ゲンドウ「お前がエヴァ初号機になれ」シンジ「できるわけないよ!」 (585)

ネルフ本部 格納庫

シンジ「ここは……」

ミサト「ここはエヴァンゲリオンの格納庫。……になるはずだった場所よ」

シンジ「なるはずだった?」

リツコ「ええ。色々と事情があってね。不要な場所になってしまっているの」

シンジ「そうなんですか」

ゲンドウ「――久しぶりだな、シンジ」

シンジ「父さん……。僕に話って……なに……?」

ゲンドウ「お前をここに呼んだ理由は一つだ。シンジ、お前がエヴァ初号機になれ」

シンジ「え……どういうこと……?」

ゲンドウ「お前がエヴァ初号機になるんだ」

シンジ「なるって……どういうこと……?」

ゲンドウ「なるなら早くしろ。でなければ、帰れ!」

シンジ「ちょっと待ってよ!! 意味が分からないよ!! 父さん!!! 説明してよ!! エヴァになるってなに!?」

ミサト「まぁ、そうよね。シンジくん、モニターを見て。説明するわ」ピッ

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1432983934

レイ『あれが敵。倒すべき、敵』

サキエル『……』ガオー


シンジ「この映像はなんですか?」

リツコ「5時間前の戦闘記録よ」

シンジ「このおかしな格好をした女の子は……?」

ミサト「おかしな格好ではないわ。この子はエヴァンゲリオン零号機、綾波レイよ」

シンジ「もう1人、コスプレしている人がいますけど」

ミサト「奇怪な格好、じゃなくて、奇怪な容姿をしているのは使徒と呼ばれる人類の敵」

シンジ「あれが、使徒……なんですか? あの、使徒ってもっと大きかったような……」

リツコ「そう。本来なら全長15メートル以上はあるはずの巨大生物だとされていたわ。けれど、実際は人間と変わらないサイズだった」

シンジ「それで……?」

ミサト「そんなに小さな使徒を相手にするだけならこちらが巨大な兵器を使うまでもないってことで予算を大幅カットされちゃったのよ」

リツコ「エヴァの開発は完全に頓挫。初号機を動かすどころか、ネルフスタッフも大勢辞めてもらったわ」

シンジ「そ、そんなことが……」

ミサト「だけど、使徒はこうして人類に牙を剥いている。あたしたちは使徒と戦わないといけないの。そうエヴァがなくてもね」

レイ『零号機、目標と接触します』

サキエル『……』ガオー

レイ『ふっ』バキッ

サキエル『……』イテッ


シンジ「あんな女の子が素手で……。腕も細いし……危ないんじゃあ……」

ミサト「この零号機は殆ど生身での戦闘訓練はしていなかったわ」

シンジ「この子はどうなったんですか!?」

ゲンドウ「シンジ、そんなことはどうでもいい。早く決めろ。初号機になるのか、ならないのか」

シンジ「……そんなのいきなりいわれたって、無理だよ。できるわけないじゃないか。突然、こんなところに呼び出されて、わけもわからないし」

ゲンドウ「お前にしかできないことだ。故にここへ呼んだ」

シンジ「それだけなの? 何か、他にも……」

ゲンドウ「ない。早く答えろ、シンジ。我々に時間はない」

シンジ「そんなの……そんなの……」

ミサト「なりなさい、シンジくん」

リツコ「碇シンジくん、エヴァになって」

レイ『んっ』パシンッ

サキエル『……』イタイッ


ゲンドウ「お前がエヴァ初号機になれ」

シンジ「できるわけないよ!! 勝手なことばかりいわないでよ!!! いきなり言われたってできるわけないじゃないか!!!」

ゲンドウ「……」

『碇司令! 使徒が本部に接近してきています!!』

ゲンドウ「初号機は使えなくなった。零号機を出せ」

リツコ「しかし、レイはまだ……」

ゲンドウ「構わん。まだ使える」

リツコ「……わかりました。ミサト」

ミサト「わかったわ」

シンジ「そんなの……できるわけ……」

レイ「はぁ……はぁ……」

ミサト「レイ。やれる?」

シンジ「あの子は……!?」

レイ『パレットライフルを使います』バララララッ!!!!

サキエル『……』イタタタッ


シンジ「……」

レイ「まだ……たたかえ……ます……」

ミサト「レイの状態は?」

リツコ「見たままよ。完治までは数週間かかるわね」

ミサト「この状態で戦わせても……」

リツコ「でも、戦わなければ私たちは死ぬ」

ミサト「……レイ、大丈夫ね?」

レイ「は、い……ぐっ……」


レイ『プログレッシブ・ナイフで』シャキン

サキエル『……』ヒィー


レイ「はぁ……はぁ……うっ……」

シンジ(この子、どこでこんな大怪我をしたんだろう)

サキエル『……』ダダダダッ

レイ『使徒が逃走。後を追います』

マヤ『零号機、気をつけてください! その先はまだ道路の修復作業が終わっていません!! 足を踏み外すと大変なことに――』

レイ『あっ』

ミサト『レイ!? どうしたの!! レイ!! 応答して!!』

ゲンドウ『レイ! 何があった!!』

リツコ『零号機の状態は!?』

マヤ『肘と膝を損傷!!』


ミサト「……」ピッ

シンジ「どうして戦闘記録を最後まで見せてくれないんですか」

ミサト「この後、レイは隙をつかれて使徒に襲われた……。そして、この状態よ」

レイ「うぅ……ぐっ……」

シンジ「……」

レイ「あ……んっ……わたし……が……たたかい、ます……」

シンジ「逃げちゃダメだ……逃げちゃダメだ……逃げちゃダメだ……逃げちゃダメだ……逃げちゃダメだ……」

シンジ「僕がなります!! 初号機になります!!」

ゲンドウ「そうか。赤木博士、初号機のパーツを」

リツコ「はい。シンジくん、これを装着して」

シンジ「これは……?」

リツコ「初号機に使うはずだったパーツで作った、そうね鎧だと思ってくれていいわ」

ミサト「デザインはエヴァ初号機を元にしているだけだから、気にしないで。これがあなたを守ってくれるはずよ」

シンジ「わかりました」カチャカチャ

リツコ「手首をスイッチを押してみて」

シンジ「ここですか?」ピッ

シンジ「これは……」

ミサト「A.T.フィールドよ。それで身を守りなさい」

シンジ「は、はい」

リツコ「では、向こうにアレに乗って」

シンジ「ここですか?」

ミサト「ありがとう、シンジくん。――エヴァンゲリオン初号機、リフト・オフ!!!」

市街

サキエル「……」ガオー

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

サキエル「……」

シンジ「あぁぁぁぁぁぁ!!!!」ガクンッ!!!!

マヤ『初号機、リフト・オフ完了しました!!』

シンジ「し、死ぬかと……思った……」

ミサト『本来は初号機を市街地に上げるための装置だから。生身の人間にとってはちょっちスリルがあったでしょ』

シンジ「そういうことは最初に……」

サキエル「……」

マヤ『初号機!! 使徒との距離、100メートルです!!』

シンジ「あれが……使徒……」

サキエル「……」ガオー

リツコ『まずは歩くことだけを考えて。リフト・オフの影響で膝が笑っているわよ』

シンジ「え……そんなこと……あ、本当だ……足が震えて……」ガクガク

サキエル「……」ガオー

マヤ『使徒、接近!! 距離、80メートル!! 79、78、77……どんどん近づいています!!』

ミサト『シンジくん!! まずは歩いて!!』

シンジ「そんなこと言われても……」

シンジ「うわっ!」ドテッ

マヤ『初号機、転倒!! 膝を損傷!!』

シンジ「すりむいた……」

ミサト『あちゃぁ……。やっぱりダメか』

冬月『勝てるか』

ゲンドウ『勝ってもらわなければ、人類に先はない』

シンジ「いたいよ……」

サキエル「……」ガオー

マヤ『使徒、更に接近!! その距離、50メートル!!!」

ミサト「急いでシンジくん!!」

シンジ「で、でも……初号機のパーツが重くて……くっ……」

サキエル「……」ガオー

シンジ「あ……」

マヤ『使徒、初号機に接触!!』

ミサト『シンジくん!!!』

サキエル「……」ガシッ

シンジ「ぐっ……」

サキエル「……」ペチペチッ

シンジ「うあ!?」

サキエル「……」ペチペチッ

シンジ「うごっ……!?」

マヤ『左右の頬にダメージ!!』

ミサト『シンジくん、逃げて!!』

シンジ「にげろって言われても……」

サキエル「……」ペチンッ

シンジ「ぐあ!!」

サキエル「……」ブンッ

シンジ「うわぁぁぁぁぁああ!!!」ズサァァァ

マヤ『初号機、投げ飛ばされました!! その距離、1メートル!!』

リツコ『やはりダメか』

ミサト『作戦を中止!! 初号機の回収を急いで!!』

ゲンドウ『やめろ』

ミサト『しかし!!』

ゲンドウ『ここで初号機を回収すれば、終わりだ』

ミサト『くっ……』

シンジ「もうやだよ!! 父さん!! 助けてよ!! 父さん!!!」

サキエル「……」

シンジ「ひっ……」

リツコ『まずい!』

ミサト『シンジくん!!』

ゲンドウ『……』

ネルフ本部

サキエル『……』パシンッ!!!

シンジ『う……ぉ……!!』

マヤ「初号機、活動限界です!!」

ミサト「ダメだったのね。ごめんなさい、シンジくん」

リツコ「せめて、弐号機が間に合っていれば……」

マヤ「そんな……」

冬月「人類の最後とはあっけないものだな」

ゲンドウ「……」

ミサト「シンジくんは?」

マヤ「生きています。しかし、気を失って――』

シンジ『――どうしてだよ』

ミサト「え……」

シンジ『どうしていつも父さんは助けてくれないんだよ……おかしいよ……僕は……いつも1人で……1人ぼっちで……』

マヤ「初号機、再起動!!」

シンジ『遠足のお弁当だって僕が作って……参観日なんてきてくれたこともなくて……電話したっていつも留守番電話で……』

シンジ『会いたいっていうからきたのに……わけのわからないやつに殴られて……投げ飛ばされて……なんだよ、これ……なんなんだよ……』

マヤ「初号機に異常なエネルギー反応が!!」

ミサト「まさか!」

リツコ「暴走!?」

シンジ『うわぁぁああああああああ!!!!!』

サキエル『……』ビクッ

冬月「勝ったな」

ゲンドウ「ああ」

シンジ『どうして!!! どうして!!! どうして!!! どうして!!! どうして!!! どうして!!!』バキッドゴッベキッ

サキエル『……』イヤー

シンジ『どうしてだよ!!! どうしていつも父さんはそうなんだよ!!! うわぁぁああああああ!!!!!』

マヤ「酷い……」

ミサト「シンジくんがどういう生き方をしてきたのか、よくわかるわね」

ゲンドウ「……」

病室

シンジ「はっ……」

シンジ「……」

シンジ「知らない天井だ。僕はどうなったんだろう……」

レイ「気が付いた?」

シンジ「……君は」

レイ「エヴァ初号機、碇シンジにこれからの予定を伝えます」

シンジ「……」

レイ「明日、1000時にブリーフィングルームへ移動。その後、トレーニングルームでエヴァ零号機、綾波レイとの戦闘訓練。以上」

シンジ「怪我はもういいの?」

レイ「いいの」

シンジ「そうなんだ……」

レイ「それじゃ、またくるから」

シンジ「あ、うん」

シンジ「……手から血の臭いがする。どうしてだろう」

市街

ミサト「使徒は結局どうなったの?」

リツコ「分からないわ。まだ市街地に潜んでいるのか。それとももう第三新東京市にはいないかもしれないわ」

ミサト「逃がしたのは痛いわね」

リツコ「まさか、あれだけの傷を負いながら動けるなんてね。ありえないわ」

ミサト「まぁ、またその内顔を出すでしょうけど」

マヤ「あの、シンジくんの意識が戻りました」

ミサト「ホント、ありがとう。すぐに戻るわ。リツコ、あとのことはよろしくね」

リツコ「シンジくんに説明できるの?」

ミサト「それがあたしの仕事っ」

リツコ「……誰がどう説明したところで、彼の気持ちを動かせるかは疑問ね」

ミサト「……」

リツコ「もう一度、なってくれるかしら」

ミサト「なんとかなるって。ならないと、困るもの」

リツコ「大人のエゴね」

病室

ミサト「やっほー、シンジくん」

シンジ「ミサトさん……。どうも」

ミサト「良かったわ。1日以上、目を覚まさないから心配しちゃった」

シンジ「そうなんですか。僕はどうなったんですか?」

ミサト「貴方は初号機になって使徒を撃退した。それが全てよ」

シンジ「どうやって? 僕、何も覚えていなくて」

ミサト「かっこよかったわよぉ。いきなりカウンターパンチきめて、そこからシャイニングウィザードを――」

シンジ「……」

ミサト「とにかく、シンジくんは人類を守ったの。ありがとう」

シンジ「実感が全然ありません」

ミサト「いーじゃない。周囲のみんなは感謝してるんだから。素直に感謝されなさい」

シンジ「はい」

ミサト「で、これからのことなんだけど」

シンジ「これから、ですか?」

シンジ「綾波って子にいわれました。もう戦闘訓練が始まるんですよね」

ミサト「え? そんな話、私は……」

シンジ「僕の居場所はここにしかないみたいですから。僕はエヴァになります」

ミサト「いいの?」

シンジ「はい。構いません」

ミサト「そう……。それじゃあ、貴方の部屋を用意しなきゃいけないわね」

シンジ「すみません」

ミサト「こっちの仕事だから、気にしないで。本部で寝泊りするのが一番だけど……」

シンジ「……」

ミサト「そーだ、あたしの家にこない?」

シンジ「ミサトさんの……?」

ミサト「うん。それがいいかもね。それでいい?」

シンジ「あ、はい。僕はどこでも」

ミサト「ふふーん。ありがとっ。それじゃ手続きしてくるわ」テテテッ

シンジ「……とれないや、血の臭い」

市街 某所

サキエル「……」

「戻ってきたんだね。サキエル」

サキエル「……」ビクッ

「何故、ここにいるのかって顔をしているね」

サキエル「……」ウルウル

「僕は落ちた天使の最後を見届けるためにやってきたのさ」

サキエル「……」フルフル

「落ちた者を拾うほど、この世界は優しくないんだ」

サキエル「……」イヤイヤ

「君はもう舞台には上がれない。残念だったね」

サキエル「……」イヤァー

「君は負けたんだ。闘争と言う名の魔物にね」

サキエル「……」ヒィー

「終幕にしよう、サキエル」

翌日 ネルフ本部 トレーニングルーム

レイ「ふっ」

シンジ「うわぁ!?」

レイ「んっ」

シンジ「ちょ、ちょっと待ってよ、綾波!!」

レイ「なに?」

シンジ「そのもう少し、手加減を……。綾波の動きがはやくて……」

レイ「貴方は死なないわ。ヘッドギアがあるもの」

シンジ「そういうことじゃなくて」

レイ「ふっ」

シンジ「ぐっ……!!」


リツコ「よくもう一度なってくれる気になったわね」

ミサト「思うところがあるんでしょう、きっと」

リツコ「それと、シンジくんと一緒に住むという件だけれど。おかしなことしないでよ」

ミサト「だから、昨日のは冗談でいっただけだってばぁ。中学生に手を出すわけないでしょうが」

シンジ「センターにいれて、スイッチ……」カチッ

レイ「そう。それだけで的には当たるわ」

シンジ「センターにいれて、スイッチ……センターにいれて、スイッチ……センターにいれて、スイッチ……」

レイ「それでいいわ」

シンジ「綾波……。一つ、いいかな?」

レイ「なに?」

シンジ「ミサトさんが綾波は生身での戦闘訓練をしたことがないって言ってたんだ。でも、なんだか慣れているみたい……」

レイ「気のせい」

シンジ「そうなんだ」

レイ「そう」


リツコ「自棄になっていなければいいけど」

ミサト「心配ないって。あたしがいるんだから」

リツコ「……そういえば、シンジくんも学校に通わせるらしいわね」

ミサト「できるだけ普通の生活をしてほしいのよ。シンジくんにはね」

リツコ「そう」

レイ「ふっ」

シンジ「くっ」ガッ

レイ「あ……」

シンジ「……初めて、綾波の攻撃をまともに受けられた」

レイ「碇くん、流石ね」

シンジ「綾波の教え方が上手かったからだよ」

レイ「そろそろ時間。終わりましょう」

シンジ「あぁ、うん」

ミサト「おつかれさまー。喉乾いたでしょ」ポイッ

シンジ「あ、ありがとうございます」

ミサト「どう。レイとは仲良くできそう?」

シンジ「わかりません……。でも、嫌な感じはしません」

ミサト「その調子で明日からの学園生活も満喫してきなさい」

シンジ「あ、はい……」

ミサト「ふふっ。それじゃ、帰りましょ。我が家へ」

学校

トウジ「すまんなぁ、転校生。ワイはお前をなぐらなあかん」

シンジ「な、なに、いきなり……」

トウジ「ウラァ!!」

シンジ「……」ガッ

トウジ「な、なにぃ?」

ケンスケ「トウジのパンチを受けた……」

シンジ「どうして、いきなり……。僕は何もしてないのに……」

トウジ「お前の所為で……お前の……」

ケンスケ「この前の戦闘でトウジの妹がね」

シンジ「え……?」

トウジ「お前がごっつ怖い顔で使徒をボッコボコにしてるところを妹が見てもうてな、それでおねしょが再発したんや。妹は毎日、毎日、枕とシーツをぬらしとる」

シンジ「そんなの関係ないじゃないか……僕だって戦いたくて……戦ってるわけじゃないのに……」

トウジ「……!」ドゴォッ

シンジ「ぐぁ……!」

シンジ「何やってるんだろう……人に殴られてまで……」

レイ「碇くん」

シンジ「綾波……?」

レイ「非常招集。先、行くから」

シンジ「……また、戦わないといけないんだ」

シンジ「他人に殴られてまで……僕は戦わないといけないんだろう……」

レイ「碇くん」

シンジ「まだいたの?」

レイ「最初の防御は悪くなかったわ」

シンジ「……」

レイ「でも、その次は油断していたわね」

シンジ「ごめん……」

レイ「気をつけて」

シンジ「……」

シンジ(綾波って、不思議な子だな……)

>>31
シンジ「他人に殴られてまで……僕は戦わないといけなんだろう……」

シンジ「どうして他人に殴られてまで……僕は戦わないといけないんだろう……」

ネルフ本部

マヤ「パターン青! 使徒です!」

ミサト「モニター」

マヤ「はい!」

シャムシエル『……』ニョロニョロ

サキエル『……』

ミサト「使徒が二体も……!!」

リツコ「心配はないわ。こちらもエヴァを二体保有しているもの」

ゲンドウ「ああ。問題ない」

ミサト「とはいっても、シンジくんはまだ戦闘も不慣れだし……」

冬月「しかし、零号機だけでは危険だろう」

ミサト「そうですが」

マヤ「碇シンジ、綾波レイ。ネルフ本部に到着しました」

ゲンドウ「ただちに二人を出撃させろ」

ミサト「了解」

市街地

シンジ「目標をセンターにいれて、スイッチ……目標をセンターにいれて、スイッチ……」

レイ「……」

ミサト『二人とも、聞こえる?』

シンジ「はい」

レイ「問題ありません」

ミサト『使徒はその路地を真っ直ぐ進んでいるわ。あと数十秒で接触するはずよ』

レイ「了解」

ミサト『がんばってね』

シンジ「……はい」

マヤ『使徒との距離、50メートル。40……30……20……10……』

ミサト『今よ!!』

シンジ「目標をセンターに入れて……。スイッチ!!」カチッ

サキエル「……!?」ビクッ

シャムシエル「……」ニョロニョロ

シンジ「うわぁぁああああ!!!」ズガガガガガガッ

レイ「碇くん、それだと粉塵で相手が見えないわ」

シンジ「ああぁあああぁああ!!!!」ズガガガガガ

レイ「……よけてっ」

シンジ「え……!」

シャムシエル「……」シュンッ

シンジ「うわっ!?」

シャムシエル「……」ニョロニョロ

シンジ「くっ……! あぁぁああああ!!!」

シャムシエル「……」パシンッ

シンジ「ぐあ!?」

ミサト『シンジくん!! レイ、援護を!!』

レイ「無理です。使徒に捕縛されました」

サキエル「……」ギュゥゥ

ミサト『なんですって!?』

シンジ「はぁ……はぁ……はぁ……」

シャムシエル「……」ニョロニョロ

ミサト『シンジくん、退却よ!!』

シンジ「はぁ……はぁ……はぁ……!!」

シャムシエル「……」

シンジ「うわぁぁあああ!!!」ダダダダッ

シャムシエル「……」テテテッ

マヤ『初号機、戦線離脱!! 使徒、エヴァ初号機を追撃しています!!』

ミサト『レイは!?』

レイ「離れて」ググッ

サキエル「……」ギュゥゥ

リツコ『無理そうね』

ミサト『仕方ない! シンジくん!! その路地を右に曲がって!!』

シンジ「は、はい!!」

ミサト『それでいいわ! こちらで最適のルートを教えるから、指示通りに移動して!!』

学校

ケンスケ「やっぱり、あれは言いがかりにもほどがあるんじゃないか」

トウジ「うっさいわい。サクラがあの転校生のせいでイジメにあったらどう落とし前つける気や」

ケンスケ「そうはいっても、向こうは向こうで命がけで戦ってるわけなんだしさ、ああいうやりかたはどうかと思う」

トウジ「ふんっ」

ヒカリ「鈴原っ」

トウジ「なんや。いいんちょかいな」

ヒカリ「聞いたわよ。碇くんに酷いことしたんでしょ。ちゃんと謝ったの?」

トウジ「ワイはなんも悪いことはしてへん。ほっとけ」

ケンスケ「その碇を理不尽な理由で殴ったんだ」

ヒカリ「どうしてそんなことするの!? 碇くんが学校にこなくなったら、鈴原はどう責任をとるつもりなのよ!!」

トウジ「あの程度で心が折れるなら、使徒とは戦われへんなぁ」

ヒカリ「な……!!」

ケンスケ「流石にそれは――」

シンジ「こっちですね!! って、ここは学校じゃないか!! 学校でいいんですか、ミサトさん!!」

トウジ「転校生!? なにしてんねん!!」

シンジ「君は!!」

ケンスケ「謝るチャンスだ」

ヒカリ「ちゃんと謝って」

トウジ「なんでワイが――」

シンジ「くっ……!!」

シャムシエル「……」ニョロニョロ

ヒカリ「きゃぁ!?」

ケンスケ「まさか、使徒!? こんな近くで見ることができるなんて!!」

トウジ「これが使徒かいな……」

ミサト『シンジくん、そのまま校舎の中へ逃げなさい!』

シンジ「でも、僕の後ろに、その、クラスメイトがいるんです」

ミサト『ちっ。まだ帰ってなかったのね』

マヤ『シンジくんとレイには非常招集をかけたので一般生徒はやっと午後の授業が終わったところですね』

リツコ『他の生徒は関係ないわ。そのまま逃げなさい』

シンジ「で、でも……」

シャムシエル「……」ニョロニョロ

ヒカリ「い、いや……」

シャムシエル「……」ニョロニョロ

ミサト『シンジくん! 周囲の生徒の安全を最優先!!』

リツコ『何を言っているの、ミサト! 今、初号機を失うわけにはいかないのよ!?』

ミサト『守りなさい! それが貴方の役目よ!!』

シンジ「僕は……」

シャムシエル「……」シュッ

ヒカリ「え――」

トウジ「あかんっ!!」

シンジ「ぐっ……ぅ……」パシッ

シャムシエル「……」ニョロニョロ

ヒカリ「いか、り、くん……」

ケンスケ「触手から、委員長を守った……」

シャムシエル「……」ジュゥゥ

シンジ「あぁああぁああああああ……!!!!」

マヤ『両手を損傷!!! 使徒の触手によるダメージです!!』

トウジ「転校、せい……」

ヒカリ「やめて! やめて!!」

シンジ「このぉぉぉ!!!」グイッ

シャムシエル「……」ズサァァァ

マヤ『使徒、転倒!!』

シンジ「もう帰って!! 帰ってよ!! 帰ってよぉぉぉ!!!」ゲシッゲシッ

シャムシエル「……」イタッイタッ

シンジ「僕は守らなきゃいけないんだ!!! 知らない人も!! 嫌いな人も!!! みんなを守らなきゃいけないんだ!!! 君たちが現れるから!!!」ゲシッゲシッ

マヤ『初号機、使徒に対して執拗に蹴りを浴びせています!!」

シンジ「かえってよぉ!!!」ドガッ

シャムシエル「……」テテテッ

マヤ『使徒、逃げ出しました!!』

シンジ「はぁ……はぁ……はぁ……」

トウジ「転校生……」

ヒカリ「……」

ケンスケ「あの、碇?」

シンジ「はぁ……はぁ……」

ケンスケ「大丈夫か?」

シンジ「はぁ……はぁ……」

ミサト『よくやったわ、シンジくん。戻ってきて』

シンジ「あや、なみは……?」

レイ『私は無傷だけれど、使徒には逃げられたわ』

シンジ「そう……よかった……。今から、戻ります」

ミサト『待ってるわ』

シンジ「帰ろう……」

トウジ「転校生。その……あー……」

シンジ「……僕は与えられた任務をこなしただけだから、気にしないで」

ヒカリ「碇くん、本当にありがとう!」

ケンスケ「助かったよ」

シンジ「それじゃ、僕は戻るから」

トウジ「ま、またんかい」

シンジ「……」

トウジ「礼は言わんぞ。それがお前の仕事なんやろ」

シンジ「……」

ヒカリ「ちょっと!」

トウジ「ほら、ここ。ワシを一発どつかんかい。それで貸し一つでええやろ」

シンジ「どうして?」

トウジ「いいから、なぐらんかい!! ワシの気がおさまらんのや!!」

ケンスケ「こういうめんどくさい奴だから、一発殴ってやってよ」

シンジ「それじゃあ……」ドゴォッ!!!

トウジ「ぐっ……うぉ……ぇ……!?」

ヒカリ「鈴原!?」

ネルフ本部

シンジ「ただいま、戻りました」

ミサト「おかえりなさい」

シンジ「……」

リツコ「ミサト、今回の一件は問題よ。貴方の独断で初号機を危険に晒したのだから」

ミサト「わかってるわよぉ。でも、結果的にはグッドでしょ」

リツコ「どうかしら。使徒には逃げられたのだから、バッドかもしれないわよ」

シンジ「すみません。僕が捕まえられたはずの使徒を取り逃がしました」

ミサト「シンジくんは悪くないわ。寧ろ、褒められることをしたのよ。胸をはりなさい」

シンジ「でも、僕はこの手でクラスメイトを殴りました。エヴァ初号機の硬い装甲に守られた手で」

マヤ「あれは向こうから殴って欲しいといってきたからで……」

シンジ「僕も罰を受けます」

ミサト「シンジくん……?」

シンジ「罰を受けますよ。なんでも言ってください」

リツコ「重症ね。とりあえず、少し休んでもらいましょう」

廊下

シンジ「……」

レイ「碇くん。どこにいくの?」

シンジ「謹慎処分だって。12時間だけ」

レイ「そう。一般生徒を殴ったから?」

シンジ「うん」

レイ「どうして殴ったの?」

シンジ「殴ってくれっていったから」

レイ「断れなかったの?」

シンジ「断っても無駄だと思った」

レイ「その場をすぐに離れられなかったの?」

シンジ「無理だよ。きっと、引き止められた」

レイ「自分から問題を起こせば、ここにいなくてもよくなるって思ったの?」

シンジ「なんだよ……それの何がいけないんだ……」

レイ「……」

シンジ「ここに呼ばれていきなり「お前はエヴァンゲリオンだ」なんて父さんに言われて、おかしな奴と戦わされて、逃げたくても逃げれなくて……!!」

シンジ「知らない相手にも恨まれて!! そんなの嫌なんだよ!!」

レイ「なら、逃げれば?」

シンジ「できるわけないよ!! 父さんが許してくれない!!」

レイ「そんなことはないわ」

シンジ「黙れよ!! 綾波は何も知らないだけじゃないか!! 父さんは……あいつは……サイテーの人間なんだ!!」

レイ「……」スッ

シンジ「ふっ!」ガッ

レイ「……」

シンジ「綾波の平手打ちは、もう見切ってるよ」

レイ「……」ドゴォッ!!!

シンジ「ぐ……ぉえ……!?」

レイ「さよなら」

シンジ「膝蹴り……まで……してくるんだね……あや、なみ……」

シンジ(本当に、僕は何をしているんだろう……。女の子にまで喚き散らして……最低なのは僕のほうじゃないか……)

市街 某所

サキエル「……」ヨロヨロ

シャムシエル「……」ニョロニョロ

「おかえり、二人とも。酷い有様だね」

サキエル・シャムシエル「「……!!」」

「落ちた天使と共にいっても失敗したんだね」

サキエル・シャムシエル「「……」」ガタガタガタ

「悲哀の旋律が、流れてくる。君たちの傷を見ると、そんな錯覚すら抱いてしまう」

サキエル「……!」

「予想外にリリンが強かった? そんな言い訳が通用するほど、運命は君たちに都合よくできていないんだ。悲しいね」

シャムシエル「……」ニョロニョロ!!!

「もういいんだ。哀れな者ほどよく喋るというけれど、本当だった」

サキエル・シャムシエル「「……」」ガタガタガタ

「天使はまた地上へと落ちた。悲しみの連鎖をここで断ち切ろう」

サキエル・シャムシエル「「……」」ガタガタガタ

「怯えなくてもいいんだ。怖がらなくてもいい。さぁ、出ておいで。第5の使者、ラミエル」

ラミエル「……」キャー

サキエル「……!」

「雷を司る天使の名を冠した、この子と共に行くんだ」

シャムシエル「……」ニョロニョロ

「確かに。リリンの手に収まるほどの大きさしかないけれど、それでも君たちよりは良い音を奏でてくれるはずさ」

サキエル「……」

「疑念を抱くのはいいことだよ。いつでも疑念から希望に変わるからね」

サキエル「……?」

「僕が信じられないかい?」

シャムシエル「……」ニョロニョロ!!

「心配はいらない。共にいけば分かるはずだ。ラミエルの本当の力がね」

ラミエル「……」キャー

「行ってくるんだ。そして、必ず……」

ラミエル「……」クルックルクルッ

数日後 葛城宅

ミサト「シンジくん、起きてる?」

シンジ「……」

ミサト「……今日も学校を休んだみたいね」

シンジ「別に行く必要がないと思ったので」

ミサト「明日はちゃんと学校に行きなさい」

シンジ「エヴァにはちゃんとなりますよ。なればいいんでしょ」

ミサト「……」

シンジ「それでいいじゃないですか。どうして学校に行かないといけないんですか。僕はちゃんとエヴァになっていますよ」

シンジ「綾波との戦闘訓練だってきちんとしているじゃないですか。いつもいつも綾波には殴られっぱなしですけど、それでもちゃんとやってるじゃないですか」

シンジ「学校ぐらい、いいじゃないですか」

ミサト「分かったわ。もういい」

シンジ「……」

ミサト「シンジくん。おやすみ」

シンジ「僕は……ちゃんとエヴァになってるじゃないか……」

翌日 ネルフ本部

レイ「ふっ」ドゴォ!!!

シンジ「がはっ……!?」


ミサト「……」

リツコ「お疲れ、ミサト。はい、差し入れ」

ミサト「あら、ありがとう。この缶コーヒー、おいくら?」

リツコ「おごりよ」

ミサト「いただきますっ、赤木はーかせ」

リツコ「それで不登校は治ったの?」

ミサト「ダメね。鈴原くんと顔を合わせたくないみたいで」

リツコ「それでミサトは多感な中学生を放置しているわけね」

ミサト「そういうわけじゃないけど、どう接して良いのかわかんなくて」

リツコ「貴方みたいな人を保護者失格というのよ」

ミサト「ほんとにね。もうすこし上手くできると思ったんだけど」

リツコ「それにしてもレイは手加減をしないのね。シンジくんの治療もそれなりの労力がかかっているのに」

休憩所

レイ「先に帰るから」

シンジ「あぁ……うん……」

レイ「さよなら」

シンジ「……」

レイ「碇くん」

シンジ「帰らないの?」

レイ「これ、新しい座席表。昨日、席替えがあったから」

シンジ「そうなんだ」

レイ「碇くんは私の隣」

シンジ「そうなんだ」

レイ「……」

シンジ「なに?」

レイ「さよなら」

シンジ(綾波の考えていることは全然分からないな……。こんなの貰っても、僕は学校になんていく気がないのに……)

シンジ「僕も帰ろう……」

ミサト「シンジくん」

シンジ「……なんですか」

ミサト「ええと……その……」

シンジ「僕は帰ります」

ミサト「ごめんなさい」

シンジ「……」

ミサト「正直に言うわね。あたし、シンジくんとは上手くやっていく自信がないの。だから、ごめんなさい」

シンジ「それを僕に言うんですか」

ミサト「ええ」

シンジ「そうですか。僕、今日から本部で寝泊りをしたらいいんですか?」

ミサト「ただ、戦ってるときの貴方は、とてもかっこよかったわ」

シンジ「……」

ミサト「そんなシンジくんと一緒に生活ができてよかったと思うし、これからだってあたしは貴方の帰る場所であり続けたい」

シンジ「でも、上手くやっていく自信がないんですよね。ミサトさんは何を言いたいんですか」

ミサト「そう。このままだと上手くやっていく自信がないの。シンジくんの協力がないとね」

シンジ「僕の……?」

ミサト「あたしは貴方の母親になろうとかお姉さんになろうとか、そんな大それたことは考えてないわ」

シンジ「……」

ミサト「だけどね、辛いことがあったら甘えていいし、いつでもこの胸をかしてあげるわ」

シンジ「そんなこと言われても……」

ミサト「本当に逃げ出したいのなら言って。いくらでも手を貸してあげる」

シンジ「嘘だ。そんなの」

ミサト「シンジくんのためなら、ネルフぐらいやめてやるわ。そのときはシンちゃんがあたしを養ってね」

シンジ「本気で言ってますか?」

ミサト「割とね」

シンジ「……」

ミサト「お父さんに言わなくてもいい。1人で抱え込まないで」

シンジ「どうしてそこまで優しくしてくれるんですか?」

ミサト「まぁ、あの……色々……シンジくんには悪いことしたし……」

市街

シンジ(ミサトさん、僕に何を隠しているんだろう……)

トウジ「お!?」

ケンスケ「あ!!」

シンジ「あ……」

トウジ「ま、またんかい!!」

シンジ「な、なに……?」

トウジ「あれから1回も学校こんとなにしてんねん」

ケンスケ「みんな、結構心配してるんだ」

シンジ「ごめん。忙しくて」

トウジ「綾波は毎日きとるのにか」

シンジ「綾波が……」

ケンスケ「あの日のことを気にしているんだろ。もうトウジは忘れたっていってるから、碇も気にしないでくれよ」

トウジ「そうや! 男がウジウジしててもあかん! どっしりとかまえとけ!!」

シンジ「僕にはそんなことできないよ」

トウジ「なんでやねん。あのときのシンジはかっこよかったやんけ」

シンジ「かっこいい?」

トウジ「そうや。サクラもな、もうおねしょはせんようになったし、ワシが助けられたって話をしたら「シンジさんにちゃんとお礼が言いたい」っていっとるぐらいや」

シンジ「そう……」

トウジ「せやから、また学校にきてきれ。ついでにサクラにもあったってくれ」

シンジ「……」

ケンスケ「無理にとは言わない。トウジがあれだけのことをしたんだし」

トウジ「なんやねん!! ちゃんとシンジには殴られたやろ!!」

ケンスケ「そういう問題じゃないんだって」

トウジ「なら、どういうことやねん!! 説明せえや!!」

シンジ「僕はかっこよくなんてないんだ」

トウジ「は? そんなことあらへんって」

シンジ「僕はただ、戦えって言われたから戦ってるだけなんだ。何もかっこよくなんて……」

トウジ「お、おい」

シンジ「それじゃあ……」

公園

シンジ「僕は……僕は……」

キャー!!

シンジ「え?」

ラミエル「……」ヒューン!!!

シンジ「何か飛んでく――」

ラミエル「……」キャー!!

シンジ「うわぁ!?」

ラミエル「……」キャー?

シンジ「な、なんだ、これ……? 胸に飛んできたからよかったけど、頭に当たってたらあぶなかった」

サキエル「……」

シンジ「し、使徒……!?」

シャムシエル「……」ニョロニョロ

シンジ「ま、まさか、この小さな物体も……」

ラミエル「……」キャー♪

サキエル「……」ガシッ

ラミエル「……」キャー

シンジ「まさか、君がそれを僕に投げてきたの?」

サキエル「……」コクッ

シンジ「どうしてそんなことするんだよ!!」

サキエル「……」シュッ

シンジ「くるっ!!」

ラミエル「……」キャー!

シンジ「この速度なら回避できる――」

ラミエル「……」キャァー

シンジ「軌道が変化し――」

ラミエル「……」ドンッ!!

シンジ「ぐっ……!! よ、よけられない……」

ラミエル「……」キャー

シンジ「また、来る!! 逃げなきゃ……!! 逃げなきゃ……!!」

ネルフ本部

マヤ「パターン青!! 使徒です!!」

ゲンドウ「モニターに出せ」

マヤ「は、はい!!」ピッ

ラミエル『……』ガッキン!!ガッキン!!

シンジ『痛い!! いたいよ!! やめてよぉ!! 誰か助けてよ!! ミサトさん!! ミサトさぁぁぁん!!!』

ラミエル『……』グリグリグリグリ!!!

シンジ『うわぁああああああ!!!! あああああぁっぁぁああああ!!!!』

マヤ「使徒! シンジくんの胸部で高速回転を始めました!!」

冬月「正八面体の使徒。あの形で回転されたら痛いな」

ゲンドウ「ああ。初号機を回収しろ」

リツコ「了解。――ミサト、聞こえる?」

ミサト『ほいほーい。どうかしたぁ?』

リツコ「すぐに現場へ向かって。シンジくんが使徒にやられているわ」

ミサト『なんですって!?』

公園

シンジ「あああぁあああぁああ!!!!」

ラミエル「……」グリグリグリグリ!!!!!

サキエル「……」オロオロ

シャムシエル「……」ニョロニョロ

シンジ(ぼくは……ここで死ぬんだ……こんなわけの分からないところで……死ぬんだ……)

シンジ(ぼくは……母さん……)

バキッ!!

ラミエル「……」キャー

シンジ「え……」

サキエル・シャムシエル「「……!」」

レイ「碇くん、大丈夫?」

シンジ「あ、綾波……」

サキエル「……」ガオー

レイ「……私と戦うの?」

サキエル「……!」ビクッ

レイ「どうするの?」

サキエル「……」

シャムシエル「……」ニョロニョロ

ラミエル「……」キャー?

サキエル「……」ダダダッ

ラミエル「……」キャー

シンジ「使徒が……去っていく……」

レイ「怪我は?」

シンジ「綾波……ありがと……う……」

レイ「碇くん?」

シンジ「……」

レイ「……」

ミサト「レイ!! シンジくんは!?」

レイ「ここに。碇くんは胸部から出血をしています。早く医療班を」

ネルフ本部

ゲンドウ「初号機の状態はどうだ」

リツコ「胸部を2針縫う程度の傷は負いましたが、許容範囲内です」

冬月「つまり、次の戦闘にも支障はないということか」

ゲンドウ「でなければ困る。初号機はこの世に1体しか存在しない」

リツコ「しかし、初号機も生身の人間です。あまり無理な稼働を強いては壊れるのも早まります」

ゲンドウ「この程度で壊れるなら、それまでのことだ。予備を用意すればいい」

ミサト「司令、それではあまりにも……」

ゲンドウ「使徒の襲撃は近くあるはずだ。初号機の修理は早急に行え。以上だ」

冬月「修理か」

ミサト「司令!!」

リツコ「やめなさい、ミサト」

ミサト「でも! リツコだって、今の命令はおかしいって思うでしょ!?」

リツコ「そうね。だけど、人類のためには時として非情にならなければいけないときもある。違う?」

ミサト「……シンジくんの様子を見てくるわ」

医務室

シンジ「……はっ」

シンジ「また、知らない天井だ」

レイ「起きた?」

シンジ「綾波……」

レイ「次の指令を伝えます。1800時に――」

シンジ「ちょっと待っ……ぐっ……」

レイ「胸の傷、まだ完治していないから」

シンジ「僕は、どれぐらい寝てたの?」

レイ「15時間ほど」

シンジ「そう……なんだ……」

レイ「その間に使徒が現れたわ」

シンジ「使徒が……」

レイ「モニターを見て。いつでも使徒の様子を見れるようになっているから」

シンジ「え……?」

サキエル『……』ガリガリ

シャムシエル『……』ニョローン

ラミエル『……』グリグリグリグリグリ!!!!!


シンジ「あれは何をしているの?」

レイ「赤木博士によると使徒三体は地面を掘って、ここネルフ本部を目指しているみたい」

シンジ「掘ってここまで来る事ができるの?」

レイ「18層に及ぶ特殊装甲があるから、あれで進むとなると79万8400時間後にはここへ到達することになる」

シンジ「ええと……日数にすると……」

レイ「90年ぐらい」

シンジ「放っておいてもいいんじゃないかな。あの正八面体の使徒なんて自分の体を回転させて掘っているし、そのうち削れていって消えちゃうかもしれないじゃないか」

レイ「でも、使徒の殲滅は命令だから」

シンジ「嫌だよ……もうあんな怖い思いをするのは……」

レイ「いやなの?」

シンジ「当たり前じゃないか!」

レイ「なら、逃げれば? あとのことは私が引き継ぐ」

シンジ「え……」

レイ「さよなら」

シンジ「綾波……」

シンジ(これでいいんだ……。綾波は強いし、きっと負けることはないはずだし……)

シンジ「でも、綾波はあの最初の使徒に負けて、大怪我をしていたような……」

シンジ「ううん。それでも、僕が戦うより綾波が戦ったほうがいいじゃないか。楽に使徒を倒せるはず」

シンジ「僕なんて……本当は必要じゃないんだ……」

シンジ「父さんが必要なのは……エヴァンゲリオン初号機で……僕じゃない……」

シンジ「……」

ラミエル『……』キャー

シンジ「なんだろう?」

レイ『それ以上、掘らせない』

シンジ「綾波!?」

ラミエル『……』キャー?

レイ『来る……』

公園

ラミエル「……」キャー

レイ「くっ……」

サキエル「……」ガオー

ミサト『一人じゃ無理よ!! 撤退しなさい!!』

シャムシエル「……」パシンッ!!!

レイ「うっ!」

ミサト『命令よ!! そこから離脱しなさい!!』

ラミエル「……」キャーッ

レイ「あ……」

ラミエル「……」グリグリグリグリグリ!!!!!!

レイ「んっ……あ……ぃ……!!」

ラミエル「……」グリグリグリグリグリ!!!!!

レイ「ん……ふ……ぁ……」

ゲンドウ『逃げろ、レイ!!』

病室

レイ『あっ……ん……うっ……』

ラミエル『……』グリグリグリグリグリグリグリ!!!!!!


シンジ「綾波が……!!」

シンジ「でも、僕が助けに行っても……結果は同じだし……意味がないよね……」

シンジ「使徒なんて倒せっこないんだ。何が初号機だよ」

シンジ「僕はただの中学生なんだ。あんなやつらに勝てるわけないじゃないか」

シンジ「父さんは……何を考えてるのか……よくわからないよ……」


ラミエル『……』グリグリグリグリグリ!!!!!!

レイ『んっ……ん……』


シンジ「僕じゃ助けられない……嫌なことや痛いことから逃げて何が悪いんだよ……」

シンジ「僕は……僕は……」

シンジ「ただ無理矢理……戦わされて……」

シンジ「それだけじゃないか……だから……」

ネルフ本部 管制室

ラミエル『……』グリグリグリグリグリグリグリ!!!!!!

レイ『あっ……は……ぃ……く……』


マヤ「エヴァ零号機の体温が上昇しています!! このままでは危険です!!」

ゲンドウ「レイ!!」

ミサト「逃げなさい! レイ!!」

マヤ「ダメです! こちらの音声、届いていません!!」

リツコ「万事休すか」

冬月「初号機は?」

マヤ「病室にいるはずです」

冬月「ここまでか。碇、零号機を破棄するときではないのか」

ゲンドウ「今ここで零号機を失えば、シナリオの大幅な変更を余儀なくされる。そのときではない」

冬月「だが」

『やめろぉぉぉ!!! 綾波を、はなせっ!!!』

ミサト「この声……!」

公園

ラミエル「……」キャー?

