男「将来の夢ってどんどん変わっていっちゃうよな」(24)

司会「子供の頃の将来の夢は、なんだったんでしょうか?」

俳優「ぼくはねえ、昔はプロ野球選手になりたかったんだよねえ」

司会「ほう、プロ野球!」

俳優「だけど、やっぱりプロ野球ってのは厳しい世界だし、軌道修正して」

俳優「中学の頃は、弁護士になりたい、なんて思ってたなぁ」

お笑い芸人「軌道修正しすぎとちゃいますか!?」

ハハハ……

俳優「でも、弁護士になるには勉強が大変だし……やっぱり、やめることにして」

俳優「商売をやってみようかなと思ったけど、とてもできそうにないし……」

俳優「仕方なく、俳優でもやってみるか、とオーディションを受けたら」

俳優「合格しちゃったんだよねえ」

司会「合格しちゃったんですか!」

お笑い芸人「仕方なくで俳優になっちゃった人って、なかなかおらんと思いますよ!」

ハッハッハッハッハ……!

……

……

……

友人「ハッハッハ、すげえエピソードだな」

男「でもたしかに、将来の夢ってどんどん変わっていっちゃうよな」

男「幼い頃の夢を叶えられた人間なんてのは、本当にごく一部の人間だけなんだろうな」

友人「だろうなぁ」

友人「オレなんてガキの頃は世界の王さまになるー、なんていってたけどさ……」

男「うん、いってたな」

友人「今じゃしがないサラリーマンだもんよ」

友人「王さまになるどころか、奥さまのご機嫌をうかがう毎日だぜ」

男「俺だってそうさ」

友人「へぇ、そうなのか? ウソだろ?」

男「いや、ホントなんだ」

男「俺……幼稚園ぐらいの頃は、ホームレスに憧れてたんだ」

男「適当に町の中をぶらついて、ゴミなんかあさったりして」

男「好きな時に起きて、好きな時に寝る……」

男「ああいう自由で気ままな生活に憧れてたんだよな」

男「だけど……」

男「ホームレスって、やっぱり冬は厳しそうじゃん?」

男「それに自由気ままといえば聞こえはいいけど」

男「逆にいや、自分を守ってくれるものがなにもないともいえるしさ」

男「それで……お気に入りの漫画にかっこいいヤクザのキャラがいたのもあって」

男「やっぱりヤクザを目指そう、と思い始めたのは小学校の頃だっけ」

男「この頃からだな、より楽な方に夢を修正していくクセがついたのは」

男「だけど、ヤクザって上下関係がすげえ厳しそうだし」

男「それに入れ墨しなきゃいけないだろ? あれがすげえ痛そうでなぁ」

男「肌を刃物でガリガリするなんざ、とても耐えられそうにないし……」

男「中学の頃には、将来の夢はサラリーマンになってたよ」

男「情けないほどの軌道修正っぷりだろ?」

男「しかも、軌道修正はまだ続くんだ」

男「当時は、ストレスに苦しむサラリーマンの自殺がちょっとした社会問題になってたし」

男「だったら社長の方がいいんじゃないか、って高校の時思い始めたんだ」

男「トップならストレスも大して溜まらないだろ、っていう単純な考えだな」

男「んで、起業の仕方とか、経営学とか色々勉強したよ」

男「だけど、社長になったらなったで、色々と大変そうだし」

男「それに……結局のところ法律には逆らえないわけじゃん?」

男「だったら政治家になる方が楽なんじゃないか、と思い始めた」

男「法律に縛られたくないなら、法律を操る側になろうってわけだ」

男「我ながら、清々しいほどの流されっぷりだよ」

男「でも、政治家になるんなら当然、選挙活動とかしなきゃならないし」

男「やっぱりめんどいなーという気持ちになってきた」

男「だけど、上に立つ方が絶対楽だし……」

男「んで、手っ取り早く人の上に立てるのは宗教のトップだと気づいてね」

男「それで、新興宗教を作って、宗教家になろうと決断したんだ」

男「さて、宗教の教祖になるぞ、と動き出したわけだけど」

男「いざやろうとすると、宗教作るのも楽じゃないわけよ」

