イリヤ「ビューティフル・ドリーマー?」 (33)

大河「さぁて、ついに明日は穂群原学園文化祭、初日です!みなさん、気合い入れて準備に励みましょう!」

龍子「文化祭だぁ!青春だぜ!そうだ、バンドだぁ!バンド組もうぜ!」ウヒョーッ

美々「龍子ちゃん、今日は文化祭前日だよ?今からバンドはちょっと…」

龍子「なんだよぉ!連れねえじゃねえか?青春なら文化祭でステージデビューって相場がきまってるだろぉ!」

雀花「おいおい、龍子?何がステージデビューだぁ?バンドの前にクラスの出し物はどうするんだよ」

那奈亀「なんだかんだで純喫茶をしようと決まったものの、内装も準備も全然終わってないからなぁ~」

イリヤ「たはは…今日放課後残ってがんばろう、みんな」

雀花「そうだな、背水の陣でマッキッて仕上げるとするかぁ」

イリヤ「美遊も手伝ってくれるよね?」

美遊「イリヤが残るなら、あたしも…」

那奈亀「よしよし、そうと決まればデスマーチと行きましょうや!」

龍子「おしっ!俺はボーカルとギターとベースとドラムをやるぜ!お前らはテキトーに作詞作曲を!」

雀花「いかん!龍子がまだバンドをやる気だっ!」

美々「そんな一度にムリだよ、龍子ちゃん…」

クロ「…ふーん、なんか愉しそうじゃない?」

雀花「よし、これで一応の飾り付けは終わったか」

イリヤ「がんばれば、何とかなるものだねぇ。一時はどうなることかと」ハァ

美々「でも、これで本当に明日お客さん来るかなぁ…」

那奈亀「うーん、なんとか喫茶店らしきものは出来たが、何かが足りないんだよな~」

イリヤ「たしかに、少し寂しい気もするけど」

雀花「そうだな、純喫茶の喫茶の部分はできたが、純の部分が足りない気がするなぁ」

美々「…純喫茶の純って、なにの純なのかな?」

那奈亀「じゅ、純粋の純?」

龍子「お前らっ!バンドの衣装調達してきたぜー!他のクラスの余りだけど気にすんなぁ!」ダッ

雀花「おまっ!しばらく静かだなと思ったら、着々とバンドの計画進めてやがったなぁ!」

龍子「ジャーン!なんとゴスロリメイド服っ!」バッ

那奈亀「そうだ!それだっ!」

イリヤ「ええーっ!?」

イリヤ「メ、メイド喫茶って、そんな…」

雀花「いける!いける!龍子が調達してきたこれをイリヤと美遊が着れば、それだけで繁盛間違いなしだ、そうだろ?」

那奈亀「我ながら、悪魔的なヒラメキだったぜ」

龍子「バンドはインパクトが大事だから、なっ!」

美々「龍子ちゃんだけ、話題がズレてるよ」

雀花「よし!あとはイリヤと美遊がOKしてくれれば、いいんだよ!頼むよ、イリヤ?」

イリヤ「う、うーん…み、美遊はどう思うの?」

美遊「あたしは別に抵抗は無いけど、普段から着なれてるし」

イリヤ「あ、そうだった…」ガーン

雀花「ふ、普段から着なれてるだとっ!なんという逸材…」

大河「コラーッ!お前ら、いつまで残ってるんじゃー!」ガラッ

那奈亀「ヤバイッ、タイガー!」

大河「明日は、文化祭初日でしょー?体力温存するためにも、今日はもう帰った!帰った!」シッシッ

雀花「よし!明日のメイド喫茶楽しみだなぁ!」

美々「お客さん、いっぱい来ると良いねぇ」

イリヤ「…えっ?メイド喫茶は決定事項!?」

イリヤ宅

イリヤ「はぁ~…」グッタリ

セラ「あら、イリヤさんお疲れですか?」

士郎「ああ、穂群原は明日、文化祭初日だから準備で疲れたんだろ?」

セラ「そういえば、イリヤさんここ最近ずっとお帰りが遅かったですね。文化祭、明日からでしたっけ?」

士郎「俺も一成のヤツが実行委員だから手伝わされちゃって、くたくただよ。やっと文化祭初日と思うと、まったく感慨深いなぁ」

イリヤ「そうだねぇ。あっ、お兄ちゃんは明日なにするの?」

士郎「弓道部は陸上部と合同で劇をやるんだけど、遠阪坂とルヴィエに手伝ってもらうから、よかったら見に来いよ」

イリヤ「えっ?凛さんとルヴィエさんも?うん、絶対見に行く!…なんかスゴそう」

クロ「イリヤは明日、喫茶やるんだよ?シロウも見に行ったら?」ニヤッ

士郎「喫茶店かぁ、うん暇みつけて行くよ」

イリヤ「ええっ?///お兄ちゃんは来なくていいからっ!」

士郎「なんだよ、イリヤ?」

リズ「そういえば、アイリとキリツグも文化祭見に帰国するって~」

イリヤ「えええーっ?パパとママもーっ!?」

次の日

那奈亀「こ、これは…」ゴクッ

雀花「ああ…これだ、これがホンモノの…」

イリヤ「ちょ、ちょっと///そんなに、見つめられると…」ゴスロリーッ

美々「イリヤちゃん、似合ってるよ」

龍子「おおっ!キまってるなぁ!お次はさっそくセッションだぜっ!」

美遊「…」ジーッ

イリヤ「そんな見つめないでよ…美遊はほんとに、抵抗ないんだね…」

美遊「あっ、ごめん。もっと羞じらったほうがいいなら、そうするけど」

イリヤ「いや、そういうことじゃ…」

