カイジ「は・・・?がっこうぐらし・・・・?」 (271)


「沼」との死闘からおよそ半年後――

過酷な地下暮らしから完全に解放されたカイジは

堕落しきった生活を送っていた

そんなある日

世界は阿鼻叫喚の地獄絵図と化した……!


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   ちゅん……    
ちゅん……


カイジ「うーん・・・」

カイジ「はっ・・・どこだ・・・・ここ・・・・」


カイジの目に飛び込んできた

見知らぬ天井……!

見慣れぬ部屋……!

カイジ「この広さ・・・この雰囲気・・・あの掛け時計」

カイジ「何となくだが・・・・・分かる」

カイジ「ここは・・・・学校・・・・・?」

カイジ「何でオレが・・こんなところに・・・・」


すぐさま上体を起こすカイジ

周りの状況に注意を払いつつも、自身の記憶を少しずつ手繰り寄せる

が……駄目……!

カイジ「くそっ・・・・よく思い出せねえ」

カイジ「あっ・・・・そうだ」

カイジ「オレは確か、坂崎のおっちゃんに300万借りて・・・!」

カイジ「あいつらのために・・・・・・!」

カイジ「それで・・・・・あの日・・・・・何かが起きたんだ・・・・」

カイジ「一夜のうちに・・・・オレの人生が・・・・うだつの上がらない地べたを這いつくばるだけの人生が・・・・!」

カイジ「反転・・・・・!大逆転っ・・・・!コペルニクスっ!」

カイジ「そんな・・・・夢を見た・・・・」

カイジ「それから・・・」

カイジ「それからだ・・・・」

カイジ「それから・・・・どうしたんだっけ・・・・・オレ」

カイジ「ああ、もうっ・・・・!」


カイジはおもむろに立ち上がった

窓から差し込む柔らかな陽光

お出かけ日和っ……!

カイジ(とりあえず、じっとしていても始まらねえ。動くか)

カイジ(・・・・そういや、朝だな。いや、もう10時を回ってる)

カイジ(そこの掛け時計の指す時刻が・・・正確ならばの話だが)


カイジが窓際に向かおうとしたその時

闖入……!


太郎丸「わんっ……!わんっ……!」

カイジ「犬・・・!なんだ・・・お前っ・・・・」

太郎丸「わんっ…!わんっ……!わんっ……!」


次の瞬間……!

さらに……闖入っ……!


ゆき「太郎丸ー!もう、逃げちゃだめだよー」

ゆき「あっ」

カイジ「は・・・・・?」

カイジ(何だこいつ・・・!猫・・・耳・・・・・?)

カイジ(四つある・・・耳が・・・・!)

カイジ(どっちだ・・・?本物の耳は・・・・・!)

ゆき「おはよう!えーっと、君はどこのクラスの生徒かな?」

カイジ「って違うだろ・・・・!問題はそこじゃねえ・・・・・!」

カイジ「馬鹿か・・・・オレは」

ゆき「どうしたの?もう、人の話はちゃんと聞かなきゃだよ、君」

カイジ「あ、ああ・・・・悪い」

ゆき「それで君は……ん、めぐねえ?」

カイジ「ん・・・・・・?」

ゆき「あ、そっか……うちのクラスの転校生なんだ」

ゆき「うん、うん、じゃあ私が学校を案内してあげるね」

カイジ「え・・・・・・・?」

ゆき「えー、大丈夫だよ。ちゃんと授業始まるまでには戻るから」

ゆき「じゃ、行ってくるね」

カイジ「は・・・・・・?」

ゆき「さ、行こっか。転校生君」

ゆき「私が案内してあげるね」

カイジ「あ、おい・・・・ちょっと・・・・・待てよ!」


軽快な足取りで部屋を出る少女……!

それを足早に追いかけるカイジ……!

傍から見たら事案……!

圧倒的事案っ……!

ゆき「あっ、そうだ。まだ名前聞いてなかったや。君の名前は?」

カイジ「オレ?・・・・カイジだ。伊藤カイジ」

ゆき「へぇー、カイジ君っていうんだ。じゃあ、かいじんって呼ぶね」

カイジ「なんでそうなる・・・・?」

ゆき「私は巡ヶ丘学院高校3年C組の丈槍(たけや)由紀っていうんだよ。これからよろしくね」

カイジ「お、おう・・・・」

カイジ(とりあえずついてきたが・・・・・)

カイジ(こいつ・・・さっきから・・・・・)

ゆき「まずは下の階から教えてあげよっか」

ゆき「あれ、めぐねえ?職員室に戻ったんじゃなかったの?」

ゆき「え、下はもう案内したって?そっか、じゃあ、まずはクラスまで案内するよ」

ゆき「大丈夫だって。もー、めぐねえ心配症なんだから」

カイジ(何いってんだ・・・・こいつ・・・・)

カイジ(ずっとだ・・・出会った端から・・・・)

カイジ(あらぬ方向を向いて・・・・・)

カイジ(会話してる・・・・誰かと・・・・・・!)

カイジ(だがっ・・・・!)

カイジ(いない・・・・!ここには・・・・オレとこいつ以外・・・全くの無人っ・・・・!)

カイジ(おちょくってんのか・・・・・?)

この時カイジ

ふと廊下の窓際に視線を向ける

そして、ようやく気づく……!

明らかな異変……!


カイジ「何だ・・こりゃ・・・」


破壊された窓ガラス

それも一枚や二枚ではない

ことごとく割り尽くされた……!

見るに堪えぬ無残な有様……!

カイジ「嘘だろ・・・・?」

ゆき「ほら、あそこがうちの教室だよー」

カイジ「おい、お前っ・・・・!」

ゆき「ん、なに?」

カイジ「どうなってんだよ、これ・・・・?」

ゆき「これ?あ、窓が開けっぱなしになってるね。閉めなきゃ」


がたんっ……!


ゆき「これでよしっと」

カイジ「よくねえっ・・・!閉まってないだろ・・・!割れてるんだ・・・・ガラスが・・・・・!」

ゆき「んー?何言ってるの、かいじん」

ゆき「さ、早く教室入ろうよ」

カイジ(違う・・・・)

カイジ(やはり、違う・・・・!)

カイジ(この言動、仕草、無邪気で、裏表を感じさせない表情・・・)

カイジ(演技じゃねえ・・・こいつ、まるっきり本気・・・・・大本気(マジ)だ!)

カイジ(・・・・・狂ってやがるっ・・・・・・!)


困惑するカイジを傍目に

教室のドアを開け放つケモノ耳の少女……!

同時にカイジは

ついに目の当たりにすることになる

凄惨な光景……!

ゆき「みんなー!聞いて聞いて」

ゆき「あっちが転校生のカイジ君だよー」

ゆき「うん、そう。私が案内してあげたんだあ」

ゆき「おーい、かいじん。恥ずかしがってないで、こっちおいでよ。皆に紹介するから」

カイジ「な・・・・・・な・・・・・・・」


ひっくり返り、押し曲げられ破砕された机、椅子、教卓

凹んだロッカー、擦れたような生々しい傷が残る黒板、ボロボロの壁面

廊下と同じく粉々に割られた窓ガラス

散乱する備品の数々

そして大量の血痕……!

血痕……!

血痕っ……!

カイジ「何が・・・・」

ゆき「え?」

カイジ「説明しろ・・・・・」

ゆき「かいじん?」

カイジ「ここで・・・何が起きた・・・・」

ゆき「何がって、なに?」

カイジ「お前・・・・説明しろって言ってるだろ!」

ゆき「ひゃっ」


少女の肩を強く揺さぶるカイジ……!

傍から見たら(ry

ゆき「わっ。ちょっと、痛いよ!かいじん!」

カイジ「さっきからひとりでぺらぺらしゃべりやがって・・・・」

カイジ「この状況を・・・・平然と受け入れてやがって・・・・・」

カイジ「いったいどういうことなんだ・・・・説明しろよっ・・・・ちゃんと・・・・・!」

ゆき「痛いってば!めぐねえ、かいじんがー!」

カイジ「だから」


カイジ「誰だよ・・・・その、『めぐねえ』って・・・・・・!」

ゆき「……え。何……言ってるの?」

ゆき「『学園生活部』の顧問の佐倉慈(めぐみ)先生。さっき一緒にお話したよね?」

カイジ「・・・・どこにだ!いなかったじゃねえか・・・・誰もっ・・・・・」

ゆき「そんな……いじわる言っちゃ駄目だよ。確かにめぐねえってちょっぴり影が薄いけど……」

ゆき「あ、めぐねえの前で影が薄いとか言わないでね!めぐねえ気にしてるから」

カイジ(通じないっ・・・・何を言っても・・・・まるで馬耳東風)

カイジ(・・・・ズレてるんだ、こいつ。何か・・・・・決定的なところが)

ゆき「あ、めぐねえ入ってきた。もう授業始まっちゃうみたい」

ゆき「ほら、落ち着いて。まだ転校してきたばかりで緊張しちゃうのは分かるよ」

ゆき「でも大丈夫!みんな優しいからすぐに仲良くなれるよ」

カイジ「・・・・・・・・」

ゆき「早く席につかなきゃ。かいじんの席はそこなんだって」

カイジ「・・・・・・・・」

ゆき「かいじん?」

カイジ(ダメだ・・・・・)

カイジ(このままじゃ・・・埒が明かねえ・・・・・)

カイジ(これ以上こいつの話を聞いてると・・・・・こっちまで頭がおかしくなりそうだ・・・・・)

カイジ(誰か・・・・いないのか。会話が成り立つ・・・・まともな人間っ・・・・!)

