幽霊「わたしと『恋人ごっこ』してくれませんか?」 (15)

幼馴染「…………」

男「おーい」

幼馴染「…………」

男「あのー?」

幼馴染「…………」

男「……オサナナジミサーン?」

幼馴染「なによっ。さっきからうるさいわね」

男「もしかしておまえ怖いのか?」

幼馴染は昔から幽霊とか心霊現象、そういった類のものが苦手だ。つまり大の怖がり。
それを知ってて俺はあえてこんな質問をした。

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幼馴染「なっ……そ、そんなわけないじゃない!」

男「無理すんなよ?怖くなったら俺に抱きついてもいいんだぞ」

幼馴染「ば、ばっかじゃないのっ!だれがあんたなんかに……」ゴニョゴニョ…

男「無理すんなって。俺、わりと包容力はあるほうだから」

幼馴染「こっちからお断りよっ!だいたいね、幽霊なんて現実にいるわけないじゃない。ただの作り話よ、作り話」

男「ふーん。ところで幼馴染、あっちの草むらに落ち武者の霊が」

幼馴染「ぎにゃああああああああああああああああああああああッ!!」ギュウウウウウウ!!

男「おぅふっ」

しがみつかれた腕に押し付けられる胸の感触。
若干ボリューム不足だが。

幼馴染「お、おおおおおお願いです!!呪うんならわたしじゃなくてもう一人のほうにいいいい!!」ギュウウウウウ!!

男「…………」

こいつ、なにげにひどい。

男「幼馴染、冗談だから」

幼馴染「へ?」

男「だから冗談だって」

幼馴染「あ、あんたねぇ~……!」ウルウル

こいつをからかうのは最高に面白い。
涙目で睨みつけてくるから思わず笑いそうになったが、そうすると本気で泣きだしそうなので我慢した。

男「あと腕、そろそろ離してくんない?胸が……」

幼馴染「え?」

幼馴染「…………」チラッ

幼馴染「~~~~~~ッ!!」パッ

幼馴染「ち、小さくて悪かったわねっ!バカっ!!」プイッ!

いや、そんなことは一言も言ってないんだが……ま、いっか。
幼馴染はほっぺたを膨らませて、俺の前を早足で行ってしまった。

今の時刻を確認すると夜の8時。
こんな時間帯に俺たちは外でなにをしているのかというと、それは一種の度胸試しだった。
きっかけは終業式あとの男友の一言だった。

男友「肝試ししようぜ!」

男「は?」

男友「だーかーらー肝試ししようぜ!」

男「いや聞こえてるって。じゃなくてなんで突然そんなことを?」

男友「決まってんだろ。もうすぐ夏休み。夏休みといえば肝試し。肝試しといえば恋」

男「…………」

どういう理屈だ。特に肝試し=恋のくだり。

男「言っとくがおれはいやだぞ。おまえと二人で肝試しなんて」

男友「俺だっていやだよっ!ってか、だれが野郎二人で肝試し行くなんて言った!絶対楽しくねーだろそれ!」

男「じゃあなに、女子を誘うのか?」

男友「もちろんそのつもりだ」

男「ふーん、いいんじゃない?」

男友「おお、親友よ!おまえならそういってくれると信じて……」

男「じゃ、楽しんでこいよー」

男友「なんで他人事!なんで他人事なの!そこは『俺も今から楽しみだなー』の一言ぐらい言ってくれよ!」

男「いや、俺予定あるし。ダンジョン攻略という名の」

男友「さびしっ!おまえの青春それでいいのか!夏休みが終わって残ったのはセーブデータだけ。おまえの青春ほんとーにそれでいいのか!」

男「安心しろ。宿題も残ってるから」

男友「なにそのドヤ顔っ!うまいこと言ったつもりかもしれないけど、全然うまくないから!」

男「で、仮に行くとして俺たちが誘ってOKしてくれる女子がいるのかよ」

男友「ふふふ、安心しろ。その点については問題はない。すでに手配済みだ」

男「…………」

こいつの安心という言葉は大概アテにならない。
長年の経験で俺はそれを理解していた。

そして当日の早朝。

男友「もうすぐ出発だが、みんなー準備はいいかー」

幼馴染「問題ないわよ」

女「こっちもオッケーよ」

男友「いざ出陣!」チャリンチャリーン

男「…………」

やっぱり予想通りだった。
約束の時間に集合場所に現れたのはいつものメンバー。
俺、幼馴染、男友、女の4人が構成員の『幼馴染グループ』だった。

幼馴染「なによ今日は元気ないじゃない」

男「別に。いつもどおりだってば」

嘘だ。元気がないのは自分でもわかっていた。
理由は徹夜でゲームしてそのまま昼過ぎまで寝ようとしたところを、朝早くこいつに叩き起こされたからだ。
今日が肝試しだということを完全に失念していた。

幼馴染「嘘つき。顔に書いてあるわよ。『疲れた』って。どうせ夜遅くまでゲームやってたんでしょ」

男「…………」

こいつは俺の母親か?

