい……」

騎魔(うわあああ! 見ちゃった! 見ちゃったああああ!!)

男少女(うわあああ! 見られたぁ! 見られちゃったああぁぁ!!)

翌朝
男「お早うございまーす」

先輩「な、なあお前……」チョイチョイ

男「はい?」

先輩「近親相姦したんだって……?」ヒソヒソ

男「ぶうううう!!」

男「何が何でどうなったらそういう?!」

先輩「いや、遂にあの子に手を出したとか」

男(あの二人ぃ!!)

男「というか妹でもないですよ!?」

先輩「まあなんだ、俺はお前の事を誠実な奴だと思っているし」

先輩「あの容姿に手を出したのはすげえと思っているけど、応援しているからな」ニカッ

男「微妙に悪意を感じる発言があった気がするんですが」

先輩「気にすんな気にすんな」

雑務A「遂に陵辱したんだって?!」ズザァッ

雑務B「眠らせてヤったんだって?!」ズザァッ

男「先輩、角材」

先輩「うーん、これは流石に渡さざるを得ないな」

男(慌ててからもう三ヶ月ぐらい経ったか……あれから漫画通りにしか進まないな)

男(それに来週はいよいよ……)


剣将「これより、我々は最終決戦へと向う!」

剣将「この駐屯地は、ゲリラ隊と衛兵のみとなる。皆には苦しい状況に立たされる事もあるやもしれん」

剣将「だが、我々は必ず勝利を手に生還する! それまでの間、我々の留守を頼みたい」

「おおおおおお!」
「お任せ下さい!」

男(遂に11巻、決戦巻か……)

男(これが終わると次は魔物大進行……対魔物編かぁ)

男(お話で考えるなら、この山場でこの駐屯地も何かしらの攻撃を受けるはずだ……)

男(一日一日……一切、気を抜く事無く厳戒態勢でもって当たらなければ)


「おい……賢者がピリピリしているぞ」

「やばいな……何かが起こるんじゃないか?」

「俺らも警戒しておいたほうがいいな」

先輩(凄い信頼感だ……俺もそう思うけど)

二週間後
男「……」スヤスヤ

少女「……」スゥスゥ

警鐘「」カァンッカァンッ

男(来た!)ガバッ

少女「ふぇ……ううん、なんなんですかぁ」カァンッカカァンッ

男「……」カァンッカァンッカァンッカカァンッ

男「敵を確認、厳戒態勢! 少女!」

少女「う、嘘……そんな」ガタガタ

男「しっかりしろ! 俺がついている!」

男(大して何もできないけども)

少女「お、男さん……は、はい! 取り乱してすみません!」

男「どうなっていますか?!」

ゲリラ隊「非戦闘員はひっこんでろ!」

ゲリラ隊「ま、待て、そいつは……林を突っ切ってくる何者かが一体」

ゲリラ隊「後方に複数の存在も感知されている」

男(一体……? どういう事だ?)

男(敵軍にしては動きが謎過ぎる……魔法で弾丸的なものを射出?)

男(いや、それだともう到達しているか?)

男「櫓だ、何か見えているかも……」

少女「ひ、避難とかじゃないんですか!?」

男「状況が分からないままでの行動は危険だ」タタ

男「どうなっていますか?!」

見張り「あ、あれは……なんだ? でかい……」

見張り「っ!! オーガ! オーガジャイアントがこちらに突撃してきます!」

男「なっ……」

衛兵「オーガジャイアント……? 2mはあるやつじゃないか!」

衛兵「不味いぞ……ここの防壁では……」ゾォ

男(迂闊だった……! 魔物編が被ってくるなんて……!)

男(オーガジャイアントに突撃させて壁を崩し、本隊が攻め込むって段取りか!)

男(くっそぉぉ! こっちは壁が三枚もないしワイヤーアクションなんてできやしないんだぞ!)

ゲリラ隊「オーガの群れって事か……くそ、こんな時に……」

男「火! とにかくせめて本隊にダメージを与えないと!」

ゲリラ隊「お、おお、そうだった! 発火罠起動ーー!」

男(どうする? どうしたら? 生き残るには……)

男(逃げる? 何処へ? オーガジャイアントの突破力は危険すぎる……)

男(あれがいる限り、近隣の町だって安全じゃなくなる……ならば)

