【ゆるゆり】向日葵「クリスマス大作戦」 (49)

先日放送された「なちゅやちゅみ+2」のワンシーンを見て思いついたひまさくです。

お付き合い頂けると嬉しいです。

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クリスマス。

本来はキリストの誕生日なのだが、今の向日葵にはそれどころではなかった。

向日葵は今、クリスマスに向けての重要ミッションの真っ最中。

料理は既に下ごしらえまで済ませ、部屋の飾りつけまで終えているが、ただ一つだけ足りていないものがあった。

メイン・ディッシュ。

パーティの主役であり、それがないと始まらないのだ。

(もう、櫻子ったらちゃんと片付けておきなさいといつも言っているのに)

この日のために買った暗視スコープ越しに櫻子の部屋を見回した向日葵は、いつも通りの櫻子の部屋の様子を見て、仕方ないですわね、と苦笑した。

(っと・・・こんな事をしている場合ではありませんわ)

想定していた位置に「それ」があるのを確認した向日葵は、足音を可能な限りまで押し殺して近付く。

予想はしていたものの、一人で持つには重かった。

(どうしましょう・・・引き摺ったら櫻子が起きてしまうかもしれませんし・・・)


まずは櫻子の眠りの深さを確かめようと、ベッドの上に目をやると、くるまっていたであろう布団を蹴り飛ばし、大の字になっていびきをかいている。

(まったく、風邪を引いたらどうするんですのよ・・・)


布団の端を櫻子の肩の辺りに持っていく時、向日葵ははっとして息を呑んだ。

無抵抗な櫻子を床に押し付け、それから・・・

それ、から──

(っ・・・今はまだ、その時ではありませんわ)

そうだ、今は一刻も早く、アレを持って帰る事に集中するのだ。

クールになれ、古谷向日葵。


(そうですわ! 確かキャリーカートが物置に!)

