【アイマス】雪の花が咲くように (111)

いつものように、事務所への道を歩く。
朝の空気は気持ちいいけれど、最近少しずつ暑くなってきた。
夏が近づいている。


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「おっはよー、雪歩っ」

「おはよう、真ちゃん」

爽やかな声で話しかけてきた彼女は、額にうっすらと汗をにじませていた。
凛々しい顔立ちにショートカット、額の汗すら似合ってしまう格好良さ。
本人にこの話をすると、ボクは可愛くなりたいんだって反論されるけど、この格好良さこそ真ちゃんが真ちゃんたる所以だと思う。

「今日も走ってきたの?」

「へへっ、体を動かさないとなんか調子出なくってさ」

真ちゃんは軽く答えているけど、かなりの距離のはず。
それなのに、大して息を乱していないのは流石だと思う。
私にはとても真似できないなぁ。


2人で並んで、他愛のない話をしながら歩くと事務所まではすぐだった。

「おはようございまーす」

元気にあいさつをしながら扉を開ける真ちゃん。

「おはようございますぅ」

私もそのあとに続く。
この立ち位置がお決まりになりつつあるなぁ。
何というかこう、とても安心できる。


「おはよう真、雪歩」

「おはよう2人とも」

事務所の中には、春香ちゃんと千早ちゃんがいた。
少し難しそうな顔の千早ちゃんに、春香ちゃんが何か説明していたみたい。
そういえば千早ちゃん、機械が苦手って言ってたっけ。

「ありがとう春香。あとは自分でなんとかしてみるわ」

「いえいえ、お役に立てたなら何よりだよ」

春香ちゃんは笑顔が印象的で、見てるこっちまで元気をもらえる
いつも前向きだし、事務所のムードメーカーになっている。

千早ちゃんは今すぐに歌手で通用するんじゃないかってくらい歌が上手で。
それなのにいつも努力を怠らない。
誰よりも真剣に歌に取り組む姿勢は、私の理想でもある。

私の所属する事務所にはほかにもいろんな人がいるけど、みんな私にはないすごいところをいっぱい持っていて。
ホントに私なんかがここにいていいのかな、って思うことがある。
私なんてダメダメだし、ひんそーでひんにゅーでちんちくりんだし……


――――――
――――
――

「おはよう諸君」

後ろ向きな考えの没頭していて、社長に気づいていませんでした。
それに、いつの間にかみんな揃っている。

「今日は嬉しいお知らせがある。我が765プロに新しくプロデューサーがやってくることになった」

その一言に事務所が沸き立つ。
アイドルとしてデビューしている私たちだけど、売れているとは言い難い。
そんな状況も変わるんじゃないかって、みんな期待しているみたい。

最初に見てもらえるのは1人。
慣れてきたら複数人担当してもらう予定、ということらしい。

「入ってきてくれたまえ」

社長の声に、みんなの視線が集まる。
社長室の扉がゆっくりと開く。
ほんの一瞬、事務所の空気が凍りついた。


彫りの深い顔立ちは男性的な魅力を湛えていると言えなくもない。
ただ、鋭すぎる眼差しがすべてを台無しにしている。
ハッキリ言うと、目つきが悪い。
それが、男性の印象を『強面』の一言に集約させていた。

「っ!!」

律子さん、四条さん、あずささんや千早ちゃんは特に目立った反応はなかったけど、他のみんなは程度の差はあっても驚いていたみたい。
私はというと、驚きの声を出さないようにするので精一杯でした。

「…、………。……。」

何か話をしていたみたいだけど、全然耳に入ってこなかった。
その場が解散になると、私は逃げ出すようにレッスンに向かう。
ふと、男性の目が何かを訴えてきたような気がしたけど、気にする余裕すらありませんでした。


――――――
――――
――

「ただ今戻りましたぁ」

「あら、お帰り雪歩ちゃん」

夕方、事務所に戻ると小鳥さんが迎えてくれた。
プロデューサーの姿は見当たらない。
……少しだけホッとした。


「プロデューサーさんなら、今日はもう帰ったわよ?」

キョロキョロと辺りを見回していた私に、小鳥さんが教えてくれる。
私、そんなに分かりやすかったかなぁ。

「本格的な業務は明日からなの」

「そ、そうなんですか」

ちょっと安心してしまった自分がいる。
でも、明日には誰の担当になるかが決まるわけで。
あんな怖そうな男の人が、もし私のプロデューサーになったら……

「……うぅ」


思考がマイナスへマイナスへと傾いていく。
とりあえずお茶でも飲んで気分転換をしよう。

「あぁ、そうそう。給湯室にプロデューサーさんからの差し入れがあるから」

言われて、机の上の箱に気付く。
せっかくだから小鳥さんと一緒に頂こう。

「小鳥さんもいかがですかぁ?」

「あら、ありがとう雪歩ちゃん」

小鳥さんは待ってましたとばかりに仕事を切り上げる。
2人分のお茶を淹れ、差し入れの箱を持ってソファーへ。


「これはお餅……ですか?」

箱の中には一口サイズのお餅が入っていた。
何というかそっけない見た目です。

「疲れた時には甘い物だけど洋菓子はよくわからないからって」

甘い物?
甘いお餅なのかな、と思って食べてみるとお餅の中には甘辛い餡が入っていた。

「面白いでしょ?みたらし団子の表裏が逆になったお菓子なの。手を汚さずに食べられるから女の子向きだろうって」

確かに美味しいし面白いし、おまけに食べやすい。
こんなお菓子があったんだ。


「ね、見た目だけじゃわからないものでしょ?」

小鳥さんが意味ありげにこちらを見つめてくる。
プロデューサーのことを言っているんでしょう。
見た目が怖いプロデューサーだけど、差し入れ一つにも気を遣っているのがわかります。
少なくとも、気配りができる人なのは間違いないです。

「……そうですね」

見た目だけで判断して、勝手にイメージを膨らませて。
それはとっても失礼なことですよね。

……でも、やっぱり男の人は苦手です。


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「おはようござ……」

翌朝、いつものように扉を開けると不思議な光景が広がっていました。

「おー、兄ちゃんなかなかやるねー」

「まあ、お前らくらいならどうってことない」

「で、本当のところは?」

「さすがに長時間はキツイ」

プロデューサーの両腕にぶら下がる亜美ちゃんと真美ちゃん。
一方のプロデューサーさんは迷惑そうな顔一つせずに2人を振り回している。
なんだろう、これ。


「おら、もうおしまい。あー、仕事前に疲れるとか意味が分からん」

そう言って2人を降ろしたプロデューサーが、軽く肩を回している。

「むむ、もう限界ですかな?」

「しょーがない、今日のところはこれくらいにしておいてあげるよ」

事の経緯はわからないけど、2人がプロデューサーにイタズラしているうちにああなっていた、のかな?
その割にプロデューサーは怒るどころか笑っている。

「しかしお前ら、いい奴だな」

次に出てきた言葉は、2人にも、私にも意外なものでした。


「んん?兄ちゃんは何を言ってるのかな」

「亜美たちはただ兄ちゃんで遊んでただけだよ?」

亜美ちゃんの言い様はどうかと思うけど、遊ばれてたほうが感謝するってどういうことだろう。
普通は怒るとか、説教をするとか、そういう流れになると思うんだけど。

「昨日の顔合わせの時に俺の顔見て引いちまったから、その詫びも兼ねてるんだろ?」

特に気分を害した様子もなく、プロデューサーは淡々と告げた。
亜美ちゃん真美ちゃんが絶句しているところを見ると、図星らしい。
私の心に、ちくりとトゲが刺さったような気がした。

