まこ「謎解きは麻雀のあとで」 (44)

和「迷探偵マホちゃん 6人目の容疑者(サスペクト)」の続き
以前某所で書いたのを基にした話でー


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前編~毒入りホットコーヒー事件~


あれは高校進学を間近に控えた春じゃった。
あの妙な連中と初めて会ったのは…。


~雀荘roof-top~

ワイワイ ガヤガヤ ジャラジャラジャラ


客A「すいません、お茶もらえる?」

客B「お姉さん、こっちはコーヒー1つね」

メンバー「はーい、ドリンクオーダー入りました。1番卓様アツチャ、2番卓様ホットナシナシです!」

まこ「はいよー」

客C「何か腹にたまるものって置いてるかな?」

メンバー「はい、こちらフードメニューとなっております!」サッ

メンバー「ふう、今日の営業も大方一段落つきましたね」

まこ「あと1卓じゃね、お疲れさんじゃ。あんたが入ってくれてから店がよう回って助かるわ」

メンバー「ありがとうございます、私の実家も雀荘でしたから…。何事も経験しておくものですね」フフッ

客D「ラスト。ゲーム代精算でー。あとの3人はまだやってくみたいよ」

まこ「はい、ありがとうございます。お会計はこちらです」

メンバー「じゃあ、私が入ってきますね」

まこ「ああ、よろしゅう。あと、何かオーダーあったら聞いといてくれんかのう。あんたの分も入れてな」

メンバー「わかりました!」


わしの実家は雀荘を経営している。以前からちょくちょく手伝ってはいたが
最近両親が留守にしがちで人手不足もあって、春休みに入ってからは本格的に店に出るようになっていた。
田舎のノーレート雀荘といっても元はギャンブル、色々なお客さんが来る。
その日最後まで残っとったのは3人じゃった。

キセル「烏龍茶。ホットで」


今注文に答えたのはキセル煙草を吹かした若い女。
スーツを着くずしとるが、妙にパンクな雰囲気がある。
来店するのは初めてなはずじゃが、どこかで見た覚えがあるのは気のせいじゃろうか?

しかしさっきからカツ丼ばかり何杯もバクバク食っとったが、ようやく別のもの頼む気になったか。
全く、うちを定食屋か何かと勘違いしとるのかと思ったわ。


オッサン「ワシはいつものや、うまいの入れてくれよ。ガハハハハ!」

まこ「はい、ホットコーヒー。砂糖とミルク有りですね」


もう一人は、腹の出たいかにもな脂ぎった自称プロのオッサン。
一応JMA(日本麻雀協会)に所属しているというのは確からしい。
常連面しとるが、うちに来るのは今日を合わせてまだ三度目じゃ。

前の二度とも遅い時間帯に来て、閉店時間まで残っとったな。
他のお客さんがみんな帰って卓が立たなくなると、やれ融通が効かないだの
自分の知ってる別の雀荘はもっとサービスがいいだのと喧しくてかなわん。
近所に住んどる家族が主な客層のこの辺りで、20時過ぎてまで営業しても誰も来やせんわ。

おさげ「私はレモンスカッシュ。ガムシロもお願いね」


最後の一人は、赤みがかった髪を両サイドでおさげにした女。
さっきのキセルよりも更に一回り若く見える。
というか、わしと殆ど変わらんのじゃなかろうか。

健全経営がモットーのうちでも、さすがにここまで若い客が一人で来ることは珍しい。
そのわりには気負いなんぞまるで無いように不敵に笑いながらスイスイと打つ様は、
いっそふてぶてしささえ感じる程じゃ。


メンバー「じゃあ私もホットミルクティーを一つお願いします」

まこ「今日はアイスコーヒーでなくてええんか?」

メンバー「ええ、今夜は冷コーには少し寒くなってきましたから」


4人目はお客さんではなしに、先月バイトとして雇ったメンバーさん。
週4で働いてもらっとる。生真面目ゆうんか、雇い主の娘いうだけで7つも
年下のわしにまで敬語を使われるのはこそばゆいが、覚えも早いし愛想も良いしでホンマに大助かりじゃ。
ともあれ、これがこの日最後に卓を囲んだメンツじゃった。

まこ「失礼します、ドリンクお持ちました。こちらレモンスカッシュとシロップ。コーヒー・紅茶の砂糖とミルクは…」

メンバー「あ、私いただいてもいいですか?」

まこ「はいよ」コト

メンバー「ありがとうございます」スッ

まこ(おろ、一匙とはいえ底まで埋まってたスプーン山盛りに砂糖入れるんじゃな。そんなに甘党だったかのう)

オッサン「おーいお嬢ちゃん、こっちも早よしてや」トントントン

まこ「はい、すぐそちらへもお持ちします」

オッサン「あー、今日は調子が出やんなあ。満貫切り上げのルールは玄人は逆に惑うわ…」ブツブツ…

まこ(しょうもない言い訳しとるな、雀荘なんて大概が切り上げじゃろうが。しかし他の二人も何か妙じゃな…)

