男「ストーカーがウザい」 (16)
俺は高校生で一人っ子だ。唐突にそう自己紹介するが、俺の自己紹介はこれだけだ。
ただそれだけ知ってもらえれば結構だ。
しかし今は、そんなことよりも知ってほしいことがある。
俺はストーカーされている。
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俺は毎朝電車通学のなのだが、同じ車両に必ず乗り合わせる女子がいる。
そう、そういつこそ。俺のストーカーである。
そう言い切れる理由はたくさんある。
まずひとつ。俺は毎朝適当に家を出て、適当な時間の電車に乗っている。
選択肢としては5本くらいの電車がある。
しかし、彼女は必ず俺と同じ時間の電車に乗ってくる。
二つ目。本当にたまたま見えただけだが。
定期入れのケースが、俺と全く同じものだ。
デパートの文房具屋で買ったものだから、偶然ということもありうるが。
材料の一つにはなるだろう。
三つ目。必ず駅への到着は俺のほうが早い。
ある時、俺も。本当にたまたまで俺が自意識過剰なだけでは?
という疑問を持ったので。その日から駅に着くたびに彼女を探してみたが。
俺より先につくことは絶対になかった。
他にも、チラチラとこちらを見てくる。
俺と同じ入口から乗る など。
俺の勘違いかもしれないが、材料にはなるものが多い。
結果的に。総合判断すれば、彼女は絶対、俺のストーカーだ。
そして、その生活も今日で半年経過する。
何も被害はないからほおっておいたが、さすがにずっと続くと気味が悪いし、居心地が悪い。
今日はだからこそ。言ってやろう。
何だお前は、と。近寄るなストーカー野郎、と。
意を決して、俺はホームに俺より後に到着する彼女に元へ、歩き出した。
「おい」
「え?あ、はい……何ですか?」
何ですか。とは大層な物言いだ。何ですかじゃあないだろう。
ふざけるな。
「ストーカー行為はやめてもらいたいんだけど」
「え?ストーカー?私が?」
「お前以外に誰がいる」
「いやいや、なんでそうなるの?理由が分からないんだよ」
腹が立つ。いらいらする。
なぜこの状況でしらを切れるんだ?バカか?
「理由?理由だと?ふざけるな。
毎朝毎朝同じ電車に乗っているじゃないか。俺は毎日違う時間なのに」
「いや、だってそりゃあそうでしょう?行先同じなんだし」
会話が成り立たないアホか。
時間はいくらでもある中、毎日電車が被るといっているんだ。
「じゃあその定期入れは何だ?俺と全く同じじゃあないか。
たまたまかぶっているとでもいうつもりか?」
「はあ?いやいや、一緒に買いに行ったじゃん?」
「何だと?」
一緒に買いに行った?勝手に後ろをついて来たのかこいつ……。
俺は確か、親とデパートに行ったんだ。お前とじゃあない。
「到着も必ず俺のほうが早い。
お前がついてきているからじゃあないのか?」
「え?いやいや、そりゃあついていく形になっちゃうよね?
絶対私を待ってくれないし」
待つだと?待つわけがないじゃないか。ストーカーを。
「だから、今後一切ストーカーはしないでほしい」
「いや、だから何を言っているかわからないんだけど?
ねえ、どうしてそんなことを言うの?」
「どうしてって……。逆に何故かを聞きたい
どうしてお前が疑問を持っているのかが、俺には分からない」
「いやいや。こっちのセリフだってば……。
どうして私をストーカーっていうの?やっと話しかけてくれたのに。
なんでそんなこと言うの?」
「やっと話しかけたって……?
そりゃあ用もないのにお前みたいな他人と話す義理もないだろう」
「…………え?
他人? ……今。他人って言った……?」
「何だと?他人だろう?ストーカーは他人じゃないのか?彼女にでもなったつもりだったのか?」
「そっか……。話しかけてくれたから、やっと認めてくれたんだって思ったけど。
違うんだ……」
何を言っているんだ?話しかけたら彼女として認めるなんて勘違いしているのか?
花畑すぎるだろう……。ストーカーどころか奇人だな……。
「ねえ、いつまでそうやって私の事を見ない振りするつもりなの?」
「はあ?」
「私は……。確かに【お兄ちゃん】と血は繋がっていないけど……。
お兄ちゃんのお母さんは……。今は私にとってもお母さんなんだよ?
私を見てよ……っ‼ 私は、半年前からお兄ちゃんの妹だよっ‼」
「…………」
「ねえ?お兄ちゃんっ‼」
「なんだその設定は……」
気持ちが悪すぎる……っ‼
確かに俺の母は再婚したが、義理の父親に連れ子なんていない……。
そもそもなぜ俺の母が半年前に再婚したことを知っている?
変な設定まで持ち出して……。妄想もいい加減にしてくれ。
「設定じゃあないってば!
初めましてって言ったあの日から。まるでお兄ちゃん達には見えてないみたいにされて……。
認めたくないんでしょ?
妹さんが3歳のころに交通事故で死んだんだから、今更新しい妹ですって私が出てきても、嫌なのはわかるけどさ‼」
何故そのことまで知っているっ‼
「それでも私はお兄ちゃん達に見てもらおうと必死なんだよ?
今さっき話しかけられたときとっても嬉しかったんだよ?
ねえ……。いつになったら私を見てくれるの……?お兄ちゃん」
そういうと、彼女は泣き出してしまった。
まるで俺が悪いみたいじゃあないか……。
「もしもし母さん?」
泣きくずれる彼女を横目に、俺は母に電話をかけた。
「どうしたの?」
「ねえ、母さん……。母さんの子供って。誰……?」
「バカね。何を言ってるの……
私の子供は、後にも先にも。生まれてずっと……。
アンタ一人だよ」
「そうだよね。ごめんね……母さん」
「ええ、気を付けていってらっしゃい」
「うん。逝ってくるよ……母さん」
その日から、ストーカーはいなくなった。
ああ、せいせいしたなあと。
そう思いながら、僕は薄暗い部屋で母の料理を恋しく思った。
―fin―
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