提督「艦隊小話」 (32)
case1:面白い話
卯月「あちー……」
睦月「にゃしぃ……」
如月「もう、二人ともいくら暑いからってだらしないわよ?」
弥生「でも確かに暑いね……。する事もないから余計にそう感じるの、かも…」
卯月「ぷっぷくぷー!だーったら弥生に面白い話の一つでも聞かせてもらいまっす」
弥生「な、なんでそうなるの……!?」
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卯月「文月も聞きたいよねー?弥生の面白いお話」
文月「弥生ちゃんのお話?わーい!聞きたい聞きたい!」
弥生「うう……」
如月「あらあら……可愛い妹が困ってるわよ。このままでいいの、お姉ちゃん?」
睦月「睦月的にはそんな事はこの暑さに比べたら、些細な問題なのです……」
如月「まあ、薄情な姉だこと。仕方ないわね……。みんな、そんなに面白い話が聞きたいなら、この如月が一つ弁を振るっちゃおうかしら」
弥生「えっ……?」
文月「如月ちゃんが代わりに話してくれるの?」
如月「そうよ。だから弥生ちゃんのお話はまた今度ね?」
文月「はーい!」
卯月「まあ……如月が話してくれるならそれでもいいぴょん」
弥生(如月……ありがとう)
如月「さて、それじゃあ話すわね。……ある所に犬が大好きでたくさん飼っている人がいたの」
卯月「ふむふむ」
如月「その中には全身が真っ白な犬もいたのよ」
睦月「へえ……」
如月「その犬は全身真っ白だから、もちろん尻尾も白くてね」
文月「真っ白なわんちゃんかぁ……いいなあ」
如月「尻尾も白いの」
卯月「ぴょん……?」
如月「尻尾も白い、尻尾も白い、尻尾……つまり尾、その犬は尾も白いってことなのよ」
弥生「ま、まさか……」
如月「以上、犬の面白い話でした!なーんちゃって!」
睦月「酷いよ……あんまりだよ…」
卯月「…なんだかここ寒くないですか?」
如月「あら、どうしたのうーちゃん?口調が変よ?」
文月「……あれ、もう終わり?今の何処が面白かったのー?まだ白いわんちゃんが出てきただけだよ?」
弥生「文月…この話はおしまい。いい?」
文月「えーっ!でもでも……」
弥生「文月!」
文月「わ、わかったよぅ。うう…弥生ちゃんが怖い」
弥生(助けてもらってなんだけど…如月、さすがにこれは……フォローのしようが…)
三日月「っ……!」
菊月「なあ、なんで三日月は太ももをつねっているんだ?」
皐月「知るもんか。ボクに聞かないでよ」
長月「あれは気を抜くと笑いそうだから自分を戒めているんだろう」
皐月「笑いそうって…如月の話で?」
菊月「今の話で笑う奴なんているのか?」
望月「試してみればいいじゃん。おーい三日月!」
三日月「んふっ……な、何?」
望月「あるところに白い犬がいたんだよ」
三日月「や、やめて!お願いだからやめて!」
望月「もちろん尻尾まで真っ白な訳ね」
三日月「っ……!………っつ!!!」
望月「それで……」
三日月「も、もう無理!あはははは!!」
長月「平和だな」
case2:溶けた身体
提督「暑い!こんなんじゃ作業効率も
ガタ落ちだよ全く……」
赤城「言わないで下さい……」
提督「アイスケースになりたい」
赤城「馬鹿なこと言ってないでさっさと終わらせましょう。そのあと間宮さんところにでもいって冷たい物でも食べましょうよ」
提督「賛成……」
舞風「てーとく!赤城さんも!なんか吹雪ちゃんが暑さを吹っ飛ばすような手品を見せてくれるらしいよ!」
提督「吹雪が?」
赤城「気分転換も兼ねて見に行きましょうよ。残りはそれからやりましょう」
提督「そうだな」
舞風「それでは中庭に出発です!」
吹雪「皆さん、本日はお集まりいただきありがとうございます」
提督「手品といっても、特に大がかりな道具はないようだが……」
鳳翔「そうですね……」
秋津洲「生で手品を見るのは初めてかもー!」
長良「楽しみだね!」
吹雪「さて、ここにあるのはなんの変哲もないアイスでございます。しばらくするとこのアイスに肝も冷えるようなとんでもないことが起きるのです!」
赤城「アイスが…?溶ける以外になにが起こるんでしょうか?」
舞風「うーん……味が変わるとか、ですかね?」
吹雪「それではしばし時間をいただきますが、どうかご容赦を……」
吹雪「………はい!なんとアイスが綺麗さっぱり消えて無くなりました!」
鳳翔「そんな……」
舞風「こんな事って……」