まこ(ここぞという急所をセオリー外の手で持ってくる。メンバーさんも調子ええし、こりゃオッサンの一人沈みもありそうじゃな)

メンバー「すいません、まこさん。ビールいただけますか?」

まこ「…ん?ああ、はいよ。一本でええんかな?」

キセル「私はいい。ツメチャを一杯くれ」

おさげ「うーん、私も残念だけど、あと4年はおあずけね」

メンバー「そうですね、一本でいいと思います。当店は日本酒は置いていませんから。フフッ」チラッ

オッサン「やかましっ!心配せんでもこっちゃ勝手に飲みよんわ!」ダンッ

まこ(おーおー、毎回何かポケットが膨らんどると思っとったがカップ酒が入っとったのか。酔いが回って余計負けがこまなけりゃええがのう)

オッサン「なんや、この店じゃ酒の持ち込みも好きにさせてもらえんのけ?」グビグビ

まこ「いえ、節度さえ守ってもらえれば好きにしてもらって結構ですよ」

オッサン「にくそい店ェやのぉー。余裕かましとるのも今んうちやぞ!…うっ、ううっ!?」ガタッ

まこ(今度はまたなんじゃ…っていや、これはほんまモンか!?)

メンバー「どうされました?」ダダッ

オッサン「ぐぅー!腹がっ!腹が痛い~!頭も割れそうやー!!」

キセル「ふむ、汗も尋常じゃないな。こいつは何か…」

まこ「一体急にどないしたんじゃ…」

オッサン「さ、さっきのコーヒーになんぞ入れよったな!?」

まこ「ええっ!?いや、わしそんなこと知らんよ!?」

オッサン「うう~~救急車や~、救急車早う呼んでくれー。それと警察じゃ、オーナーの娘が毒盛る店なんて絶対潰したるからな~」

まこ(ま、まずい。親のおらんときに営業停止にでもなったら目も当てられん…。どないすりゃええんじゃ!)

おさげ「……そこのメガネさんがやったと決め付けるのは、ちょっと早いんじゃないかしら?」

オッサン「な、なんやと!」

キセル「ほう…」

メンバー「ええと…それは人為的なものではなくて、ということですか?何か持病があったとか…」

おさげ「残念ながらその線は薄いわね。これはさっき使われていたシュガーポットだけど…」スッ

まこ「それがどうかしたんか?」

おさげ「一見なんの変哲もない砂糖が入ってるだけだけど、別のものが混ざってるわね」

まこ「別のもん!?」

おさげ「シアナマイド。無色透明の物質で医学的には抗酒剤として使われるものよ」

キセル「抗酒剤?アル中に対する薬ってことか?」

おさげ「そっ。これを服用してから少量でもお酒を飲むと、急な発汗・頭痛・腹痛・吐き気…要するに今の、このオジサンみたいになっちゃうってわけ」

おさげ「通常は液体で使われることが多いんだけど、これは結晶化されたものが大量に砂糖の中に入れられているわね」

オッサン「それがどないしたんや。せやったらコーヒーや無しに砂糖にこの姉ちゃんがそのシアナなんとかを入れたっちゅーことやんけ!」

おさげ「部外者には難しいでしょうね。でも少なくとも、これを用意することが出来た人がもう一人はいるわよ」

メンバー「…それはひょっとして私のことでしょうか…?」

おさげ「まあ、そういうことになっちゃうわね。それにこういうのを揃えるのって、普段のお仕事の一つなんじゃない?」

まこ「あ、ああ。確かにドリンク周りの準備や清掃は基本的にメンバーさんにやってもらっとる。じゃが…」

おさげ「ちょっと聞きたいんだけど、どうしてスティックじゃなくてシュガーポットなの?広いテーブルのない雀荘じゃ不便だと思うんだけど」

メンバー「……!」

おさげ「例えば最近になって彼女に提案されたんじゃないかしら?」

まこ「…それも当たりじゃ。コストカットになるから砂糖入れを使ってみませんかと、一週間前にすすめられた…」

まこ「でもわしはこの目ではっきり見とった」

まこ「メンバーさんは自分でも砂糖をたっぷり入れとったし、その後ビールも飲んどったぞ!」

まこ「あんたの言うとおりなら、メンバーさんも苦しんどらんと理屈に合わんが…」

おさげ「あら、なかなか良く見てるじゃない。そこなのよねー」

おさげ「ってわけで私もコーヒーホット・アリアリでもらえるかしら?ついでにアツシボもお願い」

まこ「はあ?それとこれと何の関係があるんじゃ!?」

おさげ「どうせそんなに時間のかからないインスタントでしょ?」

おさげ「出来ればお湯に溶かす前に瓶ごと持ってきて欲しいんだけど」

まこ「大きなお世話じゃ。それにうちはインスタントでも仕入先にはこだわっとる!」

おさげ「香りからしてブレンディのスプレードライね」

おさげ「粒が粗いフリーズドライの方が好みなんだけど今回は好都合だわ」

まこ(この女ホンに何モンじゃっ!?)

