高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「いつもの席で」 (45)

――おしゃれなカフェ――

北条加蓮「む~~~~」ジー

高森藍子「ん~~~~」ジー

加蓮「むむ~~~~」ジー

藍子「ん~~~~」ジー

加蓮「……………………」ジー

藍子「……………………」ジー

加蓮「…………無理!」バッ

藍子「あっ」

加蓮「むぅ……勝てると思ったんだけどなぁ。真顔にらめっこ」

藍子「あはっ、私の勝ちですね……」


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――まえがき――

レンアイカフェテラスシリーズ第11話。
以下の作品の続編です。こちらを読んでいただけると、さらに楽しんでいただける……筈です。

・北条加蓮「藍子と」高森藍子「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「カフェテラスで」
・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「膝の上で」

~中略~

・高森藍子「加蓮ちゃんと」北条加蓮「誕生日の前の日に」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「あなたの声が聞こえる席で」
・北条加蓮「藍子と」高森藍子「膝の上で にかいめ」

加蓮「……ん? なんか寂しそうにしてない?」

藍子「い、いえっ、その……加蓮ちゃんをじーっと見つめている時間が、ちょっとだけ楽しくて」

加蓮「は……??」

藍子「なんだか楽しくありませんか? こう、何も考えないで、じーっ、って見てるだけの時間って」

加蓮「いや、ごめん、ぜんぜん分かんない」

藍子「えー。加蓮ちゃんにも、こののんびりする楽しさを知って欲しいのに……」

加蓮「現代っ子の加蓮ちゃんには難しい相談だ」

藍子「同い年ーっ」

加蓮「あ、そうだ。なんか景品とか欲しい?」

藍子「今は、欲しい物は特に……。また思いついた時でいいですか?」

加蓮「残りチャンスあと10秒」

藍子「ええ!?」

加蓮「急がない人生は損するよ? ほらほら、9、8、7……」

藍子「え!? え、えーっと、えーっと、じゃあ、えっと、その、加蓮ちゃんとどこかに遊びに行きたいですっ」

加蓮「どこかって具体的には?」

藍子「これじゃダメなんですか!?」

加蓮「3、2、1――」

藍子「う、ぅぅ……決まってからでーっ!」

加蓮「……しょうがない。それで許してあげよう」

藍子「ほっ……」

加蓮「にしても注文したの来ないねー……人が多い訳でもないのに」チラッ

藍子「忘れられちゃったのでしょうか……?」チラッ

加蓮「……ん? 店員がこっち来てる。あ、そうそうそれそれ。ホットケーキと濃厚ミルク」

藍子「ありがとうございますっ。……え? 注文を持って行きにくかった、ですか?」

加蓮「ああ、まあ、来るなり無言で睨みあってたらね、割り込みにくくもなるか」

藍子「実は今のは、注文が来るまでの暇つぶしみたいな感じで……」

加蓮「だから気にしなくていいよ。え? お邪魔ですからって……いや、あのねぇ。見ての通り女同士なんだけど?」

藍子「でもいつも仲が良さそうだから……? そ、そうですか? えへへ」

加蓮「はいはい。はい、藍子。どう? 藍子が食べたいの予想してみたけど、当たってた?」

藍子「うーん……いつか食べたいって思ってたけど、今日は別の気分だったかも」

加蓮「む、ハズレか……。正解は?」

藍子「そうですね……」パラパラ

