魔王「邪神の封印を解いた結果」 (459)
魔方陣から伸びたいくつもの鎖が魔王に絡みつき魔力を吸収する
魔王「貴様、裏切る気か!?」
神官「裏切る?神に仕えし神官に対して面白い冗談ですね」
魔王「ふん、ならばよく聞け。もはや地上に我等の驚異となる勢力はない」
魔王「残す天界との最終決戦に余の助力なしに勝てると……
魔王「なにが可笑しいっ!!」
神官「ふふ、失礼しました。ところで魔王さま…」
神官「魔王さまはこんな時に使う定番のセリフがあるのですがご存知ですか?」
魔王「…何の話だ」
神官「何でもこのような場面ではこう言うのだそうですよ」
神官はにっこりと微笑むと魔力で具現化した剣をゆっくりと振りかぶった
神官「貴様はもはや用済みだ魔王よ」
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魔王「くっ」
神官「終わりです!」
魔剣士「ちょ~っと待った~!!」
魔剣士「お前らさっきから何騒いで、ぐはっ!?」
神官は魔力を込めた指先から魔方陣を展開
魔方陣から伸びた鎖が魔剣士に絡みつき魔王同様に魔力と体の自由、その両方を封じ込める
神官「少ししず…
魔剣士「ク、クサリィ~!?密室で二人なにをしてるかと来てみれば緊縛プレイなんて…お兄ちゃん家族会議の必要性を、ぐぇっ!!」
神官「……絞め殺されたくなければ黙れ」
魔剣士「……はい」
神官「さあ、魔王さま…不粋な虫が場を白けさせる前に続きとまいりましょうか」
魔剣士(父さん…妹が見せつけプレイを覚えましたよ……)
魔王「くっくっくっ…確かに、ずいぶんと馬鹿な兄だな。その点は同情してやろう」
魔王「だがな神官、先ほどからずいぶんと上から目線だが…」
魔王は魔方陣に脚をのせるとそのまま踏み砕く
そして魔王の身体に絡みついた鎖を強引に引きちぎると床に放り捨てる
魔王「誰にケンカ売ったかわかっているんだろうな?」
魔王が魔力で魔方陣を描き
神官の足下から伸びた鎖が神官に巻きつき床に押し倒す
神官「きゃん!」
魔剣士「あってめえ…よくもうちの神官ちゃんに
魔王「騒ぐな!うっとうしい」
神官「ふふ…まだ魔力が残っていたのですね。びっくりしました」
神官は薄く笑うと身体に巻き付いた鎖が明滅を繰り返し
やがて魔力の残光を残して消滅する
魔王「ちっ」
神官「ふふふ…誰にケンカ売ったかわかっているか?ですか」
神官「ずいぶんと素敵な質問ですね。できれば魔王さまの事もっと教えてくださいませんか?」
神官「はじめて会ったその日からずっと、ず~~~っと魔王さまだけを見続けていたんですから……」
神官「あはっ、教えてください魔王さま…」
神官「鎖に吸われて自慢の魔力はあとどれくらい残ってます?ほんとは立っているのもやっとじゃないですか?」
神官「ねぇ教えてください…ま・お・う・さ・ま?」
神官は小首をかしげると輝きを失った瞳を細めて笑う
魔王「なあ、魔剣士…おまえの妹どうにかしろよ…」
魔剣士「いや、神官ちゃんが楽しそうでお兄ちゃんは嬉しいよ」
魔王「はたくぞ魔王軍総司令!!腐っても魔王軍ナンバー2だろうがぁ!!」
魔剣士「うっさいんだよ腐った魔王!兄ってえのは年齢以外は妹に負けるもんなんだよ」
魔王「情けない事で胸をはるな!この、負け犬がぁ!!」
魔剣士「負け犬言うなつてんだろうがぁぁっ!!」
神官「お二人ともずいぶんと楽しそうですが、そろそろ覚悟はお決まりですか?」
神官「心配せずとも腐っても魔王です。最低限の待遇は保証しますよ」
魔剣士「あっれ~お兄ちゃんは~?」
魔王「ふん、面白い。やれるものならやってみろ」
神官「それではカラになるまで絞り取ってさしあげますね。魔王さま」
神官が両手を広げると同時に魔王の周囲を魔方陣が囲み
魔方陣から先ほどの倍以上の鎖が魔王を襲う
魔王「ゾッとせんな」
魔王は半身を引いた構えから跳躍すると独楽のように回転し無数の鎖を蹴散らし、受け流し、あるいは引きちぎって一本たりとも寄せ付けない
魔王「ちっ、予想以上に魔力が足りぬ」
着地と同時に再度跳躍すると魔方陣の包囲網を軽々と飛び越え天井に着地すると窓へと一直線に駆け出す
魔王「かくなるうえは…」
魔王は逃げだした…
神官「逃がしません!!」
神官は床に手をつき魔力を流し込む
流した魔力は地面を伝わり魔王の行く手を阻む土壁をせり上がらせる
魔王「無駄だ」
魔王はせり上がる土壁を難なく蹴り砕き窓枠に手をかけ
残る全魔力を背中にかき集めマントをコウモリの羽根に変える
即席の羽根を羽ばたかせると魔王は大空に飛翔した
魔王「まぁ、ざっとこんなものだ」
羽根を操り宙に浮かぶ魔王はゆっくりと窓辺に歩みよる神官と対峙する
魔王「別に追って来てもかまわんが怪我ではすまんぞ」
神官「止めてください。虚勢なんて三下のすることです」
魔王「ふはっ、一理ある」
魔王「しかし!余はこの程度では諦めん!!」
魔王「神を屈服させ魔界、地上、天界あらゆる世界を支配するのは…
魔王「この、魔王だぁっ!!」
魔王「貴様にはいずれ今日の屈辱を何倍にもして返してやろう」
魔王「くっくっくっ…」
魔王「はぁ~はっはっはぁ~!」
魔王は高笑いをあげると羽根を羽ばたかせて雲の中に消えた
神官「ふふふ…楽しみにしていますね。魔王さま」
辺境の国 王の間
国王「よくぞ来た、勇者よ」
国王「この世界は魔王による侵略により争いは絶えず、平和は過去のモノになってしもうた」
国王「恐ろしい妖魔による破壊は止むことはなく…おそらく、次の標的はここ辺境の国じゃろう……」
国王「じゃが、神は我らを見捨てなかった」
国王「天より勇者をつかわしてくださったのだからのう!!」
国王「勇者、いや勇者さま。勇者さまに我が王家に代々伝わる聖剣を託します!」
国王「全世界、いや全人類を代表してお頼みします」
国王「かならず…かならずや魔王の胸に聖剣を突き刺し…」
国王「魔王の息の根を止めてくだされ!!」
魔王「お、おう…」
今日はここまで
国王「うむ、実に頼もしいお言葉。さ、勇者さまに聖剣と旅費をお渡ししろ」
魔王「いや、その…ちょっと待ってくれぬか?状況を整理する時間が欲しいのだ」
国王「そんな事はあとからゆっくりでよい。おい、まだか…」
騎士「はっ!さあ勇者さま、ただし聖剣は心の清らかな者にしか鞘から抜くことができないと伝えられています」
騎士「ちなみに、資格なき者があつかえば聖なる炎に焼かれて苦しみ悶えながら死ぬ」
騎士「と、伝えられていますが勇者さまなら問題ないでしょう」
国王「うむ、なんと言っても勇者じゃからのう」
騎士 国王「はっはっはっはっ」
魔王「」
騎士「さぁ、勇者さま…」
騎士は聖剣を手に魔王ににじりよった
魔王「ごめんな。資格とか言われても余にはないと思うぞ」
魔王「ほら、余の侵略から争いが絶えず平和も過去のものにしてしまったワケじゃないですか」
魔王は逃げだした…
しかし逃げられなかった
兵士A「おっと」
兵士B「おとなしくしててくださいや勇者さま」
魔王「おい、縄でしばろうとするな!なぜどいつもこいつも余をしばろうとするのだ」
国王「勇者よ…わしも誰でもよかったワケではないのじゃ」
魔王「おう、ピンポイントでいちばん頼んじゃダメなとこ来てるからな」
国王「わしはな、直感したのじゃ。雷鳴のなか天空より降臨した勇者さまのお姿を見た時な…
魔王「空飛んでたら雷が直撃して落っこちてきただけだっ!」
国王「いまだまぶたの裏に焼き付いておる…あの、まるで本当に燃えるような…
魔王「本当に燃えてたんだよ!」
国王「あの輝きこそ未来を照らす希望の光。すなわち勇者じゃとな」
魔王「あ~あ~悪かったよ。そのまま燃えつきて灰になったら世界もさぞかし平和になっただろうよ」
国王「それは困る。灰には聖剣を押しつけられん」
魔王「おい、押しつけるってなんだよ!」
兵士A「察しろ」
兵士B「正直、弱小国に聖剣なんて重荷にしかならないでさ」
国王「さよう、周辺国も勇者はまだかとうるさくてのう」
魔王「貴様らはそれんなことで押しつけられる気持ちを考えたことはあるか!」
魔王「持ったら確実に焼かれてそのうえ胸に突き刺せ言われたんだぞ!」
魔王「オーバーキルで第二形態に変身するわ!!」
国王「らちが明かぬな…、もしこれ以上拒むのであれば気が変わるまで牢ですごしてもらうか」
魔王「くどいっ!」
魔王「なんと言われようがここで折れる事は魔王としての沽券にかかわるのだ」
国王「ほう、言うたな?ならば…
姫「お父さま、無理強いはよしてあげませんか?」
国王「おお、姫よ。そうは言うてものう…」
姫「勇者さまも地上の現状を話せばきっとわかってくださいます」
魔王「たぶんこの場にいる中でいちばん詳しいぞ~」
姫「そうでしょうか?失礼ながら勇者さまは魔王がどれほど残酷で恐ろしい存在なのかご存知なので?」
魔王「ぶほっ!?」
魔王「おう…面と向かってほめられるとなかなか照れるな…」
姫「勇者さま?」
魔王「んっ、いや、その…確かに余は魔王がどれほど残酷で恐ろしい存在かまったくご存知なかった~~」
