キャプテン「夏の甲子園……どんな手を使っても勝つ!」(24)

― 危険高校野球部 ―

キャプテン「いよいよ夏の甲子園が始まる……」

キャプテン「しかし、やることは地区大会と変わらん」

キャプテン「優勝するぞ! ……どんな手段を使ってもな!」



「はいっ!」 「はいっ!」 「はいっ!」

キャプテン「さて、対戦相手について改めて振り返るとするか」

部員A「はっ! 一回戦の相手は名門学院!」

部員A「二回戦は優勝候補の一角、強豪実業になると思われます!」

キャプテン「名門学院……あのお坊ちゃん学校か。よく予選を突破できたもんだ」

キャプテン「まともにやっても充分勝てる相手だが、容赦はしない」

キャプテン「地区大会の対戦相手と同じように、名門学院にも地獄を味わわせてくれる」

部員A「……」ゴクッ…

キャプテン「まずお前は、名門学院陣営に忍び込み、奴らの道具に細工しろ」

部員A「はいっ!」

キャプテン「しかし、あまり派手なマネはするな。新品に交換されるだけだ」

キャプテン「試合中に壊れるよう、細工するのだ」

部員A「お任せを!」

キャプテン「お前は、名門学院の選手の食べ物に下剤を混ぜるのだ」

キャプテン「今からやっておけば、試合当日にはだいぶ衰弱するはずだ」

部員B「へいっ!」

キャプテン「ただし、量には気をつけろ」

キャプテン「あまり深刻な症状が出たら、テロだの伝染病だのと騒ぎが大きくなって」

キャプテン「大会自体が中止になるかもしれんからな」

部員B「分かってますって!」

キャプテン「お前は、脅迫状や不幸の手紙を山ほど送りつけてやれ」

部員C「はい……」

キャプテン「スポーツにおいて、メンタルの重要性はバカにできない」

キャプテン「精神を弱らせれば、さらなる戦力の弱体化が期待できる」

部員C「御意……」

キャプテン「他の者も、訓練を怠るなよ」

キャプテン「むろん、試合中に巧妙に敵選手にダメージを与える訓練をだ」

キャプテン「審判はもちろん、テレビ観戦してる奴らをもごまかせる精度にするんだ」



「はいっ!」 「はいっ!」 「はいっ!」

キャプテン「最後に、もう一度俺たちのモットーを再確認しておく」

キャプテン「正々堂々? フェアプレー? スポーツマンシップ?」

キャプテン「俺たち危険高校野球部の辞書にそんなものは存在しない!」

キャプテン「あるのは勝利の二文字のみ! 勝ち以外に価値は無し!」

キャプテン「夏の甲子園……どんな手を使っても俺たちが優勝するぞ!」



オーッ!!!

その後――



プルルル……

キャプテン「……もしもし」

キャプテン「お前たちか。 ……細工はうまくいったか?」

キャプテン「なに……捕まった?」

キャプテン「どっ、どういうことだ!?」

キャプテン「名門学院陣営に近づいたら、警備員に捕まっただと!?」

キャプテン「バカな! 近づいただけでなんでそうなる!?」

キャプテン「待ってろ! すぐに向かう!」

キャプテン「お前たちは適当に言い訳してなんとかごまかせ!」

キャプテン「細工や下剤のことがバレれば、試合に出られなくなるだけでは済まんぞ!」

キャプテン「……」ピッ

キャプテン「……くそっ!」

キャプテン「監督!」

キャプテン「名門学院に対する裏工作でトラブルがあったので、俺も行ってきます!」

監督「う、うむ……その件なんだがな」

キャプテン「はい?」

監督「名門学院との試合は……辞退しよう」

キャプテン「は!?」

キャプテン「な、なにいってるんですか、監督!」

キャプテン「試合の日はもう間近に迫っているんですよ!?」

監督「実はな……私の娘が誘拐されてしまってな」

キャプテン「誘拐!? だれに!?」

監督「分からん……が、要求は危険高校が試合を辞退すること、だといわれてな」

監督「だから――」

キャプテン「ふざけるなっ! アンタの娘のために辞退などできるか!」

キャプテン「失礼する!」スタタタタッ

キャプテン(監督の娘が誘拐された!? どうなってるんだ!?)