藍子「うーん…………」

藍子「今日は、ハニートーストの気分だったかな?」

加蓮「むぅ、そっちだったか。候補には挙げてたんだけどなー」

藍子「でも、このホットケーキも濃厚ミルクも、いつか食べたいって言った物です。覚えていてくれたんですか?」

加蓮「うん。もう最後の最後は決めきれなくて、記憶に頼ってみることにした」

藍子「ありがとうございます。私はそれだけで十分ですよ♪」パクッ

藍子「……ん~~~♪ 甘くておいしいっ。ミルクも……ゆっくりと飲みたくなるくらい、味がぎゅっと凝縮されてます!」

加蓮「やっぱここのカフェってスペック高いよね。藍子、ミルクちょっとだけもらっていい?」

藍子「はい、どうぞ」スッ

加蓮「ありがと」ゴクゴク

加蓮「……うわぁ、確かにこれ400円を取るだけあるわ……。事務所の牧場牛乳とどっちが美味しいかな」

藍子「及川農業の牛乳ですよね、雫さんの。あれもおいしいですっ」

加蓮「実はお世話になってたり?」

藍子「ちょっとだけ」エヘヘ

藍子「あ、そうだ。前にお話した、牛乳のプロモーションの件。Pさんに相談してみましたっ」

加蓮「へぇ。何て?」

藍子「ナイスアイディアだって。最初は……その……な、なんだか気遣われる目をされましたが……でも、加蓮ちゃんと一緒に考えたお話をゆっくりと説明したら、途中から顔がすごく真剣になって」

加蓮「どう? 採用されそう?」

藍子「本気で考えてみるって言っていました。結果を聞くのがすっごく楽しみです♪」

加蓮「よかったね」

藍子「あ、そうだ。Pさんが加蓮ちゃんとお話をしたいって言っていましたよ。企画力がすごいって褒めてましたっ」

加蓮「ちょっとしたアイディアってだけだよ。Pさんみたいに、ぽんぽんとは思いつかないし」

藍子「でも、困った時にお助けするくらいなら……」

加蓮「……ま、役に立つなら。その時は藍子も巻き添えだよ」

藍子「はいっ。……甘くて美味しい……♪」

加蓮「私も注文しよ。すみませーん。んー、チャーハンの小盛を1つとお水で。…………え? 写真を撮りたい? 私たちの?」

藍子「もぐもぐ……え? 写真?」

加蓮「うん。なんか私らの写真を撮りたいって、店員さんが」

藍子「私はいいですけれど……」

加蓮「ふうん、常連客としてだって。でも前に宣伝しよっかって言った時はできればやめてって言ったのに……」

藍子「え? アイドルじゃなくて、お客様として?」

加蓮「そういうことか。藍子、簡単な変装とかできる?」

藍子「あ、はい! ええと、確かメガネとストールがあります!」

加蓮「私は……髪型を変えるだけでだいぶ変わるかな? よいしょ」キュキュ

加蓮「うん、これでよし」

藍子「ツインテールですね。加蓮ちゃん、かわいいっ♪」スッ

加蓮「はいカメラ構えない」ボッシュート

藍子「あう」

加蓮「油断も隙もあったもんじゃない」

藍子「だって……」エヘヘ

加蓮「よし。これなら誰も私だって思わないでしょ。思う人がいたら……それはまあ、分かる人には分かるってことで」

藍子「そういう方ならきっと、下手に言いふらしたりもしませんよね」

加蓮「藍子の隣に移った方がいい? ……え? 席はこのまま? それで、食べているシーン? だって、藍子」

藍子「はいっ」

加蓮「じゃあ私もチャーハンを――私はそのままでいいの? ……はぁ? 食べてる藍子をからかう私って構図が欲しい?」

藍子「やっぱり、じっくり見られてたんですね」アハハ

加蓮「あのね、ちょっと待って。何か誤解しているようだけど私は別にそういう意地悪をしたくて意地悪でいるって訳じゃないっていうか…………ああもう駄目だカメラ構えてるよこの人」

