姉「妹に監禁された」(改訂版)(163)

すいません、↓
姉「妹に監禁された」 - SSまとめ速報
(http://jbbs.livedoor.jp/internet/14562/storage/1327413569.html)

これの改訂版です。


【プロローグ】


チュンチュン…

姉「…妹に監禁された」

姉「とはいうものの、冷暖房完備、拘束無し、衣服も無事。家賃も月2万という好条件」

姉「唯一の問題は」


姉「食事が己の糞便だけだということだろう」

姉「そもそも、何故監禁されているのであろうか」

姉「特に恨まれる謂われもなく、妹とは仲良し姉妹と思っていた」

姉「昨日のオヤツは半分こ、お風呂も一緒、寝床も同じ」

姉「…それに、兄上の自慰行為を共に鑑賞する姉妹愛には、父も母も涙を流して喜んでくれていた」

姉「それが目覚めてみれば、一変してこの有り様」

姉「外に出ようにも、下手に外出すればニプルのピアスが爆発する仕掛け」

姉「…………」グゥ

姉「衣食住の中で、最も私が重要視する食を奪う暴虐ぶりに、…お姉ちゃん泣きそうだよ」

(一時間経過)


姉「……ふぅ」

姉「よもや便秘とは誰が予想しようものか」

姉「しかし、自分の便を食さねばならぬ以上必ず出さねばならぬ」

姉「排便は、adlの中でもかなり上位。…お姉ちゃん頑張るよ」

姉「…………」


姉「……出ぬ」

(二時間経過)


姉「…痔は日ノ本の国民病と人はいう」

姉「かの有名な水戸黄門も遠山の花吹雪も、晩年は痔によって馬にも乗れぬ程の痛みに苦しめられた」

姉「…………」サスサス

姉「こうして便所紙を折りたたんで刺激を与えていれば、やがては私も彼らの域に辿り着くやも知れん」

姉「だが、しかし」


姉「…鼻セレブが我がトイレットペーパーとは、これは果たして武士の一分であろうか」

(三時間経過)


姉「さてさて、相変わらず我が下腹には関所が敷かれたまま。…入り鉄砲に出女、まだまだ乙女の通過は難しかろう」

姉「…………」フンヌ

姉「ぬぅ、こうも日頃のダイエットが裏目に出るとは思わなんだ」

姉「食する時に食し、出す時に出す。この素晴らしさは恐らく全世界共通のもの」

姉「こうして洋式便器に腰掛ける姿は、ロダンの彫像や聖母の何やらに例えられよう」」

姉「…………」エイヤ


姉「産みの苦しみとは、まさにこの様なものであろうなぁ…」

(四時間経過)


姉「古の時代、日ノ本では自らの糞便を振る舞う豊穣の女神がいた」

姉「…………」チョイサ

姉「だが、その女神は宴会の席で排便する姿を見つかってしまい、斬り殺されてしまう」

姉「そうして五穀が誕生したのだという」

姉「この二神はわりとポピュラーで、同時にお祀りする神社も少なくない」


姉「…日本の夜明けは、まだ遠いな」


(五時間経過)


姉「もうお昼」

姉「世間ではイチャイチャウフフな大人達がキャッキャデュフフと食事に勤しむ時刻」

姉「…………」コリャコリャ

姉「だが、我がヤマタノオロチはまだ一頭も姿を見せぬ。まさに、ヤポネーゼニンジャの鑑といえよう」

姉「この様な私にも大和魂が根付いているとは、さすが日ノ本、八百万の神々のおわす場所」

姉「我が先人、小泉八雲もさぞやお喜びであろう」

姉「あの方にしろシーボルト氏にしろ、当時の日ノ本では、私達の様な人間が生きるには少し辛すぎたと聞く」

姉「ペリー氏などは天狗と間違えられる始末、…金髪白肌とはさも珍しき存在か」

姉「だが、今ではこうして神々が宿って下さる。一神教ではこうはいくまいて…」


ガチャ

姉「やあ兄上、トイレの神様に会いにきたのかい」


(小休止)


姉「…ああも怒鳴らずとも良いであろうに」

姉「…………」ドヤサ

姉「まったく、兄上は短気で困る。可愛い妹の苦難に、共に闘うのが兄妹愛であろう」

姉「まだまだ愛では地球を救えそうに無い」

姉「ああ、詳しくは卓上の紙を見て来てくれ」

姉「出来れば、下剤や浣腸なしで便秘を直す方法を一緒に考えて下さると嬉しい」


姉「…行ってしまわれたか」


(六時間経過)


姉「…いかぬいかぬ。こうも便座が温かいと、睡魔が私の友人となる」

姉「…………」totoバンジャーイ

姉「やはり寝ぼけまなこでは、下腹に力を入れることすら容易ではないか」

姉「兄上はまだ帰らぬか」

姉「…………」ボー

姉「…………」ウツラウツラ


姉「……zzz」クークー


(七時間経過)


姉「……クークー」

姉「…………」


ちゃっぽーん。

姉「……zzz」


(八時間経過)


姉「…さて困った」

姉「いざ出たは良いものの、日頃の習慣とは侮れぬ」

姉「…………」ゴメーン

姉「まさかいつも通りに流してしまうとは…」

ガチャ

姉「ああ兄上、すまぬ。不甲斐ない妹で申し訳ない。…グスッ」

姉「否、泣いてなどおらぬ」

姉「…先に(下水道に)逝ってしまった我が娘の不憫さに涙が出ただけよ」

姉「何の抵抗も出来ず、曝気層の微生物達にその身を蹂躙され、原型を無くして世を去る」

姉「……ズビッ」

姉「何のための生であろうか」

姉「そう思うと涙を禁じ得ぬ。今はあの子の冥福を祈るのみ」


姉「…兄上、もう少しだけお胸を御借りしたい。優しく抱いて下され」


(八時間半経過)


姉「…兄上すまぬ。落ち着いた」

姉「…………」ヨッコラセ

姉「それで兄上、何かお考えはまとまりましたか」

姉「よもや、妹の菊花を薔薇を変える等の世迷い言は申すまい」

姉「…………」パラパラ


姉「うむ、これからの技術大国を支える男は頭の回転も早くて良い。早速準備に取りかかろう」


(遅い昼食)


姉「…ふう」

姉「…………」カチャカチャ

姉「トイレで食するカレーとは、確かにシュールなものであるな」

姉「糞便に類似した形態だが、不似合いなほどに芳しき美味なる香気」

姉「これならば監視カメラ程度の解像度では見破れまい」

姉「美味し美味し…」

姉「日本のカレーがnasaの宇宙食に認められた理由が良く分かる」

姉「…………」モグモグ

姉「しかし兄上よ」

姉「これがバレてしまえば、一体我らはどうなることやら」


ガチャ

姉「おお、妹か。先に頂いて………」

カラーン


(十時間経過)


姉「妹よ、さすがに兄上にやりすぎではないか」

兄上「…………」スッパダカ

姉「裸にひんむいた後、お隣さんの情事の最中に『突撃隣の晩御飯』の刑」

姉「その上、エネマグラ空気椅子とは…」

姉「お隣さんが理解ある人でなければ、そなたの好きな兄上は社会的にも人間的にも死んでいた所だ」

姉「…おい、聞いておるのか」


姉「駄目か、既に向こうの世界にいっておられる」


(早い就寝)


姉「兄上、すまぬ」

兄上「…………」ビクンビクン

姉「妹の拷問に二時間も耐えた御仁は、兄上が初めてだ」

姉「妹も嬉しかったのだろう。隣で満足そうに寝ている」

姉「寝顔はこんなに可愛いらしいのに、まったくこの妹の何処にあのような悪魔が潜んでおるのか」

姉「さて、二人をベットに運ばねばなるまい」

グイ……ギチン

姉「…旅立って尚、兄上を絞め続けるこの執念」


姉「これぐらいの根気があれば、我が母国もあんな結果にならなかっただろうに…」


【2012年12月 欧州】


ニュースキャスター
『予てより崩壊が危惧されておりましたギリシャ経済が、各国の尽力虚しく力尽きました』

『これにより、イギリスを除くeu圏内では混乱が続いており…』

ギリシャ政治家
「…土下座」フテブテ


この経済危機が世界に与えたダメージは予想よりも大きかった。

まもなくアジアでは中国の革命分子が動きを見せ、中国経済が停滞。

アメリカも金融不安から、超内需拡大に政策を変更せざるを得ず、南米もそれに倣う。

オセアニアでは、再び民族主義者が勢いを取り戻し、華僑や韓国人を国外追放。一時はインドネシア沖に、両軍が睨み合う事態に発展した。

比較的安全と思われた日本でも、都市部での失業者が増え、都会から地方へと政治の場が変わってしまった。


…そして彼女らの母国でも、『変革』は否応なく訪れた。

【2014年 5月 某国】


友「ねーねー、きいた~?」

姉「何かあったの?」

友「ジャック・ザ・リッパー(四代目)の被害者が今月で24人目なんですって…」

姉「珍しく無いでしょう。模倣犯かも知れませんし、私達には直接関わりの無い事件です」

友「姉はkoolだね」

姉「…………」

友「犯人は青色ツナギや、ヤポーン・ソルジャ-、黒衣の僧侶」

友「多数の目撃者がいるにも関わらず、犯人は白昼堂々と被害者を暗い一室に監禁し、凌辱の限りを尽くす」

友「犯人はどんな人間なのかしら」

姉「ゴメンナサイ、何故それを私に聞くのかしら?」

友「いや、姉は日本文化に詳しいでしょ」


姉「…なんのこと?」


キーンコーンカーンコーン。


先生「諸君らに通達する」

先生「…諸君らも知っての通り、先の経済危機によって、我が国は政治にも経済にも破綻している」

先生「今まで大人達は、何とか騙し騙しやりくりをしながら、学校教育を続けていた」

先生「…だが、結果は無意味だった」

先生「最低限度の医療制度すら機能せず、国民は貧困の真っ只中にある」

先生「…そこで政府は、学力や運動面で本当に優れた者以外に対して、『公的』な『就業機関』を立ち上げた」

先生「…………」ガチガチ

先生「その第一期生として、今から読み上げる者にアンケート用紙を配る」


キーンコーンカーンコーン。


姉「…友、名前呼ばれてたけど大丈夫?」

友「うん、ほらアタシは頭悪いし、家も貧乏だからさ~。まさに渡りに船、立候補する手間が省けたってものよ」

姉「そう、なら良いのだけれど。それでどんな内容なの?」

友「ええと…」


アンケート用紙
『貴女が将来つきたい職業は何ですか?

