姫「そっきん!」 側近「如何なさいましたか?」 (56)

姫「おはよう!そっきん!」

側近「おはようございます、姫様」

姫「そっきん!」

側近「如何なさいましたか?」

姫「だっこ!」

側近「恐れ入りますが姫様、まだ朝の5時前です」

姫「だって、めがさめちゃったんだもんッ」

側近「だからといって休日に気持ちよく寝ている私をだっこのために起こしに来たのはどうかと…」

姫「いいじゃん!だっこ~!!

側近「わかりました、わかりましたから大きな声を出してはいけません」

姫「はやく~ッ!」

側近「ふぅ……」ヒョイ

姫「んふふ~♪」ダキッ

側近「…よいですか、姫様」ヨシヨシ

側近「両陛下が外出中でお寂しいのは分かりますが、姫様はもう5歳でございます」

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側近「いや、一般的にまだ幼い姫様には酷かもしれませんね」

側近「ですが、来年には王族として神の洗礼の義も控えております、古より勇者様の手によって築き上げられたこの国の…ん?」

姫「ん…ンくぅ…」スヤスヤ

側近「……よしよし」ナデナデ

側近「散歩でもいきましょうか」

侍女「? あら、側近様、おはようございます! って、姫様」

側近「おはようございます、どうかされましたか?」

侍女「姫様を探していたのですよ、寝室にいなくて。
どちらに行かれたのかと思って心配していましたが、側近様のお部屋にいたのですね」

側近「抱っこのために起こされてしまいました」

侍女「ふふ、寂しかったのでしょうね。
でもよく寝てる…、起こしちゃ可哀想ですね」

側近「ああ、それで、このまま少し散歩に出ようかと。
申し訳ありませんが、姫様の羽織ものを持ってきて頂けませんか?
外は冷えますので」

侍女「ええ、かしこまりました」

側近「あっ、日が出てきましたよ、姫様」

姫「ん……」スヤスヤ

侍女「お待たせ致しました」

側近「ありがとうございます、よいしょ」

侍女「ああっ、いいですよ、私が着せますので…。
ん、これでよし」

側近「あったかそうですね」

侍女「あと、側近様、お部屋に剣をお忘れです」スッ

側近「いいですよ、そんな物」

侍女「ええっ?しかし……」

側近「散歩の時にそんなものぶら下げたくありませんし、城内は安全です」

侍女「は、はぁ…」

側近「それでは行って参ります」

侍女「はい、いってらっしゃいませ」

- 城内 中庭 -

側近「うーん、城内の木もすっかり葉が落ちてしまいました、ますます寒くなりますね」

老人「おお、側近ではないか!」

側近「これは、大魔導老師様、おはようございます。
こんな朝早くからどうされたのですか?」

大魔導老師「おはよう。
なに、朝の散歩じゃ、年寄りは早起きでの…おや?姫様じゃないか」

側近「朝早くに私の部屋に…、こうして抱き上げたら眠ってしまいました」

大魔導老師「ほう、お前によく懐いておるのぉ」ヨシヨシ

側近「両陛下不在で寂しいのでしょうね」

大魔導老師「同盟国へのあいさつ回りじゃそうだが、王も難儀なもんじゃな。
ところで、護衛はどうしたんじゃ?いつもならお前もついて行くじゃろうて?」

側近「今年はフェンリルの部隊と教会から幾人かお伴しております。
せっかくの休みなのだからと…、使い魔もおりますので、何かあれば連絡がくるかと」

大魔導老師「まぁ、この領土内で王に危害を及ぼそうなどと考える輩はおらんじゃろて」

側近「平和ですね」

大魔導老師「平和じゃ」

??「おや、お義父さん、朝の散歩ですか?」

??「あらあら、側近様も、姫様までいらっしゃるのね、うふふ」

側近「これは、魔闘士団長様に看護部隊長様、おはようございます」

魔闘士団長「やぁ側近くん、朝早くから姫様のお守りかい?」

側近「そんなところです」

看護部隊長「うふふ、気持ちよく眠ってますね、かわいい」フニフニ

側近「お二人とも、どうされたのですか?今日はどの部隊もお休みに入るはずですが」

魔闘士団長「いやなに、早くに目覚めてしまってね、自室の片付けが終わって妻と散歩でもと」

看護部隊長「私は日課のお祈りに、そうしたらこの人が教会に迎えに来たの、うふふ」

大魔導老師「まったく、見せつけてくれるわい」

看護部隊長「お父様ったら、昨日は大分呑まれていたんでしょう?
お身体に障りますよ?まだ寝ていたほうが…」

大魔導老師「馬鹿を言え、久々に孫の顔を見れるんじゃ、おちおち寝ておれんわい」

側近「今日は皆様、ご自宅に帰られるのですか?」

看護部隊長「ええ、もう3ヶ月も娘の顔を見てませんもの」

魔闘士団長「面倒をみてもらってる使用人から手紙が来ていてね、やはり寂しがってるそうだよ」

大魔導老師「たんと土産を買って帰ってやるとしよう。
側近よ、聞け。 さすがわしの孫じゃ!
姫様と同い年なのにの、もう魔法に興味を示しておる。
幼子向けの魔法文学書をたんまり買ってやるつもりじゃ~、喜ぶかのぉ」