まこ「はいよ、コーヒー瓶とアツシボお待ち」ドンッ

おさげ「ありがと。いやー生き返るわー」フキフキ

まこ「アンタいくつじゃ…。で、話の続きはいつ始まるんかのう?」

おさげ「そう慌てない慌てない。まずはこのシュガーポットにスプーンを入れます」

おさげ「さっきと同じように砂糖の底に埋まるまでしっかり深くね。そしてコーヒー粉」

おさげ「まあ分かりやすく色がついてる粉なら何でも良かったんだけど、これをシアナマイドと思ってちょうだい」

おさげ「いい?上から万遍なく入れていくわよ」

まこ「…下の砂糖と上のコーヒー(シアナマイド)で茶色と白の二層になったな」

おさげ「そしてスプーンを傾けないように注意しながら真っ直ぐ持ち上げると…」スッ

まこ「…!スプーンに残っとるのは砂糖だけじゃ、上にあったコーヒーは全部こぼれ落ちとる!」

おさげ「これは細かな粒子の性質の一つよ」

おさげ「ある程度の深ささえあれば、下の方で既に山が形成されて上の部分は掬い上げる際に全てふるい落とされるの」

おさげ「これで最初の一杯だけは完全な砂糖、次からはシアナマイド入りシュガーポットの出来上がりってわけ」

メンバー「…なるほど、面白い理科の実験ですね」

メンバー「でもそれは私も薬を入れることが出来たというだけに過ぎません」

メンバー「だったら他の人にも可能なんじゃありませんか?」

おさげ「いいえ。このトリックを使った場合、少なくともメガネさんが犯人というのは考えにくいわ」

オッサン「そ、それはなんでや…?」

おさげ「考えてもみなさい。メンバーさんが砂糖を入れるときに気まぐれで一度スプーンを戻してからすくってたら、その時点で混ざっちゃうのよ?」

おさげ「そんな面倒なリスクを踏むくらいなら、それこそ事前にコーヒーにでも混ぜた方が手っ取り早いし何より確実だわ」

おさげ「それにメンバーさん、あなた飲み物が来た時にすぐ砂糖をくれるように手を上げたわよね」

おさげ「ああいうのって普通お客さんを優先するものじゃないかしら?」

メンバー「そ、それはっ…」

おさげ「最初に砂糖を持っていかれたら台無しだから、まず自分から入れる必要があったと考えれば辻褄が合うわ」

おさげ「まあそれはまだいいとしても、ビールの注文はやりすぎだったわね」

おさげ「アイスコーヒーは寒いからとやめた人が、ビールを注文なんてちょっと変よ」

おさげ「こういうときって自分が容疑から外れるっていう意識が先行して、かえって違和感残す行動しちゃうのよねえ」

まこ「ほんでもなして…」

メンバー「そうです!どうして私が!そんなことする動機なんてっ…」

おさげ「んー、多分あなた…このオジサンのこと前から知ってたんじゃないかしら?」

メンバー「…!」

おさげ「オジサンは何度かこの雀荘に来てたみたいだけど、その時もお酒を飲んだりしてたの?」

まこ「…いや、今日が初めてじゃった」

おさげ「まあ会話から察するにそんな感じだったわよね」

おさげ「なのにメンバーさんは明らかに飲酒癖も好みのお酒も知っている風だったわ」

おさげ「それにあなたはさっきアイスコーヒーのことを冷コーって言ってたけど、これって関西から広まった風習よね」

おさげ「気をつけてはいたみたいだけど、あなたのイントネーションも微妙に関西弁の名残があるわ」

おさげ「もう少し細かく言うと泉州、それも南部の方の喋り方じゃないかしら?