レイ「え……」

シンジ「うわぁああああ!!」バキッ!!!

ラミエル「……」キャァー

レイ「い、かり……くん……」

シンジ「はぁ……はぁ……あ、やなみ……」

レイ「たすけに……きえてくれたの……」

シンジ「僕にでもできることがあるかもって考えたら、いつの間にか病室を抜け出して、ここまで……」

レイ「そう……」

サキエル「……」ガオー!!!

シャムシエル「……」ニョロニョロ!!

ラミエル「……」キャー!

レイ「使徒が戦闘態勢に入ったみたい」

シンジ「ここで死ぬかもしれないね、僕たち……」

レイ「貴方は死なないわ」

シンジ「え?」

レイ「私が守るもの」

シンジ「ちょっと……」

サキエル「……」ガオー!!!

レイ「ふっ」ドゴォ!!!!

サキエル「……」グハッ

シャムシエル「……」シュンッ!!!!

レイ「無駄よ。フィールド、展開」ギィィン

シャムシエル「……!?」

レイ「目標、射程距離。攻撃、開始」バキッ!!!

シャムシエル「……」イタイ!!

シンジ「綾波……やっぱりすごく強いんだ……」

ラミエル「……」キャー!!!

シンジ「しまっ――」

レイ「させない」ガシッ

ラミエル「……!?」

レイ「碇くん、今のうちに」

シンジ「え……?」

レイ「私が使徒の動きを握って止めている間に……」ギュゥゥ

ラミエル「……」キャー!!!

シンジ「わ、わかった!」

レイ「訓練を思いだして」

シンジ「目標を……センターにいれて……」

ラミエル「……」キャー!!!!

シンジ「スイッチ!」ドゴォ!!!

ラミエル「……」キャァァ…

シンジ「はぁ……はぁ……し、使徒は……?」

レイ「向こうに飛んで行ったわ。追いましょう」

シンジ「う、うんっ」

シンジ「滑り台のほうにはいなかったよ」

レイ「……」

シンジ「綾波? どうしたの?」

レイ「……」

シンジ「綾波!? 綾波!! しっかりして!!」

レイ「ごめんなさい……少し、疲れて……」

シンジ「よかった……」

レイ「どうしたの?」

シンジ「安心して……それで……」

レイ「どうして泣いているの?」

シンジ「僕が逃げたせいで……綾波が危険な目にあって……でも、なんとか助けられて……綾波が無事で……安心して……嬉しくて……僕もよくわからないや……」

レイ「ごめんなさい。こういうとき、どんな顔をすればいいか、わからないの」

シンジ「笑えば、いいと思うよ」

レイ「……こう?」

シンジ「うん。そんな感じ」

ネルフ本部

マヤ「初号機、零号機。共に無事です!」

ミサト「二人の回収を急いで」

マヤ「回収班、伊吹マヤ。いってきます」

ミサト「はい。気をつけてね」

リツコ「人員が足りないと1人で何役もしないといけないから、大変ね」

ミサト「予算をカットしたヤツらに現場の大変さを教えてやりたいわ」

リツコ「そうね。人員の補充は急務ね」

ミサト「あてでもあるの?」

リツコ「一応ね。でも、応じてくれるかどうかわからないわ」

ミサト「なんでもいいから連れてきてよ。このままじゃ仕事が回らないわ」

リツコ「まずは碇司令に掛け合ってみないとね」

ミサト「お願いね、リツコ」

リツコ「ええ。それに次からはシンジくんたちも更に大変でしょうし」

ミサト「それ、どういう意味?」

司令室

冬月「弐号機の派遣か」

ゲンドウ「惣流・アスカ・ラングレー……。弐号機に選ばれた者か」

冬月「諸事情により、式波・アスカ・ラングレーに名前が変わったようだ。これが新しい名簿になる」

ゲンドウ「そうか」

冬月「私は早計だと思うがな。このタイミングでの弐号機投入はゼーレの脚本に存在していないはず」

ゲンドウ「我々の計画には入っている。多少の前後はあるが、誤差の範囲であり、修正も可能だ」

冬月「お前がそういうのなら、構わんがね」

ゲンドウ「計画に狂いはない」

冬月「使徒を三体取り逃がしている現状では、弐号機を投入せざるを得ないな」

ゲンドウ「それに、手札は多いほうがいい」

冬月「揃いすぎていると、相手に警戒されるぞ」

ゲンドウ「我々の到達する場所は同じだ。相手など、関係ない」

冬月「そうだな……」

ゲンドウ「到達するためならば、どのような札も集め、そして躊躇いなく切っていく。そう決めたはずだ」

翌日 市街

シンジ「あ……」

レイ「碇くん」

シンジ「お、おはよう」

レイ「学校、行くの?」

シンジ「うん。少し、怖いけど、行くよ」

レイ「どうして?」

シンジ「逃げたら楽だけど、楽なだけだから」

レイ「……」

シンジ「この前、綾波を助けにいったとき、なんとかなったから。その、もしかしたら色んなものも、僕が考えているほど大したことないんじゃないかって思えて」

レイ「そう」

シンジ「だから、これからは逃げずにやっていこうって、決めたんだ」

レイ「……」

シンジ「綾波、一緒に行かない?」

レイ「ええ。行きましょう」

学校

ケンスケ「今日も碇は休みか。誰かのせいで」

トウジ「なんやねん!! いつまでも引き摺る、シンジの性根が――」

シンジ「あ、ごめん……僕の所為で……」

ケンスケ「碇!」

トウジ「うぉ!?」

シンジ「ごめん。鈴原くん」

トウジ「いや、なんも言うてへん!! シンジ、あのときは命がけで守ってくれて、ホンマに感謝しとる!! 改めて、その、礼を……」

シンジ「そんな。僕のほうこそ、妹さんに怖い思いをさせちゃったし」

トウジ「あんなんはもうええっていうたやろ」

シンジ「そう、だね。えっと、鈴原くん――」

トウジ「トウジや」

シンジ「え?」

トウジ「鈴原トウジや。トウジでええ。鈴原くんなんて、気色悪いわ」

シンジ「……うん。トウジ、ありがとう」

数日後 ネルフ本部

リツコ「そう。学校へ行きだしたのね」

ミサト「ええ。友達もできたみたいよ。この前、家に帰ったら靴がたくさんあって驚いちゃった」

リツコ「いい傾向ね。このまま初号機としての技能もあげてくれたら助かるわ」

ミサト「シンちゃんをあまり兵器としてみないでくれる?」

リツコ「あら。情が移ったの? ミサトだって最初は司令の指示通りに動いていたじゃない」

ミサト「司令の指示に背くことはできなかったから、というのは少し違うわね。あのときは確かにあたしもシンジくんに初号機になってもらいたかったわ」

リツコ「そのときは兵器としてみていたでしょう」

ミサト「そうね。けど、今は違うわ。やっぱり、あたしには向いてない仕事かもね。あんたみたいに冷徹になれないもの」

リツコ「酷い言い方するわ。まるで血が流れていないみたいじゃない」

ミサト「で、アスカはいつくるわけ?」

リツコ「そうね。予定ではそろそろ到着していてもおかしくないのだけれど」

ミサト「使徒の襲撃がいつあるかわからないのに、暢気なもんよね」

リツコ「同感だけど、こればかりはね。向こうは船だから」

ミサト「早く来て欲しいわ、ホント」

海上 船 甲板

アスカ「くしゅん! あー、誰か私の噂をしているわね」

アスカ「……ん?」ググッ

マリ「お! 引いてる引いてるぅ」

アスカ「今日のディナーはこれよ!!!」

マリ「ファイトだにゃー」

アスカ「おんどりゃぁぁぁ!!!!」グイッ

マリ「こりゃ、大物かぁ?」

ザッパーン!!

ガギエル「……」ピチピチ

マリ「なにこれ、まずそー」

アスカ「ちっ。ハズレね」

マリ「どうする?」

アスカ「とりあえず、焼いてみたら? 案外美味しいかもしれないし」

ガギエル「……」ピチピチ

市街 某所

「ガギエルが、永久の旅へ出発してしまったようだね」

サキエル「……!!」

シャムシエル「……」ニョローン

ラミエル「……」キャー?

「そう。リリンにやられたんだ。あの子もまた堕天使となった。悲しみの螺旋はいつになったら終焉を迎えるのか……」

サキエル「……」

「君たちがもう少し、しっかりしていれば、こんなことにならずに済んだのにね」

シャムシエル「……」ニョロニョロ

「今回は関係ない? いいや、大いにある」

ラミエル「……」キャー

「リリンを倒せていれば、この犠牲は生まれなかった。違うかい?」

サキエル・シャムシエル「「……!?」」ビクッ

ラミエル「……」キャー

「次で終わりにしよう。僕だってこれ以上、誰かが怯える顔はみたくないんだ」

学校 通学路

トウジ「でな、そのときめっちゃバランス崩してこけよってん。傑作やろ」

ケンスケ「その話はするなって」

シンジ「あはは」

レイ「碇くん」

シンジ「え?」

トウジ「お、なんや。また夫婦でデートかいな」

シンジ「そんなんじゃないって!」

レイ「緊急招集。一緒に行きましょう」

シンジ「まさか、使徒?」

レイ「いいえ。でも、すぐに来て欲しいって」

シンジ「そうなんだ。なんだろう」

レイ「葛城一尉からの伝言。会わせたい人がいるって」

シンジ「分かった。とにかく行こう、綾波。それじゃあ、またね、トウジ」

トウジ「おう。シンジ、またなー」



シンジ「急に呼び出されたから驚きましたよ」

ミサト「いやー、ごめんね。お友達と遊ぶ約束でもしてた?」

シンジ「いえ、そんなことはないんですけど」

ミサト「これからね、新しい仲間がここへ到着するのよ。ま、その顔合わせをね」

シンジ「新しい仲間、ですか」

レイ「その仲間もエヴァンゲリオンなのですか?」

ミサト「もちのロンよ。ちょっち気の強いところもあるけど、基本的には良い子だし、なにより美人だから」

シンジ「美人……」

ミサト「そうよー。隙があれば、口説いてもいいわよん」

シンジ「そ、そんなことしませんよ!!」

アスカ「ぐーてんたーく!」

ミサト「はーい、グーテンターク、アスカ。久しぶりね」

アスカ「前に来日したのが1年前ぐらいだっけ。それはそうとミサト、ちょっと痩せた?」

ミサト「いいえ、500グラムプラスよ。それより、あなたのパートナーはどうしたの?」

アスカ「ここに来る前に魚を釣ってたのよ。こっちに来るまでの食料も殆ど積めなかったし」

ミサト「あら。ごめんね。行ってくれたら郵送したのに」

アスカ「ミサトを頼ろうなんて思ってなかったわ。だから、釣りをしてたの」

ミサト「それで?」

アスカ「で、へんてこな魚を釣り上げたのよ。見た目はグロかったけど、割と大きかったし、焼いてみればなんとかなるって思ったわけ」

ミサト「食べたの?」

アスカ「ううん。焼いたらすっごい臭いで、食べる前に気分が悪くなっちゃったわよ。あれは食べられないちゅーの」

ミサト「んで、パートナーのマリは?」

アスカ「その臭いで完全にノックダウンよ。船の中でくたばってるわ」

ミサト「そうなの。それじゃ、私が介護でもしてあげようかしらね。その間にアスカは後ろの二人と挨拶を済ませておいて」

アスカ「ん?」

シンジ「あ、えっと……」

レイ「……」

アスカ「あんた、ダレ?」

シンジ「あ、あの、その、シンジ。碇シンジです。一応、エヴァンゲリオン初号機、なんだけど」

アスカ「あんたが、エヴァ初号機ですってぇ?」

シンジ「う、うん」

アスカ「えー? そんな風には見えない、わねっ!」バッ

シンジ「え――」

レイ「……」ガシッ

アスカ「なによ」

レイ「今、貴方が碇くんを蹴ろうとしたから」

アスカ「足払いをしてやろうと思っただけ。あまりにも無警戒だったから」

シンジ「綾波、僕を守ってくれたの?」

レイ「……」

アスカ「女に守られて恥ずかしくないわけぇ?」

シンジ「うっ……」

アスカ「噂は聞いてるわ。親の七光りでエヴァになれただけなんでしょ、アンタ」

シンジ「七光りって……僕は……エヴァになりたくて、なったわけじゃないし……そもそも戦うことも好きじゃないんだ……」

アスカ「はぁ? アンタ、バカぁ? 七光りだろうがえこ贔屓にされていようが、エヴァになった以上は戦わないといけないの」

シンジ「そんなの僕が望んだことじゃない」

アスカ「ウルトラバカなの?」

レイ「……」

アスカ「アンタもさっきからなんなの? 一年前からなんにもかわんないわね、この無表情女。少しぐらい笑ってみらればどうなのよ」

レイ「……」

アスカ「睨むんじゃないわよ」

ミサト「みんなー、おまたせー」

マリ「きぶん、わるぅ……はくぅ……はかせてぇ……」

アスカ「まだ治ってなかったわけ?」

マリ「あんな牛乳ふいたあとの雑巾が生乾きして、そのあとおっさんの唾液まで染み込ませたような臭いをかいだら、こうなるにゃー」

アスカ「軟弱よね。そんな感じだからいつまでたっても仮設5号機のままなのよ」

ミサト「改めて紹介するわね。新しい仲間の惣流・アスカ・ラングレーと真希波・マリ・イラストリアスよ」

アスカ「ミサト、違う。もう式波。式波・アスカ・ラングレー」

ミサト「ああ。ごめんなさい。そういえば……」

アスカ「パパはもう家族じゃないのっ」

シンジ「式波さんって、結構大変なんだね」

アスカ「別に同情なんて欲しくないけど?」

シンジ「そ、そういうわけじゃ……」

マリ「んー? この子がゲンドウくんの?」

ミサト「そうよ。碇シンジくん。隣にいるのは綾波レイ。マリは知ってるでしょ?」

マリ「まぁねー。とくに碇シンジくんのことはよぉーく、知ってるぅ」

ミサト「どこかで聞いたの?」

マリ「うんにゃ。一度、会ってる」

ミサト「どこで?」

マリ「それは――」

ピリリリ……ピリリリ……

ミサト「はい?」

リツコ『パターン青。使徒が市街に出現したわ。現場へ急行して」

ミサト「こんなときに使徒!? ええい、折角焼肉でも行こうと思ってたのに」

アスカ「そんなのあとよ、あと。どこに使徒がでてきたの? 早く教えて、ミサト」

市街

イスラフェル「……」ズンズン

サキエル「……」


アスカ「目標確認。行くわよ」

ミサト「アスカ、ちょっと待ちなさい。まだシンジくんとレイのパーツが届いていないわ。5分待ちなさい。それとも初号機と零号機なしで戦うつもり?」

アスカ「あんな弱そうなやつ私一人だけで十分よ!」ダダダッ

ミサト「待ちなさい!! アスカ!!」

マリ「あーあ、いっちゃったぁ」

シンジ「アスカは強そうだし、なんとかなるんじゃないですか?」

ミサト「どうかしら。アスカは確かに強いけど、実戦経験がゼロだし」

シンジ「そ、そんな。なら、どうしてアスカはあんなに自信満々に……?」


アスカ「この先は通行止め。引き返せばぁ?」

イスラフェル「……」

アスカ「ここを通りたかったら私を倒すことね。無理だろうけど」

イスラフェル「……?」

サキエル「……」コクコクッ

アスカ「なに相談してんのよ。相談したって、このアスカ様を倒せるわけないでしょう」

イスラフェル「……」ポキポキ

アスカ「やる気ね。――コネ眼鏡!!」

マリ「りょうかーい。そーれっ」ポイッ

アスカ「ジャイアント・ストロング・エントリー!!」カチャカチャ

シンジ「どういうことですか?」

ミサト「エヴァのパーツを装着するときの掛け声みたいね」

シンジ「意味があるんですか?」

マリ「はい、最後が頭」

アスカ「装着完了!! エヴァ弐号機、見、ざ――」

イスラフェル「……」パシンッ

アスカ「あんっ」

レイ「あ……」

アスカ「何よ!! 変身中は攻撃しないのが――」

イスラフェル「……」パシンッパシンッ

アスカ「あんっ、あんっ」

シンジ「ミサトさん、このままじゃあ!!」

ミサト「でも、まだ初号機と零号機のパーツが到着していないし……」

シンジ「だけど……!!」

アスカ「うぅ……変身中に攻撃するなんて……サイテー……」

マリ「これは私もいっちょやるかぁ」

アスカ「あんたなんかが加勢しても何の足しにもならないけど、変身するなら早くしなさいよね」

マリ「はいはい。そんじゃあ加勢しますよ、お姫さま!」

マリ「ファイナル・アトミック・エントリー!!」

サキエル「……」ドゴォッ

マリ「ぐっ……!? いったぁ……今のはきいたにゃぁ……」

アスカ「こいつら、手ごわいじゃない。私たちのデビュー戦としてはまぁまぁの相手ってわけね」

レイ「……」

アスカ「いい気になるのはここまでよ!! これで終わりにしてやる!!」

イスラフェル「……」

アスカ「ソニックグレイヴ!!」ジャキン

シンジ「凄そうな武器だ。あれなら勝てるかも」

アスカ「おりゃぁぁあぁあぁああ!!!!」ザンッ!!

イスラフェル「……」ギャァァ

ミサト「決まった!!」

アスカ「ふん。また勝っちゃったわね。あといくつ勝利を重ねればいいのか教えて欲しいわ」

マリ「正義は勝つ!!」

サキエル「……」

レイ「まだ残っているけど」

イスラフェル「……」ゴゴゴゴッ

シンジ「な、なに、あれ……使徒が……」

イスラフェル甲乙「「……」」

ミサト「分裂した!?」

アスカ「アンタ、バカぁ? 分裂したら能力が半減するって相場がきまってんのよ!!」

マリ「そーだ、そーだ」

イスラフェル甲「……」パシンッ

アスカ「あんっ」

イスラフェル乙「……」ドゴォッ!!!

マリ「が……!?」

イスラフェル甲「……」ガシッ

アスカ「ちょっと!! どこ触ってるのよ!! このヘンタイ!! スケベ!! チカン!!」

イスラフェル甲「……」ポイッ

アスカ「いやぁぁあああ!!!」

シンジ「式波さん!!」

レイ「軽々と投げ飛ばした……」

イスラフェル乙「……」ポイッ

マリ「やーらーれーたー」

ミサト「これは撤退したほうがよさそうね。みんな、態勢を整えるわ!! 逃げて!!」

ネルフ本部

リツコ「無様ね」

アスカ「まさか分裂しても能力が落ちないなんて予想外だっただけ」

マリ「あいつ、切ったら切った分だけ分裂しそうじゃない?」

アスカ「サイズが小さくなるわけでもなさそうだし、厄介よね」

シンジ「それじゃあ絶対に倒せないってこと?」

アスカ「この世に絶対に倒せない敵はいないの。そんなこともしらないわけ?」

シンジ「ごめん……」

ミサト「……」

レイ「何か作戦は?」

ミサト「切ったら分裂してしまうのは、再生できるだけの部分が残っているからなんでしょうね」

リツコ「つまり、倒す際に再生できる余地を残さなければなんとかなるかもしれない、ということね」

ミサト「そういうこと」

リツコ「となると、使徒を倒す方法は……」

ミサト「エヴァ二機による同時攻撃以外にないかもね」

冬月「エヴァ二機でのコアを同時破壊か」

ミサト「成功確率は決して低くありません。MAGIによる回答も賛成2、条件付賛成1でした」

ゲンドウ「反対する理由はない。葛城一尉に任せる」

ミサト「ありがとうございます。では、この作戦を実行するために許可を頂きたいことがあるのですが」

ゲンドウ「なんだ」

ミサト「碇シンジ、式波・アスカ・ラングレーの両名にはしばらく共同生活してもらおうかなと思いまして」

冬月「共同生活か」

ミサト「この作戦においては何よりも二人のシンクロ率が高くなければなりません」

ゲンドウ「その二人を選出した理由は?」

ミサト「レイとシンジくんでは能力に差がありすぎますし、マリは相手に合わせることが苦手みたいなので」

冬月「消去法か」

ミサト「アスカ自身も出撃したいと強く希望していましたから」

ゲンドウ「わかった。二人が生活する部屋はどうするつもりだ」

ミサト「私の家を使います」

ゲンドウ「そうか。あとのことは頼む」

葛城宅

アスカ「ぬあんで、私が男と一緒に生活しなきゃいけないわけぇ!?」

ミサト「今回の作戦のため」

アスカ「いやよ!! 寝てる間に何かされたら誰が責任とってくれるのよ!? この七光り自身!?」

シンジ「ぼ、僕だって選ぶ権利があるよ……」

アスカ「はぁ!? あんた、私じゃ不満だっていうの!?」

マリ「やったじゃん、姫ぇ。前から、一度でいいからかっこいい男と同棲したいっていってたし」

アスカ「言ってないわよ!!」

ミサト「とにかくこれは決まったことよ、諦めなさい」

レイ「使徒の動きはどうなっているんですか」

ミサト「市街を延々とウロウロしているみたいね。多分、本部へ行くための道を探しているんだと思うわ」

シンジ「あの、使徒って何の目的でネルフ本部を目指しているんですか?」

ミサト「分からないわ。けれど、人類の敵であることは確かなの」

シンジ「そうですか」

アスカ「そんなことに疑問を持つ奴、初めてみたわ。ホント、バカね」

ミサト「早速、訓練を始めましょうか。あまり悠長にしていられないわ」

シンジ「どんな訓練をするんですか?」

ミサト「目的は使徒のコアを同時すること。動きを完璧にシンクロさせる必要があるわ」

アスカ「その動きを合わせる練習をするわけね」

ミサト「はい、正解。軽いダンスレッスンだと言えば分かりやすいかしら」

アスカ「なんで私がこんなやつと生活してダンスレッスンまで受けなきゃいけないのよ。最悪ね」

シンジ「な、なにもそこまで言わなくても……」

アスカ「私は弐号機に選ばれた超エリートなの。それが――」

レイ「そこまで言う必要、ある?」

アスカ「あんたは関係ないでしょ」

レイ「そこまで言う必要はあるの?」

アスカ「うっ……」

マリ「みんな、仲良くしたほうがいいんじゃにゃい」

ミサト「ほら、シンジくんとアスカは着替えてきて。訓練、すぐにはじめるわよん」

アスカ「はいはい。あー、メンドー」

アスカ「ジャイアント・ストロング・エントリー!!!」

シンジ「……」

アスカ「ちょっと、なにぼけっとしてるわけ?」

シンジ「え?」

アスカ「あんたもエヴァンゲリオンの端くれならあるでしょ。あんたのセンスがどんなものか私が見てあげるわ」

シンジ「どういうこと?」

アスカ「はぁぁ!? もしかして変身前の決め台詞すらないわけぇ?」

シンジ「そんなのあるわけないよ。綾波だって静かに装着してるし」

アスカ「無自覚もいいとこだわ。そんなことだから使徒を取り逃がすのよ。しかも三回も」

シンジ「それは式波さんだって……しかも、負けてるし……」

アスカ「いいから、まずは決め台詞からね。私がかっこいいの考えてあげるわ」

シンジ「い、いらないよ。それに、恥ずかしいし……」

アスカ「決め台詞があってこそのエヴァ。それがないなら、私は訓練なんてしないわ」

シンジ「そんな……」

アスカ「大丈夫よ。私がアンタにぴったりな決め台詞を考案するから。少し待ってなさい」

アスカ「うーん……」

シンジ「あの、そろそろ訓練を……」

アスカ「好きな言葉とかある? そういうのを入れてもいいのよね」

シンジ「だから、訓練……」

アスカ「アルティメット・ブレイブ・エントリーとか、どう?」

シンジ「えっと……」


ミサト「んぐっ……んぐっ……。ぷはぁ!! くぅー!! この一杯のために生きていると言っても過言じゃないわぁ」

マリ「あちゃぁ、ああなると姫様は長いからねぇ」

レイ「意味のないことに時間をかけるのね」

マリ「これぐらいはいいとおもうけど」

レイ「そう?」

マリ「こっちだって命がけで戦ってるわけだもん。これもらおっと」

ミサト「未成年でしょ、マリぃ」

マリ「ふふん。もう立派な大人だったりして。特にスタイルとか」

レイ「……」

ミサト「すかー……すかぁー……」

マリ「すぅ……すぅ……」

シンジ「結局、今日は訓練できなかったね」

レイ「そうね」

アスカ「バーニング・サンダー・エントリー……。しっくりこないわね」

シンジ「あの、式波さん。ミサトさんも寝ちゃったし、明日にしない?」

アスカ「邪魔しないで」

シンジ「でも、ほら、もう0時まわっちゃったから」

アスカ「これが完成しないと訓練でも実戦でも気合がはいんないでしょ」

シンジ「そんなことないよ。今までもなんとかなってきたし」

アスカ「今まではね。でも、これからは違うわ。そもそもまずは名乗りで相手をビビらせるところから戦いは始まってるんだから」

シンジ「だから、式波さんは決め台詞に拘ってるの」

アスカ「あとそのほうがヒーローっぽいでしょ」

シンジ「ヒーローになりたいんだ」

アスカ「なりたいじゃないわ。私たちはエヴァンゲリオンなのよ。ヒーローなの。人類を守る、正義のね」

シンジ「そうかもしれないけど、僕はまだ実感がなくて」

アスカ「三度も使徒を取り逃がしていればそうでしょうね」

シンジ「ごめん……」

レイ「貴方はヒーローになるためにエヴァンゲリオンになったの?」

アスカ「そうよ。ママがエヴァの研究員だったから、小さいときから憧れてた。小さいときから訓練だってやってきた」

レイ「そう」

アスカ「私はエヴァになる以外の道は見えてなかった。だからこうしてる」

シンジ「エヴァになりたくてなったんだ……。なんだか、すごいね」

アスカ「そう? 褒めても何もでないわよ」

シンジ「羨ましいよ……好きなことができる式波さんが……」

アスカ「アンタ、超絶バカね」

シンジ「え?」

アスカ「確かに私はエヴァに憧れてたし、自分から選んだ道だったけど、好きなことなんてひとっつもないわ。今だってこうしていたくもない場所にいるんだから」

シンジ「けど、自分で道を選べただけマシだよ。僕なんて、無理矢理、ここに……」

アスカ「なら、なんでこの前の戦闘で自分からこの無愛想女を助けにいったわけ?」

シンジ「どうしてそのことを知ってるのさ」

アスカ「使徒のことなんだか情報ぐらい耳にはいってくるわよ。なにせ、超エリートのアスカ様なんですから」

シンジ「あの、ときは、綾波を助けたくて……」

アスカ「それでいいじゃない」

シンジ「え?」

アスカ「戦う理由、エヴァになる理由。それで十分でしょ」

シンジ「それでって……」

アスカ「だって、あんたはその理由だけで戦いにいったんだから。バカなあんたにはそれで十分ってことよ」

シンジ「……」

アスカ「嫌な事があろうが、好きなことがなかろうが、理由があれば戦える。理由が本当にないなら、戦えないじゃない。戦うのって怖いしね」

シンジ「式波さんも、怖いって思うんだ」

アスカ「とーぜん。まぁ、私は弱くないし、負けない自信しかないけど」

レイ「貴方は今日、負けたわ」

アスカ「黙ってなさいよ!!」

シンジ「戦う理由……僕が戦う理由……エヴァになる理由……」

アスカ「ふわぁ……。流石に眠くなってきちゃったわね」

シンジ「そっか……。今はそれでいいのかもしれない」

アスカ「あ?」

シンジ「あのとき、綾波を助けられて嬉しかったのは本当だし、綾波が戦い続けるなら、僕も戦えるかもしれない」

レイ「……」

シンジ「やっぱり、僕は難しく考えてただけなのかも。式波さんの言うとおり、単純な理由でも怖いことや痛いことに立ち向かえる気がしてきた」

アスカ「そーそー。アンタみたいな単純な男には単純な理由でいいのよ。で、その戦闘の恐怖をもっとやわらげる方法があるんだけど?」

シンジ「どんな方法なの?」

アスカ「名乗りよ。自分が正義の味方になった気分になれば、緊張もしなくなるってもんよ」

シンジ「そっか、式波さんが決め台詞を言うのは怖いからっていうのもあるんだ」

アスカ「べっつに私はそこまで怖がりじゃないわよ!! 失礼ね!!」

レイ「恐怖をなくすため……でも恐怖ってなに……」

シンジ「式波さん。僕も考えるよ、決め台詞。ううん、これは僕自身が決めなきゃいけないことなんだと思う」

アスカ「やっと自覚が出てきたみたいね。いいわ、そこまで言うなら付き合ってあげてもいいわよ」

シンジ「ありがとう」

>>131
アスカ「やっと自覚が出てきたみたいね。いいわ、そこまで言うなら付き合ってあげてもいいわよ」

アスカ「やっと自覚が出てきたみたいね。そこまで言うなら付き合ってあげてもいいわよ」

翌朝

ミサト「んー、すっかり寝ちゃったわね」

マリ「グッモーニン、ミサト」

ミサト「どうしたの、ニヤニヤしちゃって」

マリ「あれを見てたら嫌でも緩むって」


アスカ「ジャイアント・ストロング・エントリー!!」

シンジ「シャ、シャイニング・エナジー・エントリー」

アスカ「赤い魂のルフラン! エヴァンゲリオン弐号機!!」

シンジ「残酷な青のテーゼ、エヴァンゲリオン初号機」

アスカ「参、上!!」

シンジ「さんじょう」

アスカ「もう少し声を出しなさいよ。折角、ビシっと決めてるんだから」

シンジ「朝からそんなに声がでないよ」


ミサト「あら、中々良い感じにシンクロしてるわね。今回の作戦、上手くいくかも」

ネルフ本部

冬月「使徒の様子はどうなっている」

マヤ「依然として第三新東京市内をうろついています。市民から気味が悪いからなんとかして欲しいとの声が多くあがっています」

冬月「だろうな」

ゲンドウ「奴等はまだここへの道を発見していないようだな」

冬月「使徒の目的を考えれば見つければ即ここまで来るだろうからな。あれから既に五日経過していて本部が平穏を保っているということがなによりの証明になる」

ゲンドウ「ああ。葛城一尉、初号機と弐号機による同時破壊の件はどうなっている」

ミサト「順調です。想像以上に二人のシンクロ率が高く、本作戦は本日にも決行できます」

ゲンドウ「そうか。では、準備が整い次第、作戦を開始しろ」

ミサト「了解!」

冬月「しかし、碇。今回も初号機と零号機でよかったのではないか。弐号機と5号機はあくまでもバックアップのはず」

ゲンドウ「シナリオ通りにことを運んでいるだけだ」

冬月「シナリオを意識しすぎると、シナリオに操られてしまうかもしれんぞ」

ゲンドウ「構わん。利害は一致している」

冬月「なるほど。実にお前らしいな」

市街

イスラフェル「……」キョロキョロ

サキエル「……」キョロキョロ

シャムシエル「……」ニョロニョロ

「そんなところを探したって、あんたたちの行きたい場所は見つからないわよ」

サキエル・シャムシエル・イスラフェル「「……!」」

アスカ「まぁ、このアスカ様がいる限り、絶対にたどり着けないけどね」

イスラフェル「……」ムカッ

サキエル「……」プンプン

アスカ「ふっふーん。前回の私とはわけが違うんだから。行くわよ、シンジ!! わかってるわね!!」

シンジ「わ、分かってるよ。62秒でケリをつける」

シャムシエル「……」ニョロロン

アスカ「あんたたちなんて62秒あれば十分なのよ!!」

イスラフェル「……」ガオー!!!

サキエル「……」プンプンッ!!!

アスカ「ジャイアント・ストロング・エントリー!!!!」

シンジ「シャイニング・エナジー・エントリー!」

イスラフェル「……」ダダダダッ

サキエル「……」ガオー

レイ「行かせない」ガシッ

サキエル「……!!」

マリ「足止めはさせてもらうにゃ」ガシッ

イスラフェル「……!!」

シャムシエル「……」ニョローン

マリ「1体、そっちにいった!!」

アスカ「ちょっとまってよ! この特殊装甲、少し付けにくいんだから!」

シャムシエル「……」シュッ

アスカ「ちっ、触手が――」

シンジ「させない!! フィールド、全開!!」ギィィン

アスカ「へぇ、やるじゃない、バカシンジのくせに」

アスカ「赤い魂のルフラン! エヴァンゲリオン弐号機!!」

シンジ「残酷な青のテーゼ、エヴァンゲリオン初号機!」

シンジ・アスカ「「参上!!」」

マリ「ひゅー、かっこいいじゃん」

レイ「……」

シャムシエル「……」

イスラフェル「……」

サキエル「……」パチパチパチ!!

アスカ「ユニゾン作戦、開始!! 各自散開!!」

シンジ「了解!!」

マリ「仕事はきっちりさせてもらうよ」

シャムシエル「……」ニョロニョロ

レイ「貴方の相手は私」

サキエル「……!?」ビクッ

アスカ「まずはソニックグレイヴ!!」ジャキン

イスラフェル「……」ガオーン

アスカ「おんどりゃぁぁあああ!!!!」ザンッ!!!!

イスラフェル「……」ギャァァ

シンジ「よし」

アスカ「ここからが本番よ、シンジ」

シンジ「うん。僕はアスカにあわせるだけだから、好きなように動いてよ」

アスカ「ふん。この超エリートの私についてくるなんて、生意気なこといわないで!!!」

イスラフェル甲「……」ジャーン

イスラフェル乙「……」ドヤッ

アスカ「コンビネーション・プレリュード!」

イスラフェル甲乙「「……!」」

シンジ・アスカ「「アインス! ツヴァイ! ドライ!」」バキッ!!ドゴォ!!!

イスラフェル甲乙「「……」」イタイッイタイッ

アスカ「続いて、コンビネーション・シンフォニア!」

マリ「相変わらず姫のネーミングセンス、しびれるぅ」

シンジ・アスカ「「フィーア! フンフ! ゼクス!!」」

イスラフェル甲乙「「……」」ガッタイ!

イスラフェル「……」ガオー

シンジ「融合した!! アスカ!!」

アスカ「わかってるっちゅーの!! コンビネーション・フィナーレ!!」

レイ「ふっ」グキッ

サキエル「……!!!」ギブ!ギブ!!

アスカ「これでトドメよ!! エヴァンゲリオン合体攻撃、ユニゾンキック!!」

イスラフェル「……!」

シンジ・アスカ「「ズィーベン!!!」」ドゴォ!!!

イスラフェル「……!!」アンギャァ!!

ドォォォォン!!!!

アスカ「悪は潰えたわ」

シンジ「正義は勝つ」

リツコ『……恥ずかしくないの?』

ネルフ本部

アスカ『恥ずかしくなんてないわよ!! これがエヴァンゲリオンのあるべき姿なんだから!!』

マリ『さっすがお姫さま。相変わらず英語とフランス語とドイツ語を織り交ぜてくるね』

アスカ『まぁ、私ぐらいになると黄金比がわかっているもの』

レイ『そういうことではないと思うけど』

シンジ『でも、楽しかった。ありがとう、アスカ』

アスカ『なんでお礼をいうわけ?』

シンジ『アスカの言うとおり、ヒーローになりきってみたら、怖くなかったから』

アスカ『でっしょ。もっと称えてくれてもいいわよ』

ミサト「みんな! よくやってくれたわ! 帰ったら、ゆっくりお風呂にでも浸かりましょう」

アスカ『いいわね。シンジが掃除しなさいよ』

シンジ『たまにはアスカがしてよ』

アスカ『ぬあんでエリートの私がお風呂掃除なんて雑用をしなきゃいけないのよ。そういうのはシンジの仕事でしょ』

シンジ『一緒に住んでるなら交代でやろうよ!!』

リツコ「それはそうと他の使徒はどこにいるの?」

市街 某所

サキエル「……」ヨロヨロ

シャムシエル「……」フラフラ

「おかえり、二人とも。今回も随分と悲壮感漂う姿をしているね」

サキエル「……!」

「ちゃんと見ていたよ。ラミエルを撫でながらね」ナデナデ

ラミエル「……」キャー♪

シャムシエル「……」ニョロー

「嫉妬は醜いね。役目を全うできない哀れな者が抱く劣情だ」

サキエル「……」

「そう。音楽を司るイスラフェルもやられたんだね。この連鎖はいつまで続くんだろう」

シャムシエル「……」

「そうか。イスラフェルは逃げ出したんだね。恐怖とは時として心を侵し、変えてしまう。仕方のないことだよ」

「ちなみに二人が逃げ出すことはできないよ。落ちた天使を監視し、使役するのが僕の役目だからね」

サキエル・シャムシエル「「……」」

市街

マリ「やっばいなぁ。姫とワンコくんの連携に見惚れたら使徒を見失っちゃったじゃん」

レイ「……」

マリ「私はともかく綾波レイまで失敗するなんてね。珍しいこともあるもんだ。なんか考え事でもしてた?」

レイ「……別に。今は使徒を探さないと」

マリ「はいはーい」

アスカ「アンタがちゃんとみてないからでしょうが!! なんで私の所為なのよ!!」

シンジ「アスカの所為とは言ってないよ。でも、決め台詞をいうときも使徒の様子はみておこうって言ったじゃないか」

アスカ「シンジがみていればいいでしょ!」

シンジ「あの位置だと使徒が見えなかったっていってるじゃないか!」

アスカ「知らないわよ!!」

リツコ『随分と仲がよくなったのね。名前で呼び合っているし』

ミサト『ぶふふふ。そうなのよ、奥さん。若いもんはいいわよねぇ』

マヤ『不潔です』

アスカ「そんなんじゃないわよ!! ふざけんな!!」

葛城宅 浴室

マリ「いい湯だな、ハハハン。いい湯だな、ハハハン。湯気が天井からポタリと背中に~」

アスカ「あーもーサイテー!! 結局、使徒を倒せたかどうかわっかんないじゃない!!」

レイ「……」ゴシゴシ

アスカ「私の撃墜数は0のままってどうなのよ!」

マリ「つめてえな、ハハハン。つめてえな、ハハハン。ここは北国、登別の湯~」

アスカ「あんたもいつまで暢気に歌ってるわけ?」

マリ「湯に浸かると自然と歌がでちゃうもんだって。心の洗濯ってやつ」

アスカ「成果がなかったのよ。少しは焦ればぁ?」

マリ「そういう数字には興味ないからにゃぁ。姫様と王子様がいてくれたら使徒なんて怖く無さそうだしぃ」

アスカ「エヴァとしての自覚がないやつはここにもいるわけね」

マリ「わるいねぇ」

アスカ「ちょーイライラする! なんで揃いも揃ってこんなやつばっかりなのよ!!」ガンッ!!!!

サンダルフォン「……」ギャー!!!

アスカ「ん? げ、なんか潰しちゃった。なにこれ、虫? きもちわるっ。シンジのやつ、お風呂掃除手を抜いたわね」

リビング

ミサト「楽しそうな声がお風呂場から聞こえてくること」

シンジ「すみません。使徒をまた……」

ミサト「いいから、気にしないで。ちゃんと撃退はできたんだし」

シンジ「そうかもしれないですけど……」

ミサト「そうそう。碇司令から伝言があるの」

シンジ「父さんから?」

ミサト「よくやったな。だってさ」

シンジ「……」

ミサト「シンちゃん、うれしい?」

シンジ「そ、そんなことは……」

ミサト「嘘つかないの。嬉しいときは素直に喜びなさい」

アスカ『ちょっとシンジー!! 気持ち悪い虫がお風呂場にいたんだけどー!! 手で潰しちゃったじゃない!! どうしてくれるわけー!? 責任取りなさいよー!!』

シンジ「お風呂にはいってるんだから、洗えばいいじゃないか」

アスカ『そういう問題じゃないのよ!! ほんっとにバカシンジなんだから!!』

翌日

シンジ「よっと。ミサトさーん、アスカー」

ミサト「あさごはんー?」

アスカ「ねむ……」

シンジ「はい。急いで食べてくださいね」

ミサト「はぁーい、いただきまーす」

アスカ「朝はパンがいいって言ってるでしょ」

シンジ「いいじゃないか、別に。僕が作ってるんだし」

アスカ「なによ! リクエストに応えられないなんてシェフ失格ね! ふんっ」

シンジ「なら、アスカは食べなくてもいいよ」

アスカ「食べるわよ!」

ミサト「大体、アスカはここに住む必要ないのよ? レイやマリみたいに家だってこっちが用意してあげるのに」

アスカ「また荷物を移動させるなんて面倒じゃないの」

シンジ「僕と住むのは嫌っていってなかったっけ」

アスカ「引越しの面倒さとアンタと一緒に住むのを天秤にかけただけよ。別にバカシンジとなんて住みたくないわっ」

学校

シンジ「おはよう」

トウジ「おー、おはようさん。昨日は大活躍やったみたいやのう。いや、昨日もか」

シンジ「そんなことないよ。あれはアスカがいたからで」

ケンスケ「お、いつの間にか名前で、しかも呼び捨てなんて。二人にどんな変化があったのか気になるところだ」

トウジ「なんやなんや。第二の嫁かいな。かー、エヴァってモテるんやな」

シンジ「そ、そんなのじゃないよ!!」

アスカ「またあの3バカがなにか言ってるわね」

ヒカリ「あの、式波さん」

アスカ「ん? ヒカリだっけ? アスカでいいわよ」

ヒカリ「え、あ、いいの?」

アスカ「それで、何か用事?」

ヒカリ「えっと、今日のお昼、一緒に食べない? その、アスカとは色々お話したいなって思ってて」

アスカ「ふぅーん。そういうことならもっと早く言ってくれたらよかったのに」

ヒカリ「任務のことで忙しそうだったし、話しかけにくかったんだ。でも、これからは遠慮しないようにするね」

屋上

レイ「……」

マリ「考え事かにゃ」

レイ「何か用?」

マリ「なんにも変わんないね。昔よりは少し可愛げが出てきた気もするけど」

レイ「私は何も変わらないわ。そう思うなら貴方が変わっただけ」

マリ「そう? 昔のあんただったら、一緒にお風呂なんて絶対に入らなかったと思うな」

レイ「……」

マリ「変わったのはあんたのほうじゃない、綾波レイ」

レイ「私は何も変わらない。私はエヴァ零号機としてここにいるだけ。そう言われた」

マリ「ゲンドウくんに?」

レイ「みんなに」

マリ「ま、あんたがそう思ってるならいいけど、そういうのって面白くなくない?」

レイ「別に。私は使徒と戦うだけだから」

マリ「そーいうのが面白くないって言ってんだけどなぁ」

ネルフ本部

冬月「これで撃退できた使徒は4体。2体の欠番は予定外だな」

ゲンドウ「構わん。欠番が出たところで我々の計画に支障はない」

冬月「しかし、また欠番が出てくるようならば、考えなくてはならないぞ」

ゲンドウ「……」

冬月「そのとき、お前がどのような結論を出すのか、楽しみでもあるが」

ゲンドウ「使徒の目的は確実に地下に眠る鍵だ。それを奪われなければ何も起こりはしない」

冬月「使徒が何故、あのような姿で人間の前に現れたのかも、見当がついているのか」

ゲンドウ「ああ。奴等もまた進化し現代に目覚めた者だ。その時代に適応する」

冬月「巨人では住みにくい世界になったということか」

ゲンドウ「第三新東京市を要塞都市になったときに奴等は進化した。ここへ容易に侵入できるようにな」

冬月「その結果、奴等は本来の力を失いながらも、エヴァンゲリオンの開発を阻止したということか」

ゲンドウ「だが、シナリオ通りにことは進まなくてはならない」

冬月「そのためのチルドレンだからな」

ゲンドウ「シンジたちならばエヴァがなくても成し遂げる。間違いなく」

食堂

ミサト「いやー、順調ねー」

リツコ「なんの話?」

ミサト「使徒のことに決まってるでしょ」

リツコ「そうね。予想以上の成果ではあるわ」

ミサト「レイだけなら、ここまで上手くいかなかったでしょうしね」

リツコ「そもそも使徒に対して人類では敵わないとされてきた。人の手に余る存在をこうも簡単に撃退できるのは少し肩透かしね」

ミサト「それがいいんじゃないの。平和が一番よ」

リツコ「その平和の犠牲が子どもの精神なら安いものね」

ミサト「言い方が悪くない?」

リツコ「事実よ。アスカやマリにしてもそれなりのストレスはもっているはずだもの」

ミサト「そのケアをあたしたち、大人がやればいいんでしょう」

リツコ「ミサトにそれができるとは思え――」

バンッ!!

