魔王の物語 (105)



魔王♂「ふむ・・・この玉座・・・なかなかの座り心地だ」


側近♀「魔王様、就任おめでとうございます!」


側近「いやあ!遂になっちゃいましたねえ!魔王!」


側近「魔族のトップですよ!トップ!」


側近「どうします!?今日は派手にやっちゃいます!?」


側近「コンパニオンとか呼んじゃいましょうか!?」

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魔王「落ち着け、側近・・・やるべきことは山ほどある」


側近「またまた!そんなに畏まっちゃって!」


側近「祝える時に祝うべきですよ!そう!まさに今日!今!この時がそうです!」


魔王「まずは、現勇者の状況を知りたい・・・」


側近「あぁ・・・まじで初日から仕事するんですね」


魔王「・・・」



側近「わかりました!わかりましたよ!さっさと仕事にかかりましょう!」


魔王「頼む」


側近「ええっと、我が眷属達によりますと・・・」


側近「現在、国境を越えて我が領地内で魔物を狩っているようですね」


魔王「我が領土内に・・・?まさか、我に挑むつもりか・・・?」


側近「まさか!古代の勇者じゃあるまいし!」



側近「情報だと4人パーティーを組んでいるそうです」


側近「まあ、普通に考えて威力偵察でしょう」


側近「なにせこっちは指導者が変わったばかり、領土侵犯にどんな対応をしてくるか」


側近「試しているんでしょう」


魔王「・・・であるか」


側近「いかがいたしましょうか?」



魔王「・・・捨て置け」


側近「よろしいので?」


魔王「勇者の持つ強大な力は恐ろしいが、所詮は国家の犬・・・」


魔王「我々が目を向けるべきは、勇者パーティーの飼い主であろう・・・」


側近「とか言っちゃって!勇者の動向を聞いたの魔王様のくせに!」


側近「内心どっきどきのくせに!へい!魔王様びびってる!」



魔王「・・・勇者たちの飼い主、共和国の動きはどうだ?」


側近「ま!話をそらしちゃって!」


魔王「・・・」


側近「・・・ええっと、着々と軍備を拡張しているようですね」


側近「まあ、こっちの態勢が整う前に攻めてくる可能性大です」


側近「それを含めての勇者たちの偵察でしょう」



魔王「で・・・あるか」


側近「で・・・あります!」


側近「まあ、麦の収穫が済んでからと仮定しても早くて二月といったところでしょうね」


魔王「戦争は近い・・・準備を進めよう」


側近「はい!」


側近「ところで・・・コンパニオンはどうします・・・?」



魔王「・・・・ま、また今度にしよう」


側近「魔王様のいけずぅ!!」



------


勇者♂「では!勇者パーティーの旅立ちを祝して!かんぱーい!」


魔法使い♀「かんぱーい!」


戦士♂「かんぱい・・・」


剣士♂「かんぱーい!」


剣士「・・・じゃねえよ!!」



剣士「なに旅立ちの初日から!しかも昼から!俺たちは酒場にいるんだよ!?」


勇者「・・・?いや、めでたいし」


勇者「俺たちの輝かしい、栄光の冒険の始まりだし」


戦士「うむ・・・めでたい・・・」


魔法使い「まあ、飲めるなら何でもいいよ?」


剣士「まともなのは俺だけかよ!?」



剣士「あのね!俺たち魔王を倒しに行くんだよ!」


戦士「・・・うむ」


剣士「今日はその初日!第一歩!新たなる旅立ち!」


剣士「飲んでる場合じゃないだろ!」


勇者「・・・でも・・・祝える時に祝っておかないと・・・」


剣士「そういうのって!街の一つでも救ってからだろ!?」



勇者「でもでも!」


剣士「でもじゃねえええええええ!」


魔法使い「すいませーん!こっちにワイン追加でー!」


戦士「肉もくれ」


剣士「」


剣士「・・・もういいよ、お前らに普通を求めた俺が馬鹿だった」



剣士「叫んだら喉が渇いた・・・俺にも酒くれ」


勇者「よし!まとまったな!」


勇者「では改めまして乾杯!」



------


剣士「だいたいさー、勇者ってのは協会の洗礼受けてさー」


剣士「国に忠誠を誓ったものだけがなれるやつじゃんー」


剣士「おまえはさー、自称じゃん!自称勇者じゃん!」


剣士「なんか、そこから気に食わないんだよねー」


勇者「うわあ、めんどくせえやつ」



魔法使い「だらしない男ね」


戦士「たった一杯で酔いおった・・・」


剣士「うるへー、どうなのよ自称勇者様!?」


剣士「偽物勇者よ?そこらへんどう思ってんの?」


勇者「何言ってんだへっぽこ!魔王を打倒すのは勇者の役目だろ!」


勇者「俺たちの目的は魔王を倒すこと!」



勇者「なら俺らが勇者名乗っても問題ないだろ!」


戦士「うむ・・・見事な論理的思考だ」


魔法使い「ほれぼれするわね・・・」


剣士「むちゃくちゃじゃねえか!そんなの俺はみとめんぞー!」


魔法使い「ほら、お口がお留守よ・・・早くこれを飲みなさい」


剣士「むが・・・っ!んぐっんぐっ・・・・!」



剣士「」


戦士「・・・たった二杯で撃沈か、情けない」


勇者「さて!へっぽこも黙ったし、そろそろ出立するか!」