側近「それはそれは、将来が楽しみですね」

大魔導老師「じゃろ?きっと偉大な魔闘士になるぞ!…いや、魔法薬学師でもええかの?
容姿も娘によーく似てべっぴんじゃ!」

看護部隊長「もう、お父様!気が早いですよ」

魔闘士団長「はははっ、いいじゃないか!今日は城下町に連れだして目一杯遊んでやるつもりだよ」

姫「じょーかまち……?」

側近「姫様…?お目覚めになったのですね」

姫「おはよう、そっきん。
みんなもおはようございます!」

魔闘士団長「おはようございます、姫様」

看護部隊長「はい、おはようございます、姫様」

大魔導老師「おお!おはよう姫様!しっかり挨拶ができて偉いのぉ」ナデナデ

姫様「んむ…えへへ。
ねぇそっきん!わたしもじょーかまちにいきたい!」

側近「姫様…、陛下の留守中に外出は…」

姫「……だめ…なの?」ウル

側近「うっ……」

魔闘士団長「ははは!我が国最強の剣の使い手も姫様には弱いんだね。
いいんじゃないかな、我々がお供させて頂きますよ、姫様」

大魔導老師「そうじゃそうじゃ!王もそのような事を咎めるお人ではなかろうて!
何かあればわしらが弁明してやる!共に参ろうぞ!姫様!」

側近「国王陛下はお許しになって頂けるかと、問題は女王陛下ですが…」

看護部隊長「あら、女王陛下なら私からお話致しますよ、もと“同期“ですもの、うふふ」

側近「はぁ…それならば心強いばかりです…。
姫様、本日は皆さんと私と、城下町へ参りましょうか」

姫「ほんと!?やった!やったー!!」スルッ

側近「姫様っ!?危ないです!ああっ!走ってはだめですよ!」

姫「やった!じょーかまちー!たのしみー!!……あうっ」ドテン

側近「あ」
魔闘士団長「おや」
大魔導老師「およ」
看護部隊長「あら」

姫「ふぇ…ふぇぇぇぇ…ヒック…」ジワジワ

ビィェェェェン!!!

側近「姫様!!姫様ぁ!!」ダダッ

大魔導老師「やれやれ…ちーとばかし、元気が良すぎるのぉ、姫様も」

魔闘士団長「側近くんも苦労が絶えないね」

看護部隊長「でも楽しそう…、“カーリア“、いい子にしているかしら」

- 城門前 -

側近「というわけで、何かあれば伝書鳩をお願い致します。
私も含め、お歴々も一緒なので、心配はないかと思いますが」

衛兵A「なるほど、承知いたしました側近様」

衛兵B「我々は午前で交代となりますが、後続の者に引き継ぎ致します」

衛兵C「楽しんできて下さいッス!姫様!」

姫様「うん!たのしみ!」バンザイ

大魔導老師「おーい!すまんすまん!待たせたわい!」

看護部隊長「もう!荷物はまとめておいてとあれほど言ったではありませんか!」プンスカ!

魔闘士団長「まぁまぁ、いいじゃないか…落ち着いて」

大魔導老師「婿殿はやさしいのぉ…、全くお前も見習わんか」

看護部隊長「なっ!?大体お父様は…」クドクドクドクド

衛兵A「け、敬礼!」ザッ

衛兵B・C「敬礼!」ザッ

大魔導老師「あーよいよい、かしこまるな!
わしらはオフじゃぞ、ホリデイじゃ、バケーションじゃ」

衛兵A「はっ!し、失礼を…ッ」

魔闘士団長「まぁまぁ、固くならないで」ポンポン

看護部隊長「あら、あなたはこの間教会で挙式をした…奥様はお元気?
赤子を授かったと聞いていたけれど」

衛兵B「はっ、おかげさまで大変体調も良く、順調であります!
王の計らいで近くの療養施設まで提供いただき、感謝の言葉もありません!」

看護部隊長「そう、よかったわ…、いろいろ大変かもしれないけれど、子供はいいわよ?うふふ」

衛兵B「へ、へへへ」ニヘラ

衛兵C「す、すごいッス…、魔法部隊の幹部が3人もこんな近くに…」

姫「ねぇねぇ」ユサユサ

衛兵C「ん?どうしたッスか姫様?」

姫「おてて、けがしてるの?」

衛兵C「へっ?ああ!大したことないッス!演習中にこけちゃっただけッス!!
ツバつけとけば治るッスよ!!」

側近「油断はいけませんよ、雑菌が入れば大事になりかねません。
ここの警備が終わったら医務室へ行きなさい」

衛兵C「きょ、恐縮ッス…」

姫「んー、えいっ!」ギュ

衛兵C「ひ、ひひ、姫様!自分の手なんか触っちゃだめッス!汚いッス!」

姫「ん~、いたいのいたいのとんでけー!」

衛兵C「……」

側近「……」

姫「えへへ、もういたくないよ!」オテテナデナデ

衛兵C「ん…んぐっ…」ジワッ

姫「!?…い、いたい!?まだいたいの!?」

衛兵「ち、違うッス!いたくないッス!もう自分は不死身ッス!」ブルブル

衛兵A「お前な…、泣く奴があるかよ…」

衛兵C「だって…だって、俺決めたッス!もう手は洗わないッス!」

姫「えー?ごはんをたべるまえと、おそとからかえったときは、てをあらいなさいっておかあさま
いってたよ?」

衛兵B「姫様の言うとおりだ、馬鹿なこといってんじゃないよ…
それでは皆様、我々は警備に戻ります」

大魔導老師「そうじゃの、じゃあ参ろうか、皆の者」

魔闘士団長「そうだね、それではよろしく頼むよ」

看護部隊長「お身体に気をつけて、奥様によろしくね」

衛兵A・B・C「「「いってらっしゃいませ」」」

側近「…」ジー

衛兵C「そ、側近様…どうかしたッスか…?」

側近「いいえ、もう医務室は必要ないようなので。
それでは宜しくお願い致します」ペコリ

衛兵C「へっ?あ、はい!いってらっしゃいませ!!」ペコリ

衛兵A「…それにしても、姫様は本当に良いお人に育っている」

衛兵B「本当に…姫様だけでなく、ここの人たちは本当に温かい方ばかりだ。
奴隷商に売り飛ばされて、後はどこぞの金持ちにこき使われて死ぬだけだと思っていた俺をこの国は拾って下さった。
時々、怖くなりますよ、夢なんじゃねーかって…」

