岸辺露伴は動かない エピソード:猿夢 (60)
僕の名前は岸辺露伴。週間少年ジャンプで『ピンク・ダークの少年』っていう漫画を連載している漫画家だ。
突然だが、君たちは『夢』をよく見るだろうか。ああ、夢といっても寝ているときに見るほうだが。
楽しい夢、怖い夢、人には言えないような夢。色々とあるだろう。
今回はつい最近僕が体験したある『夢』の話をしようかと思う。
……おいおいおい、確かに『他人の夢の話はつまらない』って、相場では決まってる。誰が好き好んでそんな話を聞きたがるかってね。僕だってごめんさ。
でも、今回の話は僕が本当に体験した話だ。『リアリティ』なら、保証するぜ?
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漫画家ってのは『締め切りに追われて寝不足だ』みたいに思われがちだ。確かにそんな作家もいる事だろう。だが、本当のプロフェッショナルっていうのは自分の体調だってしっかり管理しなくちゃぁいけない。『会社の為に仕事をし続け、過労で死にました』なんて社会人としてどうなんだ? と僕は思うね。
おっと。少しきつい言い方になってしまった。すまない。別に僕だって仕事を一生懸命してる人を悪く言うつもりはない。そういう人には好感は持てるからね。
ただ、他人の名前を間違える奴。こういうのは礼儀がなってないというか、『敬意』が感じられないな。ん? いや、単なる独り言さ。
話が逸れた。とにかく、その日僕はその週に提出する原稿を書き終えていつも通り定時に眠った。はずだったのだ……
『目を開ける』と僕は無人駅にいた。
小さいレールとベンチの他にめぼしい物はなく、駅名が書かれていたであろう看板は掠れて読めなくなっている。
本来なら眠っているはずだが……きっと、これは夢なのだろう。それも自分が夢を見ていると認識できている。俗に言う『明晰夢』って奴だ。
確か、明晰夢では比較的自由に動き回れるらしい。試しにストレッチや準備体操をしてみるが全く問題はない。
服は普段着に戻っているが、ペンやスケッチブックなんかは無い。せっかくだからスケッチしたかったのだがこればかりは仕方が無い。できる限り鮮明に覚えておこう。
そういえば、スタンドも出せない。夢の中では出そうとした事もなかったが、よく考えてみると不思議だ。スタンドというものは精神の像のはずだ。自分の頭の中でくらい訳ないと思うのだが。
さて、そんな風に僕が体を動かしていると、錆まみれのスピーカーからこれまたひび割れた声が鳴り出す。
『ま、間も無く電車が参りま゛ぁ~す』
『その電車にお゛乗りになりますとーー。あ、あなたは恐ろしい目にあ゛いますよぉー』
恐ろしい目?
ふんっ。悪いけど、僕はこれまでいろんな経験をしてきた。それこそ命の危険があったことや死を覚悟したことだってある。そんなチンケな警告に怯えるはずが無いのだ。
むしろ、そんな挑戦的な台詞に興味が出てきた。『怖いもの見たさ』とも言うが、ここで引いたら岸辺露伴の名が廃る。これでちゃっちい仕掛けだったら大爆笑してやろう。
そもそも、ここは夢の中――つまり僕の脳が作り出しているに過ぎない。もし、危険を感じた時には飛び起きればいいんだ。まぁ、そうなったらしゃくだけどね。
そんなわけで、ベンチに座って待っているとレールの片方からチンチーンという音が聞こえてくる。どうやら来たようだ。
電車、というから僕はてっきりいつも乗っているような大きな物だと思っていたが、やってきたのは全くの別物だった。
それはまるで遊園地にあるような、いわば『おさるの電車』だった。子供が乗るような小さな箱型の車両がいくつかと、一番先頭には煙突のついた車両が猿を乗せて走ってくる。
乗客は2人、前詰めて乗っている男女だけだ。どちらも品のいいスーツを着ているが表情が全く無い。不気味なモンだ。僕は3両目に乗る事にした。というかそこしか空いていなかったのだ。
前方の猿がこちらを振り向き、帽子を下げて会釈をした。確認の合図だろうか。こちらも頷いて返してみると、そいつは前を向いてすぐ脇にあるボタンを押した。