姫「はい。勇者さまも魔王の悪行の数々を知れば気持ちも変わることでしょう」
魔王「ならば聞かせてもらおう」
魔王「魔王がいかに残酷で恐ろしく偉大にして強靭、凶悪なのか聞かせてもらおうではないか」
姫「えっと……」
魔王「よいか?重要なのは魔王がいかに残酷で恐ろしい存在だと伝わるか、だからな」
姫「わ、わかりました…」
魔王「ちょっとぐらいなら嘘混ぜてもいいぞ?」
兵士A「うわ、必死すぎて引くわ…」
兵士B「なんかあったんかね?」
魔王「下級兵士が口をつつしめ!!」
魔王「腹心に裏切られて辺境まで逃げたさきで縄に縛られ床に転がされたら過去の栄光にすがりたくもなるわ」
姫「それではお聞きください…
姫「魔王の侵略が始まったのは今から半年ほど前…東大陸にある聖王国からでした」
魔王「ふむふむ」
姫「その侵略があった日に何があったのか…誰もわかっていません…」
魔王「侵略用に魔界からゲートを開いたら手違いで瘴気が漏れ出たっけ」
姫「なぜなら巡礼者などで二千万もの人であふれた聖王国が一人の生存者も残さず滅んでしまったからです」
魔王「瘴気に触れたた者は魔力の耐性なければ運が良くても妖魔になり、悪ければ理性なき魔獣になって人を襲う」
魔王「結果的に二千万の魔獣ができたのだが」
魔王「邪魔なんで皆殺しにした」
姫「え?」
魔王「ん?」
姫「ま、魔王の侵攻はそれだけでは止まりません…」
魔王「当然だ。瓦礫の山をいくら支配しても旨味はないからな」
姫「降伏した周辺国に多額の戦費を要求し」
魔王「むしろ略奪を禁止している分 紳士的だと自負している」
姫「逆らったり、出し渋る者は容赦なく処刑されました」
魔王「見せしめほど効果的なものはないからな」
姫「北の軍事国家に侵略する時は街道を何ヵ月にもわたり封鎖…。そのため食料難による餓死者が多数出たとか…」
魔王「うむ、人の出入りを禁止するだけで勝てるのだから楽でよかった」
姫「しかし、私たちも手をこまねいていたわけではありません」
姫「地上にある各国の王は手を結び、全ての軍勢を結集した連合軍が結成され軍事国家に救援に向かいました……」
魔王「くっくっくっ…」
魔王「愚かなるは地上の人間どもよ。それこそが魔王の狙いだとも知らずにな」
姫「狙い、ですか?」
魔王「そうだっ! 連合軍などと呼べば聞こえはよいが、余から見ればしょせんは烏合の衆よ」
魔王「連携も出来ずに右往左往しているアホ共を端から順に潰してやったわっ!」
魔王「くっくっくっ…」
姫「お父さま…やはり牢に入れといたほうがいい気がしてきました…」
国王「…わしもそう思っていたところじゃ」
魔王「はぁ~はっはっはぁ~!」
魔王「くっくっくっ…世界の平和を取り戻してくれる勇者さまを縄で縛って牢に入れて…」
魔王「たった一晩の足止めを後で後悔せんといいな辺境の王よ」
魔王「恐ろしい魔王の次の標的はここなのだろう?」
国王「さよう…次はここ辺境の国だと思うておる…」
魔王「実に興味深い。よかったら理由を聞かせてくれぬか?」
国王「これまでに魔王が標的にする国々にはいくつか共通点がある」
魔王「いくつかあるが、もっともわかりやすいのは経済力だな」
国王「さよう…魔王は実に熱心に豊かな国を狙っておる」
魔王「まぁ、身も蓋もないが魔界は貧しいからな。太陽の光もささない地の底の穴蔵暮らしとなれば日々の食事も難儀しているほどだ」
魔王「富国からの戦利品を物資にかえて魔界に送って民衆からの支持を得る」
魔王「いやはや、人気取りに苦心するのは万国共通よ」
国王「ところで、おぬし…少々詳しすぎぬか?」
魔王「余も詳しいと思っていたのだが…見ての通りだ」
魔王「いや、この状況もなかなか楽しいかもしれん」
国王「縄でぐるぐる巻きがか?」
魔王「鎖でぐるぐる巻きよりましだろ?」
国王「そして二つ目の共通点なんじゃが…実はこちらが可能性として有力なのじゃ」
魔王「まあ、無い袖はふれんしな」
国王「聞くところによると魔王は各国の美しい姫君を側室にするため集めているらしいのじゃ…」
姫「お父さま…」
国王「大丈夫じゃよ姫…大丈夫、おまえはきっと守ってみせる」
国王「妻が亡くなりたった一人残ったおまえまで失うと思うとワシは…ワシは…」
姫「お父さま」
魔王「はぁ?なに言ってんだ、おまえ等?」
魔王「美しい姫とかこの国のどこにいるんだ?」
姫「」
国王「」
魔王「やれやれ…地上の人間共は我らに対して誤解と偏見が強すぎると前々から思うていたが…」
魔王「いいか、耳かっぽじってよく聞け! 」
魔王「我らは古来同じ祖より魔界と地上、二つに分かれたが価値観や美意識はまるで変わらぬ同じ人間!!」
魔王「人間なのだ!!」
魔王「つまり性癖もいたってノ―マル!」
魔王「個人的趣向にとやかく言うつもりはないが。余にかぎり獣姦、異種姦などに興味はない!」
魔王「この機に言わせてもらえば余には緊縛、SM趣味はないと強く、強く主張したい」
国王「しかし姫は近隣の国々にも知られた美姫」
魔王「親バカもいい加減にしろ!! こんな田舎に金も美人もいてたまるか」
姫「……」
魔王「こっちは全て知った上でここにおるのだ!!」
国王「ならば………」
国王「勇者さまは邪神の封印について知っておるか?」
魔王「当然」
魔王「この場にいる中でいちばん詳しくな」
今日はここまでです
乙ありがとございます。励みになりました
それにしても書き貯め投下するだけなのに二時間かかった謎
魔王「そもそも邪神とはなにか?何故、魔王は封印を解こうとするのか」
魔王「それは、世界を支配している女神に対抗するための切り札にするためだ」
騎士「神に弓引くなどなんと恐ろしい…」
魔王「くっくっ、魔王だからな」
魔王「いや、余にとって女神など途上の障害にすぎぬ」
魔王「辺境の王よ、知っているか?」
魔王「今からおよそ千年前 女神と邪神による世界の覇権をかけた争いがあったことを…」
国王「いや……」
魔王「二神の戦いに勝利した女神はわずかな下僕と天上に神殿を造り天界と称し」
魔王「負けた邪神についた人間を奈落に落とし魔界と名付け」
魔王「魔界、地上、天界と現在まで続く三界構造が誕生したのだ」
国王「むぅ…わしらはそこまで知らん。世界の始まりについても邪神についても文献がなにも残っておらんからな」
魔王「くっくっくっ…唯一神気取りの女神に同格神がいては都合が悪いからな。隠しておきたいのだろう」
魔王「ともあれ、こうして千年にも及ぶ我らの暗く惨めな地底での暮らしが始まった」
魔王「だが、何故に我らが千年もの永きにわたり暗い地底に押し込められなくてはならぬ!」
魔王「我らは罪人か?」
魔王「我らはそんなにも邪悪なのか?」
魔王「違う」
魔王「我らは充分に罪を償った。罰を受け牢獄からの釈放を嘆願した」
魔王「だが、女神は我らの声を無視した」
魔王「苦しむ人々を見下し、情状酌量の慈悲すらよこさぬ狭量の神だからだ!」
魔王「ならば邪神はどうか」
魔王「論外だな…」
魔王「不様にも封印に縛りつけられ己を信じる者すら救えぬ脆弱な神など不要だ」
魔王「だが女神には有効だ。そこでこう考えた」
魔王「邪神を復活させて」
魔王「二人仲良く潰し合え」
魔王「そして魔王が魔界、地上、天界を掌握し三界構造を握り潰し」
魔王「魔王の、魔王による、魔王のための新たな世界の再構築をおこなう」
魔王「それこそ我が野望っ!!」
魔王「それが世界征服っ!!」
魔王「邪神復活に邪魔な封印は全四ヵ所!!」
魔王「まず、一夜にして滅びし東の聖王国」
魔王「そして今日、攻め落とした北の軍事国家にもう一柱」
魔王「そして…」
国王「魔王が封印を探していようが関係ない。千年前じゃぞ?」
国王「わしらは誰も邪神など信じなかった…」
国王「しかし、封印のある国の被害は言葉ではあらわせぬほど恐ろしいものじゃ…」
国王「信じられぬが、もし封印があったらと考え密かに国内を探させた…」
魔王「そして見つけた」
国王「さよう…国中を探索した結果。封印を見つけたしもうた」
魔王「ありがとう。」
魔王「ここにある封印だけがどうしてもわからなかった」
国王「…別に封印などどうでもよかった」
魔王「わかっておる。封印探索を口実に連合軍の参加を遅らせないかと浅い考えだったのだろう?」
国王「そうだ!!魔王なんぞ連合軍か勇者が勝手に倒してくれるものだと思っていたのだっ!!」
魔王「くっくっくっ…」
魔王「はぁ~はっはっはぁ~!」
魔王「だが現実は連合軍は全滅し、勇者はいっこうに現れなかった!」
魔王「追い詰められて思いついたのは聖剣押しつけて勇者のでっち上げか?」
魔王「次の標的のわりにはずいぶんと悠長な考えだな」
国王「すべては兵の犠牲を出さぬため…」
国王「民の命を背負ったわしの何がわかる…」
魔王「民の命なら余も背負っている。何も知らん癖に軽々しく言って欲しくないな」
魔王「すべては余の思惑通りに進み」
魔王「邪神復活に必要な四つの封印の内二つを破壊。残りの二つを完全に捕捉した時」