衛兵A「ああ、俺もそうさ。
この国のためなら、俺は喜んで命を投げ捨てられる」

衛兵B「だめですよ、衛兵Aさんもお子さん二人もいるんでしょう。
そう簡単に死ねないじゃないですか」

衛兵A「そう簡単にくたばるつもりはねーさ。
お前も同じだぞ?もうお前だけの命じゃねーからな」

衛兵B「へへ、肝に命じておきます。
それより、ここ交代したら飯食いにいきましょうよ、嫁に土産も買いたいし。
お前も来るだろ?衛兵C?…って、どうした、お前?」

衛兵C「…へ?い、いやなんでもないッス!
あ、それなら新しく出来たステーキ屋どうスか?
すげー旨い肉を分厚く出してくれるらしいッス」

衛兵A「おっ、いーじゃねーか!なんなら一杯引っ掛けてくか?」

衛兵B「勘弁して下さいよ―、嫁にぶっ殺されちまう」

衛兵A・B「ハハハハハハハッ」ゲラゲラ

衛兵C「(て、手の傷がなくなってら…、オマケになんだか体が軽いな…)」

城下町 - 雑貨・土産物通り

姫「わぁぁぁぁぁ♪」キラキラ

側近「姫様、私の手を離してはいけませんよ」

姫「みてみて、そっきん!いろんないろのひがいっぱい!」

側近「マジック・ランタンですね」

姫「きれいないしがいっぱい! キラキラしてるよ!」

側近「魔法石のジュエリーショップですか、しばらく見ないうちに新しいお店がずいぶん増えましたね」

看護部隊長「ふふ、女の子ですもの、綺麗なアクセサリーは魅力的よね。 ねぇ、あ・な・た♪」

魔闘士団長「そ、そうだね…、ははは…」

大魔導老師「娘のしとる結婚指輪じゃがな、ブルーエメラルドの最高品質品でな…。
わざわざ採掘場から買い付けて特注したらしい…」ヒソヒソ

側近「魔闘士団長様も大分頑張られたのですね」オロロ

看護部隊長「あら、殿方が秘密話なんて、感心しませんわね」

側近・大魔導老師「」ビク

大魔導老師「こ、この辺なら孫への土産も買えるじゃろ…、ちょっと行ってくるわい!」スタコラサッサ

看護部隊長「あ、ちょっとお父様!」

魔闘士団長「なぁ、僕らも本屋を見ていかないかい?
民間に出回っている魔法書もバカに出来ないからね。
たまには自分で眺めてみたいんだ」

看護部隊長「あら、いいですわね。側近様、姫様、いかがですか?」

側近「いいですね、姫様、参りましょうか」

姫「うん!」トテトテ

本屋 - 児童書コーナー -

姫「わぁー、ほんがいっぱい!」キラキラ

側近「本屋ですからね」

姫「!」トテトテ

側近「姫様、どうかなさいましたか?」

姫「そっきん、これなんてよむの?」コレッ

側近「“勇者ものがたり“」

姫「ゆうしゃさまの?」

側近「そう、勇者様の活躍を描いた絵本ですね」

姫「んー、んー」ペラッ ジー

側近「城にも同じ本がたくさんありますよ」

姫「おしろのほんは…むずかしいの」シュン

側近「なるほど」

側近「(確かに、厚さもほどほど、文字は控えめでよくまとまっていますね)」

姫「んー、んー」ペラペラ

側近「姫様、お気に召しましたか?」

姫「…うん」

側近「じゃあ、私からその本をプレゼントしましょう」

姫「…いいの?」

側近「いつも元気で良い子にしている姫様へのご褒美ですよ」ナデナデ

姫「やったぁ!!」ハンザイ

側近「姫様、本屋という場所ではお静かに…」シー

姫「ぁっ…うん♪」シー

魔闘士団長「ああ、ここにいたんだね」

看護部隊長「何か良い本は見つかりましたか?」

姫「あのね、そっきんがね、ぷれぜんとって!」コレッ!

看護部隊長「まぁ、勇者様の物語ですか、良い本を選びましたね、姫様」ナデナデ

姫「うん♪」テレテレ

魔闘士団長「ああ、城の書庫にあるのは歴史書や文学書ばかりだからね。
良い選択だね、側近くん」

側近「恐縮です。
お二人は何か良い本がみつかりましたか?」

魔闘士団長「んー、やはり破壊魔法を生業にしている僕らには民間の本はだめかな…。
あっても魔法護身術の本くらいだったよ」

看護部隊長「こちらは大収穫ですわ♪
魔法食物を使ったお料理のレシピに、最新の魔法薬学書。
精神疾患に対する魔法医学の最新論文、それに防御魔法の応用書も興味深いですわ」

