――現在
――2014年7月14日 [おてんば神楽]道明寺歌鈴、[スピリチュアルガール]藤居朋が登場
藤居朋「ねえねえ歌鈴ちゃん。ちょっと占ってみてもいい?」
道明寺歌鈴「ふぇっ? 占い……ですか?」
朋「そう。ほら、今日はハッピーデーだった……で、いいのかな……みたいだから、今度は別の占いをやってみたくて!」
歌鈴「はいっ、いいですよ!」
朋「じゃちょっと待ってね、準備するから……よいしょっと」ゴソゴソ
歌鈴「わくわく……」
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――注意事項?――
モバマスSSです。
原作設定を無視しているどころか、原作設定を破壊しています。
朋「あった! これ、タロットカードっていうんだけど知ってる?」
歌鈴「タロットカードって……確か、西洋の占いでしたっけ。ファンタジー小説とかでよく見るヤツですよね!」
朋「カードにいろんな意味があってね。あー、ごほんっ。これを今から3枚めくります。左から順に、歌鈴ちゃんの過去・現在・未来を示すわ」
歌鈴「過去、現在、未来……」
朋「本来なら占い師がカードをめくるんだけど、あたし達はアイドルだからね! 適当にシャッフルして……はい歌鈴ちゃん! ここから3枚、裏向きのまま選んでみて? ……そう。あ、上下は入れ替えないでね。うん……これでいい?」
歌鈴「はひっ……あっ、はい! お願いします!」
朋「じゃ、横に3枚並べて、左から順に横めくりに……えっと、こういう風に、上下を入れ替えないようにしてめくってみて?」
歌鈴「はいっ。うう、緊張する……!」
朋「あはは、リラックスリラックス。ちょっとした運試しって感じでね♪」
歌鈴「すぅー、はぁー……はいっ。歌鈴、参ります!」メクリ
朋「過去は――《愚者》かー。こう、自由に頑張れる人とか、良い意味で未来が決まってないって意味だけど……歌鈴ちゃんにとってはプロデューサーさんのことかな?」
歌鈴「モバPさんのこと……はいっ。今の私があるのは、モバPさんが私をスカウトしてくれたからです!」
朋「よかった、当たってるみたいね。じゃあ次、真ん中をめくってみてくれる?」
歌鈴「はい!」メクリ
朋「《法王》……うーん。寛大な人というか優しい人というか、あっ、それとアドバイスをしてくれる人って意味もあるわね。どう? 心当たりはあるかしら」
歌鈴「それならきっと、藍子ちゃんのことですね。いつも藍子ちゃんには助けてもらってますから」
朋「ふんふん」
歌鈴「私、藍子ちゃんみたいな素敵で落ち着きがあるアイドルになりたくて……うう、ドジもちょっとは減らしたいです」
朋「あはは……。では最後、未来のカードをどうぞっ!」
歌鈴「えいっ!」メクリ
朋「……《塔》の、逆位置……?」
歌鈴「そ、それはどんな意味なんですか?」
朋「うーん、《塔》って基本的にロクな意味がないんだよね……」
歌鈴「はうっ!?」
朋「あ、待って待って。でもこれ逆位置……ええと、歌鈴ちゃんから見てカードが逆向きだから、反対の意味を示してるの。正位置なら、何か災害とか、事故とか、とにかく良くないことが起きるわ。でもこれは逆位置だから――」
歌鈴「えっと、事故を回避できるとか、そういう意味ですか?」
朋「そうでもないんだよねー……何か起きるけど解決できるとか、昔からの問題が発生するとかって意味が多くて。……んー」
歌鈴「朋さん……?」
朋「ちょっと待ってね。……よし、これだ!」
歌鈴「もう1枚、カードを使うんですか?」
朋「これだけじゃよく分からないわ。だからもう1枚を使ってみようと思うの。歌鈴ちゃん、めくってみて?」
歌鈴「はいっ。えい!」メクリ
朋「《星》の正位置? ……あ! 分かったわ!」
歌鈴「わかりましたかっ!?」
朋「《愚者》は歌鈴ちゃんのプロデューサーのことで、《法王》は歌鈴ちゃんの友達の藍子ちゃんのことだった。じゃあ《塔》《星》も、きっと歌鈴ちゃんの周りにいる誰かのことだと思うの。それで、その人といつか一緒にお仕事をするっていう『未来』なんじゃない?」
歌鈴「私の周りにいる人……」
朋「誰かいない? こう、なんか問題を抱えていそうだけどもう解決しそうで、希望を持っていそうっていうかなんか可能性を見てそうな人!」
歌鈴「ええと、うーん……ううん…………もしかしたら、加蓮ちゃんのことかも……?」
朋「加蓮ちゃん?」
歌鈴「よく藍子ちゃんが話すんです。いつも前向きでキラキラしててすごいけど、何か悩んでるようだって」
朋「あの2人、よく話してるんだ」
歌鈴「そうなんです。おかげで藍子ちゃんと一緒にいる時間が減っちゃって……」アハハ
朋「あ、あはは……。ま、そーいう訳で、その加蓮ちゃんといつか仕事を一緒にするかもよ?」
歌鈴「そうなんですか! ……一緒にお仕事するなら、藍子ちゃんの方が……」
朋「そこは歌鈴ちゃん次第。占いなんてなんとなく『こういうことがあるかもしれない』ってだけだからね。自分の手で切り開いてこそ、あたし達アイドルでしょ!」
歌鈴「わぁー……」パチパチ
朋「あ……ご、ごほんっ。と、とにかくそういう訳だからね! どう、参考になった?」
歌鈴「とってもなりました!」
朋「それならよかったわ」
歌鈴「……」ジー
朋「……? 歌鈴ちゃん? タロットカードが気になるの?」
歌鈴「……」ササッ
朋「《法王》と《塔》を入れ替えて……? あの、歌鈴ちゃん、占いってそういう物じゃなくてね? きっと同じように占ったら同じような結果が出るというか、そこのタロットカードを入れ替えても意味がないっていうか」
歌鈴「で、ですよね! ……でも、ちょっとだけ不思議に思っちゃって」
朋「何を?」
歌鈴「もし、このカードが逆だったら――ううんっ。もし、藍子ちゃんと加蓮ちゃんが逆だったらどうなってたかな? って」
朋「うーん……ごめんっ。あんまり私は2人のこと知らないから、それは歌鈴ちゃんの想像にお任せするわ! なんだったらタロットカードを貸すから、自分で占ってみて?」
歌鈴「わ、私に占いなんてできまぜっ……できませんよっ!?」
――その日の晩――
歌鈴(藍子ちゃん――いつも私を助けてくれる、すてきな人)
歌鈴(加蓮ちゃん――いつも前を向いてキラキラしている、すごいアイドル)
歌鈴(もし、2人が逆だったら――どうなっていたのかな?)
歌鈴(どうなって……)
歌鈴(……zzz)
その日、歌鈴は夢を見た。
懐かしい光景がいっぱい出てくる、けれど、どこか自分の記憶とは違う夢を――
――2012年1月 [新春]道明寺歌鈴が登場
モバP「どうだ歌鈴。これがアイドルの仕事ってヤツだ」
歌鈴「ひ、人がいっぱいで……」
モバP「歌鈴のとこの神社と、どっちが人が多いかな」
歌鈴「わ、私の神社、お正月でもこんなに人は来ませんよ!? アイドルって、凄いんですねぇ……」
モバP「おいおい。歌鈴ももうアイドルだろ」
歌鈴「そうでしたっ。ここ、こんな日に私なんかでいいんですか!? その、もっと可愛い子とか、しっかりできる子とか」
モバP「大丈夫だって。ちょっとは自分に自信を持てよ。……つってもまだ脇役しか持ってこれなくてな……そこはすまんな、歌鈴」
歌鈴「いえいえっ! 私はその、アイドルをさせてもらえるだけでも十分で――」
モバP「いつか歌鈴が主役の舞台を持ってくるからな。っと、悪い、次のとこに行かないといけねえから」
歌鈴「あ! それならモバPさん、その前に、今年の運勢を占うためにおみくじ引きませんか? あの、私、れっ、恋愛運ならちょっと自信あるんですっ!」
モバP「はは、そりゃ楽しみだ。じゃ、ちょっと行ってみようか」
……。
…………。
歌鈴「こんなおめでたい日に選ばれたからには…せっ、精一杯頑張って、皆を幸せな気持ちにしてみせます! 今年一年良い事がありますようにって! ねっ、モバPさんっ!」
モバP「任せた。よし、行ってこい歌鈴!」
歌鈴「はいっ!」
歌鈴(――モバPさん。こんなドジでノロマで可愛くない私をアイドルにしてくれた人)
歌鈴(私はまだ失敗ばっかりして、いつもフォローしてもらってます)
歌鈴(ドジばっかりな私は、いつか見捨てられるんじゃないかとびくびくしてて)
歌鈴(でも、今のところ、まだ大丈夫みたいです)
歌鈴(……大丈夫……だよね?)チラッ
モバP「?」テヲフル
歌鈴(……ううんっ、大丈夫! きっと大丈夫)
歌鈴「歌鈴、参りますっ!」
――2012年2月14日 [ホワイトバレンタイン]北条加蓮(N)が登場
(本来は[バレンタイン]高森藍子が登場した時)
――チョコ手渡し会の会場・休憩時間――
北条加蓮「私が知ってるアイドルって、舞台でキラキラ輝いてて、歌を歌ってて……そういう感じなんだ。でもアイドルって、こういう仕事もあるんだね、モバPプロデューサー」
モバP「ああ。握手会とかCDの手配りとかもそういう感じだ。今のご時世、会いにいけるアイドルってのはもう基本みたいなモンだからな」
加蓮「そっか」
モバP「……あー、もしかして不満とか……悪い、思ったような仕事を持ってこれな――」
加蓮「あ、違う違う。もうっ、モバPプロデューサーはすぐネガティブに考えるんだから」
モバP「そ、それならいいんだが」
加蓮「こういう世界もあるんだなってだけだよ。それに……アイドルにならないと、こっち側に立つことなんてできなかったもんね」
モバP「……」
加蓮「私がチョコを渡したら、ファンの人が喜んでくれるんだ。これからも応援してます! って」
加蓮「みんなが喜ぶ事を考えるの!」
加蓮「それが、すっごく楽しいんだ!」
加蓮「あの日、あなたについていかなかったら、こんなこと絶対になかったんだよ? ……ありがとねモバPプロデューサー。私をアイドルにしてくれて」
モバP「……礼を言うのはこっちだよ。ありがとな。努力とか下積みとか苦手だって言ってたのに、ここまでついてきてくれて」
加蓮「も、もう、それは昔の話っ! 忘れてよ! ……アイドルやってると、コツコツ頑張るのも、けっこう楽しく思うんだ。あ、でもやっぱり私が目指してるのは煌めくステージだからね?」
モバP「それを聞いて安心したぞ。アイドルになった時なんか、もう目的は達成したから辞めるみたいな雰囲気で――」
加蓮「もーっ! 昔の話は禁止!」
モバP「おっと悪い」
加蓮「やめる訳ないでしょ。まだまだ夢の始まりだよ。それに今日だって」
モバP「今日だって?」
加蓮「……なんかさ、私のところに来てくれるファン、少なくない?」
モバP「うぐ」
加蓮「ま、主役は私じゃないって分かってるけどさ……」
モバP「あー……その、下積みは苦手って言ってるとこに悪いんだけどな、ほら、ステップっていうかさ。これは後から話そうと思ってたんだが、まずは加蓮に切り込んで欲しかったんだ」
加蓮「切り込む?」
モバP「ああ。ほら、お前って最近、凛とか奈緒とよく話してるだろ? 実は3人で売り込むって企画があっちのプロデューサーから出ててさ。そうなった時、来年のバレンタインで凛や奈緒が活躍できるよう、まずはお前に出て欲しかったんだ」
加蓮「えー、なにそれ、踏み台ってことー?」
モバP「ばっ、お前、そういうことじゃなくてな」
加蓮「なんてね。冗談。そっかー。凛には先越されたけど、こっちでは私が先を越してるんだねー。そっかそっか。ふふっ」
モバP「ふー……。ってことで、まだファンは少ないかもしれないが、頑張ってくれ」
加蓮「はーい。はぁ、でも分かっててもやっぱり下積みとかは苦手。ねっ、モバPプロデューサー」
モバP「お、おう」
加蓮「私をもっと高いところに連れてってね。私が夢見たステージの上まで」
モバP「……おう。任せろ。絶対に約束する!」
加蓮「約束、か……。あ、もう休憩時間が終わりだ。じゃあ、行ってくるね、プロデューサー……ううん、モバPさん。ちゃんと見ててよ?」
モバP「ああ、お前が照れて顔を赤くするくらいに見ておくよ」
加蓮「ふふっ。あ、モバPさん用のチョコは後で渡してあげる。もちろん本命だよ?」
モバP「あ――おい、ちょっと待て、今お前なんて、」
加蓮「じゃねっ!」
モバP「こら! 待て、お前、自分がアイドルだってこと早速忘れてねえか!? おーい!」
――2012年3月31日 [ふんわりガール]高森藍子(R)が登場
(本来は[制服コレクション]北条加蓮が登場した時)
――公園――
高森藍子「風が気持ち良いっ! こんな日はお散歩したいですね。でも、すぐにお仕事の時間が来ちゃうからゆっくりできないかな?」
モバP「ははっ。あと30分くらいか。よし藍子、今回の仕事の最終確認だ」
藍子「はいっ」
モバP「今回のコンセプトは『等身大のアイドル』だ。藍子は、いつも通りの藍子を見せてくれればいい」
高森藍子「はいっ♪ ……あの、でも、大丈夫でしょうか?」
モバP「ん? 何がだ」
藍子「普段の私なんて、自分でもアイドルらしくないって分かっていますから……そんな私なんて、見てくれる人がいるのかなって」
モバP「それは大丈夫だ。絶対に大丈夫。あと100回同じことを聞いてきても100回とも即答できるくらいに大丈夫だ」
藍子「あはっ……なんですかそれ~」
モバP「藍子には不安にさせてしまったかもな。他のアイドルに比べて売り出すのがちょっと遅くなった。歌がいいかダンスがいいか、何がいいかって悩んでたんだが、やっぱ普段の藍子を見せるのが一番いいと思ったんだ」
藍子「いつもの私を?」
モバP「今の藍子は絶対に世の中に必要とされる」
藍子「……はい!」
モバP「あ、でも仕事に張り切ってる藍子もいいな」
藍子「モバPさんがそう言うなら……私、もっと弾けちゃいますよーっ!」
モバP「そうそうそんな感じ!」
藍子「どうしたらいいんでしょうか。こう、こう! ……こんな感じですか?」
モバP「いやいや、もっとこう、こう!」
藍子「こう!」
モバP「こう!」
――しばらく経過して――
モバP「え、もう撮影5分前!?」
藍子「いつの間にそんなに……!」
モバP「なんか藍子と話してると時間の経過が早いんだよなぁ。なんでだろ」
藍子「ご、ごめんなさい?」
モバP「……よし。じゃあ藍子。行って来い。弾けても跳ねてもいいけど、基本は『いつもの自分を見せる』だ! いつもの藍子を必要としているファンは絶対にたくさんいる。頼んだぞ!」
藍子「はいっ――行ってきます!」
――撮影終了後――
藍子「モバPさんっ。どうでしたか、私のお仕事!」
モバP「完璧だ! きっと半年とか1年後くらいになったら、なんてことのない写真集なのにスタドリ100本分くらいの価値になるぞ」
藍子「あはっ、どういう例えですか~」
モバP「次はLIVEの仕事だな。もう振付は完璧にしてきたか?」
藍子「うぅ……ダンスはまだちょっと。でも私、頑張りますから! これからもよろしくお願いしますね、モバPさん♪」
モバP「おし、任せろ!」
――数日後――
モバP「ってことでLIVEの日だ……しかしすげえな、ここまで人が来るとは想定外だった」
藍子「私、ライブはファンの方を身近に感じられるから好きなんです! ほら、私たちを呼ぶ声があんなに大きく聞こえる……」
モバP「みんな藍子を待っているんだな。……そっか、あの藍子に、こんなたくさんのファンができたのか……」
藍子「えええっ!? モバPさん泣いているんですか!?」
モバP「わ、悪い、ちょっと感慨深くなって」
藍子「あ、そうだ! 今日の記念じゃないですけど、私、モバPさんと一緒に写真撮りたいな……お願いですっ!」
モバP「おう。……写真はくれぐれも大切に扱ってくれよ?」
藍子「私の家の、いちばん大切なアルバムにしまっておきますね。はいっ、モバPさん。チーズっ!」
モバP「おっと」
藍子「あはっ、変な顔してる……♪」
モバP「お、おい待て、撮り直しを要求する! あっ、こら、カメラよこせ!」
藍子「あははっ、やですっ♪ これも大切な記念ですから!」
モバP「ったく……」
藍子「……これも大切な記念ですけど、私はモバPさんの笑った顔が見たいな……こんなこと行ったらアイドル失格かもしれませんけど、私、やっぱりあなたの笑顔が大好きですからっ!」
モバP「……そっか。じゃあ藍子が頑張った時には、いつも笑って迎えることにするよ」
藍子「はい。お願いします! ……あ、時間だ。じゃあ行ってきますね、モバPさん」
モバP「ああ」
藍子「――見ていてください。あなたの育てたアイドルです。だから――」
藍子「今日の私も明日の私も覚えててください、モバPさん」
モバP「ああ。いつの藍子のことだって覚えてるよ。――行ってこい!」
――2012年5月16日 [進化する巫女]道明寺歌鈴(SR)、[制服コレクション]北条加蓮(R)が登場
(本来は[大器晩成]道明寺歌鈴・[ふんわりガール]高森藍子が登場した時)
――神社の境内――
道明寺歌鈴「きゃっ」ズルッ
北条加蓮「……何してんの?」
歌鈴「いたた、転んじゃって……わわっ!? えっと、あの、だ、誰でしたっけ!?」
加蓮「北条加蓮。今回の仕事で一緒になった――って、もう自己紹介はしたでしょ?」
歌鈴「ごご、ごめんなさい。私、ドジばっかりでご迷惑かもしれませんけど……そのぅ……」
加蓮「……はーっ。モバPさんが言ってたけどマジだったんだね。ほら、大丈夫? 立てる?」
歌鈴「はいっ、ありがとうございばっ! ……ございます……」アウゥ
加蓮「あーあー、服もこんなにはだけちゃって。ほら、帯、ほどけかけてるよ?」
歌鈴「あわわっ」
加蓮「私も巫女服の着方とか勉強した方がいいのかな……?」
歌鈴「加蓮ちゃんも巫女服を着るんですかっ! な、ならっ、この歌鈴にお任――」
加蓮「アンタのサポートだってーの!」
歌鈴「ひゃいっ! ごごごめんなさいっ!」
加蓮「あ、怒鳴ってごめん。……大丈夫なのかな、これ……」
……。
…………。
歌鈴「次はこれを運べばいいんですねっ! あのっ、スタッフさん、いつもいつもありがとうございます!」
加蓮「……なんでアイドルがスタッフを手伝ってんだ……」
歌鈴「え? お礼を言われるのはこっちの方だって? いやいやっ、そんなことないです! それでこれを――あっちですねっ! よいしょ、っと」
加蓮「あ、ちょ、危な――!」
歌鈴「ぎゃいん!」ズテッ
加蓮「あーもう言わんこっちゃな――ちょっ!? ああアンタなんで下着つけてないの!?」
歌鈴「え? ……あっ……忘れてました!!」
加蓮「せめてそこは忘れないでよ! ああもう……スタッフさんちょっとごめんなさいこの子なんか怪我したいみたいで! ほら歌鈴、おぶさっていくから!」
歌鈴「あ、ありがとうございます、加蓮ちゃん」
加蓮「ああもうっ……!」
……。
…………。
加蓮「ぜ、ぜーっ、ぜーっ、げほっ、ごほっ……ごめ、ちょっときゅうけ……!」バタン
歌鈴「わーっ!? だ、大丈夫ですか加蓮ちゃん!」
加蓮「体力ないのよ、ぜぇ、うっさいから叫ばないで……」
歌鈴「は、はいぃ……」
加蓮「ちょっと休憩したらすぐ戻るから……ね?」
歌鈴「……」
加蓮「……」
歌鈴「……私、いつもドジしちゃうんです」
加蓮「うん、知ってる」
歌鈴「モバPさんに迷惑ばっかりかけて……今も加蓮ちゃんに迷惑をかけてて。いつか見捨てられるんじゃないかって、ずっと思ってました」
加蓮「モバPさんはそんなことじゃ見捨てないと思うけどねー」
歌鈴「はい。こんな私にも、京都の観光大使なんて恐れ多いお仕事を持ってきてくれたんです」
加蓮「だね」
歌鈴「……私」
加蓮「ん?」
歌鈴「ずっと諦めていました。心のどこかで、自分がドジをするのは仕方のないことで、いつかモバPさんに見捨てられることもしょうがないんだって」
加蓮「……」
歌鈴「でもモバPさん、いつも私のフォローをしてくれて、大丈夫だって笑ってくれて……こんな大きな役に選んでくれて……私、最初にモバPさんに出会った時、宣言したんです。アイドルになれますよね、いえ、なりますよね、って!」
加蓮「……うん」
歌鈴「私、モバPさんに宣言した通り、アイドルになれたんです!」
加蓮「うん」
歌鈴「だから……ドジを減らしたいって。ドジな自分が嫌でドジを治そうって、舞台でもLIVEでも、観光大使でも、噛まないで、転ばないで、そう決めたんです。ちゃんとしたアイドルになること、モバPさんに恩返しがしたいですから! ……でも、なかなかうまくいきませんよね……アハハ……」
加蓮「……ねえ、歌鈴」
歌鈴「は、はい!」
加蓮「――さっきスタッフさんに頼まれた時、ちょっとでも早く届けないとって思ったでしょ。そういうの思わない方がいいかな……急いじゃったらドジするかもしれない、だからゆっくり行こう、ちゃんと届けよう。そう思った方が、きっと転ばないで済むよ」
歌鈴「加蓮ちゃん……?」
加蓮「それから下着は……いやまあ、普通の衣装で忘れてるとは思いたくないけど……着替えて部屋から出る時は、深呼吸して、何か忘れてないか確かめる。それだけで忘れ物なんてだいたいは潰せるからね」
歌鈴「……加蓮ちゃん……」
加蓮「それでも忘れた時、転んだ時は、ま、モバPさんなり私なりに押し付けちゃえっ」
歌鈴「い、いいんですか? 私、いっつも失敗ばっかりで……」
加蓮「なんかモバPさんが言ってたんだ。失敗が少なくなってきたって。案外、自覚してるもんじゃない?」
歌鈴「それはっ……そうです。これでも最近は失敗少なくなったんです!」
加蓮「ね? だからさ、ゆっくり頑張っていこうよ。大丈夫だから。モバPさんも、私もいるから」
歌鈴「……加蓮ちゃん!」
加蓮「ね? ま、今の私じゃまだ頼りないっか。なんだろうなー、努力が足りないのかな? そうだ、歌鈴よりもっともっと活躍してやろ。そうしたら歌鈴も私を頼りにできるかな?」
歌鈴「……!(ぐしぐしっ)い、いえっ、私だってこれからです。成長して進化して、加蓮ちゃんなんて、こーんな下の方まで抜き去るんですがら゛っ! ……抜き去ってやるんですから!」
加蓮「ふふっ、しまらないなぁ。……じゃ、そろそろ出よっか」
歌鈴「はいっ! って、あーっ! 私、下着を忘れたままなんでした!」
加蓮「……替えはないの?」
歌鈴「着替えとかはぜんぶ、ホテルの方に送っていますから……み、巫女服だから大丈夫かな?」
加蓮「しょうがないなぁ。はいこれ」スルスルッ
歌鈴「へ? ……えええええっ!? こ、ここ、これ、加蓮ちゃんの下着……!?」
加蓮「ばっ、声が大きいわよ! さすがに下はつけてるんでしょ? ほら、これ使ってとっとと行く! 私は平気だから!」
歌鈴「そそ、そんなの悪」
加蓮「いーから!」
歌鈴「はひっ!」
――数時間後 神社の境内――
歌鈴「きゃあーっ!」バッシャーン
加蓮「うわっ……あーあー、びしゃ濡れだ」
歌鈴「ふぇぇっ、またやっちゃった……歌鈴のドジ……っ! はわわ、こんなに濡れちゃった……もう、こんな所プロデューサーに見られたら、何言われ――」
モバP「……」
加蓮「あ」
歌鈴「……きゃぁぁ!!」
モバP「あー、いや、その、見るつもりは、」
歌鈴「見ちゃダメです~!! え、えっと、あのっ、あっ、」
『それでも忘れた時、転んだ時は、ま、モバPさんなり私なりに押し付けちゃえっ』
歌鈴「そうだっ、加蓮ちゃん助けてください!」
加蓮「おっけー。目潰しっ!」ギュム
モバP「ギィャアアアアアアアアアア――!! 目が、目がァァアァァァァ!!」
加蓮「はいっ歌鈴、これ上着! 向こうでタオルでももらってきなさい!」
歌鈴「はは、はいっ」ドタドタドタ
<ズルッ きゃーっ!