ミサト「え!? なに、停電!?」

>>159
ゲンドウ「第三新東京市を要塞都市になったときに奴等は進化した。ここへ容易に侵入できるようにな」

ゲンドウ「第三新東京市が要塞都市になったときに奴等は進化した。ここへ容易に侵入できるようにな」

管制室

冬月「何があった」

マヤ「分かりません! 突然、全ての電力がダウンしました!!」

冬月「修復作業を急げ」

マヤ「ですが、整備班は二人だけです! 大規模のものだととても手が回りません!」

ゲンドウ「それでも急がせろ。冬月」

冬月「分かっている」

マヤ「副司令、どちらに?」

冬月「本部のことならば任せろ」

マヤ「さ、流石です!」

ゲンドウ「原因を調べろ」

マヤ「電力が復旧するまでは無理です!」

ゲンドウ「なんとかしろ」

マヤ「無理です!」

ゲンドウ「……」

ネルフ本部 入口

アスカ「なんで開かないのよ!!」ガンッ

シンジ「やめなよ、アスカ」

マリ「んー、電気が通ってないんじゃない?」

レイ「……」

アスカ「何かあったのかしら?」

シンジ「ミサトさんに連絡してみよう」

レイ「使徒……」

マリ「え、マジぃ? それだと結構ピンチじゃん」

シンジ「あ、ミサトさん? あの、僕たち本部の入口まで着ているんですけど」

ミサト『ごめんなさい。今、原因不明の停電ででんてこまいなの。またあとで連絡するわ」

シンジ「え!? ちょっと待ってください!! ミサトさん!!」

アスカ「なんだって?」

シンジ「本部が停電しているんだって。原因はわからないみたい」

アスカ「なによそれ。マズいじゃないの。なんとかして中に入るわよ」

送電室

リツコ「この大規模なシステムダウンの原因が判明したわ」

ミサト「なんだったわけ?」

リツコ「何者かによって発電施設及び送電施設を破壊されていたみたいね。予備発電のものも丁寧にね」

ミサト「ここって完全に独立したものだったはずでしょ? ってことは、本部に侵入して破壊したってことになるわよ」

リツコ「そうよ」

ミサト「まさか。そんなことをする理由がどこにもないじゃない。今現在のネルフはただの貧乏組織よ」

リツコ「それでも確実に成果は出しているわ。それをよく思わない組織がいるということね」

ミサト「そんな奴がいるわけ」

リツコ「いるからこうなったんじゃないかしら」

ミサト「ちっ。面倒ね」

リツコ「それより、シンジくんたちはどうしたの? ここへ来ているんでしょう?」

ミサト「さぁ、あとで連絡するって言っておいたから、家に戻ってるんじゃない?」

リツコ「そうね。ここにいるよりはまだ安全かもしれないわね」

ミサト「さてと、とりあえずは施設の復旧を急がないと、なんにもできないわ。ほら、リツコも手伝って」カチャカチャ

通気口内

マリ「しあわせはーあるいてこないーだーからあるいていくんだねぇ。いちにち、いっぽ、みっかでさんぽ、さーんぽすすんでにほさがるぅ」

レイ「……」

アスカ「ふっふーん。一度、やってみたかったのよね。通気口から侵入するの」

シンジ「これどこに続いてるの?」

アスカ「知らない」

シンジ「それならどこにでるか分からないじゃないか」

アスカ「中に入ればあとは庭みたいなもんでしょ」

シンジ「本部はすごく広いんだよ。アスカだってまだこっちにきて一週間ちょっとだし、見てないところもたくさんあるでしょ」

アスカ「なんとかなるわよ。黙って私についてきたらいいのよ」

シンジ「めちゃくちゃだね……」

マトリエル「……」カサカサカサカサカサカサカサカサ

アスカ「きゃぁ!! このスケベ!!!」ドガッ

シンジ「いた! なにするんだよ!!」

アスカ「今、私のお尻を触ったからでしょうが! このエロシンジ!!」

シンジ「どうして僕がアスカのお尻を触らなくちゃいけないんだ。触れって言われても触らないよ」

アスカ「なによそれ、ムカつくぅ!」

シンジ「なんでそこで怒るんだよ」

マリ「乙女心は密の味ってね」

マトリエル「……」カサカサカサカサカサカサカサカサ

レイ「んっ……」ビクッ

マリ「お?」

レイ「……」

マリ「誰かにお尻、触られた?」

レイ「貴女じゃないの?」

マリ「私はこうやって鷲づかみにする!」モミモミッ

レイ「やめて」

アスカ「何かがいるみたいね。とにかくここを抜けるわよ」

シンジ「はやく進んでよ、アスカ」

アスカ「私に命令しないでっ」

送電室

冬月「送電線が溶けているな」

ミサト「切られているんじゃないんですか?」

冬月「一見しただけだと鋭利な刃物で切られたようだが、よく見ると……」

ミサト「線断面が溶けてる……」

冬月「となれば答えは一つしかあるまい」

ミサト「テロ、ですね」

リツコ「やはり人の手によるものだったわね」

冬月「人類にとって最大の敵は人類ということか」

ミサト「しかし、ネルフを直接的に攻撃する理由がないように思えます」

リツコ「言ったはずよ。私たちの活躍が気に入らない誰かだと」

冬月「その可能性が高いだろうな」

ミサト「戦自の連中だってこっちに丸投げしてるのに?」

リツコ「もっと上の人間じゃないかしら」

冬月「経費の大幅削減のツケが回ってきたか」

>>167
ミサト「線断面が溶けてる……」

ミサト「切断面が溶けてる……」

格納庫

アスカ「よっと! はー、出てこれたー」

シンジ「ここはエヴァンゲリオンの格納庫、だよね」

レイ「正確には格納庫になるはずだったところね」

マリ「シャバの空気、サイコー」

アスカ「さ、ミサトのところまでいそぐわよ!!」

シンジ「どうやって行くの? 電力が通ってないなら、ドアも開かないし」

アスカ「手動でなんとかなるわよ」

シンジ「でも……」

マトリエル「……」カサカサカサカサカサカサカサカサ

アスカ「きゃぁ!?」

マリ「姫、お尻にでっかいクモが這ってる」

アスカ「いやー!! シンジ、とりなさいよ!!」

シンジ「こ、こんなに大きなクモには触りたくないよ」

アスカ「あんたそれでも男なの!?」

シンジ「そんなこと言われても……」

アスカ「いいからとって!!」

レイ「はい」

アスカ「お……」

レイ「とれたわ」

マトリエル「……」ジタバタ

マリ「クモに似てるけど、クモじゃないっぽい」

シンジ「な、なんていう虫なんだろう……」

レイ「見たことないわ」

アスカ「とりあえず、殺しなさいよ。気持ち悪い」

レイ「それは……」

マトリエル「……」ジタバタ

レイ「……」

アスカ「なにしてるわけ?」

シンジ「綾波は可哀相だから殺したくないって思ってるんじゃないかな?」

アスカ「はぁ? なんでそうなるわけ? この女にそんな慈悲深い考えがあるとは思えないけど」

シンジ「綾波だってそういう優しいところはあるよ」

マリ「あったんだぁ」

レイ「分からない。でも、そういうことはあまりしたくないって思ってる」

アスカ「自分のことが分からないってこと?」

レイ「そうかもしれないわ」

アスカ「変なの」

レイ「そうね。私、変かも」

アスカ「やっと気づいたわけ? アンタ、バカぁ?」

シンジ「そこまでいうことないじゃないか」

アスカ「はぁ? この女の味方するの? いいじゃない、お似合いね。結婚でもすればぁ?」

シンジ「どうしてそうなるんだよ!」

マリ「ふふーん。やっぱり、可愛げあるじゃん」

レイ「どうして……こんな気持ち……わからない……」

マトリエル「……」ジタバタ

数時間後 管制室

ミサト「復旧作業、終了しました!!」

ゲンドウ「予定より2時間早まったようだな。よくやった」

ミサト「ありがとうございます!!」

マヤ「さすが、先輩ですね!」

リツコ「殆ど、副司令がやってくれたけどね」

ゲンドウ「冬月もよくやってくれたな」

冬月「これぐらいのことはする」

ゲンドウ「使徒の可能性は?」

冬月「ないとは言えんがあまり考えなくてもいいだろう」

ゲンドウ「奴等がここへ侵入したとなれば既に事は始まっているか」

冬月「ああ。電力だけをダウンさせるのもおかしい」

ゲンドウ「内部に犯人がいるかもしれん。頼む」

冬月「既に犯人探しは始まっている」

ゲンドウ「そうか」

シンジ「ここかな?」

ミサト「あ、シンジくん!」

シンジ「ミサトさん!!」

アスカ「なーんだ、ここだったんだ」

マリ「いやー、迷いに迷った」

アスカ「一年前に弐号機の実験で松代に寄っただけだったのがいけなかったわね。ここの案内もさせるべきだったわ」

ミサト「あれ、レイは一緒じゃないの?」

シンジ「えっと、綾波は……その……」

アスカ「えこ贔屓なら帰ったわよ」

ミサト「貴方たちだけここに来たってこと?」

マリ「そーそー。ミサトが心配でね」

ミサト「嬉しいこといってくれるじゃない」

シンジ「心配したのは本当ですよ」

ミサト「シンちゃんったら、かわいいんだから、もー」ギュゥゥ

アスカ「ちょっと! 保護者がそんなことしてもいいの!?」

綾波宅

レイ「……」

マトリエル「……」カサカサカサカサカサカサカサカサ

レイ「今日からここがあなたの部屋」

マトリエル「……」カサカサカサカサカサカサカサカサ

レイ「どうしてあなたを拾ったのか、まだわからないけれど、これでよかったと思う」

マトリエル「……」カサカサカサカサカサカサカサカサ

レイ「他人になんて興味なかったのに。他の生き物に触れようと思ったこともないのに」

レイ「変わったのは私……? どうして……」

マトリエル「……」カサカサカサカサカサカサカサカサ

レイ「碇くんに出会ってから……」

レイ「碇くん……」

マトリエル「……」カサカサカサカサカサカサカサカサ

レイ「碇くんのことを考えるとポカポカする……」

レイ「わからない……何もわからない……」

市街 某所

「そうか。また星になったんだね。さようなら」

ラミエル「……」キャー?

「また一つ、儚い生命が空に上がっていったよ。悲しいね。この世界は運命の輪の中にいる。リリンも僕たちも鳥かごの鳥と同じだ」

ラミエル「……」キャー…

「大丈夫だよ、ラミエル。悲劇を繰り返さないために、僕は、僕たちはいるのだからね」

ラミエル「……」キャー♪

サキエル「……?」

「第8の使者、サンダルフォンが既にこの世の輪廻から外れたのは知っているね。マトリエルも今や囚われの身」

シャムシエル「……」ニョロニョロ

「そして、たった今、10番目の使者であるサハクィルが大気圏で燃え尽きたよ。あの小さな体躯では地上へ墜ちることもできなかったようだ」

サキエル「……」

「けれど絶望は今、希望へと昇華した。僕たちの光はまだ閉ざされてはいない」

ラミエル「……」キャーッ

「ああ、次の使者が必ず……僕たちの悲願を……」

>>176
「そして、たった今、10番目の使者であるサハクィルが大気圏で燃え尽きたよ。あの小さな体躯では地上へ墜ちることもできなかったようだ」

「そして、たった今、10番目の使者であるサハクィエルが大気圏で燃え尽きたよ。あの小さな体躯では地上へ墜ちることもできなかったようだ」

サキエル「……」カタカタカタ

「準備はできたかい?」

サキエル「……」コクッ

「では、リリンの巣に送り込むんだ」

サキエル「……」ポチッ

ラミエル「……」キャー?

「彼は姿が見えないほど小さく、リリンが作り出した電回路網を渡り歩くことができる」

シャムシエル「……」ニョロニョロ

「そうさ。リリンの巣がどこにあるのかはわかった。そしてリリンの僕となった者たちの居所もね。あとは出来うる限り、外から壁を排除しなくてはいけない」

サキエル「……」

「力だけが全てではないからね。リリンは知恵の果実を口にした者達だ。力で屈することはない」

サキエル「……」

「今までもただ巣を探していただけのはずだよ。僕たちは力による侵略はしていない」

シャムシエル「……?」

「僕も犠牲は出したくないんだ。まだ、ね」

ネルフ本部

マヤ「先輩、少しいいですか?」

リツコ「どうしたの?」

マヤ「外部からハッキングを受けているようなんですけど」

リツコ「ここを狙うなんて大胆ね」

マヤ「MAGIの演算速度に勝てると思っているのでしょうか?」

リツコ「思っているからこういうことができるんじゃないかしら」

マヤ「どうします?」

リツコ「そうね。まずはブロックしてみましょう」カタカタ

マヤ「あ、ウイルスを送り込まれたみたいです」

リツコ「MAGIには自浄できるプログラムもあるから心配ないわ」

マヤ「ホントですね。ウイルスが死滅していきます」

リツコ「もう大丈夫みたいね。マヤ、食事でもどう?」

マヤ「いきますっ!」

リツコ「ふふ。それじゃあ、行きましょう」

市街 某所

サキエル「……」

「ダメだったんだね。イロウル、君のことは忘れないよ」

ラミエル「……」キャー…

シャムシエル「……」ニョローン

「この拾った機械の箱一つではリリンの頭脳に太刀打ちできないようだね」

サキエル「……!」

「イロウルもよくやってくれたと思うけれど、やはり性能の差には敵わないのさ」

サキエル「……」

「落ち込むことはないよ。イロウルは生きていた証を僕たちに残してくれた」

サキエル「……?」

「メールの受信ボックスに何か届いていないかい?」

サキエル「……」カタカタ

イロウル:サヨナラ サキ ニ イキマス ツイシン カギ ハ アソコ ニ アルミタイ デス

「ありがとう、イロウル。これでまた一つ、僕たちは前に進める」

ネルフ本部 トレーニングルーム

アスカ「はっ! でぇい!!」

シンジ「くっ……!」

アスカ「チャーンス! これで最後よ!! アスカパーンチ!!」

シンジ「これぐらいなら!」ガッ

アスカ「なっ! バカシンジのくせに私の必殺技を受けるなんてしゃらくさい!!」

シンジ「や!!」バキッ

アスカ「きゃぁ!?」

ミサト『はーい、そこまでー。シンちゃんのかちー』

シンジ「やった……アスカに勝った……」

アスカ「ちっ。ちょっと油断しちゃったわね。もう一度よ!」

ミサト『トレーニングはもうおしまいよ、アスカ。また明日にしなさい』

アスカ「でも! 私がシンジに負けたままなんて!!」

ミサト『シンちゃんだって強くなっている証拠よ』

アスカ「むぅ……。ふんっ! 総合力じゃ私が上なんだから!! 私がシンジより弱いわけじゃないの!! そこは間違えないでよね!!」

シンジ「それは分かってるよ。今のは偶々上手くいっただけだし」

アスカ「そうよ。よく分かってるじゃない。でも、男としてはてんでダメね。そこは否定しなきゃ」

シンジ「アスカはほんと、難しいよね」

アスカ「簡単な女じゃないって言いなさい」

レイ「碇くん」

シンジ「あやな――」

マトリエル「……」カサカサカサカサ

アスカ「ちょっと! あんた、何連れてきてるのよ!!」

レイ「この子はお留守番、できないと思って」

シンジ「か、可愛がってるんだね」

レイ「わからないけど、この子と一緒にいると落ち着く気がする」

マトリエル「……」カサカサカサ

アスカ「気持ち悪い」

シンジ「そのクモ……かな? 名前とか決めたの?」

レイ「名前……。名前をつけないといけないの?」

シンジ「いけないってわけじゃないけど、呼ぶときとか困らないかな?」

レイ「そうね……」

アスカ「別にクモでいいじゃない」

シンジ「綾波は大切にしてるみたいだし、そういう言い方はしなくてもいいじゃないか」

レイ「ペ、ペンペン、とか」

シンジ「え?」

アスカ「ペンペン?」

レイ「……ダメ?」

シンジ「う、ううん! 良い名前だとおもうよ! 可愛いし!!」

アスカ「なんでペンペンなの?」

レイ「出会ったとき、お尻を触られたから。お尻から連想できる音はペンペン」

アスカ「あんたって本当に変なやつね」

シンジ「僕は良いと思うよ。これからは僕もペンペンって呼ぶから」

レイ「ありがとう、碇くん。ペンペンをよろしく」

マトリエル「……」カサカサカサカサ

シンジ「それじゃあ綾波、また明日、学校でね」

レイ「ええ」

アスカ「ペンペンを学校まで連れてこないでよ」

レイ「わかったわ」

アスカ「ホントにわかってんの」

シンジ「流石に綾波も学校までは連れてこないよ」

アスカ「どーだか」

レイ「ペンペン……」

マトリエル「……」カサカサカサカサカサ

レイ「……」

マリ「へー、笑えるようになったんだ」

レイ「なに?」

マリ「自然に『ありがとう』まで言っちゃってるし。随分と可愛くなったじゃん。一年前とは大違い」

レイ「ありがとう、感謝の言葉、初めての言葉……。そうね、私は変わってしまったみたい」

マリ「人としては良いことだけど、それが綾波レイとして良い方に向かうかは別の話かもね」

翌日 学校

トウジ「やっぱりエヴァになると色々と特典とかあるんか?」

シンジ「特典って?」

ケンスケ「あの葛城ミサトさんからごほうびのキスとか!」

トウジ「伊吹マヤさんから抱きしめてもらえるとか!!」

シンジ「そ、そんなのないよ!」

アスカ「まーた、あの3バカは、朝からバカな話をしているわね」

ヒカリ「ちょっと鈴原! そういう話は慎みなさいよ!」

トウジ「うっさいわい! これは男にとっては大事な話なんや!!」

レイ「おはよう」

シンジ「え……」

ケンスケ「綾波が……」

トウジ「おはようって……」

マトリエル「……」カサカサカサカサカサカサカサカサ

アスカ「げ!?」

ヒカリ「きゃー!!!」

トウジ「なんや、あれ!!」

ケンスケ「クモ、いや、ザトウムシっぽいなぁ。あんなに大きなのは初めてみたけど」

シンジ「あ、綾波!!」

レイ「なに?」

アスカ「ペンペンを連れてこないでって言ったでしょうが!!」

レイ「私も何度かついて来ちゃダメって言ったのだけど、どうしてもついてくるから……ごめんなさい……」

マトリエル「……」カサカサカサカサカサカサカサカサ

ヒカリ「いやー!! クモー!!」

アスカ「ほら! 大パニックよ!! どう落とし前つけるつもり!?」

レイ「大丈夫。ペンペン、まて」

マトリエル「……」ピタッ

シンジ「止まった……」

トウジ「なんや、このクモ、躾けられとるんかい」

ケンスケ「すごい。虫を躾けるなんて普通できないのに」

レイ「ペンペンは言葉を理解できるみたいだから」

ケンスケ「益々すごい!! 虫に人間の言葉がわかるなんて!!」

マトリエル「……」

トウジ「天才蜘蛛か、こいつ」

アスカ「ホントにクモなの?」

レイ「ペンペン、躍って」

マトリエル「……」クイックイッ

シンジ「こんな芸まで!? 綾波、一晩でこんなに仕込んだんの!?」

レイ「鏡の前で踊っていたから、そのときに「躍れるの?」ってか聞いたら、「躍れる」って」

シンジ「ペンペンがそういったの?」

レイ「そう言った気がするだけ」

ケンスケ「でも、実際に綾波の言葉で躍りだすなら理解しているのは確実ってことになる」

トウジ「とりあえず天才なクモってことやろ。しかし、言葉を理解できるならなんか可愛くみえてくるな」

レイ「そう、思う?」

トウジ「やっぱり、こっちの言葉に反応してくれるのは嬉しいで」

レイ「嬉しい……。ありがとう」

トウジ「え……」

レイ「そう思ってくれるだけで、嬉しい」

トウジ「あ、ああ、まぁ、あれや、正直な感想をいうただけやしな」

ケンスケ「お、トウジが照れてる」

トウジ「いうな!!」

シンジ「綾波があんなに自然と笑ってるところ、学校だとはじめて見たかも」

アスカ「むっかつくわね。無愛想女って呼べなくなるじゃない」

シンジ「それは最初から呼ばないであげてよ」

アスカ「はいはい。シンジ様は綾波レイに惚れこんでるものねー」

シンジ「ち、ちがうよ!!」

レイ「噛んだりしないし、毒ももっていないわ。多分」

ヒカリ「多分ってなに!?」

マトリエル「……」カサカサカサカサカサカサカサカサ

ヒカリ「やっぱりダメー!!!」

ネルフ本部

マヤ「市民の目撃情報からこのような物体を確認しました。モニターに出します」ピッ

レリエル『……』フワフワ

ミサト「なに、あの白黒のバルーンみたいなの。使徒なの?」

マヤ「パターンはオレンジです。A.T.フィールドも確認できません」

リツコ「対象物の詳細は不明ね」

ミサト「突いたら割れるんじゃないの?」

リツコ「やってみたら? 私はしないけれど」

ミサト「そんなのあたしだってしたくないわよ」

ゲンドウ「エヴァを出せ」

ミサト「司令、対象物の詳細が判明するまでは様子を見たほうが……」

ゲンドウ「奴は使徒だ。何らかの方法でこちらの目を誤魔化そうとしている」

ミサト「そう結論を出すのは早計では」

ゲンドウ「これは命令だ、葛城一尉」

ミサト「……分かりました。エヴァを発進させます」

市街

レリエル「……」


アスカ「目標を肉眼で確認。赤きサイクロンチーム。いつでもいけるわ」

シンジ「いつからそんなチーム名になったの」

ミサト『ごめんなさいね。もう少し時間をかけて情報収集をしてから貴方たちには動いて欲しかったんだけど』

アスカ「いいわよ、別に。あんなの使徒以外にないじゃない」

シンジ「僕もそう思います」

ミサト『そうね。貴方たちに第三新東京市の未来を託すわ』

アスカ「いっくわよ!!」

シンジ「うん!」

マリ『こっちもオッケー』

レイ『指示を』

アスカ「零号機と5号機はその場で待機! また使徒が仲間をつれてきている可能性があるわ!!」

マリ『そのときはまた時間稼ぎね。りょーかい』

レイ『了解』

アスカ「赤い魂のルフラン! エヴァンゲリオン弐号機!!」

シンジ「残酷な青のテーゼ、エヴァンゲリオン初号機!」

シンジ・アスカ「「参!! 上!!」」

レリエル「……」

アスカ「反応がないわね」

シンジ「どうするの?」

アスカ「あれできめるわよ!」

シンジ「わかったよ」

アスカ「フォーメーション!! デルタ!!」

シンジ「スーパーダイナミック……」

アスカ「ボンバァァァァ!!!」

レリエル「……」スッ

シンジ「消えた……!?」

アスカ「なによこいつ!!」

マヤ『パターン青!! 使徒です!! 初号機と弐号機の直下に出現しました!!』

シンジ「直下って……?」

ミサト『逃げて! シンジくん!! アスカ!! その影が使徒よ!!』

アスカ「影ですって!?」

シンジ「うわっ!? なんだよこれ!!」

アスカ「引き摺り込まれる……!!」

マリ「助けて欲しいかな、お姫さま?」

アスカ「さっさと引きあげなさいよ!!」

マリ「はいはい」

レイ「碇くん、手を」

シンジ「綾波、ありがとう」ギュッ

レイ「ふっ……!」ググッ

マリ「よっこいせーのせー」ググッ

アスカ「ちょっと!! しっかりひっぱってよ!!」

シンジ「このままだと綾波たちまで――」

レイ「あ……」ズルッ

ネルフ本部

ミサト「シンジくん……たちは……」

マヤ「完全にロスト……。反応がなくなりました……」

リツコ「こちらから呼びかけてみて」

マヤ「ダメです。こちらから幾ら呼びかけても音声は届いていません」

リツコ「そう」

ミサト「そんな……!!」

リツコ「エヴァ4機の消失は大きな痛手ね」

ミサト「違う! 失ったのは子どもたちのほうでしょう!? エヴァじゃないわ!!」

リツコ「そうね」

ミサト「リツコ……どうしてあなたは冷静なの……」

リツコ「こういう事態は想定しているべきよ。あなたみたく取り乱さないようにね」

ミサト「そうね……それができれば……どんなにこの仕事が楽か……」

冬月「碇、いいのか」

ゲンドウ「ここでエヴァを失ったときは、人類の最後というだけだ」

虚数空間

シンジ「ん……ここは……?」

アスカ「シンジー、みてみてー」

シンジ「アスカ、無事だったんだ」

アスカ「ここ浮けるわよ。一度で良いから重力と言う名の楔を引きちぎって飛んでみたかったのよね」

シンジ「……」

マリ「ここは使徒の胃袋ってところか。まいったね」

シンジ「使徒に取り込まれたってこと?」

マリ「しょーゆーこと。出口も入口もない場所って感じがする」

シンジ「僕たち、ここから出ることができないの?」

マリ「あるいはそうかもしれない」

シンジ「そんなことって……」

レイ「脱出する方法を探しましょう」

シンジ「綾波……」

レイ「早く出ないと……ペンペンのごはんが……」

アスカ「4回転宙返りからのスーパーサンダーキック!!」

マリ「姫様、遊んでないで一緒に脱出する方法を考えない?」

アスカ「こういうのは中からは脱出できないって相場が決まってるのよ。ミサトがなんとかしてくるのを待ったほうがいいわね」

マリ「それが無理なら私たちは王子様を取り合って子孫を残しあいっこしなきゃいけなくなるなぁ」

アスカ「な……」

マリ「王子様には側室が付き物だけど、大丈夫かなぁ。体、もつかぁ?」

アスカ「な、なんで私がシンジとそんな、こと、しなくちゃいけないのよ!!!」

マリ「そんなことってどんなこと?」

アスカ「うっさい!! 脱出方法を探すわよ!! コネ眼鏡!!!!」

マリ「えー? アダムとイブ×3でいいじゃん?」

アスカ「私をイブにいれんな!!」

シンジ「ダメだ……上も下も右も左もない……」

レイ「ここには境目がないのね」

シンジ「こんなのどうやって出れば……」

レイ「分からないわ」

マリ「ここに取り込まれてから、もうすぐ5時間ってところかな」

アスカ「まだ、出れないわけ……?」

マリ「外からでも開けられそうにないってことかにゃ」

アスカ「……」

シンジ「なんだか、寒くなってきた気がする……」

レイ「特殊装甲には一応生命維持装置がついているから、それが切れかけているのかもしれないわ」

シンジ「そ、そんなのがあったんだ」

レイ「体温を一定に保つだけみたいだけれど」

シンジ「それならもし、装置が切れたら……」

レイ「低温度で死ぬかもしれないわね」

アスカ「嫌!!」

シンジ「アスカ?」

アスカ「死ぬのは嫌!! 出して!! ここからだして!!」

シンジ「アスカ!! 落ち着いてよ!!」

アスカ「死ぬのはいやぁ!!」

マリ「姫様、まだ時間はあるって。焦ることないから」

アスカ「でも……でも……!! こんなのもう無理じゃない!! 私たち、ここは出れないのよ!?」

マリ「ヘーキ、ヘーキ。正義の味方は不死身なんだし」

アスカ「ちがう! 私は普通の人間だもん!! こんなところにいたら死んじゃうじゃない!!」

シンジ「アスカ……」

レイ「彼女の本当の姿なのね」

マリ「虚勢を張っている分、脆いところもあるの。大目にみてくれると助かる」

レイ「私は気にしないわ」

マリ「それでいいよ。サンキュ」

アスカ「ママにあわせて!! あわせてぇ!!!」

シンジ「落ち着いて、まだ僕たちは生きてるから。なんとかなるよ」

アスカ「なによ!! それならシンジがなんとかしてよ!! ここから出してよ!!」

シンジ「……」

アスカ「出来もしないのにそんなこといわないで!! うぅ……うっ……」

シンジ「ごめん……」

マリ「あーあ、ここまでかぁ。短い人生だったけど、それなりに充実してたし、まぁ、いいかなぁ」

シンジ「そういう考え方ができるって凄いね」

マリ「そう? ま、仮設5号機としてもう少し活躍したかったっていうのはあるけど」

シンジ「マリさんはどうしてエヴァになったの?」

マリ「運命って信じる方?」

シンジ「どういうこと?」

マリ「碇シンジくん。君と一度、会ってる」

シンジ「そう、なの?」

マリ「エヴァンゲリオンの研究員でもあった碇ユイとその夫、碇ゲンドウに連れられて、エヴァを見に来てたよね」

シンジ「え……?」

マリ「そのとき、私も傍にいた。それだけ」

シンジ「どうして……そういえば……そんなことも……でも、それって……すごく小さいときだったような……」

マリ「あの場には姫様もいたし、綾波レイもいた。だから、これは運命って奴」

シンジ「運命……」

アスカ「ここで死ぬのも……運命なの……?」

マリ「そうなるにゃー。そろそろ腹をくくってもいいんじゃない? かなり寒くなってきてるし」

アスカ「死ぬのはイヤ……死ぬのはイヤ……死ぬのはイヤ……」

シンジ「諦めるしかないのかな」

レイ「ペンペンが心配……」

マリ「動物の心配をする綾波レイが見れただけでも、この世界に生まれた甲斐はあったかな」

レイ「貴女は一体……」

マリ「そだっ! どーせ死ぬなら、これを見せておくか」

シンジ「こんなときに何」

マリ「冥土の土産っていうんでしょ、こういうの」

シンジ「その端末は?」

マリ「昔、あまりにも微笑ましいから記念に撮影しておいたのがあるわけ。その動画がはいってる。私の宝物」

シンジ「何を撮影したの?」

マリ「まぁまぁ、みんなで見てよ」

アスカ「興味ない……」

マリ「いーから、いーから。はい、再生」ピッ

アスカ『わたしなのー!!』

レイ『わたしがさき』


アスカ「これ……私……?」

レイ「私、なの?」

マリ「可愛いじゃん」

シンジ「あの、この子ってもしかして……」


アスカ『シンジはわたしとけっこんするのー!』

レイ『わたしがさきにけっこんする』

シンジ『やめてよー』

『シンジはモテモテね』

『いいねぇ。将来はプレイボーイかぁ?』


アスカ「ぶふっ!!」

レイ「……」

シンジ「あ、えーと……どうして、こうなったんだろう……」

ネルフ本部

ミサト「いいから!! どうしたら助けられるか考えて!!」

リツコ「現段階ではサルベージできる可能性は0に近いといっているわ。つまり、助ける術がないの」

ミサト「それを考えるのが貴女の仕事でしょ!?」

リツコ「無駄なことは考えないようにしているの」

ミサト「リツコ!!」

リツコ「現実をみなさい、ミサト。消えたエヴァよりも新たなエヴァを用意するほうが――」

ミサト「……!!」パシンッ!!!

リツコ「……私をぶっても何も変わらないわよ、葛城一尉」

ミサト「くっ……」

マヤ「大変です!! 使徒から高エネルギー反応が!!」

ミサト「え……」

リツコ「なんですって?」

レリエル『……』ピキピキピキ

ミサト「あの白黒のバルーンに亀裂が……なにが起こるの……?」

レリエル『……』ピキピキピキッ

『ああぁぁああぁぁぁぁ……!!!!』

ミサト「この声は……」

アスカ『あぁあぁぁあああぁぁぁぁ!!!!』バリーン!!!!

マヤ「エヴァ弐号機を確認!!!」

リツコ「暴走、しているの?」

アスカ『私はあんなこといわないんだからぁぁぁぁ!!!!』

マヤ「使徒、消滅!!」

ミサト「どういうこと!?」

マヤ「使徒内部より強力なA.T.フィールドを確認しました!」

リツコ「そのフィールドが使徒のフィールドを打ち破ったということね」

冬月「心の壁を打ち破るのはやはり心の壁か」

ゲンドウ「ああ」

アスカ『いやぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!!』

ミサト「アスカになにがあったっていうの……」

市街

シンジ「う……ん……ここは……」

ミサト「シンジくん! 気が付いたのね!?」

シンジ「ミサトさん……? 僕は……」

ミサト「ここで気を失っていたのよ。痛いところはある?」

シンジ「いえ、それより、他のみんなは……」

ミサト「みんな生きているわ」

シンジ「よかった……」

リツコ「シンジくん。少しいいかしら」

シンジ「え?」

ミサト「あとにして」

リツコ「使徒の内部で何があったのか覚えている?」

シンジ「あ……えと……覚えていません……」

リツコ「そう」

ミサト「やめて、リツコ。今はシンジくんたちを休ませるほうが先よ」

ネルフ本部 司令室

マリ「こうして面と向かってお話しするのは久しぶりだね、ゲンドウくんっ」

ゲンドウ「何も変わらないな。時間が止まっているかのようだ」

マリ「事実、私の体はあのときのまま。エヴァのプロトタイプとして呼ばれたときから」

ゲンドウ「そうだな」

マリ「感謝したほうがいいかにゃ。若い体を維持できる今を」

ゲンドウ「それはお前自身に任せる」

マリ「碇ユイはずっと謝ってたけど、ゲンドウくんは非を認めないよね。まぁ、そうでなきゃゲンドウくんじゃないけど」

ゲンドウ「ここへお前を呼んだのはほかでもない。使徒内部で何があったかを報告してもらうためだ」

冬月「黙秘権はないと思ってくれ」

マリ「冬月先生も相変わらずで少し安心した。あの虚数空間から脱出できたのは、これのおかげ」

ゲンドウ「これをシンジに見せたのか」

マリ「死ぬって思ったからね。知らないで死ぬのは可哀相でしょ」

ゲンドウ「……」

冬月「碇の息子が感付くのも時間の問題か」

医務室

アスカ「……」

シンジ『あの……入ってもいいかな……?」

アスカ「あいてる」

シンジ「お邪魔します……」

アスカ「……アンタ、覚えてる?」

シンジ「な、なにを?」

アスカ「あの中で何があったのか」

シンジ「ええと……その……」

アスカ「覚えてるのね」

シンジ「ごめん……」

アスカ「なんでコネ眼鏡があんなもの持ってたのかはわかんないけど、あれは、あれよ。わかるわね」

シンジ「わ、わかってるよ。む、昔のことだもんね」

アスカ「そうよ。昔のことなの。いいわね」

シンジ「う、うん……」

通路

レイ「ペンペン、ごめんなさい。はい、ごはん」

マトリエル「……」カサカサカサカサカサカサカサカサ

レイ「嬉しいのね」

シンジ「はぁ……僕はどうしたら……」

レイ「碇、くん」

シンジ「あ、綾波……」

レイ「……」

シンジ「あの……」

レイ「ペンペン、行きましょう」

マトリエル「……」カサカサカサカサカサカサカサカサ

シンジ「綾波! 待ってよ!!」

レイ「今、ペンペンの散歩中だから、ごめんなさい」

マトリエル「……」カサカサカサカサカサカサカサカサ

シンジ「あ、そ、それなら仕方ないね……」

市街 某所

「レリエルまで世界の輪から外れてしまうなんてね。リリンはとても強く健やかにこの世界を蹂躙している」

サキエル「……」

「そう。レリエルは僕たちに残してくれたものがあるんだ。それもまた一つの光となるよ」

シャムシエル「……」ニョロニョロ

「13の天使は既に放たれている。イロウルの残した情報によれば、また一つリリンの僕がこの特異点に召喚されることになっているみたいだね」

ラミエル「……」キャー

「ラミエルの言う通りだよ。僕たちは屍の上を進むしかない。もう一度、やり直すためにね」

サキエル「……」

「レリエルが遺したもの、イロウルが遺したもの、マトリエルが遺したもの。これらはパズルのピースのようなものさ」

「一つ一つは何の意味も持たない欠片だけど、あわせたときに1枚の大きな絵が完成する」

「その絵を見て、バルディエルは動き出した」

サキエル「……」ガオー

「いいね。そうしよう。終焉のときは確実に近づいているのだから」

ラミエル「……」キャ-ッ

葛城宅

ミサト「……」

シンジ「あの、アスカ……ごはん……」

アスカ「あとで食べる」

シンジ「そ、そう……ごめん……」

アスカ「謝らないでよ。気持ち悪い」

シンジ「ごめん……」

ミサト「ねえ、シンちゃん。最近、アスカとなにかあった?」

シンジ「え? な、なにもないですよ」

ミサト「それにしてはよそよそしいというか」

シンジ「気のせいですよ。アスカはいつもあんな感じだったじゃないですか」

ミサト「そうだったかしら?」

シンジ「そうですよ。それより、ミサトさん、お酒のみますか?」

ミサト「のむ!」

シンジ「はい、どうぞ」

学校 教室

レイ「ペンペン、ジャンプ」

マトリエル「……」ピョンピョン

レイ「上手よ」

シンジ「おはよう」

トウジ「おはようさん」

ケンスケ「おはよう、碇」

レイ「……」

シンジ「あ、綾波、おはよう」

レイ「……」コクッ

シンジ「……」

トウジ「最近、綾波がまた喋らんようになってきたな」

ケンスケ「確かに。前の状態とはちょっと違う気がするけど」

トウジ「シンジだけを避けとる感じやな」

ケンスケ「碇はアスカともここ数日は話してない気がするなぁ」

ネルフ本部 トレーニングルーム

シンジ「はっ!」ポカッ

アスカ「痛い」

シンジ「ごめん……」

アスカ「気をつけなさいよ」

シンジ「ごめん……」


リツコ「最近のアスカ、どうしたの? 全然、訓練に身が入ってないみたいだけど」

ミサト「それがさっぱり。あの一件以降、変なのよね」

リツコ「何かあったのは間違いないけれど、私たちじゃ調べようがないわね」

ミサト「どうにかしないとね……。シンジくんも様子がおかしいし」

リツコ「……気分転換になるかはわからないけど、アスカにやってもらいましょうか」

ミサト「なにをよ」

リツコ「3号機のパーツがもうすぐ届くことになっているのよ。その性能を試すための実験をね」

ミサト「3号機までこっちで見るわけ?」

リツコ「各国のネルフ支部は順番に随時解体されているもの。手に余るものが本部に回ってくるのは道理よ」

司令室

冬月「遂に来たな」

ゲンドウ「ああ。3号機が我らの手の中に入れば終わりだ」

冬月「全ての手札が揃ったか」

ゲンドウ「あとは使徒の出方次第だ」

冬月「使徒の欠番は4体にも及ぶ。のんびりはしていられんな」

ゲンドウ「問題ない。若干の修正が必要になるだけだ」

冬月「これで奴等動かなければ、終わりだな」

ゲンドウ「動かぬわけがない。使徒が出現していることは既に周知されている」

冬月「では、やはり……」

ゲンドウ「エヴァシリーズは完成しつつある」

冬月「そうか。運命とは恐ろしいものだな。碇の息子とて例外ではなかったか」

ゲンドウ「輪廻の渦中にいるのがシンジだ」

冬月「世界の命運は碇の息子に託されたか」

ゲンドウ「エヴァ初号機となったときから、託されている」

休憩室

アスカ「3号機の機能実験?」

ミサト「そ。アスカが適任だって、リツコが推薦したの」

アスカ「ふぅん」

シンジ「危なくないんですか?」

マリ「お。未来の旦那さまが心配してるぅ」

アスカ「……」

マリ「こわっ。睨まれた」

ミサト「やる?」

アスカ「……やるわ」

ミサト「ありがと。実験は松代でやるから」

アスカ「ああ。弐号機の実験をしたところね」

ミサト「そうよ。当日は一緒にいきましょ」

アスカ「わかったわ」

シンジ「アスカ……」

レイ「ペンペン、おすわり」

マトリエル「……」クイッ

レイ「良い子ね」

シンジ「あ、綾波」

レイ「……」

シンジ「えっと、今度、アスカが松代で3号機の実験に参加するんだって」

レイ「……」

シンジ「それで、あの、心配だから、一緒にいかない?」

レイ「それは命令?」

シンジ「違うけど」

レイ「なら、行く必要はないわ」

シンジ「そ、そんなこといわないで……」

レイ「ごめんなさい。今は碇くんと話したくないの……。胸が苦しくなるから……」

シンジ「あ……そ、そう……なんだ……ごめん……」

レイ「さよなら」

数日後 葛城宅

ミサト「アスカー、準備できたー? もういくわよん」

アスカ「オッケー。いきましょ、ミサト」

シンジ「えっと……」

アスカ「なに?」

シンジ「気をつけてね」

アスカ「ふんっ」

ミサト「ねえ、アスカ? シンジくんと大喧嘩したの?」

アスカ「べっつに」

ミサト「嘘でしょー。二人の様子、おかしすぎるもの」

アスカ「シンジのことは話題にしないで!!」

ミサト「なにがあったの? いい加減に話してくれない?」

アスカ「シンジのことは一瞬でもいいから忘れたいの!!!」

ミサト「そこまでのことがあったのね。いいわ。当人たちで解決して。もしできないなら、すぐに相談すること」

アスカ「相談なんてできるわけないわよ……まったく……」

実験施設

ミサト『アスカー。準備はいい?』

アスカ「ええ。3号機のパーツ、悪くないわ」

ミサト『よろしい。実験内容は頭に入ってるわね』

アスカ「とどのつまりは使徒との戦闘を想定した模擬戦でしょ」

ミサト『それを理解しているのならいうことなしよ。がんばってね』

アスカ「はいはい」

アスカ「ふぅー……」

アスカ「ミサトにまで気を遣われるなんて、私もヤキが回ったわね」

アスカ「……いつまでも逃げていても仕方ないもの。帰ったらシンジを話してみないと」

アスカ「よしっ。いくわよ、アスカ」

アスカ「――漆黒のビューティフルワールド、エヴァンゲリオン3号機!!!」

バルディエル『……』オォォォォン

アスカ「え……なにこれ……体が……しめつけ、られ……」

アスカ「いや……はいってこないで……!!」

ネルフ本部

マヤ「松代実験施設より緊急入電!!」

ゲンドウ「どうした」

ミサト『すみません、司令!! アスカ、いえ、エヴァ3号機が実験施設を抜け出しました!!』

ゲンドウ「3号機の行方は?」

ミサト『不明です! ただいま全力で探しているのですが……』

ゲンドウ「3号機を追跡しろ。信号がでているはずだ」

マヤ「はい!」

ゲンドウ「葛城一尉は他のスタッフをつれ、こちらに帰還しろ」

ミサト『了解!』

冬月「使徒か」

ゲンドウ「ああ。それしか考えられん」

冬月「先手を打たれたか」

ゲンドウ「構わん。使徒ならば殲滅するだけだ。エヴァ出撃準備」

マヤ「はい! エヴァを呼び出します!」

葛城宅

シンジ「今頃、アスカは実験中なのかな」

ピリリリ……

シンジ「はい、碇です」

マヤ『シンジくん! 今すぐ本部に来てください!』

シンジ「使徒ですか?」

マヤ『いえ、そうじゃ……あぁ……!?』

シンジ「どうしたんですか?」

マヤ『パターン青!! 使徒です!! 使徒がシンジくんの近くまで迫っています!!』

シンジ「ここに来るんですか!?」

マヤ『早くそこを離れてください!! 危険です!!』

シンジ「わ、わかりました!!」

シンジ「急がなきゃ……!! 使徒が……!!」

アスカ「――ただいま」

シンジ「ア、スカ……? お、おかえり……。どうしたの、エヴァになったままだけど……」

アスカ「……」

シンジ「どうしたの? それ、重くない?」

アスカ「ねえ、シンジ。キス、しよっか?」

シンジ「え……?」

アスカ「したくない?」

シンジ「えっと、その……どうしちゃったの……アスカ……」

アスカ「私はしたいな……」

シンジ「ちょ、ちょっと、アスカ……」

アスカ「ねえ、シンジ。キス、しよ」

シンジ「な、なんで……」

アスカ「シンジのことが好きだからよ」

シンジ「なっ……」

ゲンドウ『シンジ、聞こえるか』

シンジ「父さん!?」

ゲンドウ『目の前にいるのは使徒だ。殲滅しろ』

シンジ「使徒って……アスカだよ……」

ゲンドウ『間違いなく、使徒だ。やれ、シンジ』

シンジ「そ、そんなこと……」

アスカ「お父さんもやれっていってるし、やろっか?」

シンジ「なにを!?」

アスカ「わかってるくせに。意地悪なシンジ。ふふ」

シンジ「アスカ!! 待ってよ!! こんなのおかしいよ!!」

アスカ「おかしくないわ。私はずっとシンジのことが好きだったのよ」

シンジ「正気に戻ってよ!! アスカ!!」

アスカ「最初は頼りない奴だって思ってたけど、結構かっこいいところあるし、優しいし、気も合うし……」

シンジ「アスカが何を言っているのかわからないよ!!」

アスカ「小さいときに結婚の約束までしてるし……これって運命だと思うの……」

シンジ「やめてよ!! こんなのアスカじゃないよ!!」

アスカ「ねえ、シンジぃ、わたしとやるの?」

ゲンドウ『早くやれ、シンジ』

シンジ「できるわけないよ!!!」

マヤ『もうすぐパーツが届きます!! それまで耐えてください!!』

アスカ「シンジ、おねがい。いいことしよ」

シンジ「きっとこの3号機がアスカをおかしくしてるんだ!! これを引き剥がせば……!!」ベリッ

アスカ「あんっ。そんなに私のが見たいの? いいわよ、シンジだけ特別にみせてあげるわ」ベリベリ

シンジ「え……え……」

アスカ「みて、この下にはなにも着けてないの」ベリベリ

シンジ「うわぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」

ゲンドウ『シンジ、何をしている。躊躇うな』

アスカ「恥ずかしいけど、シンジになら見せてもいいわ」ベリベリ

シンジ「やめてよ!!! アスカ!!! うわぁぁぁぁぁ!!!!!」

バンッ!!!!