魔闘士団長「それ、全部読むの?」

看護部隊長「当然♪ あの子に栄養満点の食事を作ってあげたいし、お勉強も教えてあげなくちゃ」

魔闘士団長「ふぅ、歴代屈指の大僧侶様も、寿退社ってとこかい?」

看護部隊長「あら、教会を離れるつもりはありませんわ。
私を必要としてくれる人がいる限り、一生を捧げる所存ですもの」

魔闘士団長「まったく誇らしいよ、そんなところを愛しているんだけどね」

看護部隊長「ふふ…、あなたの時々見せてくれる、そういうちょっとクサいところが好き♪」ギュ

側近「あ、あの…、お二人とも…」

姫「///」アセアセ

魔闘士団長「あ…コホンッ……。
それじゃあ、そろそろ会計して行こうか…」

看護部隊長「ふふふ♪ 失礼しました♪」

本屋の店主「はい、ありがとね。
んー、20G頂戴しますよ」

側近「姫様、これを御店主に」チャリン

姫「う、うん…、あの、あのっ、これ!」アセアセ

本屋の店主「はぁい、 お嬢ちゃんありがとうね……、って姫様!?!?」

姫「はい♪」

本屋の店主「ってことは、そ、そそそ、側近様ではありませんかっ!?」

側近「御店主、今日はお忍びですので、どうか」

本屋の店主「め、滅相もございません! 側近様からお代を受け取るなど恐れ多いこと…」

側近「では、姫様の社会勉強とお考え頂いて…、受け取って頂けませんか?」

本屋の店主「さ、左様でございますか、そ、それでは姫様……恐れながら頂戴致します…」

姫「はい♪ どうぞ!」

本屋の店主「ははーっ…、おい、お前!このお金を金庫に!早く!」

本屋の店主の妻「あらやだ!姫様がうちの店なんかに…、どうしましょう!
隣の奥様にご報告しなくちゃ!!」

姫「みんな、どうしたのかな?」

側近「姫様が人気者だからでしょうね」

姫「??」

- 城下町外れの住宅街 -

大魔導老師「おーい、帰ったぞい!!」

執事「これはこれは大旦那様に奥様! …あと婿殿」

魔闘士団長「なんか僕だけついでっぽくない…?」

看護部隊長「もう、執事もいい加減にこの人を認めたらいいのに…」

執事「いえいえ、認めておりますとも、えー!認めておりますとも、”旦那様”」ジロジロ

魔闘士団長「くっ…、一兵卒からちゃんと出世したじゃないか…」

執事「おや、お客様ですかな、大旦那様?」

大魔導老師「ああ、紹介が遅れたの。
我が軍が誇る魔法剣技隊隊長であり、王の右腕の”側近”。
そして、王のご息女である”ソフィア様”じゃ」

執事「側近様…姫様…」

側近「……」

ソフィア「?」

執事「!!!!!」クワッ!!

ソフィア「!!」ビクゥ

執事「え!?マジすか!?どういうこと!?」

ソフィア「ふぇ…ふぇぇ…」ジワッ

看護部隊長「ちょっと!落ち着きなさい! 姫様が怖がってるでしょ!」ヒメサマヨシヨシ

姫「ヒック…」ガマン

側近「……」エライエライ

魔闘士団長「すまないね、現在、国王、女王両陛下とも不在でね。
姫様もずいぶん寂しい思いをなさっていたようで、僕達がお誘いしたんだよ。
側近くんは留守中に姫様のお側にいたしね、護衛として、そして客人として来てもらったんだ」

執事「なるほど、そのような事情が…、これは大変失礼致しました。
私、代々この家に仕えております”執事”と申します。
先ほどのご無礼、どうかお許し願きたく…」ヒザマズキ

側近「こちらこそ、突然の来訪をお許し下さい。
どうかお顔を上げて頂けませんか?」

ソフィア「あ、あげていただけましぇ…ませんか!?」カンダ!

執事「おお…、なんとお心の広い…」

大魔導老師「もうええかの? 夕食を馳走したいからの、その準備を進めてくれんか?
それと、昼は外で摂ろうと思っての、”カーリア“を呼んで欲しいんじゃが…」

執事「お嬢様であれば、先ほど自室で読書をなさっていましたが…、あ、参られました」

カーリア「パパ!ママ!おじいちゃん!」ダキッ

大魔導老師「おっとっ、ほっほ、元気にしておったかの、カーリア」

カーリア「うん!」

看護部隊長「良い子にしてましたか、カーリア?」

カーリア「うん!いっぱいほんもよんだよ!」

看護部隊長「そう、偉いわね」ナデナデ

魔闘士団長「カーリア、お客様だよ、ご挨拶して」

カーリア「おきゃくさま?」

ソフィア「はわっ…」ササッ

側近「姫様、私の後ろに隠れていてはだめですよ?
初めてお会いする方にはご挨拶をするよう女王陛下にお教え頂いたはずですよ?」

カーリア「……」テクテク

ソフィア「はわわ…‥」ギュ

側近「ふぅ……」

カーリア「こんにちは♪」

側近「こんにちは、カーリア様。
お初にお目にかかります、”側近”と申します。
以後、お見知り置きを」テノコウニキス

カーリア「わわ///」

大魔導老師「(こやつめ…)」

執事「(こやつめ…)」

魔闘士団長「(こやつめ…)」

看護部隊長「もう…、うちの殿方は……」

側近「さぁ、姫様、こちらへ」ヒッパリダス

ソフィア「はわっ…」

カーリア「……」ジー

ソフィア「あ…あの…」

カーリア「……」ジー

ソフィア「あの…あの…、こん…」アセアセ

カーリア「!! かわいいー♪」ダキッ

ソフィア「はわぁ…ッ!?」ムギュ

カーリア「ねぇ、わんちゃんすき!?」

ソフィア「わんちゃん…?」ドキドキ

カーリア「そう!わんちゃん! うちにいるよ♪」

ソフィア「う、うん! すき!!」キラキラ

カーリア「あっち! いこう♪」

ソフィア「うん!!」

タッタッタッ

側近「杞憂でしたね…」

大魔導老師「なにがじゃ?」

側近「姫様は同い年のお譲様と接する機会がなかったものですから、どうなるかと。
カーリア様には感謝致します」

看護部隊長「いいえ、実は私達も心配でしたの」

魔闘士団長「カーリアも、この家に閉じこもる事が多くてね。
機会は何回かあったのだけれど、家柄が家柄だけに他所の子供の親が遠慮しちゃってね。
決して悪気がないのはわかっていたんだ、でも、親としては複雑だろ?」

大魔導老師「まぁ、家柄が軍属となると、尚更じゃな。
いままで可哀想な想いをさせてしまったわい」

執事「お嬢様に…お嬢様に良いお友達が出来て……私めは…おぉっ」ナミダ

キャ クスグッタイ♪
スゴイ オオキイネー
デショー
オナマエハ?
ンー フェンリル ッテ シュルイ ダヨ
フェンリル!? カッコイイー

側近「フェンリルですか」

大魔導老師「ああ、フェンリル一族の長から何匹か預かっておっての。
人に負けず劣らず知能が高く、魔力が強い。
本人が望めば将来的にわしらの部隊に取り入れたくてな、長も快く了承してくれての。
なーに、生まれてまだ一週間足らずじゃ、人型にもなれやせん。
孫も可愛がっておるしの」