藍子「加蓮ちゃん、いつも通りに、ですよ」パクッ

加蓮「はいはい。――藍子のばーかっ」フフッ

藍子「むーっ」プンスカ

――パシャ

藍子「店員さん、号泣しながら行っちゃいました」

加蓮「あそこまで喜ばれるともう皮肉の1つも言えないよね」

藍子「言わなくていいですよそんなの……」

加蓮「なんかさ、アイドル以外で話しかけられたのってすごく久々な気がする」

藍子「私は、初めてかもしれません」

加蓮「やったことないの? 常連客としてー、とか」

藍子「顔を覚えられるくらいなら……それに私、いろいろなカフェに行っているので、常連さんっていう風には見られていないかもしれないです」

加蓮「そうなの?」

藍子「はいっ。お気に入りの場所でのんびりするのも好きですけれど……ぶらっと歩いて、新しいカフェを見つけて、っていうのも、すごく楽しいんです♪」

加蓮「へー」

藍子「あんまり行ったことのない通りに、たまたま見つけたカフェが、すごくオシャレだったり、ご飯が美味しかったりしたら……」

藍子「歩いた疲れも、吹っ飛んじゃって。ついつい2時間も3時間も……」

加蓮「幸せそうだねぇ」

藍子「はいっ。あ、でも、オフの日を1日使ったりするので、誰かを誘うには向いていないんですけれどね……」

加蓮「付き合う人は付き合うでしょ」

藍子「私のことで時間をいただくのが申し訳なくて。それに、事務所ではいつも色んな人といるから、たまには1人の時間っていうのも逆に楽しいんです」

加蓮「ふうん。また危なっかしいことを」

藍子「……え? あぶなっかしい、ですか?」

加蓮「ん? ああうん、あのね、アンタはアイドルでしょ。いやそれ以前に女子高生でしょ。1人で長時間って、疲れたところを襲われでもしたらどうするの」

藍子「うーん……。一応、人通りの多い場所を選んで歩いているつもりですよ?」

加蓮「……ほー……じゃあちょっと『お散歩カメラ』の歌詞を思い出してみよっか。路地裏の? ん? なんだって?」

藍子「あ、えーと…………あ、あれは、カフェを探すことではなくてお気に入りのカフェのことで……あ、あはははは…………」

訂正……
>>8 1行目の藍子のセリフ
誤:Pさんに相談してみましたっ 正:モバP(以下「P」)さんに相談してみましたっ

いつも忘れる……。





藍子「それに、もし襲っちゃうなら……その……………………わ、私よりもっと襲いがいがある相手を選ぶんじゃないかなぁ、なんて……」

加蓮「……………………」ポカーン

藍子「あは、あはは……」

加蓮「……………………ごめん…………その返しは想定外すぎた…………」アタマカカエ

藍子「や、やっぱり変ですか? 実はPさんにも同じことを言われたことがって、同じように返事したら、ぽかーんとされちゃいましたっ」

加蓮「まぁ、そりゃそうなるわよ……。自分の評価を下げるはやめときなさい、誰も得しないから」

藍子「そうしますね……」

加蓮「少なくとも私が嫌な思いをする」

藍子「それならなおさらですっ」

藍子「……Pさんとか、あと未央ちゃんや凛ちゃんにもよく言われちゃいます」

藍子「でも、おかげさまで大丈夫ですよ?」

加蓮「へーふーんほー。今日が大丈夫だからって明日大丈夫とは限らないって思い続けてる奴の前でそれ言う、ほー」

加蓮「それとも何? 今ここで言葉に説得力が出る行動に出ようか?」(身を乗り出す)

藍子「…………あ、あの? ……それって、どういう……?」

加蓮「どういうことだと思う? ねー、1秒前まで優しくしてた私が今この瞬間も優しくしてくれるって誰が証明できる? ん?」(さらに詰め寄る)