魔法使い「ええ!?今日はお祝いじゃなかったの!」


魔法使い「まだ!まだ飲み足りないわ!」


勇者「ダメだ!お祝いはここまで!これからはお仕事の時間!」



戦士「・・・時間管理が徹底している、さすが勇者だ」


勇者「ふふふ!ありがとう戦士!」


魔法使い「えぇー・・・・もう一杯だけでも・・・」


勇者「次の村に着いてからな!そしたらまた、一日の終わりを祝して一杯やろう!」


勇者「さあ!そこで伸びてるへっぽこは放っといて行くよ!」


勇者「マスター!酒代は、そこのへっぽこが持つ!」



酒場の主人「へーい、まいどー」


魔法使い「ふう・・・仕方ないわね・・・行きましょうか!」


戦士「・・・うむ!」


勇者「よし!では、しゅっぱつ!」


勇者「いざ!魔王城へ!!」



------


魔王「思っていたより大分酷いな・・・」


側近「いやーここまで酷いと笑えてきますね!ふふふ!」


魔王「いや・・・全然笑えんぞ」


側近「では、改めて説明しますね!現在の楽しい楽しい魔王軍団の現状!」


魔王「うむ、頼む」



側近「軍団とは名ばかりの無法者集団!魔王軍!」


側近「組織体系なし!命令系統不明!構成人数不明!」


側近「うむ!ひどい!」


側近「どうします?いっそのこと、こんな国滅ぼして田舎に引っ込みます?」


魔王「・・・中央集権化を図る」


側近「魔王様との隠居生活!なかなか胸躍ります!」



魔王「嫌がる連中は多いだろうが、魔王とは魔族中最強の称号」


魔王「我が命ずれば、そう難しくはないはずだ」


側近「隠居の件はスルーですか・・・」


側近「まあ、魔王の称号は我々魔族にとっては絶対的な存在ですしね」


側近「いやいやでしょうが、逆らうことはないでしょう」


側近「いやあ!いいですねえ独裁者!」



側近「しかし知っていますか!魔王様!?」


側近「世に栄えた悪はなし!独裁者しかり!」


側近「いつか寝首をかかれないよう、お気を付けください!」


魔王「・・・うむ、肝に銘じよう」


側近「ふふふ!隙さえあれば私が!寝首どころか!あらぬところまで掻いてさしあげましょう!」


魔王「え、遠慮しておく・・・」


側近「ああん!魔王様のいけず!」



------


側近「ぐえー、魔王様ー」


魔王「・・・続けろ」


側近「魔王軍の再編成の件です」


魔王「・・・幹部候補は見つかったか?」



側近「ええまあ、候補者の選定も済んでます。あとは魔王様の了承さえもらえれば」


側近「すぐにでも幹部を軸に組織化を図ります」


魔王「・・・仕事が早いな」


側近「もっと褒めろ」


魔王「・・・す、すごい」


側近「・・・まあ、よしとしましょう!」



側近「ちょっと力でましたし」


側近「ああ、幹部候補の話でしたね」


魔王「・・・頼む」


側近「えー、東の海からシーサーペント」


側近「水軍及び情報部を統括してもらおうと思ってます」


魔王「まあ・・・水軍は当然ではあるか」



魔王「情報部については・・・なぜだ?」


側近「水の精霊も彼女の一族です」


魔王「なるほど・・・世界中に目と耳をもつわけか」


側近「人あるところに水あり、ですからね」


魔王「ふむ・・・つぎだ」


側近「北の山脈からゴレム」


側近「陸軍ですね」


魔王「妥当だな・・・」


側近「彼らには魔王城及び、各地の砦の整備も行ってもらいます」


魔王「うむ・・・」


側近「西の森のダークエルフ、彼は魔王様もご存知ですね」


側近「剣と弓に長けた彼です」



魔王「ああ・・・やつか・・・奴には何をさせる?」


側近「集団戦闘の調練を行ってもらうつもりです」


魔王「あの一匹狼に・・・?」


側近「あのですね魔王様!私や魔王様の一族、あとダークエルフ等の一部を除いて」


側近「ほとんどの魔族が群れないで好き勝手やってるんですよ!」


側近「そういう輩は、集団で戦うって意識が一切ないんです!」


魔王「まあ・・・単独でも人間に、そうそう負ける連中ではないしな・・・」


側近「ダークエルフの彼は、確かに一匹狼ですが!集団戦闘の重要性は知っています」


側近「群れるのが好きか否かではなく、群れることを知っているかが重要なのです」


側近「魔王軍再編で最も困難なのは、この戦い方の意識改革です!」


側近「最も困難ですが、これを為せば!我が魔王軍は一段と強さを増すことでしょう!」


魔王「・・・一番大変だから」



側近「そうです!あの糞ガキに任せるのです!」


側近「おっと、ついうっかり本音が!ふふふ!」


側近「まあ、かつてのライバルとは言え今や私たちは魔族のトップ」


側近「無理にでも従ってもらいましょう」


魔王「・・・良い考えだ」


魔王「幹部候補はこれで全てか・・・?」


側近「そうですね、あとの雑務は私がやろうかと」


側近「・・・で、ですね、魔王様・・・あの///」


魔王「どうした・・・?」


側近「東のシーサーペント、北のゴレム、西のダークエルフ、私の4人で///」


側近「魔王軍四天王を名乗ってもよろしいでええしょおおかああああ!!!


