海未「理由なき勇気」 (116)
私の好きな人、ですか?
もちろん、私を産み育ててくださった両親や、数年ほど会っていないですが結婚して家を出た姉、それから、大切な友人……μ'sのみんな。
――挙げればキリがありませんよ。
はぁ、恋仲になりたい人、ですか。
そう聞かれれば、やはりそれは穂乃果になるんですかね。
幼い頃からずっとそばにいてくれて、私たちを引っ張ってくれて、まるで太陽みたいに輝いている――そんな、高坂穂乃果その人になります。
先にはっきりと言っておきますが、私は決して同性愛者というわけじゃありませんよ。
ただ、たまたま好きになったのが女の子だっただけです。
――おかしいですか?
私は、そうは思いません。
だって、人が人を好きになるのに理由が必要ないように、女性が女性を好きになるのにも理由なんて要りません。
勿論、男性についても同じだと思いますよ。
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あぁ、でも……たまに姉が読んでいたアレはいただけないですね。ボーイズラブ、と言うのですか?
男性同士が、その――破廉恥な格好で破廉恥な行為を――あまり思い出したくはありませんね。
ただ――私は、決して同性愛を否定するわけではありません。
同性愛者のことも、否定しません。
さらに言うならば、究極的にはつまり、異種族間の愛も否定しません。
動物が人間に恋をするのも、その逆も。
違う種族同士の恋愛だって、そこに真剣な愛があれば良いのです。
理由なんて、そこには要らないのです。
……それにしても、なぜか私の周りには同性のアベック(後日穂乃果に聞いたところによると、アベックという表現はもはや古いそうです)が多いように思います。
私と同じく、同性愛者でこそないけれど、たまたま女の子を好きになっただけ、と言う人も居るでしょうけれど。
それは例えば、穂乃果と希であったり(誠に残念な話ではあるけれど、私の愛する高坂穂乃果には同性の素敵な恋人がいるのだ)、或いは花陽とA-RISEの綺羅ツバサさんであったり、また
或いは――ちょっと特殊かも知れないけれど、ニコと真姫であったり。
ニコと真姫については、説明するのが大変難しいので、「世界を股にかけた大恋愛」とだけ。
――それにしても、あれは不思議な体験でしたね。私たちは一年に夏を二度も経験したのですから。
……って、当事者でもないのに語るのは野暮なことですね。
その辺りの話は、ニコか真姫に任せるということで、ここはどうか。
とにかく、女性同士のアベックが身の回りに多いということですが、実は少し思い当たる節があります。
ルーツ、と言えるかどうかはわからないので話半分程度に聞き流していただけると。
あれは……十年くらい前でしょうか。
珍しく私一人でことりの家に遊びに行く機会がありまして、そのときにことりママ――我らがオトノキの理事長の部屋に一人で勝手に入っちゃったんですよ。
やることがまるで穂乃果みたいで、なるほど、思い返してみると当時の私はそれなりに、歳相応な振る舞いをしていたみたいですね。
ええっと……イメージにないかもしれませんが、私はこれでも昔、よくやんちゃをしてたんですよ?
それはさておいて。
ことりママの部屋には綺麗な赤髪の女性の写真があったんです。
ゆるくウェーブがかかった艶のある髪に、自信をたたえた目。口元には色気を感じるホクロがあったりして。
……とまぁ、その時にぼうっと見とれてしまったんですよ。
やはりその辺りがルーツなのかなぁ、なんて。
……話が随分と横道に逸れましたが、実際、穂乃果が希と交際をすることになったあの日(日付で表記すると混乱を招きそうですが、一度目の7月14日だったと記憶しています)、ことりは誰よりも喜び、そして誰よりも妬んでいました。
穂乃果の幸せを誰よりも考えて動く、あのことりが、初めて穂乃果の幸せを素直に喜んでいなかったのです。
それ程までに穂乃果のことを愛していたということの証明に他なりません。
故に、板挟みです。
ダブルバインドです。
穂乃果は希と幸せになる。
幸せを願ってはいたけれど、その隣が自分ではない。
……これがどれほど辛いことなのかは、想像に難くありません。
なにせ私も――――。
……はぁ。
こんな感情、いっそ知らなければよかったんですよね、なんて。
ラブライブ板で落ちたのでこちらで立て直しました。今度は速報なので落ちないと思います…ひとまずここまで
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「おっじゃまっしまーすっ!」
玄関から元気な声が聞こえて、それから暫く。
園田家は、真姫の家ほどではありませんが、結構広いんですよ。
ですから、玄関から私の部屋までは、ゆうに一分以上はかかってしまいます。
