八幡「やめてください死んでしまいます」
沙希「あんたが名前間違えるからでしょ」
八幡「それより何か用じゃないのか?」
沙希「そうだった、あんたにまた依頼があるんだけど」
八幡「依頼なら雪ノ下に頼めよ」
沙希「あんたにしか頼めない、個人的な頼みなの」
八幡「めんどくせえ」
沙希「答えは『はい』か『YES』なんなら『承知しました』でもいいよ」
八幡「断る権利ねえじゃねえか」
沙希「んじゃ付いて来て」
八幡「なんなんだ一体」
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注釈
以前似たようなタイトルで立て逃げされていたスレがあり、勝手に続きを書いていたら『乗っ取りは良くない』と注意されたので改めて立て直して投下することにしました
なのでセリフなど少々いじってますが前半はほぼ同じような流れで進みます。前のを読んでいた方がいらっしゃったらすみません
エロ展開は気が向いたらちょろっとだけ後半に
よろしくお願いします
八幡「どこに向かってるのか知らねえけど依頼内容くらいは教えてくれても良いだろ?」
沙希「そうだね。前もって言っておかないといけないか……そ、その、あたしの彼氏になって欲しいんだけど!」
八幡「は? …………はああああ!?」
沙希「か、勘違いしないで! フリだよフリ!」
八幡「え? あ、ああ」
沙希「実は最近ちょっとしつこく言い寄られてる相手がいてさ、その、断るのに『もう彼氏がいるから!』って言っちゃって……」
八幡「ああ、お前外見いいもんな、可愛いっつーか綺麗系だけど。モテるのも大変だな」
沙希「っ……また、あんたはそういう事を平然と……そ、それでしばらく彼氏のフリをしてほしいんだけど……」
八幡「なんで俺に依頼するんだよ? お前なら俺なんかより全然良い男に頼めるだろ」
沙希「こんなこと頼める知り合いなんかいないよ」
八幡「そういやお前もぼっちだったな……まあ困ってるみたいだし俺なんかでいいなら構わないが」
沙希「ほ、ほんと!? もうキャンセルは効かないよ!?」
八幡「有無を言わさず了承させようとしといて何を今更……」
沙希「う……だってこんなにあっさり引き受けてくれるなんて思わなくて……じゃ、じゃあしばらくの間頼むよ」
八幡「へいへい。んで、期間は?」
沙希「とりあえず一週間くらいでいいかな」
八幡「は? そんなもんでいいのか? いや、さっさと終わるに越したことはないが」
沙希「相手はたぶんそこまで本気じゃないからね、無理だってわかったらすぐに対象が移るさ。以前他の女子に声をかけてるのも見たし」
八幡「可愛いやつに手当たり次第声をかけてんのかそいつは……」
沙希「か、かわっ……コホン、じゃあ早速あんたを見せに行くから」
八幡「え、今からか?」
沙希「『放課後に紹介する』って言ったからね。だからまあ……ちょっと強引だったのは謝る」
八幡「いいさそのくらい。行こうぜ」
八幡「……なんかすげえ悔しがってたなあいつ。『何でこんな野郎に!』みたいな顔をしてた。いや、気持ちは分かるが」
沙希「そこはわかっちゃうんだ……」
八幡「だって俺だぞ? どうやっても釣り合いが取れてねえよ。いや、俺なんかに釣り合う女がこの世に存在するかどうかも……」
沙希「比企谷!」
八幡「うわっ、な、何だよ?」
沙希「あまり自分を卑下しないでよ。少なくともあたしはあんたの良いところをいっぱい知ってるし、釣り合いが取れてなくなんかない」
八幡「お、おう」
沙希「だから自分のことを『なんか』って言わないで。周りが何と言おうとあたしは比企谷を充分良い男だと思ってるから」
八幡「そ、そうか……その、ありがとうな」
沙希「う、うん」
八幡(川崎は俺を励ましてくれてるだけ、だよなきっと……)
沙希(あうう、勢いに任せてあたしは何てことを……)
八幡「……で、今後はどうするんだ? あのフられ野郎がお前に興味をなくすまでは依頼が続くんだろ」
沙希「フられ野郎って……まあそうだね、しばらくはあいつの前でだけでもそれっぽく振る舞ってくれるとありがたいんだけど」
八幡「それっぽくって、その、恋人同士みたく、ってことだよな?」
沙希「う、うん、無理に、とは言わないけど」
八幡「いや、一度引き受けたんだ、やるだけやってみるさ。でも期待はするなよ? 今までそういうことなんてゲームか妄想でしか経験ないんだからな」
沙希「あたしだって経験ないよ。その、ゲームとかだと何をするの?」
八幡「えーっと、一緒に登下校したりメシ食ったり、休日にデートしたり、かな。まあ友達がもっと仲良くなった、くらいの感覚でいいんじゃねえか? 俺友達いないけど」
沙希「デ、デート…………でも休日にあいつと出くわすことはないだろうしそこまでは……というか普段もそこまで気にする必要はないのかな」
八幡「でも慣れておかないといざ本番って時に戸惑うかもしれないぜ。ソースは文化祭の劇で予行演習に呼ばれなかった村人Aの俺」
沙希「なんで役割与えられてるのに呼ばれないのさ……じゃ、じゃあ適当に頼むよ。悪かったね、部活あるのに呼び出しちゃって」
八幡「いいさ、これも依頼の一環だ。雪ノ下だってちょっと遅刻したくらいでそこまで怒ったりしないだろ」
沙希「そうか、前もってあっちにも言っておくべきだったね。ホントごめん、あたしの名前出しちゃっていいから」
八幡「まあその辺は上手くやるさ。んじゃそろそろ行くわ」
沙希「うん、あたしは図書室寄って帰るから。またね」
~奉仕部~
八幡「うっす」ガラガラ
結衣「ヒッキー遅いよ!」
雪乃「遅れるならその連絡くらいするべきでしょう。遅刻谷くんはその程度の配慮もできないのかしら?」
八幡「あー、悪かったな。ちょっと色々あってさ、依頼を引き受けていたんだ」
結衣「え、依頼? ヒッキーに? ヒッキーが?」
八幡「疑問符多過ぎだろ……まあ相談を受けたんだが女子のお前らには言いにくい内容だったからな、俺個人に依頼が来たわけだ」
雪乃「そう、とすると色恋沙汰関係かしら? 確かにあなたなら他に漏れる心配は少ないものね」
八幡「それは俺の口が固いって意味だよな? 言いふらす相手がいないって意味じゃないよな?」
雪乃「そんなの決まってるじゃない」ニコッ
八幡「いい笑顔で曖昧にしようとするな。いややっぱりいい、何も言うな」
雪乃「あなたには言いふらす友達がいないものね」
八幡「言うなっつっただろ! ……まあそんなわけだから依頼内容は一応秘密な」
雪乃「まああなたならともかく依頼人のプライバシーをおいそれと侵害するわけにはいかないわね」
八幡「おいこら俺ならともかくってどういうことだ……まあ難しい内容でもないしお前らの手を煩わすことはないから」
結衣「うん。でも何かあったら言ってね?」
八幡「ああ」
平塚「全員揃ってるか?」ガラガラ
雪乃「平塚先生、ノックを」
平塚「おお、すまんすまん。ところで今晩急遽近隣学校の若手教師の集まりが催されることになってな、私もそちらに行かなければならなくなった。面倒くさいが若手だからな! 私は若手だから仕方ないのだ! どんな出逢いがあるかもわからんし一度帰宅して気合いを入れた格好にしないといかん」
結衣「先生……」
八幡(早く誰か貰ってあげてください)
平塚「そんなわけで今日は部活はもう終わりでいいぞ。鍵は私がここで預かろう」
雪乃「ではお願いします」
結衣「ゆきのん一緒に帰ろー。ヒッキーも昇降口まで行こ」
雪乃「ええ」
八幡「へいへい」
結衣「でさー」
雪乃「そうなのね」
八幡(廊下で前を行く二人が楽しそうにお喋りをしている。あれ? 俺いらなくね?)
八幡(一緒にいる意味あんのかよ、って思ったがそれは部室でも同じことでしたね)
八幡(まあぼっちなんて慣れてるし別に……って、あそこに歩いてるのは川崎?)
八幡(図書室への用事が終わったのか。まあいちいち声をかける必要も……げっ、グラウンドにいるのあのフられ野郎じゃねえか。しかも目が合っちまった!)
八幡(ここで川崎に声をかけないのは恋人として不自然すぎる……雪ノ下達がいるが仕方ない、あとでワケを話すとして今は川崎だ)
八幡「おーい川崎、一緒に帰ろうぜ!」
結衣「えっ!?」
雪乃「!?」
川崎「比企谷? あ……」
八幡(あいつに気付いたみたいだな)
八幡「自転車取ってくるから校門で待っててくれよ」
沙希「あ、いや、一緒に行くよ」
八幡「そっか、よし行こうぜ。じゃあな雪ノ下、由比ヶ浜」
雪乃「」
結衣「」
八幡(二人とも固まってやがる……ま、当然だろうな)
沙希「いいのかい、二人を置いて来ちゃって」
八幡「あそこであいつらに構ってる方が不自然だろ」
沙希「でも二人にはちゃんと説明してないんでしょ、勘違いされるんじゃない? その、あたしたちがそういう仲だって」
八幡「まあ明日あたり適当に説明しとくさ、川崎が俺なんかとそういう……」
沙希「だから! なんかって言うのは禁止!」
八幡「お、おう」
沙希「それと勘違いってのはあたしじゃなくてあんたのことなんだけど」
八幡「ああ、どんな弱みを握ったんだとか罵倒される姿が目に浮かぶぜ」
沙希「もう……わざと言ってないかい?」
八幡「?」
沙希「ま、いいや。説明するのはいいけど演技ってのは外に漏れないようにしてね。あいつの耳に入るとやっかいだし」
八幡「ああ、その辺は言い含めておくさ。俺は言いふらす相手もいないが」
八幡「そういえば川崎も自転車通学じゃなかったか? さっき歩いて校門に向かってたけど」
沙希「ああ、実はあたしの自転車壊れちゃってね。バイトでもして新しいのを買おうかと思ってるんだけどしばらくはバスか徒歩だよ」
八幡「そうなのか……よっ、と。どうする? 今なら妹限定の後ろの席に乗せてやってもいいぞ?」
沙希「シスコンめ……いや、いいよ。学校を出てちょっと先まで一緒にいれば大丈夫でしょ」
八幡「そうか、なら……悪ぃ、やっぱり後ろに乗ってくれるか?」
沙希「え?」
八幡「校門のとこで雪ノ下たちが待ち構えてやがる。たぶん俺達に話を聞こうとしてるんだろうが……あそこじゃマズい。突っ切るから」
沙希「わ、わかった……よいしょ、と」
八幡「よし、ちゃんと掴まっとけよ」
沙希「うん」ギュ
八幡(う、柔らかいモノが背中に……平常心平常心)
沙希(比企谷の背中……大きくてあったかいな)
八幡「じゃ、行くぞ」
沙希「ん」
八幡(漕ぎ出すと雪ノ下たちはこっちに気付いたようだが、構わずに突進だ)
八幡「話は明日だ! じゃあな!」
雪乃「比企谷くん!」
結衣「ヒッキー!」
沙希(あたしは眼中にないんだろうか? ……いやまあ当然といえば当然か、だって……)
八幡「ふう、脱出成功だな。ついでだしこのままお前の家まで送ってってやるよ」
沙希「いや、それはさすがに悪いよ。確かあんたんちからウチまではそんなに遠くないからあんたんちで降ろしてくれればいいって」
八幡「遠慮しねえでもいいのに。ま、了解したよ。依頼主の言うことなら聞いときますかね」
沙希「依頼主……」ズキン
八幡「どうした?」
沙希「何でもないよ、それより随分二人乗りに慣れてるみたいだね」
八幡「ああ、小町をよく送り迎えしてるからな。いや、むしろ送り迎えさせてもらってる」
沙希「なんでへりくだってんのさ……」
八幡「あんな可愛い妹が後ろに乗ってくれるんだぞ、こっちからお願いするレベルだ」
沙希「やれやれ、ホントにシスコンなんだから」
八幡「千葉では普通だろ。悪いかよ」
沙希「いや、いいんじゃない? 家族を大切に思うのは当然のことだし」
八幡「……そ、そうか」
八幡(いつもなら『キモい!』とか『気持ち悪い』とか『通報するわ』と言われて引かれるのに……あ、そういやこいつもブラコンだったな、気持ちは解るってことか)
沙希「でもさ」
八幡「あん?」
沙希「家族を思いやるのもいいけど……少しは自分のことも大事にしなよ」
八幡「…………何のことだかわかんねえな」
沙希「わざとにしろそうでないにしろその答えはズルいって理解してる?」
八幡「……………」
沙希「ま、あんたがそうしたくてやってるなら止めはしないけどさ、本当にイヤなことからは逃げたっていいんだよ?」
八幡「ははは、むしろ逃げに逃げ回って今の俺があるんだぜ。労働から逃げたくて専業主夫希望の俺をなめんなよ」
沙希「…………馬鹿」ギュッムニュッ
八幡「かかか川崎さん!? その、そんなにくっつかれるとですね!」
沙希「いいでしょ別に、減るもんじゃないし」ムニュムニュ
八幡(減ってます! 俺の精神がゴリゴリ減ってますから! あとそういうセリフって男が言うものじゃないですかね!?)
沙希「なんなら依頼料とでも思っときなって」ムニュムニュ
八幡「ホントに止めて! 運転に集中できなくなるから!」
沙希「ふふっ」
八幡「くそ、無駄に疲れた……もうちょいかかるのに」
沙希「いい思いが出来たでしょ?」
八幡「うるせえ」
沙希(否定はしないんだ)クスクス
沙希「ああ、言っとくけどこんなこと誰にもしたことないからね。比企谷だけだから」
八幡「っ! ……そ、そうか」
八幡(なにそのセリフ!? 勘違いしちゃうじゃないか!)
沙希(ちょっと大胆だったかな……でも比企谷も嫌がってないし……)
八幡「ああ、ウチが見えてきたぞ。どこで降ろす?」
沙希「この道をそのまんま行くから家の前でいいよ」
八幡「アイアイサー」
沙希(もうこの時間も終わっちゃうのか……)
八幡「到着、っと」キキッ
沙希「ああ、ありがとう」ヒョイ
八幡「んじゃまた明日な」
沙希「うん、また明日」
小町「残念ながらそれは叶わないのです! ババーン!」
沙希「!?」
八幡「突然出てきて何を言ってる。あと擬音を口で出すな」
小町「沙希さん、こんにちは! いつも兄がお世話になってます!」
沙希「あ、いや、むしろこっちが世話になってるくらいで」
小町「女の子を家まで送らないなんて男としてゴミにも程があるよゴミいちゃん! 小町的にポイント低い!」
八幡「いや、ちゃんと送るかどうかは聞いたから。それで断られたなら仕方ないだろ」
小町「そういう時はわざわざ聞かずに黙って実行すればいいの! さりげない優しさってやつだよ!」
八幡「そんなのこそ逆に迷惑だろ。ソースは女子の運ぼうとしてるプリントを半分持ってやったら仕事を邪魔されたと先生に言いつけられた俺」
小町 ・沙希「うわぁ……」
八幡「そんなわけだから……「ひ、比企谷!」……あん?」
沙希「や、やっぱり……その、送って行ってくれない、かな?」
八幡「お、おう」
八幡(なにその申し訳なさそうな表情での上目遣い。好きになっちゃうよ?)
八幡「じゃ、じゃあちょっとカバンだけ置いてくるから待っててくれ」
小町「あ、小町が預かっとくよ。それよりちゃんと送り届けないと夕飯抜きだからね」
沙希「なんかごめんね」
八幡「別に謝るようなことじゃないだろ、とりあえず乗れよ」
小町「あ、ストップストップ。その前に沙希さん、メルアド教えてもらってもいいですか?」
沙希「え、ああ、構わないけど……ほら、赤外線」ピロリン
小町「はい、確かに受け取りました。あとで小町から連絡しますねー」
八幡「騒がしい妹で悪かったな」キコキコ
沙希「そんなことないよ(おかげでこうしている時間が増えたし)
八幡「そういえば俺達も連絡先交換してなかったな。あとで……その、するか?」
沙希「そうね、しとかないとね。なんでそんなおそるおそる聞くのさ?」
八幡「いや、だって女子と連絡先交換なんて断られるか宛先不明かばっかで……」
沙希「由比ヶ浜や雪ノ下がいるじゃない」
八幡「由比ヶ浜は向こうから言ってきたし雪ノ下は未だに知らんぞ」
沙希「あんだけ一緒にいて知らないんだ……じゃああたしが第一号かな?」
八幡「おう、光栄に思え」
沙希「何それ。逆じゃない?」フフッ
八幡「…………」キコキコ
沙希「…………」キュ
八幡「…………」キコキコ
沙希「…………」ギューッ
八幡(なんとなく沈黙してしまったな……でも)
沙希(気まずくもないし苦痛でもない、むしろ)
八幡 ・沙希(くすぐったい感じだけど居心地が良い……)
八幡(もうすぐ目的地に着きそうだけど……言ってみようか)
八幡(ええい! 失敗したって黒歴史が一個増えるだけだ! それにこいつには言いふらすような友達もいない! ぼっちでありがとう川崎!)
八幡「なあ川崎」
沙希「な、何?」
八幡「知っての通り俺は奉仕部でさ、あんまり身体を動かさないんだ」
沙希「そうだね」
八幡「休日もだいたい家でゴロゴロしてるし」
沙希「そんな感じっぽいよねあんたは」
八幡「たまには少し運動をしないとなってふと思ってさ」
沙希「? うん」
八幡「こ、この自転車漕ぐの、もうちょい続けたいから、す、少し遠回りしても、いいか?」
沙希「!! 夕飯まで時間がまだあるし、か、構わないよ」
八幡「お、おう、ありがとな」
八幡(あれからしばらく自転車でブラブラ徘徊したあと川崎を家まで送り届けたわけだが)
八幡(別れ際の川崎の顔が赤かったのは夕日のせいだな)
八幡(だからもし俺の顔も赤かったとしても夕日が悪い)
八幡(やはりぼっちは日の当たるところで生きてはいけないのである)
八幡「たでーまー」
小町「お帰りなさいお兄ちゃん、遅かったね。まさかデートしたり沙希さんの家にお邪魔したり!」
八幡「なんで疑問符じゃなくて感嘆符で決め付けてんだよ……お邪魔とかねーから。自転車で家まで送ってってすぐに引き上げたから」
八幡(嘘は言ってない)
小町「はあ……ま、そうだよね。ヘタレなお兄ちゃんから何か言ったり誘ったりするわけないか」
八幡「………………」プイッ
小町「え、なにその反応。まさか、え……?」
八幡「そ、それより小町、川崎の連絡先教えてくれ。交換しようと思ったらカバンの中にスマホ入れっぱなしだったんだ」
小町「うわあ、話すり替えるの下手すぎ……でもそっか、だから結衣さんからメール来たんだ」
八幡「は? 由比ヶ浜から?」
小町「うん、聞きたいことがあるのにお兄ちゃんが電話に出ないって」
八幡「マジかよめんどくせえな、明日話すっつったのに」
小町「あと沙希さんと一緒に帰ってたけど何か知らないかって」
八幡「あー……実は川崎と付き合うフリをすることになってな」
小町「ええっ!? お兄ちゃんと沙希さんが……ってフリ?」
八幡「ああ、一緒に帰ったのもそれ関係だ。しばらくの間だけどな。バレたら色々面倒だから秘密にしといてくれ」
小町「付き合ってるのを? それともフリってのを?」
八幡「どっちもだよ。特にフリって方をな。まあぼっち同士が付き合ったところでそんなに気にするやつもいないだろうが一応な。由比ヶ浜達には明日説明するつもりだ」
小町「うむむ、これは修羅場の予感」
八幡「だよなぁ……どんな罵詈雑言が飛んでくるかわかったもんじゃないぜ」
小町「……お兄ちゃんもしかしてわざと言ってる?」
八幡「何のことだよ? 川崎も似たようなこと言ってたけど」
小町「小町はなーんにも知りませーん。それよりお兄ちゃんのスマホに沙希さんのアドレス添付して送っといたから。フリであるにしろ彼氏役なんだったら何かしらメールを出すこと、わかった?」
八幡「へいへい、まあ打ち合わせとかもあるしな。夕飯出来たら呼んでくれ」
小町「ラジャー。あと三十分くらいだから」
八幡「おう」
八幡「…………」
八幡(やべ、すっげえ眠い)
八幡(昨晩由比ヶ浜に一報入れたあと、川崎と綿密な打ち合わせをメールでやり取りした。それはいい)
八幡(ただぼっち同士、メールの止めどころというのがわからなくて本来必要のない話題や世間話に花を咲かせてしまった)
八幡(慣れないことをしている上に深夜のテンションも加わって俺のいくつかの黒歴史まで暴露してしまったのは後悔している)
八幡(ただこのやり取りで俺の事をもっと川崎に知ってもらえただろうし、俺も知らなかった川崎の面を知ったのは嬉しいと思った)
八幡(中には不躾な質問もあっただろうに、少なくとも文章上では不快感を表さずに答えてくれた)
八幡(フリ、なんだよなあ……)
八幡(なんかもやもやするな)
八幡「起きるか……」
小町「あ、おはようお兄ちゃ……うわっ、どしたのいつも以上に目が腐ってるよ! 二割増くらい!」
八幡「たかだか二割くらいでそこまで驚くのかよ元々の腐りっぷりが尋常じゃねえな俺の目」
小町「でも本当に大丈夫? 心なしか元気もなさそうだけど」
八幡「寝不足なだけだから気にすんな、体調とかは問題ない」
小町「それならいいけど……今はお兄ちゃん一人だけの身体じゃないんだからね。お兄ちゃんに代わって沙希さんのことも考えてあげるあたり小町的にポイント高い!」
八幡「はいはい高い高い、良く出来た妹で幸せです、愛してるぜ小町…………あっ!」
『愛してるぜ、川崎!』
八幡「あ、あ、ああ、あああああ」
小町「ど、どしたのお兄ちゃん!? とうとう頭まで腐っちゃったの?」
八幡(文化祭のあの時、お、俺は川崎に!)
八幡(し、しかしそれ以降のあいつの反応は別に……いや、でも)
八幡(本人に確認してみたいが藪蛇になりかねん……)
八幡(いや落ち着け比企谷八幡。クールになれ)
八幡(今は悩んでる場合じゃない、やるべき事を考えろ!)
八幡(とりあえず今やるべき事は……)
八幡「ちょっと部屋で枕に頭埋めて足をバタバタさせてくる」
小町「お兄ちゃん!? お兄ちゃーん!?」
八幡(一通り奇行を終え、数々の黒歴史を持つ俺は持ち前の精神力でさっさと立ち直り、登校の準備をする)
八幡(ただ小町には憐れみの視線を向けられて気を使われ、送迎を遠慮されてしまった)
八幡(むしろこっちがしたいくらいなのに! 妹を後ろに乗せて自転車で走りたい!)
八幡(もちろんそんなことを口にしたら憐れみの視線がゴミを見る目に変わるだろうが)
八幡(そんなふうにぼんやり考えながら登校してたら遅刻ギリギリになってしまい、なんとか担任より早く教室に飛び込めた)
八幡(そしてまず目に付いたのがこっちを振り向いた川崎沙希さんである)
八幡(表情を変えずに、ちょっとだけ視線を逸らして手を軽く上げて挨拶っぽいのをしてきた)
八幡(俺も少しだけ手を振り、声を出さずに口の動きだけで挨拶をする)
八幡(いや、こんくらい友達なら誰だってやることだろ。俺友達いないけど)
八幡(だから今にも唸り声を上げそうな表情でこちらを睨むのをやめてくれませんかね由比ヶ浜さん。部活の時間に説明するって昨日言ったじゃないですか)
八幡(さて、幸いにもあのフられ野郎は別クラスだから教室では特に気にすることもない)
八幡(カップルだからって常日頃からイチャイチャベタベタくっついてるわけじゃないしな。いや、そんなカップルもいるけど。何なの? 病気なの? 離れると死んじゃうの?)
八幡(少なくとも俺には考えられん……さて、昼休みだし購買寄っていつものベストプレイスに向かうか)
沙希「ひ、比企谷」
八幡「なんだ、かわ……川島?」
沙希「川崎なんだけど、ぶつよ」
八幡「すまんすまん、どうした廊下で待ち伏せなんかして?」
八幡(よく考えたら今日初めてのこいつとの会話か。実にカップルらしくねえな、いや、フリなんだけど)
沙希「い、今から昼ご飯でしょ、一緒に食べない?」
八幡「え、あ、お、おう」
八幡(そうだな、昼を一緒するくらいはしとかないと不自然か)
八幡「じゃあちょっと購買寄ってくるから待っててくれ」
沙希「いや、大丈夫、その……あんたの分も作ってきたから」スッ
八幡「!! マ、マジで?」
沙希「う、うん、でもちょっと恥ずかしいからさ、できれば人目につかないとこで……」
八幡「わかった、俺のベストプレイスを紹介するぜ」
沙希「いつもここで食べてんの?」
八幡「おう、雨じゃない限りな。人もあんま来ないし風も吹かないし」
沙希「そう……じゃあ、あ、あり合わせで作ったもので悪いんだけど、はい」
八幡「(パカ)…………いや、絶対嘘だろそれ。なんで俺の好物ばっかで構成されてんの? 確かに昨日好きなものは少し話したけど、全部話した覚えはないぞ」
沙希「う……その、小町に聞いたんだよ」
八幡「え? てか小町って……」
沙希「昨日小町ともやり取りしててさ、今日は比企谷は弁当じゃないからって聞いて……あと自分のことは『小町って呼んで』って言われた」
八幡「あー、あいつ稀に『姉も持ってみたかった』とか言うからな、川崎みたいなのがいると嬉しいんじゃねえの? 小町の姉になってくれね?」
八幡(雪ノ下や由比ヶ浜は姉って感じはしねえしな)
沙希「え……そ、それって」
八幡「ん……あっ! い、いや、今のは言葉の綾っつーか、その、変な意味じゃなくてだな!」
沙希「わ、わかってるから!」
八幡「そ、それより弁当食おうぜ! 美味そうでもう我慢できそうにない!」
沙希「うん、め、召し上がれ!」
八幡「ふう、御馳走様でした」
沙希「お粗末様でした」
八幡(緊張と恥ずかしさのあまり味がよくわからなかった)
八幡(なんてことは一切なく、普通に、いや、すげえ美味かった)
八幡(雪ノ下みたいに一人暮らしをして家事スキルが高いのとは違い、たくさんの家族の長女だからこそ家事スキルが高い)
八幡(特に家族思いの川崎なら苦に感じることもなく嬉々として日々研鑽を積むことだろう。面倒見のいいオカンといったところか)
八幡(俺を養ってくんねえかなあ……主婦業スキルですら負けているが。でもどっちにしても)
八幡「いい嫁になりそうだな」
沙希「えっ!?」
八幡「えっ」
八幡(あれ?)
八幡「い、今、俺、何か言ってたか?」
沙希「ううん! 何も! 何も言ってない! もし何か言っててもあたしには聞こえなかった!」
八幡「そ、そうか、ならいいんだ」
八幡(嘘だ、その反応は絶対聞かれてた。てか俺がおかしくね? 寝不足のせい?)
沙希「昼休みはもう少しあるけどいつも何してんの?」
八幡「だいたいここでギリギリまでボーっとしてる。ぼっちが一人で教室にいたって邪魔なだけだからな」
沙希「あんたの場合邪魔どころか認識すらされないんじゃないの?」クス
八幡「うるせえ、同じクラスなのに『え、誰コイツ?』みたいな反応をされる辛さがわかるのか? わからないだろ? だから俺も同じことを周りにやり返す」
沙希「それは周りに興味がないから覚えないだけでしょ。由比ヶ浜のことも初めて奉仕部に来たときに存在を知ったってのに」
八幡「なんでそれ知ってんだよ俺のプライバシーどこ行ったの? いや、すまん、昨晩俺が言ったんだったわ……深夜のテンションは恐ろしい」
沙希「でもあたしは楽しかったよ。ちょっと寝不足にはなっちゃったけど。その、時々はああいう相手してくれると嬉しい……かな?」
八幡「なんで疑問文なんだよ。まあ俺なんかで……じゃない、俺で良かったら、その、また、な」
沙希「うん」ニコッ
八幡「!!」ドキッ
八幡(なんだよ今の笑顔、反則だろ!)
八幡(普段つり上がり気味の目尻があんなにふわっと柔らかく……ちくしょう)
八幡「ああ、弁当、本当にありがとな。箱は洗って明日返すよ」
沙希「何言ってんの、それじゃ明日作って来れないじゃない」
八幡「え、明日も作ってきてくれるのか?」
沙希「少なくとも依頼中はね。どうせ自分の分は作るからそんな手間じゃないし」
八幡「マジか、ありがとう。本当に美味かったから遠慮なく頂戴するぜ」
沙希「そこまで褒められると明日からのがプレッシャーかかるんだけど……」
八幡「いやいや自信持っていいって。そうなると依頼が終わる時が残念なくらいだ」
沙希「!! そ、そう……」
八幡「はあー、これで午後の授業が数学と体育でなけりゃな」
沙希「このままここでサボっちゃう?」
八幡「ばっか、ぼっちは目立たないことが重要なんだよ。移動教室や体育ならともかく数学の時間はさすがにバレるだろ、俺の経験上」
沙希「体育とかでもバレない方が不思議なんだけど……」
八幡(そんなたわいもない話をしてると予鈴が鳴り、俺達は教室に向かう)
八幡(万が一にでも好奇の目で見られないように入るタイミングをずらす)
八幡(これも目立たない為の配慮だったのだが、その気遣いは由比ヶ浜のせいで無駄になった)
結衣「どこ行ってたのヒッキー!? ゆきのんと一緒に聞きたいことがあったのに!」
八幡「どうどう、落ち着け由比ヶ浜。話なら放課後にするって昨晩メールしただろ」
結衣「う……そうだけど、でも、待ちきれなくて」
八幡「何、俺の話が気になるの? お前そんなに俺のこと好きなの?」
結衣「好っ……! ヒッキーの馬鹿! キモい! 死んじゃえ!」
八幡「おいやめろ、大声で俺の評判を貶めるな。もうすでに地の底まで落ちてるのにさらに穴を掘らなきゃいけなくなるだろ」
沙希「あのさ、入口で留まれると邪魔なんだけど」
結衣「あ、サキサキ、ごめん」
沙希「サキサキ言うなって……」
結衣「えー、可愛いし言いやすいじゃん」
沙希「そんなこと思ってるのはあんたと海老名だけだよ」
八幡「そうだぞ、こいつには川原沙希っていう立派な名前がだな」
沙希「川崎なんだけど、ぶつよ?」
八幡「ごめんなさい」
結衣「むー……え、えっとその、二人ってさ……」
担任「川崎! 川崎はいるか!?」
沙希「!? はい!」
八幡(なんだ? 血相変えて駆け寄ってくるなんてただ事じゃないぞ)
担任「今お前の妹さんが通ってる保育園から連絡があった! 妹さんが怪我をして病院に運ばれたらしい」
沙希「えっ!?」
八幡「!!」
担任「詳しくはわからないが御両親とは連絡が取れなかったらしい。そこのバス停のそばにタクシーがよく留まってるからそれでこのメモの病院に向かうんだ」
沙希「は、はい! 今日は早退します!」ダッ
結衣「サキサキ……大丈夫かなぁ…………あれ? ヒッキー?」キョロキョロ
沙希(っ……なんでっ! なんで今日に限ってタクシーがいないの!?)
沙希(どうする……バスを乗り継いで行く? それとも大通りに出てタクシーを上手く拾う?)
八幡「川崎!!」キキッ
沙希「!! 比企谷!? なんで! それに自転車……」
八幡「後ろ乗れ! その病院なら通ったことあるし裏道知ってる! 上手く行きゃバスやタクシーより早い!」
沙希「で、でもあんたは授業が……」
八幡「数学と体育はサボることにしてんだ! 早く!」
沙希「っ! ごめん! ありがと!」
八幡「よし! 安全運転しつつ飛ばすぞ! しっかり掴まってろ!
沙希「お願い!」
沙希(京華……無事でいて……)
「えっ! 指先を紙の端でちょっと切っただけ!?」
八幡(病院の入口で川崎を下ろして先に向かわせ、駐輪場に自転車を置いてから後を追った俺の耳に入ったのはそんなセリフだった)
八幡(いや、確認するまでもなく川崎なんだが。そちらを見ると川崎と初老の医者と保育士っぽい若い男性が話をしていた)
八幡(俺がそちらに駆け寄ると同時に気が抜けたのか川崎がフラッと崩れ落ちそうになる)
八幡「おっと、大丈夫か川崎?」ガシッ
沙希「あ……比企谷、ごめん、その」
八幡「いいから。とりあえず座れ、な?」
沙希「あ、うん」
八幡(川崎を待合室の椅子に座らせ、医者と保育士の方に顔を向ける。あの、保育士さん、なんでそんなにビクッとしたんですか? 俺の顔に何か付いてますか? あ、付いてましたね腐った目が二つ)
八幡「ああ、俺は沙希さんのクラスメートです。けーちゃん、京華ちゃんとも遊んだことがあります」
保育士「あ、そ、そうでしたか」
八幡(怪しい男の素性が知れてほっとしたようだ。まあ俺みたいなのが突然しゃしゃり出てきたら無理もないか)
八幡「それより今京華ちゃんは指を怪我したと聞きましたが?」
保育士「は、はい、指先を本のページの端っこで切っただけなのですが……あまりに痛いと泣くのでもしかしたら見えないところで何かあったのでは、と思いまして」
医者「子供は血を見ると大袈裟に泣くからね、仕方ないよ」
保育士「おおごとにしてしまってすいません」
八幡「いえ、こういう時に痛いのを我慢してしまう子も中にはいますから。むしろそこまで気にかけてくれてありがたいことです」
保育士「そう言っていただけると……」
八幡(クレームとかを恐れていたのか、保育士さんはひと安心といった表情になる。もしかしたらまだ新人なのかもしれない)
八幡「ところで京華ちゃんはどちらに?」
医者「御手洗いに行きたいと言ってうちの看護婦が連れて行ってる、すぐに来るよ」
「あー! はーちゃんだー!」
八幡(トテトテと駆け寄って来たのは指先に絆創膏を巻いた川崎の妹、川崎京華だった)
京華「さーちゃんもいるー! どうしたの?」
八幡「けーちゃんを迎えに来たんだ。あとここは病院だから静かにな」シー
京華「うん」シー
八幡(しゃがんで目線を合わせ、口に指を当てて『静かに』のジェスチャーをする俺を真似するけーちゃん、ええ子や……特に俺の目を見ても怖がらないところが最高)
八幡(ご褒美に頭を撫でてやるとにへへーと笑う……しまった、でしゃばりすぎたかな? そう思って川崎を窺うと、すでに立ち直ったか川崎は医者と保育士さんと話をしている。ならばもう少し面倒を見とくか)
八幡「けーちゃん、さーちゃんは先生達とお話してるから俺と待ってようか」
京華「うん」
八幡(小さく元気よく返事をしたけーちゃんは椅子に座る。この躾の良さは川崎家の育児の賜物だろう。俺はその隣に座った)
八幡「怪我をしたんだってな。平気か?」
京華「うん、ちがでてないちゃったけどばんそうこうしてもらったから」
八幡「そっか、大したことなくて良かった。でも怪我には気をつけような? さっきも走ったりして危ないぞ」
京華「あ、ごめんなさい……」
八幡(ペコリ、と下げた頭を俺はまたそっと撫でてやる。そうするとけーちゃんはもっと、と言わんばかりに頭をこちらに寄せてきた)
八幡(まあ話してるよりこっちの方が気楽だしな……べ、別に園児とはいえ女の子と何を話していいかわからないわけじゃないんだからねっ、いざとなれば俺にはプリキュアがあるんだからっ)
沙希「ごめん、待たせちゃったね」
八幡(どのプリキュアが好きか話し掛けるタイミングを見計らっているうちに、いつの間にか話を終えたらしい川崎が声を掛けてきた。保育士さんが出口の方で軽く頭を下げたので、こちらも同じように返しておく)
八幡「いや、大丈夫だ。この後はどうするんだ?」
沙希「園にも大した荷物はないし今日はこのまま連れて帰ることにしたよ……なんというか、その、ごめ「川崎」」
八幡(頭を下げて謝ろうとする川崎を俺は遮った。妹は姉のそんな姿を見たくはないだろう)
八幡「その話はまた今度だ」
沙希「あ……うん」
八幡(ちら、とけーちゃんを見た意図に気付いたのだろう。川崎は素直に頷いた)
八幡(しかし俺はどうしたもんかね? 今から学校に戻って授業を受けるなんてしたくない。体育が終わった頃を見計らってHRに何気なく参加するか……いや、由比ヶ浜がいるな、また目立ってしまう……とりあえず自転車を取ってくるか)
京華「はーちゃんもいっしょにかえるんだよね? ふたりでおむかえっていってたもん」
沙希「こら、比企谷はね……」
八幡「あー川崎、お前さえ良ければ、なんだが一緒にお前んちまで帰っていいか?」
沙希「え……?」
八幡「いや、今から戻るのも何だし、部活の時間までまだそれなりにあるしさ。まあ暇つぶしってことで」
沙希「ああ……うん、あたしは構わないけど」
京華「やったー、はーちゃん、かたぐるましてかたぐるまー!」
沙希「けーちゃん、ワガママばかり言わないの」
八幡「いや、構わねえよ。川崎、悪いけど俺の自転車頼んでいいか? 鍵はかけてないから。ほら、けーちゃんおいで」
京華「わーい!」
沙希「まったく……ごめん、ありがとね比企谷、すぐに自転車取ってくるから」
八幡(ここから川崎家までそんな大した距離でもないので歩いて帰ることになった。けーちゃんを肩車してる俺の横を、川崎が俺の自転車を押して一緒に歩いている)
沙希「それにしても随分子供の相手が手慣れてるね」
八幡「ウチは両親が昔から忙しいから小町の世話は俺がしていたからな。小町を泣かせたりすると怒られるし」
沙希「ご両親も小町が最優先なんだ……」
八幡「あんな可愛い妹なんだから仕方ない。むしろ当然だな」
沙希「シスコンと親バカか……」ハァ
京華「はーちゃんいもうといるのー?」
八幡「おう、けーちゃんよりずっと年上だけどな」
京華「かわいいの?」
八幡「ああ、すっげー可愛いぜ」
京華「さーちゃんとどっちがかわいいー?」
沙希「なっ!? けーちゃん、何を……」
八幡「んー、さーちゃんはどっちかって言うと可愛いってより美人さんだな」
沙希「ひっ、比企谷!?」
京華「さーちゃんびじんー?」
八幡「おう、美人さんだから結構モテるんだぞさーちゃんは。だからけーちゃんも大きくなったら美人さんになるぜー、なんたってさーちゃんの妹だからな」
京華「わーい! やったー! さーちゃんとおんなじびじんー!」
八幡(こんな会話を平然とやってのけている、なんて勘違いしないでもらいたい)
八幡(川崎は顔を真っ赤にしてうつむいてしまっているが、それに負けず劣らず俺も赤くなっていることだろう)
八幡(当たり前だ、あんな葉山みたいなイケメンが言いそうな甘ったるくて吐きそうなセリフがまともに話せるか!)
八幡(だが、家族が褒められるのは自分にとっても誇らしいことなのはすごくよくわかる)
八幡(だから俺はけーちゃんに喜んでもらおうと少しオーバー気味に褒めたのだ)
八幡(それに、まあ……嘘ってわけでもないしな…………)
京華「~~♪」
八幡(けーちゃんは上機嫌になったか俺の頭の上で歌を歌い始めた)
八幡(正直助かった、あの話を続けられると俺の精神が持ちそうにないからな)
八幡(そんなこんなで川崎家が見えてきた)
京華「ふぁ……」
八幡(家の前で肩から下ろしてやったところでけーちゃんは大きなアクビをした)
沙希「ああ、はしゃいじゃったしお昼寝してないから眠くなっちゃったんだね。ほら、手を洗ってうがいしたら着替えてお昼寝しようか」
京華「うん……はーちゃんは? いっしょにおひるねしないの?」
八幡「ああ、ごめんな。でもまた今度遊びに来るからその時は一緒にご飯食べたりお昼寝したりしような」ナデナデ
京華「うん! ぜったいきてね! ……ふわぁ」
沙希「ほら、行くよ。それと比企谷、少しだけ待っててくれない? その、話があるから」
八幡「ん、わかった。ここにいるからさ」
沙希「ごめんね、家にあげても良いんだけど……その」
八幡「わかってるよ、俺がいるとけーちゃんが興奮して寝れないんだろ? 時間とか気にしないでいいからちゃんと寝かしつけてやれ」
沙希「ごめ……ううん、ありがとう」
八幡(お、家の前の自販機にマックスコーヒーがあるとは川崎家は恵まれてるな)ピッガコン
八幡(ふう、やはり甘くて旨い。甘くないのは俺の人生だけで充分だ……いや、もうひとつあるか。人にはなかなか言えないが)
沙希「待たせちゃったかな?」
八幡「おっと。いや、随分早かったな」
沙希「はしゃぎすぎて疲れてたみたいでね、すぐに寝付いたから」
八幡「そっか」
沙希「うん」
八幡「…………」
沙希「…………」
八幡(何となく沈黙。いや、川崎は何かを話し出そうとしてはいるのだが、どう切り出したものかと悩んでいるようだ)
八幡(仕方ない、水を向けてやるか)
八幡「けーちゃん、大したことなくて良かったな。川崎があんなに狼狽えるなんて珍しいものが見れたし」
沙希「うん……」
八幡(あれ? 何でそんなにしおらしいの? ここはからかった俺に怒ったり恥ずかしがったりするとこだろ?)
沙希「本当にごめん、大したことなかったのに比企谷にこんなに迷惑をかけちゃって」
八幡「やめろ」
沙希「……比企谷?」
八幡「大したことなかったのを理由に謝るな。それだと大したことあった方が良かったみたいに聞こえかねないぞ」
沙希「! そ、そんなつもりはないよ!」
八幡「だろうな、だったら謝罪じゃなくてもっと別の言葉が聞きたい」
沙希「あ…………」
八幡(正直カッコつけすぎだと自分でも思う)
八幡(でも川崎に負い目を持たせたくないし、謝られるのも苦手なんだよ)
沙希「比企谷、本当にありがとう。すごく感謝してる」
八幡「お、おう、どういたしまして」
八幡(思っていた以上に真摯でまっすぐな感謝に戸惑ってしまった)
八幡(謝られるのは苦手だと言ったけど感謝されることにも慣れてないからな)
沙希「でもさ、何でここまでしてくれたの? あたしがあんたの立場だったら授業を抜け出してまで、なんてしたかどうか」
八幡「んー……理由なんか後付けでいくらでも出てくるが……身体と思考が勝手にそういう方向に行ってしまったんだよ」
沙希「勝手にって……」
八幡「まあ、もうしばらく弁当作ってきてくれるんだろ? それの礼としてタクシー代わりをしたってことにしといてくれ」
沙希「それっぽっちのことで……」
八幡「あとけーちゃんのことは俺も心配だったからな、川崎がタクシーやバスで向かっても自転車で駆け付けたと思うし。お前の弁当と一緒でついでだよついで。だからそんなに気にすんな」
沙希「うん。あんたがそう言うなら……でもあの子も随分あんたに懐いてるね」
八幡「ああ、川崎もフリとはいえ彼女だし今が人生最大のモテ期かもな、ははは」
沙希「ば、ばか」
沙希(本当はあんたのこと好きな女子はもっといるんだけどね……)
沙希「でも比企谷、あたしはあんたにちゃんとしたお礼をしたい」
八幡「いや、だから、アッシー君にしたくらいでそこまでかしこまるなって」
沙希「なんでそんな古い言葉を選ぶのさ……違うよ、それだけじゃない」
八幡「んん?」
沙希「あたしがほっとして力が抜けて倒れそうなとき、あんたは抱き止めてくれた」
八幡「…………」
沙希「まだ落ち着かなかったあたしに代わって冷静に先生達と話をしてくれた」
八幡「…………」
沙希「逆にあたしが話をしている間、さり気なくあの子の相手をして面倒を見てくれた。もちろん躾してくれたのも含めて」
八幡「…………」
沙希「帰ってる時だってそう。なんで……なんでここまで優しくしてくれるの?」
沙希(勘違い……しそうになるじゃない……)
八幡「……わかんねえ」
沙希「え?」
八幡「さっきも言ったように勝手に身体が動いたんだよ。あとは単純に俺がそうしたかったから、だ」
沙希「自分がそうしたかったから、か……それじゃあたしもそうしたいからそうする。あたしは比企谷にお礼がしたい」
八幡「う……」
沙希「自分だけ我を通して他人には通させない、ってことはないよね?」
八幡「くっ……でもお礼ってなんだよ? デートでもしてくれんの?」
沙希「あんたがそれを望むなら」
八幡「な……っ」
沙希「あたしに出来ることなら、あんたの言うことを一つ何でもしてあげる」
八幡「!!」
八幡(何でも!? 何でもだって!?)
八幡(クラスメートの女子に何でもしてあげるって言われた、すげえ勝ち組になった気分だ)
八幡(たぶん今の川崎なら多少無茶なお願いも聞いてくれるだろう……いやいや、変なことをさせる気は一切ないぞ?)
八幡(うん、ここはあれだ。あれにしよう。川崎ならきっと笑わずに俺の昔からの願いを叶えてくれる)
八幡「じゃあ川崎にしてほしいことがある。たぶんお前なら出来るし、お前以外には頼みにくい」
沙希「随分勿体ぶるね」
八幡「あと笑うなよ。いや、笑ってもいいけど誰にも言うなよ」
沙希「何かそこまで念押しされると怖いんだけど……」
>>2でトリ付けたけど元スレでも付けといたほうが良かったかな?
あと前半、というより前に投下したのとはだいたい同じ流れってことです。なんかいろいろすみません
~奉仕部~
八幡「うっす」ガラガラ
結衣「ヒッキー!! どこ行ってたの!? 先生も怒ってたよ!」
八幡「ああ、今職員室寄ってきたからすでにしこたま怒られてきた」
八幡(川崎の件を最初に伝えたから実際はそんなでもないけどな。平塚先生もフォローしてくれたし。なんであんな良い人が結婚できないんだろう?)