《衣》…モデル、デザイナーなど
《食》…コック、パティシエなど
《住》…歌手、声優など

以上3つの中から1つだけ○をつけ、期日までに提出して下さい。

貴女の将来に幸あらんことを。

社会福祉公社 代表 』


姉「…意外と普通ね。むしろ普通過ぎて拍子抜けしてしまうわ」

友「そりゃそうよ。何たって政府のやることですから」

姉「あの先生があんなに震えていたのは何だったのかしら?」

友「さあ?」

姉「…それで何を選ぶつもり?」

友「そうね。《衣》《食》《住》だけれど、ここは私の才能を活かして《住》を選ぼうと思うの」

姉「才能も何も…、近所の聖歌隊のリーダーだっただけじゃない」

友「いいの!ほらほら、私の美声が世界を幸せにするの!。…せっかくの好機、利用しない手はないわ!」

姉「楽天的ね、友らしい」

友「エヘヘ…、女の子は笑ってなんぼの世界に生きてるのよ~」

姉「…変な歌」ハア


(同年 7月3日)


友「姉~、遊ぼ~」

姉「…勉強中」

友「良いの良いの。それにほら、姉はもう進学組に選抜されてるんでしょ?」

姉「……一応、ね」

友「ほ~ら~、天才だって休息は必要だよ~。トーマスも99%の休養と1%の努力って広言してたらしいし。遊ぼ~よ~」

友「…………」ウルウル

姉「分かった。分かりました~」

友「エヘヘ…、好きだー!」


(同年 7月15日)


友「姉~、あ~そ~ぼ~」

姉「…………」

友「ほれほれ、せっかくの美人さんが眉根にシワを寄らせてはダメだよ~」

姉「…今日は何をするの?」

友「暑いし、私の家でお菓子食べながらテレビ見ない?」

姉「随分と贅沢な提案ね」

友「うむうむ、それだけ政府も私の魅力に惚れ込んでいる証拠よ。モテる女は辛い。…でも、そのお陰で家族全員3食ご飯付きの生活が出来てるの」

姉「…そう」

友「そういえば、第3回生に妹ちゃんが選ばれたんだって?」

姉「うん、…あの子、食いしん坊だから《食》に迷わず○をつけてたわ」

友「これで姉の家も、3食ご飯付き決定だね!」


(同 7月23日)


友「あ~そび~ましょ~」

姉「…暇なの?」

友「エヘヘ…、実は最近、施設での発声練習が免除されてて。空いた時間は好きにして良いそうなの」

姉「大丈夫かしら、この国」

友「ひどい~、これも『才能』なの~」

姉「ふ~ん」

友「馬鹿にするな~。偉い学者さんが言うには、私の声には人を安心させる効果が含まれているらしいの」

姉「…確かに。友の落ち着いた声は、私も好きよ」

友「でしょ?」

姉「うん」

友「…だから、今度から昔話の音読練習なんかもするらしくて、忙しくなる前に姉と遊び尽くそうと」

姉「そういうことなら…」


この日を境に、友が私の家の扉を叩く音は途絶える。


(同年 8月8日)


姉「…………」モクモク

姉「…………」カリカリ

姉「……クークー」

姉「……zzz」

ガクッ

姉「………!」キョロキョロ

姉「……ふぅ」


(同年 8月15日)


ミーンミーン。

姉「…暇ね」

姉「こんなに静かな夏休みは初めてだわ。妹も友も『施設』で、今頃何をしてるのかしら」

姉「やっぱり国を代表とする第1回生だもの。…きっと忙しいんでしょうね」

姉「…………」

姉「妹、泣いてないかな~。心配だな~」


ピーンポーン


宅急便の人
「すいませーん。御在宅ですか~」


宅「申し訳ないんすけど、お隣さんがお留守でして…。代わりに預かって貰っても宜しいっすか」

姉「…随分と大きな荷物ね」

宅「や~、そうなんす。こんなご時世にこんな大荷物。運ぶだけでも一苦労なんす」

姉「分かりました」

宅「…ありがとっした~」

姉「いえいえ、ご苦労さまです」

バタン
ブロロロロロ…。

姉「…………」

姉「…そういえば、最近お隣さん静かね。友ちゃんも顔を見せないし」

姉「まあ、私も勉強に勤しむといたしましょうかって、あれ?」

姉「…この荷物、届け人が友ちゃんだ」


(同 8月16日夜)


ピンポーン

姉「はい、今出ま~す」

姉「…………」バタバタ

ガチャ

姉「あ、お隣さんでしたか。お久しぶりです。友ちゃんからお荷物届いてました」

姉「…って、うわあ!」

ギュッ、ナデナデ

姉「???」


(同年 8月31日)


姉母「姉~、ちょっと来てくれる~」

姉「は~い」

姉母「…最近、お隣の奥さんが元気ないの知ってる?」

姉「うん、友ちゃんが居なくて寂しんだと思う。…私も妹や友ちゃんの声が聞けなくて、調子が狂ってるもの」

姉母「やっぱりそうよね~。それでなんだけれど、少しお裾分けをお届けして欲しいの」

ホカホカ

姉「うわ、上小麦粉の蒸しパンだ。高かったでしょ」

姉母「ふふふ、凄いでしょ?…それもこれも妹ちゃんの頑張りの成果。早く帰ってこないかしら」

姉「うんうん、あの子絶対に喜ぶと思う!」

姉母「じゃあ、お隣さんに宜しく言っといて~」

姉「うん、わかった!」バタバタ


ピーンポーン…


姉「こんにちは!おばさんいらっしゃいますか~」

ガチャ

友母「あら、お隣の…」

姉「こんにちは。今日はお届け…」

友母「……ヒッ」ガタガタ

姉「? あの…、お届け物の蒸しパンを母から」

友母「…あ、ああ。そうなの。ありがとう。お母さんにお礼を言っといて」

姉「はい。それでは失礼します」ペコリ

友母「…………」

友母「…あ、あの、確かに貴女の家も『施設行き』の方が」

姉「妹です。今頃何をやってることやら…。食べ過ぎてお腹壊してないか心配です」

友母「そ、そう…。なら見て欲しいモノがあるの」


姉「お邪魔します」

友母「…………」

姉「それで見せたいモノというのは、以前の友ちゃんからの届け物ですか?」

友母「……ええ」

姉「…何となく、おばさんの表情からあまり『良くないモノ』だったようですね」

友母「…………」ブルブル

姉「すいません。では、『とても大切なモノ』だったのですか」

友母「…………」コクリ

姉「分かりました。…それで、『目的のモノ』は友ちゃんの部屋で間違いありませんか」

友母「…………」コクリ

姉「おばさん、私は友ちゃんではないですけど」ギュッ

友母「あり…、ありがと」ガチガチ

トントントン

姉「それじゃあ、開けますね」


(友母の独白)


