女「もしもたった一つだけ願いが叶うなら」(78)

女「なにを願う??」

男「は??」

女「あんたなら、なにを願うかって聞いてんの」

男「お、お前ね、もうちょっと他に話題とか」

女「いいから」

男「……」

女「いいから、答えてみ」

男「うーん……」

男「て、ていうかさ、なんでそんな話題??」

女「いいじゃん、別にさ」

女「いっつもあんたは話題振ってくれないでしょ」

男「あーうん、それはすまん」

女「いいけどさ」

女「この話題はいや??」

男「いや別に」

女「私はさ、こうやって実のない話をしてるのが結構好きなのよ」

男「それはおれもそうだけど」

女「だからほら、深く考えず、言ってみ」

女「金??名声??不老不死??」

男「うーん……」

男「じゃあ金」

女「ほうほう、金ね」

女「で、おいくらほど」

男「一兆円」

女「でか!! でかいね夢が」

男「そうか??」

女「一億円じゃダメなの??」

男「よく言うじゃん、人が一生に稼ぐ金が、だいたい一億円だとか」

女「ああ」

男「あれ、二億円だっけ、まあいいか」

男「ってことはさ、わざわざ願わなくても叶うんじゃん??」

女「なるほどねえ」

男「はい、つうことで一兆円」ヒラヒラ

女「あげないよ」

男「んだよ、お前が叶えてくれるんじゃないのか」

女「あったり前でしょ、そんなお金ないわよ」

男「ま、期待はしてないけどな」

女「だってほら、今日サイフ忘れちゃったし」

男「……は??」

女「ってことで、悪いけど、ここの支払いはお願いね」

男「ちょ、サイフないのにパフェ頼んだんかお前!!」

女「おいし♪」ペロ

男「鬼だ……悪魔だ……」

女「一口あげるからさ♪」

男「エイリアンだ……」

女「誰がエイリアンか!!」

男「お前だよ」

女「エイリアンは人にパフェたかったりしないよ!!」

男「んじゃあ、エイリアン以下じゃんお前……」

女「でもさー実際さー」ペロ

男「あん??」

女「一兆円なんか手に入れても、どうやって使うのよ」

男「それは、あれだ、一部は貯金とかして……」

女「ちっさ!! 一兆円願ったくせにちっさ!!」

男「うっせえなあ、無くなったら大変じゃんか」

女「一兆円だよ!? 銀行なんかに預けたら聞きつけたやつらが押し寄せてくるって」

男「聞きつけたやつら??」

女「ほら、寄付してくださいとか投資しませんかとか、怪しい連中がさ」

男「ああ」

男「やっぱりタンス貯金に限るな」

女「家が燃えたら??」

男「タンス持って逃げる」

女「泥棒に入られるかもよ??」

男「じゃあ家に閉じこもってる」

女「家取り囲まれたら??」

男「消火器で追い払う」

女「警察が来たら??」

男「え、なに、後ろ暗い金なわけ??」

女「一般庶民がいきなり一兆円とか手にしたら、警察だって動くでしょうよ」

男「いやいやいや、説明できんよ」

女「ああー君、その金はどうしたのかね」

女「これは……願いが叶ったんです……キラキラ」

男「キマっちゃってるよね!? 即連行だよね!?」

女「ほらほら、そうなったらどうするの」

男「ボ、ボディーガードを……雇う」

女「裏社会とつながっちゃうと、泥沼だよ~」

男「お前は裏社会のなにを知ってるんだよ」

男「よし、金塊にしよう」

女「一兆円分の??」

男「そ」

女「すっごい重さだよ、多分」

男「紙幣より重いかな」

女「ずっと重いんじゃない」

男「ん、じゃあ、100億円くらいで妥協しようかな……」

女「わーお、景気のいいお話で」

男「妄想くらい自由だろ」

女「で、どうやって金に替えるの」

男「えっと、裏ルートで……」

女「はい出ました!! 裏社会にようこそ!!」

女「泥沼コース直行便!!」

男「あーもう、だからお前は裏社会のなにを知ってるんだよ」

女「なにも」

男「ですよね」

男「ダイヤモンド!!」

女「それも換金できないでしょ」

男「株!!」

女「変動するでしょ」

男「小切手!!」

女「あんた信用ないでしょ」

男「石油王になる!!」