結衣「そんで結局どこ行ってたの?」
八幡「昼飯食ったあとに数学と体育なんて最悪だろ? ちょっとやる気出なくてサボったんだよ」
雪乃「ホラ谷君、さすがの由比ヶ浜さんでもその嘘は通用しないわよ」
結衣「ゆきのん!?」
八幡「うむむ、さすがの由比ヶ浜でもダメか」
結衣「ヒッキー!?」
雪乃「川崎さんの妹さんのことは由比ヶ浜さんから聞いたわ。そのタイミングでいなくなれば予想くらいつくのだけれど」
結衣「ちょっと! さっきのってどういう意味だし!?」
八幡「由比ヶ浜は正直者でいいやつだなってことだよ」
結衣「え、そ、そうかな?」エヘヘ
八幡(ちょろい)
雪乃(ちょろいわね)
雪乃「一応確認しておくけれど、川崎さんと一緒に病院へ行ったのかしら?」
八幡「ああ。怪我は全然大したことなかったが、やたら泣くから念のために病院に連れて行ったというのが真相だ。伝言ゲームよろしく大袈裟にこっちに伝わったんだな」
結衣「あ、そうなんだ。良かった……」
八幡(由比ヶ浜が安心したように溜め息をつく。やっぱりなんだかんだこいつはいいやつだ。さて、話は終わったし先週買った本でも……)
雪乃「比企谷君、まだ話は終わってないわよ」
八幡(ですよねー)
結衣「そうだよ! 何で昨日サキサキと一緒に帰ってたの!?」
八幡「あー……あまり吹聴して欲しくないんだがな、実は」
雪乃 ・結衣「……」ゴクリ
八幡「俺、昨日から川崎と付き合う……」
雪乃 ・結衣「!!?」
八幡「フリをすることになったんだ」
雪乃 ・結衣「………………え?」
八幡「まあそんなわけで昨日は一緒に帰ったんだ、以上」
結衣「ちょっと!? 全然説明になってないんだけど!」
八幡「いや、一応川崎のプライバシーに関わるかなと。リスクは減らしたいし」
雪乃「比企谷君、それは奉仕部としてのあなたに依頼したのでしょう? だったら同じ奉仕部である私達はある程度知っておいたほうがいいと思うわ」
八幡「うーん、まあ川崎もお前らならって言ってたしいいか。実はな~~(説明中)~~ってことなんだ」
結衣「へー……でもやっぱサキサキ美人だからね、無理ないか」
八幡「なんか相手がやたらしつこくてな、追い払うためについ彼氏がいると言ってしまったらしい。まああの様子だと外見だけに惚れたみたいだからしばらくすれば興味無くすだろ、それまでは適当に彼氏役を務めるさ」
結衣「ヒ、ヒッキー、実はあたしも時々男子に告白されて困ることがあるんだけど…………」チラ
雪乃「私もそういった声をかけられることはよくあるわ。断ってもしつこかったりして困るわね、決定的な理由があれば楽なのだけれど……」チラチラ
八幡「ああ、お前らは可愛いし俺とは正反対でモテるからな、俺なんか『なんでこんなやつが……』って視線で見られたぞ」
結衣「かっ、かわっ……ヒッキーの変態!」
八幡「ええー……なんで俺今罵倒されたの?」
雪乃「コホン……まああなたの場合仕方ないでしょうね。目が腐敗しているし悪い評判の方が広まっているでしょうし目が腐敗しているし」
八幡「ねえ、なんで目のことを二回言ったの? 大事なことなの?」
雪乃「事実でしょう?」
八幡「そうだけどさ……だからこんな依頼俺が引き受けるのは今回限りだな」
雪乃 ・結衣「えっ」
八幡「川崎もぼっちだから他に頼める男がいなくて、って感じで俺にお鉢が回ってきた感じだし。今度から似たような依頼はお前らに回すから適当な断り方を教えてやってくれ。さっきも言ってたけど慣れてるんだろそういうの?」
雪乃 ・結衣「…………」
八幡(まあ川崎は俺をいい男と言ってくれたけどな。でも他に仲が良い男子がいないから相対的に良く見えるだけかもしれん。勘違いは禁物)
結衣「う、えと……ううう」
八幡「どうした由比ヶ浜、唸りだして? トイレなら早く行ってこい」
結衣「違うし! ヒッキーの馬鹿!」
雪乃「あなたは一度生まれ変わった方がいいわね。もっとも一回の転生でその目が持つカルマをすべて浄化できるとは限らないけれど」
八幡「なんか今日は俺に厳しくない?」
~♪~♪~♪
八幡「おい、どこかでなんか鳴ってんぞ。誰かの携帯じゃねーの?」
雪乃「私ではないわよ」
結衣「あたしでもないよ。てかヒッキーじゃないの? そのカバンから鳴ってるけど」
八幡「ああ、俺のカバン持ってきててくれてたのね、サンキュ。スマホ入れっぱなしだったか……というか俺に電話するやつがいるのか?」ゴソゴソ
結衣「それ自分で言っちゃうんだ……」
八幡「よっと、はいもしもし」ピッ
???『あ、あの、かわさきけいかといいます。こんにちは。その、はーちゃん、ですか?』
八幡「ああ、けーちゃんか、俺だよ。お昼寝の時間は終わったのかな?」
雪乃 ・結衣「!!?」
京華『うん、あのね、はーちゃんにいいたいことがあったの!』
八幡「ん? なんだい?」
結衣(な、なに、あのヒッキーの表情……)
雪乃(腐ってる目が気にならないほど優しい表情ね……)
結衣(声もすっごく柔らかくて……)
雪乃(私達はあんなのを向けられたことないわね……)
京華『その、きょうは、ありがとうございました!』
八幡「どういたしまして。もしかしてそれを言うために電話してくれたのか?」
京華『うん! あ、ちょっとさーちゃんにかわるね』
沙希『ごめんね、今大丈夫だった?』
八幡「ああ、益体もない部活中だ」
沙希『今度会ったらちゃんとけーちゃんもお礼を言わないとねって言ったらすぐに伝えたいって主張してきてさ。迷惑かなと思ったけど電話させてもらったの』
八幡「そっか、じゃあそれに対するお礼を言わないとな、ちょっとけーちゃんに代わってくれ」
沙希『はいはい』
京華『けいかです!』
八幡「ああけーちゃん、電話してくれてありがとう、凄く嬉しいよ。けーちゃんはお利口さんで良い子だな」
京華『えへへー、だったらまたあそんでくれる?』
八幡「ああ、ちゃんといい子にしてたら絶対遊びに行くよ、じゃあまたさーちゃんと代わってくれるかな?」
京華『うん! ぜったいだよ!』
沙希『もしもし、なんか本当に色々と悪いね……代わりってわけでもないんだけど例の件、頑張るから』
八幡「いや、そんなに気合い入れなくてもいいぞ? いつも通りでいいから」
沙希『そう……なら程々に頑張るよ』
八幡「ああ、よろしく。それと雪ノ下と由比ヶ浜にお前から依頼されたっての伝えたから」
沙希『あ、そう……その、二人はなんか言ってた?』
八幡「やっぱ川崎もモテるんだなって。それ関係は慣れてるから今後そっち方面で困ったらいつでも相談に乗るってさ。やっぱり俺じゃ頼りないってことだな」
雪乃(言ってないわよ)
結衣(言ってないし!)
沙希(言ってないんだろうなあ……)
八幡「それとけーちゃんが無事で良かったって」
沙希『うん、二人にも礼を言っといてくれる?』
八幡「ああ」
沙希『それじゃ、あたしは家の用事をするからこのへんで。また明日ね』
八幡「おう、また明日な」ピッ
雪乃 ・結衣「…………」
八幡「川崎が、二人に心配かけてすまなかった、ありがとうってさ……って何だよその顔」
結衣「その、さ……ヒッキーって、ロリコンなの?」
八幡「はぁ? 突然何を言い出してんだこのアホヶ浜は」
結衣「アホって言うなし! だ、だって最初電話してたのサキサキの妹でしょ? あたしたちとは全然態度が違うじゃん! すごく優しかったし!」
八幡「子供に優しくするのは当たり前だろ……というか園児と同じ扱いされるのって逆に嫌じゃね? 頭撫でられたり肩車されたりするんだぞ?」
雪乃 ・結衣(むしろ撫でられたい)
八幡「あと俺の目を見ても怖がらないしな。それだけで小町と戸塚にしか出さない微粒子レベルで存在してる俺の優しさを分け与える価値はある」
結衣「ちょっとしか持ってないんだ……」
雪乃「どれも手を出したら問題になる人選ね」
八幡「いずれにせよ俺はロリコンじゃないからな。そもそも懐いてくれたり優しかったりする相手にこっちも優しくするのは当然だろ?」
結衣「じゃ、じゃあさ、あたしにももっと優しくしてよ!」
八幡「なんだよ突然」
結衣「あたしだってヒッキーに優しくしてるじゃん!」
雪乃「それを言うなら私もよね」
八幡「普段から腐ってるとかキモいとか散々吐き出してる口がそれを言うのか……あれだろ、お前らの言う優しさってのはぼっちの俺と会話してあげてるとかそういうレベルだろ」
結衣「そんなことないもん! あたしだってヒッキーとお話するのは楽しい……って何言わせるの!? ヒッキーの馬鹿! ……あっ」
八幡「フォローすると見せかけて流れるように悪口を言うとはさすがだな」
結衣「違うし! うう……そ、そうだ、あたしが明日お弁当作ってきてあげる! どう、優しいでしょ!?」
八幡「すまん、まだ俺は死にたくないんだ。この苦しい世の中から解き放ってくれるという優しさは気持ちだけ受け取っとく」
結衣「どういう意味だし!?」
雪乃「由比ヶ浜さん、あなたはもう少し練習してからの方がいいと思うわ…………なら比企谷君、私が作ってきたら嬉しいと思うかしら?」
八幡「ああ、お前は料理上手いもんな。嬉しいっちゃ嬉しいが……しばらくは川崎が作ってきてくれるからいらんぞ」
結衣「えっ、サキサキが!?」
八幡「ああ、少なくとも彼氏役の間は作ってくれるってよ。あいつも料理スキルは高いからな」
雪乃「あなた……依頼にかこつけて何を命令しているのよ」
八幡「ちげーよ、川崎の方から言ってきたんだよ。元々自分や家族のも作るから手間は掛からないって言ってるし」
雪乃「やめておきなさい。女子が男子にお弁当を作ってくるなんて周囲にどんな誤解を産むかわからないの? 川崎さんが可哀想じゃない、自分の立ち位置を忘れたのかしら?」
八幡(じゃあ今お前らが作ってきてくれそうな言い方したのは何だったんですかね?)
八幡「あのな雪ノ下、お前こそ忘れてんのかもしれねーが、今回の依頼はその誤解を産むことなんだぞ。おおっぴらに撒き散らすことじゃないし対象は特定の人物だが、ある程度の下地は必要なんだから」
雪乃「それは……そうなのだけれど……」
結衣「じゃ、じゃあさ、ヒッキーとサキサキってどこでお昼食べる予定なの?」
八幡「特に決めてるわけじゃないが……どこだっていいだろ」
雪乃「よくないわ、あなたと二人きりだなんて川崎さんの身が危ないもの」
八幡「どんだけ信用ねーんだよ俺は……お前らと二人きりになったこともあるけど何にもしてないだろうが」
雪乃「あら、直接手は出さなくともその腐ってる下卑た目でいつも私達の身体を舐めるように視姦しているじゃない」
結衣「なっ……最低! ヒッキーのスケベ!」
八幡「俺は今痴漢冤罪の過程をありありと目にした」
八幡(まあそういう目で見たことがないわけじゃないんですけどね。でも巨乳の由比ヶ浜や、スレンダーだけど姿勢良くピシッとしてる雪ノ下を男ならそう見ちゃうこともあるでしょ)
八幡(そういや川崎もスタイルはいいんだよな。身長は女子にしては高めだし胸もそれなりにあるみたいだし。二人乗りの時や抱き止めた時の感触は正直忘れられん……)
雪乃「なにか妙なことを考えている表情ね……あなたやっぱり」
八幡「ないから」
雪乃「ふむ、同年代に欲情しないとなると……ロリコン?」
八幡「もっとねえよ。てかそういう目で見ると罵倒するくせに見なきゃ見ないで貶されるなら俺はどうすりゃいいんだ」
結衣「あ、あたしは別にヒッキーなら……」ゴニョゴニョ
~♪~♪
八幡「ん、俺にメール……って今気付いたけどこの由比ヶ浜からの不在着信やメールの山は何だよ。あんな短時間でどんだけ送ってきてんだ」
結衣「だ、だって気になったし……」
八幡「てことは何だ、カバンの中で延々と着信音が鳴ってたのか、気付けよ」
雪乃「それは無理よ、誰もあなたの席なんて見ないもの。音が鳴っててもどこかで鳴ってるな、くらいにしか思わないわ」
八幡「まあそれは否定しないが」
結衣「しないんだ……」
雪乃「ところでそのスパムメールはどんな内容だったのかしら?」
八幡「なんでスパムって決め付けてんだよ、小町や戸塚から来ることもあるから三割くらいは違うぞ」
雪乃「七割はスパムメールなのね……」
結衣「ヒ、ヒッキー、もっとあたしがメールしてあげるね!」
八幡「いや、いらないから。お前のメール顔文字絵文字多くて目に良くないし」
雪乃「あら、それ以上悪くなりようが…………いえ、そういえば今日はいつもより濁っているような……」
八幡「ああ、これは単に寝不足なだけだ。てかよく気付いたな」
雪乃「元が最悪だから気付きにくいけれど隈が広がっているわよ。ゲームや漫画は早めに切り上げて睡眠をきちんと取りなさい」
八幡「いや、昨晩は川…………そうだな、今日は早く寝ることにするわ」
結衣「ヒッキー! 今サキサキのこと言いかけたでしょ!? 何、まさか一緒にいたの!?」
八幡「んなわけねーだろ、ちょっとメールのやり取りしてたら寝るのが遅くなっちまっただけだよ」
雪乃「なら何故今隠そうとしたのかしら? 疚しいことがないならきちんと説明できるはずよ」
八幡「お前らがそうやって問い詰めてくるのが面倒だからだろうが……今来たのだって川崎からだが、明日の弁当についてのことなだけで大したもんじゃない」
雪乃「本当でしょうね」
八幡「こんなことで嘘ついてどうすんだよ……疑うなら川崎にも聞いてみろ」
結衣「うー、あたしも! あたしも今晩ヒッキーとメールする!」
八幡「勘弁してくれ、今日は早く寝るって決めたんだよ。だいたい何の用もないだろ」
結衣「少しくらいいいじゃん!」
八幡「はあ……わかったわかった、少しだけだからな」
結衣「うん! 絶対だからね!」
八幡「へいへい」
~ 翌朝 ~
八幡(眠ぃ…………)
八幡(ちょっとだけって言ったのに由比ヶ浜は日が変わる頃まで延々とメールを送り続けてきた。返信しないと催促が何度も来るし、それでも無視をすると小町経由で注意してきやがった)
小町「おはようお兄ちゃん、夕べはお楽しみでしたね」
八幡「どこの宿屋の主人だよ。いや、楽しんでねーから。早いとこ寝たかったのに由比ヶ浜のやつ小町まで使いやがって。おかげで2日連続で寝不足だぜ」
小町「えー、女の子とメールしてて寝不足だなんてリア充みたいじゃん」
八幡「睡眠時間を削ってまですることじゃないだろ、健康にも悪いし。やはりぼっちが最高だということが改めて証明されてしまったな……ふわああ」
小町「ありゃ、本当に眠たそうだね。今日サボっちゃう? そんなお兄ちゃん小町的にポイント低いよ」
八幡「サボんねーよ、多分いなくてもバレねーけど。川崎との約束もあるしな」
小町「バレないんだ……ん、沙希さんとの約束?」
八幡(やべっ)
八幡「小町、そんなわけだから今日は小町の送迎はなしだ。寝不足で運転誤って小町に怪我でもさせたら大変だからな」
小町「そこまで小町のことを思ってくれるお兄ちゃんはポイント高い! だから今は話を逸らそうとしたのを黙認してあげる。帰ったら聞かせてもらうけどね!」
八幡(それ黙認って言わなくね?)
彩加「おはよう八幡。なんだか眠そうなだね、大丈夫?」
八幡(教室に入ると天使が話しかけてきた、いや違った、戸塚だった。あれ、じゃあ天使で合ってるんじゃね?)
八幡「おはよう戸塚、ちょっと寝不足でな」
彩加「何かあったの? 昨日も午後からいなくなっちゃってたし……また変な問題でも抱えてるんじゃ……」
八幡「ああいや、何か起こってるわけじゃない。眠いのは遅くまで本を読んでただけだし、昨日の午後は……ちょっとしたことがあったんだけどすぐに解決したから。心配かけてすまないな」
彩加「それならいいけど……あ、だったら知らないかも。今日の授業って午前中はこんなふうに変更になったんだよ」ピラ
八幡「なん……だと……?」
八幡(戸塚が見せてくれたプリントには今日の授業日程が書いてあった)
八幡(幸い必要な教科書やノートは用意できているが、多大な問題が発生していた)
八幡「寝れそうな時間がねえ……」
八幡(授業態度が厳しい教師の教科だったり移動教室だったりで結構面倒だ、本気でサボってしまおうか……)
彩加「だめだよちゃんと授業は受けないと」
八幡「お、おう」
八幡(仕方ない、頑張るか)
八幡(なんとか昼休みまで乗り切った……正直昼飯を食わずに寝たい気持ちもあったが、川崎との件があるからな)
八幡(由比ヶ浜が時折チラチラとこっちを見ていたが、ステルスヒッキーの能力を最大限に発揮して教室から抜け出す)
八幡(川崎とは昨日メールで指定した現地で落ち合う約束だ。眠気覚ましに顔を軽く洗って自販機に寄ってから行くか)
八幡(………………………)
八幡(やべえ……川崎との弁当の時間にドキドキしてる俺がいる)
八幡(昨日川崎にお願いしたことが、俺の希望が叶えられる時が一刻一刻と近付いている)
八幡(今は眠気よりそっちの期待の方が強くなってきた)
八幡(えっと、川崎はっと…………いた、もうベンチに座ってたか)
八幡(近付いていくとこちらに気付いたか川崎が軽く手を上げる。俺もひらひらと手を振って返した)
八幡「すまん、待ったか?」
沙希「いや、それほどでもないよ」
八幡「そっか、ほらお前の分」
沙希「ありがと」
八幡(自販機で購入した川崎の分の飲み物を渡し、俺は川崎の隣に座る)
沙希「はい、こっちがあんたの分ね」
八幡「おう、サンキュ」
八幡(包みをほどいて差し出された、川崎のより一回り大きい弁当箱を受け取る。この中に……)ゴクリ
八幡「じゃ、腹も減ったし早速いただくか」パカ
八幡(蓋を開けるとごくごく一般的な手作り弁当が目に入る。変わったことといえば玉子焼きが多めにあることだろうか)
八幡「い、いただきます……」
沙希「うん……そんなに緊張されるとこっちまでしてきちゃうんだけど……」
八幡(俺は玉子焼きを箸で一口サイズにし、口に放り込む)
八幡「美味い……マジで、美味しい……」
八幡(じっくり味わい、咀嚼して飲み込んだ俺の口から出た言葉はそれだった)
沙希「良かった……」
八幡(川崎は心底安堵したような表情になる。ちょっとプレッシャーかけすぎたか?)
八幡「いや、本当に、他に言葉が出なくて申し訳ないけど、マジで美味い」
八幡(おかげでめっちゃご飯が進む)ガツガツ
沙希「あー、なんだったらあたしの分の玉子焼きも食べていいよ」
八幡「本当か!? いや、でもそれはさすがに……」
沙希「そんなに美味しく食べてもらえるならその方があたしも嬉しいから遠慮しないで」スッ
八幡「じゃあ悪いけど貰うな」ヒョイ
沙希「ふふ、たくさん召し上がれ」
八幡「ふう……ごっそさん」
沙希「お粗末様でした。気持ちいいくらいの食べっぷりだったね」
八幡「俺の夢が叶った瞬間だしな」
沙希「夢ってそんな大袈裟な……だいたい『甘くない玉子焼きを作ってくれないか』なんて普通に言ってくれれば作ってくるのに。こんなお礼なんてノーカウントでいいよ」
八幡「いやいやそうは言うけどな、うちの家庭内では甘くない玉子焼き好きに人権はないんだ。俺にはもともとないけど」
沙希「ないんだ……」
八幡「昨日も言ったけど小町が甘いの大好きだからな、それが拍車をかけてるんだ。もしバレたらどんな迫害を受けるか……」
沙希「そんなオーバーな」
八幡「だから誰にも言うなよ。そのせいで家を追い出されたらお前んちで養ってもらうからな」
沙希「なっ……」////
八幡「甘くないのは俺の人生と玉子焼きだけでいい……ん、どうした?」
沙希「な、なんでもない! それより意外だね、あんたが甘くない方が好きだなんて」
八幡「ああ、俺も不思議に思ってる。何でか玉子焼きだけは甘くない方が好みなんだよな。食べる機会がほとんどないし、うちじゃ作れないけど」
沙希「うちはみんなどっちも好きみたいでね、気分によって変えてるよ」
八幡「いやー、本当に美味かった。味付けもしっかりしてたし」
沙希「あんまり手放しで誉められるとくすぐったいからその辺にしてほしいんだけど……なんなら毎日作って来ようか?」
八幡「マジで!? あーでも、毎日だと有り難みがなくなっちゃうかな……くそっ、どうするか?」
沙希「そんな真剣に悩まなくても……じゃああたしの気分次第ってことにするよ。甘いのも嫌いじゃないんでしょ?」
八幡「ああ、じゃあそれでよろしく頼む」
八幡「さて、まだ昼休みあるな……ふぁ」
沙希「なんだか今日は随分眠そうだね、授業中にも寝そうになっては飛び起きてたし」
八幡「見てたのか……今日の授業は寝れないのばっかだったからな。くそ、由比ヶ浜のやつめ」
沙希「…………由比ヶ浜がどうかしたの?」
八幡「ああ、一昨日お前と遅くまでメールのやり取りしただろ。それを聞いた由比ヶ浜が自分もするって言ってきかなくて。あいつも変なところで負けず嫌いだからな」
沙希「そ、そう」
八幡「あふ……仕方ない、教室戻って席で寝とくかな」
沙希「ぼっちは教室にいると邪魔なんじゃなかったかい?」クス
八幡「しょうがねえだろ、このベンチじゃ背もたれ低くてよく寝れねえし」
沙希「…………ねえ、ここって人通りないの?」キョロキョロ
八幡「ん? ああ、メシを食うだけなら結構良スポットなんだけどどこへ行くにしてもここを通ると遠回りになるんだ。ここで食ってて人が通ったことなんて2、3回あったかどうか。昨日の場所は人もここより通るし由比ヶ浜も知ってるし、万一誰か邪魔者が来たら厄介だからな」
沙希(邪魔者って、あたしとの時間を大事にしてくれてるってことなのかな)ドキドキ
八幡(甘くない玉子焼き食べてるのバレてどこからか小町に伝わったら生きていけないからな。ちなみにここがベストでない理由はあっちと違って戸塚が昼休みに練習しているのを見れないからだ。それさえ満たせば最高の場所なのに!)
八幡「んで、それがどうかしたのか? 別に所有権を主張する気はないから川崎も使いたきゃ使っていいんだぞ」
沙希「いや、そういうわけじゃないさ」ススス
八幡(え? なんで少し距離を取るの? もしかして眠気が増したことによって俺の目の腐り具合がまたアップしたの?)
沙希「ほら、使っていいよ」ポンポン
八幡「…………」
八幡(あの、川崎さん、なぜ御自分の太ももを叩いてらっしゃるのでしょうか?)
八幡「え、えっと、その」
沙希「ああもう、じれったいね」グイッ
八幡「うわっ」ポスン
沙希「まったく、目の前で頭フラフラされてるほうが気になるっての。素直にこのまま少し寝ときなって」
八幡「あ、あの、これ、膝枕ってやつ、ですよね?」
沙希「か、彼氏彼女の関係ならこれくらいするでしょ、一応そういうことなんだし」
八幡「そ、それはそうなんだけど」
沙希「ほら、少しでも寝とかないと午後の授業がツラいよ?」ナデナデ
八幡「あ……」
八幡(お腹いっぱいで、柔らかい枕があって、頭撫でられて)
八幡(すげー心地良い……目蓋が重い……眠……)スゥ
沙希「比企谷……もう寝ちゃったの?」ナデナデ
八幡「zzz……」
沙希(こうして見るとやっぱり比企谷って顔立ちは整ってる方だよね)ナデナデ
沙希(目が腐ってどうこう言ってるけど……もし腐ってなかったら外見だけに惚れた女とかが寄ってきたのかなやっぱり)ナデナデ
沙希(あたしは見てくれだけに惚れられても嬉しくないけどね、ちゃんと中身も一緒に見て欲しい…………比企谷みたいに)ナデナデ
沙希(……比企谷が今の比企谷で良かった。比企谷にはあんまりモテてほしくない)ナデナデ
沙希(あたし、卑怯者だ……)ナデナデ
沙希(比企谷……)
???(…………)コソコソ
沙希「比企谷、そろそろ起きなよ」
八幡(そんな声とともに身体を揺すられ、俺は目を覚ます。そういや川崎に膝枕してもらってたんだったな)
八幡「ん、ああ……あ…………」
八幡(思わず言葉が出なかった。仰向けで見上げる形の俺とこちらを見下ろす形の川崎。その間にある女性の象徴)
八幡(え、あれ? こんな体勢で見るの初めてだけどひょっとして川崎ってめっちゃ巨乳なんじゃね?)
八幡(そうか、俺の頭に上着の裾が挟まって引っ張られて強調されてるのか)
沙希「どうかしたの? まだ微睡んでる?」
八幡「ああ、いや……心地良くて名残惜しいかなって」
八幡(誤魔化すためにとっさにそんなセリフが出たが、嘘ってわけじゃない)
沙希「そっか、じゃあギリギリまでこうしてていいよ」
八幡(あれ? いつもならこういうことを言うと恥ずかしがって色々言ってくるのに、多少顔を赤くしただけで流された。何か心境の変化でもあったか?)
八幡「そういや今何時だ? どれくらい寝てた?」
沙希「もうすぐ五限が終わるってとこだね」
八幡「そっか……って何だと!? 思いっきり授業サボっちまったじゃねえか!」
沙希「ああ、それなら大丈夫。さっき海老名からメール来てさ、五限は完全自習になったから教室にいなくても平気だってさ」
八幡「ああ、そうなのか……びっくりした」
沙希「それと比企谷によろしくって」
八幡「…………なんで俺の名前が出んの?」
沙希「自転車二人乗りしてんの見られたみたいでね、関係を聞かれたから想像に任せるって返したんだけど何となく察してるみたい。さすがにフリってのは思ってないだろうけど」
八幡「そうか……」
沙希「一応秘密にはしてくれてるみたいだけどね。それと『はや×はち』は諦めない、だってさ」
八幡(…………何も言うまい)
沙希「…………ねえ、比企谷」
八幡「なんだ?」
沙希「依頼のことなんだけど、さ」
八幡「ああ、彼氏役のことか」
沙希「うん、その……期間、変更してもいいかな?」
八幡「……どの程度?」
八幡(もうお役御免だったりするんだろうか……もしくはやっぱり俺が相手じゃ……)
沙希「あたしかあんた、どっちかが嫌になるまで」
八幡「!!?」
沙希「相手のことが嫌になったり、他に好きな人ができたり、そんなふうになるまで」
八幡「…………意味、わかってるのか?」
沙希「さあ? ただ煩わしいことをかわすのに彼氏役がいるってのは思いのほか便利なんだよ。もちろんあんただってあたしを彼女役として使っていい」
八幡「……俺でいいのか? 校内有数の嫌われ者なんだぜ。お前だって何を言われることか」
沙希「言いたいやつには言わせておけばいいよ。むしろそれであたしに関わらなくなる人が出るなら歓迎だし。どっちかといえばそんなのを理由にあんたが身を引いたりしないかの方が心配」
八幡「…………」
沙希「それにあたしだって離れていくような友達がいるわけじゃない。その辺はむしろ共感出来るでしょ?」
八幡「そりゃまあ……な」
沙希「で、この依頼は引き受けてくれるの?」
八幡「……俺に気を使ったりせず言いたいことをちゃんと言ってくれるなら考えないでもない」
沙希「それはむしろあんたの方でしょ。いつも他人に気を使って、自分を犠牲にして傷付いて、そんで雪ノ下や由比ヶ浜達にもっと自分を大事にしろって怒られるんだ」
八幡「いや、別に気を使ってるわけじゃ……」
沙希「いいんだよ」
八幡「え?」
沙希「比企谷がそうしたくてやってるなら、いくら傷付いてもあたしは止めないし怒りもしない。もちろん明らかに間違ったことをしたら叱ったりはするけど」
八幡「…………」
沙希「でももし、泣きそうなほどに傷付いて、立ち上がれない程に疲れたら、あたしのところに来てよ。いつだってあたしの膝で良ければ休ませてあげるから」
八幡(そう言って俺の顔を撫でる川崎の表情はとても優しいものだった)
八幡(俺はその手をそっと握り締め、川崎に返事をする)
八幡「じゃあ、これからもよろしくな、彼女役さん」
沙希「うん、これからもよろしく、彼氏役さん」
八幡(依頼内容の変更に伴い、俺達は改めてこれからのスタンスや方針について話し合った)
八幡(まあ積極的に広めたりはしないが聞かれれば否定はしない、くらいにしておこうとなった)
八幡(もっともぼっちとぼっちがくっついたからといって騒ぎ立てるようなやつもいないだろうが、いろんなことを想定しておいたほうがいいだろう。別に対策が無駄になったらそれはそれでいいわけだし)
八幡(五限終了のチャイムが鳴り、途中で花を摘みに行くらしい川崎と別れて一人教室に向かう)
八幡「が、廊下で厄介なやつに見つかり、うんざりしてしまった」
結衣「口に出てるし! 厄介って何だし!」
八幡「どうどう、落ち着け由比ヶ浜。可愛い顔が台無しだぞ」
結衣「かわっ……あうう」
八幡「落ち着いたか? 良かったな、じゃあ俺は教室戻るからまた放課後に部室で」
結衣「あ、うん、また……ってちょっと待って! そんなんで誤魔化されるわけないじゃん!」
八幡「九割がた誤魔化されてたじゃねえか……何か用か?」
結衣「その……昼休みと五時間目どこ行ってたの?」
八幡「昨日も言っただろ、川崎とメシ食ってたんだよ」
結衣「でもいつもの場所にもいなかったし……ヒッキーもサキサキも五時間目まで戻って来なかったし……」
八幡「いや、後者はお前のせいだからな」
結衣「えっ?」
八幡「元々寝不足だったのにお前が昨晩遅くまで付き合わさせるから昼休みに寝ちまったんだよ。五限が自習だと知ってた川崎が気を使ってギリギリまで寝かせてくれたんだ」
結衣「え、あ、ごめん……」
八幡「まあだいぶ頭もスッキリしたしもういいけどな」
八幡(本当はだいぶ、どころかめちゃくちゃスッキリしている。短時間ながらも心地良く熟睡したせいだろう)
八幡(川崎の膝枕でしか寝れなくなったらどうしよう……)
結衣「ヒッキー、その……遅くならないならまたメール、してもいいかな?」
八幡「気が向いたらな。でも俺今彼女いるからあまり他の女子とメールする気にはならん」
結衣「フリじゃん! ホントはめんどくさいだけなのに言い訳に使ってるでしょ!」
八幡「おい、声がでかい。フリってのは特に秘匿事項なんだからな」
結衣「あ、ごめん……」
八幡「はあ……一応お前らを信用して話してんだから気をつけてくれよな」
結衣「わ、わかった」
八幡「もういいな? 俺教室戻るから」
結衣「うん、またあとで」
八幡(六限は国語。午前中はこの時間にうたた寝して平塚先生に鉄拳制裁を喰らうかもとヒヤヒヤしていたが、恙なく乗り越えた)
八幡(いや、むしろいつもより頭は冴えていた感じがする。何なの川崎さんの膝枕、特殊な成分でも出てるの?)
八幡(HRも終え、部室に向かおうとしたら由比ヶ浜が呼び止めてきた)
結衣「あ、ヒッキー、今日部活休みにするって連絡来たよ。ゆきのんが何か家の用事があるんだって」
八幡「あ、そうなの、んじゃとっとと帰るかな」
結衣「うん、あたしは優美子達と遊んでくから。また明日ね」
八幡「おう」
結衣(サキサキと一緒に帰ったりしないんだ、良かった…………ってなにがいいの!?)ワタワタブンブン
優美子(なんか結衣が奇妙な踊りしてるし……)
姫菜(きっとカップリングのリバ有りか無しかで悩んでるんだね!)
八幡(さて、どうすっか……そういやそろそろ新刊のチェックをしときたいな。本屋に寄ってくか)スタスタ
???「せーんぱい」
八幡(どこの本屋に行くか……少し遠いけど品揃えのいいあそこに行くかな)スタスタ
???「ちょっとちょっと先輩、無視しないでくださいよ!」
八幡「あん? なんだ一色だったのか」
いろは「もう! 聞こえてるなら返事してくださいよ!」
八幡「すまん、ちょっと考え事をしててな」
八幡(本当は俺を呼ぶ奴なんていないと思ってスルーしてただけなんだが)
いろは「先輩今日暇ですか? 暇ですね? ならちょっと買い物に付き合ってくださいありがとうございます」
八幡「いや、今日はいろいろアレがコレで忙しいから。じゃあな」
いろは「先輩が忙しいわけないじゃないですか。今日は奉仕部もお休みって聞いてますよ」
八幡「じゃあなおのことお前の頼みは聞けん。今日は奉仕部は活動してないんだからな。だいたいお前生徒会やサッカー部のマネージャーで忙しいだろ」
いろは「奉仕部としてでなく個人的な頼みですよー。それに今日はどっちもお休みです」
八幡「それを引き受けるメリットが俺に何もないだろ、むしろデメリットしかないまである」
いろは「何言ってるんですか、こんなに可愛い後輩と買い物できるんですよ。あ、でもデートなんかじゃないんでそんな勘違いして変な気を起こされても迷惑ですごめんなさい」
八幡「うぜえ……下駄箱で待ち伏せまでしやがって……」
八幡(ああそうか、川崎はこういうことを想定していたのか? よし、お前の存在、早速使わせてもらうぜ)
八幡「個人的つーならなおさら無理だ。俺達二人で行くつもりなんだろ?」
いろは「はい、でもただの荷物持ちですからね? それくらいで私が気を許してると思われても困ります」
八幡「好きでもない男を二人きりの買い物に誘ってんじゃねーよ。俺だって彼女や妹以外の女と必要なく出かけるつもりはない」
いろは「またまたそんなこと言ってー。妹はともかく彼女なんて先輩にできるわけないじゃないですか。あ、でも別に私のことを好きになるくらいは許してあげますから」
八幡「いるぞ」
いろは「…………え?」
八幡「この前できたんだよ」
いろは「……な、なーんだ、ゲームの話ですか、びっくりしちゃいましたよもー」
八幡「おい、俺を見くびるなよ。攻略サイトを見ない限りゲームですらグッドエンドに到達できないんだからな」
いろは「いえ、そんな自慢風自虐は聞きたくないです……て、え? じゃあゲームの話じゃないんですか?」
沙希「…………何やってんのこんなとこで」
八幡「おう、かわ……川本か」
沙希「川崎なんだけど、ぶつよ?」
八幡「やめてくださいごめんなさい」
沙希「まったく……今日奉仕部はどうしたのさ? そっちは……生徒会長さん?」
いろは「あ、はい、えっと…………」
沙希「あたしは比企谷と同じクラスの川崎だよ。あんまり関わることはないと思うけどよろしく」
いろは「は、はい、若輩者ですがよろしくお願いします」
八幡(なんでこんな畏まってんだ……ああ、猫被ってんのか)
いろは(うわあ、ちょっとキツそうだけど綺麗な人だな……)
沙希(……なんでコイツの周りには可愛い女の子ばっかりなんだろう)ハァ
沙希「で、何か揉め事? 言い合っていたみたいだけど」
いろは「あ、えっと……」
八幡「いや、何もねえよ。奉仕部に頼み事をしようとしたけど、今日は奉仕部はお休みだって説明してただけだ。な?」
いろは「は、はい」
沙希「そう、奉仕部休みなんだ……ならちょうどいいや。比企谷、買い物付き合ってよ」
八幡「あ? 別にいいけど何買うんだ?」
いろは「!!?」
いろは(わ、わたしの誘いは断ったのに!?)
沙希「近所のスーパーで色々と。お一人様数量制限の玉子とかもね」ニッ
八幡「! いいぜ、いや、是非手伝わせてくれ。俺の分の弁当の材料とかも買うなら無関係じゃないからな」
いろは(弁当!?)
八幡「ちょっと自転車取ってくるわ。門のとこで待っててくれ」
沙希「はいはい。まあタイムセールの時間までまだ少しあるから急がなくてもいいよ」
八幡「おう。じゃあな一色」スタスタ
沙希「……さて、と」
いろは「あ、あの、川崎先輩!」
沙希「ん?」
いろは「か、川崎先輩は、比企谷先輩と、その、お付き合い、してらっしゃるんですか?」
沙希「…………比企谷がそう言ったの?」
いろは「その、さっき、最近彼女ができたと言ってました……」
沙希「そう……大っぴらには言いふらさないでね。煩わしいことになったら面倒だから」
いろは「じゃ、じゃあ本当なんですか?」
沙希「ああ」
いろは「な、なんで」
沙希「うん?」
いろは「なんで川崎先輩みたいな綺麗な人が、あんな捻くれ者で、嫌われ者で、目が腐ってるような先輩と」
沙希「…………むしろ本当にそう思ってるならあんたこそ比企谷に近付くんじゃないよ生徒会長サマ」
いろは「え……」
沙希「そんなふうに思ってる人のそばにいても評判が落ちるだけでしょ」
いろは「!!」
沙希「比企谷のことを好きで近付くならあたしも別に構いはしないよ。でも普段あいつを馬鹿にするような連中が、自分の都合のいい時にだけ都合のいいようにあいつを扱うのは我慢ならない」
いろは「…………」
沙希「あたしは好きで、あたし自身がそうしたくてあいつのそばにいるの。捻くれ者でも、嫌われ者でも、目が腐っていても、あたしにとってはどうでもいい」
いろは「…………」
沙希「…………ちょっとキツい言い方しちゃったね、謝るよ。でも、その辺はちゃんと考えて」
いろは「はい……」
沙希「…………わかってるよ、あんたが本心から言ってるわけじゃないのは」
いろは「え?」
沙希「そんじゃ、またね」
いろは「え、あ、は、はい」
沙希(多分あの子も比企谷のことを憎からず思っている)
沙希(少なくとも負の感情は持っていない。悪口っぽいのを言うのもどちらかといえば甘えているってのに近い)
沙希(そこから先が信頼なのか恋愛なのかはわからないけど)
沙希(なにが“ぼっち”なんだか……女誑しじゃない)
沙希「お待たせ、スケコマシ」
八幡「おいこら、挨拶と謂われのない悪口を同列にするな。てか何で俺の方が先に来てんだよ」
沙希「ああ、あの子に捕まってね、ちょっと話をしてたから」
八幡「話?」
沙希「あたし達が付き合ってるのか、みたいな」
八幡「なるほど、俺みたいな捻くれ嫌われぼっちと付き合うなんて気でも狂ったか、とか言われたのか」
沙希「うん、だいたい合ってる」
八幡「え、マジで……一色にどんだけダメ人間だと思われてるんだ俺は」
沙希「大丈夫、ちゃんと『あたしはそんな比企谷が好きになったんだ』って胸を張って答えておいたから」
八幡「そこだけ聞くとすげー変わり者みたいだな……てかかなり恥ずかしいこと言ってるのわかってるか?」
沙希「そうだね。でもフリだし演技だから」
八幡「そうだけどさ」
八幡(実際この“フリ”だとか“演技”ってのは実にやりやすい)
八幡(普段なら絶対言えないようなことも『これは演じているだけだから』といって言えてしまうのだ)
八幡(何より所詮演技なのだから最初から裏切られることもないしな)
八幡「んじゃ行くか、後ろ乗れよ」
沙希「三日連続でお世話になります、っと」
八幡「おう、行くぞ」
八幡(三日連続、か)キコキコ
八幡(川崎から依頼を受けてまだ三日なのに随分昔のことだったような気がする)キコキコ
八幡(たった三日の間にいろんなことがあったからな)キコキコ
八幡(四日前だったら川崎とこんなに急接近するなんて考えもしなかっただろうに)キコキコ
八幡(背中に感じる川崎の存在が心地良い。いや、エロい意味でなく)キコキコ
八幡(俺の腰に回された腕がずっと解けなきゃいいのに、なんて柄にもなく考えてしまう)キコキコ
八幡(まああと五分もしないうちに着いちゃうんですけどね、目的地のスーパー)キコキコ
八幡(さて、自転車を駐輪場に停めてスーパーの店内に入ったわけだが)
八幡(買う物がだいたい決まってるのなら二手に別れて行動する方が効率がいい)
八幡(少し前の俺なら、あるいは連れが川崎でなく雪ノ下や由比ヶ浜だったら間違いなくそう提案していただろう)
八幡(だけどごく自然に俺は川崎が持とうとした店内用買い物カゴを先に取る)
八幡「よし、行こうぜ。どの辺から回る?」
沙希「ふふ、ありがと。じゃあ野菜のコーナーから行こうか」
八幡(川崎は物を吟味しながらカゴに次々と放り込んでいく)
八幡(やはり大家族のためか量が多く、カゴはどんどん重くなる)
八幡(それでも俺は苦に思わず、むしろついて来て良かったとさえ考えた。川崎に重いものを持たせずにすんだのだから)
八幡(別にカートを使ってもいいのだが、混雑してるタイムセール時には邪魔になるからな)
八幡(そんなこんなで会計を済ませる)
八幡「数量限定品も二人で並べば一気に二人分まとめて会計してくれるんだな。複数で利用することがないから知らなかったぜ」
沙希「そうなの? あたしは時々家族連れで来るから。あんたもここ使ってるんでしょ。小町とか連れてきたら?」
八幡「いや、小町をあんな戦場に放り込むわけにはいかん。人とぶつかって怪我でもしたらどうするんだ」
沙希「シスコン」
八幡「お前だってそうだろ。昨日の取り乱しっぷり」
沙希「うるさいよ」
八幡(そんなどうでもいい会話をしながら買った物を買い物袋に詰めていく)
八幡(川崎は確か口下手な方だったはずなのだが、俺との会話にその片鱗は見られない)
八幡(俺に対しては遠慮がいらないと思ってくれているのだろうか)
八幡(俺は、川崎にとっての特別になっているのだろうか)
八幡(今までなることもなられることも拒否し続けてきた特別)
八幡(…………演技、か)
八幡「到着、っと」キキッ
沙希「ん、ありがと」
八幡「結構重いけど大丈夫か? 玄関くらいまでなら運ぶぞ」
沙希「平気、慣れてるからね」
八幡「そうか、んじゃ……」
???「あら、沙希……そちら様は……?」
八幡(後ろから声がして振り向くと、川崎にちょっと似た女性が立っていた。おそらく母親だろう)
八幡(そして案の定俺の顔を見るとびくっとする。この世に唯一無二の選ばれし目だから仕方ないが。え? 別に羨ましくも何ともないって?)
沙希「あ、母さんおかえり、今日は早かったんだね。こっちはクラスメートの比企谷。買い物を手伝ってくれたんだ」
八幡「どうも」ペコリ
川崎母「あ、どうも。いつも沙希がお世話になっております」
八幡「いえ……」
「あ、はーちゃーん!」
「お兄さんじゃないっすか」
八幡(さらに後方から新たな声がかかる。お迎えだったらしく手を繋いでる大志とけーちゃんだ。なんで川崎一族が次々集まってくんの? あ、川崎家の前でしたねここ)
八幡「俺をお兄さんと呼ぶな」
大志「じゃあ俺もはーちゃんって呼べばいいっすか?」
八幡「ぶっ飛ばすぞこの野郎」
沙希「そんなことしたらあたしがあんたをぶっ飛ばすよ」
八幡「暴力反対、平和が一番」
京華「はーちゃん、あそびにきたのー?」トテテ
八幡「ん、ちょっと寄っただけだけどな」ナデナデ
川崎母「え、じゃああなたが……あの、良ければお茶でも飲んでいってくれませんか? ちょっとお話したいこともございますし」
八幡「あ、えっと……」
沙希「あんたさえ良けりゃ寄ってってよ。下の弟もあんたに会いたいって言ってたし」
八幡「……じゃあ少しだけお邪魔します」
八幡(川崎家の居間に通されてお茶を出されたわけだが)
八幡(川崎や大志は着替えやら弟妹の世話やらで今は席を外している)
八幡(必然的に俺は川崎の母親と二人になってしまうわけで、正直ちょっと気まずい)
川崎母「えっと、比企谷君、ね?」
八幡「は、はい、比企谷八幡です。かわ……沙希さんにはいつもお世話になってます」
川崎母「そう……八幡だからはーちゃん、ね。あなたが…………どうも、ありがとうございます」
八幡(そう言って突然頭を下げられる。俺は慌てふためいてしまった)
八幡「ちょ、ちょっと、頭上げてください。いきなりどうしたんですか?」
川崎母「昨日のこと、お聞きしました」
八幡「あ……いえ、特に大したことをしたわけでもないですしそんな改めてお礼を言われるような事では」
川崎母「園のほうからも聞きました。いろいろ気を使っていただいて、とてもよく出来た男性でしたと」
八幡「いや、そんな……」
八幡(手放しで賞賛されても困る。実際俺はそこまで出来た人間ではないのだから)
川崎母「本当はこちらからお礼に伺うのが筋なのですが、なにぶんお名前もわからなくて……沙希は教えてくれないし京華は『はーちゃん』としか言わないしで」
八幡「いや、お礼ならもう沙希さんからいただいてますから。そんなお気になさらないでください」
川崎母「お弁当、かしら?」
八幡「あ、はい、御存知でしたか」
川崎母「ふふ、作ってる時の態度がいつもよりすごく真剣だったから。親の贔屓目で言ってるかもだけど、あの子、なかなか料理上手でしょう?」
八幡「はい、それはもう」
川崎母「でもそれは私達が忙しいのをいいことに家の事を押し付けたりであの子には本当に苦労をさせてしまったせいでもあって……あまり自分の時間もないんじゃないかと」
八幡「…………」
川崎母「それに少し人見知りで人間関係は不器用だからお友達もいなかったようで……だからまさかあなたみたいな方がいるとは思わなかったわ」
八幡「…………沙希さんは」
川崎母「はい?」
八幡「沙希さんは家族が本当に大好きなんですよ。だから家族のためになることを苦だなんて思っていません。人見知りで不器用かもしれませんが、それ以上に優しくて気が利く子です」
川崎母「まあ……」
沙希「ちょっと、人の親の前で何恥ずかしいこと言ってんの」
京華「はーちゃーん」トテトテダキッ
八幡「おっと……別に嘘を言ってるわけじゃないから」
沙希「はあ……」
京華「はーちゃん、あそぼー」
八幡「おう、いいぞ」ナデナデ
川崎母「あらあら、沙希だけでなくうちの子みんなと仲良くしていただいてるのね。大志も知っているみたいだし。京華、あまりお兄ちゃんを困らせちゃダメだからね」
京華「はーい」
八幡(夕飯の時間まで俺は川崎家の子供達と遊んで過ごした)
八幡(夕飯も一緒にどうかと誘われたが、さすがにそれはお断りしておく。ウチで小町一人になっちゃうからな)
八幡(それを言ったら万が一ここで一緒にとか言われかねないから隠しておくが)
八幡(大志さえいなきゃそれでもいいのだが。あの野郎をふんじばって庭にでも転がしてればよかったか)
沙希「変なこと考えてるとあんたの両腕腐らすよ」
八幡(門のとこまで見送りに来てくれた川崎がそう言ってきた。なに、エスパーなの? 弟に対するわずかな邪気を感じ取ったの?)
八幡「じゃあな川崎」
沙希「あ、ちょっと待って。あんたに聞きたいことあったんだけど」
八幡「あん?」
沙希「あんたさ、よくあたしの苗字覚えてなかったり間違えたりしてるけど、あれってわざとなの?」
八幡「以前は本当に覚えてなかったが、今はただのネタだ。悪かった」
沙希「いいんだけどさ、そんなに覚えにくい苗字ってわけでもないでしょ? 何で?」
八幡「何でだろ?」
沙希「原因不明なんだ……じゃ、じゃあさ、苗字、覚えにくいんだったら、別に名前で呼んでくれても、いいんだよ?」
八幡「な……」
八幡(誰この子。赤くなって俯いてるのが可愛いお持ち帰りしたい)
沙希「親や医者とかの前では呼んでたし、初めてってわけでもないんでしょ?」
八幡(なにその言い方エロい)
沙希「だから、その……」モジモジ
八幡「…………じゃあまた明日な、沙希」
沙希「! うん、また明日ね、八幡」
八幡(別れの挨拶を交わし、俺は自転車を漕ぎ出す)
八幡(初めて同級生の女の子と名前で呼び合った。全身がむず痒い)
八幡(しかしそれ以上に心が暖かくなる)
八幡(…………はあ)
八幡「ただいまー」
小町「おかえりお兄ちゃん、小町にする? 小町にする? それとも小町?」
八幡「一択じゃねえか。じゃあ小町で」
小町「はい、ではご飯を食べながら小町とお話できるコースですね。ご案内ー」
八幡「なんかテンション高いな」
小町「だってだって、お兄ちゃんが沙希さんと一緒に買い物なんてしてたんだよ! あのお兄ちゃんが女の子とスーパーで買い物するなんて!」
八幡「付き合ってんのはフリだからな、勘違いすんなよ。てかどっかで見かけたのか?」
小町「うん、ちょうど二人がスーパーに入るとこを。お邪魔しちゃいけないと思ったから声はかけなかったけど」
八幡「別にかけてもいいのに。数量限定品とかあったから人数増えたほうが良かったんじゃねえかな」
小町「これだからゴミいちゃんは……」
八幡「あん?」
小町「何でもないでーす。もうすぐ夕ご飯できるから着替えて待ってて」
八幡「あいよ」
八幡「いただきます」
小町「いただきまーす、それでお兄ちゃん、沙希さんとはスーパー行っただけ? それにしては遅かったしデートでもしてきた? キャー!」
八幡「少しはゆっくり食わせろよ……いや、そのままあいつの家にお邪魔してちっちゃい妹達と遊んできただけだから」
小町「へー」ニヤニヤ
八幡「妹のニヤケ顔がうざい」モグモグ
小町「外堀から埋めていくなんてなかなかの策士だねお兄ちゃん、成長して妹は嬉しいよ」ヨヨヨ
八幡「うぜえ……」
小町「そんでそんで、朝言ってた沙希さんとの約束って何だったの? スーパーに行くこと?」
八幡「いや……弁当を作ってきてくれるって話だ」
小町「え、でもそれは昨日からでしょ?」
八幡「今日も一緒に食べようって約束しただけのことだ」
小町「……ふーん」
八幡(そのあとも根掘り葉掘りいろんなことを聞かれた)
八幡(あくまでもフリだっていうのに俺達の行動を聞くたびに一喜一憂する小町)
八幡(ちょっと騒がしいけどまあいいか)
八幡(少しだけ刺激的で、それでも波風のない日々が続けばなと思っていた)
八幡(しかし次の日、事件は起きた)
八幡(久しぶりに寝不足でない朝である)
八幡(心なしか目の腐り具合も昨日より二割減といった感じだ。あれ、でも昨日は二割増で腐ってたからプラマイゼロじゃね?)
八幡(まあ腐ってようがそうでなかろうが気にするやつなんてそういないけど)
八幡(…………川崎は気にしないって言ってくれたしな)
八幡(が、教室に入ったところで俺は不穏な空気に気付く)
八幡(いつもなら一瞥したあとは興味を一切示さないクラスの連中がこぞってこっちを見ているのだ)
八幡(え? 何? ひょっとしてみんな今日は俺の目の腐り具合が昨日より薄いことに気付いたの?)
結衣「お、おはよヒッキー、その…………黒板」
八幡「あん? …………あ」
八幡(なるほど、ちょっとこれは予想外だったな。まさか写真とは)
八幡(黒板には昨日の昼休みに撮られたであろう俺達を被写体にした写真が貼り出されていた。あのほとんど人気のない裏庭のベンチで俺が川崎に膝枕されているシーンだ)
八幡(ふむ、誰が何の目的で写真を撮って晒したのかは知らんが……相手が悪かったな)
八幡「由比ヶ浜、アレ誰がやったかわかってるか?」
結衣「え、ううん……朝早かった人達が来た時にはもう貼られてたみたい」
八幡「そうか」
八幡(まあこんなことするようなやつがすぐバレるようなヘマをするわけないか)
結衣「……ヒッキー、どうするの?」
八幡「どうもしねえよほっとけ」
結衣「え……」
八幡「こういうのはこっちが慌てふためくほど相手の思う壺なんだ。反応すんな」
結衣「で、でもサキサキが」
八幡「いいから」
八幡(不安そうな由比ヶ浜を押しとどめ、俺は委細構わずに自分の席に着く)
八幡(貼り出し効果の狙いの対象が俺か川崎かはしらんが、目的は俺達を気まずくさせることと思っていいだろう)
八幡(しかし残念だったな! 俺にはからかったり揶揄してきたりするような友達なぞいない!)