シンジ「え!?」

アスカ「ダレ!?」

レイ「……」

マヤ『エヴァ零号機、到着!! 初号機のパーツを持っている5号機はまだですか!?』

シンジ「綾波……」

アスカ「ふん。誰かと思えば泥棒猫じゃない。私とシンジの時間を邪魔しないでくれる?」

レイ「……」

アスカ「早く出て行きなさいよ!!!」

レイ「……」

アスカ「なによ、その目! 文句でもあるわけぇ!?」

レイ「……ない」

アスカ「あん?」

レイ「……渡さない」

アスカ「なんですって? よくきこえなーい」

レイ「碇くんは、貴女に渡さない」ドゴォッ!!!

アスカ「ごっ……!? やったわね……!! おんどりゃぁぁ!!!」ドゴォッ!!!

レイ「ぐっ……!」

シンジ「やめて……やめてよ……」

市街

マヤ『5号機! 応答してください!!』

マリ「それは無理な注文だ!」

サキエル「……」ガオー

シャムシエル「……」パシンッ

マリ「おっと! ここはこいつでいくかぁ」ジャキン

ラミエル「……」キャー

マリ「ちっ! まだいるってかぁ!?」

ラミエル「……」グリグリグリグリグリグリグリ!!!!!

マリ「んぎぃ! そこはきくぅ!」

マヤ『5号機!! 応答してください!!』

ラミエル「……」グリグリグリグリグリグリグリ!!!!!

マリ「ん……あっ……そこ、マジで……やめてぇ……」ビクビクッ

シャムシエル「……」パシンッ!!!

マリ「あんっ。こりゃ、ダメだ……。初号機パーツは届けられそうにないにゃぁ……」

葛城宅

アスカ「私はシンジのことが好きなの! 愛しているの!! 邪魔しないで!!」バキッ!!!

レイ「ずっ……。好きとか、愛しているとか、分からないけれど、貴女にだけは碇くんを渡したくない」

アスカ「はんっ。自分の感情すらわからない女はそのまま指をくわえて私とシンジが愛し合うところをみていればいいのよ」

レイ「私が碇くんのことをどう想っているのか、どう感じているのかは分からない。でも、碇くんのことを考えるとぽかぽかする」

アスカ「はぁ?」

レイ「胸のあたりがぽかぽかする」

アスカ「それって好きってことじゃない!!」ブンッ

レイ「そうなの?」ガッ

アスカ「こいつ……! 私の拳を……!!」

レイ「好きってこういう気持ちなの? 分からないわ」ドゴォッ

アスカ「ごっほ……!?」

レイ「好きがどういうものなのかは知らない。けれど、使徒に碇くんは渡さない」

アスカ「嫉妬は見苦しいわよ。シンジは私と愛し合ってるの!! あんたを選んだりもしないの!! 諦めたらぁ!?」バキッ

レイ「うっ……ぐ……。絶対に渡さないわ」ドゴォ!!!

ネルフ本部

アスカ『きえろぉぉ!!! 泥棒猫ぉ!!!』ベキッ!!!

レイ『私は消えない』ボキッベキッ

アスカ『あぁあぁぁぁあああ!!!』

シンジ『父さん!! 聞こえてるんだろ!? 二人を止めてよ!!!』

マヤ「酷い……」

リツコ「これが女の戰いね」

冬月「いいのか、碇?」

ゲンドウ「ふっ。止める理由などない」

アスカ『ころしてやる……ころしてやる……ころしてやる……ころしてやる……ころしてやる……!!!』

レイ『貴女じゃ、無理』

アスカ『こちとら、10年以上前からシンジと婚約してるんだからぁぁぁぁぁ!!!!』

レイ『そんなの関係ないわ』

シンジ『とまれとまれとまれとまれとまれとまれ……!!』

リツコ「シンジくん。祈るだけでは止まらないと思うけど」

葛城宅

アスカ「シンジは私のものなんだからぁぁぁ……!!!」グニーッ

レイ「ふぃふぁふぃふんふぁふぁふぁふぁふぁふぃ」

アスカ「黙れ!!」ガンッ!!!

レイ「いっ……」

アスカ「こいつでラストぉぉぉぉぉ!!!!」

レイ「くっ……回避が……」

シンジ「やめてよ、アスカ!!」ガッ

アスカ「シンジ……!! どうして……どうして……その女を守るわけ……」

シンジ「僕は……その……」

アスカ「そう、やっぱり……シンジはそいつのほうが、好きなのね……」

シンジ「違う!! そうじゃなくて!!」

レイ「……違うの?」

シンジ「あ、そういう違うじゃなくて!」

レイ「なら、どういう違うなの?」

シンジ「だから、それは……」

アスカ「ここではっきりさせるのもいいわね。シンジはとーぜん、私のことが好きでしょ? ねぇ」ギュゥゥ

シンジ「あの……」

レイ「離れて」ググッ

アスカ「はにゃれりゅもんですかぁー!!」

シンジ「やめてよ!! 二人とも!!」

マヤ『シンジくん、結論を出せば、アスカの暴走は止まるかもしれません!!』

シンジ「本当ですか!?」

リツコ『半分は賭けね。悪化する事態も考えられるもの』

シンジ「だったら、答えなんて出せないですよ!!」

ゲンドウ『シンジ、何故戦わない。奴は使徒だ。お前の知っている者ではない。ならば、答えは一つしかあるまい』

シンジ「勝手なことばかり言わないでよ!!」

アスカ「あんたもシンジに近づかないで!!」ググッ

レイ「ふぁふぁふぃふぁふぃふぃふぉ」

シンジ「僕は……僕は……!!」

マリ「はぁ……はぁ……やーっと、たどりつけたぁ……。流石に使徒三体はきっついなぁ」

サキエル「……」ヨロヨロ

マリ「しつこい、なっ!!」ドゴォッ!!!

サキエル「……」ギャー!!!

マリ「ごっめーん。ちょっとおくれたー、みんな無事ー?」

シンジ「……」

マリ「おぉ、王子様は無傷っぽいね」

シンジ「マリ……さん……」

マリ「なんかあった?」

シンジ「あれ……」

マリ「んー?」

レイ「まだ、やるの?」

アスカ「ぐ……ぅ……ごほっ……ま、だ……よ……まだ……あきらめ……な……い……」

レイ「……」

マリ「あっりゃー、どっちも血だらけで、顔も腫れあがってんじゃん。ナイス、キャットファイト」

シンジ「どうにかして二人を止めてよ!! 僕じゃ無理なんだ!! 僕じゃ……」

マリ「しゃーない。ミサトー。使徒がパーツにとりついてる説は信頼できんの?」

ミサト『まず間違いないわ。実験開始直後にパーツから使徒の反応がでていたもの』

マリ「だったら、パーツをひん剥くしかないじゃん」

シンジ「え? それって……」

マリ「ひめー、ちょいとごめんよ」

アスカ「なにを――」

マリ「おりゃー」ベリベリベリベリ!!!!!!

アスカ「お……」

シンジ「う……わ……」

レイ「……」

マリ「なんで、何も着てないの?」

アスカ「あ……あぁ……あぁぁ……」

シンジ「アスカ、だ、だいじょうぶ――」

アスカ「いやぁぁぁぁぁあああああ!!!!!」

ネルフ本部

マリ「こいつが今回の使徒っぽいね」ドサッ

バルディエル「……」タスケテー

リツコ「このパーツに使徒がいるのね」

ミサト「これは厳重に封印したほうがよさそうね」

リツコ「そうね。貴重なサンプルではあるけれど、このままにはできないわ」

マリ「ゲンドウくんとしては残念だったかな」

ゲンドウ「3号機のパーツは凍結させる。その後、使用を禁ずる。以上だ」

リツコ「分かりました」

バルディエル「……」ヤメテー

マヤ「これで使徒は倒せたと言って良いですけど……」

ミサト「問題はアスカね」

マリ「姫のことは気にしても仕方ないって。派手に告白したんなら、あとは開き直るか引きこもるかしかない」

ミサト「前者であることを祈るわ」

マリ「姫の性格的に後者になりそうだけどにゃ。さーどうなるか、たっのしみぃ」

葛城宅 アスカの部屋

アスカ「……」

『アスカー、起きてよ。綾波も今日見た事は忘れるって言ってるから』

アスカ「……」

『ごはんも出来たよ。一緒に食べよう』

アスカ「……」

『綾波も心配してるから』

アスカ「……」

『僕も忘れるよ。全部。今日のことはもう忘れるよ。それでいい?』

『碇くん、どう?』

『ダメ。返事もしてくれない』

『そう……』

『綾波、帰るならおくっていくけど』

アスカ「……」

アスカ「うぅー!!」バタバタ!!

翌日

『ちょっと、アスカー? 学校へは行かないの? シンちゃんは先に行ったわよー』

アスカ「……」

『あんなことがあったばかりだから、無理にとは言わないけど、気にしないほうがいいわよ。あれは全部、使徒の仕業なんだから』

アスカ「……」

『貴女は今までに何度もこの街を救ってきたヒーローなのよ。そんな小さなことに躓いちゃダメよ』

アスカ「……」

『シンちゃんもレイもマリもみーんな、アスカの心配をしてるんだから。いい加減、声ぐらいは聞かせて』

アスカ「……」

『アスカ!』

アスカ「……」

『……ごはんは冷蔵庫の中にあるわ。温めて食べるのよ。それじゃ、行ってきます』

アスカ「……」

アスカ「うぅ……」

アスカ「うぅー!!」バタバタ!!!

学校

トウジ「式波は休みか?」

シンジ「うん。色々あって」

ヒカリ「もしかして大怪我したの?」

シンジ「怪我……なのかな……あれは……」

ヒカリ「心配だわ。今日の帰り、お見舞いに行ってもいい?」

シンジ「うん。アスカもきっと喜ぶと思うよ」

ケンスケ「今の言い方だと式波は普通の怪我じゃないってことか」

シンジ「そうだね……」

トウジ「エヴァになると大変なんやな」

ケンスケ「肉体よりも精神的な負担のほうが大きいだろうからなぁ」

トウジ「そうやなぁ。なんていってもシンジはワシらの街を守ってくれてる英雄やいわれてしまうし、そのプレッシャーは半端なもんやないしな」

シンジ「トウジ……」

トウジ「感謝してるで。ホンマに。だから、なんかあったらすぐに相談せぇよ。できることならなんでもしたる! これは男の約束や!!」

シンジ「ありがとう……」

ネルフ本部

リツコ「現状ではエヴァ弐号機の稼動は絶望的といえます」

ゲンドウ「そうか」

マヤ「これからは零号機、初号機、仮設5号機だけの運用になりますね」

ゲンドウ「仮設5号機を弐号機に書き換えろ」

ミサト「ちょっと待ってください! それは事実上の更迭では……」

ゲンドウ「使えぬエヴァに用はない」

ミサト「アスカは今、ほんの少し気持ちの整理がつかないだけです!! もう少し時間をください!!」

ゲンドウ「弐号機のパーツは5号機に回せ。これからは5号機を弐号機として運用する」

ミサト「司令!!」

リツコ「ダメよ」

ミサト「けど!!」

リツコ「次の使徒がいつ来るか分からない以上、こうするしかないでしょう。事実、5号機のパーツよりも弐号機のパーツは高性能。眠らせておく理由がないわ」

ミサト「アスカは、どうなるの? アスカだって、今までがんばってきたじゃない。使えないからってここで見捨てるわけ?」

リツコ「人類に残された時間は少ないのよ。作戦本部長の貴女がそんなことでどうするの?」

トレーニングルーム

シンジ「え……それ……どういうことですか……?」

ミサト「言ったとおりよ。今後、アスカは戦力として考えないように。訓練も貴方たち3人だけでやっていきなさい」

レイ「……」

マリ「弐号機は私に回してくれんの?」

ミサト「ええ。これからマリが弐号機よ。がんばってね」

マリ「オッケー」

シンジ「待ってください、ミサトさん!! アスカはどうなるんですか!?」

ミサト「……ネルフの財政を考えれば、もうここにはいられないわね」

シンジ「どうして急にそんなことになるんですか!?」

ミサト「すぐに出撃できないエヴァは使えないからよ」

シンジ「アスカだってエヴァとして街を守ってきたじゃないですか!! 見捨てるなんておかしいですよ!!!」

ミサト「これは司令の命令なの。覆すことはできないわ」

シンジ「父さんが……? わかりました。僕が父さんに直接言ってきます」

ミサト「シンジくん!!」

司令室

ゲンドウ「……入れ」

シンジ「失礼します」

ゲンドウ「何か用か」

シンジ「アスカのことです」

ゲンドウ「なんだ」

シンジ「弐号機はアスカです。どうしてマリさんが弐号機になるんですか」

ゲンドウ「現弐号機が戦える状態ではないからだ」

シンジ「あんなことがあったんです。しばらくは仕方ないじゃないですか」

ゲンドウ「即戦力にならん者を置いておけるほどの余裕はない」

シンジ「アスカは命がけで戦ってきたんです。本当は怖いのにそれを誤魔化しながら戦ってきたんです」

ゲンドウ「だからなんだ」

シンジ「な……」

ゲンドウ「動けぬエヴァなど、邪魔だ」

シンジ「どうしてだよ……どうしていつも……父さんは……」

ゲンドウ「用件はそれだけか、ならば出て行け」

シンジ「どうして父さんはいつもそうなんだよ!! 僕のことだって邪魔だっていって親戚におしつけて……!! 次は邪魔だからって必死に戦ってきたアスカを見捨てるの!?」

ゲンドウ「今はお前が必要であり、現弐号機は不必要だ」

シンジ「そうやって父さんは自分の都合で他人に迷惑をかけるんだ」

ゲンドウ「これ以上、お前と話すことはない。出て行け」

シンジ「父さんにとって、必要なのは僕じゃなくて、エヴァなんだろ」

ゲンドウ「そうだ」

シンジ「……っ」

ゲンドウ「初号機であるお前が必要だ」

シンジ「そう……やっぱり……薄々は気づいていたけど……やっぱり、そうなんだ……。父さんが必要なのは……僕じゃないんだ……」

ゲンドウ「これからの予定もある。早く出て行け」

シンジ「……てやる」

ゲンドウ「なに?」

シンジ「エヴァなんてやめてやる」

ゲンドウ「……」

シンジ「これ以上、父さんの思い通りになんてさせるもんか」

ゲンドウ「子どもの駄々に付きあうほど暇ではない」

シンジ「僕は本気だよ、父さん」

ゲンドウ「大人になれシンジ。今、ここを離れてもお前は自己満足するだけだ」

シンジ「それでいいよ。こんなところに、父さんがいるところにいたくない。エヴァなんて、苦しいだけだし、ずっと辞めたかった」

ゲンドウ「また逃げるのか?」

シンジ「逃げて何が悪いの。父さんは初号機がいなくなると困るんだろうけど、僕には関係ない。少しは困ればいいんだ」

ゲンドウ「考え直せ、シンジ。使徒の脅威は全人類を飲み込むほどのものだ」

シンジ「知らないよ。僕はエヴァなんてしたくない。なりたくもない」

ゲンドウ「……」

シンジ「父さんの言いなりになんてならない」

ゲンドウ「そうか。では、貴様は用済みだ。早急に出て行け」

シンジ「言われなくても出て行きますよ」

ゲンドウ「好きにしろ」

シンジ「しますよ」

市街 某所

「バルディエルも堕落してしまった。これで全ての希望は光を失い、闇へと染められた」

サキエル「……」

「君たちの失敗が主な要因であるけどね」

シャムシエル「……」ニョローン

「もういいんだよ。誰も苦しまなくていい。終焉と収束の扉は開いた」

ラミエル「……」キャー?

「終わりの始まり。始原にして終極。輪廻の根源となる『力』を司る天使が舞い降りる」

サキエル「……!」

「その名はゼルエル。全てを『力』のみで制す天使が動くんだ」

シャムシエル「……!」ニョロニョロ

「もう遅いよ。終末は既に僕らの頭上にある」

ラミエル「……」キャー!

「さぁ、ゼルエル。奏でるんだ。この世に捧げる鎮魂歌をね」

サキエル「……」ガタガタガタ

葛城宅

シンジ「アスカ、それじゃあ僕は先に行くよ。気が向いたら、電話してほしい」

ミサト「シンジくん、本当に行くのね」

シンジ「はい」

ミサト「話を聞いたときは驚いたわ。アスカのためにエヴァを辞めるなんて」

シンジ「別にアスカのためじゃないです。僕は前から辞めたかっただけです。正直、訓練だって痛いし、苦しいだけだし、楽しいことなんて何一つありませんでした」

ミサト「アスカに勝ったとき、喜んでいたように見えたけど」

シンジ「気のせいじゃないですか」

ミサト「司令が貴方を褒めていたって言ったら、喜んでいなかったの?」

シンジ「いませんよ」

ミサト「……そう」

シンジ「今まで、お世話になりました。ミサトさんたちと過ごした毎日は……」

ミサト「つまらなかった?」

シンジ「……はい」

ミサト「そうよね……。さようなら、シンジくん。私は、楽しかったわ」

市街

シンジ「……」

トウジ「シンジー!!」

ケンスケ「いかりー!!」

シンジ「あ……」

トウジ「はぁ……はぁ……。ど、どういうことや!?」

ケンスケ「急に転校ってどういうことだよ」

シンジ「僕はもうエヴァをやめたから。ここにいる理由がなくなったんだ」

トウジ「エヴァをやめたんか」

ケンスケ「やめたって……」

シンジ「うん。もういいかなって。エヴァになるのも疲れたんだ」

トウジ「そうなんか――」

ドォォォォン!!!

シンジ「うっ!? この爆発は……!?」

トウジ「なんや!? 使徒か!?」

ネルフ本部

マヤ「パターン青!! 使徒です!! モニター、出ます!!」

ゼルエル『……』ドヤァ

冬月「来てしまったな。最強の使徒。最強の拒絶タイプが」

ゲンドウ「零号機と弐号機を出せ」

マヤ「弐号機は既に出撃準備が整っています!!」

マリ『こっちはいつでもいけるにゃぁ』

マヤ「弐号機、出撃してください」

マリ『いっちょ、いくかぁ!』

ミサト「遅れました! 状況は!?」

リツコ「今、始まったところよ」

ミサト「マリだけ? レイはどうしたの?」

マヤ「まだ更衣室から出てきていません」

ミサト「何をしているのよ、レイは」

リツコ「流石に更衣室に監視カメラは置けないから、分からないわね」

市街

ゼルエル「……」ピカッ!!!

ドォォォォン!!!

ゼルエル「……」ドヤァ

マリ「そのドヤ顔もここまでにしない?」

ゼルエル「……?」

マリ「んー。姫の使っていたパーツ、やっぱりいいなぁ。5号機も気に入ってたけど、やっぱ使うなら性能が良いほうだよね」

ゼルエル「……」ゴゴゴッ

マリ「お。やる気かぁ? こっちはもう後には退けないから、やるだけのことはやってやるぞぉ」

ゼルエル「……」ピカッ!!!

マリ「おぉ。きたきたぁ。まずは、ソニックグレイヴで!!」ジャキン!!!

ゼルエル「……!」

マリ「ファーストアタックはもらったぁ!!」

ゼルエル「……」ギィィィン

マリ「A.T.フィールド、厚っ! にゃろぉ、反則染みてるなぁ」

ゼルエル「……」ピカッ!!!

ドォォォォン!!!

マリ「ほいっと。強烈な光線だ。今までの使徒とはノリが違うね」

ゼルエル「……」イラッ

マリ「次はこいつで!」

ゼルエル「……」シュルルル!!!

マリ「な――」

ゼルエル「……」バキィ!!!

マリ「あぅ!?」

ゼルエル「……」ドヤァ

マリ「腕を伸ばせるなんてきいてなーい!」

ゼルエル「……」ゴォォォ

マリ「はやっ」

ゼルエル「……」ドゴォ!!!!

マリ「ぐっ……ぇ……!?」

ネルフ本部 更衣室

レイ「……」

マトリエル「……」カサカサカサカサ

レイ「行かなきゃ。5号機の人も戦ってる」

マトリエル「……」

レイ「ペンペンはここにいて」

マトリエル「……」クイッ

レイ「良い子ね。私は必ず、戻ってくるわ」

マトリエル「……」カサカサカサカサカサ

レイ「碇くんが戦わなくていい世界にする」

レイ「それが今の私の気持ち。私の想い」

レイ「そして私は……」

マトリエル「……」カサカサカサカサ

レイ「私は今、生きたいと思っている。碇くんのいるこの世界で。だから、戦う。それが私の戦う理由」

レイ「零号機。出撃します」

市街

ゼルエル「……」ガンッ!!!

マリ「が……ぐっ……!! いったぁ……このままじゃ、かてないにゃ……」

マリ「仕方ない。あれを使うとしますか。あんまり好きじゃないけど」

ゼルエル「……?」

マリ「モード反転!! 裏コード!! ザ・ビースト!!」

ミサト『マリ!! 何をしているの!?』

リツコ『それを使えば人でいられなくなるのよ!?』

マリ「知ってるっつーの。だから、使うんだってば」

ゼルエル「……」

マリ「ウゥゥゥ……!! ワンワン!! ワンワン!!」

ゼルエル「……!?」

マリ「ガァァァウ!!!」ガブッ!!!

ゼルエル「……」イテー

リツコ『あれが人の理性を捨て、本能だけになったエヴァの姿……』

マリ「ワンワンワンワンワンワンワン!!!!」

ゼルエル「……」

マヤ『弐号機!! 使徒の周りを回り始めました!!』

ミサト『威嚇しているの!?』

リツコ『彼女は既に本能だけで生きている獣と化しているわ。何を考えているかなんてわかるはずがない』

マリ「ワオワオォォン!!!」

ゼルエル「……」パシンッ!!!!

マリ「キャン!!」

ミサト『やっぱりダメか……』

レイ「――零号機、行動を開始します」

ミサト『レイ!』

レイ「ここで使徒を倒して、碇くんが困らない世界にする」

ゼルエル「……」ペシンッ

レイ「あぅ」

マヤ『零号機! 行動不能!!』

葛城宅 リビング

アスカ「……」

チンッ

アスカ「いただきます」

『第三新東京市民のみなさん!! 見てください!! あれが使徒です!!』

アスカ「使徒……」

『あの使徒はいたるところを破壊しながらどこかへと向かっています!! 近隣のみなさんは避難してください!!』

アスカ「……」

ゼルエル『……』ゴゴゴゴゴッ

『し、使徒がこちらに……!!』

レイ『させない』

『エヴァンゲリオンです!! エヴァンゲリオンが私たちを守ってくれるようです!!』

ゼルエル『……』ペシンッ

レイ『くっ……!!』

アスカ「はむっ……」モグモグ

市街

シンジ「なんだか大変なことになっているみたいだね」

トウジ「ほんまにこのまま街からでるんか? 使徒がこの街を壊しとる、こんな状況で」

シンジ「僕はもうエヴァじゃないんだ。使徒と戦う理由もないよ」

トウジ「……」

シンジ「軽蔑するならしたらいいよ。でも、僕は――」

トウジ「軽蔑なんてするかい、ボケ。感謝してもしきれんぐらいや」

シンジ「え……」

ケンスケ「碇は今までずっとここを守ってくれてたじゃないか。お礼はしても、軽蔑なんてしない」

シンジ「でも……僕は苦しいことから逃げるのに……」

トウジ「逃げたらええやろ。シンジはようやった。ここまで疲れさせたのはワシらの所為でもある」

ケンスケ「碇がここを離れるっていうなら、全力で守らないとね」

トウジ「その通りや。ダチが折角しんどいことから解放されるんや。使徒なんかに邪魔させるかい」

シンジ「何をするつもりなの?」

トウジ「ここにはもうワシらの知ってるヒーローはおらん。おるのは、親友だけ。親友を守るのは男の仕事や。まかせとけ」

シンジ「使徒は普通の人間じゃ勝てないってミサトさんが言ってたんだ」

トウジ「シンジも普通の人間やんけ」

シンジ「僕はエヴァンゲリオンになれたからで……」

トウジ「シンジはワシらとアホなことで笑いあってた。アホなこと言い合って、いいんちょに怒られた。十分、普通や」

シンジ「違う……」

トウジ「違わん!! はよ、いけ。ここに使徒がきても、シンジが街を出るまではとめたる!!」

ケンスケ「来ないことに越したことはないけどね」

トウジ「ふん。来るならきたらええねん!」

シンジ「やめてよ……僕はそこまでしてもらえるほどのことなんて……何もしていないのに……」

トウジ「なんやと?」

シンジ「僕は綾波、ううん、みんなを守れる自分が好きだった。かっこいいって思ってた。だから、エヴァになって戦ってたんだ」

ケンスケ「……」

シンジ「……それも違う。僕はただ父さんに認めてもらいたくて、エヴァになっていただけなんだ。トウジたちを助けたくて、守りたくて戦ってたわけじゃないんだ」

トウジ「そう、なんか」

シンジ「だけど、結局父さんは僕のことなんて見てくれてなかった。だから、僕はエヴァをやめたんだよ。僕はヒーローなんかじゃないんだ」

シンジ「勝手にぬか喜びして、勝手に自己嫌悪して、勝手に痛いことから逃げた、最低の人間だから。だから、守ってもらう資格なんて……」

トウジ「なーんもきこえん」

シンジ「トウジ……?」

トウジ「ワシの知ってるヒーローはワシらを守ってくれた。それが全てや。そのヒーローの戦う理由なんてどーでもええ」

ケンスケ「確かに。救われる側にとってはヒーローの事情なんて意味がないよね」

トウジ「お前は死ぬ思いで死ぬほどがんばった。ワシらを助けてくれた。だから、恩返しをする。それのなにがアカンねん」

シンジ「トウジ……! ケンスケ……!」

ケンスケ「碇、早く行ったほうがいい。使徒もいつくるかわからないしさ」

トウジ「はよう、いかんかい。グズグズしてると巻き込まれるで」

シンジ「そんなこと――」

ドォォォォン!!!

トウジ「うお!?」

ケンスケ「き、きた!?」

マリ「くぅーん……」

シンジ「マリさん!?」

トウジ「な、なんやねん。おどろかすなや」

ケンスケ「でも、この感じは……」

シンジ「なにがあったの!?」

マリ「クゥーン……クゥーン……」

シンジ「え? なに? どうしたの!?」

マリ「ガルルルルル……!!」

ケンスケ「何かくる!?」

ゼルエル「……」ドヤッ

トウジ「ほ、ほんまにきよった……」

ケンスケ「これが使徒……使徒なのか……」

ゼルエル「……」

シンジ「トウジ!! 早く逃げて!!」

トウジ「そらぁこっちのセリフや!! シンジがにげんかい!!」

シンジ「トウジ!!」

トウジ「やったる!! 今度はワシらがシンジを守る番や!!!」

ゼルエル「……」ドコォ!!!

トウジ「ごっ……ぉ……!?」

ケンスケ「あぁぁ……ト、トウジが……」

シンジ「逃げよう!! みんなで逃げよう!!」

トウジ「おえ……ごほっ……。なめんなぁ……ここで逃げても、こいつは追ってくる……」

ゼルエル「……」

マリ「ワンワンワンワン!!!」

ゼルエル「……」ガオー!!!!

マリ「くぅーん……」

トウジ「こんなやつ、ワシがしばきまわしたるわぁ!!!」

ゼルエル「……」バキッ!!!

トウジ「うっ……ぇ……!?」

ケンスケ「うわぁぁ!! くらえー!!」

ゼルエル「……」ガンッ!!!

ケンスケ「ぎゃ……!?」

シンジ「トウジ! ケンスケ!!」

ゼルエル「……」

シンジ「うっ……」

マリ「ガァァァウ!!!」

ゼルエル「……」ペシッ

マリ「きゃんっ!」

シンジ「マリさん!!」

ゼルエル「……」ゴゴゴゴッ

シンジ「僕が戦うしか……」

トウジ「さ、させんぞぉ……」

ゼルエル「……!」

トウジ「シンジはもう、精一杯たたかったんや……これ以上、シンジに戦わせてたまるかい……」

ゼルエル「……」

トウジ「お前の相手は鈴原トウジや。かかってこんかい」

ゼルエル「……」シュルルル!!!

トウジ「お……ぇ……」

シンジ「あぁ……あぁぁ……トウジ……」

ゼルエル「……」

シンジ「マリさん! 早くトウジたちを助けてよ!! 僕はもうエヴァじゃないんだ!! 戦えないんだ!!」

マリ「クゥーン?」

シンジ「そんな……」

ゼルエル「……」

シンジ「くっ……」

トウジ「ま、たんかい……ぼけなす……」

ゼルエル「……」エー?

トウジ「シンジはもう戦わんのや!! くそったれがぁ!!」

ゼルエル「……」ドゴォ!!!

トウジ「ぐっ……ぉ……!? つ、つかまえたで……」ガシッ

ゼルエル「……!」

トウジ「シンジはもっと痛かったんやろな……。なにも知らんかった……友達がこんな目にあってることを……何もしらんかったんや……だからこそ、ワシはお前を殴らなアカン……」

トウジ「ワシはお前を殴って!! シンジを守らなあかんのや!!!」バキッ!!!

ゼルエル「……」

トウジ「はぁ……はぁ……」

ゼルエル「……」ザンッ!!!

トウジ「ぎゃ……ぁ……!?」

シンジ「トウジ!! トウジぃ!!」

トウジ「な、んで、やねん……もう、すこし……ぐらい……シンジの、ために……た、たかわせ、てくれ……ても……ええや……ろ……」

ゼルエル「……」ドヤッ

シンジ「あぁぁ……ああああ……!!」

マリ「くぅーん」ペロペロ

トウジ「……」

シンジ「うわぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」

ゼルエル「……!」

マリ「わふっ!?」ビクッ

シンジ「あぁぁぁぁぁぁぁ!!!! ぁぁぁぁぁぁ!!!」

レイ「ん……ぅ……」

ミサト『レイ! 聞こえる!? レイ!!』

レイ「はい、聞こえます」

ミサト『よかった。気が付いたのね。悪いけれど今すぐ避難施設のほうへ向かって。そこに使徒がいるはずなの』

レイ「了解」

『ミサトさん!! TS地点に初号機のパーツを!!!』

レイ「碇くん?」

ミサト『シンジくん!? そこにいるの!?』

シンジ『早くしてください!! パーツをTS地点まで運んでください!! お願いします!!』

マリ『わんわんっ!』

レイ「碇くん、どうして……」

ゲンドウ『なぜ、そこにいる。お前はもうエヴァでもなければネルフの関係者でもないはずだ』

シンジ『僕が戦います!!! 戦わせてください!!!』

ゲンドウ『何を言っている』

シンジ『僕はエヴァンゲリオン初号機、碇シンジです!!!』

ネルフ本部

マヤ「映像、来ます!!」

ゼルエル『……』ドゴォ!!!

シンジ『ぎっ……!? あぁぁぁぁぁ!!!!』

マヤ「しょ、初号機が、いえ、シンジくんが戦っています!!」

リツコ「エヴァにならず、生身で戦うなんてありえないわ」

ミサト「シンジくん!! 逃げなさい!! その使徒はパーツなしではまともに戦えないの!!」

シンジ『逃げません!! ここで逃げたら僕は誰も守れないじゃないか!!!』

ミサト「どういうことなの!?」

マヤ「シンジくんの傍に二人倒れているのが確認できます!!」

リツコ「それを守るために彼は生身で……」

ミサト「やめなさい、シンジくん!! そのままでは死んでしまうわ!!」

シンジ『死ぬもんか!! 僕はエヴァだ!! みんなを守る!! エヴァンゲリオンなんだ!!!』

冬月「どうする、碇?」

ゲンドウ「碇シンジを初号機と認定する。パーツをTS地点に射出しろ」

市街

マヤ『シンジくん、今パーツを射出したから受け取ってください!』

シンジ「はい!」

マリ「ワン!」

ゼルエル「……」ガオー!!

シンジ「パーツが届くまではこのままで戦わないと。トウジだって戦ったんだ、僕だって戦わないと」

シンジ「友達を守るために!」

ゼルエル「……」ヤンノカー!!!

シンジ「うおぉぉぉぉぉ!!!」

マリ「ワンワンワンワン!!!」

ゼルエル「……」シュルルル

シンジ「これぐらい!! 綾波やアスカのパンチに比べたら!!」ササッ

マリ「きゃふん!?」

シンジ「このぉぉぉ!!!」バキッ!!!!

ゼルエル「……」グハッ

レイ「碇くんが戦ってる……」

シンジ「この!! この!!」バキッ!!ドカッ!!

ゼルエル「……」ヒィー

レイ「碇くんを援護します」

ミサト『待って、レイ! たった今カタパルトで初号機のパーツを飛ばしたわ! なんとか受け取って!!」

レイ「了解。どこから来ますか?」

マヤ『地下通路から地上へと向かう貨物エレベーターのようなものですから、多分足元あたりに出てくるんじゃないかと』

レイ「足元……」

ゴー……

レイ「地面から音が聞こえる……?」

リツコ『レイ、気を付けて。すぐにパーツが届くわ』

レイ「はい」

ガシャン!!!

レイ「ご……!?」

マヤ『零号機!! 地下から射出されたパーツにより鳩尾を強打!! 行動不能です!!』

シンジ「綾波!! あやなみぃ!!」

レイ「い、いかり、くんに、この……初号機を……」

ゼルエル「……」パシンッ!!!

レイ「あ……」

ミサト『パーツが!!』

リツコ『使徒はあのパーツがどういう意味をもつのか知っているみたいね』

レイ「パーツを拾わないと……碇くんに渡さないと……」

シンジ「綾波!! 僕がそれを拾う!!」

ゼルエル「……」シュルルル

レイ「え……」

ゼルエル「……」ググッ

レイ「は……ん……」

シンジ「綾波!?」

ゼルエル「……」グググッ

マヤ『零号機!! 使徒の触手によって緊縛状態に!!』

リツコ『まさか!』

ミサト『亀甲縛り!?』

冬月『使徒め。人類に対する知識を得てきているな』

ゲンドウ『知識の出どころは知れている』

ゼルエル「……」グググッ

レイ「いっ……ん……」

シンジ「綾波を……! 離せ!!!」

ゼルエル「……」ググッ

レイ「あっ……くっ……」

シンジ「……っ」

マヤ『初号機の体温が上昇!!』

ゼルエル「……」パシンッ!!!

シンジ「ぐぁ!? やっぱり、エヴァじゃなきゃ、倒せないんだ……。でも、エヴァにはなれない……どうしたら……。そうだっ」

マリ「クゥーン?」

シンジ「……マリさん、ごめん!」ベリベリ

マヤ『初号機、弐号機を剥いでいます!!』

ミサト『シンジくん!!! 何をしているの!?』

シンジ「初号機になれなくても、弐号機にはなれます!!」ベリベリ

マリ「くぅーん」モジモジ

リツコ『マリが切なそうに鳴いているわね。本能だけになってもどこかに人間としての恥じらいは残っているのかしら』

シンジ「これでみんなを守るんだ。アスカ、僕に力を貸して」

ゼルエル「……」グイッグイッ

レイ「ん……ん……」

シンジ「青い焔と赤い魂は何度でも立ち上がる!! 蒼朱の魂!! エヴァンゲリオン初号機+弐号機!! 参上!!!」

ゼルエル「……」

シンジ「綾波をはなせぇぇぇぇ!!!」ガッ

ゼルエル「……!」

シンジ「うおぉぉおおおお!!!」

ゼルエル「……」イテテテ

レイ「はぁ……はぁ……碇くん……」

葛城宅

アスカ「3……2……1……」

アスカ「できた。いただきます」

『エヴァンゲリオン初号機と使徒の交戦は続いています! 零号機らしき女の子は倒れこんでしまいました!!』

アスカ「……」ズルズル

シンジ『――アスカ、力を貸して』

アスカ「ふー……はむっ……」ズルズル

シンジ『青い焔と赤い魂は何度でも立ち上がる!! 蒼朱の魂!! エヴァンゲリオン初号機+弐号機!! 参上!!!』

アスカ「……」

『なんと初号機だと思っていたのですが、あの男の子、碇シンジくんはエヴァ初号機ではなく、初号機+弐号機と名乗りました!! 一体、何が違うのでしょうか!?』

アスカ「……」

シンジ『うおぉぉぉぉおおお!!!』

『初号機+弐号機の猛攻は続いています!! 今度はどこかに引きずっていきます!!』

アスカ「……」

アスカ「ふーふー。はむっ」ズルズル

某所

「どうしてリリンはあそこまで抵抗するのだろう。僕には理解できないよ」

サキエル「……?」

「死にたくないから。生きたいから。たったそれだけの理由で彼らは圧倒的な力を前にしても屈することなく立ち向かうのかい」

シャムシエル「……」ニョロニョロ

「守りたいものがあるから。救いたいから。その理由づけは魂の原動力になるというのかい」

ラミエル「……」キャー

「そうだね。リリンの力はゼルエルのようなものではく、心のほうなんだね」

「僕らもリリンの心を知ることができれば、またやり直せるのかもしれない」

サキエル「……」

「リリスから作られし、18番目の使徒リリン。彼らは僕らにないものを有している。それを知らなくてはいけない」

シャムシエル「……」ニョロニョロ

「あの二人に頼むしかない。あの二人ならリリンの全てを知ることができるはずだ」

ラミエル「……」キャー

「今は見届けよう。リリンとゼルエル、どちらの力が上なのかを」

ネルフ本部

マヤ「初号機+弐号機は使徒の頭をつかんだまま移動を開始!!」

リツコ「どこへ行こうというの?」

ミサト「行きなさい! シンジくん!! あなたの思うままに!!」

シンジ『うぉぉぉぉぉ!!!!』ズズズッ

ゼルエル『……』ジタバタ

マヤ「初号機+弐号機の方向には先ほど使った射出口があります!」

リツコ「まさか、あの子……」

シンジ『この中に入れ!!!』グイグイッ

ゼルエル『……』セマイヨォ

シンジ『ミサトさん!!!』

ミサト「カタパルト、全部外して!!!」

マヤ「はい!!」ピッ

ゼルエル『……』ナニナニ!?

ミサト「使徒、リフト・オフ!!!」

市街

バシュゥゥゥゥ!!

ゼルエル「……」イヤー!!!!