側近「なるほど」

看護部隊長「さて、昼食前に少し休みましょうか」

執事「大旦那様、奥様、お荷物をお預かり致します」

魔闘士団長「僕のは?」

執事「ああ、失敬失敬、”旦那様”」

魔闘士団長「絶対わざとでしょ」

城下町 - 飲食街

大魔導老師「ほっほ、相変わらずの賑わいじゃなぁ、ここは」

看護部隊長「姫様、何か食べたいものはございますか?」

ソフィア「え? うーん……、カーリアちゃん、なにたべたい?」

カーリア「うーん……、おにく……」

姫「おにく!? わたしもたべたい!」

魔闘士団長「肉かぁ……、いいね、ガッツリいきたい気分だ」

看護部隊長「普段から脂っこいものばかり食べているではありませんか…。
いつまでも若くないのですから、控えて下さいね、あなた」

魔闘士団長「何言ってるんだい、僕ら軍人は体力が資本さ、食べれる時に食べなくちゃね」

看護部隊長「そんな事ばかり言って、最近は内勤ばかりでしょう?
前よりお腹が出てきてますよ」ポンポン

カーリア「パパふとったぁ♪」ポンポン

魔闘士団長「くっ……、面目ない……」

ソフィア「……」ジー

側近「如何なさいましたか、姫様?」

ソフィア「そっきんは、やせてる」スリスリ

側近「そ、そうでしょうか…?」

ソフィア「もっと、ふとらなきゃ、だめだよ?」

大魔導老師「お主は華奢で女のような面じゃからな!
もっと食って鍛えよ!わしの若い時は…」ウンヌンカンヌン

魔闘士団長「ああ、それはそうと、肉って事ならステーキ屋はどうだい?
ちょうど…ほら、あそこ、黄色い看板の店だ。
最近出来た店らしいが、中々美味いって評判だ」

- ステーキ屋 店内 -

ウェイトレス「あっ、いらっしゃいませ♪
6名様ですか? 奥のテーブルへどうぞー」

看護部隊長「あらー、綺麗なお店。
全然煙たくないのねー、嬉しいわ」

ウェイトレス「ありがとうございます♪
あ、お子様用の椅子を2つご用意しますね、こちら、メニューになります」

大魔導老師「ほっほ、すまんの」

ウェイトレス「お待たせしましたー」ヨイショ

魔闘士団長「ありがとう。
おいでカーリア、落ちないようにね」ヨッコラセ

カーリア「うん!」

側近「姫様もこちらへ」

ソフィア「はーい」

看護部隊長「いっぱいあるわねー……、子供たちに食べさせるなら、どれがいいかしら?」ペラペラ

ウェイトレス「あ、それでしたらこちらをおすすめします。
果物をベースにしたソースで香辛料も抑えているので食べやすいですよ。
デザートもお付けいたします♪」

看護部隊長「大きなサイズもできるかしら?」

ウェイトレス「はい、もっちろん♪」

看護部隊長「そう、じゃあ、カーリアはママと半分こしましょうね。
ハンバーグとこっちのお肉、どっちがいい?」

カーリア「ハンバーグがいい!」

看護部隊長「じゃあ、このハンバーグの中サイズをひとつとサラダとライスを頂けるかしら」

ウェイトレス「かしこまりました!」

側近「姫様は何をお召し上がりになりますか?」

ウェイトレス「!!(姫様!?)」

ソフィア「サイコロステーキ!おおきいの!」

側近「姫様、絶対に食べきれますか?」

ソフィア「うぇ?うーん…、やっぱりちっちゃいのぉ」シュン

側近「では、サイコロステーキの小サイズを1つ、こちらもサラダとライスをお願い致します」

ウェイトレス「か、かしこまりました!!」

魔闘士団長「牛ヒレステーキ、特大、二枚重ね、サラダ、ライス大盛り、ガーリックスライス多めで」

大魔導老師「わしも同じじゃ」

側近「あ、私は普通のヒレステーキ、サラダ、ライスをお願い致します」

ウェイトレス「かしこまりましたー!」


ウェイトレス(えー!姫様って言った!姫様ってあの姫様のこと!?)


*


看護部隊長「はい、カーリア」

カーリア「あーん♪」パクッ

側近「姫様、どうぞ」

ソフィア「あーん♪」パクッ

ソフィア・カーリア「「おいしー!」」

看護部隊長「あら、本当!おいしいわねー」モグモグ

ウェイトレス「ありがとうございます!」ガッツポーズ

側近「お肉がとても柔らかいですね」

ウェイトレス「ふふ、マスターの入念な下ごしらえを加えてありますから。
あ、お客様がきたのでちょっと失礼しますね」

側近「姫様、すぐに切り分けしますので」コキコキ

ソフィア「ひめがやるー!」

側近「いけませんよ、危ないですからね」

ソフィア「むぅー」ムス

カーリア「ひめちゃん、ひめちゃん」

ソフィア「なーに?カーリアちゃん!」

カーリア「ハンバーグ、ひとくちあげる!」ハイッ

ソフィア「ほんと!?ありがとう!」アーン


―――――ガシャン!


