幼馴染「これが夢じゃありませんように……!」(17)

『いつまでも一緒にいてくれますか?』

『いつまでも一緒にいさせてください』

大きな画面の中で揺れる二人はまさに私の理想で、
場内特有の暗黒とクライマックスゆえの静けさ、
そして何よりも隣にいない君のことを想って
私は孤独の闇に押し殺されそうだった。
その孤独はきっと

物語の終わりを告げるエンドロールの最中も

閉幕して密封されていた空間に光がさしても

君のいない隣の席においた荷物を持ち上げても

きっと

ずっと……

めちゃくちゃ長い
書き貯めはありますが何か月かかけてゆっくり完成させる予定


男「へへっ、できたぞ」

幼馴染「あ、見せて見せて!」

男「7限のホームルームまでまだ時間はある。じっくり読みたまえ!」

自信満々に私の席へと叩きつけられた紙束を丁寧に一枚ずつ眺めていく。
a4よりも少し大きなサイズの紙に描かれたそれは彼の描いた漫画である。
漫画自体のクォリティはそれほど高くなく、しかし特徴をよくとらえた丁寧な絵で
そこらの美術部員なんかよりもうまく描けている。

幼「やっぱ男の絵って凄いよね……」ペラペラ

幼「思わず見入っちゃうっていうか、気持ちが安らぐっていうか」ペラ

男「褒めてくれるのはうれしいんだが……」

幼「……?」ペラ

男「漫画の方はどうよ……?」

幼「あっ」ピタッ

男「おいおい……」

幼「ごめんごめん、つい……」

幼「やっぱ中身がなあ……」

男「やっぱダメかあ……」

幼「ダメっていうか……パクりじゃん」

男「いいんだよ、パクりでも面白く描けてりゃあ」

幼「いや、おもしろくないんだけどね」

男「」ガタッ

幼「何をどう間違えたら侍が海賊王になるために忍者の修行する話になるのさ?」

男「やっぱ自分でストーリー考えるのは諦めるかなあ」

幼「えー、諦めんの?」

男「別に漫画家になるっても自分で考えた話じゃないといけないってわけじゃないんだし」

幼「いやまあ、そうなんだけどさあ……」

男「あっ!」

幼「……どしたのさ?」

男「…………いいこと思いついたぜ」ニヤニヤ

幼「ちょっ……あんたのその顔は昔っからろくなこと考えてない時の……」

男「へへっ、お前が書いた原作に俺が絵をつけるんだよ。どうだ?」

幼「……ばーっかじゃないの?」

幼「だいたい、私は物書きじゃないし読む専門だから却下」

男「えー、でもお前の家にいっぱいあったじゃん」

幼「…………え?」

男「確かあれはお前の鍵付きの机の中だったっけか?」

男「お前の隠し忘れた鍵を使って開けたときにそれはまあたくさんの……」

幼「うわああああああああ!!なにやってんのおおおぉぉぉぉおおお!?」

男「『桜色の恋』とか『あなたと私の』とかセンスを疑ってしまうタイトル」

幼「ああああああああああ!!やめてええええええ!!」

男「『詩集-愛する君へ-』」

幼「うわあああああ、って……」

幼「見ちゃったの……?全部?」

男「あー、まあ一応」

幼「(どどど、どうしよ……確かあの詩集のどこかに……)」

男「あれに挟まれてた詩もあったよなー」

幼「(結局渡さなかった男宛てに書いたら、ラブレターが……)」

幼「(もし見つかってたら……って、え?)」

男「まるでラブレターみたいで良かったぞー」

幼「えっ」

男「ん?」

幼「(もしかして……こいつ見つけておいて自分宛てだってわからなかったの……?)」

幼「と、とにかく!私は原作なんてやらないから!」

男「えー、そんな釣れないこと言うなよー……」

男「俺たちで……世界一を目指そうぜ!」

幼「(まあよく考えれば今までどんなにアプローチしても気づかなかった鈍感だし……)」

幼「(気づかなかったのも当然……なのかな)」

幼「あ、そうだ」

男「ん?」

幼「今日おばさんいないんだよね?」

男「あれ、そうだっけか」

幼「ったく……それも覚えてないの?」

幼「ともかくおばさんに頼まれてるから今晩も晩御飯作りに行くよ」

男「おー、さんきゅー」

幼「帰り買い物付き合ってね」

男「えー……じゃあカップ麺で済ますからいいよ」

幼「……弟君もいるし、そういう問題じゃないの!」

男「じゃあ今日はカレーにしてくれよ。お前のカレーすっげえうまいから」

幼「……ふぇっ?//」カッ

幼「わ、わかった」モジモジ

男「(なんで目をそらすかなあ)」


私はいつから君のことが好きだったんだろう?
出会ったのは確か幼稚園のころだったと思う。