その場にへたり込んで深いため息をつくカイジの背中に

聞こえてくる足音


         こつ……
   こつ……


カイジ「!」

みき「先輩。どうしたんですか、大声上げて――……あっ」

ゆき「あ、みーくん」

カイジ「・・・・お前は?」

みき「ようやく起きたんですね……」

ゆき「もー、みーくん。いつも言ってるでしょ、いきなり授業中に入ってきちゃダメだって」

みき「はい、……そうですね。気を付けます」

カイジ「・・・・・・」

ゆき「あ、紹介するね。こちら、みーくん。私たちのいっこ下の、後輩なんだよ。えっへん」

みき「みーくんって言うのやめてください。私の名前は直樹美紀です」

みき「それと、いっこ上だからって威張らないでください。先輩に威張られると無性に苛立ちます」

ゆき「えへへ、ごみぃ……」

みき「それじゃ私は『転校生』の人と話があるので、失礼しますね」

ゆき「え、でも……授業始まっちゃうよ?」

みき「転校生の人はいろいろ手続きがあるので、職員室に連れて行かないといけないんです」

ゆき「そうなの?」

カイジ(まただ。誰もいない教卓に向かって語り掛けている)

みき「そうですよね、……めぐねえ……先生」

ゆき「……」

カイジ「・・・・・・」

ゆき「……うん、めぐねえがそう言うんなら」


みき「こっちです」

カイジ「あ、ああ・・・・・」


ショートヘアの直樹に従って教室を退出

丈槍から充分な距離を取ったところで、語り始める

カイジ「どうやらお前は、まともに話が通じそうだな」

みき「あ、分かりますか」

カイジ「分かるさ」

カイジ「直樹と言ったな。お前は教室に入った時、一見自然体ながら、床に残る血痕やらをちゃんと避けて通っていた」

カイジ「あの丈槍ってやつはそんな素振り、微塵も見せていない」

カイジ「次に『めぐねえ』に確認を取った時の、お前ら二人の視線の先・・・・微妙なズレ」

カイジ「丈槍の視線を後追いするように、お前も教卓のほうを見遣っていた」

カイジ「そして、あいつの挙動に対するまごついた感じ」

カイジ「お前はただ、あいつに合わせているだけ。虚空には、やはり誰もいなかった」

カイジ「『めぐねえ』という先生は存在していない」

カイジ「丈槍以外の・・・・まともな人間にとっては・・・・。そういうことだろ?」

みき「……大方、間違ってはいません。冷静なんですね」

カイジ「で。何だ・・・・あの茶番・・・・?」

みき「……」

カイジ「・・・・まあ、それは別にいい。オレに直接関係することじゃない。変に詮索する気はない」

カイジ「まずは、この状況を説明してほしい」

カイジ「いったいこの学校で、何があったんだ。どうしてオレは・・・・こんなところにいる?」

みき「何も……覚えていないんですか」

カイジ「いや・・・・その・・・・ここしばらくの記憶が曖昧になってるんだ」

みき「そうですか」

カイジ「はっきり答えてくれ。この惨状は現実なのか、それとも・・・・悪い夢なのか」

みき「学校の外を見れば……判ります。自分の目で確かめてみてください」

窓際に歩み寄るカイジ

そしてとうとう目にすることになる

「やつら」の姿……!


カイジ「な・・・・・」

カイジ「なん・・・・だ・・・・・・・」

カイジ「これ・・・・・・・・・」

みき「これが……現実です」



   ざわ……             ざわ……
ざわ……               ざわ……
ざわ……                   ざわ……


「うっ……!うぐぐぐっ……!おおおっ……!」


    ざわ……         ざわ……
           ざわ……             ざわ……

ざわ……                 ざわ……

焦土と化した街

あふれる腐肉の亡者たち

ヒト、モノ、カネ

人間社会を構成するありとあらゆる存在が……!

秩序が……!

人間関係が……!

あっさりと瓦解……!

まさに地獄のような光景……生き地獄っ……!


カイジ「嘘・・・・・だろ・・・・」


ポロ…… ポロ……


カイジ「こんな・・・・・こんなことが・・・・・・・」

カイジ、号泣……!

女子高生の前で跪き、溢れ出て止まらぬ血の涙……!

だが、それもそのはず……!

むしろ当然の反応……!

常人の理解の範囲を超えた異常事態の発生……!

我を見失って当たり前……!


カイジ「嘘だ・・・・嘘だっ・・・・嘘だっ・・・・・・」

カイジ「こんな・・・悪夢のような現実が・・・・・・あってたまるかよ・・・・!」

カイジ「ふざけんなっ・・・・・・!」

みき「……」

カイジ「なあ・・・・嘘なんだろ・・・・」

カイジ「嘘だと言ってくれ・・・・・おい・・・・・直樹っ・・・・・・!」

みき「嘘じゃ……ないです。現実なんです。現実に……こうなってしまったんですから」

カイジ「ぐぅ・・・・・・・クソッ・・・・こんな・・・・ことがっ・・・・」

みき「……私達は、この学校で暮らしています」


カイジ「は・・・?がっこうぐらし・・・・?」


みき「そうです。『学園生活部』の……部員として」

みき「いつか救助が来ることを信じて――私達は、ここにいます」





『学校黙示録カイジ ぎゃんぶるぐらし!編』




(つづく……?)


一頻りの落涙のあと――

ようやく現実と向き合う覚悟を決めたカイジは

直樹に案内されて校内を見学

部室……!

もとは生徒会室、カイジが寝かされていた場所……!

物理実験室……!

音楽室……!

放送室……!

最近、学校が楽しいっ……!

カイジ「・・・・・・」

みき「……だいたい、こんなところですね」

カイジ「下は・・・?」

みき「はい?」

カイジ「これより下の階だよ。さっき丈槍が案内するとか・・・しないとか言っていた」

みき「ここは3階なんですが……2階より下は……」

そして残る『学園生活部』の部員とも接触……!


くるみ「お、やっと起きたのか」

ゆうり「体のほうは大丈夫なのかしら?」

みき「大丈夫そうですよ。いきなり大泣きするくらい元気な人です」

くるみ「大泣き?」

みき「記憶が曖昧になっているみたいで。初めてあいつらを見たかのような反応でしたね」

ゆうり「それなら……ショックでしょうね。私達だって最初は……」


ひそ……       ひそ……


カイジ(え・・・・なに・・・・・)

カイジ(女しか生き残ってねえの・・・・ここ・・・・・・?)


カイジ、困惑せざるを得ない……!

そもそも福本漫画における女キャラなど稀有な存在……!

ギャンブルの世界に女など不要……!

ましてやカイジ……!

最近会話した女の子は美心くらいっ……!

くるみ「私は恵飛須沢(えびすざわ)胡桃。よろしくな。で、こっちはりーさん」

ゆうり「若狭悠里といいます。ゆきちゃんと私、くるみとは同級生なんです」

くるみ「そうだ。丁度いいや、ちょっと野暮用があるから手伝ってくれないか?」


ところ変わって屋上

野暮用を終えたカイジは

ツインテールの恵飛須沢とともに校庭を眺めていた


ぞん……
                  ぞん……


「おおっ……!おおっ……!おおっ……!」


びん……
                    びん……

カイジ「さっきのは・・・・アレ除けか」

くるみ「そ、バリケード。やつら、階段を上るのは苦手らしいからな」

くるみ「でもまあ、念のために補強してる。人手があると助かるよ。手伝ってくれてありがとな」

カイジ「いいぜ・・・・あれくらい」

カイジ「・・・・」

カイジ「ある日突然・・・こんなことになっちまったっていうのか・・・・・」

くるみ「ああ、そうさ」

カイジ「で、オレは・・・・お前らに助けられたってわけ・・・・・・」

くるみ「食糧調達も兼ねて、たまたま立ち寄った建物の瓦礫の下に……カイジさんがいたんだ」

くるみ「体中にあちこち傷があったけど、やつらに噛まれたあとはなかった。応急手当はしてある」

カイジ「傷・・・まあ、この騒動の前にできたものも多いけどな。思えばいろいろあったもんだ」

カイジ「世の中は結局・・・金がすべて」

カイジ「世間の片隅・・・劣悪で日の当たらない地の底でもがいていたオレに相応しい人生」

カイジ「死線を彷徨ったギャンブル・・・。裏切りの数々・・・・。反吐の出るほど醜い骨肉の争い・・・」

カイジ「何人も死んだ・・・・・・」

カイジ「オレだって・・・・何度、死に体になったか知れねえが・・・・それでも・・・まだ生きてる」

くるみ「うお……何か凄い人生歩んでたんだな、カイジさん」

カイジ「見たんだろ?・・・この左手とかも」

くるみ「……まあ。けど正直、見てもそれほど怖くなかったんだ」

くるみ「こんなことになる前の私だったら……飛び上がってビビってた思う」

くるみ「はは、……私も感覚麻痺しちゃってるのかな。変わってしまう自分のことがときどき怖くなる」

カイジ「・・・オレほかにはいなかったのか。生きてる・・・・・人間」

くるみ「……いなかった」

カイジ「・・・・・そうか・・・・」


カイジの脳裏を映る様々な人間たち

搾取する者とされる者

それは資本主義――拝金主義の理

が、しかし……!

この災禍を前にしては金・名誉も・社会的地位……!

すべて水泡……!

流れに浮かぶ泡沫のごとく消えて去った無意味な肩書……!

「今」「ここ」で意味を成すのは……生っ!

生きていること……それが全て……!

カイジ「もうひとつ、聞いていいか?」

くるみ「何だ?」

カイジ「なんで・・・・助けた・・・・・?オレを・・・・・・」

くるみ「え、何でって。そりゃ、助けるだろ。普通」

カイジ「やつらが大量に這い回るなか・・・・・危険を冒してまで・・・・」

カイジ「オレを助ける理由・・・・ないだろ?・・・・・・お前らに」

くるみ「……」

カイジ「第一、食糧問題」

カイジ「学外から調達しなければない・・・・・それくらいカツカツの状況で・・・・・!」

カイジ「オレを連れてきたら・・・・・余計に必要になる・・・・・男一人分っ・・・・・!」

カイジ「お前らにとって・・・・・まるで割に合わねえ・・・・・・」

カイジ「それなのに・・・・・・!」

カイジ「なんか・・・・・あるんじゃないか・・・・?裏が・・・・!オレをわざわざ助けた・・・魂胆とか・・・・!」

くるみ「……はあ~」

くるみ「面倒くさいなー、カイジさん」

くるみ「ねぇよ、そんな魂胆なんて。みき以来さ。……ちゃんと生きてる人間を見つけたんだ」

くるみ「なら、当然助けるだろ。ほかに理由なんているか?」

カイジ「・・・・・」

くるみ「食糧だって、確かに危ない橋渡って調達するのも必要だけど。それなりに自給自足できてるんだ」

くるみ「ほら、見れば分かるだろ。屋上で野菜や果物を育ててる。主に世話してるのは、元園芸部のりーさんだけどな」


ゆうり「くるみ、それと……カイジさん、だったわね」

太郎丸「わんっ……!」

くるみ「あ、りーさん!太郎丸も」

カイジ「・・・・・」

ゆうり「お昼の準備ができたから、呼びに来たわ」

くるみ「おお!ちょうど腹の虫がぐーすかいってたとこだよ」

くるみ「行こうぜ、カイジさん。ずっと寝てたんだから、腹減ってるだろ」

カイジ「お、オレは……」


気丈に振る舞おうとするカイジだが

空腹を感じていたのは紛れもない事実……!

カイジ(正直、喉はカラカラだし、腹もスカスカ・・・。何でもいい・・・何でもいいから口に入れたい)

カイジ(オレは生きてるんだ・・・・腹は減るに決まっている)

カイジ(だが・・・・安易にこいつらの出す物を食べるって?・・・・それでいいのかよ?)

カイジ(こいつらが信用できる人間なのか・・・・まだ分からない状況で)

カイジ(いや、ならどうやって食糧を調達する?)

カイジ(外に出る・・・ダメだ。外はやつらがウヨウヨしている)

カイジ(オレは・・・こいつらに助けられるまでの間・・・・どうやって生き残ったのか・・・・記憶にぽっかり穴が開いている)

カイジ(やつらの特性、強さ、行動パターン・・・十分に理解していないオレが今、外に出たら・・・どうなる?)