友母「8月15日」

友母「あの日、私達夫婦は『施設』に呼ばれた」

友母「『久しぶりに我が子に逢える』」

友母「…その行為の、何と心震えたことか!」

友母「私達夫婦は、あまり学は無い…」

友母「しかしその娘は、国のために働いて、国から期待を受けて生きている!」

友母「真夏の向日葵に並ぶ笑顔と、天使に負けぬ声を持つ私達の愛娘!」
   
友母「あの子が皆に認められ、皆のために生きている!」

友母「……ああ」

友母「今は貴重な化粧をふんだんに、普段は着ない余所行きに着替えて、
   政府からの出迎えの黒塗りの車に乗り、胸を張って『施設』に向かう」

友母「…なんと誇らしかったことか!」


友母「…しかし、『施設』で私達を出迎えたのは、痩せギスで暗い表情のいやらしい男」

友母「夫と私の姿を見るなり、ニンマリ腐った笑みを浮かべ、たった一枚の紙切れを渡したのみ!」


『お父さんお母さん、ごめんなさい。いってきます』


友母「震えた娘の文字!」

友母「そして続くニンマリ男の言葉、『もう帰って良いですよ。家には娘さんからの《プレゼント》が届けられたはずです』」

友母「…………」

友母「泣き崩れる私と、夫の怒声に『施設』は耳を貸さず、静かにシャッターが降りていきました」

友母「…愚かな夫婦が帰路についたのは、琴座が南中を過ぎた頃でした」


友母「貴女の家に《プレゼント》を取りにいったのは、次の日の夜遅くでした」

友母「オルフェウスは愛する妻を、私達は愛する娘を冥府から取り返しにいくつもりで、夫婦は貴女の家に向かいました」

友母「…チャイムを鳴らし、数秒間」

友母「あの時ほど一秒を長く感じたことはありません」

友母「……1秒2秒」

友母「顔を覗かせた貴女は、純真無垢な笑顔で言うのです」


『あ、お隣さんでしたか。お久しぶりです。友ちゃんからお荷物届いてました』


友母「私達は、許しが欲しかったのかも知れません」

友母「貴女を精一杯抱きしめました」

友母「貴女に沢山キスをしました」

友母「そうすることで母親たろうと、そうしたことで父親たろうと……」

友母「……」


友母「けれども、神様は私達夫婦をお許しにはなりませんでした」


友母「女の私では抱えきれない大荷物の封を切ろうと心を決めたのは、その日、日付が変わろうか変わるまいかの時間帯です」

友母「…………」

友母「まず出てきたのは、梱包材と数枚のdvd。それから『必ず先にご確認下さい』の説明書」

友母「『ああ、これは娘からのビデオレターだ』と、夫婦は確信しました」

友母「私達夫婦は、指示に従いプレーヤーにdvdを差し込みました」

友母「…………」

友母「暫くの砂嵐の後、テレビ画面に娘の顔が映りました」


友母「貴女も御覧になりませんか」

友母「…親バカの私がいうのもなんですが、本当に綺麗なんです」

友母「目鼻立ちの整った顔に、恐らく初めてしたであろう薄化粧」

友母「…おっかなびっくり、そんな控え目な顔で微笑むあの娘は、本当に天使の生まれ変わりの様でした」

友母「けれども、くりっとした鳶色の眼は何か覚悟を決めていることだけは分かりました」

友母「…やがてカメラはズームアウトし、娘の肩までを映し出します」

友母「この間、娘は一言も喋ってくれません」

友母「ただ困った様に、泣きそうに微笑み続けるだけです」


友母「やがて時間と共に、次第にズームアウトは続きます」

友母「快活な娘は高級なビスクドールの様に、可愛いらしくも微笑ましい格好を身にまとい、清楚に佇んでいます」

友母「…………」

友母「そして次に、男が画面に映り始めます」

友母「残念ながら男が話す言葉が何語かは解りません。…ただ、男が言葉を発する度、娘の笑顔が非常に強張っていくことだけは分かりました」

友母「…娘は気丈でした」

友母「恐らく私達に心配させぬ様に、必死になって微笑んでいるのであろうことが見て取れました」


友母「…遂に部屋の全貌が明らかになります」

友母「古風な彩りに、王公貴族に相応しい立派なベット。娘の枕元には、大きな熊のぬいぐるみ」

友母「…とても娘の趣味とは思えません」

友母「やがて男は、娘に何かを命じます」

『~~』

友母「娘は、ここで初めて声を出してくれました」

友母「それは、何処かの国のお伽噺でした」

友母「ゆっくりと、幼子を寝かしつける澄み渡った声で、娘は物語を紡ぎます」

友母「…聞いたことの無い遠くの国の出来事で、一篇一篇は短く、夜語り、千日一夜物語のように」

友母「…………」


友母「それから、1つの話が終わる度、男は娘に掛けられたシーツを一枚一枚脱がしていくのです」

友母「…………」

友母「シーツが終われば、次は娘の衣服にも男の手は伸びました」

友母「男のこの『作業』の間、ずっと娘は羞恥に顔を赤く染め、静かに物語を読み上げ続けます」

友母「…………」

友母「やがて娘がブカブカのフランス人形から、下着だけの半裸になるころ、やっと私達は娘の異常に気づきました」

友母「何故娘が抵抗しないのか、何故男にされるがままなのか」

友母「…………」

友母「もうお分かりでしょう。


友母「抵抗するも何も、娘は四肢自体が存在しない肉達磨だったのです」


友母「…いえ、正確には上半身は二の腕半ばで、下半身は太股半ばで」

友母「切断面が見えぬよう傷口は薄布で覆われ、娘は痛々しい笑みを浮かべていたました」

友母「…そして、娘の『お話』には涙声が混じり途絶えがちになります」

友母「けれども、その都度男は娘に何かを囁きかけ、『お話』は最後まで紡ぎ続けられました」

友母「…………」


友母「物語が終わると、後には泣き顔で芋虫の様に跳ねる全裸の娘と、例の男だけが残りました」

友母「…………」

友母「娘は何度も母国語で、『死にたい』と繰り返し呟き、暴れています」

友母「そんな娘を、男は無表情で罵声を浴びせながら何度も殴りつけました」

友母「…娘が静かになると、今度は娘の首に首輪をつけ、猫の耳のついたカチューシャを娘の頭に乗せました」

友母「そして娘にカメラの方を向くように命じると、今度はリードを首輪につけ、乱暴に娘をベットから引き摺り下ろし、部屋の中の散歩を始めました」

友母「…娘は耳まで赤くなりながらも懸命に男の後に続こうとしますが、不揃いな手足ではどうすることも出来ません」

友母「何度も転びながら、部屋の中をグルグルとまわり続けます」


友母「男は娘の『散歩』に飽きると、子供の握りこぶし大の球体が3つついた尻尾を、
   娘の肛門に押し当て、ゆっくりと差し込みました」

友母「…そうして苦痛に歪む娘の顔を見ては、あざけ笑うのです」

友母「1つ目の珠が入ると、娘は哀れみと懇願の表情で男を見上げました」

友母「…しかし男はあまり気にした様子もなく、楽しげにその怯えた表情を楽しむのです」

友母「…2つ目は強引に、3つ目の珠は一旦1つ目を引き出してから一気に貫きました」

友母「娘は気を失い、半開きの口を痙攣させ、涙と涎まみれの状態でその場に崩れ落ちました」

友母「そうしている間にも、男は自らの逸物を取り出し、娘の口にお構い無しに突き立てます」


友母「…まだ年端もいかぬ娘は、苦痛と恐怖で声ともならぬ呻き声を上げ、
   目を白黒させていました」

友母「娘の肩まで伸びた美しい金髪は忽ち吐瀉物と唾液にまみれ、
   高そうな絨毯は娘の尿で汚れていきます」

友母「…やがて男が果てると、娘は塞き止められていた内容物を盛大にぶちまけ、
   嗚咽を漏らし、『殺せ殺せ』と連呼するようになりました」

友母「男は喚く娘の頭を掴み挙げると、吐瀉物の海に、娘の顔面を何度も擦りつけました」

友母「そうして、娘にその舌を使っての床掃除を命じ、
   精液とも胃液ともつかない『なにか』を処理させていきました」

友母「…全てを自分の中に収めた時、娘は精魂を尽きた虚ろな眼差しで宙空を見つめ、
   その顔を男がズームするところで、映像が切り替わりました」


友母「その後男は、鈴付きのピアスを娘の色素の薄い乳首に穿ち、…女性器の中心にも指輪大のピアスが貫かせました」

友母「…当然麻酔をかけた様子もありません」

友母「…………」

友母「娘の声は嗄れ、もう悲鳴とも絶叫かも解らぬ声になった頃、男は娘に歌を唄うように命じました」

友母「何の歌かは不明ですが、曲調などから、いつもの娘のアドリブの歌詞だったのだと思います」


『お父さんお母さん、ごめんなさい。いってきます』


友母「あの歌詞は、あの手紙の通りでした」


『お父さんお母さん、ありがとう。こんな私を産んでくれて…』


友母「女の喘ぎと、男の圧し殺した息づかいの中、娘の唄は響き続けます」


『私は両親に恵まれました。
私は友人に恵まれました。
私は良き人に恵まれました。

育てて下さってありがとう。
見守って下さってありがとう。
今となってはこんな身体の私ですが、それでも、私は幸せを見つけることが出来ました。

お父さんお母さん、ありがとう。いってきます。』


友母「…そして最後に、『ありがとう』と一言呟き、焦点の合わぬ娘が弓なりに仰け反ると、後にはもう何も映してくれませんでした」

友母「愚かなる夫婦の、愚にもつかぬ独白、ご清聴に感謝を!」


(再び 友母の家)


姉「…それではやはり」

友母「ええ、ご想像の通り、二重蓋の下からは娘の手首と足首の悪趣味な剥製が見つかりました」

姉「…………」

友母「妹ちゃんは、《食》を選んだけれど、それは一体…」

姉「…ありがとう御座います。御二人の生々しい傷痕を見て、私のやらねばならぬ事、進むべき道が見つかりました」

友母「それは何より…」

姉「いえ、それと1つお願いがあります」

友母「何か私に出きること?」

姉「…友ちゃんの『ビデオレター』を捨てないであげて下さい。きっと貴女への感謝の告白だったのだと思います」

友母「…………」コクリ


ギュッ…ナデナデ


その日を最後に友母は姿を消すのだが、地元警察が事件として扱うことはなかった。


(同年 9月21日)


先生「姉君、やはり決心は堅いのかね」

姉「はい。私は妹をあの地獄から救い出す道を選びます」

先生「…………」ジロリ

姉「…………」キッ

先生「…分かった。こちらが『施設』転入の為の書類だ」

姉「ありがとう御座います。この御恩はいつかお返し致しますね」ニコリ

先生「…………」

スタスタ…ガラリ

先生「待ちたまえ」

姉「まだ何か」

先生「…ああ、こちらの書類にもサインしていくと良い。きっと君の役に立つ」

姉「どうも、御丁寧に…」


(幕間)


まもなくして、2つの書類が政府に受理された。


1つ目は、『施設』転入のもの。

姉はアンケート表の配布を待たず、当日役場にて妹と同じ《食》に○を付け、晴れて『施設』内部への潜入に成功する。


2つ目は、『婚姻届』

こちらは男性教諭から預かったもので、
姉は、この書類に近所の犬の名前と肉球スタンプを押して提出。
男性教諭は国内初の異種間結婚を成し遂げた人間として、その名を歴史に名を刻む。

この快挙は、同年10月3日の地元紙朝刊によって大々的に取り上げられるが、
翌4日に離婚届けが提出され、それ以降、男性教諭は行方不明となった。


(同年 10月1日)


指揮官
「…貴女が第6期入隊の姉君か」

姉「はい、姉と申します」ニュウタイ?

指「分かった。君は非常に優秀な人材と学校側より連絡が入っている」

姉「……いえ、そんな」

指「謙遜しなくて良い。政府は君の入隊先を心待ちにしていた」

姉「はい」

指「そして、君に入隊したい希望先があるのだとも聞いている。…それは何処かね?」

姉「い、妹と同じ勤務先を」

指「ふむ、《メイド部隊》か。まあ適材適所と言えん事もない」

姉「それでは!」ブタイ?

指「…残念ながら、私が如何に権力があろうと、妹君のいる第4期生の小隊と同じにしてやることは出来ぬ」

姉「……」ショウタイ?


指「不満そうな顔だな。…もう少しポーカーフェイスの技術を学ばねば《立派なメイド》とは呼ばれんぞ?」

姉「…し、しかし」

指「馬鹿者おおおおおおおおおおおッッッ!」

姉「……ビクッ」キーン!

指「しかしも案山子も駄菓子もあるものかッttttt!!」

指「…君は誰しも、『白衣を着れば《女医》』、『ナース服を着れば《看護師》』に為れる危険分子かねっ!!!」

姉「い、いいえ…」

指「うむ、君が完璧な市民であることを期待する。…良いかね、《メイド》とは19世紀…」


クドクド(中略)クドクド


指「…以上である」

姉「ご、ご教示ありがとう御座いました」


テクテク

姉「つまり、要約すれば…」

姉「《現代メイド》発祥の地、日本において、何故《ユキ・コトノミヤ》以上の《メイド》が誕生しにくいか」

姉「《メイド服》を《割烹着》に変換すれば、
  …実は、【男性から見た理想の女性像】は古今東西変化してないのではないか」

姉「メイドとウェイトレスの違いとは何か」

姉「この3点をレポートにすれば、きっと何か見えてくるに違いない」

姉「…………」カリカリ

姉「…………」フム


姉「……zzz」スースー


(《メイド》の独白)


妹「私は妹」

(いえす、あいあむりとるしすたー)

妹「生来引っ込み思案で、姉依存の強い私は、配置先の教官から姉離れの特訓を命じられた」

(いえす、あいあむりとるしすたー)

妹「母国を離れて3日。早くも姉さんが恋しい」

(いえす、あいあむりとるしすたー)

妹「だが、まだ会うことは許可されていない」

(いえす、あいあむりとるしすたー)

妹「…今はこうして、私はスマトラの戦場を駆ける一介の《メイド》に過ぎない」

(いえす、あいあむりとるしすたー)

妹「それじゃ姉さん、今日も行ってきます」


妹《…いえす、あいあむりとるしすたー》


妹「…スマトラの朝は早い」

妹「豪韓二国間戦争の後、両軍の脱走兵はインドネシア各地で武装蜂起を起こしている」

妹「彼らの発砲音こそ、私達の朝の《任務》の始まりだ」

妹「相手が元豪兵ならば話が早い」

妹「…単純に『一撫で』するか、数が多ければ、最寄りの多国籍軍駐屯地までの伝令を走らせる」

妹「問題は、相手が元韓国兵だった場合」

妹「こちらは、まず熱意の方向性が違う。…彼らは略奪の第一選択が『女』であることが多い」

妹「それも年齢制限や倫理観が崩壊した人間が多く、彼らと出会えば、《即時捕縛》か《即時射殺》が許可されている」


妹「…先のベトナム戦争のトラウマは、何処の国も同じらしい」


妹「勤務先の文句は山とあるが、誉めるべき点も無かったとも言い切れない」

妹「私は、幼馴染みの幼とこのスマトラで再開を果たした」

妹「聞けば、意外なことに、彼女は《メイド部隊》配属以前から、このインドネシアに駐留していたらしい」

妹「彼女は頭が良く、経済危機以降も昆虫学者を目指し、第1期生に混じってボルネオ島で臨戦研修を受けていたのだそうだ」

妹「初任務の私にとって、彼女の存在を得たことは生還率を大幅に上げるに違いない」

妹「…………」

妹「それに頭が良く、沈着冷静な姿は姉さんの姿を彷彿させる」

妹「健康的な日焼けと少し汗臭い点は違うけれど、彼女の隣は心地好い」


妹「…毎晩、彼女の枕と自分の枕を交換しているのは内緒である」


妹「スマトラの昼は地獄だ」

妹「近くの川からの羽虫が酷く、暑さに負けて不衛生な水を飲めば命取りになる」

妹「幸い、本日より多国籍軍内の青ツナギの好青年から蚊帳を借り受けることに成功」

妹「これを受けて、防虫スプレー臭いメイド服を脱ぐことにも成功し、束の間の涼を取る」

妹「…正直、故障の多い発電機よりも、蚊帳の方が我ら《メイド部隊》に貢献していると思う」


妹「尚、発電機はsoxy製だと記憶している」


妹「スマトラの夜は長い」

妹「…我ら《メイド部隊》の主目的は、現地の治安維持と意気向上」

妹「夜伽関係は、現地で春を売る女性達からの抗議もあり、両者合意の場合を除き禁じられている」
  
妹「だから、専ら担当地区の見回りと、仲間とのお喋りだけで1日が終わる」

妹「…………」

妹「その一方で、脱走兵らによる夜襲対応も任務となっている」

妹「圧倒的火力を持って殲滅し、不可能と判断すれば逃走、本部への報告が義務となる」

妹「現状、総勢12名の《メイド部隊》は大した戦果もなく、同時に被害もない」

妹「なにも無いことは、退屈ではあるか平穏である」


妹「…尚、強制夜伽は、延髄蹴りをもって返答としている。男性諸君は注意されたし」


(同年 11月1日)


姉「祝、メイド研修1ヶ月」

姉「…………」

姉「《メイド》という職業の特殊性など、レポートを仕上げるまでもなく、着任当初から理解していた」

姉「…コードネーム《マホロ》《ユキ・コトノミヤ》《エマ》など」

姉「礼儀正しさ、清潔感、包容力のある身のこなし」

姉「彼女らから得た《メイドスキル》は数知れない」

姉「…偉大な日本の先達に対して、ただ頭を下げる以上の作法を私は知らない」

姉「…………」


姉「私の研修先は、日本の東京都、神奈川県、兵庫県の3ヶ所の中から選ばれるらしい」


(同年 11月3日)