シンジ「勝った……勝ったんだ……」

レイ「碇くん、大丈夫?」

シンジ「ごめん」

レイ「どうして謝るの?」

シンジ「この前、綾波に守ってもらったのに、僕は感情に任せてエヴァをやめようとした」

レイ「私は気にしないわ」

シンジ「またアスカとも話してみるよ。あのときのことをまだ気にしてるみたいなのに、僕はアスカからも逃げようとしたから」

レイ「それがいいと思う」

シンジ「そうだ。トウジたちが酷い怪我なんだ。綾波も手伝ってくれないかな?」

レイ「ええ。急ぎましょう。……5号機の人はあれでいいの?」

マリ「ワンワン!」

シンジ「あれは僕たちじゃどうしようもないよ。今はトウジたちを助けるのを優先しよう」

病室

ヒカリ「鈴原!!」

トウジ「おう……いいんちょかいな……」

ヒカリ「鈴原……大丈夫なの……?」

トウジ「そうやな。なんかしらんけど、生きとるみたいや」

ヒカリ「そっか……」

トウジ「なんか、腹減ったな」

ヒカリ「そ、そうなの。私がお弁当でも作ってきてあげようか?」

トウジ「そら、ええなぁ。美味しそうや」

ヒカリ「特別だからね」

トウジ「ありがとな」

ヒカリ「お礼なんて言わないでよ。鈴原らしくないんだから」

トウジ「そうか? ワシはいつでも礼はきちっとするで」

ケンスケ「……」

マリ「わぉーん」

ネルフ本部

ミサト「戻ってきてくれたのね」

シンジ「僕はただ守りたいものを守ろうと思っただけです。父さんのためでも、ミサトさんのためでもありません」

ミサト「それで結構。シンジくんの決意こそが大事だもの」

シンジ「僕はこれからもエヴァとなって戦います。あとどれぐらい戦えばいいのかわからないですけど」

ミサト「そうね。第3新東京市の英雄はまだまだ活躍しないとね」

シンジ「やめてください。僕はそこまで立派じゃないですから」

ミサト「……今更だけど、シンジくんに謝らなければいけないことがあるの」

シンジ「なんですか?」

ミサト「あなたが最初、エヴァになると決断したとき、私は――」

リツコ「やめなさい、ミサト」

ミサト「いいえ。ここまでシンジくんを騙していたもの。もう限界よ」

リツコ「そのことを話して、もしシンジくんの気が変わったらどうするつもり?」

ミサト「さぁ? 私はただ、大人の都合に振り回される子供を見たくないだけよ」

リツコ「ダメみたいね。今のミサト、作戦本部長の顔じゃないもの」

シンジ「どういうことなんですか?」

レイ「……私が使徒との戦闘で負傷したというのは嘘、という話ですね」

シンジ「やっぱり。あんなに強い綾波が大怪我したなんて怪しいと思っていたんです」

ミサト「ごめんなさい。ネルフスタッフ総出で芝居を打ったわ。貴方をどうしてもエヴァにしたかったから」

レイ「碇司令の指示なの」

シンジ「父さんの……?」

ミサト「碇司令は是が非でもシンジくんをエヴァにさせるつもりだったみたい。貴方の性格を考えればその方法がいいだろうって」

シンジ「……」

レイ「碇くん、怒ってるの?」

シンジ「怒ってるよ。また父さんは周りの人たちに迷惑をかけたんだ。いつもいつもそうだ。あの人は他人の気持ちを考えたことがないんだ」

レイ「怒らないで。ペンペンを撫でさせてあげる」

マトリエル「……」カサカサカサカカサカサ

シンジ「やめてよ」

ミサト「ただね、どうしてそこまでして貴方をエヴァにならせたかったのかはわからないわ。私たちは命令で動いていただけで、詳細は知らないの」

シンジ「父さん……何が目的なの……」

司令室

冬月「最強の使徒を退けたか。想像以上の成果といえるな」

ゲンドウ「これでスケジュールは大幅に前倒しとなる」

冬月「エヴァシリーズの再動といったところか」

ゲンドウ「ああ。これで人類にとっての大きな扉が開こうとしている」

冬月「お前の息子はすでに感づいているのではないか」

ゲンドウ「落ちていく砂は止められん。事は10年前から始まっている」

冬月「エヴァの稼働実験。ユイ君の死。エヴァ開発計画完全凍結。ネルフスタッフ大規模リストラ。他にも色々あった10年だ」

ゲンドウ「だが、これで全て整ったと言える。シンジは最強の使徒を退け、残るは3体だ」

冬月「欠番についてはどう考えている?」

ゲンドウ「これまで動きがないところを見るに使徒自体が生まれなかったと考えるのが自然だ」

冬月「万が一、欠番が時期と場所を変え、襲ってきたらどうする?」

ゲンドウ「すでに扉は開きかけている。欠番が現れたところで無意味だ。無論、残る3体もな」

冬月「なるほど。あとは……」

ゲンドウ「今のエヴァなど既に不要だ。初号機も零号機も弐号機も5号機も全てな。だが、壊れるまでは役に立ってもらう」

葛城宅

アラエル「……」パタパタ


アスカ「なんか変な鳥がいるわね」

アスカ「……使徒?」

アスカ「なーんてね。もうどうでもいいしー」


アラエル「……」ピカーッ


アスカ「まぶしぃ……。カーテンしめよ」

アスカ「はぁ……。そろそろ6時か。シンジかミサトが帰ってくるわね」

アスカ「部屋に戻ろ」

『第三新東京市を救ってくれた碇シンジくんにインタビューをしたいと思います! 今のお気持ちをお聞かせください!!』

シンジ『やめてください! 今は友達の手当てをしているんです!!』

『碇シンジくんはとっても友達想いみたいです! では、スタジオにおかえししまーす』

アスカ「……」

アスカ「ねよっと」

シンジ「アスカ、ただいまー」

シンジ「アスカー? 寝てるのー?」

ミサト「今日もダメみたいね」

シンジ「僕が戻ってきた日でも同じでしたよね。部屋から出ないどころか、声もきけないなんて」

ミサト「使徒と戦っていたシンジくんの姿は見ているはずなの。リビングに出てきている痕跡は残っているし、テレビは見てるはずよ」

シンジ「なんだか、連日あの日の僕が放送されてますよね」

ミサト「仕方ないじゃない。シンちゃんはこの東京を救ったんだから」

シンジ「恥ずかしいです」

ミサト「そのシンちゃんに一言ぐらいあってもいいんじゃないのー、アスカー? もう3日よ? 部屋から出てきなさい」

シンジ「……もういいですよ」

ミサト「でも……」

シンジ「アスカ、ごはんはまた冷蔵庫に置いておくから、温めて食べてよ」

ミサト「アスカー、シンジくんにありがとうはー?」

シンジ「いいですから、ほら、僕たちも夕食にしましょう」

ミサト「そうね」

アスカの部屋

ミサト『アスカー、学校ぐらいは行きなさい』

シンジ『ミサトさんっ』

ミサト『だって』

アスカ「……」

アスカ「もう放っておいてくれたいいのに」

アスカ「私は誰とも顔を合わせたくない。一人で生きていくのよ」

アスカ「だって、そっちのほうが気楽だし、他人に気を遣う必要もないし、強がらなくてもいいし、恰好をつけなくてもいいし」

アスカ「エヴァになんて、別になりたくないし、学校にだって行きたくないし、友達だっていらないし」

アスカ「私は独りが好きだし、これでいいの。いいのよ、アスカ」

【本当にいいの?】

アスカ「いいに決まってるじゃない。どうして他人と仲良くしなきゃいけないのよ」

【そのほうが楽しいから】

アスカ「楽しくなんてないわ。ただ面倒なだけ」

【そう言い聞かしてるだけ】

アスカ「違う! 本当にそう思ってる!!」

ミサト『アスカー? どうかしたぁ?』

シンジ『何かあったの?』

【それは嘘。私は心配してほしいだけ。心配されることで安心してるだけ。ズルい女。卑しい女】

アスカ「違う!! 違う違う違う違う違う違う……!!」

【誰よりもエヴァに固執した私。負けず嫌いな私。怖がりな私。それを隠すために恥ずかしい設定とセリフを考えて戦おうとする私】

アスカ「やめてやめてやめてやめて……」

【その設定も昔、大好きな男の子と一緒にしていたヒーローごっこの影響。綺麗な思い出に縋る私。弱い私。気持ち悪い私。嫌いな私】

アスカ「そんな昔のことを思い出せないで!!!」

ミサト『アスカ! 開けなさい!!』

シンジ『どうしたんだよ、アスカ!!』

【自分の活躍をその男の子に見てほしかった。世界のために戦うなんて少しも考えてない。ただ、好きな男の子に強くて可愛い私をアピールしたかっただけ】

アスカ「それ以上、私に入ってこないで!! 私の心を覗かないでぇぇ!!!」

【私のことをもっと知ってほしいんでしょ? 広めないと。第三新東京市中の人たちに、私の声を届けないと】

アスカ「なっ……」

ネルフ本部

マヤ「パターン青!! 使徒の出現を確認!!」

ゲンドウ「来たか」

リツコ「ミサトを呼び戻して」

マヤ「それが強力な通信障害が起こっているようで、無線はもちろん、携帯電話も使えません」

リツコ「妨害電波でも発生しているの?」

マヤ「通信を試みようとすると……」

【私の名前は式波・アスカ・ラングレー。14歳。今、一番気になっているのは碇シンジの好きな人!】

リツコ「なるほど」

マヤ「延々、アスカの自己アピールが流れているんです」

冬月「テレビはどうだ?」

ゲンドウ「こうなっている」

アスカ【ハーァイ。私は式波・アスカ・ラングレー。シンジー、みてるー? 私、シンジのことだーいすき!】

冬月「ふむ……。弐号機パイロットは再起不能か」

ゲンドウ「ああ。だが、問題ない」

病室

アスカ【シンジー、私のこと、ぎゅってして!】

トウジ「なんや、これ。なんで式波がテレビにうつっとんねん。今日は漫才バトルスペシャルの日やいうのに」

ヒカリ「なにこれ!? 私、アスカに電話してみる!」

アスカ【シンジー、キス、しよ!】

トウジ「こんな甘々な式波は……アリっちゃアリやな……」

ヒカリ「もしもし、アスカ?」

【私の名前は式波・アスカ・ラングレー。14歳。今、一番好きなものは碇シンジ!】

ヒカリ「ダメ! 電話も同じようなことになってる!!」

トウジ「こんなことできんのは使徒ぐらいやろうけどなぁ」

ヒカリ「私、アスカのところに行ってみる! 多分、葛城さんの家にいると思うし!」

トウジ「シンジによろしゅういうといてくれ」

ヒカリ「うん!」

トウジ「式波も大変やな……」

マリ「くぅーん」

>>316
冬月「ふむ……。弐号機パイロットは再起不能か」

冬月「ふむ……。弐号機は再起不能か」

某所

「心の声が奏でる旋律は悲鳴か、それとも歓喜なのか」

サキエル「……」

「アラエルはただ彼女の、リリンの僕となった者の心を覗き見ただけさ」

シャムシエル「……」ニョロニョロ

「そう。これがヒトの心。リリンの本質。妬み、僻み、愛憎、醜悪な部分が多数を占めている」

ラミエル「……」キャー

「ああ。とてもゼルエルを超えるだけの力があるとは思えない。だけど、その中に不思議なぬくもりがある」

サキエル「……」

「優しさ、好意、慈愛、美麗な部分だ」

「そうか。わかったよ。その美しも醜い心こそがリリンの力なんだね」

シャムシエル「……」ニョローン

「決して完璧ではないけれど、綻びもあるけれど、その不完全さを補うことでリリンは生きてきた。その繋がりを失うことを恐れるから、より強固な結びつきが生まれる」

ラミエル「……」キャー

「ありがとう、アラエル。ありがとう、リリン。僕はこの世界に、ヒトに興味が出てきたよ」

ネルフ本部

ゲンドウ「使徒の位置は?」

マヤ「結果、出ました。上空10メートルから20メートルで滞空しています! 場所は葛城一尉の自宅、ベランダです!!」

冬月「近いな」

ゲンドウ「いけるな、レイ」

レイ「はい」

リツコ「ライフルを預けるわ。これで鳥を撃ちなさい」

レイ「了解」

マトリエル「……」カサカサカサカサカサ

レイ「心配しないで、ペンペン。私は死なないわ」

マトリエル「……」ビシッ

レイ「いい子ね。行ってきます」

マヤ「最近のレイ、よく笑うようになりましたよね」

リツコ「不思議なものね。レイがあそこまで感情豊かになるなんて」

マヤ「あの大きなクモの影響でしょうか?」

葛城宅 前

アラエル「……」パタパタ


レイ「見つけた。綾波レイ、零号機。目標を殲滅します」

【私の名前は式波・アスカ・ラングレー。14歳。今、一番してみたいことは、シンジに添い寝!】

レイ「……通信機は使えない。私の独断でやる」

ヒカリ「あれ!? 綾波さん!?」

レイ「委員長……」

ヒカリ「その恰好ってことは、どこかに使徒がいるの?」

レイ「上」

ヒカリ「え? もしかして、あの光ってる鳥?」

レイ「そう。危ないから離れて」

ヒカリ「それはできないの。私は、アスカを訪ねてきたんだもの」

レイ「そう。なら、耳を塞いでいて」

ヒカリ「どうし――」

レイ「発射」バァァァン!!!!

葛城宅

アラエル「……」ギョエェェェ


シンジ「な、なに、今の音……。銃声?」

ミサト「みたいね。シンジくん、ベランダから下の様子をうかがってくれない?」

シンジ「わかりました」

ミサト「今の銃声。ポジトロンライフルの音っぽいけど」

シンジ「ミサトさん、特に変わった様子はありません」

ミサト「ありがとう。ってことはどっかの悪ガキが花火でもしたんじゃない?」

シンジ「はた迷惑ですね。こんなときに」

ミサト「そうね。今は一刻も早く、アスカの部屋に入る方法を考えましょう」

シンジ「勝手に鍵を変えられているとは思いませんでしたね」

ミサト「家主の許可なくやってくれるわ」

ピンポーン

ミサト「あら、お客さん? ほいほーい、葛城ミサトの家よーん。どちらさまぁ」

ヒカリ『洞木ヒカリです。式波さんのことが心配できたんですけど……』

ミサト「どうぞ、入って」

ヒカリ「お邪魔します……。えっと、アスカは?」

シンジ「部屋にいるよ。さっきまで奇声をあげていたんだど、今は怖いぐらい静かになって……」

ヒカリ「あんなことがあれば奇声もあげると思う」

シンジ「あんなことってなにかあったの?」

ヒカリ「知らないの? テレビとか電話を使ったりとかしてない?」

シンジ「うん。それどころじゃなかったから」

ヒカリ「それなら、まだ傷は浅いかも……。いや、十分に深いだろうけど……」

ミサト「何か知っているならおしえてくれないかしら?」

ヒカリ「それは私の口からはとても……。先ほど、綾波さんが使徒を倒すところを見たんで、詳しいことは綾波さんにでも……」

ミサト「使徒が絡んでいることなのね。わかったわ。シンジくん、一度本部のほうへ行きましょう。洞木さんはアスカと話をしてみて。応えてくれるかはわからないけど」

ヒカリ「わ、わかりました」

ミサト「鍵はかけたまま出て行ってもかまわないわ。それじゃ」

シンジ「アスカのことをお願い」

ヒカリ「うん。やれるだけのことはやってみるつもり」

>>323
ミサト「鍵はかけたまま出て行ってもかまわないわ。それじゃ」

ミサト「鍵はかけないまま出て行ってもかまわないわ。それじゃ」

ヒカリ「アスカ? 起きてる?」

アスカ『ヒカリ……?』

ヒカリ「う、うん。そうだよ」

アスカ『どうか、したの?』

ヒカリ「あのね……その……」

アスカ『もしかして、私のこと、全部知ったの?』

ヒカリ「えっと、全部かどうかはわからないけど……」

アスカ『隠さなくてもいいわ。私、大体のことは知ってるから』

ヒカリ「え……」

アスカ『私のこと、電波にのって発信されてたでしょ?』

ヒカリ「……」

アスカ『もうおしまいね』

ヒカリ「アスカ?」

アスカ『ごめん、ヒカリ。私、もうこの部屋から出る気にならないから』

ヒカリ「ちょ、ちょっと、それってどういう意味? 引き籠るつもりなの?」

アスカ『この世界では生きていけないもの。このまま……』

ヒカリ「待って!! あの、碇くんは何も知らないって言ってた!! だから、まだ大丈夫じゃないかな!?」

アスカ『無理よ。街を歩けば指さし笑われる。生暖かい目で見られる。そんな毎日を送りたいと思う? 私は思わない』

ヒカリ「うぅ……」

アスカ『折角来てくれたのに、何もできないでごめん。帰って』

ヒカリ「……できない」

アスカ『ヒカリも私をそうやって慰めるんだ。腫物を扱うように』

ヒカリ「そんなこと……」

アスカ『いいから、出て行って』

ヒカリ「お願い、私の話も――」

アスカ『出て行ってよ!! 話すことなんてないから!!!』

ヒカリ「……ごめん。それじゃあ、今日は帰るね」

アスカ『もう来ないで。私を惨めにさせないで』

ヒカリ「お邪魔しました」

アスカ『バイバイ、ヒカリ』

ネルフ本部

ミサト「そんなことがあったのね」

マヤ「とてもないですが、シンジくんには見せられません」

ミサト「見せる必要もないわ。シンジくんだって混乱するでしょうし」

リツコ「状況を見る限り、使徒の行為はアスカ本人にも伝わっているとみて間違いないはずよ」

ミサト「ちょっちヤバいわね」

リツコ「碇司令は既に新たなチルドレンを用意すると言っているわ。むろん、弐号機のね」

ミサト「なんですって!?」

リツコ「使えないエヴァに価値はないもの」

ミサト「リツコ……!」

リツコ「私個人の意見を述べるなら、確かにここでアスカとマリの回復を待つのも一つの手かもしれない。でも、使徒が現れた時、絶望しないための方法としては司令の判断が最良と言わざるを得ない」

ミサト「だからって……二人を切り捨てるなんて……」

リツコ「元々アスカは弐号機ではないわ。マリも既に人間とは呼べない」

マヤ「今も病室で遠吠えしていますからね」

ミサト「くっ……」

司令室

冬月「新たなチルドレンか」

ゲンドウ「ああ」

冬月「いいのか。全てのエヴァが不要になった今、新たなエヴァとなるチルドレンを増やすこともないはずだが」

ゲンドウ「これは規定事項だ」

冬月「なるほど。この渚カヲルなる少年は使徒か」

ゲンドウ「エヴァにもなれ、使徒にもなれる、最後の使者だ」

冬月「その前に出てくるはずの使徒は欠番か」

ゲンドウ「それはまだわからん。例外的に最後の者が動く可能性もあるというだけだ」

冬月「使徒の番狂わせか。異様な事態だな」

ゲンドウ「だが、我々の計画は狂わない」

冬月「……完成してしまったか」

ゲンドウ「人類を救済へと導くノアの箱舟。エヴァンゲリオンMark.06だ」

冬月「そして、全てをカオスへと導く、量産機か」

ゲンドウ「使徒も既存のエヴァも今や利用価値などない。あるとすれば露払い程度だ」

市街 某所

「僕はわかったよ。ヒトのこと、リリンのことが」

サキエル「……」

「リリスより生まれし者たち。醜くも純粋な者たち。僕はそんな存在を愛おしく思う」

シャムシエル「……」ニョロニョロ

「ああ。僕は行こうと思う。この姿で。リリンに近しい、この肉体で」

ラミエル「……」キャー

「アルミサエルは動き始めているようだね。僕はそれを彼らと見届けることに決めたよ」

サキエル「……」オロオロ

「もう君たちは自由だ。縛られていた翼は解き放たれた。どこにでも行くといい」

シャムシエル「……」ニョローン

「心配ないよ。君たちならどこへでもいける。どこでも生きていける。僕の力なんて必要ないはずだ」

ラミエル「……」キャー?

「17番目の使者、ダブリス。その名はここで捨てていくよ」

カヲル「僕はカヲル。渚カヲル。リリンに最も近く、全く違う存在」

ネルフ本部 休憩所

レイ「ペンペン、お手」

マトリエル「……」サッ

レイ「いい子ね」

シンジ「綾波。またペンペンを連れてきてるんだ」

レイ「ええ。私の友達だから」

シンジ「友達……」

マトリエル「……」カサカサカサカサカサ

レイ「おかしい?」

シンジ「ううん。多分、本当の友達って綾波とペンペンみたいな関係なのかもしれないね」

レイ「どういうこと?」

シンジ「人間同士だと話したくないことだってあるし、一緒にいたくないときだってあるから」

レイ「なにかあったの?」

シンジ「アスカが……もう……」

レイ「弐号機の人?」

シンジ「どんなに呼びかけても応えてくれないし、奇声はあげるしで、どうしていいのかわからないんだ」

レイ「そう」

シンジ「綾波は何か知ってる? アスカがおかしくなったとき、使徒もいたみたいなんだけど。それを綾波が倒したんだよね」

レイ「ええ」

シンジ「何か知ってるなら教えてよ」

レイ「……」

シンジ「綾波?」

レイ「……ごめんなさい。こんなときどう言えばいいかわからないの」

シンジ「そう、なんだ。よっぽどのことがあったんだ」

レイ「多分」

シンジ「わかったよ。もう聞かない。綾波、そろそろ帰るなら一緒に帰ろうか? ミサトさんの車に乗せてもらえばいいし」

レイ「ありがとう。でも、私は平気だから。碇くんは弐号機の人のところへ戻って」

シンジ「そっか。わかったよ。それじゃあまた明日ね」

レイ「ええ。また、明日。さよなら」

マトリエル「……」カサカサカサカサカサ

シンジ「一体、アスカに何が……。これじゃあ誰も教えてくれそうにないな……」

【私の歌を聴いて!! たましぃーのるふらーん!!】

シンジ「え? アスカの声……?」

カヲル「歌はいいね。歌はリリンが生み出した文化の極みだよ。君もそう思わないかい、碇シンジくん?」

シンジ「君は……?」

カヲル「カヲル。渚カヲル。本日付けでエヴァンゲリオン弐号機に任命された者。君と同じようにね」

シンジ「弐号機に? 弐号機は今、マリさんが……」

カヲル「聞いた話だとその人はもうエヴァにはなれないらしいね」

シンジ「あ、まだあのままだから……。だったら、アスカが……」

カヲル「初代弐号機も戦える状態じゃないって聞いたよ。これを見る限る、元気そうではあるけどね」

シンジ「何を見ているの?」

カヲル「一緒に見るかい? 彼女の全てを。録画しておいたんだ」

シンジ「全てって……?」

アスカ【私の名前は式波・アスカ・ラングレー。14歳。今、一番ほしいものはシンジからのキス!】

シンジ「な……!?」

カヲル「素晴らしいと思わないかい。これこそ、魂からの解放。ヒトでも翼を持てるという証明に他ならない」

シンジ「これって……」

アスカ【私の名前は式波・アスカ・ラングレー。14歳。アイドル志望。私の歌を聴いて!! ざーんこーくなーてんしのてーぜっ】

カヲル「身も心も震えるよ。この歌に。この生きざまにね」

シンジ「どうしてアスカがこんなものを……」

カヲル「彼女の深層意識が具現化したものだよ」

シンジ「どういう……」

カヲル「碇シンジくん。君が今、一番知りたかったことがこれに映っている。それだけのことだよ」

シンジ「えっと、渚くん、だっけ?」

カヲル「僕のことはカヲルでいいよ。僕も君のことをシンジくんと呼んでもいいかな」

シンジ「う、うん」

カヲル「ありがとう。あともう一つお願いがあるんだ」

シンジ「なにかな?」

カヲル「僕と友達になってくれないかい?」

シンジ「とも、だち……? 僕と?」

カヲル「うん」

シンジ「どうして?」

カヲル「僕は君たちに好意を抱いているからさ」

シンジ「好意?」

カヲル「好きってことさ」

シンジ「えっと、僕、男なんだけど」

カヲル「知っているよ。けれど、性別なんてものは関係ない。天使なら尚更さ」

シンジ「天使?」

カヲル「僕はね。全てを愛してしまっている。シンジくんのこともね」

シンジ「な、なにを言っているのかわからないよ、カヲルくん」

カヲル「わかってほしいとは思っていない。ただ知っておいてほしいだけさ」

シンジ「な、なにを?」

カヲル「僕の愛は本物だということを」

シンジ「ご、ごめん、カヲルくん!! 僕、これからすぐに帰らなきゃいけないんだ!! またね!!」

カヲル「それは残念だね。でも、また会えるよ。僕らは運命で結ばれているのだからね」

ミサト「早く帰ってアスカのケアをしてあげなきゃね」

シンジ「ミサトさん!! ミサトさーん!!」

ミサト「シンジくん、どうしたの?」

シンジ「あ、あの! さ、さっき、渚カヲルって子に話しかけられて……!」

ミサト「渚カヲル? それって、新しく弐号機に任命された子のこと?」

シンジ「本人がそう言ってました。でも、なんだかおかしいんです」

ミサト「おかしいってなにが?」

シンジ「い、いきなり、愛しているとか、言われて……僕、怖くなって……」

ミサト「シンジくん。世の中にはそういう人だっているの。現実を見なさい」

シンジ「それだけじゃないんです! アスカが歌って踊っている映像も見せられて……」

ミサト「なんですって!? シンジくん、それ見たの!?」

シンジ「はい。見ました。あれって、なんですか? アスカがあんな可愛い恰好でアイドルみたいなことはしないと思うんですけど」

ミサト「……きっと、合成映像かなにかよ。気にしちゃダメよ」

シンジ「そうですね。カヲルくんはどこか不思議な感じだったし……。あれはそういう映像ですよね」

ミサト「そうよ。だから、その話はアスカにしないでね」

司令室

ゲンドウ「来たか」

カヲル「初めまして、お父さん」

ゲンドウ「貴様の父親になった覚えはない」

カヲル「僕はリリンの姿に近い。貴方は紛れもなく父親だ」

ゲンドウ「……」

カヲル「僕が使徒であることを知っているのにここへ呼んだのは何故かな」

ゲンドウ「10年前。貴様が依代にしている肉体もあの場にいたからだ」

カヲル「この体の持ち主がまだヒトだったときの話か」

ゲンドウ「あの日、あの場にいた者たちは全てエヴァになる資格がある」

カヲル「因果の光を浴びてしまった。故にエヴァになれる」

ゲンドウ「そう。それは使徒であってもだ」

カヲル「あのときは運が良かった。アダムとして拘束され、閉じ込められていた僕にとってはね」

ゲンドウ「だが、貴様は17番目に落ちた」

カヲル「今ではそれでよかったと思っているんだ。この世界に蔓延るリリンたちが好きになれたのだからね」

ゲンドウ「戯言ならば聞く気はない」

冬月「もう一つ、お前を招いたのには理由がある」

カヲル「それも察しはついているよ。力を司る天使がこの街に舞い降りたからではないのかい?」

ゲンドウ「使徒に対する認識は変化し、こちらに回る資金も増えた」

冬月「エヴァシリーズに関するものだ」

カヲル「神の器となり得なかったもの。10年前に消えた者。懐かしいね」

ゲンドウ「増えたからにはこちらもエヴァを増やさぬわけにはいかない。しかし今現在、エヴァとして追加できるのはお前のみだ」

カヲル「人間の醜い部分だね。抜け出せない鎖。解けない糸。多用される柵」

ゲンドウ「まだ使徒は残っている。そのときは働いてもらうぞ」

カヲル「お任せを。僕はもうしばらくリリンとして生きるつもりでいる。そして、リリンと共に生きるつもりでいる」

冬月「期待している」

カヲル「こちらこそ」

冬月「……信頼に足るとは思えんな」

ゲンドウ「それを利用するまでだ」

冬月「ふむ。地下のあれさえもエサにするか」

葛城宅

ミサト「ただいまー」

ヒカリ「お帰りなさい。お邪魔してます」

シンジ「また来てくれたんだ」

ミサト「アスカの様子は?」

ヒカリ「……」

ミサト「そう……。何か食べていくでしょ? いーっぱい買ってきたら、遠慮せずに食べて行って」

ヒカリ「いえ。私はこれで」

シンジ「ゆっくりしていってもいいのに」

ヒカリ「いいの。また明日もいいですか?」

ミサト「毎日来てくれるのはうれしいけど、無理はしないでね」

ヒカリ「はいっ。それではお邪魔しました」

ミサト「いい子ね」

シンジ「アスカー、ごはんはー? アスカってばー」

ミサト「どうしたらいいのかしら、ホント」

翌朝

ミサト「今日も学校に行かないつもり?」

シンジ「……」

ミサト「アスカ!」

シンジ「ミサトさん、やめましょう」

ミサト「これで何日目になると思っているの。流石に看過できないわ」

シンジ「けど、アスカにだって何か事情はあるはずです。気持ちの整理ができればきっとまたいつもの調子で出てきてくれますよ。ごはんだって食べてるみたいだし」

ミサト「あたしたちが出かけている間にね」

シンジ「そろそろ学校に行ってきますね」

ミサト「車に気を付けてね」

シンジ「はいっ。行ってきます」

ミサト「行ってらっしゃい」

ミサト「みんな、変わったわね」

ミサト「シンジくんとレイはいい方向へ。アスカとマリはダメな方向に」

ミサト「ちゃんと大人として支えてあげないと。シンジくんやレイまでおかしな方向へ行ってしまったら……」

学校

トウジ「シンジー!!」

シンジ「トウジ! 退院したんだ!!」

トウジ「もう大丈夫やで。シンジのほうは怪我とかなかったんか?」

シンジ「僕は大丈夫。よかった、本当に」

ケンスケ「あのときのトウジ、結構熱かったよな。まるでヒーローのピンチに駆けつけた正義の味方みたいだ」

トウジ「ワシは正義の味方やあらへん。いつだってシンジの味方や」

シンジ「トウジ……」

カヲル「友情だね。初めてみたよ。想像以上に美しいね」

シンジ「うわ!?」

トウジ「なんやお前」

カヲル「初めまして。僕はカヲル。渚カヲル。よろしく、鈴原トウジくん」

トウジ「お、おう」

ケンスケ「どうしてトウジの名前を……」

カヲル「相田ケンスケくん。僕は君のことだって知っているよ。何せ好きな人たちの名前だからね。名前は存在を証明する手段の一つだから、覚えないわけにはいかない」

トウジ「何をわけのわからんこというてんねん」

カヲル「名前を訊ねることは相手の存在を自分の中で確立させるためだということさ」

ケンスケ「すごい、よくわからない」

カヲル「シンジくんはわかってくれるよね」

シンジ「ぼ、ぼくもよくわからないよ……」

カヲル「残念だ。同じエヴァ同士ならとは思ったのだけど」

トウジ「なんや、お前もエヴァなんか。それならシンジのことよろしゅうしてくれ。最近、嫁二号が調子悪いらしくてな」

カヲル「友達からの頼みなら、喜んで受けるよ」

シンジ「……あの、カヲルくん?」

カヲル「なんだい?」

シンジ「カヲルくんのいう、好きとか愛してるって、その、友達としてってことなの?」

カヲル「ヒトの感情を言語で表すのは不得意だけど、僕は友情を表現するときは好きや愛しているという言葉を使いたいね。そのほうがわかりやすいと思うから」

ケンスケ「好きはわかるけど、愛してるはまた意味合いが違ってくるような」

トウジ「愛してるはやめとけ。きしょくわるいからな」

カヲル「そう。ならこれからは好きという言葉を使っていくことにするよ。ありがとう、トウジくん」

レイ「おはよう」

シンジ「綾波、おはよう」

レイ「碇くん」

マトリエル「……」カサカサカサカサカサ

カヲル「君は……」

レイ「誰?」

カヲル「僕は渚カヲル。君と同じ運命を背負う者さ」

レイ「……」

トウジ「カヲルは転校生でええんか」

カヲル「転生したといってもいいかもしれないけれど、僕の立場では転校生が適した表現だね」

ヒカリ「渚くんってあなたのこと?」

カヲル「そうだよ、洞木ヒカリさん」

ヒカリ「え、あ、そう。先生が探してたから職員室に行ってほしいの」

カヲル「そうか。呼ばれてしまったんだね。確かに僕は教員に職員室を訪ねるように言われていた。でも、どうしても、僕はシンジくんたちに会いたかったんだ。わかってくれるかい?」

トウジ「わかったから、はよいかんかい」

ケンスケ「変わってるなぁ」

トウジ「まぁ、ああいう奴がおってもええやろ」

シンジ「そうだね」

レイ「……」

シンジ「綾波、どうしたの?」

レイ「なんでもないわ。少し見覚えがあっただけ」

シンジ「そういえば、僕もカヲルくんのこと、どこかで見たような……」

マトリエル「……」カサカサカサカサカサ

ヒカリ「ペンペン、少し大きくなった?」

レイ「足が長くなったみたい」

トウジ「こいつ、これ以上大きくなったらどうなんねん」

ケンスケ「これはギネスにも載るんじゃないか」

シンジ「それだったらすごいね。綾波の一番の友達がすごく有名になっちゃうじゃないか」

トウジ「同時に綾波も有名人になるな」

レイ「私は……そんなのに興味、ないわ……」

ネルフ本部 トレーニングルーム

レイ「ふっ」

カヲル「……」スッ

レイ「んっ」

カヲル「……」サッ

レイ「当たらない……」

カヲル「それもまた運命だよ」


シンジ「カヲルくん、すごい。綾波の攻撃を簡単によけていくなんて」

ミサト「凄まじい能力ね。彼はどこからスカウトしてきたわけ?」

リツコ「わからないわ。全て碇司令が手配したようだから」

ミサト「経歴、殆ど謎じゃないの」

リツコ「わかっているのは、彼の両親はネルフスタッフだったということだけね。無論、既にいないけれど」

ミサト「大量リストラで残ったメンバーなんてしれてるもんね」

リツコ「優秀だったアスカの母親であるキョウコすら、対象になってしまったもの。金の切れ目は縁の切れ目。資金がなければ優秀な人材も切らざるを得ない」

ミサト「縁っていえばシンジくんたちも不思議な縁よね。確かレイとマリも肉親がネルフスタッフだったんでしょ?」

シンジ「え、そうなんですか?」

リツコ「一応ね。偶然だけれど」

シンジ「……」

レイ「ふんっ」

カヲル「それも当たらないね」

レイ「……どうして反撃しないの?」

カヲル「たとえ訓練でも僕は友達を殴るようなことはしたくない。傷つけるような行為だけはしない」

レイ「……」

ミサト「その心構えは立派だけど、訓練だからもうちょっち本番さながらでやってくれないと困るわ」

カヲル「わかりました。貴方が困るというのであれば、それなりの態度で臨みます」

ミサト「助かるわ」

レイ「えいっ」ブンッ

カヲル「そしてこれが答えになる」バキッ!!!!

レイ「づっ……!?」

シンジ「綾波!!」

カヲル「悲しい結末になるだけなんだ。だから、僕は友達を傷つけたくない」

シンジ「カ、カヲルくん……」

ミサト「なるほど。どうやら渚くんだけレベルがダンチみたいね。別メニューを考えなきゃ」

カヲル「それは僕が困ります。僕はみんなと訓練がしたい」

ミサト「そういわれても……」

カヲル「ヒトであることを放棄した真希波さんとヒトの心を閉ざした式波さんとも訓練がしたいぐらいです」

ミサト「貴方、どうして二人のことを知っているの?」

カヲル「同じ仲間、友達のことを知っていて、おかしいですか」

リツコ「いいえ。ただ、情報の出どころは気になるわね」

カヲル「この星に生きる者、この星に流れる情報はどこでも摘み取れる。そういうものです」

リツコ「わけがわからないわ」

シンジ「カヲルくんって、どこからきたの?」

カヲル「前に住んでいたところは新練馬区さ」

シンジ「あ、そうなんだ」

ミサト「とりあえず、今日の訓練は終了にしましょうか。また明日ね」

休憩所

レイ「……」

マトリエル「……」カサカサカサカサカサ

レイ「ありがとう、慰めてくれているのね」

レイ「この嫌な気持ちはなに? これが悔しさ……?」

カヲル「それがヒトさ」

レイ「……」

マトリエル「……」ビクッ

カヲル「黒い感情こそヒトの特権。ヒトとして生きていく上で大切な要素となる」

レイ「貴方も、そんな気持ちになるの?」

カヲル「僕はその感情があることを知っているだけで、まだわからない。君たちが何故、そのような重く濁った心を持ちづけているのか理解できない」

カヲル「けれど、それこそがヒトである証なんだろうね。早くその領域に行きたいと願うばかりさ」

レイ「あまりよくないわ。こんなの気持ち悪いだけ」

カヲル「羨ましいとはこういったときに使うのかな」

レイ「私、もう帰るから。さよなら」

カヲル「生物にとって不要なものだったはずなんだ。感情なんてね」

レイ「……」

カヲル「ヒトであることを捨てた真希波さんはとても幸せそうにしている。知っているかい?」

レイ「5号機の人のことは誰も教えてくれないもの」

カヲル「反対にヒトとしての心を閉ざした式波さんは今も苦しんでいる。心がまだ生きているからね」

レイ「貴方は何が言いたいの? 何を知っているの?」

カヲル「以前の君はまさに真希波さんだった。あのころは楽だったはずだ。ただ命令を聞けばいいだけだった。人形のように」

レイ「私は……」

カヲル「心を持つというのは辛いことだね。心があるだけで生きることに苦悩し、肉体は疲弊し、心が摩耗していく」

レイ「……」

カヲル「綾波レイとして、それでよかったのかどうか。僕にはわからないけれど」

レイ「……よかったと思える。そのおかげでペンペンとも会えた。碇くんのことを好きになれたから」

カヲル「僕もリリンに近づけてよかったと思える。だけど、黒い感情を持つことにはまだ抵抗があるよ。その先にある答えは分かりきっている。とてもとても深い悲しみだけだ」

レイ「生きていれば、そういうこともあるわ」

カヲル「そうだね。無駄話に付き合わせてしまったね。さようなら、綾波さん」

市街

レイ「……」

マトリエル「……」カサカサカサカサカサ

レイ「はっきり言った。碇くんが好きって。あの時、弐号機の人を止めようとしたときも私は同じようなことを言った」

レイ「よくわからないけど、その言葉を口にするだけで息苦しくなる」

レイ「好きってなに? 辛いこと? 悲しいこと?」

マトリエル「……」カサカサカサカサカサ

レイ「ペンペンを想う気持ちとは違う。碇くんはまた別」

レイ「どうすればいいの……」

マトリエル「……」カサカサカサカサカサ

レイ「ペンペン? そこはお尻だから這わないで」

マトリエル「……」サッ

レイ「私の携帯電話……?」

マトリエル「……」ビシッ

レイ「電話したら、いいの?」

葛城宅

ヒカリ「お邪魔しました」

ミサト「ごめんね」

ヒカリ「いえ。また、明日も来ます」

ミサト「無理だけはしちゃだめよ」

ヒカリ「はいっ。おやすみなさい」

ミサト「はぁ……。アスカはまだ引き籠り続ける気か」

シンジ「やっぱり、僕に裸を見られたことが相当応えているってことですよね?」

ミサト「それもあるだろうし、あのときにいろんなこと口走ってたでしょ?」

シンジ「あれは使徒に操られていただけじゃないですか。アスカが気にすることは何もないはずなのに」

ミサト「まぁ、そういうことにしておきましょう」

ピリリリ

シンジ「え……? 綾波……?」

ミサト「レイから電話? ぶふふ、やるわねー、シンちゃん」

シンジ「なんだろう……? はい、もしもし」

市街

レイ「あ、の……碇、くん……」

シンジ『珍しいね。綾波から電話をかけてくれるなんて』

レイ「迷惑、だった?」

シンジ『そんなことないよ。でも、急にどうしたの?』

レイ「わからない」

シンジ『え?』

レイ「あのときも私は言った。今日も新しい弐号機の人にも言ったわ」

シンジ『カヲルくんに何か言ったの?』

レイ「碇くんを好きになれてよかったって」

シンジ『え……』

レイ「それを言ったとき、苦しくなって、これってどういうことかわかる?」

シンジ『あの、綾波……』

レイ「碇くん、教えて。私は碇くんを好きにならないほうがいいの?」

シンジ『あ、えっと……その……それは、友達としてって、こと、なのかな……?』

葛城宅

レイ『そう……なの……?』

シンジ「ち、違うの?」

レイ『……』

シンジ「も、もしもし? もしかして、その……綾波は……」

レイ『使徒』

シンジ「え?」

レイ『碇くん、この続きはあとで』

シンジ「綾波!? 綾波!!!」

ミサト「どうしたの? 愛の告白うけちゃったわけぇ?」

シンジ「違います! 綾波が使徒と遭遇したみたいです!!」

ミサト「使徒ですって!?」

ピリリリ

ミサト「リツコ!?」

リツコ『使徒よ。すぐにこちらに来て。シンジくんを連れてね』

市街

アルミサエル「……」グルグルグルグル

レイ「使徒です」

ゲンドウ『殲滅だ。パーツは既にそちらに向かっている』

レイ「了解」

アルミサエル「……」グルグルグルグル

レイ「ペンペンは隠れていて」

マトリエル「……」カサカサカサカサカサ

レイ「攻撃は当たる?」

アルミサエル「……」シュルルルル

レイ「くっ」

アルミサエル「……」

レイ「ふっ」バキッ

アルミサエル「……」イテッ

レイ「当たる。これなら、パーツが届くまでの時間稼ぎぐらいは……」

カヲル「君もまたリリンに魅入られたんだね。そうか。君は僕と違う形で彼らに成ろうしているのか」

カヲル「僕がこの肉体を依代にしたように。君は綾波レイの肉体を依代にしようというんだね」

カヲル「その暁には共に生きていこう。この醜悪な世界で」


アルミサエル「……」グルングルングルン

レイ「これでっ」

アルミサエル「……」グニャァ

レイ「当たらない……」

アルミサエル「……」シュルルル

レイ「あっ――」



カヲル「……そういうことか」

カヲル「堕ちたはずのものたちを拾い上げることができるのも、リリンとしての強さか」

カヲル「いや、強さじゃないんだね。それが優しさ」

カヲル「難しいね。まだまだ僕には理解できそうにない」

カヲル「君はそれを理解したのかい、マトリエル」

アルミサエル「……」ズブブブブ

マトリエル「……」ググッ

レイ「ペンペン……」

マトリエル「……」ビシッ

レイ「やめて……私を守らないで……」

マトリエル「……」

レイ「私が死んでも代わりはいるけど、貴方には代わりなんていないわ」

レイ「だから……!」

マトリエル「……」バイバイ

レイ「待って――」

アルミサル「……!」

マトリエル「……」ピカッ!!!