おさげ「そこでひっくり返ってるオジサンと一緒のね」

メンバー「…………」

おさげ「まあ色々言ったけど、確かにこれは全部情況証拠に過ぎない」

おさげ「でもある程度理由が揃っていれば警察も薬剤の販売記録を調べてくれるわ」

おさげ「今の時代怖いわよー、特に医師による処方が必要な薬はどこで何買ったのかなんて、すぐに分かっちゃうわ」

メンバー「………」

おさげ「ねえ、もういいんじゃない?」

メンバー「そうですね、なんやもうどうでもようなりましたわ」

まこ「あんた、本当に…?」

メンバー「ええ、そこの男のことはよう知ってますよ。負けがこんでくると酒を飲み出す、しょうもない癖もね」

まこ「それでもなんでじゃ…」

メンバー「私の実家が雀荘だったって話はしましたよね?そう…だった、なんです」

メンバー「あいつに両親が唆され借金抱え込んで店をたたむまでは」

メンバー「ほんまは街の支部に出入りしてるだけの下っ端なのを協会の役員だと偽って信頼させ、業者を紹介して…」

メンバー「その業者が売上は折半だからと、新規の全自動雀卓やらドリンクマシーンやらを契約させるだけさせて」

メンバー「前金を受け取ったところで消える。せこい手口の常習犯と知ったのは随分あとのことでした」

メンバー「そんな話に安易に乗ったうちの親が悪かったんやとは思います」

メンバー「そんでも、10年振りにアイツの顔を見て、あの笑い声を聞いて、何かせずにはいられんかった…」

メンバー「謝ってすむことや無いけど、まこさんやオーナーには申し訳なく思ってます。ホンマにスイマセンでした…!」

まこ「ふう…疲れたのう。ホンマにどうにも疲れたわ」

まこ「…じゃがあんたには世話になった。おかげで助かったわ。ええと、名前は…」

おさげ「うえn…じゃなかった、竹井久よ。よろしくね」

まこ「わしは染谷まこじゃ、こちらこそよろしゅう。そんでも、いつからアタリつけとったんじゃ」

久「ん?最初からよ。気になってたのよねー、彼女が卓についた途端に殺気がくるんだもの」

久「それもとびっきりの凄いやつが」

キセル「ほう、奇遇だな。実は私もそう思ってたんだ。生半可な鉄火場よりもずっとキナ臭い香りがしたからな」

久「人数合わせに入ったにしてはおかしいなと思ってたの」

久「……まるで親の敵を前にしたような…もっとも、正確な理由はその時は分からなかったけどね」

まこ「一体なんなんじゃこの二人…」

メンバー「フフ、フフフフ。どうも今日行動に移したんは失敗やったみたいですね」

メンバー「よりによって、こんな人らがおる中でとは」

メンバー「それとも、こんなしょうもないことすんないう神様からのお説教やろか」

オッサン「まあ、なんでもええわい!こ、これで解決や!ほら姉ちゃん、はよ警察呼びやんか!」

まこ「…このオッサンの為に動いちゃるゆうんも、何かシャクじゃな。あんたも大分苦しんだじゃろうに」

メンバー「ええんです、こんなやり方は間違がってたんですから」

まこ「それでもどうにもやりきれんのう。せめてコイツにも罪を償わせてやりたいが…」

オッサン「10年も前の話を今更どうやって証明する気ィや!