姉「…ここが日本か」

姉「やはり、【fate/zero】の再放送で兵庫県を選ぶ当たりに、私が『日本通』を名乗れぬ由縁があるに違いない」

姉「ふむ、待ち合わせは三ノ宮の画材屋か」

姉「…こんな地下街は我が国では珍しい」

姉「それに見る人見る人、皆が若い。日本は高齢化社会でなかったのか。信じられぬ」

姉「ああ、すいません」

姉「…うむ、ぶつかっても率先して元気に謝れば事なきを得る」

姉「『良くぞ日本人に生まれけり』、とは実に上手い表現だと思うぞ」

姉「あまり時間が無いな」


姉「ああ、神戸牛という贅沢は言わぬ。…せめてハイカラうどん、ぼっかけを食しておきたかった」


【画材屋・銀杏と茶碗蒸し】


姉「失礼する」

店主
「これはこれは…。神戸は古くからの洋人街だけど、こんな小さなお客様は初めてだ」

姉「人を見かけで判断するな。例え小さくとも、私は立派なレディでありメイドである」

店「そうだね。僕も(21)の一派閥を預かる身。…年齢的特徴に基づいた発言、お詫び申し上げる」ペコリ

姉「…いや、私も多分店主の立場であれば驚くと思う。こちらこそよしなに」ペコリ

店「それで本日のご用件は」

姉「待ち合わせを」

店「何だ、『異国の旅行者』とは君のことかい」

姉「すまぬ、本来なら筆の1本を仲介の礼として買うのだが、ここの筆は皆高価だ」


店「いいさ、気にするな。お礼なんて青ツナギの青年からもう頂いている」


店「それより、何かお腹に入れないかね」

姉「御厚意に感謝する」

店「君の日本語は、まるで古の武将のようだ。可愛らしい身なりとは裏腹に、随分と厳めしい」

姉「…変、だろうか」

店「いいや、それが君の味というものさ。…少なくとも私は好感を覚える」

姉「そうか、なら良かった」

コポコポ…

店「ほら、お茶もどうぞ」

姉「ええと…、確かこれは今川焼き?」

店「ふふふ、多分兵庫県に限れば、これは御座候という。今川焼きと同じ回転焼きの一種だね」

姉「…ござそーろー?」

店「そうそう、御座候でござそーろー」

姉「…………」ハムハム


店「むむう、ジャンボ餃子もあるけど、お茶受けにはならないかなあ…」


カランコローン


男「…失礼」

店「やあ、今日は千客万来だね。何かご用かい」

男「ん、その子は?」

店「君の待ち人はここで昼飯を食べてる。良かったら君も食べてくかい?」

男「…それなら台所を貸して頂いても?」

店「その心は?」

男「ん、姫路駅の名物『えきそば』をば。当方つまみの穴子ずし、食後の火打焼きも完備」

店「さすがご当地フリーク」

男「…単にミーハーなだけです」

店「ご謙遜を。是非とも御相伴させとくれ」

男「いつも御世話になってますし。こんな些細な物で宜しければ」

店「定住生活者は他の土地に憧れるもの。次は姫路城を担いで来たまえ。…そうすれば、僕は君に愛すら語るだろう」


男「ん、遠慮させて頂きます」


【新快速・播州赤穂行き】


姉「知ってるか、神戸の夜景は100万ベリーなんだそうだ」

男「ん、そうだな」

姉「知ってるか、神戸の中華街は4000年の歴史があるそうだ」

男「ん、多分な」

姉「知ってるか、六甲山には役行者という灯台守りがいて、山に訪れた人間を歓迎するらしい」

男「…ん、それは心霊スポットだから、あまり近寄らない方が良い」

姉「むう、つまらん」

男「すまんな。去年、神戸のチーム《リース・ウェン》が配置移動になり、今回の新人研修も移動したんだ。悪いが諦めてくれ」

姉「…いいや、気にしないでくれ。『御主人さま』」

男「っ!」


ヒソヒソ


乗客a
「…変質者かしら。あんな小さな子にメイド服なんか着せて」

乗客b
「やっぱりあれよ!オタク!ああいうのがいるから、犯罪が起きるのよ!」

車掌
「そうですよね~。鉄道警察呼びましょうか、未然に防ぐのが我らのジャスティス」

乗客cdef
「「……チッ(舌打ち)」」

青ツナギ
「…………」ニヤリ


姉「どうした『御主人さま』。頭を抱えてないで、次の行き先を教えてくれ」

男「すまん、『御主人さま』は車内で禁止。周りにいらん誤解を生むことは好ましくない。何か別の呼び名を頼む」

姉「? わかった」


(相生駅のりかえ)


姉「…休まずとも平気か、顔色が優れないぞ」

男「ん、んんん」

姉「…先刻の妙な黒服にイチャモンつけられたのが原因か」

男「…………」

姉「だとすれば申し訳ないことをした」

姉「そなたは私に劣情を抱いておらぬ。…そなたは私に『御主人さま』と呼ばせて興奮したりせぬ」

姉「みんなみんな、私が初めての日本に浮かれていたことが悪いのだ」

姉「すまぬ、私はそなたに迷惑をかけた。これでは《メイド》失格だ。…ヤポーン・スタイルでは、こんな時ハラキリかシュットウせねばならんと聞く」

姉「そこのコーコーセー、近くに六条河原は無いか」

高校生
「………え?」キョトン


男「ん、失礼」

高「……ええと、誰?」キョトン

男「や~、突然ごめんよ。この子時代劇で日本語覚えたらしくて、やれ富士山だ、やれ熊野古道だの見せろって煩いんだ」

高「なるほど!」ナットク

姉「?」

高「いいかね、お嬢さん。六条河原とは京都に存在するかつての刑場跡のことで、今いっても大してみるべき点は少ない。
  …ならば代わりに嵐山方面の鳥辺野には…ウンタラカンタラ」

姉「!」

男「…いかんな、踏んではならぬ地雷を踏んだか。
  …姉君、戦略的撤退の判断を…」

姉「承知!」スタコラサ


高「…二尊院と落柿舎について…ウンウンチクチク」


(佐用駅到着)


姉「ここは何処?」

男「私は誰?」

姉「…冗談無しで質問だ。ここが今回の研修先か?」

男「ん、まあ焦るな。今日はこの町に一泊する予定だ」

姉「なるほど。私の国とも町の空気の感じが似ている。意外と親しみ易いかも知れん」

男「そりゃ結構。…タクシーを呼んでくるよ」

姉「また移動か」

男「否、ほんの15分くらいだ。疲れたら眠っても良いぞ」

姉「残念ながら、『御主人さま』より先に寝るメイドは存在しない」

男「職業熱心大いに結構。…けど、解らんかも知らんが『御主人さま』もお休みしてるんだ。張りつめ過ぎると死ぬぞ」

姉「…馬鹿にするな」


ブロロロロロ…


姉「……zzz」クークー

運転手
「こんな片田舎に外人さんとは珍しい。兄ちゃん別嬪さんだからって、変な場所に連れ込むなよ」ガハハ

男「…………」

運「冗談だよ冗談。…あんたらもう神戸の方は見てきたらしいじゃねぇか」

運「今の神戸はリンス・シャンプーだか何だかのが古参外人部隊が引き上げて以降、荒れ模様が続いている」

男「…下手に手を出さずに、こっちに来て正解だったわけか」

運「そうだとも」

男「だが、それなら三ノ宮を合流地点に選んだのは失敗だったか。この娘の顔を覚えられた可能性もある」

運「その点は安心しな。もう画材屋の兄ちゃんが手を回してくれてるよ」


男「どういうことだ?」

運「奴曰く『只の気紛れ』らしいが、…昼間、(21)同盟のメンバーを使って兵庫県全域に異常な圧力を加えている」

男「…………」

運「(21)同盟は、経済危機後、ほんの偶然明るみに出た新参の組織だが、
  実際は、もっと古くから何度か名前を変えて日ノ本に存在していた古参の集団だ」

男「…(21)同盟、か」

運「そんなわけで、今や兵庫県全体が肩入れしているといっても過言じゃない」

男「そこまでだったとは…」

運「明日には西日本全域に圧力がかかる予定だ。だから、逆にその娘の顔自体が地域安全フリーパスになるってなもんだ」

男「…………」


運「…さてと、そろそろ目的地に着くぜ。荷物とその娘さんを起こす準備を忘れんなよ」


(某山中 宿泊用ロッジ前)


男「さてと、お姫様そろそろ起きて頂けますか」ユサユサ

姉「…………」

男「おい、自称メイドの姉殿。起きれ起きれ」ペチペチ

姉「……zzz」

男「仕方ない、今日の所は大目にみてやるか」

女「そうですね。きっと慣れない長旅だったのでしょう。…私で宜しければお手伝い致しますよ」

男「ああ助かる。悪いがその子をロッジまで運んでくれ。こちらは研修機材を下ろそう」

女「…承知致しました」スタスタ

男「…………」オイヤッサ


エッチラオッチラ


男「時に…」

女「何でしょう?」

男「…どうしてこんな時間帯に、君の様な若い女性がいるんだ?」

女「天体観測に偶然訪れていた奇妙な女、では説明になっていないと」

男「…苦しいとは思わないか?」

女「ですね」クスクス

男「話す気は無い、か」

女「いえいえ、そうでは御座いません」

男「?」

女「申し訳ありませんが、明日の朝食時にでも御説明致しましょう」

男「…………」

女「御安心を。私はこの子の味方です」ニコリ


男「」キッ

女「まあ、怖い怖い。
  …それで、今夜の夜具は何人分御用意しましょう?」

男「…3人分だ」

女「おや、紳士の方で御座いましたか」スチャッ


ガサガサ…


男「…ん、何だ?」

女「はい、紳士を殺す理由はこちらにはありません。草陰の護衛には武装解除を命じました」


男「…既に包囲済みなのか」ハァ


【西播州天文台公園内】
(同年 11月4日)


女「おはようございます」

姉「お、おはようございます」

女「元気そうでなによりです」ニコリ

姉「は、恐縮です」

女「今日より新人メイド研修を行いますが、まずは自己紹介を」

ペコリ

女「私は《メイド部隊》極東支部の支部長補佐、コードネーム《エルシェラント・デモン・アノイアンス》と申します」

姉「…………」ゴクリ

男「知ってるのか?」

姉「顔だけを。その名は最強にして最悪、我が国が誇る第1級メイドの中の1人だ」

男「ん、要するに凄腕ってことで良いのだな」

姉「…………」コクリ

男「分かった。信用しよう」


姉「新人メイド、姉だ」ペコリ

男「日ノ本国側《メイド》教官、男」ペコリ

女「はい、知ってました。それでは御指示をお願いします」クスクス

男「…作戦説明に移らせて頂く」ハァ

姉「…………」ドキドキ

男「今回の任務は、新人《メイド》研修。
  我々は姉君の本国からの要請を受け、疑似家族として姉君の《メイド》技能学習に努める。
  この日ノ本は、ほとんど一般人が銃器を持たない特殊な国だ。
  当然、我々の携行する武器に制限がかけられ、極力『そうした訓練』は行わない方針でいく」

女「はい、承りました」ニコリ

男「次に姉君…。
  姉君には、暫くの間この町で過ごして貰う。
  具体的な作戦内容は、その都度開示していく形になるが分からない事は何でも聞くと良い。
  …柔軟な対応が求められる任務になるが、必ず君の役に立つものとなるだろう」