「俺の人相が悪いのなんて百も承知だから、そんなに気にしなくていいぞ?」


プロデューサーがちらっとこちらを見た気がする。
私にも何かを伝えようとしているのかな。

「いい歳した大人でも珍しくない反応だからな。むしろ、昨日の今日で切り替えて行動できるお前らは凄いよ」

そういってポンポンと2人の頭を撫でるプロデューサーは、嬉しそうに笑っていた。
ゆっくり慣れていけばいいからと、そう言われたようだった。

「うあうあー、なんか調子狂うよー」

「……しかし真美隊員、これはつまりこれからもイタズラOKってことではないでしょうか」

「おお、さすが亜美隊員。良いところに気が付いたね」

「まぁ、時と場合と程度を考えてな」

2人のコソコソ話にしっかりと釘を刺しておいて、プロデューサーは自分のデスクに向かっていった。
昨日小鳥さんも言っていたけど、プロデューサーって本当は優しい人なのかな。


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ソファーでお茶を飲んでいると社長室に呼び出されました。
普段入ることのない部屋なのでちょっと緊張します。

「彼に、君のプロデュースを担当してもらおうと思うのだよ」

「ふええっ!?」

その言葉とともに扉が開き、プロデューサーが入ってきた。
頭では理解していても、やっぱりまだ怖いです。

「社長……まだ早くないですか?」

プロデューサーは、ポリポリと頭をかきながら社長に確認している。
決まり悪そうに見えるのは、私のせいなんだろう。


「私はそうは思わないがね。君ならば大丈夫だろう」

「……とりあえず話し合ってみます。雪歩、後で屋上に来てくれ」

それだけを言い残し、プロデューサーは部屋を出ていく。
残された私は、事態を理解するので精一杯でした。

「私はね、彼なら萩原君の力を十二分に引き出してくれると思うのだよ」

社長はそう言うけれど……
混乱から立ち直れない私を見て社長は続ける。

「まずは話をして、お互いを知るのが先決だね」


――――――
――――
――

屋上に行くと、なぜか扉が開けっ放しになっていました。
当のプロデューサーは端の手摺りに体重を預け、道路を眺めています。

「あ、あの……」

「おう、来たか」

ゆっくりと振り返るプロデューサー。
こちらからは逆光になっているせいか顔がはっきりと見えません。

「最初に言っておくけど、断っていいからな?」


プロデューサーはその場を動かずに告げる。
私との距離は随分とあって、そのお陰で落ち着いて話ができました。

「そ、そんな断るだなんて」

「男が苦手な雪歩が、俺みたいな人相悪いのと一緒でやっていけるか?」

あっさりと、私の葛藤に切り込んできました。
でも、ここで逃げちゃダメなんです。

「わ、私は、弱くてダメダメな自分を変えたくて、アイドルになりました。だから、に、逃げたく、ないんです」

精一杯の勇気を振り絞る。
この気持ちは伝わるでしょうか。


「答える前に一つ質問。俺、怖い?」

そう言うとプロデューサーは体を起こし、こちらにゆっくりと歩いてきます。
今まで逆光で見えなかった顔が、はっきりと見えるようになりました。
プロデューサーの表情に特別な感情は浮かんでいなかったけれど、やっぱり少し……怖い。

「……うぅ、やっぱり、ちょっと怖いですぅ」

プロデューサーを怖く感じるのはのは外見のせいだって、頭では理解してるのに。
相手が男の人ってだけで緊張してしまう。
でも、逃げたくないっていう気持ちは本当。
何とか目をそらさないように、それだけに集中していました。


「怖いけど逃げたくない、か。ちょっと過小評価してたみたいだな」

少しずつ近づいてくるプロデューサーにどうしても体がこわばってしまう。
思わず目を閉じそうになったとき、プロデューサーが足を止めた。

「これからよろしくな」

「は、はいぃ」

これから、この人が私のプロデューサー。
そういえば、今までもプロデューサーは私が何とか頑張れる距離を保ってくれていた気がします。
やっぱり本当は優しい人、なのかな。

「焦る必要はないから。一歩ずつ着実に進んでいこう」

その笑顔と言葉は、私の中にスッと入りこんできました。
私は変われるのかな。

「よろしくお願いしますぅ」

とりあえず推敲が終わっているところまで
ちょっと長めにこんな感じのが続くと思います

読んでくれる人がいたならば、また近いうちに


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あの後すぐ、プロデューサーは外回りに出かけて行きました。
私は午後のレッスンまで時間があるのでひとまず休憩です。

「あら、なかなかイケるじゃない」

「美味しいよね、たまごボーロ」

「ふーん、たまごボーロっていうのこれ。口の中がちょっともそもそするけど」

声のほうへ行くと、伊織ちゃんとやよいちゃんも給湯室で休憩中のようです。

「2人とも、お茶飲む?」

「あ、雪歩さん。ありがとうございまーす」

「そうね。お願いしてもいいかしら」


3人分のお茶を淹れて、たまごボーロをつまむ。
どこか懐かしい、ホッとする味。

「お茶と合うね、これ」

「はいっ。あ、でも雪歩さんが淹れてくれたお茶が美味しいからかなーって思います」

「ふふ、ありがとうやよいちゃん」

お菓子の甘みとお茶の渋み。
それぞれにいいところがあって、組み合わせるとお互いに引き立てあって。

「そういえば雪歩。あのプロデューサーが担当になったって聞いたけど」

「うん。さっきその話をしてたところだよ」

「大丈夫なの?あんなのと一緒で」


多分、心配してくれてるんでしょう。
私が男の人が苦手っていうのはみんな知ってることだし。
その上プロデューサーは見た目が……だし。
でも、ちょっと言葉が悪くないかな。

「伊織ちゃん!そういう言い方したらダメだよ」

「や、やよい?」

訂正しようか逡巡していると、横からやよいちゃんが声を上げました。
ちょっと意外。
伊織ちゃんも同感のようで、目を大きく見開いています。


「こうやって、わざわざお菓子を差し入れしてくれたプロデューサーに失礼だよ?」

あ、今日のこれもプロデューサーの差し入れだったんだ。
プロデューサーの好み、よくわかりません。

「伊織ちゃん、プロデューサーとちゃんとお話しした?」

「う、まだ、そんなには……」

「じゃあ今度一緒にプロデューサーにお礼を言いに行って、お話ししましょう!」

「え?ちょっとやよい?」

「話してみればどんな人かわかるかなーって」

「確かに間違ってはいないけど……」


どうやらこのまま伊織ちゃんが押し切られそうです。
でも、やよいちゃんが背中を押す側になるのも少し珍しい気がします。
ちょっとお姉さんっぽいかな。

「伊織ちゃん、心配してくれてありがと。でも、プロデューサーとも話して決めたの。頑張ってみるって」

「ふ、ふん。雪歩が問題ないなら別にいいのよ」

そっぽを向いたのは多分照れ隠し。
伊織ちゃん、本当に優しいなぁ。
これで私より年下なんだから、ちょっと自信なくしちゃうかも。


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商業施設のイベントに参加させていただいたり、地元のFMでゲストに呼ばれたり。
プロデューサーが付いてくれるようになっても、お仕事の内容にあんまり変化はありません。
肝心の私の実力が劇的に変わったわけではないので当然ですが。