カイジ(結果は明白。蜂の巣状態。騒がれて、囲まれて、喰いちぎられて・・・・挙句の果てにゾンビ化)

カイジ(目に見えてる。だったら・・・・ここは敢えて・・・・・乗っかってやる)

カイジ(そうするしかねえだろ・・・?この差し迫った空腹を・・・・打開するために。窮余の一策っ・・・・!)


カイジ「本当にいいのかよ・・・。オレも・・・ゴチになって・・・?」

ゆうり「勿論。さあ、冷めないうちにどうぞ」

――――
――


ゆき「あーもうおなかペコペコだよー。今日のお昼は何かな何かな」

ゆうり「今日はカレーライスよ。おかわりもあるから、たくさん食べてね」

カイジ「・・・・」

ゆき「わあ、りーさんの作ったカレー!おいしそう!いただきまーす」


がつ……! がつ……!


みき「先輩、そんなにガツガツ食べないでください。はしたないですよ」

くるみ「そうだぞー、ゆき。犬でももっと綺麗に食べるって」

カイジ「・・・・」

太郎丸「もぐっ……もぐっ……ごくんっ」

みき「ほら、ゆき先輩も太郎丸を見習ってゆっくり食べてください」

ゆき「えー、無理だよ。だってりーさんの作るごはん、おいしいんだもん」

ゆうり「ふふ、ありがとう。ゆきちゃん」

カイジ(はぁー・・・・。たまんねぇ・・・・この空気・・・・・)

カイジ(男1人に女子高生4人・・・あと犬1匹)

カイジ(一見、羨ましい状況にも見えなくない。が・・・・現実は逆っ・・・・・むしろ苦行といってもいい)

カイジ(何となく絡みづらい雰囲気・・・・世代の違い・・・女特有の人間関係・・・)

カイジ(仲良さそうに見えて・・・・腹の中では何を考えているか判らねえ。見せかけだけの付き合い・・・・・うわべだけの美辞麗句)

カイジ(こういう感じ・・・・やっぱり駄目だ)

カイジ(息苦しくなる・・・・。関わること自体・・・・煩わしいっ・・・・・・)

カイジ(こいつらはしょせん他人。オレはただここに居合わせているだけの・・・・部外者)

カイジ(ただ飯にありつくため・・・・この場にいるだけ。無縁っ・・・・!)

カイジ(孤立せよ・・・・・!)

ゆき「あれー?かいじん全然食べてないよ」

カイジ「・・・・・」

みき「かいじん?」

ゆき「カイジ君だからかいじん。私がつけたんだあ。ぴったりだよね」

くるみ「おいおい怪人かよ、ひっでえあだ名」

ゆうり「カレー、苦手ですか?」

カイジ(うるせえ・・・・ほっとけ・・・・!)

カイジ(食えばいいんだろ・・・・!食えば・・・・・!)


ぱくっ……


カイジ「!!」

カイジ(なに・・・・これ・・・・・)

カイジ(美味すぎるっ・・・・悪魔的だっ・・・・・!)


がつ……!  がつ……!


くるみ「お、急にがつがつ食べだした」

カイジ(これはただのカレー・・・・ただのカレーだが・・・・・!)

カイジ(何ていうか・・・・・温かいっ・・・・・!)

カイジ(空腹だからってだけじゃない・・・!温度だけの問題でもないっ・・・・・!)

カイジ(ずっと忘れていた感覚・・・・・!これは・・・・・あれだ)

カイジ(おふくろの味っ・・・・・・!)


カイジ、至福の時……!

堪えがたい現実から一時的に離脱……!

ただ貪る……!

本能のままに……!

そしてあっさりと完食っ……!

カイジ「ふー・・・・」

くるみ「おおー、いい食べっぷり」

ゆき「かいじん、食べ方が犬さんみたいだよー?」

みき「先輩に言われるようじゃ、犬以下じゃないですか」

ゆうり「おかわりどうぞ。まだ、食べたりないでしょう?」

カイジ「いいのか・・・?ありがてえっ・・・・・・!」

ゆき「りーさん、私も。めぐねえもおかわりだって」

ゆうり「はいはい、ちょっと待ってね」

カイジ「・・・・・・」

カイジ(さっきのは、ちょっと考えすぎだったかもしれねえな・・・・・)

カイジ(ただ純粋に人を助けるのに・・・・・いらねえよな・・・・魂胆なんて)

カイジ(仮にそういうものがあったと仮定しても・・・・)

カイジ(金もなければたいした腕力もない・・・頭だって悪いオレなんかをわざわざ連れ込んで・・・・何の利になる?)

カイジ(何にもならないじゃん・・・・・)

カイジ(優しい人間なんだ、こいつらは。オレを連れ込んだ行為自体が・・・・れっきとしたその証左)

カイジ(・・・・まあ、それはそれとして・・・・)

くるみ「お?ゆきはともかく、めぐねえはあんまり食べたら太っちゃうぞ」

ゆき「ちょっと駄目だよそんなこといっちゃー。あ、大丈夫だよめぐねえ。めぐねえはすんごいスリムだもん!」

ゆうり「そうよ、くるみ。めぐねえをあんまりからかっちゃいけないわ」

みき「そうですよ、くるみ先輩」

くるみ「あー、悪かったよ。めぐねえ」

カイジ(まただ。めぐねえが・・・・・『現れた』・・・・)

カイジ(3人が3人とも・・・・丈槍の妄想に付き合ってる)

カイジ(傍から見たら異様・・・・常軌を逸している・・・・が)

カイジ(とりあえず、変に突っ込まないほうがいい・・・・)

カイジ(オレはあくまで部外者・・・・。受け流すが鉄則。最も無難な地位の保全)

カイジ(適度に距離を置くならまだしも。絶対的な孤立・・・・。ここに居場所がなくなったら困るのはオレ自身)

カイジ(受け流せっ・・・・・!超然と・・・・・・!)


あえて「めぐねえ」の存在には触れない

妥当な選択……!

午後――

4人からは適度に距離を取り

不用意な発言を慎んだカイジ

次第に日は傾き、夜がやってくる

簡単な夕餉を済ませ――寝支度


ここでカイジ……!

シャワールームに急行……!

脱衣っ……!

シャワーシーン……!

立ち上がる湯気……!

圧倒的サービスカット……!

カイジ「あー・・・生き返るぜ・・・・」

カイジ(・・・・はあ)

カイジ(ほんの最近まで・・・・ついこの前までだ・・・・)

カイジ(金!金!金!・・・・すべてに先立つものは金だったってのに・・・・)

カイジ(人間社会の崩壊。経済そのものが破綻しちまったら・・・・札なんてもうただの紙切れ・・・ゴミ同然)

カイジ(オレは・・・いや、オレ達は・・・・ただのゴミを我が物にするために・・・)

カイジ(悪戦苦闘・・・・・・・・死にもの狂いのギャンブル・・・・・・)

カイジ(ぐっ・・・・やめろ・・・・考えるな・・・・もうすべては過去になった・・・・考えても仕方ねえよ)

カイジ(クソッタレ・・・・・)

シャワーを浴び終えたカイジ

一人で佇む校舎は闇に包まれ、外からは虫の声が響いている


カイジ(恵飛須沢が言ってたな。やつらは生前の行動習慣に従って動いているらしいと)

カイジ(としたら、夜は家に帰って大人しくしてんのか・・・・連中も?)

カイジ(さて・・・オレもどっかで寝るとするか。さすがにあいつらのいる部室にはいられねえし)


カイジ、向かった先は屋上

カイジ「ふぅー、ここは解放感があっていいぜ。季節もいい。寝っ転がっても大丈夫だ」

カイジ「建物やら何やらは廃墟になってるが・・・・山の緑、鳥や虫の鳴き声・・・・この星空」

カイジ「国破れて山河あり・・・・ってか」


ゆうり「感染するのは哺乳類までみたいなの。ほかの生き物にとっての日常は、何にも変わってないんだわ」


カイジ「だろうな・・・・・若狭っ!?」

ゆうり「こんばんは。カイジさんに寝袋を渡そうと思ってたんだけど。ちょうど上に上がっているところを見かけたから、持ってきたわ」

カイジ「・・・・おお、済まねえ。使っていいのか・・・?」

ゆうり「予備があるから。必要ならテントも用意できるけれど」

カイジ「いや、寝袋だけで十分。・・・・単なる学校の割には、備品が充実しているんだな」

ゆうり「そうね。私立だから、そういうところに使える財源が豊富なのかも」

カイジ「・・・・・・・」

ゆうり「……ゆきちゃんのことなのだけれど」

カイジ「・・・・ああ、だいたいの事情は直樹や恵飛須沢から聞いた」

カイジ「『めぐねえ』はもともと、この学校の生き残りの一人・・・・この学校の教師だった」

カイジ「辛い避難生活を部活動に置き換え・・・・『学園生活部』を提案。顧問に就任」

カイジ「が、その後・・・・・・『めぐねえ』はいなくなった」


カイジは屋上の片隅に立てられた、あるものを見遣る

ロングヘアの若狭はそれの手前に腰を下ろし、手を合わせた


カイジ「だが・・・・丈槍の中では今も『めぐねえ』は生きている」

カイジ「あんまり詳しくないけどトラウマってやつ・・・・?悪く言えば現実逃避。言い換えれば・・・・自分を守るための退行行動」

カイジ「そういうことだろう」

ゆうり「……そう」

ゆうり「だからね」

ゆうり「カイジさんも、ここにいる間は……あの子に合わせてあげてほしいの」

カイジ「・・・・・・・・」

カイジ「それは・・・・丈槍のためなのか」

ゆうり「……」


カイジ「それとも・・・・・・・・・・・・」


ゆうり「……」

カイジ「・・・わかった。善処する」


それだけ確認すると辞去し、足早に屋上を後にした若狭

寝袋にくるまるカイジ

あまたの星のきらめく夜空

一瞬の静寂

しかし!

変わらない!

現実は何も変わらない……!

ただ一時の安息を得ているだけ……!

カイジ(『合わせろ』・・・・ときたか)

カイジ(ま、もともと・・・・あいつらと仲良くするとか・・・・・そんな考えはさらさらねえんだ)

カイジ(向こうが来たら適当に相槌打ってりゃそれでいいだろ)

カイジ「・・・・・・・・・・」

カイジ「『ここにいる間は』・・・・・」

カイジ(・・・・・一見、角の絶たない言い方。ちょっとお願いね・・・っていう感じの軽い要求・・・)

カイジ(ん・・・・?よく考えたらさっきの発言・・・・・もっと意味深っていうか・・・・)

カイジ(そうだ・・・)

カイジ(合わせなければ・・・お前はここにいられないっていう・・・・!)

カイジ(警告だっ・・・・・・!)

カイジ(つまるところは・・・・それ!それを言いたいだけ・・・・!れっきとした脅迫・・・・!)