加蓮「あー……しまった、急ぐと転ぶんだったか……」
モバP「おま……目ぇ潰す必要あったのか今!?」
加蓮「あ、ごめん、つい……。えーっと、だ、大丈夫? モバPさん」
モバP「はーっ、はーっ、な、なんとかな」
加蓮「ほ、ほんとにごめんね? つい……」
モバP「まあ、俺にも非があったからいいけど……にしても今の対応すごく早かったな、加蓮」
加蓮「なんだろ。慣れ、かな」
モバP「慣れ?」
加蓮「ちょっとねー……歌鈴のこと、ほっとけないかも。少しの間、私が見てていい?」
モバP「そ、そりゃ願ったり叶ったりというか、加蓮がいれば歌鈴もドジが減らせるのかもしれんが……お前はいいのか?」
加蓮「私?」
モバP「その……まだ加蓮が主役の舞台が用意できてないから、その……」
加蓮「あぁ……そうだね。ん? そんな有り様なのに他の人に目を向けてる余裕があるのかって言いたいの?」
モバP「そうじゃねえけど……」
加蓮「私はいつになったら煌めきのステージに立てるの? 待ち遠しくて待ち遠しくて、最近は昔の夢ばっかり見るんだよ?」
モバP「ほ、本当にスマン」
加蓮「ふふっ、なんてね。分かってる。アイドルになることも、ステージに上がることも、そう簡単なことじゃないってこと」
モバP「ほっ……」
加蓮「簡単なことだったらモバPさんがいらなくなっちゃうもん。一緒だったら絶対上手くいくよ。そうだよね、モバPさん」
モバP「……この仕事が終わったらまた全力で営業してくる。待ってろよ加蓮!」
加蓮「や、それはすっごく嬉しいけど、前みたいに何徹とかはやめてね……? 見てて痛々しいから」
モバP「お、おう」
歌鈴「ふぇぇ、戻りました……」
加蓮「おかえり。あ、着替えたんだ」
歌鈴「替えの巫女服を貸してもらえました……はうぅ……モバPさんに見られた……はぅぅぅ……お嫁にいけない……」
モバP「スマン……」
加蓮「大丈夫大丈夫。歌鈴なら引く手あまたでしょ。あ、モバPさんの嫁は私だから譲らないけどね?」
モバP「お前は外でなんてことを言っているんだ!?」
加蓮「おっと……っていう演技の練習。どう? うまくできてた?」
モバP「ああうまくできてたよ、本音じゃないのかって思うくらいにな!」
歌鈴「ぴ、モバPさんはっ……あうぅぅ……い、いつまで見てるんですかっ!」
加蓮「残念だったねーモバPさん。ガン見しても服は透けてないと思うよ?」
モバP「ちげーよ! ああもう落ち着いたら準備の手伝い行くぞ! スタッフの皆さんもアイドルに手伝ってもらえてすげえやり甲斐があるとか言ってたからな!?」
歌鈴「は、はいっ!」
加蓮「大丈夫、歌鈴。落ち着いて……ね? 早く行くことじゃなくて」
歌鈴「あ、そうでしたっ! えっと、転ばないように落ち着くこと、ですよね!」
加蓮「そうそう」
モバP「……?」
加蓮「ん。もう、モバPさん? ほらあっち行った行った。私たちもすぐ合流するから」
モバP「お、おう」タッタッタ
加蓮「……」チラッ
歌鈴「……」チラッ
加蓮・歌鈴『ふふっ♪』
――2012年8月11日 [ゆるふわ乙女]高森藍子(SR)が登場
(本来は[煌めきの乙女]北条加蓮が登場した時)
――カフェ――
高森藍子「こうして二人きりでお話してると、仕事の忙しさも忘れちゃいますね」
モバP「そうだなー……都会とは思えない、静かな場所だ」
藍子「もう少しだけ……ゆっくり……」
モバP「くわぁ……眠ぃ」
藍子「モバPさん、最近、がんばりすぎですよ」
モバP「そうかぁ?」
藍子「はい。外はこんなに暑いんですから、もうちょっと気を抜いて、リラックスリラックス……」
モバP「最近はいろいろあってなぁ……」
藍子「私なんて、まだまだですけど……」
藍子「私のこと、もっと信じてくれていいんですよ?」
モバP「そうだな……」
モバP「でも、こういう1日もいいよな」
藍子「ええ。こんな休日も素敵ですよね」
モバP「だな。すみませーん、メロンソーダ1つ。なんか飲むか?」
藍子「じゃあ紅茶をいただきます。あっ、モバPさん、お腹は空いていませんか?」
モバP「実は少し」
藍子「じゃあ、私のオススメのメニュー、モバPさんに教えてあげますね♪」
モバP「サンキュ、藍子」
藍子「いえっ。まずはこれと、これと、あとこれと、これもオススメですっ」
モバP「……多くね?」
藍子「あ、あはは、どれも美味しくて決めきれなくて……」
モバP「さすが藍子オススメのカフェってだけはあるな。じゃ、俺はこのパンケーキをもらうよ」
藍子「あ、あのっ! ……私も、ちょこっとだけいただけたら、なんて……」
モバP「ぷっ……ははっ、藍子も腹が減ってたか」
藍子「もうっ、モバPさん、笑わないでくださいっ」
モバP「悪い悪い。じゃ、パンケーキ1つで……」
……。
…………。
藍子「一応、モバPさんに言われたので軽く変装してきましたけど……バレてないみたいですね♪」
モバP「みたいだな」
藍子「こうしていると、なんだか2人で内緒話をしてるみたいで……アイドルになってずっと拍手を受け続けていたから、なんだかおかしな気持ちです」
モバP「アイドルか……。どうだ藍子。そろそろ、自分がアイドルってことには慣れてきたか?」
藍子「モバPさんのおかげで。そのままの私を好きになってくれる人、いっぱいいるんですね」
モバP「だから言ったろ? 素の藍子を必要としているファンは多いって」
藍子「あはっ……」
モバP「今日は随分とのんびりしてるんだな。アイドルの時はなんか、いつも楽しそうにしてるって印象があったけど」
藍子「そうですか? ここは自然体でいられるんです。時間がゆっくり、みたいな……」
モバP「そっか」
藍子「ふわぁ……ふふっ、眠くなってきちゃいました」
モバP「なんだったらちょっと寝ていってもいいと思うぞ。ここは静かだから、ぐっすり眠れそうだ」
藍子「でも今は、モバPさんとお話をしていたいから……」
モバP「そ、そうか」
藍子「あはっ……」
モバP「……」
藍子「……」
モバP「……」
藍子「……すぅ」
モバP「寝ちまったか……。っと、ああ、紅茶はこの子の分で、ええ、見ての通りですので後で……」
モバP「俺ですか? まあ、この子の保護者みたいなもんですよ。……いつも頑張ってる子なんで、ちょっと寝かしてやってください」
藍子「むにゃ……」
モバP「……今日ばっかりは携帯電話の電源も落としちまおうか」
モバP「藍子」
モバP「初の大仕事、おめでとう」
モバP「これからも、頑張っていこうな……」ナデナデ
藍子「ふにゅ……えへへ……♪」
――2012年11月初旬 1stアニバーサリーまであと20日ほど
道明寺歌鈴「いち、に、さん、しっ! ……ど、どうでしたか加蓮ちゃん! 私、ミスせずにやれました!」
北条加蓮「ふふっ、やっとここまで来られたって感じ?」
歌鈴「わ、私だって成長してますっ! 転ばないように、噛まないように、歌詞を飛ばさないように……!」
加蓮「……」
加蓮(これなら……言っても、大丈夫なのかな……?)
加蓮「ねえ歌鈴。ここまで頑張った後にこう言うのも最悪だけどさ、すごく酷いこと言っていい?」
歌鈴「ふぇっ!? なななんですか!? ……いえっ! どんと来てください! 遠慮なんてしないで!」
加蓮「うん。あのね……歌鈴。ドジに気をつけるのは歌鈴らしいし、頑張ってるなって見て思う。歌鈴を応援してるファンも、きっと喜ぶよ」
歌鈴「ホントですか!? せ、せっかくの記念の舞台です、ちょっとでも感謝の気持ちをLIVEでお返ししたくて――」
加蓮「でもね。その結果で出来上がった物が、なんか歌鈴らしくない」
歌鈴「……ふぇっ……?」
加蓮「なんだろ……私はほら、歌鈴が頑張ってる姿を知ってるじゃん。ああ、すごいな、頑張ってるな、私もやらないとなって思い続けてるんだ。だからあの時から歌鈴とレッスンを続けてて本当に良かったって思ってる」
歌鈴「加蓮ちゃん……で、でも、だめ、なんですよね」
加蓮「……」ガシガシ
加蓮「……ごめん、言い方キツイ人間なんだよね私。ごめん」
加蓮「駄目とかじゃなくてさ。本番の……歌とかダンスだけ見てるとさ。あれ、歌鈴ってこんなんだっけ? ってなっちゃうんだ」
歌鈴「私らしくない……?」
加蓮「……あくまで……私の感想だよ。私が分かってないだけかもしれないけど――」
歌鈴「い、いえっ! 実は私も、その、やっててなんだか楽しくないっていうか……ううん……その、違うなっていうのは思ってました!」
加蓮「ん……」
歌鈴「観光大使のお仕事の時……モバPさんが初めてくれた大舞台の時、たくさんの笑顔と拍手で迎えてもらったんです。あの時、アイドルってすごく楽しいなって、アイドルになれたことがすごく嬉しかったんです」
加蓮「でも今は、なんか違うと」
歌鈴「ひゃい……はい。……あのっ! 私はどうしたらいいんでしょうか!?」
加蓮「…………どしたらいいんだろ」
歌鈴「加蓮ちゃん!?」
加蓮「ご、ごめん。えーと……ね、その、あーっと…………ん?」
入口< チラッ
加蓮「……誰か来てるの?」
歌鈴「ふぇっ!? わ、わわわわわ、もしかしてモバPさん!? だ、大丈夫かな、服とかはだけて――」
加蓮「ああ、たぶん違うよこれ。モバPさんじゃない」
歌鈴「分かるんですか!?」
加蓮「なんとなくね。えっと、誰ー? 入ってきていいよー?」
高森藍子「あの……こ、こんにちはっ♪」
加蓮「あ、うん、こんにちは」
歌鈴「ここ、こんにちは!」
藍子「ええっと……アニバーサリーLIVEを一緒にやる予定の、高森藍子です。加蓮ちゃんと歌鈴ちゃん、ですよね?」
加蓮「高森藍子? ……あ、準主役のか……。うん。私が加蓮でこっちが歌鈴」
歌鈴「よ、よろしくでし!(噛んだ……!)」
藍子「で、でし?」
加蓮「藍子……でいっか。ちょっとドジっ子なもんで。そうだ、藍子にも見てもらおうよ歌鈴」
歌鈴「え?」
加蓮「ほら、歌鈴のステージ」
歌鈴「いきなりでふか!? ……ごほん、いきなりですか!? あのっ、でも私、まだ緊張で――」
加蓮「大勢のファンの前で歌って踊れるんだから、1人のアイドルの前で踊れない訳ないでしょ?」
藍子「で、でし?」
加蓮「藍子……でいっか。ちょっとドジっ子なもんで。そうだ、藍子にも見てもらおうよ歌鈴」
歌鈴「え?」
加蓮「ほら、歌鈴のステージ」
歌鈴「いきなりでふか!? ……ごほん、いきなりですか!? あのっ、でも私、まだ緊張で――」
加蓮「大勢のファンの前で歌って踊れるんだから、1人のアイドルの前で踊れない訳ないでしょ?」
重複失礼……。
――歌鈴のLIVEリハ終了後――
歌鈴「どうでした!?」
藍子「ええっと……すごく、すてきなLIVEだと思いましたよ?」
歌鈴「ホントですかっ!? あの、でも、私、またドジしちゃって……」
加蓮「……転んだことは転んだんだけどさ、なんかさっきの舞台よりはずっといい感じがする」
歌鈴「えええ!?」
加蓮「ちょっと"さっきみたい"にできる? 具体的には……えーっと……とにかく転ばないように噛まないようにって言い聞かせながら、でいいのかな……」
歌鈴「わ、分かりました!」
――歌鈴のLIVEリハ終了後――
歌鈴「どうですか?」
藍子「えっと……」
加蓮「……どう思う?」
藍子「あの……私も、うまく説明はできませんけど、なんだか、さっきの方がすてきだったと思います」
加蓮「そっか……。私もそう思う。歌鈴は」
歌鈴「……はい。さっきの方が、楽しかったです! 頭の中が真っ白って感じで、歌も踊りもすごく楽しかったです!」
加蓮「んー、どういうことなんだろ。転ばない方がつまんない……?」
藍子「あのっ」
歌鈴「はい!」
藍子「あ、いえ、そんなに身構えなくても……?」
歌鈴「はは、はい」
藍子「私は今さっき来たばかりで、歌鈴ちゃんのこともよく分かりませんけど……きっと歌鈴ちゃんは、一生懸命にLIVEしている方が、素敵じゃないかな……って」
歌鈴「いっしょうけんめいに……」
藍子「私、いつもLIVEでへとへとになってしまうんですけれど、そんな時にファンの皆さんから拍手をもらうのがすごく好きなんです。自分がやりきった! って思えて。ずっと頭の中で、失敗しないように失敗しないように、って考えていたら、つまんなくなっちゃうんじゃないかなって思いました」
歌鈴「…………」
加蓮「……だってさ」
歌鈴「…………いっしょうけんめい……」
加蓮「私もそうだと思うよ。楽しそうにしてる歌鈴を見たら、私も楽しくなるもん」
歌鈴「でも、それでいつもドジして、周りに迷惑をかけたり…………」
加蓮「歌鈴」
歌鈴「ひゃいっ!」
加蓮「酷いことを言うね。その2」
藍子「……ひどいこと?」
加蓮「歌鈴。観光大使の時に私は言ったよね。やるだけやって、それでもドジったら、私とかモバPさんに迷惑をかけちゃえって。アニバーサリーLIVE、私と歌鈴は同じチームなんだよ。…………」チラッ
藍子「…………?」
加蓮「ごほん。転んだら私が起こしてあげる。転びそうになったら私が支えてあげる。……ふふっ、練習のしがいがあるね。自分のことで精一杯なのに、周りのサポートまでしないといけないなんて。昔の私じゃ絶対に考えられないよ」
歌鈴「でもっ、失敗したら、ファンの人たちが――」
加蓮「――アンタがどういう人生を進んできたのか知らないけど、アンタが失敗して、冷たく笑うようなファンが今までにいた?」
歌鈴「…………!」
加蓮「…………はー。やなヤツだなぁ私。えっと、藍子……でいいんだよね? なんか流れで呼び捨てにしちゃってるけど」
藍子「私は大丈夫ですよ。あはっ……改めて、はじめまして加蓮ちゃん。高森藍子ですっ」
加蓮「同じプロデューサーなのに会ったことなかったよね。はじめまして。北条加蓮です」
歌鈴「っど、道明寺歌鈴です! あぅ……」
加蓮「挨拶くらい噛まないでしなさいよ、もう」
藍子「ふふ……♪ おふたりとも、すごく仲良しさんなんですね」
歌鈴「あうぅ、加蓮ちゃんにはいつも迷惑をかけちゃって……でも私っ、加蓮ちゃんみたいなビシッとしたアイドルになりたいんです! 見習いたいですっ」
加蓮「あのさ、私って16歳なのよ。で、歌鈴が17歳。おかしくない? 私の方が年下なのに」
藍子「あ、あはは……」
加蓮「ま、ほら、歌鈴。こけちゃったけど藍子だって笑わなかったよ。ね? いろいろと、信じてあげよ?」
歌鈴「――はいっ!」
――2012年11月28日
[アニバーサリープリンセス]十時愛梨(SR)
[アニバーサリーユース]高森藍子(SR)
[アニバーサリーイエロー]日野茜(R)
[アニバーサリーブルー]北条加蓮(R)
[アニバーサリーピンク]道明寺歌鈴(R)が登場
(本来は、
[アニバーサリープリンセス]十時愛梨(SR)
[アニバーサリーゴシック]北条加蓮(SR)
[アニバーサリーイエロー]高森藍子(R)
[アニバーサリーブルー]上条春菜(R)
[アニバーサリーピンク]道明寺歌鈴(R)が登場)
日野茜「はじめまして日野茜です!!! 今日は一緒にアニバーサリーをやるって聞きました!! めでたいです!!! 一緒にお願いします!!!」
北条加蓮「」キーン
高森藍子「」キーン
道明寺歌鈴「よよ、よろしくお願いしましゅ!(噛んだ……)」
茜「あれ? みなさんどうしたんですか!? 気合を入れていきましょう!! いきますっ! 気合だーっ!!!」
本田未央「はいはい茜ちん、つけていけてないっぽいからちょっと落ちつこ?」
茜「はい!! どうしたらいいですか!!!」
未央「声のボリュームを抑えろっての! あー、ごほん。やあやあ皆の衆? 未央ちゃんだよー♪」
藍子「よ、よろしくね……耳が……」
未央「おー、あーちゃんじゃん。今度ユニット組むんだよね? えへへ、楽しみにしてるね!」
藍子「はいっ!」
茜「私もです!! うう、なんだかここは落ち着きませんね! 私ちょっと走ってきますね!!!」ダダダッ
未央「あ、ちょっと茜ちん! あーもうっ、私ちょっと止めてくるね! じゃっ!」ダダッ
加蓮「……」
歌鈴「……」
加蓮「……」
歌鈴「……」
加蓮「……私ら、アレと一緒にLIVEすんの……?」
歌鈴「みたいです……」
加蓮「…………無理じゃない?」
歌鈴「がが、頑張りましょう! やればできます、きっと!」
藍子「あうぅ、まだ耳が……」
加蓮「藍子、今度ユニット組むんだ」
藍子「あ、はいっ。未央ちゃんと茜ちゃんと、まだもうちょっとかかるそうですが、よく一緒にレッスンしてるんですっ」
加蓮「……よくついていけるね」
藍子「つ、ついていくのがせいいっぱいです……」アハハ
――1stアニバーサリー準備中:歌鈴編――
歌鈴「あ、あの……モバPさん……ちょっとだけ私とお話してくれませんか? お、お願いしますっ……!」
歌鈴「えへへ♪ 今日のために新しいお洋服買っちゃったんです! あっ、あの、どうですか?」
モバP「ん、そうだな……」ジーッ
歌鈴「ふわっ、あのっ、あんまり見られると…っ! あ、あの! モバPさんが自慢したくなるようなアイドルになれましたか?」
モバP「昔からずっと、歌鈴は俺の自慢のアイドルだよ」
歌鈴「だったら嬉しいです!」
モバP「いつも頑張ってるからな。キツイ時も、歌鈴を見てたらやる気になれるんだ」
歌鈴「ふぁっ……あ、あわわ、あ、あのっ、私ジュース取ってきますねっ!」タタタッ
<ビタン あううっ!