八幡(よって俺に精神的ダメージを与えることはできん。ぼっち最強)
八幡(現に皆は写真を見てはチラチラとこちらを見てくるものの、実際に話しかけてきたのは由比ヶ浜だけだ。戸塚は朝練があるらしくまだ来てないし)
八幡(ずっと貼りっぱなしだといずれ先生に見つかるが……別にやましいことをしているわけでもないしな)
八幡(それより…………)
八幡(………………)
八幡(…………なるほど)
ガラガラ
八幡(お、川崎さんがいらっしゃった)
八幡(相変わらずの仏頂面だ。写真の中ではあんなに優しそうな表情なのに。まあそのギャップも魅力のひとつということで)
八幡(ちなみに俺は間抜けな寝顔を晒している。撮り直しを要求したい)
沙希(……?)
沙希(なんでみんなこっち見てんの?)
沙希(ん? 比企谷が黒板を顎で差して……ああ、そういうこと)
沙希(気付かなかったけど誰かいたのね、まあこの時は比企谷しか見てなかったから仕方ないか)
姫菜「さ、サキサキ、おはよう…………」
沙希「ん、おはよう。ねえ、これ誰がやったかわかる?」
姫菜「いや、朝早くから貼られてたみたいで……」
沙希「そう。じゃあこれ、貰っちゃってもいいのかな?」
姫菜「え?」
沙希「隠し撮りっぽいけど良く撮れてるじゃない。言えばもっとちゃんと写ってあげたのに」ペリペリ
八幡(川崎はそう言うと写真を剥がし、席に向かう)
八幡(途中俺のそばを通るので全員の視線が俺達に集まった)
八幡(こうした注目を浴びるのは苦手だったはずなのだが……なぜか今の俺は平常心を保てている)
沙希「これどうする? 欲しけりゃカラーコピーするけど」ヒラヒラ
八幡「いらんわ自分の寝顔の写真なんか。さっさとしまえ」
沙希「はいはい」
八幡(それだけの短い会話をし、川崎は自分の席に着いた)
八幡(クラスの大半は拍子抜けしたような怪訝な表情になる)
八幡(俺達があまりにも平然と対処したのでどうしたものかと思っているようだ。そういう関係ならもっと会話や距離が近いだろうし、そうでないならもっと騒ぎ立てたりするだろうし)
八幡(俺と同じく川崎にも揶揄してくるような友達がいない。せいぜい文化祭以降海老名さんが懐いてるくらいだが、こういう男女の色恋沙汰には変に口出ししないだろう)
八幡(……男同士の色恋沙汰は置いといて)
彩加「ねえ八幡、今日はなんかクラスの雰囲気が妙なんだけど……みんなチラチラ八幡の方を見てるし、何かあったの?」
八幡(二限が終わったあと、戸塚が心配そうに話しかけてきた。ああ、何てことだ! 俺のせいで戸塚を不安にさせてしまった! これはお詫びに今度デートに誘ってあげなければ!)
八幡「ああ、実は俺と川崎が交際しているんじゃないかっていう噂が流れてな。それを気にしているらしい」
彩加「え、八幡と川崎さんが?」
八幡「一緒にメシ食ってるとことか見られたようでな、ぼっち同士がくっついたのかみんな気になるんだろ」
彩加「へえ……」
八幡「…………戸塚は気にならないのか? 聞いてこないけど」
彩加「うん、八幡はあまり気にしないで欲しそうだったから……どっちでも八幡が八幡なのは変わらないしね。でもそれが本当で僕との遊んだりする時間が減ったりするのはちょっと寂しいかな」
八幡「戸塚…………大丈夫、俺の戸塚への愛情はどんなになっても変わらないから!」
彩加「あはは、八幡間違えてるよ。愛情じゃなくて友情でしょ」
八幡(いえ、愛情で合ってます)
彩加「でも何か困ったら僕にも相談してよね。僕にできることなんかたかが知れてるけど……」
八幡「いや、そう言ってくれるだけで嬉しいよ。ありがとう戸塚」
彩加「うん、どういたしまして」ニコッ
八幡(天使や……)
八幡(さて、このあとはどう動くか)
八幡(別に放っておいてもいいのだが、相手が諦めるかエスカレートするかはわからない)
八幡(少し川崎と話し合う必要があるが……その前に昼飯どうすっかな)
八幡(昨日の場所は写真でバレてるだろうし、どこに行っても好奇心旺盛なやつが見に来る可能性はある)
八幡(由比ヶ浜あたりなんかはあとを付けてくるかもしれんし……別々に食べるにしても一度は川崎に接触して弁当を受け取らなければならん)
八幡(そんなふうに試行錯誤しているうちに昼休みに突入してしまった)
八幡(川崎が弁当の包みを持って席を立つと、俺と交互に注目が集まる)
八幡(あー、考えるのが面倒くさくなってきた。もう昼を一緒にしたのはバレてるんだし教室でもいいか。飲み物も買ってあるし)
八幡(席を立たない俺を見た川崎は一瞬考え、自分の椅子を引きずって俺の机にやってくる)
八幡(え、なに、俺の考えを読んだの? やっぱり川崎さんエスパーなの? それとも俺がわかりやすいだけ?)
八幡(俺の斜め向かいに椅子を据えて座り、包みをほどく)
沙希「はい、あんたの分」
八幡「おう……よく、わかったな」
沙希「何となくね」
八幡(会話はそれだけ。いただきますの挨拶をしてからは二人とも無言で食す)
八幡(別に俺達はそれが苦ではないのだが、こちらを窺っている連中は怪訝な表情をしている。由比ヶ浜も今日は三浦達と食べているようで、チラチラと時折視線を向けてきた)モグモグ
八幡(今日は甘い玉子焼きか……)モグモグ
八幡「ごちそうさまでした」
沙希「お粗末様でした。んじゃ」
八幡「ああ」
八幡(またもや必要最低限の言葉しか交わさずに俺達は席を離れた。川崎は自分の席に、俺は飲み物を買いに)
八幡(やはり大半は俺達の距離を計りあぐねているようだ。男女二人が一緒に昼を取っているのに会話がなく、しかもそれが自然体なのが理解しづらいのだろう。別に知ってほしいとも思わんが)
すいません、仕事中の空いた時間とかに上司の目を盗んで投下したりしてるんで宣言しづらかったんです
これからはとりあえず間が空きそうなら宣言を入れときます
八幡(やはり校内では人目というか犯人の目が気になるので、予備校で話し合うことにした)
八幡(幸い今日は予備校があるし、俺達が同じ予備校だと知っているやつはほぼいない)
八幡(そのことをメールで確認し、今日一日ほとんど川崎と言葉を交わさずにいた。いや、普段から話してないけど)
八幡(そのせいか写真を見てない川崎よりあとから来た連中は疑り深い目で俺達とクラスメイトを見ていた)
八幡(別に隠してるわけじゃないんだけどね。聞かれたら答える気はあるし。聞かれなかっただけで)
八幡(ただそんなポンポン必要なく会話が飛び交うような性格ってわけじゃないってだけだし、俺も川崎も)
八幡(そんなこんなで俺は特に誰かに絡まれることなく部室へ向かう)
八幡「うぃーっす」ガラガラ
雪乃「あら、誰かと思えば……誰だったかしら?」
八幡「おい、一日置いただけで記憶から消されるってなんなの? そんなに俺の存在を脳から抹消したいの?」
雪乃「冗談よ、ひ、ひ……えっと、あなたのことを忘れるわけないじゃない」
八幡「名前を現在進行形で忘れてるからなそれ」
結衣「ヒッキー!!」ガラッ
八幡(雪ノ下といつものようなくだらないやりとりをしていると由比ヶ浜が駆け込んできた)
八幡「おう、どうしたそんなに慌てて。二日振りに雪ノ下に会えるのがそこまで嬉しいのか」
結衣「あ、ゆきのんおとといぶりー」ダキッ
雪乃「暑苦しいから離れてちょうだい由比ヶ浜さん」
八幡(そうは言っても引き離そうとはしない雪ノ下さんです。ゆるゆりの世界を邪魔しちゃいけませんね、大人しく本でも読んでましょう)
雪乃「それでどうしたの由比ヶ浜さん?」
結衣「あ、そだ、ヒッキー! アレどういうこと!?」
雪乃「アレ?」
結衣「えっとね……」ヒソヒソ
八幡(ねえ由比ヶ浜さん、目の前に本人いるのにわざわざ内緒話っぽくするのは何でなんですかねえ。それでこっち見て嘲笑されたらトラウマ確定なんですけど)
雪乃「そう、そんなことが……」
結衣「で、結局あの写真はどういうことなの!?」
八幡「知らねえよ、誰が貼ったかなんて。自撮りしたわけでもねえし」
結衣「そうじゃなくて! なんでサキサキに膝枕されてるの!?」
八幡「なんでって……お前とのメールのやり取りで寝不足だって言ったらしてくれたんだよ」
結衣「あ、う……えと」
八幡「つまり原因を突き詰めたら由比ヶ浜がそもそもの原因ってわけだな」
雪乃「寝不足自体はそうだとしてもわざわざ膝枕である必要はないんじゃないかしら?」
結衣「そ、そうだよ! そんなうらや……恥ずかしいことをわざわざ!」
雪乃(でも、比企谷君が寝不足の機会があれば私も……)
結衣(あたしが膝枕してあげるって言ったらヒッキー喜んでくれるかな……)
八幡「んー、そういやそうだな。あまりに眠くてよく考えずに川崎の提案を受けてしまったが…………軽はずみに女子の身体に触れるようなことは極力避けるべきだな。これからは特に気を付けるから。もちろんお前らに対しても」
雪乃 ・結衣「えっ?」
八幡「? そう言いたいんだろ?」
雪乃「え、ええ、そうよ。色眼鏡で見ていかがわしいことをしていると思う人もいるかもしれないし」
結衣「こ、これからは気を付けてね!」
雪乃 ・結衣(またやってしまった……)
八幡(でも、女子側からくっついてくるのはセーフだよな。自転車の二人乗りの時とか)
雪乃「それで、結局この件はどうするのかしら?」
八幡「犯人ならある程度目星を付けてるが……どうするかはまだ考えてねえな」
結衣「えっ、わかってるの?」
八幡「候補を何人かに絞っただけだ」
雪乃「でも、たまたま通りがかった愉快犯かもしれないわよ?」
八幡「そうだな。その可能性も含めてあとで川崎と話し合っとくつもりだ」
結衣「……ねえヒッキー、まだサキサキと付き合うフリ続けるの?」
八幡「おう、今回みたいなのがあった以上ここで止めたら川崎がアレに屈したことになるしな。それは今後のことも考えると良くないだろ」
八幡(彼氏役であることに特典がないわけじゃないし。弁当とか玉子焼きとか)
雪乃「……あなた川崎さんに変なことをしてないでしょうね? 恋人役にかこつけて」
八幡「するか。手すら繋いどらんわ」
八幡(あん時のあれは俺から握っただけだから嘘じゃない)
結衣「まあヒッキーはヘタレだもんね」
八幡「出してなきゃ出してないで貶されるのかよ……」
雪乃「一応聞いておくけれど私達に出来ることはあるかしら?」
八幡「んー、今んとこねえな。方針も決まってねえし。でも何かあったら頼らせてもらってもいいか?」
結衣「! う、うん! 遠慮しないでどんどん頼ってよ!」
雪乃「困った人に手を貸すのが奉仕部よ」
八幡「サンキューな二人とも、あ……ありがとう」
雪乃「比企谷君、サンキューとありがとうが被ってるわよ」クスクス
八幡「うっせ」
八幡(愛してる、とか言いそうになってしまった。こういうのも軽々しく言っちゃいけねえな)
一旦ここまで
上司昼から出張だってよ
さあ
フリ、か……。
「そんなレプリカはいらない」とか思ったりしないんかな、この八幡。
八幡(そして舞台は予備校へ)
八幡(今日のカリキュラムを終え、自習室で川崎と落ち合う)
八幡「で、一応アレをやった犯人に目星を付けとこうと思うんだが」
沙希「うん」
八幡「どんなやつかってのは四つに分類される。まず『俺に恨みを持つやつ』。これは正直不特定多数だ。文化祭とかでの悪評もあるしな」
沙希「文化祭…………」////
八幡(あ、やべ、地雷踏んだ!?)
八幡「つ、次は『川崎に恨みを持つやつ』。どうだ、心当たりはあるか?」
沙希「あんまり他人と関わってないからあたしにはないね。知らぬ間に持たれてる可能性までは否定できないけど」
八幡「まあ逆恨みってこともあるしな。そして『川崎のことを好きなやつ』。これはこの前のやつも当てはまるし、好きだけど言い出せなかったのに俺みたいなのと付き合い出したのに怒って行動に出たパターンもあるな。この場合『俺に恨みを持つやつ』にも該当するが」
沙希「それだとしたら実に陰険なやつだね。言い寄られても付き合う気なんかまったく起きやしない」
八幡「んで最後、『俺のことを好きなやつ』。まあこれは考えなくていいだろ。いるわけないし」
沙希「……本当にそう思ってる?」
八幡「そりゃそうだろ、こんな目をしたやつに誰が惚れるんだよ」
沙希「あんたの内面に惚れたかもしれないじゃない」
八幡「その俺の内面知ってるやつがほとんどいねえよ。知ってて俺のことを好きっていうならこんな俺が嫌うようなことはしないだろ」
沙希「……そうだね」
八幡「そんなわけで有力候補は『俺に恨みを持つやつ』か『川崎のことを好きなやつ』、あるいはその両方だな」
沙希「じゃあこの前フったあいつが……?」
八幡「それも有力候補なんだが……あの写真、貼る時は人目につかないように行動していたはずだ。そんなコソコソしなきゃいけない状況で他のクラスの教室に入るのって結構リスキーじゃないか?」
沙希「じゃあ、犯人はうちのクラス?」
八幡「可能性は高いだろうな。撮ったやつと貼ったやつが別々で共犯というのもありえるが」
沙希「ねえ、あんたもしかして当たりが付いてるんじゃないの?」
八幡「…………何でそう思う?」
沙希「さあ? ただ何となくそうかなって感じただけ」
八幡「お前マジでエスパーかよ……読心術でも習得したの?」ハァ
沙希「ふふ、たぶんあんた専用だけどね」
八幡「!!」ドキッ
八幡(なんだよクソ、俺の事を理解してますってか? 勘違いしちゃうよ?)ドキドキ
沙希「で、誰なの?」
八幡「あ、ああ…………相模、だろうな」
沙希「ふうん」
八幡「驚かないんだな」
沙希「むしろ動機の面で言ったら最有力候補じゃないの」
八幡「そりゃそうだ。朝それとなく教室にいたやつを観察していたんだが……あいつだけ反応が違ってた」
沙希「へえ、どんなふうに?」
八幡「まず俺が特に気にせず席に着いたら拍子抜けした表情になった」
沙希「でもそれぐらいなら……」
八幡「そして次第に焦り始めた。このまま先生達に見つかってさらに騒ぎが大きくなることを恐れたんだろう」
沙希「……」
八幡「お前が写真を剥がした時にはほっとしてたよ」
沙希「……」
八幡「んで、俺達が平然と会話してんのを睨み付けていたな」
沙希「いやそれもうほぼ確定じゃない、さっきまでの考察や前振りはなんだったのさ」
八幡「一応すべての可能性をだな」
沙希「馬鹿らしい……で、どうすんの? 本人に何か言うの?」
八幡「それなんだよな……あいつには俺を恨むだけの理由はあるし」
沙希「でもあんたは泥を被っただけなんでしょ? だったら」
八幡「どういう理由があろうと俺が相模に罵声を浴びせたのは事実なんだ」
沙希「……あんたも大概お人好しだね」
八幡「そんなことねえよ」
沙希「まああんたがそういうならいいけどね」
八幡「でだ、俺は別に何もしないでいいと思ってる」
沙希「……どうして?」
八幡「相模は弱者には強く出るが、強者には手を出さない。お前は外見が少し不良っぽいし、文化祭でもちょっとした立場を手に入れてるからな。お前に直接手を出すことはないだろう」
沙希「いろいろ言いたいけどまあ一応納得しとくよ。でもそれならあんたには出してくるんじゃないの?」
八幡「そこまで大っぴらに派手なことはしない。事が大きくなって一番困るのは相模本人だからな」
沙希「そうなの?」
八幡「被害者は被害者でいるから同情を集められるんだ。復讐なんかをしてそれがバレれば無条件に皆味方ってわけにはいかないさ…………まあ俺だったらどんな被害者になっても同情は集められないが。ソースは」
沙希「もうあんたの自虐ネタはお腹いっぱいだからやめて。でもちょっとした嫌がらせとかは続くんじゃないの?」
八幡「そのくらいだったら俺の人生においては大したことねえよ。それに…………」
沙希「それに?」
八幡「えっと、その……」
沙希「はっきりしないね、なに?」
八幡「お、お前がいてくれるからな」
沙希「えっ」
八幡「お前は俺の味方でいてくれるんだろ、だったら大抵のことなんか気になんねえよ」
沙希「な、なに恥ずかしいこと言ってんの!」
八幡「わ、わかってるよ! でもそれだけは伝えておきたいって思ってだな」
沙希「言うな! それ以上言わなくていい! もうわかったから!」
八幡「お、おう」
沙希「…………」
八幡「…………」
沙希「……そ、そろそろ帰ろうか」
八幡「そうだな、まあしばらくは様子見ってことで。んじゃ送ってくぜ」
沙希「……いいの? あんたにとっては遠回りになるけど」
八幡「俺がそうしたいんだよ。頼むから送らせてくれ」
沙希「じゃあ……お願いするよ」
八幡(そんなわけで比企谷タクシーは今日も川崎を乗せて走る)キコキコ
八幡(もう暗くなっているので安全運転で。そう、暗いからな、だからいつもよりゆっくりめに走った。安全を意識するならそもそも二人乗りするなというツッコミはナシだ)キコキコ
八幡(ずっと小町専用だったこの場所にすっかり川崎は馴染んでしまった)キコキコ
八幡(自転車だけじゃない、俺自身との距離も小町しかいなかった近さに川崎はいるんじゃないかと思う)キコキコ
八幡(今みたいに会話がなくともちっとも気まずくない、穏やかな空気を持てるような存在)キコキコ
八幡(俺は……川崎とどうなるんだろうか? どうなりたいんだろうか?)キコキコ
八幡(答えの出ない問題をぐるぐる頭の中で考えているうちに川崎家に着いた)キキッ
八幡「着きましたぜお客さん」
沙希「どうも、お代は明日の昼にね」
八幡「おう」
八幡(川崎が荷台から降り、俺の横に立つ。ここで俺は周りに誰もいないか確認する)キョロキョロ
沙希「?」
八幡「また、明日な、沙希」
沙希「っ! ま、また明日ね、八幡」
八幡(俺達はお互い少し顔を赤くしながらも、はっきり見つめ合って挨拶をする)
八幡(何かわけのわからない感情が込み上げてくるのを誤魔化すように俺は帰宅すべくペダルを漕ぎ出す)
八幡(少し離れてから後ろを振り向くと、こちらを見送っていた川崎が胸の辺りまで手をあげて軽く振ってきた)
八幡(薄暗いせいで表情はまったく見えないが、それはあちらも同じだろう)
八幡(ついニヤケてしまったのを見られなかったことに安堵しながら手を振り返し、俺は交差点を曲がる)
八幡(また明日、か)
一旦ここまで
沙希(比企谷は何もしなくていいって言ってた)
沙希(あの写真の時におおごとになりそうなときは不安そうな顔をしていたってなら確かに派手なことはできないんだろうけど)
沙希(それでも比企谷が何かされる可能性はあるわけで)
沙希(いや、比企谷自身が構わないって言ってる時点であたしは何もするべきじゃない。比企谷がそうしたくてすることなら止めはしないってあたしは言ったし)
沙希(でもそれとは別にあたしはあたしで言いたいことがあったんだよね)
沙希(だから比企谷は関係なく、あたし自身がしたいことをする)
沙希「ねえ、ちょっといいかな?」
南「な、なに?」
沙希(トイレから出てきたタイミングで話し掛けると、相模はビクッと身体を震わせる)
沙希(なにこの反応。悪いことした時の弟達みたい。もう少し隠す努力しなよ……)
沙希「あの時の写真てさ、あれ一枚なの?」
南「な、なんのこと? 写真て何の話か全然わかんないよ!」
沙希(助けを求めるように周りを見ながら慌てたように言う。いや、あの教室にいたあんたが『写真』と言われてわからないわけないでしょ、犯人じゃなかったとしても)
沙希「落ち着きなって。あたしは別に怒ったり責めたりしてるわけじゃないんだ」
沙希(苦笑しながらそう言うと怯えの色が薄まる)
沙希「あれ以外にも撮ったのがあったら欲しいなって思っただけ」
南「あ、あの、あたしじゃなくて……」
沙希「そういうのいいから。たぶんスマホで撮ったんだよね? データくれると嬉しいんだけど」
沙希(あたしがそういって自分のスマホを取り出すと、観念したように相模もスマホを取り出した)
沙希(震える手で操作し、あたしの方に昨日貼り出されたのと同じ写真のデータが転送される)
沙希「ん、ありがと。撮ったのこれ一枚だけ?」
南「…………うん」
沙希「そ。こそこそしなくても撮りたきゃ言えば撮らせてあげるから。もちろん言いたいことも全部ちゃんと聞くよ。あたしもあいつも」
沙希(相模はハッとしたように顔を上げる)
沙希「んじゃね」
八幡(チャイムが鳴り、昼休みが始まった)
八幡(もうどこでも同じなのだが、ちょっと人にはあまり聞かれたくない話もあるのでいつものベストプレイスで食べることにする)
八幡(包みを持った川崎と一緒に教室を出るが、それに声をかけるやつはいない)
八幡(一年の頃、似たような状況でクラスメートにはやし立てられて気まずくなって別れたカップルがいたが、俺達にそんな仲の良いクラスメートはいない。またしてもぼっちが勝利してしまった、敗北を知りたい)
八幡(まあ敗北なんて腐るほど溜め込んでるんですがね。そもそも川崎と一緒の時点でぼっちじゃねーしな)
沙希「はい、タクシー代」
八幡「おう、んじゃいただきます」
沙希「で、今日はなんでここ? 恥ずかしくなった?」
八幡「別にお前とメシ食うのに恥ずかしいことなんかねえよ…………お前さ、相模に何か言っただろ」
沙希「なんでそう思うの?」
八幡「俺はトラウマと黒歴史にまみれたぼっちだからな、人の視線には敏感なんだよ。あいつの俺を見る目に朝はなかったはずの怯えが入ってたぞ、仕返しされるんじゃないかみたいな」
沙希「別に大したことは言ってないよ。やっぱりデータでも欲しいなって思ってそれを貰っただけ。ほらこれ」スッ
八幡「っ! ま、待ち受けにしてんじゃねーよ! 今すぐ変えろ!」
沙希「ふふ、その顔が見たかったよ。ま、あたしも家族に見られたらあれだし変えとくから」
八幡「おのれ……でもやっぱり相模だったか」
沙希「声をかけた時の態度で丸分かりだったね。どんだけ小心者なんだか」
八幡「そう言ってやるな、こういうことに慣れてないんだろ。だったら普段はそんな悪いやつじゃないってことだ」
沙希「ま、あたしはこれが手に入ればどうでもいいけどね。撮ったのはこれ一枚だけだって」
八幡「そうか。これで悪いことはできないと思ってくれりゃいいんだがな……ごちそうさまだ、今日も美味かったぜ」
一旦ここまで
読み返すと作中では一週間も経ってないのに詰め込みすぎかなと思った
もう少しゆっくりいこう
前スレ投下分は早くていいんじゃない?
あと細くてアレだけど相模の一人称は「うち」な
沙希「はい、お粗末さまでした。今日はどうする?」
八幡「? なにがだ?」
沙希「これ」ポンポン
八幡(川崎さん、平然と太ももを叩いるように見えますけど赤い顔が隠し切れてないですよ可愛いお持ち帰りしたい)
八幡「あー、えっと、今日はそんなに眠くないし、遠慮しとくよ」
沙希「別に眠くなくてもいいじゃない。横になるだけでも、さ」
八幡「いや、その、心地良過ぎるからさ、お前の膝枕でしか寝れなくなったら困るし……」
沙希「…………ダメ?」
八幡「……!!」
八幡(あーもう、なにその上目遣い、誘ってんの!? あ、誘ってるか)
八幡「えっと、じゃあちょっとだけお邪魔しようかな……」
沙希「ん、いらっしゃい」
とりあえずこれだけ
前スレ投下分がリメイクや修正しつつようやく終わりました
ここからは投下ペースがだいぶ落ちると思います。それでも1日一回は投下するつもりですが、よろしくお願いします
あと最近川崎さんスレが増えてきてますね……いいことだ! でも少なかったというかなかったから乗っ取ってまで書き始めた俺の立場は……(笑)
もっとサキサキSSが増えますように
>>171
そうだった!前スレでも間違えたと思ってたのに投下時にはすっかり忘れてた……すまん許してくれ、何でもするから!
八幡(俺は仰向けになり、川崎の太ももに頭を乗せる)
八幡(二回目ともなれば慣れたものだ…………ってそんなわけあるか!)
八幡(後頭部に感じる柔らかさと密着状態で嫌でも鼻をくすぐる川崎の匂い)
八幡(正直心臓が爆発しそうだ)
八幡(でも…………なぜか同時に安心するような、ほっとするような安らいだ気分にもなった)
八幡(相反するはずの二つの感情がせめぎ合ってよくわからなくなる)
沙希「そういえばさ、今度の」ナデナデ
八幡「おい待て。なんでナチュラルに俺の頭撫でてんの?」
沙希「あれ、嫌だった?」
八幡「いや、そういうわけじゃない。むしろ心地良いんだが……それやられると眠くなるから」
沙希「でも膝枕してると何となく撫でたくならない?」
八幡「してやったことなんかねえからわかんねーよ」
沙希「じゃあ今度あたしにしてみてよ。あたしもたまにはしてもらう方に回りたいし」
八幡「…………機会があればな」
沙希「そん時はよろしく。それで今度の」ナデナデ
八幡「だから撫でるなって」パシ
沙希「ん……」
八幡「あ……」
八幡(止めさせようと腕を伸ばし、川崎の手首を掴んだつもりが、手そのものを握ってしまった)
八幡(いわゆる手を繋いだ状態だ)
沙希「……あのさ」
八幡「す、すまん、すぐに……」
沙希「ちゃんとその手、捕まえてないとまたすぐにあんたの頭撫でるよ」
八幡「…………なら仕方ないな。しばらくこのままにさせてもらうぜ」ギュ
沙希「ん」ギュ
八幡(なんでこう、女子の手ってこんなにスベスベで柔らかいんですかね)
八幡(いや、そんなにたくさんの女子の手を知ってるわけじゃないけどさ)
八幡「で、何だ? 何か言いかけてたが」
沙希「ああ、あんた今度の日曜日はヒマ?」
八幡「日曜つーと明後日か。いや、朝のテレビ見る以外はこれといって用はないが」
沙希「そう……実は日曜日は両親とも家を空けなきゃいけなくてさ、妹達の面倒をあたしと大志が見るわけなんだけど」
八幡「へえ」
沙希「午前中は大志が近場のショーに連れて行くって言ってたけど、午後は約束があるらしくてあたしが見るの」
八幡「ふーん」
沙希「良ければ、その、一緒にどうかなって」
八幡「え、俺がか?」
沙希「う、うん。二人ともあんたとまた遊びたいって言ってたし……午前中は外出だから午後はウチでのんびり、って考えてるけど……どう?」
八幡「ああ、別に構わねえよ」
沙希「ほ、本当に!?」
八幡「……そこまで驚くことか?」
沙希「いや、あんたって休日にわざわざ出掛けたりしないんだろうなって……正直断られると思ってた」
八幡「休日が片方潰れるくらいは大したことねえよ。俺もけーちゃん達と遊ぶの嫌じゃねえしな」
沙希「そ、そう」
八幡「で、午後は川崎んちに行くとして、午前中はどうすんだ?」
沙希「えっ!?」
八幡「あん?」
沙希「ご、午前中って……」
八幡「? 弟妹の世話は午後からなんだろ? それまで俺達はどうするんだって話なんだが……どっか出掛けるのか?」
沙希「え、えっとね」
沙希(うそ!? 午後からウチに来てくれればって思ってたのに、比企谷は午前中からあたしといてくれるつもりなんだ!)
沙希(ど、どうしよ! 何も考えて……そうだ、この前新聞屋さんから貰ったチケット!)
沙希「じ、実は映画のチケットを貰ったんだけど……せっかくだからそれを見に行かない?」
八幡「おう、いいぞ。何の映画だ?」
沙希「駅前の映画館ならどれでも見れるタイプのやつなの。だから行ってみてその時間で見れそうなのでどうかな?」
八幡「当日までのお楽しみってやつか。俺は何でも楽しめるから構わないぜ」
八幡(時間と待ち合わせ場所の約束をしたところで昼休み終了の予鈴が鳴った)
八幡(俺は身体を起こし、繋いでいた手を放す)
八幡(その際に川崎がちょっと寂しそうな表情をしたのは気のせいだろうか?)
八幡(後頭部と手のひらに残る心地良い感触と、少しだけのモヤモヤと寂しさを抱えながら俺は教室に戻った)
とりあえずここまで
最近けーちゃんを間に挟んだハチサキが流行ってるからあまりけーちゃんを登場させると他の作品と内容が被ってしまう。気を付けんとな
そして小さい方の弟がないがしろにされがちになるよね、原作で出番がないから仕方ないが
続きはまた明日
でも映画デートはもうちょい先。さっさと間のイベント消化させて日曜朝まで進めたい
八幡(さて放課後だ。我が奉仕部は今日も元気に活動中)
八幡(なんで強制的に入らされた部活に俺は律儀に毎日参加してるんですかね?)
八幡(もういいよね? 学生時代にこれだけ働いたんだから大学卒業したあとは専業主夫になっても誰も文句は言わないよね?)
八幡(とりあえず少しでも労働時間を減らすために自販機に寄っていこう。実に姑息な手段だ)
八幡(どうでもいいけど『姑息』ってネガティブなイメージあるよな。意味は『一時しのぎ』とかそういったものなのに。だから俺の使い方は合ってるわけだ)
八幡(正しい日本語を使える俺マジ国語学年三位。もっとも今から開けるドアの向こうには学年一位がいらっしゃるわけですが)
八幡「うぃーっす」ガラガラ
結衣「あ、ヒッキー遅かったね。どしたの?」
八幡「ちょっとソウルドリンクが飲みたくなってな、買ってきた」
いろは「うげー、それ甘過ぎません? 絶対身体壊しますよ」
雪乃「いいのよ一色さん。彼は苦い人生を送ってきたしこれからも送り続けるのだから、あれくらいしないと苦さに押し潰されてしまうの」
八幡「なんでマッ缶一本でそこまで言われんだよ……てかまた来たのか一色、こんなとこにいないで生徒会長とサッカー部のマネージャーをちゃんとしてこい」
結衣(苦い人生をこれからも送るのは否定しないんだ……)
いろは「生徒会はもう片付きましたし、サッカー部はあと三十分くらいしたら行きますよ。それまではここで休憩中です」
雪乃「一色さん、ここは休憩所というわけではないのだけれど」
いろは「わかってますよー、でも疲れたときに雪ノ下先輩が淹れてくれた紅茶がすごく美味しくてー、ついつい足が向いちゃうんですよね」
雪乃「そ、そう。まあ自分のするべきことをちゃんとしていて私達が忙しくないのなら別に来てもらっても構わないわ」
八幡(ちょろい)
いろは(ちょろいですね)
結衣「あ、そういえばさヒッキー、今日は何にもなかった?」
八幡「あ、何がだ? 質問が漠然としすぎなんだが」
結衣「その……昨日の朝みたいな……」
八幡「ああ、それなら大丈夫だ。あの様子だともう何もしてこないだろ」
結衣「えっ、誰がやったかわかったの!?」
八幡「まあな」
いろは「あのー、何の話ですか?」
結衣「あ、えっと……」チラ
八幡(何だ……ああそうか、一色にはどこまで話していいものか悩んでんのか)
八幡「まあ隠すようなものでもない。一色は俺と川崎ってやつが付き合ってんのは知ってるよな?」
いろは「は、はい……」
結衣(フリってのは知らないんだね)
雪乃(比企谷君のことだからそれを口実に頼み事を断るくらいはやってそうね)
八幡「まあクラスのやつも大半は知らないんだが、一緒にいるとこを写真に撮られて黒板に貼り出されたんだ」
いろは「うわーかわいそう……川崎先輩が」
八幡「おい、俺はいいのか? まあそんなことがあったんだが、やった本人に川崎が話をしてな。もう下手なことはできないと思う」
結衣「だ、誰だったの?」
八幡「それは知らない方がいい。今後何かあったときに偏見の目で見てしまうぞ」
結衣「? どういうこと?」
雪乃「つまり比企谷君が今後嫌がらせとかをされた時、またその人物が犯人だと最初から疑ってしまうということよ。潔白であったとしてもね」
八幡「まあそんなとこだ」
雪乃「それにもう解決したのなら知る必要もないでしょう。ところで川崎さんが話をしたということだけど、マズい手段には出ていないでしょうね?」
八幡「ああ、聞いた限りではほぼ最善だと思う。あとは俺からのリアクションがなければもう必要なく関わろうとは考えないはずだ」
雪乃「そう、ならいいわ」
いろは「あの……ちょっといいですか?」
八幡「あ? 何だ?」
いろは「先輩に彼女が出来たって結構な事件だと思うんですが……何で雪ノ下先輩や由比ヶ浜先輩はそんないつも通りなんですか?」
一旦ここまで
なんで休日出勤なんだよ……5月って三日しか休みがなかったぞ。GWなんてどこ吹く風や
サキサキ可愛いまた明日ーノシ
雪乃「質問の意味がよくわからないのだけれど……比企谷君が誰と付き合おうと私達には関係ないじゃない」
結衣「そ、そうだよ、別にヒッキーがどうしようとどうでもいいし」
いろは「そんなもんですかね?」
いろは(絶対おかしい……この二人は先輩に好意を持ってるはずなのに)
いろは(もし違ったとしてももう少し色々言うはず……これは何かある。ちょっと突っ込んでみよう)
いろは「じゃあ先輩に質問させてもらっていいですか? なんだかんだ言っても先駆者を参考にするのは基本ですから」
八幡「は? 何の参考にするんだよ?」
いろは「そりゃ男心を知るために決まってるじゃないですか。あ、あくまでも参考なので世間一般論でなく先輩自身の意見でお願いします」
雪乃(これは……)
結衣(ヒッキーのことを知るチャンス!)
八幡「やだよ面倒くせえ」
いろは「いいじゃないですかわたしを助けると思って。あ、なら奉仕部への依頼ってことにします」
雪乃「そう言われては断れないわね。比企谷君、答えてあげなさい」
八幡「ったく……わかったよ、俺個人の意見でいいんだな? あと答えたくないことは言わんぞ」
いろは「はい。あ、これだけは先に聞いておきたいんですけど、どっちから告白してきたんですか?」
八幡「それは川崎の方からだ」
いろは「先輩のことを好きになったきっかけとか聞いてます?」
八幡「……奉仕部関係やその他で何度か接触があってな。だんだん気になり出したらしい」
いろは「先輩は告白をお受けしたんですよね? それまで相手の事はどう思っていたんですか?」
八幡「悪くないやつだとは思ってたよ」
いろは「相手のどこが好きですか?」
八幡「…………ノーコメント」
いろは「えー、一番肝心なとこじゃないですか」
八幡「何でだよ」
いろは「男子が女子のどこを見るかってのは重要なんですよ」
八幡「ぐ、確かに」
いろは「さ、ちゃっちゃと答えてください」
八幡「なら外見じゃなく中身で答えるぞ。外見の好みなんかそれこそ人それぞれなんだからな」
いろは「そうですね。むしろ変えやすい中身の方こそ聞きたいです」
八幡「要するに俺が川崎の気に入ってるところを言っていけばいいんだよな……えーっと、まず料理が美味い」
雪乃「!」グッ
結衣「!」ショボン
いろは「そういえばお弁当を作ってもらってるんでしたっけ?」
八幡「ああ。家族多くて家事を引き受けてるらしいからな、腕は確かだ。俺の中の『料理が上手い女子ベストスリー』にランクインしてる」
いろは「何ですかその頭の悪そうなランキング……ちなみに残り二人は?」
八幡「小町と雪ノ下だ」
雪乃「! あ、あなたに褒められても嬉しくはないけれど悪い気はしないわね」ソワソワ
結衣「あたしももっと練習しようかなあ……」
いろは「まあ男を落とすには胃袋からって言うくらいですもんね。他には何かあります?」
八幡「俺の空気が読める」
いろは「え、空気が読める、ですか?」
八幡「俺限定のな。あいつも人付き合いは得意じゃなくてな、ぼっち気質をよくわかってる。だから俺がどういう時にどうしたいかってのが結構理解できるんだ」
いろは「うーん……本当に先輩以外には使えないですねそれ」
八幡「いやいや、俺以外のぼっちを好きになった時に使えるぞ…………えーと、あとひとつあるんだが、これは本当に参考にならんから言わなくていいな」
いろは「そこまで言われたら気になるじゃないですか」
雪乃「そうね、さっさと白状しなさい」
結衣「ヒッキー早く!」
八幡「なんでお前らまで乗っかってきてんの?」
八幡(正直あんま言いたくないんだがな。馬鹿にされそうだし……あ、いつもされてるか。ならいいや)
八幡「結構しょうもないことなんだけど、意外とウエイトを占めていたことなんだが……」
いろは「溜めなくていいですから早く言ってください」
八幡「……俺の悪口を言わない」
雪乃・結衣・いろは「…………はあ?」
八幡「ああいや、別にお前らに対する当て付けとかじゃないから勘違いしないでくれ。普段から小町にすら言われてるからな、俺の中では悪口ありきがデフォルトなんだよ」
八幡(時々心が折れそうにはなるけどな)
八幡「だけど川崎は言わない、特にこの腐ってる目でもな。それが新鮮に感じた…………どうだ、参考にならんだろ?」
いろは「そう、ですね……」
雪乃「…………」
結衣「…………」
八幡(? なんだこの空気?)
八幡「昔から悪口と嘲笑の中で生きてきたからな、そんなふうに悪口を言わない川崎と中学時代に知り合っていたらこっちから惚れて告白してフられるとこだったぜ」
結衣「フられるとこまで決まってるんだ……」
雪乃「比企谷君!」
八幡「うお、何だよ急に大声出して」
いろは「そっかそっかー、そういうことだったんですかー」
八幡「なんだ突然ニヤニヤして」
いろは「ずばり言います、先輩は川崎先輩とは本気で付き合ってませんね!?」
八幡「な、何でそうなる?」
いろは「そうですね由比ヶ浜先輩!?」
結衣「え、えと、知らない知らない、あたしは何にも知らないよ?」
雪乃「由比ヶ浜さん、さすがに挙動が不審過ぎるわ……」ハァ
いろは「現状付き合ってる相手にあんなことは普通言いませんよ。まあ先輩ならあるかも、とは思いましたから態度に出やすい由比ヶ浜先輩に聞きましたけど……なるほど、お二人も知っていたから反応がいつも通りだったんですね。てことは奉仕部への依頼か何かで付き合うフリをしているってとこですか」
八幡(やだ……この子マジ名探偵)
いろは「まったく、フリだってのに先輩は見栄っ張りなんですから。あ、じゃあそろそろわたしはサッカー部の方に顔を出しますんでこれで失礼しますね。それでは」ガラガラピシャ
八幡「なんだあいつ、最後は突然上機嫌になりやがって」
結衣「ご、ごめんヒッキー……あたしのせいでバレちゃって」
雪乃「いえ、由比ヶ浜さんが気にする必要はないわ。元はと言えば比企谷君の失言が原因なのだから」
八幡「それは一理あるがそのフォローは普通俺が言うものだろ」
雪乃「あら、あなたにもフォローをしようという気遣いができたのね」
八幡「おいおい、俺ほど気遣いができるやつはそうそういないぞ。何しろ誰にも迷惑をかけないよう存在感まで消しているんだからな」
結衣「それ気遣いって言うのかな……あ、チャイム鳴った」
雪乃「なら今日はここまでにしましょうか」
とりあえずここまで
早く川崎サキサキさんとの映画デートシーン書きたい
八幡(結局一色にバレてしまったな)キコキコ
八幡(つってもアレが全部嘘ってわけでもないんだよな)キコキコ
八幡(でも……付き合ってるのは嘘だ)キコキコ
八幡(…………)
八幡(…………)
八幡(……いや、確かに川崎のことを考えていたさ)
八幡(川崎を自転車の後ろに乗せない日は久々だなとかも思ってたし)
八幡(だからってさ……)
八幡「なんで無意識に川崎んちの近くに来てんだよ俺は……」ハァ
八幡(来たって会えるわけでもねえのに……)
八幡(アホらしい……帰ろう)
沙希「あれ、比企谷?」
八幡「!? か、川崎、なんでここに?」
沙希「何でって、ちょっと醤油切らしたからひとっ走り……ていうか比企谷こそなんで? こっちに用なんかないでしょ?」
八幡「あ、いや、えっと……」
沙希「ああ、なるほど、あたしに会いたかったんだね」クス
八幡「えっ! なんでそれを……」
沙希「えっ?」
八幡「えっ?」
八幡(え……し、しまった! 川崎のは冗談だったのか!?)
沙希「あ……う……」
八幡(川崎の顔が真っ赤になるのがわかる。が、俺だって負けちゃいないだろう)
八幡(こういう時は……逃げの一手だ!)
八幡「じゃ、じゃあな川崎! また日曜に!」
沙希「あ、うん、また」
八幡(俺は全速力でその場から逃げ出した)
八幡(うおおおお! 恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい!)
すまんやで
やっぱりサキサキを登場させんと眠れんかったんや……
じゃ、明日からの長期出張に備えて寝るノシ
主張先でやれる事なんてちんちん弄るかSS書くくらいしかない
>>219
何を主張しているんですかねぇ……
ちょっとだけ投下
八幡(街中を自転車で爆走し、ようやく落ち着いて俺は帰路に着く)
八幡(小町が作った夕飯を食べながら俺はさっきの行動の対処法を考えていた)
小町「お兄ちゃんどしたの? 悩み事?」
八幡「ああ、いや何でもない」
小町「ならいいけど……ところで沙希さんと何かあった?」
八幡「は? な、なんで川崎が出てくるんだよ」
小町「いやーさっき大志君からメール来てね、沙希さんの様子がおかしいって。もしかしたらお兄ちゃんが何かしたのかなって思ったんだけど……当たりみたいだね」
八幡「おい、その大志のメルアドを俺に教えてすぐに消去しろ。ガチホモ掲示板に貼りまくってやる」
小町「お兄ちゃんさすがにその行動はポイント低いよ……」
小町(大志君のことは特に何とも思ってないけど、客観的に沙希さんの様子を知るには必要なのです)
八幡「まあ……ちょっと明後日川崎と出掛けることになったから、何かあるっていったらそんくらいだ」
八幡(ある程度本当の事を言うのが話を誤魔化すコツだ)
小町「え、お兄ちゃんと沙希さんがデート!? キャー!!」
八幡「デートじゃねえから」
八幡(さて、川崎にメールを送ろう)
八幡(きっと川崎なら俺の言わんとしてることがわかるはずだ)
八幡(『今日も奉仕部は何もなく、いつもと変わらない1日だった。そっちは何かあったか?』送信っと)
八幡(しばらくして川崎から返信があった。『あたしも何もないかな。醤油が切れたから大志に買ってきてもらったくらい』だと)
八幡(よし、あの出来事を丸々なかったことにしようという意図は通じたみたいだな)
八幡(いや、本当になかったんだあれは。妄想妄想)
八幡(しばらく川崎とたわいもないメールのやり取りをし、俺は寝床に入る)
八幡(今週は色々あったからな、肉体的には疲労困憊だ。明日一日しっかり休もう)
八幡(…………明後日のためにも)
少ないけど一旦ここまで
今からちょっとデートシーン書きためる。今夜辺りに投下できたらいいな
飲み会に連れ去られる前に投下
八幡(さて、日曜の朝である)
八幡(九時半駅前で待ち合わせ、十時前後に始まる映画の中で一番面白そうなのを見て、昼食をどこかで取ってから川崎家へという予定だ)
八幡(少し早めに着いとこうと思って十五分前に駅前に来たわけだが)
髪を下ろして大人っぽく、逆に服装は可愛い系でそのいつもと違うギャップがたまらない沙希「…………」ソワソワ
八幡(……誰だあれは?)
八幡(つい見とれてしまい、五分くらいその場に立ちすくんでしまったわけだが)
八幡(その五分の間に三人くらいにナンパされていた)
八幡(特にしつこい相手もいなく川崎が断るとすぐに離れたが、どんなやつと待ち合わせてるのか確かめようとしてるらしく遠巻きに見ている)
八幡(ち……)
八幡(近寄りづれええぇぇぇ!)
八幡(何なの!? 何なのなの!? 川崎さん気合い入りすぎじゃね?)
八幡(男が川崎に見とれて女が不機嫌になってどつくカップルなんて漫画でしか見たことねえよ! それも何組も!)
八幡(それでも時間をかければそれだけ人は増えるだろう)
八幡(俺は意を決し、川崎の方に歩き出す)
八幡(すぐに川崎は俺に気付き、こっちに向かいながら手を振ってきた)
八幡(この瞬間、俺は五感を川崎に集中させる)
八幡(周りからの嫉妬や怨嗟をスルーするためだ。ちょっと受け止め切れそうにないからな)
沙希「おはよ比企谷」
八幡「お、おうおはよう川崎。待たせちゃったか?」
沙希「ううん、あたしも来たとこだしまだ時間前でしょ」
八幡(それが嘘だとは知っているが、触れない方がいいな)
八幡「あー川崎、ちょっと耳を塞いでくれるか?」
沙希「え?」
八幡「よし塞いだな、なら今から言う独り言も聞こえないはずだ」
沙希「え? え?」
八幡「髪、下ろしてるのも、そういう服も似合ってる。すげえ良い」
沙希「え、あ……あう…………あ、ありがと」
八幡「ん、どうした? もう耳は塞がなくていいぞ」
沙希「ふふ、でもあたしはちゃんと比企谷に聞いてもらうよ。比企谷、いつもより決まってるじゃない。かっこいいよ」
八幡「あー……実は小町に見てもらった。俺はセンスがないからな」
沙希(妹に相談してまで気合い入れてくれたんだ……嬉しいな)
八幡「んじゃ行こうぜ、映画館あっちだったな」
沙希「うん」
八幡(俺が歩き出すと川崎は俺のほぼ真横、半歩だけ後ろに付いてくる)
八幡(化粧はほとんどしてないみたいだが、香水は付けてるのだろうか? すごく良い匂いがする)
八幡(こんな女の子と並んで歩く日が来ようとは…………やべ、変な汗掻いてきた。おかげで脇腹がかゆい)スッ、ポリポリ
沙希(え? ひ、比企谷が肘を突き出してきた? こ、これって、そういうこと、だよね…………え、えいっ!)スッ、ギュッ
八幡「!」
八幡(ええええ!? 川崎が腕を組んできた! マジ柔らかい良い匂い!)
沙希(比企谷って結構積極的なんだね……)
八幡(川崎って結構積極的なんだな……)
八幡(二の腕に当たる胸の感触に意識を持っていかれそうになりながらも何とか映画館に辿り着く)
八幡(候補は三つあったが、せーので指を差したのは同じものだ。俺達は声を出さずに笑い合った)
八幡(その映画のチケットを購入し、館内に入る)
八幡「飲み物買ってくるけど何が良い? ポップコーンとかはいるか?」
沙希「あたしは飲み物だけでいいよ。オレンジをお願い」
八幡「あいよ、ちょっと待っててくれ」
八幡(二人分の飲み物を買い、川崎のところに戻る)
沙希「ありがと、いくらだった?」
八幡「いやいいよこんぐらい。チケット代が浮いてるしな」
沙希「そう、じゃあもらっとくね」
八幡(実際金銭的余裕はある。小町が両親に『今日お兄ちゃんが女の子とデートに行くよ!』とご注進したところ、むせび泣きながら小遣いをくれたのだ)
八幡(最初は疑われたが、俺の服装を見て嘘ではないと判断したらしい。自分じゃわからないけどそんなにいつもと違うのかこのコーディネート?)