カイジ(助けてもらった上に・・・・飯まで食わせてもらっている・・・。オレの立場の弱さを承知の上での・・・至上命令っ!)

カイジ(くぅ・・・・)

カイジ(優しくて・・・うまいメシ作って・・・・面倒見もよくて・・・・・やたら発育のいい女子高生・・・・!)

カイジ(いるわけねぇだろ・・・・・・・!そんな都合のいい存在っ・・・・・・!)

カイジ「・・・・・・・・・」

カイジ(何だか・・・凄い疲れた・・・・)

カイジ(案外・・・・このまま寝ちまって・・・・・次に目が覚めたら)

カイジ(実は何にも起こってなくて・・・・全部白昼夢ってことも)

カイジ(・・・ことも・・・・)


zzz……!  zzz……!



(つづく……?)


カイジが巡ヶ丘学院で目覚めてからはや三日

事態は依然硬直

変わらぬ日々

変えたければ……

自ら行動を起こすほかない!

そんな日常


ゆき「うー……むにゃむにゃ……」


ウト…… ウト……

カイジ「・・・・・はぁー」


その日、カイジは教室にいた


ゆき「んー……ダメ、もう食べられな……むにゃむにゃ」

カイジ(オレは3年C組の転校生・・・という設定)

カイジ(ここ二日は適当に、病欠ってことで済ましてた)

カイジ(ま、たまには付き合ってないと言い訳が面倒になる)

カイジ(なんて思って・・・・今日は『登校』したけど・・・・・)

ゆき「zzz……」

カイジ「帰ろっかな・・・・・・」

ゆき「うっ」

カイジ「・・・・?」

ゆき「うっ……あ、ああああっ……!!」

カイジ「・・・・・!」

ゆき「はっ!……はぁ……はぁ」

カイジ「お、おい・・・・!どうした・・・・・・?」

ゆき「……かいじん。ううん、ちょっぴり怖い夢見ちゃっただけ」

カイジ「怖い夢・・・・?」

ゆき「ほあ~、勉強してるとついついうとうとしちゃうよね」

カイジ「あ、ああ・・・・そうだな」

ゆき「早くめぐねえの授業にならないかなあ」

カイジ「・・・・そうだな」

ゆき「どうしたの?……怖い顔して?」

カイジ「・・・・・」

ゆき「ごめんね」

カイジ「えっ・・・・・・?」

ゆき「私ね、たまによく分かんなくなっちゃうことがあるんだ」

ゆき「今の怖い夢も……ほんとのことなのかと思ってびっくりして」

ゆき「かいじん、心配させちゃったや」

ゆき「だから……ごめんね」


にこっ……


カイジ「・・・・・・・・別に。気にするなよ」

ゆき「う~ん、今日もいい天気だね」

ゆき「外でサッカーやってるみたい」

カイジ「ああ、やってるな。・・・・・体育の授業」


放課後

カイジ不在の部室にて

提案……!


ゆき「今日はぎゃんぶるしよう!」


バンッ!


くるみ「おいおい、いきなりだなあ」

みき「賭博は犯罪ですよ?」

ゆうり「どうしてギャンブルなの?」

ゆき「あのね。かいじんが来てからまだ歓迎会とかやってないでしょ?」

ゆき「かいじん、ぎゃんぶるが好きって言ってたから」

ゆき「みんなでぎゃんぶるして部員同士の親睦を深めよう!って作戦。どうかな、みーくん」

みき「私に振らないで下さいよ。まあ……いいんじゃないですか」

くるみ「そういや私も聞いたな。命懸けでギャンブルしてたって」

ゆうり「あら……。じゃあ、やっぱりカイジさんってその筋のひとなのかしら」

みき「そんなに怖いって感じでもないですけどね」

ゆき「よーし!そうと決まれば早速準備しよう。私、景品作る!」

ゆうり「手伝うわ。何を作るの?」

ゆき「んーとねえー」

くるみ「じゃ、私はトランプとかUNOとか、使えそうなものを調達してくる。ついでに買出しに行ってくるよ」

ゆうり「……くるみ、大丈夫?」

くるみ「大丈夫だって、すぐ戻るから」

みき「くるみ先輩。……私もついて行っていいですか?」


一方その頃、カイジは――

例のバリケードの前にいた


カイジ(・・・・・・・・)

カイジ(ここから先・・・・・・・)

カイジ(一歩出たら・・・・修羅の世界・・・・・)

カイジ(正直、いつまでここに居られるか分からねえし)

カイジ(いつまでもここが安全だっていう保証もない)

カイジ(いつかは・・・・・・リスクを取らなきゃならないときが・・・必ず来るっ・・・!)

カイジ(正真正銘、命懸けの生存競争(ギャンブル)・・・・・・!)

カイジ(その時のための・・・・予行演習)


Ω「おお・・・・・うおお・・・・・・・」


カイジ(一体、すぐ先にうろついてやがる・・・・・)

カイジ(恵飛須沢の言ってた通り階段を上るのは不得手らしいな)

カイジ(ただバリケードの手前で右往左往しているだけ・・・)

カイジ(いざとなったら・・・・・・・)


カイジ、その手にはモップっ……!

言わずと知れた清掃用具……!

どこの学校にでもある普通のモップ……!

だからこそ調達も容易……!

ただし古代種の神殿では手に入らない……!

いざというとき武器に転用できる優れもの……!

カイジ(殺れるっ・・・・・・・!)


Ω「うう・・・・・うおお・・・・おお・・・・・」


ゆら……    ゆら……


カイジ(殺れ・・・・・・・・・・)

カイジ「ぐっ・・・」

へなへな~


カイジ「はあああああ~・・・・・・」

カイジ(あー、ダメだ・・・全然ダメ・・・・・)

カイジ(いくら動く死体だっていっても・・・・)


カイジ(人間だったんだぜ・・・・・こいつら・・・・・・・・・・)


カイジ(オレに・・・・・・殺せるのか・・・・・・・・・・・・?)

カイジ(人間・・・・・・・・・・・・)




(つづく)

カイジ(無理・・・・・・無理だって)

カイジ(絶対的に無理・・・・・・・・)

くるみ「あ、カイジさん」

みき「何してるんですか。モップなんて持って」

カイジ「お前らか・・・・」


Ω「おおお・・・・おお・・・・・・・・」


くるみ「!」

みき「寄ってきてきてますね。一体だけのようです」

カイジ「・・・・・・ああ」

くるみ「みき。音を立てて、できるだけバリケードの近くにおびき寄せてくれ」

みき「わかりました」

くるみ「私が片付ける」

カイジ「え・・・・・・ちょっと・・・・・・・」


パンッ……    パンッ……
     パンッ……        パンッ……


Ω「う・・・おおお・・・・・・・・」


ジリ……     ジリ……


くるみ「よし」

カイジ「ちょっと・・・・・待っ・・・・・・」

次の瞬間

身軽にバリケードを乗り越えた恵飛須沢……!

着地するが早いか

構えたシャベルで一撃っ……!


グシャァ!


カイジ「あ・・・・・ああああっ・・・・・・!」

みき「……」


二撃っ……!

三撃っ……!

カイジ、見ていられない……!

思わず目を背けざるを得ないっ……!

瞑らざるを得ないっ……!

そして――

くるみ「ゆっくり……眠れよ」


グシャアアッ!


絶命……!

今度こそ完全に動作停止

ピクリとも反応しない

死に還った死体


くるみ「……ふう」

カイジ「く・・・う・・・・・・」

みき「ちょっと……大丈夫ですか、カイジ先輩」

カイジ「何で・・・・・殺した・・・・・・?」

くるみ「何でって」

カイジ「別に殺さなくても・・・・・良かったじゃん・・・・・・」

カイジ「安全領域に侵入できそうになかったし・・・・・・・一体だけだったんだ・・・・・」

カイジ「ほっといても・・・・・・・」

くるみ「放っておいて、わんさか集まって来られたら困るだろ。外に出づらくなる」

カイジ「・・・・・・・・・・」

みき「最近、学校に集まってくる数が増えているようですしね……」

くるみ「少しでも削っておきたい。一体なら、尚更殺りやすいからな」

カイジ「ぐっ・・・・・・・」

カイジ、反論できない

理にかなっている

非情とも取れる行為

だがそうせざるを得ない……!

やつらを蹴落とさねばならない……!

生き残るために……!

カイジ(こいつらの言う通りだ・・・・・・・)

カイジ(殺らなきゃ・・・・・殺られる・・・・・・・)

カイジ(生存率を少しでも上げるためなら・・・・・・今コイツを始末したこと)

カイジ(これで正解・・・・・・・)

カイジ(分かってるさ・・・・・それは分かる・・・・・・・)

カイジ(さっきだって・・・・・オレだって・・・・・殺ろうとしたじゃん)

カイジ(殺ろうと・・・・殺ってしまえと・・・・・自分を追い込んで・・・急き立てて・・・・)

カイジ(でも・・・・それでもできなかった・・・・・・・)

カイジ(一方の恵飛須沢は・・・・・・それをやり果せた・・・・・・!)

カイジ(奴らに対する情を捨てて・・・・・やり遂げた・・・・・・・!)

カイジ(オレより年下の・・・・華奢な女子高生だってのに・・・・・・・!)

カイジ(畜生っ・・・・・それにくらべてオレはっ・・・・・・!)

カイジ(なんて甘いんだっ・・・・・・・!)

くるみ「ほんと大丈夫か、カイジさん」

みき「上に戻って休んだ方がいいですよ」

カイジ「・・・・・・・お前らは?」

カイジ「これから・・・・・・外に出るつもりなのか・・・・・?」

くるみ「そうだな。ちょっと買い出しに」

カイジ「・・・・・・・・」

みき「ゆき先輩とゆうり先輩には伝えてますから」

カイジ「俺も・・・行くっ・・・・・!」

くるみ「えっ」

みき「えっ……」

カイジ(ここ3日間・・・・)

カイジ(結構恵まれた環境下でただ安穏と過ごしてきた)

カイジ(何もしていなくても、飯は食わせてもらえるし、時間に追われず、金にも惑わされず)

カイジ(ある意味・・・・・気楽な日常・・・・・現実から目を背けていれば、隠遁生活)

カイジ(高望みさえしなければ・・・・・しばらくは生き永らえる・・・・そういう状況)

カイジ(だけど・・・・・)

カイジ(やっぱり・・・・・それじゃダメだっ!)

カイジ(切り開かなきゃ・・・・・・!)

カイジ(待ってたって何も変わらねえんだよ、結局っ!)

カイジ(いつか救助が来るとか、そのうち事態が収束するとか・・・・絵空事に浸って怠惰を貪ってちゃダメっ・・・・!)

カイジ(自力で取っ掛かりを見つけて・・・・・一歩前進しなきゃ負けっ・・・・!)

カイジ(勝ちに行けっ・・・・!やつらを斃す・・・・・・!)

カイジ(今まで何度もやってきただろ・・・・・・!)