藍子「…………か、加蓮ちゃん、顔がこわい」

加蓮「んー?」ジリジリ

藍子「え、えへ……」ジリジリ

加蓮「…………ハァ。冗談よ……別に何もしないって」

藍子「ほっ……」

加蓮「でも分からないなら冗談じゃ済まなくするよ? いい?」

藍子「は、はいっ。ごめんなさいっ!」

加蓮「ん。にしても1日まるまる使って散歩かぁ……。私がついていくって訳にはいきそうにないなぁ……」

藍子「そんなっ。私は大丈夫ですから、加蓮ちゃんにお世話になる訳にはっ」

加蓮「いつも私の為にって言ってくれるでしょ? たまにはお返しさせてよ」

藍子「うーん……」

加蓮「……まぁ、藍子だって女の子なんだし、アイドルなんだからさ」

加蓮「自分がアイドルだって自信を持つのが難しいのは知ってる。もちろん、藍子が散歩するの好きだってことも知ってるよ」

加蓮「でも、ま……一応、心配している人がいることは忘れないでほしいな」

藍子「……はいっ、分かりました。ちょっと気をつけてみますね」

加蓮「んー」

藍子「心配してくれてありがとうございます、加蓮ちゃん。でも――」

藍子「心配してくれる人がいるから、なんて、加蓮ちゃんには言われたくないですっ」ジトー

加蓮「あー、うん……やっぱり?」

藍子「やっぱり」

加蓮「いや正直、自分で言ってて白々しいとは思ったんだよね、うん」

藍子「それに、明日のことを頑張って信じてみるってお話はどうなったんですかっ」

加蓮「い、いやあ忘れた訳じゃないの。ただこう、説得の為には使える物は使うってだけで!」

藍子「むぅ……でも、加蓮ちゃんが心配してくれた分と、私が心配している分。これで、お互い様ですよね」

加蓮「ふふっ、だね。私が藍子を心配している度合いと、藍子が私を心配している度合い。どっちが大きいだろうね」

藍子「私の方が大きいに決まってますっ」

加蓮「私、こう見えても決めたことにはとことん掘り下げるタイプなんだよね」

藍子「むー」

加蓮「むー」

藍子「…………」

加蓮「…………ぷっ」

藍子「ふふっ」

加蓮「あははっ」

加蓮「ねえ藍子。どーしてもカフェに行きたいなら、ここでいいじゃん」

藍子「うーん、でも、カフェ探しとカフェ通いは違うんですよ」

加蓮「え、違うの? ……何が?」

藍子「ううん、何が、って言われると難しいんですけれど……でも、いいカフェを見つけたら幸せになれますし、馴染みのカフェでゆっくりしていても幸せな気分になれますっ」

加蓮「……………………んん?」

藍子「あ、あはは……とにかく違うんです!」

加蓮「はぁ……。ね、藍子。やっぱりカフェ探し、1回だけ連れてってよ。そこまで言われたら何が違うのか気になるじゃん」

藍子「はい、いいですよ♪」

加蓮「途中でぶっ倒れて迷惑かけるかもしれないけどさ――って、え? いいの?」

藍子「はいっ。加蓮ちゃんと探してみたら、いつもと違う光景も見られるかもしれませんねっ」

加蓮「いいんだ……」

藍子「では、次のオフに行ってみるってことで♪ あ、そうだ。加蓮ちゃん、このホットケーキ、一口だけ食べてみませんか?」

加蓮「えー……いいよ。なんかすっごく甘そうだし」

藍子「そう言わずにっ。ほら、端っこの方なら、シロップもあまりかかっていませんから♪」

加蓮「じゃあちょっとだけ……」アーン

加蓮「…………甘」

藍子「や、やっぱりダメでしたか……」

加蓮「ごめん、無理……。もうちょっとこう、苦さとか辛さとか混じってるのならいけるんだけど……ああ、チャーハン美味しい」モグモグ

加蓮「すみませーん。ストレートティーと……藍子は何飲む?」

藍子「じゃあ、アップルジュースで!」

加蓮「で。うん、お願い」

藍子「ホットケーキ、ごちそうさまでした♪」

加蓮「相変わらずゆっくりゆっくり食べるよね。もうここに来て1時間くらい経過してない?」

藍子「ゆ、ゆっくりでごめんなさ「別に責めてない」

藍子「あと、加蓮ちゃんとお話をしていたから、あんまり手が動かなくて」

加蓮「あるある。今度、一皿で何時間くらい粘れるか試してみよっか」

藍子「私と加蓮ちゃんで食べるんですか? うぅ、加蓮ちゃんにいっぱい食べられちゃいそうです」

加蓮「かもね。ん、ありがと店員さん。……今日は見てても面白いことはできないよ?」

藍子「べ、別にお笑いをしている訳じゃ……あっ、はい、私も、ありがとうございます」

加蓮「ずずー」

藍子「ずずー」

加蓮「スイーツって言えば、そういう特集、最近なんか減ったよね」

藍子「そうですね……。ちょっと前は、毎週のようにやっていたのに」

加蓮「みんな掘り起こして隠れ家的な場所がなくなったのかな?」

藍子「それに、最近ではテレビで宣伝してもあまり……って、スタッフさんが」

加蓮「あー……テレビかぁ。最近、あんまり見られてないよね」

藍子「そうですね。みんな、スマートフォンに夢中ですから」

加蓮「私的には複雑だなぁ」

藍子「そうなんですか? 加蓮ちゃん、てっきりそういうのについていっているかと」

加蓮「ん、それなりに頑張ってついていってはいるよ。でもテレビがあんまり見られてないっていうのがちょっとね……。ほら、私ってちっちゃい頃にテレビでアイドルに憧れたからさ」