<大丈夫ですか……?
<まーた転んでる。もう、落ち着きなさいよ?
モバP「……??」
……。
…………。
歌鈴「あ、あの、ドリンクどうぞ。持ってきちゃいましたっ」
モバP「さんきゅ……あー、そーっとな、そーっと。渡してくれる時は、そーっと」
歌鈴「は、はいっ。そーっと、そーっと……(うう、緊張して手が震え……!)」
モバP「おし……っと」
歌鈴「お、落とさずにできましたぁ!」パアッ
モバP「だな」ニコッ
歌鈴「モバPさんの好きなドリンクはそれですか? あはっ、覚えましたから!」
モバP「じゃあ、今度からは歌鈴に頼んでしまおうかな」
歌鈴「お任せくださいっ! あ、で、でも、次はこぼしちゃうかも……」
モバP「歌鈴なら大丈夫だ。転ぶことだって滅多になくなったじゃないか」
歌鈴「そ、そうですね! ……さっきは転んじゃましたけど」
モバP「……次は走っても転ばないようにする練習だな!」
歌鈴「はい! 私、よく加蓮ちゃんに特訓してもらってるんです!」
モバP「へえ、加蓮が」
歌鈴「最近はキツイ言い方もよくされちゃいますけど……加蓮ちゃん、いつもビシッとしてて、とってもステキなんです」
モバP「またあいつは……意地悪なことを言われたりしてないだろうな?」
歌鈴「…………か、加蓮ちゃんにだって悪気はないと思います!」
モバP「おし、次に会ったら説教だ」
歌鈴「加蓮ちゃん、今日も私服がカッコよくて、すごくアイドルっぽくて……歌鈴もあんな風に、ビシッ! バシッ! って決められるアイドルになりたいです!」
モバP「そっか。安心して見られるLIVEが楽しみだ」
歌鈴「……と、とりあえず歌鈴は、ドジを直しますぅっ! モバPさんや加蓮ちゃんに頼らなくてもいいように!」
モバP「お、おう」
歌鈴「……でもやっぱり、ついモバPさんに甘えちゃって……だ、だめだめ歌鈴、それはだめよ、それじゃいつまで経ってもドジは直せない……!」
歌鈴「加蓮ちゃん、今日も私服がカッコよくて、すごくアイドルっぽくて……歌鈴もあんな風に、ビシッ! バシッ! って決められるアイドルになりたいです!」
モバP「そっか。安心して見られるLIVEが楽しみだ」
歌鈴「……と、とりあえず歌鈴は、ドジを直しますぅっ! モバPさんや加蓮ちゃんに頼らなくてもいいように!」
モバP「お、おう」
歌鈴「……でもやっぱり、ついモバPさんに甘えちゃって……だ、だめだめ歌鈴、それはだめよ、それじゃいつまで経ってもドジは直せない……!」
歌鈴「ふぇぇ……でも、どんな時でも慌てないモバPさんって、頼りになるなぁ……って思いましたっ」
モバP「……まあ、歌鈴の側にいるとどうしてもなぁ……」
歌鈴「あーっ! モバPさんひどいです! ……で、でも言い返せない……! と、とにかくドジを減らします! 目指せ、転ばないLIVE!」エイエイオー
モバP「おう、期待してるぞ」
――1stアニバーサリー準備中:加蓮編――
加蓮「モバPさん……かしこまって言うのは恥ずかしいけど……もっと一緒にお話したいなって……いいかな?」
加蓮「モバPさん! あーん♪ とかやってほしい? ふふっ」
モバP「お前はまたそうやって初っ端から……!」
加蓮「あははっ。口をぽかーんと開けて、モバPさん変なのっ」
モバP「ったく……。今日くらいはおしとやかにしてると思ったらこれだよ!」
加蓮「アイドルをやってるとどんどん演技力が向上していくよね」
モバP「加蓮は元が元だからタチが悪いんだよ……!」
加蓮「そこら辺はほら、才能ってことで。ちょっとくらいいいでしょ? 神様からいろいろ削ぎ落とされたんだから、才能の1つくらい」
モバP「……ま、そうだな。どうだ加蓮。今日は体の方は」
加蓮「おかげさまで。もうだいぶ健康だよ。最近は病院にも行ってないんだ」
モバP「おい、定期検診は行っておけってあれほど――」
加蓮「もう。今日はお祝いの日なんだから、お説教は無しにしてよ?」
モバP「……おう」
加蓮「病院の方には私から連絡してるから。何かあったらすぐ言えって言われてるけど、黙認されてるんだ。……大丈夫だって言ってるのに、誰も彼も過保護なんだから」
モバP「普段の加蓮を見てたら仕方がないよ。お前、レッスン休むことだって全然なかったろ」
加蓮「せっかくアイドルになれたんだから、休むなんてもったいないよ。周りに追い抜かれるのも嫌だもん。凛や奈緒も忙しそうだからね」
モバP「あー………………」
加蓮「……ふふっ? なに? そんなに気になる? 大丈夫。私はモバPさんを信じているよ」
モバP「……ホント、悪いな……加蓮の大舞台を用意することが、ここまで難しいとは思わなかった」
加蓮「平気だってば。こうして1年間、アイドルを続けられたんだから。……ねぇ、これ……受け取ってくれる? 大したものは用意できなかったけど、感謝の気持ちだから。はいっ!」
モバP「これ……手作りのチョコワッフル? 加蓮が作ったのか?」
加蓮「藍子から教えてもらったんだ。お菓子作りができるからって。……あー、えと、形がヘンなのは許してね? し、仕方ないでしょっ、お菓子作りどころか料理もやったことがないんだからっ」
モバP「……いや、すげえ嬉しいよ。ありがとな、加蓮。いただきます」
加蓮「あ、ちょ、いきなり――」
モバP「うん、すげえうめえ!」
加蓮「もうっ! ……そういうの反則っ」
モバP「ははっ……」
加蓮「モバPさんのせいで調子が狂うよ。それとも1周年記念だからかな」
モバP「俺も、ちょっと浮かれてる感じだ。ほら、きっとみんなもそうだぞ」
加蓮「えー、そう? もー、モバPさんは乙女心をわかってないなぁ……」
モバP「え、今の何かおかしかったのか!?」
加蓮「ふふっ、しーらないっ。うーん、美味しそうな料理がいっぱいだと迷っちゃうよね。何食べようかなぁ?」
モバP「ったく……相変わらず加蓮は加蓮だな」
加蓮「ねぇねぇモバPさん、それ、一口ちょうだいっ! ほらほらっ」
モバP「これは俺のだっ」
加蓮「ケチ!」
――1stアニバーサリー準備中:藍子編――
藍子「モバPさん、ちょっといいですか? ふふっ……私、もっと色んなお話したいです。……いいですか?」
藍子「今日までお疲れさまでした……ってまだこれからですよね」
モバP「そうだな。これから大変だぞ? なにせアニバーサリーの準主役だからな」
藍子「やっぱり、いつ考えても夢みたいです……私があんな大きな舞台に立てるなんて。ソロパートもあるから、とっても緊張しちゃってますっ」
モバP「今の藍子ならやれるさ」
藍子「はいっ。……でも今は、パーティーを楽しんじゃいましょう♪」
モバP「おう!」
藍子「モバPさん、ほら乾杯しましょ? かんぱーい!」
モバP「乾杯っ。ごくごく……ぷはーっ!」
藍子「あはっ、いい飲みっぷりですね。……もしかして、お酒ですか?」
モバP「まさか。この後が控えてるんだ。さすがに酒は抜いてるぞ」
藍子「ほっ。パッショングループでも時々、お酒を呑んでる方がいるから……そういう時は、大変です」
モバP「……俺も他のプロデューサーも、何度言っても聞かねえからなぁ。事務所でするなって言ってんのに。まあ、外でやられるよりはマシか……」
藍子「大人って、大変なんですね」
モバP「藍子はああならないでくれよ?」
藍子「あはは……」
モバP「……でもべろんべろんに酔った藍子もちょっぴり見てみたいな」
藍子「え、えっと、それはその、大人になった時に……えっと……ごほんっ! お疲れ様です。まぁまぁ1杯どうぞ~…なーんて、こんな感じでどうですか?」
モバP「藍子」
藍子「は、はい!」
モバP「それ、間違っても他の奴の前でやるなよ」
藍子「はあ……やっぱり、だめだったでしょうか」
モバP「逆だ馬鹿!」
藍子「??? よく分かりませんけれど、モバPさんが言うならそうしますね?」
モバP「はぁ……俺はプロデューサー、俺はプロデューサー、おし」
藍子「それにしても、今日はすごくのんびりしている感じです。最近お仕事忙しかったので…こうしてみんなで過ごせるのもいいなって思いますね」
モバP「そっか。のんびりできる時間があればいいんだがな……」
藍子「忙しいのは仕方がないですし、私も楽しいですよ。……で、でも、その、週に1回くらいは、あの時みたいにモバPさんとカフェに……」
モバP「藍子?」
藍子「いえっ。あ、そうだ! 私、カメラ持ってきてるんです。せっかくですからみんなで写真撮りませんか!」
モバP「写真か! いいな。おーい、みんな! 写真を撮るぞー!」
藍子「ふふっ、記念日ですね……♪ ……あぁっ! シャッターは誰に押してもらいましょう…?」
モバP「あー、おし、俺が押そうか」
藍子「それじゃモバPさんが入れなくなっちゃいます! ……あっ、そうだっ。事務所に、タイマー機能があるカメラってありますか?」
モバP「なるほど、その手があったか――おし、持って来たぞ!」
藍子「ありがとうございますっ。あのっ……モバPさんは私の隣で……いいですか? ……ああっ、加蓮ちゃん、どうして私を睨んでっ、歌鈴ちゃんまでっ!? わわ、押さないで――きゃ あっ!」
――パシャッ♪
モバP「……」
藍子「……」ノシカカラレ
モバP「……現像が楽しみだな!」
藍子「と、撮り直させてください~~~っ!」
――1stアニバーサリーLIVE中:歌鈴&加蓮編――
加蓮「あの馬鹿体力ホントどうなってんの!?」
歌鈴「わ、わわっ、加蓮ちゃん加蓮ちゃん、声が大きいでふ……!」
加蓮「あ、ごめん。すぅー、はぁー」
歌鈴「でもLIVEをした後にまた走ってくるって、すごい人ですね……!」
加蓮「だね……あ、モバPさん!」
歌鈴「モバPさっ……」タッタッタビターン!!
加蓮「……大丈夫?」テヲノバシ
モバP「大丈夫か、歌鈴?」
歌鈴「ま、またやっちゃいました……」ヒキアゲラレ
加蓮「結局、LIVEでも1回やっちゃったね。……もう、そんな泣きそうな顔をしないでよ。耳がおかしくなるくらい拍手をもらったでしょ? ね?」
歌鈴「はは、はい! あのっ、モバPさんも、その……」
モバP「ああ。正直、こんなにすげえとまでは思わなかった」
歌鈴「ホントですか!?」
加蓮「ふふっ。モバPさん、泣きそうな顔してたもんね。舞台袖から」
モバP「ばっ――お前な! 加蓮! ステージにいる時はステージに集中しろって!」
加蓮「こら、モバPさん。しーっ。ここ、舞台裏だよ?」
モバP「お、っと」
加蓮「だって見えたんだから仕方ないじゃん」
モバP「ったく」
加蓮「ふふっ。……あっ」フラッ
歌鈴「加蓮ちゃん?」
加蓮「あ、あは、ごめん。私も、全力でLIVE出来たと思うよ。だけど……ちょっとフラフラするな……あはは……無理しちゃったかな?」
モバP「……加蓮」
加蓮「少しモバPさんに元気分けてもらおうかな……ってことで、何か飲むものを持ってきて……」
モバP「お前、」
加蓮「ね?」
モバP「……わかったよ。歌鈴、加蓮をしっかり見張っててくれ」
歌鈴「ま、任されました!」
タッタッタ...
歌鈴「……大丈夫ですか?」
加蓮「あ、あは、ごめん……ちょっと限界を超えてるかも……歌鈴、ちょっとだけ背中を貸してもらえる?」
歌鈴「はいっ。こんな私でよければ!」
加蓮「ありがと……」
歌鈴「……加蓮ちゃん、すっごく熱い」
加蓮「ふふっ。気付いてたかもしれないけど、私、ちょっと体が弱いんだ。昔から入院とかもしててさ……」
歌鈴「……たた、体力なら私、加蓮ちゃんにだって負けてません!」
加蓮「え? ……あはっ、そう来るか。そうだね、だから私は――」
モバP「ハァ、ハァ、加蓮、スポドリで良かったか? 持ってきた、ぞ」ゼェゼェ
加蓮「ありがと。わ、モバPさん、汗びっしょりだよ。もう、そんなに急がなくてもいいよ……」
歌鈴「モバPさんは加蓮ちゃんのことが心配なんです! わ、私だって心配です!」
加蓮「そっか…………そっか」
モバP「……加蓮?」
歌鈴「わわっ、加蓮ちゃんが遠い目です! そのっ、大丈夫ですか!?」
加蓮「大丈夫だって……あはは、参ったなぁ……なんか感動でぼーっとしてた……。こんな私、昔の私が見たらどう思うのかな、なんてさ……ホント、全力でLIVEできるって幸せなことだよ」
歌鈴「そうですね。私も……1年前の私だったら、こんな日が来るなんて、ぜーったい思っていませんでした」
加蓮「歌鈴もなんだ。ふふっ、やっぱり?」
歌鈴「私たち、1年間もアイドルを続けられたんですよ!」
加蓮「そうだね。ね、モバPさん」
モバP「おう」
加蓮「モバPさんにはお世話になりっぱなしだね……ありがと」
歌鈴「モバPさんが見守ってくれるから、わ、私たちは思いっきり歌えるんですっ!」
モバP「加蓮、歌鈴……ぐすっ、こっちこそありがとなぁ……!」ガシッ
加蓮「わっ」
歌鈴「は、はわわわわ……」
加蓮「……あはっ、もう、離れてよモバPさん。ほら、汗かいちゃってるんだから」
モバP「おっと」バッ
加蓮「……離れるの早すぎ」ボソ
モバP「悪い、つい感極まって……加蓮? 立ち上がってどこにって、おい、お前まだ体力が――」
歌鈴「加蓮ちゃん!? 私たちの出番はまだ先ですっ!」
加蓮「ん……ちょっと歌の確認してくる……少し声出しておきたいんだ」
モバP「加蓮――」
加蓮「モバPさんは歌鈴と喋っててよ。大丈夫、私は大丈夫だから」
加蓮(――ホントのことを言うと)
加蓮(冗談抜きで、体力は限界だった)
加蓮(無理だからやめとくって言おうとした)
加蓮(普段のLIVEではこんなことは絶対にない。私だって馬鹿じゃない。体力のコントロールだっていつもしてる)
加蓮(でも、今日はなんでかな……。最初の声を出した時から、ううん、ステージに上がった時から、頭から色々な物がすっ飛んでいっちゃった)
加蓮(体力馬鹿がいたからか、歌鈴と一緒の舞台がそんなに嬉しかったのか)
加蓮(それとも――)チラッ
歌鈴「――、――――」ニコニコ
モバP「――――、――」ニコニコ
加蓮(ふふっ)
加蓮(ありがとう、モバPさん)スタスタ
加蓮「ただいま」
モバP「お、お帰り……? あれ、歌の確認は……」
加蓮「やだなモバPさん。そんなの嘘だよ。もう、ホント女の子の気持ちが分かってないんだから」
モバP「お、おう……?」
加蓮「……ふふっ。わかった。もうモバPさんの前では嘘はつかないようにするね」
モバP「????」
歌鈴「あのっ、加蓮ちゃん! ……体は、大丈夫ですか?」
加蓮「へーきへーき。歌鈴が頑張ってるんだから、私が頑張らない訳にはいかないでしょ」
<ワアアアア――!!