何故こんな簡単な事を計画段階で気付かなかったのか。

自分を責めたい気持ちを力に変え、向日葵は櫻子の部屋を後にした。

大室家の物置であるにも関わらず、少しも迷わず目的のものを見つけた向日葵は、再び大室家のドアをくぐる。

アレを運びだした後、また物置に返しに行けばいいだけ。簡単な事だ。

確実に計画の実現に近付いている事に頬が緩む。

「ひま子、何してんの」

「ッ!?」


呼称で相手が誰かはすぐに分かったが、気持ちが緩んでいた所へ奇襲を受けた事で、頭の中の整理が追いつかない。

どう言い訳しよう、この人はただでさえ一筋縄ではいかないのに。

「撫子、さん」


からからに渇いた喉で、相手の名を呼ぶのがやっとだった。


「・・・ふぅん」

「・・・えと、そのっ・・・」


「・・・なるほどね。ついておいで」

「え・・・? あ、は、はいっ」

黙って忍び込んでいる所を見つかった時点で、逆らう事など許されない。

暗視スコープ。キャリーカート。

どう考えても・・・まともな精神状態だとは思われないだろう。


「ほら、これ」

「・・・?」


唐突に渡された新聞紙の束が何を意味するのかが分からずに戸惑っていた向日葵は、次の撫子の言葉にその場で美しい土下座を決めた。


「廊下汚さないように敷きな。じゃおやすみ、ひま子」


──
───


翌朝。

眠い目をこすって身体を起こした櫻子は、部屋の光景に違和感を感じたものの、その正体までは分からず、首を傾げながらも顔を洗いに洗面所に向かった。


「ん・・・あれ」


妙に静かなリビングにまた首を傾げるが、まぁ買い物にでも行っているのだろうとテレビを付けてダラダラする。

喉の渇きを癒やすために冷蔵庫を開けると、ヒラリと足元に紙切れが落ちた。

【起こしても起きなかったから、私も花子も出かけてくるよ。
 ご飯は自分でなんとかしな】

「え~面倒臭い・・・」

「自分でなんとかしろったって、お金すら置いてないじゃん・・・」

「まぁいいか。向日葵んちでご飯食べさせて貰おっと」

押し慣れた、古谷家のインターホンを押す。

プツ、とインターホンの受話器が取られた音を確認し、いつも通り名乗る。


「おーっす! 櫻子様が来てやったぞ!」

「・・・」


カチン。

受話器の向こうにいる相手は無言のまま、ドアのロックを解除した。

いつもと違う歓迎の仕方に首を傾げながらも、とりあえず中に入ろうとドアを開ける。

「ッ・・・!?」


櫻子は目の前に広がる異様な雰囲気に息を呑んだ。


家具の配置はいつもと変わらない。

朝や昼間は陽の光が十分に入ってくるため、灯りが点いていない事も珍しい事ではない。

異様だったのは、向日葵の、表情だった。


伏し目がちに少し頬を赤らめ、時折チラリとこちらを見ては、またすぐに下を向く。


「・・・」

「・・・」


「・・・その」


暫くその状態が続いた後、ようやく口を開いた向日葵。

お腹が空いたからという理由でやってきただけの櫻子には、どうして向日葵がこんなに赤くなっているのか分からない。

「・・・き、来てくれて・・・その、嬉しい・・・ですわ・・・///」

「え・・・あぁ・・・あ?」

「と、とりあえず立ち話も何ですから・・・あがって、下さいな」

「う、うん・・・?」

向日葵の部屋に入ると、既に料理が・・・並べられていた。


「あっ、ステーキ!
 食べていい? 食べていいっ?」

「ええ、いいですわよ」


ステーキの他にも、チキンにカルパッチョなど、普段頼んでも一蹴されるような料理ばかり。

「さ、櫻子、あ・・・あ~ん・・・///」

「おお、食べさせてくれるとは流石だな!
 もぐし!うめぇ!」

「ふふっ」


向日葵は景気よく食べる櫻子を、恥ずかしそうに、嬉しそうに見ていた。

「さすが向日葵、私が見込んだだけの事はある!
 いやぁ、今日は良い日だな~!」

「足りなかったらお代わりもありますから、沢山食べて下さいな」

「マジか! じゃあチキンお代わり!」

「ふふふ、はいはい」


──
───


「はぁ~、真っ昼間からご馳走とは、今日の向日葵は気前がいいな~!」

「き、今日は・・・特別な日・・・ですから///」

「お・・・おぉ・・・?」


やっぱり向日葵の様子がおかしいと思いつつ、満腹感による心地良さで、考える気がなくなった。

「おっ、向日葵もこのクリスマスツリー買ったんだ。
 なんだ~? 櫻子様とお揃いが良かったのか~?」

「えっ」

「えっ」

「いや、あの・・・え?」

「な、なんだよ」

「櫻子・・・手紙は、読んだんですわよね?」

「手紙? あぁ、姉ちゃんの?」

「・・・!?」

向日葵は櫻子を置いて、全力で外に駆け出していってしまった。


「ちょ、おい向日葵・・・?」


程なくして戻ってきた向日葵の手には、封の開けられていない手紙が握りしめられていた。

向日葵の手がわなわなと震えているのを見て、櫻子は只ならぬ空気を感じていた。

「・・・櫻子」

「お、おう・・・!?」

「あなた・・・この手紙を読んで、ここに来たわけじゃないんですのね・・・?」

「あ、うん・・・お腹空いたから・・・来たんだけど・・・」

「ッ・・・櫻子の馬鹿ッ!」


手紙をぐしゃぐしゃと丸めて櫻子に投げつけ、向日葵は押入れの中に閉じこもってしまった。


「な、なんだよ向日葵のやつ・・・この手紙がどうとか言ってたけど・・・」


とにかくこれを読めば向日葵の様子がおかしかった理由も分かるかもしれないと、櫻子はくしゃくしゃになった封筒を伸ばし、封を開けた。

『櫻子へ

 あなたの部屋のツリーは頂きましたわ
 なにも言わず借りただけでは悪いですから
 たまにはご馳走を作って差し上げますわ
 がんばって沢山作りますから
 好きなだけお代わりしていいですわよ
 きたいしておいでなさい』

「・・・なんだこれ」

「どっちにしろご馳走してくれるんだし・・・向日葵のやつ何怒ってんだろ」


(向日葵に聞いても逆効果だし・・・そうだ、姉ちゃんに聞いてみるか)


(『向日葵からこんな手紙貰ってたみたいなんだけど、知らずにご馳走だけ食べたら、なんでか知らないけど向日葵が怒っちゃった。なんで!?』・・・と)

