時雨「三人目の提督」 (34)
【執務日誌No.1 天候:晴れ 時雨記す】
新しい提督が着任。
秘書艦には僕を選んでくれた。
読書とお酒を嗜むのが趣味とは提督自身の談。
何だか気が合いそうでほっとしたよ。
提督の文才に目をつけた上層部の命で、ここに異動になったようだ。
この鎮守府では3人目の提督だね。
今回は長続きしてくれるといいけど。
SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1441796902
【執務日誌No.2 天候:晴れ 時雨記す】
提督に鎮守府内を案内して周った。
「孤島の鎮守府とは珍しい」
どうやら落ち着いた雰囲気が気にいってくれたみたいだね。
提督の主な業務は戦史の執筆だという。
ここは出撃も少ないから、毎日が静かさ。
そういえば、前の提督が書いていた戦史はどうなったのかな。
【執務日誌No.3 天候:晴れ 時雨記す】
夜、提督の部屋でお酒を御馳走になった。
りんごの芳淳な香りが特徴的だった。
カルヴァドスというらしい。
わざわざグラスをお湯で温めてくれて嬉しかったよ。
肌寒いこれからの時期にはいいかもしれないね。
不意に、夕立がブランデー派だったことを思い出す。
元気にしてるかな。
【執務日誌No.33 天候:曇り 時雨記す】
提督の部屋から言い争うような声を聞く。
軍の上層部と電話でもしてるのかな。
聞き耳を立てたわけではないけど、戦友とか真実とか聞こえた。
どうもここに来る提督達は軍との折り合いが悪いみたいだね。
【執務日誌No.34 天候:曇り 時雨記す】
今日は本土から新しい仲間が来た。
航空母艦の加賀さんというらしい。
礼儀正しいけど、どこか冷たさを感じる艦娘だ。
提督の警護のために軍に派遣されたみたいだね。
護衛なら秘書艦の僕がしてもいいと思うけど。
しばらくは提督について回るようだ。
【執務日誌No.35 天候:曇り 時雨記す】
提督に相談を受けた。
昨夜、部屋に来たかと質問される。
首を横に振ると、どこか物憂げな表情を浮かべていた。
聞けば、廊下で軋むような音が何度もしたそうだ。
この鎮守府ができてだいぶ年月が立っている。
妖精さんに、改装してもらうのもいいかもしれないね。
【執務日誌No.40 天候:曇り 時雨記す】
朝から提督の姿が見えなかった。
僕の心配をよそに、昼には食堂で親子丼をかきこんでいた。
気分転換に島を散歩していたそうだ。
嵐が近付いているのであまり出歩かないよう注意した。
加賀さんにも、目の届くところにいるよう小言を言われていた。
【執務日誌No.44 天候:雨 時雨記す】
窓に勢いよく雨粒が叩きつけられている。
この島も今夜には暴風圏に入るだろう。
なのに提督は「合羽と懐中電灯はないか」と聞いてくる。
鎮守府の外周点検に使うと言っていたけど、無いと伝えた。
最近の提督はどこか様子がおかしい。
特に、加賀さんを避けているような節が見受けられる。
この島は静かだから、気が滅入っているのかな。
またお酒に誘って欲しいな。
【執務日誌No.45 天候:雨 時雨記す】
外は真っ白な水煙で覆われて何も見えない。
豪雨のせいで、一切の音がかき消されている。
それなのに提督の姿が見当たらない。
なんだか嫌な予感がする。
加賀さんが探しに行こうとしていたので引きとめた。
僕は提督の部屋で手掛かりを探すことにした。
金庫が開放されてるから、何かを持ちだしたんだね。
机上には・・・戦史かな?