凛「あら、イリヤじゃない?すごいかわいい格好してるわね、ははぁ~メイド喫茶かぁ、攻めるわね」

イリヤ「ええっ?凛さんがなんでここにっ??」

凛「明日は文化祭初日じゃない?一応、高等部であたしも実行委員させられてるから、手伝いで学園中回らされてるのよ」

イリヤ「はぁ、お互いタイヘンですねぇ~」

凛「そんな辛気臭い声出しちゃって、どうしたのよ?そうだ、衛宮君も来てるわよ」

イリヤ「えっ?お兄ちゃんが…」

士郎「ん?どうしたんだ、遠坂?あっ、ここイリヤの教室じゃないか」

凛「衛宮君、イリヤが呼んでるわよって…あれ?」

士郎「なんだよ?イリヤ、いないじゃないか」

凛「あれれ、おっかしいわねぇ、さっきまでそこにいたのに」

一成「おっ衛宮、こんな所にいたのか。ちょっと機材に不備を見つけたのだが、見てはくれないか」

士郎「了解、実行委員ご苦労様だな。お前、だいぶ疲れてる見たいじゃないか」

一成「ああ、文化祭準備で気苦労が絶えん。連日働きっぱなしだったからな」

士郎「それも、もう少しで終わりだぜ。なんたって明日が文化祭初日だからなぁ」

ルヴィア「あらシェロ、こんな所に居たのですね。あたくしのクラスの出し物をご覧になって」ギュッ

一成「なにを!女狐め、衛宮は実行委員の仕事があるのだ!」グッ

ルヴィア「なによ!何様かしらこの坊主!シェロはあたくしと文化祭準備を共にするのよ!」ギュギューッ

一成「何をぬかすっ!」ググーッ

衛宮「なんでさーっ!?」ギュギューッググーッ

イリヤ「はぁ、なんとかこの姿を見られずに済んだ…」

大河「はいはいっ!放課後の居残り準備は禁止よーっ!もう遅いんだから帰った!帰った!」ガラッ

雀花「よし!明日の文化祭は成功間違いなしだなっ!」

美々「楽しみだね」

イリヤ「はぁ~、わたしは気が重いよ」

美遊「気にしないで、イリヤ。き、綺麗だった…よ?」

イリヤ「うーん、そんな風に言われてもなぁー」

那奈亀「うわぁ、外すっかり暗くなってるな」

雀花「やべえ、こんな遅くなったら親に叱られるよ、じゃあ、明日な」

イリヤ「あっ、さようならー」

美遊「イリヤ、帰ろうか?」

イリヤ「うん」

____

イリヤ「あれ、夜の町ってこんな静かだったっけ?」

美遊「どうしたの、イリヤ?」

イリヤ「いや、なんだかさ。いつもと様子が違うなって」

美遊「たしかに変身しないで、夜の町を歩くとなんだか怖いね」

イリヤ「…うん、えっ、あれ?」

チンドンチンドン…プー…

イリヤ美遊「!?」

…プー…チンドンチンドン

イリヤ「…こんな夜にチンドン屋さんかな?」

チンドン…チン…ドン…

イリヤ「今のなんだったのかなぁ?」

美遊「何だろう…?」

_____

__

イリヤ「ただいまー」ガラッ

セラ「あら、イリヤさんずいぶん遅いお帰りですね」

イリヤ「まぁ、ちょっといろいろあってねー」

士郎「明日、穂群原文化祭初日だから、準備で忙しかったんだろう。俺も一成にいろいろ頼まれちゃって大変だったよ」

イリヤ「お兄ちゃん、凛さんとルヴィアさんと一緒だったね?」

士郎「ああ、実行委員のやつらに色々付き合わされてたからなぁ。そういや、今日イリヤの教室まで行ったけど、居なかったなぁ」

イリヤ「えっ?あっ、うん。はは~ちょっとね?」アセッ

士郎「ん?」

セラ「あら、そういえば、イリヤさんのクラスは出し物、何をなさるんでした?」

イリヤ「んー、まぁ、喫茶店というか、純喫茶というか…その」

士郎「喫茶店かぁ、じゃあ、暇を見つけて必ず顔出すよ」

イリヤ「えっ?や、やだ!お兄ちゃんは来なくていいからっ!」

リズ「あれー、シロウ。イリヤに嫌われたー?」

士郎「なんでさー?」

イリヤの部屋

イリヤ「はぁ、なんか疲れたぁー」バタンキュー

ルビー「すっかりお疲れなご様子ですね、イリヤさん」スルッ

イリヤ「ほんと、くたくたー」グダー

ルビー「お仕事ご苦労様です。それも、今日で最後ですよ、明日が文化祭初日ですからねー」

イリヤ「うーん、でもなんかちょっと寂しい気もするなぁ…」

ルビー「どうしました、アンニュイな声をお出しになって」

イリヤ「…このまま文化祭も終わっちゃうのかなーって、なんて言うのかな?ずっと準備してきたから、なんかずっと続くみたいに思ってた」

ルビー「おっ、イリヤさんが珍しく青春してますねぇー」

イリヤ「茶化さないでよ、ルビー。雀花ちゃんとか龍子ちゃんたちがいて、美遊がいて、お兄ちゃんと、凛さんたちと、みんなで一緒にいて、楽しかったけど、それもずっと続くわけじゃないんだなーって」

ルビー「はいはい、わかりますよ。イリヤさんのお気持ち」

イリヤ「うん、このまま文化祭終わっちゃって、一年経ったらクラス替えもあるし、卒業しちゃったら、みんなバラバラになるし、その前に、お兄ちゃんだっていつまでも一緒ってわけにはいかないんだし…はぁ」