今日は美希ちゃんと一緒にダンスレッスン。
プロデューサーはいろんな組み合わせでレッスンをする方針みたい。
お互いに刺激し合うのが目的なのかな、っていうのは真ちゃんの言葉です。
私も確かにそう思うんだけど、みんなと一緒にレッスンすればするほど自分のダメダメさを見せつけられるようで……


「…はぁっ、はぁ……」

「うーん、雪歩は動きがちょっと小さい感じなの」

一通りのメニューを消化した後、美希ちゃんがアドバイスをくれる……けど。
膝に手をつき、立っているのが精いっぱいの私の耳にはあんまり入ってこなくて。

「体全体でおっきく動けば、もっといい感じになるって思うな」

同じメニューをこなしてるはずなのに、美希ちゃんにはまだまだ余裕がありそう。
手を抜いているとかそんな様子はなくて、でもこんなに差があるんだ。


「雪歩はもうちょっと体力つけなくちゃいかんな」

後ろで見ていたプロデューサーの声が聞こえる。
ちょっとだけ息も整ってきて、顔を上げる余裕ができました。

「体力に自信がないから思い切って動けないところがある」

「うぅ、その通りですぅ」

「あと、動きの軸と重心がブレる傾向にあるからその辺も注意な」

「わ、わかりましたぁ」

「で、美希のほうは俺じゃアドバイスできん。力不足ですまんな」

美希ちゃんのほうに顔を向けたプロデューサーがポリポリと頭をかいている。


「敢えて言うなら、毎回これくらい頑張ってくれると助かるんだが」

そういえば、今日の美希ちゃんはいつもよりちょっと気合が入っていたような。
何かあったのかな?

「むー、メンドクサイからや、なの。それよりプロデューサー、約束、守ってくれるよね?」

「はいはい。あんまり期待するなよ?」

約束?
ふと出てきた単語を不思議に思っているとプロデューサーがお弁当箱を持ってきました。
木で出来ているらしい、飾り気のない箱。
確か、曲げわっぱとか言ったっけ。
いまさらだけど、プロデューサーは年の割に趣味が渋すぎる気がします。


「大した出来じゃないが、腹が減ってればそれなりに美味いだろう」

「え、プロデューサーが作ってきたんですか?」

「美希が、ご褒美あれば頑張るって言ってたからな」

「何がいいって聞かれたから、おにぎり作って来てってお願いしたの」

「買ってきたほうが確実だと思うんだがな」

「わかってないの。おにぎりは人が握ってこそ、なの」

「まあいいや、どうぞ召し上がれ」

「わ、私もいいんですか?」


プロデューサーが差し出したお弁当箱は3つ。
美希ちゃんと、プロデューサーと、私ってことでしょうか。

「1人分も3人分も大して変わらんからな」

「あ、ありがとうございますぅ」

おにぎりの具は、鮭に昆布、梅干し。
付け合せに白菜のお漬物。
うん分かった、プロデューサーは和の人なんだ。

「どうだ、美希?」

「思ってたより普通なの。でも、なんか優しい味って感じ」

「解釈に困る評価だな」

「次は味にも期待してるの」

「なんだ、次もあるのか?」

優しい味っていう美希ちゃんの表現が、なんだか腑に落ちました。

とりあえずここまで
お読みいただけたなら幸いです

また近いうちに


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小さなお仕事と、レッスンの日々。
少しずつ私も変われているような気がしてきました。
プロデューサーとの距離も、以前よりは縮めることができたと思います。

「雪歩、今週末オーディション入ったから」

そんな私の心の内を知ってか知らずか、プロデューサーが仕事を取ってきてくれました。
普段よりも大きな仕事、失敗しないようにしないと。

「頑張りますぅ」

「よし、まずは肩の力を抜け」

プロデューサーが、ちょっと意地悪い笑顔を浮かべています。
そんなに分かりやすく緊張していたんでしょうか。

「今の雪歩の100%が出せれば合格も夢じゃないけど、それよりも今、雪歩がどれだけできるのかを見せてくれればそれでいい」

「うぅ、それはそれでプレッシャーですぅ」

「まぁ、楽に行こう」

そういうプロデューサーの表情は本当に気楽そのもので。
合格を信じてくれているからなのか、期待していないからなのか、どちらか判然としませんでした。


――――――
――――
――

オーディションの帰り道。
夕闇迫る公園のベンチで小さくなる私と、傍にはプロデューサー。

「……うぅっ、ごめんなさいぃ」

とにかく全力を出せるように頑張ろうって思っていたんですが。
控室の雰囲気、会場の空気に呑まれてしまった私は頭が真っ白になってしまって。
……こうして、プロデューサーに謝っています。

「気にするな……ってのも無理な話か」

「……私、ちょっとは変われたかなって、思ってたんです。でも、やっぱり私はダメダメなままで……」


「雪歩」

穏やかな声が遮るように響く。

「神様って信じるか?」

「神様……ですか?」

プロデューサーの意図がよくわからりません。
小首を傾げていると、続きを話してくれました。


「人はみんな、これだけは裏切れない、嘘を吐けないっていう何かが心の中にあると思う。自分が誓いを立てた何か、自分が追い求める何かが」

自分への誓い、裏切れないもの……
ふと、アイドルになろうと決心した時の気持ちが蘇ってきました。

「夢や信念って言い換えてもいい。雪歩の中の神様は、今日の失敗で諦めていいって言ってるか?」

私は弱い自分を変えたくてアイドルを目指して。
少しずつ変われてきたかなって思えるようになって。
今日の出来事でまだまだなんだって思い知って。
……でも。
……それでも。

「……逃げたくないです。諦めたくないです」

「その言葉が聞きたかった」


プロデューサーが嬉しそうに笑っている。
こんな優しい表情をする人だったっけ。

「失敗だろうがなんだろうが、全部飲みこんで自分のものにしていこう」

「が、頑張ります」

「焦らなくていい、一歩ずつ着実に前に進もう」

「はいっ」

気付くと空には星が瞬いていました。

「そして、ゆくゆくはトップアイドル、ってな」

その星の一つを指さしながら、プロデューサーがウィンクする。

「プロデューサー、似合いませんよぅ」

そう言って笑いあう。
私はようやくスタートラインに立てた気がした。


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午後の日差しがじりじりと地面を焦がしている。
このままでは茹で上がってしまいそう。
公園の隅に佇む東屋に、何とか逃げ込むことができました。
空は抜けるように青いのに、私の心は沈みがちで。
東屋が作り出す影の中、さらに深い陰が私を包んでいる気がします。

「……また、駄目だったなぁ」

最初のオーディションに落ちてから数週間。
プロデューサーはいくつかの仕事を取って来てくれました。
でも私は、成果を出すことができていません。


審査員席にずらりと並んだ男の人に、思わず体が強張ってしまった。
一つのミスを引き摺って、思い切ったアピールができなかった。
ペース配分を誤ったせいで、最後まで体力が持たなかった。
そうして失敗を重ねるうち、自分が固く、小さくなっていくようで。

