千早「バッテリー切れ」 (6)


 電池がなくなれば、携帯電話なんてただの箱だ。そう思い知る。

千早「……」

 機種変更したばかりのスマートフォンを何度も軽く叩いてみたけれど、電源は入らない。
 春香や我那覇さんに765プロのみんなの写真や映像を入れてもらって、それを見ていたら簡単に電池が切れた。

 前の携帯ではそこまで使うことがなかったから、驚いている。

千早「……いいところだったのに」

 プロジェクト・フェアリーファンクラブ限定の特典映像を見ていたら、良い所でシャットダウンした。
 四条さんが「蕎麦にわさびといえば……」に続いて何と言ったのか、気になって仕方がない。

 私は少々落胆して、鞄に携帯電話をしまった。


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 電車内、家に着くのはもう少し時間がかかる。
 音楽も全てここに入れてしまったから、曲を聞くことも出来ない。

千早「……」

 走行音をバックに、夜の景色を眺めるだけ。
 そんな夜もなかなか良いけれど、なんとなく慣れない。

 美希や水瀬さんから送られてくるメールに返信したり、
 亜美、真美、律子のメッセージに既読だけでなく返信をしたり。

 そんなことも、全て電車の中でやっていた。


 携帯電話が無いだけで、私自身までがバッテリー切れしたようにやることがなくなる。
 昔はそんなことはなくて、ひとりでもいくらでも何かに逃げることが出来た。

千早「……っ」

 鞄から、プロデューサーがくれたツアーライブの資料を取り出す。

 765プロダクション。
 その場所が、優しい場所が……私を、受け入れてくれたから、今があるのよね。

 楽しい話をするのも、悔しいねって言い合うのも。


 電車のドアがゆっくりと開く。隣のサラリーマンがそそくさと降りていった。
 次の駅が、私の家の最寄りだ。

 春香と我那覇さんに、連絡を取らないと。

 ——今日は不定期開催の、『同い年反省会』だ。
 反省会といっても、お菓子を食べてジュースを飲んで、私の家で一晩過ごすだけなのだけれど。

 それがとっても心地よくて、私は大好きだ。

 いつもは寝に帰るだけの場所が、あの事務所と同じような空間に早変わりするのだから。


 ガタン、ゴトン。
 いろいろな人を詰め込んだ電車は揺れる。

 私より少し早く事務所を出たふたりは、きっともう駅に付いているはずだ。

 もしかしたら、電話をかけているかもしれない。
 駅についたら、公衆電話を探しましょう。

千早「……そろそろかしら」

 電車内にあるモニターは、最寄りの駅名を表示していた。


千早「……」

 到着した。ドアの前に立ち、開くのを待つ。
 やがてドアが開いて、人を吐き出していった。

 階段を下り、あたりを見渡す。
 ふたりはまだ居ない。

 改札を通って公衆電話を探す。しかし、記憶と違って駅には公衆電話が設置されていなかった。
 おかしいわね、前はここに確かにあったと思うのだけれど。

 普段、公衆電話を必要と思っていないから……きっと、曖昧なのね。

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