沙希「じゃ、行こ」スッ
八幡「お、おう」
八幡(川崎は自然にまた俺と腕を組んできた。なんか腕だけでなく心まで絡め捕られるような気分だ……)
八幡(映画の内容は恋愛が少し絡んだアクションものだ)
八幡(展開自体は王道なものの、演出でそれを飽きさせず引き込まれる作りになっている)
八幡(主人公とヒロインの永遠かもしれない一時の別れのシーンで川崎は少し涙ぐんでいた)
八幡(『そういう時は手を握ってあげるんだよお兄ちゃん』とアドバイスされてはいたものの、俺にはハードルが高すぎた。ヘタレでごめんよ小町……)
八幡(最後に二人は再会し、グッドエンドを迎えてスタッフロールが流れ出す)
八幡(照明が点き、他の客が次々と立ち上がるが、川崎はまだ泣いていた)
八幡(俺はそっと川崎の頭に手を乗せ、軽く撫でてやる)
八幡(川崎ははっとしたように顔を上げて慌てて手元のハンカチで涙を拭い、立ち上がった)
沙希「ご、ごめん、出よっか」
八幡「いやー、結構面白かったな。川崎の珍しいとこも見れたし」
沙希「い、言わないで! …………でも、うん、当たりだったね今回の映画」
八幡「そうだな、どっかでメシ食いながら感想会といこうぜ。どこにする?」
沙希「この時間だともうどこも混んでるから…………」
八幡(川崎と相談しつつ歩き、少し空いてる洋食屋を見つけて入る)
八幡(どこが良かった、ここはこういう風なのが好みだった、などと映画の話をしながら昼食を取り終えた)
八幡(ここも俺が支払ったが、店を出たあと川崎は何としても自分の分は出すと言って聞かず、俺に金を渡そうとしてくる)
八幡(仕方ないので強硬手段に出ることにした)
八幡「川崎、俺に奢らせてくれないと、映画見て泣いたのを大志やけーちゃん達にバラすぞ」
沙希「んなっ!?」
八幡「それにここのメシより美味い弁当を作って貰ってるんだ。だから、な?」
沙希「う……わかった……で、でも今日だけだからね」
八幡「おう。んじゃそろそろお前んちに行くか。ちょうどいいくらいの時間だろ」
沙希「ん、そうだね」
八幡(俺達は川崎家に向かって歩き出した。さすがに家族に見られたりするのは嫌なのか腕は組んでこなかった)
八幡(……ちょっと残念に感じてる俺がいる)
とりあえずここまで
今日はもう書けないかもしれない
サキサキ可愛い
飲み会行ってくるノシ
寝る前にちょっとだけ投下
八幡(川崎家に着くと、大志がすでに弟妹二人と待っていた)
大志「どうもっすお兄さん、話は聞いてます。姉ちゃんとコイツ等をよろしくお願いしまっす」
八幡「おう。それと俺をお兄さんと呼ぶな。ついでに小町の連絡先を消せや」
大志「いきなり何っすか!?」
沙希「こら比企谷」
八幡「ケッ」
八幡(しばらくやり取りをした後、大志は出掛けて行った)
八幡(川崎が着替えの為に奥に引っ込んだのでその間は二人の相手を務める)
沙希「お待たせ」
八幡(ヒーローごっこの悪役を演じていると着替え終わった川崎が戻ってきた。いつもの髪型に動きやすさを優先した服装だ)
八幡「おう……やっぱりその方がいいな」
沙希「…………さっきまでのあれ、あたしには似合わなかった?」
八幡「いや、あれはちょっと綺麗過ぎて緊張しちゃうからな。何というか落ち着かなかった…………でも、たまにならまた見てみたいぞ」
沙希「あ、うん……じゃあ機会あったらまた、ね」
八幡(むず痒い会話をし、改めて四人で遊び出す)
八幡(ままごとだったりお絵描きだったり簡単なゲームだったり)
八幡(が、朝早かったのか二人ともうつらうつらし始めた)
沙希「ああ、眠くなっちゃったかな? じゃあ少しお昼寝しようか」
八幡(そう言ってテキパキと準備を始める川崎。まさに『お姉ちゃん』って感じだ)
八幡(二人はもっと俺と遊ぶと少しだけ駄々をこねたが、遊べるのは今日だけじゃないしまた来るからと言うと納得してくれた)
沙希「ごめんね二人が寝るまでほったらかしちゃって」
八幡「気にすんな。一人は慣れてるから」
八幡(二人を寝かしつけたあと、俺は居間で川崎にお茶を淹れてもらっていた)
沙希「大志は面倒は結構見てくれるんだけどあまりああいう遊びはしてくれなくてね」
八幡「ああ、あの年頃じゃ仕方ないだろ」
沙希「だからあんたが相手してくれるのがよっぽど嬉しいみたい。二人とも眠る直前まであんたの話をしてたよ」
八幡「それは光栄だな、俺で良けりゃまた相手になるぞ」
沙希「うん、二人も喜ぶしお願いするね……な、なんならあたし達があんたの家に行く、とか」
八幡「いや、それは駄目だ」
沙希「え……」
沙希(そ、即答!? なんで? そんなに嫌なのかな……)
八幡「ウチには猫がいるからな。川崎は猫アレルギーだろ?」
沙希「あ……」
八幡「俺の部屋にはほとんど入ってこないから俺の部屋だけならいいが、そういうわけにもいかんだろ。ここに来んのも大変じゃねえし俺から出向くよ」
沙希「うん……ありがとう」
沙希(気を遣っててくれたんだね……)
八幡「いや、こんくらい別に」
沙希「…………」
八幡「…………」
沙希「ねえ、比企谷」
八幡「ん?」
沙希「せっかくだし、一昨日言ってたやつ……やってもらってもいいかな?」
八幡「あ、何だっけ?」
沙希「その、あたしに膝枕してくれるってやつ」
八幡「なっ……」
八幡(何を、と思ったが恥ずかしがりながらもこっちを上目遣いで見る川崎に俺は断ることなど出来なかった)
八幡「お、おう、いいぞ。でも俺はあの女の子座りなんか出来ないからな、これで」
八幡(俺は胡座をかいていた脚を真っ直ぐに伸ばし、ズボンの皺を直す)
八幡(川崎はシュシュを取って髪の毛をほどき、俺の斜め前方に身体を横たえて頭をそっと俺の太ももに載せる)
八幡(顔は反対側を向いているから表情は読み取れないが、耳まで赤いのはよくわかった)
八幡(そしてあの時川崎が言っていたことも)
八幡「なあ川崎」
沙希「な、なに?」
八幡「その、お前の言ってたやつ、わかったわ」
沙希「?」
八幡「頭、撫でていいか?」
沙希「!! …………うん、撫でて」
八幡(なにそのしおらしい声。惚れちゃうじゃないか)
八幡「じゃあ、ちょっと失礼するぞ」
八幡(なんで緊張してんだ俺は。映画館でだって撫でただろ…………うわ、やっぱりこいつの髪の毛サラサラだな)ナデナデ
沙希(あ……映画館の時は一瞬でわからなかったけど…………比企谷に撫でられるの、気持ちいい)
八幡(うお、すげえ、髪が全然指に引っかからねえ)スー
沙希(ん……手櫛…………それ、いい)
八幡(やべえ、ずっと撫でていたい)ナデナデ
沙希(クセになっちゃいそう……明日からも、頼んだらしてくれるかな?)
八幡(…………)ナデナデ
沙希(…………)
八幡(なんか……)ナデナデ
沙希(いいな、こういうの)
八幡(あれからしばらくして目を覚ました二人を再び相手し、外が暗くなって帰宅時間が近付いてきた)
八幡「じゃあ俺そろそろ帰るわ」
沙希「うん、本当にありがとうね、色々と」
八幡「いや、こっちこそな。映画も面白かったし」
京華「はーちゃん、ぜったいまたあそびにきてね!」
八幡「ああ、また来るよ。じゃあな二人とも」ナデナデ
八幡(子供二人の頭を撫で、俺は玄関を出る。川崎だけ一緒に出てきた。少し先まで見送ってくれるようだ)
八幡(俺は以前のように周囲に人気がないかを確認する)
八幡「じゃあな沙希、また明日」
沙希「うん、また明日ね、八幡」
八幡(こうして俺と川崎の一緒に過ごした休日は終わりを告げた)
八幡(とりあえず小町から質問責めにあうのは確実だろう。適当な答えを用意しとかないとな)
八幡(……正直に言うには恥ずかしいことが多すぎる)
映画デート編終了
今日はここまで
ちょっと酔ってたからおかしいとこがあったら指摘してくれるとありがたい、すまん
また明日ノシ
きっと賛同してくれる人がいるはずのことを言うぞ
>>247の『沙希「!! …………うん、撫でて」』に萌え死にそうになった
八幡(『嫌いな曜日は?』と聞かれたらトップクラスに輝くであろう月曜日がやってきた)
八幡(目が覚めて明るかろうと暗かろうと二度寝をする、てのができないというだけで気分は駄々下がりだ)
八幡(いや、昨日も出来なかったけどね)
八幡(つっても勉強しにいくのと遊ぶのでは気分も全然違うからな)
八幡(もはや戸塚に会えるという希望を胸に行くしかない)
八幡(………………)
八幡(今、川崎の顔が思い浮かんだのは弁当が楽しみだからだ)
八幡(他意はない。川崎の弁当は美味いからな)
八幡(他意はない、はずだ)
八幡「…………起きるか」
八幡(さて、今日も小町を学校まで送る仕事が始まる)
小町「よろしくお兄ちゃん」
八幡「おう、ちゃんと捕まってろよ」
小町「うん」ギュ
八幡(…………やっぱり川崎と比べると……いやいや、何を考えてんだ俺は)
小町「そういえば沙希さんてさ」
八幡「お、おう、川崎がどうした?」
小町「この前お兄ちゃんに送ってもらってたけど、自転車通学じゃなかったっけ?」
八幡「ああ、話してなかったっけ? あいつ自転車壊れたんだってよ。バイトでもして新しいの買おうかって言ってたぞ」
小町「な、なんだってー!?」
八幡「いや、そんな驚くようなことじゃないだろ? 自転車が壊れたくらいで」
小町「違いますですお兄ちゃん、小町はお兄ちゃんのゴミいちゃんっぷりに驚いているのですます」
八幡「なんだその言葉遣いは……あと俺が何をしたっていうんだよ」
小町「違うよ、何もしてないから駄目なの」
八幡「あん?」
小町「帰りはお兄ちゃんも部活あるし沙希さんも用事があることでしょう。しかしながら行きは同じような時間になるはずであるのです」
八幡「わけわからん丁寧語を止めろ……ん、まあそうだな、それがどうした?」
小町「ここまで言ってわからないお兄ちゃんが本格的に心配になってきたよ……つまり登校時は小町じゃなくて沙希さんを後ろに乗せてあげてって言ってるの」
八幡「いや、それはないだろ。なんで小町以外を優先しなきゃならんのだ。小町を送り迎えする権利は誰にも渡さんし放棄もしないぞ」
小町「それ絶対他の人に言っちゃ駄目だからね。引かれるから」
八幡「これ以上引かれることはないからそれは大丈夫だ。てか何度も言うけど川崎とは付き合ってるフリをしてるだけだからな?」
小町「うん。でもさ、どうしてフリを続けるの?」
八幡「それは……そういう依頼だから……」
小町「フリってのは秘密でも、誰かに付き合ってるふうに見せ掛ける必要はあるんだよね?」
八幡「そう……だな」
小町「だったらそれぐらいはしないと。お兄ちゃんだって沙希さんが嫌いなわけじゃないんでしょ?」
八幡「いや、でも川崎が何て言うか……」
小町「そうだね、わからないね。だから聞いてみてよ、『朝だけでも送り迎えしようか?』って。もちろんお兄ちゃんは全然迷惑じゃないことを含めてね」
八幡「ん……わかった、聞くだけ聞いてみる」
小町「よろしい」
小町(…………お兄ちゃん気付いてるのかな、結局小町が最優先じゃなくなってるのを)
小町(ちょっと寂しいけど嬉しくもある。妹心は複雑なのです)
八幡(昼休みになった)
八幡(川崎は弁当を持って先にいつもの俺のベストプレイスへ。俺は飲み物を買いに自販機へ)
八幡(この辺はすでにメールでやり取りしてるので目すら合わさずに俺達は行動する)
八幡(まだ興味有り気にこちらを窺うクラスメートがいるが、やはり会話のない俺達に首を捻っていた)
八幡(残念ながら会話をし続けないと死んでしまうようなリア充とは違うのだよ)
沙希「はい、あんたの分」
八幡「おうサンキュ、これお前の飲み物な」
沙希「ん、ありがと」
八幡(俺は川崎の隣に腰を下ろし、受け取った弁当箱の蓋を開ける)
八幡(ちょっと玉子焼きが多めだった。これは期待だな)パク
沙希「ふふ、あんたって本当に美味しそうに食べてくれるよね。作りがいがあるよ」
八幡「実際めちゃくちゃ美味いからな。店に出るようなってわけじゃないが、味付けやバランスが実に俺好みだ」モグモグ
沙希「作った相手にそう言ってもらえると嬉しいね」
八幡(でもコスパとか考えてもやっぱり俺の方が得してるよなあ……何か川崎に俺ができること……あ、そうか)
八幡「なあ、川崎」
沙希「ん、なに?」
八幡「先週予備校の帰りとかにさ、タクシー代は弁当って話をしたろ」
沙希「したね」
八幡「でも先週は色々あってほとんど送ったけど普段は無理だよな。俺は部活あるしお前は家のことがあるしで」
沙希「そうだね。でもそんなの気にしなくていいよ。予備校の帰りにだけでも送ってくれればさ」
八幡「いや、だから、その……」
沙希「?」
八幡「自転車を買うまでのバス代も馬鹿にならないだろ? 朝だけでも送り迎えしようか?」
沙希「え!? い、いや、そんなの比企谷に悪いよ!」
八幡「そんなことはない、むしろさせてほしいと思ってるまである。一応朝の二人乗りは学校から注意されるかもしれんから学校の近くまでだが」
沙希「で、でも、あんたは小町を……」
八幡「その小町に言われたんだ。しばらくの間だけでも川崎を優先してやってくれって」
沙希「そ、そう……」
沙希(い、妹に言われたとはいえその妹よりあたしを優先!? あの比企谷が!)
八幡「いや、その、川崎が余計なお世話だっていうなら無理にとは言わないが…………」
沙希「……その前にさ、質問させてもらっていいかな?」
八幡「なんだ?」
沙希「本当に、迷惑じゃない? 負担にならない? あたしに構わず本音を言って欲しいんだけど……」
八幡「…………じゃあ本音を言わせてもらうけどな」
沙希「う、うん」
八幡「川崎を後ろに乗せて走りたい」
沙希「!!」
八幡「正直理由なんかどうでもいいんだよ。川崎が後ろに乗ってると単純に嬉しいんだ」
沙希「…………」
八幡(ああ、勢いに任せて言っちまった…………川崎の顔が見れん)
沙希「比企谷……」
八幡「お、おう」
沙希「雨が降ったり用事があったりで来れなかったら、早めにメールでも何でもちょうだい」
八幡「え?」
八幡(思わずそっちを向くと嬉しそうに微笑む川崎の顔があった)
沙希「ウチの前で、待ってるから」
一旦ここまで
サキサキには結構本音を言う八幡ですが、その辺は後ほど
出張は通勤時間がないから書き溜めしにくいね
>>259
そこ書いてる自分がニヤニヤした。自分で自分がキモいと思ってしまったよ……
八幡(はあ……)
八幡(なんで俺は川崎にあんなことを……いや嘘をついているわけじゃないんだが)
八幡(あいつに本音を言ってしまってあとから恥ずかしくなるパターン多くね?)
八幡(俺はあいつを近しい存在だと思ってるんだろう。それがどんなふうにかはともかく)
八幡(そして滅多なことでは俺から離れることはないと信じてるから遠慮なく言葉に出してしまう)
八幡(…………信じてる、だって?)
八幡(今まで裏切られ続けて誰も寄らず寄らせずだった俺が?)
八幡(何だよ、何なんだよお前は、川崎沙希)
八幡(考えても無駄なことがぐるぐる頭の中で回っている)
結衣「ヒッキー、奉仕部行かないの?」
八幡(由比ヶ浜が話し掛けてきた。どうやらいつの間にか放課後になっていたらしい)
八幡(考えるのに没頭しすぎたか……しかしこの状態でもちゃんとノートを取っているとはさすがぼっちの習性だ。見せてもらう相手がいないからな)
八幡「ああ、いや、行くぞ。一緒するか?」
結衣「あ……うん!」
八幡(手早く荷物を鞄に詰め、教室を出る)
いろは「あ、先輩方、どうも!」
結衣「あ、いろはちゃん、やっはろー!」
八幡「よう。じゃあな」
いろは「ちょいちょいちょいちょい、ストップです先輩!」
八幡「誰が止まるか。どう見ても面倒事を持ってきて俺達を待ち伏せてた感じじゃねえか」
いろは「わかってるじゃないですか。でも大丈夫です。ちょっと生徒会室に籠もってわたしをサポートするだけの簡単なお仕事ですから」
八幡「嘘をつけ嘘を。いつの間にか俺がサポートからメインに回されてるまである。行かんぞ」
いろは「そんなこと言って最終的には来てくれる先輩は使え……頼りになりますー」
八幡「おい今使えるって言いかけただろ?」
いろは「まっさかー。それにもしこのままどっか行っちゃったら校内放送で呼び出しをするしかありませんね」
八幡「ぐっ、またぼっちを目立たせるような真似を……」
いろは「そ、れ、にー、先輩に断られたらショックのあまりあることないこと喋っちゃうかもしれないですよ」
八幡「おい、俺の評価をさらにマイナスにしようというのか」
いろは「あとはそうですねー、川崎先輩との秘密とかをうっかり口に出しちゃったりとか。そうなると川崎先輩も困るんじゃないですか?」
八幡(この時俺は自分がどんな表情をしたのかわからない)
八幡(だけど視界の端で由比ヶ浜がひっと声を出さずに息だけで悲鳴をあげたのが見えたことから多少は想像できようというものだ)
八幡(とぼけるようなポーズであらぬ方に目線をやりながら喋り続ける一色を俺は遮った)
八幡「一色いろは」
いろは「はい、なんですか? ……っ!?」ビクッ
八幡(俺の顔を見た一色が驚愕したように一歩後ずさる。それに委細構わず俺は言う)
八幡「お前がそんなやつだとは思わなかった」
いろは「え…………」
八幡(俺は一色から視線を外し、まだ怯えている由比ヶ浜に向く。由比ヶ浜にはまったく関係ないのに悪いことをしたな)
八幡「わりぃ、今日は気分が優れないから帰らしてもらうわ。雪ノ下に伝えといてくれ」
結衣「あ、う、うん……」
いろは「せ、先輩! 違うんです、今のは」
八幡「一色いろは」
八幡(すがりつくように袖を掴んできた一色の手を振り払い、踵を返しながら告げる)
八幡「俺に近寄るな」
今から残業で別部署に行ってくるので一旦ここまで
続きを夜までに書き溜めて投下できたらいいな(願望
八幡(まだ放課後になってから間もないため、今から部活に向かう連中も帰宅する連中も数多くいた)
八幡(なのでぶつかる危険性を考えて、駐輪場から校門を出るまでは自転車に乗らずに押して歩いているわけだが)
八幡(さながら十戒のごとく俺の顔を見たやつが左右に分かれて道をあける)
八幡(原因は元々の俺の悪評だけじゃないな。今の俺は周りからどんなふうに見えているのだろうか)
八幡(遠目に三浦達の姿が見えたが、三浦も少し怯んだように身体を逸らし、あの海老名さんですら俺が見たことないような表情をしていた)
八幡(そんな周りの反応を感じても俺のざわついた心は全然落ち着いてくれない)
八幡(憤っているが爆発先がなく、内部でくすぶっている感じだ)
八幡(どうしたものか、と思ってると俺に近付いてくる人影があった)
沙希「まったく…………またあんたの悪評が増えるよ。そんな怖い顔してどうしたのさ?」
八幡「川崎…………」
沙希「少し人のいないとこに行こうか。話、聞くよ」
なんとかサキサキ登場部分を投下。一日一沙希。甘味成分がないけど
今日は、つか多分明日の夜まで来れない、すまん
発注ミスったやつマジ許さん
八幡(周囲がざわつく。川崎を好奇の目で見るやつも多い)
八幡(何やってんだ俺は。結局俺自信が川崎に迷惑をかけてしまってるじゃないか)
八幡「かわ……」
沙希「ほら、行くよ」ガシッ
八幡「あ、ああ」
八幡(俺が何か言う前に川崎は俺の腕を掴む)
八幡(俺はそれに抵抗することなく川崎と一緒に学校を出た)
八幡(やって来たのは学校から少し離れた小さな公園)
八幡(遊具もなく、申し訳程度に屋根のついたベンチがあるだけの、むしろただのちょっとした広場に近いため人の姿はない)
八幡(自転車を停めてベンチのそばに来たが、二人とも座ったりはしなかった)
沙希「で、何があったの?」
八幡「……別に、大したことじゃねえよ」
沙希「ほらまた怖い顔になってる。そんなんで説得力があると思ってんの?」
八幡「…………」
沙希「はあ……とりあえず少し落ち着こうか」
八幡(川崎はそう言うと正面から俺に近付いてくる)
八幡(そのまま両手を伸ばし、俺の両脇を通して背中に回してきた)
八幡(…………え?)
八幡「かかか川崎さん!? なんで俺に抱きついてるんですかね!?」
沙希「ちょっとあんたを落ち着かせようと思ってね。京華とかもぐずった時にこうすると大人しくなるのさ」
八幡「ひ、人を園児と同じ扱いにするな!」
沙希「うるさい。あんたが落ち着くまでこのまんまだよ」
八幡「わかった! 落ち着いた! 落ち着いたから離れてくれ!」
八幡(別の意味で全然落ち着いてないけど! そんなにその柔らかくて大きいモノを押し付けないでください!)
沙希「本当に? 本当に落ち着いた?」ギュッ、ムニュムニュ
八幡「わざとか!? わざとやってんのか!?」
沙希「ああごめん、胸が当たってたね」スッ
八幡(なんてわざとらしい)
沙希「じゃ、改めて何があったか聞かせてもらおうかな」
八幡「いや、だから大したことは……」
沙希「……まだ落ち着いてないみたいだね」ジリッ
八幡「わかったわかった! 話すから抱きつこうとしないでくれ!」
沙希「わかればいいのさ」
八幡「はぁ……実はな」
~奉仕部~
雪乃「そう、そんなことが……」
結衣「うん、あの時のヒッキーの顔本当に怖かった……」
いろは「…………」グスグス
雪乃(突然由比ヶ浜さんが泣いてる一色さんを連れてきたから何があったかと思えば……)
結衣「い、いろはちゃん、元気出して」
いろは「すいません…………」
結衣「ほ、ほら、ヒッキーも少し大人げなかったっていうかさ」
雪乃「…………」
いろは「いえ、わたしが悪いんです……明日先輩に謝って許してもらいに行きます」
雪乃「…………ちょっといいかしら一色さん?」
いろは「え、あ、は、はい」
雪乃「今あなたは比企谷君に謝罪すると言ったけれど、何が彼を怒らせたかちゃんとわかっているのかしら?」
いろは「え、えと、わたしが普段から先輩を蔑ろ気味にしていたりいいように使ったり……それも脅すような言い方をして、だからですよね」
雪乃「違うわ」
結衣・いろは「え?」
雪乃「そもそも比企谷君を蔑ろにしているというのなら私のほうが質も量も圧倒的に多いわよ」
結衣(自覚あったんだ)
雪乃「それでも比企谷は私に怒らない……いえ、私が彼を怒らせるような決定的な事は言わない、と言った方がいいかしら」
結衣「どーゆーこと?」
雪乃「比企谷君は自己評価が高いように言っているけれど心の奥底では自分はどうでもいい存在だと思っている……そのフシはあなたたちも感じているでしょう?」
結衣・いろは「…………」
雪乃「だから自分がいくら貶されようと本気で怒ることはないのよ……もう少し私の言うことに強く反発してほしいのだけれども」
結衣「え……もしかしてゆきのんわざと」
雪乃「話が逸れたわね。比企谷君が怒るのは彼に近しい人を巻き込んだ場合よ」
いろは「!!」
雪乃「以前小町さんに聞いたことがあるわ。小町さんを他の人に馬鹿にされた時、いつも言われるままされるままだった比企谷君が本気で怒ったと。今回の場合、あなたは川崎さんにも迷惑がかかるようなことを言ったわね」
いろは「は、はい」
雪乃「普段の比企谷君は近しい人に迷惑がかかるなら自分が動いたり身を引いたりしたでしょうね。でも今回の件は特に何の理由もない。ただなんとなくで川崎さんに迷惑がかかるかもしれない」
いろは「…………」
雪乃「もちろんあなたはちょっとした冗談で言ったのかもしれないわ。でも比企谷君にとってはいつでも川崎さんに被害が及ぶ爆弾を抱えられているようなものなのよ」
結衣「ば、爆弾てそんな大げさな」
雪乃「由比ヶ浜さん、残念ながら本人以外の見え方に意味はないの。セクハラもイジメも脅迫も、した側でなく、された側がどう受け止めるかよ。特に普段から悪意を浴びてきた比企谷君はどう思うかしらね」
結衣「あ…………」
雪乃「特にここ最近比企谷君は川崎さんと親しくなっているから、どうしたらいいのかとっさにわからずに怒ったということも考えられるわ。対象が私達だったらもう少し穏便に済ませたかもしれないけれど」
いろは「わ、わたし……わたし……」
雪乃「それと一色さん、さっき謝って許してもらうと言ったけれども」
いろは「は、はい」
雪乃「相手を怒らせたら謝るのは当然のことなの。許してくれるかどうかはそこから先の話よ」
いろは「!!」
結衣「ゆ、ゆきのん」
雪乃「話を聞く限り私達が見たことないほど怒っているようじゃない。相手をフルネームで呼ぶなんて」
いろは「…………それでも、それでもわたしは謝ります、謝り続けます!」
結衣「いろはちゃん……」
いろは「確かに簡単には許してくれないでしょう。でも、でも、わたしは先輩に嫌われたくないですから! 誠心誠意謝って……わたしにできることを全部やって……いつかまた、先輩と元通りの関係に戻りたいです!」
雪乃「そう、なら私達もお手伝いするわ」
いろは「え?」
結衣「ゆきのん!?」
雪乃「あら、一人でいいと言うなら構わないのだけれど」
いろは「い、いえ、よろしくお願いします!」
結衣「ゆきのーん!!」ダキッ
雪乃「くっつかないでちょうだい由比ヶ浜さん、暑いわ」
一旦ここまで
女性三人が少し大袈裟に捉えてますがそこは八幡が怒るのがそれほど珍しいってことで
土日も仕事だけど投下ペースは落ちないよう頑張る
サキサキ可愛い
眠い。寝る
また明日ノシ
八幡「…………と、まあそんなわけだ。な、大したことなかったろ?」
沙希「そう思ってるなら何であんなに怒ったのさ?」
八幡「さあ、何でだろうな」
八幡(本当に何でだろう)
八幡(いくら考えてもわからない。しかしじゃあ今同じ状況になったら怒らないかというとそれはない)
八幡(怒るだけの理由はあるはずなのに、それが見つからない)
八幡(いや……見つけるのを無意識に恐れているのかもしれないが)
沙希「今度はとぼけているってわけでもなさそうだね…………でもさ、その子も本気で言ったわけじゃないんでしょ?」
八幡「たぶんな……確証がないからつい怒っちまったんだろうが」
沙希「ねえ比企谷、そういえばさ」
八幡「ん?」
沙希「依頼をしてから一週間経つけど、色々あったし色々したよね」
八幡「ああ」
沙希「一緒に帰ったり弁当作ったり、映画とか見に行ったり」
八幡「そうだな、あと膝枕したり」
沙希「う…………コホン、そして中にはそういうのを目撃されたりとかもしてるのがあるけど」
八幡「写真撮られたりな」
沙希「そんななのにあの子が演技だってバラしても周囲は信じると思う?」
八幡「どうだろうな……実際目の当たりにしている方が信じられやすいとは思うが」
沙希「もし演技だって噂が流れてもあたし達が変わらずにいたらやっぱり噂の方が否定されるんじゃない?」
八幡「それはそうだろうな」
沙希「じゃあ別にいいじゃない。比企谷にはまだまだ彼氏役でいてもらいたいし、あの写真のせいでそうしておかないとむしろ困る」
八幡「写真? 何でだ? まあ確かに彼氏彼女でもないのあんなことしていたら変な目で見られるか」
沙希「違うよ」
八幡「え?」
沙希「自分で言うのもなんだけど……あの写真のあたし、その、普段あんま見せないような顔してたでしょ?」
八幡「ああ、すっげー優しい表情してた。生で見てないのが残念だ」
八幡(むしろそこだけは写真に残した相模に感謝だな)
沙希「そ、そう……それでね、ついさっきの話なんだけど、どうしてあたしがあの場でタイミングよくあんたのところに来たんだと思う?」
八幡「そういやそうだな。放課後になってから少し経つんだからとっくに帰ってるはずだろ?」
沙希「うん、実はクラスの男子に呼び出されてた」
八幡「え……」
沙希「あの写真を見てあたしが気になりだしたんだって。だからあんたとの関係を教えてくれってさ」
八幡「…………」
沙希「どうしたの? 顔が強張ってるよ」クス
八幡「あ、いや」
沙希「ちゃんと答えたよ、あたしは比企谷以外と付き合うつもりはないからって」
八幡「そ、そうか」
沙希「だからこれからも彼氏役、しっかり務めてね。あんたが嫌になるまで、さ」
八幡「……ああ、お前がもういいと言うまできっちりやり通すさ。こう見えても責任感は強いつもりだ」
沙希「ん、ありがと。それじゃあ……」
八幡(そう言って川崎はまた近付いてきた)
八幡(だが残念だったな、ハグされる心構えはもう出来てるぜ、取り乱したりはせん。さあ来い!)
八幡(川崎は俺の肩に手を乗せ、俺の右頬に自分の唇をくっつけてきた)
八幡(え………………?)
八幡「かっ、かっ、かわっ、おまっ」
沙希「あたしのこれに免じてあの子は許してやってくれないかな? たぶん今頃反省してるよ」
八幡「な、な、な」
沙希「まだ足りない? もう一回しとこうか、今度は反対側に」
八幡「わかった! もう一色にも怒ってないから! だから一旦落ち着け、な!?」
沙希「あたしは落ち着いてるよ、むしろあんたの方でしょ……ああ、落ち着けるにはこうすれば」
八幡「う、うわあああ!」
八幡(腕を背中に回そうとしてくる川崎から慌てて離れ、三メートルほど距離を取る。おかしそうに笑ってる川崎が憎らしい)
八幡「くそ、男心を弄びやがって……」
沙希「何言ってんの、あたしだって恥ずかしいよ」
八幡「本気で恥ずかしがってるときとのギャップでか過ぎだろ……あのしおらしいお前と今のお前…………」
沙希「あの子はきっと明日にでも謝罪してくるよ、ちゃんと許してやってね」
八幡「ああ、ついでにこれを機に面倒事を持ってくる回数減らしてくれりゃいいんだがな」
沙希「推薦者は大変だね」
八幡「まったくだ」
八幡(俺は苦笑し、川崎は微笑む)
八幡(本物じゃない俺達の関係)
八幡(俺がよしとしない偽物の関係、それでも)
八幡(例え偽物でも、今は川崎とこうやって笑い合っていたい)
沙希「そう言えばさっきの話が途中だったけど」
八幡「あ? 何だっけ?」
八幡(背中側から声がかけられる。ついでだからと川崎を自転車で家まで送ることにしたのだ)
沙希「クラスの男子と話し終わったあと、海老名から電話が来たの」
八幡「海老名さん?」
沙希「うん、『ヒキタニくんがすっごい怖い! 無理! 優美子怯えてる! 結衣でも戸塚くんでも無理! 早く校門のとこまで来て! サキサキじゃなきゃ無理!』って」
八幡「あー…………遠目に見た三浦や海老名さん、怖がってたもんな……え、あの海老名さんをそんなにパニックにさせるって俺どんだけ怖かったの?」
沙希「あれを目撃した人の見る目が明日から劇的に変化してるよきっと」
八幡「ええー……由比ヶ浜や一色にはちょっと悪いことしたかな。てか川崎は平気だったのか?」
沙希「なんであたしがあんたを怖がるのさ」
八幡「…………そうだな」
沙希「ん」
八幡(腰に巻かれる腕の力が少しだけ強くなった気がした)
八幡(偽物なのはわかってる)
八幡(でも)
八幡(もう少しだけ……)
一旦ここまで
原作でブラコン(ブラジャーコンプレックス)ぽいって言ってたしここでは巨乳設定にします
いずれエロ展開になった時には必要な情報だからね!(書くとは言ってない
今日はもう来れないかもしれない、すまんです
沙希「…………」
八幡「…………」
沙希(また沈黙)
沙希(でも、全然嫌じゃない)
沙希(特にこの自転車で送ってもらってる時間は好き)
沙希(比企谷はあたしが後ろに乗ってると嬉しいって言った)
沙希(どういう意味なんだろう? 勘違いしちゃっても、自惚れちゃっても、いいのかな)
八幡「なあ、川崎」
沙希「ん、なに?」
八幡「今日は買い物とかはしないでいいのか?」
沙希「うん、今日は大丈夫だから」
八幡「……そうか」
沙希(……あれ?)
沙希(ほんの少しだけだけど、今比企谷残念そうだったような)
沙希(…………)
沙希(よく周り見てみると)
沙希(確かにあたしの家に向かってるけど、注意しなきゃわからないくらいに遠回りしてる……)
沙希(ちょっと急げば間に合う信号も停まるし……もしかして)
沙希(少しでも長くあたしといたいなんて思っててくれてたり、とか……)
沙希「ひ、比企谷!」
八幡「ん、どうした?」
沙希「あ、えと……」
八幡「おう」
沙希「ご、ごめん、何でもない」
八幡「?」
沙希(うう……)
八幡「ほい、着いたぞ」キキッ
沙希「ん、ありがと」
沙希(た、たまにはあたしから言おう)
沙希「じゃあ明日の朝からよろしくね、八幡」
八幡「! おう、また明日な、沙希」
沙希(あたしは手を軽く振って比企谷を見送る。少し離れたとこで振り向いて手を振り返してくれたのがやけに嬉しく感じた)
沙希(比企谷の姿が見えなくなり、あたしは鍵を開けて家の中に入る。まだ誰もいないようだ)
沙希(あたしは鞄を放り投げて自分のベッドに倒れ込む)
沙希(う…………)
沙希「うああああああ!」バタバタ
沙希(しちゃった! 比企谷のほっぺにキスしちゃったよ!)バタバタ
沙希(しかも抱きついたりもしたし! はしたないとか思われてないかな!?)バタバタ
沙希「はあ……」グッタリ
沙希(何やってんだろあたし……)
沙希(大胆な行動する割に肝心なことは言えない)
沙希(彼氏の“フリ”を続けて欲しい、なんて)
沙希(でも…………)
沙希(海老名から電話あった時は何事かと思った)
沙希(比企谷が怒ってるなんて大袈裟に言ってるんだと思ってたし)
沙希(強がったけど……やっぱりあの時の比企谷はちょっと怖かった)
沙希(比企谷は自分がなんで怒ったのかわからないって言ってたけど、あれってあたしのために怒ってくれたんだよね……)
沙希(比企谷…………)
沙希(比企谷は嘘や欺瞞が嫌いだってのをあたしは知ってる)
沙希(あたしと比企谷の関係はまさにそれ)
沙希(なのに比企谷はあたしに付き合ってくれてる)
沙希(……わからない)
沙希(わからないよ、あんた何なの? 比企谷八幡)
一旦ここまで
正直サキサキがわの心情やシーンを書くか悩んだ。イメージ崩れる可能性もあるし
でもサキサキが平然と八幡にくっつけるわけではないことを書いときたかったんです……
少なくてすみません
八幡「ただいまー……っても誰もいないか」
八幡(自分の部屋に行き、私服に着替える)
八幡(疲れた……俺らしくもないことをしたからか)
八幡(怒るって結構エネルギー使うんだな)
八幡(他人と関わらなきゃそんなことしなくてすむんだが)
八幡「はぁ…………」
小町「お兄ちゃん晩御飯だよー」
八幡「んあ?」
八幡(いつの間にか寝てたのか)
八幡「おう、すぐ行くわ」
小町「はいはいー」
八幡・小町「いただきます」
八幡(手を合わせたあと、箸を取って小町の作った夕食を食べ始める)
八幡(うむ、美味い)モグモグ
小町「そういえばお兄ちゃん、沙希さんの送り迎えはどうなったの?」
八幡「ああ、明日から朝はあいつの家に迎えに行くことになった」
小町「おおー!」
八幡「だから悪いけど川崎が自転車を買うまで小町は送ってやれない、すまんな」
小町「何言ってんのお兄ちゃん、小町から言い出したことだよ?」ニコニコ
八幡「まあそうなんだが」
八幡(てかなんでそんな嬉しそうなの? 俺の後ろそんなに嫌だったの? 泣いちゃうよ俺)
八幡「…………なあ小町」
小町「ん? 何?」
八幡「俺ってさ、その……怒ると怖いか?」
小町「え?」
八幡「いや、すまん何でもない、忘れてくれ」
八幡(よくよく考えたら小町に怒ったことなんてないもんな、わかるわけないか)
小町「?」
小町(洗い物はお兄ちゃんがやってくれるとのこと。そんなわけで勉強のために自室に戻った小町なわけですが)
小町「あれ、結衣さんからメール来てる?」
『ヒッキーのことで話があるんだけど電話してもいいかな?』
小町「…………結衣さんが絵文字も顔文字も使わないなんて、何かあったのかな」
『はい、今自分の部屋ですからいつでもいいですよ』
小町(メールを送ってからすぐに電話がかかってきた)
小町「はいはい小町ですよー」
結衣『あ、ごめんね突然』
小町「大丈夫です。それより兄がどうかしましたか?」
結衣『うん……あ、その前に、今ヒッキーの様子ってどんな感じ?』
小町「質問の意味が良くわからないんですけど……いつも通りなんじゃないですかね?」
結衣『そっか……』
小町「えっと、何なのか聞いてもいいですか?」
結衣『あ、うん……実は今日学校でね…………』
結衣『……てなことがあってね』
小町「なるほど……だからお兄ちゃんあんなこと聞いてきたんだ」
結衣『あんなこと?』
小町「俺って怒ると怖いかって聞いてきましたよ」
結衣『うん……正直すっごい怖かった。怒鳴ったりとかはしないけど表情がね…………腰が抜けちゃうかと思ったもん』
小町「結衣さんにそこまで言わせるなんて……よっぽどだったんですね」
結衣『だから今はどうかなって思ってさ。いろはちゃん明日ヒッキーに謝るって言ってたし』
小町「うーんどうでしょう? 小町にはいつも通りに見えるんですが、兄は結構感情を隠しますからねー」
結衣『うん、だからこそいろはちゃんにあそこまで怒ってたのが余計にびっくりしちゃって……』
小町「大丈夫ですよきっと。ちゃんと謝ればわかってくれますって」
結衣『そうだといいんだけど…………あたしもゆきのんもヒッキーにいろはちゃんを許してあげるようにサポートするつもりなんだ。小町ちゃんも頼りにしていいかな?』
小町「はい。何ができるかわからないですが、今回は結衣さん達の味方をしますよー」
結衣『ありがとうね小町ちゃん』
小町「いえいえ」
小町(そのあとしばらく結衣さんとおしゃべりをしてから電話を切った)
小町(…………あのお兄ちゃんが怒ったんだ)
小町(沙希さん大事にされてますねー)
小町(義姉候補は結衣さんか雪乃さんだと思ったんだけどなあ……まさか沙希さんがここまでお兄ちゃん争奪レースに食い込むなんて)
小町(お二人ともうかうかしてると沙希さんで決まっちゃいますよ)
一旦ここまで
八幡「んじゃそろそろ行くわ」
小町「はいはい、沙希さんによろしくー」
八幡(小町に手を振られながらいつもより少し早い時間に家を出る)
八幡(学校ではなく川崎家を目指して自転車を漕ぐ)
八幡(昨日の事で夜はあまり寝れなかったが眠くはない。むしろ気分は高翌揚しているほうだ)
八幡(自然とペダルを踏む足に力も入り、スピードが出る)
八幡(……見えた、あの角を曲がれば川崎家だ)
ブロロロロ!
キキィ!
八幡(危ねえなあの車……一時停止くらいしろよ)
八幡(でも昨晩川崎に『ちゃんと安全運転で来なよ』って注意されなきゃ飛び出してぶつかったかもしれねえな)
八幡(もう交通事故なんかゴメンだぜ)
八幡(家の前に着いたところでちょうど川崎が出てきた)
八幡「よ、おはよう」
沙希「ん、おはよ、よろしくね」
八幡(それだけの挨拶をし、川崎は自転車の荷台に腰を下ろす)
八幡(身体に腕が回されてしっかり捕まったのを確認し、俺はペダルを漕ぎ出した)
八幡(相変わらず会話はないが流れる雰囲気は心地良い)
八幡(…………川崎も同じ気持ちなら嬉しいんだがな)
八幡(大通りを避けながら昨日の公園に到着した。人目もなく学校からそう離れてもないので好都合な場所ではある)
八幡「んじゃまたあとでな」
沙希「ん、ありがと。またあとでね」
八幡(一緒に歩いて行ってもいいのだが、昨日のあれのせいで俺達二人が一緒にいるのは目立つだろうからここで一旦お別れだ)
八幡(軽くなった荷台に少し戸惑いながら俺は再び自転車を漕ぎ出す)
いろは(先輩、そろそろ来るかな……)
いろは(朝からこんな下駄箱で待ち伏せするような真似して迷惑にならないかな……)
いろは(もし許してくれなかったら……ううん、わたしを見てまたあんな顔をしたら……)
いろは(ダメだ、悪いことばかり頭に出てきちゃう……あーもう、早く来てください先輩! あ、でももうちょっと心の準備を…………あ、き、来た!)
いろは(今のところ表情はいつも通り。腐った目に気怠げな感じ……あれが昨日みたいになりませんように!)
いろは(ほぼ祈るような感じでわたしは勢い良く靴を履き替えた先輩の前に出て頭を下げる)
いろは「先輩! 昨日はごめんなさい! 本当にすみませんでした!」
いろは(わかってる。こんなところでこんな目立つような真似は先輩も良く思わないって)
いろは(でもこれはわたし自身への罰でもあるのだ。大声でわたしが謝っている以上、周りから見ても悪者はあくまでわたしなのだから)
いろは(先輩の反応が怖い。怒鳴られるか、冷ややかに何か言われるか、それとも無視されるか)
いろは(でも)
いろは(先輩の反応はそのどれとも違った)
八幡「おう、わかった」
いろは「…………え?」
いろは(いつもと変わらない声音で先輩らしい短い返事)
いろは(思わず顔を上げるとやはりいつもと変わらない表情)
八幡「んじゃまたな」
いろは(そう言って歩き出そうとする先輩を慌てて引き留める)
いろは「ちょ、ちょっと先輩! わたしあんなこと言ったんですよ!? なんでそんな平然としてるんですか!?」
八幡「朝からうるせえな……だから許してもらおうと今謝ったんだろ?」
いろは「そ、そうですけど……」
八幡「だから俺はその謝罪を受け入れてお前を許した。それで今回のことは終わりだ」
いろは「で、でも……」
八幡「それともなんだ? 許して欲しくなかったのか?」
いろは「い、いえ、そんなことはないですけど……」
八幡「じゃあいいじゃねえか。服掴んでるその手を離せって。目立つだろ」
いろは(わからない、何で?)
八幡「一色?」
いろは(昨日のあれは演技なんかじゃなかった。一日経ってここまで変わるものなの?)
沙希「お熱いねお二人さん」
いろは「か、川崎先輩!」
沙希「朝っぱらから浮気とは感心しないよ」
八幡「おいおい何言ってんだ。俺は川崎ひとすじだっての」
沙希「はいはいあたしもさ、先に行ってるからね」
いろは「あ、ま、待ってください川崎先輩!」
沙希「ん?」
いろは「え、えっと、その」
沙希「…………」ナデナデ
いろは「!」
いろは(ちょっと俯いていると突然頭を撫でられた)
いろは(驚いて顔を上げると川崎先輩はとても優しい表情をしていた。まるで母親のように)
いろは(ああ、この人は全部わかってるんだ)
いろは(この人だから先輩は怒り、そしてこの人がきっと先輩に何か言ったから先輩はわたしをあんなにあっさり許したのだろう)
沙希「これからも比企谷と仲良くしてやってよ、それじゃ」ポンポン
いろは「は、はい!」
いろは(最後に頭を軽く叩き、川崎先輩は行ってしまった)
八幡「あいつは気にしてねえから俺がどうこう言う話じゃない。それでいいな」
いろは「はい……あの、先輩は……」
八幡「なんだ?」
いろは「……いえ、何でもないです」
いろは(聞けない。本当にフリなんですか、なんて)
八幡「んじゃ俺ももう行くぞ、またな」
いろは「は、はい。川崎先輩にもよろしく言っておいてください」
八幡「ああ」
一旦ここまで
昼は変なとこで切ってすまん
見つかりそうになったんや……
八幡(さて、一色と別れて教室に向かっている俺であるが)
八幡(…………すげえ視線を感じる)
八幡(いつもは悪意や敵意に近いものを受けているのだが、それにプラスして怯えが混じっていた)
八幡(ええー……本当にそこまで怖かったの俺?)
八幡(もう帰ろうかな…………というわけにもいかず、教室の前まで来る)
八幡(やっぱり川崎と一緒にくれば良かった……なんて今更言っても仕方ねえか、よっと)ガラガラ
八幡(うん、やっぱり何人かは顔を逸らしつつチラチラこっちを見てる)
八幡(あの、名も知らぬ女生徒さん、あからさまに背中向けないでください悲しくなります。あと川崎、声を出さずに笑ってんなよちくしょう)
八幡(そんな緊迫した雰囲気の中、俺に近付くひとつの影)
八幡(それは意外や意外、海老名さんだった)
姫菜「やーおはようヒキタニ君」
八幡「…………おはよう海老名さん」
八幡(挨拶をしたあと、小声で囁くように言葉を繋げる)
姫菜「昨日のヒキタニ君、ちょっと怖かったけどもう大丈夫みたいだね。サキサキ呼んじゃったけど余計なことだった?」
八幡「…………いや、正直助かった。ありがとう」
八幡(俺の返事に海老名さんは満足したように頷き、俺の背中をバンバンと叩く)
姫菜「いやーでもヒキタニ君ってあんなワイルドな一面もあったんだね! てっきりヘタレ受け専門だと思ってたけどやるじゃない!」
八幡「いや、その専門にもなった覚えはねーから……あと背中叩かないでください痛いです」
八幡(そんなやり取りを目にしてクラスに弛緩した空気が流れる)
八幡(海老名さんはそれを確認して俺にウインクを飛ばしてきた。俺のためにしてくれたのか、やべえ惚れちゃいそう。今なら戸部の気持ちがわからないでもない)
八幡(昔の俺だったら放課後に呼び出して告白してごめんなさいされるまであるな。あれ、やっぱりフられるのか?)
八幡(まあ海老名さんにはとっくにフられてるんですけどね、演技とはいえ)
八幡「よいしょっと」
八幡(カバンを置いて椅子に座るとまたもや俺に近付く影。今度は予想に違わず由比ヶ浜だった)
結衣「ヒ、ヒッキー、おはよ」
八幡「おう、昨日は怖がらせてすまなかったな」
結衣「あ、うん、あたしはいいんだけど、その……」
八幡「一色ならもう謝ってきて片が付いたぞ。だから気に病むな」
結衣「え、そうなの……よかったぁ」
八幡(ホッとしたように肩の力を抜く由比ヶ浜。他人事なのに我が身のように心配していたようだ)
結衣「で、その、少しお話したいから今日お昼部室で一緒に食べない? あ、サキサキも一緒に」
八幡「あ? まあ川崎が構わねえなら俺はいいけど」
結衣「うん、じゃあサキサキにも聞いてくる」
八幡(由比ヶ浜は川崎の方に駆けていった)
八幡(今の由比ヶ浜の押しに川崎が抵抗しきれるとも思えん。今日の昼は部室で決まりだな)
ここまで
寝るノシ
八幡(さて、昼休みである)
八幡(自販機に寄ってから部室に行くと、すでに三人が揃っていた)
八幡「よう」
雪乃「こんにちは」
八幡(今日お初にお目にかかる雪ノ下に挨拶し、俺は席に着く)
八幡(てか今日は机の配置が違うんだな。川崎がいるためか二つの机の正面をくっつけあってテーブル席みたいになってる)
沙希「はい、今日の分」
八幡「おう、ありがとな。ほい」
沙希「ん、ありがと」
八幡(隣の川崎から弁当を受け取り、自販機で購入した川崎の分の飲み物を渡す)
八幡(ここ最近のいつものやり取り。なのだが)
雪乃・結衣「…………」
八幡「なんだよ?」
雪乃「……いえ」
結衣「うう……」
八幡「?」
沙希「…………」
八幡(手を合わせていただきますをし、蓋を開けて箸を取る)
結衣「わー、サキサキのお弁当美味しそうだね。ちょっと交換しない?」
沙希「あ、ああ、構わないよ。ほら、好きなの取りな」
結衣「じゃあこの玉子焼きもらうね。んー甘くて美味しい!」モグモグ
八幡(ネタバレされた……しかし川崎のやつ戸惑ってるな。友達慣れしてないのが丸分かりだぜ! そしてその気持ちは良くわかるぞ)
結衣「サキサキ自分で作ってるんでしょ? すごいなあ……あたしもお母さんやゆきのんに教えてもらってるけどなかなか上手く行かなくて」
雪乃「由比ヶ浜さんはちゃんと手順通りにやらないからよ、変なアレンジをしようとしなければだいぶマシになると思うのだけれど」
結衣「でも普通ってつまんなくない? せっかく作るならもっと美味しくなるようにしたいじゃん」
沙希「…………由比ヶ浜、あんた好きな人いる?」
結衣「え……ええええ!? と、突然何?」
八幡(川崎のいきなりの質問に戸惑う由比ヶ浜。もちろん俺も雪ノ下も一瞬唖然とした)
沙希「好きな人がいたとしてさ、いきなり告白するのと少しずつ仲良くなって距離を縮めてお互いをよく知ってから告白するのとどっちが上手くいきやすいと思う?」
結衣「それは……やっぱりあとの方じゃないかな」
沙希「そうだね。前者も上手くいくことはあるけど後者の方が一般的にはいいと思うよ、程度の差はあるけど。そしてそれは料理も勉強も同じ」
結衣「あ…………」
沙希「美味しい料理ってゴールに辿り着くにはいきなり色々するより少しずつ基本から知っていく方が確実だよ。そうしたほうが色んなものが見えてくるから」
結衣「サキサキ…………うん、そうだね! あたし頑張ってみる!」
八幡(何かを得心したように拳を握る由比ヶ浜。似たようなことは雪ノ下も言っているのだがなかなか理解されていなかった。それを恋愛で例えたらようやくわかったようだ、これで少しは改善されるといいのだが)
雪乃「そういえば、その、比企谷君」
八幡「あん?」
雪乃「その、昨日は一色さんと少し揉めたらしいわね」
八幡「う、その…………」
雪乃「いえ、責めているわけではないのよ。聞く限り一色さんの方に非があったようだし」
八幡「いや、俺もちょっと大人気なかったっていうか……まあその問題はもう朝に一色が謝ってきて解決したからいいだろ」
雪乃「ええ、だから興味本位で聞いているの。もの凄く怖い顔をしたらしいじゃない?」
八幡(雪ノ下がそう言うと由比ヶ浜が一瞬強張り、川崎がくくっと笑う)
八幡「やめてくれ……朝からそれで注目浴びたんだから」
雪乃「私は見てないから何とも言えないけど多少の噂にはなってるらしいわよ」
八幡「マジか……まあ今更悪評が一つ増えたってどうでもいいけどな」
沙希「昨日のあれは見てて圧巻だったよ。比企谷が来ると人波が左右に分かれて道が出来るんだもの」
結衣「え、サキサキも見たの?」
沙希「ああ、その比企谷に話し掛けることよりそんな状況で比企谷に近付くことの方が緊張したくらいでね。目立つのもあれだしさっさと連れ出したよ」
結衣(そっか…………あのあとサキサキがヒッキーに何か言ったからいろはちゃんを許したんだねきっと)
八幡「なんつーか、迷惑かけたな」
沙希「どうってことないって。それより海老名には礼を言ったの? 朝のことも」
八幡「ああ。海老名さんていい人だよな。腐ってなきゃもっとモテるだろうに」
雪乃「目が腐ってるあなたに言われるのもどうなのかしら……というか海老名さんがどうかしたの?」
八幡「ああ、えっと…………」
八幡(あれ? なんて説明すればいいんだ?)