姉「イエス、マイマスタ-」

男「エルシェラントさん。既に『御主人さま』がいる貴女には、『従姉』として、姉君の補佐を頼みたい」

従姉「ええ、宜しくお願いします」ペコリ


男「質問が無ければ、早速現地散策に向かおうと思う」

従姉「それではお車の手配して参ります」ペコリ

男「…ああ、ありがとう」


ガチャリ、パタン


姉「…………」フゥ

男「…友母さんの件は既に『適切な』処置が取られている」

姉「!」ビクッ

男「君の本心が何処にあるかは分からん。だが、今はつまらない事を考えるな。自分のことだけに集中しろ」

姉「…………」

男「それから俺のコードネームは《兄上》とする。宜しく頼むよ」

ポン、ナデナデ


姉「…分かりました。『兄上』」


【スマトラ島従軍日記】


妹「スマトラの密林は深くて暗い」

妹「…昨日、幼から連絡が入ったのだが、どうやら北の集落が脱走兵の襲撃を受けて壊滅したらしい」

妹「防衛隊は奮戦したものの、交戦から15分足らずで連絡が途絶え、多国籍軍の増援が駆けつけた時には村人の死体ばかりが転がっていた」

妹「遺体は男性が殆ど。女性の方は影もかたちもなく、元韓国籍の脱走兵集団の仕業と推測される」

妹「我ら《メイド部隊》も件の集落に向かい、遺体の埋葬作業を手伝うように要請がきているらしい」

妹「『にらみ合い』で終わった戦争の尻拭いとは、全く手間を取らせてくれる」


妹「だが、暗いニュースばかりでは無い」

妹「遂に、私にも部隊名《ロベルタ》を名乗る権利が与えられた」

妹「筆不精な私が日記をつけようと思った原因も、主にそれだ」

妹「私が黒髪ではないのが残念だが、それでも嬉しい。幼との仲も良好」

妹「さて、そろそろ彼女との交代時間になる。本格的に暑くなる前に、埋葬作業に勤しもう」


「いえす、あいあむりとるしすたー。貴女の妹は今日も元気です」


【スマトラ島従軍日記2】


妹「スマトラの飯は美味い」

妹「北の集落が襲撃を受けてから、今日で一週間」

妹「我々の懸命の捜索で、暴行を受けた女性の発見が相次いでいる」

妹「想像以上に死者が少ないのは、繰り返し『使える』様に一時解放するからなのだそうだ」

妹「…全く吐き気がする」

妹「被害女性は膣洗浄で肉体的な回復は認められるが、ptsdばかりはどうしようもない」

妹「我々チーム《ロベルタ》も、彼女らの突発的な自殺を防ぐべく、相談役に徹している」

妹「己の無力さが恨めしい」


妹「こうして食事の話題ぐらいしか明るいニュースが無いのは、本当に辛いことだ」

妹「我々は昼間、余裕のある笑顔をもつことが義務付けられている」

妹「…実はこれが結構辛い」

妹「自分の『御主人さま』が居る仲間はまだ良い」

妹「心の支えのない独り者の野良メイドは、夜中にひっそりと泣くしかないのだ」


「いえす、あいあむりとるしすたー。
貴女の妹は、来月の体重測定が心配です」


【スマトラ島従軍日記3】


妹「スマトラの雨は優しい」

妹「本日未明、遂に私達《ロベルタ》は初の夜間戦闘を経験する」

妹「北の集落の壊滅以降、我々は集落内に入念な防衛陣地を構築し、何度も綿密な訓練が行われていた」

妹「小銃火器程度の武装で、我々《ロベルタ》陣地を突破しようとは実に片腹痛い」

妹「備え付けの重機関砲を前に、無策の人海戦術とは日露戦争時の旅順要塞を知らないと見える」

妹「気づけば、我々は日頃の鬱憤を彼らにぶつけていた」

妹「モグラ叩きの様に、相手が飛び出す度に火線を集中させ、確実に撃ち倒す」


妹「この一発は、誰にも頼れない我々の分」

妹「この一発は、明日の戦場掃除の分」

妹「この一発は、姉と離れて暮らさねばならぬ私の分」

妹「たった12名の《ロベルタ》陣地を相手に、敵勢が撤退を始めたのは夜明け近くのこと」

妹「心地好い爽快感と、徹夜明けの疲労感に包まれる中、我々は勝利しました」


「いえす、あいあむりとるしすたー。
貴女の妹は、一杯のお水を所望です」


【スマトラ島従軍日記4】


妹「スマトラのクリスマスは切ない」

妹「初戦闘から1ヶ月、戦場のメリークリスマス」

妹「あれから、我々《ロベルタ》のもとには各国の記者団が訪れ、その対応も我々の任務となった」

妹「…我々が女性ばかりのチームなためか、男性記者はそれなりに礼儀正しく、鬱陶しい質問責めに我慢すれば良い」

妹「だが、女性記者の厚かましさは銃殺ものだと思う」

妹「同性であることを盾に、何かあればスクープスクープと叫び、我々のプライベート・ルームにまで立ち入ろうとする」

妹「…さすがに失礼かと、丁重にお断りすれば、やれ『生意気』だの、やれ『躾がなってない』だの喚き散らす」


妹「それからイエロー・ペーパーの面倒臭さには閉口する」

妹「我々を散々アイドル扱いした後に、『御主人さま』との写真を掲載し、《熱愛発覚!》だの《裏切られた!》だの、好き勝手に書き立てる」

妹「…………」

妹「…残念ながら、私個人の扱いは小さい。多分姉さんは私が戦地にいることを知らないのだと思う」


「いえす、あいあむりとるしすたー。
貴女の妹は、素敵な『御主人さま』を随時募集しています(※要面談)」


【スマトラ島従軍日記5】


妹「スマトラの新年は寂しい」

妹「今日の朝、ジャワ島の多国籍軍施設に向けて脱走兵達の一斉攻勢があったらしい」

妹「『…らしい』とは、以前のsoxy製発電機に続き、無線の調子があまり宜しくないことにある」

妹「現在、最寄りの多国籍軍陣地に幼が確認を求めているが、回答は無い」

妹「ここスマトラ島でも、『脱走兵に紛れて正規兵も何か工作活動を始めたらしい』という未確認情報がまことしやかに囁かれている」

妹「…………」

妹「…中国内戦が終息し、大連の石油施設が再建でもされない限り、このインドネシアの混乱はさりそうにない」


妹「そういえば、最近になって一通のファンレタ-を入手」

妹「本来ならば、検閲処分の対象となる手紙は、例の青ツナギの好青年経由で手渡されたもの」

妹「内容は、私と私の仲間達の安全を祈願する拙い文章」

妹「世の中、奇特な人間がいるものだと呆れていると、手紙の消印は未スタンプのまま」

妹「…………」


「いえす、あいあむりとるしすたー。
貴女の妹は、初めての胸の鼓動を感じています」


【スマトラ島従軍日記6】


妹「スマトラの土は苦い」

妹「…連日、ジャワ島では激戦が続いている」

妹「豪韓の正規兵の噂が、限りなく黒に近いことを、誰もが知りつつ、誰もが口にしない」

妹「…我が母国に言霊の文化は無いけれど、それでもジンクスの様なものだろう」

妹「脱走兵達の襲撃も、以前の散発的な突撃から、連夜の一撃離脱へとシフトしている」

妹「我々《ロベルタ》の軍事物質も補給する先から消費している感が否めない」


妹「誰も諦めないことで、きっと私達は繋がっている」

妹「…………」

妹「…全く関係ありませんが、私は青ツナギの好青年に頭を撫でて貰うことに成功しました」

妹「そして、幼からは日本のバレンタインの風習も教えて貰いました」

妹「軍用チョコバーはあまり美味しくないので、別ルートを開拓中」


「いえす、あいあむりとるしすたー。
貴女の妹は、短期決戦型の人間です」


【佐用町の一軒家】
(2015年 1月3日)


姉「…………」パタパタ

兄「ん、姉君もメイド服がなかなか板についてきたな」

従「ええ、炬燵の魔力に屈することなく、機敏に動いてくれます」

兄「…君は働かないのか?」

従「では、みかんの皮剥きと白筋との格闘を。おひとつ如何です?」

兄「……結構」ヤレヤレ

カチャカチャ

姉「兄上、机の上を片してくれ。雑煮が置けない」

兄「ん、すまんすまん」

姉「熱いから気をつけてくれ」

コトリコトリ


ニュースキャスター
『…本日、豪韓の海軍がジャワ島沖にて集結しました』
『両軍は互いに威嚇射撃を行なった後、インドネシア政府の仲裁によって引き上げました』
『現在の所、負傷者などは確認されていない様子です』


兄「従姉君、真実は?」

従「…双方の被害が軽微だったため、日本のマスコミが情報を遮断しただけです」

兄「身も蓋もないな」

姉「?」

従「もうすぐ国連では、両国に対する経済制裁が可決される見通しです」

従「今回の件は、焦ったどちらかの国が行なった突発的な戦闘に分類されるでしょう」

兄「…………」ドモ

従「…………」イエイエ


マクマク…


姉「…お節料理も残り少ないな」ションボリ

兄「毎日食ってるからな。いつかは無くなるもんさ」ハクハク

姉「何か作ろうか?」

兄「いい。食っちゃ寝するのが日ノ本の伝統的正月だ」

姉「…そうか」

兄「そう落ち込むな。《メイド》の道も一歩から。…今頃妹さんもどっかでのんびりしてるさ」

姉「…………」キッ
従「…………」ピクッ

兄「怖いな」クスクス

姉「…………」

兄「従姉君、頼みがあるんだが良いだろうか?」

従「…はい」

兄「この子の妹らしいんだ。君の権限で引き会わせてやるにはどうすれば良い?」

従「…お兄様。それは無理です」


兄「それは任務としての《お従兄様》か、《エルシェラント・デモン・アノイアンス》としての《お兄様》か」

従「…後者です」

兄「ありがとう。…ならば此方も『無理に』事を進めてもロクな結果に繋がらんな。悪かった」ペコリ

従「いいえ、賢明な判断感謝致します」ペコリ

兄「…………」
従「…………」

姉「…兄上、すまないが何を言っているんだ?」

兄「教えても?」

従「《従妹》の教育を、貴方にお願いしたのは私達の側です。私の許可を得る必要性はありません」

兄「…了解」


(ある男の独白)


「3年前、戦争があった」

「…いや、戦争ならば遥かな昔から何度となくあった」

「彼らはビル風の街を出で、自らの同類を探してネットの海に対して振興を繰り返した」

「運に恵まれぬ彼らに、勝利が続くはずはない」

「…彼らは時代が変わったことに気付かなかった」

「炎上を繰り返しては自信を失い、少数派に戻りつつあった彼らは、比類無き妄想力を養い、それを熱意に世界に向かって最後の戦争を挑んだ」


「…それが3年前の戦争」


「彼らは甲斐甲斐しく戦い、…自滅した」

「自宅内で脳内嫁の話題を振る愚さえおかした強者たち」

「その無惨を目にした多数派は、自らの偏見を捨てようと心に誓った」

「世界に平和が訪れた」

「《彼ら》のおかげで…」

「それが永久に続くよう、日本は世界と手を結んだ」


「安定から最も遠い家庭状態で、安定者たらんと働く《彼女ら》」



《経済崩壊11ヶ月前(イエローアラート)》



「その時、私は東京にいた」

「変質者の戯言にならぬよう、机に向かい、条約の草稿に筆を走らせていた」

「総人口の10分の1が集まる狂気の都会を訪れていたのは、『メイド一筋』の共案者達がいると聞いてのことだったが、会議室が埋まる程とは思わなかった」

「この純真な瞳で発案させれば、世の微睡みも忽ち吹き飛んでしまうだろう」

「そのはずは、『自称』人権団体の介入で潰えた…」


「…後に残ったのは、『雪さんフリーク』。お蔵入りも躊躇われるa4用紙が『数枚』」

「そんな場合でもないだろうに、私の筆は勢いを増した」

「条約の第一条には、家庭のありがたさが強調され、第二項は人のありがたさが説かれた」


「…発案者の責任ではない」

「『自称』人権団体が無断で侵入してきたことは」

「そして、会議を開いている真横の土地が幼稚園の建設予定地だったことは」

「…自分至上主義者の唱えた題目のために、8人が捕まった」


『知りません』
(↑警官の任意同行に対して)

「ただ一人部屋に残っていた雪さんフリークは(警察に)視線を合わせる事なく言った」

「自分で書き上げた草案をみて、私は独り微笑んでいた」


「提出された草案は、a4用紙ごと人権委員によって取り上げられた」

「原稿無きまま、『人権』という言葉ばかりが一人歩きしていく」


(ある男の独白2)