カイジ(嫌でも受けざるを得ない・・・死線を彷徨うギャンブルっ・・・・・!)

カイジ(勝てば天国、負ければ地獄。命の遣り取り・・・・!ギャンブルという形で間接的になってはいるが・・・・!)

カイジ(本質は同じっ・・・・・・!殺し合いだったんだよ・・・・・・!)

カイジ(だったら、躊躇するなっ・・・・・!)

カイジ(行けっ・・・・・!行けっ・・・・・!行けっ・・・・・・・!)


カイジ「お前らを見て・・・悟ったんだ。臆してる場合じゃないってな」

カイジ「だから・・・・俺も行く・・・・・!」

カイジの強気の主張に

両者、一抹の不安を覚えるも……同意!

バリケードを越え、校内をうろつくやつらを回避……!

段取りよく車を用意……!

脱出っ……!

ブロロロロロロロ……


くるみ「……」

みき「……」

カイジ(・・・・・意外だ)

カイジ(相当気負って出てきた割には、結構あっさり突破できたって言うか)

カイジ(数が多いのは厄介だが、上手く間を縫って走り抜けられれば十分振り切れる)

カイジ(それに体も脆い。オレはやっぱり躊躇しちまったが・・・・女子高生の腕力でも打ち倒せるレベル)

カイジ(慌てず騒がす冷静になって対処できれば、十中八九は生存できる)

カイジ(ただし、噛まれたら即アウト。リベンジ不可能・・・・そこだけは要注意)

くるみ「さあて、どこに寄るかな」

みき「あまり時間は掛けたくないですね。ゆうり先輩も心配するでしょうし」

くるみ「そうだな」

カイジ「・・・お前、免許持ってんの・・・・?」

くるみ「コツは掴んだ。要は慣れの問題だって」

カイジ「そう・・・・」

くるみ「近場で……調達できそうなとこか」

くるみ「じゃ、あそこにするか」

カイジ「あそこって・・・?」


ブロロロロロロロ……

昼間――

真っ当な人間ならば会社や学校に行っている時間帯

街の人通りは意外に少ない

とある建物の前で車を止めるカイジ一行


カイジ「え・・・・ここって・・・・」

くるみ「カイジさんを見つけた場所だぜ。一部崩れてるけど……入れないことはないだろ」


なんとなく見覚えのある建物

上階に上がっていく

その先にあったのは……裏カジノっ……!

徐々に蘇るカイジの記憶

カイジ(ここ・・・・・・!)

カイジ(間違いなく・・・・ここ・・・・・・・!)

カイジ(あの日の晩・・・オレはここの一室で・・・・!)

カイジ(思い・・・・・出した・・・・・・!)


ごそ……      ごそ……


くるみ「おおー、やっぱりいろいろあるな」

みき「トランプ、UNO、オセロ、ルーレット、これは……花札?」

くるみ「何か、まとめて入れられる袋でもないか?」

みき「袋ですか……。あ、袋じゃないですけど……ここにトランクが」


パカッ……

くるみ「うおおっ!?何だこりゃ!」

みき「お札の束が……一杯に詰まってますね」

くるみ「賭場に大金……危ない金か?」

カイジ「それ・・・・・たぶんオレの・・・・・・」

くるみ「え……?」

みき「カイジ先輩の……?」

カイジ「まとめて4億と8000万・・・・・」

カイジ「オレがギャンブルで勝って・・・・・手に入れたカネ・・・・・・」

くるみ「ホントかよ。すげえな……」

カイジ「ま、今となっちゃゴミ同然・・・・・何の価値もねえ」

カイジ「それより・・・さっさと引き揚げねえか。やつらが現れたらまずいだろ」

くるみ「……それもそうだな。欲しかったものは手に入ったし」

みき「まさか昼間からこんなところに出てくるとも思えませんけど」


ドン!         ドン!
                    ドン!               ドン!
        ドン!                              ドン!
    ドン!      ドン!
                       ドン!                ドン!

くるみ「!」

みき「……出入口のほうから!」

カイジ「・・・・・・・・!」


バキッ!


Ω「ク・・・・カカ・・・・・・カカカ・・・・・・・」

ぞろ……              ぞろ……


(つづく……?)

カイジ「っ・・・・・・!」

くるみ「くっ、同じ階に潜んでやがったか!」

みき「どうします?……この部屋の出口は一つ。この高さだと窓から脱出するのは……」

くるみ「強硬突破しかなさそうだな。二人とも私に続いて――」

カイジ「いや・・・・ちょっと待ってくれ」

カイジ「あいつ・・・・俺の知ってるやつだ」

くるみ「!」

みき「!」


単身……!

やつらに向かって進みゆく……!

くるみ「おい、カイジさん!?」

みき「危ないですよ!」


Ω「カカカ・・・・・カカカカ・・・・・・・・!」

カイジ「よう、・・・社長さんよ。随分やつれちまったじゃねえか。垂れ下がった腕、土気色の肌、顔色も悪いぜ」

カイジ「見る影もねえ」

Ω「カカカ・・・・・・・・」

くるみ「カイジさん。やつらに理性は残ってないんだ!」

みき「何を言っても通じませんよ!」

カイジ「『約束』通り、勝った金はもらってく・・・・と言いてえところだが」

カイジ「もうこんなもん・・・持ってても意味ないっていうんなら!」


カイジ「くれてやるよっ!こんな安い『命(カネ)』は・・・・・!」

カイジ「今いちばん大事な『命』を守るためにっ・・・・・!」


バサアッ!

くるみ「!」

みき「!」


投擲っ……!

5億にも及ぶ札の詰まったトランク……!

あれほど執着せざるを得なかった……!

人間の命すら軽々と翻弄してやまない金……!

放棄っ……!

しがらみからの解放……!


Ω「カ・・・・・クカカ・・・・・・・!」


わしゃ……      わしゃ……

くるみ「ええ!?」

みき(お札を……拾い上げようとして……もがいている)


死んでも治らないっ……!

守銭奴の性っ……!

100%拝金主義者……!


のろのろと這い寄ってきた他の者たちも……!

同じ所作っ……!

裏カジノに通い詰めた……!

破産者たちの末路っ……!

カイジ「今のうちだ!・・・・連中を振り切るっ・・・・!」

みき「はいっ!」

くるみ「いくぞ!」


駆け抜けるっ……!

ダッシュで……!

脱出っ……!


Ω「おおお・・・・・おお・・・・」

ぞろ……        ぞろ……


カイジ「・・・!」

みき「車の周りにも集まってきてます!」

くるみ「急げ!」

バタンッ!


Ω「うおおお・・・・・おおお・・・・おお・・・・・」


ドン……!        ドン……!


カイジ(こいつら・・・・・・・)

カイジ(そんな目で見るなよっ・・・・・・!)

カイジ(そんな声で泣くなよっ・・・・・・!)

カイジ(ぐうううう・・・・・・・・)

みき「先輩、早く!」

くるみ「分かってるって!」


ブロロロロロロロロ……

くるみ「ふう……切り抜けられたな」

みき「カイジ先輩の機転が利きましたね」

カイジ「・・・・・・・・救えねえ」

カイジ「救えねえよ・・・・この世の中」

みき「先輩……」

くるみ「……救われないし、救えないか」

くるみ「けどさ。それでも……生きていればきっとどうにかなるって」

くるみ「そう信じたい。夢はちゃんとあるんだって……一歩でも前進しねえと」

みき「そうですよ。生きてるんですから……私達は」

カイジ「生きていれば・・・・・」

カイジ「そうだな・・・・生きていれば・・・・生きてさえいれば・・・・・」


その後、コンビニに寄って「買出し」を済ませた三人は

戻ってきた……!

希望の学校……!

ここには夢がちゃんとある……!

無傷で帰還っ……!

くるみ「ただいまー」

ゆき「あ、おかえりー」

ゆうり「遅かったわね。ちょっと心配したわ」

みき「……お店が混んでまして」

ゆうり「……そうなの」

カイジ「荷物・・・・ここに置いていくぜ」

ゆき「かいじんもくるみちゃん達のお買いものに付き合ってくれたんだね」

カイジ「あ、まあな」

ゆき「じゃ、早速始めよっかー!」

くるみ「お、そうするか」

カイジ「始めるって・・・・何を?」

ゆき「ぎゃんぶる!」

カイジ「は・・・・・?」

――――
――


その日の夜――

廊下の窓から夜空を眺めるカイジ

その手には、手書きの文字に上手な絵の添えられたメッセージカード


カイジ(『がんばったで賞』・・・『伊藤カイジ殿』)

カイジ(『あなたはぎゃんぶる大会において云々……頭書の成績を収めましたのでそれを表彰します』)

カイジ(『おめでとう! 丈槍由紀』)

カイジ(こんなもの、言ってしまえば・・・ただの紙切れに過ぎないが)

カイジ(何なんだろ・・・)

カイジ(オレが今日ぶちまけた札束と、このカード)

カイジ(どっちのほうが・・・・・価値があるんだ・・・・・)

みき「あ、カイジ先輩」

カイジ「……直樹か」

みき「……」

カイジ「・・・・・・」

みき「……カイジ先輩って本当にギャンブル強いんですか?」

カイジ「・・・・・・いいか。ギャンブルってのはン千万賭けようがカンパン一枚賭けようが同じ」

カイジ「勝つときは勝つし負けるときは大負け・・・・ツキとか流れとか・・・・そういうものに左右される」

カイジ「イカサマ無しの真剣(ガチ)勝負だったらな・・・・・・・・」

みき「真剣というか、遊びですもんね」

カイジ「そうそう・・・・負けても失うものはねえし」

カイジ「でも、得たものはあった」

みき「何です?」

カイジ「茶番も悪くないってこと。四六時中・・・真剣(ガチ)の生存競争(ギャンブル)やってたら」

カイジ「持たねえな。どっかで折れちまう・・・・・」

みき「……」

カイジ「そういう意味じゃ・・・・丈槍の存在って・・・・・」

みき「必要……なんだと思います」

みき「勿論、ゆき先輩がこのままずっと今のままで本当にいいのか。そう思いますけれど」

カイジ「現実から敢えて逃避する。そういう時間も・・・・必要」

みき「……はい。そうでしょうね」

みき「それでは、おやすみなさい」

カイジ「おう・・・・どこか行くのか」

みき「ちょっと職員室へ」

みき「私はゆき先輩のことをもっとよく知りたいと思っています」

みき「先輩のことを知るためには……先輩にだけ見えている先生(ひと)のことも」

みき「もっと調べておきたいと思いまして」

カイジ「・・・・そうか」

        ひた……                ひた……


「おおお・・・・・・・おおお・・・・・おおおおおおお」


 ひた……                ひた……




次回――

カイジ、地下行きっ……!




(つづく……?)


がっこうぐらしを始めて

はや一週間……!

惰眠を貪るカイジ……!


カイジ「ガー・・・・ゴー・・・・・」


スヤァ……   

太郎丸「わーんっ……!」


ドンッ!