女「あんた海外旅行したことないでしょ」

男「くそう……くそう……」

女「金はダメだね」

男「ううん……」

女「さ、じゃあなにを願う??」

男「ていうかさ、誰が叶えてくれんの」

男「それによる」

女「神様とか……うーん、あとは魔人とか、悪魔とか、死神とかじゃない??」

男「後ろ三つはリスクがありそうだなあ」

女「神様は条件出してこなさそうだよね」

男「神様ならなんでも自由に考えられんだけどなあ」

女「ランプをこすってジャジャジャジャーン!! 魔人の登場だあ~ハクショーン!!」

男「いろいろ混ざってないかお前」

女「お前の願いを一つ、叶えてやろう」

男「……」

男「あ、じゃあ、願いをひゃk」

女「願いの数を増やすのはダメじゃよ~」

男「なぜわかった」

女「ド定番ですからねえ」

男「あれって、なんでダメなんだろうな」

女「お話によっては、そういうルートもあるみたいよ」

女「でもまあ、たいていグッドエンドにはならないわね」

男「バランスが崩れちゃうんだろうか」

女「一つだからこそ面白いんじゃない」

男「そっか」

女「でも、魔人って三つ叶えてくれるパターンもあるよね」

男「そうそう」

女「で、最初二つは失敗するパターンね」

男「そうそう」

女「では人生に絶望する者よ、三つの願いを叶えてやろう」

男「おっと、続くのか」

女「わしに願えば、親の借金も消せるし、超絶不細工も治せるし、ワキガも治るし……」

男「おい、ちょっと待て」

女「iqを100にまで上げることも、50mを8秒で走れる身体にすることも可能じゃ!!」

男「おれの人生ベリーハードかよ!!」

女「人生に絶望する者よ、って言ったでしょ」

男「お前はおれをそういう目で見てんのか」

女「少なくとも勉強は苦手でしょ」

男「う……」

女「50m走のベストタイムは中学のころから変わってないでしょ」

男「う……」

女「不細k」

男「待て、イケメンではないが、その、そんなにひどくは……」

女「うん、まあ、グロくはないわね」

男「うう、妥協点がまだキツイ」

女「目を背けたくなるほどではないわね」

男「う、ううん……」

女「かといって一目見て覚えられるほど特徴のある顔でもなし」

男「覚えてくれよ!! 付き合い結構長いよおれたち!!」

女「一目見て、よ」

女「さすがに私は覚えてるって」

男「そ、そっか」

女「まあ、じゃあ、あとは……」

男「あとは??」

女「身長を170cmに伸ばすことも可能じゃ!!」

男「うるせえ!! 170cmあるし!!」

女「169cmだろ!! 見得張んな!!」

男「ぐぐう」

男「あ、朝だ……朝に測れば170cmあるんだ……」

女「グチグチとちっさい男ねえ、中身も外も」

女「これでお前は『低身長』ではなくなった、喜べ」

男「……」

女「……」

男「……」

女「むなしくない??」

男「お前のせいだよ!!」

女「あとの二つ、どうする??」

男「え、この流れでまだやんの!?」

女「ていうか親の借金が残ってるけど……」

男「借金って言うなよ!! ローンだろ!?」

女「消さなくていいの??」

男「金関係はダメだって結論出ただろ」

女「じゃあ、ワキガか」

男「おい、誰がワキガか」

女「え、違うの」

男「え、おれ、そんなに臭いの??」

女「……」コクリ

男「……知りたくなかった」

男「僕の腋をいい匂いにしてください」

女「ふむ、腋だけでよいのか?? 首の後ろとかケツとか」

男「ケツとか言ってんじゃねーよ!!」

女「足の裏とか……」

男「うぐぐ」

男「……僕をいい匂いのするの人間にしてください」

女「いいじゃろう」

ぴろぴろぴろ

女「うむ、あとでファブリーズをしてあげようね」

男「おざなり!!」

女「さて、あと一つじゃよ」

男「イケメンにしてください」

女「うむ、あとでメンズなんたらとか言う雑誌を買ってきてあげるからそれで勉強しなさいね」

ぴろぴろぴろ

男「雰囲気イケメンにしかなれねえよ」

男「扱いが酷すぎるだろ魔人」