加蓮「だから今の子は、何を見てアイドルに憧れるのかな? って思って」

藍子「うーん……」

加蓮「ってことを思ってさ。この前、Pさんに提案したんだ」

藍子「提案したんですか?」

加蓮「うん。テレビがあんまり見られなくなったなら、それ以外でアイドルを見る方法がなくちゃいけない」

加蓮「でも昔の私みたいに病院に閉じ込められている子は、LIVEを見に行く訳にもいかない。ってかスマホもまともに使わせてもらえないと思う」

藍子「病院って、携帯電話は使っちゃダメなんでしたっけ」

加蓮「そんなの化石時代の話よ。普通に医者も看護婦……看護師か。看護師もケータイ使ってるし」

藍子「あれ、そうなんですか」

加蓮「でも、今でも勘違いする人が多いから、どうしても使いづらいんだよね。ってことで動画サイトとかを見るのも何か違う」

加蓮「だいたい、ちっちゃい頃からああいうサイト見てろくな大人になるとは思えないし」

藍子「私はあんまり詳しくないんですけれど……ネットはあまり見ない方がいいってPさんが」

加蓮「だろうね。ちょっと見たことあったけどアレは駄目だよ。まぁ、ともあれ、そこからアイドルを知るっていうのもキツイんだよね」

加蓮「だから逆に考えてみたんだ。病院の子がアイドルを見られないなら、アイドルの私が病院でLIVEすればいいじゃん! って」

藍子「ええぇ!?」

加蓮「え、何か悪い?」

藍子「いえっ、悪くはありませんけれど……病院でLIVEなんて、聞いたことありませんよ?」

加蓮「元病人で体力がからっけつの奴がアイドルになるって話もあんまり聞いたことないでしょ」

藍子「うぅ、またそういうことを」

加蓮「ふふっ。提案してみたんだけど、でもやっぱりいろいろ難しいんだって。まず病院で大きな音を立てる訳にはいかないとかなんとか」

藍子「眠ってらっしゃる方がびっくりしちゃいますよっ」

加蓮「え? 私がLIVEしたら永眠した人が復活するの? なにそれ奇跡じゃん、私もう神様じゃん」

藍子「そうじゃなくてー!」

加蓮「神様なんていないんだから、私が神様になればいい」ドヤ

藍子「かっこいいですけれど何か違うと思います!」

加蓮「むしろ藍子の魔法で蘇らせたりできない?」

藍子「できる訳ないじゃないですかっ。そもそも魔法が使えません!」

加蓮「ゆるふわ空間で時間を操れるんでしょ? だったらこう、死んた人の時間を巻き戻して……的な」

藍子「あれはその……無意識で起きていることで」

加蓮「じゃあ修行しよう」

藍子「修行!?」

加蓮「無意識のパワーを自由自在に使いこなせるように、みたいなの」

藍子「同じ修行をするなら、アイドルのレッスンがやりたいです……」

加蓮「そんなこと言って、私が死んだ時にどうするのよ。蘇生魔法がないからって悔やんでも遅いよ?」

藍子「同い年ですよね!? え、まさか病気が――」

加蓮「今日の帰り道にたまたま車に轢かれて死ぬかもしれないじゃん」

藍子「えぇぇ……。そ、それなら私だって条件は同じじゃないですか!」

加蓮「すぐに藍子の後を追って現世に引きずり出す」

藍子「加蓮ちゃんは死神か何かなんですか!?」

加蓮「もし失敗してあの世の住民票を押し付けられても、藍子と一緒ならやっていける気がするよ」

藍子「そ、その信頼はちょっと重たすぎますよ。私、そんなに加蓮ちゃんに何もしてあげられませんし」

加蓮「おかえりって出迎えてくれるだけで、地獄の苦痛も吹っ飛ぶね」

藍子「…………もうちょっと、その、こ、こっちの世界で頑張りましょ?」

加蓮「こっちの世でゆるふわ空間の修行に励む?」

藍子「アイドルを!」

加蓮「ふふっ。じゃあ私は歌をもっともっと鍛えて、死人を復活できるくらいにしなきゃ」

藍子「もうファンタジー世界じゃないですか、それ……」

加蓮「ファンタジー世界というかそういうゲームってさ、キャラクターが死んでもぽんぽん復活するよね。えー? って感じがする」

藍子「それは……しょうがないことじゃないでしょうか。いえっ、加蓮ちゃんが悪いとかではなくて……それに、復活する方法があるなら復活できた方が、きっとみんな幸せです」