魔王「・・・四天王」



側近「水の四天王シーサーペント!土の四天王ゴレム!風の四天王ダークエルフ!」


側近「そして火の四天王にして四天王のリーダー私!」


魔王「・・・おまえに、火の要素があるのか?」


側近「そこはほら、わたし熱血漢?ですし」


側近「火の魔法得意ですし!」


魔王「・・・側近よ、それに何の意味がある?」


側近「いやいやいや!『魔王軍四天王』ですよ!『魔王軍四天王』!」


側近「『魔王軍幹部』じゃ勇者に勝てる気がしねえ!」


魔王「名前にこだわったところで、一体どうなる・・・?」


側近「いやいやいや!モチベーション!『魔王軍幹部』じゃモチベーションがあがらないです!」


魔王「む・・・モチベーションか・・・」


側近「我ら魔族の強さは、頑強な肉体、膨大な魔力だけではありません!」



側近「我らの強さは、その強く気高き精神であります!」


魔王「ふむ・・・そこは同意見だ・・・」


側近「でしょう!?だから!その気高き精神をより高めれば!最強じゃないっすか!?」


魔王「ふむ、一理ある・・・か?」


側近「名称を変えるだけで強さ倍増!メリットしかねえ!」


魔王「・・・わかった、幹部候補については了承した」


魔王「今後は『魔王軍四天王』と名乗るがよい」


側近「ひゃっほう!!」


側近「さっすが!魔王様!話がわっかるうー↑」


魔王「・・・う、うむ」


側近「よし!ではさっそく、軍の再編に取り掛かります!」


側近「新生魔王軍!『ダーク オブ ナイツ』!!出陣だ!!!」



魔王「・・・行ったか」


魔王「・・・」


魔王「・・・っ!待てっ側近!いや、火っ///火の四天王っ!///」


魔王「四天王は認めたっ!が、『ダーク オブ ナイツ』は聞いてないっ!」


魔王「そっそれは!あまりにもっ!!」





魔王「ダサすぎるっ!!!」




------


側近「魔王様ー!四天王の招集完了いたしました!」


魔王「・・・うむ、すぐに会おう」


側近「その前に、一つ申し上げたいことが・・・」


側近「よろしいですか?」


魔王「申せ・・・」


側近「私が四天王とか!ダークオブナイツの再編を必死こいて働いているのに!」


側近「魔王様、全く働いてない気がするんですけど!」


側近「そこらへんどうなんですか!」


魔王「・・・我だって働いておる」


側近「例えば!?言ってみ!」


魔王「軍団を維持する糧秣の調達とか・・・」



側近「それそれ!この間、『考えがある・・・任せておけ・・・』って」


側近「言ったきりじゃないですか!」


側近「仕事すすんでます!?玉座にふんぞり返ってるのが貴方の仕事ですか?」


側近「いまは、まだ大丈夫ですよ!」


側近「辺境で取りまとめをしてる最中ですから!」


側近「飯も各地に供出してもらってますし!」


側近「これが本格的に再編進んだら大変なことになりますよ!」


側近「飢えた魔物達をどうやって統率するんですか!?」


側近「飯が無くては!軍団なんて夢のまた、夢!」


側近「世界征服なんて絵空事!」


魔王「・・・すまぬ」


側近「すまぬ・・・!じゃないですよ!」



側近「見てください!この目の隈!やばいでしょ!」


側近「私だけ!仕事してる私だけの名誉の勲章!」


魔王「・・・隈なんてないが」


側近「あるんです!心の目に!隈が!」


側近「だいたいですね!」


魔王「糧秣問題は既に解決した・・・」


側近「・・・ん!?」


魔王「つい先ほど・・・解決した」


側近「んんんんん???もしかして、嘘ついてます?」


側近「怒られるのが怖くて嘘ついてます!?」






風の四天王「おい!いつまで待たせるんだ!!!」




水の四天王「あーあー、待てって言ってるのに!ごめんなさいね魔王様」


土の四天王「失礼する」


側近「あっ!こらっ!待っててって言ったのに!」


魔王「・・・よい、よくぞ来た魔王軍四天王の諸君」


風の四天王「だっさ!魔王軍四天王??だっさ!」


風の四天王「なに?これ魔王様が考えたの?魔王軍四天王???」


風の四天王「素晴らしいネーミングセンスだな!こりゃ笑える!魔王軍四天王だってよ!」


側近「あぁ?殺すぞ糞ガキ」


側近「ダサいって言ったか?おい?」


風の四天王「えっ・・・?これ側近さんのアイディアなのですか?」


水の四天王「どう考えても、そうでしょ」


土の四天王「良かった・・・魔王様の、センスを疑うところだった」



側近「・・・・・」


風の四天王「い、いや!ごめんごめん!ちょっと調子に乗ってしまいました!」


風の四天王「側近さん、グッドセンス!」


側近「」プルプルプル


側近「ま、魔王様・・・魔王軍四天王、ここに揃いました」


魔王「うむ・・・久しいの風の・・・」


風の四天王「ええ、お久しぶりですね『魔王様』」


風の四天王「魔王就任おめでとうございます」


風の四天王「しかし、あれですね。雰囲気だいぶ変わりましたね」


風の四天王「以前は、礼儀を知らぬジャガイモの様でありましたが」


土の四天王「不敬だぞ風よ、口を慎め」


土の四天王「お初にお目にかかります魔王様」



土の四天王「かつては先代魔王様に仕えておりました、ゴレムでございます」


魔王「よいのか・・・?先代は我の手によって・・・」


土の四天王「それが魔王の常にございます」


土の四天王「しかし、あの先代を倒すとは・・・魔王様の強さは恐ろしくありますなあ」


魔王「・・・ふむ、わだかまりはあろうがよろしく頼む」


水の四天王「私も初めましてね、魔王様」


魔王「シーサーペントと聞いていたが・・・その姿は?」


水の四天王「ああ、これですか」


水の四天王「元の姿じゃ魔王城に収まりきらないですからね」


水の四天王「変化の術を使っております」


水の四天王「だいたい、魔王城の調度品が人間サイズってのも変な話だけども」


側近「それにはまあ、理由があるんですけど」



側近「まあ、その話はそのうちでいいでしょう」


側近「えっと、貴方たち。まだね魔王様と私の話が終わってないの」


側近「一度、退席していただきたいんだけど」


魔王「よい・・・こやつらにも説明したい」


風の四天王「?」


魔王「魔王軍の糧秣についてだ・・・」


風の四天王「なんだ、就いて早々、飯の話かよ」


土の四天王「お聞かせ願おう」


魔王「先代魔王を倒してから、我の体に異変が起こった・・・」


側近「ん?糧秣の話では・・・」


魔王「まず、感情が失われていった・・・」


側近「え・・・?」



魔王「いくつかの記憶も失われてきている」


側近「あの時、貸した金返してもらっていいですか!?」


魔王「む・・・すまぬ、覚えていない」


側近「あとで返済について話し合いましょう!」


水の四天王「抜け目ない娘ね・・・」


側近「というか!魔王を倒してから口調が変わったのって、それが理由ですか?」


魔王「・・・うむ」


側近「うわーっ!まじすかっ!」


側近「てっきり中二病的な!魔王の貫録を出そうとしているとばっかり!!」


側近「そらそうだわな!急に性格変わったもんな!そんな理由があったとは!」


土の四天王「続けてくだされ・・・それからどうなされた?」


魔王「いくつかのものを失った代わりかは知らぬが・・・」



魔王「我は強大な魔力を与えられた」


魔王「・・・どこからか、誰からかはわからぬが」


