故郷は地球 (19)
運命の人。
許嫁。
多くの人が持つその言葉へのロマンチックなイメージは僕には無縁のものだ。
就職活動を終え今年大学を卒業する予定の僕にはまさしく運命の人がいた。
名前はジャミ子。いかり肩、ゴツゴツとした岩のような肌、鋭い眼光、まさしくウルトラ怪獣そのものだった。
子供の少ない街に生まれて僕はジャミ子と幼なじみ。両親は共働きだったから小さい頃はずっと一緒にいた。
親同士も仲がよくて、年下のジャミ子とは兄妹のように過ごした。
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僕には友達がいなかった。正確には作ることができなかった。
僕が仲のよくなりかけていた男友達に川に誘われた時、ジャミ子はついてきた。
水が怖いというジャミ子を友達が水に引きずり込んで大泣きさせて以来友達とは疎遠になってしまった。
僕に友達ができそうになると必ず何らかの邪魔が入る。
そのうちいくらかはジャミ子によるものだったがそうでないものもたくさんあった。
ジャミ子をおいて友達と遠出しようとすれば必ず中止になる。
雨が降ったり、友人の家族が倒れたり、事故が起こったりする。
そうやって中止になる。
何度遊ぶ約束をしても中止になる。
そんな調子だから自然と僕も友人と遊ぼうとはしなくなった。
雨が振るくらいならともかく誰かが倒れたり、亡くなったりするのが耐えられなかった。
不思議とジャミ子と遊ぶときはそうはならなかったから自然とジャミ子と過ごす時間が増えた。
いつでもどこでもジャミ子はついてきた。
きっと一生このままだろうし将来は結婚してしまうのだろう。
僕は運命というものを憎む。
しかしどこのその怒りをぶつければいいのだろう。
僕はただ無気力に空を見上げた。
第一部終わり
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22世紀、科学万能の時代においても僕、野比セワシはまったくその恩恵に預かることができなかった。
家が貧乏で家計は火の車。お年玉は50円しかなかった。
身に付けるものはすべてお下がりのボロだった。
それも全てご先祖の残した借金のせいだった。
就職活動に失敗したからという冗談みたいな理由で立ち上げた会社が火事で焼け、膨大な借金だけが残った。
1世紀以上前にできたその借金の返済に現在も追われているわけだ。
夜、窓にできた結露をすすって喉を潤している時ある名案を思いついた。
僕の子守ロボット、[たぬき]をご先祖の野比のび太の元へ送り込む。
そして未来である今を変えるのだ。
第二部終わり
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お盆の今日は久しぶり帰省した。
相変わらずの豪邸だった。
セワシおじいちゃんはめったに顔を見せない僕に会えて嬉しそうだった。
親戚中が集まっての宴会が始まる。
酒の席ではまたおじいちゃんの自慢話が始まった。
わしが過去に[たぬき]を送ったおかげで未来が変わって今の豊かな生活があるんだ。
わしのおじいちゃんがおばあちゃんと結婚できたのはわしのおかげだ。
全部わしのおかげだ。
この話を聞くのは何度目だろう。
過去改変が許された昔の話だ。現代では禁止されている。
僕だって禁止さえされてなければそうするだろう。
特別発想がすごいわけでも何でもない。
セワシおじいちゃんは、毎度毎度この話をするのでうんざりする。
そこでふと思うことがあった。
改変前の世界では、ご先祖は違う人と結婚するそうだ。
なぜ過去が変わってもセワシおじいちゃんは存在できるのだろう。
少し考えてある結論に至った。
セワシおじいちゃんは過去を改変した時点でこの世界の特異点となったのだ。
すべての事象は収束してセワシおじいちゃんが存在する世界に収束するのだ。
元のセワシおじいちゃんDNA情報を再現するためにありとあらゆることが起こったのだろう。
この世の運命律まで振り回しておいてわしのおかげだとは全く恥知らずなものだ。
僕は、そんなことも全く知らないで自慢気に語るおじいちゃんを横目にビールを一口飲んだ。
第三部終わり
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とうとうこの日が来てしまった。
式場には、“野比家 剛田家 ご結婚披露宴“と書かれている。
式場のスタッフがジャミ子の着替えが終わったと引きつった顔で伝えてくる。
体格に合うドレスがよくも見つかったものだ。
しかしなぜこんなことになってしまったのだろう。
僕は運命を呪った。
完
終わりです。
ありがとうございました。
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