司会「子供の頃の将来の夢は、なんだったんでしょうか?」
俳優「ぼくはねえ、昔はプロ野球選手になりたかったんだよねえ」
司会「ほう、プロ野球!」
俳優「だけど、やっぱりプロ野球ってのは厳しい世界だし、軌道修正して」
俳優「中学の頃は、弁護士になりたい、なんて思ってたなぁ」
お笑い芸人「軌道修正しすぎとちゃいますか!?」
ハハハ……
俳優「でも、弁護士になるには勉強が大変だし……やっぱり、やめることにして」
俳優「商売をやってみようかなと思ったけど、とてもできそうにないし……」
俳優「仕方なく、俳優でもやってみるか、とオーディションを受けたら」
俳優「合格しちゃったんだよねえ」
司会「合格しちゃったんですか!」
お笑い芸人「仕方なくで俳優になっちゃった人って、なかなかおらんと思いますよ!」
ハッハッハッハッハ……!
……
……
……
友人「ハッハッハ、すげえエピソードだな」
男「でもたしかに、将来の夢ってどんどん変わっていっちゃうよな」
男「幼い頃の夢を叶えられた人間なんてのは、本当にごく一部の人間だけなんだろうな」
友人「だろうなぁ」
友人「オレなんてガキの頃は世界の王さまになるー、なんていってたけどさ……」
男「うん、いってたな」
友人「今じゃしがないサラリーマンだもんよ」
友人「王さまになるどころか、奥さまのご機嫌をうかがう毎日だぜ」
男「俺だってそうさ」
友人「へぇ、そうなのか? ウソだろ?」
男「いや、ホントなんだ」
男「俺……幼稚園ぐらいの頃は、ホームレスに憧れてたんだ」
男「適当に町の中をぶらついて、ゴミなんかあさったりして」
男「好きな時に起きて、好きな時に寝る……」
男「ああいう自由で気ままな生活に憧れてたんだよな」
男「だけど……」
男「ホームレスって、やっぱり冬は厳しそうじゃん?」
男「それに自由気ままといえば聞こえはいいけど」
男「逆にいや、自分を守ってくれるものがなにもないともいえるしさ」
男「それで……お気に入りの漫画にかっこいいヤクザのキャラがいたのもあって」
男「やっぱりヤクザを目指そう、と思い始めたのは小学校の頃だっけ」
男「この頃からだな、より楽な方に夢を修正していくクセがついたのは」
男「だけど、ヤクザって上下関係がすげえ厳しそうだし」
男「それに入れ墨しなきゃいけないだろ? あれがすげえ痛そうでなぁ」
男「肌を刃物でガリガリするなんざ、とても耐えられそうにないし……」
男「中学の頃には、将来の夢はサラリーマンになってたよ」
男「情けないほどの軌道修正っぷりだろ?」
男「しかも、軌道修正はまだ続くんだ」
男「当時は、ストレスに苦しむサラリーマンの自殺がちょっとした社会問題になってたし」
男「だったら社長の方がいいんじゃないか、って高校の時思い始めたんだ」
男「トップならストレスも大して溜まらないだろ、っていう単純な考えだな」
男「んで、起業の仕方とか、経営学とか色々勉強したよ」
男「だけど、社長になったらなったで、色々と大変そうだし」
男「それに……結局のところ法律には逆らえないわけじゃん?」
男「だったら政治家になる方が楽なんじゃないか、と思い始めた」
男「法律に縛られたくないなら、法律を操る側になろうってわけだ」
男「我ながら、清々しいほどの流されっぷりだよ」
男「でも、政治家になるんなら当然、選挙活動とかしなきゃならないし」
男「やっぱりめんどいなーという気持ちになってきた」
男「だけど、上に立つ方が絶対楽だし……」
男「んで、手っ取り早く人の上に立てるのは宗教のトップだと気づいてね」
男「それで、新興宗教を作って、宗教家になろうと決断したんだ」
男「さて、宗教の教祖になるぞ、と動き出したわけだけど」
男「いざやろうとすると、宗教作るのも楽じゃないわけよ」
男「教義をどうするか考えなきゃいけないし、儀式めいたこともしなきゃならないし」
男「色々考えてるうちに、やっぱり宗教もめんどくさいな……と思い始めて」
男「だったらシンプルに、一国の王にでもなるのが楽だな、と」
男「ここでまた、将来の夢を変えたんだ」
男「――で、いよいよ俺も具体的に動き始めた」
男「社長や政治家、宗教家になろうと思った時に」
男「人の扇動の仕方は学んでいたから、兵士を集め、民衆を決起させ……」
男「一気に独立国家を立ち上げ、国際社会の承認も得た!」
男「でもさ、いざ王になると、これがまた大変なんだわ。想像以上だった」
男「なにしろ、色んな国とお付き合いしなきゃならないんだから」
男「だったら、いっそ世界を統一しちまおう、と思って」
男「世界中に喧嘩売って、大戦争を起こした」
男「なかなか大変だったけど、さいわい進んで俺の下についてくれるっていう国も多くて」
男「なんとか数年で世界を統一することができた」
男「――で、今に至るってわけだ」
男「どうだ? 笑っちまうだろ? 俺の将来の夢の変えっぷりは」
友人「ハハ……まあな」
友人「さっきテレビで俳優にツッコミ入れてた芸人じゃないけど……」
友人「楽したいだの、めんどくさいからだのを、突き詰めてったら」
友人「世界を統一しちゃった、なんて奴もなかなかいないだろうな」
男「そうかな」
友人「そうだろ」
友人(つうか、世界を統一したのって人類の歴史上、お前が初めてだろ……)
友人「――で、この豪勢な自宅にオレを呼び出して、いったいなんの用だ?」
友人「世界の王になったお前に、オレなんかが何かできるとは思えないけど……」
男「ん、ああ、用ってのは他でもない」
男「お前に、俺のこの地位を全部やるよ」
友人「……」
友人「ハァ!?」
友人「お前、なにいってんだ!? なに考えてんだ!?」
男「お前、世界の王になるのが、子供の頃の夢だったんだよな?」
男「だからやるよ。俺の地位を」
友人「やるよ……って。そんなスナック菓子あげるような気軽さで……」
友人「それに、オレにそんな大役務まらねぇって……」
男「大丈夫、お前はただふんぞり返ってればいいようにしとくから」
男「もちろん、謀反が起こる確率も0パーセントにしとく。安心して王になってくれ」
友人「はぁ……」
友人「それじゃ、お前は王をやめて……どうするんだよ?」
男「決まってるだろ?」
男「俺も……幼い頃の夢を叶えるんだ!」
………………
…………
……
五年後――
側近「陛下」
友人「ん?」
側近「王になった当初こそ、失礼ながら“お飾りの王”のような状態でしたが」
側近「近頃はようやく、王にふさわしい能力と貫禄を身につけられてこられましたな」
側近「カリスマ性においては、すでに初代王をも凌駕するでしょう」
友人「ありがとう」
側近「ところで、初代王は……今、どこにおられるのでしょうな」
友人「さぁな……」
友人「だが、きっと――」
……
……
……
老人「うへへへ、酒が残ってるビンがゴミ捨て場に落ちてたで!」
男「うひょ~! マジかよ! 俺もツマミを拾ってきたから、乾杯しようぜ!」
老人「おめぇがワシらの仲間になって五年ぐらい経つが、たくましくなったなぁ!」
男「な? 俺だってやるもんだろ?」
……
……
……
友人「きっとどこかで幸せに暮らしてるに決まってるさ……」
おわり
以上で終わりです
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謎の感動!