エフ博士「平行世界へ行く装置」 (24)

星バーーーローーを意識してるけどネタはオリジナルなはず

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バーローになるのかふざけんな
星新一ね

 とある街に一人の男が住んでいた。
 生まれも育ちも平凡な男だったが、近所に住むエフ博士という有名な研究者と特別親しかった。
 ある日、男はエフ博士に呼び出されて博士の研究所にやって来た。

「急に呼び出してすまなかったね。実は私は平行世界を旅する装置の発明に成功したんだ。そこで、君にも実際に体験してもらおうと思ってね」

「平行世界ですか?」

「そうだ。例えば君が大富豪の家に生まれた世界、女性にモテモテの世界、あるいは大国の王様になっている世界でもいい。理論上はどんな世界だって体験できる」

「僕も詳しくはないのですが、平行世界というのはそんなに色々なものがあるのですか?」

「正確には新たに平行世界を作り出し、そこに行くという話なんだ。だからこそ装置の設定次第で先ほどあらゆる世界を実現できるのだ」

「なるほど」

 自分の理想通りの世界を体験できる。
 それは平凡な人生を生きてきた男にとっては非常に魅力的な言葉だったが、あまりに都合のいい話に少し不安にもなった。

「その装置を使った後はちゃんと帰ってこれるのでしょうか」

「勿論だとも。実際私も何度か別の世界を体験してみたが、こうして無事に帰ってきている。それに、念のため装置の設定で一ヶ月後には強制的に帰還するようにしておこう」

 その後、エフ博士は自分がどんな世界に行ってどんな体験をしたのかを面白おかしく男に話し、それを羨ましがった男もとうとうその装置を使ってみる覚悟を決めた。



「向こうの世界に行って一ヶ月後には勝手にここに戻ってくる。それまで好きなように過ごしたまえ」

「はい」

「ではな」

 博士が装置のボタンを押すと男の視界がぐるぐる回り、次に男が気付いた時には見慣れた自分の部屋のベッドに横たわっていた。

(あれはやはり夢だったのだろうか)

 首を傾げながら体を起こすと、自分の隣に誰か女性が眠っているのに気が付いた。

「あ! だ、誰だ?」

 落ち着いて見てみると、それは見覚えのある女性だった。
 そうだ、確か自分が勤めている会社の受付嬢で、色々な男から狙われている自分にとっては高嶺の花の女。
 そんな彼女が、自分の部屋のベッドで無防備に寝ている。

「んん……どうしたの?」

 男の叫び声で目が覚めたのか、女は目元を擦りながらゆっくり身を起こした。
 その際掛けていた毛布がずり落ち、女の裸の肩が露わになる。

「あ、いや、その……」

「ふふ、怖い夢でも見たの?」

 男は何を言っていいか分からず挙動不審になるが、女はそんな男に柔らかく微笑んでそっと口づけた。

(夢じゃない! 夢じゃなかったんだ!)

 その甘い感覚に痺れながら、男はエフ博士の装置が本物だったことを確信した。

 それからの日々は、まさに夢のようなものだった。
 その世界での男は若くして事業に成功した青年実業家で、既に一生遊んで暮らせるほどの財産を持っていた。
 男は一ヶ月という限られた時間の中でその金を好き放題使い、飽きることなく遊び尽くした。

「一ヶ月はあっという間だったな……」

 それまでの人生でなかったような幸せな時間はあっという間に過ぎ、やがては男が元の世界に帰る時間になってしまった。

「一ヶ月? 何の話?」

「いや、最高の一ヶ月だったと思ってさ」

 元の世界では会社の受付嬢だった女はこの世界では恋人関係であり、この一ヶ月の間に何度も愛し合った。
 今も男は最後の思い出とばかりに女と何度も愛し合ったところだった。

「それじゃあな」

 お別れに口づけでもしようかと顔を近づけたところで惜しくもタイムリミットがやって来た。
 ぐるぐると視界が周り、気が付けば男はここに来る前に装置を使ったエフ博士の研究所にいた。

「どうやら無事帰還したようだな」

「ああ、エフ博士……」

 夢のような世界の余韻を引きずっていた男はどこか夢見心地で博士に答えた。

「エフ博士、これは素晴らしい装置です。この上なく幸せな体験でした。出来れば今すぐにでもまたあの世界に飛び込みたいほどです」

「ふむ、大成功と言ったところか。なに、遠からずまた君が行ってきた世界に行かせてあげよう。若しくは、また別の世界でもいいぞ。取りあえず今は装置の改良のために、詳しく君の体験を教えてくれたまえ」

「ええ、勿論です」

 またあの世界に行ける。
 いや、あの世界もいいけど別の世界も捨てがたい。
 世界中の美女のハーレムの主になるのでもいいし、宇宙の支配者として星々を飛び回るのでもいい。
 どんな世界にも行ける、本当に素晴らしい装置だと感心しながら、男はエフ博士に自分のした体験を語り聞かせた。

「どうやら仮説の通り、帰還には失敗したようだな」

 エフ博士は装置の前でひとりごちた。
 一ヶ月はとうに過ぎたが、未だに旅立った男は帰ってこない。

 しかし、それはある意味では予想通りでもあった。
 エフ博士の発明した装置は設定した通りの平行世界を作り出し、そこに移動する装置だ。
 その平行世界から元の世界に戻る機能もついているが、エフ博士はその時に装置が「元の世界にそっくりの平行世界」を作り出し、そこに移動させるようになっているのではないかという懸念を持って今回の実験を行ったのだった。

 結果はその仮説を裏付けるものだった。
 男はこの世界には未だに帰ってこない。
 恐らく、別の世界のエフ博士の研究所に帰還して今頃自分のした体験について語っているのだろう。


 エフ博士は思わずため息を吐いた。
 博士もすでに何度かこの装置を使っては『元の世界』へと帰ってきている。


 つまりこの世界は……。 

おわり

意外と好評で嬉しい
またネタ思いついたら書きます

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