魔王「大量の魔力が、現在も我に注がれ続けている・・・」


風の四天王「・・・魔神の祝福か」


水の四天王「御伽噺だと思っていたわ、本当の話だったのね」


魔王「今の我なら先代魔王など、片手で倒せよう・・・」


側近「・・・まじすか、あの最強じじいを片手で殺れる程の魔力・・・」


側近「あの爺、どうりで強かったわけだ!そんなズルしてたなんて・・・!」


土の四天王「魔神の祝福を得ていた先代すら倒すとわ・・・魔王様の地力、恐ろしや」


魔王「・・・」


魔王「この膨大な魔力を、軍団全ての魔物、魔族に供給する魔法が」


魔王「つい、先ほど・・・完成したのだ」



風の四天王「まじかよ」


側近「え・・・、まじ強くね!?さいつよじゃん!」


魔王「数が数だ・・・個々人に与えられる力は微々たるものになるだろう」


魔王「だが・・・魔力さえ供給され続ければ、我ら魔族に飯はいらぬ・・・」


水の四天王「兵站の概念がいらない軍隊・・・」


水の四天王「うわ・・・世界征服叶うじゃん」


側近「ふぅううー↑魔王様ふぅううう!!!」


風の四天王「でも、それなら。なんで今までの魔王は世界征服を為しえなかったんだ?」


土の四天王「ふむ・・・先代も先々代も、自らの研鑽にしか興味がない方々だったからのう」


側近「うわ・・・まじ?魔族のトップから世界のトップへ!」


側近「玉の輿どころじゃねえぜ!」


魔王「そういうことだ・・・だから魔王軍の再編を本格的に進めても大丈夫だ」



側近「どこまでも着いていきますぜ!魔王様!」


魔王「・・・た、頼む」


側近「じゃあ!景気づけにあれやっときましょうか!」


風の四天王「あれ?」


側近「私考案の!魔王軍の意気を上げるための掛け声です!」


側近「私に続いてご唱和ください!」


側近「いきますよ~~!」


側近「世界制服!ぜったいやるぞ!最強魔王軍ファイト―!!!」


水土風「「「お、おぉおお~~!」」」///





魔王「・・・何それ知らない」



------


魔法使い「勇者くーん」


勇者「お、どうだった?」


魔法使い「村の人たちの情報だと、やっぱり北の山に竜がいるみたい」


勇者「ふむ、やっぱり遠回りしてでも立ち寄って正解だったな」


戦士「ちなみに、どのような話が聞けたのだ・・・?」


魔法使い「ちょうど一年ほど前に、山から火柱が上ったんですって」


魔法使い「それ以来、鈍い低いうめき声が時より山から聞こえてくるって」


戦士「山から火柱か・・・竜の吐く、火の息吹であろうな」


勇者「本来なら、もっと北東の山奥に行かないと会えない存在だ」


勇者「こんなに近場にいるとは僥倖僥倖」


剣士「まるで、もう会えたかの言いぶりだな」



勇者「そりゃあ、竜ってのは体も魔力もでかいんだ」


勇者「痕跡をたどれば、探すのは容易いだろ」


剣士「・・・っへ」


剣士「だいたい会ってどうするんだ?退治でもするのか?」


魔法使い「ばかねー、竜とやりあってどうするのよ」


剣士「じゃあなんだ?お話でもしに行くのか?」


勇者「まあ、そうなるな」


剣士「はあ?」


剣士「なんだ勇者?おまえ、竜とオトモダチだったのか?」


剣士「久しぶりに旧友と談笑しに行きますってか?」


剣士「なんとまあ、顔の広いおとこだこと」


魔法使い「黙りなさい剣士君」



剣士「・・・」


魔法使い「あのね剣士君、竜ってのは魔の者にも人間にも与しない中立の立場なわけ」


剣士「・・・はい」


魔法使い「だから、お話しして味方になってもらおうって策略よ」


剣士「えらい、簡単に言ってるけど・・・」


勇者「まあ、駄目でもともと!やってみなければわからんよ!」


剣士「ていうか、みんな物分かりが随分いいけど・・・」


剣士「もしかして、俺抜きで話し合いとかしてない・・・?」


剣士「だいたい、遠回りしてることすら俺知らなかったんだけど!?」


戦士「・・・」


魔法使い「さてと・・・そろそろ、行きましょうか!みんな!」


勇者「だってお前、うざいし」



剣士「」


魔法使い(・・・言っちゃった)


魔法使い(まあ、いちいち勇者くんに噛みつくせいで話進まないしね・・・)


戦士「さすが勇者様・・・皆が言いづらいことをはっきり仰るとは・・・」


魔法使い(あ・・・とどめ・・・)


剣士「」


勇者「よし!じゃあ元気出して行きましょー!」


剣士「」


勇者「おい!どうした剣士!元気がないぞ!」


魔法使い(勇者くん・・・恐ろしい子っ!)



------


剣士「」


戦士「・・・なんとまあ」


勇者「」


魔法使い「こんな片田舎に、こんなのがいるとわね・・・」


竜「・・・ぐるる」


剣士「え・・・あ・・・・」ガクガクガクガク


剣士(やべぇ・・・っ!オーラ!威圧感半端ないっ・・・!)


剣士(立ってるのがやっと・・・!逃げたいっ!いますぐ裸足で逃げ出したい!)


剣士(だが・・・っ!勇者の前でそんな醜態見せられない!)


勇者「」


勇者()



戦士「剣士は・・・無理もないか」


戦士「しかし、さすが勇者様・・・これほどの竜に相対しても物怖じせぬとわ・・・」


魔法使い「物怖じしないというか、意識ないんじゃない?」


戦士「・・・さすが勇者様、気を失っても尚、敵に背を向けぬとわ」


魔法使い「あっ勇者くん、泡吹きだした」


戦士「・・・さすが勇者様、そのような特技をお持ちとわ」


魔法使い「あんたの盲信がちょっと怖くなってきたわ」


竜「敵・・・」


戦士「む・・・」


竜「敵に背を向けぬ、と言うたな」


竜「そなたらは」


竜「我の敵であったか」



戦士「こ、これは失礼した!先ほどのは言葉のあや」


戦士「こちらに敵対する意思はござらぬ」


魔法使い「人の言葉尻とらえてんじゃないわよー」


魔法使い「敵対されて困るのはそちらじゃないかしら?」


竜「ほざきおるわ」


魔法使い「試してみる?例え私一人でも、あなたを倒すことは可能よ?」


竜「そこで伸びている若者二人を守りながらでもか・・・?」


魔法使い「脅しのつもりかしら?」


魔法使い「言っておくけど戦闘においては、そこの二人のほうが私より強いわよ」


竜「ほう・・・俄然やる気がわいてきた」


戦士「お待ちくだされ!魔法使いも控えよ!」


戦士「お初にお目にかかります、その風格、オーラ、貴方様はもしや」



戦士「世に聞く、神龍ではござらぬか?」


神龍「・・・その様に呼ぶものもおる」


戦士「ならば!何故、若者をそう苛めるのです」


戦士「我らは、ただ貴方様と話をしに来たに過ぎませぬ!」


戦士「こちらの非礼はお詫びいたします!どうか気をお鎮めくだされ」


神龍「ふむ・・・」


神龍「話・・・話か・・・」


神龍「よかろう・・・」


魔法使い「わかったら、だだ洩れの魔力をどうにかしなさいよ」


魔法使い「こっちの二人は、あなたのだだ魔力に当てられてるのよ」


神龍「む・・・そうであったか」



剣士「・・・ぶはあ!」


剣士「やべえ!絶対殺されると思った!」


剣士「あっ・・・」


剣士「・・・」


勇者「だだだだらしないな、剣士!」


勇者「足足ああああ足が震えているぞ!ふはは!」


魔法使い「あ、起きてる」


勇者「起きてる?起きてたさ!起きてたとも!」


勇者「・・・あっ」


勇者「・・・」


勇者「ちょっとトイレ行ってくる」


剣士「・・・ごめん、俺も」




神龍&魔法使い((あっ・・・))