カイジ「ぐほっ・・・!?」

ゆき「こら、待て待てー!」


ドンッ!


カイジ「ごほっ・・・・!?」

カイジ「おい!人が寝てんのに踏んづけていくな・・・・・!」

ゆき「あ、かいじん。……ごみぃ」

カイジ「・・・・・・・・」

太郎丸「わんわんっ……!わんわんっ……!」


日常っ!

カイジ「ふあ~あ・・・」

ゆうり「あ、おはようございます」

カイジ「あ、ああ。・・・・おはよ・・・今何時?」

ゆうり「もう10時を回ってるわ。カイジさんのぶんの朝ごはんは部室に用意してあるから」

カイジ「・・・・どーも」

ゆうり「……」

カイジ「何だ?」

ゆうり「いいえ。ちょっと寝癖が気になるかなって思って。カイジさんって髪を伸ばしているの?」

カイジ「いや、別に伸ばしたいとかってわけでもねえが・・・」


日常っ!

ガラッ


みき「あ、カイジ先輩」

カイジ「よう。ん、本読んでんの?」

みき「はい、下の図書館から役立ちそうな本を借りてきています」

カイジ「ふーん」

みき「カイジさんは読書とか、あんまりしないんですか?」

カイジ「んー・・・まあ」


パク……    パク……


みき「非常食、在庫が減ってきましたね。また調達してこないと……だいぶ食卓が貧相に」

カイジ「・・・・・。あの地下飯に比べりゃ・・・十分贅沢・・・」

みき「地下飯?」


日常っ!

スタ……    スタ……


カイジ「ん?」

くるみ「むん!」


ブォン!   ブォン!


カイジ「素振りしてんの・・・?」

くるみ「まあね。日頃から鍛えてないと」


ブォン!   ブォン!


くるみ「いざというときに体が動かないだろうから」

カイジ「そうか・・・・・そうだろうな・・・・・」

くるみ「カイジさんもやるか?」

カイジ「いや、オレは・・・・今はいい」


日常っ!

――――
――

夕刻――

屋上にて沈みゆく太陽を眺めるカイジ


カイジ「・・・・・・・・」

カイジ(自覚的か無自覚か・・・・周りを元気づけるムードメーカーの丈槍)

カイジ(食事や家計簿を担当・・・・部長として上手く部員をまとめ上げる若狭)

カイジ(シャベル愛好家・・・・?やつらとの戦闘、防衛で先頭に立つ恵飛須沢)

カイジ(そして、オレと同じく後になって加入・・・・客観的に現実を直視している直樹)

カイジ(うまい具合にバランスが取れている。この4人)

カイジ(オレもまあ・・・・最初はどうなるかと思ったが)

カイジ(共通の敵を前に、生存という共通の目的をもって活動する同士。それなりに受け入れられたって感触)

カイジ(平和だ。一見、平和。毎日が安定している)

カイジ(だが・・・・・・)

カイジ(この安定感は・・・・あくまでこの学校があってこそのもの)

カイジ(状況の変化・・・・何か不測の事態が生じて・・・安定を維持している土台が崩れたときにどうなるか)

カイジ(精神的支柱が崩れたときに・・・・どうやって平静を保てるか)

ゆき「おーい、晩ご飯の時間だよー!」

カイジ「ああ、すぐ行く」

ゆき「ラジャー!じゃ、めぐねえと先降りてるね」

カイジ「・・・・分かった」

カイジ「・・・・・・・・」


丈槍が去った後、ちらと見つめる

菜園の片隅に建てられた十字架――

「めぐねえ」の墓

カイジ、静かに手を合わせ、見ず知らずの故人に思いを馳せる


カイジ(ある意味・・・・あんたのお蔭で丈槍も・・・周りの人間も救われてるんだ)

カイジ(話に聞く限り・・・まだ若い女教師。生徒想いで、皆から慕われてたんだってな)

カイジ(それが・・・・・こんなことに・・・・・)


うる……   うる……


カイジ「無念だったろうなあ・・・・・なあ・・・・先生・・・・・」


自然と溢れる涙

沸き起こる……!

やつらに対する憎悪……!

だが、しかぁし!

カイジ(やつらのせいで・・・・!)

カイジ(やつらの・・・・やつら、の・・・・)

カイジ(いや・・・・そうじゃない。そうじゃ・・・・ないんだ)

カイジ(あいつらだって、もとは人間・・・不幸にも感染した被害者)

カイジ(本当の意味で・・・憎む対象じゃねえ。だったら・・・・・だったら何処に矛先を向ければいい?)

カイジ(この感情を・・・・・どこにぶつけりゃいいってんだ・・・・・・!)

その夜――

寝支度をしていたカイジは、突如呼び出された


カイジ「どうした、こんな時間に」

ゆうり「……ゆきちゃんが眠ってから、伝えようと思ってたのよ」

みき「この冊子、見てもらえますか」

くるみ「昨日、みきが見つけてきたんだ。めぐねえの『遺品』の中から」

みき「私達は……一通り目を通しました」


カイジに手渡されたもの

それは……!


カイジ「『職員用緊急避難マニュアル』・・・・?」

パラ……      パラ……


カイジ「何だよ・・・・何だよ、これっ・・・・・!」

カイジ「想定されてたってこと・・・・?この事態が・・・?」

カイジ「ありえねえだろ・・・そんな・・・」

カイジ「あっ・・・・・・・!」

カイジ「なっ・・・・・・・?」


ドンッ!


カイジ「『生物兵器』って・・・どういうことだよ・・・・・!」

ゆうり「……」

カイジ「これ・・・・この記述っ・・・・・・!」

カイジ「ただの自然発生的な現象・・・・じゃないってか・・・・?」

カイジ「意図的・・・・・?人為的行為・・・・・・・?」


わな……     わな……


みき「カ、カイジ先輩!」

くるみ「落ち着きなって!」

カイジ「まさか・・・・・そんなバカな・・・・・こんなことって・・・・・・!」

カイジ「ふざけるなっ・・・・ふざけるなっ・・・・・・!ふざけるなあああっ・・・・・!!!」



(つづく……?)

深更――

辺り一面、闇の中で一室だけ明かりをともす職員室の中に

カイジ達は集まっていた


カイジ「・・・・・悪かった。つい・・・」

くるみ「いいや、私だって最初に読んだ時には……な」

カイジ「で、これは例の・・・めぐねえの遺品・・・・?」

カイジ「知ってたってこと・・・・・?その先生・・・・・・こういう事態が起きるってこと・・・・・」

みき「いや、それはないと思います。このマニュアル、開封条件が記載されていますし……」

みき「仮に教職員が前もって見ていたとしたら……。もっと状況は変わっていたんじゃないですか?」

みき「少なくとも……予備知識があったら私達だけしか生き残れないという状況はなかったはず」

ゆうり「……そうね」

カイジ「・・・・・・・」

カイジ(『寛容といたわりの精神は・・・・・美徳ではないっ・・・・・!』)

カイジ(『覚悟せよっ・・・・・!』)

カイジ(多数の人間を助けるためなら・・・・少数は切り捨てていいってか?)

カイジ(『選別』しろってか・・・・?生き残る価値のある人間と・・・・その価値のない人間・・・・・・)

カイジ(狂ってる・・・・・!こんな悪夢を引き起こし・・・・・!)

カイジ(陰で操っている人間・・・・・そんな輩がいると思うと・・・・・)


そんな輩……!

カイジの脳裏にふと浮かぶ

悪魔の微笑みっ……!

カイジ(あいつ・・・・あの男・・・・・)

カイジ(そうだ・・・・ああいう連中・・・・・)

カイジ(他人が苦しむ姿を見て・・・・愉悦する・・・・・・・・)

カイジ(人間の本能そのままに・・・・・ほくそ笑んでいる支配階級・・・・・)

くるみ「……さて」

くるみ「じゃ、そろそろ私は……行ってくる」

カイジ「・・・・どこ行くんだ?」

くるみ「地下室。それに載ってる、非常避難区画ってやつ」

ゆうり「私達も行ったことのない場所よ」

くるみ「とりあえず偵察ってことで、様子見にな。この時間帯だとやつらの数も少ないし」

カイジ「・・・・・・」

ゆうり「行動を起こす前に、ちゃんとカイジさんにも伝えておかないとって思ったの」

みき「カイジ先輩も学園生活部の仲間ですもんね」

カイジ(仲間・・・・・・・・・)

先日のゾンビ社長との対峙

あの時、カイジは確かに見ていた

社長の背後に、見ていた

信じていた

艱難辛苦を共にして

地獄の底からともに這いあがった仲間の姿

否、仲間だと……信じていた男達のなれの果てを……!


カイジ「ははは・・・・・」

ゆうり「?」

みき「先輩?」

カイジ「いや、何でもねえ」

カイジ「なあ、恵飛須沢。オレも行っていいか・・・?その、避難区域ってやつに」

くるみ「え?いや、いいって。私は大丈夫だからさ」


ガラッ!


ゆき「ダメだよ、くるみちゃん!」

くるみ「!」

カイジ「・・・・・丈槍」

みき「!……ゆき先輩」

ゆうり「あら、ゆきちゃん……起きちゃったの?」

ゆき「も~!目が覚めたらみんないないんだもん。心配しちゃったよ」

くるみ「悪い悪い、ちょっとな」

ゆき「くるみちゃん、夜は単独行動禁止って規則で決まってたよね」

くるみ「え、あ、ああ……確かに」

ゆき「だからダメだよ、ひとりで肝試しなんて」

みき「肝試し?」

ゆうり「……そうね、くるみ。ひとりで行ったら危ないわ。お化けが出たら大変だもの」

みき「あ、……そうですね」

くるみ「んー、まあな。怪談は苦手だし」

カイジ「・・・・・・・・」

ゆき「ね、かいじん」

カイジ「ん・・?」

ゆき「もしもお化けが出たら、ちゃんとくるみちゃんを守ってあげてね」


――――
――

くるみ「まったく、ゆきと来たら。相変わらずマイペースだ」

カイジ「ここまではあんまり出て来なかったな・・・・『お化け』」

くるみ「夜だしな……下校してるのかも。あいつらは」


ざわ・・       ざわ・・


カイジ「この先が・・・・」

くるみ「……地下だ」


まだ見ぬ地下へ……!

突入っ……!