「少しは成長できたと思ってたんだけどなぁ」

こうしている間にも、プロデューサーは次の仕事を取るために駆け回ってくれている。
でも私は、今のままでは何をやってもうまくいきそうにありません。
一度頭を真っ白にして、気持ちを切り替えようと外に出たまではよかったんですが。
夏の太陽が作る白と黒のコントラストの中、さらに沈んでしまいそうです。

「……はぁ」


「あらあら、雪歩ちゃんじゃない」

思わず出た溜め息の向こうから、ほんわかとした声が聞こえてきました。

「……ほぇ?」

「こんにちは、雪歩ちゃん」

白い光の幕を割って現れたのは、いつもと同じ優しい笑みを浮かべたあずささんでした。

「あずささん、今日はお仕事のはずじゃ……」

「うふふ。思ったよりも早く終わったから、お散歩しながら事務所に帰ろうかなって」

「で、でもこの公園、事務所と逆方向ですよ?」

今日のあずささんの現場から事務所に帰るなら、こっちの方角へは来るはずないんですが。
寄り道というにはあまりにも大げさにコースから外れています。


「あ、あら?また迷っちゃったのかしら」

「一緒に事務所まで帰りますか?」

「ありがとう雪歩ちゃん。でも、その前に……」

言いながら、あずささんが私の隣に腰かけます。
私の瞳の奥を覗き込むようにして、あずささんが問いかけてきました。

「さっきの溜め息、何か悩み事かしら?」

のんびりしているようで鋭くて。
包み込むような優しさがあって。
そんなあずささんに、隠し事はできそうもありませんでした。


――――――
――――
――

今の気持ちを洗いざらい吐き出すと、だいぶ楽になりました。

お仕事で失敗続きなこと。
悪い方へ悪い方へ考えてしまって、心の中に黒い雲がどんどん膨らんでしまっていること。
何より、プロデューサーの期待に応えられていないこと。

あずささんは時折相槌を挟むだけで、静かに話を聞いてくれました。
少し涙ぐんでしまったのは、こちらを見つめる目があまりにも優しかったからでしょう。


「雪歩ちゃん、変わったわね」

予期せぬ言葉に、我知らず顔を上げていました。
あずささんは、嬉しそうな笑顔を浮かべています。

「以前の雪歩ちゃんなら自分のことで精いっぱいだったのに。今はプロデューサーさんの期待に応えたいって思っているんでしょう?」

言われてみればそうかもしれません。
以前の私なら、躓いた時に周りを見る余裕はなかったと思います。


「でもね、ちょっと思い出して欲しいの。仕事で失敗したとき、プロデューサーさんは雪歩ちゃんを責めた?」

そういえば、プロデューサーは私の失敗をあげつらうことはありませんでした。
3歩進んで2歩下がっても、進んだ1歩のことを褒めてくれて。
次の1歩のためのアドバイスをくれました。

「……いいえ。いくら失敗が続いても、プロデューサーはずっと前を見ていました」

「なぜだかわかるかしら?」

プロデューサーがへこたれない理由。
私と一緒に落ち込んじゃったらどうにもならないから、とかじゃないよね。
私は黙って首を横に振った。


「信頼しているのよ、雪歩ちゃんをね」

私を……信頼?

「たとえ立ち止まることがあっても、雪歩ちゃんなら必ず乗り越えてくれるってね」

私は、何かあったらすぐネガティブになっちゃって。
変わりたいとは思っているけれど、すぐに立ち止まっちゃって。
でも、プロデューサーはそんな私を信じてくれている?

「雪歩ちゃんは、プロデューサーさんのこと信じてる?」


ぶっきらぼうで、わかりにくいところはあるけれど、プロデューサーは優しい人です。
前に進むための助言はくれるけど、実際に進むのは私だって突き放す、厳しい人です。
プロデューサーは、信じられる人だって思います。

「はい」

だから、しっかりと頷くことができました。

「じゃあ、プロデューサーさんが信じている雪歩ちゃんを、信じてあげなきゃね」

柔らかく笑うあずささんを見て、心の中の雲間から日が差してくるのを感じました。
急に変われるとは思いませんが、でも、頑張ろうと思います。

「はいっ」


――――――
――――
――

事務所への道すがら、あずささんがポツリとつぶやく。

「今日、雪歩ちゃんのところへ行ったのは偶然じゃないの」

「え?」

「プロデューサーさんに、雪歩ちゃんの力になってやって欲しいって頼まれたからなのよ」

つまり、プロデューサーには私の悩みが筒抜けだったってことでしょうか。
うぅ、穴を掘って埋まりたい気分です。


「同性だからこそ、言えることもあるだろうって」

「確かに、プロデューサーには言いにくかったかもですぅ」

「『俺が表だって動くと恩着せがましくなるから』ですって。顔に似合わず恥ずかしがり屋なのかしら?」

そう言った後、あずささんは舌をペロッと出しながら付け加える。

「これはぜーんぶ独り言だから、気にしちゃだめよ?」

こうやって教えてもらえなければ、プロデューサーに感謝することもできないところでした。
でも、言葉でお礼をいう事を望んではいないのでしょう。
だから、仕事で胸を張れる結果を届けようと思います。


***************************


大げさな言い方ですが、覚悟が決まった気がします。
アイドルとしての活動は、もちろん自分のためですが、それだけではなくて。
私が前に進むことを望んで、見守ってくれているプロデューサーに応えるためにも。

心構えひとつで、こうも変わるものなのでしょうか。
オーディションに望んでも縮こまることなく、最高のパフォーマンスが発揮できたと思います。
ようやく、プロデューサーの期待に1つ応えることができました。


「やっと合格できましたぁ」

「おめでとう。アイドル萩原雪歩、いよいよ本格始動か?」

「ありがとうございます。それもこれもプロデューサーのお陰ですぅ」

本心からそう思う。
今まで辛抱強く私を支えてくれたから、今日があるんだって。

「いや、元々雪歩はこれくらいの実力はあったんだよ」

まっすぐ私の目を見つめるプロデューサー。

「課題だった精神面も、ここに来て一本芯が通ったみたいだし、今日の結果は必然だ」

その芯を通してくれたのがプロデューサーなんです。
口にするのはちょっと恥ずかしい言葉。
なので、これからの行動で示していこうと思います。

本日はこのあたりで
分量的には折り返しくらい?

次回もお付き合いいただければ幸いです
なお、投下時期は台風に左右される模様


***************************


あの日以来、お仕事は順調です。
ちょっとずつ、色々なお仕事が来るようになってきました。
TVに出演する機会が増え、参加するイベントの規模が少しずつ大きくなり。
以前なら緊張でガチガチになっていたお仕事も、自信を持って臨めるようになりました。


「おはようございますぅ」

挨拶をしながら事務所の扉を開ける。
今日は午後から雑誌の取材が入っていて、午前中はその打ち合わせ……という事でしたが。
プロデューサーは肩に受話器を挟みながらこちらを拝んでいます。
どうやら取り込み中のようです。
目顔で了解の意を伝え、プロデューサーの分もお茶を淹れることにしました。

