師匠「酔拳はもう古い!」(21)
道場――
弟子「酔拳が、古い……!?」
弟子「お師匠様、どういうことでしょう……!?」
師匠「我が流派に伝わる究極拳、酒を飲み、酔えば酔うほど強くなる酔拳……」
師匠「たしかに強力ではあるが、もはや時代遅れだということだ」
師匠「考えてもみろ」
師匠「強敵と戦うたびに酒を飲んでいては、アルコール中毒や肝硬変まっしぐらだ」
師匠「いくら戦いに勝っても、体を壊してしまってはなんにもならん!」
弟子「た、たしかに……!」
師匠「というわけで、ワシは新時代の酔拳を開発した!」
弟子「おおっ!」
弟子「新時代の酔拳とは、いったいどのような拳法なのです?」
師匠「知りたいか……」
弟子「是非!」
師匠「実はな、ワシはこれから果たし合いの約束をしておるのだ」
師匠「口で言うより、実際に見せる方が早かろう。ついてこい!」
弟子「はいっ!」
空き地――
師匠「待たせたな……」
武術家「貴様の酔拳と、私の華魔背拳、どちらが上か今日こそ決着をつけようぞ!」
弟子(新時代の酔拳……いったいどんな技なんだ!?)
師匠「さ、どうぞどうぞ」スッ
武術家「?」
師匠「まずは一杯」
武術家「あ、ど、どうも」スッ
武術家「……」グビッ
武術家「おおっ、これはうまい!」
師匠「そうでしょう、そうでしょう。なにしろ米の名産地、新潟の美酒ですからな」
師匠「ささ、もう一杯」トクトク…
武術家「おお、ありがとう」グビッ
武術家「ヤ~レン、ソ~ラン、ハイハイ!」
師匠「よっ、日本一!」
師匠「さささ、もう一杯どうぞ!」スッ
武術家「お~しっ! はりきって飲んじゃうぞ~!」
武術家「ウイ~……」
武術家「飲みすぎた……いい気持ちだ……」ドサッ
武術家「ぐう……ぐう……」
師匠「よし、ようやく酔い潰れたか」
師匠「弟子よ、ワシが頭の方を持つから、お前は足を持て」
弟子「はいっ!」
武術家の自宅――
武術家「……ん」
武術家「う、ん……。んん……?」
武術家「あれ……ここは私の家だ……」
武術家「つっ……」ズキッ…
武術家「くぅ~っ、昨日は飲みすぎたな……二日酔いだ……」ズキズキ…
武術家「頭が痛い……ひとまずシャワーでも浴びるか……」ズキズキ…
師匠「スキありィィィ!!!」
武術家「え!?」
ドゴォッ!
武術家「ぐおぉ……」ドサッ…
弟子「おおっ! あの武術家さんをたった一撃で!」
師匠「見たか……これぞ“二日酔拳”!」
師匠「相手に酒を勧めることで、自らは体を壊すことなく、敵を倒せる……」
師匠「まさに、新時代の酔拳といえよう!」
弟子「はいっ! しかと見届けました! わたくし、感動いたしました!」
弟子「あ、あの……お師匠様!」
師匠「なんだ?」
弟子「実はお師匠様の新拳法に刺激され、私も新しい酔拳を思いついたのですが……」
弟子「申し上げてもよろしいでしょうか?」
師匠「ほう、申してみよ」
師匠(どうせ三日酔拳なんて言い出すんだろうが……)
弟子「たとえば、泥酔した相手にウォッカなどのアルコール度数の高い酒をぶっかけ」
弟子「ライターで火をつけて焼き尽くす、名づけて火炎酔拳!」
師匠「え……」
弟子「他にも、お酒を勧める時にこっそり工業用アルコールを混ぜておくんです」
弟子「たとえ死に至らなくとも、失明させることはできますから」
弟子「楽に敵を倒せるようになります! これぞメタノール酔拳!」
師匠「え……え……!?」
弟子「こんなのもあります」
弟子「酒を飲ませ、車を運転するように巧みに仕向けるんです」
弟子「これで事故でも起こしてくれれば、敵を社会的に抹殺することができます!」
弟子「名づけて、酒気帯び酔拳!」
師匠「あ、あの、ちょっと……」
弟子「なんなら、アルコールで家ごと放火――」
師匠「ストォップ! ストォォォォォォォォップ!!!」
弟子「え」
師匠「やっぱり気が変わった! 新しい酔拳の開発はやめよう! ――中止!」
師匠「やはり……普通の酔拳が一番だ、うん!」
弟子「しかし、酔拳は健康によくないと……」
師匠「だ、大丈夫! 酒は百薬の長ともいうし……適量であれば問題ない!」
師匠「さぁ、新時代の酔拳などという夢物語は忘れて、道場で普通の酔拳の特訓だ!」
弟子「分かりました、お師匠様!」ビシッ
~おわり~
なお、実在の酔拳はお酒を飲みません
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