魔王「ついに余の世界征服は最終局面にはいった!!」
魔王「もはや地上に我らの驚異となる勢力はなく」
魔王「残すは天界との最終決戦のみ」
魔王「その結果……」
魔王「用済みって、言われました……」
今日の更新終わりです
だいたいの世界観や世界情勢の説明はこれで終わりですが分かりやすくまとめると
↓
魔王「日もあたらない地底生活うんざりだからぶっ壊すよ」
魔王「強い女神は邪神ぶつけて漁夫の利もらうよ」
魔王「地上侵略も軌道に乗ったし後は楽勝だな」
神官「じゃあ、用済みですね♪」
魔王「え?」
こんな感じです
?「いいえ、あなたは用済みなんかではありません!!」
?「だって、すべての人間はいつだってやり直せるんです!!」
魔王「誰だっ!」
騎士「いえ…それが、聖剣から……」
精霊「ピンポーン!! はじめまして勇者さま。わたしは聖剣に宿りし精霊です」
精霊「歴代勇者さまに同行し過去の魔王共を滅ぼしてきた由緒正しい精霊である私が来たからにはもう安心」
精霊「さぁ、勇者さま。はりきって魔王退治の旅にレッツゴー♪」
魔王「チェンジ」
精霊「何故ですか!?どうしてですか!?」
魔王「もう胡散臭いとしか思えんのだが」
精霊「過去四回あったとされる魔王の侵攻には勇者さまの魔王討伐に同行し協力したという確かな実績もありますよ?」
魔王「うっさい、そんな物騒なもの持ち歩けるか!」
精霊「んも~そんなに緊張しなくていいんですよ~」
魔王「あ、こいつ話聞かないタイプか…」
精霊「使い方もとっても簡単。ただ聖剣を持って祈るだけ」
魔王「いのる?」
精霊「そうです。天上より見守りすべてを司りし女神を信じ、感謝し、身も心も捧げてください」
精霊「すなわち、祈りとは愛です」
精霊「愛で世界を救うのです」
魔王「わかった。チェンジで」
精霊「ふふ、そんなに照れなくてもいいんですよ?」
魔王「悪いが間に合ってる。他をあたるなら のし袋に包んでやるぞ」
騎士「ふざけるな!!」
騎士「黙って聞いていれば数々の無礼な振舞い。まるで貴様こそ魔王のようではないか」
魔王「おう、やはりわかる者にはわかるか。まあ威厳、威光とは隠しても隠しきれぬものだからな」
騎士「そもそも勇者という名誉をなぜ身元もわからぬ不審者に与えねばならぬのだ…」
魔王「ようやくまともな意見が聞けたな。余も同じ考えだ」
魔王「そもそも女神が余のことを知らぬはずがないのだ!」
魔王「それなのに女神に祈れ?あげく愛だと?」
魔王「答えろ!女神はいったい何を考えている!」
精霊「女神さまの望みはただひとつ。世界を愛で満たす事です」
魔王「ならば残念だがその望みは叶わぬ」
魔王「余の望みは世界を絶望で満たす事だからな」
精霊「ふふふ…別にいいじゃありませんか」
精霊「あなたは新たな力を手に入れる。女神さまは愛を手に入れる。おまけに勇者が平和のために旅立つ」
精霊「誰も損をしていません」
魔王「聖剣にかんする物騒な話を先ほど聞いたが」
精霊「心配無用です。炎に焼かれるのは勇者としての資質がなかった者だけです」
騎士「嘘だっ!」
魔王「嘘だとさ」
精霊「嘘ではないです」
精霊「あなたのお兄さんは勇者としての資質が足りなかったのです」
騎士「そんなはずはない!兄は誰よりもこの国を憂いていた」
魔王「憂いてようが売れてようが関係ない。すべては女神の気分しだいだからな」
魔王「それで女神を恨むなら言ってくれ。魔王軍は基本的に来る者は拒まない」
騎士「そんなことはしない!!」
騎士「ただ…私が聖剣を抜いてみせる…」
騎士「私が聖剣を持つことで兄の無念を晴らしてみせる!」
精霊「あなたには無理です」
騎士「たとえ…たとえ無理だとしても私はこんな品性の欠片もない男が勇者と名乗るのを見たくない…」
魔王「おい」
騎士「自らの勇者の資質を試し、もし資質なくとも焼け死ぬほうを選ぶ」
兵士A「落ち着いてください」
兵士B「そうでさ、こいつより兄上の品性が優ってるのなら俺らが保証しやすから」
騎士「お前たちにも世話になった…」
騎士はゆっくりと鞘から聖剣を引き抜く
騎士「兄さん…力を貸してくれ…」
魔王「バカが!」
魔王は床を蹴って飛び出すと腕を伸ばして騎士の手から聖剣を奪い取った
騎士「な、何を…」
魔王は騎士を突き飛ばすと聖剣を窓から放り投げた
精霊「ぎいやあぁぁぁっ!!!!」
精霊「聖剣を投げるなんて…何を考えているんですか!!」
魔王「くっくっくっ…」
魔王「はぁ~はっはっはぁ~!」
魔王「何を考えている?懇切丁寧に話してやったのにまだわからないのか?」
魔王「いいだろう。前口上は嫌いじゃない」
魔王「何度でも言ってやるから頭ん中のお花畑を刈り取って刻み込め」
魔王「よく聞けっ!」
魔王「余の思考、一挙手一投足にいたるまで全てはこの一点に帰結する」
魔王「 世 界 征 服 」
魔王「何度でも言ってやる。世界征服だ!」
魔王「余が魔王であるかぎり過程がどれほど変わろうが結末は変わらん」
魔王「地上支配目前に放逐された?」
魔王「魔力が枯渇してから回復しない?」
魔王「一騎当千の妖魔の軍勢を敵にまわした?」
魔王「だから何だと言うんだ?勇者の加護をちらつかせれば泣いて宗旨がえするとでも思ったか?」
魔王「おめでたくて涙が出るな」
魔王「教えてやる」
魔王「エビでタイが釣れようが、聖剣ごときで魔王は釣れん」
魔王「俺を見ろ」
魔王「余を誰だと思っている」
魔王「余がこれまで何をしてきたと思っている」
魔王「一夜にして二千万人を虐殺し」
魔王「世界最大の軍事大国を干乾しに」
魔王「数十の連合艦隊そのすべてを巨大な墓標に様変わりさせた」
魔王「裏切り者の神官も所詮はぴょこぴょこ後ろからついてきただけだ」
魔王「そしてあまりに順調すぎて自分でもできると勘違いしたようだ」
魔王「ふっ、バカめ」
魔王は腕を振り上げ人差し指を突き立てる
魔王「1ヶ月だっ!」
魔王「半年かけた地上侵略をいたずらに長引かせる気はない」
魔王「魔王の名において現時刻より三十日以内に世界征服を完了させると、ここに宣言する」
魔王「精霊っ!」
精霊「は、はい!」
魔王「つまり女神が地上の支配者気分でいるのも残り三十日だと言うことだ…」
精霊「……」
魔王「次は聖剣ではなく、もっと気の利いた土産をよこせと伝えておけ」
魔王「くっくっくっ…」
魔王「はぁ~はっはっはぁ~!」
精霊「誠意が伝わらず残念です……」
魔王「ふんっ!押し売りを誠意とは言わん」
魔王「まぁいい…辺境の王よ」
国王「ふぁ!?」
魔王「これ以上この場にいても得るものがなさそうなので宿で休むことにする」
国王「え?あっ、うむ……」
姫「お父さま…いろいろ知りすぎた勇者さまを監視もつけずともよいのでしょうか?」
国王「あ、そうじゃ。聖剣も渡さねば」
姫「この暗さでは聖剣を探させても見つかるのは朝になるでしょう…」
国王「そうか…」
姫「お父さま、ご決断を」
国王「そうじゃな」
国王「衛兵!勇者を牢に連れていけ!」
国王「そしてわしが良いと言うまで外に出すな!!」
衛兵達「はっ!」
壁際に控えていた衛兵達が魔王の周囲を囲む
衛兵「怪我をしたくなければおとなしくしろ!」
魔王「腕ずくか…分かりやすいのは嫌いじゃない」
魔王は周囲を囲む衛兵に手招きして挑発する
魔王の挑発に兵士ABが最初に応戦する
二人の兵士は同時に魔王につかみかかり
そして同時に縦に回転して背中から床に叩きつけられる
魔王「なあ、仮に余が勇者だったとしよう」
騎士「キサマッ!」
騎士は腰のサーベルを抜き打ち斬りかかる
魔王はその一閃を指でつまむと刀身をへし折った
魔王「貴様らが怖くて仕方ない魔王を倒す勇者だとして」
折った剣先を騎士の眼前に突きつけ牽制すると
衛兵が四人、背後にまわり槍を構えた
衛兵「騎士さまより離れろ!さもなくば…
衛兵の警告は最後まで続かない
一人の槍をつかみ引き寄せると衛兵のアゴを蹴りあげ
蹴り足を降り下ろして残り三人の槍を破壊する
魔王「おまえらにどうにかできる相手だと思ってるのか?」
国王「何をしている!馬鹿な誇大妄想癖など数にまかせて押しきってしまえっ!!」
魔王「・・・・」
魔力を失ったはずの魔王の周囲の温度が下がる
魔王は手に持った槍の握りを変えると
国王を護る衛兵達の隙間を狙い
槍を投擲する
ド ス ッ !
魔王が投げた槍は国王の頭上をかすめ王冠を貫いて壁に突き刺さる
国王「かはっ…かっは……」
魔王「ほんの数時間前だ…とてつもなく不愉快な出来事が余の身に降りかかった…」
魔王は腰を抜かした国王のもとへ歩を進める
国王を守るべき兵士は魔王を怖れて道を開け
魔王はそのまま国王を素通りすると壁に刺さった槍を手のひらで押す
魔王「だが、分別と良識を兼ね備えている余は初対面の人間に当たり散らすような無様な真似はせぬ」
さしたる抵抗もなく槍は壁の中に潜っていき
そのさい槍に貫かれた王冠が壁に当たってカタカタ音を鳴らす
カタカタカタ....
カタカタ....