姫・カーリア「!」ビクッ

「あ!?酒が出せねぇってどういうことだ!?」

「で、ですから…、昼間はお酒は出していないんです…、メニューにも書いてありますっ」

「そんなもん知るか!!酒の名前がメニューに書いてあるだろうが!!3人分持ってこいや!!」ドン

「キャッ」



魔闘士団長「なにやら騒がしいね、飯がまずくなることこの上ない」

カーリア「ふぇ…こわい」ジワッ

看護部隊長「大丈夫よ、カーリア」ヨシヨシ

大魔導老師「全くじゃ、どれ、ちっと灸を据えに行くかの」

看護部隊長「いいえ、ここは私が行きますわ。
女の子を恫喝するなんて許しません」

魔闘士団長「君が出ると命に関わる…いや、カーリアが不安になるからここに居てくれ」

側近「いえ、私が行きます」

魔闘士団長「そ、側近くん」

側近「皆さんは休暇中ですからね、まぁ、私もですが。
姫様の護衛として対処するまでです」

グイッ


側近「姫様?」

ソフィア「そっきん、あぶない」グイッ

側近「…大丈夫ですよ、姫様、恐れ入りますが、しばらくお待ち頂けますか?」

ソフィア「うん…」

魔闘士団長「待って、店主が出てきたみたいだ」



コックコートの青年「おい、何の騒ぎだ」

ウェイトレス「マ、マスター…」

ならず者A「あ?誰だてめぇは?」

コックコートの青年「ここの店主だ、その子から離れろ」

ならず者B「あ”!?なんだてめぇ、客に対してその態度は!?」

コックコートの青年「……あんたら奴隷商だろ、首の刺青を見りゃわかる」

ならず者C「あぁ~?だったらなんだ、おい?」

コックコートの青年「俺の店は奴隷商は出入り禁止だ、さっさと出てけ」

ならず者A「んだとてめぇ!?客を差別しようってか? …ん?」

ならず者B「おい、どうした?」

ならず者A「この女、見覚えがあるぜ?
半年くらい前にここに卸した商品だよ。
又売りされたらしくてよ、胸に前の飼い主の焼き印があった」

ウェイトレス「ッ…!!」

ならず者B「おお、そうか!言われりゃ確かにそうだ!…へへっ…おらぁ!!」ビリィ

ウェイトレス「ッ!? いやぁぁ!!」

ならず者B「おーあったあった、あのしょぼくれた顔した女じゃねーか、おい?」

コックコートの青年「てめぇ!!」バッ

ならず者A「おっと、邪魔だよ」ゴッ

コックコートの青年「ぐぇ…」ドサッ

ならず者A「けっ!一発で伸びやがった…ガタイの割りに弱ぇな…おらぁ!!」ゴキッ

コックコートの青年「ぐがっ…おぇ」

ウェイトレス「マ、マスター!!
大丈夫ですか、しっかりして!」ダキッ

ならず者A「へっ、俺らが奴隷商だから何だってんだ、てめぇこそ奴隷をこき使ってるじゃねぇか」ペッ

ならず者C「お客様に対する非礼を詫びてもらわねーとな、おっと?中々上等な酒を扱ってんじゃねーか。
何本かもらってくぜー」ガチャガチャ

ウェイトレス「マスターの店のものに触るな!!このケダモノ!!」ガッ

コックコートの青年「よせ!!」

ならず者C「ッてぇなぁ……、このアマァ……、檻に居たころみてぇに死ぬほど殴られてぇのかオラァ!」ブンッ



側近「もう、その辺にしておきましょうか」ガシッ



ならず者C「なんだこのガキャァ!!ぶち殺すぞ!!」バッ

ならず者A「見たとこ、兵士じゃねぇみてぇだな…、妙な正義感で首突っ込むと寿命を縮めるぜ?
おとなしく肉でも突いてろや」

側近「あなた方の声が余りに耳障りで食事の邪魔だったので…。
それと顔を近づけないで下さい、息が臭すぎて鼻がもげそうです」


ならず者A「なっ!? …んだとコラァ!!」


側近の身長より頭二つ分はあろうかという男の腕が振り上げられる。

側近はその予備動作を見切り振り切られた腕をかわすと、自身と男の突進力を相乗した拳を男の喉仏に向けて
叩き込んだ。
猛烈な喉の痛みと呼吸困難に陥った男は勢いよく床に倒れこみのた打ち回った。


側近「ここで揉めるとお店のご迷惑になりますので、続きは外でしましょう」ガンッ


側近は足元で今にも嘔吐しようとする男の後頭部に向け追い討ちの踵を打ち下ろした。

ならず者B「ま、待ちやがれ!」

ならず者C「クソッ…ぶっ殺してやる…」



自分たちの仲間が小柄な優男の一撃に沈んだことに狼狽する残りの二人は半ば言われるがままに
側近を追って店の玄関を出ていった。


コックコートの青年「お、おい!ウェイトレス!衛兵を呼んで来い!あの兄ちゃん殺される!!」

ウェイトレス「マスター!!喋っちゃ駄目!血が出てる!」

魔闘士団長「その必要はないよ」

ウェイトレス「お、お客さん…!」

看護部隊長「傷を見せて…、額と口を切ったみたいだけど、大したことは無いわね…」


看護部隊長は口元に手の平をあてがうと小さく治癒の呪文を詠唱し、その手で店主の顔を包み込む。

なんとも言えない心地よさを覚えたときには、顔面の痛みは消えていた。

コックコートの青年「え……?お、す、すげぇ…魔法ってやつか…初めて受けたぜ…」サワサワ

ウェイトレス「マ、マスタぁ…」ジワッ

魔闘士団長「その回復魔法のかけ方、他人にやられると妬けるなぁ…」

看護部隊長「ふふ、今夜たっぷりしてあげるわ…、それよりこの男はどうしましょう…」

魔闘士団長「完全に伸びているようだし、放っておいていいだろう」

大魔導老師「ほほ、側近のやつめ、少々やりすぎじゃの」


カーリア「えいっ!」ガツン

ならず者A「げへっ!」ガクッ

ソフィア「カ、カーリアちゃん!」オロオロ

魔闘士団長「こ、こらっカーリア!やめなさい!」ダキッ

カーリア「だってパパ!コイツ、わるいやつだよ?」

看護部隊長「うふふ……、カーリアったら、将来が楽しみね♪」

魔闘士団長・大魔導老師「「……」」

ソフィア「カーリアちゃん……すごい!」パチパチ

ならず者B「ぐぇ!」ドサッ

ならず者C「ぐげぇ!」ガシャン

側近「…もういいでしょう。
衛兵に突き出されないうちに、さっさとこの国を出ていって下さい」

ならず者B「くっ……こんな事してただで済むと思ってんのかクソガキ……。
ちっとばかし腕っ節が強えからって調子に乗りやがって…。
てめぇの連れのガキを見たぜ…へへっ、せいぜい掻っ攫われねぇように気をつけるこっ‥げへッ!」グイッ

側近「………」ググッ


メキッ


ならず者C「ヒィッ!!」

側近「よく聞け、小悪党…」ユラァ

ならず者B「ぐっ…げへっ…くび…がッ!ググッ

側近「お前らの飼い主はわかってる。
お前らを見る限り、碌な躾もできてないんだろう」

ならず者B「い…きが‥…」メキッ

側近「お前らの商売から言えばこの国は重要な得意先のはずだ…。
客先でこんな狼藉を働いた事を知れば、お前らの飼い主はどんな罰をお前らに下すんだろうな。
衛兵に突き出すよりも、面白い事になりそうだが、どうしようか?」

