凛「よおし!さぁ今日も練習!行っくにゃー!」 (30)


私は、今まで自分に自信を持つ事が出来なかった。

小学生の頃、初めてスカートを履いて登校した時、男の子たちに馬鹿にされた事があった。

その時私は、自分が女の子らしくはないんだと、ひしひしと感じた。

それからは、極力女の子らしい事からは距離を置いていた。

髪は短くして、制服以外でスカートを履く事も無く、スポーツに熱中した。

そうやって、女の子らしい事から身を引いてはいたけど、どこかで女の子らしい事に憧れを抱いていた。


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そんな私に、ある日転機が訪れた。

小学生の頃、スカートを履いた事を馬鹿にされてから男性に少し苦手意識を持っていた私は、高校は女子校に進学した。

歴史ある名門校で、受験は大変だったけど、親友と一緒に頑張って乗り切った。

合格発表の日、自分の番号を見つけた時は本当に嬉しかった。

そして高校に入学すると、なんと廃校の知らせが届いた。

まだ入学したばかりで学校に愛着があった訳では無いけど、それでも自分の通う高校が廃校になってしまうと言うのは寂しかった。


そんな時、とある先輩が廃校を阻止する為に立ち上がった。

なんと生徒を集める為、スクールアイドルをやろうと言うのだ。

学校を救うために動き出す行動力に関心した。

でも何より、そのためにアイドルをやろうとする勇気に驚いたし、何より、尊敬した。

女の子らしい事から身を引き、それでも心のどこかで憧れを抱いていた私には、その先輩がどれだけ輝いて見えただろうか。

そんな私のすぐ近くに、私なんかよりもずっと可愛いのに、自分に自信を持てない、アイドルに憧れていた女の子がいた。


私は最初の内はその子に一緒に陸上部に入ろうと言っていたけど、その考えは消えてしまった。

廃校を阻止する為に立ち上がった三人の先輩達。

見てくれている人なんて殆どいなかったあの講堂で、堂々とパフォーマンスをする先輩達を見て、私は胸を打たれた。

あぁ、なんて眩しいんだろう、と。

それから私は親友の女の子をその先輩達のアイドルグループに入れるために動いた。

でも、まさか私までアイドルになるとは、思わなかった。

女の子らしい事に憧れながら身を引いた私。

お世辞にも頭がいいなんて言えないし、取り柄と言えば元気な事と運動神経の良さぐらいだ。

それでも私は、差し伸べられた手を、握ったんだ。


それからは、目まぐるしく日々が過ぎた。

アイドルの練習は、想像よりはるかにハードだったけど、楽しかった。

特に元々スポーツに熱中していた私は、踊るのが大好きになった。

色んな可愛い衣装を着た。

皆んなと同じとは言え、今まで見るだけだったような服を着るのは、恥ずかしかった。

でも、嬉しかった。

私もこんな服を着ていいんだ、って思えた。

そうやって、アイドルが好きになっていった。


アイドルを初めてからは、色んな困難にぶつかった。主に先輩関係で。

一人の先輩は意地っ張りで、誰よりもアイドルへの情熱を持っていながら、それをどうしようも出来ないでいた。

一人の先輩は不器用で、誰かのために動いて、努力していて、それでも素直になれず、苦しんでいた。

その二人を誰よりも理解していて、見守っていた先輩もいた。

そんな三人も、一緒にグループに加わって、私達は本当のアイドルグループ「μ's」になれた。

そして、私達は一つの目標に向かって突き進んだ。


全国のスクールアイドルの頂点を決める、スクールアイドルの祭典「ラブライブ」。

それに出場し、学校をアピールし、廃校を阻止しようと、9人で走り出した。

しかし、ラブライブに出場する事は出来なかった。

廃校を阻止するために、先頭で頑張り続けていた先輩に、限界が訪れた。

一時はラブライブ出場を狙える位置まで上り詰めながらも、その一件をきっかけに、私達はラブライブに出場は出来なかった。

しかし、ラブライブに出場するための私達の努力は無駄ではなく、なんと廃校は免れたのだ。


私達は最大の目的を達成した。

でも、それでも、心のどこかにモヤモヤした物が残った。

それから、メンバーの一人の先輩が海外留学の誘いを受けてグループ内でまた一悶着あった。

一時はグループ存続すら危うかった。

それでも、私はアイドルを続けようとする一人の先輩について行った。

思えば、この時すでに私はアイドルの魅力に、どうしようもない程魅せられていたのかも知れない。

それから、海外留学の誘いを受けた先輩は日本に留まる事になり、私達はまたライブをした。

あの講堂で、今度はステージの上で、あの日聞いた歌を歌った。


それから季節は変わり、私達の元に一つの知らせが届いた。

あのラブライブが、再び始まると。

私達は当然、前回の雪辱を晴らすべく参加するつもりだった。

しかし、意外な人物の意外な一言が、また騒動を巻き起こした。

リーダー、高坂穂乃果は、出なくてもいいんじゃないかな、と言った。


前回のラブライブは、学校存続の為に目指した舞台だった。

しかしラブライブの舞台を目指す理由がない今、参加しなくてもいいんじゃないかと、高坂穂乃果は言い出したのだ。

私は、ショックだった。

私達を先頭で導いてきた人物が、こんな事を言うなんて。

しかし、それは前回走り過ぎて限界を迎えてしまった高坂穂乃果だから、そう考えたのではないかと、今なら考えられる気がした。