送ってから30秒もも経たない間に、櫻子の携帯に着信が入った。

流石に向日葵に聞こえる所でカンニングするのも悪い気がしたので、玄関まで走り、小声で電話に出る。


「もしもし、ねーちゃん?
 なんで向日葵が怒ってるのか分かった?」

『はぁ・・・ひま子もひま子だけど、あんたもあんただね。
 一番最初の文字、繋げて読んでみな』

「一番最初の文字・・・って・・・え!?///」

『クリスマスなんだから、今日くらいは素直に答えてやりなよ。じゃ』プツッ

「え、あ、ちょっねーちゃん!?」

「・・・うぅ~・・・真面目に答えてやれったってさぁ・・・」

櫻子は向日葵が閉じこもっている押入れの前に立ち、一つ深呼吸をした。


「・・・向日葵」


返事は、返ってこない。

そっと手をかけ横に引くと、襖は何の抵抗もなく開き、端で両膝を抱え込んで真っ赤になっている向日葵が居た。

「・・・横、座るよ」

「・・・」


「・・・」

「・・・」


「向日葵、暗いのダメなんじゃなかったっけ」

「・・・自分の、家ですから」

「・・・そっか」

再び襖を閉めると横に座った向日葵の肩がびくりと震えたが、それには触れずに続ける。


「私一人じゃ何回読んでも気付かなかったから・・・結局姉ちゃんに聞いちゃった」

「だから・・・家で読んだとしても、気付かなかったと思う」

「でも、向日葵の気持ちは・・・えと、嬉しかったっていうか・・・
 悪い気はしないっていうか、よく、分かんないけど・・・」

「・・・」

「・・・」


(うぅ・・・どうしろってんだよこの空気~!)


「・・・手紙を読まなかったのに、どうして私の家に来たんですの・・・?」

「え!? あぁっ、と・・・?」

向日葵の言葉は聞こえたが、突然聞かれて戸惑ってしまった。


「撫子さんや花子ちゃんが、ご飯を作ったかもしれませんのに」

「えっと・・・冷蔵庫開けたら、姉ちゃんの書き置きが置いてあってさ。
 2人とも出かけるから、ご飯は自分でなんとかしろ、って」

「・・・」


「そう、でしたの・・・
 撫子さんにはやっぱり、敵いませんわね・・・」

「え? なんでそこで姉ちゃんが出てくるのさ」

「櫻子が手紙を読まない事を見越して、私の家に来るように誘導したんですわ」

「姉ちゃん、手強いな・・・
 でも、なんで姉ちゃん手紙の事知ってたんだ?」

「う、それは・・・」

「?」

「昨日櫻子の部屋からツリーを盗もうとした時、撫子さんに見つかってしまったんですわ」

「・・・道理で部屋に何か足りないなと思った・・・
 って、えっ!? 向日葵が盗んだって・・・えっ!?」

「・・・手紙に書いてあったでしょう?」

「いや、冗談で書いただけで、私ん家のどっかに隠してあるだけだと・・・
 って事は外にあるツリーは、私の部屋にあったやつか・・・」

「そこまで気付いてなかったなんて・・・
 櫻子にドッキリを仕掛けるのは苦労しますわね」

「え、でも向日葵、姉ちゃんに見つかったって事は盗めなかったんじゃ・・・」

「・・・『なるほどね』って仰った後、廊下に敷く新聞紙を下さいましたわ・・・」

「えぇ~・・・姉ちゃんも共犯みたいなもんじゃん・・・」

ブゥゥゥゥン..