ルビー「イリヤさん」

イリヤ「みんな思い出になっちゃうのかな、って…」

ルビー「…イリヤさん」

イリヤ「ん、ルビー?」

ルビー「大丈夫ですよ!イリヤさんのご勇姿はいつもしっかりこの被写体に収めてますから!」シャキン

イリヤ「えっ?カメラモード?盗撮?…じゃあ、もしかして今日のメイド服も!」

ルビー「はいっ!バッチリ画像で保存いたしました!」

イリヤ「ええーっ!?返してーっ!?」

次の日

イリヤ「おはよー、みんなぁ」ガラッ

美々「あれ?イリヤちゃん、今日は早いねえ」

イリヤ「うん、ちょっと明日の準備をしようかなと思って」

雀花「明日から文化祭初日ってのに、うちのクラスの喫茶 店、全然内装終わってないからなぁ」

イリヤ「うん、がんばろう」

那奈亀「おい、あれ見ろよ。あれ」

雀花「…あれはたしか、高等部の文化祭実行委員。すっかりやつれたなぁ」

美々「柳洞一成さんだったよね?連日の文化祭準備、たいへんなのかなぁ」

那奈亀「あれは、まるで歩くストレス」

龍子「おい、お前らっ!テーブルクロス作ったぜぇ!」

雀花「おお龍子、サンキュ。やけにゴスロリなテーブルクロスだなぁって、おい…お前」

那奈亀「この布地には、圧倒的に見覚えがっ!」

雀花「コラーッ、龍子!お前、これあのゴスロリメイド服じゃねーか!こんなにバラバラにしやがって!どうすんだよ、メイド喫茶できねーじゃねえか!」

龍子「いや、だって、そこに余ってる布があったから、さぁー!」

那奈亀「フム、これはマズい」

イリヤ「いや、じゃあメイド喫茶はいったん忘れて、純喫茶に戻すという方向性は…」

美遊「ルヴィアさんに言って、明日余ってるメイド服借りてくる」

雀花「おお!でかした美遊!やっぱり持つべきものはプロメイドっ!」

士郎「どうした、一成?らしくないじゃないか」

一成「すまない、衛宮。連日のドタバタですっかり堪えてしまってな。これも日々の鍛練の及ばなさ故に、か…」グッタリ

凛「あちゃー、顔色酷いわよ。これじゃまさに歩くストレスね?衛宮君、救護室に連れて行ってあげたら?」

士郎「そうだな、一成、歩けるか?」

一成「…すまない、衛宮、貴殿の情けありがたく受けるとしよう…」

救護室

カレン「過労、疲労困憊、睡眠不足に自律神経も失調してるし、顔色も悪い。ようは、働きすぎ。今日は、家にゆっくり静養するべきね」

士郎「一成、柳洞寺まで送ってやるからゆっくり休めよ。明日は文化祭初日なんだし、さぁ?」

一成「む、無念…」

カレン「眠れないときは、これを1錠分かじればいい。トランキライザー」ホイッ

士郎「せ、先生、これ超強力下剤ってラベルが…」

カレン「チッ、あらごめんなさい。こっちだったわ、トランキライザー」

士郎「チッって、この人、もしかして確信犯…?」

柳洞寺

士郎「大丈夫か一成、柳洞寺についたぞ?」

一成「悪いな士郎、まったく不甲斐ないところを見せてしまって…」

士郎「気にするなよ一成、お前は働きすぎなんだ、ゆっくり休んで…」

一成「衛宮、こんなときに悪いが、ひとつ気になっていることがあるのだが」

士郎「ん、どうした?」

一成「その、明日は文化祭初日と言うセリフを前にも聞いたような気がするんだが…」

士郎「デジャヴって言うやつじゃないか?疲れてるんだよ」

一成「いや、どうもここ最近、妙に記憶が不正確な気がするんだ。昨日のことや、今日のこと、ふとすると一時間前のことまで、靄がかかったように思い出せないことがある…」

士郎「疲れて記憶が混乱しているんじゃ」

一成「いや、これはあくまで仮説なんだが、もしかすると、俺たちは文化祭前日という、同じ一日を何度も何度も繰り返しているんじゃないか?」

士郎「何をバカげたことを、言ってるんだよ。お前の妄想だろ?」

一成「衛宮、俺はひとつどうしても思い出せないことがあるんだが…」

士郎「?」

一成「俺たちは、いつから文化祭の準備をしているんだ?3日前か、4日前か、それとも、忘れてしまうほど前からか?」

士郎「いったい何を言ってるんだよ?」

一成「教えてくれよ、衛宮。今日はいったい何月の何日なんだ?今は夏なのか、それとも冬なのか?」

士郎「…まさか」

凛「あら、衛宮君って、そんなオカルト好きだったかしら?」