ポッポーと汽車のような音を出して、電車がゴトゴトとレールを進み始める。思っていたより座り心地はいいが、バランスを取るのがなかなか難しい。
しばらくすると電車はトンネルの中に入っていく。中は薄暗く、湿っぽい。近くの壁に手を触れるとひんやりとしていて、苔なのだろうか、ヌメリとした感触がする。
目が慣れてくるとトンネルの壁になにやら絵が描かれているのがわかる。目を凝らして見てみると、どうも僕の漫画のキャラのようだ。真っ二つになった奴、全身の血を抜かれ干からびた奴、そんな名もないヤラレ役ばかりが描かれていた。
僕の夢だから文句も言えないが、どうしてこんなのを見ているのだろうか。不思議なもんだ。
トンネルの壁の絵を眺めていると、天井の方から先ほどと同じように音声が流れてきた。
『つ、次はーー、活け造りィーー……活け造りィーー…………』
イケズクリ? 変わった名前だが、次に停まる駅の事だろう。しかし、この夢はどこまで続くのだろうか。
電車の揺れが少し大きくなってきた。前方の男の影が動いているが、薄暗いうえに間にもう一人いるので、確認できない。
ふと、空気がよどむというか。変な匂いが漂ってきた。鉄っぽい感じだ。電車がきしむ音も大きくなる。鉄製でガタがきているのかもしれない。
特に変わったことは今のところない。暇なのでまた壁の絵に戻る。
しばらくすると、揺れも小さくなり音も静かになった。前方にはトンネルの終わりを告げる小さな光が見えてくる。思ったよりも長かった気がする。
キキーーという音を立てて電車は駅に着く。駅名は先程と同様何も書かれていない。放送は一体何だったのだろうか?
『ほ、本日の運行はぁーー……ここまでとなりますーー』
一番前に座っていた猿が駅に降り立ち、帽子を外して一礼する。ここで降りろってことか。
特に恐ろしいことなんて起こらなかったが……まぁ、類人猿恐怖症の奴が載っていたら『恐ろしい目』だったろうが。
僕が呆れていると、目の前の女性が駅のホームに降りる。自分もそれに習う。いつまでもここにいる意味なんてないからね。すると、視界の端で何かが見えた。
『それ』は二つ前の男性の席にあった。『それ』はまだ新鮮らしくビクビクと痙攣していた。『それ』と目が合ったかのような錯覚を感じる。
『それ』は……綺麗なピンク色したものは『男性の活き造り』だった。
「………………全く。朝っぱらからなんて夢を見るんだ」
その日は前日に原稿を書き上げ、特にやることがない日だ。大抵は取材に行ったり、康一くんなんかと駄弁りに行くのだが、朝から悪夢とはついてない。
とりあえず、汗でベタベタになった寝巻きを着替え、朝食の準備をする。そのうち気も紛れるだろう。
パンを焼いている間に新聞を取りに行く。最近はテレビやネットでニュースを見るなんて若者も多いと聞く。別にそれが悪いとは思わないが、活字を読む癖はつけるべきだと思う。
一面には国会での騒ぎが書かれている。アホらしい。国のトップがこれでどうするんだ。次の面にもその話題が続く。
ふと、下の方に書かれている亡くなった方々の記事を見る。特になんてことはない。いつもと同じような記事だ…………そのはずだった。
『○○党 ××議員 本日午前2:00 急性心筋梗塞にて死亡か』
そこには夢の中で見た男の顔が載っていた。
~~1夜目終了~~
ガタンゴトンと猿の電車は僕を乗せて進んでいく。やはりまたこの夢か……
新聞の記事を読んだ後、僕はそのことについて簡単な取材を行った。その死が確かに病死なのか、生前変なことを言っていなかったか、などだ。
結果的に本当に病死だった。それは疑いようもないものだ。しかし、睨んだ通り『奇妙な夢を見ていた』という噂がある。詳しい内容はわからなかったが、猿が関係しているらしい。おおかた彼もこの夢を見ていたのだろう。
これらからするに、この夢の中で殺された場合、現実世界においても死ぬかもしれないということだ。もちろんこれは憶測でしか無いが、十中八九当たっているだろう。新手のスタンド使いか、そういった『現象』なのかは知らないが、やれやれ、厄介なものだ。
昨日の夢で言っていた『恐ろしい事』というのはこの事だろう。だが、生憎そうやすやすと殺されつもりなんて微塵もない。
