俺「おちんちんぶぅっこわれるのぉおぉぉぉぉおおお!!!!!!!」ブリュリュブリュブチブチ (15)

男は窓から空を見つめていた。
もはやかつて人類が信仰の対象とした太陽の輝きはなく、昼であれども太陽のない昼が続く。
誰もが過去を妬み、足元を見つめる時勢であったが、男は違った。
まるで子供のような、キラキラと輝く星空のような目で太陽のない昼空を見つめるのであった。

俺「……ご主人様」

俺はそんな男をちらりと確認すると、目を合わせないように顔を少し下に傾けて後ろから声をかけた。
すると男はまるで何か大切なものを取り上げられた幼子のような顔で俺を睨みつけた。

男「ハンス、何の用だい?」

男は俺を嘲るような目でそう発言し、再び窓から空を見上げた。

俺「……お嬢様が亡くなりました」

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男は一連の仕草をピタリと辞め、

男「……もう一度、言ってくれ」

そう言った。
その誰にも劣らない頭脳はただ一度聞くだけで全てを理解しうる機能を持っていながらそれを放棄した。

俺「……お嬢様がお亡くなりになられました。……昨晩の出来事だったようです」

俺はそう告げた。
残酷な事実。受け入れ難い事実。だが全て事実であった。
男は事実を受け入れると俺に殴りかかった。

男「……お前が……! お前が……!」バキッボキッ

俺は一切の抵抗もしなかった。
男の拳は全て俺の顔に当たり、血が絶え間なく溢れ、男の顔に返り血がつこうとも男は拳を振り下ろすことを辞めなかった。

薄れゆく意識の中でこそ、俺は忠義を尽くすことを辞めなかった。
太陽のない昼空、月のない夜空。
誰もが目を背ける事実。
誰もが昔を羨む現実。
だがその夜空を、昼空のありのままが美しいと言う男に、誰が否を上げれるのだろうか。

だからこそ、俺は何もしなかった。
鼻はすっかり陥没し、片目は恐らくもう二度と空を見ることはできまい。

男は手を止め、俺に馬乗りになっている姿勢を辞めて立ち上がると、おもむろに尻ポケットからハンカチを取り出して手や顔にかかった返り血を拭いた。

男は血の中に沈む俺を見下しながら、

男「ハンス、君にはまだやることがある。わかるね」

そう言った。
なんて強いお人なのだろうか。
愛娘がお亡くなりになられたというのに、なんて強いお人だろう。

俺は涙を流して血の中から頷いた。

俺「ばい゛ごじゅじんざば」

この時、俺は財布の紐を堅く結んでいるという心境から財布を心の蔵まで、骨の髄までしまい込むという心境へ移行した。
それはもはや狂信であったが、俺は愛だと確信していた。
夜空に何もないのなら愛を浮かべよう。
そう決心した。

4日後、寒空の下、俺は馬小屋へ来ていた。
馬小屋の馬糞まみれの臭いを嫌いだと言う人は多いが、俺は嫌いというほど嫌いではなかった。
確かに良い臭いとは言い難いが、この少女が際限なく明るいという事が全てもぼやけさせた。

少女「シュミットさん。何処へ行かれるのですか?」

少女は馬を俺に渡しながらが俺に尋ねる。
人が見れば嫌悪感を覚えるほどの生々しい顔の傷跡に全く触れない少女は、恐らく全てを知らないが全てを分かっていた。
そう、少女は思慮深かったのだ。
俺は少女に答える。

俺「北の方へね」

嘘は言っていなかった。
ただこの馬に跨り、北へ行くことになればもう少女と顔を合わせることはないという事実については言う事をしなかった。
恐らく少女にその事を言っても笑顔で送り出してくれるのだから、少女の内心に少しでもトゲをさすことは辞めたかったのだ。

俺は馬に跨り馬小屋を後にしようとした。
その時少女が一瞬、ほんの一瞬だが泣き出しそうになるのを俺の目は見逃さなかった。
彼女は全てを知らなかったが全てを分かっていたのだ。
それを知ると俺はどうにも弱かった。
結局、どう言っていいかわからずに俺は馬で城を抜けた。

しばらく馬で走ると俺は空を見上げた。
太陽のない昼空は俺の気分を憂鬱にさせた。
誰もが目を背ける事実。それは俺にとっても例外ではなかった。
ただ男の事を考えると、凄まじく強い使命感が湧き上がり俺の忠義を後押しした。

雷鳴が轟いた。
太陽のない空の天候は全く読めない。
後ろを振り返ると城はもう小指に入るほど小さくなっていた。

何処かで雨が止むのを待たなければならなかった。

女「こんにちは」

近くから女の声が聞こえた。
服は薄着であるのに濡れるのも構わぬようで雨の中俺を見つめていた。

俺「申し訳ありません。ここらで雨宿りできる場所はありませんでしょうか」

女「それでしたら、私の家などどうでしょう」

雨に濡れては馬も風邪を引いてしまう。
俺はありがたく雨宿りさせてもらうことにした。

女が案内した家はどう考えても人の住めるような清潔さがある家とは思えなかった。
さらに家に入って驚いたのがこの一人でも狭すぎるような家に女の母、息子三人、娘二人、爺、婆が全員で暮らしていた事であった。

俺「これは……」

言葉に詰まった。
この家は俺が働いていた城のトイレくらいの広さしかない。
さらに父がいない子供達、これが意味することはただひとつであった。

女は売女であった。

女「一晩私達が食べれるだけでいいんです」

女はそう絞り出すように言った。
俺の顔の傷を明らかに気にしていた。

太陽のない昼、月のない夜。
この現実が意味するのは萎んでいく作物だった。
この結果食べ物は高騰し、満足するほど食べることができるのはほんの一握りの貴族か金持ちであった。

しかし、俺が今持っている金は男の物であった。
これを渡す訳にはいかない。これは俺のものではないのだから。
これは男のために使わなければならないのだ。

俺は雷雨も晴れたので立ち去ろうとした。

休憩しまつ

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