書類が散らばっている。
クローゼットから外套が無くなっていた。
提督が何を考えているのか僕には分からないよ。
23時までに再開します
【執務日誌No.46 天候:雨 時雨記す】
夕方頃に訃報があった。
提督の遺体が崖の下で発見されたようだ。
遺体は傷だらけで所持品は特に発見できなかった。
軍の見解では港の様子を点検中の事故だという。
高波にさらわれ、何度も崖に打ちつけられた際の傷だそうだ。
この島は常に離岸流が発生しているんだけど。
潮流に逆らってまで崖に打ちつけられることがあるのかな。
僕が提督を止めていればこんなことには・・・
加賀さんは本土へ帰り、僕も異動を言い渡された。
ああ・・・いやな雨だね。
【執務日誌No.1 天候:晴れ 提督記す】
新しい鎮守府に着任した。
秘書艦には時雨を選んだ。
落ち着きがあり、気の利きそうな印象を受けた。
自己紹介で読書とお酒が趣味の旨を伝えた。
時雨とはうまくやっていけそうだ。
上層部は、俺にこの孤島で戦史を編纂しろという。
戦績より文才を見込まれたというわけで、少し情けない。
この鎮守府では俺が3人目にあたるそうだ。
前の2人は持病の悪化でお亡くなりになったとか。
【執務日誌No.2 天候:晴れ 提督記す】
時雨に鎮守府内を案内して貰った。
孤島の鎮守府とはまるでミステリの舞台じゃないか。
冗談はさておき、都会より静かでのんびりできそうだ。
ここは出撃も少なく、戦史の編纂にはもってこいの環境だ。
あとで、前任者が書いていた戦史でも探してみるか。
【執務日誌No.3 天候:晴れ 時雨記す】
夜、時雨を招いて酒をふるまった。
フルーティーな香りなら酒に疎くとも飲めるかもしれない。
カルヴァドスを選ぶ。
グラスを湯で温め、香りを際立たせるようにした。
時雨が気にいってくれたようでなによりだ。
この部屋にはいっぱい酒瓶が飾ってある。
前任者もいい趣味をしているじゃないか。
>>19は提督記す でした
【執務日誌No.33 天候:曇り 提督記す】
まったく、上層部の奴らときたら頭にくる。
渡された資料と前任者の戦史にはいくつか食い違いがあった。
惨敗したはずの海戦で勝利を挙げていたり。
不正献金事件の件を削除するよう指示があったり。
真実を書かずに何が戦史なものか。
これでは轟沈した、戦友の艦娘も浮かばれまい。
幸いにも、前任者は俺と同じく正しい歴史を残したかったようだ。
【執務日誌No.34 天候:曇り 提督記す】
今日は本土から新しい艦娘が来た。
航空母艦の加賀だ。
礼儀正しいが、どこか見下すような態度を感じる。
警護のためというが、おおかた俺の監視にでも来たのだろう。
上層部に喧嘩を売ったのはまずかったか。
しばらくは俺について回るようだ。
【執務日誌No.35 天候:曇り 提督記す】
昨夜、戦史の編纂中に部屋の前で物音を聞いた。
いや、あれは確かに足音だった。
入ってくるよう声をかけるも、返事はなかった。
時雨曰く、鎮守府が古いのでそのせいではないかとのことだ。
ただの考えすぎか。
【執務日誌No.40 天候:曇り 提督記す】
加賀の目を盗んで、島の探索に出る。
港のほうへ行くと、花束を持った夕立に声をかけられた。
聞けば、夕立は以前この鎮守府で秘書艦を務めていたそうだ。
前任者が亡くなって異動したとか。
奇遇にも今日がその命日というわけだ。
更に、港で浮かんでいる前任者の遺体を見つけたのも夕立だった。
軍からは執務中の病死だと報告を受けている。
これは一体どういうことなのか。
昼は食堂で時雨と加賀に何か言われたが、頭に入らなかった。
【執務日誌No.44 天候:雨 提督記す】
ひどい雨だ。
この島も今夜には暴風圏に入る。
だが俺は鎮守府を出ることにした。
昨夜、加賀から戦史を置いて本土に帰るよう指示を受けた。
軍は俺の書いた「真実」があまり気に入らないと見える。
俺はこの戦史を世間に公表することに決めた。
本土に戻って青葉に情報をリークしてもらう。
それが前任者への手向けであり、世の中の為だ。
時雨に合羽と懐中電灯を貰おうとしたが、断られた。
さすがに不審がられてしまったか。
仕方なく、外套を羽織り持てるだけの書類をポケットにねじこむ。
念の為に金庫の拳銃をベルトに差していく。
加賀の姿は見えない。
港の船に乗るなら今しかない。
思えば、時雨には心配をかけてしまった。
ほとぼりが冷めたら、バーに誘って一杯やろう。
艦
読んでくれた皆様ありがとうございました。
このSSまとめへのコメント
このSSまとめにはまだコメントがありません