とりあえず、現状を確認してみる。僕は今、前から二つ目の席に座っている。昨日の席の一つ前だ。目の前には昨日と同じ女性がいる。その前は一番先頭で猿が運転手を務めている。どうやら昨日死んだ男の分、僕とこの女が前にずれたようだ。
「なぁ……おい。君はいつからここにいるんだ? …………反応は無し、か……」
前の女に声をかけるが返事は無い。聴こえてないようだ。
スタンドは…………やはり出せない。感覚としてだが、この空間にいないような気がする。
同じように、服装も昨日と同じ服だ。特に武器になりそうなものは無い。
しばらくすると、無名の駅に着いた。そこには男が一人立っていて、電車が止まると僕の後ろに乗ってくる。どうやら、昨日の僕と同じ状況らしい。
このまま駅に降りれないだろうか? 試してみるが、足が全く動かない。上半身は辛うじて動くが、電車を降りることはできないらしい。
「なぁ、君の名前を……って無理か」
振り向いて乗ってきた男に話しかけてみるが、目は虚ろに宙を舞い、こちらと会話することはできなさそうだ。
前方の女性といい、どうして僕以外は意識を持っていないのだろうか。もしかして、スタンドと関係があるのかも……
こんなことなら仗助や億泰が引き込まれれば良かったのに。あいつらがいれば話し相手ぐらいにはなっただろう。康一くんは……こういうの苦手だろうしなぁ……
ポッポーとやはり汽車のような音が鳴り響き、電車が動き出す。しばらくして、やはり昨日と同じようにトンネルの中へ入っていく。
トンネルの中では変わらず漫画の残虐なシーンが映し出されている。この内容は人によって変わるのだろうか。
『次はぁーー挽肉ぅーー、ひ、挽肉ぅーーーー』
挽肉? ……嫌な予感がする。昨日の場合駅名が活け造りで、まさに男はそのようにされていた。つまり……今度は……
ウイィィィーーーーーーーーンッ
突然、歯医者でよく聞くような音が前の方から鳴り響く。目を凝らしてよく見ると、小さな子猿達がドリルのようなものを持って女性に襲いかかろうとしている。
「クソっ! 」
腕を伸ばそうとするが、何かに縛り付けられたように身体が動かない。先ほどの駅の時と同様、「夢」が誰かに干渉している際は他の人間は動けないのかもしれない。
「あ…あぁ…ぅあ……」
自分の身体が動かなくなるのとは正反対に、目の前の女性の意識が戻っていく。両腕は小猿に押さえつけているが、目を見開きドリルから顔を遠ざけようと必死になっている。
「い、いや……そんなの……やだ…やめて……」
『ウキキッ♪』
『ウキキキ』
『ウッキャアー!』
ガガガガガガガガガガガガガーーーッ!!
「あああ゛あ゛あ゛ぁぁあああ゛あぁあああ゛ああぁーーーーーーッ!!!!!」
目の前が紅に染まる。
女性の顔面にドリルが突き刺さる。皮膚がちぎれ、頭蓋骨が砕ける音とともに彼女の悲鳴がコーラスのようにトンネル内に響く。
両腕を振り上げ痙攣していく彼女の動きに、電車は激しい軋み音を上げながら左右に揺れ動いた。
「あ……あ゛ぁ…ぁ…………」
そして彼女は顔の右半分に幾つかの穴を開けながら絶命した。
『ウッキャァ! ウキキッ!』
小猿たちは何が楽しいのか女性だったものにさらにドリルを突き立て、グジャグジャに破壊していく。目が、舌が、鼻が、脳が、だんだんと崩れていきミンチ状になっていく。
あたり一面に濃い鉄の匂いが漂い、喉元まで胃の中身が逆流してくる。
とっさに口を抑えて吐き気を我慢する。流石の僕でもこんな状況に平然としていられるほど経験があるわけではない。
しばらくその地獄のような眺めを見続ける。たとえ今手を伸ばしたところで同じようにミンチになるだけだろう。
後ろを振り返るが、やはり反応がない。初日もそうだったように、この暗いトンネルの中では奥の車両でなにが起こっているかなんてわからないようだ。
小猿たちは仕事が終わったのか女性だった肉片を集め皿に盛り付ける。血みどろだった座席を綺麗に吹くといつの間にか姿を消していた。
トンネルを抜けると、昨日と同じように無人駅についた。駅名にはなにも書かれていない。
『ほ、本日の運行はぁーー……ここまでとなりますーー』