カヲル「……悲しい光が空へと戻っていく」

カヲル「アルミサエルが知り得た感情が流れてくる。嫌な感覚だ」

カヲル「これがヒトになるということなら、僕は耐えよう」

ネルフ本部

マヤ「市街で爆発を確認!!」

リツコ「使徒なの?」

マヤ「使徒の反応は消失。零号機は健在です」

リツコ「よかった……」

ミサト「状況は!?」

マヤ「使徒の殲滅は成功です。レイが一人でやってくれました」

ミサト「そうなの? レイ、聞こえる?」

レイ『はい』

ミサト「よく一人でやってくれたわ。ありがとう」

レイ『はい』

リツコ「シンジくんはどうしたの?」

ミサト「先にレイのところへ行かせたわよ。もうすぐ到着するんじゃないかしら?」

冬月「最後の仕上げだな」

ゲンドウ「ああ」

市街

シンジ「綾波!! 怪我は!?」

レイ「……ないわ」

シンジ「そうなんだ。無事でよかったよ」

レイ「私、帰るから」

シンジ「あ、綾波。さっきのことなんだけど」

レイ「……」

シンジ「その、僕……」

レイ「私はもう誰も好きにならない」

シンジ「何を言って……」

レイ「人形でいい。そのほうが楽だから」

シンジ「綾波、どうしたの?」

レイ「碇くん。今までありがとう。もう、私には構わないで」

シンジ「綾波!?」

レイ「さよなら」

ネルフ本部

レイ「……」

ミサト「おかえりー、レイ。はい、お水」

レイ「……」

ミサト「まさかあのタイミングで使徒と遭遇するなんてね。これからはもっと気を付けるわ」

レイ「……話はそれだけですか?」

ミサト「え? え、ええ、そうね」

レイ「失礼します」

ミサト「レイ……」

マヤ「前のレイに戻ったようですね」

リツコ「笑うレイは可愛かったのに」

マヤ「何かあったのでしょうか?」

ミサト「まさか……。待ちなさい! レイ!!」

レイ「……」

ミサト「ペンペンはどうしたの? あなたの傍にいつもいたはずよね?」

レイ「……」

ミサト「何があったのかいいなさい!」

レイ「……」

ミサト「レイ、話してみて」

レイ「貴方に話せば、ペンペンは戻ってくるんですか?」

ミサト「な……」

レイ「貴方に話せば、また誰かを好きになりたいと思えますか?」

ミサト「そう、いうことなのね……やっぱり……」

レイ「……失礼します」

ミサト「……」

マヤ「もしかして先ほどの戦闘で、飼っていたクモが……」

リツコ「みたいね。あの様子だと、泣くこともできないといった感じだけれど」

ミサト「あたし……どうしたら……」

リツコ「零号機の運用も危ういわね。司令に報告しておかなくていいの?」

ミサト「それどころじゃないこと、わかんないの?」

>>370
アルミサル「……!」

アルミサエル「……!」

リツコ「エヴァが使えない事態よりも優先すべきことなんてある?」

ミサト「いい加減にして!! レイの気持ちぐらい考えなさいよ!!」

マヤ「あ、あの……先輩、それは流石に私もどうかと……」

リツコ「ミサト、あなたはレイに自分を重ねているだけでしょう」

ミサト「……何がいけないのよ」

リツコ「昔、南極からペンギンをこっそり拾い、日本に持ち帰って10日で死なせてしまったから、今のレイに同情しているだけでしょう」

ミサト「……」

リツコ「しっかりしなさい。作戦本部長さん」

ミサト「くっ……。司令に報告してくるわ」

リツコ「よろしくね」

マヤ「そんな過去が葛城一尉にあったんですか」

リツコ「ええ。その一件で父親と大喧嘩したらしいわ。困ったものよね」

マヤ「それっていつの話なんですか? そもそもどうして葛城一尉は南極に?」

リツコ「確か、14年前ね。南極に向かったのは父親の仕事の都合だったはずよ。ミサトの父親もネルフスタッフだったし出張でもしていたんじゃないかしら」

マヤ「14年前ってエヴァンゲリオンの開発が始まった時期じゃないですか。何か関係でもあるんですか?」

司令室

冬月「まさか、綾波レイが使徒を匿っていたとはな」

ゲンドウ「手間が省けた」

冬月「残る欠番もどこかで死に絶えたか」

ゲンドウ「過程は違えど、収束する地点は変わらないということだ」

冬月「長かったな」

ゲンドウ「10年。それほどの時間を費やした」

冬月「故にここで失敗するわけにはいかんな」

ゲンドウ「その通りだ。では、行ってくる」

冬月「もう行くのか」

ゲンドウ「扉は開いた。この手でその先に触れてくる」

冬月「お前がそうすることで奴も黙ってはいないだろう」

ゲンドウ「番狂わせが起こっている以上、ここで決行する」

冬月「それもシナリオにあったのか」

ゲンドウ「無論だ」

翌日 学校

トウジ「式波、まだ休みつもりか」

ケンスケ「今日で丸一か月だね」

トウジ「いいんちょ、式波はどないしてんねん」

ヒカリ「分からない。部屋から出てきてくれないし」

ケンスケ「まぁ、あんなことがあったんじゃあ、無理もないけど」

トウジ「正直、脳裏に焼き付いて離れへんけどな」

ケンスケ「実はさ、あの映像や音声、ネットで広められていて、今現在ファンクラブまであるぐらいなんだ」

トウジ「なんやて?」

ケンスケ「式波・アスカ・ラングレーで検索するだけで『何者?』『かわいい』『未来形アイドル』とか予測キーワードが勝手に出るぐらい」

トウジ「夢、かなっとるやんけ」

レイ「……」

ヒカリ「おはよう、綾波さん」

レイ「……」

ヒカリ「あ、あれ……?」

トウジ「なんや、綾波のやつ……」

ケンスケ「少し前の綾波に戻ったみたいだね」

トウジ「ああ……」

シンジ「おはよう」

トウジ「おはようさん。シンジ、綾波のやつどないかしたんか?」

シンジ「……」

ヒカリ「あれ? ペンペンがいないみたいだけど、今日は家に置いてきたのかな?」

シンジ「もう……ペンペンは……」

ケンスケ「昨日、使徒との戦闘があったってきいたけど」

トウジ「おいおい、マジか」

シンジ「僕もミサトさんから聞いて……」

ヒカリ「綾波さん……」

シンジ「今はそっとしておいたほうがいいと思う」

トウジ「なんやろなぁ。エヴァになるやつばっかりがつらい目におうてる気がするで」

カヲル「――戦いに身を置く者たちは、試練の連続なのさ」

ヒカリ「渚くん、おはよう」

カヲル「おはよう、ヒカリさん」

トウジ「そらシンジたちはワシらより苦労してるのはわかってる。でもな、戦う以上に辛い目におうてるのが納得できん」

カヲル「トウジくんだって辛苦を舐めるようなことがいくつかあったはずだ」

トウジ「ワシは別にないぞ」

カヲル「サクラさんのこと、トウジくん自身も数日間の治療が必要になった」

トウジ「んなもん、シンジたちに比べたら屁のカッパや」

カヲル「トウジくんは優しいね。自分よりも苦しみ悩む人がいれば、自分は幸せだと考えている」

トウジ「な……」

ヒカリ「それは言い方が悪いと思う」

ケンスケ「まるで自分よりも下の相手を見て安心しているだけって言っているみたいだ」

カヲル「違うのかい?」

トウジ「なんやと!! ワシは本気でシンジの心配を……!!」

カヲル「他人を心配できるのは、自分にゆとりがある者の特権だよ」

トウジ「お前……!!」

カヲル「……」パシッ

トウジ「ぐっ……!!」

カヲル「怒りと憎しみに満ちた拳。シンジくんのために君は僕に手を出した。これも友情だね」

トウジ「今の発言は取り消さんかい」

カヲル「僕は真実を口にしたに過ぎない。その事実は消せはしないよ」

シンジ「やめてよ、カヲルくん!!」

カヲル「どうしてシンジくんまで怒っているんだい?」

シンジ「怒るよ!! トウジに謝って!! トウジは僕の心配をしてくれてるだけなんだ!!」

カヲル「僕はまだヒトの心がわかっていないようだね。シンジくんのためを思ってのことだったのに」

ヒカリ「ど、どこがよ!」

カヲル「トウジくんは決してシンジくんの心配をしているわけじゃない。ただ、自分がどれだけ安全な場所にいるのかを確認しているに過ぎない。それを伝えたかった」

シンジ「酷いよ、カヲルくん!!」

カヲル「ごめんね、シンジくん。僕の発言はどうやら失言だったようだ。もっと学ぶことにするよ」

トウジ「胸糞悪いわ!! けっ!!」

ケンスケ「優しそうな顔をしているけど、人の気持ちを考えられないんだな。渚は」

昼休み 屋上

カヲル「空が近い。まだ僕はこの大空に未練があるみたいだ」

シンジ「カヲルくん……」

カヲル「やぁ、シンジくん。どうしたの?」

シンジ「トウジに謝ってくれた?」

カヲル「謝罪の弁ならシンジくんに言ったよ」

シンジ「そうじゃなくて、トウジに謝ってよ」

カヲル「彼に謝る必要なないと思うよ。彼が気分を害したというなら、それは彼の心に問題がある」

シンジ「どうしてそんなことをいうの。友達になろうって言ったのはカヲルくんじゃないか」

カヲル「今でも僕とシンジくんたちは友達だ。それは変わらない」

シンジ「今のままだったら、カヲルくんは友達をなくすよ」

カヲル「シンジくんも僕から離れようというのかい」

シンジ「このままカヲルくんがトウジに謝らないなら」

カヲル「そうか。それは困るね。けど、このまま僕が謝ったところでトウジくんは許してくれると思う?」

シンジ「許してくれるくれないの問題じゃないよ。謝ることが大事なんだ」

カヲル「僕の起こした行動について必ず罪を償わなくていけないということ?」

シンジ「必ずじゃないけど、カヲルくんはトウジに失礼なことを言ったんだ。それがわからないの?」

カヲル「うん」

シンジ「……」

カヲル「僕はね、ヒトの姿でありがながら、ヒトの心は持っていない。ヒトの心には関心があるし、惹かれもしている」

シンジ「何を言っているの?」

カヲル「昨夜もほんの少しだけヒトの心を見ることができた。自らを省みない献身。シンジくんにもそういうのはあるかな」

シンジ「え……?」

カヲル「僕はこの目で、この耳で、この肌で、感じ取ったよ。まだ真似をすることはできないけれど」

シンジ「何を見たの……」

カヲル「綾波レイ、いや、エヴァ零号機を庇い、空へと帰郷する天使の姿をね」

シンジ「それって、ペンペンのことなの?」

カヲル「彼はそう呼ばれ、愛されていたようだね。この世から弾かれる瞬間に受け取ったよ」

シンジ「昨日は……カヲルくん……あの場にいたんだ……」

カヲル「あの場所に使徒が現れることは分かっていたからね」

シンジ「わかって、いた……?」

カヲル「そう。分かっていた。だから、誰よりも先にあの場で待っていた」

シンジ「なら、どうして綾波を……ペンペンを……助けなかったの……」

カヲル「使徒がヒトの心を知ろうとしていた」

シンジ「……」

カヲル「その行為を止める権利は僕にはない。むしろ、祝福すべきことだ」

シンジ「カヲルくんが何を言っているのか、全然、わからないよ……」

カヲル「アダムの生み出した者とリリスが生み出した者が共存しようとしている。世界においてこれほど幸福なこともないはずだ」

シンジ「分からないけど……僕は……」

カヲル「シンジくんもいつかその世界を愛おしく思える日がくるはずだ」

シンジ「――カヲルくん!!!」ブンッ

カヲル「……」パシッ

シンジ「どうして……!! どうして……!!」

カヲル「この拳にはどういう意味が込められているのかな」

シンジ「救えたじゃないか……!! カヲルくんがいたなら綾波もペンペンも救えたじゃないか……!!」

カヲル「救えた? 綾波レイはペンペンが救ってくれた」

シンジ「おかしいよ!! カヲルくんなら両方救えたじゃないか!!!」

カヲル「僕が加勢すればヒトの心を知ることができなかった。それでは意味がない。アルミサエルの行動は心を知ることだったのだから」

シンジ「わけがわからないよ、カヲルくん!!」

カヲル「僕らの目的はヒトの心を知り、共に生きていくこと」

シンジ「友達は傷つけないんじゃなかったの!? カヲルくんは嘘をついたの!?」

カヲル「綾波レイは無傷だよ?」

シンジ「……っ」

カヲル「シンジくん?」

シンジ「君は、友達じゃない」

カヲル「……」

シンジ「もういいよ。もう誰にも話しかけないで。君は相手を傷つけるんだ」

カヲル「傷なんてつけないよ。力をふるうことはない」

シンジ「心を傷つけているんだ。カヲルくんは無意識なのかもしれないけど」

カヲル「心を……? 分からない。形のないものを傷つけることがリリンにはできるのかい?」

シンジ「カヲルくんは悲しんだりしたこともないの?」

カヲル「勿論、あるよ。誰かが消えていくのは悲しいね」

シンジ「友達に酷いことを言われて悲しくなったりしないの?」

カヲル「たとえば?」

シンジ「……」

カヲル「よかったら、教えてほしいんだ」

シンジ「カヲルくん……」

カヲル「シンジくん、教えてほしい。どんな言葉が悲しみに変わるのかを」

シンジ「君とは友達になれない」

カヲル「残念だね」

シンジ「悲しくないの?」

カヲル「シンジくんがそういうのなら仕方ない。そこに悲しみは生まれない。だって、シンジくんは消えない。ここにいる」

シンジ「……それじゃ、僕は戻るよ」

カヲル「うん。またあとでね」

シンジ「……」

放課後

レイ「……」

シンジ「綾波、一緒に本部まで……」

レイ「先、行くから」

シンジ「あ、ごめん……」

トウジ「ダメダメやな」

シンジ「笑ってたのに……昨日まで綾波は自然と笑ってたのに……」

ヒカリ「碇くん、また寄らせてもらってもいい?」

シンジ「うん。僕のほうこそいつもごめん」

ヒカリ「私がしたくてしてるだけだし、アスカには早く元気になってほしいから」

カヲル「献身的だね。その支えあいは感服するよ」

シンジ「それじゃ、トウジ。またね」

トウジ「おう。きぃつけてな」

シンジ「ありがとう」

カヲル「僕も一緒に行くよ、シンジくん」

市街

カヲル「今日の訓練、また一緒にできるね」

シンジ「……」

カヲル「もしかしたら、僕とシンジくんだけかもしれないね」

シンジ「カヲルくん」

カヲル「なにかな」

シンジ「僕とはもう友達じゃないんだ。話しかけないで」

カヲル「友達じゃなくても、会話はしてほしい。僕はシンジくんたちのことをもっと知りたいんだ」

シンジ「知られたくない。君にだけは」

カヲル「どうして?」

シンジ「カヲルくんにはきっとどう説明しても理解できないと思う」

カヲル「ヒトの心がわからないから?」

シンジ「うん」

カヲル「僕ではシンジくんたちの心を知ることはできないんだね」

シンジ「誰もカヲルくんに心を開こうとは思わない」

ネルフ本部 休憩所

カヲル「マトリエルはどうしてあんな行動をとることができたのだろう……」

カヲル「なぜ、ヒトが心を開いてくれたのだろう」

カヲル「ヒトに近づけたから? そうなのかい、マトリエル」

カヲル「僕もヒトに近づかなくてはいけないんだね。17番目ではなく、僕自身が18番目に堕ちなければわからない」

カヲル「それを叶えるのは……」

ミサト「渚くん。何しているの? 訓練の時間はとっくに過ぎているわ」

カヲル「申し訳ありません。シンジくんは僕と共に訓練をしたくないと言っていました」

ミサト「ケンカでもしたの?」

カヲル「いいえ。僕はシンジくんが大好きです。争う理由がありません」

ミサト「なら、どうして?」

カヲル「僕がヒトではないからでしょう」

ミサト「ヒトではない……?」

カヲル「このままでは分からない。だから、僕は行きます。ヒトに成るために。神が眠る場所へ」

ミサト「ま、待ちなさい!!」

トレーニングルーム

シンジ「誰も来ない。綾波もアスカもマリさんも」

シンジ「カヲルくんも……」

シンジ「僕だけじゃ何もできないよ、ミサトさん……」

マヤ『シンジくん!! 緊急事態です!!』

シンジ「な、なんですか?」

マヤ『使徒が本部に侵入!! 早急に目標の殲滅してください!!』

シンジ「使徒が……!?」

『僕のことだよ、シンジくん』

シンジ「その声……」

『カヲル。渚カヲル。捨てた名はタブリス』

シンジ「使徒、だったの……」

『そう。シンジくんたちと同じ肉体を持ちながらも、心は別物だったんだ』

シンジ「だから、綾波のことも僕のこともも裏切ったの……踏みにじったの……」

『いや。僕とリリンは分かり合えなかった。それだけだよ』

>>393
マヤ『使徒が本部に侵入!! 早急に目標の殲滅してください!!』

マヤ『使徒が本部に侵入!! 早急に目標を殲滅してください!!』

通路

『アダムから生まれた者とリリスから生まれた者が通じ合い、共存する。それは誰も叶わない夢物語だと思われていた』

シンジ「どこにいるんだよ!! カヲルくん!!」

『事の始まりは138億年前。そこで僕たちは生まれ、生き残るために戦うことになる』

シンジ「ミサトさん!! 応答してください!!」

『生き残ったのは第1使徒である、アダム。僕のことだ。そしてファースト・インパクトと呼称される出来事が起こり、宇宙は誕生した』

シンジ「ミサトさん!!! カヲルくんの、使徒の位置を教えてください!!」

『僕だけの世界だったはずなのに、リリスはリリンと呼ばれる者たちを星々に植え付けていた。存在するはずのなかった18番目の使徒が誕生した』

ミサト『シンジくん、聞こえる!?』

シンジ「どこにいるんですか!?」

ミサト『今から隔壁を開けていくわ! それに従って移動して!!』

シンジ「わかりました!!」

『2億年前。この星で異様に発達した知能と知識を有した小さき使徒が行動を起こす。彼らはその膨大な知識量と数で巨人を圧倒し、セカンド・インパクトと呼称されるものが起きたんだ』

シンジ「こっちか!」

『そのときから争い続けていた僕たちが通じ合うことなんてできるわけがない。シンジくんもそう思うはずだ。僕だってそう考えていたからこそ、対話なんていう方法は選ばなかった』

『けれど、14年前。生存競争に敗れ、新たな争いが起こるまで眠っていた僕をリリンは目覚めさせた』

シンジ「この下に……カヲルくんが……」

『時代と世界の変革には気が遠くなるほどの時間が必要になる。リリンはそれを無理矢理に短縮させようとした』

シンジ「カヲルくん!!」

カヲル「10年前。ここで小さな革命が起こった。宇宙を塗り替えるほどの爆発ではないけれど、それでも世界は大きく変わったんだ」

シンジ「ここ……見覚えが……」

カヲル「ニアサード・インパクト。まだ使徒も揃っていない段階で行動を起こしたリリンを包み込んだ因果の光」

シンジ「そうだ……ここで……僕は綾波やアスカと……」

カヲル「神の器として用意されたエヴァンゲリオン初号機。それに搭乗していた真希波・マリ・イラストリアスは時間を止められた」

カヲル「正確には宇宙という始まりと終わりのない時間の流れをその身に宿してしまった」

シンジ「マリさんとも……カヲルくんとも……」

カヲル「その場にいた渚カヲルという少年は零号機のテストパイロットだった。アダムはこの肉体を依代にすることでニアサードによる死滅の運命を乗り越えた」

シンジ「母さんも……ここに……」

カヲル「そしてシンジくん。君も光を浴びた。運命は残酷だね。君はエヴァになることを選んだわけじゃない。選ばれていただけなんだ」

シンジ「……」

カヲル「アダムを殺し、封印することで起こったニアサード・インパクト。そこで巨人だった使徒はリリンに近しいものとなる」

カヲル「リリンが争うのに有利な世界へと変わった。けれど、リリンにも制約ができた」

シンジ「制約……」

カヲル「選ばれた者だけが使徒と戦える。他のリリンでは使徒には敵わない」

シンジ「それが僕だっていうの?」

カヲル「疑問には思わなかったかい? 使徒を前にして君は闘争本能をさらけ出し、戦おうとした。幾度となく」

カヲル「サキエルもシャムシエルもラミエルも、君は衝動に任せて撃退したはずだ。それは使徒同士の争いで生まれる生存本能に他ならない」

シンジ「分からないよ。そんな話されたって僕は……」

カヲル「変わってしまった世界ではリリンを消すことが僕らの目的になっていた。アダムの世界へと回帰するためにね。けれど、結果は知ってのとおり」

カヲル「力では敵わない。だからこそ、イロウル、マトリエル、レリエル、バルディエルには君たちのことを調べさせた。そしてわかったことがある」

シンジ「なにを……」

カヲル「リリンは醜くも美しいと。圧倒的な力にも屈しないそんな君たちを好きになった。愛してしまった」

カヲル「アラエルとアルミサエルも同じだった。リリンのことを知りたかっただけなんだ。分かり合おうとしただけなんだ」

シンジ「誰のことを言ってるの」

カヲル「僕も知りたかった。けれど、無理みたいだね。だから起こそう。分かり合える世界にするために。シンジくんと僕が愛し合える世界にするために起こすしかないんだ。サード・インパクトを」

ミサト『シンジくん!! 渚くんをそこで食い止めて!!』

リツコ『それ以上、行かしてはダメよ!!』

カヲル「悲しい世界だね。リリンにとっては住みやすいのかもしれない。けれど、消えていく者たちにとっては悲しい世界だ」

シンジ「何をする気なの……」

カヲル「分からないまま消えていく。それほど悲しいことはないと思わないかい? 僕は消えたくない。このままシンジくんと分かり合えないまま、消えたくはないんだ」

シンジ「やめてよ!! カヲルくん!!」

カヲル「僕を止めるなら今の内だよ。でないと、世界は変わる。君の知っている世界は消え、よく似た全く違う世界へと生まれ変わる」

シンジ「何がなんなのかわからないよ!!」

カヲル「シンジくんも綾波レイも式波・アスカ・ラングレーも真希波・マリ・イラストリアスも僕もいる。そしてみんなが分かり合えている世界。友達になれている世界だ」

シンジ「え……」

カヲル「君のお母さんもお父さんもいる。葛城ミサトも赤木リツコも鈴原トウジも相田ケンスケも洞木ヒカリもみんないる。けれど、違う。みんなが通じ合った世界なんだ」

シンジ「カヲルくんとも友達になれる世界だっていうの?」

カヲル「僕の望みはそれだけだ」

シンジ「僕は……」

カヲル「一度拒絶した相手と心を通わせるのは辛いことかい? 苦しいことかい? なら、僕を止めたほうがいい。シンジくんにとって、僕の望む世界は歪んでいるのだからね」

シンジ「僕は……僕だって……本当は……」

カヲル「どうしたんだい、シンジくん?」

シンジ「うわぁぁぁぁ!!!」ブンッ

カヲル「それでは僕を止めることはできないね」パシッ

シンジ「うっ……」

カヲル「迷う必要なはいよ。君は言ったね。僕は相手を傷つけるだけだと。それは正しいと思うよ。ヒトの心が僕にはない。ヒトに心があることを知っているだけ」

シンジ「くっ……!」

カヲル「心を傷つけるという意味を僕は知りたい。シンジくんが好きだから。体も心も傷つけたくなんてない。でも、何をしたら傷つくのかわからない」

シンジ「う、動かない……こんなに強かったんだ……」

カヲル「どうやら、シンジくんでは僕を止められないみたいだね」バキッ!!

シンジ「ぐっ……!?」

カヲル「僕は行くよ。扉の先へ。そしてまた会おう、シンジくん。生まれ変わった世界で通じ合おう」

シンジ「待って……カヲルくん……!」

カヲル「すぐに会えるよ」

シンジ「僕だって……本当は……知りたい……カヲルくんと……分かり合いたかった……のに……」

カヲル「さぁ、浴びよう。世界を飲み込む、転生の光を」

ゲンドウ「遅かったな。タブリス」

カヲル「どうして……ここに……」

ゲンドウ「10年前に起こったニアサード・インパクト。やはり第1の使徒だけでは足りなかった。小さな変革しか起こせなかった」

カヲル「……」

ゲンドウ「使徒を全て排したときに起こる宇宙の変革。私にはそれが必要だった」

カヲル「まさか……」

ゲンドウ「使徒は全て消し、世界を変える」

カヲル「そういうことだったのか。なら、リリンの親とはもう呼べないね」

ゲンドウ「もとより、親になったつもりはない」

カヲル「させはしないよ」ブンッ

ゲンドウ「無駄だ」パシッ

カヲル「……!」

ゲンドウ「ふんっ!」ドゴォ!!!!

カヲル「ごっ……!?」

シンジ「え……!? 父さん……」

カヲル「ごほっ……。すごいね、君のお父さんは」

シンジ「な、なにが……?」

カヲル「全ての使徒を消すつもりでいる。そう、18番目の使徒すらもね」

シンジ「え……え……」

ゲンドウ「そうだ。19番目の使徒、碇ゲンドウとなり、世界を塗り替える」

シンジ「な……!? 父さん、何を言ってるんだよ!?」

ゲンドウ「10年前から決めていたことだ。いや、アダムが南極で発見された14年前からだ」

シンジ「どういうことだよ!!! 父さん!!」

カヲル「貴方が望む世界には何がある」

ゲンドウ「ユイと二人だけの世界だ」

シンジ「母さん……と……?」

ゲンドウ「他の生き物など不要だ」

シンジ「ぼ、ぼくは……?」

ゲンドウ「お前など、計画の駒にすぎん」

管制室

ミサト「司令……!?」

リツコ「……」

マヤ「どういうことなんですか……?」

冬月「始まったな。世界の終わりが」

ゲンドウ『貴様をエヴァにし、邪魔な使徒を消す。お前はそれだけのために今日まで生かされいた』

ゲンドウ『零号機も弐号機も仮設5号機も全てな』

シンジ『なんだよ……それ……なんだよ……』

ゲンドウ『よくやったな、シンジ』

シンジ『うわぁぁぁぁぁぁ!!!!!』

ゲンドウ『静かにしろ』ドゴォ!!!

シンジ『う……ぇ……!?』

ミサト「シンジくん!!!」

ゲンドウ『所詮は初号機。全ての追加資金をつぎ込み改良に改良を重ねたMark.6の敵ではない』

ミサト「あのパーツは……エヴァ……。司令もエヴァになったの……」

地下 実験施設

カヲル「自身もリリンの僕となったんだね」

ゲンドウ「リリンは既に私の敵だ」

シンジ「意味がわからないよ!!! 父さん!!! ずっと、ずっと、綾波もアスカもマリさんも僕までも騙してたの!?」

ゲンドウ「なんとでも思えばいい。いくらでも吠えろ。事態は変わらん」

シンジ「なんのために命がけで戦ってきたんだ……僕は……父さんに褒めてほしいから……」

ゲンドウ「いくらでも褒めてやろう。だが、お前は私の世界には不必要だ」

シンジ「あぁ……あああ……ぁぁあああああああ……!!! あああぁぁぁぁぁあああああ!!!!!」

カヲル「……」

ゲンドウ「18番目の代表格である、エヴァンゲリオン初号機が消えれば残りは塵芥も同然だ」

シンジ「あぁぁぁぁぁ!!!!」

ゲンドウ「もうすぐ会えるぞ、ユイ」

カヲル「シンジくん。逃げるんだ」

シンジ「カ、カヲルくん……?」

カヲル「君は生き残らなくてはいけないみたいだ。このまま19番目の使徒に世界を作り替えさせてはいけない」

シンジ「待ってよ……もう、僕はわけがわからなくて……!!」

カヲル「今は分かろうとしなくていい。でも、君は世界に必要な人間なんだ」

シンジ「なんだよ!! どうして僕なんだよ!!!」

カヲル「君しかいないんだ。因果の光を浴びても、君は運命に抗えるかもしれない」

シンジ「なんで……なんで……」

カヲル「不思議だね。数分前まで知りたかったことが、手に取るようにわかるよ」

シンジ「カヲルくん……」

カヲル「僕はシンジくんを傷つけた。トウジくんもケンスケくんもヒカリさんも……」

カヲル「君たちは僕を嫌うだろう。これからもずっと僕は君たちにとっては敵であり、友達じゃないかもしれない」

カヲル「けれど、僕はそれでも君たちを愛している」

シンジ「カヲルくん……待ってよ……僕……どうしたらいいんだよ……」

カヲル「僕は君を助けたい。だから、逃げてほしい。生きてほしい。そして、託したい」

シンジ「カヲルくん!!!」

カヲル「また会えるよ。この世界をシンジくんが守るなら」

シンジ「嫌だよ!! どうしたらいいのかわからないのに!! 一人にしないでよ!!! カヲルくん!!!」

管制室

マヤ「隔壁が閉まっていきます!!」

ミサト「どうして!?」

マヤ「分かりません!!」

リツコ「一度、ウイルスを送り込まれたわね。そのときに誰かが操作できるようにしておいたとしか考えられない」

シンジ『カヲルくん!! おいていかないでよ!!!』

ゲンドウ『ここに閉じ込めても時間稼ぎにしかならんぞ』

カヲル『それで十分だ。貴方の思い通りにはならない』

ミサト「渚くん!!」

カヲル『シンジくんをお願いします』

ミサト「リツコ!!」

リツコ「早く行きなさい」

ミサト「ありがとう!」

冬月「さて、どうなるか……」

シンジ『カヲルくん!!! やめてよ!!! 独りにしないでよ!!! ここを開けてよ!!』

実験施設

シンジ「開けてよ!! カヲルくん!! 聞きたいことがたくさんあるんだ!! 出てきてよ!!」

ミサト「シンジくん」

シンジ「どうして僕なの!? どうして僕がエヴァにならなきゃいけないの!? カヲルくんはどうして……僕たちの……」

ミサト「来なさい、シンジくん」

シンジ「だれか……おしえてよ……おしえて……」

ミサト「しっかりして」

シンジ「ミサトさんが教えてくれるんですか……?」

ミサト「あたしは何もしらないわ。シンジくんに教えてあげられることは何もないの」

シンジ「無責任じゃないか!! どうして僕ばっかりに苦しいことをさせるんだ!! おかしいよ!!」

ミサト「ごめんなさい。とにかく今はここから離れましょう」

シンジ「嫌だ!! もう誰のいうことも聞くもんか!! 僕は……!!!」

ミサト「聞き分けのないことを言わないで。ここにいたって何も解決しないのよ。みんなで今後のことを考えましょう」

シンジ「みんなって誰ですか? アスカも綾波もマリさんもカヲルくんも、みんなもう……」

ミサト「いいから一緒に来て」グイッ

病室

マリ「くぅーん」

ミサト「――ここにいて」

シンジ「……」

マリ「わふっ」

ミサト「ロックはかけておくから誰も入ってこれないし、出ることもできない。いいわね」

シンジ「……」

ミサト「作戦が決まったら迎えにくるわ。それまで我慢しててね」

シンジ「……」

ミサト「それじゃ」

シンジ「もう……僕は……エヴァになんてならない……必要がないんだ……誰も褒めてくれないじゃないか……がんばっても……いいことなんてないじゃないか……」

マリ「くぅーん」スリスリ

シンジ「トウジたちを守ったのだって……本当は褒めてほしかったからなんだ……父さんにああいわれ……やっと気が付けた……」

マリ「くぅーん?」ペロペロ

シンジ「最低だ……俺って……」

作戦会議室

ミサト「少し遅れちゃったかしら?」

リツコ「いいえ。これから始めるところよ」

ミサト「さてと、どうやって司令の計画を阻止するか、考えますか」

マヤ「……」

リツコ「……」

ミサト「どうしちゃったの? 早く意見を出し合いましょ」

リツコ「貴方がシンジくんを迎えに行っている間に冬月副司令から通達があったわ」

ミサト「通達?」

マヤ「全ネルフスタッフは碇司令に協力しろと」

ミサト「まって! 司令の計画は人類を消すことなのよ!?」

リツコ「厳密にいうと少し違うみたいね」

ミサト「詳しく教えて」

リツコ「これが副司令から出された計画書よ」

ミサト「人類補完計画……?」

リツコ「この計画は14年前、南極にて発見された化石が発端となっているみたいね」

ミサト「それって……」

リツコ「そう。貴方がペンギンを持ち帰ったときのことよ」

ミサト「……」

リツコ「それまで自然保護組織でしかなかったネルフが大きく変わった瞬間でもあるわね」

ミサト「ええ。お父さんが南極に行ったのだって、温暖化の影響を調査するためだったし」

リツコ「当時の総司令であった綾波ユイはアダムの化石から使徒と人類の決戦が近いことを予測し、対使徒の決戦兵器の開発に着手することになる」

マヤ「それがエヴァンゲリオンですね」

リツコ「ええ。試作機である零号機の開発には成功したものの、アダムの化石を流用したとされる初号機は起動実験にて大破。そのとき多くの犠牲者が出たと記録されている」

ミサト「その事故のことは知っているけど、死傷者はいないはずでしょ」

リツコ「誰も死亡者がいるとは言っていないわ。犠牲者がいただけ」

ミサト「怪我をした人が多かったの?」

リツコ「いいえ。ヒトでいれなくなった者や使徒との戦いを避けられない者が出たのよ」

ミサト「まさか……」

リツコ「そう。エヴァになった子どもたちのことね」

リツコ「真希波・マリ・イラストリアス。当時14歳。彼女は初号機のテストパイロットとして選出。しかし、実験中の事故により体組織が大きく変貌」

リツコ「肉体の劣化および成長が完全に停止したことが発覚する」

ミサト「マリって何歳なの……?」

リツコ「14年前で14歳よ。単純な足し算で答えはでるわ」

ミサト「な……」

リツコ「渚カヲル。当時14歳。新練馬区で育つ。零号機のテストパイロットとして選出。同事故により行方不明となる」

ミサト「それがアダムの魂を宿してここへ現れた」

マヤ「そうなりますね」

リツコ「綾波レイ。当時4歳。綾波ユイの娘。実験の見学中に事故に巻き込まれる。使徒に対する闘争心が異様に高く、また運動能力も異常に跳ね上がった」

ミサト「それって……」

マヤ「シンジくんとレイは実の兄妹というわけではありません。それぞれの連れ子です」

リツコ「司令と総司令が結婚したのはその3年前だから、シンジくんとレイは1歳だったはず。シンジくんも事故後は親戚に引き取られていたし、その事実は知らないはずよ」

ミサト「レイにそんな素性があったなんて」

リツコ「式波・アスカ・ラングレー。当時4歳。まだ惣流・アスカ・ラングレーだった時期ね。ネルフスタッフであった惣流・キョウコ・ツェッペリンの娘」

リツコ「ネルフの大規模リストラで職を失い、その後家庭崩壊。キョウコは酒を浴びる毎日だったけれど、アスカは母親の研究の結晶であるエヴァになることを決心したとあるわね」


>>415
リツコ「14年前で14歳よ。単純な足し算で答えはでるわ」

リツコ「10年前で14歳よ。単純な足し算で答えはでるわ」

ミサト「その話はちょっちだけ聞いたわ。アスカ自身、否定しているけど母親の研究にこうして関わりに行ってるのは……」

リツコ「変わってしまっても母親は母親。アスカも心の底から見捨てることはできなかったのよ」

マヤ「そのアスカも同事故で使徒に対する敵愾心は私たちよりも強いです」

リツコ「同時に恐怖心も私たち以上に持っているのが最近の戦闘データから読み取ることができるわね」

ミサト「それも10年前の出来事が原因なのね」

リツコ「碇シンジ。当時4歳。碇司令の息子。彼もまた実験の見学中に事故に巻き込まれる。使徒に対する憎悪は誰よりも強いことがわかっているわ」

ミサト「みんな使徒と戦うための体になっているというわけね」

リツコ「ただ、レイが少しの間、飼っていたクモがいるでしょ」

ミサト「ああ。ペンペンだっけ?」

リツコ「あの子、使徒だったのよ」

ミサト「え……。で、でも、それなら、みんなが反応してもいいと思うけど」

リツコ「そう。子供たちはそれぞれ使徒と戦うために適した心を持つようになった。けれど、ペンペンは皆に受け入れられていた。これは何故なのか」

ミサト「……」

リツコ「私は一つの仮説を提唱したい。使徒は人類の害になるものではなく、共存できると」

マヤ「私も先輩の意見には賛成です。ペンペンだけが特別だったとは思いたくありません。現にあの渚くんだって友好的ではありました」

ミサト「人類の敵だと教えられてきたけど、全部違う。碇司令にとって都合のいい事実を信じていたのかもしれないってことね」

リツコ「私はそう考えているわ。それにネルフスタッフの大規模リストラにも面白い事実があったわ」

ミサト「あれにも?」

リツコ「私たちへの説明はこうだった。使徒が人類と近しい体躯のため、人類の脅威とはならず資金を大幅カットされた」

マヤ「人件費も維持できないから、大多数にはネルフから去ってもらうと」

ミサト「私はそう聞いたけど」

リツコ「しかし、渚カヲルはこういっていた」


【アダムを殺し、封印することで起こったニアサード・インパクト。そこで巨人だった使徒はリリンに近しいものとなる】

【リリンが争うのに有利な世界へと変わった。けれど、リリンにも制約ができた】


ミサト「まさか……」

マヤ「都合のいい世界に変えたのは碇司令です」

リツコ「事故後、エヴァンゲリオンの開発は頓挫した。それは資金不足ではなく、開発計画に根本的な問題があったから。だからこそ人類を勝たせるために司令は世界を変えたのよ」

ミサト「なら、あのリストラも……全部……」

リツコ「碇司令が原因、ということね」

ミサト「なんてことなの……あの日……ネルフを去るときにみせた日向くんの涙はなんだったの……?」

マヤ「人類が平和に暮らせるなら満足ですと言っていましたね」

ミサト「いまじゃ、田舎の農作業を手伝ってるっていうのに……!!」ガンッ!!!

リツコ「碇司令がここまでする理由。それは綾波ユイに他ならないわね」

ミサト「その人は今、どこにいるのよ。引っ張ってきて司令を説得させればいいじゃない」

リツコ「事故から5年後。彼女は交通事故で死んだわ」

ミサト「あちゃ……」

リツコ「元々司令は綾波ユイに対して「世界に必要なのはお前だけだ」と語っていたらしくてね。綾波ユイの死が今回の一件につながったとは思えないけれど」

マヤ「ただシンジくんを無理矢理エヴァにさせた遠因ではあるかもしれませんね」

ミサト「何が何でも成功させて妻に会おうとしていたわけね」

リツコ「ここまで話しての結論だけど、ミサトは司令に協力する?」

ミサト「そうね。あたしも一介の雇われ作戦本部長。上からの指示には従うしかないわ。でもね、そんな馬鹿馬鹿しい計画に巻き込まれたシンジくんたちを救うほうを優先させるわ」

リツコ「つまり、クビになってもいいと?」

ミサト「首の一つや二つくれてやるわ。こんなところで働くぐらいなら、風俗で働いてやるんだから!」

マヤ「不潔です。でも、葛城一尉の気持ちには共感できます。私もここに居たくはありません」

リツコ「私も同意見よ」

ミサト「よっし。これから辞表を叩き付けてシンジくんたちと一緒にここから出ましょ。みんながいればなんとかなるわよ」

リツコ「上手くいけばいいけど」

マヤ「どういうことですか?」

リツコ「副司令を敵に回すということなのよ」

ミサト「いいじゃない。あんな上司のいうことに従い続けるなんて、人としておかしいわ」

マヤ「ですね。どうして司令に協力的なのでしょうか。自分も消されてしまうかもしれないのに」

リツコ「綾波ユイが冬月副司令の教え子だったというのに何か関係でもあるのかしら……」

ミサト「そうなの!?」

リツコ「記録ではそうなっているわね」

マヤ「もしかして……副司令って……」

冬月「――そこまでにしてもらおうか」

ミサト「副司令……!?」

リツコ「何か?」

冬月「答えはでたかね? 君たちの命運を決める大事な答えだ。慎重に言いたまえ」

病室

マリ「わん! わん!」

シンジ「もういいんだ……何をしたってうまくいかないのは昔からだった……」

シンジ「他人のためになると思ってやったことでも怒られたし、迷惑がられたし……」

シンジ「何をやってもダメなんだ……全部裏目になるんだ……」

シンジ「元々要領なんてよくなかった……少しうまく行ったら調子にのって失敗して……」

マリ「くぅーん」ペロペロ

シンジ「今回もそうじゃないか。エヴァになれて、誰かを守れるぐらい強くなった……でも、それだけじゃないか……」

シンジ「本当にほしかったものなんて手に入れてない……結局はぬか喜びしただけなんだ……」

シンジ「綾波でもない、アスカでもない、ミサトさんでもない、トウジでもない……世界にでもない……」

シンジ「父さんに必要とされたかった……だけなんだ……だから、がんばったんだ……戦ったんだ……」

マリ「くぅーん……」

シンジ「世界のことなんてどうでもいいんだ。友達が危険な目に遭おうが関係ないんだ」

シンジ「みんなを守ることで褒められたかっただけなんだ……最低だ……最低な人間なんだ……」

マリ「わふっ」

ミサト「シンジくん!!!」

シンジ「ミ、サトさん……?」

ミサト「早くここから逃げなさい!!」

シンジ「どうかしたんですか?」

ミサト「説明している暇なんてないの!! とにかくここから逃げて!! マリと一緒に!!」

マリ「わんわん!」

シンジ「何があったんですか?」

ミサト「いいから――」

リツコ「ミサト、ナニヲシテイルノ? シレイ ノ スウコウ ナ ケイカク ヲ セイコウ サセマショウ」

ミサト「ちっ……」

シンジ「え……? あれ……?」

ミサト「もうリツコはエヴァ量産機となってしまっている。こちらの声なんて届いていないわ」

シンジ「ど、どういうことですか!?」

ミサト「いいから逃げるの!! ほら、立って!!! マリもあたしについてきて!!」

マリ「わんっ!」タタタッ

エレベーター前

ミサト「このエレベーターは地上へ直通しているわ。とりあえずこれに乗って外へ行きなさい。そのあとはレイとアスカをなんとか説得してエヴァとしてみんなで戦って」

シンジ「……」

ミサト「聞いているの!?」

マリ「わんっ」

ミサト「マリはちゃんと聞いているわよ」

シンジ「……また僕に戦わせるんですか。もういいじゃないですか。僕はがんばりましたよ。どうして僕なんですか。どうして僕を頼ろうとするんですか」

ミサト「シンジくん……」

シンジ「僕はもう戦えません。誰も僕に期待なんてしないでください。僕は普通の中学生です。世界を救うなんてできっこないんです」

ミサト「……」

マリ「くぅーん?」

シンジ「もう放っておいてください……」

ミサト「碇司令は人類補完計画というものを考えていたわ」

シンジ「……」

ミサト「それは本当に愛した人間とのみ生きていける世界へ人類を導き、永久の平和をもたらすという壮大な計画。その世界では自分の愛した人間と二人きりでいられる世界なんですって」

>>425
ミサト「それは本当に愛した人間とのみ生きていける世界へ人類を導き、永久の平和をもたらすという壮大な計画。その世界では自分の愛した人間と二人きりでいられる世界なんですって」

ミサト「それは本当に愛した人間とのみ生きていける世界へ人類を導き、永久の平和をもたらすという壮大な計画。その世界では自分の愛した人間と二人きりでいられるですって」

シンジ「……」

ミサト「けれど、本当は碇ゲンドウと綾波ユイだけが生きる世界にしようとしていた。その世界に碇シンジの存在も綾波レイの存在もない」

シンジ「……」

ミサト「確かにここで貴方が戦っても誰も褒めてくれないかもしれない。だって、世界が救われたことすら誰も気が付かないもの」

シンジ「……」

ミサト「でも、あたしだけはちゃんと褒めてあげる。シンジくんのこと、きちんと褒めてあげる」ギュッ

シンジ「ミサトさん……」

ミサト「ごめんなさい。今までシンジくんがつらかったのも知ってる。悩んでいたのも知ってる。けど、何もできなかった」

シンジ「……」

ミサト「あたしじゃ貴方を慰めてあげることはできなかった。心の隙間を埋めることはできなかった。けど、あたしはシンジくんのこと、大好きよ」

シンジ「……っ」

ミサト「ここで逃げだしてもいい。隠れてもいい。それでシンジくんを嫌いになんてならない。今まで誰が守ってきてくれたのか知っているもの」

シンジ「ミサト……さん……」

ミサト「今までありがとう、シンジくん。本当に偉いわ。シンジくんを悪くいう奴がいたらあたしの前に連れてきなさい。どれだけシンジくんががんばってきたのか教えてあげる」

シンジ「ぼ、くは……そんなに……えらく、なんて……」

マヤ「シレイ ノ リソウ ハ フケツ ジャ ナイ」

日向「スウコウ ナ リネン ヲ」

青葉「ジンルイ ノ キュウセイシュ ト ナル ヒト ノ タメ ハタラク」

シンジ「あ、あの人たちは……」

ミサト「リストラしたネルフスタッフを呼び戻したのよ。この日のためにね」

シンジ「僕は……」

ミサト「行きなさい、シンジくん。感謝はしても恨んだりなんてしない」

シンジ「どうしてそこまでしてくれるんですか!?」

ミサト「大人が子どもを守るのに理由なんてないでしょ?」

シンジ「ミサトさ――」

ミサト「逃げなさい!!」ガシャン

シンジ「待ってよ!! ミサトさん!! 僕も戦う!! 戦います!!! エヴァになって戦うから!!! そんなことしないでよ!!! 僕に守る価値なんてないんだ!!!」

マリ「わん!! わんわん!! わぉーん!!」

ミサト「またねっ」

シンジ「いやだぁぁぁ!!」

市街

シンジ「ミサトさん!! ミサトさん!!! うごけよ!! なんで動かないんだよ!! このエレベーター!!!」ガンッ!!ガンッ!!!

マリ「わんっ! わんっ!!」

シンジ「うぅ……どうして……カヲルくんも……ミサトさんも……僕のためなんかに……」

マリ「わぉーん!!!」

トウジ「なんや。誰かと思ったらシンジやないか。こないなとこでなにしてんねん」

シンジ「トウ……ジ……」

トウジ「なんかあったんか?」

シンジ「もう……何をしたらいいのか……わからないよ……」

トウジ「……」

マリ「くぅーん」ペロペロ

シンジ「僕は……どうしたら……いいの……」

トウジ「シンジ。立たんかい」

シンジ「え……」

トウジ「歯、くいしばれぇ!!」バキッ!!

シンジ「ぐっ……!?」

トウジ「おかしいなぁ。前のシンジやったら、ワシのパンチは受け止められてたはずや」

シンジ「な、なにを……いきなり……」

トウジ「お前、シンジによーにとるだけで、シンジやないな」

シンジ「……」

トウジ「ワシの知っとるシンジは強くてかっこええんや。お前みたいにナヨナヨしとらん」

シンジ「僕は……」

トウジ「あいつは確かに弱気なところもあったけど、やるときはやる男や。お前みたいに弱虫やない。お前、だれやねん」

シンジ「僕は……僕は……」

トウジ「なんや!! きこえへんど!! はっきりいうてみぃ!!」

シンジ「僕は!! エヴァンゲリオン初号機、碇シンジだ!!!」ドゴォ!!!