男(ここで……食い止めないと死亡率が高いな)ゴクリ

少女「男さん……」

男「少女……よく聞いてくれ。俺はここで戦う事にした」

少女「えぇっ!?」

男「だけど君は、他の人達と共に避難してくれ」

少女「……」

少女「嫌です」

男「しょ、少女?」

少女「男さんについていきます」キッ

男「……分かった。説得する時間も惜しい、ついてきてくれ」

オーガの群れ
オーガ達「よーし、この林を抜けたら一気に進むぞ!」

オーガ達「今頃連中も大わらわだろうな!」

オーガ達「なんだ!?」ボボォゥ

オーガ達「火によるトラップか……」

オーガ達「急ぐぞ!」ボボボボ

オーガ達「な、早、ぎゃああああ!!」ボオオオ

オーガ達「こ、これはっ」ボボォッ

オーガ達「火が! 火がぁ!」

オーガ達「急げ! 火に囲まれるぞ!」ダダダ

オーガ達「ヤロウ! くそっ!」

オーガ達「ここまで手が込んだトラップだったか……迂闊な!」

オーガ達「ま、待って、おいてか、アアアアア!!」ボォォッ


見張り「炎の前に……無数のオーガの姿が!」

ゲリラ隊「止めきれないか……!」

見張り「オーガジャイアントが到達するまで、およそ五分!」

衛兵「覚悟を決めるぞ」

ゲリラ隊「だな」

防壁外
男「ひぃ……ひぃ……!」タタタ

男「間に合った! ジャイアント来る前っ!」

少女「今置いてきた物ってなんですか?」

男「ゲリラ隊の発火罠だ」

少女「な、なんで持ってるんですか!」

男「横流ししてもらった」

ゲリラ隊『仕方ないなー蛇貰っちゃったもんなー仕方がないけど言うなよー』ニタニタ

少女「でもなんで壁の外に……」

男「これから壁が突破される。その後に敵本隊が到達するんだろう。それに合わせて火の壁を作り防壁とする」

少女「な、なるほど……」

男「一旦中に戻るぞ!」

ゲリラ隊「急げ! 閉めるぞ!」

男「ありがとうございます!」

衛兵「これからどうするんだ……いやどうしたら……」

男「オーガジャイアントをどうにかしない限りは助からない」

男「けれどもバリケードを作る時間もない。駐屯地奥に集まり弓矢にて攻撃を行おう」

ゲリラ隊「オーガジャイアント相手に弓か……殺しきれるとも思えないよなぁ」

男「ある程度動きが抑えられる傷を与えるだけでもいいんです」

衛兵「それが難しいのだが……やるしか道はないか」

衛兵「西からオーガが来るぞ! 総員東に移り、弓矢にて迎撃せよ!」

ドッゴォォォン

衛兵「来たぞ……!」

ゲリラ隊「もう少し引きつけてから射るぞ」

衛兵「お、おい、ちょっと待て、あれは」


衛兵「かかれぇ!」

巨オーガ「ふんっゴミ虫どもがわらわらと……」

巨オーガ「うっとおしいわ!」ブォッ

衛兵「へけっ」ゴシャァッ

衛兵「馬鹿な……」

男「号令が聞こえていなかったのか……」


ゲリラ隊「ちっ……ただの棍棒の振り下ろしで即死かよ……」ジリ

巨オーガ「さあ、て……次はどいつが死にたい!」ギョロギョロ

巨人兵士「……」ノッシ

巨オーガ「ほう……」

巨人「……」ポィ

大斧「」ゴットン

巨オーガ「……」

巨オーガ「面白い奴だ」ニタァ

棍棒「」ゴツッ

巨人「ぬぅん!」ガッ

巨オーガ「おぉっ!」ガッ

巨人「ううう!」グググ

巨オーガ「ぬぬぬ!」グググ

衛兵「おお! 押さえやがった!」

ゲリラ隊「いや、それでもオーガの方が体格上有利だ……」

ゲリラ隊「かと言って近づけば巻き添え、か」

ゲリラ隊「弓を。間が空いたら支援を行う」

衛兵「ど、どうするんだよこれぇ」

男「……」

男(少しずつ北の方に向っている……オーガジャイアントは巨人兵士と周囲の兵士に任せるか……)

男「オーガがあそこから離れたら、壊された防壁まで進みましょう」

少女「えぇ?!」

ゲリラ隊「……本隊か」

男「こうなった以上、後続はこちらで受け持った方がいいです」

衛兵「……よし、北の宿舎の方に行ったぞ!」

ゲリラ隊「進めぇ!」

見張り「俺はまた櫓に登るぞ」

衛兵「報告頼むぞ」

見張り「おお!」

男(ここが正念場か……本隊もジャイアントも、どっちかが残っていたら生存率がぐっと低くなる)

男(逃げ出したいけど逃げ出せないっ!)グッ

少女「男、さん……」

男「大丈夫だ。怖いけども、生きたい。生きたいから、立ち向かうんだ」ザッ

ゲリラ隊(こいつ、軍属に入った方がいいんじゃないのかなぁ)