男「教義をどうするか考えなきゃいけないし、儀式めいたこともしなきゃならないし」

男「色々考えてるうちに、やっぱり宗教もめんどくさいな……と思い始めて」

男「だったらシンプルに、一国の王にでもなるのが楽だな、と」

男「ここでまた、将来の夢を変えたんだ」

男「――で、いよいよ俺も具体的に動き始めた」

男「社長や政治家、宗教家になろうと思った時に」

男「人の扇動の仕方は学んでいたから、兵士を集め、民衆を決起させ……」

男「一気に独立国家を立ち上げ、国際社会の承認も得た!」

男「でもさ、いざ王になると、これがまた大変なんだわ。想像以上だった」

男「なにしろ、色んな国とお付き合いしなきゃならないんだから」

男「だったら、いっそ世界を統一しちまおう、と思って」

男「世界中に喧嘩売って、大戦争を起こした」

男「なかなか大変だったけど、さいわい進んで俺の下についてくれるっていう国も多くて」

男「なんとか数年で世界を統一することができた」

男「――で、今に至るってわけだ」

男「どうだ? 笑っちまうだろ? 俺の将来の夢の変えっぷりは」

友人「ハハ……まあな」

友人「さっきテレビで俳優にツッコミ入れてた芸人じゃないけど……」

友人「楽したいだの、めんどくさいからだのを、突き詰めてったら」

友人「世界を統一しちゃった、なんて奴もなかなかいないだろうな」

男「そうかな」

友人「そうだろ」

友人(つうか、世界を統一したのって人類の歴史上、お前が初めてだろ……)

友人「――で、この豪勢な自宅にオレを呼び出して、いったいなんの用だ?」

友人「世界の王になったお前に、オレなんかが何かできるとは思えないけど……」

男「ん、ああ、用ってのは他でもない」

男「お前に、俺のこの地位を全部やるよ」

友人「……」

友人「ハァ!?」

友人「お前、なにいってんだ!? なに考えてんだ!?」

男「お前、世界の王になるのが、子供の頃の夢だったんだよな?」

男「だからやるよ。俺の地位を」

友人「やるよ……って。そんなスナック菓子あげるような気軽さで……」

友人「それに、オレにそんな大役務まらねぇって……」

男「大丈夫、お前はただふんぞり返ってればいいようにしとくから」

男「もちろん、謀反が起こる確率も0パーセントにしとく。安心して王になってくれ」

友人「はぁ……」

友人「それじゃ、お前は王をやめて……どうするんだよ?」

男「決まってるだろ?」

男「俺も……幼い頃の夢を叶えるんだ!」



………………

…………

……

五年後――



側近「陛下」

友人「ん?」

側近「王になった当初こそ、失礼ながら“お飾りの王”のような状態でしたが」

側近「近頃はようやく、王にふさわしい能力と貫禄を身につけられてこられましたな」

側近「カリスマ性においては、すでに初代王をも凌駕するでしょう」

友人「ありがとう」

側近「ところで、初代王は……今、どこにおられるのでしょうな」

友人「さぁな……」

友人「だが、きっと――」

……

……

……

老人「うへへへ、酒が残ってるビンがゴミ捨て場に落ちてたで!」

男「うひょ~! マジかよ! 俺もツマミを拾ってきたから、乾杯しようぜ!」

老人「おめぇがワシらの仲間になって五年ぐらい経つが、たくましくなったなぁ!」

男「な? 俺だってやるもんだろ?」



……

……

……



友人「きっとどこかで幸せに暮らしてるに決まってるさ……」







おわり

以上で終わりです

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年09月29日 (火) 02:36:31   ID: TSbrPTLj

謎の感動!

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