オッサン「警察に言っても門前払いされるのがオチやで!ましてワシに一服盛った女の話なんぞ聞くわけがないわ!」

久「あら?じゃあ証明できるかどうか試してみる?」ニヤッ

キセル「活きのいいガキだなぁ」

オッサン「なんじゃキセルの姉ちゃん。今まで黙っとったと思ったら、いっちょこまえに入ってくなや」

オッサン「無駄なもんは無駄なんや!」

キセル「そうとも限らんさ。それに10年前はともかく、1ヶ月前ならどうかな?」バサッ

オッサン「期間なんぞどれも……そ、それはワシのバッグ…!?」

キセル「あんたがスッ倒れて喚いてる間に、ちょっと中を見させてもらってたんだよ」

キセル「この関連業者書類の束、随分とまあ好き放題やっていたみたいだな?」パラパラパラ

オッサン「な、なんの権限があって言うてんねん!ワシは協会のっ…!」

キセル「名乗ってなかったな。藤田靖子。4月から日本麻雀協会佐久フェレッターズ所属のプロ雀士だ」

オッサン「な、なんやて!?」

靖子「同じ職場で働く者同士よろしくな。もっとも、ごく短い付き合いになりそうだが…」

まこ「そうか!あんたどこかで見たと思ったら、北陸実業団リーグでオーラス逆転試合の新記録を作ったまくりの女王!」

靖子「これは光栄だ。長野のこんなお嬢ちゃんにまで知られているとは。もっともこの間抜けは気づいていなかったみたいだがな」

靖子「シーズン開幕までのしばらくのあいだ暇だろうと臨時の監査役を押し付けられてな。ちょっと探りを入れていたんだよ」

靖子「まさか一気にしっぽを掴めるとは思っていなかったが、おかげでこっちの仕事は随分早く片付きそうだ」

靖子「それに君にも協力してもらいたい」

メンバー「え…?」

キセル「しかるべき処分を受けたら話を聞かせてくれ。悪いようにはしない、私が保証する」

メンバー「は…はいっ!ありがとうございます!」

靖子「おい、貴様」クルッ

靖子「除名処分だけで済むと思うなよ。メガネのお嬢ちゃんの言うとおり、お前が重ねてきた罪を必ず償ってもらおう」

オッサン「うう~っ…」ガクッ

靖子「よう、待たせたな。さっきのオヤジは同僚に引き渡してきた」

靖子「薬は大方抜けたようだが、すっかり意気消沈している。もっとも自業自得だがな」

靖子「メンバーの彼女もしばらくは事情聴取されるだろうが、書類送検での不起訴処分で済むだろうとのことだ」

久「お疲れ様。さすがの手際ね」

靖子「それはこっちのセリフだよ。さっきの推理やムダな知識…。お前一体何者だ?」

久「竹井久16歳、花の女子高生探偵よ。今のところは自称だけどね」

久「この辺りの地理にも慣れてきたことだし、そろそろ事務所でも開こうかと思ってたところよ」

まこ「いやいや、未成年がそんな簡単に事務所なんて開けんじゃろう…。大体学校が認めんわ」

久「あら?そんなの名義借りたり、やり方しだいでなんとでもなるわよ」

久「組織を作ったり根回ししたりは得意なの。差し当たり新年度の学生議会長になって校則を変えるつもり」

まこ「…あんたの学校の教師と生徒に同情するわ…」

靖子「なるほど、それじゃあ早速知名度を上げる機会になるかは分からないが…一つ事件の解決を頼みたいんだけどね」

まこ「さっき言っていた”こっちの”じゃない仕事の方ですか?」

靖子「ああ。実のところ今抱えてる問題としては、こちらが本命なんだ」

久「ふーん…面白そうじゃないの。それでその事件っていうのは?」

靖子「大沼秋一郎の失踪」

後編~遠まわりしすぎた雛~


靖子「お前たち大沼プロのことは、どの程度知っている?」

久「そりゃひと通りはね」

まこ「現役のまま殿堂入りした往年のスタープレイヤーですね」

まこ「今は富山のチームに所属してるはずじゃが、最近じゃ九州ローカルの仕事でもたまに見るわ」

靖子「ふむ、説明はいらないようだな。そのジイさんが、5日前に突然失踪した」

久「あら、それって結構大事(おおごと)じゃないの?」

靖子「全く、一大事だよ。小鍛治健夜の地方移籍に伴う代表引退騒ぎで大揺れしたばかりのJMAは泡くってる」

靖子「連絡がつかないとスタッフが様子を見に行ったら、ジイさんのマンションには代わりに一通の手紙が置いてあった。そいつがこれだ」パサッ

『これを誰かが読んでいる頃には、富山も少しは暖かくなっているだろうか?
それとも冬の名残を惜しむ雪でもまた積もっているのだろうか?

かくいう私は君たちから遠く離れた太平洋に浮かぶある南の島に、およそ50年ぶりの来訪を果たしていることだろう。
すまないとも思ったが、老人の最後の我儘と笑って欲しい。そう、全ては50年前の夏の出来事がきっかけだったのだ。

あの頃は全てが若かった。高度成長期まっただ中の東京は麻雀も人々の間に爆発的に広がっていっていて
駆け出しのプロだった私は、自分の名をその歴史の流れに刻みたいと躍起になっていた。
だがプロといっても当時は団体もバラバラで、交流はおろか各々縄張りを主張し足の引っ張り合いばかりしている有り様だった。

そんな状況で何の実績も無い若造が改革を訴えたところで傾ける耳などあるはずもない。
「嘴の黄色い雛鳥が何を賢しらに」と嘲笑され、黙殺される日々に私自身疲れ果て
ある日ふと思い立ってなけなしの金を部屋からかき集めてやってきたのが、その島だった。

そこは(仮に頭文字を取ってS島としておく)まったく暑かった。
ゴツゴツした岩石で出来たような小さな島で、けっして南国の楽園と呼べるような雰囲気ではない。

見渡す限りの荒涼たる大地、ギラギラと輝く太陽と高い湿度。
気候で言えば亜熱帯に属するのだろうが、私が渡った夏の時期には熱帯を思わせる暑さだ。
島の中央部には高い山がそびえ立ち、海を隔てて向かいにあるK島にその威容を見せつけている。

そんな誰も知り合いのいない、言葉もろくに分からない地で
私は特に何をするでもなく、ただボンヤリと一週間を過ごした。
元から逃避のような形での旅だ。何かを得たというような感触は無論無かった。

そろそろ路銀も尽きようかというある午後のことだ、私はその日もただブラブラと辺りを歩いていた。

うだるような暑い日だった。一雨欲しいな、そう思った矢先に不穏な爆音が雷のように空を揺さぶった。
見上げるとつい先刻まで晴れ渡っていた空に灰色の塊が急速に立ち込めていく。
これは本格的に降ってきそうだと、私は帰路を急いだ。

しかし歩き出すやいなや、上空から細かい粒がパラパラと落ち始めてくる。
視界の悪い中慌てて走ったからだろうか、間の悪いことに気がつけば私は道に迷っていた。
降り出したものがますます強くなる中、もはや来た道も分からず、闇雲に前に進んでいくうち
気が付くと一つの建物が目の前に現れたのだ。

それは平屋建ての何やら荘厳な雰囲気の屋敷で、勝手に近づいては
後日地元の住民と諍いの種になるやもしれぬとも思ったが、この際躊躇している場合ではない。
一目散に私はその建物のところに駆けていった。

すると近づくが早いか、それを待っていたかのように建物の戸が開いたのだ。
出てきたのは美しい女性だった。驚く私に女性は柔らかい表情で声をかけてきた。

「どうぞお上がりください。お茶でも入れましょう」

私は心底驚いた。意思の疎通ができるどころではない。その人の話す言葉は実に流暢な
(それこそ少し前まで住んでいた我が国の首都東京のアナウンサーのように)標準的日本語だったのだ。
この島に来て以来、ついぞ聞くことのなかった言葉に一瞬懐かしささえ覚えたものだ。

