俺は生まれてから十五年間、いじめというものとは無縁に生きてきた。
周りの人たちもいじめを許さない正義感のある人たちばかりだったし、俺もそうだと思っている。
だが高校に入ってからは、そうでもなくなった。
クラスメイトの□□がいじめを受けているらしいのだ。
俺がそれを知ったのは入学して三ヶ月目のことだった。
□□がクラスメイトに小突かれたり悪口を言われているのを見かけたのだ。
確かに□□は体も小さく、自分の意見をはっきり言わない男だ。いじめをする人間には格好の獲物だろう。
そこで俺は□□に話を聞くことにした。
「おい□□」
「あ、××くん……」
「お前いじめを受けているだろ?」
「え?」
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□□はあからさまに動揺する。どうやら図星のようだ。
「おい□□、なぜ黙っていじめを受けているんだ? 何か弱味でも握られているのか?」
「え、えっと、××くん?」
「何かあったら学級委員である俺に言え。わかったな?」
俺は□□の両肩を掴み、屈んで目線を合わせて言った。
「あ、その、ありがとう……」
どうやらわかってくれたようだ。
しかし□□を救うには、まだ手を打つ必要があるかもしれない。
そうだ、こいつのことを見守って、何かあったら止めよう。それがいい。
俺は次の日から□□を見張ることにした。
次の日、俺は朝一番に□□を探した。
どうやらまだ来ていないらしい。
「まさかもう、誰かにいじめられているのか?」
いやな予感がした俺は校門に出る。
すると、クラスメイトに頭を掴まれている□□を見つけた。
俺はすかさず声をかける。
「おいお前ら何をしているんだ!?」
「え? なんだよ××?」
「□□が嫌がっているだろうが! 放すんだ!」
「ちょ、ちょっと××くん……」
何故か気まずそうな□□をクラスメイトから引き剥がす。
「どうしたんだよ××?」
なんだこいつらは? まさかとぼけるつもりか?
「どうしたじゃない! お前ら□□をいじめていただろう!」
「は?」
なんてやつらだ。まさか自分たちのやっていることがわかっていないというのか。
「いいか! お前らがどんなに卑劣な手段をとろうと、いじめは許さないからな!」
俺は□□を連れて、校舎に入った。
俺は校舎に入ると□□に忠告した。
「おい□□、このままやられっぱなしでいいのか?」
「あの、××くん……」
「なんだ言い訳か? そんなんじゃいつまでもこの状況を打開出来ないぞ!」
どうやら□□自身にも問題はあるようだ。しかしそんなことはいじめをしていい理由にならない。
俺が必ず□□を救うんだ。
それから俺は□□がクラスメイトにいじめを受けているのを見かけたら、徹底的に糾弾した。
□□は大丈夫だとは言っていたが、俺にはとてもそうには見えなかった。
しばらくすると、□□がいじめを受ける場面は見なくなった。
良かった。これで□□は救われたんだ。
しかしそれからしばらくして、俺はまた□□がいじめを受けている現場に出くわした。
しかも今度は、クラスメイトに蹴られていた。
「おい! お前ら止めろ!」
俺は大声を出して彼らを制止した。
すると、いじめっこ達は俺を見て薄笑いを浮かべながら去っていった。
なんだこの反応は?