見張り「! 距離100! オーガの……なんだ?」

衛兵「どうした!」

見張り「三部隊に分かれています! 前方より少数の第一、第二、そして過半数を超える第三部隊!」

男「波状攻撃? だけどこの分け方は……」

ゲリラ隊「足の速い者を前にして、距離を詰めるという事では?」

男「うーん、どうなんだろう。意図が見えないなぁ……」

衛兵「矢の準備、万端だぜ」

ゲリラ隊「攻撃対象が本隊に移ったおかげで十分に用意ができたな」

男「少女、このクロスボウを」

少女「な、なんですかこれ……」

男「こう構えてここを人差指で引くと矢が飛んでいく」

男「矢の装着はここに乗せて、このハンドルを回し続けてカチッて音がなると装填完了だ」

少女「つ、作ったんですかこれ!?」

ゲリラ隊「中々面白かったぜ」

男「流石に内部構造までは俺じゃ作れないからなぁ……本当にありがとうございます」

少女「というか作り方……」

男「ここにある本で何とか作ったんだよ。流石に俺も自分で設計とかできないからね?」

見張り「第一波、距離30!」

衛兵「20を切ったら射掛けるぞ!」

ゲリラ隊「オーガとは言え動くし盾もある相手に20mからか」

男「数撃ちゃ当たる戦法ですね」

少女「それじゃ駄目なんじゃ……」

男「現状で入り込まれるより足止めした方がいい。出来るだけまとめて炎の壁で焼き払いたいからね」

少女「あ、そっか……火を回避されたら迂回されるだけですもんね」

見張り「距離20!!」

衛兵「攻撃開始ぃ!」ギリリリ

ゲリラ隊「はっ!」ビッ

男「ふっ!」ビッ

少女「わわっ」ビュンッ

少女「ま、真っ直ぐ飛んだぁっ!」

ゲリラ隊「へっへへ、調整済みだぜ」

男「ただ使用耐久は不安があるんだけどね」

第一波オーガ
オーガ達「ぐぉっ!」ドシュッ

オーガ達「矢か……! しかし、この威力では急所に当たらん限り、致命傷足り得ないな」ガッ

オーガ達「盾を掲げて進めぇ!」

オーガ達「ごっ!」ドシュッ

オーガ達「運の悪い奴め……」

オーガ達「一人、目からいったぞ! 気をつけろぉ!」ザッザッ

オーガ達「進め進め!」

ゲリラ隊「そろそろか」

ゲリラ隊「様子見で一発いくぞ、炸裂筒用意!」

ゲリラ隊「炸裂筒矢、用意っ!」

衛兵「えっ」

男「えっ」

少女「?」

ゲリラ隊「射れ!」

ゲリラ隊「はっ!」ビッ

オーガ達「おおおお!」ババババ

オーガ達「くっそ! こんなものまで持ってるのか!」ババン

オーガ達「がああああ! 目があああ! 目がああああ!」

オーガ達「ちっ! 戦えない者は下がれ! 足手まといだ!」

オーガ達「総員散開! 矢を避けるつもりで進め!」


男(あんなものまであったのかぁ……ちょっとそっちも流して欲しかったなぁ)

衛兵「お、おいおい! 散り散りになったら当てづらくなるだろう!」

ゲリラ隊「いやいい。これで敵は慎重にならざるを得ない」

男「突撃の抑止力、ですね」

少女「あのぉ……状況が」

男「俺達にとって困るのが、あのオーガがここまで辿りついて、それにかかりっきりになる事だ」

男「そうなると後続の大部隊が損傷なしにここに雪崩れ込む事になる」

男「時間があれば何でもいい、という訳じゃないけども、その詰みの状態を先送りにできるのは有り難い」

少女「なるほど……」

本隊オーガ「追いついてしまったか……」

二波オーガ「思いの他、敵の抵抗が激しく」ドシュッ

本隊オーガ「死者を盾にしろ! ここまで来たら手をこまねくのはジリ貧だ!」

本隊オーガ「突撃! 突撃ぃ!」


見張り「敵、進行速度上昇!」

ゲリラ隊「形振り構わなくなったか!」

男(意外と早いっ! 削りきれるか!?)

衛兵「後退しつつ攻撃を続行!」

ゲリラ隊「こいつは……白兵戦は覚悟しないとだな」

オーガ達「敵陣まで10mもねえ!」

オーガ達「おおおおお! ぶっ殺せぇ!!」


ゲリラ隊「く! 入り込まれる……!」

少女「男さん!」

男「ああ! ここしかないだろ!」シュポ

ゲリラ隊「お、どう使うんだ?」ワクワク

小型発火罠A「」ボボッ
小型発火罠B「」ボッ
小型発火罠C「」ボゥッ
小型発火罠D「」シュボッ


防壁前オーガ達「おっしゃあ! 到た」ゴッ

防壁前オーガ達「がああああ!」ボォオオォ

オーガ達「くそ! また火罠か!」

オーガ達「ヤロウ……防壁を諦めて俺達に罠を……」

オーガ達「結局、俺達で防壁を崩さないとか……二手に分かれて迂回するぞ!」


衛兵「ま、不味い、北が攻め込まれるとオーガジャイアントまで残る事に……」

男「とにかく攻撃しまくって下さい!」

ゲリラ隊「敵はまだ前方にいる! 射れ! 射れ!」


オーガ達「ぎゃっ!」ドッ

オーガ達「くそ……! 炎の所為で矢の目視から到達までの時間がっ!」ドシュッ

男「更に畳み掛けましょう」サッ

少女「発火罠のついた矢?」

ゲリラ隊「なるほど、火の壁を通せば」

男「有り難く使わせてもらいますよ」ギリリ

ゲリラ隊「おう! 景気づけにいくぜぇ!」ビッ


オーガ達「炎の壁の前からどけ! 矢が来るぞ!」

オーガ達「おい、邪魔だ! 早くどけ!」

オーガ達(くそ……馬鹿ではないな。そういう人間は戦場にいるもんだと思ったが、爪が甘かった)カッ

オーガ達「なああああ!」ボァァァ

オーガ達「炎が! 炎が飛んできた!」

オーガ達「どけぇ! 早くしろぉ!」

見張り「数……20近く健在! 負傷……に、20ぐらい?!」

衛兵「結構残ってるな」

ゲリラ隊「負傷の状態がどの程度にもよるな……」

男(駄目だ……これだけの数、突破される……失敗した、失敗だ……)ゾォッ

男(どうする……今から逃げるか? ここの人達が数を減らしてくれれば町の兵士達でも対処できるか……?)