秋津洲「わたしたちは今、世の中の神秘を目の当たりにした…のかも……」
赤城「すごい……」
吹雪「どうですか!これぞまさに奇跡そのものです!」
長良「いや、それってただ溶けただよね?」
提督「そうだな。なんの変哲もない事だ。アイスが無くなったのは、この暑さで溶けた身体」
吹雪「……なんで、わかったんですか?」
長良「この炎天下の中でこんなに長い時間アイスを放置してたら、そりゃあねえ…」
吹雪「他の四人は騙されたのに!……そうか!お二人はとんでもないお馬鹿さんなんですね!間違いありません!」
長良「暑さでやられて、まともな思考ができてないだけだと思うよ?」
提督「長良、アホはほっとけ。早く四人を医務室に連れてくぞ」
長良「はーい」
吹雪「大変そうですね。まあ倒れないよう程々に頑張って下さい」
提督「ここまで明確な殺意を覚えたのは久しぶりだな。後で覚悟しとけよお前」
case3:森の生け贄
提督「どうだ、偶には森林浴もいいもんだろう?」
響「ハラショー。こいつは力を感じる」
時雨「そうだね。心が洗われるようだよ」
提督「喜んでくれたようでなによりなにより」
響「司令官、あっちに池があるようだ。行ってみよう」
時雨「へえ…結構大きいんだね」
提督「……ん?」
響「どうしたんだい?」
提督「ほら、あそこ……なんか浮いてないか?」
響「……言われてみれば」
時雨「ちょっと見てくるね」
提督「俺たちも行こう」
響「了解」
時雨「見てよ提督」
提督「これは……絵、か?」
響「どうやらこの辺りの風景を描いたキャンバスのようだ」
提督「森の生け贄を捨てるなんてとんでもない奴もいたもんだな」
時雨「こういう心無い人に限って、言うことは一人前だから本当に始末が悪い」
響「せめて私たちだけでも、こうならないようにありたいものだね」
提督「まったくだ」
case4:悪魔のぬいぐるみ
睦月「机はこっちのを使ってね。それで、引き出しはこれを…もう、夕立ちゃん!」
吹雪「あっ!クマのぬいぐるみだ!」
睦月「ちゃんと片付けておいてって言ったじゃない!」
夕立「睦月ちゃん細かすぎっぽいー」
睦月「共同生活なんだから当たり前でしょ!」
case5:カエルの怨霊
翔鶴「こら瑞鶴!夜も遅いんだから、もう少しテレビの音を小さくしなさい!」
瑞鶴「えーっ!?変えるの、音量?これからいいところなのに……」
case extra:____
提督「今日から新しく我が艦隊に加わることになった千歳だ。みんなよろしく頼む」
千歳「水上機母艦の千歳です。色々と迷惑をかけることもあると思いますが、どうかよろしくお願いします」
千歳の着任の経緯は少々変わったものだった。全身ずぶ濡れの彼女が鎮守府を訪ねて来た時は流石に焦ったものだ。
なんでも自分の名前と艦娘であること以外には何も思い出せないと言うのだ。
本部に問い合わせたところ、他の鎮守府からは千歳に関する行方不明等といった話は上がっていないらしい。
そこで経過を観る意味でも、しばらくの間私の鎮守府で預かる事となった。
千歳「提督、こちらにいらっしゃったんですね」
提督「千歳か。探させたかな?済まない」
千歳「いえ、大丈夫ですよ。それよりも、波止場で何をなさっていたんですか?」
提督「海を見ていたんだよ」
千歳「海、を……」
提督「昔から海が大好きでね。そんな海に携われるように、と提督を目指したんだ」
千歳「そうだったんですね」
提督「不純な動機だよ、全く」
千歳「家の近くに海が近くにあったんですか?」
提督「ああ、まさに目と鼻の先にあったんだ。……そういえば、幼い頃打ち上げられてられていた海月を刺されながら海に返したっけ。それで親にすごく怒られたんだ…ははっ、懐かしいなあ」
千歳「………」
提督「…おっと、長話がすぎたな。今晩は冷える。風邪を引くといけない、この辺りで室内に戻ろう」
千歳「……はい」
実際の所、彼女は非常に良くやってくれた。すぐに鎮守府にも馴染み、拾ってくれた恩もあるからと秘書艦まで買って出てくれたのだ。
そうして千歳と過ごしているうちに私はある事に気が付いた。暇さえあれば頭の中で千歳の事を考えている自分がいる事に。
最初はこれが何を意味しているのかわからな……いや、わかりたくなかった。つまり私は、(それもあろうことか自分の部下に対して)恋をしてしまったのだ。