戦士「・・・?」



------


勇者「改めまして、勇者だこのパーティーのリーダーをしている」


勇者「よろしく頼む!」


神龍「勇者!?」


勇者「?」


神龍「いや・・・お主は違うな」


神龍「もしや、以前の勇者は死んだのか?」


勇者「ん?」


勇者「ああ、違う違う!俺は勇者だけども、心は本物だけども」


剣士「こいつは自称勇者、本物は別にいるよ」


神龍「そうか・・・、本物と交友があるわけではないのか?」


魔法使い「こちらとしては、一度お会いしたいんだけどね」



戦士「うむ、一発くらわしてやりたいものよ」


戦士「しかし、その物言い。神龍殿は本物の勇者を知っているようだな」


神龍「うむ」


神龍「一年ほど前な、話をして、戦って・・・そして負けた」


魔法使い「本物の勇者もなかなかやるわね」


勇者「ヘエ・・・ヤルジャン・・・」


戦士「神龍殿、お話を伺えますかな?」


神龍「よかろう」



神龍「この山には、我が血脈の竜が数匹住もうておうてな」


神龍「あの日、我はその同胞から助けを求められてな・・・」


神龍「はるばる、北の山脈から、この山に降り立ったのだ」


神龍「山は、以前と変わりなく・・・至って静かであった」


神龍「ただひとつ、助けるべき同胞の姿が一切なかったことを除いては」


神龍「代わりに居たのが、勇者パーティーを名乗る4人組であった」


神龍「我は、我が同胞の行方を聞いたが、奴は答えなかった」


神龍「不審に思った」


神龍「もし奴が我が同胞の仇であるならば、山はそれなりの姿に様相を変えていたであろう」


神龍「即ち、木々は燃え尽き・・・川は枯れ・・・」


神龍「仮に我が同胞が打ち負けたとしても、その骸や、血潮が・・・」


神龍「しかし、それらが一切なかったのだ」



神龍「我は脅しの意味も込めて火の息吹を空へと放った」


神龍「そこからは、よく覚えておらぬ・・・」


神龍「急に視界が狭まり、四肢の感覚が途絶えた」


神龍「奴の仕業であることは明らかだったが、何をされたかはわからなかった」


神龍「とっさに、奴を転移魔法で他所へ飛ばしていなかったら・・・」


神龍「我は、すべてを失っていたであろう」


神龍「しばらくして、我は目を覚まし」


神龍「右の眼と、脊椎の一部が失われていることに気が付いた」


神龍「それからは、特にない」


神龍「飛び立つこともままならぬ故、この山で回復をはかっていたところに」


神龍「そなたらが来たわけだ」


神龍「鬱陶しいので、追い払おうと思ったが」



神龍「そこの小娘には、我の体の状況を見抜かれていたようだな」


戦士「・・・なんと魔法使い、そなた気づいたおったのか」


魔法使い「・・・本物の勇者が来たのは一年前って言ったわよね」


神龍「うむ」


魔法使い(竜の力をもってしても、体の回復ができないって少しおかしいわね)


勇者「うーん、参ったな」


勇者「神龍殿の助力を得たかったんだが、それどころじゃなさそうだな」


神龍「助力・・・?」


勇者「ええ、ちょっと魔王を倒しに」


神龍「我は、人にも魔物にも与せぬ・・・」


勇者「ええ、だからそのどちらでもなく友人としての俺に力を貸してくれないかと」


神龍「まて」



神龍「いつ、そなたらは我の友人になった?」


勇者「どうやら、我らが友人、神龍殿は困っているご様子」


勇者「友人たる俺たちとしては、ぜひ力をお貸ししたい」


神龍「話を聞かぬ男だな・・・」


勇者「どうでしょう、神龍殿の同胞たち・・・俺が見つけてみせましょう」


神龍「ほう・・・それで、代わりに力を貸せと申すか」


勇者「いえいえ、そんな他人行儀な」


勇者「神龍殿と我らは友人同士。貸し借りなしでいきましょう」


神龍「ふふふ・・・面白いことを言う」


神龍「貸し借りなしか・・・」


神龍「まあよかろう・・・もし、我が同胞を見つけ出してくれれば」


神龍「その時は、友人にでも何でもなってやろう」



勇者「ありがとうございます」


神龍「先ほど、下履きを濡らしていたとは思えぬ口ぶりだな・・・」


剣士(うわあああ!ばれてる!!!)