カタッ
槍は壁の中に消えていき、魔王の手のひらが王冠にあたる
魔王「だが、舐められても笑ってすませるほど人間は出来てない」
魔王は力を込め王冠を潰すと槍と一緒に壁にめり込ませた
今回はここまでです
魔王が喋ってばかりで物語が進まない…
魔王「くっくっくっ…はっはっはっ…はぁ~はっはっはぁ~」
魔王「はぁ~はっはっはぁ~!」
兵士A「笑ってる…」
兵士B「めっさ笑ってる」
衛兵「こっえ~」
姫「なにをしているのです!いくら怪我人がでようがかまいません」
姫「増援を呼び勇者さまをこの部屋から出してはなりません」
騎士「は、はいっ!」
兵士A「えっ!?」
兵士B「どう考えても無理だろ…」
魔王「くっくっくっ…」
魔王「自分は安全は後方に引きこもり…家来が命令を聞くと信じて疑いもしない」
魔王「まったく、近隣に知られた美姫などと甘やかすからつけ上がる」
魔王「これを余が側室に求めると本気で思っているのだから親バカとは呆れる生き物だ」
魔王「残念ながらいくら外面が好かろうが中身の薄っぺらなハートの女王に勃起するほど飢えてない」
魔王「がなりたてても従う義理なく」
魔王「首をはねよと命令に怖がりはしない」
魔王「ただの一組のトランプにすぎぬからな」
魔王は衛兵の包囲をないかのように進み、窓辺に半身を乗せる
兵士A「なに、カッコつけてんですか!?」
兵士B「ここは城の最上階です。落ちたらただじゃすみませんぜ」
魔王「さよなら王様。初撃で楔を撃ち込み二撃目で息の根を止めるぐらいの気概を娘に仕込んだら考えてやろう」
魔王「だが、くだらん騒ぎに巻き込まれたんだ。最後に実益が欲しい…」
魔王「邪神の封印はこの国の何処にある?」
国王「い、いえぬ…」
魔王「そうか、ならば自力で見つけよう」
精霊「ふふ、最後に何か言い残した事はありませんか?」
魔王「ふむ、ならば言わせてもらおう」
魔王「1ヶ月後、世界征服した魔王の顔見世をかね各国の王候貴族を招待した式典をおこなう」
魔王「その時、貴様らは震えながら額を地面に擦りつけ今日の一部始終を思いだし何か〝 そ そ う 〟をしなかったかと何度も繰り返し記憶を反芻するだろう」
魔王「だが心配するな。慈悲深い余は今夜の数々の無礼な振舞いを許そう…」
魔王「資金援助も受けたしな」
魔王はすり盗った財布の束を掲げてみせる
兵士A「あっ、財布!」
兵士B「俺のだ…」
騎士「私のもある…」
魔王「くっくっくっ…さらばだっ!」
「「「財布かえせっ!!」」」
魔王「はぁ~はっはっはぁ~!」
魔王は窓を乗り越え壁を蹴り、地上へと落ちていく
そして堀池に着水すると流れに身をまかせて泳いでそのまま逃げきってみせる
今日はここまでです
魔王が強いのは一般兵士ぐらいは余裕にして神官の追っ手が来てからが本番にしたかったからってのもあります
神官さんはガチ
同時刻 辺境の国のさらに辺境の山奥
魔剣士「鎖にしばられ山奥に飛ばされ木に吊るされること数時間……」
魔剣士「父さん…母さん…妹が放置プレイを覚えました」
魔剣士「でもキライじゃない!」
魔剣士「お兄ちゃん、キライじゃないよ~!」
魔剣士「わたしま~つ~わ♪ いつまでもま~つ~わ♪」
魔剣士「いついつまでも待ってるからね~♪ し~んか~んちゃ~~ん♪」
魔剣士「うふっ♪うふふっうふふっうふふふぅ~ふ~♪」ブランブランブランブラン
山賊A「なんだアレ?」
山賊B「俺に聞くなよ…」
魔剣士「おや?そこの二人、こんな夜分に山奥にいるが道に迷ったか?」
山賊AB「!?」
魔剣士「もし遭難ならもうすぐ妹が来るからその時にでも麓まで案内してやるぞ?」
山賊A「逆に心配された~!」
山賊B「あと、よくわからんが妹は来ない」
同時刻 魔王軍本拠地
夢魔「う~神官さま~?」
神官「ん?こんな時間にどうしたの?」
夢魔「ん~おっきな音がして部屋に神官さまいなかったから…」
神官「そっか、心配して探しに来てくれたのか」
神官「おいで~♪」
夢魔「は~い♪」ダキッ
神官「よしよし」ナデナデ
夢魔「えへへ…神官さまはなにしてたんです?」
神官「ん~用済みの魔王さまを遠くまで飛ばしたところなんだ」
夢魔「あ、知ってます!〝みくだりはん〟って言うんですよね?」
神官「へ~ずいぶん難しい言葉を知ってるんだね」
夢魔「へへ、魔王が言ってました!」
神官「そっか~何処で誰に言ったかで対応は後で決めるとして」
神官「夢魔ちゃんはそろそろ寝ましょうね」
夢魔「神官さまは?」
神官「わたしも魔王さまの監視役を選んだら眠るから」
夢魔「わたし行きたいです!!」
神官「ん?」
魔王軍の朝は早い
千年にもおよび地底で生活していた魔族にとって太陽からの自然光は刺激が強すぎたためである
しかし、魔王軍にその事に不満を漏らす者はいない…
これまでの彼らにとって魔力による頼りない灯りが陽光であり
灯りの届かない暗がりは死に直結しかねない危険なものだったからである
そのため彼らは日の出と共に目覚め
陽の光を全身に浴び
日の入りと同時に拠点へと戻っていった
そして、もっとも朝早く目覚めるのは魔王だった…
魔王「くっくっくっ…」
魔王「はぁ~はっはっはぁ~!」
そんな魔王には本人すら知らない数々の異名がある
いわく「ニワトリ代わり」「目覚まし時計内臓型魔王」「ラジオ体操のスタンプ係」etc...
魔王「はぁ~はっはっはぁ~!」
ホームレスA「魔王さん、おはよう」
ホームレスB「あんた魔王だってえのに早いな」
ホームレスC「河原で雑魚寝だけど眠れたかい?」
魔王「うむ、毛布の提供感謝しよう。おかげでよく眠れた」
ここは川辺のとある橋の下、浮浪者達のコミュニティー
魔王「頭痛い……自分の高笑いが頭響いて最悪だ……」
ホームレスD「秋になったのに夜中に川で泳いだからだべ」
魔王「そう言って飲ませた濁り酒が残ってるんだ…」
魔王「いつもあんな強いものを?」
ホームレスB「魔王さまには口にあわんかったか」
ホームレスE「なんっても魔王だからな。いつもはもっと上品な酒飲んでんだ」
魔王「上品な酒なんて興味ない。酔って騒ぐ狂騒を楽しむものだからな」
ホームレスD「そんな事言って一杯で寝ちまったじゃねえか」
魔王「魔王として簡単に醜態をさらすわけにもいかんのでな」
ホームレスC「そんなら薬はいらないのかい?」
魔王「あ、いただきます」
ホームレスA「まあ、気が変わるまでいな」
ホームレスB「そうそう自称魔王もあんたが最初ってんじゃねえしな」
ホームレスA「そうそう昔のこと詮索されたくない野郎はだいたい魔王か勇者って名乗るんよ」
ホームレスC「川から這い出てくるのは初めてだけどね」
ホームレスD「ツレとケンカして投げ飛ばされたんだべ」
魔王「たいしたことではない。この国の王に勇者にされそうだったので逃げてきたんだ」
ホームレスE「魔王と勇者、両方名乗る気か?」
魔王「おまえ逹も試してみろ。川に飛び込むだけで勇者になれるぞ」
ホームレス顔役「おめえら、そろそろ仕事の時間だろ」
初老の老人の一言で魔王の周囲の人だかりもそれぞれの用事に向かうため動きだす
「へーい」「お、もうそんな時間か」「んじゃな」「またあとでな」
顔役「おめえはこっちさ」
魔王「はい」
顔役「ここでの仕事は人それぞれだけんど一宿一飯の礼代わりに手伝ってくんな」
魔王「わかりました、何をすれば?」
補足しよう。魔王は相手が年寄りと子供の時に限り口調が柔らかく丁寧になるのだ
顔役「ごみの回収っだ。案内すっから荷車押してついてこい」
魔王「ええ、じゃあ行きましょうか」
顔役「助かる。細っけえ区割りあっから気いつけな」
魔王「いつもは独りで?」
顔役「ごみ回収は国から賃金が出るってんで競争率たっけえからいっつもは無理だ~」
魔王「他の人逹はなにを?」
顔役「いろいろ~ 下水清掃からどぶさらい、近隣農園で小作人やってるのもいる」
顔役「だっども年寄りにゃキツいけぇ、山で採れた山菜や薬草をば顔見知りの役人に渡して便宜はかってもらっとぉ」
魔王「今日も山に?行くのなら手伝いますよ」
顔役「今日は昼すぎから雨降っから山にゃ入れね」
魔王「雨?」
顔役「この地方は空見ても無駄だ~空気の湿っけと勘。けっこう激しいから山は危険さね」
魔王「へぇ~」
顔役「さ、行こか」
魔王「はい」
魔王は顔役の老人を荷車にのせて指示を聞きながらごみ回収をはじめる
顔役「あ、ここ終わったら次の角右な」
魔王「はい…」
顔役「……」
魔王「……」
顔役「……」
魔王(間がもたない…)
魔王(ここは荷車押してるしドナドナでも歌うか?)