女「まあ、現実はこんなもんよ」

男「おれが傷ついただけで終わっちまったじゃないか……」

女「大丈夫、嘘だよ♪ あんた別に臭くないからね」

男「悪意満々の嘘だな!!」

女「でも、嘘だってわかって救われた気分でしょ??」

男「う、うん、まあ」

女「地獄に付き落として地上まで戻してあげる、そういう嘘を『エンジェル・ライ』と名付けたの」

男「地獄に付き落とす時点でエンジェルじゃないよね」

女「うふふ、小悪魔系とか言うじゃない」

男「ド悪魔の間違いだろ」

男「あ、じゃあ、不細工とか言ったのも」

女「あれは本音よ」

男「聞くんじゃなかった!!」

女「エンジェル・ライはめったに使わないの」

男「他のは全部本音かよ、この悪魔め」

女「ふふふ、わたくし実は悪魔なのです」

女「といったところで、あなたの願いを叶えてあげましょう」

男「おうふ、ここでまた続くのかよ」

女「素晴らしき伏線回収!!」

男「こじつけと言うんだ、それは」

女「そのかわり、あなたの魂をもらいます」

男「ああ、ありがち」

女「なんで魂なんて欲しいんだろね」

男「食料??」

女「ありがち」

男「まあなんにせよ、悪魔にとって貴重なものなんだろね」

女「死んだ後のことなんか、ぶっちゃけどうでもいいよね」

男「ああ、あげるあげる、そんなもん」

女「死んだら魂取られるっていうよね」

男「そうそう、だから悪魔は早く死ぬような願いを言わせるんだよな」

女「そうそう」

女「昔こんなお話があったわ」

女「氷の上で釣りをしていた男が、壺を釣り上げるの」

男「ほう」

女「そしたら中に悪魔が入ってて、願いを叶えてくれるっていうの」

男「ほうほう」

女「で、さっきのあんたみたいに、みっともなく金を欲しがったわけ」

男「一言多いんだよ」

女「そしたらさ、悪魔は金貨をどんどん出すのよ」

男「おお、金貨ね」

女「どんどん、どんどん」

男「あ、オチが分かった」

女「で、重みに耐えきれなくなって氷が割れて、男は沈んじゃうわけ」

男「悪魔だわ」

女「悪魔よねえ」

男「ダメだ、悪魔に願うと早死にする」

女「うん」

男「悪魔、ダメ、絶対」

女「でも、悪魔をうまく使って生き抜く話もあるんじゃない」

男「例えば??」

女「なにも願わない」

男「じゃあ悪魔は他のやつのとこに行っちゃうじゃん」

女「そしたら、そいつが死んじゃうわけでしょ」

男「あ、つまりそれをうまく使えば……」

女「ライバルとか、憎んでいるやつのところに行かせられれば……」

男「やっぱお前、悪魔だわ」

男「あ、でもさ、魂取られたら、生まれ変われないんじゃないか」

女「なにあんた、生まれ変わりとか信じてるの」

男「んー信じてるっていうか」

男「死んだらそれで終わりっていうより、夢があるじゃん」

女「そうねえ」

女「『私は○○の生まれ変わりよ!!』とかほざいてる人もいるみたいだし」

男「まあ言うのは自由じゃね」

女「『その人が死んだ日に生まれたのよ』とか言ってさ」

男「はっは、ありがち」

女「死んだ魂はすぐに下界に戻ってくるのかしら」

男「知らね、順番待ちでもしてんじゃないの」

女「順番待ち??」

男「下界に戻るための、さ」

女「ああ」

男「前世で罪を犯した者は、戻るのが遅い、とか」

女「酷いものに生まれ変わっちゃう、とか」

男「ああ、ありそう」

女「人は人に生まれ変わるのかなあ」

男「『生まれ変わったら女がいい!!』とか言ってたやつがいたけどなあ」

女「なんで??」

男「男にチヤホヤしてもらえるからじゃないか」

女「そうかなあ、女の方が大変だと思うけどね」

男「おれもそう思う」

女「生理とか出産とか化粧とか、ね」

男「お前にはまだ早い話だろ」

女「生理は来てるっつーの!!」

男「でかい声でなに言ってんだお前」

男「化粧とか、いらんだろ」

女「ん、まあ、ナチュラルメイクくらい」

男「やめとけって、まだいらねえよ」

女「なに、すっぴん派??」

男「……うむ」

女「あはは」