勇者「よし!みんな!山を下りよう!!!」


剣士「ああ!そうだな!勇者!神龍と友達になれた!目的は果たした!降りよう!」


魔法使い「また来ますー」


戦士「お待ちくだされ勇者様!神龍殿、またお会いしましょう!」


神龍「うむ・・・達者でな」




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剣士「あんな約束して良かったのか?」


勇者「なにが?」


剣士「俺たちの目的は、あくまで魔王を倒すことだろ!」


剣士「竜を探している暇なんてねえぞ!」


勇者「それはもちろん」


魔法使い「まあ、あてはあるしね」


戦士「・・・儂らは魔王討伐の旅を進めるだけでよい」


剣士「あ、また何か隠してるな!」


勇者「さあ!いざゆかん魔王城!」



------


側近「はーい、定例会議を始めまーす」


側近「まずは土さんから、魔王城の修復はどんな感じですか?」


土の四天王「壁の修復はほぼ完了しております」


土の四天王「ただ、もともとが軍事拠点として作られた城ではないようで」


土の四天王「今のままですと、攻められたらあっという間に陥落ですな」


側近「あー、兵数差は間違いなく人間に有利だから」


側近「籠城戦も考えていたけど、それは無理そうか」


側近「打って出るしかないかー」


風の四天王「だいたい、無理やり集められて籠城とか」


風の四天王「魔族の性格的に無理でしょう?」


土の四天王「突撃は・・・男の誉れよ」



水の四天王「ゴレムに性別なんてあったの?」


土の四天王「体にはなれど、心には、いちも・・・」


側近「わーっ!セクハラっ!セクハラですよ!」


側近「水の姉御!」


水の四天王「姉御言うな」


側近「あなたを、セクハラ対策委員長に任命します!」


水の四天王「どうぞご自由に」


側近「話を戻しましょうか、魔王城の防御が糞って話でしたね」


側近「まあ、古来は勇者が魔王の間まで素通りしてたって話もあったしね」


側近「そもそもが、魔族の文化的発展を目指した一族が」


側近「己が芸術的空想を発奮して作った城ですからねー」


側近「ほんと我が一族ながら、馬鹿な労力を費やしたものです」



水の四天王「あー、あんたらの一族が作った城だったの」


水の四天王「どおりで、調度品が人間サイズなわけだ」


土の四天王「壁の修復が完了次第、城外に防塁を築きたいのですが」


土の四天王「よろしいですか?」


側近「よろしいですよ!どんどんやっちゃってください!」


土の四天王「では、そのように」


側近「あー、それと万が一に備えて食料の備蓄もお願いします」


風の四天王「飯問題は解決したんじゃなかったのか?」


側近「魔王一人に任せっきりだと、なにか問題があった時に対処できないでしょ」


側近「リスクは分散しなくちゃ」


風の四天王「なるほど」


側近「では、次は風の四天王」



側近「軍の調練はどんな感じ?」


風の四天王「最低限、命令は絶対守るよう教育中」


風の四天王「弱い連中は、まあ従ってくれるけど」


風の四天王「ある程度、腕っぷしに自信があるやつほど逆らってくるな」


風の四天王「何人か見せしめに首を跳ねたら、しぶしぶ従ってる感じ」


側近「うーん、そうなると細かい戦術なんかは難しいなー・・・」


風の四天王「運用は難しいだろうな」


側近「まあ、たった2か月でよくやってくれてるかな!」


側近「同じ戦場に大量に魔物を投入できるだけましとしましょう!」


風の四天王「でへへ///」


側近「まとまった数なら、各個撃破される心配も薄まるし」


側近「ちなみに、数はどの程度集まってる?」



風の四天王「3000ってところ」


側近「まあ、そんなもんか」


水の四天王「思ったより少ないわね」


側近「魔族すべてが言語を解するわけでもないですしね」


側近「それぞれが眷属を召喚すれば、それなりの数にはなるでしょ」


側近「じゃあ、次は水の姉さん」


側近「共和国、どんな感じですか?」


水の四天王「今にも、この魔王城に攻め込んできそうな感じよ」


風の四天王「しかしあれだなあ、かつては勇者が単体で魔王に挑んでたって言うのに」


風の四天王「いまや、軍隊を送り込んでくる時代か」


水の四天王「んー、ちょっと違うわね」


風の四天王「ん?」



水の四天王「今回の彼らの目的は、平たく言えば資源ね」


風の四天王「んんんん?」


水の四天王「北の山脈に、少数の調査隊をちょくちょく派遣してたから」


水の四天王「金か、銀か、鉱脈でも見つけたんでしょう」


風の四天王「そんなの勝手に掘ればいいじゃん」


風の四天王「魔族に金の価値がわかる連中なんて、ほとんどいないんだし」


土の四天王「北の山脈は我らが土地だ・・・」


土の四天王「人間にうろちょろされたら困る」


風の四天王「だったら北の山脈に攻め入るべきじゃ?」


水の四天王「ここからは、推測になるわよ」


側近「どうぞ」


水の四天王「やつら、いま国中で魔物の危険性を声高に叫んでいるわ」



水の四天王「それこそ、宗教戦争でもおっぱじめようって感じ」


水の四天王「やつら魔族のせん滅を考えてるんじゃないかしら」