「あ、姉ちゃんから電話・・・
 もしもし、姉ちゃん?」

『櫻子、ちゃんと素直に答えてあげた?
 あんた達、お互い好き合ってるんだから、さっさとくっつけばいいのに』

「・・・っ!?///
 え、姉ちゃんそれって私も向日葵が好きって事に・・・え!?」

『バレバレなんだって。じゃ、頑張って』

「・・・あ、あはは・・・姉ちゃん何か早とちりしてるよね~・・・」

「・・・そこまでバレてるなら、遠慮するのも馬鹿馬鹿しいですわね」

「えっ!? ちょっと向日葵・・・っ!?」


周りは真っ暗だが、身体に伝わる感触から、向日葵に抱き付かれているのは、分かった。


(ヤバい、どうしようこれ・・・
 暗いから向日葵の顔も見えないし・・・)

「・・・さーちゃん」

「ッ!?///」


「・・・大好き」

「え、いや、ひまっ・・・」

「えへへ、言っちゃった・・・さーちゃん・・・♪」スリスリ

(えぇ~~~~~!!!!????///)

「? さーちゃん?」

「ちょっと向日葵! なんか変なスイッチ入ってるって! 落ち着けって!///」

「スイッチ・・・? 何言ってるのさーちゃん・・・?」

(そうだ、暗いからひまちゃんモードを保てるんだとしたら・・・!)スパァン

「さーちゃん・・・どうしたの?」

(ダメだったぁ~!!?
 っていうか顔が見える分尚更恥ずかしい!!?///)

「さーちゃん・・・昔みたいにひまちゃんって呼んで欲しいな・・・」

「っ・・・ひ、ひま・・・ちゃん・・・///」

「えへへ、嬉しいっ♪」ギュッ

(うわあああ~~~~!!///)


「・・・ひまちゃん、ごめんね」

「・・・え?」

現在の向日葵の声で「さーちゃん」と呼ばれ甘えられる事の甘美さに、少しずつ自分の感覚が狂わされていた所に突然謝られ、更に頭が混乱した。


「大きくなるにつれてさーちゃんの成績が落ちて・・・
 さーちゃんがバカにされるのが嫌で、私がさーちゃんをなんとかしなきゃって思ったの」

「だから、喋り方も変えて、悪者みたいになっても、少しでもさーちゃんの成績、よくしたいって思ったの」

「ひま、ちゃん・・・?」

>>39 訂正

「っ・・・ひ、ひま・・・ちゃん・・・///」

「えへへ、嬉しいっ♪」ギュッ

(うわあああ~~~~!!///)


「・・・さーちゃん、ごめんね」

「・・・え?」

「でも、失敗しちゃった・・・
 気付いたら喧嘩ばっかりするようになっちゃって・・・
 こんな筈じゃなかったのに、って」

「本当はね、ずっとずっと、さーちゃんとこうやって仲良しで居たかった。
 昔みたいに、ひまちゃんと、さーちゃんで」

「もう・・・戻れないのかな・・・
 これからもずっと、喧嘩ばっかりするのかな・・・」

「仲良しが、いいよ・・・」

「そう、だったんだ」

「ごめんね、ずっとキツくあたって・・・
 さーちゃん、きっと辛かったよね・・・」


「そんな、そんな事ない!」

「さーちゃん・・・私に気を遣わないで・・・?」

「気なんて遣ってないもん!
 私が我が儘言っても、宿題見せてって言っても、おっぱいで文句言っても。
 最後には、仕方ないな、って許してくれて・・・」

「そんなひまちゃんだから、私はずっと甘えていられたの!
 だから辛くなんてなかったの!」

「さーちゃん・・・」

「よ・・・呼び方は・・・皆の前でいきなり戻すのは恥ずかしいけど・・・
 そうだ! 今のクラスの皆が知らない高校に行けばいいよ!
 そしたら、私がひまちゃんって呼んでも、おかしくない!」

「さーちゃん・・・! うん・・・うんっ!」

「へへへ、私はやっぱり天才かもしれないな~!」

「ふふっ、さーちゃん、大好きっ♪」

「えへへ・・・私も、ひまちゃん大好き!」


イチャイチャ


──
───


「おっふ・・・」


「電話切らずに置いといたらえらいもん聞いちゃったな・・・」


「ま、お幸せにね。櫻子、ひま子」


~Fin~

なちゅやちゅみ+2で、櫻子の部屋に季節外れのクリスマスツリーが置きっ放しになっているのを見て思いつきました。

最初はクリスマスツリーをクリスマスツリー質に取った向日葵が、
取り返しにきた櫻子を電流で失神させて好き放題する話だったんですが、
押入れの中でひまちゃん、さーちゃん、って呼び合いながらイチャコラする2人が
頭の中に浮かび、気が付いたらこうなってました。

変態向日葵は基本。

ありがとうございました!

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