女「ね、生まれ変わってもさ、またこうやって仲良くしてよね」

男「あ?? お前も信じてるんじゃん」

女「あんたに合わせてんのよう」

男「ふん」

女「じゃあ次は……」

男「死神だっけ」

女「ああ、そうそう、死神ね」

男「……」

女「コホン」

男「……」

女「……」

女「し、死神でござる!! 御命頂戴!!」

男「刺客じゃねーか」

女「死神ってどんなんかわかんないよ」

男「あれだろ、死神の鎌持ってて」

女「ああ」

男「あの、首持ってかれそうなやつな」

女「はいはい、首持ってかれそうなやつね」

男「んで骸骨の顔してんじゃね」

女「……」

女「実際いたら怖いよね」

男「いねえよ」

女「黒いマント着ててね」

男「そんなイメージだな」

女「どんな喋り方すんだろ」

男「知らね」

女「ま、いいか」

女「んじゃあ願いを言いなさい」

男「フランクだな死神」

女「その代わりに御命頂戴ね」

男「交換条件厳しいよなあ」

女「あれ、ていうか死神って願いとか叶えてくれる系??」

男「いんや、ただ死期の近い人に近づいてくるだけじゃねえの」

女「お前の命はあと一日しかない、みたいな??」

男「そうそう」

男「ていうか、なんだその『願いとか叶えてくれる系』ってのは」

男「そんなグループが存在してたのかよ」

女「他にはメンバーとしてシェン○ンとかポ○ンガとかがいるよ」

男「死神はあれだな、微妙なラインだな」

女「うむ、メンバーから外しとこう」

男「死神って命を吸い取るイメージがあるな」

女「それで、雨の降る日にしか出ないんだよね」

男「それは千葉さんだろ」

女「で、一週間一緒に過ごして、死ぬべきかどうか見てるんだよね」

男「だからそれは千葉さんだよ」

女「千葉さん格好いいよね」

男「死神の話はどこに行ったんだよ」

女「死神の話してるじゃん」

女「オレンジの髪の……」

男「それ漫画だろ」

男「ていうか死神代行だろ」

女「刀振り回してね、いい迷惑よね」

男「あれは戦ってんだよ」

女「死んで骨だけ!!」

男「あれって死神に入るの!?」

女「パンツ見たがるだけの人だね」

男「人に分類されるのかも怪しいが、まあ、特に願いは叶えてないな」

女「やっぱ死神さんは願いとか叶えてくれる系じゃなさそうだね」

男「あとは……と」

女「神様!!」

男「神様ね、今までの中じゃあ一番まともそうだよな」

女「オホン」

女「あー貴様の願いを一つ叶えてやろう」

男「神様態度でけえな」

女「こんなもんよ、実際」

男「そうかなー」

女「ほら、いいから願いを言いなさい」

男「うーん」

男「超能力がほしい」

女「おっと、意外なところで来たわね」

男「テレポーテーション能力がほしい」

女「ほうほう」

男「そしたらさあ、遅刻とかの心配なくなるし」

女「ちっさ!! 目的がちっさ!!」

男「あとは世界遺産とかを見たい」

女「お金貯めて旅行しろ!!」

男「いいじゃん、テレポ能力」

女「まあ、夢があるけどねえ」

男「悪者に取り囲まれても逃げられるし」

女「ビルから突き落とされても着地できるし」

男「ナイフが飛んできても避けられるし」

女「刑務所からも出られるし」

男「……」

女「……」

男「真っ当に生きよう」

女「それがいい」

男「手から火が出る能力もほしい」

女「あんた、漫画の読みすぎ」

男「なんでよ、格好いいじゃん」

女「日常生活でどう生かすのよ」

男「キャンプ行って『あ、マッチを忘れた』ってときとか」

女「ちゃんと準備しなさいよ」

男「でもさあ、便利だと思わないか」

女「そうかしら」

男「悪者に取り囲まれても倒せるし」

女「車が突っ込んできても燃やせるし??」

男「エロ本の処分にも困らないし」

女「蛾とか蜂が飛んできても焦らないし??」

男「……」

女「……」

女「え、男の子ってエロ本をどうやって処分してるの??」

男「リ、リサイクルかな??」

女「ふうん??」

男「あ、時間を止める能力」

女「限りなく犯罪に近いことに使うでしょう」