男(駄目だ……オーガジャイアントが生き残っていたら……だけど……俺にはもう策は……うぉっ)バンッ

衛兵「任せろよ」

ゲリラ隊「本来、戦うのは俺らの勤めだからなっ」

少女「お、男さん、大丈夫ですか?」

男「……」

男(何を焦っていたんだ……もう今更後悔はできない、賽は投げられているんだ)

男(破れかぶれでも滅茶苦茶な方法でも……やれるだけの事はしないと、な)ニッ

男(……俺に出来る事……やれる事……)

男(本当に、破れかぶれだな……)ニィ

男「俺は南に行きます」

衛兵「はぁっ? い、いやお前はもう逃げろよ!」

男「いえ、戦います」

ゲリラ隊「だが、これ以上はお前の出る幕も難しいんじゃないか?」

男「形振り構わずぶち当たりますよ」

少女「き、危険ですよ!」

男「接近戦をする訳じゃあないよ」

男「南は櫓からの投石による攻撃、また火をつけた飼葉を撒いて煙幕をはります」

男「少女、飼葉を運んできて」

少女「は、はい!」バッ

衛兵「時間がない、俺も手伝う!」ダッ

ゲリラ隊「しかし投石に煙幕は相性が悪くないか?」

男「この際、最大効率は無視しましょう。俺は東側から外に出て南の敵に射掛けます」

衛兵「む、無茶苦茶だな」

ゲリラ隊「……改善案を考える時間も惜しい。こちらも一部の者をそちらに回し、その案で進めよう」

衛兵「い、いいのかよ……こいつは曲がりなりにも非戦闘員だぞ」

ゲリラ隊「男、時間を稼いでくれ。俺達が必ず、北のオーガとオーガジャイアントを排除して、戻ってくる」

男「ええ、お願いしますよ」

北部
オーガジャイアント「ふーー! ふーー!」

巨人「はぁっ! はぁっ!」

ゲリラ隊「……」ビッ

オーガジャイアント「ぐっ!」サッ

オーガジャイアント(小賢しい! だがしかし、連中まで相手をしてこいつに隙を見せるのは……)

巨人「はぁっ! はぁっ!」ギラッ

オーガジャイアント(ちっ……人間相手にハンデとしては、随分と高くついたな)

オーガジャイアント(本隊も苦戦しているようだし……俺自身でどうにかしなくては危ういな)ギリッ

ゲリラ隊「おぉ……思いがけず優勢だな」

ゲリラ隊「ああ。だがあの木偶の坊が倒れたら一気に崩されるだろうけどな」

衛兵「向こうの支援は十分だな。俺達は北へ回る敵に集中するぞ」

衛兵「梯子持ってきたぞ!」

ゲリラ隊「防壁上より攻撃を行う、行くぞ!」


少女「ひぃ……ひぃ……」

衛兵「君はもう休め!」

少女「だ、駄目ですぅ!」

ゲリラ隊「はい、じゃあこれ」

少女「バケツ……」

ゲリラ隊「石拾って来ーい!」

少女「は、はいいい!」

衛兵「あんまり休みにはならなくないか?」

ゲリラ隊「この状況だ。敵から少しでも離れていられるなら、越した事はないさ」

ゲリラ隊「煙幕確認」

ゲリラ隊「敵はこちらには気付いていないだろうな」

男「もう少し、煙が濃くなったら」

ゲリラ隊「これ当てられるかなぁ……流石に自信ねえなぁ」

男「少しでも混乱が生み出せればいいんです」

男「特にこちらに気付けずにいてくれれば尚良いですね」

ゲリラ隊「こっち向ってきたら?」

男「残り三つ……発火罠を使って攻撃しながら逃げます」

ゲリラ隊「しかもそれ二個は着火用じゃん……」

男「逆に二個使う事で、次のも見掛け倒しと誤解させて直撃を狙うんですよ」

オーガ達「くそ! 目暗ましか!」

オーガ達「ぐ!」ガッ

オーガ達「くそ! 石を落としてきやがる!」


男「よし……」ギリ

ゲリラ隊「攻撃開始っ」ギリリ

ゲリラ隊「そおらっ」ビッ

オーガ達「かふっ」ド

オーガ達「な、なんだ!? どうした!」

オーガ達「ぐぉっ!」ドッ

オーガ達「くそ! 矢だ! また射掛けられてるぞ!」

オーガ達「つっ!」ガッ

オーガ達「上は石、恐らく東から矢……」

オーガ達「くっそぉ! 東だ! ぶち殺」ドシュッ

オーガ達「このまま逃走しても追撃を食らうだけだ」

オーガ達「東の弓兵を攻撃! 確実に仕留めろ!」ダッ

オーガ達「全速力で走れ!」


ゲリラ隊「敵が!」

男「こ、後退しつつ」アワアワ

ゲリラ隊「攻撃しつつ後退!」

ゲリラ隊「こいつら、早いぞ……!」

オーガ達「このまま逃走しても追撃を食らうだけだ」

オーガ達「東の弓兵を攻撃! 確実に仕留めろ!」ダッ

オーガ達「全速力で走れ!」


ゲリラ隊「敵が!」

男「こ、後退しつつ」アワアワ

ゲリラ隊「攻撃しつつ後退!」

ゲリラ隊「こいつら、早いぞ……!」

男「くっ!」ビッ

ゲリラ隊「発火罠は!」

男「今ここで使い切ります! そっちは! さっきのあれは!」

ゲリラ隊「北の方に持っていかれた!」

男「おおぉぅ!」


オーガ達「煙幕を抜けたぞ!」

オーガ達「たかだか五人か! 突っ込め!」

オーガ達「殺せぇぇ!」

オーガ達「ぐおおお!」ボシュゥッ

オーガ達「炎の威力が下がった……?」

オーガ達「何時でかいのがくるか分からん! 極力回避しろ!」

男「……」ギリリ

ゲリラ隊「お、おい? 早く攻撃用の発火罠を射れ」

男(敵は……これでも完全に警戒している……? 何処を狙う? 狙えば効果的なんだ?)