士郎「いや、一成が真剣な顔で言うからさ、だってあいつ冗談とか言わないやつだろ?だから」

凛「文化祭準備で疲れがたまってたのよ、変な気になっても仕方ないわ。衛宮君だって、そのまま信じてるわけじゃないわよね?」

士郎「まあ、今こうして、話してみるとあまりに荒唐無稽だし…」

ルヴィア「ちょっと、凛さん?」

士郎「おい遠坂、ルヴィアが呼んでるぞ」

凛「わかったわ、衛宮君ちょっと待ってて」

ルヴィア「さっきのシェロの話ですけど…」

凛「わかってるわ、でもあり得ない。そんな大掛かりな仕掛け、冬木の管理者である私が気付かないはずがないもの」

ルヴィア「それはそうですわ。でも、もし貴女が気付かない範囲で結界が張られているとしたらどうかしら?」

凛「ちょっとそれ、どういうこと?」

ルヴィア「例えば、この冬木市自体が、文化祭前日という固有結界の中だとしたら…」

凛「あら、そんなことあり得ないんじゃない?それこそ、そこまでする意味がわからないし、聖杯クラスの魔力が必要だわ」

ルヴィア「たしかに、先ほどのは憶測に過ぎませんわ。でも気を付けるに越したことはなくてよ?」

凛「わかってるわよ!文化祭に浮かれてる誰かさんと一緒にしないでよ!」

ルヴィア「まぁ、だれのことかしら?とりあえず、わたしはシェロの周りを守ってさしあげますわ!シェロ~!」

凛「アンタのことよ!バカロール!」

イリヤ「はぁー、やっと飾り付け終わったねー」

雀花「おう、あとは買い出し組が帰ってくれば準備完了だな?」

龍子「大変だーっ!」ダダダッ

美々「帰って来たみたい」

雀花「どうしたんだ、龍子?そんなに慌てて」

龍子「おう、それが大変なんだぞ、雀花?今起こったことを有りのまま話すぜ!信じられねーと思うが、俺だって…」

那奈亀「深山町までバスで買い出しに行こうとしたんだ。そしたら、どういうわけか穂群原の前に戻ってきちゃってて」

クロ「寝惚けて一週しちゃったんじゃないのー?」

那奈亀「うーん、循環バスじゃなかったはずなんだけどなー。それでタイガーに相談しようとしたら、タイガーも居ないし」

イリヤ「えっ、藤村先生が?」

雀花「うむ、着かないバス、消える大河、ミステリーだなぁ、って買い出しはどうするんだよ?」

美遊「藤村先生は今日はずっと見てない気がするけど、何かおかしい… 」

イリヤ「美遊?」

美遊「そうだ、藤村先生が明日は文化祭初日だって言ってたの聞いた気がする」

雀花「たしかに、大河の声で記憶に残ってるけど…」

那奈亀「しかし、タイガーは今日は不在、むむう」

士郎「おい、イリヤ!」ガラッ

イリヤ「えっ?お兄ちゃん?」

士郎「ああ、イリヤ。すっかり暗くなったから迎えに来たんだよ。駄目じゃないか、こんな遅くまで残って」

イリヤ「だって、文化祭の準備がー」

凛「ちょっと、イリヤ!来なさい!」バッ

イリヤ「ええーっ?なんで凛さんも?」

凛「なんでじゃないわよ、衛宮君、ちょっとイリヤ借りていくわよ」

士郎「えっ?なんでさ?」

ルヴィア「美遊も来なさい!」

美遊「はいっ」

イリヤ「ルヴィアさんもっ!?」

雀花「何だったんだろう、あの人たち?」

那奈亀「あれは穂群原高等部に君臨する赤い悪魔と、転校してきた謎の縦巻きロール!いやはや、風雲急を告げるといったところか!」

美々「イリヤちゃんのお兄さんですよね?はじめまして」

士郎「いや、こちらこそイリヤがいつもお世話になって…」


凛「ちょっとイリヤ、美遊?何かおかしなことは、なかった?」

イリヤ「おかしなことって、言われても…」

美遊「このところ、ずっと妙な違和感がありました。何か結界の中にいるような、現実感が希薄な感じというか」

ルヴィア「やはり、すでに異変が起きているようね、サファイア、魔力の探知を」

サファイア「はい、冬木市周辺に目立った魔力の痕跡は確認出来ません」

凛「どういうことかしら、明らかに異変が起きているのに…ルビー、あなたはどう思う?」

ルビー「そうですねぇ、こちらの探知網にいっさい掛からないところを見ると、よほど精巧に隠されているか、はたまた我々の予想の範疇を越える規模で魔力行使がなされているか、と言ったところですかね、凛さん」