加蓮「凄い歓声……」
歌鈴「わ……LIVEの雰囲気に飲まれてしまいそうです……! うぅ……こんな緊張するLIVEは初めてです……!」
加蓮「この次、また私たちの番なんだよね」
モバP「ははっ。加蓮と歌鈴なら大丈夫だ。ここで見守ってるから、な?」
加蓮「ふふっ。じゃあ、またモバPさんを泣かせてあげないとね! それを見て思いっきり笑うんだ!」
モバP「だからお前はちゃんと前を見てだな!」
歌鈴「モバPさんと、加蓮ちゃんと一緒だから、だ、大丈夫……。全力でファンのみなさんにお届けします!」
加蓮「見ててねモバPさん。大丈夫、貴方が育てたアイドルだよ」
モバP「……ああ。行ってこい!」
歌鈴・加蓮『はいっ!』
――1stアニバーサリーLIVE中:藍子編――
藍子「ただいま戻りました、モバPさんっ!」
モバP「お疲れ。どうだ……って、聞くまでもないか」
藍子「はいっ! あの、歌もダンスも精一杯やりきりました! モバPさん、どうでしたか?」
モバP「最高だった。よくここまで立派になったな、藍子」
藍子「モバPさんが私をプロデュースしてくれたおかげです♪」
モバP「いやいや。藍子が頑張ってきたからだ」
藍子「モバPさんですっ」
モバP「藍子だっ」
藍子「……」
モバP「……」
藍子「……あはっ♪」
モバP「ったく、今日くらいは天狗になってもいいと思うぞ?」ガシガシ
藍子「そんなこと言われても~」
モバP「はは。さて、あとは加蓮らの舞台があって、最後にソロがもう1回、全員での歌がもう1回だな。藍子、行けるか?」
藍子「もちろんです! たくさんのファンのみなさんの前で歌うの……やっぱり緊張します。でも、今までのレッスンの成果、見せますから!」
モバP「おし! ……ま、今はつかの間の休息だ」
藍子「そうですねっ」
モバP「……」
藍子「……」
モバP「……」
藍子「……うぅ、モバPさん……急に不安になってきちゃいました……。ど、どうしましょう……?」
モバP「お、おう!? えっと、そうだな、おし、なんか話すか!」
藍子「そうですねっ。今までのこと……とか」
モバP「最初の大きめの仕事はいつもの藍子だったな」
藍子「はいっ。初めてでしたけれど……これでいいのかなって思ってたら、写真集をいっぱい買ってくれる人がいて、すごくびっくりしました」
モバP「あの写真集、そろそろプレミアが付き始めてるってネットで言ってたぞ。再販してくれって声も多いみたいだ」
藍子「そ、そこまでですか」
モバP「誰が再販なんぞするもんか。あの時の藍子の魅力に気付かなかったお前らが悪い」
藍子「ええっ」
モバP「……って上司に言ったら小突かれた。何言っとるんだお前はってな」
藍子「あ、あはは……」
モバP「今年の年末にかけてまた再販するらしい。きっと一瞬で売り切れるぞ? 今をときめくアイドルだからな」
藍子「え、ええと、その……それもぜんぶ、モバPさんのおかげですっ」
モバP「んなことないって」
藍子「そ、それより次のお話をしませんかっ!?」
モバP「次か? その次にあった大きな仕事ってなると……ああ、あれか。カフェの撮影だったっけか」
藍子「それと、森での撮影ですっ。妖精っぽくなれて、すごく楽しかったな……♪」
モバP「アレもアレでな。どさっとファンレターが来たよな。3割くらいは結婚してくれって奴」
藍子「あ、あは、あはははは……」テレテレ
モバP「わざわざ全部に返すことないんだぞ? 大変だろう」
藍子「でも、せっかくいただいたファンレターですから…………あ、あのぅ、モバPさん。モバPさんも、その、私と……」
モバP「……?」
藍子「い、いえいえっ、なんでも、なんでもないです! あー、えっと、暑い暑い……///」
モバP「冷えたドリンクを探してくるか、ちょっと待ってろ」タタタッ
藍子「そ、そーいうことじゃ――ああっ、もう行っちゃった。……あうぅ、加蓮ちゃんが『乙女心が分かってないーっ!』って怒ってた気持ち、なんとなく分かっちゃいます」
藍子「……」テンジョウミアゲ
藍子(アイドルになって、1年)
藍子(さっき、私は1人でステージに上りました)
藍子(1年の集大成を、見せたいと思って)
藍子(そうしたら、数えきれないほどの拍手をもらいました)
藍子(どれくらい成長したか、分からないけれど)
藍子(きっとそれは、私がアイドルになれた証なんだと思いますっ)
藍子(それに――)
藍子(モバPさんが、私を育ててくれた証)
藍子(遅咲きの花でも、面倒を見てくれた証)
モバP「お待――どうした藍子、ぼうっとして。やっぱり疲れが出てきたか」
藍子「あっ、モバPさん。いえ……今までのこと、思い出してて。最初にモバPさんに出会った時のことを、思い出していたんです」
モバP「最初、か……」ドリンクワタシ
藍子「ありがとうございます」ウケトリ
藍子「ごくごく……。私、やっぱりモバPさんには、してもしきれないくらい感謝してますっ」
藍子「私を、ここまで育ててくれて」
藍子「ありがとうございました!」
モバP「……こっちこそ、ありがとう、藍子」
藍子「あははっ。なんて、まだ1周年ですよね」
モバP「ああ。まだまだ、これからもよろしくな」
藍子「はい!」
モバP「ほら、次のステージだ。準備はいいか?」
藍子「ごくごく……はいっ」
藍子「衣装オッケー、髪型オッケー、メイクオッケー……LIVEの準備オッケーです!」
藍子「あ、ひとつ忘れてました」
藍子「モバPさんから元気貰っていいですか? えいえいおー!」
藍子(――後にして思えば)
藍子(もっと、もっと、咲き誇りたい。いっぱいのファンを、幸せに、笑顔にしたいって、初めて思ったのは)
藍子(きっと、この時でした)
――1stアニバーサリー終了後、帰り道――
藍子「では、私はこっちなので……」
モバP「お疲れ、藍子」
加蓮「おつかれさま」
歌鈴「お疲れ様でふっ! ……あうぅ」
藍子「終わっちゃうと……ちょっぴり寂しいです。えへへ……」
藍子「モバPさん…これからもプロデュースよろしくお願いします」
藍子「ではっ」タッタッタ...
モバP「またなー!」
加蓮「ふふっ。藍子、すごく楽しそうな顔してた。私でも分かるよ」
歌鈴「あっ、それ、私もです! あと、なんだかほっとしてた気もしました」
加蓮「なんていっても準主役だからね。始まる前にずっと言ってたんだ。私で大丈夫かな、私で大丈夫かな……って」
歌鈴「でも藍子ちゃん、ステージに上がったら、まるで別人みたいで……すっごく楽しそうでした! ね!」
加蓮「ホントだね。また上に見える人が増えちゃった感じかな……ねえ、モバPさん」
モバP「ん?」
加蓮「私……まだまだ上を目指すよ。こんな所で止まらないんだから!」
モバP「おう! ……俺も頑張らないとな。すぐにでも用意してやるから、新しい仕事」
加蓮「ふふっ、でも無茶はしないでよ? 私は大丈夫だからね」
歌鈴「わた、私も! その……まだまだ私にはモバPさんがいなきゃなって。えへへ……」
モバP「歌鈴……そうだな。歌鈴の為にも、また走り回らなきゃな」
歌鈴「はいっ」
加蓮「……」
モバP「……」
歌鈴「……」
モバP「……」チラッチラッ
加蓮「…………………………………何か話す?」
モバP「あー、えっと……」
歌鈴「モバPさん、今、加蓮ちゃんに見とれてませんでしたか?」
モバP「ばっ――」
加蓮「へえ、そうなんだ。……へぇー、そうなんだぁ」
モバP「おまっ、余計なこと言うな! ほら見ろ加蓮がまた悪そうな顔に!」
加蓮「でも、なんかいい雰囲気かな……」
モバP「……えっ?」
加蓮「えっ……あはは。いいでしょ?」
モバP「……ごほん。まあな」
歌鈴「はいっ! あっ、ほらほらモバPさん、一番星、見つけましたっ!」
モバP「ホントだな……アニバーサリーLIVE、無事に終わったんだなぁ」
加蓮「えー、今さら?」
モバP「やっと実感できたよ。今、ようやくな」
歌鈴「衣装を脱いだら、LIVEしてたなんて夢みたい……ふぅ」
加蓮「……うん。なんだか、分かる気がするな。ねえ、モバPさん」
加蓮「私、アイドルとして……輝けたかな……?」
モバP「もちろんだ。キラキラしてた」
加蓮「そっか。私、今日のことを忘れないよ。ううん、今日のことだけじゃない」
加蓮「きっとずっと忘れない。モバPさんと逢ってから今まで」
モバP「ああ。俺もだよ」
歌鈴「…………」
歌鈴(お、落ち着くのよ歌鈴。なんだかオトナの雰囲気だけど落ち着くのよ!)
歌鈴(そう、大丈夫。ドジさえしなければ加蓮ちゃんの邪魔をすることもな――)
歌鈴「あうっ!?」ズルッ
加蓮「あ」
モバP「あ」
歌鈴「はわわわ! うぅ……道路が凍って……これは私のせいじゃないです」
加蓮「……」
歌鈴「……ごめんなさぁ~い!!」
加蓮「ぷっ……あははっ。そうだね、歌鈴は歌鈴だ。あれから半年くらい経ったけど、やっぱり歌鈴のままだね」テヲノバシ
歌鈴「あうぅぅぅ……」ヒッパラレ
モバP「大丈夫か? 夜道は危険だから、ゆっくりでいいんだぞ」
歌鈴「はは、はいっ! あ、あの、……あの! モバPさん! もし、その、よかったら、手を……ててて、手を……!」
加蓮「つないでほしいんだって」ニヤニヤ
歌鈴「も、もうっ、加蓮ちゃん!」
モバP「あー……ま、今日くらいはいい、よな?」ニギッ
歌鈴「あぅあぅあぅあぅぅぅぅぅ……//////」シュー
加蓮(……なんて、本心にもないことを言う)
加蓮(ホントは、自分が手を繋ぎたいくせに)
加蓮(それだけじゃないんだ)
加蓮(歌鈴は変わりつつある)
加蓮(半年前、神社の境内で自己紹介をした時とは、ぜんぜん違う)
加蓮(転ぶかもしれないけれど、噛むかもしれないけれど、もう後ろ向きな気持ちはほとんどない)
加蓮(変わってるんだ)
加蓮(……私も)
加蓮「私も、変わることができてるのかな……」
モバP「……加蓮?」
加蓮「ううん、なんでもない」
加蓮(きっと、そんなことを思ってしまったから)
加蓮(大丈夫だって、自分に言い聞かせていても)
加蓮(焦る気持ちは切り捨てきれなくて、次第にイライラまで生まれてしまって)
加蓮(だから、その後に)
加蓮(あんなことを言っちゃったんだ――)
歌鈴「ふんふふーん♪ ……あ、LIVEの後はいつまでも余韻が抜けなくて、つい口ずさんじゃうんです」
モバP「はは、俺まで口ずさんでしまいそうだ。……っと、着いたみたいだな。歌鈴の家」
歌鈴「はいっ! あの、モバPさん!」
歌鈴「素敵にプロデュースしてくれたモバPさんへ、私からあらためて……ありがとうございます!」
モバP「あっ。……ははっ、こっちこそ、ありがとな!」
歌鈴「それではっ!」パタン
モバP「……」
モバP「…………」
――いいの?
モバP「……!!」クルッ
加蓮「――――――」
モバP「加蓮……!?」
――あんな、これで終わりみたいなこと言われて、笑顔でお別れしていいの?
今日の主役、あの子じゃなかったんだよ?
成長を始めたあの子に大舞台を用意してあげたのはモバPさんだけど、
成長したあの子の大舞台、まだ用意してあげてないんだよ?
モバP「お前………………」
加蓮「……あ、あはは、な、なぁんて、私が言うことじゃないっか。あ、ここまででいいよ、モバPさん。おやすみ。また明日からもよろしくね!」タタタタッ
モバP「……! お、おい、ちょっと待て、加蓮!」
加蓮(何を言っているんだ私は)
加蓮(何を言っているんだ私は!)
加蓮(……なんで走り続けているんだ)
加蓮(身体が熱くなる)
加蓮(逆に頭が冷えていく)
加蓮(冷静になるからこそ、はっきりと分かる)
加蓮(あれは私の本心だ)
加蓮(あれは私の本心だった)
加蓮(だが、だからといって)
加蓮(何を言っているんだ私は)
加蓮(なんで、あんなことを――)
加蓮(……)
加蓮(……モバPさん)
加蓮(1年間、努力を続けて、夢が叶った)
加蓮(半年前、道明寺歌鈴という女の子と出会った)
加蓮(それで、私は)
加蓮(私は――!!)
歌鈴「んんぅ……」
歌鈴(おかしな夢……加蓮ちゃんと、藍子ちゃんが出てくる夢……それから、Pさんが出てきた夢)
歌鈴「あふ……ゎ、まだ3時……」
歌鈴(なんだか懐かしくて、でも、なんだか違うような……)
歌鈴「もういっかい……ねよ……」
歌鈴(かれんちゃんが、なにか、こわいかおしてた……)
歌鈴(なんでだろ……?)
訂正……
誤:歌鈴(おかしな夢……加蓮ちゃんと、藍子ちゃんが出てくる夢……それから、Pさんが出てきた夢)
正:歌鈴(おかしな夢……加蓮ちゃんと、藍子ちゃんが出てくる夢……それから、モバPさんが出てきた夢)
――2013年2月20日 [煌めきの乙女]北条加蓮(SR)が登場
(本来は[ゆるふわ乙女]高森藍子が登場した時)
――病院――
北条加蓮「お見舞い、来てくれたんだ……」
モバP「……」
加蓮「風邪くらいすぐ治すから待ってて。早く一緒にお仕事したいから……!」
モバP「……すまん。今の加蓮の言葉だけは、信じられない」
加蓮「……そっか。あはは、そうだよね……」
モバP「だから俺は何度も言ったんだ……! ちゃんと病院には通え、定期検診は受けろ、ヤバイと思ったらすぐに言えって! なのに、なんでお前……フラフラになるまでレッスンやってるんだ! なんでお前、こんなことしてんだよ……!」
加蓮「……耳が痛いな」
モバP「ぜーっ、はーっ……す、すまん。頭に血が昇ってたみたいだ」
加蓮「だよね……今のモバPさん、すごい顔」
モバP「あー、ごほん。……ごほん。あー……」
加蓮「私の為に怒ってくれてるのかな。だったら、ちょっとだけ嬉しいかな……?」
モバP「だとしても、だ。もう今後、絶対にこういうことはやめろ。いいな!」
加蓮「はぁい……」
モバP「ふー……」ドスッ
モバP「一応、果物とおやつを持ってきたぞ……食えるか?」
加蓮「こんなに食べきれない……モバPさんプリン食べる?」
モバP「いや、俺は」
加蓮「あーん」
モバP「……」アーン
加蓮「ふふっ……なんでもない。ふふっ」
モバP「……」
加蓮「……」
モバP「……」
加蓮「……アニバーサリーの時、ごめんね? あんなこと言っちゃって」
モバP「え……ああ」
加蓮「あの時の私、どうかしてたんだ。なんだか、自分に嘘をついちゃってばっかりで……変だよね。モバPさんには嘘をつかないって誓ったのにね」
モバP「いや。正直、俺もちょっと浮かれすぎてた。歌鈴からお礼を言われた時、これでよかったんだな、と思っちまってさ」
加蓮「そう……」
モバP「まだまだこれからなのに。歌鈴もきっと、そう思ってる。……いや、実際、次の日に、まだまだこれからだって言ってたんだ」
加蓮「歌鈴が? そっか……」
モバP「加蓮の言うことが正しかったんだよ。ありがとな……あれで、少しは目が覚めた」
加蓮「やめてよ、もう……。私なんて、あの子にどんどん追いぬかれて、しかもこんなことになってるのにさ」
モバP「それはお前――」
加蓮「モバPさん、今までレッスン休んだ事なかったのに、ごめんね」
モバP「……もっと自分を大事にしてくれ。遅れを取り戻すのは――遅れさせてるのは俺が原因だ。フラフラになってぶっ倒れるくらいなら、俺を責めてくれた方がまだ何十倍もマシだ」
加蓮「うん。モバPさんがそう言うなら、そうする」
モバP「頼む」
加蓮「今日は一緒にゆっくりしよっか」
モバP「そうだな。俺もだいぶ時間を取ってきたし、こうしてゆっくりする時間はやっぱ大切だ」
加蓮「なんだか慣れてるみたいだね。犯人は藍子かな?」
モバP「犯人て」
加蓮「あれからよく話とかするんだよね。あの子、ホントにパッショングループ?」
モバP「ふっふっふ、加蓮はまだ藍子のことを知らないようだな」
加蓮「えー、なにそのドヤ顔、ムカつくなー」
――十数日後 LIVE会場の裾にて――
モバP「しつこく繰り返すが、大丈夫なんだろうな?」
加蓮「大丈夫だよ」
モバP「だがお前――」
加蓮「ふふっ。信じてくれればいいの!」スッ
モバP「……分かった」
加蓮「やっと……やっとここまで来たんだね。ここが、私のステージ……」
モバP「……ずっと待たせた。悪かった……いや……1年以上もずっと、俺を信じ続けてくれて、ついてきてくれて、本当にありがとう、加蓮」
加蓮「モバPさん……あ、あはは、やだな、そんなこと言われると涙が出ちゃうよ……。ありがとうって言うのはこっちの方だよ。私、プロデューサーと逢わなかったら、ずっと変われなかった。モバPさん、本当にありがとう。あなたは最高のプロデューサーだよ!」
モバP「……っ……加蓮……!」ヒシッ
加蓮「あ、もうっ……ふふっ」ギュー
モバP「……」
加蓮「……」
モバP「……」
加蓮「……ちょっぴり恥ずかしいよ?」
モバP「お、っとっと」
加蓮「もう。感極まった時に抱きつく癖、直しなよ」
モバP「……今回だけ今回だけって毎回思うんだけどなぁ」
加蓮「それだけモバPさんも喜んでくれてるってことだよね。それなら、私も嬉しいな……わ、わかったからもう抱きつかなくていいよっ」
モバP「おっと、つい体が」
加蓮「もう……」
モバP「そろそろ時間だな……」
加蓮「うん、大丈夫。行ってくるね」
モバP「ああ」
加蓮「モバPさん、私…ファンのみんなに伝えたい。あの頃憧れたような、綺麗なドレスに……ステージに……歌に……ううん、今は私の番だね。ファンのみんなに教えてあげたい! 夢は叶うんだってことを!」
タタタッ...
<みんなー! 今日は来てくれてありがとー!
<ワアアアアアアアアアア――!!!!
モバP「……ああ」
モバP「よくここまで成長してくれたよ……加蓮……!」
――2013年5月31日
[夜色の花嫁]速水奏(SR)
[深緑の花嫁]高森藍子(SR)
[薔薇色花嫁]櫻井桃華(SR)が登場
(本来は、
[暴走☆花嫁]日野茜(SR)
[純白の花嫁]北条加蓮(SR)
[薔薇色花嫁]櫻井桃華(SR)が登場した時)
日野茜「私も! ウェディングドレスを着たいです!! いえ! それよりも、パーティーでいっぱい食べたいですね!!」
高森藍子「」キーン
速水奏「茜。オンナノコはそう騒ぐ物ではないわ。いずれあなたも、望んだ物が手に入る時が来るでしょうから」
茜「はっ、そうですね。……そうですね!!」
奏「ふふっ……」
藍子「お、おふたりとも、仲良しだったんですか……?」
奏「あら、私と茜では合わないと思うかしら?」
茜「はい! 私はそう思います!!」
藍子「自分で言っちゃってる……」
奏「藍子。あなたなら分かるんじゃないかしら?」
藍子「なんとなく、分かるような……」
茜「それでですね! 私も、ウェディングドレス――」
奏「いいオンナノコは男の人から誘ってもらえるくらいになる物よ? 茜も、時にはそういうことがあってもいいと思うけれど?」
茜「そうですね。……そうですね!!」
奏「くすっ。じゃあ私は撮影の準備を初めるわね。藍子も頑張りなさい」
藍子「あ、はい!」
奏「お互いに、プロデューサーさんが本当に結婚したいと思うくらいにね」
藍子「……あう///」
茜「藍子ちゃんのウェディングドレス姿! 楽しみにしてますっ! 未央ちゃんと一緒に見ていますね!!」
藍子「あはは、ありがとう……」
茜「うーっ、待っている間、私まで緊張してきます! ちょっと走ってきます!! ではっ!」ダッシュ!
藍子「あっ、茜ちゃん! ……行っちゃった」
――控え室――
藍子「……」
藍子「結婚、かあ……」
藍子「……あう」
モバP「おーい藍子、入っていいかー?」ノック
藍子「あわわわわわわっ! ち、ちょっとだけ待ってくださいモバPさん!」
モバP「え、あ、おう」
藍子「すぅー、はぁー……うん」
藍子「大丈夫ですよ、モバPさんっ」
モバP「うし(ガチャ)。前の撮影がちょっと長引いているみたいだから、もう少し待つようにだとさ」
藍子「そうなんですか……あっ、それ、パーティー用のドレスですか?」
モバP「ああ。色々と考えてみたけど、シンプルなスパンコール調にしてみた。上品なのが藍子に似合うと思ってな」
藍子「ありがとうございますっ。わあ、きれいなドレス……!」
モバP「気に入ってくれてよかった」
藍子「このドレスなら……髪型、ちょこっと変えた方がいいでしょうか……あと、アクセサリもちょっとだけ」
モバP「ん?」
藍子「えっと……がさごそ……がさごそ……じゃんっ♪ どうですか、モバPさん?」
モバP「おお……」
藍子「私、ちょっとは大人っぽく見えますか……なんて」
モバP「藍子」
藍子「は、はい!」
モバP「俺とけっ」
北条加蓮「はーいそこのモバPさん? プロデューサーさーん? 今なんて言おうとしたー? ん? 何を言おうとした?」
モバP「加蓮!?」
藍子「加蓮ちゃん!?」
道明寺歌鈴「こ、こんにぢっ!(噛んだ……)」
藍子「歌鈴ちゃんまで……」
加蓮「わー、すっごーい、綺麗なドレス! これ藍子が着るの? うん、すっごく似合うよ、絶対!」
歌鈴「はわわっ、藍子ちゃん、髪型が違っててすっごく大人みたい……!」
藍子「あ、ありがとうございます」
加蓮「で、モバPさん? 何を血迷ってたのかな? んー? 正直に言ってみなさいよ、ほら、ほら」ツンツン
モバP「いや別に俺は」
加蓮「おらおら」ゲシゲシ
モバP「ばっ、やめ、ああそうだ俺が悪かった! なしだなし!」
加蓮「ふんっ。それでいいの、それで」
モバP「これもそれも藍子が魅力的なのが悪――」
加蓮「プロデューサーならそういうことは――」
藍子「…………………………ちょっぴり、ざんねんです」
歌鈴「藍子ちゃんっ?」ヒョコッ
藍子「ひゃっ! び、びっくりした、えっと、何ですか、歌鈴ちゃん?」
歌鈴「???」
加蓮「あ、そうだ藍子。さっきそこで茜ちゃんと会ったよ」
藍子「はいっ。さっき、見に来てくれてたんです……あの、じゃあもしかして」
加蓮「うん。あやうく三途の川への招待状を受け取るところだった」
藍子「あうぅ……」
加蓮「よくついていけるよね、藍子」
藍子「ついていくのがやっとです、あはは……」
加蓮「前も同じこと言ってたっけ。でもま、いつも見る度にびっくりするかな。ね、歌鈴」
歌鈴「はいっ。ポジティブパッションの藍子ちゃんは、すごくステキでし!(噛んだ!)」
加蓮「今んところの注目株だっけ? 仕事もどんどんもらってるって聞いたよ。すごいじゃん」
藍子「おふたりとも……ありがとうございます♪」
加蓮「ちょっとうらやましいなー。私も、もっと頑張らないと」
歌鈴「あ、私もです!」
……。
…………。
加蓮「じゃ、私たちは撮影会場で待ってるね。ふふっ、藍子の晴れ姿、楽しみだな♪」
歌鈴「私たち、藍子ちゃんをゆっくり待っていますね!」
バタン...