八幡(『キレた俺を止められるのは川崎しかいないので電話で呼んでくれました』って? いやいや、ダメだろ)
八幡(その辺の説明はなんかしたくないし、適当に誤魔化そう)
八幡「朝のことなんだけどな、クラスの空気が緊迫してたんだ。いや、俺が来たせいなんだが」
雪乃「ええ」
八幡「そんな俺に軽い感じで絡んでくれて大したことじゃないように振る舞ってくれて元の雰囲気に戻してくれたんだ。あれは正直助かった。な、由比ヶ浜?」
結衣「あ、うん、優美子も最初ちょっと怯えてたからどうなるかと思ったけど」
雪乃「ふうん、海老名さんて結構強いのね」
八幡(そりゃあんな趣味を全面的に押し出すくらいだし精神的にはタフだろう。つっても昨日俺が怯えさせちゃったわけだが)
結衣「ねえ、ヒッキー、サキサキ、その……」
沙希「ん?」
八幡「なんだ?」
結衣「サキサキの依頼って…………まだ続けるの?」
雪乃「そういえば一週間くらいの予定だったわね、もう経つのだけれど」
沙希「…………」
八幡「ああ、まだ期間延長するつもりだ」
結衣「そ、そうなんだ……その相手ってそんなにしつこいの?」
八幡「いや、そいつはもういいんだが……新しいのが湧いて出て来てしまってな」
結衣「え?」
八幡「ほら、例の写真あるだろ。あん時の川崎の表情を見て惚れたってのがいてな」
結衣「あー、良い顔してたもんねサキサキ」
沙希「うう……」
八幡(赤くなって俯くサキサキ可愛い)
八幡「まあ俺にはその写真の責任もあるしまだしばらくは虫除けを務めることにするわ。別に誰に迷惑をかけるわけでもないし他にしなきゃならんことがあるならそっちを優先するし」
雪乃「そ、そう……奉仕部の活動が疎かにならなければ構わないのだけれど……」
八幡「そんなほいほい依頼なんか来ねえけどな」
八幡(ここで予鈴が鳴り、昼はお開きとなった)
八幡(川崎が後半静かだったのが何か気になるな……)
一旦ここまで
本来自分の好きなように書くのが一番だとはわかってますが、批判とか怖いのでちょっと聞かせてください
このSSにエロ展開ってどう思いますか?
朝チュンで済ませるか濃厚に書くかエロ要素一切いらないか、自分の中ではどれも一長一短でして……優柔不断ですみません
八幡「…………」
雪乃「…………」チラ
結衣「…………」チラ
八幡(何なんだいったい)
八幡(部活始まってからやたら二人がチラチラこっちを見てくる)
八幡(煩わしい……つってもそれを指摘するとそれはそれでうるさいことになりそうだが)
八幡(落ち着かねえ…………誰かこの空気をぶち壊してくれ。依頼人か平塚先生あたり……いや、この際材木座でも誰でもいい。誰か!)
陽乃「ひゃっはろー! 雪乃ちゃん元気してる?」ガラッ
八幡(すいません誰でもいいというのは嘘です。さっきのお願いキャンセルできませんか神様?)
雪乃「たった今元気がなくなったわ、できればすぐに帰ってちょうだい」
陽乃「えーそれは大変だ、お姉ちゃんが元気を分けてあげよう。それっ」ダキッ
雪乃「暑苦しいから離れてちょうだい。というか何でここにいるのよ」
陽乃「んーちょっと進路関係で呼び出されてね。簡単に言うと私の大学の紹介文を」
雪乃「なるほどわかったわ帰ってちょうだい」
陽乃「ひどーい、愛しのお姉ちゃんを追い出すの? ガハマちゃんも何か言ってよ」
結衣「あ、えと……あはは」
八幡(戸惑ってやがるな由比ヶ浜。まああの状況に何か言えって言われても困るか。俺にできるのはとばっちりが来ないように…………じゃない、事態をややこしくしないように大人しくしていることだ。全力ステルスモード発動!)
陽乃「あれー比企谷君どうしたの? 今日は随分大人しいじゃない」
八幡(なん……だと……ステルスモードが通用しない?)
八幡「俺はいつもこんなんですよ。ぼっちは誰にも迷惑かけないように大人しく静かに部屋の片隅にいるんです」
陽乃「うんうん今日はそうっぽいね。でも昨日は大人しくしてなかったみたいじゃない?」
八幡「…………」
八幡(何なのこの人どこで聞いてくるの怖い)
陽乃「結構噂になってるよ。何人かの後輩に『最近面白い事あった?』って聞くとみんな昨日のこと話してくるもん」
八幡(ええー……)
雪乃「ちなみにどんなことを言われてるのかしら? 大体想像はつくのだけれど」
陽乃「うん、『目の腐った男子が般若のような表情で獲物を探し回って校内を練り歩き、ひとりの女生徒をさらっていった』って」
八幡「いや、尾鰭背鰭腹鰭付きすぎでしょ。何だよ獲物って…………」
陽乃「あっはっは、それでちょっと聞き回ってみたんだけどね、『比企谷君が怖い顔をして歩いてたらひとりの女生徒に呼び止められて一緒に学校を出て行った』が真相っぽいけど合ってる?」
八幡「まあ概ねは」
陽乃「何が比企谷君をそこまで怒らせたのかなってもー気になっちゃって気になっちゃって。あとその女生徒、かわ、かわ……」
八幡「川村がどうかしましたか?」
陽乃「あーそんな名前だっけ? 川村さんがどうしてそんな状態の比企谷君に近付いてったのかなって」
八幡「俺が怒るなんて珍しくても有り得ないことではないでしょう? それとその女生徒はクラスメートです」
陽乃「ただのクラスメートが怒ってる比企谷君に話し掛けたの?」
八幡「ただの、じゃないですね。少なくとも雪ノ下や由比ヶ浜と同レベルには親しい間柄かと」
雪乃・結衣「!!」
陽乃「ひ、比企谷君がデレた!? まさか偽物! 本物をどこにやったの!?」
八幡「なんでそこまで言われるんですか…………まあ俺が一方的に思ってるだけですけどね。こんな俺を相手してくれるだけありがたいと思いますよ」
陽乃「へー…………でもいつの間にそんな川村さんみたいな子と仲良くなったの? 雪乃ちゃんがいるのに浮気は駄目だぞっ」
八幡「なんで俺と雪ノ下が付き合ってるみたいな言い方なんですか…………むしろ逆ですよ。俺は沙希の方と付き合ってます」
陽乃「え、沙希って?」
八幡「怒り狂う俺にも臆さずに近付いて来てくれるとても出来た彼女ですよ」
陽乃「あ、あはは、やだなー比企谷君たら、お姉さんを騙そうったってそうは…………」チラ
雪乃「…………」
結衣「…………」
陽乃「ほ、ホントに? ホントにその川村さんと付き合ってるの?」
八幡「まあ俺自身信じられないとこもありますが…………」
陽乃「ゆ、雪乃ちゃん、ホントに比企谷君と川村さんが?」
雪乃「…………」プイ
陽乃「ガ、ガハマちゃん、川村さんって……」
結衣「…………」プイ
陽乃「あはは、地雷、踏んじゃったかな…………あ、そろそろ私帰るね、じゃあまた」スタスタ、ガラガラピシャ
八幡「…………」
雪乃「…………」
結衣「…………」
八幡「くくっ……」
雪乃「ひ、比企谷君、川崎さんを川村さんで通すのはやめてほしかったのだけれど」クスクス
結衣「そーだよ! あたし何度も笑いそうになったじゃん! あんな真面目な顔で川村さん川村さんて。つい顔そむけちゃったよ!」アハハ
八幡「すまんすまん……あー、ついに雪ノ下さんに一矢報いた気がする」
雪乃「でもバレた時が怖いわよ」
八幡「そんときゃお前らも道連れだ」
結衣「ひどい! …………でもヒッキーのあの言葉、あたし嬉しかった」
八幡「あ? 何だっけ?」
結衣「サキサキとすごく仲良くなってあたし達とちょっと距離ができちゃったかな、なんて思ってたけど…………そのサキサキとおんなじくらい仲が良いって言ってくれて」
八幡「あー…………すまんな、気持ち悪いこと言って」
結衣「嬉しかったって言ってるじゃん!」
雪乃「そうよ、普段の態度はあれでも心の底ではあなたのことを認めているわ。由比ヶ浜さんも、私も」
八幡「雪ノ下…………なんか素直で不気味だな」
雪乃「なっ! そ、それこそあなたには言われたくないわ!」
結衣「あはは、ゆきのん赤くなって可愛い!」ダキッ
雪乃「ゆ、由比ヶ浜さん、あまりからかわないでちょうだい」
八幡(今ここにあるのは間違いなく俺が望んだいつもの奉仕部の空気だった)
八幡(陽乃さんを上手く追い返せたし、結局俺が怒ってた理由も聞かれなかったし…………てか俺が川崎と付き合ってるというのはそんなに衝撃的だったのか?)
八幡(…………あんな言葉が素直にスルッと出たのも川崎の影響だろうか?)
八幡(そんな益体もないことを考えながら俺は読書の続きに戻った)
一旦ここまで
てかレス多くてびっくりしたわい!! しかも結構真面目に答えてくれてるという……
こうなったら覚悟を決めます
地の文ナシのエロは殆ど書いたことないのですが、ちょっと避けて通れない部分があるので最低でもそこだけは書こうと思います。一応注意書きは入れますので
そいではまたノシ
八幡「と、まあそんなことが今日放課後にあってな」
沙希「ふうん……あ、これわかる?」
八幡「ああ、これはだな…………」
八幡(現在の舞台は予備校である。今の時間の担当の講師が大幅に遅れるということで自習を言い渡されているのだ)
八幡(大半は進学校の生徒なため、皆それなりに真面目に取り組んではいるがやはりそこは学生、いまいち身が入ってなかったりお喋りに興じたりしているものも多い)
八幡(俺と川崎も多少の雑談をしながら参考書の問題を解いていく)
八幡(まあ時々周囲の目が痛いんですけどね、『てめえみてえなのが可愛い女の子とイチャイチャしやがって!』って視線が突き刺さります。別にイチャイチャはしてないんですが)
八幡(でも女の子と二人で勉強してるやつがいたら俺も負のオーラをぶつけますね、はい)
沙希「で、その陽乃さん、だっけ。何かしてくるの?」
八幡「わかんねえ、あの人は本当に読めねえからな。何故かよく知らんがやたら俺と雪ノ下をくっつけようとしてたし」
沙希「…………そう。それ、あんたはどうなの?」
八幡「何がだ?」
沙希「だから、その……雪ノ下とくっつこうって考えはあんたにはないのかなって」
八幡「いや、そんなの真面目に考えたことねえし。そもそも釣り合ってないだろ」
沙希「…………恋愛ってのは釣り合っているいないで決めるもんじゃないと思うんだけど」
八幡「まあ、そうかもな」
沙希「想像すらしたことないの?」
八幡「ないと言えば嘘になるが……やっぱり現実味がねえんだよな。今となっちゃ川崎の方がずっといいし」
沙希「なっ……!」
八幡(……あれ? 俺今ちょっと恥ずかしいことを)
講師「すまん遅れた! すぐ始めるぞ!」
八幡(遅れていた講師が飛び込んできたため、俺達の会話と思考はそこで中断された)
八幡(スカラシップのためにも一旦気持ちを切り換えて集中しないとな)
八幡(そして今日も比企谷タクシーは元気に出動。川崎さんを乗せて走ります)キコキコ
八幡(もちろんもう暗いからゆっくりと安全運転で。他意はありません)キコキコ
八幡(しかし何でだろうな。正面から抱きつかれるとあんなに恥ずかしいのにこうやって背中から抱きつかれるのにそれ程抵抗ないのは)キコキコ
八幡(やっぱり大義名分があるからか? いやでも…………あ、もうすぐ着いちゃうな)キコキコ
沙希「…………」ギュウッ
八幡(え、なに? 何かめっちゃ抱き締められてるんだけど!?)
沙希「…………」ギュウウ
八幡(えっと、こういう時どうすればいいの!? 教えてくれ葉山! お前ならわかるだろ!?)
沙希「…………」キュ
八幡(あ、緩んだ、そして川崎家の前に着いた)キッ
沙希「……ありがとね」ヒョイ
八幡「おう」
八幡(心なしか自転車から降りた川崎の様子がおかしい。いつもならここで名前を呼び合って別れの挨拶をするところなのだが…………俺は一旦自転車から降り、スタンドを立てた)
八幡(まあ……さっき川崎もやってきたし、おあいこでいいだろ…………)
八幡(緊張で身体が強張る。喉がカラカラになる。そんな状態で俺は震える手を川崎の方に伸ばした)
八幡(そのまま川崎の背中に両腕を回し、思い切り抱き締める)
沙希「ひ、比企谷!?」
八幡(うおおおお! やっぱ無理!)
八幡(俺はすぐに腕を解き、自転車に飛び乗って漕ぎ出した)
八幡(挨拶することも振り返ることも今は無理だ。全力でその場から離れた)
八幡(恥ずかしい! 恥ずかしい! 俺は何てことを!)
八幡(うわあああああああ!)
沙希「比企谷の方から……抱きしめて、くれた…………」
沙希「だめ……ニヤケちゃう…………こんな顔じゃ、家、入れない……」
沙希「ばか、ばか…………どうしてくれんのさ、ばか」
まだ今日はサキサキ出してなかったので追加投下
そいではまたノシ
八幡「はあ……学校行きたくねえ」
小町「起こしに来たらいきなりそんな事を言われる小町の身にもなってよお兄ちゃん、ポイント低いよ…………てか何? また寝不足?」
八幡「ああ、なんだか寝付けなくて…………だから体調不良で休んでもいいよな」
小町「何言ってんの、沙希さんを迎えに行かなきゃいけないんでしょ。早く起きてご飯食べて」
八幡「うー……」
小町「…………もしかして沙希さんと喧嘩でもした?」
八幡「いや、そんなんじゃないんだが…………ちょっとやらかして……会いづらいんだ」
小町「うーん、よければ小町が話聞くよ。とりあえず朝ご飯食べよ」
八幡「ああ……」
小町「ええーっ! お、お兄ちゃんが!? 沙希さんを抱きしめた!?」
八幡「声がでけえよ……てか俺自身信じられねえ、何であんな行動に出たんだか…………川崎には悪いことをしたと思ってる」
小町「えーそっかなー、案外沙希さんも嬉しく感じてるかもよ」
八幡「何でそんなポジティブに考えられるんだよ……」
小町「お兄ちゃんはネガティブ過ぎ! 本当に嫌だったら今日の送り迎え断ってきたりするでしょ。それがないんだから少なくとも嫌とは感じてないって」
八幡「そ、そうかな」
小町「そうだって。もしかしたら恥ずかしがるかもしれないけどそこはお兄ちゃんが余裕を持って接してあげればいいの」
八幡「そんなもんなのか……よ、よし、気にしないようにして頑張ってみるか」
小町「そうそう、むしろ気張らずにいつも通りに接する方がいいって」
八幡「わかった……ごちそうさん、悪いけど俺はもう行くな。片付け頼んでいいか?」
小町「お任せあれ。沙希さんによろしくー」
八幡「おう」
八幡(小町との会話でヒントになったことがある)
八幡(そう、恥ずかしがるというアレだ。似たようなことが先週にもあった)
八幡(なら同じようになかったことにしてしまえばいいのだ。きっと川崎も同じことを考えるだろう)
八幡(現金なもので、解決策を思い付くと俺の足取りは軽くなり、軽快に自転車を漕いでいく)
八幡(見えた、川崎家だ…………お、ちょうど川崎が出て来た)
八幡(こちらに気付いたか手を振ってくる。何か機嫌が良さそうだ。到着、っと)
沙希「おはよ比企谷」ニコニコ
八幡「おはよう川崎、ずいぶん機嫌良さそうだな」
沙希「ん、ちょっとね」
八幡「昨日何かあったのか? 俺は何のイベントもなかったから幸せのお裾分けしてくれよ」
八幡(ここでなかったことにしようとする意志をさりげなく強調しておく。マジ俺策士)
沙希「仕方ないね、教えてあげる。実は昨日さ」
八幡「おう」
沙希「比企谷があたしを抱きしめてくれたんだ」
ガッシャアアアン!
沙希「ど、どしたの派手にずっこけて!? 大丈夫!?」
八幡「お、おま、な、何を」
沙希「とりあえず立ちなよ、ほら」スッ
八幡「あ、えっと……わりぃ」
沙希「んっ、しょ」
八幡(川崎の差し伸べてくれた手を掴み、俺は立ち上がる)
沙希「さ、行こ。あんまりのんびりしてると遅刻しちゃうよ」
八幡「あ、ああ」
八幡(俺は自転車を起こし、跨がる)
八幡(すぐに川崎も後ろに乗り、俺の身体に腕を回してきた)
八幡「じゃ、じゃあ行くぞ」
沙希「ん、よろしく」
八幡(あれ? あっれー?)
八幡(むしろ川崎さんの方がいつも通りに接してますよねこれ。しかも昨日のことをなかったことにしないまんま)
八幡(いや、ギクシャクしたりするより全然いいんだけどさ)
八幡(それより気になるのは…………)
『比企谷があたしを抱きしめてくれたんだ』
八幡(…………川崎はあれを『いいこと』として捉えているってことだよな)
八幡(…………)
八幡(…………)
八幡(…………うん、あれだ)
八幡(川崎は長女だからな。あんなふうに人から抱きしめられることがあまりなかったんだろう)
八幡(膝枕と同じだ。してあげるばかりでしてもらうことが少なかったから、それを嬉しく感じてるんだ)
八幡(まったく。男を勘違いさせそうになるなんて罪な女だぜ)
とりあえずここまで
昨晩の沙希さんはいつまで玄関でニヤニヤしてたんでしょうね?
八幡(さて、例の公園に到着っと)キキッ
沙希「よっ、と」ヒョイ
八幡「んじゃまたあとでな」
沙希「あ、ちょっと待って」
八幡「うん?」
沙希「ごめん、ちょっとそっちに立ってくれる?」
八幡(川崎が指したのはベンチのそばだ。とりあえず自転車を止めて言うとおりにする)
八幡「これでいいのか?」
沙希「ん」
八幡(短く返事をした川崎は俺に近付く……って近い近い、近過ぎじゃね? もう身体が密着しそうなんだけど!)
八幡「な、何だよ」
沙希「さっき言ってたでしょ。幸せの、お裾分け」
八幡(そう言うと川崎は俺の背中に腕を回して抱き付いてきた)
八幡「かっ、川崎っ、止めろって!」
沙希「嫌だったら無理やり振りほどいていいよ。抵抗はしないし、それであたしがどうこう思うことはないからさ」
八幡「い、嫌じゃないけど」
八幡(良い匂い柔らかいヤバいヤバいヤバい)
沙希「ん、このぐらいにしとこっか」スッ
八幡「はあっ、はあっ、お、お前な……」
沙希「あたしは比企谷に抱き締められるの、好きだよ」
八幡「!!」
沙希「比企谷もそうだと嬉しいな…………じゃ、あたしは先に行くね」
八幡(そう言って川崎は公園を出て行った)
八幡(それを見届けて俺はベンチにへたり込む)
八幡「なんつーか……やられっぱなしだな」
八幡(でも……それが嫌だとは全然思わない)
八幡(…………)
八幡(…………)
八幡「学校、行くか……」
八幡(今までに幾度か感じた川崎の身体の柔らかさや匂いを何となく思い出しながら、俺は自転車を漕ぎ出した)
1レス分投下し忘れてたので追加投下
てか一日一沙希影響デカ過ぎだろ(笑)
まあ俺も一日一沙希のせいで時々仕事が疎かになるんですが
今度こそ今日は終わり
また明日ノシ
八幡(さて、昼休みだ)
八幡(今日は教室でもベストプレイスでもなく、あの人気のない裏庭で昼食を取ることになっている)
八幡(…………くそ、なんか意識してしまうな)
八幡(授業中につい川崎の方を見ていたってのが何度かあったし)
八幡(はあ…………)
八幡「待たせたな」
沙希「ん」
八幡(先にベンチに座っていた川崎に声をかけ、弁当を受け取って買ってきた飲み物を渡す。もう定番化したいつものやり取りだ)
八幡(川崎の隣に座り、手を合わせて弁当箱の蓋を開ける)
八幡「相変わらず美味そうだな。いや実際美味いんだが」
沙希「ふふ、ありがと」
八幡「ん? 作ってもらってるのは俺なんだから川崎が礼を言うのはおかしくねえか?」
沙希「いいんだよ」
八幡「?」
八幡(よくわからないまま俺は箸をつける)
八幡(やっぱり美味い)モグモグ
八幡(そしてやはり絶品な甘くない玉子焼き。うわー絶対俺今キモい表情になってるわ)モグモグ
沙希「ねえ比企谷」
八幡「ん、何だ? 俺の顔がキモかったか? すまん」
沙希「違うよ…………むしろその、ありがとうね」
八幡「さっきもだけど俺が礼を言われる意味がわからん。何もしてねえぞ」
沙希「ううん。あたしの作った弁当を美味しそうに食べてくれてるよ」
八幡「いや、だって本当に美味いし。だったらやっぱり俺から礼を言うとこだろここは」
沙希「でもね、あたし比企谷が美味しそうに食べてる時の表情を見てるとすごく嬉しくなるんだよ」
八幡「なっ…………」
沙希「あたしの作ったものがこんなに人を喜ばせてるんだって感じられてさ」
八幡「…………」
沙希「もちろん家族も感謝はしてくれてるよ、でもそれがもう日常になっちゃってるからね。だから久々にこんな気分にさせてくれた比企谷には感謝、てね」
八幡「…………」
沙希「ごめん、何言ってんのかなあたし。気にしないでいいから」
八幡「川崎」
沙希「ん、何?」
八幡「お前、良い女だな」
沙希「んなっ!? 何言ってんのさ突然!?」
八幡「いや、だってなあ……」
沙希「もう……褒めたって弁当くらいしか出ないよ」
八幡「充分過ぎるものが出てるんですがそれは…………ごちそうさまでした、っと」
沙希「ん、お粗末様でした……って比企谷、御飯粒ついてるよ」
八幡「え、マジ? うわ恥ずい、どこだ?」
沙希「取ったげるよ、動かないで」
八幡「お、おう」
八幡(ここでまさか指でつまんで取ってそのまま食べる、なんて恥ずかしいことはやらないよな……………………やらないよね?)
沙希「ん……っと」チュ
八幡「え」
沙希「はい取れた」
八幡「お、お前、今、え?」
沙希「頬に付いてたのを口で取っただけでしょ。あたしまだ食べ終わってないから両手塞がってるし」
八幡「いやいやいやいや、色々おかしいだろ!」
沙希「ん、ごちそうさまでした」
八幡「話聞けって!」
沙希「もう過ぎたことをうるさいね。寝不足で気が立ってるんじゃない? 何度か欠伸してたし」
八幡「過ぎたことって…………いや、確かに寝不足だけどな」
沙希「そう、ならあんたが良く眠れる枕、あたし知ってるんだけどさ」
八幡(くそ……ずっと川崎のペースのままじゃねえか。何とか一矢報いたいとこだが…………よし)
八幡「へえ、ならそれ貸してくんない?」
沙希「ん、いいよ。ほら」
八幡(予想通り川崎はベンチの端に移動して自分の太ももを叩く)
八幡(だがその余裕顔もそこまでだ、喰らえ!)
このシーンはもう少し続くんだけど今日はすまんがここまで
ようやく出張に終わりが見えてきた
俺、出張が終わったらこのSSを頑張るんだ
ポスン
八幡(どうだ! 仰向けでなくお前の腹側に顔を向けての膝枕だ! スカートだし恥ずかしいだろ、戸惑え!)
沙希「ふふっ、ちゃんと昼休み終わる頃には起こすからね」ナデナデ
八幡(あれ?)
沙希「♪~」ナデナデ
八幡(鼻歌まで始めちゃったよオイ、こうなると俺だけが恥ずかしいんだけど。めっちゃ良い匂いするし俺から離れるわけにもいかないし)
沙希「比企谷、もう寝ちゃった?」ナデナデ
八幡(寝てません、寝れません、眠気なんかどっか行っちゃいました。でも寝たふりするしかないじゃないですかー!)
沙希「…………嬉しいな」ナデナデ
八幡(ん?)
沙希「あたしの前ではそんだけ気を許してくれてるってことだよね」ナデナデ
八幡(まあ……それはそうかもな)
沙希「そこだけは雪ノ下や由比ヶ浜たちに勝ててるよね」ナデナデ
八幡(なんであいつらの名前が出てくるんだ? てか勝ち負けがあるのか?)
沙希「ま、あたしの膝だとドキドキして寝れなかったってシチュエーションも捨てがたいけど」ナデナデ
八幡(すいません今まさにそれです)
沙希「でもこうしていられる時間があるってのは幸せなんだろうねきっと」ナデナデ
八幡(…………)
沙希「ところでさ」
八幡(…………)
沙希「バレバレなんだけど。ずっとそうしてるつもりじゃないよね?」
八幡(え? バレてる!?)
姫菜「あちゃー、バレてたか」ヒョコ
八幡(なんだ俺じゃなかったのか……この声は海老名さん?)
沙希「この前の写真の時から少し周りに注意するようになったからね。別に見られて困るようなことはないんだけどさ」
八幡(見られて恥ずかしいことはしてます、今まさに。顔が隠れてて本当に良かった)
姫菜「ごめんね、邪魔するつもりはなかったんだけど…………思った以上にサキサキがいい表情してたから見とれちゃった」
沙希「見とれるって…………まああたしいつも仏頂面かもね」
姫菜「違うよ、サキサキ限定じゃない」
沙希「うん?」
姫菜「女子が男子の前でするような表情じゃないよアレは」
沙希「ちょっとよくわかんないんだけど……」
八幡(俺も俺も)
姫菜「なんて言うかさ、『恋に恋する』とか、『ステータスとして』とか、『憧れ』とか。わたしたちくらいの年齢だと恋愛ってそういう感じが多くない?」
沙希「ん…………まあそういうのもあるかもね」
八幡(わからんでもない)
姫菜「でもサキサキのは違う。心から相手を信じてるって、信頼してるって表情に見える」
沙希「…………」
八幡(…………)
姫菜「わたしたちくらいの歳で男女間でそんな『本物』みたいな関係を築けるっていいなあって思ってさ」
沙希「…………」
八幡(…………)
姫菜「ちょっとサキサキが羨ましいな」
沙希「…………そんなんじゃないかもよ。まあどう解釈しても勝手だけどね」
八幡(…………そうだ。俺達の関係は本物じゃない。海老名さんが羨むようなものじゃないんだ)
姫菜「あ、今更確認するけどヒキタニ君寝てるんだよね? 起きてないよね?」
沙希「ん、ああ。大丈夫、ぐっすりだよ」
八幡(ばっちり起きてますすいません)
姫菜「うん、じゃあ今のうちに話しとこうかな」
沙希「何かあんの?」
姫菜「えっとね、わたしヒキタニ君に告白されたことがあるの」
沙希「…………突然なに?」
姫菜「あ、違う違う。実は奉仕部への依頼の一環でね」
沙希「知ってるよ。戸部からの告白を避けるためにやったんでしょ?」
姫菜「あ、それも知ってたんだ…………うん、それのことを言いたかったんだけど」
沙希「んん……よくわからないね」
姫菜「だからね、もしこのことをサキサキが知らなくて、どっかからヒキタニ君があたしにフられたなんて噂を耳にしたら気分良くないかなって思って」
沙希「別にそのくらい…………いや、どうかな、そうなってみないとわからないかも。気を遣ってくれてありがとね海老名」
姫菜「うん…………やっぱり少し変わったねサキサキ」
沙希「あたしが? 自分じゃそうは思わないけど」
姫菜「なんというか、雰囲気が以前より柔らかくなってるよ。ヒキタニ君のおかげなのかな?」
沙希「…………そうかもしれないね」
姫菜「なんだかんだ言ってわたしは結構ヒキタニ君のこと認めてるよ。クラスの男子で付き合うなら誰って言われたらヒキタニ君を選ぶくらいには」
沙希「…………こいつが人に認めてもらえるのはあたしも嬉しいけど、あげないよ」
姫菜「わかってるって。むしろ離しちゃ駄目だからね。ヒキタニ君とサキサキならずっとやっていけると思ってるから…………それじゃお邪魔しました」
沙希「ん、またあとでね」
時間あったので追加投下
サキサキSSがまた出来たみたいで俺歓喜
もっと増えろ~
八幡「はあ…………結局やられっぱなしの昼休みだったな」
八幡「……………………本物、か」
八幡(海老名さんには悪いことをしたかな)
八幡(本物じゃないんだよ俺達は)
八幡(そりゃ俺だって…………)
八幡(はあ…………)
~ 週末 ~
八幡「すげえ雨になったな」
八幡(窓の外を見て俺は思わず呟いた)
八幡(大粒が窓を叩き、少し耳障りだ。仕事行ってるうちの両親は大丈夫だろうか?)
八幡(そんなふうに思った途端、家の電話が鳴る。ナンバーディスプレイを見ると親父からだ)
八幡(出ると両親とも今日は帰れそうにないとの連絡だった。この豪雨で交通機関が色々麻痺してるらしい)
八幡(小町は朝から友達の家に行っていてそのまま泊まってくるらしい。勉強会という名目だったが、カマクラを連れて行くのはどうなんだ?)
八幡(まあ最近受験勉強頑張っていたし、たまには息抜きもいいか。カマクラを相手の子の家に連れ込むのも初めてじゃないようだしな)
八幡(今夜一晩は完全に俺一人か。とりあえずやることもないしちょっと寝ますかね)
八幡「ふぁ……ちょっと寝過ぎたかな?」
八幡(時計を確認すると夕飯の時間はとっくに過ぎていた。まあ今日はそんなにエネルギーを使ってないので空腹感はあまりないのだが)
八幡(ふと傍らを見ると、俺のスマホに不在着信の通知が何件か表示されていた)
八幡「川崎?」
八幡(何分かおきにかかってきていたそれは全て川崎からによるものだった。何かあったのか?)
八幡(訝しがりながらも俺は川崎に電話をかけた)
八幡(2コールもかからず相手が出る)
八幡「おう、どうした?」
大志『お兄さんすか!? 俺です大志です!』
八幡「なんでお前が川崎の携帯に出てんだ? あと俺をお兄さんと呼ぶな」
大志『それどころじゃないっす! 姉ちゃんが家出しちゃったんすよ!』
八幡「…………あん?」
出勤前にちょっとだけ投下
今回は少し長編になるかも、ならないかも
エロ展開になるようなら名前欄に『エロ注意』と入れるんでNGお願いします
それではまた夜にでも
川崎が猫アレルギーだからってカマクラにまで外出させるとは、あざといな。
「今日、うち猫いないの……」って、どんな誘惑だよ。
八幡(……家出?)
大志『この雨の中どこ行ったんだか……もし事故とかにあったら!』
八幡「落ち着け」
大志『どっかで具合悪くなって倒れてたりとか、ああ!』
八幡「大志、落ち着け!」
大志『っ…………!』
八幡「まず鼻で大きく息を吸え。んで口から大きく息を吐き出すんだ。それを二回繰り返せ」
大志『すーっ、はーっ、すーっ、はーっ』
八幡「よし、順序立てて説明しろ」
大志『は、はい。俺はちょっとした買い物があってコンビニに行ってたんす。んで帰ったら居間で親と姉ちゃんが何か言い合いをしてて。俺が様子見に行くと姉ちゃんが居間から飛び出してきて』
八幡「川崎が親と言い争い? 珍しいな」
大志『はい。でも親に聞いても原因は教えてくれなかったっす。んで部屋に閉じこもっているんだろうと思ってしばらく放っておいたんすけど……夕飯だから呼びに行ったら部屋にはいなくて、家の中を探したら姉ちゃんの靴がなくなってたんです。鍵も開いてたから外に行ったのは間違いないっす』
八幡「携帯も持たずに、か」
大志『さらに財布も置きっぱなしでした。多分俺とすれ違った時にそのまま飛び出して行ったんじゃないかと』
八幡「親御さんはどうしてる?」
大志『何もしてないっす。いや、どうしたらいいかわかんなくておろおろしてるだけで…………警察に連絡するのも何だかって感じで。お兄さんとこに行ったりはしてないんすよね?』
八幡「ああ、来てない。ちょっと確認してほしいんだが、川崎は傘を持って出たのか?」
大志『少し待ってください…………全部、あるっすね……姉ちゃん、この雨の中傘も持たずに出てったのか!?』
八幡「どこに行ったか心当たりはあるか?」
大志『情けない話ですがないっす。唯一思い浮かんだのがお兄さんとこなんで姉ちゃんの携帯借りて電話したんすが』
八幡「そうか」
八幡(焦るな、落ち着け八幡、闇雲に探したって見つからない)
八幡(川崎の思考をトレースしろ。俺なら出来る。仮初めとはいえ川崎の恋人として付き合い、ここしばらく一緒にいたんだ)
八幡(……………………)
大志『お兄さん?』
八幡「大志、ちょっと俺は川崎を探しに行ってくる。一時間後くらいにまたその携帯にかけ直すから」
大志『どこ行ったかわかるんすか!?』
八幡「どうだろうな……この天気じゃ皆で探し回るわけにもいかないからお前は家で待ってろ。ひょっこり帰ってくるかもしれんからな」
大志『で、でも』
八幡「いいから。また後でな」
八幡(俺は電話を打ち切り、出掛ける準備を始める)
八幡(川崎にとって最も大きい心の拠り所は家族だ)
八幡(だけど今回はその家族と揉めた。だったらどこに行く?)
八幡(自意識過剰かもしれないが、きっと俺を頼ろうと考えてくれはしただろう。しかし俺に迷惑をかけられないという思考も働いたはずだ)
八幡「これでよし、と」
八幡(すれ違いになった時のことを考えて、インターホンの脇に玄関で待っておくよう貼り紙をしておく)
八幡「よし、行くか」
八幡(俺は傘を差して豪雨の中を歩き出す)
八幡(川崎は行動範囲がそれほど広くない)
八幡(基本ぼっちだし、家のことがある分俺より狭いかもしれない)
八幡(まず学校や予備校はない。今日はそもそもやってないから入ることが出来ない)
八幡(だからといってスーパーや商店街など論外だ。むしろ一人になりたいと思ってる時に出てくる選択肢じゃない)
八幡(あいつが知ってて人気がない場所、俺の事を少しでも思い浮かべてくれたなら、きっとあそこにいる)
八幡(しかしこの予想は外れて欲しい。あんなところで傘も持たずにいるなんて身体をおかしくするぞ)
八幡(普段自転車で行くような距離だ。結構な時間をかけて歩き、到着した)
八幡(学校の近く、いつも川崎を迎えに行って降ろしてる公園)
八幡(申し訳程度の屋根は全く意味をなさず、ベンチはずぶ濡れになっている)
八幡(そしてそのベンチに川崎はいた)
八幡(膝を抱えるようにして顔を伏せ、女子にしては長身な身体を小さく縮こまらせて、消えてしまいそうだった)
八幡「川崎っ!」
八幡(今にも壊れるんじゃないかといった弱々しい様子に、俺は傘を投げ出して矢も盾もたまらず川崎に駆け寄り、強くその身体を抱き締めた)
八幡(冷たい、なんて冷たい。こんなに冷え切って、どれだけここで雨に打たれていたのだろう)
沙希「比企……谷……?」
八幡「何やってんだ、何やってんだよこんなとこで……」
沙希「ごめん……」
八幡「仕方ないやつだな全く……さ、送って行くから帰ろうぜ」
沙希「…………いや」
八幡「川崎?」
沙希「帰りたくない……帰りたくないよ……」
八幡「んなこと言ったってお前……」
沙希「いや…………」フラッ
八幡「! おい、川崎!? しっかりしろ!」
一旦ここまで
>>495
その誘い文句いいな(笑)
まあ本当に猫アレルギーだと、猫本体が外出中でも室内に猫っ毛が残ってるだけでくしゃみ鼻水涙が出てきたりするんだけどな。
八幡「つ…………疲れた」
八幡(もういっぱいいっぱいだ。川崎をおんぶしてウチまで帰ってきて)
八幡(色々後始末をしてようやくベッドに寝かせられた)
八幡(肉体的にも精神的にも限界だ)
八幡(リビングに下りてきて崩れるようにソファーに座り込む)
八幡「でも、あとひとつやんなきゃな」
八幡(俺はスマホを取り出して発信履歴から再び川崎の携帯にコールする)
大志『もしもし! お兄さんすか!?』
八幡「ああ、俺だ」
大志『姉ちゃんは! 姉ちゃんは見つかったんすか!?』
八幡「落ち着け、大丈夫だ。今ウチにいるから」
大志『そ、そうっすか、良かった……』
八幡「あーそれでだな……ちょっと親御さんと話がしたいんだが」
大志『え? あ、わかりました、すぐ変わります』
川崎母『もしもし、お電話変わりました。沙希の母です』
八幡「先日はどうも。比企谷です」
川崎母『あの、沙希が見つかったと聞いたのですが』
八幡「はい、今ウチにいます。それでちょっとその事でお話が……」
川崎母『何でしょうか?』
八幡「その、本当はそちらの家に送り届けようとしたのですが、沙希さんはどうしても嫌だと言い張りまして」
川崎母『え…………』
八幡「やむなくウチに連れてきたのですが、年頃の娘がこうなのはあまり親御さんにとっていい気がしないかと思いまして」
川崎母『…………その、沙希は今近くにいるのかしら?』
八幡「いえ、疲れたのか妹のベッドで寝ています。少し濡れてましたのであったかくさせてますが」
八幡(本当は俺のベッドだが、こう言っておいた方がいいだろう)
川崎母『そうですか…………あの、比企谷君』
八幡「はい?」
川崎母『大変申し訳ないのですが少しだけ沙希を預かっておいてもらえないでしょうか?』
八幡「え?」
川崎母『お恥ずかしながら私どもと沙希が少し言い争いをしてしまいまして。あの子にはちょっと考えてほしいんです』
八幡「…………」
川崎母『多分今のあの子にはあなたがそばにいてくれるほうがいいと思います。大変身勝手なお願いとは承知しているのですが……』
八幡「その……いいんですか? 年頃の娘さんが男のいる家に」
川崎母『あなたなら平気です。こう見えても人を見る目はあるつもりですし、何より沙希が選んだ男の子なら』
八幡「…………」
川崎母『その、どうでしょうか?』
八幡「…………まあこの雨だと送り迎えもままなりませんし、わかりました。責任持ってお預かりします」
川崎母『本当にすみません、御礼は後日必ず致しますので』
八幡「いえ、それより弟さん達には安心するようにお伝えください。きっと皆不安がってると思いますので」
川崎母『はい、どうか沙希をよろしくお願いします』
八幡(最後に家の電話番号を聞き、こちらの連絡先を教えて通話を終えた)
八幡(なんだろう、川崎家からの俺に対する信頼がハンパない気がする。俺そこまでのことしてないよな?)
八幡(…………とりあえずなんか軽いもん作っとくか。川崎は夕飯食べてないみたいだし)
八幡(さっきまでの様子だと風邪とかは引いてないようだからな。油断は禁物だが一応は良かった)
八幡(さて、まだ起きてないかな)ガチャ
沙希「…………」スースー
八幡(まだ寝てるか……ん、手が布団からはみ出てんな)ヒョイ
沙希「…………」スースー、ギュツ
八幡(…………)
八幡(布団の中に手を入れてあげようとしたら握られて離してくれなくなったでござる)
八幡(まあいいか)
一旦ここまで
おかしい、残業多過ぎだろ今月
>>502
そのために>>246でわざわざ八幡の部屋なら大丈夫って伏線張っといたんや。あとは普段から掃除をちゃんとしてるとかアレルギーは軽度だとかで脳内補完してくれ!頼む!何でもするから!
沙希(…………ん)
沙希(あれ、あたし……どうしたんだっけ?)
沙希(…………そうだ)
沙希(父さん母さんとケンカして、雨の中家を飛び出して)
沙希(いつの間にかあの公園にいてベンチでうずくまってたんだっけ)
沙希(そんで疲れて寒くて寝ちゃいそうになった時に比企谷が来てくれて……そうだ、比企谷は!?)
沙希(あ、ベッドに上半身預けて寝てる…………あたしと手を繋いだまんま)
沙希(ずっと、そばにいてくれてたのかな)
沙希(見覚えないけどここ多分比企谷の部屋だよね。置いてある本とか服とかあいつのっぽいし)
沙希(こんな形で比企谷の部屋にお邪魔することになるなんて)
沙希(…………結局比企谷に迷惑かけちゃったな)
沙希(でも)
沙希(ありがとう、比企谷)
沙希(………………)
沙希(………………)
沙希(あたし今比企谷の部屋で、比企谷のベッドに寝てるんだよね…………)
沙希(やば…………)
八幡「う…………」
八幡(あ、やべ。いつの間にか眠ってた)
八幡(そうだ川崎は?)
沙希「…………」
八幡「…………」
八幡(ばっちり目が合いました。起き抜けだったから一瞬言葉が出てこなかった)
八幡「…………よう、目が覚めてたか。体調はどうだ?」
沙希「うん、何ともないかな…………比企谷、その」
八幡「ああ、言いたいことも聞きたいこともあるだろうけどその前にちょっといいか?」
沙希「え、何?」
八幡(俺は繋いでいた手を離し、その場で手をついて頭を下げる。いわゆる土下座の体勢だ)
沙希「ちょ、ちょっと、何してんの!?」
八幡「その、お前に謝らなければいけないことがある」
沙希「え?」
八幡「実は、ここ俺んちで、今ウチには俺しかいなくて」
沙希「うん」
八幡「で、その、お前ずぶ濡れだったから、つまり……」
八幡(そこまで言うと川崎はかけられていた布団を持ち上げて自分の格好を確認した。今川崎は素肌に俺のジャージ上下を着ている状態だ)
沙希「あたしの服をあんたが脱がしたってこと?」
八幡「それだけじゃなくて…………タオルで拭いたりもしたから……その」
沙希「うん」
八幡「なるべく見ないようにはしたが…………やっぱり、拭く時はどうしてもタオル越しとはいえお前の身体に触っちまったんだ! すまん!」
沙希「ええー……」
八幡「怒るのも気持ち悪いってのもわかる。でもな」
沙希「違うよ、あたしは呆れてんの」
八幡「え?」
沙希「比企谷はさ、あたしの体調とかを心配してそうしてくれたんでしょ? だったら感謝はしても怒ることなんてないよ」
八幡「で、でも、寝てる間に何かしたかもしんねーぞ?」
沙希「してないよ、だってほら」バサ
八幡「え?」
沙希「ジャージ、後ろ前に履かせてるじゃない。わざわざ見ないようにしてくれて間違えたようなやつがそんなことしないでしょ」
八幡「あ…………」
沙希「ま、別に触られるくらい全然構わないけどね。比企谷なら」
八幡「な、何言ってんだよ」
沙希「ふふ」
八幡「あんまからかうなよ……それより腹は減ってるか? 簡単なもの作ってるけど」
沙希「今はいらないかな…………ねえ比企谷、本当にごめんね。あたし、あんたに迷惑ばかりかけてる」
八幡「そうだな」
沙希「うん……」
八幡「だからもう気を使うな」
沙希「えっ」
八幡「俺はな、頼ってもらえないことの方が嫌だし迷惑なんだよ。今回の事だって家族間の事だから俺に出来ることなんてたかが知れてる。でもそばにいてやるくらいのことはするからさ」
八幡(今ならわかる。以前の雪ノ下や由比ヶ浜の気持ちが)
八幡(近くにいるのに頼ってもらえない辛さが。何もしてやれない歯がゆさが)
八幡(いずれこの事はきちんと謝りにいこう)
沙希「うん……家を飛び出した時あんたの事もちらっと思い浮かべたんだけど…………やっぱり悪いなって思っちゃって」
八幡「遠慮なんてするなよ。偽物とはいえ恋人なんだから、さ」
沙希「……………………うん」
八幡「よし。今服は洗濯して乾かしてる最中だ。この雨だし親御さんには連絡してあるから今夜は泊まっていけ」
沙希「え?」
八幡「何か必要な物あったら適当に用意するから遠慮なく言ってくれ。ただしあまり俺の部屋から出るなよ? 猫アレルギー出たら大変だからな」
沙希「あ、うん……じゃなくて、ウチの親に連絡したの!?」
八幡「そりゃそうだろ、年頃の娘なんだぞお前は」
沙希「その……親は何て言ってた?」
八幡「内容は知らんけど、一回冷静になって考えてみてくれってさ。んでウチに泊まるのを了承してた」
沙希「そう……内容は聞かないの? 聞いてこないけど」
八幡「あんま立ち入っていいものかどうかわかんねえからな。川崎が話したきゃ聞くが」
沙希「…………ううん、いい。やっぱりあたしが自分で考えなきゃいけないことだから」
八幡「そっか、まあ俺に出来ることがあったら遠慮なく言えよな」
沙希「じゃあ…………一つお願いしていいかな?」
八幡「何だ?」
沙希「なんか疲れちゃってさ、もう少し寝たいんだけど」
八幡「ん、おう、わかった。俺はリビングにいるからゆっくりしとけ」
沙希「ううん、そうじゃなくて」
八幡「ん?」
沙希「一緒に、寝てくれない?」
とりあえずここまで
次回は多分少しエロいので名前欄の「エロ注意」をNGによろ
まったく無くしてもいいけど男女二人でいて何もないのは不自然だと思ったので、すまんが書かせていただく
八幡「………………」
沙希「一緒に、寝てくれない?」
八幡「聞き間違いじゃなかったのか…………いやいや何を考えてんだお前は」
沙希「あたしだって寂しくなることはあるよ。出来ることがあったら遠慮なく言えって言ったのはあんたでしょ。そばにいてやるくらいのことはする、とも」
八幡「いや、それは出来ないほうだろ」
沙希「何で? あたしの隣で寝るだけでしょ」
八幡「物理的な話じゃねえよ心理的な問題だ。あのな、俺は男でお前は女、OK?」
沙希「当たり前じゃないそんなの。あたしが男で誰が得をするのさ。海老名以外」
八幡「一応真面目な話だから茶化すな。男女二人が同衾していいわけないだろうが」
沙希「何で?」
八幡「何でって……間違いがあったらどうすんだよ」
沙希「寝てて無防備だったあたしにすら手を出さなかった男が何言ってんのさ。それともあたしの事がそんなに嫌い?」
八幡「んなわけねーだろ…………もう恥を忍んで言うけどな、見てしまおう触ってしまおうって誘惑と何度戦ったか自分でもわかんねえんだぞ。俺じゃなかったらお前はとっくに襲われてる」
沙希「でもあんたは我慢したんでしょ?」
八幡「ギリギリいっぱいいっぱいのとこでな。お前の親御さんにも信用されて預けられてるんだ。あとお前を傷付けたくないし」
沙希「こっそり見たり触ったりなんて黙ってりゃわかんないのに」
八幡「俺自身が嫌なんだよそういうの。でも俺の理性なんてちょっとしたことで決壊しかねんぞ。男子高校生の尋常じゃない性欲を舐めんなよ」
沙希「そんなのどうとでもなるでしょ。それよりちょっと手を貸してよ」
八幡「ん? ああ」
八幡(上半身を起こした川崎に俺は右手を差し伸べる。川崎はその手を掴み、思い切り自分の方に引っ張った)
八幡「うおっ!」
八幡(勢い良く川崎ともつれるように倒れ込み、端から見ると俺が川崎を押し倒したかのように見えるだろう)
八幡「何すんだよ…………大丈夫か?」
沙希「ねえ、あんたさ、この状況でも何にも思わないの?」
八幡「…………」
沙希「あたしってそんなに魅力ない?」
八幡「そんなわけあるか、川崎は良い女だ。それだけは俺が断言する」
沙希「じゃあ」
八幡「でもな、今のこれは違うだろ。家を飛び出すくらいなんだ、多少なりとも自棄になってないとは言えないだろ」
沙希「それは…………」
八幡「とりあえず今は休んどけ。寝るまで手くらいは繋いどいてやるから」
沙希「じゃあ比企谷の手、借りてもいい?」
八幡「おう、好きなだけ使え」
八幡(俺がそう言うと川崎は俺の手の甲側を握り、スススと自分の腹を這わせさせる)
八幡(何を、と思う間もなく川崎はその手をジャージの中に突っ込ませた)
八幡「!! お、おい何を!?」
沙希「んっ…………さっき男子高校生うんぬん言ってたけどさ、女子高校生にだって性欲はあるんだよ」
八幡「!!」
沙希「ん、はぁ……比企谷がしてくれないなら自分でするしかないじゃない…………んっ」
八幡(川崎の手に導かれた右手の指に感じる濡れた感触と柔らかさと熱さ。これが、女の、川崎の女性器)
沙希「う、んっ……これは比企谷が手を出してるんじゃなくて、あたしが自分で慰めてるだけだから…………ちょっと比企谷の手を借りてるだけ……んっ」
八幡(あまりの眼下の光景に言葉が出てこない。目の前で、川崎が自慰行為をしているなんて)
沙希「いいっ……比企谷の指、気持ちいいよぉ…………んんっ」
八幡「か、川崎……」
沙希「ごめん、ごめんね比企谷、こんな女でごめん」
八幡(謝りながらも川崎の指の動きは激しさを増していく。少し固い豆のようなものを俺の指の腹に当てて擦り付ける。これがクリトリスというやつだろうか?)