君が遠くの町から引っ越ししてきて、引っ越しのあいさつの時に顔を合わせたのだったか。
…………好きな人だっていうのに詳しく覚えてない。
まあそんな小さなことは気にしない。
親がらみでの付き合いということもあって気が付けば君と一緒にいるのが日常で、
一緒の幼稚園に手をつないで行って帰って、
普段みんなと外で遊ぶ私に対して君は一人黙々と絵画帳に絵を描いていた。
あの夏の雨の日に君の絵を始めて見て、私は君の絵のうまさを知ったんだ。
蛙の絵だ。これははっきり覚えてる。
それから私は君の絵をずーっと見ていて……ううん。
絵を描く君を見ていたんだと思う。
今の私たちの距離は少ーしだけ歳を重ねたこととおそらく私が一方的に抱いているであろう感情による溝によって少しだけ開いてしまっている。
今では手をつなぐどころかシャツの裾をつかむことも簡単にはできない。
絵を描くのを見るのも『描いてる途中を見られるのは恥ずかしいからやめろ』って言われている。
少しずつ広がっていく溝。
このまま何もなく高校を終えて何事も無かったかのように大学も終えて、
そのままおじいちゃんおばあちゃんになってしまうのかな、と思ってしまう。

幼「えっとじゃあどうする?これから部活あるよね?」

男「ああ、そうだな……」

男「んじゃあ部活終わったらメールでもするわ」

幼「わかった」

男「その間どうすんの?」

幼「適当にぶらぶらしてる」

男「そっか……悪い」

幼「うん、それじゃあね」

幼「(男はこれから美術部のミーティングかあ)」

幼「(部活の見学でもしてまわろっかなっと)」

幼「(うーん…………)」

幼「(とりあえず友君のいるバスケ部行こうかな)」タッタッ

幼「(……まったく興味ないけど)」

体育館
ワーワー

幼「…………」ボー

幼「(練習試合……かな?)」

幼「…………」ボー

幼「(友君頑張ってるなあ……)」

幼「(あ、終わったっぽい)」

幼「…………」

幼「友君」

友「よ、幼馴染じゃん。どうした?バスケ部入る気になったか?」

幼「だから私は運動部には入らないってば」

友「お前の運動神経なら今からでも大丈夫だと思うんだがなあ……まあいいわ」

友「んで、どうしたんだ?珍しいじゃん、お前から来るなんて」

幼「えっと男と夕飯の買い物行くんだけど部活のミーティング終わるまで暇だから……」

友「あいかわらず夫婦仲がよろしいようで」ヤレヤレ

幼「……からかわないでよ」

友「……んで、あいつまだ気づいてないのか?」

幼「うん、ほんっと鈍感」ハア

友「っ、そりゃあご苦労なこった」ケラケラ

幼「本当に友君ってバスケうまいよね」

友「ふふん、まあな!中学の時もすごかったんだぞ?」

幼「今度ぜひ聞かせてもらうよ」

友「おう、じゃあ練習戻るから好きなだけ見てってくれ」

幼「うん、そうさせてもらうね」

幼「(……とは言ったものの)」

幼「(普段はいない私がいるとみんなこっちチラチラ見てきて恥ずかしい)」

幼「(見てるだけって凄い目立つんだよね……)」

幼「(他行こう…)」

幼「(行っても大丈夫そうなところってあったけ……?)」

幼「(暇そうな部で知り合いのいる…………)」ウーン

幼「(……あ)」

幼「(そういえば少女ちゃんコス研だったっけ)」

幼「(部員は2人だけだし行っても大丈夫だよね)」

部室棟 コスプレ研究同好会

幼「し、しつれいしまーす」ガチャ

少女「あ、幼さん」

少「珍しいですねー一人でくるなんて」

幼「(今日はメイドかあ、やっぱ少女ちゃんは何着ても似合っていいなー)」シュン

幼「うん、まあちょっと色々あってね。今日は部長さん来てないの?」

少「はい、いつも遅いですよ部長」

幼「そうなんだ、ちょっとの間いてもいいかな?」

少「はい、じゃあお菓子でも出しますね」

幼「いやいや、おかまいなく!」

少「あはは、男さんがそんなことを」

幼「そうなんだよーほんとおっかしいよね」

少「そういえばここに来るまでは何してたんですか?」

幼「あー、かくかくしかじかで」

少「友さんですかー、そういえば疑問に思ってたんですけど」

少「友さんと幼さんって付き合わないんですか?」

幼「……………………え?」

少「お似合いだと思いますよー、美男美女って感じで」

幼「友君はともかく私は美女じゃないって……」ヤレヤレ

少「………………ハア」

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