「大丈夫か□□?」
俺はとりあえず□□に声をかける。
「××くん……」
「またあいつらにいじめられたんだな? 大丈夫だ、俺に任せろ」
「××くんあのね」
「大丈夫だから、お前はきっと言い出せないだけだろ? 俺なら大丈夫だ」
俺はある決意を固めた。
二日後。
この日は全校集会のある日であり、生徒は全員体育館に集まっていた。
そして俺は集会の最後に話すことがあると先生方に訴え、壇上に上がらせてもらった。
「皆さんに言いたいことがあります」
少し息を吸った後に話し始める。
「僕のクラスの□□くんがいじめを受けています」
その言葉の後に体育館中がざわめき始めた。
「僕はいじめを許せません。何とかして□□くんを救いたいのです。力を貸してください!」
俺は力一杯叫ぶように訴えた。
□□は恐らくいじめっこの報復が怖くて相談出来ないのだろう、なら俺が言ってやる。
「皆で□□くんを救いましょう!」
だが事態は思わぬ方向に向かった。
何と□□へのいじめが激化したのだ。
彼への暴力や罵倒が公然と行われ、持ち物を壊されるなどの被害も出ていた。
「お前ら何をしているんだ!」
もちろん俺はいじめっこ達をその都度止めた。
しかし俺一人では彼らの行いの全てを止めることはできなかった。
さらに俺は気になることがあった。
「……」
「……」
クラスメイトたちが俺を見て、何かをコソコソ話しているのだ。
正直言って、俺に何かを言われる心当たりはない。
一体何が起こっているんだ?
そしてそんな日がしばらく続いたある日、□□が学校を休んだ。
「まずいな……」
俺は何かいやな予感がしたので、□□の家を訪ねた。
「こんにちは。××と申します」
家に行くと□□の母親が出迎えてくれた。
「ああ、あの子のクラスの?」
どうやら□□から俺のことを聞いているらしい。
「□□、クラスの人が来てくれたわよ」
親御さんが□□を呼ぶが返事は返って来なかった。
「ちょっと待っててね」
そして階段を上って行く。□□の部屋は二階のようだ。
……中々戻ってこない。□□がごねているのか?
そう思っていると、ようやく親御さんが戻ってきた。
「……ご免なさいね、あの子具合が悪いみたいで」
「本当ですか? 嘘をついているのではないですか?」
「え?」
「いじめが怖いから部屋から出たくないのではないですか? でもそんなことではいつまでもあいつは部屋から出てこれない!」
「……」
そして俺は叫んだ。
「聞こえるか□□!」
「ちょ、ちょっと……」
「俺はお前が出てくるまで毎日来るぞ! 一緒にいじめに立ち向かうんだ!」
「やめてくれる? 今日はもう帰ってくれるかな?」
「いいか! 俺は絶対、お前を外に出すからな!」
俺は強く宣言した後、□□の家を後にした。
それから。
俺は毎日□□の家に通い、辛抱強く説得した。
親御さんに止められることもあったが、俺の熱意に押されたのかある日を境にそれも無くなった。
そんな日々が十日近く続いた。
そしてついに、□□と対面するときが来た。
「□□、入るぞ」
俺は声をかけた後、□□の部屋に入る。
久しぶりに見た□□だったが、特に変わった様子もなく、いつもの自信のなさそうな表情を浮かべていた。
これではだめだ、いじめに立ち向かえない。
俺は□□に強く訴えかけた。
「□□! いつまでこの部屋に閉じこもっているつもりだ!? そんなんじゃ状況は永遠に変わらないぞ!」
俺の叫びに□□は身体を震わせ、目を逸らす。
だがそれも一瞬のことで、直後に俺をまっすぐ見据えていた。
「そうだ□□! そうやって俺をまっすぐ見ろ! それならお前も立ち向かえる!」
あと少しだ、あと少しで□□を救える。俺の熱意が届いたんだ。
「そうだね、僕は立ち向かわなくてはならない」
「その通りだ、俺と一緒に……」
「××くん、君に立ち向かわなくてはならない」
…………今□□は何て言った?
俺に立ち向かう? どういうことだ?
ああそうか、おそらくこういうことだ。
「そうか……確かに俺はお前に厳しく接していたからな。まずは俺に立ち向かう必要があるかもな」
だが□□は首を振った。
「本当に……君は自分の都合の良いようにしか考えないんだね」
「なに?」
「僕が君に感謝するとでも思っているのかい?」
「何を言っているんだ□□? 俺は感謝されたくてやっているんじゃない。お前を純粋に助けたいんだ」
「違うね。君は感謝されたくてやっていたんだ。その証拠に、僕のためといいながら僕の話は全く聞かなかった」
□□は言葉を続ける。
「いじめなど受けていなかった僕の言葉を全く聞いてくれなかった」
いじめなど受けていなかった?