ここ数日の暮らしで島民の言っていることもなんとなく理解できるようになってはきたが
やはり言葉がわかるというのはホッとする。
皮肉なものだ、一人になりたくて言葉も通じない場所へ来ておきながら聞き慣れた言葉で安心するとは。

「その様子では大分降られたようですね」


まるで見えざるものの意思に手を引かれるように屋敷に足を踏み入れるなり
その人は微笑みながらそう私に尋ねてきた。


「ええ、かなり……」

「傘をお持ちになっていれば良かったのですが。あなたは拝見したところ旅行者の方ですね」

「あの島の人たちは例え天気予報が晴れだとしても、念のため傘を持ち歩く人が多いのですよ」

「そうなんですか、俺は行ったことが無いが英国のロンドンにもそんな習慣があるそうですね」

「あらいけない、お茶をさし上げるんでしたね。まずは濡れタオルでよく体をお拭きになってください。その間に食事もご用意します」

「いえ、そこまで厄介になるわけには…」

「でも、外は雨が降っているようですよ?」


窓から外を見てみると確かに大粒の雨が降ってきているのがくっきり見える。
この分ではまだまだ降り続きそうな気配だった。


「わかりました、ではお言葉に甘えさせてもらいます」

「どういたしまして。ふふふ、代わりにあなたのお話を色々聞かせてくださいな」

どれくらいそこにいたのか。長かったような気もするし、ほんの短い間だったような気もする。
その人は時に相槌を打ち、時に考えこみ、時に本人以上の憤りをもって、私の話を聞いていた。


「どうもありがとう。何もかも、とは言わないが大分楽になりました」

「誰にも会いたくないとここまでやってきたが、実は誰かに話を聞いて欲しかったのかもしれない…」

「それはようございました。でも私でなくとも将来あなたの話をきっと多くの人が聞きたがるようになりますよ」

「いや、まさか…」

「ふふふ、今にわかります。どうやら雨も止んだようですね、お気をつけてお帰りください」

「またお話できるのを楽しみにしています。桃の節句にでもいらしてくださいな…」


気が付くと私は山の麓、港へと続く道端に一人立っていた。
振り向いても、あの屋敷も長い髪の女性もどこにも見えなかった…。

東京に帰った私は、それから吹っ切れたかのように破竹の連勝を続けた。
黎明期から隆盛期に移ろうとする日本麻雀界でタイトルの獲得
協会の設立、役員への就任、後進の育成、著書の執筆と、立場は上がり
それにつれて発言権も増していった。

忙しなく過ぎていく日々の中で
しかし私は心の隅にあの日の出来事が引っかかっていた。
あれは一体なんだったのだろうか?

雀士として私が成せる仕事はもはや終わった。
ならば、最後にもう一度あの場所にいって確かめてみたい。
そう思い立ち筆を取った次第だ。

急に消えておいて身勝手な言い草で恐縮だが
この手紙を読んだ諸兄らには、私をこの島へ迎えにきてもらいたい。

見つかれば大人しく戻り、残してきた全ての財は協会に寄付して引退しよう。
郷里の熊本で、養蜂業でもやってみるのもいいかもしれない。
それでは白き煙たなびく南国でお待ちしている。