沙希「あ……あ……ごめん比企谷…………もうダメ、あたし、イってもいい?」
八幡(川崎は切なそうな表情で、懇願するような目で問い掛けてくる)
八幡(俺は川崎の耳元まで顔を寄せて囁いた)
八幡「いいぞ、思いっきりイってしまえ。お前がイくとこ、しっかり見ててやるから」
沙希「うんっ……うんっ……見て、見てて…………比企谷っ、比企谷ぁっ」
八幡(頭を起こして川崎の顔を覗き込むと、呼吸を荒くして泣きながら笑っているような表情になる)
沙希「あ、あ、あ、あ…………ああああっ!」
八幡(川崎はびくんっと身体を大きく震わせて一際甲高い声を上げた。どうやらイったらしい)
沙希「あ……あ……あん」
八幡(びくんびくんと身体を痙攣させ、余韻に浸る川崎。俺の指先はぐしょぐしょに濡れているのがわかる)
沙希「ごめん……指、汚しちゃったね」
八幡(ジャージから引き抜くと滴りそうなほどになっていた。早いとこ洗面所に、と思ったところで川崎はその俺の指を自分の口に含んだ)
八幡「お、おい、何を」
沙希「あたしが、んちゅ、汚したんだから、ちゅ、綺麗に、れろ、してるんじゃない」
八幡「それヤバい、もうヤバいから。ちょっと一回離してくれ!」
沙希「んっ……ちゅ……比企谷さ、どうせこの部屋出てどっかで一人でする気でしょ?」
八幡「え、あ、いや…………」
沙希「だったら比企谷もここでしてよ、あたしの手を使っていいから」
八幡(川崎はそう言うとズボンの上から堅くなった俺の肉棒に触れてきた)
八幡「や、やめ……」
沙希「比企谷だってオナニーくらいするでしょ? ただそれをあたしの手でするだけ。あたしに何かしてるわけじゃないんだから、ね?」
八幡(そう言ってズボンの上から撫で回す動きに、とうとう俺の理性は決壊した)
八幡(チャックを下ろして肉棒を取り出し、川崎の右手に握らせる)
沙希「ん、あ、熱っ……すごい……」
八幡「さっきからずっと我慢に我慢を重ねてたんだ。もう遠慮しねえしすぐ限界だからな!」
沙希「ん、いいよ。あたしの手で気持ち良くなって」
八幡(握らせた手に自分の手を添え、激しく上下に擦らせる。していることは自分でするのと変わらないのに快感の度合いが段違いだ。川崎の手が柔らかくてすべすべですごく気持ち良い)
八幡(あっという間に限界を迎えた俺は傍らにあったティッシュを取って肉棒の先っぽを包み込ませる)
沙希「イきそうなんだね比企谷? イって。イって。あたしの手で出しちゃって」
八幡(俺の顔を見つめながら囁く言葉にとうとう俺は限界を越えた)
八幡「あうっ! うっ! うっ! ううっ!」
八幡(すごい勢いで精液が尿道を通り抜け、大量に射精する。当然一度で出し切らず幾度も繰り返し、そのたびに俺は呻き声をあげた)
八幡「はあっ……はあっ…………はあ」
八幡(すべて出し切ったあと、身体から力が抜けてドサッと川崎の横に倒れ込む)
沙希「ふふ、お疲れさま。気持ち良さそうな比企谷の顔、可愛かったよ」
八幡「…………勘弁してくれ」
八幡(俺はのろのろと後始末をし始める。自分で出したのを零さないようにさらにティッシュで包み、ゴミ箱に放った)
八幡(川崎も局部を拭き、後処理をしている)
沙希「ね、比企谷。スッキリした?」
八幡「そんなこと聞くなよ……今賢者モードで落ち込んでんだから」
沙希「賢者モード? 何それ」
八幡「あー……簡単に言うと、したあとに妙に冷静になって落ち着いてるってことだ」
沙希「ふうん……大志も妙に落ち着いてる時とかあったけどそれなのね」
八幡「え、何? 大志?」
沙希「うん、時々こそこそ一人でしてるけど隠せてないんだよね。トイレでしてるのもバレバレだし」
八幡「それ絶対本人に言うなよ? オナニーしてんのバレてるなんてマジで自殺もんだからな」
沙希「わかってるよ……比企谷は?」
八幡「あん?」
沙希「比企谷はバレたりしてない? 小町とかに」
八幡「それは大丈夫……と思いたいが…………」
沙希「女性向け雑誌とかには『わかってもそっとしておいてあげましょう』ってあるよ。もしかしたらバレてるかもね」
八幡「マジかよ……家ですんの止めとこうかな……」
沙希「ところでさ」
八幡「ん?」
沙希「その……あたしに幻滅とか、した?」
八幡「あ? しねえしねえ。むしろ可愛いとこ見せてもらったって感じだ」
沙希「う……そ、そう?」
八幡「お前は? 俺に幻滅したりしたか?」
沙希「するわけないよ」
八幡「ならいいだろ」
沙希「うん、じゃあさ」
八幡「何だ?」
沙希「もうスッキリしたなら大丈夫だよね? 一緒に寝よ?」
八幡「あー……わかったわかった。俺も疲れたし、寝るか」
沙希「ん」
八幡(俺は寝間着に着替え、川崎が横になっているベッドに潜り込む)
沙希「比企谷、腕枕してよ」
八幡「お前本当に遠慮しなくなったな…………あとで思い出して恥ずかしくなるぞ」
沙希「わかってるよ」
八幡「わかってんのかよ」
沙希「でも今はそうして欲しい気分なの。早くしな」
八幡「へいへい」
八幡(俺が腕を伸ばすと川崎は嬉しそうに頭を乗せ、身体を寄せてくる)
沙希「お休み、八幡」
八幡「おう、お休み、沙希」
八幡(よっぽど疲れていたのか、それともすっきりしあったせいか、俺達はあっという間に夢の世界へと旅立った)
一旦ここまで
そして今更気付いた。名前欄に『エロ注意』って入れ忘れてたあああああああ!
一日一沙希も破るしもうダメダメじゃん俺……地の文なしのエロも難しいし。いや大してエロくないけど
本当にごめんなさい……精進します
すまんちょっと体調崩した
今日は休ませていただきます
ごめんなさい、何でもするから許して!
沙希(あったかい…………)
沙希(そうだ、あたし今比企谷と一緒に寝てるんだっけ。腕枕してもらって)
沙希(少し前だったら信じられないよねこんな状況)
沙希(嬉しい…………)
沙希(本当はこのまま起きててそばに感じていたいけど…………やっぱりもう少し寝させてもらおう)
沙希(ちょっと腕回して抱きつかせてもらうけどこんくらいはいいよね)ギュ
沙希(比企谷…………あたし、あんたが……)
八幡「ん…………」
八幡(目が覚めて真っ先に感じた違和感はのしかかる重さと柔らかさだった)
八幡(一瞬ドキッとしたがすぐに思い出す。昨晩川崎を泊めて一瞬に寝たのだが……)
八幡「何で抱きついてきてんだ…………」
八幡(押し付けられてる胸がヤバい。下着つけてねえから特に)
八幡(昨晩ヌいてなかったら手を出してしまってたかもしんねえな…………いや今も俺の八幡大菩薩は反応しちゃってるんですけどね)
八幡(時計と窓の外を確認すると、すでに明るくなって雨も降っていないようだ)
八幡(小町や両親が帰ってくる前に起きないとな…………でも)
八幡(ちょっとだけ名残惜しくて俺は空いてる手で川崎の頭を撫でる)ナデナデ
八幡(まああんまりやると起こしちまうかもしれんな)スッ
沙希「ん、もっと」
八幡「…………起きてたのかよ」
沙希「少し前にね。ほら早く」
八幡「ったく……誰か帰ってくる前に色々しなきゃなんねえから少しだけだぞ」ナデナデ
沙希「ん…………」
八幡(ひとしきり撫でた後、乾いた服や下着を渡して朝食の準備をする)
八幡(といっても昨晩作ったものとおにぎりだが)
八幡「入るぞー」
沙希「いいよ」
八幡(ドア越しに声を掛けてから部屋に戻る。着替え中にばったり、なんて漫画みたいなヘマはしない)
八幡「よし食おうぜ。味は期待すんなよ」
沙希「ごめんね、ありがとう」
八幡(部屋の中央にお盆を置き、着替え終わった川崎と食べ始める)
沙希「そういえば比企谷、あとで袋かなんか貸してくれない? ジャージ、洗濯して返すから」モグモグ
八幡「あん? 気にしねえでいいのに。ウチの洗濯機に放り込んでりゃいいだろ」モグモグ
沙希「だってそうするとあんた後で匂いとか嗅ぐでしょ?」
八幡「! ゴホッ! ゴホッ! な、何言ってんだお前」
沙希「別に泊めてくれたお礼に新たなオカズ提供してもいいんだけどさ」
八幡「よしわかった持って帰れ。てか新たなって何だよ……」
沙希「今までも結構密着とかしてたし、その感触思い出して使ってるかなって。さっき起きた時も大きくなってたし」
八幡「そりゃあんだけくっつかれたらな…………でもあれだ、お前をオカズにしたことなんてねえぞ」
沙希「え…………」
八幡「なんでショック受けてんだよ、されてたら普通気持ち悪いんじゃねえか?」
沙希「いや……だって……」
八幡「ん?」
沙希「その……あたしはしてるよ、あんたで」
八幡「!」
沙希「ど、どう? こう言われて気持ち悪い?」
八幡「いや、その、なんつーか…………光栄かな、なんて」
沙希「うん、だからその……あたしも比企谷なら気持ち悪いなんて思わないし、むしろ魅力ないのかなって思っちゃう」
八幡「あーいや、しようと思ったことは何度もあるんだが……万一バレた時に怖かったり、あとお前を汚してしまう気がしてな」
沙希「別にいいのに…………これからは遠慮なく使ってよ」
八幡「お、おう、じゃあ今度から使わせてもらうな」
沙希「う、うん」
八幡「…………」
沙希「…………」
八幡「朝っぱらからなんつー会話してんだろうな…………」
沙希「昨晩もっと恥ずかしいことしたしリミッター外れちゃってるのかもね……」
八幡「で、今日はどうすんだ? 夕方くらいまではウチにいるか?」
沙希「ううん、雨止んでるならもう帰るよ。もう一回親とちゃんと話し合ってみる」
八幡「そうか、なら送ってく。準備するからちょっと待っててくれ」
沙希「うん、ありがと」
八幡(俺は使った食器を水に浸け、外出着に着替える)
八幡「よし、行こうぜ」
沙希「うん」
八幡(階段を下り、玄関についたところで川崎が俺の袖をくい、と引っ張る)
八幡「何だ?」
沙希「あのさ、ちょっと相談というか頼みがあるんだけど」
八幡「あー……多分同じ事考えてると思う」
沙希「本当? じゃあちょっと同時に言ってみようか」
八幡「ああ、せーの」
八幡・沙希「「やっぱり恥ずかしいから昨晩から今朝までのはなかったことにしよう」」
八幡・沙希「「…………」」
沙希「…………ぷっ」
八幡「くくっ、一字一句まで同じとはな」
沙希「んじゃそういう事でいいよね」
八幡「ああ、あの玄関を出たら綺麗すっぱり忘れる。俺は川崎が寝てる間はリビングのソファーで寝てたからな」
沙希「うん、ごめんねベッド独り占めしちゃって」
八幡「なに、気にすんな」
八幡(俺は靴を履いて立ち上がり、ドアノブに手をかけようとする)
八幡(が、そこでまた川崎に服の裾を掴まれて動きを止められた)
八幡「まだ何か……って、おっと」
沙希「ごめん、ちょっとだけこうさせてて……どうせ外出たら忘れるんだしいいでしょ?」ギュッ
八幡「はあ……しょうがねえやつだなまったく」ナデナデ
八幡(正面から抱きついてきた川崎を受け止め、頭を撫でてやる)
八幡(まあこいつもたまには人に甘えたいこともあるだろ。どうせ誰に見られるわけでもなし、好きにさせてやるか)
小町「あーやっと帰れたねカー君、愛しの我が家ですよー」ガチャ
八幡・沙希「「!」」
小町「あっ…………えっ?」
一旦ここまで
皆の優しさに感謝感激やで
今日は夜にもっかい投下したいな
沙希「こ、小町、これはその」
小町「あ、あはは、カー君、もう少し外を散歩してこよっか」バタン
沙希「ま、待って小町!」
八幡「あー…………よしとけ、多分今何を言っても逆効果だ」
沙希「で、でも」
八幡「それに今小町はカマクラ……ウチの猫を連れてる。お前を近付けるわけにはいかねえよ」
沙希「う…………」
八幡「それに元々小町には昨晩のことをある程度話して協力してもらおう思ってたんだ」
沙希「え、そうなの?」
八幡「ああ、川崎の親御さんには俺一人じゃなくて妹もいるように伝えてあるからな。さすがに男一人のとこに泊まるのはまずいだろ。だから小町には口裏を合わせてもらわないと」
沙希「……まあそうだね」
八幡「小町には後で俺から上手く話しておくから心配すんな」
沙希「うん、わかった…………よろしく頼むね」
八幡「おう、じゃ、改めて送るぜ」
八幡(さて、比企谷タクシー出動ですっと)キコキコ
沙希「…………」ギュッ
八幡(……うん。あんなこともあったしさすがに気まずいかなと思ったけどそんなことはないな)キコキコ
八幡(でもまあ一言言っといてやるか)キコキコ
八幡「なあ川崎」キコキコ
沙希「ん、何?」
八幡「話し合いとかどうなるかはわかんねえけどさ、また何かあったら俺のとこ来いよ。遠慮なんかしねえでさ」キコキコ
沙希「それ、昨晩も聞いたよ」クス
八幡「昨晩は何もなかっただろ。ただお前が俺の部屋で寝ただけだ」キコキコ
沙希「そうだったね。じゃあ比企谷を頼りにしてるから」
八幡「ま、俺じゃ大したことなんて出来ないだろうけどな」キコキコ
沙希「ううん、比企谷がいるってだけで全然違う」
八幡「え?」
沙希「辛いときにはそばにいてくれるんだってだけで精神的に全然違うよ。あんただって相模の時に予備校でそんなこと言ってたでしょ」
八幡「…………そう、だな」キコキコ
八幡(間もなくして川崎家が見えてきた)
八幡「あー、悪い川崎。さすがに俺がお前の家族と出くわすのは気が進まん。ここらでいいか?」キキッ
沙希「うん、ありがとね」ヒョイ
八幡(川崎が荷台から降りる。しかしそこから動かず、じっと俺を見つめる目にはわずかに不安な色が見て取れた)
八幡「…………」
八幡(まあいいか。川崎の救いになるのなら恥ずかしい思いくらいしてやる)
八幡(俺は自転車から降り、川崎をそっと抱きしめた)
八幡「じゃあな沙希、また明日の朝な」ギュ
沙希「……うん、また明日待ってるからね、八幡」ギュ
八幡(少しだけ俺達は抱きしめ合い、離れる)
八幡(俺は自転車に乗り、手を軽く振ってペダルを踏み込んだ)
八幡(……………………)
八幡(くっそおおぉぉぉ!)
八幡(何で今更あんくらいで恥ずかしくなるんだよちくしょう! 玄関でだって似たような事を平然とやっただろ!?)
八幡(本当の恋人ってわけでもねえのに抱きしめるなんて!)
八幡(………………)
八幡(…………本当の、恋人ってわけでもねえのに)
八幡(…………くそっ)
八幡(帰宅し、ドアを開けると小町の靴があった。どうやらもういるらしい)
八幡「小町ー、いるか?」
小町「あ、お、お兄ちゃん、お帰りなさい……」モジモジ
八幡(あちゃー、これは完全に誤解してる顔ですわ)
八幡「ちょっと話があるんだ。真面目な話な」
小町「え? …………うん」
八幡(俺の表情から何かを読み取ったか、小町も顔を引き締めた)
八幡(俺達はリビングに移動し、小町の淹れてくれたコーヒーを飲みながら昨日のことを大まかに説明する)
八幡「まあそんなわけで……お前もこの家にいたってことにしといてくれ。体裁良くないからな」
小町「うんわかった、大志君にも小町が一緒にいたって言っとくね」
八幡「いや、それはいらない。むしろボロが出ないようにあいつとは一生口を聞くな。連絡先も消して着信拒否しておけ」
小町「お兄ちゃん……真面目な話なのにそういうのはポイント低いよ……」
八幡「俺は百二十%本気だぞ?」
小町「もう……じゃあさ、玄関で抱き合ってたのは何だったの? やっぱり実は何かあったんじゃないの?」ニヤニヤ
八幡「違えよ。あの段階で川崎がすげえ不安そうにしてたからどうにかしようと思ってな」
小町「うんうん、それはそれでポイント高い! 沙希さんもお兄ちゃんに惚れ直しちゃうよ!」
八幡「ばーか…………とりあえず俺は寝直すわ。ソファーじゃよく眠れなかったのか少し頭が重いし」
小町「はいはーい、お休みー」
八幡(俺は自室に戻り、ベッドに横になる)
八幡「川崎の匂いがするな…………」
八幡(他人が聞いたら気持ち悪いことこの上ないであろう台詞を呟き、俺は眠りについた)
一旦ここまで
体調はほぼ回復しました
また明日から一日一沙希頑張ります
小町「お兄ちゃん、夕ご飯ですよー」コンコンガチャ
八幡「…………」
小町「ありゃ、まだ寝てるのか。起きてお兄ちゃーん」
八幡「…………」
小町「お兄ちゃん?」
八幡「う…………ハァ、ハァ」
小町「お兄ちゃん!? お兄ちゃんしっかりして!?」
沙希「え、比企谷が風邪!?」
小町『はい、なので明日は学校休むから朝は迎えに行けないと伝えてくれって』
沙希「それで、比企谷の具合はどうなの?」
小町『そんなに大したことはないですよー、大事を取って休むだけですから。月曜日から学校行かなくていいとはツイてるなって喜んでましたし』
沙希「…………ねえ小町」
小町『はい、何ですか?』
沙希「本当の事を教えて」
小町『! な、何ですか本当の事って?』
沙希「自惚れかもしんないけどさ、あたしと比企谷はそれなりの関係を築いてると思ってる。なのに比企谷が自分で連絡よこさない時点でおかしいと思うよ」
小町『…………お兄ちゃんには口止めされてますが、結構辛そうです。あと、ちょっと喉がやられてまともに声が出ません』
沙希「そう…………あたしのせいだね。雨の時に濡らしちゃったから」
小町『違います! 沙希さんのせいなんかじゃありません! でも沙希さんがそう思っちゃうから黙っとけってお兄ちゃんが…………』
沙希「小町、あのさ」
小町『駄目です』
沙希「……まだ何も言ってないよ」
小町『明日学校サボってお兄ちゃんの看病するって話じゃないんですか?』
沙希「合ってるけど…………」
小町『そりゃお兄ちゃんだって沙希さんが看病してくれるなら喜ぶかもしれません。でも学校サボらせてまでさせたいとは思ってませんよ』
沙希「…………自分は授業サボってあたしの妹の為に動いてくれたってのにねぇ」
小町『えっ、何ですかそのポイント爆上げしそうな話!? 聞かせてください!』
沙希「看病しに行っていいなら教えてあげるよ」
小町『うー……じゃあいいです…………あ、でも学校終わったあとなら構わないと思いますよ』
沙希「そう? じゃあ夕方お邪魔させてもらってもいいかな?」
小町『はい。小町が帰るまではウチの親どっちかがいますので伝えておきますね』
沙希「ん、よろしく。それじゃあね」
沙希(小町との電話を切り、あたしはその場で崩れるようにへたり込んだ)
沙希(あたしのせいだ。あたしのせいだ。あたしのせいだ)
沙希(あたし、どんだけ比企谷に迷惑をかければ気が済むの!?)
沙希(行くとは言ったけどどんな顔して行けばいいんだろう。合わす顔なんてないよ…………)
沙希(比企谷はこんなにもあたしにしてくれてるのに、あたしは精々お弁当を作るだけ)
沙希(比企谷…………)
沙希(あたし、あんたに何がしてあげられるの……?)
ちょっと短いですが一旦ここまで
いつの間にか600超えてんのか。一応このスレ内で終わらすつもりですので良ければ最後までよろしくお付き合い下さい
ちょっとシリアス気味ですが、裏腹にガッツリエロが書きたくてしょうがない(笑)
黒歴史(エロ)ノートもいつか晒そうかしら……
時間がまったく一緒の連投もあるしシステム上の問題もあるんじゃね?
沙希(今日はあいつの分のお弁当はいらない。だから量を間違えないようにしないと)
沙希(みんなの分のお弁当と朝食を用意し、通学の準備を先に済ませておく)
沙希(明らかにあたしの様子がおかしいとわかるのだろう、家族がみんな怪訝な視線を向けてくる)
沙希(昨日の話し合いも穏便に終わったので思い当たることもなく、純粋に心配してくれるが、それが少し鬱陶しい。本当はこんなこと言っちゃいけないけど)
沙希(適当に誤魔化してさっさと家を出た。久しぶりのバス通学がものすごく味気なく感じられる)
沙希(あたしは朝に比企谷が迎えに来てくれるのをどれだけ楽しみにしていたかを改めて思い知った)
沙希(学校で会いたくても会えない。喉がやられたと言っていたからせめて電話で声だけでも、と思っても聞けない)
沙希(いつの間に)
沙希(いつの間にこんなにも比企谷の存在が大きくなっていたんだろう)
沙希(世間の恋人は少し離れただけでこんなになるのをどう堪えているんだろうか?)
沙希(…………違う)
沙希(あたし達は本当の恋人じゃない)
沙希(本当に繋がっているわけじゃないから、本物じゃないから寂しくて、不安になるんだ)
沙希(でも)
沙希(依頼とか口実なしに、純粋に恋人同士になりたいと言って比企谷は受け入れてくれるだろうか?)
沙希(こういったことは初めてだけど、世間一般的には付き合うのに充分な距離になってると思う)
沙希(それでも比企谷は)
沙希(比企谷はトラウマを抱えているから)
沙希(冗談混じりに聞いた比企谷の恋愛に関するトラウマ)
沙希(あれはひょっとしてもう二度とまともな恋愛をするつもりはないという周りに対するサインなんじゃないの?)
沙希(少なくとも比企谷の方から積極的に恋人を作ろうという気はないはず)
沙希(だったらこっちから行くしかないんだけれど)
沙希(怖い)
沙希(拒絶されるのが怖い。今より関係が悪くなるのが怖い。それならいっそ今のままの方がいいのかな)
沙希(フリとはいえ、嘘とはいえ、恋人として振る舞える欺瞞の関係)
沙希(わからない、どうしたらいいのかわからない)
沙希(でも一つだけ、はっきりわかったことがある)
沙希(あたしは比企谷の事が好き)
沙希(それだけは、フリでもない、演技でもない、欺瞞でもない、あたしにとっての本物)
彩加「川崎さん、今日八幡休みらしいけど何か知ってる?」
沙希(HRが終わり、一時間目の準備をしていると戸塚が話し掛けてきた)
沙希「…………どうしてあたしに聞くの?」
彩加「最近川崎さんは八幡と仲が良いからね、何か聞いてるかなって」
沙希「風邪、らしいよ。そんなに重くはないけど大事を取って休むって聞いた」
沙希(嘘は言ってない。小町からそう聞いたのだから)
彩加「そう、結構ひどいんだね……お見舞いとか行った方がいいのかな?」
沙希「…………あたしそんなに重くないって言ったよね?」
彩加「うん」
沙希「戸塚の言ってることおかしくない?」
彩加「川崎さんは『聞いた』って言ったよね、『言ってた』じゃなくて。八幡から直接聞いたわけじゃないならもしかしてって思ったんだけど」
沙希(驚いた。戸塚はあたしと同じようにして同じ答えにたどり着いてるんだ)
沙希(戸塚彩加。ある時を境に比企谷に絶対的とも言える信頼を寄せているクラスメート。比企谷にどんな悪評が起こってもその距離を変えることがなかったほぼ唯一の男子)
沙希「ねえ、戸塚、不躾で悪いけどさ」
彩加「ん、何かな?」
沙希「昼休み、相談に乗ってもらっていい?」
一旦ここまで
夜勤明け投下
寝るノシ
彩加「お待たせ川崎さん」
沙希「ごめんね付き合わせちゃって」
彩加「ううん気にしないで、よいしょ」
沙希(いつも比企谷と食べている場所、いわゆる比企谷の言うベストプレイスでお弁当を広げる)
彩加「それで相談ってのは八幡のこと?」
沙希「うん……その前に確認しておきたいんだけど、戸塚ってあたしと比企谷の関係を知ってる?」
彩加「詳しくは知らないかな。噂でなら聞いてるけど本当のことは」
沙希「そう。実はね…………」
沙希(あたしはかいつまんで戸塚に比企谷との関係を話した)
彩加「そうだったんだ、でも…………」
沙希「でも?」
彩加「その割には随分自然な仲の良さに見えたけど」
沙希「そう見えた?」
彩加「うん。だからフリってのを聞いて逆にびっくりしたかな」
沙希「それはたぶん……あたしが本当に比企谷のことを好きだからだと思う」
彩加「……そうなんだ」
沙希「うん。でも比企谷の方は何とも思ってないんじゃないかな」
彩加「どうして?」
沙希「あいつさ、恋愛沙汰に関して色々トラウマを抱えてるでしょ? それなのにこんな真似事に付き合ってくれるってことは意識してないってことじゃない」
彩加「……僕は逆だと思うな」
沙希「えっ?」
彩加「川崎さんといる時の八幡の目、誰とも違ってたよ。少なくとも何とも思ってないってことはない」
沙希「…………」
彩加「でもたぶん八幡自身はその事をわかってないと思う。自分でも川崎さんをどう思っているかわからないんじゃないかな?」
沙希「…………」
彩加「僕の個人的な考えだけど他の女子、例えば雪ノ下さんや由比ヶ浜さんに川崎さんと同じ依頼をされたとしても引き受けなかったんじゃないかと思うよ」
沙希「そう……かな?」
彩加「うん、他の解決策を探すだろうね。だってそういう方法って八幡が嫌いそうだもの。選択肢がなかったらするだろうけど」
沙希(そういえば海老名に告白したのもとっさのことで他に方法が思いつかないからやむなくって感じなんだっけ)
沙希「…………戸塚は、あいつのことよく理解してるんだね」
彩加「それは川崎さんもでしょ? それに僕より川崎さんの方が信頼されてる」
沙希「どうして?」
彩加「だって僕、八幡の恋愛のトラウマなんて知らないもの」
沙希「!!」
彩加「そういったのがあるってのは知ってるよ。でも具体的な内容は知らない。川崎さんさっき『色々』って言ったよね? なら八幡から聞いてるんでしょ」
沙希「……うん。でもそれくらいなら雪ノ下達にだって」
彩加「違うよ。それは八幡風に言うなら黒歴史。トラウマじゃない。それなら僕も聞いてる」
沙希「…………」
彩加「知ってるんだよね? 根っこのとこにある八幡の本当のトラウマ。むしろそれを知っちゃってるから川崎さんは不安に思ってる」
沙希「うん……」
沙希(普段の会話でするような感じで、でもとても笑い飛ばせるような内容じゃない話を何度かされている)
沙希(あたしが言葉に詰まるとすぐに話題を変えていたけど…………あれは雪ノ下や由比ヶ浜にも話してないの?)
沙希(近しい女子みんなに話して牽制しているのかとも思ったけど、あたしにだけ?)
沙希(…………駄目だ、比企谷の意図がわからない)
彩加「川崎さんは八幡とどうしたくて、どうなりたくて僕に何を相談したいの?」
沙希「あたしは、できれば比企谷とちゃんとした恋人になりたいと思ってる…………でも、この想いが比企谷にとって苦痛になるなら今のままでもいい。ただ比企谷の考えがあたしにはわからない。だから比企谷と一番仲の良い戸塚に相談したの」
彩加「一番って言って貰えるのは光栄だね。僕から見れば今は川崎さんの方が一番だと思うけど…………ごめん、僕には今の八幡の考えはわからないや」
沙希「そう……」
彩加「少し前なら川崎さんとそういった関係になるのは拒絶してたと思う」
沙希「え?」
彩加「今は……だいぶ揺れている状態じゃないかな? トラウマと天秤にかけちゃうくらい川崎さんの存在は八幡にとって大きくなってる」
沙希(あたしと同じように…………比企谷の中ではあたしが大きくなってる?)
彩加「いずれにしても川崎さんがちゃんと考えて決めたことなら八幡は蔑ろにはしないよ。悪くなるってことはないんじゃないかな」
沙希「そう…………なんかごめんね、こんなことで煩わせちゃって」
彩加「ううん、相談してくれて嬉しいよ……川崎さん」
沙希「何?」
彩加「八幡をよろしくね」
沙希(お見舞いは川崎さんに任せるね、と言って戸塚は教室に戻っていった)
沙希(戸塚、か。見た目からは信じられないほど強いね。比企谷の近くにいるのもわかる気がする)
沙希(…………戸塚に相談とは言ったもののただ話を聞いてもらっただけに等しく、進展らしい進展はない)
沙希(でも心が少し軽くなったかな。とりあえずあたしにできることをしよう)
沙希(差し当たって今日の授業のノートをコピーして持って行ってあげるとしよっか)
一旦ここまで
正直今回は自分でも何が言いたいのかよくわかんなかったし書いてて苦痛だった……
さっさとイチャつかせたいので今日は夜にもう一回投下する(願望
沙希(………………)
沙希(放課後、あたしは比企谷の家の前にいた)
沙希「うー…………」
沙希(どんな顔をすればいいのか、何を言えばいいのかわからず、呼び鈴を鳴らすのを躊躇ってしまう)
沙希(ええい、女は度胸!)
沙希(何分か逡巡したあと、あたしは思い切って呼び鈴を鳴らした)ピンポーン
小町『はいはーい、沙希さんいらっしゃい。今開けますねー』
沙希(インターホンから小町の声がして少しほっとする。やっぱり御両親に会うより気が楽だ)
小町「こんにちはー、どうぞあがってください」ガチャ
沙希「ん、お邪魔するね」
沙希(玄関で靴を脱ぎ、家の中に入る)
沙希「比企谷の様子はどう?」
小町「夕べや朝よりはだいぶ楽になってるみたいですよ。呼吸も安定してますし」
沙希「そう」
沙希(階段を上がり、比企谷の部屋の前まで来る)
小町「さっきまた寝たばっかりなんで少し静かにお願いしますね」
沙希「うん、わかった」
沙希(少し安心した。比企谷の顔が見れて、会話しなくていいのなら。だって何を言えばいいかわからないから……)
沙希(本当なら謝りたいけど比企谷はそれをよしとしないだろうし)
小町「お兄ちゃん、入るねー」ソー
沙希(小町が小声で断りながら部屋に入り、あたしはその後に続く)
沙希(ベッドで少し顔を紅潮させて寝ている比企谷が目に入る。見た感じは確かにそこまで辛そうではないようだ)
沙希(あたしはそっと比企谷の頬を撫でた)
八幡「ん…………」
沙希(あ、やば。起こしちゃったかな)
八幡「…………」
沙希(わずかに瞼を開き、焦点の合っていない目であたしを見る)
八幡「さ……き……………」
沙希「えっ」
沙希(名前で呼ばれた? かと思うとあたしの方に腕を伸ばしてくる)
沙希(その手が首の後ろに回ったかと思った瞬間、ぐいっと引き寄せられた)
沙希「あっ……」
沙希(上半身を比企谷の身体に突っ伏し、強く抱きしめられる)
沙希「ちょ、ちょっと、比企谷?」
沙希(思いのほかその力は強くて抜け出せない。視界の端に驚きながらも笑っている小町の顔が見えた)
八幡「さき…………さきぃ……あさ、いけなくて……ごめんな」
沙希(あたしはそれを聞いてぴたりと抵抗をやめる)
沙希(…………なんであんたはこんな時にそんな心配してるのさ)
沙希(小町がそっと部屋を出て行ったのを確認し、あたしは比企谷の胸に顔を埋めたまま比企谷の頭を撫でる)
八幡「ん…………さ、き……」スゥ
沙希(たぶん寝ぼけていたのだろうけど、再び眠りに落ちた比企谷から力が抜ける)
沙希(なのにあたしはそこから動かず、比企谷に抱きしめられたまま比企谷の頭を撫で続けた)
沙希(早く良くなってまた朝迎えに来てよ……)
八幡「…………川崎?」
八幡(目を覚ましての俺の第一声はそれだった)
八幡(時計を確認するとそろそろ夕食といったところか。身体の方はだいぶ回復している。俺は上半身を起こした)
八幡(何故だろう? ついさっきまで川崎がここにいた気がする。抱きしめたような感触も。匂いも)
八幡(階下に降りると小町が夕飯の支度をしていた)
小町「あ、お兄ちゃん、大丈夫なの?」
八幡「おう、心配かけたな、腹減ったわ」
小町「もう少しで出来るから待っててね。栄養多めのうどん作ってるから」
八幡「ああ……なあ小町、今日ウチに川崎来た?」
小町「え、あ、えーと、お兄ちゃん寝てる間に今日のノートのコピー持ってきてくれたよ」
八幡「マジか、それはありがたいな…………えっと、俺の部屋に入ったりした?」
小町「ううん、来たがったけど風邪移しちゃいけないからって小町が止めといた。沙希さんに会いたかったら早くちゃんと完治させてね」
八幡「ん、そうか」
八幡(朧気なあれは…………やっぱり夢だったのか?)
小町(あんな真っ赤になって口止めされたら言うわけにいかないよね……てかお兄ちゃん沙希さんに会いたいっての否定しないんだ)
一旦ここまで
会話はなかったけど少しはイチャイチャさせられたと思う
また明日ノシ
八幡(ここでぶり返したら厄介、ということで念の為に明日も休むことになった)
八幡(そのこととノートのお礼を伝えるために、夕飯の後川崎にメールを送る)
八幡(『ちょっと電話してもいいか?』送信っと)ピッ
八幡(ほどなくして川崎からOKのメールが来たので履歴から川崎の携帯にかける)
沙希『も、もしもし』
八幡「おう川崎か、俺だ、比企谷」
沙希『わかってるよ。あんたからの番号なのにあんた以外なわけないでしょ』
八幡「いやいや、この前はお前の携帯からだったのに大志が出たぞ」
沙希『あ…………うん』
八幡(あれ、何でしおらしくなったの? そこから色々連想しちゃった?)
八幡「今日ウチ来てノートのコピーくれたろ? 頼めるやつなんかいないから助かったわ、サンキューな」
沙希『いいよそれくらい。だってあたしのせいであんたが…………』
八幡「いや、お前のせいじゃねえって。だいたいあの日はお前の方が雨に打たれてる時間長かったろ? そんなお前がピンピンしてんのに俺が風邪引いたってのはちょっとな。だからむしろ原因は別にあったことにしてほしいんぐらいなんだが」
沙希『ふふっ、何それ』
八幡「ま、要約すると気にすんなって事だ。それより聞きたいんだけどお前今日ウチ来たんだよな。その時俺の部屋に入った?」
沙希『え、えっと、小町から聞いてない? 入ろうとしたら止められたんだけど』
八幡「うーん、そうか…………」
沙希『な、何かあったの?』
八幡「いや、お前がいたような気がしたんだけど、幻覚だったみたいだ」
沙希『ふふ、どんだけあたしに会いたがってんのさ』
八幡「そうだな。今声だけでも聞けて良かったぜ」
沙希『んなっ!? な、何を!?』
八幡「ははは、自分から言い出しといて戸惑ってんなよ」
沙希『もう……からかわないでよ』
八幡「でも残念ながら明日も念の為休めって言われてんだわ、悪いけど送り迎えは明後日からな」
沙希『ん、気にしないで。無理して来られるほうが心配だから』
八幡「おう。えっと、明日もノートお願いしていいか? 明後日の朝受け取るから」
沙希『任されたよ…………そういえばちょっと聞きたかったことあるんだけど、いい?』
八幡「あん? まあ答えられることなら答えるぞ」
沙希『あの時さ、あたしを公園で見つけてくれたじゃない? あれ偶然じゃないんだよね?』
八幡「ああ、通りかかったわけじゃなくて大志に聞いて探しに行った」
沙希『いや、そこじゃなくてさ、大志が言うには最初からあたしがあそこにいるってわかってたような口振りだったらしいじゃない。なんで?』
八幡「なんでって……お前がどう行動するか考えたらあそこが思い当たったんだが」
沙希『比企谷の家から結構距離あるよね。無駄足になるかもとか考えなかったの?』
八幡「正直無駄足であってくれと願ったよ。傘も持ってねえやつがあんなとこにいるのはなぁ……」
沙希『う……』
八幡「ま、最終的にお前に何もなくて良かったよ。家族の話し合いも穏便に済んだんだろ?」
沙希『うん…………あ、あのさ、比企谷』
八幡「膝枕」
沙希『やっぱりあんたにちゃんとしたお礼を…………え?』
八幡「今度さ、昼休みみたいに短時間じゃなくて本格的にお前の膝で寝てみたい。もし俺に礼なり詫びなり何かしたいと思ってんならこの願いを叶えてくれねえか?」
沙希『…………そんなの礼とか関係なく言えばしてあげるよ、比企谷なら』
八幡「こういう時でもねえと言いづらいんだよ察しろ」
沙希『ふふ……うん、わかった。今度の週末にでもしてあげる』
八幡「おう、じゃあせっかくだからまたどっか遊びに行くか」
沙希『いいの!?』
八幡「うおビックリした、何だよその食い付き」
沙希『あ、ごめん。でも比企谷からそんなふうに誘ってくれるとは思わなくて』
八幡「まあそうだな」
沙希『認めちゃうんだ……』
八幡「でもどこに行くかなんてプランは俺には立てらんねえぞ。川崎はどうだ?」
沙希『うーん……まだ時間あるし少し考えてみよっか』
八幡「だな。でもあんまり疲れるとこは勘弁してくれよ」
沙希『それはあたしもだよ。ま、あたしは比企谷と一緒にいられればどこでもいいけどね』
八幡「そうだな、俺も川崎といられりゃいいわ」
沙希『………………』
八幡「………………」
沙希『ごめん、今のなしで』
八幡「俺もなかったことにしといてくれ」
八幡(失言ってレベルじゃねーぞ!)
沙希『あ、そうだ、これ言っとかないと』
八幡「何だ?」
沙希『ごめん、あたし今日浮気した。他の男子と昼ご飯食べたんだけど』
八幡「あー……いやまあそれくらいは。俺だって由比ヶ浜と食ったことあるし…………いや、でも」
沙希『戸塚となんだけど』
八幡「はあああぁぁぁ!!? ふざけんなよテメェ!! 何にもしてねえだろうな!? 手を出したらただじゃおかねえぞ!!」
沙希『予想通りどころか予想以上の反応だね…………何にもしてないしされてないよ。あんたが休みの理由を聞かれてその流れで一緒にしただけさ。つまりあんたが原因だから責めるなら自分を責めな』
八幡「ぐっ……と、戸塚はどうだった? 俺に関して何か言ってたか!?」
沙希『必死過ぎて怖いんだけど……まあ心配はしてたよ。明後日からこれそうって明日伝えといてあげるから』
八幡「そ、そうか、心配してたか。お詫びに今度何か奢ってやらないと」
沙希『比企谷、あたしも心配してるんだけど』
八幡「ん、ああ。んじゃ今度頭撫でてやろう」
沙希『え、あ、うん、それでお願い(やった!)』
八幡(その後軽くお喋りしてから電話を切った)
八幡(………………)
八幡(本当に夢だったのかアレ)
八幡(確かに川崎を抱きしめたような記憶と感触があるんだが)
八幡(ひょっとして空想具現化能力にでも目覚めたか?)
八幡(よし、戸塚を出してみよう)
八幡(…………)ムムムム
八幡(出るわけねえか、アホらし)
八幡(結構寝たけどまだ少しダルいし横になっとくか)
八幡(あ、今日川崎を名前で呼んでねえ)
八幡(幻覚の中では呼んだけど……よし)
八幡「お休み、沙希」ボソッ
八幡(………………)
八幡(何言ってんだ俺は…………寝よ寝よ)
一旦ここまで
話が進まねえ……本当にこのスレ内で終わるか心配になってきた。まあいざとなれば次スレ行けばいいか(逃避
最近サキサキスレが次々終わってく……寂しいなあ
あ、ごめん
明日来れないかも
その時は明後日多めに投下する
何でもはしないけど許して
八幡「もうとっくに昼回ってんのか……」
八幡(目が覚めて時計を確認し、俺は上半身を起こす)
八幡(昨晩は目を閉じると何故か川崎の顔が浮かび、色々考えてしまってまともに寝付けなかったのだ)
八幡(その上アレやコレやを思い出してしまい、ついつい自家発電にも励んでしまった…………いや、本人の許可もらってるし別にいいよね)
八幡(川崎でするのは今までよりずっと気持ち良かった…………いやまあさすがに川崎の手を使った時ほどじゃないけど)
八幡(何か川崎のことばっか考えてんな……気晴らしに外に出るか。家にいるよりはマシだろ)
八幡(いつもなら自転車で来るようなとこだが、ぶらぶらと歩いて駅前や本屋を巡る)
八幡(それでも時々ふっと川崎の顔が頭をよぎるのだ)
八幡(服屋を通りかかったらあいつに似合うかななんて考え、弁当屋を通りかかるとあいつの手作り弁当の味を思い出す)
八幡(何でだよ……本物の恋人じゃねえのに)
義輝「おお、そこにいるのは我が盟友、八幡ではないか!」
八幡「あ? なんだ材木座か。どうしたこんなとこで」
義輝「いやそれは我のセリフであろう? お主学校を休んでいたではないか。そなたがいないから我の依頼が断られてしまったのだぞ!」
八幡「ややこしいから二人称は統一しやがれ。まあちょっと体調崩してな、今は治ったから気晴らしに散歩してるだけだ」
義輝「ふむ……ではどうだ、我と一緒にゲーセンでも行かぬか?」
八幡「あー……たまにはいいか。暇だし付き合ってやんよ」
義輝「おお! 実はちょっと格ゲーで頼みたいこともあるのだ。無論礼はするから手伝ってくれ」
八幡(一人でいるよりはマシかと思い、俺は材木座の誘いに乗ってゲーセンに向かう)
一旦ここまで
眠いのに寝付けなくて気の向くままに書いてたら八幡のオナ描写で2レス分くらい書いてた。さすがに需要がないだろうから消したが(笑)
今後の話ですが、ラストまでのストーリーは大まかにできててそれにいくらか肉付けしたのを投下してます。1スレに収まらなくても削ることはしませんし、引き延ばしもしません。ニセコイみたいになるのはちょっと……
ただ次スレに行こうが行くまいが後日談をだらだら書いていきたいと思ってます。ただしエロやで。むしろエロしかない(ゲス顔
まあ未来なんて不確定なんですが
とりあえず抱き枕をけーちゃんだと思って頑張って寝る
今日はもう来れないかも。お休みノシ
はぁ、すんません
義輝「これは少しゲーセン仲間には頼みづらくてな、よろしく頼むぞ」
八幡「おう」
八幡(まだ夕方前のため誰もプレイしてない某2D格闘ゲームを材木座がやり始め、俺はそれに乱入した)
八幡(俺は延々と投げを仕掛け、材木座はそれを投げ抜けでかわす。材木座の依頼による、チャレンジモード達成のための行動だ)
八幡(まあ1プレイで投げ抜けを三十回やれってのは結構な実力がないと難しいだろうな。しかし[ピザ]で喋りのウザいやつが持ちキャラって…………)
義輝「手間を取らせたな八幡、しかしおかげで達成できた! 飲み物でも奢ろうではないか!」
八幡(嬉しいのか少々テンションの高い材木座だ。まあゴチになっとくか)
義輝「受け取るがいい」ポイ
八幡「おう、サンキュ」パシ
八幡(休憩用のベンチで待っていると材木座がマッ缶を買ってきて俺に放り投げる)
義輝「ときに八幡よ」
八幡「あん?」
義輝「我で良ければ相談にのるぞ?」
八幡「あ? なんだよ突然」
義輝「お主の様子がおかしいことなど我の眼力にかかればすぐに見抜ける。他に見破れるとしたらせいぜい家族か奉仕部の連中か生徒会長、戸塚嬢くらいのものよ」
八幡(俺の交際関係ほぼすべてなんですがそれは。それと戸塚は男な。気持ちはわかるが)
義輝「あとは川崎女史か」
八幡「…………」
義輝「近しい人にこそ出来ぬ相談もあろう? 我には言いふらす相手もおらぬゆえ秘密厳守には自信がある」
八幡(どこかで聞いたようなセリフだ。あ、俺でしたね)
義輝「まあ無理にとは言わぬ。しかし迷ったり悩んだりした時には我と言わずとも誰かを頼っても良いのだぞ。昔ならいざ知らず今の八幡は一人ではないゆえに」
八幡(………………)
八幡(誰だコイツ?)