今、□□はそう言ったのか?
「強がりはよせ□□。辛いのはわかるが、現実を受け入れるんだ!」
「やっぱりね。君は自分がそうだと思ったら、絶対にその考えを曲げない。他人の言葉をまったく聞き入れない」
「俺はお前を救いたいんだ! だからお前にとって辛く感じることを言うこともある!」
「だからさ、僕はいじめられていなかったんだよ」
「何を言っているんだ!?」
「僕はクラスの人たちとは仲良くやっていた。小突かれていたのも単なるおふざけの範疇だった。それを君がいじめだと勝手に騒ぎ立てたんだ」
なんで、なんでこいつはそんなことを言うんだ。
「もしかしてお前はあいつらを庇っているのか? その優しさがお前自身を追いつめているんだぞ!」
「何でこうも人の話を聞かないかな。僕はいじめを受けていなかった。だけど君のせいでいじめになったんだ」
「俺のせい、だと?」
「そう、君のせいだ。君が彼らの行為をいじめだと決めつけることで、彼らは僕をいじめられっこだと認識した。だから次第に彼らもその気になったんだ」
「そんな、そんなはずはない!」
「そして決定打になったのは、あの集会での君の宣言だ」
「宣言?」
「君は全校生徒の前で僕をいじめられっこだと言い放った。そのことで僕へのいじめは生徒たちにとって紛れもない事実となったんだ」
俺のせい? 俺が?
「お前がいじめを受けていたのは事実だろう! 俺はみんなと問題を共有したかっただけだ!」
「だが君の行動のおかげで、僕は全校生徒にいじめられっこだと認識された。いじめを受けている、『異常な生徒』だと認識された。だから僕へのいじめは激化した。僕は『異常』なわけだからね」
「だけど俺はそれを止めただろう!」
「ついに保身に走ったね? 確かに君は止めていた。でも火付け役は他でもない君だ。皆笑っていたよ。『あいつ自分が一番のいじめっこだってわかってないのかな』って」
おかしい。こんなことがあっていいはずがない。俺は□□を助けるために行動していたんだ。
――そうだ。おかしいのは□□の方だ。
だが□□は叫んだ。
「君は僕をいじめられっこに仕立て上げたんだ! 君にそんな『権利』があるのか!? 僕をいじめられっこにする『権利』があるというのか!?」
もうだめだ、もう□□は完全におかしくなっている。
俺を逆恨みしている。
どうする? どうすればこいつを救える?
――――
もう、こうするしかないのか。
……そして俺は。
「な、何を!?」
近くにあったトロフィーを□□の頭にたたきつけた。
「ぐあっ!?」
□□は頭から血を流しながら倒れた。
もうこうするしかない。□□は完全におかしくなってしまっている。
だったらもう、殺すしかない。
俺の言うことを聞かないようであれば、どの道こいつに未来はない。
そして俺はトロフィーを再び再び振り上げた。
だが……
「ぐっ!?」
背中に何かが刺さったのを感じた直後、俺の意識は暗転した。
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「警部、現場検証は一区切りしました。あらかたの状況はわかったようです」
「そうか、それで何があったんだ?」
「ええ、病院に搬送されたこの家の男子高校生の□□くんを殴ったのは、死体で見つかった男子高校生、××くんで間違いないようです。□□くんの母親が彼を刺したことを認めています」
「なるほど、動機はわかったのか?」
「どうも××くんは□□くんをいじめられっこだと勘違いして一人で空回りしていたようですね。そのことを指摘されて□□くんを殴ったようです」
「そしてそれを止めようとして、母親が××を刺したわけか……」
「しかしなんで××くんは殴ったりしたんでしょうね? いじめから□□くんを助けたかったはずなのに」
「いるんだよ、たまに」
「はい?」
「心配する体で近づいておいて、相手のことを見下しきっている、いじめっこ同然のヤツが」
完
いや これはただの勘違いだから全然ちがう
みなさんありがとうございます。
>>31
勘違いというか無自覚に見下していた感じというか
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