魔王(いや、爺さん乗せてドナドナは洒落にならん気が…姥捨て山的な)
顔役「……なあ」
魔王「あ、はい!どこです?」
顔役「おめえ何が目的だ」
魔王「ん~わりと一宿一飯の恩義は気にするたちなんです」
顔役「そういうこったなく、なんでこの国さ来た」
魔王「くっくっ、言ってもいいですが信じませんよ」
顔役「かもな。これまでいろんな人間見てきたっが おめえさんみてえなんは長く居着いたこったなか」
魔王「どう見えます?」
顔役「視線が前向いてる。やる事を知ってて実行しようって顔さね」
顔役「だけっど何がしたいかさっぱりだ」
魔王「今日の予定は歓楽街に遊びに行こうかと。喧しいのもいませんしね」
魔王「ほら、財布の中の優待券なら昼間限定5割引ですよ」
顔役「おめえさん、そうやって自分ん中に溜めてっと周囲がもっと心配すっからな」
魔王「はっは…よく言われます」
顔役「ちっ、やめだやめだ…らしぐねえことしぢまった」
魔王「そんなことないです。気持ちは嬉しいです」
顔役「そう言ってなんも話さねんだっけな…まぁ、おれも分からなくはねえけっどな」
魔王「……」
顔役「まあ聞いてくんな。ずいぶん昔だがな、ほうぼう借金して女房子供にも逃げられてな…」
顔役「行くあてなくいまんとこに住み着いた時な…」
顔役「こっぱずかしい話だけっど名前聞かれて、口から出任せで魔王って言ってたんよ…」
魔王「爺さん…」
顔役「だっけ、おめえさんが気になってな…柄にもなく世話やいちまった」
魔王「濁り酒ごちそうさま。美味しかったです」
顔役「はっはっはっ、すっげえ弱くてびっくりした」
魔王「実はあまり飲み慣れてないんです。ちょっと前まで酒が貴重な場所にいたもので」
顔役「そんじゃあ魔王さま、変な話したわびに朝飯ごちそうすっわ」
魔王「ではお言葉に甘えます」
顔役「時間ばっか大量にあっから食べ歩きが趣味でな。中央広場のパン屋の岩塩ピザはいける味だぞ」
魔王「いいですね。ちょっと前まで塩が貴重な場所にいたんです」
顔役「塩も酒も貴重って、おめえさんはどこにいたんだ?」
魔王「くっくっ、魔王なんだから魔界ですよ、魔界」
顔役「はっ、あれもねえ、これもねえで不便なとこなんだな」
魔王「もう本当、笑ってしまうぐらい不便で…思わず地上侵略したくなるほどです」
顔役「よっしゃ!次のあっこ、通路の奥のごみ箱で最後だ」
魔王「はい」
顔役「ところで喉渇かねえか?自家製ハーブ茶あっけど」
魔王「あ、飲んでいいですか?」
顔役「おうとも」
魔王「じゃあ、いただきます」
顔役「旨いか?」
魔王「ええ、美味しいです」
顔役「……すまん」
魔王「はぇ?」
魔王は体が麻痺した
その瞬間、ごみ箱のふたを吹き飛ばし中から騎士が現れる
騎士「捕まえろぉ~~~!!」
騎士の号令と共に周囲に隠れていた兵士逹が魔王目掛けていっせいに飛びかかる
兵士A「逃がすな!」
兵士B「朝まで聖剣探し続けた怨み…」
兵士逹「「「死ね、勇者!!」」」
魔王は痺れた体で逃げようとするが兵士の体当たりで地面に押し倒され殴られ蹴られ
のし掛かってきた兵士逹の重みで身動き取れなくなり魔王は状況を把握する
魔王「嵌めやがったな糞ジジイ!!」
今日はここまで
魔王と老人の心の交流とかそんな物はなかった
魔王の上に折り重なった兵士逹の山の頂きで騎士は体を揺らして笑う
騎士「くっくっくっ…」
騎士「はぁ~はっはっはぁ~!」
騎士「さあ、勇者さま!これから酒場で仲間探しです!!」
騎士「戦士?僧侶?遊び人などいかがですか」
騎士「ふざけた勇者さまとは気が合って楽しい旅になると思いますよっ!!」
騎士「くかっかかっかかかかかぁ~」
兵士A「騎士さま?」
兵士B「徹夜明けで壊れた…」
騎士「さあ急ぎましょう。今日中には国境より出てもらいますからね」
騎士は兵士の山に手を突っ込み、魔王を引きずり出す
兵士A「イタタタタッ!それ俺の手です」
騎士「あ、すまん…こっちか?」
兵士B「それは俺の足です」
騎士「あれ?おかしいな…。いったん退けてくれないか」
騎士に言われ兵士逹が魔王の上から降りていく
そして最後の1人が退けた時には魔王の姿はどこにもなかった
兵士A「逃げた…」
兵士B「逃げやしたね…」
騎士「なんでこんなに逃げ慣れているんだっ!!」
騎士「今日中に国外に出せとの命令はどうすればっ!」
兵士A「落ち着いてください」
兵士B「逃げたんなら仕方がない。賞金出して捕まえさせやしょう」
兵士A「依頼すれば冒険者も協力するでしょう」
騎士「そうだなそうだな勇者だからな、勇者?勇者?私には無理な勇者があれ……」
兵士A「騎士さま?」
兵士B「地味に勇者の資質なしって言われたの気にしてねえ?」
騎士「ホシ…キレイ……」ドサッ
騎士は地面に倒れた
「騎士さま?」「騎士さま~!」「気絶してる…」「屯所に運べ」「よし運ぶぞ~」
「「「せ~のっ!!」」」
兵士逹は騎士を抱えて運び去り
喧騒から一転、通路にはごみ箱だけが残った
ごみ箱「くっくっくっ…」
ごみ箱「はぁ~はっはっはぁ~!」
ごみ箱「まさか自分の隠れ場所に逆に隠れるとは考えつかなかったようだな」
兵士A「そうでもない」
兵士B「よいしょっと」
二人の兵士は魔王を逃げられないようにごみ箱の上に乗っかる
ごみ箱「なぁ、まだ余を勇者にする気でいるのが解せんのだが」
魔王「おまえ逹はそこらへんの事情について何か知らんか?」
兵士A「事情なんか聞かされないさ」
兵士B「そうそう、下っぱは命令きいてなんぼよ」
魔王「そうか…貴重な情報には優待券をやろうと思ったのだが」
兵士A「もともと俺の財布から盗ったんでしょうが!」
魔王「あれ?おまえの?」
兵士A「何か?」
魔王「いや~見かけによらんな~と」
兵士B「そんな事より聖剣受け取って勇者になってくれやせんか? 騎士がまだ未練タラタラで見てらんねえんでさ」
魔王「ずいぶん気にかけるのだな」
兵士A「親が騎士さまの屋敷の使用人でな」
兵士B「もともとは亡くなった兄の方に仕えてたんだがな」
兵士B「最近の騎士は兄の二の舞になりそうで危なっかしくて見てらんねえのさ」
魔王「なるほど、どこまでも忠義を尽くすか。そういうのは嫌いじゃない」
兵士A「それじゃあ」
兵士B「勇者になるんですかい?」
魔王「だか断る」
魔王はごみ箱の底をくりぬき、足下にある下水道のふたをずらすと滑り落ちる
魔王「余を捕まえられたら考えてやろう」
異変を感じてごみ箱を動かすが、すでに魔王の姿は見えなくなっていた
兵士A「逃げたか…しかし言質はとった」
兵士B「そうだな、賞金を上乗せしてさっさとけりつけっか」
それから数時間後……
騎士「んっ、ここは屯所?」
騎士「そうか、わたし気絶して……」
その時、鏑矢が上空に撃ち上げられた時の独特な甲高い音が鳴り響く
ピュウゥゥゥゥ――――!!
騎士「いまのは!?あれから何があった?」
屋上で魔王を探していた弓兵が鏑矢を空に向かって撃ち上げ仲間に報せる
弓兵「勇者だ~勇者はここだぁ~~!」
弓兵「だ、だから……」
魔王は屋根から屋根へ屋上を飛びわたり弓兵目掛け一直線に突き進む
弓兵「だ、誰か助けて~~~」
魔王「はぁ~はっはっはぁ~!」
魔王のヒジが弓兵のアゴに突き刺さり弓兵の身体が崩れ落ちる
兵士「弓兵~~!」
「最後の弓兵がやられた」
「誰か代わりを…」
「いや、ここで見失うほうが痛い」
兵士逹「「「絶対に逃がすなっ!!」」」
魔王「くっくっくっ…無駄っ!無駄っ!無駄ぁ~~!!」
魔王は高所から兵士逹のまだ手薄な箇所を探しあてると
屋上から飛び降り雨どいをつたって地面に着地すると狭い通路を駆け抜け追跡をかわす
ホームレスA「おおっと、逃げるのはそこまでだ」
魔王の周囲を今度は朝のホームレス集団が取り囲む
ホームレスB「土地勘のある俺たち路上生活者から逃げられると思うな」
ホームレスC「別に恨みはないが…」
ホームレスD「賞金と仕事の便宜してくんるって言われての~」
ホームレスE「覚悟してくんな」
魔王「甘いっ!」
魔王は窓ガラスを割って建物の中に侵入、ホームレスの包囲を破る
ホームレスA「なっ卑怯だぞ」
ホームレスB「ど、どうするホームレスが家に入ったら」
ホームレスC「俺たちのアイデンティティーが…」
魔王は部屋を抜け、廊下を過ぎて玄関から外に出ると
さすまたを構えた一団が横一列になって待ちかまえていた
自警団長「来たか。賞金首から市民を守るのは我々自警団の役目だ!」
?「違うね!」
自警団長「誰だ!!」
白黒斑色の駿馬が自警団の頭上を飛び越え
馬上から投げたロープが魔王の首を締める
賞金稼ぎ「賞金首は僕たち賞金稼ぎの獲物だ」
自警団長「なにを生意気な!根なし草の分際で!!」
賞金稼ぎ「悔しかったら捕まえてごらん」
自警団長「もとよりそのつもり。者共かかれ~~!」
自警団員逹「「「行くぞぉ~~~!」」」
自警団員逹は賞金稼ぎに突撃
賞金稼ぎは馬首をかえすと駿馬は嘶き跳躍した
そしてロープに引っ張られて魔王も宙を舞った
自警団長「くっ、とどかないか」
さすまたを振り回すもその更に上を通りすぎていく駿馬を見上げ団長はうめく事しかできない
賞金稼ぎ「僕の勝ちだ!」
賞金稼ぎは馬の腹を蹴り 追いかける自警団員を振り切り
魔王はロープに引きづられたまま石畳に削られ続ける
魔王「おい!わさびだってもっと丁寧にされるぞ」
賞金稼ぎ「知らないね。僕は賞金が手に入りさえすればいいんだ」
しかし、一発の弾丸がロープを撃ち抜く
魔王「ぬあ~!?」
ロープが切られ魔王は地面を転がり
起き上がろうとした魔王の鼻先に銃口が突きつけられる
猟師「ここまでだ、賞金はおら逹 猟友会のものだべ!」
賞金稼ぎ「横取りとは美しくないな」
剣を抜く賞金稼ぎを複数の猟師逹が横から銃で狙いをつける
猟師A「美しくないならどうする?」
猟師B「銃相手に剣で勝てるとでも?」