それから私達は、ラブライブに参加する事になった。

「学校」のためではなく、今度は、「μ's」のために。

「出場」するだけではない、9人で残せる最高の結果、「優勝」を目指して、μ'sは再び走り出した。

しかし、その道のりは険しく、大きな敵が現れた。

前回大会覇者、スクールアイドルの頂点にして、μ'sが生まれるきっかけにもなったスクールアイドル、「A-RISE」が、私達の前に立ちはだかった。


A-RISEは私達μ'sを高く評価していた。

メンバー一人一人を評価し、そしてライバルとして認識していた。

私は「ダンス力はスクールアイドルとして全国レベル」と評価された。

自分が大好きな事を評価されるのは、素直に嬉しかったし、ちょっと恥ずかしかった。

それから私達はA-RISEは互いに良きライバルとして切磋琢磨して高めあった。


そして、それからしばらくして、私にとっての人生の転機が訪れた。

二年生が修学旅行で沖縄にいる間、私はなんとμ'sのリーダーを任されたのだ。

慣れない立場に戸惑っていると、あるライブの依頼が舞い込んだ。

ファッションショーでのライブ。

このライブが、人生の転機のライブになった。


ファッションショーでのライブは二年生が修学旅行から戻ってきて、9人で参加する予定だったが、台風の影響で間に合わず、なんとリーダーであった私がセンターを務めることになった。

しかも、主催者側の依頼でセンターは特別な衣装が用意されていた。

女の子の憧れ、ウエディングドレス。

ライブの為にと、従来のウエディングドレスのような形はしていない物の、その造形は紛れもなくウエディングドレスだった。


今まで色々な可愛い衣装を着て、多少は可愛い服に抵抗も無くなっていたが、これは、私には重すぎた。

私は親友、小泉花陽に押し付けるような形で、センターを任せた。

彼女が衣装を着て見せた時、心の底から可愛いと思った。

やっぱり、彼女が適任だと感じた。

そうして私は親友にウエディングドレスを渡したが、横目でウエディングドレスを着る親友を見ながら、思ってしまった。

「でもやっぱり、羨ましいな」と。


それから練習を重ねて、いよいよライブ当日。

ショーの様子を確認してみると、綺麗なモデルさん達が、煌びやかなステージで輝いていた。
余談だが、先輩の一人がモデルにスカウトされたりしてた。

それから控え室に戻り、最後に衣装を着て踊りを合わせる事にした。

凛ちゃんの衣装、そっちだよと言われて、カーテンを開ける。

その奥で私を待っていたのは、あのウエディングドレスだった。


嘘だ、だって、これは私の衣装ではない。

そうか、間違えたのかと後ろを振り返ると、他のメンバーはすでに衣装に着替えていた。

私がセンターを押し付けるように任せた小泉花陽含む5人が、タキシードに。

そして、小泉花陽は私を励ましてくれた。

私の事を、可愛いと。

皆んなが言ってくれた。

μ'sで一番女の子らしいのは、私だと。

そして、小泉花陽が、勇気を出してμ'sに入ったあの時のように、私は背中を押された。

あの時私が背中を押した、小泉花陽と、あの時私と背中を押した、西木野真姫の二人。


そして、ついに私達の出番が訪れた。

会場の皆さんに挨拶をしたのは、ウエディングドレスを着た私。

客席から、可愛いと声が上がった。

いいのだろうか、こんなにも、幸せを感じてしまって。

そして、私達のライブが始まる。

私にとって、憧れの瞬間が訪れた。


私は、高坂穂乃果と言う光に誘われて、スクールアイドルとしての道を歩き出した。

その道は険しかったり、様々な困難に直面したけど、希望に満ちていた。

私は可愛くなれないからと、女の子らしい事を怖れ、距離を置いていた私が嘘みたいだ。

きっと、女の子は誰でも可愛くなれる、そう思ってしまう。

だって、あの私が、こんなにも可愛く、変身出来たのだから。

歌おう、笑顔で。
私の数少ない取り柄の元気を、皆に届けてあげるんだ。

不思議と、今は怖くない。
だって、後ろには大好きなμ'sの皆がいるから。

今なら、どんな事だって出来る気がする。
まるで、生まれ変わったような気持ちになった。

きっと、これからもっともっと険しい道にも、大きな困難にも、巨大な敵にも出会うだろう。

それでも、道は広がっているんだ。

きっと、その先には、輝かしい明日が待っているはずだ。


そして、μ'sを作り上げた二年生不在の中でのライブは、無事成功した。

ステージの上で、舞台袖で、私達は沢山の拍手をもらった。

その夜、私は高坂穂乃果にメールを送った。

なんて書こうか悩んだけど、私らしく、簡潔に送る事にした。

「大成功にゃ(≡>ω<≡)」と、記念写真を添えて。


それから、私は大きく変わった。

久々に、可愛い服を着てみた。

練習着も、可愛い服装に変えてみた。

あのライブで、私はきっと成長出来たと思う。

アイドルとしても、女の子としても。

これも、μ'sの皆のおかげだ。

だから、ラブライブで最高の結果を残したい。
皆の為に、私を変えてくれた、μ'sの為に。


「よおし!さぁ今日も練習!行っくにゃー!」


ここから先はきっと、私達の夢を、皆の夢を、皆で叶える物語になるのだから。

おしまい。

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