八幡(あまりの衝撃か俺は血迷ったことを口走った)
八幡「じゃあ……ちょっと聞いてくれるか?」
八幡(俺は材木座にかいつまんで話をした)
八幡(ここ最近のことと、俺の心情をやんわりと)
材木座「ふむ…………」
八幡(材木座は茶化すでもなくただ黙って俺の話を聞いていた)
八幡(しばらく沈黙が続いた後、材木座が口を開く)
材木座「要約すると八幡は本物を求めており、今の川崎女史との偽物の関係が嫌だ。しかし今の関係が本物になったとして、偽物から始まったそれが本物と言っていいかわからない。そういうことで合っておるか?」
八幡「まあ……だいたいは」
義輝「馬鹿らしい」
八幡「何!?」
義輝「他人からすれば何をそんなどうでもいいことで悩んでおるのだという気しかせん。もっともお主はこれまでこういった局面に出くわしたことがないゆえ、仕方ないのかもしれぬがな」
八幡「………………」
義輝「そもそも本物と偽物の区別など誰が付けるというのだ。当事者である八幡自身ではないか。お主が川崎女史の事を好いておるのは間違いないのだろう?」
八幡「ああ、それは断言する。俺は川崎が好きだ」
義輝「例え偽物だったとしてもその中にある本物まで否定しかねん行動をするのはどうかと我は思うぞ」
八幡「…………」
義輝「ひとつ質問といこう。本物と、本物そっくりで誰が見ても区別のつかない偽物、どっちが価値があると思う?」
八幡「……そりゃ本物だろ。まあ物によっては同価値なのもあるかもしれねえが」
義輝「普通はそうだな。だが、この場合偽物の方が価値があるという意見もある」
八幡「は? 何でだよ、さすがに納得できねえぞ」
義輝「同価値という意見には納得できるか?」
八幡「まあそれなら」
義輝「偽物にはそれに加えて本物に近付こうとする過程が、意思が、気概があった。その分だけ本物より尊い…………もちろん屁理屈かもしれぬが、一蹴するほどでもなかろう?」
八幡「…………」
義輝「いいではないか偽物でも。それが本物以上に価値があるのなら。あるいは本物以上にしてしまえば」
八幡「材木座…………」
義輝「なあに、もし川崎女史にフられたら我のところに来い。本物である三次元の女を捨て、偽物の二次元の萌えキャラ世界に共に旅立とうではないか!」
八幡「台無しだ! ……いや、でもサンキューな、何か悩んでんのがアホらしくなってきたわ」
義輝「けぷこんけぷこん、それは重畳。ところでお主このあと用事があるのではないか?」
八幡「え?」
義輝「ないのか?」
八幡「…………いや、あったわ。悪いけど今日はここで」
義輝「うむ、我はゲーセン仲間と待ち合わせしておるゆえ別れの時だ、また明日の闘いの時に手を組もうではないか」
八幡「ただの体育の二人組だろ……じゃあまた明日」
八幡(俺がそこを去ると同時に何人かが材木座のもとに歩いていく。あれがゲーセン仲間とやらのようだ)
八幡(店を出るときに振り返ると彼らは楽しそうに談笑していた。今日は材木座の意外な面をいくつも見たな)
八幡「今度からもうちょっとちゃんと相手してやるか…………」
八幡(俺はそう呟いて歩き始めた)
八幡(俺は少し時間を潰してから目的地に向かう)
八幡(やがてそこに辿り着き、スマホを取り出して電話をかける)
沙希『はい、もしもし』
八幡「俺だ、今お前家にいるか?」
沙希『うん、夕飯の支度中だよ。どうかした?』
八幡「そうか。悪いけど少しだけ出て来れねえか? 今お前の家の前にいる」
沙希『え? ちょ、ちょっと待ってて!』
八幡(すぐに玄関から川崎が出てきた…………エプロンを着けたまま)
沙希「どうしたのさ突然…………あっ」
八幡(俺の視線に気付いたか慌てて後ろ手にエプロンの紐を外そうとする。それに構わず俺は川崎に近付き、川崎を抱きしめた)
沙希「え? ひ、比企谷?」
八幡(川崎が戸惑った声を上げる。しかし逃げたり抵抗したりはしない)
八幡(少し強めに抱きしめても何も言わず、俺の腕の中でじっとしている…………いや、おずおずと腕を上げ、ゆっくりと俺の背中に回してきた)
八幡(しばらくそうした後、俺は力を抜いて一歩下がり、川崎を解放する)
沙希「あ…………」
八幡「すまん、突然変なことして」
沙希「ううん、いい…………もう、身体大丈夫なの?」
八幡「ああ。明日からは普通に学校行くつもりだ。朝、迎えに来るからな」
沙希「うん」
八幡「悪いな、飯の支度中だったんだろ? もう帰るから」
沙希「えと、け、結局比企谷は何しに来たの?」
八幡「決まってんだろそんなの」
八幡(俺は川崎をまっすぐ見ながら答える)
八幡「お前に会いたかったから会いに来たんだよ、沙希」
一旦ここまで
俺の材木座がこんなに格好いいわけがない
偽物の方が価値が~は某詐欺師さんの言葉をお借りしました
ではまたノシ
八幡(しどろもどろになった川崎にまた明日、と言って俺は帰路につく)
八幡(決めた。もう迷わない)
八幡(今週末に会う約束、デート)
八幡(その時に俺は川崎に想いを告げる)
八幡(結果がどちらに傾いても恋人ごっこはそこで終わりだ)
八幡「ただいま」
小町「おかえりお兄ちゃん、どこ行ってたの? 身体はもう平気?」
八幡「ああ、もう大丈夫だ。ちょっと気晴らしに外にな」
小町「お兄ちゃんがわざわざ外に出るなんて…………あー、わかったー、沙希さんに会いに行ってたんでしょー……なーんて」ニヒヒ
八幡「ん、そうだ。よくわかったな」
小町「え」
八幡「あ、ついでだからノートのコピーもらえばよかった。顔見ることばっか考えてたから忘れてたわ」
小町「お、お兄ちゃん? ホントにお兄ちゃん? それともまだ体調悪い?」
八幡「何でだよ……あー、川崎んち歩きだとちょっと遠かったから疲れた。部屋で休んでっからメシ出来たら呼んでくれ」
小町「あ、うん、わかった」
小町「………………」
小町(た、大志君に連絡取らなきゃ!)
八幡「いただきます」
小町「いただきまーす」
八幡「うむ、相変わらず小町のメシは美味いな」モグモグ
小町「えへへ、ありがと。そんなふうに珍しく素直に言ってくれるお兄ちゃんポイント高い!」
八幡「俺はいつも素直だろ。世の中の方が嘘や欺瞞ばかりだ」モグモグ
小町(大志君によれば明らかに沙希さんの様子がおかしかったらしい。誰かから電話かかってきて五分くらい外に出たあとみたいだけど…………やっぱりお兄ちゃんなのかな?)ジー
八幡「?」
小町「じゃあその素直なお兄ちゃんに質問! お兄ちゃんは沙希さんのことをどう思ってるの?」
八幡「好きだぞ」
小町「へ?」
八幡「もちろん一人の女性としてな。あ、でもまだ誰にも言うなよ。今週末に告白するつもりなんだから、その前にバレてると興醒めだからな」
小町「え、ええー、えー?」
八幡「何だよ?」
小町「…………お兄ちゃん、どういう心境の変化?」
八幡「いや、好きだったのは多分前々からだぞ。ただそれをはっきり自覚しただけだ」
小町「そうじゃなくって、その…………恋愛に関して」
八幡「んん?」
小町「お兄ちゃん……人を好きになるの、怖くないの?」
八幡「怖えよ、怖くてたまんねえ」
小町「…………」
八幡「でもそれ以上にこのまま俺の気持ちを伝えられない方が嫌だ。例えフられたとしても川崎には俺の想いを知ってもらいたい」
小町「……もう、トラウマは大丈夫なの?」
八幡「…………クラスメートがな、言ってたんだ。俺達くらいの年代の恋愛なんて『恋に恋する』とか、『ステータスとして』とか、『憧れ』とか、そういうのばっかりだって」
小町「あー……わかる気がする」
八幡「俺も中学ん時とかはそうだったんだろうな。だからちょっとしたことで惚れたり勘違いしたりでコロコロ心変わりして、負の要素ばかり溜め込んで、傷ばかり増やして、後悔ばかりして、こんなふうになっちまった」
小町「お兄ちゃん……」
八幡「でもな、今回は違うんだよ。例えこっぴどくフられたって、バカにされたって、絶対に後悔はしない。トラウマにもならない。自信を持ってあいつを、川崎沙希を好きになって良かったって言える」
八幡「俺は生まれて初めて本気で人を好きになったんだよ」
小町「お兄ちゃん……お兄ちゃぁぁん!」グスグス
八幡「おいおい、何でお前が泣くんだよ」
小町「だって、だってあのお兄ちゃんがぁぁ」エグエグ
八幡「仕方ねえやつだなまったく」
八幡(俺は箸を置いて小町のそばに立ち、頭を撫でてやる)
小町「あの捻くれててなんだかんだ素直じゃないあのお兄ちゃんがぁぁ」エグエグ
八幡「はは、言い返せねえな」
小町「ぼっちで友達いなくていつも独りでネットゲームですらソロプレイのあのお兄ちゃんがぁぁ」エグエグ
八幡「…………」
小町「働きたくないから専業主夫希望なんて世の中舐めた事言ってヒキコモリって指差されてもなにも言い返せないほど動かないヘタレのあのお兄ちゃんがぁぁ」エグエグ
八幡「ねえ、そろそろやめない? 俺の方が泣いちゃうよ?」
小町「でもでも、ちょっとクサかったけどすごい心に響いたよ。沙希さんに聞かせてあげたかった!」
八幡「やめろ、これはお前だから話したんだ。川崎には好きって気持ちだけ伝えるさ」
小町「うん、大丈夫だよ絶対! 沙希さんもきっとお兄ちゃんのこと好きだってば!」
八幡「だったら嬉しいな」フッ
小町「うわー……ホント素直になったんだ」
八幡「開き直ったとも言うかな? フられたって構わねえってのは半分本気だし」
小町「もう半分は?」
八幡「一週間くらい部屋の隅に座って落ち込む」
小町「うわあ……じゃあ何としても告白を成功させないとね! 週末告白って言ってたけど何かあるの?」
八幡「一応どっか出掛けようかって話はしてある。プランはまた打ち合わせようってことになってるな」
小町「よし、じゃあ小町がアドバイスするよ!」
八幡「いや、いらねえ」
小町「え?」
八幡「悪いけどこれは俺と川崎だけで決めたいんだ…………だから小町には別のこと、服のコーディネートとかを相談したいんだが」
小町「お兄ちゃん……わかった任せて! 前回より更に力を入れるよ!」
八幡「おう、よろしく頼むわ」
一旦ここまで
今日は沙希さんが出ませんでした、すいません。変わりに八幡をデレさせておきました。誰だコイツ状態ですが
俺達の八幡がこんなに格好いいわけがない……別に格好よくはねーか
またノシ
夜にサキサキの中に出す?(乱視)
八幡(今日は久々の学校だ)
八幡(つまり川崎の送り迎えも久々なわけで、自然とペダルを漕ぐ足が急いてしまう)
八幡(おっと、ちょうど出てきた)
八幡(もう迷わないって決心したしな。少しでも好印象を与えるために爽やかな挨拶をせねば)
八幡「お、おおおおおはよう川崎、今日もいい天気、だな!」
沙希「…………何キョドってんの?」
八幡(やり直しを要求したい)ズーン
沙希(今度は落ち込みだした?)
八幡「…………何でもねえ。行くから後ろ乗れよ」
沙希「いや、何でもないってあんた」
八幡「何でもねえ」
沙希「はいはいわかったわかった。んじゃお邪魔するよ」
八幡「ん」
八幡(川崎が荷台に座り、俺の身体に掴まったのを確認してペダルを漕ぎ出す)
八幡(やっぱりらしくねえことをするもんじゃねえのかなあ…………)キコキコ
八幡(ま、週末告白はするんですけどね。いくららしくなくても)キコキコ
八幡(そしていつもの公園に到着)キキッ
沙希「ん、ありがと」
八幡「おう。じゃ、先行ってる」
沙希「あ、待って。今のうちに聞いときたいんだけど」
八幡「ん、何だ?」
沙希「昨日のあれさ」
八幡「あ、ああ」
沙希「身体はもう何ともないってのを少しでも早く見せようってことだったの? あたしが気にしないように」
八幡「…………違えよ。言ったろ、ただお前に会いたかったんだって。他に何の理由もねえよ」
沙希「そ。ならそう思っとく」
八幡(本心なんだけどなあ)
沙希(ほ、本心だったらどうしよ)ドキドキ
八幡「ま、いいや。またあとでな」
沙希「うん、またあとで」
八幡(教室に到着。あ、川崎からノートのコピーもらってねえや)
結衣「あ、ヒッキーやっはろー! もう身体大丈夫なの?」
八幡「おう。ちょっと風邪気味だっただけだ、大したことねえよ」
結衣「そっか、良かった」
彩加「あ、八幡おはよう。風邪大丈夫?」
八幡「おお戸塚! おはよう! この通りもう全快だ! 心配かけてすまなかったな、お詫びに飲み物でも奢ろうか? なに遠慮するな、俺達の仲じゃないか」
結衣「ちょっとヒッキー!? あたしと反応が違い過ぎない!?」
彩加「あはは、治ったみたいで良かった。川崎さんも心配してたよ」
八幡「そういやあいつと昼飯食ったんだってな。何もされてないか? 脅されててもすぐに言え、ちゃんと話つけとくから」
沙希「…………あんたあたしを何だと思ってるの?」
結衣「あ、サキサキおはよう」
彩加「おはよう川崎さん」
沙希「ん、おはよ。比企谷、はいこれ」
八幡(川崎はカバンから紙袋を取り出して俺に突き出す)
八幡「ああ、ノートのコピーか。サンキューな」
沙希「ん」
八幡(それだけのやり取りをして川崎は自分の席に向かう)
八幡(が、川崎を見る戸塚の目がやけに優しげなのが気になった)
八幡(マジで浮気してねえだろうな…………なんてな)ククッ
彩加・結衣「?」
改めて今日はここまで
べ、別にアンタ達に言われたからじゃないんだからね! ただ沙希を出したかっただけなんだからぁっ!
>>714
それはまあ次スレで(笑)
俺もそう思う
でも長編だとどうしてもキャラが原作と違う方向で成長してしまうから……いや、言い訳にならんな
ただの力不足か
成長っていうと聞こえはいいけど作者が書きやすいように性格変わってくだけの話だからね
沙希「はい、今日の分」
八幡「おう。ほいお前の分」
沙希「ん」
八幡(昼休み。俺が弁当を受け取り、飲み物を川崎に渡してベンチに座る。いつものやり取り)
八幡(最近は食べる場所がベストプレイスでなく中庭のこっちになってるな)
八幡「ちょい久しぶりにいただきます、っと」
沙希「うん、召し上がれ」
八幡(俺は早速玉子焼きに箸を伸ばす…………うん、甘くなくて味付けがしっかりしてて美味い。もうすっかりこれの虜になっちまってるな)モグモグ
八幡(どれ、もう一つ……と思ったところで川崎の箸が俺の弁当箱に伸びてきた)
八幡(そのまま玉子焼きを掴み、俺の口に持ってくる。こ、これは!?)
沙希「はい、あーん」
八幡「え、えと……」
沙希「どうしたのさ、口開けなよ」
八幡「あ、あーん」
沙希「ほら……ふふ、美味しい?」
八幡「お、おう」モグモグ
八幡(甘くないのに甘い気がする……くそ、やり返してやる!)
八幡(今度は俺が川崎の弁当箱に箸を伸ばし、ウインナーを掴む)
八幡「川崎、あー……」
沙希「はむっ、ん、おいし」モグモグ
八幡(俺が言い終わる前に…………)
八幡(川崎は恥ずかしがり屋な面もあるが、結構恥ずかしい事を平気でやる)
八幡(多分どこまでなら平気というラインがあり、キャパシティを超えるとその面が顔を見せるのだろうが……まあメシ時にちょっかい出すのは止めとくか)モグモグ
沙希「ごちそうさま」
八幡「俺もごちそうさまだ。今日も美味かった」
沙希「ん、お粗末さまでした」
八幡(川崎は空の弁当箱を俺から受け取るとそれを包みにしまう)ジー
沙希「ん? …………ふふ、いいよ、おいで」
八幡(川崎は俺の視線に気付くとベンチの端に寄り、微笑みながら太ももを叩く)
八幡(そういう意味で見ていたのではないが、せっかくだししてもらうか)
八幡「じゃあちょっとお邪魔するわ」
八幡(俺はベンチに仰向けになって頭を川崎の太ももに乗せた)
沙希「ん、いらっしゃい」ナデナデ
八幡(早速頭を撫でてくる。しかし…………)
沙希「?」ナデナデ
八幡(ホントこうして見ると巨乳だなこいつ。胸が邪魔で顔がまともに見えん…………ん? 何だ?)
沙希「あ、ごめん、あたしの」
八幡(振動を感じたと思ったら川崎がポケットから携帯を取り出した。メールらしい)
八幡「何かあったか?」
沙希「ん、今日あたしが京華を園に迎えに行ってくれってさ……一回家に帰るのも面倒だしちょっと図書室で時間潰してから行こ」
八幡「さーちゃんは大変だな」
沙希「さーちゃん言うな」ペシ
八幡(実際はそんな苦だなんて思ってもいないだろうけど)
沙希「ん、よしっと……あっ」
八幡(川崎はメール返信したあと携帯をしまおうとし、手が滑ったのか携帯を取り落とした)
八幡(その落とした場所が微妙にまずかった。川崎から見て俺の顔の向こう側だ。つまり携帯を取ろうとしてとっさに手を伸ばして身体を倒すと……)
八幡「んぐっ!」ムギュッ
八幡(俺の顔に川崎の豊満な胸が思いっきり押し付けられてしまうわけで)
沙希「あ、ごめん比企谷。痛くなかった?」
八幡「………………」
沙希「比企谷?」
八幡「う……」
沙希「?」
八幡「うわあああああ!」
沙希「ひ、比企谷っ!?」
八幡(俺は色々いっぱいいっぱいになり、起き上がってその場から全力で走って逃げ出した)
八幡「くそ、川崎のやつ無防備すぎだろあれは…………」
八幡(俺は男子トイレの個室で一人ごちた)
八幡(別に抜きに来たとかそういうわけじゃない。ただ完全に一人になれる場所にいたかったのだ)
八幡(川崎のあの無防備さは俺相手だからなのか……?)
八幡「はぁ…………」
八幡(小町には昨日かっこつけたものの、いざ川崎本人を目の前にしたらこれだ)
八幡(やっぱりそんな簡単には変われねえのかなあ)
八幡(いやいや、そんなことはねえ。現時点ですでに俺は変わってる。その自信も自覚もある)
八幡(とりあえずあとで川崎に謝らねえと)
八幡(しかしやっぱりあいつデカかったな、そして柔らかかった)
八幡(……まだ昼休みが少しあるな)
八幡(……………………)
八幡(……………………)
八幡(………………ふぅ)
八幡(どうして世の中から戦争はなくならないんだろうか)ジャー
八幡(…………とりあえず教室に戻るか。五限が始まってしまう)
今日はここまで
なんか週末告白イベントを書くのが躊躇われてきた。書きたい話がもっとあるという……いや、冗長になるからやらんけど
>>736
むしろ素直な八幡とか書きにくくてしょうがないんですが(笑)
八幡(とりあえず『さっきはすまん』とメールを送っておいた。『うん』とだけの短い返信が来たが、川崎のデフォルトはこんなもんだ)
八幡(放課後になってもう一回直接謝っておこうと思ったが、二日休んでた間の連絡事項のために担任に呼び止められ、その間に川崎は教室を出て行ってしまった)
八幡(まあいいか、どうしてもってわけじゃないし。明日の朝にでも言っとこう)
八幡「うっす」ガラガラ
八幡(奉仕部部室のドアを開けるとすでに俺以外の部員が揃っていた)
結衣「あ、ヒッキーやっはろー」
雪乃「こんにちは風邪引き谷君」
いろは「こんにちはー。風邪だなんて先輩意外と軟弱なんですね」
八幡(訂正。部員でないやつも揃っていた)
八幡「意外とって何だよ。俺は結構デリケートなんだぞ」
いろは「えっ? バリケード?」
八幡「どんな聞き間違いだよ……生徒会とサッカー部はどうした?」
いろは「そんなに忙しくないからもうちょっとあとでも大丈夫です。先輩が久しぶりに登校するって聞いて可愛い後輩が会いに来てあげました。嬉しいですよね?」
八幡「はいはいあざといあざとい」
いろは「あざとくないですっ」
八幡(俺はカバンを置いて椅子に座る。そのタイミングで雪ノ下が立ち上がった)
雪乃「比企谷君、紅茶を淹れるけどあなたも飲むかしら?」
八幡「ん、ああ、頼んでいいか」
八幡(…………見ると由比ヶ浜や一色にもまだカップは出されてない。ひょっとしてみんな俺が来るのを待っててくれたんだろうか)
雪乃「どうぞ」コトッ
八幡「おう、サンキュー」ズズッ
結衣「ゆきのんありがとー」
いろは「ありがとうございます雪ノ下先輩」
八幡(少し久々の雪ノ下の紅茶。意外と俺は学校に来る楽しみが多いらしい)
雪乃「そういえば比企谷君、二日とはいえその間の授業は大丈夫なのかしら? な、なんなら私が教えてあげても……」
八幡「ん? ああ、いや、大丈夫だ。川崎にノート取っといてもらったから」
雪乃「そ、そう」
八幡「まあわかんないとこあったら頼むわ……せっかくだから今ちょっと見とくか」
いろは「ほえー、先輩って意外と真面目なんですね」
八幡「さっきから意外とって言い過ぎだろ。俺は目と性格と数学以外は高スペックなんだよ…………おっと」バサバサ
八幡(一色にツッコミを入れていたらカバンから目を離してしまい、中身をぶちまけてしまった)
結衣「あれ…………?」
雪乃「どうしたの由比ヶ浜さん?」
結衣「ヒッキー、それ……」
八幡(由比ヶ浜が指したのは零れた中身の紙袋からはみ出たジャージだった)
結衣「その袋、朝サキサキから受け取ってたやつだよね……ジャージってどういうこと?」
八幡「あー…………」
八幡(何か面倒くさい事になりそうだな)
雪乃「比企谷君、どういうことかしら? 説明してちょうだい」
八幡「…………嫌だ」
雪乃「!」
八幡「勘違いすんなよ、別にやましいことがあるってわけじゃねえ。ただ俺じゃなく川崎のプライベートな問題も絡んでるから俺が勝手に離すわけにはいかねえってことだ」
いろは「プライベートって…………」
八幡「言っとくけど真面目な話だ。訳あって川崎をウチに泊めた事があってな、そん時に貸したんだよ」
結衣「と、泊まったの!? ヒッキーの家に!?」
八幡「ああ」
雪乃「あなた何を考えてるの? 仮にも年頃の女性を泊めるなんて」
八幡「だからやむを得ない事情があったって言ってんだろ」
結衣「どんな事情があればヒッキーのおうちに泊まることになるの!?」
八幡「それは言えねえってば」
いろは「先輩! 川崎先輩には何もしてないですよね!?」
雪乃「川崎さんが気付いてないだけで何かしている可能性はあるわね」
八幡「サキサキもどっか泊まるならあたしに言ってくれればいいのに!」
八幡「…………」
八幡(俺って本当に信用されてねえんだなあ)
八幡(女性陣の口々にちょっと悲しくなってきたぞ…………)
八幡(ていうか俺自身あれは余計なことをしたんじゃないかと思い始めてきた)
八幡(川崎自身が望み、親御さんが許可したとは言え、無理にでも自宅に帰らすべきだったのではないだろうか)
八幡(あるいは他の女子を頼るべきだったのではないか)
八幡(雪ノ下や由比ヶ浜なら助けてくれただろうし、海老名さんあたりだって力になってくれたはずだ)
八幡(あの時は頭に浮かばなかったが、俺は無意識に川崎と二人っきりになれるという状況を選んでしまったのでは…………)
結衣「ヒッキー! ヒッキーってば!」ユサユサ
八幡「え? お、おう」
八幡(何やら考え込んでしまったようで由比ヶ浜に身体を揺すられるまで周りの声が耳に入っていなかった)
八幡(が、それをどう捉えたのかみんな神妙な顔付きになっている)
雪乃「あ、あの、少し言い過ぎたかもしれないわ…………その」
八幡「悪い」ガタッ
八幡(雪ノ下が何か言いかけたが、それを遮って俺は立ち上がる)
八幡「ちょっと今日は帰らしてもらうわ」
結衣「ヒッキー!」
いろは「先輩!」
八幡(皆が呼び止めようとするのを振り切り、俺はカバンを掴んで部室を出た)
八幡(まだ放課後になってそんなに時間は経ってない。ならばまだいるかもしれない。俺は早足で歩く)
八幡(図書室の入口が見えたところで、ちょうどその入口から川崎が出て来た)
八幡「川崎!」
沙希「え、比企谷? 奉仕部はどうしたのさ?」
八幡(俺が川崎に駆け寄ると驚いた表情をする)
八幡「抜けてきた。ちょっと話したいことがあるんだが、一緒に帰っていいか?」
今日はここまで
おかしい
思った以上に展開が進まない
もう次スレ必須になりそう……
また明日ノシ
うおおおお
何という凡ミスの連続
×八幡「勘違いすんなよ、別にやましいことがあるってわけじゃねえ。ただ俺じゃなく川崎のプライベートな問題も絡んでるから俺が勝手に離すわけにはいかねえってことだ」
↓
○八幡「勘違いすんなよ、別にやましいことがあるってわけじゃねえ。ただ俺じゃなく川崎のプライベートな問題も絡んでるから俺が勝手に話すわけにはいかねえってことだ」
×八幡「サキサキもどっか泊まるならあたしに言ってくれればいいのに!」
↓
○結衣「サキサキもどっか泊まるならあたしに言ってくれればいいのに!」
ごめんなさい!
半年ROMってます!ノシ
沙希「あたしは構わないけど…………でも京華を迎えに園に行くんだよ?」
八幡「ああ。なんなら園まで自転車で送ってくぞ?」
沙希「それだとちょっと早いかな……歩いて行かない? 話、あるんでしょ?」
八幡「わかった。自転車取ってくるから校門で待っててくれ」
沙希「はいよ」
八幡(俺は一旦川崎と別れ、駐輪場に向かう)
八幡(自転車を押して校門を出、塀に寄りかかっていた川崎に声をかける)
八幡「わり、待たせたな」
沙希「いいよこんくらい。行こっか」
八幡「ああ、ほら」
八幡(俺が手を伸ばすと川崎は一瞬考え、すぐに得心したようにカバンを俺に渡してくる)
八幡(俺はそれを受け取り、自転車の前カゴに入れた)
沙希「ん、ありがと」
八幡「おう、行こうぜ」
八幡(俺と川崎は並んで歩き出す。えーと、こういう時は男が車道側、だったな)
沙希「で、話って何?」
八幡「あー……まず昼休みのことなんだけど」
沙希「うん、あれ何だったの? 突然どっか行っちゃって」
八幡「ああ、えっとだな…………」
八幡(…………あれ? 何て説明しよう?)
八幡「………………」
沙希「?」
八幡(……まあ正直に言っとくか)
八幡「いや、あん時さ、お前携帯取ろうとして屈んだだろ?」
沙希「うん、それが?」
八幡(何でこんな平然としてんだよ……)
八幡「その…………俺の顔に胸が思いっきり押し付けられたのが、その、な」
沙希「…………えっ!?」ババッ
八幡「えっ?」
八幡(とっさに両腕を交差させるように川崎は自分の胸を隠す仕草をする。もしかして気付いてなかったのか?)
八幡(てか何? 顔を赤らめてからのその反応。可愛くて好きになっちゃうじゃねえか。もうなってるけど)
八幡「だから、嫌ってわけじゃねえんだけど……ちょっと対応に困って、つい逃げちまったんだ、すまん」
沙希「う、うん、なんかごめんね」
八幡「いや、別にお前が謝るようなことじゃないだろ。むしろその、ごちそうさまっていうか…………とりあえず気にすんな。忘れようぜ」
沙希「わ、わかった……でも、その……別に、今夜にでも、アレに使っていいからね」
八幡「お、おう」
八幡(何言っちゃってんのこの子!?)
八幡(まあまさか既に使わせてもらったなんて夢にも思わないだろうが)
八幡「コホン……んで話は変わるけどさ、実はさっき部室でお前をウチに泊めたのがバレたんだ」
沙希「え、そうなの?」
八幡「ああ。朝お前から受け取った袋の中身を見られてな、ジャージのことを問い詰められて…………すまん」
沙希「ふうん……で、それがどうかしたの?」
八幡「えっ?」
沙希「えっ?」
八幡「だって、お前、男のいる家で一晩過ごしたなんて知られたくないだろ」
沙希「いや、別に…………ちゃんと事情があったわけだし。その辺説明すればわかってくれたんじゃない?」
八幡「説明なんて出来ねえって。お前のプライバシーもあるし…………それにどんな理由があっても女子を泊めるのはどうかって思い始めてな」
沙希「あたしは構わないのに……じゃあ結局雪ノ下達には何て説明したの?」
八幡「別に何も。途中で逃げてきたからな」フフン
沙希「何で得意気なのさ……でも比企谷、あんた色々言われてんでしょ、あたしのことは気にせず説明したっていいよ」
八幡「いや、それはなあ…………」
沙希「じゃ、あたしが自分で説明する」
八幡「え、お前が?」
沙希「うん、あたしも明日奉仕部に行くよ。大丈夫、悪いようにはしないから」
八幡「じゃあまあ……よろしく頼む。あいつらに延々と問い詰められるのは精神上良くないからな」
沙希「はいはい。ところでさ、週末どっか出掛けるってのどうする?」
八幡「ああ、一応少し考えたけど……お前は?」
沙希「あたしは考えたけど思い浮かばなかった…………いや、正直なことを言うと目的とかなく商店街とかららぽーととかをただブラブラするのも楽しいんじゃないかな、なんて思ったけど」
八幡「やっべ、同じこと考えてやがる」
沙希「え、そ、そうなの!?」
八幡「川崎とならそういうのも楽しめると思ってた。あとはまた映画かなって。この前見たやつ面白かったろ? あれのスピンオフが同時上映されてるらしいんだ」
沙希「あ、それはちょっと見たいかも」
八幡「んじゃそんな感じでいくか。今日帰ったら上映時間調べとくから、そしたらおいおい待ち合わせとか決めようぜ」
沙希「ん、そうだね」
八幡(そこまで話したとこで、川崎が周囲を見回す。園まではあと三分の一といったところか)
沙希「…………比企谷、嫌だったら言ってね」スッ
八幡「! お、おう、別に」
八幡(川崎が身体を寄せてきたかと思うと、そのまま俺の腕に自分の手を回してきた)
八幡(俺は押してる自転車のハンドルを握っているので本当に軽く絡めてきているだけなのだが、だからといって俺の激しくなってる動悸が軽くなるわけでもない)
八幡(動揺を悟られないようにしながら歩く道中はとても短く感じられた)
八幡(この信号を渡ればすぐに園が見えてくるはずだ。ちょうど歩行者用信号が赤になって俺達は立ち止まる)
八幡(俺は組まれてない方の腕の手をハンドルから離し、組んできてる川崎の手にそっと重ねた)
沙希「あ…………」
八幡(川崎は短い声をあげたが、避ける素振りは見せない。俺はその手を軽く握る)
八幡(車用の信号が赤になり、周りの人達が横断歩道を渡り出す。しかし俺は川崎に重ねた手を離さない)
沙希「…………比企谷?」
八幡「まだ、赤だからさ」
沙希「え?」
八幡「赤、だから」
沙希「…………うん、そうだね」
八幡(川崎は短く答え、とん、と俺の肩に頭を乗せてきた)
今日はここまで
半年ROMってますと言ったな、あれは嘘だ!
なんかこの1日がなげぇな。このあとまだけーちゃんのお迎え帰宅イベント残ってんだぜ
週始めの「1000近くなりそうだし今週中に終わらすか」と考えていたのがなかったかのようだ
また明日ノシ
八幡(やたらと赤信号が長かった横断歩道を渡り、俺達はようやく保育園に着いた)
八幡(専用の置き場に自転車を停め、川崎と一緒に敷地内に入る)
八幡「川崎、俺から離れんなよ。俺を一人にすると即通報されっからな」
沙希「そんな大袈裟な……」
八幡「いやいや、一人で歩いてるだけで職務質問や警備員からの声掛けの比率が一般の五倍以上はあるからな俺」
沙希「あんたは態度が卑屈過ぎなの。もっと堂々としなって」
八幡「ぼっちが堂々と出来るか。俺は常に日陰を歩いていたい」
沙希「まったく……」
八幡(しかし実際大袈裟ではないと思う。やはり子供を迎えに来た母親らしき人達が俺の顔を見てはびくっとしてるし)
京華「あー、さーちゃんだー! はーちゃんもいるー!」
八幡(そんな中でも物怖じせずに建物内から俺に駆け寄って来てくれるけーちゃんの天使っぷりは異常。嬉しくなってつい抱き上げて高い高いまでしてしまった)
八幡「よう、けーちゃん。今日は俺達が迎えに来たぞ」タカイタカイ
京華「わーい!」キャッキャッ
八幡(その様子に周りが穏やかな空気になる。あ、これあれだ。先週教室で海老名さんがしてくれたやつだ)
八幡(つまり海老名さんも天使? 腐ってるけど)
保育士「あ、先日はどうも」
八幡(けーちゃんを下ろすと同時に声を掛けられる。見るとこの前病院で会った保育士さんだった)
保育士「今日も御一緒に京華ちゃんのお迎えですか?」
八幡(ちら、と川崎を見て言う保育士さん。てかよく俺の事覚えてたな。まあ十中八九この目のせいだろうが)
八幡「ええ、まあ」
沙希「ほらけーちゃん、帰るから準備してきなさい」
京華「はーい」
八幡(川崎に促されてけーちゃんは保育士さんと一旦建物内に戻る)
八幡(そして保育士さんとの会話で警戒心も完全に取っ払われたのだろう。ママさん達がわらわらと寄ってきた)
八幡(『沙希ちゃん良い人がいたのね』とか『目が少し怖いけどさっきの見たら結構優しそうじゃない』とか『若いっていいわねえ』とか川崎を取り囲んで口々に話しかけている)
八幡(色々質問されたりしていっぱいいっぱいになっているな。仕方ない、助けてやるか)
八幡「あの、すいません。こいつ結構恥ずかしがり屋なんで勘弁してやってくれませんか?」
八幡(川崎との間に割り込むようにそう言ったが、ママさん達は気を悪くするどころか姦しい声を上げた)
八幡(『やっぱり優しいわね』とか『男の子はこうでなくちゃ』とか騒いでる。そして今度はターゲットが俺になるかと思われた時、タイミングよくけーちゃんが出て来た)
京華「さーちゃん、はーちゃん、かえろー」
沙希「あ、うん、行こっか」
八幡「おう。えっと、失礼します」
八幡(ぺこりと頭を下げると、ママさん達は最後まで賑やかしく見送ってくれた)
八幡(でも『子供できたらここの園お薦めよー』ってのはさすがに気が早過ぎだろ)
京華「はーちゃんはーちゃん、またかたぐるましてー」
八幡「ん、ああ。えっと……」
沙希「お願いできる? あたしが自転車取ってくるよ」
八幡「おう、頼むわ」
八幡(この前と同じように俺はけーちゃんを肩車し、俺の自転車を押す川崎と並んで川崎家に向かって歩き始める)
八幡(こうやってると川崎と夫婦になったみたいだな…………)
八幡(はは、まだ本当に付き合えてるわけでもないのに気が早いか)
八幡(たわいもない、それでも楽しく雑談をしながら川崎家に帰宅した)
八幡「じゃあな沙希、また明日の朝」
沙希「うん八幡、待ってるから」
八幡(けーちゃんを家に入れたあと、川崎と別れの挨拶をして俺は帰路につく)
八幡(…………映画の時間、調べとかないとな)
ここまで
さっきまた明日と言ったな、あれは嘘だ!
自分用に確認
この日は水曜日
デートは土曜日
今度こそまた明日ノシ
~ 翌日 ~
八幡(調べたところ映画の上映時間は昼と夜に一回ずつだった)
八幡(どっちを見に行くかとその前後の流れは今日決めとくか。明日だとギリギリになっちゃうからな)
八幡「んじゃ小町、俺はもう行くわ」
小町「はいはい行ってらっしゃい。ハンカチは持った? 財布忘れてない? 沙希さんへの愛情は充分?」
八幡「大丈夫だ。特に最後のは溢れ出て止まんねえよ」
小町「うーん、小町的には『な、何言ってんだよ』みたいに焦るお兄ちゃんも捨てがたかったけど……素直なそれも沙希さん的にポイント高いね!」
八幡(本人を前にしたらヘタレるけどな……さて、行くか)
八幡「うっす」
沙希「おはよ、今日もよろしく」
八幡「おう」
八幡(短い朝のやり取りをし、川崎は後ろに座って俺の身体に掴まる)
八幡(…………こういう時に胸が当たってんのは分かってるはずなんだが、昨日のあれは何というか可愛かった)
八幡(察するにまったく自分の想定外な事が起こっても恥ずかしがり屋が顔を出すようだ)
八幡(いや、余裕綽々な川崎もいいけどね)
八幡(何が言いたいかと言うと、もう俺は川崎にベタ惚れなわけで)
八幡(サキサキ最高! …………うん、キモいからやめよう)
八幡(あ、そういえば最近気付いたけど……)
八幡「なあ、川崎」
沙希「ん、何?」
八幡「サキサキってお前のあだ名、クラスの女子の間で定着してね?」
沙希「ああ、うん……はあ」
八幡(川崎は大きく溜め息をついた)
沙希「最初は海老名だけだったんだけど、ていうか話し掛けてくるのなんていなかったんだけど、由比ヶ浜が真似して呼び始めてさ。やめてって言っても聞かなくて」
八幡「お前もか……」
沙希「そしたらいつの間にかクラスの女子みんなが挨拶とかの時にそう呼ぶようになっててさ……」
八幡「トップカーストの影響恐るべし、だな…………」
八幡(しばらくしていつもの公園に到着。川崎が腕を離して自転車から降りる)
八幡「じゃあ……」
沙希「ねえ、たまには一緒に行かない?」
八幡「…………おう」
八幡(川崎は自転車から降りた俺の横に並ぶ。表情がわずかに弛んでいるのは気のせいだろうか?)
八幡「そういえば明後日の映画な、時間が昼イチと夜イチのどっちかだったんだが、どっちがいい?」
沙希「んー……ちょっとだけ考えさせて。昼休みまでには決めとくから」
八幡「わかった、んじゃメシん時に予定立てるか」
沙希「そうだね」
八幡(そこから適当に雑談をしているうちに学校に着く)
八幡「じゃあ俺は自転車置いてくるから」
沙希「そんな寂しいこと言わないでよ、一緒に行く」
八幡「…………」
沙希「…………」
八幡「くくっ」
沙希「ふふっ」
八幡(もとよりここから別行動なんてお互いに微塵も思っちゃいない。わかってて言ってるのだ)
八幡「行くか」
沙希「うん」
八幡(自転車を置いて下駄箱で靴を履き替え、二人で教室に向かう)
八幡(特に会話はなく、他人から見れば微妙な距離感)
八幡(だけど俺にはそれが心地良い。見ずとも存在を感じられる距離にいるのだから)
八幡(が、教室に入ろうとしたところで由比ヶ浜に呼び止められた)
結衣「サキサキ、おはよ。ヒッキー、お、おはよ…………その、昨日は」
沙希「おはよ由比ヶ浜、今日放課後あたし奉仕部に行くから」
結衣「え?」
沙希「なんかあたしが比企谷んちに泊まったので揉めたらしいじゃない。説明しに行くよ、雪ノ下にも伝えといて」
結衣「え? え?」
沙希「じゃ、また」スタスタ
八幡「まあそんなわけだ。よろしく」
結衣「ちょっと待ってヒッキー!」ガシッ
八幡「何だよ」
結衣「どういうことなの!?」
八幡「だから川崎がウチに泊まった理由を説明するって言ってんだろ」
結衣「で、でもわざわざサキサキに来てもらわなくても」
八幡「いや、別に知りたくなきゃそれでいいんだぞ? いいならいいで川崎に伝えるが」
結衣「う、ううん、わかった……ゆきのん達に伝えとくから」
八幡「おう。そろそろ予鈴鳴るぞ」
結衣「うん……」
ここまで
ストーリーを進める。二人をイチャイチャさせる。両方ともやらなければならないのがサキサキスレ主の辛いところだ
頑張る
また明日ノシ
八幡(さて、昼休みである)
八幡(今日も今日とて自販機に寄ったあと例の中庭へ向かう)
八幡(先にベンチに座っていた川崎が俺に気付き、軽く手を振ってきた)
八幡(それに手を上げて応え、俺は川崎の隣に座る)
沙希「はい」
八幡「サンキュ、ほい」
沙希「ん、ありがと」
八幡(すっかり定番化した弁当と飲み物のやり取りを行い、俺は弁当に手をかける)
八幡「そういや明後日どうするか決めたか?」モグモグ
沙希「うん、夜の方を見に行かない?」
八幡「おう、構わねえぞ。その前後の流れはどうする?」
沙希「少し早いかもだけど夕ご飯どっかで食べてから映画館行こ。見終わってからだとちょっと遅いでしょ」
八幡「だな。空腹で映画に集中出来なかったとか嫌だし」
沙希「昼ご飯はあたしが簡単なものを作るからウチで食べてよ。夕ご飯が早いからこっちも早めにする。十一時過ぎくらいでいいかな、そのあたりにウチに来て」
八幡「ん、家族みんなはいいのかそれで?」
沙希「ああ、あたし以外は朝からいないから。比企谷もその方がいいでしょ?」
八幡「キャー、沙希さんたら家族いないスキに男を家に連れ込むなんてだいたーん」
沙希「昼ご飯は米と塩でいい?」
八幡「ごめんなさい」
沙希「まったく…………それはそうと何かリクエストある? 簡単なものって言ったけど別に本格的なものでもいいよ、あたしが作れるなら」
八幡「んー、こう言われると困るだろうけど何でもいいぞ。川崎が作るなら味は保証されてるし、その時の冷蔵庫の中身で作れるものって感じで」
沙希「ん、わかった」
八幡「んで駅前出て適当にぶらついてメシ食って映画って流れか」
沙希「ちょっと、肝心なのが抜けてるよ」
八幡「あ? 何かあったっけ?」
沙希「いや、そもそも週末に会う目的はあたしの膝枕で寝たいってやつでしょ。そのついでで出掛けようって話になってるんじゃないの」
八幡「あっ」
沙希「忘れてたんだ…………」
八幡「あ、いや、その…………川崎とお出掛けするってのが楽しみで、つい……すまん」
沙希「…………いいけどね。どうする? しないで出掛ける?」
八幡「いや、寝る。こんな機会滅多にないし」
沙希「そう、わかった……ごちそうさま」
八幡「俺もごちそうさまだ、こんだけ毎日食っても飽きないって地味にすげえよな」
沙希「ふふ、ありがと。で、今日はどうする?」
八幡(川崎は自分の太ももをポンと叩く)
八幡「今日はいいや、明後日の有り難みを大きくしとこう」
沙希「何それ」クスッ
八幡「あー、でも誰が見てるかわかんねえか。恋人のフリはしないとな」
沙希「え?」
八幡「こっち、来いよ」
沙希「…………うん」
八幡(そう言うと川崎は俺の方に寄り、身体をくっつけてくる)
八幡(俺は川崎の肩に手を回し、軽く力を入れた)
沙希「ん…………」
八幡(肩に頭を横に乗せ、体重を完全に預けてくる川崎。そのまま何も会話せずに予鈴が鳴るまで俺達はくっついていた)
一旦ここまで
ジョジョネタ通用し過ぎや
今回はやや甘さが足りないのでお好みで練乳を入れてください
そいではまたノシ
八幡(さて、放課後になった)
八幡(いつもならここからさっさと奉仕部部室に一人で向かうのだが、今日は川崎も一緒だ)
八幡(教室を出ようとすると由比ヶ浜も着いてきた)
八幡「三浦達はいいのか? いつも何か喋ってから来てたが」
結衣「うん、大丈夫。行こ」
八幡「ああ」
沙希「はいよ」
八幡(道中は由比ヶ浜が話して俺や川崎が答えるといった身にもならない会話をする。別に嫌というわけじゃない、俺も川崎も楽しんではいる)
八幡(そんなこんなで部室に到着)
八幡「うっす」ガラガラ
結衣「やっはろー!」
沙希「お邪魔するよ」
八幡(三人で入ると雪ノ下と一色がすでにいた)
雪乃「こんにちは」
いろは「先輩方、どうもー」ペコ
八幡(思い思いに挨拶をして、俺以外は椅子に座る)
雪乃「……比企谷君?」
八幡(雪ノ下が訝しそうに俺を呼ぶ。が、俺はそのまま川崎に話し掛けた)
八幡「川崎、俺はどうしたほうがいい?」
沙希「ん、そうだね……悪いけどさ」
八幡「わかった」
八幡(俺はカバンだけ置いて部室を出ようとする)
結衣「ちょ、ちょっとヒッキー、どこ行くの!?」
八幡「俺がいない方が話しやすいだろ、終わったら携帯で呼んでくれ」
八幡(そう言って俺は部室を出る。どんな事を話すのか気になるといえば気になるが、そこは川崎を信用しよう)
八幡(図書室でも行くか)
すまん、ここまで
元々五人での会話だったけど、ふと『八幡いないほうが良くね?』って思ったんで急遽書き直します
上司に捕まった
今日はこれんすまんまた明日
雪乃「どうぞ」
沙希「ん、ありがと」
沙希(雪ノ下が紅茶を紙コップに入れて差し出してくれた)
沙希(ポットの横にある使ってないティーカップ、あれは比企谷の分なんだろう)
沙希(ここは比企谷の居場所、紙コップのあたしがいるべき場所じゃない…………なんて少し穿ち過ぎだね)コク
沙希「ん、おいし……雪ノ下って紅茶淹れるの上手だよね。あたしと何が違うんだろ?」
いろは「ですよねー、何かコツとかあるんですか?」
雪乃「時間と温度を気にするくらいかしら? といってもお茶系の飲み物はほぼそれに左右されるけれども」
沙希「ふうん、あたしも少し勉強してみようかな」
結衣「えーやめてよ、ただでさえ料理とか上手いサキサキが紅茶まで上手くなったらあたしますます勝てないじゃん」
沙希「勝てないって……別に何かを争って戦ってるわけじゃないでしょ」
結衣「あ、えっと……そ、そうだね!」アセアセ
雪乃「コホン、それじゃ川崎さん、本題に入らせてもらってもいいかしら?」
沙希「ん、いいよ。何でも聞いて」
雪乃「その、比企谷君からあなたが比企谷君の家に泊まったと聞いたわ。あまりいいことではないと思うのだけれど経緯を聞かせてもらえる?」
沙希「ん、わかった。あ、一応オフレコでお願いね。あんた達を信用して話すから」
雪乃「ええ」
結衣「わかった!」
いろは「はい」
沙希「この前の土曜日、あの天気悪かった日、あたし両親と喧嘩しちゃってね。あ、原因は伏せさせてもらうけど」
結衣「え、サキサキが喧嘩!?」
雪乃「珍しいわね。あなたが家族とそんなことをするなんて」
沙希「そうだね、自分でもそう思う。だから止め時もわからなくてどんどんヒートアップしちゃって、こじれたまんまあたしは衝動的に家を飛び出したんだ」
結衣「え……」
沙希「なんかもう頭の中ぐちゃぐちゃになってさ、とにかくそこから逃げ出したかった。財布も携帯も、傘すら持たずにね」
いろは「なるほど、それで先輩のとこに行ったんですね」
沙希「違うよ」
いろは「え?」
沙希「考えなくもなかったけどやっぱり迷惑かけられないって気持ちが先立っちゃってさ、あたしは小さな公園のベンチに座ってた。屋根なんか申し訳程度で役に立たないし、ずぶ濡れになったけど動く気力もなくてそこで震えてたんだ」
結衣「サキサキ…………」
沙希「あたしにとって大半だった家族とこうなったならあたしにはもう価値なんかないんだって思っちゃってさ」
結衣「そんなことない! そんなことないよ!」
沙希「ありがと由比ヶ浜。でもその時のあたしは本気でそう思った。そのまま消えてしまえばいいともね。でも…………」
いろは「でも?」
沙希「そこに比企谷が来たんだ」
結衣「え、ヒッキーが?」
沙希「ああ、弟から連絡受けたみたいでね、真っ先にそこに来たよ。都合の良い幻覚かとも疑ったけど寒がってるあたしを抱きしめてくれた。それがやけに暖かくて、恥ずかしいけどあたしはそこで気を失っちゃったんだ」
雪乃「……それで比企谷君は川崎さんを家に連れ込んだのね」
沙希「うん。元々はあたしの家に連れて帰ろうとしたんだけど、あたしが気絶する直前にそれを頑なに嫌がったんだ。だから比企谷の意志じゃないことはわかってほしい」
いろは「はー、なるほど……」
沙希「そして比企谷はあたしが寝てる間に色々してくれたよ」
結衣「え、い、色々って……?」
沙希「あたしを連れ帰って着替えやら身体を拭いたりやら……ああ、この辺は小町だから勘違いしないでね。そんであたしの親とも連絡を取って、一晩比企谷家にお世話になることになったのさ。これがあの日に泊まることになった真相だよ」
結衣「な、なーんだそういうことだったんだ、それならそうとヒッキーも言ってくれればいいのに」
沙希「いやいや、比企谷も言ってたけどあんた達が比企谷を偏見の目で見てまともに聞いてくれないからでしょ、だからあたしが直接話してるんじゃない」
いろは「へ、偏見だなんてそんな」
沙希「そう? 寝てる間に何かしたとか手を出したとか散々言われたって聞いたけど」
結衣「だ、だって男はみんな送り狼なんだよ! ヒッキーだって男だし!」
雪乃「由比ヶ浜さん、送り狼でなく狼よ。でも言ってることは間違ってないと思うのだけれど」
沙希「…………あんた達さ、比企谷をそんな男だと思ってるの? 寝てる女に悪戯するような男だって」
雪乃「…………」
結衣「…………」
いろは「…………」
沙希「あたしは思ってないよ。むしろ思ったら申し訳ない。だって…………」
いろは「……だって?」
沙希「あたしの世話を優先したから、比企谷は風邪を引いちゃったんだから」
結衣「えっ!?」
沙希「着替えさすのも身体を拭くのも、自分のことは構わずに……小町と一緒に世話を焼いてくれて、自分を後回しにしちゃって…………だから比企谷が風邪を引いたのはあたしのせいなの。本人は絶対認めないけど」
雪乃「川崎さん…………」
沙希(知らず知らずあたしの声は震え、雪ノ下が戸惑いながら名前を呼んでくる)
沙希(いけない、感情的になってしまった。このままじゃまた比企谷に迷惑をかけてしまう)
沙希「ごめん、大丈夫だから……ま、そんで一晩お世話になって頭を冷やして、翌朝帰って無事家族と和解した。こんなところさ」
雪乃「そう、御家族との問題がなくなったのはいいことね。でも比企谷君はどうして私達を頼ってくれなかったのかしら? 女性を泊めるなら特に一人暮らしの私なんか最適だとは思うのだけれど」
沙希「それは問題があたしと家族の事だからね。いたずらに多くの人を巻き込むのをあたしが嫌がると思ったんでしょ。事実だし、あの場に比企谷が来なかったらあたしは比企谷にも頼ってない。やや強引に連れられたからこそあたしは比企谷にお世話になることにしたんだ。こんなところだけど他に何か質問ある?」
いろは「じゃあ……はい」
沙希「何?」
いろは「川崎先輩がいた公園に真っ先に先輩が来たって言ってましたけど、先輩はどうして川崎先輩がそこにいるってわかったんですか?」
沙希「…………その質問必要?」
いろは「いえ、必要ではないですけど気になっちゃいまして」
沙希「そう。ま、あたしも知らないけど」
いろは「え?」
沙希「あたしもそれは気になったから聞いたけど、何となくってしか答えてくれなかった。だから知らない。無理に聞くことでもないし」
いろは「そう、ですか」
結衣「あのさ、サキサキ……ちょっとしつこいようだけどヒッキーとは何にもなかったんだよね?」
沙希「何があるっていうのさ?」
結衣「そ、それはその、うう……」
沙希「だいたいあんたらだってあいつと二人きりになることくらいあったでしょ。その時に何かされたの?」
雪乃「あら、私はあんな男に負けるほど弱くはないわよ。それは彼もわかっているから」
結衣「そういえばゆきのん合気道やってるんだっけ?」
沙希「そんなんで勝てるわけないじゃない。比企谷は強いよ」
いろは「え、先輩が強いって……部活も何もしてないじゃないですか」
沙希「むしろ何もしてないから身体を鍛えてるんでしょ。ぼっちだから一人でやらなきゃいけないことも多いし。そうでなきゃあたしを担いで何十分も雨の中歩き続けるなんて出来やしないって」
いろは「へえー……」
沙希「それに良い腹筋してたしね。同年代ではある方じゃないかな」
結衣「ふ、腹筋って、そんなのいつ見たの!?」
沙希「いつって、泊まった時だよ。自宅にいる男子なんてそんなもん…………ああ、そうか」
雪乃「? 何かしら?」
沙希「あんた達って男兄弟いないんだね。だから男に対する見方があたしと少し違うんだ」
結衣「どーいうこと?」
沙希「いや、これは言ってもわからないだろうからいいよ」
いろは「そう言われると気になるんですけど……」
沙希「ま、とにかく比企谷は見た目じゃわかんないけど結構力はあるよ。腕も贅肉とかそんなについてないし」
いろは「へー、あとで確かめてみましょう」
沙希「ほどほどにね。あたしが言ったことで比企谷に迷惑になるのは嫌だし」
いろは「はーい」
沙希「こんなもんかな? とりあえずわかってほしいのは、比企谷はちゃんと良識を持ってるってこと、周りが言うほどひどい人間でもないこと、だね」
雪乃「そんなこと……彼のことは良くわかっているわよ」
結衣「うん」
いろは「ですね」
沙希「わかってないよ」
雪乃・結衣・いろは「!」
沙希「ま、あたしもわかってないかもしれないけど…………もういいよね?」
沙希(誰も何も言わないのを確認し、あたしは立ち上がる)
沙希「紅茶、ごちそうさま。あたしはもう引き上げるから比企谷には誰か連絡してやってよ」
沙希(ドアを開けて外に出る。あー、ごめん比企谷……迷惑かけちゃうかもだけどこれは言わせて)
沙希「一応確認しとくけどさ、もし比企谷んちに泊まった時に何かあってもあんた達には関係ないよね?」
沙希(あたしはそう言って反応がある前にドアを閉め、すぐにそこを離れた)
沙希(最低だよね、あたしって…………)
八幡(由比ヶ浜からメールが来たので部室に戻ることにした。向かう途中川崎に会う)
八幡「おう、もういいのか」
沙希「うん、適当に話しておいた。えっとね……」
八幡(齟齬がないように会話を確認しておく。またボロが出ても面倒だしな)
沙希「そんなとこかな。あとあんたの筋肉がそれなりだって言ったから確かめてくるかも」
八幡「何をどうしたらそんな会話が出てくるんだよ……」
八幡(女子の会話力はよくわからん)
八幡「ま、いいや、また明日の朝な」
沙希「うん、また明日ね」
八幡「………………」
沙希「………………」
八幡「ちょっとやり直していいか?」
沙希「……うん」
八幡(俺は周りを見渡して人がいないのを確認する)
八幡「また明日な、沙希」
沙希「また明日ね、八幡」
八幡(俺達は微かに笑みを浮かべながらその場を別々に離れた)
ここまで
慰労会っつって飲みに連れ去られたけどんなことするなら普通に休みくれや。金一封やらボーナス査定+はいいことだが、結局終電駄目だし
とりあえず途中途中書いたのを投下。酔ってておかしいとこあるかもしれん。あまりに支離滅裂だったらなかったことにして書き直して投下する。なんかあったら容赦なく指摘してくれると嬉しい
寝る
またノシ
八幡(そんなわけで奉仕部に戻ってきたのだが)
雪乃「…………」
結衣「…………」
いろは「…………」
八幡(何だこの空気?)