男「うむ、ロマンがあるよな」

女「おい」

男「はいピタッ」

女「……」ピタッ

男「ふふふ、今のうちにこいつの水に塩を入れて……」

女「ちっさ!! トイレ行ってる間とかにできるじゃん!!」

男「おい、まだ動くなよ!!」

女「なによ、この茶番は」

男「空を飛ぶ能力がほしい」

女「あーベタなとこ来ましたわね」

男「やっぱ空飛ぶのって夢だよな」

女「漫画でも映画でも、よくあるわよね」

男「こう、鳥みたいにバサバサやるんじゃなくて、フワッと浮きたいよな」

女「まあ、バサバサするのはあんまり格好良くないわね」

男「これどうよ」

女「どうってなにが」

男「これでいいんじゃね、結論」

女「んー」

女「面白人間として捕まったりしないかな」

男「あーそれはあるかも」

女「見世物になるのはやだなあ」

男「んじゃあ超能力系はダメじゃん」

女「人にばれない超能力なら……」

男「それはやっぱ透明人間じゃね」

女「ありがち」

女「ていうかそれも限りなく犯罪に近いことになるよね」

男「でも絶対バレねーぜ」

女「でもねえ、透明人間の可哀想な結末って、すでに出尽くしてるわよ」

男「え、例えば??」

女「車にはねられ、そのまま、とかね」

男「……」

女「だって誰にも見えないんだから、助けてももらえない」

男「あー、うわー」

女「交差点の真ん中なんか最悪よ」

女「魅かれて潰れる音だけが響いて……」

男「あーやばい、想像したくない」

女「気付いてもらえないってのも、辛いよ、きっと」

男「じゃあ、好きな時に透明になれる能力!!」

女「うん、いいかもしんないけど……」

男「けど??」

女「そもそも透明人間自体の欠陥も結構指摘されてるのよ」

男「え、マジで」

女「んーと、例えば……」

女「透明になるのは本人だけ、っていう」

男「ん?? 意味がわからん、当たり前だろ??」

女「あんたが今飲んでるジュースは、透明にならないのよ」

男「……げ」

女「私が食べたパフェも」

男「……やべえ」

女「体に取り込んだものとかは、見えちゃうんじゃないかっていう、ね」

男「じゃあピースメーカーとか」

女「見えちゃうね」

男「義眼の人とか」

女「目だけ浮いてることになるわね」

男「……はあ、そりゃあダメだ」

女「なにも食べられなくなっちゃうわねえ」

女「ま、この先は言わないでおくわ」

男「ま、まさかうんこも!?」

女「言うんじゃねーよ」

女「もっとすごい欠点もあるわよ」

男「え」

女「身体が透明になるってことは、当然まぶたも透明なのよ」

男「はあ」

女「つまり、太陽光を遮断できないから、日光を浴びられない」

男「え、別に太陽くらい平気じゃね」

女「馬鹿、ずっと眼球を照らし続けられるのよ」

男「あ、それは、きついかも」

女「ね」

女「超能力って言っても、不思議な力だし、きっとうまく使いこなせないわよ」

男「あーでも欲しいなあ、超能力」

女「ちなみに手から火を出す能力も、多分掌がすごいことになるし」

男「あー」

女「瞬間移動も……エネルギーの発生源がないと、無理だし」

男「ん??」

女「つまり、んーと、移動した距離の分だけエネルギーが必要と言うか」

男「ん?? わからん」

女「ま、いいか」

男「超能力は微妙だということが分かった」

女「そだねー」

男「じゃあ、世界を平和にしてください」

女「出たーお約束!!」

男「なんだよ、いいだろ」

女「優しいんだねえ」

男「ていうかもう他に思いつかないんだけど」

女「さっきまで一兆円とか言ってたくせに、欲がなくなっちゃったのね」

男「欲はいっぱいあるよ」

男「お前がいろいろとダメ出ししてくるからさあ」

女「んー御免、そんなつもりはなかったんだけど」

男「そんなら、もう自分が関係ないとこにさ、還元してもいいんじゃね、と」

女「はあ、優しいねえ」

男「普通だよ、普通の思考だよ」

女「モテモテになりたい!! とかはないの??」

男「ないねー」

男「ていうか不細工とか言いやがったじゃねえか」