加蓮「そうとも限らないかもよ? ほら、死んであの世に送られても誰かが引きずり戻す。死んだり生きたり死んだり生きたり。そのうち自分が分からなくなったりして」

藍子「ちょっぴり怖いお話ですね」

加蓮「かくいう私も100回くらい死んでは生き返った経験があって」

藍子「ええ!?」

加蓮「あっちの世界ってなんか臭いし、骨がごろごろ転がってるし、そこにいる生物はぜんぶゾンビみたく目が死んでるし」

加蓮「それに比べてこっちの世界はなんでこんなにカラフルなんだろうね」

藍子「わぁ………………」

加蓮「でもさ。あっちの世界を知っていると、こっちの世界がまるで偽物みたいに見えるんだ。カラフルなのは過剰な演出、ハリボテに過ぎない……なんてね」

藍子「ごくっ」

加蓮「……………………」

加蓮「いや、あの、作り話だよ?」

藍子「はっ。そ、そうですよね! 迫真の演技で、まるでホントのことみたいでした……」

加蓮「読み聞かせとかできるかな、私」

藍子「加蓮ちゃん、子どもが好きですもんね」

加蓮「……別に。鬱陶しいだけじゃん」

藍子「えー? クリスマスの時、ノリノリだったじゃないですか」

加蓮「忘れろ」

藍子「あれから今も、たまに子どもに声をかけられて、遊んであげているんですよね♪」

加蓮「…………なんで知ってんの?」

藍子「この前、加蓮ちゃんがオフの時に、たまたま近くを通りかかって。見ちゃいましたっ」

加蓮「ああ、そういえばアンタって私のストーカーなんだっけ」

藍子「ストーカー!?」

加蓮「いや、だってそうでしょ。ろくに知らない相手のことを気になるからってじーっと見て、それつまりストーカー……」

加蓮「……ごめんごめん、うん分かった、うん、ごめん。ちょっと冗談の境界線超えてたよね今、うん……」

藍子「もうっ……。本気で心配になるんです。加蓮ちゃんから嫌われてないかな、って」

加蓮「今さら私が些細なことで嫌いになるかっての」

藍子「よく言ってるじゃないですか。あれが嫌いだこれが嫌いだ、って」

加蓮「……吐き出していいって言ったの、藍子だし」

藍子「それとこれとはちょっと別ですっ」

加蓮「はーい……。大丈夫、ホントに嫌いな相手とは口も利かないから、私」

藍子「じゃあ、もうちょっとは安心ですねっ」

加蓮「……………………アンタが私にとってどれくらい大切で必要な存在なのか、ちょっと分からせた方が良さそうかな……」

藍子「……? 何か言いましたか?」

加蓮「なんにも。やっぱ私って捻くれてるなーって思ったとこ」

藍子「むー…………」

加蓮「はいはい。口に出したら藍子は怒るでしょ?」

藍子「……加蓮ちゃん。もしかして……私に怒られたくてやっていませんか?」

加蓮「え? うん」キョトン

藍子「やっぱり!」

加蓮「だってさ、藍子なら反応してくれるじゃん」

藍子「もー…………」

加蓮「ふふっ。すみませーん、レモンティー1つ。藍子、何か食べる?」

藍子「私はお腹がいっぱいで……レモンティー、ちょっとだけ頂いてもいいですか?」

加蓮「いいよ。うん、それだけでー」

加蓮「さて、何の話だっけ。ええと、私がシャーマンとかになる話?」

藍子「だからどこのゲームのお話ですか……。ええと、アイドルのお話でしたっけ」

藍子「そうそう、加蓮ちゃんが、今の子はどうやったらアイドルに憧れるのかって、そんなお話でした!」

加蓮「あー。テレビがあんまり見てもらえなくなったことだよね」

藍子「スタッフさんみんな、一生懸命やっているのに……」

加蓮「一生懸命やってるだけで結果が出るなら誰も苦労しないでしょ」

藍子「加蓮ちゃんは厳しいんですね」

加蓮「藍子が甘くしてくれるからね」

