八幡「例えば」 (31)
思いつき短編です。
一気に投下します。
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ふと思ったことがある。
俺が交通事故に会わなければ、雪ノ下と由比ヶ浜に気を遣わせることなんてなかったのではないだろうかと。
俺は本物が欲しいとあいつらに言ったが、あいつらは俺じゃなくてもきっと本物を見つけることができるはずだ。
過去に戻って俺が交通事故にあわない世界。
それはきっと、俺があいつらと関わりがなく、あいつらは他の人と本物を見つけた世界。
そんな世界があるのなら…………
そんな事を思いながら俺は寝た。
×××
朝になり、目が覚めた。
外は明るくいつもと変わらない朝。
起きた時間が少し早いだけでいつもと変わらない朝。
そんな朝…………だと思っていた。
俺が階段を降りリビングに行くと小町がいた。
小町「およっ?お兄ちゃん起きるの早いね!入学式だから気合い入ってるの?」
八幡「お前何言ってんだ。入学式とか一年以上前だろ」
小町「お兄ちゃんまだ寝ぼけてるの?今日4月1日だよ」
八幡「はぁ?」
小町がおかしな事を言っているので俺はカレンダーを見た。
…………!!
日付は4月1日。
カレンダーには大きく入学式と書いてあった。
……過去に戻っている。
八幡「あっ!」
小町「お兄ちゃんうるさーい」
今日が入学式ならそれは俺が交通事故に遭う日だ。
なら俺がこのまま動かなければ、雪ノ下と由比ヶ浜に迷惑をかけることはない。
そんな世界に変えれるのだ…………
八幡「あっ!」
小町「だからうるさいよお兄ちゃん」
駄目だ。
このままだとサブレが事故にあってしまう。
それは阻止しなければ意味がない。
時間を確認した。
早起きしたおかげで時間的余裕はある。
…………俺が事故を止める。
八幡「ちょっと外出てくる」
小町「ちょっ、お兄ちゃん?」
俺は部屋着のまま外へと飛び出した。
雪ノ下が車で通る時間と、由比ヶ浜が散歩で通る時間。
この時間をずらせば万事解決。
ほんの少しずらすだけでいいなら簡単なはずだ。
車に乗っている雪ノ下に接触することはできないだろう。
なら…………
八幡「由比ヶ浜の方に行くしかないか」
俺は事故に遭ったところまで走った。
そこから由比ヶ浜が来る方へ行けば会えるはずだ。
その方向へと歩くと視線の先から犬と歩いている女性がいた。
由比ヶ浜だ。
大丈夫だ。
例えこの事故がなくなることで俺の未来、あいつらと関わりがなくなったとしても…………
俺の本物がなくなっても大丈夫だ。
彼女らが幸せなら。
八幡「…………あの」
結衣「あ、あたしですか?」
少し警戒されているようだ。
そりゃそうだ。
いきなり男性に話しかけられれば不審に思うだろう。
なるべく記憶に残らないように、散歩している人に話しかけれる言葉を。
八幡「可愛い犬ですね。少し触ってもいいですか?」
俺はなるべく由比ヶ浜の顔を見ずに話した。
結衣「は、はぁ……。別にいいですけど」
八幡「すみません。少し失礼します」
そうして俺はサブレが走り出さないように抱きかかえ、頭を撫でた。
そして横の道路を、見覚えのある黒塗りの車が通った。
雪ノ下が乗っている車だ。
これで事故は回避できた。
俺はサブレを降ろした。
八幡「ありがとうございました。それでは」
結衣「あ、はい。さようなら」
八幡「…………さようなら」
さようならだ。
雪ノ下、由比ヶ浜。
そして俺は入学式をサボり、家で眠りについた。
…………さようなら。
×××
眠りについたからといって、未来に戻ることはなかった。
俺は過去に戻ったまま、一年生から高校生活を始めていた。
そしてぼっちのまま二年に進級。
そして今課題として『高校生活を振り返って」が出されていた。
ここであの時と同じことを書けば奉仕部へと連れて行かれる。
……俺があいつと関われる最後のチャンス。
だがそんなものはいらない。
俺は高校生が書くようなことを書いて提出した。
×××
平塚先生から呼び出しをくらった。
思い当たる節がなかったが呼び出しなら行かねばならない。
職員室へ入り平塚先生のところまで足を運んだ。
静「何故呼ばれたかは分かっているかね?」
八幡「いえ。思い当たることがありませんが」
静「これだよ」
そう言うと平塚先生は紙をピラピラと俺に見せてきた。
それは課題で出されていたの『高校生活を振り返って』の紙だ。
八幡「はぁ……。別におかしなことは書いてないと思いますが……」
静「どうにもこれは君が作った話にしか思えなくてな。ちゃんと君は、自分の高校生活を振り返ったのかね?」
八幡「…………嘘は書いてませんけど」
俺は嘘をついた。
ここで変な行動をしたら何されるか分からないからな。
静「……そうか。少しついてきたまえ」
八幡「え?」
静「いいからきたまえ」
そう言うと強引に俺を引き連れて、平塚先生は歩き出した。
見覚えのある風景。
それは過去に戻る前に何度も見ていたからだ。
この先にあるのは…………。
八幡「ちょっ、先生?俺今日用事あるんで帰っていいですか?」
この先にある部屋を思い出すと、俺は必死で逃げようとした。
だが、平塚先生はそれを許さない。
静「うるさいな。…………少し静かにしたまえ」
ドゴォっと、平塚先生は俺を殴り気絶させた。
…………そんなんだから結婚できないんですよ。
グフッ。
× × × × ×
俺が目を覚ますとあの部屋にいた。
……奉仕部の部室だ。
紅茶の匂いはまだしない。
部屋を見渡すと誰もいない。
八幡「今のうちに帰るか」
俺は部屋から出ようと扉の前に行くと、勝手に扉が開いた。
いつから自動ドア設備になったんだと思ったがそれは違った。
きっと外側から開けたのだろう、目の前には一人の女子生徒がいた。
雪ノ下雪乃だ。
言葉が出なかった。
だが俺とは逆に雪ノ下が話し出した。
雪乃「あら、やっと目が覚めたのね」
雪ノ下だ。
俺はまだ言葉が出ない。
このまま関わっていいのだろうかと思っているからだ。
雪乃「何をぬぼーとしているの?あなたを平塚先生から、この部へ入部させて欲しいと言われたのだけれど。何かしたのかしら?」
八幡「……は?いや、意味が分からん。俺は入部しないぞ」
雪乃「『入部を拒むのであれば三年で卒業できるとは思うなよ』だそうよ」
過去に戻る前に同じことを言われた。
雪乃「…………私何か酷いことしたかしら?」
八幡「……え?」
気がつくと俺は涙を流していた。
何故涙を流したのだろう。
…………答えは分かっていた。
雪ノ下と関わることを捨てた。
捨てたはずだった。
だけど心の底ではきっと関わっていたいと思っていたのだ。
俺の本物を捨てたくないと。
今はまだ出会ったばかりで本物と呼ぶには程遠いけれど……
きっとたどり着ける。
八幡「ああ。酷いことこれからめちゃくちゃ言われるな」
俺は確信を込めて言った。
雪乃「あなた何を言っているのかしら?馬鹿なの?気持ち悪い人」
八幡「ほら、さっそく言ってんじゃねーか」
×××
例えば。
例えばの話である。
例えばもし、ゲームのように一つだけ前のセーブデータに戻って選択肢を選び直せたとしたら、人生は変わるだろうか。
答えは否である。
〜完結〜
これで終わりです。
短くてすいません!
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