「2013年1月27日」

「欧州での経済崩壊を切掛けに、遂に日ノ本は世界との交渉に踏み切った」

「【家族補完計画】の始まりだ」

「辛い日常に疲弊した各国は、伝統的なメイド服を前に屈伏」

「数日の内に、内戦地を除く全世界相手の協議を始めた日ノ本政府は、外国人コスプレヤーを招集」

「…欧州との連携に望みをかける」


「ここまでは、教科書にも載っている」


「だが、資料の中に、奇妙な草稿に紛れていた」

「一人の男が編纂した文章。…そしてそれに挟まれていた『本当の弱者達』の悲痛な叫び」

「情報としては不鮮明なモノが多い」

「…だが、各国はそこに惹かれた」

「世界は彼らの視点で、《何か》を創造することを考えた」


「その先には《何か》がある」

「この世界に本当に必要なものか、ただの理想論か」

「はっきりとした外形など無い」

「…存在自体があやふやだ」

「ただ、思案に暮れる国々の中から、早期に相互協力を取り付けることが出来た」


「姉という少女の国は、その中の一つだった」


(再び炬燵内)


兄「そうして昨年の今頃、世界に《何か》が生まれた」

姉「…………」

兄「何せ急造も急造。既存の組織を併合させたり、なんだったり」
姉「では、《メイド》も?」

兄「君達の部隊名や作戦名を調べてみると良い」クイクイ

従「…これが私のコードネームの源流となった少女です」

カチカチ

姉「…!!」ナント

兄「『本物』は姉君をツインテールした感じだな。可愛らしいな」

従「…自分を《何か》で枠固めし、後の立脚点とする。実に弱い人間の生き方でしょう?」

兄「しかし、世界はそれに《何か》を求め、希望を託した」


兄「…次に、破綻を前に焦る各国は《何か》の方向性を、日本の漫画やゲームに求め始める」

従「『愛嬌』と『ハッピーエンド』を兼ね備え、具体的な幸せな世界観がありますから」ニコリ

兄「…かくして、世界に平穏が訪れるはずだった」

コポコポ

姉「でも、それは子どもの持つ『楽しい空想の理論』だ」

兄「ん、その通り。虚像に自分を投射しただけで、『偽物』に浸るだけの自慰行為だな」

姉「…………」コクコク


兄「だが、そこらは後の世代が考えれば良い」

姉「………?」

兄「…早い話、今はまだ『全世界共通の新しい宗教』を立ち上げた段階なんだ」

従「日ノ本人らしい表現ですね」クスリ

兄「…姉君は、日ノ本の役人が、どうやって公務員を増やす方法を知ってるか?」

姉「…………」フルフル

兄「何でもいいんだ。《何か》理由を見つけて人を配置する。それで万事完了だ」

姉「…………」アゼン

兄「《何か》を求める人間を国で雇い入れ、多国籍派遣会社の従業員としてしまう」

従「そして、『安全性』と『透明性』が約束された職場で、『共通の認識を持つ仲間』と生活させる」


兄「まあ、参考までにだが」

姉「?」

兄「…コードネーム《エルシェラント・デモン・アノイアンス》君に質問だ」

従「はい、なんでしょう?」

兄「自分は《日ノ本国公安調査庁の人間》として、君に聞きたい」

従「…………」

兄「君の所属する団体名、本当の任務、それと精密なスリーサイズの提示を要求する」

スッ

従「『禁則事項です』」


【スマトラ島従軍日記7】


妹「スマトラ島の旧正月が近い」

妹「本日、我々《ロベルタ》は華僑街の飾り付けを行った」

妹「1月1日を新年とする我々《ロベルタ》には、旧正月の感覚はあまり理解出来ない」

妹「…しかしパーティは、皆で行うほど楽しいもの」

妹「1人で参加するパーティは寂しいが、ここには仲間がいる」

妹「…憂鬱なジャワ島の戦局を忘れられる有意義な時間でした」

妹「…………」

妹「本音を書けば、きっと心配をかける」

妹「しかし本音をぶちまけてしまいたい」


妹「そんな二律背反が、常に私達の心に存在する」

妹「そしてだんだんこの日記に何を書けば良いかが判らなくなる」

妹「…………」

妹「…きっと今日は少し寂しい日なのだと納得させ、こうして寝床で日記を閉じる」


「いえす、あいあむりとるしすたー。
貴女の妹は、生来の寂しいがり屋です」


【スマトラ島従軍日記8】


妹「スマトラの祭は騒がしい」

妹「第2のテト攻勢に備え、我々《ロベルタ》は前日に充分な休息を頂いた」

妹「昨日までの憂鬱は、現在行方不明」

妹「ここの所の苛立ちや焦燥感は、睡眠不足が原因だったらしい」

妹「ペンを持つ指先にも心なしか力が入る」

妹「…………」

妹「そんな我々《ロベルタ》も、本日の爆竹には大いに悩まされた」

妹「銃声かと警戒体制に移る我々《ロベルタ》陣地の前を、
  爆竹を持った子ども達が走り抜けたのは、一度や二度ではない」


妹「…それから、仲間の1人の妊娠が分かったのも今日だ」

妹「毎夜、『御主人さま』のもとに通い続けていたのだから、当然のこと」

妹「彼女には、安定期を迎えるまで『御主人さま』と共に住まうことが許可された」

妹「母体を気遣って、彼女らは当分非番なのだそうだ」

妹「…しかし、これからの日常業務に支障はない」

妹「ジャワ島守備隊の一部が、このスマトラ基地に『転進』している最中だ」

妹「旧正月を祝う人々の頭上を、喧しくヘリのローター音がひっきりなしに通過する」

妹「残念ながら、テト攻勢は、ジャワのほうだったわけだ」


「いえす、あいあむりとるしすたー。
貴女の妹は、今日の給食当番です」


【スマトラ島従軍日記9】


妹「スマトラの空は明るい」

妹「…本日午後、哨戒任務中の幼が姿を消した」

妹「我々《ロベルタ》はインドネシア陸軍と多国籍軍に捜査協力を要請」

妹「幼は欧州だけでなく、多くの国の新聞が一面を飾った《メイド》」

妹「それだけに、各国空軍も夜間の照明弾と軍用ヘリを用いてまで、幼の捜索を重要な任務としてくれた」

妹「例の青ツナギの好青年も、我々《ロベルタ》の警護役として派遣され、先刻まで私達の話し相手になってくれていた」


妹「もうバレンタインなんて気分ではない」

妹「『昼間、自分が彼女と一緒に行動していれば、こんな事態にはならなかった』」

妹「それが我々《ロベルタ》全員の心情だ」

妹「…………」

妹「もうすぐ日付が変わる時刻だが、幼の足取りは依然掴めていない」

妹「…そして、私は眠れそうにない」


「いえす、あいあむりとるしすたー。
貴女の妹は、今日から部屋に1人です」


【スマトラ島従軍日記10】


妹「スマトラの軍議は眠たい」

妹「幼が消息を断って1週間で、彼女の捜索は打ち切られた」

妹「これは捜索側の怠慢ではない。彼らとて、今すぐ幼の捜査に戻りたい気持ちは、我々《ロベルタ》同じだ」

妹「…………」

妹「だが、それは許されない」

妹「『ボルネオ島陥落』」

妹「この衝撃的な事実が判明したのは、つい先刻」

妹「久方ぶりに調子の良かった通信機に、一番初めに飛び込んできたのがこの緊急連絡だった」


妹「我々《ロベルタ》はインドネシアの土地勘に乏しく、西カリマンタン、東カリマンタンと言われても困惑するしかない」

妹「…だが、通信機はジャワに続き、ボルネオ島基地の撤退を伝えてくれた」

妹「東南アジア諸国が南沙諸島問題に執着する隙をついての蛮行は、ここまでの規模になっている」

妹「私達は認めねばならない」

妹「先の『にらみ合い』は、『正規軍をばら蒔くため』のパフォーマンスだ」

妹「そして我々《ロベルタ》は、最初から巨大な獣の中にいたのだ…」


「いえす、あいあむりとるしすたー。
貴女の妹は、《メイド》です」


【画材屋『銀杏と茶碗蒸し』店内】
(2015年 2月15日)


ニュースキャスター
『…本日、ボルネオ島インドネシア領にて、一部イスラム過激派が暴動を起こしました』
『暴動の規模などは、現地も情報が錯綜していて、詳しいことは分かりません』

『…次のニュースです。埼玉県熊谷市で犬のお巡りさんこと安西常陸介君が……』ドータラコータラ


店「もしもーし」

店「やあお早うさん」

店「今のテレビみたかい?…あれは酷いねぇ」

店「正直、湾岸戦争やイラク戦争の時の方がマスコミは働いていたと思うよ」ハァ…

店「…本部に確認するまでもなく、ネット上では早くも動きがありまして」

店「幸い、同じボルネオ島でもマレーシア領とブルネイ領に殆ど被害が出なかった様で…」


店「そうそう。『マレーシア領』と『ブルネイ領』」

店「特にブルネイ領なんて、暴徒が素通りして隣のインドネシア領に向かったなんて話も」

店「…ああ、やっぱりねぇ」

店「多分次に彼らは、国連の本格的な武力介入が決議前に、現地の『実行支配』を狙います」

店「…ええ、無茶な論理とは承知の上での発言です」

店「ですが、現在の多国籍軍は、【家族補完計画】に則った治安維持目的の最小限の部隊しかいません」

店「インドネシア軍もいますが、彼らの装備水準はまだ途上」

店「…近年の原油高を考慮しても、もう少し時間がかかるでしょう」

店「…………」

店「日ノ本のマスコミはイスラム過激派など嘯いてますが、裏に『脱走兵』という名の『工作員』がいることは明白です」


店「そうして、『脱走兵』による実行支配が完了すれば、『鎮圧』に向けて『本国』が軍を動かす」

店「…インドネシア政府には、『元々は我々の責任だ』とか、『今は暴徒が統治している』とかで理論武装すれば良い」

店「…………」

店「そうです、アフガン戦争と同じです」

店「後は出来レースでしょう」

店「…テケトーに戦って、テケトーに人が死んで、テケトーに『脱走兵』達は降伏する」

店「これで、インドネシアでの『原油の優先権』を得る魂胆かと」

店「え、正しいかどうかの確証をくれ?」

店「あっはっは、…ご冗談を」


店「きっともっと悪い予感がするといった僕の勘で充分でしょ」

店「…………え、駄目?」

店「なら、今度から(21)同盟謹製のお土産は必要ないと? そう仰られるわけで」

店主「…………」ヒヒヒ

店「さすが! 手が早さに定評のある御方! その風体は伊達じゃないッ!!」

店「では失礼を」

店「『イエスロリコン、ノータッチ。…汝に淑女のご加護がありますように』」

ガチャリ

店「…………」ツーツー

店「さて、今の僕が出来る根回しはこんな所かねぇ」

店「そういえば、姉君の研修もそろそろ終わる頃だ」


店「…ふむ」ピポパ


プルルルル

店「もしもーし、はろー」


【西播州天文台公園内】
(同 15日午後)


兄「…………」プツリ

姉「兄上、どうした?」

兄「ん、画材屋の店主からの電話だ。姉君の近況を聞きたかったらしい」

姉「ふむ、また一緒にお茶を飲みたいものだ」

兄「止めとけ」

姉「悪人には見えなかったが?」

兄「…本当に悪い人間とは、普段は本性を隠すんだよ」

姉「そうか、残念だ。それよりも任務の『植林作業』を見てくれ」ホレホレ

兄「…………」
姉「…………」ドキドキ

フムフム

兄「…ん、初めてにしては良くやったな。凄いじゃないか」

姉「そ、そうか」テレテレ


兄「時間も丁度良い。一端家に帰って飯にしよう」

姉「…………」コクリ

スタスタ
テクテク

姉「…でも兄上、どうしてメイドが『植林作業』を行うのだ?」

兄「ん、何か変か?」

姉「私達の国の常識では、メイドはハウスキーパーやベビーシッターの延長だ」

兄「…ん、だから『家事手伝い』以外は職業の範疇に無い、と?」

姉「そこまでは言わんが、まあ概ねはその通りだ」

兄「でも、君は《メイド》だろう」

姉「いかにも《メイド》だ」

兄「なら、『そういうこと』で良いじゃないか」

姉「???」クビカシゲ


(ある男の独白3)