藍子「たまには自分にも飴をあげちゃってください」

加蓮「はーい。ま、テレビに頼れないなら自分でってことで。Pさんに病院でLIVEさせてってお願いした話」

藍子「そうでしたね。結局、ダメって言われちゃったんでしたっけ?」

加蓮「どうしてもね。あと、マスコミ対策も面倒だって。私がいきなりLIVEなんてやったらびっくりして、病院に押しかけるんじゃないかって」

加蓮「もっと早くに提案しておけばよかったかなぁ……そんなに有名じゃなかった頃とかならできたのかも?」

藍子「病院の人たちに、迷惑をかけちゃう訳にはいきませんよね」

加蓮「ってことで今は保留、ってか却下された。でも私は諦めないからね」

藍子「加蓮ちゃん……」

加蓮「……ほら、私は藍子みたいに人の為にっていうこと、すごく苦手だけど」

加蓮「自分の夢を叶えたら、今度はみんなに夢をあげなきゃ。…………なんて、ちょっとクサかったかな。あはは」

藍子「そんなことないですよ……加蓮ちゃんは、いつも真面目で、カッコイイですっ」

加蓮「そ、そう?」

藍子「…………アイドルの時は、ですけれど」ジトー

加蓮「んー? じゃあ普段の私は不真面目とでも?」

藍子「だっていつも、私のことをからかってばっかりじゃないですか」

加蓮「むぅ。それは不真面目とは違うと思うんだけどなー……ま、ほら、息抜きってことでね?」

藍子「……そうですねっ」

加蓮「藍子はある? こういうところでLIVEしたいとか。あっ、カフェでLIVEとかどうよ」

藍子「うーん……私にとってカフェは、アイドルとは別の世界っていうか……」

加蓮「どゆこと?」

藍子「あはっ、自分でもよく分からないです。でも、あんまりカフェでLIVEしたいとは思わないかな……」

加蓮「そっか」

藍子「アイドルを引退しちゃった後なら、そういうのもいいかもしれませんね」

加蓮「えー、もう終わった後のこと? とか言ってどうせあと100年くらい続ける癖に」

藍子「100年!?」

加蓮「おばあちゃんアイドル。きっと今とそんなに変わらないよ」

藍子「私がおばあちゃんっぽいってことですか!?」

加蓮「うん」

藍子「こ、これでも16歳ですっ」

加蓮「縁側でお茶を啜って猫の背中を撫でるだけで5時間くらい潰せそう。そういうのってどう?」

藍子「くすっ。すごく素敵ですね。そうやってゆっくり過ごすのもいいな……」

加蓮「……おばあちゃんじゃん」

藍子「あうっ」

加蓮「死なないでよ?」

藍子「…………え?」

加蓮「おばあちゃんになっても、ずっと側にいてよ」

加蓮「……好きな人が死んじゃうの、もう見たくないから」

藍子「…………」

藍子「もうっ、加蓮ちゃんはしょうがないですね」

加蓮「うっさい」




加蓮「そろそろ帰ろっか。外は……うわ、ちょっと寒そう」

藍子「途中で飲み物を買っちゃいましょう。あたたかいココアとか、コーヒーとか」

加蓮「だね。さて、会計……お?」

藍子「あっ。レジカウンターの上に、私たちの写真……」

加蓮「仕上がり早すぎでしょ。うわ、店員さん超いい笑顔」

藍子「い、いえっ、お礼なんていいですよっ。こっちこそ、あの、いつもお世話になってますっ」

加蓮「いつも騒がしくてごめんね? ……ふふっ、それが楽しいです、か」

藍子「じゃあ、また来ちゃいますね。ねっ、加蓮ちゃん?」

加蓮「藍子はしょうがないなー」

藍子「えー、それさっき私が言ったことですよー、もー……ふふっ♪」



おしまい。読んでくださり、ありがとうございました。


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