ならず者B「かっ………はっ……ひっ……」ガクガク

側近「それとも、このまま首をへし折ってやろうか?」

魔闘士団長「その辺にしておきなさい、側近くん」ガシッ

側近「………」ググッ

魔闘士団長「僕の言うことが聞けないのかい?
これは命令だよ。それとも何かい?僕の娘や姫様の前で人を殺める気かい?」


魔闘士団長「―――――そんなことは絶対に許さないよ、すぐに手を離すんだ」


側近「………申し訳ございません」パッ


ならず者B「げへぇ!!…かはっ…ぁ!…げほっげほっ!」ヒューヒュー

ならず者C「お、おい…ずらかるぞ…、こいつら王政府の人間だ……。
あ……あのっ!…と、とんだご無礼を…!」ビクビク

魔闘士団長「さっさと失せろ」

大魔導老師「ほれ、忘れ物じゃ、こいつも連れて行け」


老人は店内で失神していたならず者をつまみ上げると店の外へと放り投げた。

外のならず者達は二人がかりで男の肩を担ぐと、大慌てで大衆の中へと消えていった。

大魔導老師「ふん、小物めが」

魔闘士団長「ふぅ、側近くん、あんな輩相手に血を上らせるなんて君らしくないな。
何かあったのかい?」

側近「いえ、大変お見苦しい真似を…、お許し下さい」

魔闘士団長「いや、まぁ、大事に至らなくてよかったと言うべきかな」

大魔導老師「全くじゃ、鍛錬がなりんな、側近よ」

側近「申し訳ございません」

ソフィア「そっきん、だいじょうぶ?」


ソフィアは店から出ると、心配そうに側近の腕を握った。


側近「大丈夫ですよ、姫様。
怖い思いをさせてしまい、申し訳ございません」

ソフィア「ううん、へいき♪」

衛兵A「これは側近様に姫様、他の皆様もご一緒で!」

衛兵B 「何か騒ぎが起こっているので駆けつけてみれば」

衛兵C「一体、何かあったんスか!」


城を出るときに門番をしていた衛兵の三人が側近たちのもとへと駆け寄ってきた。
既に仕事を終えた後のようで、それぞれチュニックに着替えていた。

魔闘士団長「君たちか、いやなに、ちょっとした揉め事でね。
君たちはどうしてここに?」

衛兵A「仕事が終わったので、三人で昼食をと、ここのステーキ屋に」

衛兵B「道中で何やら騒ぎがあったので、慌てて駆けつけたのです」

衛兵C「そうッス」

魔闘士団長「そうか、ならちょうどいい、話は中でしよう。
僕たちもちょうどここで昼食を摂っていたんだ」

大魔導老師「そうじゃの、飯が冷めてしまう」


面々は店の中へと戻った。
店内では服を破かれたウエイトレスが店主の青年が来ていたコックコートで前を隠し、心配そうに声を掛けてきた。


ウエイトレス「あの、大丈夫ですか、お怪我は…?」

大魔導老師「ほっほ、大丈夫じゃ。厄介者は追い払ったぞい、この側近がの」

ウエイトレス「あ、ありがとうございます。なんとお礼を言っていいか…」

側近「お気になさらず、そちらこをお怪我は?」

ウエイトレス「こちらの僧侶様が治療をして下さいました。
あの、本当にありがとうございます!」

看護部隊長「女性に傷が残ったら大変ですもの、ふふ」

青年「あ、あの!」


コックコートを纏っていた店主は両手を膝について、側近たちへ恭しく頭を下げた。


青年「その、とんだ迷惑を…。
それに、とてもお偉い方々と聞きまして、ご無礼を…」

大魔導老師「よいよい、顔を上げよ、若いの。
わしらはただの客として参っただけじゃ。
それより飯じゃ。全くとんだ邪魔が入った」

青年「も、もちらんでさ!
おい、裏に行って着替えてこい、営業再開だ」

ウエイトレス「は、はい!!」

~~~~~

衛兵C「ゆるせんッス!!」


衛兵Cは大きく切り分けたステーキを思い切り口に放り込むと、眉間にシワを寄せてふんぞり返った。
店は他の客で満席状態で、大衆の目が一瞬、衛兵Cに集まった。


衛兵A「大きな声を出すんじゃない、落ち着け」

衛兵B「しかし、その奴隷商もとんだお方に喧嘩を吹っかけたもんだ」

側近「お恥ずかしい限りで…」

衛兵A「その奴隷商、如何しましょうか。
刺青から察するに、オークを筆頭にしている奴隷商と見て間違いないと思いますが」

大魔導老師「なに、あれだけ傷めつけたのじゃ、もうこの国で悪さはせんて。
それに奴隷取引はわしらの領分ではないからの、担当官に面倒をかけるのも難儀じゃ」

カーリア「そっきんさま、かっこよかったよ!いっぱつでやっつけたんだから!」シュ シュ

ソフィア「うん、そっきんはつよいもんね」

側近「姫様、ああいった事は誇れるものではないのです」

魔闘士団長「その割には遠慮がなかったけどね」

側近「面目ない…」

ウエイトレス「失礼します!デザートをお持ちしました!」


ソフィアとカーリアの前に装飾されたグラスに大きく盛られたパフェが2つ置かれた。

ソフィア・カーリア「「わー♪」」

ウエイトレス「お店からのせめてものお詫びです。
本当にありがとうございました!
他の皆様にも一品サービスさせて頂きたいのですが、如何ですか?」

魔闘士団長「じゃあ、僕はコーヒーを貰おうかな」

看護部隊長「私はカーリアと一緒にこのパフェを食べるからいらないわ♪」

大魔導老師「わしは熱い茶でもくれればよい」

側近「では私もコーヒーをお願い致します」

衛兵A「いいのか?当事者でもない俺達まで馳走になっても…」

ウエイトレス「もちろんです!ご遠慮なさらずに!」

衛兵A「じゃあ、俺もコーヒーを頂こうか、お前たちは?」

衛兵B「俺も同じく」

衛兵C「俺もコーヒーを下さいッス!」

ウエイトレス「かしこまりました♪」

看護部隊長「ウエイトレスさん、ちょっといいかしら」

ウエイトレス「はい?」