賞金稼ぎ「言っておくけど銃を持った賞金首なら腐るほど捕まえてきたからね」
兵士A「おおっと、馬鹿騒ぎもここまでだ」
兵士B「暴徒鎮圧こそ俺たちの本領発揮よ」
車輪移動式大砲が轟音と共に砲弾を発射
砲弾は空中で網目に拡がり魔王も賞金稼ぎも猟師もすべてを上から覆い被さり押し潰す
賞金稼ぎ「なっ?」
猟師「これは?」
魔王「動けぬ」
兵士A「よっし、計画通り!」
兵士B「へっへっ、もともと賞金払う気なんかこれっぽっちもねえのよ」
兵士A「そうだ!賞金に目が眩んで騒ぎを大きくしてチャンスを待ち」
兵士B「チャンスを逃さず自分たちで捕まえ、うやむやのまま終わらせるって寸法よ」
ホームレス顔役「まだだ!まだあきらめちゃなんね!」
ホームレスA「勇者を網から引き釣り出せ」
ホームレスB「勇者さえこっちで押さえちまえばどうとでもできる」
兵士A「ちっ、厄介だな」
兵士B「俺たちも行くぞ
自警団長「突撃いぃぃぃ~~~!!」
自警団員逹「「「うおぉぉぉ~~~~!!」」」
自警団長「一班は兵士逹の足止め、もう一班は私につづけぇ~!」
兵士A「こっちに向かってくるぞ」
兵士B「砲弾で動けなくしろ」
猟師「撃たせるな!」
網に絡まった猟師逹は砲弾をこめる兵士逹に向けて威嚇射撃を行う
猟師B「賞金にもっとも近いのは俺たちだぁ~」
自警団長「賞金は我々の物だぁ~!」
ホームレス顔役「寝食を共にした勇者を誰にも渡すんじゃねぇ~!」
兵士「どの面下げて言ってんだ」
賞金稼ぎ「やめたまえ、馬が怪我したらどうするんだ」
騎士「なんだこれ……」
今日はここまでです
騎士「おい、どうなっている」
兵士A「あ、騎士さま」
兵士B「体調良くなりやしたか」
騎士「そんなことより何だこの有り様!」
兵士A「えっと…賞金を出したんですね」
兵士B「で、時間ばっかずるずると過ぎて…」
兵士A「賞金額高くしたら真剣になるかなって…」
兵士B「で、効果なくてずるずると上げて…」
騎士「それで?」
兵士A「これ手配書です」
騎士「ふむ、いちじゅうひゃくせん………ひゃっ!?」
騎士「こんな金額、払えるかぁ~!!」
兵士B「ほんとすんません」
騎士「こんなの屋敷や領地売っても返済不能じゃないか」
騎士「明日から私はどうやって生活しろと言うんだ~」
騎士は兵士の首を掴むと乱暴に振り回す
兵士A「すんません。途中から我を忘れたって言うか」
兵士B「上げる事が楽しくなりだして」
騎士「そんなんで先祖代々続いた私の家系が絶えていいと思っているのか~」
騎士は兵士の首を締める力をさらに込める
兵士A「まだ払うと決まったんじゃないです」
兵士B「そうでさ。俺らが捕まえちまえばいいんでさ」
騎士「はっ!そういえば勇者はどこに」
「勇者なら広場の方角に逃げたぞ~」
騎士「よ~し、これからは私が指揮をとる。全員進め~!」
兵士逹「「「イエス、ユアハイネス!」」」
自警団長「負けてられるか。行くぞ」
自警団員「シャア―!」
ホームレス「日陰者の意地を見せろ」
猟師「獲物を逃がすな」
賞金稼ぎ「僕の馬~」
こうして賞金目当ての有象無象は押し合い圧し合いながら広場を目指し
喧騒から一転、通路にはごみ箱だけが残った
ごみ箱「くっくっくっ…」
ごみ箱「はぁ~はっはっはぁ~!」
ごみ箱「一度ならず二度も引っ掛かるとは馬鹿な奴等よ」
幼女「……」ジー
ごみ箱「ここは満員だ。かくれんぼなら他をあたれ」
幼女「おっちゃんは鬼ごっこか?」
魔王「くっくっくっ…そんなとこだ」
幼女「たくさん追いかけられて、おっちゃん悪いやつか?」
魔王「そうだ、極悪人だ」
幼女「そっか~」
魔王「あ~待て、待ってくれ。今の嘘」
魔王「おっちゃん、勇者だからな」
幼女「そっか~」
魔王「あ、信じてないな?昨日は国王にこの国の希望って言われたんだぞ」
幼女「めんどうごと押しつけられたんちゃうんか」
魔王「おっちゃんもそう思って断ったのだが諦めなくてな。そろそろ苦しくなってきた」
幼女「そっか~おっちゃんも大変なんか」
幼女「よかったら家にくるか?ばあちゃんが焼いたミートパイを食べさせてやろう」
魔王「本当か!?助かる、昨日の晩から何も食しておらんのだ」
幼女「わかった。あたしについてこい」
魔王「うむ」
魔王は足でごみ箱の底を突き破り立ち上がる
幼女「カッコ悪いから離れてついてこいよ」
魔王「う、うむ」
幼女の後ろからごみ箱をかぶった魔王がついて歩く
幼女「おっちゃん、ここや」
ごみ箱「集合住宅か」
幼女「せや、ここのいっちゃん上やで」
ごみ箱「む、ちょっと待て…通路狭くてごみ箱が引っ掛かる…」
幼女「階段やけど、のぼれるんか?」
ごみ箱「ぐっがが…ごみ箱が天井にこすれる…」
幼女「おっちゃん…」
ごみ箱「大丈夫だ、問題ない」
ごみ箱「それより最上階とはなかなか良い場所に住んでおるのだな」
幼女「そうでもないで?ばあちゃんは階段がつらいっていっつも言っとる」
ごみ箱「そうか、両親は何をしておる」
幼女「父ちゃんと母ちゃんなら遠くの村ではたらいとる」
ごみ箱「それは寂しいな」
幼女「ばあちゃんおるからそんなん気にならんし」
幼女「ばあちゃんの作るミートパイは絶品やからびっくりすんなよ」
ごみ箱「婆ちゃんが好きなんだな」
幼女「せや、ばあちゃん年寄りなんやから大切にせなあかんのや」
ごみ箱「そうだな、偉いぞ」スッ
幼女「汚い手で気安く頭なでようとすんなや」
ごみ箱「ごめんなさい」
幼女「ついた、ここや」
ごみ箱「あ、はい…」
幼女「ばあちゃ~ん今帰ったで~」ガチャ
老婦人「はいはい、ごみ出しご苦労様」
幼女「ばあちゃん、お客さんや」
ごみ箱「どうも」
老婦人「あら?下まで降りなくて助かるけど勝手に持って来たら怒られないかしら?」
幼女「ちゃうで、腹減ってるようやからばあちゃんのミートパイ食べさせたろ思って」
魔王「もちろんご迷惑でなければですが」
老婦人「あらあら、勇者さま? 見ての通り老人と子供の二人暮らしでお客さまは大歓迎よ」
幼女「ばあちゃ~んミートパイミートパイ」
老婦人「はいはい、ほら、あなたもごみ箱はそこに置いて入った入った」
魔王「はい…それでは失礼します」
老婦人「ふふふ、もっと肩の力抜いていいのよ」
魔王「くっくっくっ、そうですね」
老婦人「ところでお茶飲む?」
魔王「いただきます」
今日はここまでです
幼女 魔王「「いただきま~す」」
老婦人「はい、召し上がれ」
魔王「もぎゅもぎゅ」
老婦人「お口に合った?」
魔王「」コクコク
老婦人「そう、それは良かったわ」
魔王「ミートパイ初めて食べましたが案外野菜多めなんですね」
老婦人「あら、ごめんなさいね~ 年を取るとお肉がつらくなっちゃって」
魔王「ああ、いえ。美味しいです」
魔王「キャベツと…ニラ?」
老婦人「実は昨夜の餃子の餡の残りなの」
魔王「餃子!?それは是非とも食べたかった」
老婦人「若い人には物足りなかったかしら?ソーセージあるけど」
魔王「いただきます!」
老婦人「野菜スープもあるけど」
魔王「いただきます!!」
老婦人「お茶も淹れましょうね」
魔王「飲みます!」
魔王「もぐもぐもぐもぐもぐもぐもぐ」
幼女「どうだ、ばあちゃんの飯旨いだろ~」
魔王「うむ、地上の食文化は魔界より優れている事を認めなければならぬな」
老婦人「あら~誉めてももうチーズぐらいしか出ないわよ」
魔王「チーズ!」ガタッ
魔王「乳製品なんて貴重品…いただきます!」
老婦人「チーズが貴重品なんてそんな大げさな」
魔王「前いた場所は地質的に畜産が難しい土地だったもので」
老婦人「そうなの?じゃあ目玉焼きも焼きましょうか」
魔王「えへへ、どうもです」
魔王「にわとりは王族用を少数飼って。牛は村が出しあって農耕用の共同財産って感じだったかな?」
幼女「肉食わないのか」
魔王「贅沢品だったからな。それでも教会の式典で生け贄に捧げられた牛をこっそりまわしてもらったりはした」
魔王「ま、主食は土壁だったがな」
幼女「つち?」
老婦人「かべ?」
魔王「お茶はまだです?」
老婦人「え、ええ…今お湯を沸かすわね」
魔王「いや~ほんと家畜の世話は大変で大変で」
魔王「ほら、魔界って瘴気が突然吹き出したりするでしょう?」
魔王「一晩でニワトリが毒ガス吐いたり、牛が二本足で襲って来たりもしょっちゅうで~」
ーーーーーー
ーーー
ー
魔王(な~んて言わぬが花か)モグモグ
老婦人「ねぇ、ところで勇者さま」
魔王「ん?」
老婦人「朝にホームレスの顔役さんと歩いているのを見たんだけど…」
魔王「まぁ、いろいろとお世話になりました」
老婦人「彼の事あまり怒らないであげて欲しいの」
魔王「別に気にしてません」
老婦人「そう?顔役さんも悪気があったとかじゃないと思う」
魔王「だから、別に気にしてません」
魔王「あの場なら余も同じ事をしたし、上の立場なら顔役のした事を称賛したでしょう」
老婦人「そうなの?」
魔王「彼らには犯罪者かも知れない人間を隠匿する事に重いペナルティーもあったでしょうしね」
老婦人「ペナルティー」
魔王「考えられるのは国から斡旋される仕事の無期限の停止かな」
魔王「ま、何にせよ川から現れた不審者を一晩泊めてくれただけでも感謝しています」
老婦人「そう…安心したわ」
魔王「俺からも質問いいです?」
老婦人「ええ、何か食べたい物あるのかしら?」
魔王「顔役には孫の顔見せました?」
老婦人「ふふ、お湯が沸いたからお茶の用意するわね」
老婦人はポットに茶葉を入れ、熱湯を注ぎこむとカップを用意する
老婦人「あなた、結婚は?」
魔王「書類上はしてます」
老婦人「そう…」
カップにも熱湯を注ぎ温めるとカップの縁に薬を塗り込む
老婦人「そうね、なかなか込み入っちゃてるのよ…」
魔王「余計な口出しですが気になるなら会いに行ったらどうです」
老婦人「あの人はなんて」
魔王「借金苦で女房子供が逃げたとだけ」
老婦人「逃げたなんて…実家に帰っただけ」