幼馴染「とにかくほどほどにしときなさいよ。体にもよくないんだし」

男「はいはい、わかったよ」

めんどうなので適当に返事をして誤魔化す。
幼馴染は基本悪い奴じゃないんだが、こうやってお節介焼いてくるのがたまにめんどくさい。

男友「なにやってんだおまえらー」

女「そこのおしどり夫婦ー。はやくしないと置いてくわよー」チャリンチャリーン

幼馴染「おしどり夫婦って……べ、別にそんなんじゃないわよっ!!」

トマトみたいに顔を真っ赤にして怒鳴る幼馴染。
蒸気した顔のままこっちを向いて……

幼馴染「あ、あんたも勘違いしないでよねっ!!」

男「わかってる、あの二人も冗談で言ってるんだし」

幼馴染「…………」

男「なんだよ?」

幼馴染「ふんっ!」プイッ!

幼馴染は俺の問いには答えず自転車を飛ばした。
意味がわからん。なんで勝手に怒ってるんだろう。

自転車で行くこと15分ほど。俺たちは目的の場所に着いた。
そこは、地元民でも利用することの少ない小さな浜辺だった。

女「この時期なのにだれも泳いでないんだー」

男「駐車場もないしな」

観光客を含め多くの人はもっと設備の整った海水浴場に行ってしまう。
ここにはシャワールームや海の家どころか、最低限の更衣室もなかった。
いろいろと不便だ。

男友「でも、人がいないほうがのびのびできるからいいだろ」

幼馴染「たしかにねー」

女「ま、なにはともあれ早速泳ぎますか!」

みると女は水着を片手に着替えに行こうとしていた。
あれ?そういえば、俺水着持ってきたっけ?

男「ヤベ……」

男友「どした?」

男「家に水着忘れたかも……」

男友「えええええええええええ!昨日ちゃんとメールしたろ!」

男「わりぃ。見てなかった」

昨日はレベル上げで忙しかったからな。

男友「う~~~ん……どうすっかなぁ。パンツ一丁で泳ぐか?」

男「帰りどうすんだよ」

男友「ノーパンで」

男「か、勘弁してくれ」

男友「じゃあ取りにかえるか?」

男「え~……」

この炎天下の中を続けてサイクリングする気力は今の俺にはない。

男友「ならいっそ生まれたままのすがt……」

男「ざけんなっ!」

男友「なぁ、男」

男「なんだよ」

男友「たまにはありがとうの一言でも言ってあげたらどうだ?」

男「バカ。俺たちの柄じゃねーよ」

さっきはめんどくさいと言ったが、幼馴染に感謝していたのもまた確かだった。
小さい頃からいろいろと世話を焼いてくれて。
それに――

男「あいつなら言わなくてもわかってくれるって」

男友「そうか……?」

男「え?」

男友「俺たちもさっさと着替えようぜー」

不自然に会話を打ち切った男友は俺の前をさっさと歩いて行った。
俺もすぐにそのあとを追いかけた。

ミスった……
>>11>>12の間に↓を入れてください


幼馴染「はぁ~~~……」

背後から聞こえる幼馴染の長い溜め息。
呆れたとでも言わんばかりだ。
文句の一つでも言ってやろうかと後ろを振り向くと……

男「わぷっ」

突如、視界は黒に染まった。なにしやがったこいつ?

男「あれ?」

触ると布の感触がした。それが俺の水着だと気づくのに時間はかからなかった。

男「幼馴染、おまえ……」

幼馴染「どうせあんたのことだから忘れてるだろうと思ったのよ」

男「よく気づいたな?」

幼馴染「バカ。何年あんたの幼馴染やってると思ってんのよ」

それだけ言うとあいつは背中を向けて歩き出して、岩陰の向こうに隠れてしまった。

俺たちは女二人組が着替えているのとは別の岩陰で着替えていた。

男「おい、あいつらに肝試しのこと話してないだろ」

男友「さすが俺の親友。よくぞ、見破ったな」

男「見破ったっていうか……肝試しって聞いたら幼馴染がついてくるわけないだろ」

そう、あの怖がりの幼馴染が。

男友「たしかにそれも理由の一つだ。だが、理由は他にもある。予定をそのまま伝えるのは俺の主義に反するということだ」

男「主義?」

男友「モテる男はサプライズを使って女のハートをドキドキさせる。俺の師匠の言葉だ」

男「はぁ……」

誰だよ師匠って。

男友「つまりお楽しみは最後までとっておくということだ」

男「なるほど」

わかったような。わからないような。

水着に着替え終わった俺たちは、早速波打ち際に集まって遊び始めた。
まずはビーチボールだ。
俺と男友VS女と幼馴染。この時点で俺たちの負けは決定していた。
なぜなら――

女「幼馴染、いくわよー!えいっ!」

幼馴染「まかせな……さいっ!!」スパンッ!

ぎゅおんっ!
異様な軌道を描いてボールは男友の顔に吸い込まれていった。

男友「あべしっ!!」

そして見事直撃。

男友「…………」プカー

水面に浮いた死体。俺のかつての友だった男。

男「ウソ……だろ?」

たかがビーチボール。9割が空気で残り1割がうすいビニール。
それにこんな殺傷能力が……?幼馴染、やつは化け物かっ!?

冗談はさておいて。3-27で、結果俺たちの惨敗だった。
そのあとは水鉄砲をかけあって遊んだり、じゃんけんに負けた男友を砂に埋めて遊んだりした。
そして、気づいたときにはいつのまにか夕方で、あたりもだんだん暗くなってきた。

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