大沼秋一郎』


靖子「これが手紙の全文だ」

久「ふーん。写真じゃ気難しそうだったけど、なかなかロマンチストなおじいちゃんじゃない」

靖子「笑い事で済めばいいがな。また支持率の低下で謝罪会見かと、幹部連中は青ざめてる」

靖子「一方で慢性的な財政難の経理部は、ふってわいた臨時収入の可能性に早くもソロバンを弾いているのさ」

靖子「なんとか表沙汰にならないうちに首尾よく事態を収集させたい」

靖子「そこで一番下っ端の新入りがつい最近まで同じく富山にいたこともあって、人探し兼お使いを仰せつかったというわけさ」

まこ「そがんことゆうても、これだけじゃどこを指してるかなんてわからんでしょう」

靖子「そうだな。地図でも買って頭文字がSとKで隣り合ってる島を探すといっても、小さいのも含めれば果たしてどれくらいあるか…」

靖子「それに最後は迎えに行く必要がある。十何時間も飛行機を乗り継いで空振りでしたじゃ、目も当てられない」

まこ「ほしたら、まずメールで顔写真を送って現地の人に確認してもらうとか…」

久「そんな悠長なことしてたら、おじいちゃん別のお迎えがきちゃうわよ」

久「それにこんな島、一つしかないじゃない」

まこ「あんた、この島がどこのことか分かった言うんか!?」

久「この手紙はあえて曖昧な書き方をしている部分がいくつもあるわ」

久「そこを解き明かしていけば自ずと答えにたどり着くはずよ」

久「まず一点目、50年前の日本人海外渡航者数って知ってる?」

まこ「なんじゃ急に…。確か去年が1700万人ぐらいとテレビ言っとったような…」

久「約15万人。現代の100分の1以下よ」

久「大多数の人たちにとっては海外旅行なんて考えもしなかった時代なの」

久「いくらなけなしのお金を集めたって、その日暮らしがやっとの駆け出しプロが海外のリゾートで思いつきのバカンスなんてちょっと考えにくいわ」

久「要するに太平洋に浮かぶ南国だなんて言ってるけど、それはイコール国外を指してるわけでは無いってことよ」

久「そして二点目。手紙の中で島を歩いている時に空から降り始めてきたものって、なんだと思う?」

まこ「え、そらあ雨って書いてあったじゃろう?」

久「もう一度手紙を読み返してみて。”上空から細かい粒がパラパラと”とか”降り出したものが”とはあるけど、雨とは一言も書いてないわ」

久「屋敷に着いたときには外を見ると大粒の雨が降ってきていると、はっきり書いてあるのにね」

まこ「なら、雪とか雹とか…?」

久「それも不正解。手紙の季節は夏で”うだるような暑さだった”なのよ?雪なんてありえないわ」

久「それに雨にしろ雪にしろ、屋敷についたときに濡れタオルで体をふくように勧められているのもちょっと変じゃない。普通は乾いたタオルでしょう?」

まこ「そんなら、空から降ってきたのはなんじゃっちゅうんじゃ」

久「灰よ」

まこ「はい?」

久「そう、この島は活火山島なのよ。いつ火山灰を巻き上げるかわからないから、現地の人は天気予報が晴れでも傘を持ち歩いていたんでしょう」

久「国内の亜熱帯に属する火山島で、ゴツゴツした岩石で囲まれた決して南国の楽園とはいえないような場所。つまりここは…」

靖子「…!桜島か」

まこ「ちゅーことは、この向かいにあるK島ちゅうのは…」

久「地理学上の陸塊分類としての島じゃなくて、地域名詞の一部ね」

まこ「鹿児島のことかい!」

久「そういうこと。あなたが最初に言ってたんじゃない、最近は九州のローカルの仕事でもたまに見るって」

久「だから言葉が分からないっていうのも、鹿児島弁が分からないっていう意味だったのよ」

久「あの辺りの離島って年配の人は今でも、かなり方言がキツいらしいからね」

久「まして50年前じゃ、慣れてない人にとっては何を言っているか殆ど分からなくても無理ないわ」

久「一方でこちらが話しかけても標準語が通じないわけじゃないから、生活は普通に出来てたってわけ」

靖子「なるほどね、そういうことか。お見事だな」パチパチパチ

久「ここまで言っておいて今更だけど、全部推測よ。それに正解だったとしても、本人に会えるとは限らないわ」

靖子「十分だ。それじゃあ行くか、明日の朝一で発つから準備をしておけよ」

まこ「行く?行くって、まさか…」

靖子「もちろん、桜島だ」

~翌日・鹿児島県桜島北岳山麓~


まこ「なあ?」

久「なに?」

まこ「手紙に書いてあったこと、ホンマにあったと思うとるか?」

久「何かの勘違いじゃない?思い出は美化するものだしねえ」

まこ「身も蓋もないことをはっきり言うのう…」

久「私は経験主義なの。自分が見たもの・分析したこと以外は信じないわ」

まこ「そもそも、わしらまで来てよかったんかいのう…」

久「ただで鹿児島観光できてお得じゃない。桜島って一度来てみたかったのよねー」

靖子「JMAから旅費は出ているから気にするな。もっとも、もしここでジイさんが見つからなかったら帰りは自腹になるけどな」

まこ「そがぁな金、持っとらんぞ。そうなったらせめて船賃くらいは自力で稼ぐしかないのう。この辺りの雀荘のルール、調べとかんと…」

久「あら、どうやら帰りも飛行機に乗れそうよ」

靖子「……そうだな。大沼プロ、お迎えにあがりました」

秋一郎「……ああ、ようこそ。白い煙のたなびく南国へ」

そこに立っていたのは紛れも無く大沼秋一郎じゃった。
テレビや雑誌で何度と無く見た有名人が目の前にいて話しかけてくるというのは妙な気分じゃな。
70すぎでも背筋はピンとしとるが、どこか寂しそうに見えるのは先入観の為せるわざじゃろうか。