女「あ、あれね、やっぱエンジェル・ライだから」

男「遅いよ」

女「モテたら楽しいんじゃない??」

男「お前、おれが女の子にひっぱりまわされるようなモテ男になったらどうすんだよ」

女「ん……複雑……」

男「だろ」

男「おれが朝起きたら、女の子がおはようのキスの順番待ちしてんだぜ」

女「なんだそれ」

男「腕二本じゃ足りないから、足にも腰にも女の子ぶらさげて登校するんだぜ」

女「シーザーズ・チャージだね」

男「お弁当『あーん』ってしてもらうだけで、お腹いっぱいになるんだぜ」

女「あはは、羨ましいな、それは」

男「下駄箱にはラブレターがあふれてんだぜ」

女「……ベタだね」

男「うむ、これはあり得る」

女「漫画の中だけね」

男「『私を甲子園に連れてって』ってクラス中の女の子に言われるんだぜ」

女「それは一人でもクラス全員でも一緒じゃん」

男「おおう、本当だ」

女「ま、あり得ないけどね」

男「そういうこと、おれは普通で十分」

女「私がいるしね♪」

男「……」

女「冗談だよ」

男「冗談に聞こえないんだよ」

女「あはは」

男「えーっと、何の話だっけね」

女「世界平和」

男「ああ、そうそう、それでいいや、もう」

女「こんな小話を思い出したわ」

男「うん??」

女「世紀末のある日、みんなの頭の中で声がしたの」

男「ひゃっはー!!」

女「茶化すな」

女「神様からのメッセージね」

男「はあん」

女「ちょうど1000年祭、記念の日だから、みんなの願いを叶えてあげよう、と」

男「ほう、気前がいいな」

女「今から一週間考えて、願いを決めなさい」

女「集計して、一番多い願いを叶えることにする、って言うのよ」

男「ああ、なるほどね」

男「ならやっぱ、おれは世界平和を望むな」

女「まあそう言う人、多いんでしょうね」

女「みんな思い思いに願って、一週間が経ったのよ」

女「また神様が言うの、ほとんどの願いが一緒だったので決めるのが楽だった、って」

男「ああ、じゃあやっぱ……」

女「でもね、神様はこう言うのよ」

女「では叶える願いは『地球上から人類を消してくれ』というものにする」

男「……なるほど」

女「わかった??」

男「人類以外の生物みんなが、そう願ったってことか」

女「そ」

男「ブラックだねえ」

女「この話を考えたのが『人類』だっていうのも、ブラックよね」

男「確かに」

女「願いなんて、あんまり真剣に考えるもんじゃないわね」

男「はっは、お前がこの話題を振って来たんじゃん」

女「そうだっけ」

男「ま、いい暇つぶしにはなったよ」

女「そうね」

男「さて、そろそろ帰るか」

女「うん」

男「門限大丈夫??」

女「うん、まだ大丈夫」

男「っと、ここはおれが払わなきゃダメなんだったな」

女「御免ね、御馳走様♪」

男「はいはい」

女「今度は私が奢るからさ」

男「へいへい、期待してますよ」

女「あ、信じてない」

男「じゃあ、明日」

男「明日ここのパフェ奢って」

女「あんた、パフェ食べたかったの!?」

男「見てたら食いたくなったから、明日おれも食う」

女「はあい、了解」

男「家まで送るよ」

女「うん、ありがと」

男「……」

女「……」

男「なあ」

女「うん??」

男「今日さ、色々『願い』の話をしたけどさ、お前はどうなん」

女「どうって」

男「お前なら、なにを願うんだよ」

女「……」

男「おればっかり喋ってたからさ、気になって」

女「うーん、私は、わかんないな」

女「あんたがどんな願いを持ってるか、それが聞きたかっただけっていうか」

女「普通なら何を願うのかなあ、って思っただけだから」

男「ずるいなあ」

女「女はずるいのよ♪」

男「はっは、それ、おれが言ったら問題発言になりそ」

女「私が言うから良いのよ」

男「ふう、着いた」

女「あがってく??」

男「いいよ、今日は」

男「おじさんとおばさんに、よろしく」

女「……うん」

男「ん、じゃあ、また明日な」

女「はあい、送ってくれてありがと」

男「なあ、明日……」