プロデューサーの机に、笑顔と一緒にお茶を置くと何故だか驚き顔をされました。
そのあとすぐに微笑を浮かべて謝意を伝えてくれましたが、私何か変だったでしょうか。


「お、雪歩。はいさい!」

「おはようございます、雪歩」

首を捻りながらソファーに戻ると、そこには四条さんと響ちゃんが。

「おはよう2人とも。ちょっと待っててね、今お茶入れるから」

言い置いて給湯室へ取って返す。
そういえば最近、事務所のみんなとゆっくりお話しする機会が減っている気がする。

「はいどうぞ」

「わざわざありがとな、雪歩」

「ありがたく頂戴します」


今日のプロデューサーセレクションはかりんとう。
……相変わらずのようです。
ポリポリとつまみながら雑談で時を過ごし、ふと話題が切れて静寂が訪れる。
こんなゆったりとした時間は久しぶりです。

「それにしても、こんな風に雪歩と過ごすのは久しぶりだな」

響ちゃんも同じことを考えていたのかな。

「雪歩も今や売れっ子アイドル。仕方のないことなのでしょう」

「そ、そんな、四条さん。売れっ子だなんて……」

確かに最近順調ですけど、面と向かって言われるとなんだか恥ずかしいです。


「そうだな、なんかこう吹っ切れたというか。最近特にいい感じだもんな、雪歩」

「うぅ、響ちゃんまで……」

「胸を張りなさい、雪歩。それが導いてくれた方に報いることにもなるのですから」

それは分かりますけど、仲間のみんなから言われるとくすぐったくて……
でもでも、それじゃ今までと変わらないよね。

「ありがとう2人とも。でも、目標はまだまだ先にあるから、もっと頑張りますぅ」

「これは、私も負けてはいられませんね」

ニコリとほほえみを浮かべる四条さんはとても絵になります。
手が別の生き物のようにかりんとうをつまんでいることを除けば、ですが。


「なんだ、何の話だ」

そうこうしているうちにプロデューサーの用件が一段落したようです。
横合いからぬっと顔を出してきました。

「雪歩を売れっ子にしたプロデューサーに、今度は自分を担当して欲しいなって話」

ケロッとした顔で、予想外のことを言い出す響ちゃん。

「おや響、抜け駆けですか?」

「だってプロデューサー、なかなかのやり手みたいじゃないか」

意味ありげな目配せを私にしてきます。
心なしか楽しそうに見えるのはなぜでしょうか。


「誤解の無いよう言っておくが、雪歩が売れてきたのは雪歩が努力したからだ。俺はせいぜいきっかけになれたかどうか、ってとこだよ」

何の疑いもなくプロデューサーは断言しますが、私の中の事実とはずいぶん違っています。
私が自信を持って前に進めるのはプロデューサーがいるからなんですよ?

「成程。私も、是非にプロデュースをお願いしたくなってまいりました」

「話聞いてたか?」

「勿論ですとも」

「おお、意外と競争率高そうだな」

何というか、話の展開についていけません。
プロデューサーがみんなからも信頼されているのは嬉しいことですが、どこか釈然としないというか……


「……ともかく、今は雪歩で手一杯。同時に面倒見る余裕なんてないよ」

「ちぇー、つまんないぞ」

「そいつは失礼。打ち合わせあるから雪歩貰っていくぞ」

「ふぇっ!?」

突然呼ばれて思わず変な声が出ちゃいました。
……恥ずかしい。

「それでは、私たちも励むとしましょうか」

「雪歩に負けてられないからな」

2人は私に笑顔を向けると事務所を出ていく。
私はというと、打ち合わせの間なんだかずっとモヤモヤしていました。


***************************


ついにここまで来ました。
規模はそこまで大きくないものの、単独ライブの開催が決定したんです。
私一人でどこまでできるのか、不安もたくさんありますが、それ以上に楽しみに思っている自分がいます。
本当に、以前の自分からは考えられない変化。
支え、導いてくれたプロデューサーには、いつかちゃんとお礼をしないといけません。

「プロデューサー殿、ちょっといいですか?」

ライブに向けたレッスンスケジュールの確認をしているところに、律子さんが現れました。
何かあったのかな。

「……わかった。雪歩はちょっと待っててくれ」

律子さんと目だけで会話したプロデューサーは、社長室へ入っていきます。
プロデューサー同士、通じるものがあるんでしょうか。


「雪歩、プロデューサーさんどうかしたの?」

「春香ちゃん、おはよう。それが、よくわからないんだよ」

ちょうど事務所に顔を出した春香ちゃんに答える。

「最近は雪歩も忙しいからね。何かいい知らせがあったんだよ、きっと」

その笑顔は、少し不安になっていた私を安心させてくれました。
多分、こういう笑顔ができる人がアイドルって呼ばれるんだと思います。
私は……まだちょっと足りないかな


――――――
――――
――

暫くして、社長室から出てきたプロデューサーはちょっと余裕がない雰囲気でした。

「すまん雪歩。俺はこれから外出しなきゃならん」

デスクの荷物を取りまとめながら告げられる。

「この後の予定だが……」

と、春香ちゃんに気付いたようです。

「おお、春香来てたのか。……すまんが今日のレッスン雪歩と合同で頼めないか?」

「へ?……私は構いませんが何かあったんですか?」

「まあ、後で説明するよ。頼むな」

そう言い残してプロデューサーは事務所を出ていきました。


「なんだろう?すごく慌ててたみたいだけど」

「うーん、私も、あんなに慌ててるプロデューサーを見るのは初めてかもです」

「雪歩も見たことないの?」

最初の律子さんとのやり取り。
社長室から出てきたプロデューサーの慌てよう。
ちょっと不吉な感じです。

「あれ?プロデューサーもう出ちゃった?」

次に社長室から出てきたのは律子さん。
こちらも心なしか表情が暗いような……

「はい。プロデューサーさん、なんだか慌てた感じでしたけど」

「ああもう。それで、雪歩については何か言ってた?」

「わ、私は春香ちゃんと一緒にレッスンしててくれって……」

それを聞くと、律子さんは腕を組んで考え込んでしまいました。
本当に何があったんでしょうか。


「よし。じゃあ今日は特別に、私がアンタたちのレッスン見てあげる」

「へ?」

春香ちゃんがぽかんとしてます。
私も、声こそ出していないけど表情は似たようなものだったでしょう。

「このままスタジオに行っても、アンタたちだけじゃレッスンに身が入らないでしょう?」

「うう、確かにそうかもですけどぉ」

「特に雪歩は単独ライブも控えてるんだし、ビシビシ行くわよ」

「あれ?私巻き添え?」

「何かご不満でも?」

律子さんの背後にオーラのようなものが見えた気がします。
これは、どうあっても逃げられそうにありません。
春香ちゃんも同じ結論に達したようです。

「そんなまさか。よ、よろしくお願いしまーす」

これは、プロデューサーのことを気にしている場合ではなくなってしまいました。


――――――
――――
――

律子さんの特訓を何とか乗り越え、事務所にたどり着いた私たち。
取るものも取りあえず、ソファーへ身を沈めます。
疲労のあまり、しばらくは口を開くことすら億劫になってしまいました。

「疲れた時には甘い物、ってね。はいどうぞ」

そういって春香ちゃんがキャラメルをくれました。
いつもどこに持っているんだろう。

「あ、ありがとう」

お礼を言って口に含むと、どこかホッとする、春香ちゃんらしい味が広がりました。
……春香ちゃんらしい味ってなんだろう?