秋一郎「ちょっとした願掛けのつもりだった…」

秋一郎「手紙の内容でこの島のことが伝わったなら、それを解いた連中が来るあいだにまたあの場所へ行けるのでは無いかとな」

秋一郎「まあそんな都合のいいことが、そうそう起こるわけもない。手数をかけたな、戻り次第財産処分の手続きをしよう」

靖子「そんなものはいらないよ、協会の意向なんて知ったこっちゃない。私は引退するなと言いに、ここまで来たんだからな」

秋一郎「…それはどういうことかな?」

靖子「私はあんたのファンなんだ。同じプロになって混合戦でようやく戦えるようになったっていうのに、勝手にいなくなってもらっちゃ困る」

靖子「別にリーグはどこだっていい。いつでも試合を組めるように現役でいてくれ」

秋一郎「…やれやれ君のような活きのいい若者が入ってくるあいだは楽をさせてもらえそうにないな」

靖子「分かってるんだろう?あんたはとっくに引き返せない道に入ってるんだよ。諦めて後進の踏み台になり続けろ」ニヤリ

秋一郎「そうだな、呆れられついでだ。現役引退は撤回させて…ん?……いや、まさか……」

靖子「……なんだこれは…?」

久「………!」

まこ「ななななな……!」

それは信じられん光景じゃった。

さっきまで確かにわしらは固まった溶岩のゴツゴツした山の麓にいたはずなのに、今はまるで別の世界じゃ。
辺り一面に梅の花が咲き乱れ、目の前には格式の高そうな平屋建ての屋敷…。
隣を見れば、終始口の減らなかった竹井久も呆然としとる。

そしてそこから戸を開けて巫女装束の女が二人現れた。
一人はわしらと同年齢の長い黒髪の女、もう一人は70前くらいじゃろうか?
物腰の柔らかい品の良さそうな老婦人じゃ、まさかこの人が…。

「どうぞいらっしゃいませ。お茶はいかがですか?桃の節句は過ぎてしまいましたけど、まだ菱餅もありますよ」

「遅れてしまって申し訳ない。50年と3日か、少しばかり遠回りしすぎた気もするが…」

「いいえ、そんなことはありませんよ」

「あちらのお嬢さんは?」

「孫の霞と申します。久方ぶりに戻ってきたところでしたので」

「そうですか…これまで、良い50年でしたか?」

「ええ。あなたもそうでしたらいいのですが」

「私の方は全てがうまく、とは言えませんが…なかなか面白い半世紀でしたよ」

「それは、ようございました」

「また…いや…」

「またお会いする日を楽しみにしております。それまでお達者で」

「…ええ、そうですね…その時は改めてお茶を飲ませてもらいますよ」

「先ほどの方はどなたですか、祖母上様?」

「神境は日本の様々な山から通じています。ふとしたはずみで下界から人が迷い込むことが極稀にあるのです」

「ひょっとしたら社に一人座す巫女の思念が知らず知らずのうちに話し相手を呼び寄せているとも言われていますが…」

「それでは、祖母上様も…?」

「ふふふ。さて、どうでしょうね」

まこ「い、今!一瞬二人が若くなったような…」

藤田「……どうやら、二日酔いの幻ってわけじゃ無さそうだな…」

まこ「わしは今でも夢でも見たような気がするわ…。あんたはどうじゃ?」

久「私は経験主義者っていったでしょ。この目で見たものは信じられるわ」

久「でも…半世紀ぶりの逢瀬だもの、どっちでもいいじゃない。真実は各々の中に…ってね」

夕刻~鹿児島空港~


靖子「色々と世話を掛けたな。私は東京の本部に報告に行かなけりゃならんが、お前たちはどうする?」

久「もち!帰って拠点になる事務所を開くわ!幸先良くアシスタントも入ったことだしね!」

まこ「ちょっと待てい!そいつはわしのことを言うとるんか!?」

久「名前は決まってるわ!その名も、清澄探偵事務所よ!!」ババン!

久「さあ、行くわよまこ!!目指せ顧客満足率ナンバーワン!!」

まこ「おーい、わしの話聞いとるー!?」

久「所長と呼びなさーい!」

久「…で、大沼プロはその後宮崎で延岡のシニアチームと契約して試合に出つつ九州を中心に解説の仕事をしてるってわけ」

久「ヤスコがたまに打ちに行ってるらしいけど、踏み台どころか毎回返り討ちに合ってるみたいね」クスクス

京太郎「へえー、この事務所も設立時には色々あったんすねー」

優希「人に歴史ありだじぇ!」

和「なかなかいいお話でしたね。さあ、前座も終わったところでいよいよ、私と咲さんの運命の出会い編ですよ!全10章で済むといいのですが!」

久「しばらくして業務も軌道に乗ってきたんで、フロ○エーでバイトの求人かけたら和と優希と須賀君が応募してきたんで採用したのよ」

久「そのちょっとあとに事務所の前で迷子になってた咲を、ちょうど人出が足りなくて手伝ってもらってるうちに、そのままなんとなく正式メンバーになっちゃったのよね」

優希「二行で終わったじぇ…」

和「そんなオカルトありえません!」

京太郎「まあ思い出してみても、俺たち別に特に劇的な入り方したわけじゃないしな」

咲「うん、なんでも平凡が一番だよ」

まこ「咲が言うと、説得力があるんか無いんか分からんのう…」


ワーッワーッ ワイワイワイ


久「…あら、梅の香り。さてさて、今年の節句は笑壺の会となってるかしら?」


カン!

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