キキーと大きな音を立てて電車がとまる。ゆらゆらと足元をおぼつかせながら僕はホームに降り立つ。後ろの人や運転手の猿も降り立った。
一番前の車両に置かれている肉片をもう一度見る。もし、対抗策を見つけなければ……僕もああなるのか……
『明日ハ……アナタノ番……デスネェ』
耳元で奇怪な声がする。急いで振り返ると、猿が気味の悪いニタニタ顏で話しかける。
『マタノゴ利用ヲ、オ待チシテオリマスゥ…………』
そこで僕の意識は途絶えた……
「あのエテ公……舐めやがって!」
僕は冷や汗をベッタリとかいて布団の中きら飛び起きる。
何がまたのご利用をお待ちしておりますだ。人間を馬鹿にするのもいい加減にしろ。
「この岸辺露伴を狙ったことを、後悔させてやる!」
決戦は今日の夜。夢の中で、だ。
~~2夜目終了~~
夢の中で目がさめる。三度目となれば流石に落ち着いている。手を動かし、自分の仮説が正しいことに満足したのち、周りを見渡してみる。
やはりというか、思った通り僕は一番前の車両。運転手の猿の真後ろに座っている。
後ろを振り返ると昨日乗ってきた男がいる。全く、彼も運がいい。今日でこのおさるの電車は『廃線』だからだ。
いつものように、無人駅に着きそこにいた女の子が電車に乗る。今度は中学生くらいの女の子だ。こちらから声をかけてみるが返事はない。
しばらくしてトンネルに入る。もう周りを見渡すつもりもない。後はあの放送を待つだけだ。
『次はぁーー抉り出しぃーー、え゛、抉り出しぃーーーー』
「きたか……」
あいも変わらず、気持ちの悪い放送がスピーカーから流れてくる。
活き造り、挽肉ときて、今回は抉り出しか。一体何を抉るのだろうか。
そんな興味のないことを考えながら、僕はもう一度手を動かす。大丈夫。ちゃんと動いてくれる。
ガタンゴトンという電車の揺れとは別に何者かが乗ってくるような揺れを感じる。暗闇に慣れてきた目が、昨日同様小猿たちの姿を捉える。
その手には大きなギザギザのスプーン――アイスを食べる時に使うようなものが握られている。
そのうちの一体が僕の体の上にまたがってくる。どうやらこのスプーンで僕の目玉を抉り出そうというらしい。
小猿のニタニタした顔が目の前に迫る。気色悪い息がかかってしょうがないが、ここまで来てくれたのは好都合だ。もう後悔しても遅い。
「『ヘブンズ・ドアー』!」
僕の叫び声とともに、白っぽいマントとシルクハットをかぶった機械のような少年が現れる。彼が小猿に触れた瞬間、小猿の顔は見る間に『本』となっていく。僕はすかさずそこに『他人に攻撃できない』と書く。
小猿たちはいったい何が起きたかわかっていないようだ。本になったやつの周りでおろおろとしている。
「…………」
運転席に座っていた猿はこちらをにらみつけると、無言でこちらを指さしてくる。それを見て、小猿どもはこちらにとびかかってきた。
「うきゃーーー!!」
「『クレイジー・ダイヤモンド』の攻撃のほうが、お前らなんかよりも数倍も早かったぞ?」
所詮は猿だ。まとめて本にされたところへ、僕は先ほどと同じ言葉を書き込んでいく。
ゴロゴロと電車から崩れ落ちていく小猿どもを眺めながら、僕は目線を前に移す。運転手に猿が頭から湯気が出てきそうなくらい真っ赤になって怒っている。
「フーーフーーフーー………」
「おいおいおいおい、なんだぁその顔は。天狗みたいに真っ赤になってるじゃないか。あ、でもいい気になって鼻高々になってたって点では、確かに天狗だよなぁ~~」
「ウッ……キャアーーーッ!!」
「エテ公ごときが、この岸辺露伴がかなうとでも? 」
怒りに我を忘れとびかかってきた猿も、すでに『ヘブンズ・ドアー』の射程内だ。
「『ヘブンズ・ドアー』! お前に次の一手は…………無いッ!」
猿は怒りの表情のまま本となり、運よく座席におさまった。
猿が本になったあと、しばらくすると駅に着いた。
猿にはすでに命令を書いておいた。これ以上この件で被害者が出ることもないだろう。
駅に降り立ちノビ―ッと背伸びをする。狭いトンネルの中だったからか体が凝っている。夢の中でこるってのも変な話だけど、今度トニオさんのところにでも行くとするか。
振り返ると、ほか2人の乗客も降りる所だ。加えて、猿も電車から降りようとしている。