キャプテン(いや、今はそれどころじゃない)

キャプテン(一刻も早く、捕まった部員をどうにかしなければ……)

プルルル……

キャプテン「くっ、こんな時に!」

父『……忙しいところ、すまんな』

キャプテン「親父か、なんの用だ? 用があるなら手短に――」

父『頼むっ! 名門学院との試合を辞退してくれ!』

キャプテン「な、なんだ突然!?」

父『私が経営する工場の得意先から、圧力がかかったんだ……』

父『危険高校が試合を辞退しなければ、二度とウチには注文しない、と……』

キャプテン「工場に……圧力ゥ……!?」

父『お願いだっ! 私の工場を潰さんでくれえっ……!』

キャプテン「そんなこといわれたって……!」

キャプテン「とにかく、またあとで電話するよ!」ピッ

キャプテン(なんだこれ!? どうなってんだ、これ!?)



御曹司「やぁ、こんにちは」



キャプテン「!」

キャプテン「お前は……名門学院の主将!」

御曹司「こうやってお話しするのは初めてだよね」

キャプテン「なんでこんなところに……!」

御曹司「色々大変なことになってるようだねえ」

御曹司「部員は捕まり、監督や親からは試合辞退を勧められ……同情するよ」

キャプテン「ま、まさか……。まさか、お前が……!」

御曹司「そのとおり。全部、ボクたちの仕業さ」

御曹司「前もって雇っておいた警備のプロに君んとこの部員を捕えさせ」

御曹司「さらに監督や君の親にも圧力をかけたのさ」

キャプテン「ふざけやがってぇ……!」

キャプテン「こんなメチャクチャをやって、ただで済むと思ってるのか!?」

キャプテン「すぐ警察に――」

御曹司「警察って、彼らのことかい?」チラッ

警官A「……」

警官B「……」

警官C「……」

キャプテン「!?」ギョッ

御曹司「もちろん、コスプレなんかじゃなく、れっきとした本物だよ」

御曹司「ちょいとお金を払って、ボクらの側についてもらったのさ」

警官A「逮捕する」ガチャッ

キャプテン「うわっ!?」

キャプテン「なんでいきなり!? 俺は未成年だし、逮捕状はあるのかよ!」

警官A「そんなもの、後から手続きすればどうにでもなる」

警官A「とにかく、お前は逮捕だ。少なくとも甲子園には絶対出られん」

キャプテン「そ、そんなぁ!」

御曹司「ところで……」

御曹司「君らの本性や作戦は、盗聴器で筒抜けだったわけだけど……」

キャプテン「!」

御曹司「部員に向かって“どんな手を使っても勝つ”なんていってたけど」

御曹司「笑わせるねえ、あの程度で“どんな手を使っても”なんてさ」

御曹司「“どんな手を使っても”なんていうくらいなら」

御曹司「せめて、これぐらいはしてもらわないとねえ」

キャプテン「ち、ちくしょう……! ちくしょぉぉぉぉぉう!!!」

御曹司「ハッハッハッハッハ……!」





こうして危険高校野球部の夏は終わった。

さて、その後であるが――













強豪実業 38-0 名門学院



御曹司「こ、こんなことになるとは……」ガクッ

御曹司(地区大会での相手校や危険高校にやったように)

御曹司(金をバラまき、人を雇って、強豪実業の足を引っぱらせようとしても――)



『あんな素晴らしいプレイをする選手たちの妨害をするなんてとんでもない!』



御曹司(――ことごとく断られてしまって、実力で勝負するはめになってしまった……)

御曹司「もっと、どんな手でも使っていれば、こんな結果には……!」



エース「……」ザッ…

御曹司「き、君は……!(強豪実業のエース……!)」

エース「一つだけいっておこう」

エース「野球で勝つためにもっとも必要なもの――それは実力だ」

エース「実力さえあれば、君のいう“どんな手”などに頼る必要もないのだから」

エース「勝ちたいのなら、もっと実力を磨きたまえ」



御曹司「……」

御曹司「ち、ちくしょう……! ちくしょぉぉぉぉぉう!!!」





こうして名門学院野球部の夏も終わった。







おわり

この物語はフィクションです
実際に行われている夏の甲子園大会とは一切関係ありません

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