モバP「……あいつら、何しに来たんだよ……」
藍子「きっと私を、元気づけてくれたんだと思います。やっぱり、ちょっと緊張しちゃってたから……」
モバP「ま、ウェディングだもんなぁ」
藍子「でも、やりたいって言ったのは私ですから……実は着てみたいと思っていたんです、ウェディングドレス!」
モバP「そっか」
藍子「あ、でも、ドレスを着ると婚期を逃すってよく……あっ、も、もしかしてモバPさん、知っていたんですか!?」
モバP「え……あ、あー、なんのことかな?」
藍子「もうっ、嘘がへたすぎますっ!」
モバP「わ、悪い、でもほら、アイドルの仕事だからノーカンだノーカン!」
藍子「……今からドレスを着て、モバPさんといっしょに写真なんて撮っちゃったら、お母さんとお父さん、なんて言うかな」
モバP「ば……お前それは(ちらっ)いやなんでもないですはい」
藍子「これはお仕事ですけど、でも、私――」
<コンコン
<そろそろお時間でーす
藍子「はは、はい!」
モバP「ほっ……よ、よーし藍子。仕事の時間だ。気合を入れなおして行くぞ!」タタタ
藍子「なんだかうまく誤魔化されたような……? あ、待ってくださいモバPさん!」
――2013年5月11日 道明寺歌鈴と北条加蓮のユニット「ベル・ロータス」が発足
(本来は高森藍子と道明寺歌鈴のユニット「インディゴ・ベル」が発足された時)
――LIVE会場 MCパート――
道明寺歌鈴「はわわー……みなさんの声を聞いているといい気持ちに、」
北条加蓮「こらこらっ。なにぼうっとしてるのよ歌鈴。あー、ごほん。みんなー! 今日は来てくれてありがとー!」
<ワアアアアアア――!!
加蓮「ありがとー! 今日は私と歌鈴のユニットの初お披露目だね。どう、うまくできてたかな?」
歌鈴「ドジしないでがんばりましたけど……ど、どうでぢだかっ!」
<ワアアアアアアアアア――!!!!
加蓮「ちょっとちょっと、なんだか私の時より声援が大きくない?」
歌鈴「き、きっと応援してくれている人がたくさんいるんだと思いますっ! 私、加蓮ちゃんはシャキっとしてていつも見習っているんですけど、加蓮ちゃんにはぜーったいに負けたくないんです!」
<ワアアアアアアアアア――!!!!
<いいぞー!!
<がんばれー!!
歌鈴「あ、ありがとうございますっ!」
加蓮「えー、私は応援してくれないの?」
<ワアアアアアア――!!
<もちろん応援してるぞー!
<俺も俺もー!
歌鈴「い、いつも助けてもらってばっかりじゃなくて、私はドジを卒業するんです! そして加蓮ちゃんなんてすぐに追い抜くんです!」
加蓮「ふふっ。それって変だよ。今はきっと、歌鈴の方が先を走っているんだよ? でも私も、負けるなんて嫌だな」
歌鈴「むむむっ」
加蓮「私の方が年下だけど、私の方がお姉さんをやってるんだからね。そりゃー、妹みたいな子になんて負けられないって」
歌鈴「むむむむむっ」
加蓮「歌もダンスも、ビジュアルだってもちろん、私の方が勝ってるもんね。ねー! そう思うよねー!」
<ワアアアアアアアアア――!!!!
加蓮「ふふっ」
歌鈴「……わ、私の方がお仕事はいっぱいやってます!」
加蓮「私の方がファンの増え方は大きいもん!」
歌鈴「これからもっと増やしますっ!」
加蓮「その間に私はもっと上を目指してるもんね」
歌鈴「私だって最近はほとんど転ばなくなりました!」
加蓮「私も、ダンスできる時間がずっと延びたんだ。ほら、こんなに体力もついてきた」ピョンピョン
歌鈴「ダンスなら私も一生懸命やってます! ボーカルだって!」
加蓮「むー……譲らないなぁ」
歌鈴「むむ、加蓮ちゃんも意地っ張りです……」
加蓮「ねー、みんなー! 私の方が良かったよねー!?」
<ワアアアアアアアアア――!!!!
歌鈴「わっ、わたしの方が、いい感じだったと思います! そ、そうですよね!?」
<ワアアアアアアアアア――!!!!
――舞台袖――
モバP「なんであいつら喧嘩してんだ!?」ガタッ
高森藍子「……なんだか、こうして見ると不思議なおふたりですよね」
モバP「盛り上がってるからいいか……」ドサッ
モバP「まあなぁ。加蓮があんなに突っ掛かるなんて珍しい。つうかあれ、明らかにわざとだろ」
藍子「加蓮ちゃんがですか?」
モバP「ああ。あれわざと明らかに煽ってるし、そもそもずっと笑顔になりっぱなしだもんな」
藍子「そうですね……。もしかしたら、歌鈴ちゃんを勇気づけてるのかも?」
モバP「え?」
藍子「大舞台だったら、歌鈴ちゃん、やっぱり緊張しているみたいですから。今日のLIVEも、何度もメールで相談を受けたんです。すごく緊張する、どうしよう、って」
モバP「そうなのか……気づけなかったな」
藍子「歌鈴ちゃん、モバPさんの前では必死に隠しているんですよ……あっ、わ、私が言ったってことは内緒にしててくださいっ!」
モバP「お、おう。そっか、歌鈴がなー……」
藍子「ご、ごほん。あっ、モバPさん、次の歌が始まるみたいですよ!」
――舞台――
加蓮「えっ、もう次の歌? ちょっと、まだ決着ついて――もうっ、しょうがないな。じゃあ、次が最後の曲!」
歌鈴「いきますっ! 応援、お願いします!」
<ワアアアアアアアアア――!!!!
――LIVEが終わって――
加蓮「ふうっ……つっかれたー。歌鈴、お疲れ。どうだった?」
歌鈴「すっごく楽しかったです! もう終わりだって思わないくらいに! ……あの、でも、また転んじゃいました……あうぅ」
加蓮「いつまで経っても直らないよね、なんでだろ……あ、違う違う、責めてるとかじゃなくてね? 練習の時はけっこううまくいってるのにな、って」
歌鈴「……うぅ。本番はどうしても、モバPさんにいいとこ見せよう! ってなっちゃって」
加蓮「そっか。歌鈴にそんなに想われるなんて、モバPさんは果報者だ」
歌鈴「そ、そうでしょうか。私なんかで――ううんっ、そうですよね! 私、きっと、モバPさんのお役に立てていますよね!」
加蓮「モバPさん、いつも言ってるよ。歌鈴からは目を離せないって。ぐんぐん成長しているからだってさ」
歌鈴「……! はいっ!」
加蓮「それにほら、最後の曲は転ばなかったじゃん」
歌鈴「あれはきっと加蓮ちゃんのお陰です! 昨日までずっと練習に付き合ってくれたから……! あの、加蓮ちゃん、ありがてゅ……う、ございます」アウゥ
加蓮「あははっ。ほら、今の噛んだ分があったから、ステージで転ばなかったんだよ。前向きに行こっ、前向きに!」
歌鈴「はい! あの、でも、加蓮ちゃん。MCで言ったことは嘘じゃないですからね!?」
加蓮「ん?」
歌鈴「い、いつかは私が、加蓮ちゃんに教えてあげる側になるんです!」
加蓮「……そっか。じゃあ私はその間に、もっともっと先を突っ走ろうかな」
歌鈴「ええーっ! それじゃ私、いつまでも追いつけないですよ!?」
加蓮「あははっ」
加蓮「……もう教えてもらってるよ、いっぱいね」
歌鈴「ふぇ?」
加蓮「ううん、なんでも」
加蓮(……歌鈴とのLIVEは楽しい。心の奥から感情が飛び出すくらいに、楽しい)
加蓮(こんな楽しい時間が、もっと長く続けばいいのにって思った)
加蓮(永遠なんてないって、誰よりも知っている筈なのに)
加蓮(だからこそ、楽しい時間が変わらないであってほしいって)
加蓮(今という時間がずっと続けばいいって、この時に、初めて思った)
――事務所に戻って――
藍子「あっ、お帰りなさい。加蓮ちゃん、歌鈴ちゃん!」
モバP「おう、お疲れ! ……悪いな、どうしても次の仕事の送り迎えが外せなくて」
加蓮「大丈夫。スタッフさんの車に乗せてもらったから。ただいま、モバPさん、藍子」
歌鈴「ただいまですっ! あのっ、モバPさん! 今日の私の舞台、どうでしたか!? 歌鈴、ちゃんとアイドルできていましたか!?」
モバP「すごかったよ。瞬きもできなかった」
歌鈴「そうですか! ……よかったぁ……」
藍子「ふふ。私、お茶を淹れてきますね」スタスタ
加蓮「モバPさん。藍子から聞いたって顔してる」
モバP「えっ。あー、いや、そんなに顔に出てたか?」
加蓮「モバPさん分かりやすいからねー。大丈夫だよ。最初のLIVEを大成功できたんだから、もう不安に思う必要なんてないもん。だよね、歌鈴!」
歌鈴「はいっ! 加蓮ちゃんのおかげで、あまり転ばずに済みましたし!」
加蓮「……それ前向きなの、後ろ向きなの?」
藍子「お待たせしました。はいっ、冷えたお茶です♪」
加蓮「ありがと。はい歌鈴」
歌鈴「あぢがっ! ……あ、ありがとうございます」
加蓮「ふふっ、まずは焦る癖を直すところからかな?」
藍子「おふたりを見ていると、私もやらなきゃって気持ちになりますね……モバPさん! 私、レッスンしてきてもいいですか?」
モバP「ああ。くれぐれも無茶しないようにな」
藍子「はいっ!」
加蓮「じゃあ私もついていこっかな」
モバP「いや、お前ついさっきLIVEしてきたばっかで――」
加蓮「まだ夕方にもなってないもん。大丈夫、藍子のレッスンを見学するだけだよ」
藍子「そ、それはそれでちょっぴりお恥ずかしい……」
歌鈴「それなら私も一緒に練習しますね!」
モバP「歌鈴まで。あのな、しっかりと体を休めることもアイドルの仕事、」
藍子「じゃあ、一緒にやりますか?」
歌鈴「はいっ。お願いします、藍子ちゃん!」
スタスタ...
モバP「……お前はまとめ役っぽく止める役だろ、藍子……!」
加蓮「まあまあ。モバPさんも飲む? お茶。私の飲みかけでいいなら」
モバP「俺は俺の分があるからいい!」
加蓮「ふふっ」ドサッ
モバP「……加蓮は行かないのか?」
加蓮「思ってたより疲れちゃってたみたい。私はちょっと休憩してから帰るね」
モバP「ああ、そーしろそーしろ。無茶なレッスンをやるくらいなら、休んで2日やった方がいいに決まってるよ」
加蓮「歌鈴も藍子も、きっと気合で乗りきれるんだろうね……。あはは、私には無理だ」
モバP「加蓮は加蓮らしくやればいいさ。さて、俺は今日のLIVEの報告書をまとめて――」
加蓮「あ、待ってモバPさん。ちょっと聞きたいことがあるんだけどさ」ピラッ
モバP「ん? その紙はなんだかれ、ん……」
加蓮「モバPさんが机の下に落としてたユニット名の案」
モバP「なんでお前が持ってんの!?」
加蓮「でさ、『ロータス・ベル』はカッコよくていいと思うよ? えっと、ロータスは"蓮"でベルが"鈴"だよね? うんうん、加蓮と歌鈴って感じでいいよね」
モバP「だ、だろ? ひねりはあんまりないけどそれくらいの方が定着しやすいと思」
訂正……
誤:加蓮「でさ、『ロータス・ベル』はカッコよくていいと思うよ?
正:加蓮「でさ、『ベル・ロータス』はカッコよくていいと思うよ?
加蓮「で、この案さ。この……『ミラーソング・ベル』とか『トゥインズ・ロータス・ベル』とか『エレクトニクス's』とかって、何?」
モバP「そ、それは……だな……」
加蓮「挙句『ヒューマン・ボーカロイド』とか『人間版リンレン』って何? ねえ、モバPさん、これ何? ん? これは何かな?」
モバP「…………」
加蓮「…………」
モバP「…………加"蓮"と歌"鈴"なんだから連想してもおかしくねえだろうがぁ!」ダッシュ!
加蓮「逆ギレ!? あっちょっと待てこらっ! 逃げるなー!」
――2013年8月5日 [サンシャインビーチ]道明寺歌鈴が登場
――LIVE会場控え室――
<ワアアアアアアアアアアア――!!!!!!!
道明寺歌鈴「ひゃあぁぁっ、すごい声援!! こここ、こんな中で私、歌うの~!?」
北条加蓮「……や、ホントにすごい声援だね」
歌鈴「え? ……あ、加蓮ちゃん!」
高森藍子「歌鈴ちゃんが主役のLIVEだって聞いて、来ちゃいました♪」
歌鈴「藍子ちゃんも!」
加蓮「やほ。調子はどう……って、聞くまでもないっか」
モバP「さっきから震えっぱなしでな……落ち着けってもう100回は言ったけど、ずっとこうなんだ」
藍子「これはさすがに……私も、震えて歩けなくなるかも」
加蓮「アニバーサリーLIVEの時もこれくらいじゃなかった? 藍子、あの時はどうしてたの?」
藍子「あの時は、無我夢中でしたし、みんなでやろうって最初から最後まで張り切っていましたから……もしあれが私のソロLIVEだったら、ぜったい無理だったと思います」
歌鈴「はうっ……!」
藍子「あ、ご、ごめんなさい! そういう意味ではなくっ……その、歌鈴ちゃんなら大丈夫ですよ!」
歌鈴「うぅ……」
歌鈴「黙ってればイケるよっ……うん……!」
加蓮「LIVEでしょーが!」
歌鈴「あうぅぅ……」
加蓮「もう。ほら、歌鈴。モバPさんがやっと作ってくれた、歌鈴が主役のLIVEだよ?」
歌鈴「……私が、主役の……?」
モバP「そうだ。俺はファンの皆に見て欲しい。いや、見せつけてやりたい、だな。歌鈴はここまで成長したんだって」
歌鈴「モバPさん……」
モバP「俺のアイドルはここまで来たぞ! ってさ。もし歌鈴が俺の為にって言ってくれるなら、俺は、歌鈴自身の姿を見せて欲しい」
藍子「歌鈴ちゃんはアニバーサリーLIVEからも、ずっと頑張ってきました! 私もいっぱい写真を撮ってきたから分かります。歌鈴ちゃんは、すごく成長したって!」
加蓮「歌鈴。大丈夫だよ。神社で出会ったあの日から、一緒にレッスンしてきたじゃん。ね。私たちが見守っててあげるから」
歌鈴「私――」
モバP「失敗なんて恐れるな。転んだっていい。それでも立ち上がるのが、俺の知る歌鈴だ。……なぁ歌鈴。俺は、お前に任せていいんだよな?」
加蓮「……そこは胸を張って『任せる!』って言うところじゃない?」
モバP「っと、すまん。つい歌鈴の弱気が伝染って――どうだ歌鈴。いけそうか?」
歌鈴「は、はいっ、任されましたっ!」
モバP「よし!」
歌鈴「モバPさん、加蓮ちゃん、藍子ちゃん。こんな私ですけど……今までずっと助けてくれて、ありがとうございました!」
歌鈴「転んだって、起き上がれたのはみんながいてくれたお陰です」
歌鈴「いつも助けてくれた、加蓮ちゃんや藍子ちゃんのお陰です」
歌鈴「それに――」
歌鈴「できるまでやればいい。教えてくれたの、モバPさんです」
モバP「ああ」
歌鈴「だから――」
歌鈴「私っ、やります! 絶対に恩返しするから、見守っててください!」
――LIVE会場――
<ワアアアアアアアアアアア――!!!!!!!
歌鈴(うまくいってる! 体がひとりでに動く! LIVEが楽しい。今までよりずっとずっと楽しい!)
歌鈴(2番のサビが終わった。モバPさんと、加蓮ちゃんも藍子ちゃんも、舞台のソデから見てくれている)
歌鈴(それだけで、恐かった声援が心地いい物に変わった)
歌鈴(そして、最後のサビに入った――)
――舞台袖――
加蓮「……っ!!」ガタッ
藍子「加蓮ちゃん!?」
モバP「加蓮!?」
加蓮(ずっと歌鈴を見てきた。歌っている姿、踊っている姿。それらだけなら、モバPさんより見てきたかもしれない)
加蓮(だから分かった。分かってしまった)
加蓮(右足がバランスを失うところを。左足が引っ張られるところを)
加蓮(このままだと、転ぶ!)
――LIVE会場――
歌鈴(――ファンの皆の声が、遠い)
歌鈴(視界が、暗い)
歌鈴(あ、身体が傾いている。すぐに分かった。だってもう、何回も何十回も何百回も経験してきたことだから)
歌鈴(ああ、やっぱり駄目なのかな、私――)
歌鈴(ドジは、どれだけやっても克服できないのかな……)
――舞台袖――
モバP「――――――――――――――!!」
――LIVE会場――
歌鈴「……!!」
歌鈴(――声が、耳を突き抜けた)
歌鈴(舞台のソデで)
歌鈴(モバPさんが、大声で何か言っている)
歌鈴(ファンの皆の声援でかき消されているけれど、私の耳には届いた)
「歌鈴、がんばれ!」
歌鈴(転びそうになっても)
歌鈴(モバPさんに、安心して見てもらえるように)
歌鈴(モバPさんに、大丈夫だって言えるように)
歌鈴「モバPさんが見てるから……頑張る!」
ぱちっ……
――舞台袖――
加蓮「あの子っ……!!」
藍子「歌鈴、ちゃん……!」
モバP「今、こっちにウィンクを――、歌鈴!」
加蓮「うそっ……」
3人『立て直した!!』
――LIVE会場――
歌鈴(一瞬、何が起きたのか分からなかったけれど)
歌鈴(耳からの声が、また聞こえるようになって)
歌鈴(音楽に身体が反応して)
歌鈴「私……転んでない……?」
歌鈴(それが分かった時)
歌鈴(私の身体は、また弾けた)
歌鈴「……! もう、私は大丈夫です! 行きます……っ!」
歌鈴「~~~♪ ~~~♪♪!!」
<ワアアアアアアアアアアア――!!!!!!!
<すげえ、転ばなかったぞ!
<あの歌鈴ちゃんが立て直した!
<歌鈴! 歌鈴! 歌鈴!
<ワアアアアアアアアアアア――!!!!!!!
……。
…………。
――そして、LIVEが終わってから――
モバP「歌鈴っ!」
歌鈴「あ、モバPさん!」タタタッ!
歌鈴「よいしょ、っと」ピタッ!