……が、猿だけおかしなことになっている。降りたと思ったらまた電車にまたがり、また降りようとして乗り戻る。そんなことを繰り返している。
僕はにやにやしながらそいつに近づく。こちらの視線に気づいたのか泣きそうな顔で聞いてきた。
「ナ……ナニヲ……?」
「ああ、さっき簡単な命令をね。お前は毎回夢が終わるころ、僕たちと一緒に電車を降りた。だが、よく考えればそんな必要なんてないはずだ。そもそも、一度の夢で三人とも殺さないのも腑に落ちない。これらにはいったい何の意味があるのか」
「……」
猿は諦めて電車に乗ったまま僕の話を聞いている。
「答えは『タイムリミット』だ。そうだろ? 『この駅から出れば夢から覚める』。つまり、お前もここから出ないと夢から覚めないんだ」
夜が明けるまで、朝になるまで、この夢は続いている。それは逆にいえば、朝になるまでしか続けられないってことだ。
「だから僕はお前を本にしたときにこう書いたんだ『他人を攻撃できない』。そして『決して電車から降りれない』ってね」
サーーッと猿の顔から血の気が引く。僕はすかさず奴の横にある発射ボタンを押した。ポッポ―と小粋な音を立てて電車は猿を乗せて走っていく。
「ウ、ウキーー! ウッキーーーーッ!!」
「ま、夢の中で好きなだけお山の大将。電車ごっこの運転手でいるんだな。半永久的に」
猿の泣き叫ぶ声を聴きながら僕は無人駅を後にした。
「……と、まぁこんな体験をしたんだ」
「……それってよぉ~~、本当かあ? どうにも嘘くせぇぜ」
「なっ! ……おまえが「なんか面白い話はないか」って聞いてきたから話してやったのに!」
「まあまあ、露伴先生。そう怒らないで。仗助君も、ね?」
「ふんッ。康一君に免じて、今日のところは許してやる。感謝しろよ、仗助」
「へいへい」
「しっかし、露伴もよく思いついたなぁ。『スタンドを出したまま眠る』なんてよぉ~」
「前に承太郎さんからそんな話を聞いていたんだ。一か八かの掛けではあったけどね。なんでも承太郎さんも昔に友人から聞いたそうだ」
「でもよぉ、それって結局なんだったんだ。スタンド……なのか?」
「それについては僕もよくわからなかった。『本』にも詳しいことは書いてなかったな。まぁ、スタンドにしろそういった『何か』にしろ。もう人を襲うことはないんだ。僕のおかげでね」
「だっから、そこがあいまい過ぎてホントかウソかわかんないんだろーが……」
「まだ信じてないのか! これだから君は嫌いなんだ。もう少しは年上を敬うってことをだなあ~~」
「あーー、しっかし遅いなぁ、トニオさん。いつもより時間かかってるみてぇだけど……」
僕の説教から逃げるように厨房のほうを向く仗助。その態度にいささか怒りがこみ上げてくるが、確かに料理に時間がかかっているようだ。
「あ……スミマセン。ハンバーグのタネが切らしているのをすっかり忘れていて……今作ってるのでもうしばらくかかるかト……」
そういいながらトニオさんはボールを抱えてこちらを向く。どうやら挽肉を練っているようだが……
「…………ト、トニオさん。作っているところ申し訳ないんだが……その……、魚料理に変更できないかな。今、少し肉……という気分ではなくてね……そのハンバーグなら、こいつらにあげるから……」
「構いませんが……大丈夫デスカ? 顔色がすぐれないようですガ……」
「ああ、問題ない……はずだ」
どうやら、しばらく挽肉は食べられそうにない……残念だ。
『猿夢』――終わり
くぅ〜疲。これにて閉幕です。『きさらぎ駅』を読んで、何か書けないかなと思いまして書いてみた所存であります。
ジョジョ原作同様の展開となってしまい、もう少し凝ってもよかったかな? なんて思いますがまあいいかなと。てか、考えられないし。
元ネタの「猿夢」とはかなり異なった展開になってます。知らない方はぜひお調べしてみてください。めっちゃ怖いです。マジで。
では、こんなssをお読みいただき、誠にありがとうございました。また別の機会がありましたら、その時はよろしくお願いいたします。
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