「それにしても雪歩すごいよね。あの律子さんの特訓を最後までやり抜けるようになったんだから」

確かに以前の私では考えられなかったかもしれません。
でも。

「横で春香ちゃんが頑張ってるのを見てたら、引っ張られちゃいました」

どんなことでも前向きに、一生懸命取り組んで、気づけば周りのみんなを巻き込んで笑顔にしてしまう。
一緒にいるだけで余分な力が抜けて、自然な自分でいられる気がします。
だから余計に、いつも以上に頑張れてしまうのかも。


「春香、時間大丈夫なの?明日早いんでしょ」

事務処理をしていた律子さんから声がかかる。
私たちのレッスンを指導して、帰ってきたらデスクワーク、その傍らで私たちのスケジュールを把握していて……
もう、すごいとしか言いようがありません。

「へっ?……あぁっ!ご、ごめん雪歩わたしもう帰らなきゃ」

さっきまでのまったりした空気はどこへやら。
ワタワタと荷物をまとめて帰り支度を始める春香ちゃん。


「律子さんも、今日はありがとうございました」

ぺこりと頭を下げると扉に向かって一直線。
こういう時に限って転ばないのはなんでなんだろう。

「気をつけなさいよー、って聞いてないわね。雪歩はどうするの?」

「私はもうちょっと休んでいきますぅ」

「まぁ、プロデューサーもそろそろ帰ってくると思うから、のんびりしてなさい」

……完全に見抜かれてました。
でもやっぱり、プロデューサーに事情を聴かないことには帰るに帰れません。


***************************


律子さんの分もお茶を淹れてのんびりしていると、これまでのプロデューサーとの歩みが思い返されてきました。
顔が怖いプロデューサー。
最初は本当にびっくりして、声も出なくて。
あの時のプロデューサーが、少し寂しげな目をしていたことを思い出す。
いつか、謝らないと。

「ただ今戻りました、って雪歩、まだいたのか」

プロデューサーの声に思考を中断される。

「おかえりなさい、プロ、デュー…サ……」


振り返ると、そこにいたのはプロデューサーでしたがプロデューサーじゃありませんでした。
かっちりと着込んだスーツは、普段よりちょっと硬めかな、という程度ですが、オールバックの髪形と合わさるとまるで意味が変わってきます。
街を歩けば、人垣が割れるように道ができるであろうたたずまい。
出来れば関わりたくない世界の人に見えてしまいます。

「とりあえず社長に報告してくるから、説明はそのあとでな」

初めてプロデューサーに出会った時の衝撃をはるかに上回る出来事に、心臓の音がやけに大きく聞こえました。

「雪歩、気持ちはわかるけど落ち着きなさい。ほら、お茶飲んで」

律子さんの声にビクリと肩が震える。
落ち着こうあれはプロデューサー、いつものプロデューサー、優しいプロデューサー、頼れるプロデューサー……
仕上げにお茶を一口。

「ふぅ。律子さん、ありがとうございますぅ」

律子さんがいなければ穴を掘っていたと思う。
それも結構な深さのを。


「律子君、萩原君。中で彼が待っているよ」

支離滅裂な思考を現実に引き戻してくれたのは、社長の一言でした。
さっきの格好の件も含めてちゃんと事情を聴かないと。

「社長はこれから?」

「ちょっと野暮用でね。おそらく直帰になると思うから、後は頼んだよ、律子君」

その言葉に頷く律子さんと、荷物を手に事務所を後にする社長。
2人は決意を秘めたような表情をしていました。


――――――
――――
――

「プロデューサー、雪歩も同席していいんですね?」

「当事者だしな。それに今の雪歩なら大丈夫だと思う」

プロデューサーと律子さんの意味ありげな会話。
今日のことの原因は私、みたいです。

「わかりました。雪歩、これが一連の騒ぎの原因よ」


そういって見せられたのは雑誌か何かの記事のようでした。
その原稿に踊る文字を見て、驚きや恐怖、そのほかいろいろな感情で目の前が真っ暗になりました。

『男嫌いのアイドル 萩原雪歩の真実』
『男のファンはお断り 笑顔に隠された裏切りの素顔』

「…………っ!!」

「もともとタチの悪い雑誌らしくてな。最近注目を集めてる雪歩をターゲットに面白おかしく扱き下ろしてやろうってことらしい」

「社長が事前に記事を入手してくれて、私とプロデューサーに教えてくれたのよ」

プロデューサーと律子さんの説明も、耳を素通りするばかり。
何一つ反応できません。


「それで社長に、向こうの責任者と会えるように取り計らってもらったんだ」

「あんな、怒りを無理やり押し殺したようなプロデューサーは初めて見ました。無表情ってものすごく怖いんですね」

「ああいう、他人を陥れて、蔑んで悦に入るような輩は断じて許せん」

「それであの格好ですか?」

「恐怖と嫌悪の違いもわからないようだったから、実地で教育を、と思ってな」

「下手しなくても脅迫です。こっちが訴えられたらどうするつもりですか」

「恰好がアレなだけだぞ?正式にアポを取って、相手方の見解を確認、事実との相違を指摘、こちらの言い分を伝えただけだ。冷静に、紳士的にな」

「逆に恐ろしいです」

「向こうがありもしない発言の裏を読もうとするのは自由だ。責任問題になっても大丈夫なように個人で会ったし、事前に辞表を社長に渡しといたから事務所に迷惑はかからんよ」

「手馴れてるように感じるのは気のせいですか……って、辞表!?」


辞表。
その単語に、止まっていた思考が動き出す。
辞める?
プロデューサーがいなくなる?
それは、それだけはダメだ。

「まともに受け取ってはくれなかったけどな。最終手段ってことで……」

「ダメェェェッ!!」

何か考えるより先に叫んでいました。
普段の私からは想像がつかないような大声に、プロデューサーも律子さんも目を丸くしている。


「ダメですっ!プロデューサーが辞めるなんてっ、私なんかのためにっ!!」

「……ゆき、ほ?」

「雪歩、ちょっと落ち着いて……」

「プロデューサーがいなくなっちゃったらっ、私はっ、どうすればいいんですかっ!!私のプロデュースをっ、するんじゃなかったんですかっ!!」

感情がそのままあふれ出る。

「なんでっ、そんなことする前に、私に話してくれなかったんですかぁ。私のこと、信じて、…ひっ、く、くれてないんですかぁ……うぅぅぅ……ぐすっ…」

言いたいことを吐き出しつくすと、次にあふれたのは涙でした。
記事のことが悲しくて、プロデューサーに腹が立って、自分が情けなくて……
律子さんがそっと背中を撫でてくれますが、一度爆発した感情はなかなか収まってくれません。