歌鈴「あの、私……ぐすっ(ごしごし)……えぐっ(ごしごし)」
歌鈴「私……! 私!」
歌鈴「最高のLIVEが出来ました! モバPさんのプロデュースで成長できたんです!」
モバP「ああ……ああ! 見てた、ずっと見てたぞ! よくあそこで踏ん張った! よく転ばなかった!」
歌鈴「はい! はいっ!! あの、だから、その、これからも!」
歌鈴「だから、ドジしないように、こ、これからも……!」
モバP「ああ! ずっと見ているから! これからもずっと見ているからな! 歌鈴!」
歌鈴「――ぐすっ……はいっ!」
藍子「歌鈴ちゃん、モバPさん、よかった……あれ? 加蓮ちゃん、泣いているんですか?」
加蓮「え? ぐしぐし……あはは、何を馬鹿なこと言ってんの? 私が泣く訳……なんて、ない、じゃんっ……!」
藍子「……はいっ」つハンカチ
加蓮「(ばっ!)歌鈴なんて、私のライバルなんだよ……っ! ライバルが活躍してるとこなんて、見てても、なーんにも! 嬉しくなんて、泣いてなんてっ……」
藍子「加蓮ちゃん。ずっと、歌鈴ちゃんのこと、見てきましたもんね」
加蓮「うっさいっ……。これは、そう! 歌鈴なんかに負けないって気合を入れすぎただけなの!」
藍子「ふふっ。そうですね。大丈夫ですよ。モバPさん、まだ歌鈴ちゃんの方を見ているみたいですから」
加蓮「もうっ! ぴ、モバPさんも! いつまで青春ゴッコやってんの! そーいう熱血とか私ぜんぜん好きじゃないんだけどっ!」
藍子「あっ。……あはっ、強情っ張りなんですね」
藍子「よかったですね。歌鈴ちゃんも、モバPさんも、加蓮ちゃんも」グスッ
藍子「……わ、私まで泣けてきちゃった、あはは……」
――2013年9月6日 CD第5弾メンバーが決定、北条加蓮がCDデビュー
(本来は高森藍子がCDデビューした時)
――事務所――
北条加蓮「…………へ? CD?」
モバP「ああ」
加蓮「私が?」
モバP「加蓮が」
加蓮「CDデビュー?」
モバP「CDデビューだ」
加蓮「………………夢?」
モバP「現実だな」
加蓮「いや、いやいや、え、ちょっと待ってよモバPさん……ちょっと待って。私、その……あっ」
モバP「待て、何を察したのかは知らんが待て。それは間違えなく勘違いだ」
加蓮「ううん。いいんだモバPさん。そっか。私、もうすぐアイドルを続けられなくなるんだね」
モバP「おい待て、いきなり演技を始めるの……演技、だよな? お前がやると冗談か本気か分からん!」
加蓮「未練なんてないよ。アイドルになりたいっていう夢を叶えてくれた。私にこんなに幸せな時間をいっぱいくれた。ふふっ、これ以上なんて言ったら、贅沢ものだよ――」
モバP「お前もうあれから倒れてないだろ! 贅沢言っていいんだよ! ……いやそうじゃねえな。とにかく! 冗談でもないしましてお前が死ぬなんて縁起でもないことじゃなくて、」
加蓮「ありがとね、モバPさん。こんな私を育ててくれて。いつもからかってばっかりでごめんね。私、本当はモバPさんのこと、大好きだから――!」
モバP「ぶっ! ……違う、告白っぽい物にドギマギしてる場合じゃねえぞ俺。おい加蓮、目を覚ませ!」ネコダマシ
加蓮「はっ! あ、あれ?」
モバP「おう。正気に戻ったか?」
加蓮「……ドッキリじゃなくて?」
モバP「最初からそう言ってるだろ」
加蓮「なかなか大きな仕事が来ないから、気を遣って……じゃなくて?」
モバP「俺がそんなことする人間に見えるか」
加蓮「……あ、そっか。私、もうすぐ死んじゃ――」
モバP「無限ループになるからやめろォ!」
かくかくしかじか
モバP「で! デモテープはこれ、歌詞はこれ! まだ候補だからこっちですりあわせていくってなったからしばらくはこれにつきっきりになるからな! いいな!」
加蓮「え、ええっとぉ……あの、モバPさん?」
モバP「まだ何かあるか!」
加蓮「さ、さっきの聞いてた? その、私がモバPさんのこと、えと、す、好き、とか……」
モバP「俺は今から外回りに行って来るから全部忘れる! はい全部忘れた! 俺が戻ってくるまでデモテープは全部聴いとけよ! じゃな!」バタン!
加蓮「」ポカーン
加蓮「……」キョロキョロ
加蓮「…………」エート
加蓮「………………」ヒテイシナカッタ?
加蓮「」アウアウ
加蓮「……」チラッ
加蓮「CDデビュー…………」
加蓮「そっか、私、CDデビューするんだ。そっか……」
加蓮「そっか……!」
――数時間後――
モバP「ただいま~。やっぱ外は暑ぃわ……」
加蓮「あ、お帰りなさいモバPさん。外、やっぱり暑い?」
モバP「そりゃ夏だからな」
加蓮「そっか。ごめんね。モバPさんの為にコーヒーを淹れてみたんだけど、ホットでやっちゃった……ここ、クーラーで涼しいから、外のこと考えてなかったよ」
モバP「コーヒーか。サンキュ、加蓮」
加蓮「さ、さすがにこれじゃ飲めないよね」
モバP「いーや、せっかく加蓮が淹れてくれたんだ、俺はこのまま飲む!」バッ!
加蓮「あっ」
モバP「……あっぢいいいいいい! やっぱ無理、すまん、氷入れてくる!」ドタドタドタ
加蓮「……もう。ばか」
加蓮「デモテープ、ぜんぶ聴いてみたよ。私はこれが歌いたいって思ったけど……どうかな?」
モバP「それか。うん、実は俺もそう思ってた。じゃあ先方にはこれで手配するから、加蓮は練習をしていてくれ」
加蓮「え……いいの? まだ決定してないんじゃ」
モバP「どれにするかってのはほとんどこっちが選ぶんだ。これまでもそうしてきたからな。通らないってことは絶対にありえない。だから、安心して練習しててくれ」
加蓮「うん。分かった。モバPさんだったら信じられるもん」ズズッ
モバP「……ところでお前、それ何を飲んでんだ?」
加蓮「んー? メロンソーダ。やっぱ夏って言ったら炭酸だよね~! ……あっ、その目、仕事に使えるとか思ってない? もう、相変わらず仕事バカなんだから」
モバP「……なあ、加蓮。俺ってそんなに分かりやすいか?」
加蓮「どうだろ。私はただ分かるってだけで、ほら、ちっちゃい頃から大人の顔ばっか見て生きてきたからさ……藍子や歌鈴は気づかないかもね。あ、でも2人とも意外なところで鋭いから、分かっちゃうかも」
モバP「そ、そうか」
加蓮「うん。もしかして胸とかお尻とかに目を向けてたかなって反省してる心もお見通しだよ?」
モバP「ギャアアア!」
加蓮「ふふっ。ま、モバPさんだって男の人だもんね。ねえねえ聞いてよ。私と歌鈴と藍子じゃバストが一番大きいのって――」
モバP「知っとるわ! 身体検査のデータとかぜんぶ持ってるしそれ元に衣装を発注してるんだから知っとるわ!」
加蓮「あ、そっか。ちぇ、残念」
モバP「ゴホンっ! しかし、見抜かれてばっかりというのもなんか嫌だな」
加蓮「私と一緒に演技力レッスンでもやってみる? 最近はヤンデレにハマってるんだよね、奈緒が持ってきたアニメの影響かな」
モバP「それを聞いて、じゃあやろう! ってなる奴がどこにいるんだよ……!」
加蓮「モバPさんなら受け止めきれるよ!」
モバP「俺は平穏なのが好きなんだ!」
加蓮「そっかー……」ズズズ
モバP「……」ズズズ
加蓮「……」
モバP「……」
加蓮「……ね、モバPさん。聞いてもいい?」
モバP「ん、何だ?」
加蓮「CDデビューが私の訳。藍子じゃなくて、私の訳」
モバP「…………」
加蓮「顔に出てたとかじゃないよ? ちょっと考えたら分かることだよ。藍子と、歌鈴もなのかな? デビュー候補に挙がってたんでしょ。なのにデビューするのは私なんだ」
モバP「加蓮……」
加蓮「大舞台なんて春の時の1回だけだよ? トライアドプリムスも、ベル・ロータスも……注目はしてもらってるけど、藍子のポジティブパッションにはぜんぜん及ばないもん。それに私、知ってるよ。歌鈴の夏のステージ、あれって雑誌ですごい取り上げられたよね。DVDなんて事務所のソロLIVEでは過去最高の売上だっけ? それなのに、デビューするのは私なんだ」
モバP「……」ズズ
加蓮「もし私が藍子だったらキレるよ? 私の方がたくさん仕事してて活躍してるのに、って」
モバP「…………」コト
モバP「加蓮」
加蓮「うん」
モバP「俺さ。加蓮には、もっとたくさんの世界を見てほしいと思ってる」
加蓮「たくさんの、世界……?」
モバP「これは俺の想像でしかないけど――最初に加蓮を見た時、なんだか諦めてるなって思った。無理もないよな。理由はすぐに分かったよ。加蓮が教えてくれた」
加蓮「入院したことがあって、身体が弱いから?」
モバP「ああ。それから、それでもレッスンを休まないのを見てると、アイドルになりたいって気持ちはなくしてないんだなって思った。その時に、この子は何がなんでもアイドルにする、夢を叶えてやる、その為にはなんだって、って思った。最初の頃はさ、加蓮の態度があまりにもアレで、プロデュース担当から外せっていろんな奴からアドバイスされたんだぜ? 余計なお世話だっての」
加蓮「……そうなんだ。なんか……ごめんね?」
モバP「逆だ。それで余計に燃え上がった。絶対に一人前のアイドルにしてやるって思った。でさ……今年の2月の舞台があったろ。ファンに夢を与えたい、って言った時の」
加蓮「うん。私の唯一の大舞台だよね」
モバP「ホントにすまん。あれを見た時、加蓮の夢は叶ったんだな、って思った。思わず泣いちまったよ……ただ、冷静になった時、次の加蓮はどうするんだろうって思った」
加蓮「次の私……」
モバP「夢は叶った。だからもうアイドルを辞めるんじゃないかって、そう言われる可能性も頭をよぎった。もちろん加蓮がそんなこと言うとは思わなかったけれど、もしもって気持ちはどんどん強くなりだした。ベル・ロータスでのLIVEとか、トライアドプリムスで輝いてる姿とか見ても、ますますな……じゃあこれで辞めるね、って言われるんじゃないかって」
加蓮「……それでも、モバPさんは私のこと、信じてるんだよね?」
モバP「それはもちろん」
加蓮「そっか。分かった。そのモバPさんを私は信じるよ……気持ちは分かるもん」
モバP「え……?」
加蓮「だって――ううんっ、今は私のお話だね。それでそれで? 満足気な加蓮ちゃんに、モバPさんは何を思ったのかな?」
モバP「あ、ああ。CDデビューをすれば、これまでよりずっと多くの世界を見られるんじゃないかって思ったんだが……ぶっちゃけて言えば、半分は自分が安心する為に加蓮をデビュー組に推薦した」
加蓮「わ、ほんとにぶっちゃけたね」
モバP「でも……その、信じてくれるなら、これも信じてほしい。残り半分は加蓮の為だ。きっと加蓮は、まだ知らない世界がたくさんあるんだって……それを知ったら、次の道を見つけられるかもしれない。次にやりたいことを発見するかもしれない。そうしたらまた、これまでよりずっと輝けるって思った。だから、デビュー組に推薦したんだ」
加蓮「……そっか」
モバP「……」
加蓮「だから私、今、すっごく幸せだよ。モバPさんの言うことがぜんぜん嘘じゃないことは知ってる。歌鈴も藍子も、いつだってドス黒い気持ちなんて持ってない。特に歌鈴は……もうずっと、あの真っ直ぐさには助けてもらってるよ。ただモバPさんの役に立ちたいってだけの想いが、これっぽっちも嘘じゃないんだもん。もうすごいよ、歌鈴は」
モバP「……はは。なんか、加蓮のお墨付きをもらうだけで照れるな」
加蓮「今が幸せすぎて、もういいやってずっと思ってた。今がずっと続いて欲しい、それだけでいいって。でもモバPさんは、私をもっと広い世界に連れて行ってくれるんだね」
モバP「ああ」
加蓮「分かった。ありがとう、モバPさん。CDデビューをさせてくれたことも、色々と教えてくれたことも」
モバP「俺は加蓮のプロデューサーだからな。もっとぶつけてくれてもいいぞ?」
加蓮「今はこれだけで十分だよ」
モバP「……前から思ってたんだが、お前はもっと幸せになっていいし、もっとやりたいようにやっていいんだぞ?」
加蓮「ふふっ。今は大丈夫! じゃ、モバPさん。ちょっとボーカルレッスンに付き合ってよ。デモテープ、もう徹底的に聴いたんだから!」グイグイ
モバP「う、わっ、ちょっと待て、おま、引っ張るな! ぐえっ」ズテッ
加蓮「わっ。大丈夫? モバPさん」
モバP「な、なんかちょっと歌鈴の気持ちが分かった気がするぞ……」
バタン...
加蓮「ほらほら、早く早――あれ?」
モバP「どうしたかれ……ん?」
道明寺歌鈴「…………え、えと」
加蓮「歌鈴?」
歌鈴「その、あのですね、あの、えと」
加蓮「……きいてた?」
歌鈴「わ、私は何も聞いてましゃっ!」
加蓮「……。聞いてたんなら分かるよね? 私はちょっとくらいなら嘘が見抜けるんだって」
歌鈴「そそそそんなこと歌鈴は知りませんっ! 知りませんっ!」
モバP「……悪い、歌鈴。それが嘘だってこと、俺でも分かるぞ……」
歌鈴「はうっ!」
加蓮「そっか、聞いてたかー」
歌鈴「ごごごめんなさいっ! 盗み聞きするつもりはなかったんですけど、その、たまたま、たまたまですね!」
加蓮「ふふっ」
歌鈴「……あ、あれ? 加蓮ちゃん、怒っていませんか?」
加蓮「怒ってどうするの? それなら歌鈴に私のこと、知っておいて欲しいなって思うよ」
歌鈴「そ、そうですかっ」ホッ
加蓮「ってことでモバPさん、ボーカルレッスンの前にちょおっと3時間くらい歌鈴のレッスンを見てあげたいんだけどいいかな?」
モバP「お、おう」
歌鈴「わーっ!? やっぱり怒ってるー!? あの、その、ご、ごめんなしっ加蓮ぢゃっ!」ビュー!
加蓮「あ、こらっ、走ったら転――「ぎゃんっ!」ああもう言わんこっちゃない! ほら、歌鈴、大丈夫?」
<だだだいじょうぶです、大丈夫なので加蓮ちゃん許してください!
<わかった、わかったからそんなに涙目で震えないでよ、私が悪者みたいじゃん
<加蓮ちゃんが悪者……あ、なんだかすごく似合いそうっ
<あ?
<ぎゃー! 冗談ですーっ!
モバP「……ははっ」
モバP「もしかして、いらんお世話だったかもな」
――2013年9月30日
[ハロウィンうぃっち]小日向美穂
[夜祭の白芙蓉]北条加蓮
[スクールデビル」小関麗奈が登場
(本来は、
[ハロウィンうぃっち]小日向美穂
[深緑の魔女]高森藍子
[ハロウィンガンナー]大和亜季が登場した時)
(さらに言えば、本来の加蓮のカード名は[夜宴の白芙蓉])
――事務所――
北条加蓮「ハロウィンの仮装LIVE?」
モバP「と、それから加蓮のCDデビュー記念だな」
加蓮「ふうん……」ペラッ
道明寺歌鈴「わ、この魔女なんて加蓮ちゃんにピッタリです! ね、藍子ちゃん」
高森藍子「加蓮ちゃんだったら、こっちの妖精さんの方が似合いそうですっ」
歌鈴「意地悪そうな笑顔がですか?」
加蓮「……歌鈴? なんで今日は初っ端から喧嘩腰なのかな?」ジロッ
歌鈴「ひゃっ」ビクッ
モバP「あー、2人とも落ち着け。そして藍子と歌鈴はどっから来たんだ」
歌鈴「加蓮ちゃんの衣装を決めるって聞いたので! 私にも、アドバイスさせてください!」
藍子「私たちも、話し合いに参加したいなって……邪魔はしませんから、その、だめですか?」
モバP「まあ、変な喧嘩とかしないならな……で、加蓮。俺のイチオシはこれなんだが」
加蓮「これ……和服の衣装? え、ハロウィンって外国のお祭りじゃなかったっけ?」チラッ
歌鈴「えーっと、確かヨーロッパのお祭りだったと思います! とりっく、おあ、とりーと!」
加蓮「お菓子は持ってないなー」
モバP「そこを敢えてな。今回のハロウィンのテーマは『こんな仮装はどうか』って感じなんだ。ハロウィンらしさじゃなくて、参加アイドル達がこれまで着たことがないような衣装を着るっていうのが最大のテーマらしくてな」
加蓮「ふうん……まあ、魔女とか性格悪そうな笑顔の妖精よりは」
藍子「加蓮ちゃんが着たら、どれもすてきになると思いますっ」
加蓮「そ、そう?」
歌鈴「加蓮ちゃんってすごいんですよ。水着を着ても浴衣を着ても、シャキっ! シャキっ! って感じで!」
加蓮「もう……。褒めすぎだよ、藍子も歌鈴も」
モバP「加蓮の衣装と言えば、」
加蓮「乗らなくていいからっ! も、もう、それよりハロウィンの衣装の話!」
モバP「おっとそうだった。あとな、これはちょっと裏話っぽい感じだが……来月、凛の方も大舞台があるらしい」
加蓮「凛も……?」
モバP「キャッチコピーを[夜宴の歌姫]ってする予定だったんだが、ハロウィンで同じ"夜"なら[夜祭]の方がそれっぽくねえか? ってなってな」
加蓮「だから私のキャッチコピーは[夜祭の白芙蓉]なんだ……あれ? 芙蓉って確か、1日花じゃなかったっけ? なのに夜?」
藍子「あ、はいっ。確か、夜にしぼんで朝にまた咲く花だって、夕美さんが言ってましたっ」
加蓮「……たぶん今するべき話じゃないだろうけど、藍子の交流関係も割と謎だよね」
歌鈴「あっ、私もこの前、響子ちゃんにお掃除のやり方を教わったんです!」
加蓮「よく分からないのが1人増えた。あれ? つまりこれって、もしかして私の友達が少ないってこと!? 私ぼっち!?」
歌鈴「まあまあ、加蓮ちゃんには私がいるじゃないですかっ!」
加蓮「そのアンタが今しがた浮気の報告したよね!?」
モバP「はいはい、そこまで。すぐに脱線するなら2人とも外で待ってもらうぞ?」
歌鈴「あうぅ……ごめんなさい」シュン
藍子「はぁい……」シュン
加蓮「……。あー、モバPさんが2人を泣かせたー」
モバP「ちょ、待」
藍子「私たち、やっぱり邪魔なんですね……」
歌鈴「ドジを直すだけじゃ、駄目なんですね……」
モバP「おま、お前なあっ! お前、俺、俺は知ってるぞ! 最近なんか加蓮が2人に演技指導してるってことを!」
加蓮「あ、なんだ、知ってるんだ。お返しに歌鈴からはボーカルのことを、藍子からはトークのことを教えてもらってるんだ」
藍子「ごめんなさい、モバPさんっ」
モバP「はぁ……もうなんか、みんなといると飽きないよ。それはともかく衣装だ衣装」
加蓮「和服か。私はそれでいいよ。これもモバPさんの言う、新しい世界ってヤツだね」
モバP「ああ。もちろん、その意味もある」
加蓮「そっか……」
加蓮「次はどんな所へ行けるかな? モバPさんと、みんなと……」
歌鈴「和服の着付けならお任せください!」
加蓮「……すぐに帯を解けさせる子はちょっと」
歌鈴「それはもうずっと前の話です! 歌鈴はとうとう、巫女服の帯を緩めることなく歩けるようになったんですよ!」
加蓮「そ、そう……」
藍子「帯って?」
モバP「いろいろあるんだ、いろいろな……」
――十数日後――
加蓮(結局、和服衣装を着こなして、私はハロウィンの撮影とLIVEに臨んだ)
加蓮(これまで話したことのない人が多い仕事だったけれど、なんとかやってのけた)
加蓮(いろいろな話をする人達がいた)
加蓮(お昼寝が好きな子とのLIVEは、合わせるのにだいぶ苦労した)
加蓮(新しいこと、新しい世界)
加蓮(モバPさんの言う通りだ。私の知らない世界は、たまらなく楽しかった)
加蓮(でも――)
藍子「あっ、お帰りなさい、加蓮ちゃん♪ お疲れ様ですっ」
歌鈴「加蓮ちゃん、やっぱり和服姿がカッコイイですね! 私もいつかこんな風に……ま、まずはドジの完全克服です!」
モバP「いい感じだったぞ加蓮。もうすっかりお手の物だな」
加蓮(……やっぱり私は、今がずっと、変わらないまま続けばいいと思っている――)
――2013年12月31日 [新春コレクション]道明寺歌鈴が登場
――新年の神社――
道明寺歌鈴「みんなでうちの神社に来てくれるなんて、びっくりしちゃいましたよ!」
北条加蓮「ふふっ。あけましておめでとう、歌鈴」
高森藍子「おめでとうございますっ」
モバP「今年もよろしくな、歌鈴」
歌鈴「はいっ!」
歌鈴「事務所に飾る熊手も私が選びましたっ。今年も事務所のみんなとモバPさんに幸運が訪れますようにっ!」
加蓮「だって。これはもう失敗は許されないね」
藍子「あうぅ……そ、そうやってプレッシャーかけるのはやめてくださいっ」
歌鈴「プレッシャー……?」
加蓮「この後のLIVEにね、藍子も出るんだ。例によってポジティブパッションで」
藍子「未央ちゃんも茜ちゃんも最近は元気すぎて、私、なんだかぜんぜんまとめきれなくなってる気が……!」
歌鈴「事務所に飾る熊手も私が選びましたっ。今年も事務所のみんなとモバPさんに幸運が訪れますようにっ!」
加蓮「だって。これはもう失敗は許されないね」
藍子「あうぅ……そ、そうやってプレッシャーかけるのはやめてくださいっ」
歌鈴「プレッシャー……?」
加蓮「この後のLIVEにね、藍子も出るんだ。例によってポジティブパッションで」
藍子「未央ちゃんも茜ちゃんも最近は元気すぎて、私、なんだかぜんぜんまとめきれなくなってる気が……!」
重複失礼……。
モバP「べ、別に無理してまとめることもないからな?」
加蓮「そーそー。大暴走しているくらいがいいんじゃないの?」
歌鈴「そうです! 藍子ちゃんの舞台は、いつでもステキですから!」
藍子「ありがとうございます……♪」
加蓮「そういう歌鈴は、あれ、今日は巫女服が解けてない」
歌鈴「お正月の神社は大忙しなんです! ドジしてるヒマはないんです!」
藍子「それ、普段のアイドル活動とあんまり変わらないのでは……」
加蓮「でも、ホントに人がいっぱいいるね……神社ってすごいなぁ」
モバP「おし、俺たちは参拝してくるか。歌鈴、また後でな!」
歌鈴「はいっ! ここは歌鈴にお任せください!」
<これだけ人がいるとはぐれそうだね
<ひゃっ。ひ、人に押されちゃってますっ
<おーい、大丈夫か2人とも?
