「命を生む錬金術を開発した」 (5)


男は長年の研究の末、とうとうその構築式にたどり着いた。

但し、最愛の恋人を若くして失ったわけでも、自身の命が稀な病によって蝕まれている訳でもなかった。


何がそこまで男を動かしたのかは分からないが、才能もあったのだろう、とにかく男は正しい命の式を導き出した。

使ってみたいと思った。

特に理由はない、男にとってその式は、新しい玩具に等しかったのだ。


一人の人間が手にするには、余りに畏れ多い神の手遊びである。

才能も度胸もあった男は、素手でそれを掴んだ。

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初めて生んだその命は、少女の形を成していた。

材料であるタンパク質に犬のものを使ったためであろうか、少女の頭には犬耳がくっついている。


なるほど命の構築と言えど、必ずしも赤ん坊から始まる訳ではないのだな。

年齢もある程度操れるのだろうか。


しかし男は勘違いに気が付いた。


あっと言う間に少女は女性に、もう一声の間にはすっかり老婆になって、そのまま真っ黒い血をごぽりと吐いて倒れた。

触ると冷たく、その質量はもう動かない物体と化していた。


誕生の瞬間は確かに赤ん坊だったのだ。

彼女の人生は一分で幕を閉じた。


はて。

死体を片付けながら男は首を傾げた。


現に命は誕生している。

構築式に間違いはないはずだ。


しかしもっと長く生きながらえさせなければ、とても命の創造とは言えまい。

一分で死んでしまうような脆弱な生き物を生んだところで、何の意味もないのだ。


男は早速研究に取りかかった。

今度はもっと長く、強い命を。


そうして出来上がった二人目は、自分より年上と見える老人だった。

脆弱な身体を保持するために驚異的なスピードで進む細胞分裂を、最初から老人として誕生させる事である程度遅らせることが出来る。


男は経過を観察することにした。

しかし男はすぐに異変に気が付いた。


老人は目が見えていなかった。

じっと床に座り込んだままうんうんと唸るだけ。


指文字や言葉を教えようにもあまりに時間が足りない。

何故なら男の予想では、この老人も長くは生きないはずなのだ。


午前零時の鐘が鳴るころ、老人はごぽりと真っ黒い血を吐き出して動かなくなった。

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