ルヴィア「我々の範疇を越える規模、やはりそういうことかしら…」

凛「どういうことよ?」

ルヴィア「もし、浦島太郎だけではなく、浦島太郎の村ごと竜宮城に行ったとしたら…」

凛「まさか、そんなバカな話が…わかったわ。イリヤ、美遊、ちょっと手伝ってくれない?」

イリヤ「凛さん?」

凛「変身して、冬木市上空に浮上して欲しいの。そのまま旋回して、目視でこの町の状況を偵察してくれない?」

冬木市上空

ルビー「イリヤさん、何か気付きましたか」

イリヤ「いや、特に何も。でも夜の冬木ってこんな感じだっけ?妙に静かな気がするけど…」

ルビー「たしかに死んだように静まりかえってますね、あっ、美遊さん、サファイアちゃん、何かわかりましたかー?」

美遊「何もかわったところはないけど…イリヤも?」ヒョイッ

イリヤ「うん、全然」

サファイア「もう少し、冬木市全体が見えるくらいまで離れてみましょう」

イリヤ「そうだねぇ、あれ?これって?」

ルビー「おかしいですね、新都の灯りが見えないなんて」

美遊「いや、これはそんなんじゃない。冬木大橋から向こうが…ない」

イリヤ「そ、そんな…」

ルビー「新都の方向が完全に消失していますね、と言いますか、穂群原から周囲10キロ程度しか街が残っていないみたいですね」

サファイア「イリヤさん、美遊さん、大丈夫ですか?」

イリヤ「なんとか。…とりあえず行けるところまで行ってみようか?」

ルビー「なにか、ありますね。石像ですか?」

美遊「いや、これは…」

イリヤ「藤村…先生?」

ルビー「消えたと思ったら、こんなところで石になっていたんですね」

サファイア「裏に、もうひとつ石像があります」

イリヤ「これはたしか、お兄ちゃんの友達の…」

美遊「柳洞一成、文化祭の実行委員だった」

イリヤ「でも、どうしてこんなところに…」

______
___


凛「なるほど、にわかには信じがたい話だけど信じるしかないみたいね」

ルビー「はい、冬木市中心部を模倣した固有結界といったところです」

サファイア「街は当初はかなり忠実に再現されていましたが、我々が結界に気付いてから、変化を始めほとんどの家は無人で電気も消えた状態になりました」

ルヴィア「メカニズムも全然だけど、意図が読めないわね、わたくしたちに危害を加えることが目的じゃないみたいだし」

凛「それに、イリヤの友達たちも心配だわ、衛宮君が見てくれてるみたいだけど、あの子たちの家も消失したみたいだし」

ルヴィア「わたくしもオーギュストと連絡が取れませんわ。とりあえず、イリヤスフィールの家にお邪魔しましょうか?あそこだけ無事なみたいだし」

凛「ん、もしかして、それって…」

ルビー「はい?何かお気づきになりましたか、凛さん?」

凛「いえ、なんでもないわ、今はちょっと」

雀花「駄目だ、だれも出ないどころか、繋がりもしないぜ」ガチャッ

美々「雀花ちゃんのところも?どうしよう、これじゃみんな帰れなくなっちゃったよ…」

那奈亀「うーむ、これじゃあミステリーどころか、漂流教室ばりのホラーになってきたなぁ」

イリヤ「とりあえず、わたしの家は無事みたいだから、みんな今夜はうちに泊まっていって」

雀花「ん、イリヤのところは連絡取れたのか?」

イリヤ「うん、セラもリズも変わりないみたいだった」

那奈亀「じゃあ、悪いがイリヤの家にお邪魔になるとするかぁ」

龍子「なんか色々ワケわかんねーけど、お世話になるぜぇ!」