八幡(川崎と何かあったのか? でもあいつは普段通りに見えたし……)
八幡(何か言葉を発しようとした時、珍しくドアがノックされた)
雪乃「どうぞ」
八幡(雪ノ下がいつものような凛とした声で対応し、ドアが開かれた)
義輝「八幡はおるか! 八幡はおるか! 八幡はおるか!」
八幡「ここにいるぞ! …………ってなんで唐突に魏延ネタなんだよ」
義輝「勢いだすまぬ。ところでお主に依頼したいことがあるのだが」
八幡「なんだ、またラノベの添削か?」
義輝「いや、そのう……お主の持ちキャラは確かB+であったよな?」
八幡「何だ格ゲーの方か。またチャレンジモードか?」
義輝「うむ、ランク条件付きなのでな……また相手を頼めないか?」
八幡「今日は予備校あるから無理だ。明日の部活後ならいいぞ」
義輝「おお本当か! では明日頼むぞ! お騒がせしたな皆の者!」
八幡(そう言って部室部室を出ようとする材木座。俺はそれを呼び止める)
八幡「ちょっと待った」
義輝「うん? 何だ?」
八幡「暇な時はちゃんと相手してやるから俺個人への頼み事は今度から電話なりメールなりでしてこい。奉仕部を通さなくていいから」
義輝「は、は、は、八幡がデレた!?」
八幡「デレてねえようるせえな。わかったか?」
義輝「しょ、承知した! 明日の夕方にまた連絡させていただくぞ!」
八幡(最後までうるさいまま材木座は部室を出て行った)
八幡「本当騒がしいやつだなあいつは…………ってどうした?」
八幡(雪ノ下達がぽかんとした表情でこっちを見ていた)
結衣「ヒ、ヒッキー、ちゅうにに対して態度が変わってない?」
八幡「あん? ああ、ちょっとな」
雪乃「どういう心境の変化かしら…………」
八幡「んなもんどうでもいいだろ」
雪乃「それもそうね」
結衣「いいんだ……」
八幡「で、川崎から話は聞いたか?」
雪乃「ええ……」
結衣「うん……」
いろは「はい……」
八幡「まあ確かにお前らの言う通り俺みたいなのが女子を家に入れるというのは世間体も良くないからな。言いたくなる気持ちはわかる」
結衣「そ、そんなことないって!」
八幡「慰めはいらねえからさ……一応親御さんの許可を得たりとその場で俺にできる最大限の努力はしたつもりなんだ。だからこの話はもう止めてくれ」
いろは「せ、先輩、あの、わたし達は本気で言ってるわけじゃ……」
八幡「いいから。もう蒸し返さないでくれ。終わった事だし当人達がそう言ってるんだから」
いろは「…………はい」
いろは(話も……聞いてもらえないんですね…………)
結衣(ヒッキーはサキサキを本気で心配して雨の中探しに行って……風邪引いてまで頑張ったのに…………)
雪乃(比企谷くんは本来褒められるべきことをしたのに、軽々しく責めたり偉そうに上から目線で窘めたりなんかして……怒って当然に決まっているわ…………)
八幡(あまりヘタに話すとボロが出て二人きりだったこととかバレかねんからな。多少強引でも打ち切らせてもらおう)
雪乃「…………」
結衣「…………」
いろは「…………」
八幡(なんだ? また空気が重苦しくなったぞ? 何か話題を……あ、そうだ)
八幡「そういえば例の川崎からの依頼だけどな、あれ今週で終わりにするわ」
結衣「えっ!?」
八幡「やっぱりあんなの長いこと続けるのは良くないだろ。まだ川崎には話してねえけど」
雪乃「そ、そう、じゃあ明日で終わりにするのね?」
八幡「いや、明後日野暮用で会うからその時に話すわ」
いろは「デ、デートですか?」
八幡「まあデートっちゃあデートかな。対外的には付き合ってる男女が出掛けるわけだし。フリだけど」
雪乃「どこに行く予定なのかしら?」
八幡「いや、どこだっていいだろ」
雪乃「変なところに行かないか心配をしているのよ。早く白状しなさい」
八幡「変なところってなんだよ…………さすがにアニメショップとかには行かねえぞ」
結衣「デートでアニメショップなんて有り得ないでしょ!」
八幡「まあ適当だよ。メシ食ってぶらぶらしようってだけだ」
いろは「うわー、色気がないですね……」
八幡「いいだろ別に」
いろは(まあその方がいいんですけど)
八幡「そういや一色、お前サッカー部はいいのか?」
いろは「あ、そうでした、そろそろ行かないと。では先輩方、失礼しますね」
八幡「おう」
雪乃「ええ」
結衣「またねいろはちゃん」
八幡(一色は慌ただしく出て行った。あいつも忙しいやつだよな……)
ここまで
ちなみに俺は高校時代に可愛くない海老名さんタイプとアニメショップデートをしたことがあります
やっぱり周りからすれば「ねーよ!」って突っ込まれました
またノシ
八幡(相変わらず依頼も来ず、適当にダラダラしてたらいつの間にか下校時間が近付いていた)
雪乃「今日はもう終わりにしましょうか」
結衣「うん。ねーゆきのん、たまにはどっかで夕ご飯食べてかない? あたしんち今日みんな帰るの遅くってさ」
雪乃「そうね……たまにはいいかしら」
結衣「やった! あ、ヒッキーも行こ!」
八幡「いや、俺彼女いるから他の女子とそういうのはちょっと」
結衣「だからフリでしょそれ!」
雪乃「知っている私達に通用する言い訳ではないわよ」
八幡「冗談だ。でもさっきも言ったけど俺は今日予備校あんだよ。誘ってくれたのは嬉しいけど今回はパスな」
雪乃「…………」
結衣「…………」
八幡「? 何だ?」
結衣「ううん! 何でもない! えへへ」
雪乃(比企谷君が……)
結衣(誘ってくれたのは嬉しいって言った!)
八幡「?」
八幡(二人とも何で笑ってんだ? 俺の顔に腐った目以外に何か付いてんの?)
八幡「よっ、と」
八幡(雪ノ下達と別れ、駐輪場で自転車に跨がる)
八幡(帰って軽く何か食って予備校か)
八幡(そう、予備校だ)
八幡(さっき川崎といつもの癖でまた明日、なんて言い合ったけど予備校で会うんだよな…………ちょっと気まずい)
八幡(まあそんな気にするものでもないのだが)
八幡(このまままっすぐ帰って…………いや、ちょっとだけ寄り道するか)
八幡(全然意味もない、ただ時間を潰してしまうだけの寄り道になるけどな)
八幡「………………」
沙希「………………」
八幡「何でここにいるんだ……」
沙希「何でここに来たのさ……」
八幡(いつも朝に川崎を自転車から下ろしてるこの公園)
八幡(何となく寄ってみたらベンチに川崎が座っていた)
八幡「いや、俺は何となく帰り道で遠回りして寄っただけで……」
沙希「あたしは今日直接予備校に行くつもりでさっきまで図書室にいたんだ。下校時間になったからここで少し時間潰してからバスで行こうと思ってて…………」
八幡「…………」
沙希「…………」
八幡「あー、俺んち経由していいなら一緒に行くか? 俺は予備校の準備してねえからさ」
沙希「うん、せっかくだしそうしようか」
八幡「よし、んじゃ後ろ乗れよ。とりあえずウチに行くから」
沙希「ん」
八幡(川崎は荷台に腰を下ろし、俺に掴まる)
八幡(それを確認して俺はペダルを漕ぎ出した)
八幡(…………)
八幡(…………やべ)
八幡(すっげえ嬉しい。顔がニヤケる)
八幡(こんな偶然で川崎といられるなんて)
八幡(薄暗くて良かった。一般人から見たら通報ものの表情だろうからな)
八幡(俺はほんの少しゆっくりと自宅を目指した)
サキサキ出してなかった!
追加投下
天使・戸塚きゅんや漢・材木座さんがウザイだと!?
八幡「よっ、と……じゃ、ちょっと待っててくれ。すぐに支度してくるから」
沙希「ん、いいよ急がなくて。時間余裕あるし」
八幡「おう」
八幡(我が家に到着し、自転車を川崎に預けて俺は家の中に入る)
小町「あ、お兄ちゃんお帰り。まだ少し時間あるよね、ご飯どうする?」
八幡「いや、着替えたらすぐに出るから帰ってから食うわ。ちょっと外で川崎待たせてるんでな」
小町「え、沙希さんが!?」
八幡「ああ、あいつと偶然帰りに会ってな、そのまま予備校行くって言うから一緒に行くことにしたんだ」
小町「うう……あのお兄ちゃんが……小町嬉しいよ」ジーン
八幡「大袈裟なやつだな……んじゃ着替えてくる」
小町「はーい…………あ、そうだ、えっと……」
八幡(自室で手早く着替え、予備校用のカバンを掴んで玄関に向かう)
八幡「じゃ、行ってくるわ」
小町「あ、お兄ちゃん、これ持ってって」スッ
八幡「ん? チョコレート?」
小町「うん、頭使うしお腹空いたらこれ食べて。沙希さんの分もあるから」
八幡「さすが小町、気が利くな。八幡的にポイント高いぞ」
小町「お兄ちゃんと未来のお姉ちゃんのためですから!」ビシッ
八幡「何だその敬礼は。あと気が早えっての。まだ本格的に付き合ってもねえのに…………ま、ありがとな。んじゃ行ってくるわ」
小町「はーい、行ってらっしゃい」
八幡「待たせたな、行こうぜ」
沙希「ん、大丈夫。よろしく」
八幡(俺は再び自転車に跨がり、川崎が腰に腕を回してくる)
八幡(何回やっても慣れねえなこれ。正面から抱き付かれるみたいに恥ずかしいってわけじゃないんだが…………心臓が高鳴ってるのがわかる。背中に耳くっつけられたりしたらバレちまうかもな)
沙希(……こんなふうにしてるとわかる比企谷の身体付き)
沙希(少し猫背で縮こまってること多いからぱっと見わかりづらいけど、結構がっちりしてるんだよね)
沙希(回してる腕からもお腹固いのわかるし、腕組んだ時も思いのほかしっかりしてた)
沙希(こういう意外性も比企谷の魅力かな……あたしにとっては、だけど)
沙希(奉仕部の連中に言ったの失敗だったかも…………)
沙希(はあ…………しかしいつになったらこれに慣れるんだろ。あたしすごいドキドキしちゃってる)
沙希(胸、無駄に大きいからちょっとくらい当たってもドキドキしてるのバレてないと思うけど…………抱きついてるのに平静を保ってるようにするの大変なんだよね)
沙希(比企谷はどうなんだろ、少しは意識してくれてるのかな?)
沙希(………………)
沙希(………………)ピト
沙希(!!)サッ
沙希(嘘……一瞬耳当てただけだったけど比企谷の心臓、すごい早かった)
沙希(平然としてるように見えるけど実は比企谷も…………)
沙希(…………ふふっ)
八幡「着いたぞ」キキッ
沙希「うん、ありがと」
八幡(予備校の駐輪場に着き、自転車を置いて川崎と並んで歩き出す)
八幡(今日のコマの内容を二人で確認しながら建物に入った)
八幡(ちょっと前までは顔を合わせても一言挨拶するくらいだったのに)
八幡(思えば同じ予備校に通ってるというのも結構幸運だよな……)
八幡「あ、そうだ、川崎、これやるよ」
沙希「え、チョコ?」
八幡「小町がくれたんだ。お腹空いたら足しにしろって」
沙希「いいの?」
八幡「お前の分も貰ってんだ、遠慮すんなよ」
沙希「うん、じゃあ貰っとく。小町にお礼言っといて」
八幡「おう」
八幡(俺達は席に着いて準備していると講師が入ってくる。さて、スカラシップのためにも自分のためにも頑張りますかね…………数学以外)
八幡(今日の分の講義が終わり、片付けをしていると川崎がすまなそうに話し掛けてきた)
沙希「ねえ比企谷、さっきの古文でよくわからないとこあったんだけど…………時間ある?」
八幡「おう、いいぜ。自習室行くか」
沙希「ごめんね」
八幡「いいって」
八幡(これで少しでも長く一緒に居られることに喜んでしまう単純な俺がいる)
八幡(自習室に移動して空いてる席を見つけて座り、参考書を広げる)
沙希「これの変化形の時は~」
八幡「この場合~」
沙希「ふんふん」
八幡(川崎も頭は良い方なので説明するとあっという間に理解していく)
八幡「~ってわけだ。あとは何かあるか?」
沙希「いや、もう充分。あとは復習すれば自分でわかると思う」
八幡「そか。まあわからなかったらまた聞いてこいよ、教えられるとこなら教えてやるから」
沙希「うん、よろしく。じゃ、帰ろっか」
八幡「おう」
八幡(俺達は荷物をまとめ、予備校を出た)
八幡(駐輪場に行き、二人乗りをして比企谷タクシーは走り出す)
八幡「そういやちょっと聞きたかったことあったんだが」
沙希「ん、何? スリーサイズ?」
八幡「聞けば教えてくれんのかよ…………そうじゃなくて昼の奉仕部での話なんだが」
沙希「うん」
八幡「俺が部室に入った時、ちょっと妙な雰囲気だったんだけど、お前何か言った?」
沙希「あー…………」
八幡「心当たりありそうだな」
沙希「ん、少しね」
八幡「俺が聞いてもいい話か?」
沙希「大したことじゃないよ。比企谷の悪口をちょっとは控えて欲しいって言ったの」
八幡「いや、別に俺がディスられるのはいつものことだぞ。俺自身気にしてねえし」
沙希「わかってるよ、あたしがイヤってだけ」
八幡「え?」
沙希「あたしがイヤだったんだよ…………」ギュッ
八幡「そっか…………その、サンキューな」
沙希「ん」
八幡(そこからは何も会話はなく、川崎の家に到着した)
八幡(例によって周りを見回し、人がいないのを確認する)
八幡「じゃあな沙希、また明日」
沙希「じゃあね八幡、また明日。小町によろしく」
八幡(手を振って別れ、俺はペダルを漕ぎ出す)
八幡(…………明日は金曜……いよいよ明後日、か)
今日はここまで
また明日ノシ
八幡「ふぁ…………んー」
八幡(朝である。身体を起こし、伸びをする)
八幡(カーテンを開けて天気を確認したあと、階下に降りた)
小町「あ、お兄ちゃんおはよー」
八幡「おう、おはよう」
小町「最近お兄ちゃん自分で起きるようになったよね。やっぱり沙希さん効果?」
八幡「だろうな。万一遅刻したら申し訳ないし朝から会いたい気持ちめっちゃ強えし」
八幡(小町の用意してくれたトーストにジャムを塗りながら答える)
小町「何かもうすごい自然にそういうこと言うよね。聞いてるこっちが恥ずかしくなっちゃう」
八幡「小町の前だけだがな。川崎本人の前だとヘタレるし他のやつだと面倒なことになりそうだし」モグモグ
小町「そういえば明日告白するんだっけ?」
八幡「おう、一応映画のあとかなと思ってるが。ま、流れ次第だな」
小町「じゃあ今日はどっちにしても最後の普通の日ってわけだね」
八幡「そうだな。成功して幸せになるか、失敗して不幸のどん底に落ちるか…………」
八幡「………………」
八幡「な、なあ、小町」
小町「ここまで来て怖じ気付いてやめるなんて言ったら縁を切るからね」ニッコリ
八幡「お、おう」
八幡(笑顔なのに怖い)
八幡「んじゃそろそろ行くわ」
小町「うん、沙希さんによろしくー」
八幡(小町に見送られて俺は家を出た)
八幡(もしかしたら朝川崎んちに向かうこの習慣も今日で最後になるかもしれない)
八幡(明日失敗したらすべてが崩れてしまう。ならいっそのこと現状維持の方がいいのかもな)
八幡(でも、それでも)
八幡(俺は川崎に伝えたい。俺が川崎に抱いてるこの想いを)
八幡(この胸の奥でくすぶってる気持ち、ひとかけらも残さずさらけ出してやるよ。こんなふうにさせたのはお前なんだから覚悟しとけ、川崎沙希)
八幡(…………到着、っと)キキッ
沙希「あ、来てたんだ。ごめん、待った?」
八幡「いや、ちょうど今来たとこ。タイミング良かったわ」
沙希「そう? そんじゃ今日もお願いします運転手さん」
八幡「かしこまりましてございますお嬢様」
八幡(川崎は俺の言葉にクスッと笑い、荷台に乗る)
八幡(………………)
八幡(……い、今の笑顔)
八幡(すっげえ可愛かった)
八幡(付き合うフリをするようになってから笑ってるとこなんてたくさん見てるのに)ドキドキ
沙希「比企谷?」
八幡「ああ、すまん。行くぞ、しっかり掴まっとけ」
沙希「うん」キュッ
八幡(俺はペダルを漕ぎ始める)
八幡(最後かもしれないと思うとこの風景も名残惜しいぜ)
八幡(…………いかんいかん、自然にネガティブな方に思考が寄ってる。切り換えないと)
八幡(何としても成功させて川崎ともっと親密になってやる)
八幡(一緒に登下校したり弁当食べさせ合ったり休日に出掛けたり……あれ? 変わってなくね?)
八幡(ま、そりゃそうだ。フリで行動してんだからやることは同じに決まってる。違うのは心持ちだな)
八幡(どうなるかわかんねえけど)
八幡「うん、頑張ろう」
沙希「何を?」
八幡(…………声に出てた)
八幡「ま、色々とな。気にしないでくれ」
沙希「?」
一旦ここまで
今日はもう一回投下したいけど来れるかわからないのでとりあえず
またノシ
優美子「おーい、ヒキオ! ちょっとこっち来るし!」
八幡(突然炎の女王こと三浦優美子に呼ばれたのは三限と四限の間の休み時間だった)
八幡(ていうか大声で呼ぶの止めてもらえませんかね。目立っちゃってるじゃないですか)
優美子「早くしろし!」
八幡(行きたくねえ……でも断ったり無視したりするともっと面倒臭くなりそうだ、仕方ねえ)ハァ
八幡「何だよ、金ならないぞ」
優美子「カツアゲなんかするわけないっしょ! あんたさ、なんか力あるらしいじゃん? ちょっと隼人達と腕相撲してみ?」
八幡「はあ? 何だよ突然」
隼人「結衣に聞いたんだ。鍛えてるんだって?」
八幡「んな大したことはしてねえよ、運動部に勝てるわけねえだろ。だからやんねえ」
隼人「まあまあそう言わずに。な?」
八幡「面倒くせえな……わかったわかった、一回だけな」ジロッ
八幡(余計なことを言った由比ヶ浜を睨むと、由比ヶ浜は舌をペロッと出して手を合わせて謝るポーズをする。可愛いじゃねーかちくしょう、川崎がいなかったら惚れちまうとこだったぞ)
隼人「じゃ、俺が相手するよ。お手柔らかにな」
翔「頑張れ隼人くん! サッカー部腕相撲大会優勝の腕力見せてやれー!」
八幡(何でサッカー部が腕力競い合ってんだよ…………てかいつの間にかクラス中がこっち注目してるし)
八幡(ま、どうせみんな葉山の格好いいとこを見たいんだろ。さっさと負けるか)
彩加「八幡頑張ってー!」
八幡(ちょ、ちょっとだけ頑張ろうかな……?)
隼人「よし、やるか」
八幡(葉山が机に肘を付けて構え、左手で机の端を掴む。俺も同じ体勢になり、葉山と手を握り合う)
八幡(横で叫びながら写メを取る海老名さんを視界に入れないよう顔を背けると、席に着いている川崎と目があった)
八幡(興味なさげだが、俺にぐっとガッツポーズをする。頑張れってことか?)
八幡(どうせみんな葉山が勝つと思ってるだろう。それを覆したら少しは格好よく見えるだろうか? クラスの誰でもない、川崎の目に格好よく写るだろうか?)
八幡(…………頑張ってみるか)
優美子「まだ力入れるなし。ほらヒキオ、力むなって」
隼人「やる気みたいだね。でも負けないよ」
八幡「ぼっちで文化部の俺に負けたら恥ずかしいぞ、せいぜい頑張れよ」
優美子「レディー……」
優美子「ゴー!」
八幡「ふっ!」
隼人「くぅっ!」
八幡(な、なんだコイツ!? すげえ力だ! ピクリとも動かねえ!)グググ
隼人(何だと!? 体格的には俺の方が有利のはず! 筋力は彼の方があるというのか!?)グググ
八幡(気を抜くと一気に持って行かれそうだ! 踏ん張れ俺! 戸塚と川崎が見てるぞ!)グググ
隼人(比企谷、君は実に意外性のあるやつだな! でも俺にもプライドがある! 負けない!)グググ
優美子「う、嘘、あのヒキオが……隼人と互角に…………」
翔「すげぇ! ヒキタニ君マジパネェ!」
姫菜「ふ、二人が手を繋いで熱く見つめ合って…………キマシタワー!」ブシャァァ
八幡(そんな外野の声は耳に入らず、少しでも有利な角度や体勢を求めて腕の力に神経を集中する)
八幡(が、意外な形で勝負は終わった)
平塚「もう授業の時間だ、さっさと席に着かんか」パコンパコン
隼人「うっ」
八幡「あう」
八幡(頭頂部に衝撃を受け、俺達は手を離してしまった。見上げると平塚先生が出席簿を持って立っている。どうやらあれで頭をはたかれたらしい)
八幡「ふう……じゃ、もういいな?」
隼人「ああ、時間を取らせたね」
八幡(これ幸いと俺は立ち上がり、さっさと席に戻る)
八幡(腕が痛え……)
沙希「や。さっきは凄かったね」
八幡(昼休みになり、いつもの中庭に行くと真っ先に川崎はそう言った)
八幡「勘弁してくれ。ちょっとムキになってめちゃくちゃ疲れた……腕が力入んなくて震えてんだけど。はぁ……」
八幡(俺は川崎の隣に座り、大きく溜め息をつく)
沙希「いいじゃない。みんなちょっと意外そうな目で見てたよ。マイナス方面で見られるよりいいでしょ?」
八幡「どんな形であれ目立つのは嫌なんだよ…………」
沙希「でも引き分けだったら比企谷にとっては勝ちみたいなもんでしょ。あたしは応援してたし嬉しいよ」
八幡「おう…………その、お前が応援してくれたから少し頑張ったんだわ。格好悪く見られたくないからな」
沙希「うん、格好良かったよ。御褒美あげようか?」
八幡「ん? 何かくれるのか?」
沙希「お弁当、あたしが食べさせてあげる。箸も掴めそうにないんだったらちょうどいいでしょ」
八幡「そう、だな……力が入らないんだから仕方ねえか」
八幡(仕方ないわー、箸も持てないんだからマジ仕方ないわー)
沙希「何から食べる?」
八幡「じゃあとりあえず玉子焼きから」
沙希「ん、はい、あーん」
八幡「あー……」パク、モグモグ
沙希「美味しい?」
八幡「そりゃもう。元から美味いうえに川崎みたいな美少女に食べさせてもらってんだからな」
沙希「ふふ、ありがと」
八幡(そんな風に川崎の手で昼飯を食べたためいつもより時間がかかったものの、まだ五限まで多少の時間はあった)
沙希「今日もいらない? 明日に取っとく?」
八幡(川崎は自分の太ももを指しながら聞いてくる)
八幡「ああ、そうだな…………いや、今日はお前が来いよ」
沙希「え?」
八幡「たまにはいいだろ、ほら。この前言ってたし頭も撫でてやるよ」
八幡(俺がベンチの端に寄って太ももを叩くと、川崎はしばらく逡巡したあと、ゆっくりと身体を倒す)
沙希「お、お邪魔、します」
八幡「おう」
八幡(そっと俺の脚に乗せられた頭を左手で撫でてやる)
沙希「ん…………」
八幡(川崎はピクッと身体を震わせた)
八幡「あー、嫌だったら言ってくれな」ナデナデ
沙希「ううん、平気……もっと、して」
八幡「おう」ナデナデ
八幡(相変わらず手触りいいなこいつの髪。シュシュ外してねえから手櫛は出来ねえけど)ナデナデ
沙希「ん……気持ち、いい」
八幡(なんかエロいな)ナデナデ
八幡(こうして俺は予鈴が鳴るまで川崎の頭を撫で続けてやったのだった)
今日はここまで
ストーリーとしては微妙だと思うし八幡ageが強過ぎと感じる
それでも「サキサキが見てる前で頑張る八幡」が書きたかったんや…………
また明日ノシ
八幡(さて、放課後になった)
八幡(いや、改めて言うほどのものでもなく、奉仕部に行くだけなんだがな)
八幡(由比ヶ浜みたいにお喋りするような相手もいない俺はさっさと教室を出る)
沙希「あ」
八幡「お」
八幡(廊下で川崎と鉢合わせた。こいつも似たような立場だもんな)
八幡(……ここで別れたら次に会うのは明日の昼か)
八幡「もう帰るのか?」
沙希「うん、今日は早く帰って家の事をやらないといけないから」
八幡(買い物とかもないんじゃ俺が必要な理由はない、か)
八幡「そうか。なら下駄箱んとこまで一緒に行こうぜ」
沙希「え、奉仕部はいいの?」
八幡「ちょっと遠回りするだけだ。早く行ったってやることなんかねえし」
沙希「そう……じゃ、一緒行こ」
八幡「おう」
八幡(俺は川崎と並んで歩き出す)
八幡「明日は朝11時くらいでいいんだよな?」
沙希「うん。でもちょっとくらい前後してもいいよ。結構適当なスケジュールなんだから」
八幡「ああ。じゃ、お前んちに着く15分くらい前にメール入れるわ。歩いてくからそれでもちょっとズレるかもしんねえけど」
沙希「え、自転車で来ないの?」
八幡「駅前とかぶらつくなら邪魔だろ。歩けない距離じゃないし」
沙希「ウチに置いとけばいいのに」
八幡「最後にはお前を家まで送るだろうからそれでもいいんだけどな」
沙希「ま、それは比企谷に任せるよ」
八幡「おう。明日俺が用意するもんとか必要なのあるか?」
沙希「そうだね……映画や夕御飯の資金とあたしへの愛情くらいじゃない?」
八幡「ああ、それはたっぷり持って行くから安心しろ」
沙希「うん。それじゃここで」
八幡「おう、また明日な」
八幡(下駄箱に着き、俺は川崎と挨拶して別れる。さすがにここで名前を呼ぶわけにはいかない)
八幡(さて、奉仕部行くか。あ、その前に図書室に寄って……)
八幡(………………あれ?)
八幡(なんか最後に恥ずかしいやり取りがあったような)
八幡(…………気のせい気のせい)
沙希(た、たっぷりって言ってた…………お金の話だよね?)ドキドキ
八幡(図書室で本を借り、奉仕部に向かう)
八幡「よっす」ガラガラ
雪乃「こんにちは」
いろは「こんにちはです」
結衣「やっはろー、あたしより先に出てたのに遅かったね。どこ行ってたの?」
八幡「ちょっと図書室に本を借りにな。んで一色、お前毎日のように来てるけどいいのかよ?」
いろは「あ、今日はちょっと先輩に聞きたいことがあって来たんですよ」
八幡「あん? 聞きたいこと?」
いろは「はい、先輩が葉山先輩と引き分けたって噂がありますが本当ですか?」
結衣「あ、もういろはちゃんも知ってるんだ?」
八幡「なんで知ってんだよ…………」
雪乃「比企谷君と葉山君? 何かあったのかしら?」
いろは「何でもお二人が腕相撲をして決着が着かなかったらしいですよ。結衣先輩は見てたんですよね?」
結衣「うん、この前サッカー部の腕相撲大会で隼人君が優勝した話になってね。隼人君鍛えてるって言ってて、あたしがヒッキーも鍛えてるらしいよって言ったら優美子が隼人君と勝負させようって」
八幡「そこだよ。俺を話題に出すなよ。面倒臭いことに巻き込まれたじゃねえか」
結衣「えーでもヒッキーもノリノリだったじゃん」
八幡「誰がだよ、あんなリア充達の前に引きずり出しやがって…………」
いろは「でもやったんですよね?」
結衣「うん、優美子の合図で勝負始まったんだけどそこから凄いの二人とも。見てる方が疲れるくらい力入っててさ、ずっと動かないの。授業始まって平塚先生来てお流れになったけど」
いろは「へえー、葉山先輩って相当力ありますよね。それで互角なんですか、すごいじゃないですか先輩」
八幡「うるせえ、ついムキになった自分を今反省してんだから話しかけるな」
雪乃「反省って、別に悪いことをしたわけではないのでしょう?」
八幡「ぼっちにとっては目立つこと自体が悪なんだよ。だいたい葉山相手だったら何をしたってこっちにとってプラスにならんからな。そういった意味じゃ引き分けってのはベターだったかもしれん」
雪乃「ベストは?」
八幡「そもそも勝負をしないことだ。何もないのが一番いい」
結衣「えー、そんなのつまんないじゃん」
八幡「お前らはそれでいいかもしれんが、巻き込むなよ」
いろは「まあまあ。でも聞く限りそんな悪い噂は流れてませんよ。葉山先輩相手だからあれですけど、ただ単に腕相撲で引き分けたってだけなんですから」
八幡「とにかく、今度からは俺を話題に出すなよ」
結衣「えーっと、こういう時は善処します、って言えばいいんだよね?」
八幡「こら、政治家みたいな返答はよせ。やめる気が全然ねえってことじゃねえか」
いろは「しかし葉山先輩と互角ですか。ちょっと失礼しますね…………ってうわっ、何ですかこれ! 改めて触るとすごい固いじゃないですか!」ニギニギ
八幡「おい腕掴むな離せ。ぼっちにそういうことをするな。慣れてねえんだから挙動不審になるだろ」
いろは「今まで気付かなかったですけど、ええー……何でこんなに鍛えてるんですか?」サワサワ
八幡「話聞け。離せよ…………昔からなんやかんや力仕事押し付けられたり二人で協力しなきゃいけないのを一人でやってたからな。多少は鍛えてないとやってらんねえんだよ」
いろは「いやいや、多少どころじゃないですこれ。今まで数多く触った男子の中でもトップクラスですよ。こんなんだったら襲われても抵抗なんかできませんね」サワサワ
八幡「誰が襲うか。あとさり気なくビッチ宣言しやがって…………離せって」グイッ
いろは「ああっ、凄かったのに……じゃあ葉山先輩もそれくらいの筋肉があるんですかね?」
八幡「あいつは俺より体格がいいからな、その分違うだろうが…………触ったことないのか?」
いろは「じっくりとはありませんねー。すぐにやんわりと振り払われちゃうんで」
八幡「なんだかんだあいつもガード固いな…………てか、サッカー部はいいのか?」
いろは「あ、そうでした、そろそろ行きます。では先輩方、今日はこれで失礼します。先輩、また触らせてくださいね」ガラガラ、ピシャ
八幡「誰が触らすか……ってもう行っちまいやがった」
結衣「ね、ねえヒッキー…………」
八幡「あん?」
結衣「ちょ、ちょっとあたしにも触らせてくれない?」
八幡「はあ?」
今日はここまで
ついに900超えたか……キリ良くデート編は次スレから行きます。それまではこの日の話と埋めネタで
また明日ノシ
八幡「出やがったな元祖ビッチ宣言。だが断る」
結衣「何でだし!? いろはちゃんには触らせてたじゃん!」
八幡「あいつが勝手にやってきたんだ、許可を出した覚えはない」
結衣「ううー……いいじゃん減るもんじゃないし!」
八幡「あのな、逆の立場で考えてみろ。俺がお前の身体を触りたいって言ったら拒否するだろ?」
結衣「えっ、あ、あたしの身体を触りたいって、何言ってるの!? ヒッキーのスケベ! 痴漢! 変態!」
八幡「某政党並みにブーメラン返ってるからなそれ」
雪乃「比企谷君、少しいいかしら?」スタスタ
八幡「ん?」
雪乃「私の右肘、少し掴んでみてくれない?」スッ
八幡「? こうか?」ギュッ
雪乃「ええ。ところで比企谷君、あなたは私の腕に触ったわね? なら私があなたの腕に触れることに対して文句は言えないわよね」
結衣「なっ!」
八幡「おいそれは卑怯だろ。お前がやれって言ったからやったんだろうが」
雪乃「黙りなさい。私には部長として部員たるあなたの身体能力を把握しておく義務があるのよ」
八幡「何で文化部でそんな必要があるんだよ。今までそんなこと一回も言ってなかったじゃねえか」
雪乃「それにここであなたと二人きりになってしまうこともあるわ。いらぬ危険を回避するためにも知っておいた方がいいのよ」
八幡「だから襲わねえっつってんだろ。襲うつもりならとっくにやっとるわ」
雪乃「あら、今は我慢できても日々成長する私の美しさに抑えがきかなくなるかもしれないじゃない」
八幡「襲いたい気持ちがある前提で話すな。てか成長してんのお前? …………ひっ」ビクッ
八幡(つい雪ノ下の胸元に視線が行ってしまったが、ものすごい冷たい目で見られた。やめて! 石化しちゃう!)
結衣「ヒ、ヒッキー、ちょっとあたしの腕を掴んでくれない?」
八幡「いや、この流れで掴むわけねえだろ馬鹿かお前」
結衣「馬鹿じゃないし! 何でもいいから早く触らせてよ!」
八幡「もう取り繕わなくなってきたな…………あのな、俺彼女いるから他の女子にみだりにそういうことはさせられないんだ」
結衣「だからフリでしょ!」
八幡「そうだな。でもこの前の写真事件の時に言っただろ。軽はずみに女子と接触するのは極力避けるって。さっきはすげえ自然な流れでやられたから雪ノ下の肘は掴んじまったけど」
雪乃「…………そういえばそうだったわね」
八幡「それを約束したお前らに破らせるわけにはいかねえよ。一色にも少し強く言っとかねえとな」
結衣「あ、えっと……それはあたしが言っとくよ。ヒッキーは言わなくていいから」
八幡「ん? いや、こういうのは本人が言った方がいいだろ?」
結衣「だって、この前みたいになって、いろはちゃんまた泣いたりしたら可哀想じゃん」
八幡「え、何、あいつ泣いたの?」
結衣「あっ」
八幡「うわーマジか…………今度謝っとかねえと」
雪乃「いえ、やめておきなさい。それこそ蒸し返されるより忘れてもらった方が一色さんのためでもあるわよ。そもそもあれは一色さんの方に非があったのでしょう?」
八幡「ん、そうか…………」
八幡(泣くほど怖がらせちまった…………というか俺がそこまで怖かったのか)
八幡(今ならわかる。何で俺があんなに怒ったのか)
八幡(多分、あの時にはもう本気で川崎に惚れていたんだろうなあ)
雪乃「比企谷君?」
八幡「ん、ああ。とにかく俺の身体に触るのは止めてくれ。精神的にも良くないからな」
結衣「うー……」
雪乃「まあ今日のところは引いてあげるわ」
八幡「何で上から目線なんですかね…………次もねえから」
雪乃「でも実際どうしてそんなに鍛えているのかしら? さっき言っていたのが理由とは思えないのだけれど」
八幡「あー…………あれも嘘じゃないんだがな、一応自衛も兼ねてのことだ」
雪乃「自衛?」
八幡「中学生あたりだと俺みたいなのがイジメの対象になりやすいだろ? 最低限の反撃ができるくらいにはなっとかないとって思って小学校卒業辺りから鍛えだしたんだ」
結衣「イ、イジメって」
八幡「どこにでもあるだろそんなもん。まあ幸い暴力的なものはなかったし話くらいはしてくれてたから必要なかったんだが…………むしろそのせいで勘違いして色々黒歴史を作っちまったなぁ」
八幡(話し掛けられるだけで好意を持ったりとか…………今考えると有り得ねえよな。あの頃は若かった)
八幡「でも筋トレはもう習慣になっちまったし部活もやってなくて時間はあったからな、そのまんま続けてるわけだ」
雪乃「まさに文字通り継続は力なり、ね」
八幡「結局荷物持ちくらいにしか役に立ってないけどな」
八幡(…………ああ、いや、この前役に立ったか。川崎をウチに運んだとき)
八幡(あの時は鍛えておいて良かったと思ったもんな)
ここまで
思った以上にどうでもいい話をだらだらやってしまった
しかし週末デート編を次スレにする以上サキサキが出せないつらい
しかもこのあと材木座とのデートか…………よっしゃ!頑張ろう!
またノシ
乙乙
あーしさんスレが完結したから今後はこのスレだけが癒しだ…
八幡「待たせたな」
義輝「おお、待っておったぞ。早速例のを頼む」
八幡「あいよ。お互い一回ずつスパコンKOでいいんだな」
義輝「うむ」
八幡(奉仕部が終わり、材木座と連絡を取った俺はゲーセンにやってきていた)
八幡(格ゲーで依頼された条件を達成しつつ、闘う)
八幡(材木座のキャラはローリングアタックがガードされると確反だから注意しないとな。というか修正が入るたびに弱体化していく俺のキャラは何なんですかね。イジメ?)
八幡(条件を満たしたあとはお互い押しつ押されつで何プレイかしたが、混んできたので一旦離席して休憩スペースに向かう)
義輝「お主はいつも通りマックスコーヒーで良かったか?」
八幡「ああ…………いや、今日は俺が出そう」
義輝「ぬ、しかし依頼料を払わねば我の気がすまぬぞ。普通にやったらなかなか達成できぬものを果たせてもらったのだからな」
八幡「遠慮すんな。変わりにちょっと俺の話を聞いてくれればいいさ。コーラでいいんだな?」ピッ、ガコン
義輝「そうか、なら戴くとしよう」
八幡「おう…………その、この前はサンキューな」
義輝「我は何もしておらぬ。何かを言ったとしても実際に動いたのは八幡自身ではないか」
八幡「いいんだよ、俺が言いたいだけなんだから」
義輝「そうか…………で、例の川崎女史とはどうなったのだ? むろん言いたくないなら言わなくてもよいのだが」
八幡「ああ、明日昼から会う予定だからさ。そん時にガチ告白をしようと思ってる」
義輝「ほう。しかし良いのか? 我にそれを言っても」
八幡「むしろ事情を知ってるやつには言っておきたいんだよ。自分を追い込んでねえと直前でヘタレる可能性があるからな…………」
義輝「それだけ今の状況が心地良いということであろうな。しかしその中途半端なぬるま湯から出ようという心意気は充分に立派だと思うぞ」
八幡「………………なあ材木座、お前本当に材木座?」
義輝「…………くくく、バレてしまっては仕方ない。実はこの前までの我は仮の姿! しかし真の力に目覚めた我は」
八幡「やっぱいい。そのウザさは間違いなく本物だわ」
義輝「八幡!?」
八幡「ま、あの言葉があったから俺はそうすることにしたんだ。偽物の方が価値があることもある、か…………目から鱗だったよ」
義輝「うむ、良い言葉であろう?」
八幡「でもどうせなんかのゲームかラノベキャラのセリフのパクリだろ? どんなキャラだ?」
義輝「女子中学生に詐欺を仕掛けて小金をせしめる詐欺師だ」
八幡「おい!」
八幡(思わずツッコミを入れてしまった)
八幡(そこからしばらく雑談して、時計を見ると結構な時間になっている)
八幡「あー……そろそろ俺は帰るわ。明日の準備もあるし」
義輝「む、そうか。リア充爆発しろと言いたいところだが、我慢して成功を祈っておる」
八幡「どっちだよ………………なあ、材木座」
義輝「何だ?」
八幡「お前が友達で、良かったわ」
義輝「…………え?」
八幡「なんだ、違ったか?」
義輝「は、は、はち゛ま゛~ん゛!」ガシッ
八幡「うぜぇ引っ付くな、俺に引っ付いていいのは川崎と小町と戸塚だけだ」グイッ
義輝「うおお……は、八幡が我を友と……」グスングスン
八幡「ま、なんだかんだお前とは結構つるんでるし色々世話にもなってるしな。そういう関係じゃないっつっても無理があるだろ」
義輝「うう…………よ、よし、ならば友として明日の健闘を祈らせてもらおう」
八幡(材木座はそう言って拳を突き出してきた。俺は自分の拳をそれに当てる)
八幡「んじゃ頑張ってくるわ。失敗したら慰めパーティーでも開いてくれよな」
義輝「大丈夫、お主なら上手くいく。頑張るがよい」
八幡(俺は材木座と何度か拳を突き合い、別れを告げてゲーセンを出る)
八幡(もうすっかり暗くなっており、空を見ると星がいくつか瞬いていた)
八幡「明日も晴れそうだな……」
八幡(俺は自転車に乗り、ペダルを漕ぎ出した)
一旦ここまで
あとは適当に埋めます
1000行ったらhtml依頼っていらないんでしたっけ?
どうでもいい情報:作中で八幡達がやってるのはウル4です
>>936
あーしさんスレ終わっちゃったね……寂しい
沙希「ん、こんなもんかな」
沙希(あたしは自分の部屋で明日の準備をしていた)
沙希(といっても大したものではない。家にいるときの服と出掛ける時の服を決めるくらいだけど)
沙希(明日は比企谷がウチに来る。以前来たときとは違い、二人っきりだ)
沙希(あたし以外はみんな朝から出掛けてしまう。そんで夕方まで帰ってこない)
沙希(もし比企谷に襲われても抵抗できないよね…………)
沙希「って、ないない!」ブンブン
沙希(変なこと考える前にさっさと寝ちゃお!)
沙希(電気を消してベッドに入る。だけど緊張してなかなか寝付けない…………遠足前の小学生かあたしは)
沙希(比企谷…………)
沙希(二人きりだからって女の子を襲うようなやつじゃないのはわかってる。でも…………)
沙希(…………この指が比企谷のだったらいいのに)
沙希「………………」モゾモゾ
沙希「ん………………」クチュ
沙希「ん……ん…………」クチュクチュ
沙希「ん、あ………………」クチュクチュ
沙希「ん………………んぅっ!」ビクンッ
沙希「ん……ふ…………ぅ」ポー
沙希「はぁ………………」クッタリ
沙希「また……比企谷でしちゃった…………」
沙希(あたし、いつからこんなふうになっちゃったんだろ…………比企谷のせいだよまったく)
沙希(責任、取ってよね…………)
沙希(………………お休み、八幡)
やっぱりサキサキ出しとこう
一日一沙希
まあ意味ない内容の投下だしただの自己満足、作者のオナニーやね
また明日ノシ
ちょっと埋め小ネタを投下します
~陽乃さんの暗躍~
陽乃「おっかしいなあ…………いくら調べても比企谷君の彼女の正体が掴めない」
陽乃「カワムラサキ……カワムラサキ……うん、やっぱりクラスメートどころかどの学年にもいない」
陽乃「カワムラって子はいてもサキって呼ばれそうな名前じゃない」
陽乃「雪乃ちゃんやガハマちゃんの反応から察するに嘘じゃないと思うんだけど本人達には聞きづらいし…………うーん」
陽乃「ん? 同じクラスに川崎沙希?」
陽乃「いや、ないか。恋人の名前を間違えるなんて」
陽乃「! そうか、面倒事を避けようととっさに嘘を付いたんだ!」
陽乃「クラスメートというのは嘘で、多分学外の人間。目撃されたのは校門のあたりだから部外者でもおかしくない」
陽乃「考えてみれば悪評が広まってる比企谷君があの学校で奉仕部以外の女子から好意を持たれることはないよね」
陽乃「ならきっと近隣の高校の生徒のはず…………よし、すぐに名簿を手に入れないと」
陽乃「カワムラサキ…………本当に雪乃ちゃん以上に比企谷君に相応しいかきっちり確かめさせてもらうからね」
※こんなことをしてるから陽乃さんは本編には関わってきません
~さーちゃんとけーちゃん~ in川崎家居間
京華「ねーねーさーちゃん」
沙希「ん? 何、けーちゃん?」
京華「さーちゃんはいつはーちゃんとけっこんするの?」
沙希「んなっ!? 何を言ってんのけーちゃん!?」
京華「え、だってすきなひとどうしってけっこんするんでしょ。さーちゃんははーちゃんきらいなの?」
沙希「えっとね、お互い好きってだけじゃ結婚はできないの。年齢とか生活のこととか」
京華「じゃあさーちゃんははーちゃんすき?」
沙希「う…………そ、そうだね、別に嫌いじゃないよ」
京華「あんまりすきじゃないんだ…………」ショボン
沙希「っ! ……あーもう! 好きだよ、あたしはあいつが大好きだって!」
京華「ほんと!?」
沙希「ほんとほんと。結婚したいくらいね」
京華「やった! はやくけっこんしていっしょにくらそ!」
沙希「え、あー……それはどうかな…………」
京華「こんどはーちゃんにもおしえなきゃ! さーちゃんがはーちゃんとけっこんしたいって!」
沙希「ちょ、ちょっと待って! それはダメ!」
京華「なんでー?」
沙希(くっ、何を言っても無駄そう……こうなったら)
沙希「あのね、実はもう結婚する約束してるの」
京華「え、そうなんだ!」
沙希「うん、だけど恥ずかしいから秘密にしてるんだ。だからけーちゃんが誰かに言っちゃうとなかったことになっちゃうかもよ」
京華「え……うん、わかった。だれにもないしょ」シー
沙希(これで時間稼いで……何とかしないと)
川崎母(あの子、台所に私がいるのわかってるのかしら?)
次スレは980超えたくらいでいいかなって
スレタイは……まあ捻らずにここのスレタイに『2』をつけるくらいでいいか
また明日ノシ
このSSまとめへのコメント
がんばれ
前の奴も好みだったからこれは嬉しい
続きも期待してます!
おもしろい
がんばれ
元スレ確かに変なのが湧いてるな
やる気そがれなきゃいいけど・・・
八幡「なんだ、かわ……川越?」沙希「川崎なんだけど、ぶつよ?」2で続き書いてるよ
この作者面白い。
がんばってください
本当にありがたい。是非ともどんどん川崎沙希のSSを増えたらいいな。