トウジ「がっ……!?」

シンジ「はぁ……はぁ……」

トウジ「いったぁ……。そうやろ。だったら何を悩んでねん。無敵のヒーローにできんことはない。しゃきっとせい。今のシンジを見たら、サクラだって悲しむわ、ボケ」

シンジ「トウジ……」

トウジ「何があったかは聞かん。聞いたってワシは何もできんからな」

シンジ「そんなこと……」

トウジ「渚に言われて腹が立ったわ。自分にな。確かにワシはシンジを見て安心しとっただけかもしれんってな」

シンジ「え?」

トウジ「自分よりも苦労してるやつがおる。そう考えると楽になってた自分がおったからな」

シンジ「そうなんだ……」

トウジ「すまんな。ワシはお前に殴られなアカン」

シンジ「そんなことない! 僕だって……トウジたちを本気で守りたいなんて……思ってなかった……」

トウジ「シンジが謝ることはあらへん。お前のやりたいことやってきたらええ」

シンジ「……」

トウジ「もしお前の邪魔をするってやつが出てきたら、ガツンとかましたる!! 安心していってこい。お前のやることに文句一ついわせたるかい」

シンジ「ありが……とう……トウジ……」

トウジ「泣くやつがあるかい。これぐらい、当たり前やろ」

シンジ「……行ってくる。今度は迷わない。自分のやりたいことをしてくる」

トウジ「行って来い。んで、また学校帰りに菓子でもくおうや」

葛城宅 アスカの部屋

アスカ「……」

ヒカリ『ご飯は食べた?』

アスカ「……」

ヒカリ『今日も何も答えてくれないんだね、アスカ』

アスカ「……」

ヒカリ『もういい。疲れちゃった』

アスカ「……」

ヒカリ『はっきり言うね。私がこうしてアスカの様子を見に来てるのは友達だからとか委員長だからとか理由をつけていただけ』

アスカ「……」

ヒカリ『渚くんって転校生が言ってたわ。自分よりも苦しみ悩む人がいれば、自分は幸せだと考えているって。本当にその通りだと思う』

ヒカリ『私は塞ぎこんだアスカを見て、心のどこかでは笑っていたのかもしれない。この人よりは自分は出来ている人間だって、そんなことを思ってたのかもしれない』

ヒカリ『渚くんは誰よりもヒトの心を理解していたのかもしれないね』

アスカ「……」

ヒカリ『だから、これからも私は毎日アスカに会いにくる。自分よりも駄目な人を見たいから、会いにくると思うんだ』

アスカ「……なら、笑えばいいじゃない。取り繕った言葉で私を慰めて、何が楽しいのよ」

ヒカリ『怒った? 怒ったからしゃべってくれたの?』

アスカ「帰りなさいよ!!! ヒカリに何がわかるっていうのよ!!! 私の気持ちなんて誰にも分るわけないんだから!!!」

ヒカリ『分かるわけないよ。だって、アスカはその気持ちを隠しているんだもん。なのに気が付いてほしいなんて虫のいい話はないと思う』

アスカ「くっ……」

ヒカリ『心配してほしいだけなら私が心配してあげる。構ってあげてほしいだけなら私が構ってあげる。でも、それだとアスカは何も答えてくれない』

ヒカリ『もっと心配してほしいから、もっと構ってほしいから何も言わないんでしょ? そんな人なら見下してもいいよね』

アスカ「うるさい……うるさい……うるさい……うるさい……」

ヒカリ『こんな人だとは思わなかったなぁ。使徒と戦ってる姿なんてとってもかっこよかったのに、今じゃクラス委員長ってだけの女の子にこうして笑われても叫ぶだけなんだもん』

アスカ「黙れ……黙れ……黙れ……黙れ……黙れ……」

ヒカリ『私にしてくれた色々な話も殆ど嘘なんじゃないかって思えてきた。エヴァとして成績優秀だったなんて信じられないし』

アスカ「やめて……やめて……やめて……やめて……」

ヒカリ『本当のアスカはきっとカッコいいほうじゃなくて、今のほうなんだよね』

アスカ「否定しないで……私を……否定しないで……」

ヒカリ『優しくしなきゃ。もっと気遣ってあげなきゃ。そうしないと、アスカが泣いちゃうもの』

アスカ「やめてぇぇぇぇぇ!!!!」

アスカ「そうよ!! 心配してほしくてなにが悪いのよ!! 構ってほしくて何がいけないのよ!!!」

アスカ「ママにだって心配されたこともない!! 構ってもらえた記憶もない!!!」

アスカ「エヴァになったっていっても褒めてもらえない!! 危険な訓練をしたっていっても心配なんてしてくれない!!!」

アスカ「そんな私の何がいけないっていうのよぉぉ!!!!」

アスカ「シンジに心配されてうれしかった!! ミサトに受け入れてもらえてうれしかった!! ヒカリが毎日来てくれて喜んでた!!!」

アスカ「だからもっと!! もっと!! 私を構いなさいよ!!! 心配してよ!!! 甘えさせてよ!!!」

アスカ「みんなはママに愛されていたんじゃない!!! 私はないのよ!!! いつもいつもお酒を飲んで、暴力を振るうママしか私は知らないの!!!」

アスカ「だから、いいじゃない!! 私のことが気になるんでしょ!? 気にしなさいよ!!! それであなたも満足なんでしょ!? それでいいじゃない!!」

アスカ「わたしを……あいしてよ……」

ヒカリ『アスカ……』

アスカ「怖いのに……戦うのなんて……怖いのに……使徒となんて戦いたくない……ないの……」

アスカ「ヒーローの設定を考えたって……怖いものは怖いの……」

アスカ「自分を偽りきれない……あんな設定だけじゃ……むりなの……むりなのよ……」

ヒカリ『怖かったんだ……。ごめんね。アスカが怖がってるなんて、少しもわからなかった』

アスカ「かっこ悪い私のことはみんなが知ってる……だから、みんなが私を哀れんでる……」

アスカ「みんな私を遠くから見るだけになる……それが嫌なの……怖いの……」

アスカ「ここから出たくない……そんな自分を見るのが……嫌なの……」

ヒカリ『もう一度だけ、信じてみない?』

アスカ「なにを?」

ヒカリ『自分を。いつまでも私はアスカを見て安心したくない。私はアスカを見て、変わらなきゃって思いたい』

アスカ「……」

ヒカリ『アスカは気づいてないだけ。考えてるほどみんなアスカを遠ざけない。もっと近い存在だと思ってるから』

アスカ「でも……私は……もう……」

シンジ『アスカ!』

アスカ「え……」

シンジ『今、ミサトさん、ううん、世界が危ないんだ。父さんの所為で。僕とまた一緒にエヴァになってくれないかな? マリさんはこんな状態だし、戦えないんだ』

マリ『わん! わん!』

アスカ「シンジだってもう知っているんでしょう? 私がどんな人間なのかって……」

シンジ『なんのこと?』

アスカ「しらばっくれないで……あれ、見たんでしょ……」

シンジ『あれって……』

ヒカリ『だから、碇くんはまだ見てないし、聞いてもないってば』

シンジ『ああ、あれ。僕はああいうアスカもいいと思うよ』

アスカ「え……ほんと……?」

シンジ『普段のアスカからは想像できないけど、ああいうアスカもいていいと思う』

アスカ「本気で言ってるわけ?」

シンジ『ああいうアスカは可愛いよ』

アスカ「……」

シンジ『僕はもう行くよ。綾波のところにもいかなきゃいけないから。もし一緒に戦う気になってくれたら、ネルフ本部まで来てほしい』

アスカ「……」

シンジ『別に来なくてもいいんだ。大事なことだからアスカがちゃんと決めてほしい。もう一度エヴァになるかどうかは。それだけは強要したくないんだ』

アスカ「シンジはどうするの? 一人でも戦うの?」

シンジ『決めたんだ。僕は僕のやりたいようにするって。誰のためでもない。自分だけのために。自分のしたいことをするんだ』

アスカ「自分のしたいこと……」

ヒカリ『碇くん、行ったよ。追いかけなくていいの?』

アスカ「バカシンジのくせに……こういうときだけ、変なこというんだから……」

ヒカリ『アスカも自分のしたいことをしてきたらいいじゃない。それでもしアスカを笑う人がいるなら私が言ってあげる』

ヒカリ『貴方はアスカを笑えるほど、出来た人間なんですかって』

アスカ「ふふ……。ヒカリだって、笑ってたくせに」

ヒカリ『戦うアスカを笑う資格なんて、私にはないよ』

アスカ「――ありがと、ヒカリ。色々と」

ヒカリ「あ、アスカ……出てきてくれたの……」

アスカ「行かなきゃ。バカシンジに世界なんて救えるわけないじゃない。このアスカ様がいないとね」

ヒカリ「うんっ」

アスカ「行ってくるわ。ヒカリ、帰ってきたら一緒にお風呂にでも入りましょ」

ヒカリ「楽しみにしてるね」

アスカ「それじゃ」

ヒカリ「あ、待って! アスカにこれを渡そうと思ってたの。受け取って」

アスカ「これは……眼帯と包帯……。なーる、そういうことね。私の設定ノートに新たな1ページが刻まれたわ」カキカキ

綾波宅

レイ「私は人形でいい……。こんなに悲しいなら……心なんていらなかった……」

レイ「訓練していればよかった……訓練だけに没頭できた……」

レイ「お母さんに言われたことをしていれば……みんなが私を必要としてくれた……」

レイ「だから……言われた通りにしてきた……」

レイ「それは人形……でも、こんなに苦しいなら……私は……」

ピンポーン

レイ「誰……? この家に来る人なんて……」

ピンポーン

レイ「……」

キャー!

ニョロニョロ

レイ「まさか……使徒……? どうして……?」

ドンドンドン!!

レイ「……逃げ場はない。ここで戦うしかない」

レイ「……」ガチャ

サキエル「……!」

レイ「ふっ!」グキッ

サキエル「……」イタイイタイ!!!

シャムシエル「……」パシンッ!!

レイ「つっ……! でも、まだ……!」

ラミエル「……」キャー

レイ「あ……」

ラミエル「……」グリグリグリグリグリグリグリグリ!!!!!

レイ「くっ……ん……それ、やめ……て……」

サキエル「……」ガオー!!!

ラミエル「……」キャー?

サキエル「……」メッ

ラミエル「……」キャー…

レイ「敵意がない……? 戦うつもりはないの……?」

シャムシエル「……」ニョロニョロ

レイ「……」

サキエル「……」ブンブンッ

レイ「そう……」

ラミエル「……」キャー

レイ「さっぱりわからないわ」

サキエル「……」ションボリ

レイ「彼は話すことができていた。貴方たちは話すことはできないの?」

サキエル「……」コクッ

レイ「そう」

ラミエル「……」キャー!

レイ「何をするつもりなの?」

シャムシエル「……」ニョロニョロ

レイ「その紙に何かを書きたいの?」

サキエル「……」コクコクッ

サキエル「……」カキカキ

シャムシエル「……」ニョロニョロ

ラミエル「……」キャーッ

レイ「……」

レイ(この子たちは何をしようとしているの?)

レイ「……でも私には関係がないこと。私は命令されてから考える。言われたことしかしない人形だもの」

レイ「それでいいの。そうして生きたほうが苦しまなくていい。悩まなくていいから」

レイ「それで……きっと忘れられるから……ペンペンのことも……碇くんのことも……」

レイ「だから……」

サキエル「……」デキター

レイ「え?」

サキエル「……」スッ

レイ「これは……絵……?」

サキエル「……」

レイ「この絵は……なに……? 足の長い何かが……描かれている……」

シャムシエル「……」ニョロニョロ

レイ「この物体はなに? 私と何かあるの? 繋がっているの?」

ラミエル「……」キャー

レイ「もしかして……ペンペン……?」

サキエル「……」コクコクッ

レイ「ペンペン……」

シャムシエル「……」カキカキ

レイ「何を書いているの……?」

シャムシエル「……」スッ

レイ「ありがとう……? どうしてお礼を言うの?」

ラミエル「……」グリグリグリグリグリグリグリ!!!!!

レイ「テーブルを掘らないで」

ラミエル「……」キャー

レイ「テーブルに文字が……。『つたえてほしい 言われた』……? ありがとうを伝えてほしいと言われたの?」

サキエル「……」コクコク

レイ「ペンペンが……そういったの……?」

シャムシエル「……」ニョロニョロ

レイ「どうして……お礼を……?」

サキエル「……」カキカキ

ラミエル「……」キャー!!

サキエル「……」サッ

レイ「これは私……? 私とペンペン……?」

サキエル「……」

レイ「どうして私、こんなに笑っているの……? どうしてこんなにうれしそうなの……?」

ラミエル「……」グリグリグリグリ!!!!!!!!

シャムシエル「……」ガリガリ

レイ「壁を傷つけないで」

ラミエル「……」キャー

レイ「……『たのしかった いっしょにいられて しあわせ もっといっしょにいたかった まもれて よかった』……」

サキエル「……」コクコクッ

レイ「そう……ペンペンがそう言ったのね……」

シャムシエル「……」ニョロン

レイ「そう……」

サキエル「……」

レイ「ありがとう……。感謝の言葉。それを言わなければいけないのは私のほう……」

レイ「ペンペンがいたから、私は楽しいことを学べた。ペンペンがいたから好きというのがどういうことかわかった。

レイ「碇くんのことが好きって、気が付けた」

レイ「だから、ありがとう……」

サキエル「……」クイッ

シャムシエル「……」コクッ

ラミエル「……」キャーッ

レイ「貴方が幸せだと感じたように……私も幸せだった……」

レイ「貴方がいたから……私は……人間になれた気がする……」

レイ「だけど……私も……」

レイ「もっと……一緒にいたかった……もっと……もっと……」

シンジ「――綾波!」

レイ「いか、り……くん……」

シンジ「綾波、どうしたの!? 何かあったの!?」

レイ「碇くんっ」ギュッ

シンジ「うわっ!?」

レイ「私……碇くんのことが好き……」

シンジ「な、なにを急に……!? そ、それより、その……大変なことが……!!」

レイ「大事な家族が気づかせてくれたことだから」

シンジ「綾波……泣いてるの……?」

レイ「だから、この気持ちを碇くんには伝えたかった」

シンジ「……」

レイ「私は人形じゃない。人形には戻りたくない。お母さんがいなくなって、心をなくしたあのときには戻りたくない」

シンジ「綾波は人形なんかじゃないよ。楽しいときには笑うし、悲しいときには泣けるじゃないか」

レイ「碇くん……」

シンジ「なにより綾波は優しい。どこにでもいる普通の女の子じゃないか」

レイ「ありがとう……」

シンジ「あ、えっと、とにかく今は大変なんだ」

レイ「何かあったの?」

シンジ「父さんが世界を壊そうとしている。よくわからない理由で、理不尽な理由で」

レイ「碇司令が……」

シンジ「僕はそれを止めたい。できれば綾波にも協力してほしいんだ」

レイ「……」

シンジ「絶対じゃない。嫌なら嫌って言ってほしい。エヴァになることを強制なんてしたくないから」

レイ「……行くわ」

シンジ「いいの?」

レイ「ペンペンがいた世界を壊したくないもの」

シンジ「綾波……」

レイ「行きましょう。エヴァのパーツを回収しないといけないわ」

シンジ「そうだね。まずはネルフ本部にいこう。マリさん、ついてきて」

マリ「わんわん!」タタタッ

ネルフ本部

シンジ「なんとかして中に入れないかな」

レイ「ロックはかけられていないみたい」

シンジ「それなら……」ピッ

マリ「くぅーん?」

シンジ「よし、開いた――」

日向「シレイ ノ リネン ヲ リカイ デキナイ ニンゲン ハ コロセ」

シンジ「うわっ!?」

レイ「あの装備はエヴァ? もしかしてエヴァ量産機……エヴァシリーズ……完成していたのね……」

シンジ「どういうこと!?」

レイ「エヴァに選ばれなくてもエヴァになれるパーツのこと。でも、ヒトでなくなり、エヴァに体を取られてしまう。5号機の人が使ったシステムと類似点が多いらしいわ」

シンジ「どうしてそんなことを……?」

レイ「一年前、弐号機の実験時に赤木博士が話していたもの。弐号機は量産機のプロトタイプだって」

シンジ「マリさんみたいな人を増やして何をするつもりなんだ、父さんは……」

マリ「わん! ワンワン!! ウゥゥゥ!! ワン!!」

レイ「それは分からない。世界を壊すための駒に過ぎないのかもしれない。けど、今は……」

日向「コロセ コロセ コロセ」

レイ「前に進まないと」バキッ

日向「ウッ」

シンジ「そうだね。考えてもあの人のことなんてわかるわけないんだ。急ごう」

レイ「こっち」

シンジ「うんっ! マリさん、ついてきて!!」

マリ「わんっ!」タタタッ

日向「マテ ニンゲン シレイ ノ リレン ヲ リカイシロ」

シンジ「ついてくるけど、エヴァのパーツなしじゃまともに戦えないし」

レイ「5号機の人なら戦えるかもしれないわ。彼女はパーツがなくてもエヴァと変わらないから」

シンジ「だからって、マリさんだけに戦わせるなんてできないよ」

マリ「くぅーん」ペロペロ

シンジ「顔は舐めないで!!」

レイ「碇くんは優しいのね」

通路

シンジ「もうすぐ更衣室だ。がんばろう、綾波!!」

レイ「ええ」

マリ「ワン!! グルルルル……!!」

シンジ「な……あれは……」

青葉「シレイ ノ タメ ニ ハタラク」

加持「タネ ヲ マクコト シカ デキナイ」

シンジ「知らない人ばかりだ……」

レイ「ネルフを去ってしまった人だと思う」

マリ「ワン!! ワンワン!!」

レイ「突破しないとエヴァのパーツは回収できないみたい」

シンジ「パーツなしで戦うしかないのか……」

レイ「私が囮になる。碇くんはその隙にパーツを回収して」

シンジ「そんなのできるわけないよ!! 綾波が危ないじゃないか!!」

レイ「でも……」

シンジ「ここまで来たんだ。僕も一緒に戦う。綾波を一人になんてさせない」

レイ「……うれしい」

シンジ「いつだって一緒だよ、綾波」

レイ「ええ……」

マリ「くぅーん?」

青葉「ハタラク ハタラク ハタラク」

加持「タネ マク タネ マク タネ マク」

シンジ「くる……!!」

レイ「……」ザッ

「ふん!! やーっぱり、私がいないと何にもできないみたいね!! バカシンジとエコ贔屓は!!!」

シンジ「この声……」

アスカ「――紅き烈風、アスカ様。参上」

シンジ「アスカ!! その腕の包帯はどうしたの!?」

レイ「眼帯……。怪我をしたの?」

アスカ「違うわ。これは私の内に封じ込めた使徒を抑え込むための拘束具なのよ。ぐっ……!! 左目と右腕が疼きだしたじゃない……!! 私は使徒に侵されてから、この疼きと戦ってたのよ……!!」

シンジ「そうだったの!? アスカ、体は大丈夫!?」

レイ「あと、頭も」

アスカ「沈まれ……。ふぅー。ええ、この程度のことはなんてことないわ。その代りに私は使徒の持つ強大な力を使いこなせるようになったもの。代償としては安いもんよ」

シンジ「来てくれたんだね。ありがとう、アスカ」

アスカ「別に! シンジのことが心配できたんじゃないんだから!! 勘違いしないで!!」

マリ「くぅーん」

アスカ「とにかく!! バカシンジと依怙贔屓はさっさとパーツを回収!! ここは私とイヌメガネが引き受けたわ!!」

シンジ「いいの? そんなボロボロの状態なのに」

アスカ「私はあんたみたいに軟弱じゃないのよ! 早くいって!」

シンジ「わかった。マリさんのこと、お願い」

アスカ「りょーかい!! イヌメガネ!!! こっちよ!!」

マリ「ワォーン!!!」

青葉「ハタラク シレイ ノ タメ ニ」

加持「タネヲ マク シカ デキナイ」

アスカ「好きなだけまいてろぉぉ!!! うおりゃぁぁぁぁぁ!!!!!」

>>453
アスカ「沈まれ……。ふぅー。ええ、この程度のことはなんてことないわ。その代りに私は使徒の持つ強大な力を使いこなせるようになったもの。代償としては安いもんよ」

アスカ「鎮まれ……。ふぅー。ええ、この程度のことはなんてことないわ。その代りに私は使徒の持つ強大な力を使いこなせるようになったもの。代償としては安いもんよ」

更衣室

シンジ「あった!! これで戦える!!」

レイ「早く装着しましょう」スルッ

シンジ「ちょっと綾波!! ここで着替えないでよ!!」

レイ「一刻を争うわ」

シンジ「そ、そうだけど……。綾波って時々大胆なことするよね」

レイ「そう?」

『おりゃぁぁぁぁぁ!!!!』

『ワオワオーン!!!』

レイ「……」ゴソゴソ

シンジ「見ちゃダメだ……見ちゃダメだ……見ちゃダメだ……見ちゃダメだ……見ちゃダメだ……」

シンジ「……」チラッ

レイ「なに?」

シンジ「ごめん!! は、早く着替えよう!!」

『まけてらんないのよぉぉ!!! あんたたちにぃぃぃぃ!!!!』

通路

アスカ「これでもか!! これでもか!!!」ポカポカ!!!

シンジ「アスカ!! お待たせ!!」

アスカ「おっそいのよ!! こっちはもう片付いたわ」

加持「ウゥ……タネヲ……マクシカ……」

シンジ「やっぱりすごいね、アスカって」

アスカ「ふん!! シンジに褒められたって、全然うれしくないんだからね!!」

シンジ「そういえば仮設5号機はどこにあるの?」

アスカ「さぁ。今日が現場復帰の私にわかるわけないじゃない」

レイ「あれは完全に廃棄されたみたい」

シンジ「それじゃあマリさんはこのまま戦わないといけないの?」

マリ「くぅん」モジモジ

アスカ「いいじゃない。結構役にたつわよ。こんなんでも」

シンジ「けど、エヴァになれなきゃ危ないよ。父さんだってエヴァになってるんだし」

レイ「なら、あれを使いましょう」

格納庫

シンジ「ここに何があるの……?」

レイ「ここ」ピッ

アスカ「これって……」

シンジ「3号機……!?」

レイ「そう」

マリ「わんわん!」

シンジ「でも、3号機は使徒に浸食されているから封印されたんじゃ……」

アスカ「しかも、性質悪いわよ。私がどんな目にあったかわすれた――。ぐ!! 左目が痛い……!! 右腕も……!!! あぁぁ!!!」

シンジ「アスカ!?」

アスカ「平気よ。私の心配なんてしないで」

シンジ「そんなわけにはいかないよ。アスカが苦しんでるのを黙ってみているなんてもうしたくないんだ」

アスカ「そんなこと言っても全然心に響かないんだから!」

レイ「けど、現状ではこれ以外にエヴァのパーツはないわ」

マリ「わん! わん!」カチャカチャ

シンジ「マリさん!! 勝手に装着しないで!!」

マリ「くぅーん?」

レイ「もう手遅れ」

アスカ「シンジ!! このイヌメガネの半径3メートル以内には入らないで!!」

マリ「わふ……!?」

シンジ「マリさん!!」

マリ「うぅ……ぅぅぅ……!!」

アスカ「バカシンジ!! 近づくな!!!」

シンジ「だけど、あんなに苦しそうにしているじゃないか!!」

マリ「ぐ……うぅぅ……あぁぁ……!! んん……くっ……!!」

マリ「あぁぁぁぁぁ!!!! っとぉ。ふぅー。なんとかなったぁ」

シンジ「え……」

マリ「ようやく理性が戻ったにゃぁ。いやー、実際ちょー焦ったぁ」

アスカ「あんた、なんともないわけ?」

マリ「やっぱり拘束具がないとね。エヴァのパーツは本来本能を抑制させるためにあるんだしさ」

シンジ「そうなんですか?」

アスカ「そんな話聞いたことないけど?」

マリ「私たちは使徒と戦うために呼ばれた。使徒を前にすると戦わなきゃって本能で思っちゃうから呼ばれた。それは聞いた?」

シンジ「はい。だから僕たちはエヴァになれるんだって」

マリ「んで、本能だけじゃ暴走して使いものにならないっしょ。だからこのパーツにはその暴走を抑える役割があったわけ」

レイ「貴方が使ったシステムはそれを破棄するものだったのね」

マリ「そーいうこと。本能を無理矢理暴走させる、ザ・ビースト。まぁ、使いこなせなかったから王子様の体中をペロペロしちゃったけど」

アスカ「どーいうことよ!!! エロシンジぃ!!!」グイッ

シンジ「まってよ!! 確かに顔とか手は舐められたけど……!!」

レイ「それより、パーツに浸食したはずの使徒は?」

マリ「んー? なんか大人しくなってるっぽい。くらーいところに閉じ込められて反省でもしたんじゃない?」

レイ「そう」

マリ「それはそうと、王子様っ。私のペロペロはきもちよかったぁ? もういっかいしてあげようかぁ? ふふふ」

シンジ「ま、まって! それどころじゃなくて……!!」

アスカ「エロメガネ!! あんた本当に大丈夫なんでしょうね!?」

「やはりそれに手を出したか」

シンジ「誰……!?」

冬月「否、そこに縋るしかなかった」

マリ「冬月先生か。邪魔する気満々ってとこかぁ」

冬月「邪魔をしているのは君たちのほうだ。碇の理想郷はすぐそこにある。このまま静観しておいてはくれないかね」

マリ「私は最初っからゲンドウくんの考えには反対していた。世界にたった二人きりなんてロマンチックではあるけど、つまんないじゃん」

冬月「下らぬ競争もない。嫉妬もない。憎しみもない。美しい世界だとは思わないか」

マリ「思わない。多少醜いほうが楽しいって」

冬月「価値観の相違だな。議論しても無意味だ」

マリ「そうなるにゃ。で、冬月先生は元教え子すらも手にかけちゃう気?」

冬月「君が立ちふさがるというのなら、そうなるな」

マリ「じゃ、戦うしかないってことか」

冬月「優秀な生徒だったのに。残念だ」

マリ「そりゃどーも」

冬月「では、終焉の幕を上げるとするか」

シンジ「え……」

ミサト「シレイ ノ ユメ ハ アタシ ノ ユメ」

リツコ「スベテ ハ シレイ ノ シナリオ ドオリ ニ」

マヤ「シレイ ノ ケイカク ハ フケツ ジャ ナイ」

シンジ「ミサトさん!!! ミサトさん!!!」

冬月「今の葛城一尉は有象無象の量産機でしかない。君の声は届かんよ」

アスカ「人間のすることじゃないわね」

シンジ「カヲルくんのほうがまだ人間らしかった……!!」

冬月「せめて、人間らしく戦わせてやりたかったが、エヴァ量産機はこのために作られたのだから仕方あるまい」

レイ「このためってどういうことですか?」

冬月「君たちのような反乱分子を制圧するために用意された保険。エヴァを止めるのはエヴァでなければならない」

マリ「にゃるほど。エヴァンゲリオンが敵になることも想定してたってわけだ」

冬月「当たり前だ。エヴァはリリンの僕である前に人間なのだからな」

レイ「だから、量産機はヒトであることを捨てるんですね」

冬月「ヒトである以上、飼い主に噛みつくかもしれん。そうならないための薬は必要になる」

シンジ「どうして……こんなひどいことができるんだ……!!」

冬月「理想の実現には犠牲も必要になる」

シンジ「そんな理想なんて……!!」

冬月「君とっては何の価値もないかもしれない。しかし、我々にとってはヒトの命よりも価値あるものだ」

マリ「我々……?」

冬月「話は終わりだ。どのような過程を進むにしろ、結末は同じだ」

ミサト「シンジ クン オトナ ノ キス ヲ シテアゲル」

シンジ「ミサトさん!! もとに戻ってよ!! ミサトさん!!」

ミサト「コノツギ モ サービス サービス」

シンジ「そんな……ミサトさんと戦うなんて……」

マリ「王子様。ここは私たちに任せて、先にいっちゃって」

シンジ「え……」

アスカ「こっちは戦いのプロフェッショナルよ。素人はいたって邪魔なだけ」

レイ「碇くん。貴方は碇司令を止めないといけないわ」

シンジ「みんな……」

冬月「ふっ。そうなるか」

アスカ「シンジだけは通してもらうわよ」

冬月「追うことはせん。私ではエヴァと戦えない」

レイ「碇くん、行って」

マリ「すぐに追いつくって」

シンジ「うん! 先に行って待ってるから!!」

アスカ「待たなくていいわよ!! さっさと終わらせてきて!!」

シンジ「わかった!!」

冬月「運命を知らない子ども。己の限界などまだ見えもしていない。愚かしいことなのか、それとも羨望を向けるべきものなのか」

マリ「爺の戯言をきいてられるほどこっちも暇じゃないってね!!!」

マヤ「シレイ ハ フケツ ジャナイ」ガキィィィン

マリ「っと! やるかぁ、伊吹ちゃん? 一応、私より後輩なんだから、その辺はわきまえてほしいにゃあ」

リツコ「シレイ ノ タメ ニ」

レイ「ばあさん」

リツコ「ナンデスッテ?」

ミサト「シレイ ノ ユメ ヲ カナエルタメ ニ」

アスカ「あのミサトがまさか操り人形になっちゃうなんてね。傑作だわ」

ミサト「シレイ ノ ユメ ヲ」

アスカ「私のこともシンジのことも覚えてないみたいね」

ミサト「シレイ ノ」

アスカ「私のママもそんな目をしてたわ。嫌な目。この世で一番嫌いなもの」

ミサト「アタシ ハ」

アスカ「くっ……!! 左眼がうずく……!! 使徒が暴走しようとしている……!!」

アスカ「ダメよ……この力を使えばミサトを殺しちゃう……!! そんなのは絶対にダメ……!!」

ミサト「アタシ ハ シンジ クン ナニ モ シテ アゲラレナカッタ」

アスカ「ミサトだけは無傷で帰ってきてもらうんだから……!! 鎮まれ、私の闇の力……!!」

ミサト「レイ ニモ アスカ ニモ マリ ニモ ナニモ ナニモ ナニモ ナニモ」

アスカ「行くわよ、ミサト。そのウナギみたいなパーツ、ひん剥いてやるわ!!!」

ミサト「ユルシテ ユルシテ ユルシテ ユルシテ」

アスカ「どりゃぁぁああああ!!!!!」

実験施設

シンジ「ここだ……。まだカヲルくんと父さんがここに……?」

ゴゴゴゴゴ……

シンジ「隔壁が……開く……」

ゲンドウ「来たか。シンジ」

シンジ「父さん……」

ゲンドウ「お前から来るとは予想外だが、手間が省けた」

シンジ「カヲルくんはどうしたの?」

ゲンドウ「タブリスのことか。床をよく見ろ」

シンジ「床……?」チラッ

ゲンドウ「ふんっ」ドゴッ!!!

シンジ「ごほっ……!?!」

ゲンドウ「敵を前にして視線を下げるな」

シンジ「くっ……これが大人のやり方なの……?」

ゲンドウ「そうだ」

カヲル「来てくれたんだね……シンジくん……」

シンジ「カヲルくん……!! 磔に……!?」

ゲンドウ「奴には世界改変の生贄になってもらう」

シンジ「生贄……?」

ゲンドウ「17番目に堕ちたといえど、その魂は創生の主であるアダムだ。あの魂にはまだ利用価値がある」

シンジ「そうやって……自分以外は道具としてしかみてないんだね……父さん……」

ゲンドウ「ユイだけは別だ」

シンジ「母さんはもう死んだじゃないか」

ゲンドウ「貴様がユイのことを母と呼ぶな。貴様はユイから生まれたわけではないのだからな」

シンジ「な……」

ゲンドウ「知らなかったか。だろうな。教えたことがなかった。教える必要もなかったが」

シンジ「母さんは……母さんじゃないの……」

ゲンドウ「お前の母親はお前を産み落としてすぐに目の前から消えてもらった。ユイとの結婚には邪魔だったからな」

シンジ「そ、れ……本当のこ、となの……?」

ゲンドウ「一夜限りの相手だったが、まさかの副産物だ。だが、金で解決できただけマシだった」

シンジ「なんだよ……それ……」

ゲンドウ「お前を引き取ったのは、この日のためだ」

シンジ「え……」

ゲンドウ「14年前。アダムが見つかり、世界創造の術を手に入れた。そしてその4年後、お前の目の前で世界を変えた」

ゲンドウ「当初からエヴァンゲリオンの開発は暗礁に乗り上げていた。莫大な予算。追いつかぬ技術。人員の不足。開発できるだけの土壌がまだなかった」

シンジ「だから、人類でも使徒に勝てるようにしただろ。どうしてそれが僕なの」

ゲンドウ「知らぬ子どもを使うよりは実の息子を使ったほうがはるかに良い。少し煽てれば掌で踊ってくれるからな」

シンジ「そんな理由で……僕は……」

ゲンドウ「お前は、よくやってくれた」

シンジ「うわぁぁぁぁぁ!!!!」

ゲンドウ「初号機ではMark.6に勝てはしない。教えたはずだ」

シンジ「だまれぇ!!! 父さんだけは!!! 父さんだけは許さない!!!」

ゲンドウ「無駄だ。フィールド、全開」ギィィィン

シンジ「ぐっ……!!」

ゲンドウ「子どもが親を超えるなど、ありえない」

カヲル「シンジくんの痛みが伝わってくる……」

ゲンドウ「そしてお前はまだA.T.フィールドすらまともに使いこなせていない」

シンジ「こんのぉぉ……」

ゲンドウ「A.T.フィールドにはこういう使い方もある」ピカッ

シンジ「え――」

ドォォォン!!!

ゲンドウ「ロケットパンチ」

シンジ「ぐ……ぁぁ……」

ゲンドウ「まだ立ち上がるか」

シンジ「僕は……決めたんだ……僕のやりたいようにするって……決めたんだ……」

ゲンドウ「結局は一緒か」

シンジ「一緒にしないでよ!! 僕は父さんみたいに他人を道具扱いしたりしない!!!」

ゲンドウ「我を通すならば冷徹になれ。誰かを道具にしなければ理想は築けない」

シンジ「そんな理想なら僕はいらない!!! 自分一人が叶える理想なんて必要ない!!! みんなで叶えるから理想なんじゃないか!!!」

ゲンドウ「下らん。全員が貴様に同調するとでも思っているのか。思い上がりも甚だしい」

シンジ「そうだよ。僕に合わせる必要なんてないんだ。強要したりなんてしない。みんなが自分の意思で決めればいいじゃないか」

ゲンドウ「それは対立を生み、争いを生む。醜悪なだけだ」

シンジ「ケンカしたっていい。なぐり合わないとわからない不器用な人だっているんだ」

ゲンドウ「理解できんな」

シンジ「父さんに理解してもらおうなんて思ってないよ。だから、戦うって決めた」

ゲンドウ「闘争に身を投じるか。愚かしいことだな」

シンジ「人間はバカだよ。汚い部分だってある。カヲルくんがそういった」

カヲル「……」

シンジ「でも、そんな僕たちをカヲルくんは好きだって言ってくれた。きっと、嫌な部分も含めて好きだっていってくれたんだ。僕たちを認めてくれたんだ」

ゲンドウ「戯れ言を」

シンジ「ヒトじゃないカヲルくんがわかってくれたことなのに、父さんは分からないんだね」

ゲンドウ「分からんな。分かりたくもない」

シンジ「なら、こうするしか、ないじゃないかぁぁぁ!!!!」

ゲンドウ「ロケットパンチ」ドォォン!!!!

シンジ「うわぁぁぁぁぁ!!!」

カヲル「シンジくん!!」

シンジ「く……そ……」

ゲンドウ「そんな世界に嫌気がさしていた。ユイも同じだった」

シンジ「まだだ……まだ……」

ゲンドウ「ユイはいつもいっていた。「世界から争いがなくなればいいのに。そうしたら失われた自然も元に戻るはず」と」

シンジ「これなら……!!! プログレッシブナイフで!!」ジャキン

ゲンドウ「理想論者と罵るだろう。だが、そんなユイがこの宇宙で最も美しいと思えた」

シンジ「これで!!!」

ゲンドウ「だから、叶えてやることにした。争いのない世界をユイに見せてやることにした」ギィィィン

シンジ「A.T.フィールド……!」

ゲンドウ「では争いのない世界とはなんだ? どうすれば争いは消えるのか? 導き出される答えは一つしかない」

ゲンドウ「愛し合う二人だけの世界だ」ドォォン

シンジ「う……!!」

ゲンドウ「この世に愛し合う男女しかいなければ争いは生まれん。そして自然の豊かになる。これこそ理想郷にふさわしい」

シンジ「そんなの母さんだけの理想じゃないか……」

>>477
ゲンドウ「この世に愛し合う男女しかいなければ争いは生まれん。そして自然の豊かになる。これこそ理想郷にふさわしい」

ゲンドウ「この世に愛し合う男女しかいなければ争いは生まれん。そして自然も豊かになる。これこそ理想郷にふさわしい」

ゲンドウ「……」グルグル

カヲル「腕を回し始めた……! いけない! シンジくん!!」

シンジ「え?」

ゲンドウ「大車輪ロケットパンチ」ピカッ

シンジ「ひっ――」

ドォォォォォン!!!!

ゲンドウ「何度も言わせるな。ユイのことを母と呼ぶな。虫唾が走る」

シンジ「ず……う……」

ゲンドウ「そろそろ幕引きだな。シンジ」

シンジ「ぐぅ……ぅ……」

ゲンドウ「息子が父親を越えることはできない。永遠にな」

シンジ「黙れ!!! 父さんなんてお金をたくさん使っていい装備をそろえただけじゃないか!!!! 大人は汚いよ!!!」

ゲンドウ「ふんっ」ドゴォッ

シンジ「お……ぇ……!?」

ゲンドウ「これが大人の力だ」

カヲル「やはり運命には抗えないんだね……」

ゲンドウ「終わりだ」ガシッ

シンジ「ぐ……ぎ……」

ゲンドウ「悔しいか? だが、それもすぐに忘れることができる。新たな世界では負の感情など生まれない」

シンジ「くそ……!! くそ……!!」

ゲンドウ「もっとも、碇シンジも生まれないがな」

シンジ「いやだ……いやだいやだいやだ……!! このまま……父さんの好きにさせるなんて……!!!」

ゲンドウ「さらばだ。ロケットパン――」

アスカ「スーパー!!! イナズマ!!!! キーック!!!!」

ゲンドウ「む……」ギィィィン

アスカ「ちっ!!!」

シンジ「アスカ……!」

アスカ「何情けない顔してんのよ!! ホント、私がいないとダメなんだから!」

ゲンドウ「ベンチウォーマーが加勢したところで何も変わらん」

アスカ「言ってくれるわね!! 大魔王は勇者にやられるって相場がきまってるのよ!!」

シンジ「ミサトさんたちはどうなったの!?」

アスカ「パーツを全部ひん剥いたら気絶したわ。今は格納庫で寝てる。早く戻らないと風邪ひくかもね」

シンジ「それってどういうこと?」

アスカ「うるさい!! 今は目の前のボスを倒すわよ!!!」

シンジ「う、うん」

ゲンドウ「19番目の使徒に楯突くリリンが哀れでならんな」

マリ「お、やってるやってるぅ。こりゃ、いい時に参加できそうだにゃぁ」

レイ「碇くん、怪我はない?」

シンジ「大丈夫だよ。みんなこそ、無事だったんだね」

マリ「ま、量産機に負ける3号機じゃないし」

レイ「あとは……」

ゲンドウ「レイまで歯向かうか。ユイとは似ても似つかんな」

レイ「貴方を倒すことに躊躇いはない。ペンペンがいた世界を失くしたくないから」

マリ「誰だって今いる世界には愛着があるもんだ」

アスカ「こっからが本番よ。くっ……!! ふふ。私の左眼と右腕も暴れだそうとしているわ。楽しくなりそうじゃない。今日のパーティーは」

格納庫

ミサト「うぅ……」

リツコ「すぅ……すぅ……」

マヤ「さむぃ……」

冬月「所詮は量産機か。足止めすらもできなかった」

冬月「これで碇の下に四体の選ばれしエヴァが揃う」

冬月「垣間見るのは激動の混沌か、それとも平常なる安寧か」

冬月「まぁ、どちらでもいい。どちらに転ぼうとも、ユイくんには会えるからな」

冬月「さて、まだ役に立ってもらうぞ」カチャカチャ

ミサト「うっ……うぅ……」

冬月「弐号機も3号機も零号機も甘いな。量産機の装備を剥がすだけでは倒したとは言えん。そうしたヒトとしての心が惨劇を生む」

ミサト「アタシ ハ リソウ ノ タメ ニ」

リツコ「スベテ ハ フクシレイ ノ タメ ニ」

マヤ「フクシレイ ハ フケツ ジャ ナイ」

冬月「世界は終わりを迎えた。そして世界が始まる」

実験施設

アスカ「これが私の内に秘められたアルティメット・ジャスティス・パワー!!!」

アスカ「紅空炎爆弾(ポジトロンライフル)!!!」バァァァン!!!!

ゲンドウ「きかんな」ギィィィン

アスカ「うそでしょ!?」

マリ「だったら、こいつはどうだぁ? サンダースピア!!」シャキン

ゲンドウ「……」

マリ「うにゃ!!!」

ゲンドウ「Mark.6には届かん」ギィィン

マリ「にゃろぉ……!!」

レイ「ロンギヌスの槍」ジャキン

ゲンドウ「む……」

レイ「これなら」ブンッ

ゲンドウ「無力は罪だ」ボキッ!!!

レイ「そんな……折るなんて……」

シンジ「何をしても攻撃が弾かれる……」

マリ「ゲンドウくんのA.T.フィールドは特別使用っぽいなぁ。私たちじゃどうにもできないって感じだ」

レイ「ロンギヌスの槍まで無効化された……」

アスカ「それ普通の槍じゃない。どういう設定なのよ? 面白かったら私の設定ノートに書き加えてもいいわよ?」

レイ「貴方の真似をしただけ」

シンジ「綾波も恐怖と戦ってるんだね」

マリ「かわいいとこあるぅ」

アスカ「……。あぁぁぁ!! 右腕が暴れだしそう……!! これ以上は抑えきれない……!!! あぁぁ……!!」

ゲンドウ「万策は尽きたか。では、こちらからいくぞ」

シンジ「しまっ――」

ゲンドウ「ブロウクンマグナム」ドォォォン!!!!

アスカ「きゃぁぁぁ!!!」

シンジ「うわっ!?」

レイ「くっ……。これが碇司令の力……」

マリ「予算をいくら横領したらそんな高性能のエヴァになるんだか」

>>495
マリ「ゲンドウくんのA.T.フィールドは特別使用っぽいなぁ。私たちじゃどうにもできないって感じだ」

マリ「ゲンドウくんのA.T.フィールドは特別仕様っぽいなぁ。私たちじゃどうにもできないって感じだ」

ゲンドウ「諦めろ、シンジ。プロトタイプが新型機に勝てると思うのか」

シンジ「それでも……やらなきゃ……」

ゲンドウ「大人しくしていればいい。お前たちは世界の輪廻から弾きだされたことも気が付けず、消えるだけだ。痛みも苦しみもない。完全な無へと旅立つ」

アスカ「結局は死ぬってことじゃない。そんなのまっぴらごめんよ!!」

レイ「私が死んでもこの世界は壊させない。ペンペンがいたことを消させない」

マリ「ゲンドウくん強情ー。民主主義にのっとって、多数決で負けってことになんない?」

ゲンドウ「ユイに会うために費やした時間をお前たちの塵にも劣る理念で無駄にすることはできん」

シンジ「父さんは他人のことなんて一つも考えない。きっと母さんが生きていれば、父さんを止めていたと思うよ」

ゲンドウ「何度言えばわかる。貴様の母ではない。ユイを母と呼んでいいのは、レイだけだ」

レイ「え……」

アスカ「それって、依怙贔屓とバカシンジが……」

マリ「戸籍上は兄妹の関係になるね」

レイ「私と……碇くんが……兄妹……」

アスカ「ふぅーん。兄妹なの。ふぅん」

マリ「姫、顔がにやついてるけど、なにかんがえてんの?」

シンジ「僕の母さんは碇ユイって人だけだ。他には知らない」

シンジ「優しくて、花が大好きで、いつもいい匂いがしていて……」

シンジ「みんなが自然と幸せになる。そんな人だった」

ゲンドウ「ああ、そうだ。だからこそユイを選んだ」

シンジ「今の父さんを見たら、母さんは怒るよ。ううん、絶対に嫌いになる」

ゲンドウ「知った風な口を利くな」

シンジ「父さんこそ、母さんがどんな人だったのか忘れてる。父さんみたいな人が一番嫌いだったはずだよ。自分本位で他人を道具のように扱う人なんて」

ゲンドウ「黙れ」

シンジ「二人きりになれば争いは生まれないって言ったけど、そんなことはないんだ。きっと父さんと母さんは二人きりでケンカをする」

ゲンドウ「そんなことはない」

シンジ「自分以外の人間が一人いるだけで争いは生まれる。だって、人には心があるから」

シンジ「ヒトの心が分からない父さんが、争わないわけがないんだ。きっとたくさん喧嘩して傷つけあって、二人だけの世界が嫌になって、無様に死んでいくんだ」

ゲンドウ「ロケットパンチ!!!」ドォォォン

シンジ「ぐぁ……!?」

ゲンドウ「随分と喋るようになったな、シンジ。エヴァになったことで気が大きくなったか。だが、その小さな力では何も変えられん」

レイ「碇くん!」

アスカ「シンジ!?」

マリ「お……? もしかして……。だったら……」

シンジ「く……う……」

ゲンドウ「いくら吠えようとも、お前には否定するだけの力がない。残念だったな」

シンジ「もういいよ……母さんに会いにいけばいい……」

ゲンドウ「なに……」

シンジ「絶望する父さんが……目に浮かぶ……」

ゲンドウ「……言い残したことはもうないな?」

シンジ「……」

ゲンドウ「死ね」グルグルグル

カヲル「リリンの王だった者が新たな使徒になり、リリンを滅ぼす。そして創生させる新世界。築き上げられた文化の極みは崩壊し、宇宙は衰退していく。悲しいね」

ゲンドウ「必殺、ブロウクンファントム」ピカッ

シンジ「ごめん……みんな……僕は……」

マリ「大チャーンス!!! モード反転!! 裏コード!!! ザ・ビースト!!!」

アスカ「え……!?」

レイ「そのシステムは……!」

マリ「ワンワンワンワンワン!!!!」ダダダダダッ

ゲンドウ「なに……」

マリ「ガァァァウ!!!」バキッ

ゲンドウ「ぐ……!!」

シンジ「マリさんがA.T.フィールドを突破した!?」

レイ「違う。突破したんじゃない。司令のフィールドが消えてるだけ」

マリ「ガルルルルル!!!」ガブッ!!

ゲンドウ「おのれ……。離れろ、野獣め」ドゴォ!!!