ゲリラ隊「お、追いつかれる!」

男(くそっ!)ビッ


オーガ達「散開!」バッ

発火罠「」ボボォォンッ

オーガ達「本命か!」

オーガ達「第二射があるかもしれん! が、全速前進!」

オーガ達「おおおおおお!」

男「あ……」ブル

ゲリラ隊「こ、これは……」

ゲリラ隊「全力で後退! もう足止めにもならない!」

男「くっ!」バッ

男(駄目か! 駄目なのか! やっぱりここまでなのか!)

オーガ達「追いついたぁ!」

オーガ達「死ねぇぇ!」

ゲリラ隊「ちっ!」ビッ

オーガ達「……」ガッ

オーガ達「終わりだっ」ブォ

ゲリラ隊「くっ!」

ザンッ

なにそれwww
とか思ったら普通にそう書いていたでござるの巻

オーガ達「ガアッ!」ドザァッ

衛兵「たああ!」ヒュンッ

オーガ達「ぐ!」ガッ

ゲリラ隊「間に合った……? いや数が……」

男「まさか……南を開門したのか……」

オーガ達「くそ! 挟撃か!」

衛兵「突撃ぃ! ゲリラ隊を援護しろ!」

男(た、助かったぁおっ!)グイ

ゲリラ隊「バカヤロウ、とっととこっちに来い!」グイグイ

男「な、なに? ちょ、駐屯地から離れて」

ゲリラ隊「まだ終わってないよー」

ゲリラ隊「よし、この位置なら正確に射れば友軍を巻き込まないな」

男「あ、ああ、そっか」

ゲリラ隊「お前がやるって決めたんだ。最後まで付き合ってもらうぞ」ギリリ

ゲリラ隊「攻撃開始!」

男「……」

男「おっし、もう一仕事だ」

オーガ達「くそっ!」ガギィン

衛兵「たああ!」ザンッ

オーガ達「死ねぇ!」ブォッ

衛兵「がっ!」ゴシャッ

オーガ達「畳み掛け」ドドシュッ

オーガ達「くそ! 弓兵か!」

オーガ達「だ、駄目だ! 退路もねえ!」

ゲリラ隊「あと少しだ!」

ゲリラ隊「矢もな」

男(腕が痺れてきた……だからこそ、一発一発を集中して!)ビッ

オーガ達「が……ぐふ……」

ゲリラ隊「よし、このまま防壁沿いに西から北へと向かうぞ」

男「おおう……」ヘロヘロ

衛兵「いや、お前もう休めよ。休んでいいよ」

男「うーん……」

男(と言っても、流石に体力的にもう足手まといか……)

男「そ、そうします」

衛兵「俺達はこのまま迂回する。お前は中の奴と一緒に南を閉門をしてくれ」

男「皆さんは?」

衛兵「火が消えたら西から入るさ」

ゲリラ隊「行け、十分すぎる働きだ」

ゲリラ隊「あとは任せてゆっくり休んでてよ」

男「よろしくお願いします」


少女「おどござぁぁん!」ダタッ

男「少女……」ボスッ

男「あ……」ヨロー

男「おぐっ」ドザッ

少女「おどござん!?」

男「大丈夫……力が入らなかっただけだよ……怪我はしていないよ」

少女「う……! うう……!」

男「泣かないで……」ナデ

少女「無事で! 無事でよがっだぁ!」

男「はは……本当に」

男「何度か、諦めかけたよ……」

男「生き残れて、よかった……」

男「でも……流石に疲れた……」スゥ

少女「おどござん!?」

衛兵「! おい! 誰か衛生兵を!」

翌日
男「……う、ん?」

男「ふぁぁ……」ノビー

男「……」

男「あ、あれ……? ここは」ボケー

少女「すぅ……すぅ……」

男「……そういえばそうだったな」

男「て事は……一応無事に済んだのか」

男(というか緊張の糸が切れたらそのまま眠るとか)

男(あの時ついて行っていたら死んでいたかも)ゾォ

先輩「お、起きたか」ガチャ

男「あ、先輩」

先輩「丸一日だぞ。逃げないわ戦うわでどんだけ驚かしてくれるんだ」

先輩「その子も昨日からずっと看ててそんな状態さ」

男「そっか……ありがとな」クシャクシャ

少女「んん……」

男「あの後、どうなりました?」

先輩「えーと……北側とオーガジャイアントだよな」

先輩「北側は防壁の上から攻撃し、半数を切る頃に撤退していったそうだ」

先輩「オーガジャイアントは何とか撃破したんだよ」

男「おおっ」

先輩「被害状況としては、当然ながら西の防壁」

先輩「一部の建物が軽度の損傷」

先輩「死者18名、負傷者5名」

男「……」

男「負傷者が少ないのは」

先輩「まあ、オーガジャイアントの強さがね。殆ど即死だよ」

男「……そうですか」

先輩「でもまあ、事態に対してで考えれば格段に被害は少ないよ」

先輩「全滅していてもおかしくなかったしね」

男「……」

男「慰めにもならないですね」

先輩「そう背負い込むなよ。お前はよくやっただろ」

男(それでもあと少し……今一歩先まで考えていたら)

男(魔物編一発目のオーガ襲撃の対策ぐらいは取れていたはずだ……)