看護部隊長は立ち上がると、ウエイトレスへと近寄り、耳打ちした。


看護部隊長「その…、胸にある焼き印のことだけれど。
教会へいらっしゃい、時間はかかるけど治癒することができるわ」

ウエイトレス「え、…あ」

看護部隊長「辛い過去を少しでも忘れる事ができるなら、私達に手伝わせてね」

ウエイトレス「は…、はい…、ありがとう…ございます」


ウエイトレスは目尻に溜まった涙を袖で拭い、一礼して接客に戻っていった。

その後、しばし談笑をした一行は食事を終えて店から出ると、それぞれ分かれた。
衛兵たちは、この後酒を呑みに行くか否か、揉めていたようだが、結局行くことに決定したようだった。

- 邸宅 -

側近「美味しい夕食をありがとうございました」

大魔導老師「口にあったようで、何よりじゃ」

側近「看護部隊長様の作ったスープを大変美味しかったです。
体があたたまりました」

看護部隊長「ふふ、今日買った本に載っていた物を早速作ってみたの。
手間も掛からなくてよかったわ」

魔闘士団長「君が台所に立つことにも、コック達はすっかり慣れたようだね」

看護部隊長「母親ですもの、コックが作る料理もいいけれど、やっぱり自分の手料理を娘に食べさせてあげたいわ」

大魔導老師「今日の酒は格別に美味いの、食卓は大勢で摂るのが一番じゃ」

看護部隊長「お父様、あまり深酒はしないで下さいましね」

魔闘士団長「しかし、そろそろお開きかな、大分いい時間だ」

側近「姫様は、カーリア様とずっと遊んでおられますね。
ご友人が出来たことは本当に嬉しい限りです」

大魔導老師「そうじゃの、身分は違えど、孫に友人ができたことは喜ばしい。
これからも付き合いを続けていこうぞ」

側近「では、姫様に声をかけて参ります」

~~~~~

ソフィア「え…?もうかえっちゃうの…?」

側近「姫様、もうお城に帰ってお休みにならねばなりません」

カーリア「いや!ひめちゃんはカーリアとまだあそぶの!」

看護部隊長「カーリア、側近様を困らせてはダメよ、あなたももう寝る時間なのだから」

カーリア「でも…でも…」グス

ソフィア「カーリアちゃん、なかないで」グス

カーリア「うん…、じゃあ、ポエットにもおわかれのあいさつ」

側近「ポエット?」

魔闘士団長「預かっているフェンリル一族の子供だよ」

ポエット「クーン」ペロペロ

ソフィア「キャ、くすぐったい!」

看護部隊長「ふふ、姫様にもすっかり懐いていますわ」

ソフィア「ばいばい、ポエット。
みんなもなようなら」

カーリア「ばいばい、ひめちゃん、またあそぼうね!」

魔闘士団長「姫様、本日はご一緒できて光栄でした。
道中、お気をつけて。側近くんがいるから安心だろうけど」

大魔導老師「ほっほ、姫様、孫と仲良くしてくれて感謝するぞい。
また招待するからの」

看護部隊長「姫様、夜は冷えますから暖かくして下さいね」

側近「それでは、失礼致します」

- 帰路 -

側近「姫様、楽しかったですか?」

ソフィア「すっごくたのしかった!

側近「それは良かった」

ソフィア「カーリアちゃんといっぱいおはなししたの!
また、あいたいな」

側近「良い子にしていれば、すぐにまた逢えますよ」

ソフィア「ほんとう?やくそく?」

側近「ええ、約束です」

ソフィア「えへへ、そっきん!」

側近「如何なさいましたか?」

ソフィア「抱っこ!」

側近「仰せのとおりに」ヨイショ

ソフィア「えへへ♪」

側近「姫様、少し寄り道をしていきましょうか」

- 港 -

ソフィア「おふねがいっぱい」


港にはランタンに照らされた船舶がひしめき合い、仕事を終えた多くの船乗りが船内で酒盛りをしている。
多くの出店をあり、昼間と同様に賑やかだった。
その喧騒を超えてしばらく行くと、静かな砂浜へとたどり着いた。


側近「姫様、上をご覧ください」

ソフィア「わぁ、きれいなおほしさま」

側近「今日は空が澄んでいますね」

ソフィア「あ、ながれぼし!」
…そっきん、ながれぼしにおねがいごとをするとかなうんだよ!」

側近「姫様は何をお願いしたのですか?」

ソフィア「んふふー、ないしょ♪」

側近「あらら」


二人はしばらく、水平線へと続く星空を眺めた。


側近「…姫様、夜風も冷たくなってきました。
そろそろ帰りましょうか」

ソフィア「…ん」スースー

側近「眠ってしまいましたか」


腕の中の少女を軽く抱き直し、男は城への道を歩き出した。
街の明かりは遠くなり、丘の城に近づくと一層寒風が強くなる。
男は腕の中の処女を風から避けるよう、包み込む。

側近「明日もいい日になるといいですね、姫様」


おしまい

読んで下さった方、ありがとうございます。

続編ものですが、とりあえず導入部だけ出来上がったので投稿させて頂きました。

また、続きが完成したら新スレを建てさせて頂きます。

失礼します。

乙、このスレが最初ってことでいいのかな?次スレも楽しみにしてる

おつおつ。メッチャ和んでしまった…
>>1は2ヶ月までならこのss放置してもhtml化はしないし、また続きが完成したらそのままここに続きを書き足してもええのよ?

>>49
ご覧頂きありがとうございます。

はい、この話が最初で、スレを立てるのも初めてです。


>>50
ご提案頂きありがとうございます。

次作も書き始めていますが、これ自体はここで完結ですので、ローカルルールに則ってHTML化依頼をさせて頂こうと思います。

ご覧頂きありがとうございます。

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