カイジ「以前・・・・借金のカタに地下の強制労働施設で働かされたことがある」

くるみ「強制労働って……そりゃまた重い話だな」

カイジ「その地下施設・・・何のために建設されていたと思う・・・・?」

くるみ「いや……何だろ。駐車場とか?」

カイジ「超豪勢な・・・・地下核シェルター」

くるみ「!……核シェルターだって!?」

くるみ「どこにあるんだ、そこは?」

カイジ「場所は分からねえ。連れて行かれた時も、脱出した時も眠らされていた。極秘施設だ」

カイジ(地の底の底・・・底辺に相応しい地獄だったが・・・・・)

カイジ(地上がこうなった今・・・・・)

カイジ(もしかしたら・・・・・あの地下王国・・・・・・・)


「おおおお・・・・・おおおおお・・・・・・」

くるみ「!」

カイジ「・・・やつらか。近いな」

くるみ「あそこだ。一体しかいない。だったら――」

くるみ「ら――……」

くるみ「あ……」

カイジ「・・・・どうした?」

くるみ「……ねえだ」

カイジ「え・・・・?」


                           ざわ・・
ざわ・・           
              ざわ・・

                                   ざわ・・
       ざわ・・


くるみ「めぐねえ……なんだ」

カイジ「・・・・・・・・!」


          ぴちゃ・・・              ぴちゃ・・・


Ω「カカカ・・・・!コココ・・・・・!キキキ・・・・・・・・・・・!」


   ぴちゃ・・・                   ぴちゃ・・・


(つづく……?)

ゆき「すぴー」

ゆうり「すっかり眠っちゃったわ。二人が戻ってくるまで待ってるって言ってたのに」

みき「どうします?部室に寝かしておきましょうか」

ゆうり「そうねえ」


ひょこ……


太郎丸「わおん……」

ゆうり「あら。あなたまで起きてきちゃったの?」

太郎丸「わう?くんくんくん……」

みき「あ、それは佐倉先生の遺……」

太郎丸「ウウー……わんわんっ……!わんわんっ……!」

ダッ!


ゆうり「あ、ちょっと!」

みき「太郎丸!……行っちゃいました」

ゆうり「……犬の嗅覚ってニオイの種類によっては人間の一億倍もあるって聞くわ」

ゆうり「もしかしたら……めぐねえの残り香を嗅いで、何か感づいたのかも」

みき「私、ちょっと見てきます!」


タッ!


ゆうり「待って、みきさん!」

ゆうり「……もう」

非常避難区画――地下室!

呆然

直立不動

「めぐねえ」の変わり果てた姿を

凝視する二人……!


くるみ(くそっ・・・・)

くるみ「なんでだよっ……!」


ダッ!


カイジ「おい・・・・!」


恵飛須沢、前進っ……!

強行……!

カイジの言葉を制して……!

接近っ……!

Ω「カカカ・・・・・・コキッ・・・・・・キキキ!」

くるみ「おおおっ……!」


至近距離!

振り上げるシャベル!

あとは振り下ろすだけ!

頭部を破壊するだけ!

それだけで倒せる!

一思いに……!

だが

だが!

だがっ……!

くるみ「あっ……」


脳裏に過った……!

めぐねえの優しい微笑み……囁き……!

幻覚……!

幻聴……!

振り下ろせないっ……!

一瞬の躊躇がっ……!

命取りっ……!


Ω「・・・・・・・・・・・・」


ぐぐぐぐぐ……


Ω「クカ・・・・・・・!」


くるみ「あっ……!」

カイジ「危ねえっ!」

ドゴッ!


この時!

炸裂っ!

カイジキックっ……!

「めぐねえ」を蹴り飛ばすっ……!


くるみ「カ、カイジさ……」

カイジ「殺すな」

カイジ「例え一瞬でも躊躇するのなら・・・・・振り切れないなら・・・・」

カイジ「殺すなっ・・・・・!」

カイジ「殺しちゃダメだっ・・・・・・!やめろ・・・・・・・・!」

くるみ「な……。だったら、どうするんだよ!このまま放っておくわけにはいかないだろ!」

カイジ「ああ・・・だから!オレが片付けるっ・・・・・・!」

くるみ「!……カイジさん!」

ガリガリガリガリガリ!


カイジ「来いっ・・・・!来いっ・・・・・!来いっ・・・・・・・・!」

Ω「カカカ・・・・・!コココ・・・・・・・・!」


カイジ、絶叫!

モップのつかみを壁に擦り付け……!

響かせる嫌な音っ……!

奥へっ……!


カイジ(思えば・・・)

カイジ(この前の買出しのときだって、オレと直樹はあくまで後方支援)

カイジ(直接手を下していたのは、いつも恵飛須沢だった)

カイジ(この生活部において・・・・戦闘の要)

カイジ(・・・いつも『汚れ役』。あいつがそういう役割を引き受けているからって・・・押し付けていい道理はねえんだ)

カイジ(一番辛くて厳しい役目を・・・これ以上一人に背負わせるな・・・・・!)

カイジ(こんなときこそ・・・・・・!)

思い起こす

先刻の丈槍の言葉

もしもお化けが出たら、ちゃんとくるみちゃんを守ってあげてね……!(CV立木)


カイジ(守るんだっ・・・・・!)

カイジ(『仲間』をっ・・・・・・・!)

カイジ(仲間を助けるために・・・・・・振り払えっ!)

カイジ(寛容といたわりの精神を・・・・・!)

カイジ(悲劇的な最期を遂げた・・・・めぐねえへの同情を・・・・・!)

カイジ(憐憫を・・・・!捨て去れっ・・・・・・・・・!)

カイジ(鬼になれっ・・・・・・!)


カイジ、さらに奥へ!

いたずらに走っているわけではない

あえて逃げ場のない奥へ誘導することで

自らを追い詰めることで

殺らざるをえない……!

その状況を作り上げるために……!

走るっ!

そして――

追い詰められた……!

思い通りに……!

地下の深奥部、袋小路へ……!


Ω「クク・・・・ククク・・・・・クカカカ!」


ゆら・・・          ゆら・・・


カイジ「さあ・・・」

カイジ「さあ・・・・もう少しだ・・・・・」

カイジ「来いよ・・・・・!めぐねえ・・・・・・・・!」

カイジ(狙いは頭部・・・一撃・・・いや、やつらもそこまでヤワじゃねえ)

カイジ(とにかく叩く・・・!叩き捲る・・・・!叩き割る・・・・・・!)


Ω「コココココ・・・・・キキキキキ・・・・・・!」


カイジ(そう・・・!楽にしてやるんだ・・・・・!)

カイジ(めぐねえを・・・・・!この不幸な運命から解放して・・・・・・・)


カイジ「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


カイジ(え・・・・・・何だよ・・・)

カイジ(その理屈・・・・・・・・・・・)


カイジ、この土壇場で……!

逡巡っ……!

カイジ(楽にしてやるって・・・・・・何だよ・・・?)

カイジ(オレがやろうとしているのは・・・・・殺しだぞ・・・・人殺し)

カイジ(たとえどんな事情があろうと・・・・・殺すことで・・・・・人が助かるなんて・・・そんなことっ!)

カイジ(第一、オレが殺していいのかよ・・・・)

カイジ(めぐねえは・・・・丈槍たちの・・・大切な恩師だろ)

カイジ(オレのような完全な部外者が・・・・・)

カイジ(何も知らない無関係な人間が・・・・・ここで鉄槌を下してしまう・・・・・)

カイジ(終わらせてしまう・・・・・・・・)

カイジ(いいのか・・・・・本当に・・・・それで・・・・・)


Ω「カカカカカカカカカカカカ・・・・・・・・!」


迫る!

迫り来る!

もう目と鼻の先でっ!

めぐねえが……!

牙をむくっ……!

カイジ(馬鹿・・・・!馬鹿・・・・!馬鹿・・・・・・!)

カイジ(考えるな・・・・・!迷うな・・・・・・!戸惑うな・・・・・・・!)

カイジ(おい・・・・・・・・!)

Ω「おおおおお・・・・・・・・・・・!」

カイジ(早くっ・・・・!動けっ・・・・・!動けっ・・・・・・!)

カイジ(分かってるだろっ・・・・・・)

カイジ(待ってくれねえんだ・・・・・!)

カイジ(この生存競争(ギャンブル)の相手は・・・・人間じゃねえっ・・・・!)

カイジ(理性ゼロの・・・・『化け物』なんだぞっ・・・・・・・!)


化け物は――

無慈悲っ!


Ω「くわっ・・・・・・・」

カイジ「あ・・・・・・・・・・」





      がぶりっ・・・




カイジ「あっ・・・・・・・」

カイジ「あああっ・・・・・・・」

カイジ「あああああっ・・・・・・・・・・・・・・!」


ぐにゃ~~~~~~~~~~~~~




(つづく……?)

くるみ「はぁ……はぁ……」

くるみ(……危なかった。カイジさんが動いてくれなかったら……たぶんやられてた)

くるみ(例え一瞬でも躊躇するなら殺すな……か)

くるみ(一瞬でも……)

くるみ(……)

くるみ(あのときは……その一瞬すらなかったもんな)


たっ……!


くるみ「!」

くるみ「今の、太郎丸か?」


恵飛須沢の脇を通り抜け

一直線に奥へ向かって駆けていく!

わん……!

わんっ……!

みき「くるみ先輩っ!」

くるみ「みきまで!どうしてここに?」

みき「はぁ……はぁ……。それが、太郎丸が急に部屋を飛び出していったので、気になって追いかけてきたんです」

みき「ここ……例の地下室ですよね。マニュアルに載ってた……」

くるみ「ああ」

みき「あれ。……カイジさんは、一緒じゃないんですか?」

くるみ「あ、そうだ!早く、行かねえと……!」


ダッ!

みき「先輩!?」

くるみ「詳しい話はあとだ!……めぐねえが、めぐねえだったヒトが……ここにいたんだよ!」

みき「……!!」

くるみ「カイジさんは私をかばって、めぐねえを引き付けて奥に向かったんだ!」

くるみ「加勢してくる!」

みき「――私も」

みき「私も、行きます!」


地下の深奥へ急ぐ両名……!

ダダダダッ!


くるみ「なるほど。つまり太郎丸はめぐねえのニオイを嗅ぎ付けて来たんだな!」

みき「そうだと思います!」

くるみ(カイジさん。私、見たんだぜ――今日の夕方)

くるみ(めぐねえの墓の前で……泣き崩れてたとこ)

くるみ(この前の裏カジノでやつらに囲まれた時だってそうだ)

くるみ(あの数だったら、強行突破できなくもなかったのに)

くるみ(あんたは誰も傷つけない手段を選んだ)

くるみ(優しすぎるんだよ……カイジさんは)

くるみ「ッ……無事でいてくれよ!」


ダダダダダダッ!

――――
――


ブチィ!


噛み付きっ……!

咀嚼音っ……!

引き千切られるっ……!

その刹那

終わった……!

そう思った――


カイジ(あ・・・・れ・・・・・・)

カイジ(な・・・・い・・・・・・?)

カイジ(痛みが・・・・ないっ・・・・・・・!感じないっ・・・・・・・!)

カイジ「!・・・・・・・ああっ・・・・・!」


残った……!

土俵際で……!

引き千切られたのはカイジの上着っ……!

厚手のジャケットっ……!

反射的に腕を引いたのが奏功っ……!

ギリセーフ……!

紙一重で……!

デッドエンドを回避っ……!


Ω「カ・・・・・・・!」

カイジ「ぐ・・・・・おりゃ・・・・・!」


ブォン!