先輩「……」

先輩「……」バンッバンッ

男「……痛いっす」

先輩「勿論、この程度の被害で留まったのはお前一人の力じゃない。兵士の人達の力があったからこそだ」

先輩「だがお前がやったっていう、発火罠で防壁代わり、北の耕作地の罠」

先輩「南側の敵への攻撃案。これらがなかったら、被害はこれでは済まなかったはずだ」

先輩「俺はお前が何者なのかは問わないよ。ただ俺の、俺達の後輩ってだけだ」

先輩「必要以上に背負い込み、追うべきでない責任に悔やむ、おまけにとんでもない事をやってのける」

先輩「挙句、駐屯地防衛でもそれなりに貢献をする、勇敢で自慢の後輩だ」クシャクシャ

男「ありがとう、ございます」

先輩「まあ、無理だろうけど気に病むなよ」

先輩「多分、この駐屯地でお前に感謝していない奴は誰もいないさ」

男「……」

少女「う、ん……」

男「お早う、少女」

少女「……」

少女「……」ブワァッ

少女「男さぁん!」ヒシッ

少女「うっ! うっ! 良かったよぅ! 良かったぁ!」

男「うん、うん……ありがとう」ナデ

先輩「さて、俺はお暇するかな」

男「すみません、様子見に来てくれて」

先輩「自慢の後輩だからな」ニッ

先輩「それと、今朝早くに伝達があってさ。我が国が勝利したそうだぞ」

男「! 本当ですか!」

先輩「ああ、覚悟はしておけよ」

男「へ?」

先輩「だってお前、女騎士様達と親しいっていうかお気に入りなんじゃないか?」

先輩「帰ってきたら相当可愛がられるぞぉ……」

男「おおう……」

男(でももう干渉制限ないしいいかぁ……)ハァ

先輩「ああ、そうだ。今日明日はお前達お休みだからな」

少女「あだじも?」グズグズ

先輩「大丈夫だとは思うけど男を看てやっててくれよ」

少女「はいっ!」グズ

男「いいんですか……?」

先輩「俺達は逃げただけだからな、お前はゆっくり休んでおけ。じゃあな」バタン

男「……」

雑務A「看病しつつ寝起きのアレも看てもらっているって!?」バンッ

雑務B「女医と患者のお医者さんごっこだとぉ!!」ダッ

男「少女、そこの弓矢とって」

少女「え? えぇっ!?」

一週間後
男「ふぃー今日も疲れた」ドサドサッ

先輩「おっし、それで上がりで」

男「はーい」


男「うん?」ガヤガヤ

男(この賑わい方、帰ってきたな)


剣将「既に聞き及んでいると思うが」

剣将「我々の勝利だ!」

「「おーーーーー!!!」」

男(とりあえず、また後で呼ばれるんだろうなぁ……仮設バーに)

男(今はとっとと帰るか)


少女「女騎士様から手紙か」

男「指令書って書いてあるし、仮設バーに来いって案内だよなぁ」

男「あの人、何考えてんだよ……」

少女「さっき、遠征に行かれていた兵士さんが持ってきました……」

男「何考えてんだよ……ホント。兵士さん可哀想……」


剣将「今日は無礼講だ! 皆、大いに飲んで食って騒ぐといい!」


男(にしても指令って本当に影が薄いなー……て、漫画でも裏方でしか登場しなかったか)モグモグ

男「うん、良い肉だ」

少女「本当、美味しいですねー」

女騎士「ああ、こちらにいたか」

男「……呼び出しをかけておいて、わざわざ今来ちゃいますか」

女騎士「はは、そう言うな」

女騎士「君は君でまた尽力してくれたそうじゃないか」

男「自分達の為です」

女騎士「達、ね」ニマニマ

少女「えへへ」

女騎士「話はまた後で聞かせてもらう。今日は存分に楽しんでくれ」

男「今日は限界まで食べます」

少女「食べ過ぎて動けなくならないで下さいよー?」

……男の部屋
男(それにしてもこれからどうするかなぁ)

男(それなりに金が貯まったって言っても、今後何で働くのかってのもあるしなぁ)

男(それに魔物編か)

男(原作も途中までだったしな。そこから先なんて全く知らないぞ、俺)

少女「男さん? どうしたんですか?」

男(でもまあ、今は……今だけは全てを忘れてもいいか……)チラ

少女「……男、さん?」

後日
少女「えへへ、えへへへ」ニコニコ

男「しょ、少女……」ダラダラ

女騎士「……?」

魔術師「何かあったの?」

少女「はいっ!」ニコニコ

女騎士「!」

魔術師「この様子、まさか!」

少女「はいっ!」ニコニコ

男「少女! 要らないから! わざわざ漏らすとかないからな!」

女騎士「ほおぉぉ」ジロジロ

魔術師「へえぇぇ」ジロジロ

少女「という訳でもうとっても幸せです!」パァッ

男「……」オドオド

女騎士「苦節……何ヶ月だ?」

魔術師「半年は経っているわよね」

少女「本当に……長かったです」ジロリ

男「う……」

少女「あたしの年齢知ってからもこうして三ヶ月近くかかった訳ですし」

男「ほ、ほら、それはあれだ……」

男「戦争中、戦争中だった訳だし」

女騎士「え? 理由になっていないんじゃないか?」

魔術師「ええ、全くもって理由になっていないわね」

男「俺もそう思います」

少女「男さん!?」

女騎士「今時、ここまで手が遅いのはそうそういないんじゃないか?」

魔術師「大事にしていると言えば聞こえはいいけども……一歩踏み出す勇気がないだけよね」

男(大正解っ!)