<きゃー、人に追いやられるー。これはもうモバPさんの腕を掴むしかないなー、がしっ
<何その雑な演技!?
<わ、私もその、よければ……
<藍子まで!?
歌鈴「はいっ、お参りはあちらです! 破魔矢ですか! はいっ!」
――しばらくして――
モバP「ぜぇ、ぜぇ……」
加蓮「はー、はー……」
歌鈴「お、お帰りなさい……」
藍子「あの、おふたりとも、大丈夫ですか?」
モバP「いいか、俺はプロデューサーだ、デスクワークマンなんだ……」
加蓮「こ、これでも、体力、ぜぇ、つけてるんだよ、ごほっ、ほ、ホントだよ?」
歌鈴「た、大変でひゅ! あの、良ければ奥に休めるところを用意しますからそちらでっ、きゃあっ!」ズテッ
歌鈴「あ、あれ、起き上がれない!? 何かに引っかかって、だ、誰か、助けてください~~~!」
藍子「えっ、えっ、えっえっ、あの、わ、私は何からお助けすればー!?」
――2014年2月22日 CD第6弾メンバーが決定、高森藍子がCDデビュー
(本来は北条加蓮がCDデビューした時)
――事務所――
「「「CDデビュー、おめでとー!!!」」」
クラッカー < パァン!
高森藍子「ひゃっ! あ、えと、ありがとうございますっ! 高森藍子、やりました!」
北条加蓮「おめでとう、藍子。……待ってたよ」
藍子「……はい! おまたせしました、加蓮ちゃん!」
モバP「やったな藍子。前の加蓮じゃないが、まるで夢みたいだ」
加蓮「今回は倍率ヤバかったもんねー。もし私が藍子の立場だったら、やる前から怖気づいていたかも」
モバP「ははっ、それは絶対ないだろ」
加蓮「えー、それ真顔で言う?」
モバP「ともあれ藍子もようやくCDデビューだ! これで――」チラッ
加蓮「あとは――」チラッ
藍子「あ……」チラッ
道明寺歌鈴「……ふぇ? え? え? 私、何かしましたかっ!?」
加蓮「ううん。あとは歌鈴だけだね。私たち、ずっとここまで待ってるから」
藍子「頑張ってください! 応援してますっ」
歌鈴「あ――はい! 加蓮ちゃんにはもうずっと追いぬかれちゃってますけれど、私、いつか絶対に、また追い越しますからね!」
加蓮「待ってる」
モバP「ふー……」
加蓮(小声)「安心した? 歌鈴がショック受けてなくて」
モバP(小声)「う、ま、まあな」
加蓮(小声)「大丈夫。ああ見えて強い子だよ。知ってると思うけど」
モバP(小声)「それでも不安に思うことはあるんだっ」
歌鈴「あの、モバPさん、加蓮ちゃん?」
モバP「(ビクッ!)な、なんだ歌鈴!?」
歌鈴「えっと……藍子ちゃんが、乾杯を待ってますよ?」
モバP「え、あ、あー……」
加蓮「号令はモバPさんがね。ふふっ、お願い、私たちのプロデューサーさん」
モバP「そうだな……。ゴホン! じゃ、藍子のCDデビューを祝して! かんぱーい!」
「「「「かんぱーい!!」」」」
藍子「ごくっ、ごくっ、ごくっ……ふうっ。なんだか夢みたいです。私がCDデビューできるなんて……!」
加蓮「ふふっ。その気持ちはすごく分かるよ。私だって、最初にモバPさんから聞かされた時に、え? もしかして私って余命1ヶ月? って思ったもん」
モバP「それは加蓮だけだろーが……あー、あの訳分からん押し問答のこと思い出したじゃねえかっ」
歌鈴「私もその気持ちを味わってみたいですっ」
加蓮「歌鈴なら大丈夫だよ。新春のLIVEだって大成功だったんでしょ?」
モバP「そうだな。一部じゃ歌鈴がいたから客が150%増したとか言われてる」
歌鈴「え、ええっ、そんなにですか!? でもそのっ、私がステージに上がった時、確かにお客さんがいっぱいいたような……」
藍子「それだけ多くの人が歌鈴ちゃんを見ているってことですよ。ね、モバPさん」
モバP「そういうことだ」
歌鈴「……はい! な、なんだか今になって緊張してきましたっ」
加蓮「あはは、変なの」
モバP「ごくごく、ぷはーっ。ささやかだが飯も持ってきたからな、ま、テキトーに食ってくれ」
加蓮「はーい。わ、これすごい、北海道限定のお菓子だって。見て見て藍子」
歌鈴「こっちは沖縄限定って書いてありますっ。美味しそうですよ、藍子ちゃん!」
藍子「ゆ、ゆっくりでお願いします……じゃあまず、北海道の方からで」モグモグ
加蓮「これは正月限定のお餅のお菓子、こっちはバレンタインデーの頃の時だけのチョコ……」
歌鈴「こっちは2月限定って書いてあります! こっちは今年限定だって!」
加蓮「……さてはモバPさん、事務所の冷蔵庫からテキトーに持って来たな?」
モバP「ぎく」
歌鈴「事務所の冷蔵庫って凄いですよね。全国各地の名産品が集まって来てますっ! 奈良漬けも入っているんですよ?」
加蓮「東京ば◯な、なんかもね。ってか、ここが東京なんだから別に置かなくてもいいじゃん……」
モバP「もうな、なんというか、改めて買おうと思ってスーパーに行ってもだな、いやそれより冷蔵庫にあったよな、って思い出して」
加蓮「確かに冷蔵庫の物は、誰でも食べていいってなってるけどね」
歌鈴「私もよく頂いてます! 最近はお茶菓子が多くて嬉しいですね~」
加蓮「好きなんだ」
歌鈴「これでも奈良の出身ですから!」
藍子「でもこれ、すっごく美味しいですよ。食べたことのない味で、ちょうどいい甘さで……」
モバP「お、やっと食べ終わったか」
歌鈴「次はこの沖縄限定をどうぞ!」
藍子「はいっ。もぐもぐ……♪」
加蓮「にしても、CDデビューかぁ。まだ数カ月前なのに懐かしいなぁ。大仕事を1つしかやってなかったのにデビューして……って、藍子もまだ2つか」
藍子「?」モグ?
モバP「そうなんだよな……藍子は小さめの仕事がすごいマッチするんだ。カフェの取材と散歩のコラムが特になぁ」
加蓮「藍子にも新しい世界を見せてあげたいとかって思ってるの?」
モバP「……どうだろう。加蓮ほどじゃない。でも、これを機に、もうちょっと貪欲にはなってほしいな」
藍子「ごくん……貪欲に、ですか?」
モバP「藍子はどうしても消極的だからな。加蓮、今だから言うが……怒らずに聞いてくれよ? 加蓮のCDデビューの時、藍子にも声はかけたんだ。CDの企画があるって」
加蓮「それくらいじゃ怒らないよ。ねー、歌鈴」
歌鈴「め、目が笑っていませんよ加蓮ちゃん!?」キャー!
加蓮「あれ」
モバP「ま、まあ、藍子は今のままで十分って言うからな?」
加蓮「そっか。でもモバPさん、私には一切の相談なしでいきなりデビューするんだって言い出したよね」
モバP「加蓮の場合はぜってーに揉めるって思ったんだよ!」
加蓮「あ、そゆことっ」
藍子「それで納得しちゃうんですね……」
歌鈴「あのっ、私も藍子ちゃんはもっとガツガツやってもいいと思ってますっ!」
藍子「歌鈴ちゃんまで……」
歌鈴「藍子ちゃんはいつだって大人っぽくて、落ち着いていますから、きっとCDデビューしても大丈夫ですよ! いえっ、絶対に大丈夫です!」
藍子「……あはっ。ありがとうございます♪」
加蓮「あーあ、歌鈴に言いたいことぜんぶ持ってかれちゃった」
モバP「そうだな。藍子なら絶対に大丈夫だ。最初にレコーディングした時に向こうのスタッフから怒られたんだぞ? なんでこれほどの子を今まで放っといたんだ、って」
藍子「あ、あはは、そんなに……」テレテレ
加蓮「ホントのところなんで? 私はそのスタッフさんと同じ考えだけどな」
モバP「やっぱ1番大きいのは藍子自身だな。俺はやっぱみんなトップアイドルになって欲しいとは思っているけど、藍子は……なんていうかな。身近の幸せを大切にしているっていうか、下手に上に行くと何かを忘れてしまいそうに思っちまって」
加蓮「相変わらず変にネガティブだよね……」
モバP「ちょっと躊躇してたんだが、ポジティブパッションのLIVEを繰り返し見てるとな、これはもうデビューさせないままほっとくって手は考えられないと思ったんだ」
歌鈴「他の2人もデビューしちゃってますもんね」
モバP「藍子に首を縦に振らせるのは苦労したんだぞ?」
加蓮「言ってくれれば私たちも手伝ったのに」
歌鈴「モバPさんの頼まれ事ならなんだって!」
モバP「はは、サンキュな。でもこれはやっぱ、プロデューサーとしてやらないといけないことだったからさ……歌鈴の時は加蓮と藍子にも協力を頼むよ」
加蓮「うんっ。むしろモバPさんから頼まれる前にモバPさんの動きを読んで歌鈴を家に引きずり込むね」
モバP「加蓮の場合、嘘が一切含まれてなさそうだからこわい」
歌鈴「藍子ちゃんはどうなんですか?」
藍子「私は……やっぱり、ファンを幸せにしたいって気持ちは変わりません。最初から今まで、ずっとずっと」
加蓮「うん」
藍子「でも、最近は、もっと多くの人を幸せにできたらいいなって……だからモバPさんの言う通り、私、ちょっと貪欲になっちゃってるのかも」
加蓮「私は藍子らしくていいと思うな」
歌鈴「藍子ちゃんなら、世界中の人だって笑顔にできると思いますっ!」
モバP「藍子の笑顔は世界を平和にする」
藍子「も、もう、歌鈴ちゃんもモバPさんもおおげさですっ」
モバP「いやあ、これが冗談じゃないんだよな」
加蓮「藍子ならできそうって思っちゃうよね。藍子のレッスンとかLIVEとかぜんぶチェックしてるからかな?」
藍子「えっ……ぜ、ぜんぶ見ているんですか!?」
加蓮「ん? そりゃそうでしょ。ねえモバPさん」
モバP「録画してDVDに焼いて保存もしているぞ」
歌鈴「私も、そろそろ部屋の棚がDVDでいっぱいになりそうですっ!」
藍子「え、え、えええええっ!? そんなっ、お、お恥ずかしいです……!」
加蓮「アイドルが何を言ってんだか」
歌鈴「もちろん加蓮ちゃんのLIVEも保存していますからね!」
加蓮「私の分は別にいいでしょ」
藍子「加蓮ちゃんだってそうじゃないですかー! なのに私の分は保存って、あのっ、そのっ、きゃあああっ!」
加蓮「わ、顔がまっかっか」
モバP「そうだ、せっかくだから1つ流してみるか」
藍子「え!?」
加蓮「いいね。私は9月3日の『夏最後の奇跡』がいいな」
歌鈴「私は、えと、やっぱり1月2日の『お正月の喧騒が一瞬だけ静まり返った』回がオススメです!」
モバP「おいおい、藍子と言ったら7月の『ポジティブパッション初披露!』だろ?
訂正……
誤:モバP「おいおい、藍子と言ったら7月の『ポジティブパッション初披露!』だろ?
正:モバP「おいおい、藍子と言ったら3月の『ポジティブパッション初披露!』だろ?
藍子「ま、待ってください待ってください、なんで当たり前のようにサブタイトルがぽんぽんと出てくるんですか!?」
加蓮「当然だね」
歌鈴「私たちだって、藍子ちゃんのファンですから!」
モバP「俺、藍子のCDデビュー記念LIVEの時、最前列でサイリウムを振るんだ……」
藍子「わーっ! わーっ!?」
――2014年4月4日 [あたたかな日々]北条加蓮(SR)が登場
(本来は[おさんぽ日和]高森藍子が登場した時)
――川岸の公園――
北条加蓮「はぁー……のんびりするぅ……」
道明寺歌鈴「お茶がー……美味しいー……」
高森藍子「暖かいと、心も温かくなります」
加蓮「はぁー……」
歌鈴「はふぅー……」
藍子「ふわぁ……」
加蓮「……」
歌鈴「……」
藍子「……」
加蓮「……なんでこんなにのんびりしてるんだっけ?」
歌鈴「それはー……えっとぉ……どうしてでしたっけ?」
藍子「加蓮ちゃんが言ったんですよ。散歩でもどうか、って」
加蓮「藍子につられたんだろうねぇ。それで……あーもういいや、ごろごろしよー……」ゴロゴロ
歌鈴「お煎餅がー……美味しいー……」
藍子「な、なんだか今日はだらけきっちゃってますね……。私も、今日はゆっくりすることにしますね」
加蓮「それがいいよ」
藍子「ふぅ……」
加蓮「はふぅ……」
歌鈴「お茶がー……美味しいー……」
加蓮「……」
藍子「……」
歌鈴「……」
モバP「あ、いたいた、おーい!」
加蓮「!?」バッ!
歌鈴「!!?」バッツルッズテッ!