――――――
――――
――

「今回の件では、私は雪歩の味方です」

私が落ち着いたのを見計らって、律子さんがプロデューサーに告げる。
すごく冷静なのがちょっと怖いです。

「まず1点。あなたの思惑がどうあれ、相手が本格的に動き出したら、それは事務所全体の問題です」

「いや、だから俺はあらかじめ辞表を……」

「社長が、そして私たちが、あなたを切り捨てるような真似をするとでも?」

「ぐっ……」

反論を試みるプロデューサーはあっさり返り討ちにされました。


「次に。仮にあなたが辞めたことで丸く収まったとして、その後私たちは報復の対象になりますよね?」

「それは……」

「出版社に脅迫まがいの抗議をするプロダクション、そんな風に言われたらどうしましょう?」

「……」

次々と逃げ道を潰されるプロデューサーが、ちょっとだけかわいそうになってきました。


「そして、これが一番大事ですが、あなたはそれでプロデューサーとしての責務を果たしたと言えるんですか?」

「し、しかし、雪歩を守るためには……」

「それは先ほど雪歩自身の言葉によって否定されました」

この点についてはプロデューサーを弁護する気はありません。

「……申し訳ない。俺が浅はかだった」

「謝る相手が違いますね」

今日の律子さんは本当に容赦がありません。
本気で怒るとこうなるんですね。

「ちなみに、社長は今関係各所へ調整のために骨を折ってくれています。この後、私と小鳥さんも対応に当たりますから、プロデューサー殿もすべきことをしてくださいね」

そういって社長室を後にする律子さん。
部屋には私とプロデューサーが残されて、ほんの少し気まずい空気が流れます。


「……謝って済む問題じゃないけど、ごめんな雪歩」

その空気は払ったのはプロデューサー。

「俺さ、あの記事が表に出て、雪歩が傷つくって思ったらじっとしていられなくて」

「プロデューサーの気遣いは嬉しいですけど、やっぱり一言相談してほしかったです」

多分ショックで落ち込んだりはしたと思いますけど。

「雪歩のためって言いながら、雪歩のこと信じ切れてなかったんだな。それだけじゃなく、俺の古傷を雪歩のためだって偽って……」

「プロデューサーの?」

「いや、言い訳になるからいい」

プロデューサーの辛そうな顔は気になりますけど、きっとその時が来れば話してくれますよね。


「本当にごめん。こんなことをしておいて身勝手なことを言うけど、これからも俺に雪歩のプロデュースをさせてくれないか」

頭を下げるプロデューサー。
私の気持ちは律子さんのお陰でだいぶ落ち着いていて、冷静に話を聞くことができました。

「何かあったら、私に話してくれますか?」

「わかった」

「私のこと、信じてくれますか?」

「もちろん」

「プロデューサー自身を、大切にしてくれますか?」

私が大切に思うプロデューサーを、プロデューサー自身が大切に思ってくれなければ。
いつかあずささんが教えてくれました。
信頼は一方通行では成り立たないって。

「約束する」

きっと、この思いは伝わったと思います。

「わかりました。あらためて、これからよろしくお願いします」

プロデューサーが笑顔を返してくれた。
良かった。
私、ちゃんと笑えたみたい。

本日はこのあたりで
台風のお陰でせっかくの休日が自宅缶詰で辛い

次の投下でおそらく最後になると思います
少々手直しをする程度なので、ごく近いうちにお目にかかれるかと

お付き合いいただければ幸いです


***************************


プロデューサーは社長、小鳥さん、律子さんの奔走の甲斐もあって、今後もプロデューサーを続けていけるそうです。
お陰で、特に律子さんには頭が上がらないようですが。
私たちは表面上特に変わりなく、でも、お互いが信頼に応えるために頑張っています。
まずは単独ライブを成功させるために。
雨降って地固まるっていうのは、こういうことを言うんでしょうか。


「あれ、千早も呼ばれてるの?」

「ええ、私はプロデューサーに呼ばれたのだけれど、真も?」

「ボクは雪歩に声をかけられたんだけど、用件は教えてくれなかったんだよね」

事務所の応接コーナーには真ちゃんと千早ちゃんの2人がいます。
プロデューサーが来るまで少しだけ時間があるので、お茶でも飲んで待っていよう。


「おはよう、2人とも。はいどうぞ」

テーブルの上にお茶が4つ。
プロデューサーが用意したお茶請けは甘納豆でした。

「ありがとう雪歩。それにしても……」

「相変わらずプロデューサーは、私たちとは一線を画するセンスをしているわね。美味しいけれど」

2人が言いたいことは分かるつもりですが、私はいつの間にか慣れてしまいました。
お茶に合うからそれでいいかなって。

「それで、今日の話って何?」

待ちきれないって感じで真ちゃんが聞いてきます。
私だけで話を進めるのはちょっと違うかな。


「もう少しでプロデューサーが来るから、それから話すね」

「そういえば最近、そのプロデューサーと萩原さんとの距離が縮まっているように感じるんだけれど」

「うんうん、それはボクも思った」

「……あんまり詳しくは言えないけど、色々あったから」

あんまり自覚はありませんが、外からそう見えるというのはいいことなんだと思います、多分。
プロデューサーの名誉のためにも、本人のいないところでこの話はしないほうがいいかな。

「なんか、プロデューサーが暴走したって聞いたよ?」

暴走……間違ってはいません。
噂話に尾ひれがつく前に、みんなにちゃんと説明したほうがいい気がしてきました。

「あー、その暴走プロデューサーが到着したぞ?」

ぬっと顔を出すプロデューサー。
真ちゃんはちょっとばつの悪そうな顔をしています。

「その辺の話は今度ちゃんとみんなにするから、とりあえず本題に入らせてくれ」

プロデューサーも、女の子の噂話の恐ろしさはある程度分かっているみたいです。
同時に、私たちの間の空気が仕事中のそれに切り替わる。


「今度、雪歩の単独ライブがあるのは聞いてると思う。2人に、スペシャルゲストとしての出演を依頼したい」

「へへっ、なんだか楽しそうですね」

「なぜ私たちに声を?」

「スケジュールが合う中で何人かって話をしたら、君たち2人がいいって雪歩がな」

2人の視線が私に投げかけられる。

「初めての単独ライブで、不安とか緊張でいっぱいだけど、2人に見てもらいたいって思ったんだ」

本当は事務所のみんなに見て欲しいんだけど、それじゃ単独ライブにならないしスケジュールも合わないから。
この先、機会があるなら他のみんなも呼びたいな。


「真ちゃんには、いつも守ってもらっていたから。臆病な私の前に立ってくれて、手を引っ張ってくれたから。私も少しは成長したんだよって見て欲しいんだ」

今もプロデューサーに守ってもらっているけど、プロデューサーは私の前には立ってくれません。
何があっても支えられるよう、いつも私の後ろで見守ってくれています。
だから、今の私は自分の足で立って、前に進んでいるんだって思います。
それを、真ちゃんに見て欲しい。

「えへへ、なんか照れるね」

はっきりと伝えたことのない想い。
口に出さなくても伝わってると思うけど、だからこそ言葉にしたかった。

「くぅー、そんなこと言われちゃったら頑張るしかないじゃないか!」


私を見つめるもう一つの視線。
何かあるとすぐに右往左往してしまう私と違って、しっかりと自分を持っている人……千早ちゃん。

「私は千早ちゃんと違って、これだけは負けないっていうものがなくて、一途に歌に取り組む千早ちゃんに憧れてました。でも、そんな私でも、アイドルとして千早ちゃんに並びたいって、そう思ったんです」