「…まず最初に、《メイド》が古典的なメイドではなく、《メイド服》を着た個人を指す言葉でもないことを明記する」

「ただの『コスプレ』がしたければ、『仲間内』や『その筋のお店』で行えば良い」

「そう《メイド》はメイドではない」

「…我々の求める《メイド》の概念は、いわば汎用性の高い派遣社員に近似している」

「だが、目的が違う」

「《メイド》の任務は至って単純」

「《世界の歪み》を正すこと」
「『御主人さま』を探すこと」


「それが我々の求める《メイド》の在るべき姿だ」


「…《世界の歪み》とは何か」


「例えば、陸」

「世界の陸地は汚れている。砂漠化が進み、森林資源の管理が行われていない地域がある」

「例えば、海」

「世界の海は汚れている。海洋汚染や漂流物などの問題は既に諸君らもご存知の事だ」

「例えば、空」

「夜空を見上げてみたまえ、そこにどれだけの星が見える」


「そして、そんな世界の中で生きる我々に、全くの澱みが無いといえるかね」


「だが、そうした問題を、国家は長い期間放置し続けてきた」

「否…、企業間や自治体、或いは各家庭単位の問題として、努力を丸投げし続けてきた」

「酷い場合には《歪み》にすら気付かないまま」

「それは何故か」

「当たり前だ。《メイド》達に課せられた命題よりか、幾分も簡単といえよう」


「…単純に、それが『金』にならないからだ」


「故に、我々は提示したい!」

「我々は、《メイド》を国家間を越えて雇い、我々の求める《何か》の『1つ』とする」

「そして、《メイド》を《我々の共通する歪み》に当たらせることを!」


「その為ならば、我々は幾らでも何でも協力しよう」


「『安全』が欲しいかね」

「ならば、我々は多国籍軍を編成し、無理矢理にでも対象地区を『安全』にしてみせよう」

「…強姦、暴行、セクハラ」

「《メイド》を奴隷と勘違いする輩には、我々は厳罰を持って望もう」



「『賃金』が欲しいかね」

「ならば、我々は新たな共通貨幣をもってその労働を酬いよう」

「…横領、賄賂、天引き」

「《メイド》の報酬管理には、他国の監査官を義務付けるなど、その透明性を約束しよう」



「『友人』が欲しいかね」

「ならば、我々は舞台を整え、信頼出来るパートナーを傍に控えさせよう」

「…医者、軍人、sp」

「《メイド》の勤務時間以外の行動は、原則として自由とし、多くの物事に触れる機会を与えよう」


「一定期間の後、《メイド》は滞在地の変更を行うことも出来る」

「世界を旅する中で、《何か》を『何か』に変えていく」


「その中で《メイド》達が、生涯の伴侶たる『御主人さま』に巡り会う事を、我々は切に望む」


「…その時こそ、《メイド》は『メイド』となるのだから」


(ある男の独白4)


「…尚、この男性版が《執事》である」

「以上」


(同 佐用町の一軒家)


兄「ん、そんなこんなが《メイド》誕生秘話だ」

姉「……」コクコク

兄「ふふふ、凄いだろう」

姉「……」

兄「新たな概念は新たな産業に繋がるわけだ」

兄「例えば、姉君の《メイド服》も、実は批准国独自のオリジナルモデルだったりする」

姉「」ワオ!

兄「…その《メイド服》を着るには、その国の国籍を得るか、現地で働くしかない」

姉「色々悪用は…」

兄「当然ある」

兄「…敵対国の《メイド服》女性に乱暴する風俗店や、粗造なレプリカを作製した業者の摘発は後を絶たない」

姉「彼らへの対処は?」

兄「今は見せしめの意味もあり、重刑重罰が確定している」


兄「後は『偽御主人さま』事件もかなりの数が報告されているよ」

姉「…問題ばかりじゃないか」

兄「だから、デバックやアップデートが常に流動的に行われている」

姉「…………」

兄「そもそも《メイド》を含めたその他の超国家間公務員制度が、人類全体で《何か》を求めようという曖昧な構想に基づいている」

姉「問題はあって然るべき、と?」

兄「…………」コクリ

姉「デメリット以上のメリットを見込んで、の処置か」

兄「ん、まあ極論すれば、社会の構造なんて大半がそんなもんだからな」

姉「ふうむ」


兄「手厚い庇護下に置かれた《メイド》は、その土地の雰囲気に馴染むため、こうした現地研修を受けるわけだ」

姉「東京、神奈川、兵庫という選択の基準は?」

兄「何処も日本の歴史の中で、早くから異国文化があった土地だからだ」

姉「…………」ホウホウ

兄「将来的には、北海道や静岡、沖縄なども研修先に選ばれるだろう」

姉「…ふむ」

兄「君の選んだ兵庫県は土地柄、南北で複数の気候帯に属する珍しい県でもある」

姉「日本の風土を学ぶ上で、これほど適した県は無い、ということか」

兄「ご明察」


姉「それなら、何故この片田舎の小さな町が研修先になったのも分かる気がする」

兄「それは何より」

姉「…それで兄上達は、何故先程から防寒具を用意しているんだ?」

兄「ん、それはだな…」

ガチャッ

従「お従兄さま、こちらも準備が整いました」ホコホコ

姉「従姉上も温かそうな装いで…?」

従「季節柄、甘酒やホットコ-ヒーも用意してます」

兄「ご苦労様。それじゃあ行こうか」

姉「一寸待て、もう夜だ。…わわっジャンパーぐらい自分で…」ワタワタ

従「…いえいえ、ご遠慮なさらず可愛い従妹の面倒をみるのも、従姉の役目です」

ヌガセヌガセ

姉「…ひぃっ!」


ドタドタバタバタ


従「…うふふ」ホッコリ

姉「…………」ゲッソリ

兄「どうした姉君、そんな泣きそうな顔をして」

姉「…兄上、実はわかってて言っているだろう」

兄「さてな」シラジラ

従「冗談はさておきまして、そろそろあちらも準備が出来た頃でしょう。お車を用意してきます」

ガチャリ

姉「……あちら?」


兄「…ん、姉君」

姉「なんだ?」ジト

兄「君には、これから日本フリークの君でも知らない秘密の場所を案内しようと思う」

姉「?」

兄「兵庫県、いや日ノ本が誇ると言って良い」

姉「…!」ナント

兄「『西播州天文台』」

姉「ええと、それは今日私が植林していた山の天文台だろう?」

兄「…の中にある天体望遠鏡『なゆた』。日ノ本国最大級の一般開放型天体望遠施設」

兄「日ノ本は、君の母国とおおよそ同じ緯度だと聞いている」


兄「…久し振りに、君の母国と同じ空を眺めてみないかな?」

【西播州天文台 施設内】
(同 15日夜)


係員
「それではこちらへ」

姉「……」ワクワク
従「……」ニコニコ
兄「……」

係「あ、申し訳ありません。当施設では様々な観測用の精密機器を用いています」

係「そのため、機器の悪影響を与える恐れのある携帯電話などは、必ず電源をoffにしておいて下さい」

姉「うむ、わかった」ドキドキ

従「…宜しいのですか」ヒソヒソ

兄「昼間のうちに、部下に下調べを行わせている。『不審な点』はなかったそうだ」ヒソヒソ

兄「一応、spとして、どちらかが姉君と共に入り、もう片方が外を見張ろう」ヒソヒソ


従「承りました」ヒソヒソ

兄「…ところで、従姉君は星に詳しいのか?」ボソボソ

従「『ホーエイ・ノジリが冥王星の命名者だ』という程度の初心者です」ヒソヒソ

兄「誰だ?」ボソボソ

従「日本の小説家の方です」ヒソヒソ

兄「わかった。なら君に姉君の補佐を任せたい」ボソボソ

従「…例え任務であっても、《お兄ちゃん》は《お兄ちゃん》でありたいと?」ヒソヒソ

兄「…………」フイッ

従「わかりました」クスクス


トテトテ

姉「兄上、従姉上、何を内緒話している?」

従「いえいえ、何でもないですよ。係員さんご案内宜しくお願い致します」


兄「…何でもない。ほら行ってこい」

姉「? 分かった」

トテトテトテ

姉「従姉上、兄上は留守番だそうだ」

従「…了解です」クスクス

係「…………」ポー

従「係員さん?」

係「あ、はい。…すいません外国の方と話すのは初めてでして」

従「日本語でokです」ニコリ

係「ど、どうも」キレイナカタダナー

ガチャリ

ワイワイガヤガヤ


兄「…行ったか」

兄「さて、こちらも見張りを任せて貰おうかな。『見張り』をね」


【西播州天文台 展示品室】
(同 15日深夜)


カチカチ…

兄「お、日付が変わったか」

兄「こちら現在異常なし」

トクトク、コクコク

兄「…冷える夜は甘酒が旨い。本酒粕も混ぜるとは、従姉君も趣味が渋い」

別の係員
「すいません」

兄「ん、何か?」

別「はい、御来館の記念として、当館では細やかですが記念品やパンフレットを準備しておりまして…」

兄「それで?」

別「あの、ですね。…折角なら、お嬢さん方の好みの傾向を教えて頂ければ、喜んで貰えるのではないかと」

兄「なるほど」


別「お兄様、如何でしょう?」

兄「良い考えだと思う。…だが一応、安全確認に現物を見せて貰っても宜しいか」

別「はい、どうぞ!」

別「…………」ホイサ
兄「…………」ドモサ

パラパラ

兄「…なるほど」

別「どうですか? そしてこちらが記念品『当館オリジナルキーホルダー』です」

カチャカチャ

兄「ん、月に木星に、土星…」

別「竜座3000光年のキャッツアイ、牡牛座400光年のプレアデス、鯨座10億光年のパーフェクト10…」


兄「…結構種類があるんですね」

別「はい、星の数は限りないですから」ニコニコ

兄「これだけの数があるなら、本人達が選んだ方が喜ぶと思います」

別「…なるほど、確かにそれはそうですね」フムフム

兄「『選択肢は多い方が楽しい』、そうでしょう?」

別「ええ確かに。後は、星座早見やグラスなどがありますが」

兄「そちらの中身の物は昼間に此方でも確認しています。…包装もキチンとしてありますし、開封の必要はありません」

別「分かりました」

兄「いえ、御協力感謝致します」


別「参考までに、お兄様自身はどの星を選ばれます?」

兄「当然これを」

別「…………」

兄「ん、何か変な選択ですか?」

別「…いいえ、私達の町の歴史にお詳しいようでしたので、少し驚きました」

兄「シリウスを選んだ方が?」

別「さあ、どうでしょう?」ニコリ


ガチャリ


従「…お留守番ご苦労様です」

兄「お帰り、そっちも付き人ご苦労さん。姉君も楽しめたか?」

姉「うむ」コクコク

兄「…それは何より」

姉「兄上、兄上が手に持っているのは?」

兄「ん、…ああ、こちらの係員さんがお土産に下さったんだ」

別「はい、天体観測お疲れでした。こちら御来館の細やかですが記念品となります。宜しければどうぞお受け取り下さい」ドウゾ!