水の四天王「私たち魔の者が住まう、大陸東部は魔族が各地に点在してるじゃない」


水の四天王「そのせいで人間どもは、まともな街道も築けない」


水の四天王「人間どもは、この魔王城を魔族せん滅の橋頭保とするつもりじゃないかしら」


風の四天王「・・・魔物の危険性を叫んでいるね」


風の四天王「それって、俺たちが軍隊なんか作っちまったからじゃねえのか?」


風の四天王「今まで通りに、各地で好き勝手やってたら、共和国が攻めてくるなんてことも・・・」


水の四天王「いいえ、奴らの目的は資源よ」


風の四天王「・・・それだって推測だろ?」


水の四天王「だいたい、私たちが魔王軍再編に動き出したのは僅か2月前よ?」


水の四天王「共和国の動きを見るに、もっと以前から軍備を整えていた」



風の四天王「・・・どうかねえ」


水の四天王「・・・」


水の四天王「!?」


土の四天王「・・・どうした?水の」


水の四天王「我が眷属からの連絡よ・・・共和国軍が動き出したわ」


水の四天王「数は少なくとも3万」


風の四天王「一人十殺!楽勝じゃねえか!」


側近「馬鹿ですね!全軍で3千しかいないのに、全部出せるわけないでしょう」


側近「とりあえず、2千ぐらい出しちゃいましょうか!」


側近「よろしいですね!魔王様!」


魔王「うむ」


風の四天王「 魔王様いたのかよ! 」



魔王「・・・うむ」



------

ここで我らが魔王軍、初めての戦争について記しておこうと思う。

なんのことはない一日のつもりだった。

共和国軍出陣の知らせを聞いた私たちは、直ぐに軍団をまとめ出陣した。

目指すは魔王城の西に広がる森林地帯。通称「魔の森」。

ふむ。

名付けたのは我が先祖、シンプルにして洗練されたネーミングセンスだ。

羨望を禁じ得ない。

この森は、大地から常に瘴気が湧いており。

瘴気は人間の方向感覚を狂わせることで知られている。

我ら、魔族には何ら効果を為さないところを鑑みるに、我が先祖の築いた防衛機構なのかもしれない。

まあいい。

我ら、魔王軍の勝利は確実であった。


なにせ、こちらは飯がいらない軍団で。

一体の魔物の強さは、人間を遥かに上回る。

更には魔の森の瘴気。

劣っているのは数ぐらいのもの。

それも、鬱蒼とした密林内なら問題とならない。

可能な限り人間どもを森の中に留めさえすれば、いずれ飯が尽きる。

補給路も、ゲリラ戦法で潰してしまえば。

そのうち人間どもは帰っていく。

我らには軍団初の勝利と、経験値が。

人間どもには手痛い敗北が。



だが、我らは見誤っていた。
我ら魔王軍の意気の高さと、ノリの良さを


------


側近「はいいい!?先遣隊が森を抜けた!?」


側近「すぐに連れ戻しなさい!」


風の四天王「だめだ!先遣隊はケンタウロスを主体とした足の速い連中だ!」


風の四天王「とてもじゃないが追い付けない!」


側近「むきいいいい!!なんで!なんでこうなるの!」


土の四天王「いや・・・原因はあとで探ろう」


土の四天王「今は彼らを連れ戻すことが先決」


水の四天王「あ・・・やばいかも。先遣隊に釣られて後続も森を抜けちゃってるみたい」


側近「魔の森抜けたら、西の大平原じゃん!共和国軍と正面衝突しちゃうよ!」


側近「どどどどうしよう!!」


魔王「・・・うむ」


魔王「仕方あるまい・・・」



魔王「全軍停止を急いで通達・・・」


風の四天王「森を抜けた連中は見殺しか?」


魔王「いや、我ら魔王軍は精鋭なれど数に劣る・・・」


魔王「我が直接連れ戻しに行く」


土の四天王「流石、魔王様。御伴いたします」


魔王「・・・うむ」


風の四天王「あんた等の足じゃ追い付けねえだろ」


魔王「・・・側近よ、頼む」


側近「転移魔法ですかっ!?ええええ・・・」


風の四天王「げっ!古代魔術かよっ!そんなん使えるのか側近さん・・・」


水の四天王「転移魔法・・・私も見るのは初めて・・・」


魔王「・・・他言は無用で頼む」



側近「あれ疲れるんですよね・・・」


魔王「飛ばした後は、休むが良い・・・」


側近「お腹もすくし・・・」


魔王「良い食事を用意させよう・・・」


水の四天王「良い性格してるわねえ」


側近「あー!肩も凝るんだよなあ!!」


魔王「・・・」


魔王「誰かにやらせよう・・・」


側近「私の肩!凝ったが最後!サイクロプスですらほぐせないんだよなーー!!」


魔王「・・・我が直々にほぐそう」


側近「よし!飛ばしますぜっ!お客さん!」


魔王「側近は魔法使用後は、しばらく使い物にならなくなる・・・」



魔王「水の四天王は、森に残った軍の指揮を」


魔王「風の四天王は、側近を守ってくれ・・・」


風の四天王「合点!」


魔王「・・・手は出すなよ」


風の四天王「が、合点!」


水の四天王「ちゃんと、私もいるから安心して魔王様」


魔王「うむ・・・では、留守を頼む」


側近「さて準備ができました!」




側近「行きますぜっ!転移魔法!とんでけーっ!」

test

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森の西に広がる大平原
全速力で駆ける魔物がおよそ100騎
ケンタウロスの群れである


ケンタウロス「族長族長、いいんすか?もう森を抜けちゃってますけど」


ケンタウロス隊長「馬鹿野郎!族長じゃねえ、隊長と呼べ!隊長と」


ケンタウロス「あんま変わんないすけどねえ・・・」


隊長「あのなあ!俺たちは、栄えある魔王軍の先駆けだぞ!」


隊長「もうすこし、自分の役職に誇りを持てよ!」


ケンタウロス「おれ、一兵卒ですし・・・」


隊長「口答えするのか!?」


隊長「知っているか?軍隊では上官の命令は絶対なんだぞ?」


ケンタウロス「今現在、絶賛命令違反中っすけどね」


隊長「馬鹿だなあ、お前」



隊長「俺たちに与えられた命令は、なんだ?」


ケンタウロス「えー・・・、『森に不慣れな魔族もいるから、先導して案内しろ』でしたね」


隊長「な?」


ケンタウロス「?」


隊長「俺たちは、既に任務を達成している」


隊長「そのあとについては、特に指示されていない」


ケンタウロス「えー・・・、次の命令来る前に森を飛び出しちゃったからじゃないですか?」


隊長「あのなあ、そもそも俺たちは人間の軍隊で言ったら騎兵だ」


隊長「騎兵が森に潜んでてどうするんだ」


隊長「俺は人間の兵法にも明るいから、知っているんだが」


隊長「騎兵は速度が命なんだ、森の中に潜んでいたら敵を倒せねえよ」



ケンタウロス「普段通り、木陰に潜んで弓矢で狩りゃあ良いのに・・・」


隊長「それは!昔の話だろ!今や俺らは魔王軍なんだ」


隊長「最先端に生きろよ!」


隊長「みんなで頑張って、手柄をあげようぜ!」


隊長「出世して、みんなで幸せになるぜ!」


魔王「それが先行した理由か」


土の四天王「まったく・・・魔族のくせに功名心なんぞ持ちおって・・・」


隊長「!?」


ケンタウロス「族長!うしろうしろ!」


ケンタウロス「乗られてるっす!ばっちし魔王様に騎乗されてるっす!」


ケンタウロス「って、こっちにはやたら重いおっさんが!重い重い!」



隊長「おお!魔王様!よくぞいらっしゃった!」


隊長「我らが活躍を、ご覧にいれましょう!」


魔王「ならん、命令違反をした貴様には未来はない」スッ


隊長「」


ケンタウロス「あらら、胴から真っ二つに・・・」


ケンタウロス「あれじゃあ、人間の死体にも馬の死体にも見えちゃいますねえ・・・」


魔王「次の隊長は、貴様がやれ」


ケンタウロス「うわあ!いつの間に、俺の背に!」


ケンタウロス「いや!まじ重いんすけど!!」


魔王「急ぎ反転し、森に戻れ」


ケンタウロス「いやあ、無理っすねえ・・・」



魔王「貴様も死にたいのか・・・?」


土の四天王「いえ、魔王様。我ら、ケンタウロスの速力を見誤っておりました」


魔王「・・・む」


ケンタウロス「前方、距離約2リーグってところでしょうか?共和国軍の騎兵ですね」


魔王「逃げ切れぬか・・・」


ケンタウロス「こっちは、日がな走りっぱなしですからねえ・・・」


ケンタウロス「どうぞ、魔王様はお下がりください」


ケンタウロス「我々で時間を稼ぎましょう」


土の四天王「なんと!殊勝な!」


魔王「いや、そもそも貴様らが原因であるがな・・・」


土の四天王「いかがいたします?」


魔王「ケンタウロス100騎、捨てるには惜しい」




魔王「騎兵を蹴散らし、凱旋といこう」

------


ケンタウロスは疲弊していた。

他の魔族に配慮した慣れぬ速度。

初めての隊列。

そして何より、3日3晩寝ずの強行軍。

例え、魔物の並外れた体力といえど疲労は必然。

ただ。

それでもなお。


彼らの強さは圧倒的であった。




ケンタウロス「魔王様!敵騎兵隊が撤退していきます!」


魔王「・・・うむ、こちらの損害は?」


土の四天王「22でございます」


ケンタウロス「ひゃー!いくら人間相手とは言え、1人10殺がやれちゃうとは!」



魔王「うむ・・・我らが魔王軍、思っていた以上に精強であるな」


土の四天王「ケンタウロス、貴様らはまだやれるか?」


ケンタウロス「いやあ!不思議と疲れを感じないんですよ!」


ケンタウロス「痛みも感じねえ!力も溢れるほどです!」


土の四天王「ふむ。如何いたしましょう、魔王様」


魔王「・・・というと?」


土の四天王「敵騎兵は総崩れ、戻るのは気奴らを殲滅してからでも遅くないのでは?」


魔王「・・・やれるか?」


土の四天王「なんと!魔王様がそんな弱気では勝てる戦も勝てなくなりますぞ!」


魔王「・・やるか」


土の四天王「足りませぬ!もっと心の底から湧き上がる黒い衝動を!」



土の四天王「我らに命じてくだされ!」


土の四天王「我らならやれます!魔王様ならやれます!」


魔王「・・・う」


土の四天王「そうです!もっと!腹から声出して!」


土の四天王「我らは魔王軍!世界最強の最悪の軍団ですぞ!」


魔王「・・ろうっ・・!」


土の四天王「聞こえない!聞こえないぞ!魔王!」


土の四天王「貴方様は、世界の頂点に立つお方!」


土の四天王「貴方様の声は、あまねく世界に届き得る!」


土の四天王「その片鱗を!我らにお聞かせください!」



魔王「やっちまおう!」


土の四天王「そう!それです!それが聞きたかった」


魔王「みなごろしだーっ!!!!!」


土の四天王「全軍前進!!!敵騎兵を皆殺しにせよーっ!!!」


ケンタウロス「応ーーーっ!!!」




この時、彼らは

強行軍後の突然の戦闘、圧倒的不利をはねのけての勝利

そして何より、魔力の供給元である

魔王との物理的距離が縮まったことにより

一種のトランス状態に陥ってしまっていた。

血に飢え、勝利に酔いしれ。

冷静な判断力は皆無に等しかった。

だが、そんな状況にあって

唯一、魔王様の魔力の影響を受けないでいられる男が一人だけいた。

そう、魔王その人である。

後に、魔王様を問い詰めたところ。

「なんか、断り切れなくて・・・」と

上司に二次会に誘われたかのような、ありきたりな言い訳をしていた。

あ、ここはカットで

冷静な判断力を失った軍隊の末路。

勝利の後に、待ち受けていたのは我らが首領すらも失いかねない

ただただ、平凡な窮地であった。



ケンタウロス「魔王様ー!!やばい!やばいっす!」


土の四天王「はっはー!人間とは実にもろいものだ!」


土の四天王「魔王様!わし!人なぎで10人を吹き飛ばしましたぞ!」


魔王「・・・我だって、一振りで10人ぐらい・・!」


ケンタウロス「魔王様!魔王様!囲まれてます!突出しすぎちゃいました!」


ケンタウロス「完全に、敵本軍のど真ん中です!」


魔王「・・・む」


土の四天王「なんと!?図られたか!」


ケンタウロス「まったく!一切図られていません!」


ケンタウロス「見てください人間どもの顔!阿呆をみる顔です!」


土の四天王「200に満たぬ我らだけで、ここまで押し攻めれるとは!」



土の四天王「これは!予想外でありましたな!魔王様!」


ケンタウロス「もう体力的にも無理です!進めないし!戻れない!」


魔王「これは・・・無理だな・・・」


魔王「・・・邪神にでも祈るか」


土の四天王「ここはお任せくだされ!魔王様!」




土の四天王はゴーレムである。


ゴーレム。

魔術によって生み出され、使役される人形。

力はあれど、知能は無い。

本来、命令されたことしかできない、凡百のそれとは違い。

土の四天王は、かつて大賢者が生み出した。

世界に唯一の、思考し学ぶことができるゴーレムであった。

大賢者のもとで使役される中、彼はほんの少し。

ほんの少しずつではあるが、歩みを進め。

無限に近い時間の中で。

遂には、大賢者を凌ぐ知識と魔術を身に着けていた。




土の四天王「ゴーレム召喚!」



数にしておよそ、1万

巨大なゴーレムが1万である。


ケンタウロス「なんで、最初からこれを使わないんすか!?」


土の四天王「はっはっはは!これは切り札での!」


土の四天王「にしても調子がいいわい!魔王様の魔力のおかげかの!」


土の四天王「まあ!数に拘ったで!頭も力もからっきし!」


土の四天王「言ってしまえば、ウドの大木!土じゃがの!がっはっは!」


ケンタウロス「何する気ですか!?」


土の四天王「まあ、見ておれ!」


土の四天王「ゴーレムたちよ!ここに魔王城(仮)を築くのだ!」




召喚されたゴーレムたちは、隙間を埋めるように体を密着させ

自らの体で、塁を築き。

壁を築き。

遂には円周状の、かつて魔国にも存在したというコロッセオが如き。

砦を築き上げた。


それは、一夜城ならぬ、一瞬城であったと後の世に語られる。


土の四天王「さて!できあがったが、残念なことに!魔力切れじゃ!」


土の四天王「一歩も動けぬ!」


ケンタウロス「って!敵兵ごと壁で囲んじゃってるから!まだピンチっすよ!」


ケンタウロス「ぜ、全軍!魔王城(仮)内の敵兵を殲滅せよー!」




魔王「・・・魔王城(仮)見事なり」

調子に乗ってプロットにないこと書きすぎちゃって、収拾つかなくなってしまいました。
練り直してきます。

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