老婦人「あの人はどんな時も毎月お金だけ送って来たの」
老婦人「いろんな人に迷惑かけた癖に毎月よ?」
老婦人「だから意地でも使ってやらなかったんだけど子供が成長して手がかからなくなったらね…」
老婦人「ふと街に戻りたくなって、でも未練なんてないから会ってやらないの」
魔王「そうか、よかった…」
老婦人「何が?」
魔王「一発殴ってやろうかと思ったけど思いとどまってよかった」
老婦人「ふふ、あんな人 殴ってよかったのよ」
老婦人はカップのお湯を捨てポットの紅茶を注ぐ
老婦人「さ、勇者さま…粗茶ですが」
老婦人は笑顔でカップを魔王の前に差し出した
魔王「うん、とっても美味し……ドサッ
魔王は眠ってしまった
老婦人「勇者さま?」
魔王「すぅ……すぅ……」
老婦人「やったわ、勇者さまを私たちで捕まえたわ~」
幼女「やったな、ばあちゃん」
老婦人「賞金は私たちの物よ~」
幼女「やっほ~い」
老婦人「やっほ~い」
魔王「すぅ……すぅ……」
同時刻 広場
騎士「どこだ~探せ探せ~」
兵士A「何か人…増えてないか?」
兵士B「そだな、こりゃ誰かが先に捕まえっかな」
少女「大丈夫ですよ~あれのしぶとさはゴキブリ並みですから」
自警団員「おい、勇者捕まったらしいぞ」
賞金稼ぎ「ほう、誰にだい?」
自警団員「何でも老婦人が食事に一服盛ったらしい」
ホームレス顔役「そりゃ見上げた婆さんだ」
兵士A「残念だったな嬢ちゃん」
兵士B「勇者捕まったってよ」
騎士「そして私は破産確定か…」
少女「大丈夫なんですってば~どうせ狸寝入りなんですから」
騎士「慰めはいい…この聖剣を渡すのが私の最後の仕事か…」
兵士A「ずっと腰にさしてたんですね」
兵士B「未練タラタラだな」
少女「むぅ~!あれに薬は効きません、効くわけないんです」
少女は背中に羽根を生やすと自分の事のように胸をはる
夢魔「魔王に状態異常攻撃無効は一般常識です」
今日はここまでです
ようやく神官の追手が登場してここから本番って感じです
ところでアベンジャーズ見て来ましたが良かったです
やっぱり数の暴力はいいものです
「マゾク?」
「アイエェェーマゾク?マゾクなんで?コワイ」
夢魔「あれ?どうしました皆さん?わたし見つめて」
騎士「魔族?」
夢魔「あっ、うっかり羽根出しちゃいました」
兵士A(おい、後ろ回れ)
兵士B(おう、合図と同時に一斉に飛びかかるからな)
夢魔「楽だからつい出しちゃうんですよね…外で羽根は出すなって魔王によく言われるんですが…」
賞金稼ぎ(僕も手を貸そう)
兵士に続き賞金稼ぎも夢魔の右後方に回り込む
夢魔「む~もっと考えて喋ろとか乱暴な言葉づかい止めろとか毎日難癖つけてくるんですよね」
自警団長(我々も兵士のカバーに入るぞ)
自警団員達(了解です)
夢魔「でもでも自分だってちょっと前まで問題行動と規則違反で懲罰牢の常連だったくせにですよ~」
兵士A(配置完了しました)
兵士B(いつでも行けますぜ)
騎士「よし、全員かかれ~!」
騎士の号令に夢魔の周囲を囲んでいた人間が一斉に飛びかかり
夢魔は魔力をこめた言葉を放つ
夢魔「動かないでください」
それだけで周囲の人間は動きを止める
賞金稼ぎ「なっ」
兵士「動けねえ」
夢魔「何なんです?危ないじゃないですか!!」
騎士「おまえがやったのか?」
夢魔「はい!びっくりしたから魔法で操らせてもらいました」
夢魔は言葉に魔力を込めて言霊を練りあげ周囲の人間をいのままに操る
夢魔「え~~っと…それでは皆さん武器を捨てて両手をあげてください」
夢魔の命令に周囲の人間は素直に従う
夢魔「……にへ、良いこと思い付きました」
夢魔の影からコウモリが一羽 空に飛び立つ
コウモリ「あ~あ~ただいま使い魔のテスト中…」
影から飛び立つコウモリは一羽では終わらない
コウモリは無尽蔵に湧き、やがて街の空を埋めつくす
そしてコウモリを通して夢魔の声は大音量で街中に響き渡る
コウモリ「皆さ~ん、これは夢!」
コウモリ「夢だから好きにしていいんです。難しく考えなくていいんです」
コウモリ「言ってる意味わかります?」
言霊で催眠術をかけられた街の住人達は夢魔の問いかけにうなずく
夢魔「へへ、それじゃあ…」
夢魔「魔王をぶっ飛ばせ~♪」
夢魔の暗示は室内にいた老婦人にまで届く
老婦人「ぶっ飛ばす……」
夢魔の暗示にかかった老婦人は暖炉までゆっくりと歩くと火かき棒を引き抜く
魔王「すぅ……すぅ……」
老婦人「ぶっ飛ばして……」
先端の鋭い火かき棒を老婦人は振り上げ
老婦人「ぶっ飛ばそう」
火かき棒を魔王目掛けて降り下ろし
魔王は火かき棒が直撃する寸前で受け止める
魔王「何を考えている」
魔王は腕に力を入れ火かき棒を押し戻す
魔王「何を考えているんだ…」
魔王「あの馬鹿!!」
魔王は老婦人の手から火かき棒を奪う その背中に幼女がしがみつく
幼女「ぶっ飛ば~す!」
魔王「こら、止せ!離れろ」
幼女「ぶっ飛ば~す」
魔王「いたたっ、髪引っ張るな!」
老婦人「ぶっ飛ば~す」
魔王「地味に痛いから鎖骨を押すな」
魔王「おまえら実は正気なんじゃ……
魔王「不味い、ふせろ!」
魔王が幼女と老婦人を無理やりテーブルの下に押し込んだ
次の瞬間
大砲が轟音と共に砲弾を発射
砲撃が建物ごと魔王をふっ飛ばした
魔王「ぬあぁぁぁ~~~!!」
今日はここまでです
めでたく地域住民総出で襲って来ることになりました
夢魔「あわわわわ…」
砲弾の直撃で天井が崩落し魔王がいた階は瓦礫に埋もれる
その上空を数羽のコウモリが旋回する
コウモリA「まお~!ま~お~!」パタパタ
魔王「やかましい!!」
瓦礫を押しのけ幼女と老婦人を抱えた魔王が砂塵の中から姿を見せる
コウモリB「よかった、無事だったんですね♪」
魔王「いきなり砲撃なんて何考えてんだ!?」
コウモリC「くっくっくっ…」
コウモリABC「「「「はぁ~はっはっはぁ~!」」」
コウモリ「いまの攻撃をくらって生きているとはしょうさんしようではないか、魔王よ」
魔王「おまえ、何も考えてないだろ」
魔王「だいたい何故おまえがここにいるんだ?」
コウモリ「ふっふっふっ、このたび神官さまより魔王監視の命をうけ朝からずっと魔王を監視してました」
魔王「建物に砲弾撃ち込む監視など教えた記憶はない!」
コウモリ「そんなに怒鳴らないでいいじゃないですか…」
コウモリ「いつものことなんですから」
魔王「そうじゃない、おまえの言霊は音に弱いから鳴り物注意 火器爆発物は厳禁と口を酸っぱくして教えたハズだ」
コウモリ「つ~ん、わたし悪くないで~す」
コウモリ「ただちょっと〝魔王をぶっ飛ばせ〟って言っただけで~す」
魔王「なるほど、つまり命令を勝手に曲解して撃ったやつが悪いと」
コウモリ「へへ、そうです♪」
魔王「馬鹿かおまえは!! 言霊はもっと繊細に扱えといつも言ってるよな」
コウモリ「うっさい!うっさいです!!」
コウモリ「元奴隷のいんちき魔王のくせにぃ~」
コウモリ「神官さまの庇護がなかったら飢え死にしちゃうような底辺奴隷だったくせにぃ~」
魔王「話を混ぜ返すな、今はその話は関係ない」
コウモリ「関係なくないです!魔王は神官さまとケンカしちゃだめなんです…」
コウモリ「ケンカしたら謝らなくちゃだめなんですよ…」
魔王「あ~泣くな、怒れなくなるだろ」
コウモリ「泣いてないです…」
魔王「はぁ…これより魔王の名のもと夢魔を正式に監視役に任命する」
コウモリ「魔王?」
魔王「まずは大砲の発射音で暗示がきれてないかだ、確認急げ」
コウモリ「は、はい!」
魔王「魔力は残っているか?減った分は魔石でこまめに回復しろ」
コウモリ「うん」
魔王「回復したらコウモリがまだ少なすぎる、今の倍は作れ」
コウモリ「えっと…」
魔王「ここから見てるだけでも操りきれていないコウモリがいくつかある、気合いで操れ」
コウモリ「あれ?おりょ?」
魔王「操ったら伏兵をあぶり出せ、暗示のかけ残しがないか調べろ、使い魔は広く浅く出して位置の特定をさせるな、抜け道を埋めて地の利で優位に立て、弱点となる大きな音を立てるものを探し先に破壊しろ」
魔王「注意するのは教会の鐘、広場の仕掛け時計、噴水に水路、鏑矢、猟銃に大砲に…」
コウモリ「きゅ~、そんなにいっぱい出来ないです…」
魔王「出来ないから留守番させてたんだろうが!!」
魔王「神官も何考えてんだ!」
コウモリ「うっさいです!」
コウモリ「元奴隷のいんちき魔王のくせにぃ~」
魔王「話を混ぜっ返すなってんだろぉがあぁぁ!!」
今週はここまでです
亀更新ですまんな
魔王「だいたい魔界に置いて行くはずのおまえが泣いて駄々をこねたから約束したよな?」
コウモリ「つ~ん、あれは神官さまと離ればなれにしようとした魔王が悪いんです」
魔王「〝神官のそばから離れないなら連れて行く〟と言ったんだ!」
コウモリ「正しくは〝神官さまか魔王のそばから離れないなら連れて行く〟です…」
コウモリ「今は魔王のそばだからセーフです」
魔王「あんま屁理屈言うと修道院に叩き返すぞ!」
コウモリ「わたしは神官さま専属メイドだから魔王の命令なんか聞かなくていいんです~!」
魔王「はぁ?魔王の力を侮ってもらっては困る!」
魔王「おまえを修道院にいれたら教員を増員し授業内容も一新させるからせいぜい勉学にはげむんだな」
コウモリ「ぬ~」
コウモリC「何時まで魔王気分でいるのです?〝元〟魔王さま」
魔王「ぐっ」
コウモリA「あれ?」
コウモリB「誰が勝手に操ってるの?」
コウモリC「いい機会だから口調も元に戻したらどうです?」
コウモリC「奴隷身分から頑張って魔王としての威厳を出そうと努力は買いますが…」
コウモリC「せめてご自分の一人称ぐらい統一したらどうです」
コウモリA「わ、わたしが言ったんじゃ…
魔王「わかっておる」
コウモリC「ですが追い出しても元気そうで安心しました」
魔王「監視役の監視か?心配なら手元に置いとけ、神官」