日頃規律についてやかましく言っている手前、この気持ちは墓まで持っていくつもりだったが、思いは募るばかり。千歳に告白するまでにそう時間はかからなかった(千歳も私を受け入れてくれるというオマケ付きだ)。
そんなこんなで千歳と付き合う事になったわけだが、そんな千歳が着任してから間も無く1年が経とうとしていた……。
提督「光陰矢の如し、とはよく言ったものだな」
千歳「そうですね、あっという間の1年でした。覚えていますか?提督はここで私に色々な話をしてくださいましたよね」
提督「もちろんだ。提督になった理由から海月に刺された話まで。思えば、あの時から君に惹かれていたのかもしれないな。実は、あんな話をしたのは千歳が初めてだったんだ」
千歳「まあ、そうだったんですか?でも、提督には本当に感謝しているんです。記憶のない、いわば厄介者の私を快く引き受けてくださった事はいくら感謝してもしたりません」
提督「でも記憶もまだ戻ってないだろう?力になれずに済まない……」
千歳「いえ、それはまあいいんです。……お陰で提督とも出会えたわけですし」
提督「ははっ、言うじゃないか」
千歳「あの、提督。目、閉じてもらえますか?」
提督「目を?どうしてだ?」
千歳「……言わせる気ですか?」
提督「………わかった」
目を瞑る。これから起こるであろう出来事に年甲斐もなく胸を高鳴らせながら。
彼女が私を抱きしめる。私もそれにならって抱きしめ返した。
波の音のみが響き渡る。お互いに無言ではあるが、苦にならない。
一瞬とも永遠ともとれる時間の後、いよいよ彼女の顔が自分の顔に近づいてくるのを感じた。
そして、
痛みと共に強烈な痺れが全身を襲った。
「ごめんなさい、提督。でも、痛いのは一瞬で、すぐにわからなくなりますから…」
一瞬何が起こったのかわからなかった。だが、この感覚に覚えはある。
そうだ…海月に刺された感じに似ている。
「やっと…やっとここまできました。あの日、あなたに救われからはや数十年。ようやく本当の意味で恩を返せるんですね。それにしても、まさか覚えてくれているなんて、私、もう嬉しくて嬉しくて……」
恩?一体なんの話だ……?
「海月、助けましたよね?あれ、実は私だったんです。あの時はつい驚いて刺してしまい本当にすみませんでした……」
千歳があの時の海月……?そんなはずはなかった。彼女は紛れもなく艦娘で、現に今日だって艤装を纏って出撃したのだから。大体、海月が人の姿をしていてたまるか。
「そんな事を言ったら、深海棲艦や艦娘だって大概じゃないですか。世の中にはまだまだ知られていない事なんてたくさんあるんですよ?」
そう言われると…なら、記憶喪失の話は。
「提督の鎮守府に居着くためのデタラメです」
あ、そうですか……。
「それにしても水上機母艦なんて、随分と私にぴったりの艦種ですよね。本当に助かりました。おかけで予定より早く実行に移せたんですから」
どうやら彼女の言い方では、千歳を選んだのには何か意味があるらしかった。水上機母艦……海月……ああ、そういうことか。
「長話がすぎましたね。風邪を引くといけません。続きは帰ってからにしましょう」
どこかで聞いた台詞を言いながら、一歩一歩海へと近付く千歳。海に連れていかれるからといって、とって食べられることはなさそうだ。
「考えてもみてください。海の底で過ごす時間。そこには面倒臭いものは何一つ在りません。在るのはあなたが大好きな海と愛し合う私たち2人だけ。ああ……なんて素敵なことなんでしょう」
どうやら千歳の言う恩返しとは、私を大好きな海へ恒久的に連れて行ってくれるというものらしかった。
「ですが」
歩みと止めて、千歳はこう続ける。
「それでも、海に還る事を止めてまで、深海棲艦と戦うことを選ぶというなら、私は『水上機母艦千歳』としてあなたの側で最期の時まで戦います」
………。
「そろそろ意識も回らなくなってきたことでしょう。海に還るなら首を縦に、ここに残るなら横に振って下さい」
海に還るか。
ここに残るか。
二択のように見えて実質一択の問題。
答えない、と言う選択肢は論外だろう。
それこそ彼女に失礼だ。
謎の使命感。
惚れた弱みってやつなのかもしれない。
薄れてゆく意識の中で、千歳の問いかけに対して私は_____
case extra:水母
終わりです
ありがとうございました
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