少女「失礼な! 男さんはとっても勇敢で格好良い人です!」

男(意味の違う勇気なんだよなぁ……)

女騎士「う、ん……いやそういう意味では」

魔術師「ちょっとその勇気とは在り方が違うのよねぇ」

男「それに、俺は勇敢じゃないよ。とっても臆病なんだ」

少女「え?」

女騎士「ほほう……謙遜も過ぎれば卑屈だぞ」

男「本当にそうなんですよ。臆病で臆病で……どうするのが一番生き残れるかを考え続け」

男「例え、それが敵に立ち向かわなければならなくても、その方が今後の生存率の為に必要だからする」

男「死にたくないから、怖いから必死に準備して足掻いてもがいているだけなんです」

魔術師「あら、それはそれで崇高じゃない」

魔術師「怖いから立ち向かう。ある意味、本当の勇気の形の一つであると言えるんじゃないかしら?」

男「ですかねぇ……?」

少女「でも、あの時あたしを助けてくれたのは……男さんの言う生存率に関係しないんじゃないですか?」

男「あの時?」

女騎士「もしや、私が君を軍に引き入れる可能性を考えての行動だったのか?」

男「あー……あれはもう、頭より体が先に動いていましたね」

男「こういう事を言うとあれなんですが……あの時は本気で少女を見捨てるつもりでした」

魔術師「……」

男「逃げろ逃げろ今すぐ走れ、って頭の中で必死に考えていましたよ」

女騎士「ほう……」

少女「でも、男さんはあたしを助ける為に、魔物に立ち向かってくれたんですよね」ニコ

男「結果としては綺麗な話だけども、ね」

少女「男さんにとって負い目があっても、ちゃんと話しちゃうんですよね」フフ

少女「そういう人だから、あたしは好きになっちゃうんですよ」

少女「好きで好きで、もう男さんの事で頭がいっぱいになっちゃうんですよ」

男「……」

魔術師「へえ……普段は飄々としているというか、上手く受け流しているのにそういう照れた表情もできるのね」ニヤニヤ

男「うぐ……」

女騎士「しかし分からないな。何故この話を私達の前で正直に話したんだ?」

男「嘘なんかつけませんよ……言い訳のしようがないほどに、バカな性格だって自覚してますから」

魔術師「まあ、確かにバカね。とても優しい、バカな性格ね」フッ

少女「それも知っていますけどね」フフンッ

男「なんで自慢げなの……」

少女「あたしが男さんの一番の理解者でありたいと思っていますもの」

少女「知っているのも、そう考えるのも当然の事ですよっ」

男「少女……」

女騎士「……」

魔術師「……」

騎魔(女子力の塊っ!)

女騎士「なんだろうか……この胸焼け感は」

魔術師「本当ね」

男少女「えっ?」

女騎士「酔いが醒めた……今日はここまでとしよう」

魔術師「そうね……というか今となってはこの二人をセットにするのはダメね」

少女「どういう意味ですか!」

男(まぜるな危険枠……)

女騎士「ああ、そうだ……あとで男宛に書類がいくと思う」

女騎士「君の、君達の今後についてだ。どういう答えでも私は受け入れるつもりだ」

女騎士「だから、よく考えてほしい」


男「で、これがそれか」ピラ

少女「なんて書いてあるんですか……?」

男「まあ、今後も雑用係として働きませんか、退職? するなら支援金出します、て案内」

男(でも退職金かぁ……待遇いいよなぁこれ)