カイジ、崩れた体勢のまま……!

モップを一振り……!

めぐねえの足に……!

クリーンヒットっ……!

めぐねえ、バランスを崩し……倒れこむっ……!

後じさりで距離を取るカイジ……!


Ω「コ・・・・コキキ・・・・・・」


ぐぐぐぐ……


カイジ「はぁ・・・・はぁ・・・・・・・」

カイジ(危なかった・・・・一歩まかり間違えば・・・・逝ってた)

カイジ(この大事な局面で・・・・・陥っていた)

カイジ(圧倒的白黒思考・・・・・・)

カイジ(殺らなきゃ殺られる。生きるか死ぬか。選択肢は二つに一つ・・・と)

カイジ(意図的に自分を追い詰めたつもりが・・・・字義通りに追い詰められてた・・・!)

カイジ(策に溺れて・・・・危うく落とすところだった・・・・!肝心要の命っ・・・!)


Ω「ウ・・・・ウウウウ・・・・・・」


カイジ(だって・・・・冷静に考えてみろ)

カイジ(選択肢は二つだけか・・・?・・・違うだろ・・・・!)

カイジ(めぐねえと引き離すことで、恵飛須沢は窮地を脱した・・・・それだけで十分過ぎる成果じゃねえか)

カイジ(めぐねえの処遇は・・・・・あとで皆で相談して考えればいい)

カイジ(幸いこの地下区域・・・・・何か所か部屋がある)

カイジ(どこか一か所に誘い込んで、閉じ込める・・・・・!)

カイジ(もう一度・・・・誘導だっ・・・・・・!)


ジャララララ!

Ω「ココココ・・・・・・・・!」


カイジ、ポケットから取り出したのは

パチンコ玉っ……!

「買出し」の際に入手した代物の一つ……!


カイジ(浸水した領域からは脱していたのが幸い。床に転がせる)

カイジ(やつらは光るモノと音に敏感。銀玉をかち合わせながら転がして・・・最寄りの開いた部屋の前まで誘導)

カイジ(そして背後から急接近しモップで一突き。押し込んだら戸を閉めて、脱出を阻止)

カイジ(そしてしばらく待機。何なら一服して落ち着く余裕だってあっていいさ)

カイジ(地下入口から最深部まで大音声で駆けてきたんだ。めぐねえ以外のやつらは地下にはいないとみて差し支えない)

カイジ(じきに恵飛須沢が、あるいはほかの皆も追ってくるだろう・・・・事後処理はそれからだ)

ざわ・・            ざわ・・


Ω「オオオ・・・・・オオ・・・・オオオオ」

カイジ(よし。いい感じ。あとちょっと・・・・部屋は目前・・・・・!)

カイジ(大丈夫だ・・・・・抜かりないっ・・・・・・・・・・!)


わんっ・・・・         わんっ・・・・




カイジ「えっ・・・・・・?」

太郎丸「わんっ・・・・・・!」

カイジ「お前・・・・太郎丸っ・・・・・!」


飛び込んできた、小さな助っ人……!

事態はさらに好転……!

するかに見えたっ!


太郎丸「わんっ……!わんっ……!わんっ……!」

Ω「クク・・・・・ククククク・・・・・・・!」

カイジ「お、おい!やめろ・・・・・!今・・刺激するのは・・・・!」

Ω「クカカカカカカカカカカカカカカカ」


ぐわっ・・・・・


カイジ「あ・・・・・・・・!」


がぶりっ・・・・


太郎丸「……きゃうんっ……」


ぼと・・      ぼと・・


かぶり付いた……!

毒牙……!

滴り落ちる……鮮血っ……!

カイジ「あ・・・・ああ・・・・・あああっ・・・・・」


くるみ「カイジさん!」

くるみ「良かった、無事だっ……、あ……」


みき「カイジ先輩、大丈夫ですか!」

みき「あの、太郎丸もこっちの……ほう……に……」




Ω「カカカッ・・・・カカッ・・・・カカカカッ!」


ぼとりっ・・




みき「・・・・太・・・・・・・・郎・・・・・丸・・・・・・・・・・・・・・・?」


(つづく……?)

――――
――


ザアアアアアアアアアアアアアアア・・


ゆき「う……むにゃ」

ゆうり(急に雨が降ってきたわ……)

ゆうり(雨脚が強いわね……)


ぞろ・・      ぞろ・・


ゆうり(校庭に残っていたあいつらが……校舎の中に入ってくる)

ゆうり(くるみとカイジさんは地下に向かったきり……戻ってこない)

ゆうり(太郎丸を追いかけて行ったみきさんも……帰ってこない)

ゆうり(みんな階下にいるとしたら、まずいわね。やつらに取り囲まれてしまったら……)

ゆうり(私も少し……様子見に行こうかしら。念のために武器も持って……)

ピシャァァァァァァァン!


ゆうり「きゃっ」

ゆき「うっ!」

ゆうり「ゆきちゃん?」

ゆき「う……うう……」

ゆうり「うなされているの?……大丈夫?」

ゆき「……てかないで……置いてかないで……」

ゆき「みーくん、かいじん、くるみちゃん……」

ゆき「りーさん……みんな……」

ゆうり「ゆきちゃん……」

――――
――


太郎丸「くぅ・・・」

みき「太郎丸っ・・・そんなっ・・・」


慌てて駆け寄る直樹……

モールでの一件以来

決して懐こうとしなかった太郎丸

犬好きな直樹にとって

共に死地から生還した

小さな仲間から背を向けられた辛さは一入……


みき「太郎丸……」

太郎丸「くぅん……」

みき「ごめんね……ごめんね……」

ぎゅっ


涙ながらの抱擁……

状況はまだ十分には飲み込めていないにも関わらず

太郎丸が致命的なダメージを受けたことは明白

ひたすら謝罪……

唐突に走り出した太郎丸を制止させる

それは脚力で及ばぬ直樹には致し方ない

それでも責め立てる……

責め立てずにはいられない

一方のカイジ

良かれと思って取っためぐねえ誘導作戦

が……思わぬ想定外の乱入により暗転

咄嗟に脳裏を過る自己保身……

仕方がなかった……

だが、すぐに湧き上がるは渦巻く後悔の念


カイジ(殺しとけば・・・殺しとけば・・・・)

カイジ(殺しとけば・・・こんなことにはならなかった・・・・)

カイジ(決断の先延ばし・・・部屋に閉じ込めて一服・・・・だなんて暢気なことを思ってた)

カイジ(その挙句のアクシデント・・・完全にめり込んでいた・・・ヤツの毒牙が)

カイジ(太郎丸は・・・たぶん助からねえ)

カイジ(殺すチャンスは何度もあったのに・・・・結局決められらかった・・・)

カイジ(そのツケが・・・こんな形でっ・・・・・・!)

カイジ(畜生っ・・・・・・・!)

これが……!

この後悔の念が……!

またしても不覚っ……!


カイジ「あ・・っ・・」

Ω「くわっ・・・・・!」


ぐしゃっ・・!


カイジ「あ、あ・・・・恵飛須沢」

くるみ「さっきは、助けてくれてありがとな。カイジさん」

くるみ「おかげで、ちゃんと気持ちの整理ができた」

Ω「・・・・・・ォォ」

くるみ「さようなら、……めぐねえ」


ぐしゃっ・・・!

恵飛須沢、冷静に対応

再び踵を返してカイジに襲い掛かっためぐねえに引導

鮮やかな手際……

まるで熟練の狩人が射止めた獣の喉を割き楽にさせるように……

無駄のない動き

乱れた感情を制御して、ただやるべきことを当然のごとく執行

まさに職人の領域……

カイジ、ただ見ていただけ

そして、土下座……

圧倒的謝罪っ……!

またしても号泣……!


カイジ「すまねえ・・・・本当に・・・すまねえっ・・・・・」

カイジ「オレが不甲斐ないばっかりに・・・・・・!また、お前の手を汚してしまった・・・・!」

カイジ「ぐっ・・・・ぐう・・・・あああっ・・・・・」

くるみ「本当に優しいんだな……カイジさんは」

くるみ「ほら……立ちなって。こっちまで……泣きたくなっちゃうだろ」

カイジ「直樹も・・・・すまねえ・・・・オレのせいで太郎丸まで・・・・・・」

みき「……カイジ先輩の……せいじゃないです」

太郎丸「くぅ……」

みき「太郎丸……しっかり。今、傷の手当て……するから」

くるみ「とにかく、一旦ここを出よう」

くるみ「ずいぶん音を立てちまったし、やつらがもし地下に集まってきたら袋のネズミだ」


ざわ・・・             ざわ・・・
        ざわ・・・              ざわ・・・


くるみ「!」

みき「えっ……」

カイジ「な・・・」


ΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩΩ

「オオオオオ・・・・・・オオオオオオ・・・・・・オオオオオ・・・・・・・・」


既に……押し寄せていた

亡者の群れ

生者を死へ誘わんとする

死人たちの咆哮……!

無慈悲の軍勢……!

――――
――


死地と化した街……

文字通りのゴーストタウン……


Ω「うぅ・・・うぅ・・・」

「何が『うぅ』だ・・・!」


ぐしゃ・・・!


Ω「うぅ・・・ぁぁ・・・」

「くたばれっ・・・!ウジ虫・・・・・・!」

「そうやって永久に地を這ってろ・・・!負け組がっ・・・・・!」


ぐしゃ・・!ぐしゃっ・・・!ぐしゃっ・・・!

ぶしゃああっ・・・

「ク・・・クク・・・・クカカカカカ!」

「まったく・・あのジジイ・・・先見の明だけは賞賛せざるを得ない」

「まさかこんなに近い未来に『こんな事態』が起こりうるとは」

「オレの目は間違っていなかった・・・本当の強者に取り入った」

「オレは勝ち組だ・・・・!ザマみやがれっ・・・・!」

(いや・・・まだだ。まだまだ・・・)

(本当の勝ち組は・・・この状況下において最も安全な場所に身を潜め)

(私兵を統制して君臨する・・・王者)

(所詮今のオレはただの手駒・・・戦場に駆り出される斥候に過ぎない・・・)

(必ず獲得してやる・・・・居住権を・・・・!)

(そのためには・・・・・もう一度後ろ盾の信頼を勝ち取るためには)

(功績が要る・・・・・!ほかの連中を一気に出し抜く・・・・決定的な成果っ・・・・!)

「見てください・・・これ・・・!」

「どうした・・・?見つかったか・・・・手掛かり・・・!」

「いえ、手掛かりになるかどうかは・・・」

「寄越せ!」

パシッ!

「何だこれは・・・手紙・・・・・?」




可愛らしい絵入りの手紙の表には、こうしたためられていた――

『わたしたちは元気です。』




(つづく?)

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2016年06月04日 (土) 17:11:28   ID: BktcjAu8

斬新ですね!とてもおもしろかったので、ゆっくり頑張ってください
(*´ω`)

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