穂乃果がドタドタと走っている音が聞こえてくる。
もう――廊下は走らないで、とあれほど言っているのに。
穂乃果らしいと言えばその通りではありますけれどね。クスクス――♡
――お母様は、もう穂乃果については注意することを諦めたそうです。
「まるであの子を見ているみたいで――まぁいいかな、なんて思うの」なんて、目を細めて言うものだから、私も穂乃果がうちに来る度にお姉様のことを思い出すようになってしまいました。
だから――少し切ない気分になってしまうのです。
「ごっめーん! 海未ちゃん、待った?」
穂乃果はぺろり、と舌を出して自分で自分の頭を小突く。
昔から、こういう可愛い仕草が穂乃果には似合います。勿論、ことりにも。
私にはこういうのは似合わないので、見るたびにずるいなぁ、と思ってしまう。
けれど――。
いえ、今はそんなこと考えている暇はありません。
「全然、待ってなんかいませんよ。ちょうど今お茶を入れたところですから。
――お茶を飲みながら、色々と説明をしてもらいましょうかね。何故穂乃果が宿題のことで泣きついてこなかったか気になりますし」
むしろ私がことりに泣きついたという事実は、できるだけ穂乃果には知られたくないなぁ、なんて思いながら穂乃果に尋ねる。
穂乃果は、「いただきます」と言ってお茶を一口すすり、ちょっと涙目になりながら(きっとお茶が熱かったのでしょう、私は熱いお茶の方が好みなのですが)、
「それはね――これのおかげなんだ!」
と、数冊のノートを鞄から取り出しました。見覚えのあるそれには、しっかりと「園田海未」と書かれています。紛れもなく、私のものです。
「私が宿題のノートを貸していたから、穂乃果はスムーズに宿題を終えることができた、と。なるほど、それはわかりました。
――でも、何でそれを穂乃果が持っているんですか?
ニコが『向こう』に帰る際に、私たちが持っていたもの以外は7月7日現在の状態に戻ったはずで、つまりそのノートは存在すらしない筈なんですよ。それなのに、どうして?」
私が引っかかっていたのは、このことでした。
時間経過による変化が元に戻るならば、夏休みに入ってから宿題ように購入したノートが手元に残るはずがないのです。
おそらく真剣な顔になっていたからでしょう、穂乃果が私の顔を見てぷっと吹き出すと、おかしそうな顔のまま言います。
「海未ちゃんってば、抜けてるなぁ。簡単なことじゃん!
その日、時間が戻る直前に穂乃果がそのノートを手に持ってたんだよ」
「――あ! 確かにそれなら、身につけていたものと同じく、元の状態に戻らないですね……それは盲点でした」
そうか、なるほど私は抜けていましたね。
――と言うことは、さっきまで必死にこなしていた宿題も、もうやる必要性がないわけです。
すでに終わった状態の宿題が手元にあるのだから、それを見返せば復習だって出来ますし……。
ふぅ、気が大分楽になりました。
すっかり安心した私は、穂乃果が持ってきてくれたおまんじゅうに手をつける。
――あぁ、相変わらずおいしいですね、穂むらのおまんじゅうは。
私は昔からこの味が大好きです。大好物は? と問われると間違いなくこのおまんじゅうを挙げるでしょうね。
穂乃果もおまんじゅうを一口齧ると、そのまま話し始める。
「あ、もしかして海未ちゃん、そのことに気づいてなかったんならもう一回宿題やっちゃった?
ごめん、早めに思い出せばよかったんだけど――ほら、穂乃果ってば宿題のことをすっかりさっぱり忘れちゃってて。
海未ちゃんからの電話がなかったら明日から学校だっていうのも忘れてたくらいで……あはは」
「いえ、それが宿題は私もすっかりと忘れていて……さっきそれに気付いて慌ててやっていたところでした。でも完成したものを穂乃果が持っていたおかげで、これ以上はやらなくて済みます。
――それにしても、学校が始まる日を忘れてしまうくらいだらけていた穂乃果が、明後日からの休み明けテストを無事に乗り切れるかが心配ですね」
そう言いながら、穂乃果の方を見ると、案の定。
顔を真っ青にして、口をあんぐり。
「うげぇ、休み明けテストのこと忘れてた……。
ま、まあでも勉強しても結果はそんなに変わらないし……」
「駄目です! 今からせめて要点だけでも復習しますよ! どうせ暇でしょう?
さ、そこに座ってください」
しっかりとテスト対策をとってもらわないと、宿題をした意味がないですからね。
――でも、これは、きっと言い訳で。
私から離れていった穂乃果と少しでも一緒にいたい、少しでも独り占めしたい、なんていうわがままなんですけれど。
それでも、たまにはいいじゃないですか。
私は、少し寂しかったんでしょうね。
穂乃果がどんどん遠くに行ってしまうのが。
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