女「ん??」

男「や、別に」

男「じゃな」

女「うん、ばいばい」

神「で、願いは決めたのか」

女「でえい!! あんたはまたいきなり出てくるわねえ」

神「あの男が離れるのを待っておっただろうが」

神「これでも気を遣ったのだ」

女「はいはい、そりゃあどうも」

神「で、貴様の願いは決まったのか」

神「あの男と話をしてから決めると言っていたが」

女「あーうん、そうなんだけどねえ……」

神「なんじゃ、まだ悩んでるのか」

女「とりあえず、部屋で話そう」

神「む、ここではいかんのか」

女「玄関先で話してると、親がうるさいのよ」

神「ふむ」

女「しかもこんなおっさんと話してるの見たら、お母さん卒倒しちゃう」

神「誰がおっさんか」

女「あんたよ」

神「神に向かっておっさんとは礼儀を知らん小娘だ、この糞餓鬼め」

女「あんたも神とは思えない口のきき方だわ」

女「さて、お茶は出さないからね」

神「いらん、早く願いを言え」

女「ねえ、そもそもなんで私なのよ」

神「……気まぐれだ」

神「それ以外のなんでもない」

女「はあ、そればっか」

神「いいから早く決めろ」

神「これはわしの気まぐれの戯れなんじゃ」

神「時間がかかっていてはつまらん」

女「ええい、もう、せっかちねえ」

女「あ、ねえ、じゃあさ、こういうのはどう??」

神「うむ、言ってみろ」

女「さっきのあいつのさ、願いを叶えてやってよ」

神「はあ??」

女「っていう願いは、あり?? なし??」

神「確かにそれはありじゃが……」

神「はっはっはっはっは、面白いのう、小娘」

女「じゃ、そういうことでよろしく」

神「いや、長い間この戯れをしてきたが、貴様らのような者はおらんかったよ」

女「そう?? レア?? 一等賞??」

神「貴様のような願いを言ったのは……貴様で二人目じゃ」

女「なあんだ、前例があるんじゃない」

神「で、貴様、あの男が好きなのか??」

女「ぐっ」

神「図星か」

女「んっと、えっと、ちょっと違う」

神「ちょっとってなんじゃ」

女「ちょっとはちょっとよ」

女「なんかね、あいつと話してたら、それだけで楽しいのよ」

神「それを好きというのではないのか」

女「なんか神様って俗っぽいのね」

神「うるさいぞ」

女「神様があいつのとこに行ってくれたらさ、明日も楽しい話ができるのよ」

女「今日の続きの話とかさ、もっと広げた話とかさ」

神「それだけでいいのか」

女「いいの」

神「ふうむ、ま、心得た」

女「じゃ、行ってらっしゃい」

神「あの男はどういう反応を示すかな、楽しみだ」

女「あ、もちろん私のことは言っちゃダメだからね」

神「はっは」

女「なによ」

神「残念ながら、願いは一つじゃ」

女「あ!! こら!!」

女「ねえ、もしあいつがさ、世界平和を願ったら、どうなるの??」

神「聞きたいか??」

女「……少し」

神「……」

神「まあ、安心せえ、貴様の考えているようなバッドエンドにはならん」

女「そ、そっか、それ聞いて、安心した」

神「貴様の小話を聞いて、それを願うとは思えんが……」

女「まあ、そうだよね、あいつチキンだもんね」

神「あの男が貴様のことを好きになるように、という願いはないのか」

女「……それも考えたんだけどお」

神「考えたのか」

女「やっぱそれって、反則じゃない??」

神「まあ、そうじゃな」

女「だからいいの」

神「ふむ、その願いは無駄になるしのう」ボソッ

女「なんか言った??」

神「では次の標的の所に行くかの」

女「はあい、行ってらっしゃい」

神「さて、あの男はどう出るか……」ボソッ

女「なんか言ったあ??」

神「なんでもない」

女「はーあ、明日が楽しみだなあ♪」

神「はっは、幸せな奴め」

―――

神「幸運なる人間よ、貴様の願いを一つ叶えてやろう」ニヤニヤ

男「ぎゃー!! なんで帰ってくるんだよ!!」



★おしまい★

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