士郎「おい、遠坂?これは…いったい何が起こってるんだ?」

凛「そうね、衛宮君。色々不思議なことが起きてるけど、極力気にしないで居てくれる?たぶん、考えてもわからないと思うから」

士郎「ああ、たしかにまったく理解出来ないことだらけだ…俺は夢でも見ているのか?」

凛「…夢か。たしかに、そう考えるのが一番合理的かもしれないわ。私たちは、みんな誰かの夢の中にいるのかも」

士郎「…遠坂?」

イリヤ宅

龍子「おう!お邪魔になるぜぇー!」バーン

雀花「バカっ!すみません、お世話になります、だろっ!」スパーン

セラ「あらあら、イリヤとシロウのお友達ね?まぁ、こんなにたくさん!さぁ、上がってちょうだい」

美々「あの、すみません。お邪魔します」

セラ「はい、どうぞ。今夜は久しぶりに賑やかな夕食になりそうね」

士郎「セラ、急に押し掛けて悪かったな?何か手伝おうか?」

セラ「いえいえ、アインツベルンのメイドたるもの、この程度の急な来客に臆してしてはいけませんわ!」

リズ「なんか、セラやる気まんまん」

セラ「あなたもですよ!リーズリットっ!」

イリヤ「ははあ、まぁ、みんな上がって」

凛「じゃあ、衛宮君お邪魔になるわよ」

ルヴィア「まぁ、ここがシェロの家。つまり、わたくしとシェロがひとつ屋根のしたに…同棲?ここがわたくしとシェロのスイートホーム?」

凛「ちょっと、なに恥ずかしいことをペラペラ言ってるんだか、廊下で立ち止まらないでいただけるかしら?」


龍子「イリヤのお母さん!おかわりを頼むぜぇ!」ガヤガヤ

雀花「おい、龍子!箸を持ってうろちょろするなよ。あぶねーじゃねえか!」ガヤガヤ

セラ「おかわりはたくさん用意しましたから、お構い無く、あせらず食べてくださいね?」

美々「ほんとにありがとうございます」

リズ「セラ、おかわりー」

セラ「もう!リーズリット!なんであなたまでいっしょになって、だいたいあなたはメイドとしての…」

イリヤ「美遊、大丈夫?」

美遊「うん、ただあんまり大勢で食事をしたことがないから、ちょっと…」

イリヤ「ふーん、そうなんだ。でも、大勢で食べたほうが、ご飯も美味しいよ?」

士郎「そうだなぁ、イリヤ。こんなに人がいると料理のしがいがあるよな、明日は俺は作るよ」

イリヤ「わーい、明日はお兄ちゃんの料理だー!」

クロ「まぁ、明日があったらだけどね」

イリヤ「ちょっと、クロ?それどういう意味よ?」

クロ「あら、忘れてたわけじゃないわよね?文化祭前日っていう一日に閉じ込められてるってことを。まぁ、案外楽しそうだから良いけどね?」

凛「まぁ、それについては現状出来ることは何もないし、今は様子を見るしかないわ。あっ、悪いけど、衛宮君?お塩取ってくれない?」

士郎「おう、遠坂」ホイッ

ルヴィア「むむう、シェロの隣をあの泥棒猫!シェロー、わたくしにもお塩を取ってくださらないかしら?」

凛「あら、あなたの目の前にあるが目に入らないのかしら?」フッ

ルヴィア「キーッ、何よ、忌々しいツインテール!」

イリヤ「賑やかなのはいいけど、この二人はちょっと…」

雀花「私の名は、栗原雀花。
かつては穂群原学園の初等部に通う平凡な生徒であり、日常生活と同人活動に励む下駄履きの生活者であった…

しかし、あの文化祭前日のある日を境に、私の運命は一変してしまった。
あの夜、友人のイリヤスフィールの家に居候を始めた日から、世界は開き直ったように装いを変えてしまったのだ。