藍子「あ、モバPさん。こんにちは♪」
モバP「お、おう? ……そこの2人は何やってんだ?」
藍子「何をやっているんでしょうね……?」アハハ
加蓮「ぴぴ、モバPさん!? なんでここに……!?」
モバP「いや、何でも何も、加蓮には前に伝えただろ。今度は日常シーンをビデオにするからって。題して『あのアイドルの素顔は如何にっ』」
加蓮「え――あーっ! 忘れてた、確かそんな仕事をもらってたんだ!」
モバP「二つ返事でオッケー出したの加蓮だからな? たまにはいいよね、そういうのも、とか言って」
加蓮「あーもうなんで忘れてたんだろ私の馬鹿!」
モバP「……で、だ。加蓮はまあいいとして……よくないがいいとして……その、そっちの服がちょっと大惨事になってる巫女は……」
加蓮「え?」
歌鈴「へ? ……きゃあああっ!?」
藍子「わわ、歌鈴ちゃん、服、服がはだけてます!」
加蓮「目潰しーっ!」
モバP「そろそろ目に毒だからなんとかギャアアアアアアア――! おまっ、かれ、おま、だからなんで俺の目を潰す!?」
藍子「歌鈴ちゃん、これ、バッグに入れておいた上着です! よければこれでっ」
歌鈴「は、はははいっ!」ゴソゴソ
加蓮「……うんっ。もう大丈夫だよモバPさん」
モバP「俺が大丈夫じゃねーよ!」
加蓮「……ごめん、つい」
モバP「なんか何年か前にもこのやり取りやった覚えあるぞ!?」
――川辺――
藍子「川はまだちょっと冷たいみたい。でも、もう春の陽気に包まれているから、この水の温度も気持ちいいですね……」
加蓮「ホントだ。いい気持ち……♪」
藍子「モバPさんも、いっしょにいかがですか? ほらっこっちっ」
加蓮「スーツだからって遠慮しなくていいよ? ほらほら」
モバP「あのな……俺は撮影係だっての。な?」
加蓮「かりーん!」
歌鈴「はいっ! あの、モバPさん、私が撮影をやりますのでっ、加蓮ちゃん達のところに行ってあげてください!」
モバP「いや……あのな、まず歌鈴にカメラを任せるのが恐い」
歌鈴「えええっ!?」
藍子「最近は歌鈴ちゃんのドジももうほとんどなくなってますよーっ」
モバP「……2日前に俺、首を締められて殺されかけたんだが」
歌鈴「あうぅ、あ、あれはネクタイを結ぼうとしたらなぜかバナナの皮が足元にあって……」
モバP「あとそれ以前に、これ一応イメージビデオの撮影だからな? 俺が加わったら一発でスキャンダルだろうが!」
加蓮「新しい世界を見せてくれるって言ったの、モバPさんだよー!」
モバP「それは行っちゃ駄目な奴だ!」
加蓮「ちぇ。しょうがない、私たちだけでのんびりしよっか」
藍子「そうしましょうっ♪」
加蓮「いい風だね。気持ちいいなぁ……」
藍子「もう、すっかり春ですね」
加蓮「すぐに眠たくなっちゃうね……」
――川辺――
加蓮「ねえ、藍子」
藍子「はいっ」
加蓮「私ね、今、すっごく幸せなんだ」
藍子「ふふっ。顔を見たら、すぐに分かっちゃいます」
加蓮「すっごく幸せ!」
藍子「あはっ♪」
加蓮「私、昔はずっと退屈してたけど、今はずっとドキドキしてて……毎日が楽しいんだ。これはモバPさんが一緒だから、きっと……」
加蓮「それに、歌鈴や藍子もいてくれるから――」
藍子「……加蓮ちゃん?」
加蓮「それなのに、もう十分すぎるくらい幸せなのに」
加蓮「モバPさんは――まだ、さ」
加蓮「また私に幸せな時間をプレゼントしてくれるの? 私は、あの日モバPさんに選ばれただけでも十分なんだけど……」
藍子「……」
加蓮「……あはっ。藍子に言うことじゃないっか」
藍子「そう、ですね……。……えいっ!」
加蓮「わぷっ。も、もう、冷たいなぁ! とりゃ!」
藍子「きゃーっ。服がびしゃびしゃになっちゃいますよ!」
加蓮「知るもんかっ」
藍子「もう、加蓮ちゃんっ、えいっ、えいっ!」
加蓮「あっ、一気にすくうの反則!」
藍子「知りま、せんっ!」エイッ
加蓮「や、やったなぁ! 風邪でも引いたら藍子も怒られるんだからね!?」
藍子「暖かいから、えいっ、きっと、えいっ、平気ですっ!」
加蓮「わぷぷぷぷぷ!」
藍子「あっ。……見て見て加蓮ちゃんっ。これ、たんぽぽの綿毛です!」
加蓮「え? わ、すごい、手のひらに乗って……藍子の手が濡れてるからかな?」
藍子「でもこれじゃ、どこにも行けませんね……加蓮ちゃんも、手、びしゃびしゃだから、あうぅ、どうしましょう」
加蓮「……貸して?」
藍子「え、あ、はいっ」
加蓮「これで……たんぽぽって、辿り着いたところから新しい花を咲かせるんだよね。じゃあ、このたんぽぽの居場所はここっ」
藍子「あはっ……次の春が、楽しみになっちゃいましたね!」
加蓮「うん。たんぽぽは風に乗って旅をするけれど……どうして、旅をするのかな」
藍子「え? それは、花を咲かせる為――」
加蓮「じゃあさ。たんぽぽがもしそこで花開くことができるなら、旅なんてしないでいいんじゃないかな」
藍子「……加蓮ちゃん?」
加蓮「…………なんちゃって! えいっ!」ヒュッ
藍子「わあっ!?」バシャ
加蓮「ふふっ、藍子、油断したでしょ? とりゃ!」
藍子「や、やりましたね! えいっ! えいっ!」
加蓮「このっ、このっ!」
――公園のベンチ――
モバP「……これ、イメージビデオにしていいのか?」
歌鈴「2人とも、すごく楽しそうですよ! きっとファンの皆さんも笑顔になると思いますっ」
モバP「いや、それはそうなのかもしれんが……さっきから服が透けまくってんぞ、あれ」
歌鈴「…………」
モバP「…………ホームビデオにすっか」
歌鈴「そうですねぇ……」
モバP「はー。なんかテキトーでいいやって思ったら、どっと力が抜けたよ」
歌鈴「お疲れ様です、モバPさんっ」
モバP「ちょっと働き詰めだったのかもなー。俺も、アイドルも」
歌鈴「お疲れの時はお茶がおいしいですよ、今いれますね……はいっ、モバPさん!」
モバP「さんきゅ」
歌鈴「はぁー……落ち着きます……」
モバP「このまましばらく寝ちまうかな……」
歌鈴「私も、お昼寝したい気分……。い、い、いっしょに寝ちゃいましゅっか!(噛んじゃった……!)」
モバP「このまま横になるのもいいなぁ」
歌鈴「あ、でも、横になると、加蓮ちゃんが見えなくなっちゃう……藍子ちゃんも」
モバP「じゃあ、このまま座ってようか」
歌鈴「そうですねー……」
モバP「……」
歌鈴「……」
モバP「……ここ数ヶ月だけかもしれないけどさ」
歌鈴「……?」
モバP「なんか……なんか、加蓮も、藍子も、歌鈴もだ。なんか、変わって来てる気がするんだ」
歌鈴「そうですか……? 私は、だって、あうぅ、まだドジなままで、LIVEでも転んでばっかりです」
モバP「でもさ。ちょっと前の歌鈴だったら、こうしてお茶を飲んでのんびりなんてしてないと思うぞ?」
歌鈴「そう……かもしれないですねっ。きっと、加蓮ちゃんが私を鍛えてくれたお陰です」
モバP「その加蓮だ」
歌鈴「ふぇ?」
モバP「今年に入ってから、新しい仕事をせがまなくなったんだ。去年の……11月くらいまではまだ、あれがやりたいこれがやりたいって言ってきてたんだけどな。今年に入ってから、定例LIVEと、専属契約の雑誌撮影、それからいつどこで持ってきたのかイマイチ分からんハンバーガーショップの1日店長くらいでさ。それも月一の定例みたいなもんだし」
歌鈴「はわー……?」
モバP「確か歌鈴はあの時の話を聞いてるんだったな。ほら、加蓮がCDデビューした時の」
歌鈴「聞いちゃってましたねえ。あの後の加蓮ちゃん、恐かったです……!」
モバP「今もあの時の話は変わらない。加蓮にはやっぱり、どんどん新しいことをやって、色々な広い世界を見て欲しい……ん、だけど、加蓮も、それに頷いていた筈なんだけどな」
歌鈴「最近の加蓮ちゃん、なんだか、ここにいることがすごく嬉しそうって顔をしてますよね。ちょっぴり、丸くなったような気がしますっ」
モバP「そう、それなんだよ。代わりって言っちゃなんだが藍子がどんどん前に進んでる。ファンレターは月々で増えてるし、最近はカフェでのんびりしてる姿なんてまず見ないんだ」
歌鈴「……どんどん、遠くなっちゃってる気がします」
モバP「俺もなんだ。……なんだろうな」
歌鈴「何なんでしょうね……」
モバP「考え直す時が来てるのかもしれないな。色々と、色々とな……」
――川辺――
加蓮「はぁ、はぁ、もー、べちょべちょ! 服ならともかく下着の替えなんて持ってきてないよ!」
藍子「あ、暖かいから、自然乾燥しますよ、きっと」
加蓮「そんな一気には無理でしょ……。もう」
藍子「また今度、一緒に夏の服を買いに行きましょう!」
加蓮「それで許せってこと? しょうがないなぁ……ふふっ♪」
藍子「……えへっ♪」
藍子「……」
加蓮「……」
藍子「……」
加蓮「……こうやってね、友達と水のかけあいっこって、たぶん、ちっちゃい私が憧れてたことの1つなんだ」
藍子「?」
加蓮「他にも、やりたいことがいっぱいあった。テレビで見たアイドルみたいに、キラキラ輝いて。歌を歌って、ダンスが踊れるようになって、あっ、もちろん衣装は譲らないよ」
藍子「やりたいこと、私もいっぱいありますっ。加蓮ちゃんもそうですよね?」
加蓮「……」
藍子「……違うんですか?」
加蓮「最近……ホントに最近なんだけど……新しいことをやるより、今の時間を大切にしたいって思うようになったんだ」
藍子「……」
加蓮「もう私、十分に幸せで……これ以上なんて、もういらないよ。今の時間が続くだけで、私はもう、いい」
藍子「あの……まさか、アイドルを辞めるなんてことは――」
加蓮「え? あ、いや、違う違う」
藍子「ほっ」
加蓮「LIVEは楽しいよ。ベル・ロータスの舞台なんて、定例なのにいっつもワクワクする。ステージに上がるまでは、歌鈴のサポートをしようとか、歌鈴には負けてられないって、いろんなことを思うんだけど、ステージに上がったらもう頭が真っ白。いつの間にか歌が終わってて、あれ、もう終わり? ってなるんだ。私、いつになったら慣れるのかな?」
藍子「……」
加蓮「まだまだ……ぼうっとしてたら藍子に追いぬかれちゃいそう。歌鈴も、ドジはほとんどなくなったけどまだまだ目を離せないもんね。だけど……だけど、それだけでいいんだ」
藍子「…………」
加蓮「ほら。藍子も歌鈴も、今はいろんなユニットに参加してるでしょ? 私なんて、ベル・ロータスとトライアドプリムスだけ。それこそ……歌鈴と藍子がいなくなっちゃったら、私、アイドルを辞めちゃうのかな? ……なんて言ったら枷になっちゃうか。ふふっ」ネコロガリ
藍子「……?」
加蓮「はー、空が青くて綺麗だねー」
藍子「はい。ずっと、綺麗です」
加蓮「……歌鈴のさ、夏の舞台、あったじゃん」
藍子「加蓮ちゃんが泣いちゃったLIVEですか?」
加蓮「ばっ、最初にそれ思い出さないでよ!」バッ!
藍子「ごめんなさいっ♪」エヘヘ
加蓮「もう……」ドサッ
加蓮「ほら、歌鈴ってモバPさんの為にアイドルやってるってよく言ってるじゃん。モバPさんの為に転んだり噛んだりしない、ドジを直すって。あの夏の舞台を見た時に……ああ、これで歌鈴の舞台は終わっちゃうのかな? って思った。そしたら寂しくなった。競争してるのが楽しかったんだ」
藍子「……」
加蓮「でも歌鈴はまだまだ進み続けてさ。大きな仕事こそないけど、ちょっとずつ、街でも名前や顔を見るようになったよね。日進月歩って言うのかな……それを見てると……なんでだろ、私はいいやってなっちゃったんだ。私のやりたいこと、歌鈴が代わりにやってるのかな、なんて――」
藍子「……加蓮ちゃんは、加蓮ちゃんですよ」
加蓮「うん……あははっ、知ってるのに。変だよね。なんでだろうね……。あ、そうだ。私さ、最初に歌鈴に会った時、ううん、正確には最初に歌鈴がドジした時にかな。思ったんだ。この子は私が助けないと、って」
藍子「どうしてですか?」
加蓮「私と同じなんだ。やりたいことがある、なりたいものがある、なのになれない。頑張ってもできない。何かが邪魔をする。それって、ちっちゃい頃にアイドルに憧れて、でも身体のこととか病気のこととか色々あってできなかった私みたいだって。そう思ったらもう放っとけなかった。きっと、私は――」
藍子「…………」
加蓮「……なんて、歌鈴に追い越されたくないって気持ちは今もあるけどね。あ、もちろん藍子にもだよ? ふふっ、まずはシングルの売上で勝負かな?」
藍子「――加蓮ちゃん」
加蓮「うん?」
藍子「きっと昔の私なら、そんなの無理です、とか、争うのは苦手です、って言うんだと思います」
加蓮「うん。でも、今は違う」
藍子「はいっ! 私、もっともっと輝きたいんです。モバPさんの為と、加蓮ちゃんや歌鈴ちゃんの為と、私の為と……えっと、あとファンの皆さんの為に! もっともっと、いっぱいの人を幸せにしたいですから!」
加蓮「……うん」
藍子「夢は叶うんだって分かったから、もうちょっと欲張りになってもいいでしょうか?」
加蓮「いいと思うよ」
藍子「私……もっと、上を目指したいなっ!」
加蓮(……きっと、私のやりたいこと、藍子もやってくれてるんだ)
加蓮「ちょっと立ち止まってるだけだよ。またすぐに起き上がって、追い抜かれていたら追い抜くから!」
藍子「はいっ!」
加蓮「……ちょっと冷えてきたかな。帰ろ、藍子。びしゃ濡れだけど事務所に行けば着替えもあるよ。シャワーでもあびてさっぱりしよっ!」
藍子「はい。そうしましょう」
加蓮「イメージビデオは……なんか別の機会にしよっか」
――公園のベンチ――
モバP「ん、加蓮、藍子。もうい――い゛っ!?」
加蓮「ふふっ、見て見てモバPさん。青春ゴッコの跡みたいに見える?」
歌鈴「かか加蓮ちゃん! 服、服、透けちゃってます!」
加蓮「知ってるよ、歌鈴じゃないんだから……」
藍子「あ、あぅ……」(←上着を羽織って前を腕で隠している)
モバP「なんでお前はおおっぴろげなんだ! なんか着ろ! 頼むから!」
加蓮「はーい」ファサ
モバP「ハァ……うし、帰るか」
加蓮「うん、帰ろ」
歌鈴「はふー……今日はなんだか、1年分くらいのんびりした気がしますー……。明日になったら、またレッスンですね。大丈夫、大丈夫。私の居場所は、いつだってここにありますから」
加蓮「私は撮影の仕事だったかな? またレッスンの話、聞かせてね?」
歌鈴「はい!」
モバP「あー、そうだ、藍子」
藍子「は、はい……///」サッ
加蓮「あの、私も一応びしゃ濡れだから、盾に使うのはちょっと」
モバP「そ、そのままでいい。そのままでいいからな? 前に出る必要はないからな?」
加蓮「とか言って実はちょっぴり」
モバP「ねえよ! ……ねえってことにさせてくれ! あとお前はもうちょっと気にしろ!」
加蓮「あははっ」
モバP「あー……ゴホン。藍子。そうだな、CDデビューして、忙しくなったのは分かるし、それが楽しそうなのも見たら分かる。でもさ、ほら、たまにでいいから……こうしてのんびりす る時間を作ってみないか? ほら、前の藍子みたいにさ」
藍子「……」ウーン
藍子「……はいっ。そうですね、やっぱり、たまには息抜きしなきゃ! モバPさんも付き合ってくれますか?」
モバP「おう。藍子の為ならデスクワークなんてポイ投げだ!」
藍子「あはっ、お仕事はちゃんとしないと駄目ですよ~」
加蓮(……ふふっ)
――2014年4月30日
[深緑の魔女]高森藍子(SR)
[スペース☆ウサミン]安部菜々(SR)
[夜祭のメイド]神谷奈緒(SR)が登場
(本来は、
[夜宴の白芙蓉]北条加蓮
[スペース☆ウサミン]安部菜々
[サイキックマジシャン]堀裕子が登場した時)
――撮影現場――
神谷奈緒「頼む! 凛はともかく、加蓮にだけはこのことは言わないで!」
高森藍子「え、え?」
奈緒「絶対に知らせるなよ? 絶対だぞ! こんな姿見られたら絶対笑われ」
北条加蓮「やっほー」
奈緒「」
藍子「あ、加蓮ちゃん!」
加蓮「やっぱりその魔女スタイルになったんだ。覚えてる? それ、私のハロウィンの時に候補に挙がってたヤツだよね? あれ、でもちょっと地味目になってる」
藍子「控えめですけど、いいんですっ」
奈緒(こそこそ……)
加蓮「えー、もうちょっとこの辺をぐいっと」
藍子「きゃっ」
藍子「セクシーな衣装は私……ちょっと……」
加蓮「そっか」
藍子「あはは……」
加蓮「さぁて」ニタリ
奈緒「」ビクッ
加蓮「奈緒じゃーん。ふふっ、そのメイド服、似合ってるよ?」
奈緒「なっ、なっ、なんでここにいるんだよ加蓮!」
加蓮「え? 友達の撮影現場だもん、見学しない訳がないじゃん」
藍子「その"友達"って、どっちのことだろ……?」
奈緒「やめろよぉ! ま、待って、スマホ構えるのはホントに……!」
加蓮「変なの。どうせ撮影するんだから同じじゃん」
奈緒「なんか違うんだよ! も、もうっ、あ! アタシのプロデューサーさん来てるから、じゃあなっ加蓮!」ダッシュ!
加蓮「……逃げおった」
藍子「あはは……でも、可愛らしいメイドさんですよね、奈緒ちゃん」
加蓮「前から奈緒にはメイドが似合うって、あっちのプロデューサーさんに言い続けてたんだ」
藍子「もうっ。イタズラばっかりしてちゃ駄目ですよ?」
加蓮「はーい。……ね、藍子」
藍子「はい」
加蓮「そこから見える景色は、どう? 輝いてる?」
藍子「……私、今、すっごく楽しいんです! 撮影なんてもう慣れてるのに、なんだかぜんぶが違う世界みたいで!」
加蓮「そっ」
藍子「毎日お祭り気分で楽しく、です」
加蓮「うん。藍子は、どんどん進んで行ってね。行きたい所まで、ずっと、ずっと」
藍子「……加蓮ちゃん」
加蓮「そのうち藍子ともユニットを組みたいな」
藍子「あはっ、いいですね♪ その時は、歌鈴ちゃんも一緒で!」
加蓮「ユニット名を決めるのに苦労しそうだね」
藍子「また、モバPさんと一緒に考えましょう!」
加蓮「うん。そうだ、どうせならモバPさんの家にでも押しかけちゃおっか。それか誰かの家にモバPさんを呼ぶ」
藍子「あはっ、いいかもしれません! 歌鈴ちゃんの家はどうでしょうか。神社なら、変に思う人もあんまりいないですっ♪」
加蓮「朝早くが涼しそうだよね。石段に座ってぼーっとしてみたかったんだ、私」
藍子「お茶を持ってお伴しちゃいます!」
加蓮「……」
藍子「……だから、加蓮ちゃん」
加蓮「ん」
藍子「それまで、アイドル、続けていてくださいね……?」
加蓮「――もちろん。今度はアルバムに、カバーソングまであるからね。モバPさんなんて、私のこと無視してどんどん新しい仕事を入れてくるし。もう、毎日が大変だよ」
藍子「はいっ……」
加蓮「あ、そろそろ時間みたいだよ。歌鈴と一緒に見てるから、しっかりやってきてね、藍子!」
藍子「はいっ!」
藍子「幸せな魔法、かけてきますっ!」
――2014年7月14日 [
――現在
――2014年7月15日
道明寺歌鈴「ふわぁ……おはようございまふ、加蓮ちゃん、藍子ちゃ――」
歌鈴「……あれ?」
歌鈴「……」キョロキョロ
歌鈴「あ……」
歌鈴(そっか。今の、夢だったんだ)
歌鈴(私は道明寺歌鈴。モバPさんにスカウトしてもらって、藍子ちゃんに助けてもらって)
歌鈴(加蓮ちゃんは、アニバーサリーLIVEの時に一緒になったけれど……連絡先だけ交換して、ほとんど、お話もしていない人)
歌鈴(足を止めることなんてしないで、いつもキラキラ輝いていて、いろいろな仕事をしている人)
歌鈴(藍子ちゃんが、いつも大人でステキで、私の憧れの人)
歌鈴(すっごく前向きだけど、アイドルランクを上げよう上げようってするんじゃなくて、身近な幸せをたいせつにする人)
歌鈴(……)
歌鈴(…………よし!)
歌鈴「おはようござあっ!?」ズルッ!
歌鈴「いたたた……」
――食堂――
藤居朋「――え? ホントに夢を見たの!? すごいじゃない!」
歌鈴「ふぇっ。そ、そんなに凄いことじゃなくて、ちょっと夢に出たってだけですっ」
朋「ううん、すごいわ! 占いにはね、見た夢で診断する夢占いっていうのもあるの。歌鈴ちゃんも、もしかしたら占い師になれるかもしれないわよ!」
歌鈴「ほ、ホントですか!?」
朋「ね、ね、その夢のこと、もっと詳しく聞かせて? やっぱり藍子ちゃんと加蓮ちゃんが出てきたの!?」
歌鈴「はいっ……ええと、まず、観光大使の時に、私を助けてくれたのが加蓮ちゃんになってて――」
朋「ふんふん――」
歌鈴(……もしかしたら、ありえたかもしれない未来)
歌鈴(でも、それはただの夢のことです)
歌鈴(朋さんは、占いができるかも! なんて、目を輝かせていますけれど)
歌鈴(明日になったら、もう忘れているようなこと)
歌鈴(でも――)
朋「え? もう仕事の時間!? アタシもっと歌鈴ちゃんの夢の話を――いいからさっさと準備しろ!? も、もう、分かったわよ! 歌鈴ちゃん、今日の帰りの新幹線でまた聞かせて ! それまで覚えててよ!?」
歌鈴「は、はいっ。えっと、今日の私のスケジュールは……あ、あわわ、手帳がない……!? あっ、部屋に置き忘れてる……」
歌鈴(私がどんな夢を見ても、それは私だけのこと)
歌鈴(いきなり藍子ちゃんや加蓮ちゃんに話をしても、きっと驚かれるだけです)
歌鈴(それでも私は、夢で感じた"想い"を忘れたくなくて)
歌鈴(出番が来るギリギリの時間まで、メールを打ち続けていました)
――同日同時刻 北条加蓮の自室――
<ジリリリリリリ!
北条加蓮「あっつぅ……」ガション
<...
加蓮「んん……?」
加蓮「ん~~~~」ノビ
加蓮「……? なんだろ、なんか面白い夢を見た気がするけど……」
加蓮「確か、私が歌鈴と一緒に、LIVEやってて……LIVE……? うん……? それに、藍子もいたっけ?」
加蓮「……ふふっ、そんなの、ある訳ないっか――あれ?」
加蓮「メールだ……歌鈴から!?」
3つ前を訂正……
誤:朋「え? もう仕事の時間!? アタシもっと歌鈴ちゃんの夢の話を――
正:朋「え? もう仕事の時間!? あたしもっと歌鈴ちゃんの夢の話を――
――同日同時刻 高森藍子の自室――
高森藍子「~~~♪」
藍子(今日はレッスンだけだから、うんっ、こんな感じでいいかな?)
藍子「準備完了、ですっ♪」
藍子(昨日は不思議な夢を見たなぁ……夢のお話とか、未央ちゃんが喜ぶかな? 試しに話してみようっ)
藍子(でも、ホントに変な夢……加蓮ちゃんと歌鈴ちゃんが一緒にいることなんて、あったかなぁ……)
藍子「――って、あ、メールが来てる……歌鈴ちゃんから?」
藍子「……え?」
――2014年7月某日――
「ねえ藍子。ちょっと前にさ、変なメール、藍子のところにも来た?」
「え、もしかして加蓮ちゃんのところにもですか!?」
「そっか……でも、なんだろ。なんか、すごい親近感があるんだよね、あのメール」
「あ、それも私もです……! 昔に読んだ物語みたいな、どこかで見たことある話みたいな……!」
「うーん」
「何でしょうか……」
「おはようござ……ふぎゅ!」ビターン
「あっ、歌鈴ちゃん! 大丈――」
「もう、何やってんの歌鈴。相変わらずドジなんだか、ら……?」
「……え?」
「加蓮ちゃん……?」
「あれ、なんだろ今の、なんか、口から言葉が勝手に……?」
「よ、よいしょ……わわっ、服がはだけて、え、えい! ……あのっ! 加蓮ちゃん、歌鈴ちゃん! 実は――」
おしまい。歌鈴にボイスはよ。
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