弱い自分を変えたくてアイドルになったけど。
少しは変われたって思うけど。
その先に何があるのかはまだわかりません。

「千早ちゃんの隣に立って同じ景色を見たら、何かがわかる気がするんです」

「私で良ければ喜んで。今の萩原さんの輝きに、私の歌が霞んでしまわないように全身全霊をかけてステージに上がるわ」

嬉しそうな、楽しそうな千早ちゃんの表情。
こんな千早ちゃんは初めて見たかもしれません。


「よし、じゃあ具体的な話に入ろうか」

ゲストの2人は、それぞれ私とのデュオを予定していること。
希望があれば、ソロ曲を構成に組み込むことも可能なこと。
その他どういうステージにしたいのか。

「うーん、雪歩の晴れ舞台だからね。雪歩に任せるよ」

「私も、萩原さんがやりたいことをするべきだと思うわ」

2人がそう言ってくれたので、1つだけ希望を伝える。

「ステージの構成はプロデューサーにお任せします。ただ、アンコール曲として、これを3人で歌いたいです」

そういって示したその曲は。


***************************


ついにやってきたライブ当日。
開幕前にプロデューサーはただ一言。
「楽しんで来い」
それだけを言って送り出してくれました。

不安や緊張で固くなってしまった私に、真ちゃんと千早ちゃんが観客席を指さして。
その先では、会場を覆い尽くすような白いサイリウムの光が私を待ってくれていました。

以前の私なら、そのプレッシャーに動けなくなっていたと思います。
でも、今の私は。
みんなの期待に応えたいって、そう思えるようになったから。
一歩を、踏み出せます。


――――――
――――
――

ファンのみんなの声が、波のように打ち寄せてくる。
鳴り止まないアンコール。
こんなにも嬉しいものだったなんて。

「アンコール、ありがとうございますぅ」

全身でファンに応える。
サイリウムの海が私に応える。


「私はずっと、臆病で引っ込み思案な自分を変えたいって思ってました」

唐突な告白かもしれない。

「アイドルになって、色んな壁にぶつかって、やっぱり私はダメなのかなって何度も思いました」

客席から否定の声が届く。

「でも、事務所のみんなや支えてくれるスタッフの方々、何よりファンのみなさんの応援のお陰で、ちょっとずつ前に進めるようになりました」

そう、私1人だったらとっくに諦めていたと思う。

「私だけだったら、今この場に立っていることはできなかったと思います」

今、私の隣では真ちゃんと千早ちゃんが支えてくれている。

「だから、これまでの感謝と、これからも前に進む、その誓いをこめて」

舞台袖ではプロデューサーが見守ってくれている。

「この歌を届けたいと思います。『まっすぐ』、聞いてください」

ファンのみんなが応えてくれる。
会場が、1つになった。


――――――
――――
――

舞台のスポットライトが落ち、会場に照明が灯っても、興奮は冷めやらないようで。
その余韻は舞台の袖まで伝わってきます。

「楽しめたか?」

待っていたプロデューサーは、それだけを確認する。
答えは1つしかありません。

「はいっ」

プロデューサーは、頬を伝う涙を拭おうともしませんでした。


***************************


それから数日後、いつもの公園にプロデューサーとやってきました。
何か、大事な話があるそうです。

「この公園にも、随分お世話になってますね」

「最初のオーディションに落ちた時、やっとのことで合格した時。何かあったらここに来てる気がするな」

「プロデューサーにお願いされたあずささんに悩みを聞いてもらったのも、ここですよ?」

ポリポリと頭をかいて、ちょっと気まずそうなプロデューサー。

「秘密にしといてって頼んだのに……」

「あの時も、ありがとうございました」

やっとお礼が言えました。


「プロデューサーは、神様って信じてますか?」

ずっと聞きたかったこと。
プロデューサーが、プロデューサーになった理由。

「俺、小さいころヒーローになりたかったんだ。悪い奴からみんなを守る、正義のヒーロー」

どこか遠くをみて話すプロデューサーの目は、とても綺麗でした。


「でも俺、こんな人相だろ?昔からずっと色眼鏡で見られ続けてさ、いつの間にかそんなこと忘れてたんだ。学生の頃はハリネズミみたいに、『俺に近づくんじゃない』ってオーラを振りまいてたな」

泣いているような、笑っているような、そんな複雑な表情で。

「きっかけは忘れたけど、下らない理由でケンカして、相手に怪我させたことがあってさ。その時親父に思いっきり殴られたんだ」

心なしか嬉しそうに頬をさするプロデューサー。

「今の生き方でお前は満足なのか、お前はその程度の人間なのか、ってな。その時は反発したけど、ずっと引っかかってたんだ。俺は何がしたかったんだろうって」

プロデューサーは、さっぱりとした顔をしています。

「そんな時に社長と出会うことができて、思い出せたんだ。小さいころ、俺が俺に立てた誓いを。誰かの夢を守れるヒーロー、誰かを助けることができるヒーローになるってな。いい歳して子供っぽいとは思うんだが」


「そんなことないです」

私にとってのプロデューサーは、その通りの人だから。
私を助けてくれて、私を守ってくれた人だから。
だから、謝らなければならない。

「プロデューサー、ごめんなさい」

「ん?雪歩は謝らなきゃならないようなことはしてないぞ」

「前に言ってたプロデューサーの古傷って、その、嫌な思いをしてた頃のことなんですよね?……私、初対面の時に見た目だけで判断して、目を合わせることもできませんでした」

「……ああ。この歳になってまでそんなこと気にしてないんだがな」

「それでもっ」

「わかったよ。ありがとう」

やんわりと遮られ、プロデューサーはあっさりと許してくれました。
私の言いたいことは分かっていると言わんばかりの笑顔とともに。


日が傾いてきました。
だんだんと涼しくなって、夜が早くなってきています。

「そういえば、大事な話ってなんだったんですか?」

この公園に来たそもそもの理由を忘れるところでした。

「社長から、別の子も担当してくれないかって言われててな」

……え?


「俺も仕事に慣れて余裕も出てきたから受けようと思ってる、って伝えようと思って」

「私のプロデュースを止めちゃう……ってことですか?」

「いや違う。同時進行でプロデュースしていくってだけだ」

「でも、今までみたいなプロデュースはできなくなりますよね?」

私以外も担当するのだから、当然私に宛がわれる時間は少なくなるはずです。

「それはまあ、そうだな。でもこの前のライブでわかったんだ。雪歩はもう、俺がずっとついてなくても大丈夫だって」

「そんなっ。この前のライブの時も、プロデューサーが見守ってくれてたから……」

何かあっても支えてくれるプロデューサーがいる。
だから頑張ることができたのに。

「安心しろ。支えが必要なときはいつでも駆けつける。なんたって俺はヒーローだからな」


だから、ウィンクは似合いませんってば。
でもそうですよね。
プロデューサーは、困っている誰かを助けるヒーローなんですよね。

「……その顔でウィンクしても怖いだけですよぅ」

「あっ、雪歩。お前言ってはならんことを言ったな」

「でも、本当のことですから」

今まで助けてもらって、自分の足で立てるようになったから。
今度は支えがなくても前に進めるようにならなくちゃ。
それが、プロデューサーの期待に応えるってことですよね。


「くそぅ。傷ついた、俺は傷ついたぞ」

「こんなことで傷ついて、みんなのプロデュースができるんですか?」

まだまだ助けてもらうことが多いとは思うけれど。

「当たり前だ。ヒーローは回復も早いからな」

「さすがですぅ。……その調子で、みんなのことも助けてくださいね?」

いつかは対等になれるように。

「任せろ」

「でも、あんまり私から目を離すと、見えないところまで進んじゃいますからね?」

だから今は笑顔で。

「その時はダッシュで追いかける」

「これからもよろしくお願いしますね、プロデューサーっ」

次の一歩を踏み出す。


進む道を選ぶのも
選んだ道を進むのも

全部、自分なんだから



<了>

どうにかして全員出したいと頑張ってみました
話の流れに無理がなければ良いのですが

ここまでお付き合いいただいてありがとうございました



次は軽いの書こう

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