姉「…!」ペコペコ

姉「…それから、こちら当館オリジナルキーホルダーもどうぞ。沢山種類が御座います。お好きなのをお選び下さい」

カチャカチャ

姉「!」キラキラ


【欧州某所】
(2015年2月16日早朝)


プルルルル…ガチャリ

?「やあ、久し振りだね」

?『…貴方か』

?「ああ私だ。ところでモスクワの冬は、やはり寒いものかね?」

?『…挨拶は結構、要件は?』

?「ふむ、せっかちさは相変わらず健在のようだ」

?『…無駄がないだけだ』

?「物は言い様だな。まあいいさ…、いきなりですまないが【悪い情報】と【とても悪い情報】がある。どちらから聞きたい?」

?『【悪い情報】からどうぞ』

?「…君はそういう性格だね。これは今日、日本の同志からの報告だ」

?『結構、【インドネシアで戦争が近い】という情報なら既に此方も入手している』


?「その様子だと、もう何かしらの手は打った様子だね」

?『…黙秘しよう』

?「いいさ、どうせ今日か明日のニュースか新聞で分かる」

?『…それで【とても悪い情報】とは何だ?』

?「ああ、こちらは米国の同志達からの報告だ」

?『…それは何だ』

?「【メキシコ湾で大規模な原油流出事故が起こった】」

?『!!!』

?「…ああ、やはり流石の君でも驚くか。何か安心したよ」

?『…規模は』

?「…2010年と同規模か、それ以上。現在も全力で封じ込めに奔走している最中だそうだ」

?『…施設の老朽化を放置し続けたむくいか』

?「悪い時には悪いことが重なるとはよく言ったものだね」


?『…それなら』

?「ほぼ間違い無く、米国経済が止まる」

?『…………』

?「それに、油が無ければ軍艦なんてただの鉄の棺桶さ」

?『…日本が油を買って、米国に渡せば』

?「せっかく世界が《何か》を目指して動き始めたのに水を指すのかい?」

?『…………』

?「っと、すまん。声を荒げてしまった。私も年かな」

?『…いいえ、お気になさらず』

?「《何か》を求める原動力の日本が自由に動けるよう、私達は新たな『通貨』まで造ったんだ」

?『…承知しています』

?「戦争の為に金は必要だ。…だが、我々の作り上げた『通貨』は理想のための『通貨』だ」


?『…血で染め上げてはならないと?』

?「その通りだ。そうでなくては、『通貨』は『我々が戦争の為に造った通貨』になり果てる」

?『…【家族補完計画】第11条第3項か』

?「その通り。…『通貨』を使用するのは、《何か》の《代行者》に限る」

?『…故に《何か》を求める我々は彼らに協力する』

?「その為に【一度『通貨』を給与として発行し、現地通貨と両替する】なんて七面倒臭いシステムを創ったんだ」

?『…………』

?「まあ、そういうことだ」


?『…この話を他の国には?』

?「その真っ最中さ。まあ、常任理事国から始めてるがね」

?『…私にどうしろと?』

?「取り敢えず、今度の会議で米国の『通貨』の完全な軍事転用を要求してくるだろうから、それに反対票を投じて欲しい」

?『…………』

?「…ああ、そうさ。我々が『治安維持』という曖昧な目的で、『通貨』を使用しているのは百も承知さ」

?『…………』

?「しかし同時に、それまでゴミ拾いでしか生計を立てる手段の無かった子ども達が《執事》や《メイド》となって、人生を歩み始めたことも知っている」


?『……ああ』

?「わかるかい? 競争に破れて倒れた者に、最初から競争への参加が許されなかった者に…」

?『…我々が一本のセーフティネットを構築した』

?「その通り。…まあ突き詰めてしまえば、しがない老人の理想論だがね」

?『…………』

?「すまんね、年甲斐もなく」

?『…いや、概ね理解した』

?「どうも」

?「…だが問題がある』

?「なんだい?」

?『…今更戦争は不可避だ』

?「うん、そうだね」

?『…現状、多くの国で《彼ら》が活動するために、多くの『油』が消費されている』

?「ああ、そうだとも」


?『…そのハンデを背負った我々が、どうやって戦争に勝つのか』

?「大問題だね」

?『…貴方はその【解答】を持っているのか』

?「…いや、無いよ?」

?『…………』
?「…………」

?「だからさ、《それ》を探すための会議を開きたい」

『…………』フッ

「…鼻で笑ってんじゃねぇよコラ」アアン

?『…良いでしょう』

?「おお即答」

?『…我々としても、あの閉塞感しかなかった時代を拭い去りたいのは同じです』

?「…………」

?『…それでは失礼を。貴殿の奮闘を応援致します。【ローマ教皇】殿』

?「またな、【大統領】殿」


《イエスロリコン、ノータッチ。貴殿に淑女のご加護があらんことを!》
《…イエスショタコン、チョイタッチ。貴殿に紳士のたしなみあらんことを》


【sos、地底より】


「…私は《ロベルタ》所属の幼」

「現在時刻、現在位置ともに不明」

「唯一わかるのは現在、何処かの施設内で監禁されていることだけ」

「5メートル四方の室内にベッドが2つ。1つは私のもの、もう1つは私の世話役の少女のもの」

「彼女は、半分壊れている」

「…訂正、何故半分正気を保っているかが不思議な状態にある」

「年齢は、恐らく10代半ば」

「両手両足を有刺鉄線で拘束され、太い鎖が肋骨を貫通し、壁に繋がれている」

「その腹は、身体の肉付きに比べて異常に膨れ、一目で彼女が妊娠している様子が見て取れる」


「血色は良く、栄養は行き届いているらしい」

「やや浅黒い肌の色から、東南アジア系だということは分かる」

「彼女の顔には化粧が施された形跡があり、(化粧が)無くとも、アジアンビューティと呼ばれるに相応しい色気がある」

「だが、そんな彼女の瞳には生気が無い」

「時折、思い出したように小声で何かを呟くが、残念ながら私は聞き取れない」

「猿轡を噛まされるまでは、私も何度か対話を試みたが、返事は一向になかった」

「何となく、極度のストレスから幼児退行を起こしている可能性が高いと思われる」


「一方、この『無口』な隣人と比較すれば、横の私の待遇は異常に良い」

「私も拘束はされているが、革製の比較的品質も保障されている」

「私が着ている《メイド服》が荒らされた跡はなく、私が記憶している限り、下の膜も破られた記憶もない」

「唯一の変化は、私が意識を失っている間に、長かった髪が今はセミロングぐらいまで切り取られていたこと」

「《ロベルタ》内でも有数の艶やかな金髪は、…私の数少ない誇りでもあった」

「洗髪は行われているらしく、嫌な匂いはしない」

「空調設備は上々」

「…気分は最悪だ」


【sos、地底より2】


「多分恐らく夜が来た」

「夜になると、何となく施設内の雰囲気が変わる」

「…それもあまり歓迎されない方に」

「私達は基本1日2食。朝と夜に軍隊でお馴染みの『臭い食事』が支給される」

「食事が終われば、私達の拘束が解かれ(といっても、少女の方は壁の鎖がほどかれるだけだが…)、『レクリエーション・ルーム』へと運ばれる」

「部屋には多くの軍服姿の東洋人と首輪に繋がれた多くの女性がいて、私達の方を見ている」

「ああ、少数であるが女性の軍人もいる。…いないこともない」


「そして私は必ずこう問われる」

「『…お前はこの男を選ぶのか?』」

「軍人達は、一人ずつ前に進み出ては、自らを指差しては自信満々に、私にそう尋ねる」

「しかも、続いてアメリカン・イングリッシュで、耳障りな浮わついた言葉が付随してくる」

「…馬鹿馬鹿しい、選ぶわけがない」

「だから私は、私が『マスメディア』に流した『曖昧な笑顔』を浮かべ、ダブリン訛りのクイーンズ・イングリッシュで『丁重に』お断りする」

「結果、彼らは立候補しては撃沈する」

「しかし、それさえも『遊び』の一種らしい」


「仲間が振られる度に、嘲笑と野次、拍手が巻き起こる」

「私が西洋人だからかも知れないが、この部屋の東洋人は皆一様な顔に見える」

「そして彼らは、水商売の女と同様、常人ではあり得ない色をした前歯を有しているのが特徴だ」

「私はかつて昆虫学者を目指し、ボルネオの密林を歩いていた」

「生来天然物が好きな私にとって、この軍人達の姿が妖怪に見える」

「吐き気がする」

「そして、この悪夢が過ぎ去れば今度は私達は衣服を剥がされ、『オムツ』の交換が行われる」

「私の身体をなぶる様な視線に、私は身の毛がよだたせながらも胸を張る」


「ここで弱みを見せることは、後々何か嫌なことに繋がる気がする」

「…私の『着替え』は、女性仕官の手で着替えが行われる」

「私から《メイド服》を脱がせ、オムツを取りさると、私の糞尿にまみれたおしりが露になる」

「それを掃除するのは、私の『世話役』の少女だ」

「彼女は無表情に、淡々と女性軍人に押し付けられるまま、私の陰部を舐めていく」

「少女が舐めにくければ、私は体制を変えられ、犬のように舐め回る彼女に身を委ねなくてはならかい」

「これは他の首輪付きの少女達も同じだ」


「少女による『清掃』が終われば、唾液でべとべとになった私の下半身はウェットティッシュで綺麗に拭き取られる」

「そして新たなオムツを持った女性軍人に連れられ、シャワー室に私の身体は石鹸やシャンプーで清められる」

「…この若い女性軍人は、すまなそうな顔で私の介助についてくれる」

「なんとなく彼女だけは、この妖怪の巣窟で唯一『普通』に思える」

「だが、彼女が話しかけてきても、私はあまり満足に答えられない」

「…なんとなく、一度妥協を許してしまえば、後は際限無く彼女に甘えてしまう予感がある」

「そして、『その状況』を妖怪達は待ち望んでいるのではないか」


「真偽を問う手段のない私は、彼女から乱暴にタオルを受け取り、身体を拭う」

「…私がシャワーで涙と鼻水を隠していることは彼女も知っている」

「だから、タオルに顔を埋めた私が落ち着くまで、彼女は頭を撫でてくれたり抱き締めてくれたりする」

「私は感謝の言葉を述べない」

「彼女もそれを強要しない」

「…そして、私の無事を確認すると私達はあのベッドしかない部屋へと向かう」

「その際、あの『レクリエーションルーム』前を通るのだが、そこからは獣の叫び声しか聞こえない」

「…私には、あの扉を開ける『勇気』はない」


【sos、地底より3】


「深夜遅くになって、私達の部屋は乱暴に開け放たれる」

「『あの部屋』の後、シャワーを浴びせられた少女が、男に引き摺られてやって来る」

「少女は全裸の場合が多い」

「数々の暴行痕が残る少女の股からは、シャワーを浴びせられた後であっても男の精液が垂れている場合も多い」

「そして、彼女のベッドで狂宴の続きが行われる」

「前記にもしたが、彼女は妊娠している」

「だが、男の前ではそれは何の意味も介さない。少女は擦りきれる程に打ち付けられ、叩きつけられる」

たまに思うのだが完全に落ちたssを上げるのはやめてほしい
何週間も書き込みがなく、落ちてからまた2.3回書き込みをして落ちる、の繰り返しをするのはやめてくれ


「半分壊れていても、少女は痛ければ泣くし、貫かれれば少女は喘ぐ」

「彼女は、もがきもするし嘔吐もする」

「私の鼻孔に、先程少女が食させられた老廃物の匂いが飛び込んでくることも少なくない」

「明け方になり、男が部屋から引き上げると別の男達がやってくる」

「彼らは同じ東洋人の軍服を着ているが、位が低いらしい」

「彼らが少女の身体を弄べるのは、糞便と精液で汚れた最終段階に至ってからだ」

「それまでは、端っこで食い入るように『宴』を見ている」

「彼らに隣で縛られる私に触れる権利は無いのだが、時折、惜しげに私の方を覗き込んながら、少女を犯す」

「…きっと彼らの中では、私が犯されているのだろう」


「そして時間が来ると少女を連れて部屋を出で、彼女の『洗浄』に取りかかる」

「何度でも書こう」

「ここは妖怪の巣窟だ」

「ここは地底、地面の国」

「ここに太陽は当たらない」
「ここに風は吹かない」
「ここに救いの光は無い」

「sos、地底より」

>>160
すまん。
手直しして、前後篇を一つにまとめようと思っただけなんだ。

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