いつもと同じ街…いつもと同じ角店…いつもと同じ公園…だが、何かが違う。

路上からは行き来する車の姿が消え…建売り住宅の庭先にピアノの音も途絶え、牛丼屋のカウンターであわただしく食事する人の姿もない。

この街に、いや、この世界に我々だけを残し、あのなつかしい人々は突然その姿を消してしまったのだ。……数日を経ずして荒廃という名の時が駆けぬけていった。

かくも静かな、かくもあっけない週末をいったいだれが予想しえたであろう。人類が、過去、数千年にわたり営々として築いてきた文明と共に西暦は終わった。しかし、残された我々にとって終末は新たなる始まりにすぎない。

世界が終わりを告げたその日から、我々の生きのびるための闘いの日々が始まったのである…」

美々「雀花ちゃん、いったいだれに話しかけてるのかな?」

那奈亀「たぶん、なんかスイッチが入っちゃったんだろー」

雀花「栗原雀花著、『穂群原前史』一巻、『終末を迎えて』序説第三章より抜粋…」

龍子「おい、お前ら!食料の調達に行くぜー!」

セラ「すいませんね、私たちは朝食の支度をしてますので…あら?ルヴィアさん、お上手ですこと」

ルヴィア「わたくしは、エーデルフェルト家の当主として、ありとあらゆる有職古実、諸芸に通じてますのよ。この程度の家事など朝飯前ですわ」

セラ「ほんとに助かるわぁ、イリヤさんにも見習っていただきたいですね」

イリヤ「ちょっと、セラ?それ、どーゆうことよー?」

凛「あんたたち…あまり、朝から大きい声出さないで、くれる…?」

士郎「遠坂…だよな?どうしたんだ、顔色悪いぞ?」

凛「朝に…弱いのよ。…ほっといてくれる?」

スーパー

雀花「おーし!早速、セラさんから言われたものを片っ端から詰めていくぞ」

那奈亀「でも、街がなんか感じなのに、スーパーの在庫だけは補充されてるのが妙だなー」

美々「でも、そうじゃなかったら食べるものなくなっちゃうし、ここがあって良かったね」

雀花「たしかに、妙に親切設計なんだよな?イリヤの家だけ、電気も水道もガスもなぜか供給されてるし…おい、龍子?」

龍子「な、なんだよ、雀花?」

雀花「その胸ポケットの物は何だ?」

龍子「ギクッ…これ、新発売のやつで、食べてみたかったんだよ?中にあんこが入ってて…」

雀花「龍子、棚に返してこい。この冬木の食料は全て我々の共有財産だぞ?セラさんの指示にない食料の無断持ち出しは、言語道断、軍事法廷を開くことになるぞ」

龍子「そ、そんなー!俺はほんのでき心で~」

那奈亀「夕食の材料代、計二千七百三十六円、たしかに借用いたしました、と」

雀花「よし、じゃあイリヤ邸まで食料を輸送開始するか」

イリヤ宅

那奈亀「ただいま食糧の調達完了しましたー!」

セラ「あら、御苦労様。朝ごはんできているわよ。みなさん席に、あれ?」

イリヤ「ん?どうしたの、セラ?」

セラ「いえ、ルヴィアさんがいらっしゃらないわ、どうしたのかしら?さっきまで手伝ってくださってたのに…」

士郎「ほんとうだ、どうしたんだろう?遠坂、なにか知ってるか?」

凛「わたしが知ってるわけないじゃない…」

イリヤ「ルヴィアさん、どこ行っちゃったんだろう?」

美遊「まさか、藤村先生みたいに…」

イリヤ「わたし、ちょっと探してくる!ルビーお願い、ってあれ?」

凛「どうしたのよ、イリヤ?」

イリヤ「ルビーが、呼んでも出てこない…」

凛「それって…、美遊、サファイアはどう?」

美遊「サファイアも反応が…ない」



イリヤ「罠?」

凛「そう、今夜ある人物をここに呼び出したわ。そろそろ来るはずよ」

イリヤ「ある人物って?」

凛「たぶんこの結界の主というか、黒幕ね。藤村先生が消えて、ルヴィアが消えて、ルビーたちも消えて、次に消されるのは私に決まってるじゃない?」

イリヤ「凛さん?」

凛「だから、先手をうってこちらから呼び出したのよ。だいたい、最初から考えればわかることだったわ。この夢の中心にいるのが、誰なのか…」

クロ「あら、凛?あなたにしては、なかなか鋭いじゃない」スッ

イリヤ「クロ?なんで、あなたがここに?」

凛「まんまと姿を現したわね?クロ、いや、アヴェンジャーのクラスカード!」