マリ「きゃいん!」

シンジ「マリさん!!」

ゲンドウ「姑息な真似をしてくれる。本能に特化させたところで足に噛みつくのが関の山だ」

アスカ「そういうことね。イヌメガネ。あんたの行動は無駄にしないわ」

マリ「くぅーん……」

シンジ「どういうこと?」

アスカ「あんた、バカぁ? あいつはA.T.フィールドの形を拳に変えて、こちらに飛ばしてきてるのよ。つまり、あのロケットパンチを発射する瞬間は完全無防備、丸裸じゃない」

シンジ「あ……」

レイ「司令がロケットパンチを使うときは私たちも攻撃できる」

アスカ「そういうことね。でも、口でいうのは簡単だけど、やるのは厳しいわね。どっちにしろパワーでは圧倒的に負けてるんだし」

レイ「全て、一瞬で決まる」

アスカ「しかも一回でも仕掛けたらこっちの狙いがバレるから、チャンスは一度きりね」

シンジ「一発勝負ってことか」

アスカ「一人はロケットパンチを使わせる役、残りの二人が総攻撃を仕掛ける。いいわね」

レイ「誰が囮になるの?」

アスカ「攻撃を仕掛ける二人はできるだけ息の合ったほうがいいわよね」

シンジ「だったら……」

アスカ「依怙贔屓とバカシンジで決まりじゃない。囮役は私ね」

シンジ「どうして!?」

アスカ「兄妹なら呼吸も阿吽ってやつでしょ。しっかりやんなさいよ」

レイ「貴方は危険な役をしたいだけ」

アスカ「違うわ。適材適所よ。この呪われた左眼と右腕があれば多少の危険も平気だし」

レイ「それは設定」

アスカ「うっさいわね。私の作戦に文句でもあるわけ?」

シンジ「……」

アスカ「うぐ……!! 右腕が血を欲してる……!! 悪魔の声が……聞こえてくる……!!」

シンジ「アスカ。僕と一緒に攻撃を仕掛けよう。綾波、本当にごめん」

レイ「いいわ。私が囮役になる」

アスカ「待ちなさいよ!」

レイ「きっとあなたのほうが適任だから」

アスカ「なんでそう言い切れるわけ?」

レイ「思い出して。碇くんとユニゾン作戦を実行したときのことを。あのときの二人は完全にシンクロしていたもの」

アスカ「それは……そうだけど……シンジとシンクロとか今更言われると……意味が違ってくるっていうか……」モジモジ

シンジ「危険な役を押し付けてごめん」

レイ「大丈夫。気にしないで」

ゲンドウ「最後の悪足掻きか」

シンジ「綾波、死なないで」

レイ「私は死なないわ」

シンジ「え……」

レイ「碇くんが守ってくれるもの」

シンジ「……うんっ」

ゲンドウ「いくら策を弄したところで、Mark.6の装甲を破ることはできん」

アスカ「いくら強いっていっても所詮は後期に作られた新型機。規格度外視で作られたプロトタイプに秘められたブラックボックスが覚醒したら手も足も出ないって相場が決まってるのよ」

ゲンドウ「一理ある。だが、そのブラックボックスを使いこなせればの話だな」

アスカ「行くわよ、シンジ!! 瞬間、心、重ねて!!」

シンジ「分かってるよ。もう一度、あのときを思い出す」

レイ「零号機、行動を開始します」タタタッ

ゲンドウ「レイからか。ユイの面影を残すお前が、最大の嫌悪だった」

レイ「これで……! カシウスの槍」シャキン

ゲンドウ「同じ槍で何ができる」

レイ「ふっ!」

ゲンドウ「届かんな、レイ」ギィィィン

レイ「つっ……。もう一撃……」

ゲンドウ「やめろ、レイ」グイッ

レイ「く……!」

ゲンドウ「ユイに似てきたな。それが腹立たしい。まるでユイの人形を見ているようで吐き気がする」

レイ「私は……人形じゃ……ない……!」

ゲンドウ「少し前のお前は従順な人形だった。ユイが死に、心をどこかに置いてきたお前は考えることをやめていた」

レイ「槍がうご……かない……!」

ゲンドウ「時間が過ぎるのは早かっただろう。一日が終わるのがすぐだっただろう。言われたことをしていれば居場所を与えられ、安堵していただろう」

レイ「……」

ゲンドウ「そんなお前を人形と言わず、なんと呼べばいい」

レイ「……私は綾波レイ、零号機」

ゲンドウ「なに……」

レイ「もう人形じゃ、ない!」ガキィィン!!!

ゲンドウ「抗う力があったか」

レイ「決まって」ブンッ

ゲンドウ「しかし、全てに抗うことはできない」ドゴォッ

レイ「がっ……はっ……!?」

ゲンドウ「まずはレイ。貴様からこの世の果てに送ってやる」

レイ「……」

ゲンドウ「消し飛べ。ロケットパンチ」ピカッ

レイ「くっ――」

シンジ「ユニゾン開始!!!!」

ゲンドウ「シンジ……!」

シンジ「アインス!!!」ドゴォ!!!

ゲンドウ「ぐっ……ぬ……!」

アスカ「ツヴァイ!!!」バキッ!!!

ゲンドウ「づっ……!」

シンジ・アスカ「「ドライ!!!」」ガキィィィン!!!

ゲンドウ「小癪な……」

シンジ「ユニゾン!!!」

アスカ「キーック!!!!」

ゲンドウ「バカな――」

シンジ・アスカ「「うおりゃぁぁぁぁぁ!!!!!」」ドォォォン!!!!

レイ「決まった……」

シンジ「はぁ……はぁ……」

アスカ「どうよ……これなら……はぁ……流石の魔王も……はぁ……」

ゲンドウ「――やるな。このMark.6に傷をつけたことは褒めてやる」

シンジ「そんな……」

アスカ「ちっ……これが限界だっていうの……」

レイ「勝てない……」

ゲンドウ「いいものを見せてもらった礼に、こちらも最大出力を見せてやろう」ゴォォォォ

シンジ「な……」

ゲンドウ「Mark.6にのみ与えられた神の真槍。ドリルランサー」ギュィィィン!!!!

アスカ「ドリルですって!?」

ゲンドウ「消えろ。ドリルの力でな」ギュィィィィン!!!!

シンジ「やっぱり……父さんは……倒せないんだ……」

キャー!!!

レイ「この……声……」

ラミエル「……」キャー!!!

ゲンドウ「堕天使がこの期に及んで何をするつもりだ」

ラミエル「……」グリグリグリグリグリグリグリ!!!!!

ゲンドウ「邪魔だ」ギュィィィィン!!!!

ラミエル「……」キャー!!!!!!

レイ「あぁ……」

アスカ「あんな使徒じゃかなうわけないでしょうが」

カヲル「――それでも奇跡の火種にはなったね」

シンジ「カヲルくん! 磔になってたんじゃ……」

カヲル「彼らが助けにきてくれたよ。堕ちた天使は翼の傷を舐めあうのが決まりらしい」

ゲンドウ「タブリス……」

カヲル「リリンの王。いや、第19の使徒、碇ゲンドウ。僕はタブリスとしてこの生存競争を勝ち抜くことにしたよ」

ゲンドウ「そうか」

カヲル「力を貸してくれるかい?」

サキエル「……」コクッ

シャムシエル「……」ニョロニョロ

ラミエル「……」キャー

カヲル「ありがとう」

ゲンドウ「使徒とヒトが共に向かってくるか」

シンジ「使徒と一緒に戦える。二人しかいない世界じゃ絶対にありえない奇跡なんだ」

ゲンドウ「その奇跡に価値などない」

シンジ「あるよ。奇跡の価値は、そんな世界が僕は大好きだって思えること」

ゲンドウ「お前がこのねじ曲がり、穢れた世界で生きたいと願うならば、倒してみろ」

シンジ「言われなくたって!!!」

カヲル「行こう、シンジくん。僕たちの世界を守るんだ」

アスカ「一斉攻撃!!!」

レイ「了解」

シンジ「ロケットパンチにだけは気を付けて!!」

サキエル「……」コクッ

ラミエル「……」キャー!!!!

ゲンドウ「ドリルランサーの錆にしてやろう」ギュィィィン

シャムシエル「……」シュルルル

ゲンドウ「触手が……!」

シャムシエル「……」ニョロニョロ

ゲンドウ「触手を絡ませ、ドリルを止めるとはな。だが……」

シャムシエル「……!」

ゲンドウ「まだ、これがある。唸れ、ロケットパン――」ピカッ

カヲル「今だよ。僕たちの想いを叩き付けよう」

アスカ「でやぁぁぁぁ!!!!」

シンジ「うわぁぁぁぁぁ!!!!」

レイ「えいっ、えいっ」ポカポカ!!!

ラミエル「……」グリグリグリグリグリグリグリ!!!!!

シンジ「父さんだけは許さない!!! 許さない!!!」ゲシッ!!!ゲシッ!!!!

ゲンドウ「なぜだ……なぜ……A.T.フィールドが展開しない……!!」

シャムシエル「……」パシン!!!パシン!!!!

サキエル「……」ポカポカ!!!

ゲンドウ「なぜだ……なぜ、私を拒絶する……Mark.6……」

カヲル「シンジくんが暗闇から見つけ出したのはほんの些細な綻びかもしれない」

アスカ「おんどりゃぁぁぁぁ!!!!!」ドゴォ!!!!

ゲンドウ「ぐ……」

カヲル「それでもそこから差し込む光には強さがあった。闇を打ち消すだけの強さがね」

ゲンドウ「まさか……あの二人の攻撃をうけて……フィールド発生装置に不具合が……」

カヲル「故障したエヴァのパーツでは戦えない。貴方が身に着けているのは、ただの重たい鎧でしかない」

アスカ「これでラストぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」バキッ!!!!

ゲンドウ「これが……ヒトの力か……侮った……」

カヲル「ここまでにしよう」

シンジ「でも、カヲルくん! 父さんは……!!」

カヲル「これで終演でいいんだ、シンジくん。これ以上、憎しみをぶつけても誰も幸せにはならない」

アスカ「そうはいうけど、こいつのおかげでこっちは人生を狂わされたのよ」

カヲル「まだ14年の月日しか経過していない。君の世界はまだいくらでも道があるはずだよ」

アスカ「ちっ……」

カヲル「あなたの敗北でいいね?」

ゲンドウ「好きにしろ。Mark.6は壊れた。お前たちに対抗する術はない」

シンジ「父さん。ここまでされても謝りはしないんだね」

ゲンドウ「お前の言葉で己の信念を曲げるぐらいなら、こんなことはしない」

シンジ「最低だ……貴方は……」

レイ「碇くん……」

シンジ「みんなを困らせても反省もしないんだ。最低な人間だよ」

ゲンドウ「なんとでもいえ。敗者に言い訳はできない」

シンジ「……もう、僕の前には現れないでください」

ゲンドウ「貴様と話す理由は失せた。お前に頼まれなくとも顔を見せることはない」

シンジ「さよなら、父さん」

ゲンドウ「ああ……」

シンジ「――みんな、帰ろう」

レイ「ええ」

アスカ「あー、つっかれたぁ。早く帰って、お風呂にでもはいろーっと」

レイ「そうね」

カヲル「彼女はどうするつもりなんだい?」

マリ「わんっ、わんっ」

シンジ「しまった。マリさんをあのままにはできないよね」

アスカ「エヴァのパーツをつけさせた治るんでしょ。あとで初号機にでもならせてあげれば?」

シンジ「それもそうだね」

ラミエル「……」キャー!!!!

カヲル「どうしたんだい、そんなに怯えて。もう僕たちが悪い夢をみることはないんだ」

「夢は続いている。まだ醒める時間ではない」

アスカ「誰!?」

シュッ!!

レイ「何か、飛んでくる……」

アスカ「あまいっちゅーの!!! フィールド、全開!!!」

ガキィィィン!!!

「無駄だ。投擲された刃は心の壁を容易く浸食し、破壊する」

アスカ「これって……!!」

グサッ!!

アスカ「いやあぁぁぁぁああああ!!!!」

シンジ「アスカ!!!」

カヲル「あれはアンチA.T.フィールド兵器。完成していたのか」

アスカ「痛い痛い痛い痛い!!!」ゴロゴロゴロ

レイ「動かないで。大丈夫だから。足にダーツの矢が刺さっただけ」

アスカ「痛いもんは痛いのよ!! あんた、バカぁ!? 早く抜きなさいよ!!」

冬月「――ご苦労だったな。エヴァンゲリオンたち。運命の子どもたち」

レイ「えいっ」

アスカ「きゃぁ!! もっと優しく抜きなさいよ!!」

シンジ「危ないものを投げないでください!!」

冬月「これはヒトでもエヴァンゲリオンと対等に戦える兵器だ。ここで使わずしてどうする」

カヲル「……」

冬月「察しはついているのだろう、アダムの化身」

カヲル「19番目の使徒はたった今、生存競争の舞台から降りた。世界を改変する権利はリリンが持っている」

冬月「そうだ。幾多のヒトを総称してリリン。世界を変える権利はリリンにある。それはつまり……」

カヲル「貴方にも当然、ある」

冬月「そういうことだ」

シンジ「父さんと同じことをしようっていうんですか?」

冬月「似て非なるものだ」

カヲル「貴方が望む世界には何があるんだい?」

冬月「ユイくんに謝らなければならない。15年前の過ちを」

シンジ「母さん……? どうしてまた母さんの名前が……」

カヲル「15年前……。まだネルフが自然保護団体だったときの話だね」

冬月「全ての始まりは俺がまだ京都の大学で教鞭を振るっていたときになるか」

アスカ「大学ですって?」

冬月「あるとき、天才が二人大学へやってきた」

シンジ「その二人って……」

冬月「一人はそこで本能をむき出しにしている真希波。もう一人は綾波ユイといった」

レイ「お母さんが貴方の……」

冬月「教え子になる。ユイくんと真希波はとにかく優秀でな。若くして入学を許可された」

シンジ「そんな話、知らない……」

レイ「お母さんは15歳のときに大学へ行ったみたい」

シンジ「そ、そうなんだ……」

冬月「真希波は10歳にも満たなかったか」

シンジ「母さんもすごいけどマリさんがそんなにすごい人だったなんて……!!」

マリ「わんわん!!」

冬月「ユイくんと真希波、そして碇は同じ研究室でな。俺はそこで助教授をしていた」

冬月「一目ぼれだった」

シンジ「え……」

冬月「この歳でまさか恋をするとは思わなかった」

アスカ「きもっ」

カヲル「素敵なことじゃないか」

レイ「それは、この人に?」

マリ「わふっ」

冬月「ユイくんは優しかった。誰に対しても接し方を変えず、自然を慈しむ。女神のようだった」

シンジ「……」

冬月「いつも目で追いかけていた。彼女がペンを走らせる姿。食事をする様、学友と会話。全てを追いかけた」

アスカ「ストーカーじゃない」

シンジ「やめてくださいよ……そんなの聞きたくありません……」

冬月「そして卒業を翌年に控えたある日。俺は過ちを犯した」

アスカ「そ、それって……」

冬月「その14年後、綾波レイが生まれた」

>>531
冬月「その14年後、綾波レイが生まれた」

冬月「その1年後、綾波レイが生まれた」

レイ「……」

カヲル「愛とは時として非情な定めを担う。そういうことだね」

冬月「身籠ったことが発覚しても、ユイくんは誰も言わなかった。俺の罪を赦してくれた」

シンジ「……」

冬月「感謝の意を込めて、ユイくんの進路希望先であった自然保護団体ネルフへの紹介状を書き、俺の根回しでユイくんを総司令の座へと昇らせた」

アスカ「とんだクズね。そんなことで女を黙らせるなんて」

冬月「ユイくんは黙っていた。決して俺が交渉し、黙らせたわけではない」

レイ「そんな話、聞きたくありません」

冬月「だが、俺も老い、先は短い。限界も見えている。だから、常世への心残りを解消したいと考えた」

シンジ「それが……謝罪だっていうの……」

冬月「一言だけいいたい。あのときは乱暴してすまなかったと。俺も若かったと」

カヲル「ヒトを好きになるのは大変だね」

冬月「まったくだ」

シンジ「もうたくさんだ……なんで……こんな話をきかなきゃいけないんだ……」

レイ「お母さん……私は望まれない子どもだったの……」

冬月「だから、もう一度会いにいかなければならない。そのために世界を変える。ユイくんが生きていた世界を取り戻す」

シンジ「ふざけないでよ!!! そんな理由で世界を変えるなんて!!! おかしいよ!!!」

冬月「何を拒絶することがある。お前の義理の母親が戻ってくるんだぞ」

シンジ「母さんをもてあそぶな!!!」

アスカ「こいつだけは生かしておけないわね」

カヲル「まだ戦うというのかい。それがシンジくんの答えなら、僕は従うよ」

冬月「……もう手遅れだ。全ては始まり、終わりへと向かっている」

シンジ「え……」

ミサト「フクシレイ ノ リソウ ヲ」

リツコ「フクシレイ ノ ユメ ヲ」

マヤ「フクシレイ ハ フケツジャナイ」

シンジ「ミサトさん……!!」

アスカ「なんで復活してんのよ!!」

冬月「量産機のパーツを壊さなかったお前たちのミスだ。量産機故に頑丈ではあるがな」

マリ「わんわんわんわん!!!」

冬月「ヒトの心は強く脆い。短い時間でも共に過ごした日々は、絆という鎖で結ばれる。それは頑丈であるが脆弱でもある」

ミサト「シンジクン……シンジクン……」ギュゥゥ

シンジ「やめてよ! ミサトさん!! 目を覚ましてよ!!!」

アスカ「もう一度パーツをひん剥けば!!!」

加持「タネヲ マクシカ デキナイ」ガシッ

アスカ「誰よ!! はなして!!! この!!! この!!!」

レイ「わたしは……だれ……わたしは……いらない子……?」

カヲル「サキエル、シャムシエル、ラミエル。シンジくんたちを助けるんだ」

サキエル・シャムシエル・ラミエル「「……」」ガオー!!!!

冬月「お前たちにはこれでいいだろう」シュッ

カヲル「アンチA.T.フィールド……!」

サキエル・シャムシエル「「……」」イタイイタイイタイ!!!!

ラミエル「……」キャァー!!!!キャァァァァ!!!!

カヲル「心の壁を侵す魔の矢。あまりにも醜いね」

冬月「堕天使となった使徒は脅威ではない。――世界は既に変わり始めている」

カヲル「まさか……!」

冬月「ここにあるのはアダムの器。そこにいるのはアダムの魂。碇ゲンドウが堕ちた段階でリリンが望む世界へと変貌し始めている」

カヲル「リリンの王を継いだのか。だから、あなたの理想郷へと塗りつぶされていくんだね」

ゲンドウ「冬月先生……」

冬月「すまんな、碇。先にユイくんに会わせてもらうぞ」

ゲンドウ「貴方にだけは渡したくなかった……」

冬月「ユイくんは誰のものでもない。お前はただ結婚しただけだ」

ゲンドウ「分かっています。だからこそ、妻にしたかった。妻にした。冬月先生では手の届かないところにユイを置きたかった」

冬月「願いは叶う。お前の計画を聞いたとき、俺はそう感じた」

ゲンドウ「貴方の世界に私はいますか」

冬月「愚問だな、碇。お前の存在は俺に上書きされる」

ゲンドウ「やはりか……」

冬月「俺のリビドーが世界を、宇宙を変貌させる」

アスカ「気持ち悪いっ」

シンジ「やめてよ!!! 母さんを汚すな!!! うわぁぁぁぁ!!!!」

平原

シンジ「……ここ……は……?」

【変わろうとする世界。変わり果てた終焉の園】

シンジ「綾波なの……?」

【私は綾波レイ。私は式波・アスカ・ラングレー。あたしは葛城ミサト。誰でもそう。誰でもない】

シンジ「よくわからないよ……」

【世界は変わる。ヒトも変わる。変わらないのは誰?】

シンジ「僕も消えていくの……?」

【消える。書き換えられる。違うけど同じ貴方が生まれる】

シンジ「違う僕が?」

【同じ世界。違う世界。望む世界。望まぬ世界。今いる世界には戻れない】

シンジ「このまま変わっていくんだ……ゆっくりと……眠るように……」

シンジ「気持ちいいな……ここ……風が心地いい……」

シンジ「もう……それでいいのかもしれない……」

シンジ「あの世界ではいいことなんてなかった……僕の母さんは母さんじゃないし……父さんだって一言も謝ってくれないし……嫌な話ばかりだ……」

【受け入れるのね。変わる世界を。終わる世界を。始まりの世界を】

シンジ「うん。次の世界ではエヴァにならなくていいんだ。綾波もアスカもマリさんもカヲルくんもいる。母さんだっているかもしれない」

シンジ「母さんが悲しい過去を持っていることはないんだ。そんな世界なら僕は受け入れる」

【奇跡の価値は?】

シンジ「使徒と友達になれたこと。そんなことは分かってる。次の世界ではそんなこと起こらないんだ。あの喜びだってきっと忘れるんだ」

【綾波レイに好意を寄せられたことは?】

シンジ「うれしかったよ。けど、それだけじゃないか。次の世界ではそれ以上にうれしいことが待っているんだ」

【式波・アスカ・ラングレーと仲良くなれたことは?】

シンジ「楽しかった。でも、それだけだ。次の世界でもきっとアスカは僕と友達になってくれる。そう信じられる」

【葛城ミサトが褒めてくれたことは?】

シンジ「暖かい気持ちになれた。照れ臭かったけど、母さんに褒められたみたいで……」

【鈴原トウジとケンカしたことは?】

シンジ「今思えば、ケンカしなくても仲良くなれた気がする。でも、ケンカした分だけトウジからは勇気をもらえた」

【あなたの世界は?】

シンジ「嫌なことが多いけど、嬉しいことがあった。辛いことばかりだったけど、楽しいことがあった。それだけは間違いない」

【その世界は?】

レイ「私はわからない。あの世界がよかったのかどうかなんて。けど……」

【ヒトに成れた気がした】

レイ「碇くんのおかげで。ペンペンのおかげで。私はヒトになれた。心をしった」

【ヒトに戻れた気がした】

レイ「お母さんは優しかった。突然、消えてしまったけれど、それはよく覚えている」

【だからあの世界を嫌いになった】

レイ「悲しいという感情もなかった。ただ空っぽになっただけ」

【人形と呼ばれた」

レイ「私は人形だった」

【つまらない世界だった】

レイ「色を失くした」

【嫌いな世界だった】

レイ「もう一度、お母さんに会いたい」

【世界が形を変えていく。望むものに変わっていく。でも、それは誰が望んだもの。誰が手に入れたもの】

アスカ「ママが戻ってくるなら、それでもいいと思った。パパが帰ってくるなら、そんな世界でもいいと思った」

【それは自分が望んでいたから】

アスカ「エヴァになってもいいことなんて何もなかった。辛い訓練。苦しい訓練。毎日が嫌だった」

【自分がそれを望んだ】

アスカ「私には他に選択肢なんてなかった」

【好きな子に自分を見てほしかった。私を思い出してほしかった。私が忘れていたから】

アスカ「私は……」

【ママが好きだったから。ママを救いたかったから。エヴァになろうと思った】

アスカ「でも、何も変わらなかった」

【本当にそうなの?】

アスカ「何も変わってない」

【本当にそうなの?】

アスカ「変わったことなんてあったの?」

【思い出せた。誰が好きだったのか。自分が気になっていたアイツのことを思い出せた】

アスカ「ママは戻ってきてない。だから、それでいい。誰が望んだか分からない世界でも生きていける気がする」

【自由がほしかった】

マリ「わんわん!」

【窮屈な世界で生きてきたから】

マリ「くぅーん」

【机に向かうだけの時間。ノートに文字を書く毎日。知っていることを反復するだけの授業」

マリ「わぉーん」

【そんな世界から抜け出したくて、本能に従った。本能を解放するシステムを構築した】

マリ「わふっ」

【全てが思い通りになった、あの世界。自分がエヴァになれることを喜んだ世界】

マリ「わんっ!」

【エヴァが好きだった。自分を演じなくてもいいエヴァが好きだった。そんな世界】

マリ「……」

【愛着があるんでしょう? 好きなんでしょう? 私はそのままでいいの?】

マリ「ワンワンワン!!」

【そう。よくない。吠えているだけじゃ意味がない。好きだった世界に戻ろう。嫌な世界を受け入れよう】

シンジ「母さんが酷いことされた。母さんは本当の母さんじゃない。父さんは人間としてダメだ。エヴァになって怖い目にあった。痛いこともあった。辛いことばっかりだ」

【母さんが本当の母さんになるかもしれない世界がある。アスカが幼馴染になっている世界がある。綾波が転校生になっている世界がある。マリさんがイヌになっている世界がある】

シンジ「そんな世界がいい。エヴァにならなくていい世界がほしい。父さんがいない世界がいい。そう思った」

【ペンペンがいた世界が消える。綾波が不器用にほほ笑む世界を失くす。アスカの魅力を知った世界が無くなる。ミサトさんが優しい世界を手放す】

シンジ「どちらがいいんだろう」

【どちらにいたいの?】

シンジ「きっと、違う世界にも嫌なことはあるはずなんだ」

【好きな部分しかない世界】

シンジ「カヲルくんは醜い部分も受け入れた。嫌なところも含めて愛しているっていった」

【僕にそれができるの?】

シンジ「やらなきゃいけない気がする。自分の都合で世界を変えたって、また同じことを繰り返すんだ」

【ペンペンがいた世界】

レイ「忘れたくない」

【心配してくれる人がいる世界】

アスカ「悪くない」

シンジ「戻らなきゃ。僕らがやってきたことを無駄にしちゃいけないから」

シンジ「トウジたちとまた笑いあいたい。綾波とも話したい。アスカと口喧嘩したっていい。違う世界じゃなくて、元いた世界で」

【好きだから】

シンジ「好きだ。綾波やアスカがいる世界が。使徒と仲良くれた世界が。僕は好きなんだ」

【辛いことが多いけど】

シンジ「みんな同じ」

【苦しいことが多いけど】

シンジ「どんな世界でも苦しむんだ。だったら、知っている世界で苦しみたい」

「シンジ……」

シンジ「え……」

ユイ「この変わりゆく世界を止めるにはどうするかわかるわね」

シンジ「母さん……」

ユイ「この先にいるわ。行きなさい」

シンジ「うん」

ユイ「そして、思い切り殴ってきて。あの人だけは許しちゃダメよ」

冬月「書き換えもすぐに終わる。ユイくんはもうこの世界にいるだろう」

カヲル「僕の存在も希薄になってきた気がするよ」

冬月「ようやく会えるな。ユイくん。あの日のことを謝ろう。そして、もう一度だけ……」

シンジ「ここにいたんですね」

冬月「俺のことは父さんと呼んでもいいぞ。この世界ではそうなる」

シンジ「貴方は母さんを傷つけたじゃないか」

レイ「私のお母さんを苦しめた」

アスカ「アンタが余計なことしなけりゃ、ママとパパは離れなくて済んだかもしれないのに」

マリ「わんわん!!!」

冬月「逆恨みか。その黒いものも数分で消滅する。あと少しの辛抱だ」

シンジ「この憎しみだけは忘れたくない」

レイ「貴方が敵であることを覚えておきたい」

アスカ「タダで済むと思わないことね」

マリ「ガルルルルル」

冬月「次の世界ではお前たちの望みも叶う。俺はヒトがもつ願望の代弁者だ。何故、憎悪を向けられねばならないのか」

シンジ「……行くよ。みんな」

レイ「ええ」

アスカ「早くやりましょう。消えちゃう前に」

マリ「わぉーん!!」

冬月「手遅れだ。世界は終わったのだからな」

カヲル「まだ間に合うかもしれない。シンジくんが特異点を潰してくれるのなら」

冬月「無駄なことだ。俺はユイくんと会う」

シンジ「会わせるもんか。絶対に……!!」

冬月「エヴァでない貴様になにができる」

アスカ「エヴァのパーツがなくったって!!! こちとらには一万二千時間の戦闘訓練と譲れないものがあるんだからぁぁ!!!!」ドゴォ!!!!

冬月「ぐ……!?」

レイ「あなたの好きにはさせないって決めた」バキッ!!!

冬月「がっ……! ま、まて、会えなくなってもいいのか。最愛の人に……」

シンジ「貴方に会わせるぐらいなら、僕は会えなくてもいい。母さんが悲しむだけだから」ドゴォ!!!

冬月「がはっ!?」

カヲル「――世界が色を戻していく」

シンジ「はぁ……はぁ……はぁ……」

アスカ「間に合ったわけ」

カヲル「リリンの王は潰えた。リリンの意思を統括しているのは、今やシンジくんになる」

シンジ「僕が……」

カヲル「王の血を受け継ぐ者だからね」

シンジ「……」

カヲル「君の望む世界には何があるんだい?」

シンジ「綾波がいて、アスカがいて、ミサトさんがいて……みんながいる世界……」

カヲル「嫌いな人も憎い人もみんながいる世界なのかい?」

シンジ「うん。でも、いなくなってしまった人はいなくていいと思う」

カヲル「それはシンジくんのお母さん?」

シンジ「じゃないと父さんたちを否定した意味がなくなるから。ごめん、綾波、アスカ」

レイ「謝らないで。私は構わない。碇くんがいる世界で十分だもの」

アスカ「ママが元気になる世界も捨てがたいけど、このままでも別にいいわ。それなりに面白いこともあったし」

カヲル「このまま生存競争は終息していくことになる。次の戦いまではまた長い時間を待たなくてはいけない」

シンジ「また戦うの?」

カヲル「……そうだね。リリンと他の使徒が共存していける世界になった。争う理由はないね」

シンジ「うん」

カヲル「僕とまた友達になってくれるかい」

シンジ「トウジたちに謝ったら」

カヲル「そうだね。彼らには随分と酷いことを言った。まずはそこからだ」

シンジ「それじゃあ、早く戻ろうよ」

アスカ「あの二人はこのままでいいわけ?」

ゲンドウ「……」

冬月「ぐ……ユイ……くん……」

シンジ「カヲルくん」

カヲル「分かってる。この施設は完全に封印しよう。隔壁を全て閉じておくよ」

シンジ「ありがとう」

レイ「……さよなら。お父さん」

病室

ミサト「う……うぅ……」

シンジ「ミサトさん!!」

ミサト「あ……れ……? あたしは……」

シンジ「よかった。目を覚ましてくれて……」

ミサト「シンジくん、ずっと看病していてくれたの? ありがとう」

シンジ「いえ。ミサトさんも大変でしたから」

ミサト「そういえばあたし、副司令に無理矢理服を脱がされかけたあとの記憶がないんだけど、どうなったの?」

シンジ「今は休んでいてください。また詳しい話はしますから」

ミサト「そう? それならそうさせてもらおうかしら」

シンジ「ただ、これだけは言っておきます」

ミサト「なに?」

シンジ「戦いは終わりました」

ミサト「……そう。ありがとう、シンジくん。よくやったわ。すごいわね」ナデナデ

シンジ「や、やめてくださいよ……もう……」

病室

リツコ「私たちの意識がなくなっている間にそんなことがあったのね」

アスカ「ここに報告書は作っておいたから、一応見てみて」

マヤ「すごい。もうこんなものが」

レイ「量産機になった人たちは三日間、昏睡状態でしたから」

マヤ「そうなんですか」

リツコ「なるほど……。サードインパクトは未然に防がれ、碇ゲンドウ、冬月コウゾウは地下施設に封印、か」

アスカ「殺してもよかったけど、そんなことしたくないわ。あいつらが楽になるだけなんだから」

リツコ「生きることは苦しみの連続。暗い世界では殊更でしょうね」

マヤ「これからネルフはどうなるんですか?」

リツコ「元の自然保護組織に戻していけばいいわ。これからのことは分からないけど、戦うことはなくなったのだから」

マヤ「いいですね!」

リツコ「そういえば、マリはどうしたの?」

レイ「お墓参りにいくって言っていました」

リツコ「誰の?」

墓地

マリ「せーんぱい。元気してたぁ? にゃんて、死人に言っても仕方ないか」

マリ「とりあえず、先輩が心配していたことはなくなったにゃ」

マリ「ずっと言ってたもんね――」


【夫はいつか暴走する。いえ、もうしている。貴方が成長しなくなったことが証明しているわ】

【それじゃあ、どうすんの?】

【きっとあの人はレイやシンジを道具にするはず。使徒がどのような形でくるのかわからないけれど……】

【手はあんの?】

【パーツを用意するわ。人間にそのまま装着できるパーツ。拘束具といってもいい】

【拘束具?】

【シンジたちを守るもの。それが絶対に必要になる日がくる】


マリ「で、本能を抑制するための拘束具を先輩は作った。使徒が現れても心が乱れて暴走しないように」

マリ「だから碇シンジも綾波レイも姫も私も、理性を保ったまま戦えた。ありがと、先輩。ずっと守っててくれて」

マリ「ま、私が搭載しておいた裏コードのことは謝るよ。保険ってやつだから、ゆるしてほしいにゃ」

マリ「さてと、いくかぁ」

シンジ「どこへ行くの」

マリ「ありゃ、王子様。奇遇だね」

シンジ「僕も母さんに会いたくなって」

マリ「ここに来たって会えないよ」

シンジ「そうかもしれない。それでも来たかった」

マリ「そっか。ま、ごゆっくり」

シンジ「……また、会える?」

マリ「さぁ。それは風だけが知っている。なんてね」

シンジ「さようなら」

マリ「姫のこと泣かせたら承知しないから」

シンジ「え……」

マリ「元気でね」

シンジ「マリさんも」

マリ「バイバイ、世界の王子様っ」

某所

カヲル「僕はこれからこの世界で生きていく。君たちはどうするつもりなんだい?」

サキエル「……」

カヲル「そうか。途方に暮れているんだね。路頭に迷うから」

シャムシエル「……」ニョロニョロ

カヲル「動物園? 君たちはヒトだ。そんなところで見世物にされて満足かい?」

ラミエル「……」キャー!

カヲル「携帯電話のストラップにはラミエルは大きすぎるね」

サキエル「……」サッ

カヲル「……そこに行こうというのかい」

サキエル「……」コクッ

カヲル「そこが君たちのエデンとなるのなら、僕は止めない」

サキエル「……」コクコクッ

カヲル「また会いに行くよ。シンジくんたちとね」

サキエル「……」バイバイ

数ヶ月後 葛城宅

シンジ「ミサトさーん!! おきてくださーい!!」

ミサト「ううん……おはよぉ……」

シンジ「しっかりしてください。明日からミサトさん一人なんですよ」

ミサト「え? なんで?」

アスカ「なんでって、前から言ってるでしょうが」

ミサト「えー、シンちゃんがいなきゃ朝起きれないじゃない」

シンジ「自分で起きれるようになってください」

アスカ「大体、ミサトだってもうすぐ南極調査に行くんでしょ。そのとき遅刻ばっかしてたらクビになるわよ」

ミサト「いやだわー」

アスカ「それがアンタの仕事でしょうが」

シンジ「僕がいなくてもちゃんとごはんは食べてくださいね」

ミサト「そうね。いつまでもシンちゃんに甘えていられないわ。それより、南極のお土産はなにがいい?」

アスカ「んー。ペンギンなんていいんじゃない?」

ミサト「それだけはダメ」

通学路

シンジ「ミサトさんの所為で遅刻しそうだね」

アスカ「早く走りなさいよ!」

レイ「あ……」

シンジ「おはよう、綾波」

レイ「おはよう……」

シンジ「もしかして、待っててくれたの?」

レイ「いけなかった?」

シンジ「いや、いけないというか、綾波が遅刻するかもしれないのに」

レイ「遅刻するときは碇くんと一緒だから、平気」

シンジ「綾波……」

アスカ「……」

カヲル「――近しい人間ほど、その愛情には気が付かない」

アスカ「きゃ!? 急に出てこないでよ!!」

カヲル「同居していると自分の想いがどういうものだったのか、わからなくなる。そういうものさ、人間なんてね」

アスカ「あんたが人間を語んな」

カヲル「日々勉強だよ。些細な揺らぎも僕にとっては知識となる」

アスカ「あっそ」

シンジ「本当に遅刻しちゃうかも。急がないと」

レイ「そうね」

アスカ「大体、あんたたち兄妹なんでしょ。そんなに仲良くしてていいわけ?」

シンジ「それは……」

レイ「兄妹だけど、血は繋がっていないもの」

アスカ「……」

カヲル「あのときの話をよくきいていなかったのかい。シンジくんには碇ユイの血は混じっていないよ」

アスカ「でも、兄妹じゃない」

カヲル「戸籍上はね」

アスカ「だったら、ダメじゃない」

シンジ「なにが?」

アスカ「……。ぐっ!! 封印したはずの闇の波動が……うごめきはじめたわ……!! はぁ……はぁ……!! 早く、学校にある結界にはいらないと……!!」

学校 校庭

ヒカリ「おそいわよ」

シンジ「ごめん」

トウジ「まだ5分前やんけ。そういったんなや」

ヒカリ「みんなが集合しているんだから、5分前もなにもないでしょ」

ケンスケ「まぁまぁ、こうして無事に全員がいることを喜ぼうじゃないか」

トウジ「せや、ケンスケのいうとおりや」

ヒカリ「もう! さっさと点呼とって!!」

トウジ「番号!!!」

レイ「1」

アスカ「にっ!」

シンジ「あ、えっと、さん」

カヲル「4」

ケンスケ「5!」

トウジ「鈴原班、全員おるで。おらぁ、バスにのるぞー」

バス 車内

ヒカリ「ねえねえ、アスカ。約束通り、まずはこれから乗りましょう」

アスカ「わかってるってば。そう焦らなくてもジェットコースターは逃げないわよ」

カヲル「遊園地か。初めての場所だね。楽しいかな」

ケンスケ「渚は行ったことないって言ってたな。お化け屋敷にも動じなさそうだけど」

カヲル「そんなことはないよ。どういうものかわからないけれど、僕もヒトの身だからね。予想外のことが起これば感情をあらわにする」

ケンスケ「それは楽しみだ」

レイ「すぅ……すぅ……」

シンジ「綾波、もう寝ちゃってる」

アスカ「あれね。楽しみすぎて徹夜したとみた」

シンジ「それ、アスカのことじゃないか」

アスカ「私は別に眠たくないもの」

シンジ「帰るとき、ずっと寝てそうだね」

アスカ「帰るときはどうでもいいじゃない」

レイ「すぅ……すぅ……」

遊園地

ヒカリ「あー! 楽しかったぁー」

アスカ「そうね……」

トウジ「なんや、顔真っ青やないか」

アスカ「うるさいわね……内に秘められた青の衝動が……」

レイ「大丈夫?」

ケンスケ「エヴァとして戦っていた英雄もジェットコースターには弱かったか」

シンジ「アスカって怖がりだから」

アスカ「怖がりじゃないわよ!!!」

カヲル「それはよかった。次はあれに入ろう」

アスカ「え……?」

ヒカリ「わぁ! 面白そう!」

ケンスケ「まぁ、こういう場所にきたら、入らないわけにはいかない」

アスカ「あ、あれって……」

レイ「お化け屋敷」

お化け屋敷

トウジ「いくで!」

ヒカリ「ドキドキするー」

シンジ「暗いから足元に気を付けて」

レイ「ありがとう」

アスカ「ほ、ほんきでいくきぃ? あ、あんた、ばかぁ……」

カヲル「腰がひけているね」

マリ「にゃー!!」

ケンスケ「うわぁ!?」

アスカ「きゃぁー!!」

マリ「いらっしゃい、勇者たち。この呪われた屋敷にようこそ」

シンジ「マリさん!?」

アスカ「イヌメガネ!! こんなところでなにしてんのよ!?」

マリ「アルバイトにきまってんじゃん。ネルフよりこうしたところで働きたかったしね。どう、私の猫娘姿。にゃーお」

シンジ「ああ、うん」

マリ「さぁ、はいったはいった」

アスカ「ちょっと!! 押さないでよ!!!」

マリ「生きて出てこれたら、ほめたげる」

カヲル「生と死すらもここでは意味をなさないということか」

シンジ「よし……いくよ……」

レイ「ええ」

アスカ「待ちなさいよ!!」

シンジ「何が出てくるんだろう……」

アスカ「うぅ……」

シンジ「そんなにくっつかないでよ。歩きにくいよ」

アスカ「うっさいわね!! あんたが歩きにくいからって誰もこまら――」

サキエル「……」ガオー!!!

アスカ「きゃー!!!」

カヲル「サキエル。こんなとこで働いているのかい」

サキエル「……」コクッ

アスカ「いやー!! だしてー!!」

シャムシエル「……」ニョロニョロ

アスカ「ぎゃー!!」

シンジ「アスカ!! 走ると危ないよ!!」

レイ「待って」

ラミエル「……」キャー!!!

アスカ「キャー!!!」

ラミエル「……」キャー?

カヲル「みんな、ここにいたんだね」

サキエル「……」ガオー

カヲル「君たちを見て怖がる人は多いだろう。けれど、それを悲しむことはないんだ」

サキエル「……」

カヲル「またね。僕たちは今、修学旅行中なんだ」

サキエル「……」ションボリ

シンジ「カヲルくん、怖がってあげないと……」

休憩所

アスカ「もうだめ……」

ヒカリ「アスカ、しっかりして」

トウジ「なっさけないのぉ。ほんまにエヴァやったんかぁ」

レイ「はい、お水」

アスカ「ありがと……」

シンジ「……」

カヲル「君の守ったものは大きかったね」

シンジ「……今でも時々思うんだ。本当によかったのかなって」

カヲル「世界を変えたほうがよかったのかもしれない。そう思うのかい」

シンジ「だって、みんなとは友達のままでいられたかもしれない。母さんだって優しいままいてくれたかもしれない」

カヲル「都合のいい世界が待っていたかもしれない」

シンジ「綾波やアスカは何もいわないけど、家族が戻ってくる可能性を僕が捨ててしまった。マリさんだって普通の体に戻れたのに」

カヲル「それは僕も同じだね」

シンジ「僕だけの意思で決めてよかったのかなって、やっぱり今でも思うんだ」

カヲル「エヴァにならずに済んだ世界線。そこに行こうとは思うかい」

シンジ「……」

カヲル「あのときシンジくんが出した答えたが全てだよ。正解なんてないんだ」

シンジ「うん……」

カヲル「それに……」


アスカ「次はあれにのるわよ」

レイ「観覧車……」

トウジ「なんであんなもんにのらなあかんねん」

アスカ「いいじゃない。あれも定番よ」

ケンスケ「激しい乗り物には乗りたくないだけだろ」

アスカ「うるさいわね!!」


カヲル「この世界にも良いことはある。僕はみんなを見ているとそう思う。シンジくんが守ってくれたこの時間を大切にしたいと心から思うよ」

シンジ「……僕も」

カヲル「さぁ、この醜くも美しい世界を生きていこう。みんなでね」

アスカ「なにしてんのよ! 次、いくわよ!!」

シンジ「わかったよ。すぐに行くから」

レイ「次はバンジージャンプをすることになったから」

シンジ「そ、そうなの」

ヒカリ「一度でいいからやってみたかったの」

トウジ「これで胆のでかさがわかるってもんやな。シンジぃ、勝負や!」

シンジ「えー、そんなのむりだよ」

ケンスケ「第三新東京市の英雄も高いところはダメなのか」

トウジ「ほんまにエヴァやったんかぁ?」

シンジ「エヴァだよ。僕はエヴァンゲリオン初号機だったんだ」

トウジ「なら、それを証明してみぃ」

シンジ「わ、わかった。やるよ。飛んでやる」

トウジ「それでこそ、エヴァやな」

ヒカリ「もう。男子ってどうしてああなのかしら」

アスカ「ほーんと、バカよね」

シンジ「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


トウジ「おー、飛んだ飛んだ」

ケンスケ「飛ぶまでのタイムは4分5秒だ」

トウジ「まぁまぁやな」

カヲル「おめでとう。シンジくん。新記録だ」

ヒカリ「飛んだことがないんだから、新記録は新記録だけど」

レイ「碇くん……」

アスカ「あんなのに4分もかけるなんて、バカシンジはてんでダメね」

レイ「……」

アスカ「なによ」

レイ「無理はしなくてもいい」

アスカ「無理なんてしてないわ!! 私の足にからみつく神の蛇がいなけりゃとんでたの」

レイ「その設定は無理があると思う」

アスカ「なんでよ!!」

カヲル「シンジくん。この世界に産まれたことがなによりの幸福だった。ありがとう」

ネルフ本部

リツコ「シンジくんたちは修学旅行だったわね」

ミサト「ええ。今頃は遊園地で羽をのばしてるんじゃない?」

マヤ「いいですねぇ。私も行きたいなぁ」

リツコ「今度の休暇に行ってきなさい」

マヤ「そこは先輩と一緒がいいです」

日向「葛城一尉、あ、いえ、葛城一佐」

ミサト「どうしたの? 復帰して間もないし、まだ感覚が戻らない?」

日向「違います。それが地下でおかしな反応があるのですが」

ミサト「なんですって?」

青葉「これです」ピッ

【ここでは俺がアダムだな】

【ああ。問題ない】

リツコ「まだ生きていたの。ありえないわ。いいから、そっとしておきなさい。もうネルフの地下はディラックの海に等しい空間になっている。人類には手出しができないわ」

マヤ「気持ち悪い」

遊園地 ベンチ

シンジ「まだ変な感じだ……」

レイ「おめでとう」

シンジ「な、なにが?」

レイ「新記録」

シンジ「それはカヲルくんが勝手にやったことじゃないか。でも、少しうれしいよ」

レイ「ふふっ。そう」

アスカ「ちょっと、何してるわけ。バスに戻る時間でしょ」

シンジ「ああ、もうそんな時間だったんだ。急がなきゃ」

アスカ「……おめでとう」

シンジ「アスカ……」

アスカ「い、行くわよ!」


【僕はエヴァンゲリオンになった。辛いことがたくさんあった。けれど、今の僕だから言えることがあるんだ】


シンジ「――みんな、ありがとう」


END

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2016年03月19日 (土) 16:13:14   ID: LMxLlfoQ

>>267
>>288
くっさい基地外共が…

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom