(今までのあらすじ)
新たな世界への鍵となる空図の欠片を求め、アウギュステ列島に属するユディスティラ島を訪れていたグラン騎空団。
彼らはシグ率いるドゥルガ漁団が7代もの間戦い続けてきた空を泳ぐ巨大な魚型の星晶獣、アルバコアとの戦いに加勢しその行方を追っていた。
アルバコアを探しに潜った洞窟から出た彼らを待ち受けていたのは、群れを成しユディスティラ島を取り囲む無数のアルバコア。
アルバコアは一体ではなかったのか? そんな疑問を抱えたまま戦う彼らをあざ笑うかのように現れたのはさらに巨大なアルバコアだった。
その巨大さに恐れをなし撤退を考えたドゥルガ漁団だったが、シグの一喝によって戦意を取り戻した。
しかしじりじりと迫る巨大アルバコアと島を襲う無数のアルバコア。その両方を処理できるほどの戦力を、彼らは持ち合わせていなかった――
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グラン騎空団員、そしてドゥルガ漁団員がアルバコアと、それに群がる魔物たちを斬り伏せていく。巨大アルバコアはまだ遠い冲の空だ。しかし彼らの表情には既に、これまでの戦いによって積み重なった疲労の色が浮かんでいる。
「おいおい、これじゃああのデカいアルバコアの所に行く余裕すらないぜ!」小さなドラゴン、ビィが喚く。実際その通りだ。このまま巨大アルバコアを待ち、アルバコアを倒しているだけではいずれスタミナが尽きる。しかし巨大アルバコアへ向かいグランサイファーを動かせば、その間に島はアルバコアの群れに蹂躙されてしまうだろう。
「だからと言って諦めるわけにはいかんだろう……ゼアァッ!」アルバコアが両断される。ジークフリートだ。全身の黒き鎧の重量を物ともせず、彼は一体、また一体と大剣でアルバコアを両断していく。
「何かいい手があればいいんだが……おいシェロ、魚の餌持ってねぇか! それもかなり臭うヤツだ!」「魚の餌ですか? それならいい物がありますよ~」「じゃあそいつをくれ! 支払いはあのデカブツを片付けてからでいいか!」「少し値は張りますが、構いませんよ~」シェロカルテが鞄から小さな袋を取り出し、ラカムに投げ渡す。
「サンキュー! 支払いはグラン持ちだ!」「はぁ!?」「そんなもん、こんな時にどうしようってんだい!」「星晶獣っつったって、魚だろ? ならこいつでアルバコアをおびき寄せられねぇかと思ってよ!」「おいラカム!」
BANG! アルバコアを撃ち抜きながらシグの問いに答える。袋を開封し、餌を少し嗅いだラカムは顔をしかめた。彼の考えは正しかったらしく、無軌道に暴れるだけだったアルバコアの群れはラカムへと進路を変更した。「ビンゴ!」
「おっと危ねぇ……うわっ!」アルバコアがラカムの身体をかすめ、袋が彼の手を離れる。アルバコアが袋めがけ殺到する。BANG! SLASH! 餌に釣られたアルバコアが絶命! その間も餌の入った袋は宙を泳ぎ……「ジークフリート!」
「む……なんだ、くっ! ゲホッゴホッ!」アクロバティックな動きでアルバコアを切り刻んだジークフリートが袋の軌道上に着地し、袋の直撃を受けてしまう。袋の口から粉状の餌が飛び出し、黒き鎧の内外を舞う。「なんだこれは!」「そりゃあ魚の餌だ! ……危ねぇジークフリート!」
「魚の餌だと……グウッ!」状況を理解し切れていないジークフリートにアルバコアが殺到! SLASH、SLASH、BANG、SLASH……SMASH! 流石のジークフリードと言えどもそれは余りに多勢に無勢! 高速飛来魚体が鎧を掠め、バランスを崩したジークフリートにアルバコアが再び殺到! ジークフリートはこのままアルバコアの波に飲まれミンチになってしまうのだろうか!?
「ファランクス!」ジークフリートの前にグランが立ちふさがり、防波堤となった。アルバコアの波は弾け、二人の遥か後ろで旋回を始める。現在のグランのジョブはホーリーセイバーだ。ホーリーセイバーの守りは堅牢で、並大抵のことではビクともしない。
「すまない」「気にするなって。こうなったら俺たちはグランサイファーであのデカいアルバコアを倒す。だからお前はそれまでアルバコアをおびき寄せておいてくれ!」「……任せておけ」「みんなはジークフリートの援護を頼む!」グランとシグを含めた六人の団員がグランサイファーに乗り込んでいった。
グランサイファーの飛び立つ中、既にジークフリートは群体アルバコアを先導し走っていた。(街は駄目だ……)BOMB! 森へと進路を定めたジークフリートの背後で爆発音。巨大アルバコア討伐メンバーから漏れた団員がアルバコアに攻撃を放ったのだろう。一度の戦闘に出ることのできる人数は初めの四人と控えの二人を合わせた計六人まで。これは星晶獣の生まれるよりも遥か昔、壊獣が存在しなかった頃から続くこの世界のルールなのだ。
「ゼアァッ!」港に隣接する森を進むジークフリートは大剣で木々を切り倒し、駆ける! 背後では木々がアルバコアの津波に飲まれ、メキメキと音を立てて砕け散っている。「ハァッ、ハァッ……!」息切れを始めた彼は兜に手をかけ、それを投げ捨てる。いかなる耐久力をもってしても、このアルバコア津波の前では存在しないに等しいと竜殺しの勘が判断したのだ。
黒き重りを投げ捨てながらジークフリートは走る。木々の向こうには岩場が見え始めていた。
岩場の走りにくさに、ジークフリードは先程の森がいかに走りやすかったかを思い知らされていた。一歩進むたびに未だ脱ぎ捨てることのできないでいる下半身の鎧がガチャガチャと音を立て、彼にその重量を主張している。(一瞬でもいい、鎧を脱ぐ時間があれば……!)しかしアルバコアの群れは彼に一息つく余裕すら与えようとはしない!「真・無双破斬!」
ジークフリートの背後の地面が裂け、弾け飛ぶ! 下方から飛来する岩石片がアルバコアを打ち上げ、彼に僅かな時間を与えた。「モタモタしてないで早く逃げるっす! 竜殺しなんて大層な名前背負ってるんだから、こんな岩場くらい余裕っすよね?」岩場を吹き飛ばした張本人、ファラがジークフリートを煽った。
(……当然だ!)ジークフリートは下半身の鎧を素早く脱ぎ捨てた。「わっ、なんで脱ぐんすか!?」返事をするスタミナが惜しい。彼は返事もなしに大剣を片手に、飛ぶようにして岩場を駆け出す。少し振り返ると、土煙の向こう、遥か大海原にはグランサイファーと、その数倍はあろうかという大きさのアルバコアが向かい合っていた。
やはり鎧がない分身体が軽い。下着姿に大剣といった奇妙極まりない姿で岩場を駆けるジークフリートは、鎧の頑強さ、そして重さを再認識していた。「グルルルル……!」そんな彼の前に立ちふさがる魔物の影!「ゼアッ! ゼアッ! ゼアァッ!」トリプルアタック! アルバコアにつられて現れた魔物を難なく切り刻み、竜殺しが駆ける!
「ハァーッ、ハァーッ、ハァーッ……!」しかし、彼のスタミナも無尽蔵ではない。鎧を纏ったまま森を駆け抜け、大剣を振り回し、その後岩場を駆けて疲れないなど、かの十天衆でさえ不可能なのだ。それに彼は直前に戦闘も行っている。限界が近いのだ。もはや岩山と呼んだ方がふさわしいような斜面を進みながら、ジークフリートはもう一度グランサイファーを振り返る。未だ決着が付く様子はない。舌打ちをして彼は岩山を駆けあがっていく。
「ハァーッ、ハァーッ……ゴホッ!」咳込み、ジークフリートの体内の酸素が逃げ出す。酸欠により視界が霞む。(すまないグラン、みんな……)意識が途切れかけたジークフリートの疲労が吹き飛び、身体が軽くなった。「大丈夫ですか、ジークフリートさん!」ソフィアだ。「もし死んでしまっても一度だけなら復活できますから!」「その必要はない!」ゼエン教徒に伝わる秘術によって回復した彼は、冗談を返して岩山の頂点を飛び越える。
岩山を落下するかのごとく駆け降りる。瞬間頭上の岩山が吹き飛び、まるで噴火した火山の溶岩のようにアルバコアが噴き出た。アルバコアだけではない。砕けた岩石が重力に従ってジークフリートに迫る!「ブラスターミサイル、発射します。続けてアイリスビームを照射」BBBBBOMB! 岩石が、アルバコアが、飛来したミサイルと光線により消滅した!
「出来る限りの足止めを行います。その間に退避を」古の機械兵ロボミが飛来し、彼の背後に降り立った。「頼むぞ!」ジークフリートは砂浜に降り立ち、加速した。後方では光線の発射音や爆発音が鳴り響いている。走行の感覚を岩場から砂浜のそれに切り替えた。SLASH! SLASH! 立ちふさがる魔物を切り捨て、彼は走る。瞬間!
海から伸びた触手に足を取られてしまい転倒! クラーケンだ! 海から、後方からアルバコアが姿を現した。クラーケンの触手は数を増し、大剣を握る彼の腕さえも絡め取ってしまう。彼はこのままアルバコアの津波に飲まれ、無残にも食い散らかされてしまうのだろうか!?
「うおおおおあっ!」爪が触手を引き裂く! ゼヘクだ!「行けジークフリート、ここは俺と……」「あちしの二人で充分ら!」鉄球を構えるダエッタ! 触手の切れ端を振り払い、駆け出すジークフリートの背後で暗黒の竜巻が巻き起こる。ゼヘクの魔力とダエッタの振るう鉄球の高速回転が合わさり生まれたそれは、砂を、アルバコアを巻きこみ荒れ狂っていた。
グランたちが一瞬でも早く巨大アルバコアを倒すよう祈りながら、ジークフリートは砂浜を走る。真正面には漁村。そして右手には丘へ続く平原。海より飛来するアルバコアを切り捨て、踏み台にしながらジークフリートは丘を目指す。丘の先には何がある? 何も無い。限りなく広がる空と海以外は。
ジークフリートは振り返る。右手には未だに巨大アルバコアが健在だ。さらに視点を動かすとアルバコアの波が丘を逆流してきている。もはや逃げ場はない。追いつめられた彼は、アルバコアの津波に飲まれ、無残な最期を遂げてしまうのか!? いや、まだ唯一残されている。丘のその先、海へ飛び込むという選択肢だけが。(まだか、グラン……!)
覚悟を決め、ジークフリートは愛刀をブーメランのようにして後方へ投げる。それは回転しながら先頭のアルバコアに突き刺さり、バランスを崩し、後に続くアルバコアを巻き込みクラッシュした。その光景を見ることもなく彼は強く地を踏み、海と空だけが存在する空間へと飛び込んだ。
ジークフリートの視界を海が埋め尽くす。そして、その海に影が落ちる。後方からアルバコアが迫っているのだ。これで駄目なら仕方あるまい。
瞬間、彼の視界が光に包まれる。(これは一体……?)視界の端で、巨大なアルバコアが海に落下しながら、光となって消えようとしていた。海が迫る。ジークフリートは目を閉じる。背後から衝撃が来る気配はない。海風が強くなる。ジークフリートは着水の衝撃を覚悟した。
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「……う、ここは……」ジークフリートが目を覚ますと、そこはグラン騎空団が初めに降り立った港だった。「おっ、目が覚めたようだな!」甲高いビィの声。「お前のおかげでアルバコアを倒すことができたよ」「あー……その、なんだ、悪かったな」グランとラカムの声。「なんにせよアルバコアとあたしらの戦いは終わったんだ。今は宴を楽しもうじゃないか!」多くの人々が平穏を喜び、その幸せを分かち合う声。
そんな喧騒を耳にしながら、ジークフリートの意識は再び遠ざかっていく。身体ではない、心が休息を求めているのだ。「……シェロカルテ、一ついいか」途切れそうな意識を必死に繋ぎ止め、彼はシェロカルテに声をかける。「はいはい、なんでしょ~?」「島内に俺の鎧と剣が落ちている、それを回収してくれ……代金はラカムから取り立ててくれ……」「了解しました~」ユディスティラ島を駆け抜けた英雄は、それだけ言い残すと再び眠りに落ちた。
『アルバコア・サンダーボルト』
――――――完
これにて終了です。水着ファラはまだですかね
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