少女「男さんはどうするつもりなんですか?」

男「俺はこのままここで働こうかなって思っているよ」

男「魔物の襲撃ともなれば、こうした駐屯地に方が攻め込まれた時に安全だからね」

男「ただ、敵の拠点として襲撃される可能性は高まるんだけどさ……」

少女「襲撃される前提で考えるか、襲撃されないだろうと高をくくるか、ですか」

男「そんなところ。それとここはなんだかんだでお給料良いしね」

少女「なるほど……でしたら当然あたしもついていきますよ!」

男「はは、だろうね」

男「あー……その、なんだ」

少女「はい?」

男「少女、これからも……ずっとよろしく頼むよ」

少女「……?」

少女「っ!」ボンッ

少女「ええと! ああと!」カァァッ

男「なんだよぉ……普段言いまくってる癖に俺の方から言ったらそれかよぉ」

少女「だって! うわあああ! わああああ!」

男「はは、まあ、うん。これからも、ずっと傍にいてくれ」ナデナデ

少女「うぅぅ……当然ですっ」

しばらく後

第六駐屯地
女騎士「これより、当駐屯地の役割は戦争時同様に、各地の部隊への支援となる!」

女騎士「しかし敵は人間ではなく魔物となった」

女騎士「どれほど知能を持ち合わせていようとも、彼らは我々とは考え方が違う」

女騎士「場合によっては、無謀すぎて人間であれば攻め込んでこない状況下でも」

女騎士「彼らは平気で突撃してくるやもしれない」

女騎士「そういう意味では、どれほど強固な駐屯地であろうとも襲撃を受けるリスクは」

女騎士「先の戦いとは比べる事ができないものとなるやもしれない……」

女騎士「その上で! ここに残り、共に戦ってくれる皆に、感謝の意を伝えたい!」

女騎士「勝つぞ! そして生き残るのだ! 死ぬ事は許さん、みっともなくとも足掻き通せ!!」

「「おおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!」」

……更に数日後
先輩「ほい、次はこれを頼むよ。それで今日はあがりだ」

男「うーっす」

男「というか……本当にやる事変わらねぇ……」ボソ

先輩「はっはっはっ聞こえてるぞー」

男「あ、いや! 不満とかじゃなくて!」

先輩「まー言いたい事は分かるさ」

先輩「所詮、俺達は雑務員だからな。多少、備品の種類が変わったりって事はあっても」

先輩「戦うわけじゃないからこれまで通りなのさ」

先輩「でもまあ……」チラ

男「何ですかその目……」

先輩「なあに、気にしない気にしない」

男「はあ……」


男「ただいまー」

少女「あ、おかえりなさい!」

男「うん、変わらないな」ドサドサ

少女「そうですねー特にやる事に変化はないですからねー。そして男さんもまた本の山を……」

少女「……それも臆病だから、ですか?」

男「当然さ。人が相手じゃない分、敵によって対応は大きく異なる」

男「ああぁぁぁぁ覚えて考えないといけない事が山積みだああぁぁ」

少女(なんだかこのまま指令や作戦考える人になっちゃいそうな……)

男(……まずは近隣の魔物を調べて特性と対策……可能であれば俺自身対魔物の訓練も……)コンコン

女騎士「失礼するぞ」ガチャ

少女「どうされたんですか?」

女騎士「男、すまないが君の意見を聞きたい。これこれこうでこうなのだがどう思う……?」

男「俺もその大きい亀みたいな魔物について詳しくないんですが……」

女騎士「それでも構わんさ」

男「ええぇぇ……無茶振りぃ……」

男「うーん……うーん……」

男「魔物だしなぁ……きっと腹もがっしりした甲羅になってるぐらい考えたほうが良いのかなぁ」

男「ダメージより動けなくする事を考えたほうがいいんじゃないでしょうか?」

女騎士「と言うと?」

男「確かこいつらって岩場の多い川辺が生息地ですよね?」

男「落とし穴の底や壁面は泥だらけにしてはどうでしょうか? 下手に固い面があったら登ってくるかもしれません」

男「時間があれば返しや壺状の落とし穴にする、て手が一番だとは思いますが時間かかるよなぁ」

女騎士「なるほど……あえて倒すのではないと」

男「そのまま餓死してくれればいいんですけどねぇ」

女騎士「うむ、貴重な意見が聞けたよ。ありがとう、感謝するぞ!」バッ

男(うーん、既に原作とは違う魔物が出現しているなぁ……原作基準にヤマははれないな)

少女「でも凄いですね。知らないって言っている割には、ちゃんとした対策だったんじゃ……」

男「まあ、亀っぽい魔物だからね。既存の生き物をベースに考えただけの事さ」コンコン

魔術師「どーも」

男「来客多いなぁ……」

魔術師「やっぱり女騎士もここへ来てたのね」

少女「あ、すれ違いましたか」

魔術師「ええ。で、早速本題なんだけども、蛇の毒ってどう採取するのが一番なのかしら?」

男「笛吹いて蛇を操る人達に聞いてくださいよぉ……」

魔術師「それは知らないけども、蛇に詳しい人には蛇の解体方法を教えてくれたわよ……」

少女「既に聞いたんですか……」

男「ええと、殺さずに毒が欲しい、と」

魔術師「可能であれば新鮮な状態の毒が欲しいのよ」

魔術師「だから生きたまま継続的に採取する方法がないかと思ってね」

男「うーん……なんでまたそんな事を俺に……」

男(あーでも、確か蛇の毒を血液に垂らす動画でやってたなぁ……あの素材ってなんだろ)

男「全ての蛇に共通してできるかは分かりませんが、蛇の牙の根元かどっかに毒腺があるらしいので」

男「コルクの蓋とかなんか適当な蓋を容器に取り付け、蛇の首と言うか頭を持って蓋に牙を刺させる」

男「ってやれば容器の中に毒が貯まるんじゃないでしょうか?」

魔術師「なるほど……蛇を扱いなれている人に試させてみるわ」

男(その人可哀想)

少女「あはは、男さん大活躍ですね」

男「うーん……活躍、なのか?」

少女「その内、制服を着るようになっちゃったりして」

男「正式に軍属かぁ……戦えないのに? やだなぁ」

男「ま、そうそうないだろうけどもね」ハハッ

少女「そうでしょうか?」コンコン

男「……次は誰だ。騎士様か?」

「配達でーす」ピラ

男「ほっ。どうもー。手紙かなんかかぁ」

少女(あれ……? 届く手紙類って大抵……)

男「白ヤギさんからお手紙着いた、と」ビリ カササ

少女「なんですかそれ?」

男「俺の居たところの童謡……んん?! 差出人が指令!?」

少女「あ、軍部への昇格の打診……」


ある世界のあるところに、生い立ちが謎の平凡そうで妙に優秀な男性がいたそうだ。
雑用係に身を置き、幾度となく影から戦況に影響を与え、貢献し続けたそうだ。

彼は今日も雑用に追われながら、多くの者の期待を背負わされ、
目上の者に相談されながら、必死に生き長らえようとしている。


余談だが、彼の居る場所には何名かの英雄がいると言われる。
その中の女性の騎士と魔術師は、ついに良き伴侶に恵まれず、自棄をおこしているそうだ。


   男「ここはどこだ……ま、まさかあの漫画の世界か!?」   終

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