クロ「全部、お見通しだったかしら。でも、あなたたちに何ができるわけ?ここは私の夢の中よ?礼装も封じたし、変身もできないんじゃどうしようもないんじゃない?」

凛「たしかに、それはそうだけど」

クロ「そもそも、私は良いことをしてあげてたのよ?ねぇ、イリヤ?」

イリヤ「クロ、それ、どういうこと?」

クロ「あら、あなたこう言ってたじゃない?文化祭が始まるのが、寂しい。いつか、みんなと別れてしまうのが辛いって。だから、いつまでも、終わることのない文化祭前日を夢見せてあげたのに」

イリヤ「そ、そんなこと…」

クロ「楽しい夢なら、別に醒めなくても良いんじゃない?」

イリヤ「いや、違うよ。そんなのおかしいよ」

クロ「何を言ってるのよ、イリヤ?ここなら、いつまでもみんなと一緒に入れるし、邪魔なヤツはすぐに消しちゃえるのよ?」

イリヤ「邪魔なひとって、藤村先生や、ルヴィアさんのこと?やっぱり、それは違うよ」

クロ「ふん、何がよ?」

イリヤ「たしかに、夢ならいつまでも楽しいことが続くし、イヤなことは避けれちゃうかもしれないけど、そんなの違うよ」

凛「イリヤ」

イリヤ「藤村先生だって、ルヴィアさんだって、苦手なところはあるけど、一緒に生活してれば良いところをいっぱい見つけられるし。うん、他のことだってそう、イヤなことから逃げてたら、ほんとにやりたいこととか楽しいことなんて、全然手に入らないよ?」

クロ「な、何よ?じゃあ、イリヤはこの夢が醒めて欲しいわけ?ここなら、ずっと楽しく暮らせるのよ?」

凛「よしっ!だいぶ効いてきたみたいね、今よ美遊ッ!」

美遊「はい!」シュッ

イリヤ「美遊!」

ルビー「今ですよ、イリヤさん!」

イリヤ「ルビー、どうして?」

凛「アベンジャーの鏡面世界は、イリヤ、あなたの心を通じての心象具現化よ。だから、イリヤが拒めばそのぶん、結界の力は弱まる…」

クロ「ほんとに、いいの?…イリヤ?」

イリヤ「うん、帰ろう。もとの世界に、こんな終わりのない夢は終わりにしよう」

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イリヤ「…あれ?ここは?」

士郎「イ、イリヤ!イリヤ!!」

イリヤ「あれ、お兄…ちゃん?違う、お兄ちゃんじゃない…」

バーサーカー「grrrrrrr!!!!」

イリヤ「バーサーカー!!」

ギルガメッシュ「業腹だが、こやつには最上級の武具しか通じぬらしい。ふん、子守りはそこまでだ、バーサーカー!」

イリヤ「バーサーカーは誰にも負けない!バーサーカーは世界で一番強いんだから!」

バーサーカー「grrrrrrr!!!!」

イリヤ「いっけえ!バーサーカー!!」

ギルガメッシュ「きさまの敗北は決定した!主共々死ぬが良いッ!」シュウウウウ

イリヤ「ち、違う、…ここはわたしの居た世界じゃない…こんな」

バーサーカー「夢から醒める方法を、知っていますか?」

イリヤ「バーサーカー?」

バーサーカー「夢の中では、誰でも知っています。でも、夢から醒めると忘れてしまうのです。それは…」

イリヤ「それは?」

バーサーカー「簡単なことです。目が覚めたときに一番会いたいひとの顔を思い浮かべるのです」

イリヤ「ありがとう、バーサーカー…」

バーサーカー「はい、いってらっしゃい。…イリヤ」

イリヤ「もとの世界に、帰るね…………美遊」

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イリヤ「はぁ…あ、あれ?ここは…美遊?」

美遊「…イリヤ?」

イリヤ「どうしたの、美遊?」

美遊「夢を見てたみたい、イリヤがいて、凛さんがいて、ルヴィアさんがいて、雀花ちゃんや龍子ちゃんやみんなも…」

イリヤ「美遊、それは夢、夢だよ」

美遊「…イリヤ」

龍子「よーし、さっそく明日の準備をーって」ガラッ

那奈亀「あれっ?イリヤと美遊?」

美々「イリヤちゃんと、美遊ちゃん、何をしてたの?」

イリヤ「そ、それは…」

美遊「…///」

雀花「おいっ、なんか二人様子がおかしいぞ?」

イリヤ「い、いや、違うよ、なんでもないよー!」

美遊「…///」





___完___

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