神官「ふふ…昨夜ぶりですね、魔王さま」
神官「体内に埋め込んだ封印はその後なにか異常ありませんか?」
魔王「すこぶる正常に機能しているようだ」
魔王「おかげで一夜明けても魔力がまったく回復せぬ」
神官「そうですか、それは良かった」
魔王「くっく…
夢魔「神官さま~~♪」
夢魔「ほんとに神官さま?」
神官「そうだよ~♪夢魔ちゃん監視役ご苦労さま」
夢魔「えへへ」
魔王「おい、監視対象に砲弾撃ち込んどいてそんな簡単にすますつもりか?」
神官「子供は誉めて伸ばそうと思って」
魔王「過保護か!」
魔王「こんなところまで一人で来させるなど何考えてる!」
神官「本人の意思を尊重したいと考えてます」
魔王「過保護か!」
神官「そんな事より魔王さまの封印の事なのですが…」
魔王「はぁ?破壊した邪神の封印より作成した新型の術式なんだろ?」
魔王「正常に動いて余の魔力の回復を阻害しているから問題ないはずだ!」
魔王「問題なのは夢魔の独断専行をどう納めるかだ!!」
神官「過保護か」
魔王「はあ?」
神官「ふふ、魔王さまのそういうところが好きです」
魔王「おまえら…事の重大性わかってないだろ」
夢魔「それぐらい知ってます!魔王が神官さま怒らせたんでしょ?」
夢魔「だから魔王を連れて帰って「ごめんなさい」って謝らせればいいんです」ムフー
魔王「ほら見ろ、何もわかってない」
神官「魔王さまこそわたしの考えわかります?」
魔王「余に施した封印にわざと綻びを作れば邪神の封印を探すと考えたんだろ?」
神官「悪い話じゃないでしょう?」
神官「魔王さまに施した封印は邪神の封印を解析すれば解除方法がわかる仕組みになってます」
魔王「用済み魔王の最後の利用法か」
魔王「監視役が半日で暴れださなければ完璧だったな」
夢魔「……」
神官「監視役については人員を交代して続けるだけです」
魔王「やはり事の重大性をわかってなかったか…」
魔王「それで夢魔はどうなる?初任務を自ら志願して失敗すれば経歴にキズがつくだけでは済まん」
魔王「うるさい連中がどう難癖言ってくるかも注意しろよ」
神官「確かに問題ですね……」
神官「それでは魔王さまがぶっ飛ばされてごめんなさいします?」
魔王「却下だ!」
神官「ふふ、わたしはそれでも構わないのですが」
夢魔「まお~」
魔王「なんだ?」
夢魔「歓楽街って何ですか?」
魔王「おまえ、もう帰れ!!」
今日はここまでです
今回、名前表記が神官 夢魔になってますがしゃべっているのは空に大量にいる使い魔のコウモリです
ちなみに補足ですが使い魔は魔翌力で出来た無人機みたいな物で生き物ではないです
夢魔「なんでですか~意地悪しないで教えてくださいよ~」
神官「魔王さま?」
魔王「はい…」
夢魔「平日限定一万ポッキリ~♪」
神官「あまり変な言葉覚えさせないでくださいと言ってますよね?」
魔王「確かに承っております」
夢魔「喧しい人がいないと行くんですよね~♪」
神官「あら?誰の事です?」
魔王「…弁解してもよろしいでしょうか?」
神官「あらあら?否定はないのですか?」
魔王「……」
神官「面倒になったから逃げるかって顔ですね」
神官「まあいいですけどね。魔王さまの体内に埋め込んだ封印はわたしの意思で血管を通して全身をズタズタに切り裂いて肛門から内臓を引きずり出すことも可能という事も今のところまったく関係ありません死ね」
魔王「申し訳ありませんでした」
魔王は地面に頭をこすりつけ土下座をした
夢魔「あ~!魔王が神官さまにごめんなさいしました~」
神官「ふふ、神官ちゃんのおかげだね」
夢魔「そうなんですか?へへ、誉められちゃいました♪」
神官「うんうん、えらいえらい」
夢魔「えへへ、魔王もちゃんと聞いてます?」
魔王「くっふ……おまえら本当にいい加減にしろよ…」
魔王「まったく、この緊張感のない場をどう納める気だよ」
夢魔「まお~」
魔王「どうした?」
夢魔「空がゴロゴロ言ってる」
お久しぶりです。
気がついたら二週間とかびっくりしました
>>120はあれです、魔王が謝ったのは神官ちゃんの手柄だから間違ってはいないんですよ…きっと
まあ気になったから修正版書きましたが
お帰りー
夢魔「なんでですか~意地悪しないで教えてくださいよ~」
神官「魔王さま?」
魔王「はい…」
夢魔「平日限定一万ポッキリ~♪」
神官「あまり変な言葉覚えさせないでくださいと言ってますよね?」
魔王「確かに承っております」
夢魔「喧しい人がいないと行くんですよね~♪」
神官「あら?誰の事です?」
魔王「…弁解してもよろしいでしょうか?」
神官「あらあら?否定が先ではないのですか?」
魔王「……」
神官「面倒になったから逃げるかって顔ですね」
神官「まあいいですけどね。魔王さまの体内に埋め込んだ封印はわたしの意思で血管を通して全身をズタズタに切り裂いて肛門から内臓を引きずり出すことも可能という事も今のところまったく関係ありません死ね」
魔王「申し訳ありませんでした」
魔王は土下座すると地面に頭をこすりつけた
夢魔「あ~!魔王が神官さまにごめんなさいしました~」
神官「ふふ、夢魔ちゃんのおかげだね」
夢魔「そうなんですか?へへ、誉められちゃいました♪」
神官「うんうん、えらいえらい」
夢魔「えへへ、魔王も聞きました?」
魔王「くっふ……おまえら本当にいい加減にしろよ…」
魔王「まったく、この緊張感のない場をどう納める気だよ」
夢魔「まお~」
魔王「どうした?」
夢魔「空がゴロゴロ言ってます」
空を見上げればいつの間にか雨雲が覆っている
魔王「不味い、神官。夢魔を今すぐ強制転送しろ!」
神官「すぐには無理。10分ください」
魔王「ちっ、急げ。時間がない!」
魔王は先ほどの砲撃で崩れた天井をよじ登り 屋上まではい上がると一直線に走り出す
魔王「雨が降る!人間達が正気に戻るぞ!!」
いくつもの屋根を飛び越えながら加速し
躊躇することなく大通りの向こう100m先の建物目掛けて跳ぶ
神官「ちょっ!魔王さま!?」
魔力のない魔王に100m越えの跳躍力など当然あるはずもなく
魔王は重力にしたがい緩やかに下降する
神官「世話のかかる…」
それを神官の操るコウモリが背中にしがみつき ふらつきながら目的の建物まで運ぶ
神官「魔王さま、おちついて」
魔王「夢魔~どこだ!」
神官の忠告などまるで聞かず。建物の上から広場にいるはずの夢魔の姿を探す
しかし、ホームレスに自警団、兵士に騎士といくつか見知った顔の中に夢魔の姿はない
神官「ここに夢魔ちゃんはいません」
魔王「何処にいる?」
夢魔「へへ、ないしょ~♪」
魔王「おい!役に立たないだけでなく、いつまでも遊んでる気なら魔界に送り返すぞ!」
神官「魔王さま!」
ドゴッ!
神官の操るコウモリが魔王の背中を直撃する
魔王「ぐふっ!!」
魔王「がっ…げふっ……」
体当たりが綺麗に入り悶絶する魔王に神官がたずねる
神官「落ち着きました?」
魔王「心臓を狙うな…死ぬかと思っただろ」
神官「落ち着きました?」
コウモリは空から二度目の体当たりを敢行するための隙をうかがう
魔王「わかったからその動き止めろ」
神官「…術者は相手に居場所を知られてはならない。常に移動し相手に悟らせるな」
神官「夢魔ちゃんは魔王さまの教えを実行しただけです」
魔王「そんな悠長な事を言ってる場合か!」
魔王「正気に戻った人間達がどうするか、わかるだろ」
夢魔「どうするの?」
魔王「この騒ぎの犯人探し、捕まえ…抵抗するようなら…
神官「魔王さま…」
魔王「……」
神官「あまり怖がらせないで」
魔王「そうだな」
そして雨は降りだし、その雨音が街中をつつみ込む
夢魔「雨だ~♪」
神官「魔王さま…転送準備完了まであと8分…」
夢魔「わたし雨大好きです♪」
夢魔「地上は空から水が降ってくるなんて ほんと良いとこですよね♪」
神官「魔王さま…」
夢魔「ひゃ~シャワーだ~♪」
魔王「くっくっくっ…」
魔王「はぁ~はっはっはぁ~!」
神官「魔王さま?」
夢魔「まお~どうした~?」
魔王「そうか、ここか、このタイミングで来るか…くっくっくっ…」
夢魔「なんか来た?」
魔王「喜べ、神官。夢魔の心配はしばらく先送りできそうだ」
夢魔の言霊は雨に流され解けて消え
新たな言霊が街の住人達にかかった暗示を上書きした
『勇者をコロセ』
街の住人達は雨に濡れ、虚ろな瞳で自らに書き込まれた暗示を復唱する
「勇者をコロセ」
「勇者をコロセ」
「コロセ…」「コロセ」「コロセ!」
神官「魔王さま、これは?」
夢魔「わたし何もしてません」
魔王「わかってる。これは、そうだな…エビの仕業だ」
夢魔「えび?」
魔王「神官。餌に喰いついたエビの居場所を特定できるか」
神官「マオ、サマ……」
魔王「神官?」
神官「ボウ、ガイ…サレテ…」
魔王「そこまで甘くないか」
魔王「まあいい。あとはこちらで面白可笑しく場を締めるから心配するな」
神官「マ……」
魔王「そうだな、夢魔の万が一の時は頼む」
夢魔「神官さま?」
神官「……」
魔王「安心しろ。ただの通信妨害だから帰ったら会える」
夢魔「うっ…ひっく…ぐすっ…」
魔王「なぜ泣く!?」
夢魔「うっ…ひっく…うっきゅ……」
魔王「えっ?えっ?えっ?」
魔王「あ!街の人間達の標的は勇者?である俺だからおまえに危害は与えないぞ」
夢魔「まお…」
魔王「おう、どうした?」
夢魔「わたし、迷惑でした?」
魔王「あ~」
夢魔「ぐすっ…実力不足なのは知ってます」
夢魔「ひっく…大切にされてるのも知ってます」
夢魔「でも、わがまま言ってついてきたのは留守番する為じゃないんです…」
魔王「……」
夢魔「ひっく…もっと頼られたかったんです」
夢魔「だから魔王が神官さまとケンカしたって聞いて…。わたしが仲直りさせたら認めてくれると思ったんです…」
夢魔「誉めて欲しかったんです…」
魔王「おまえは自分がどれだけ頼りにされてるか知ったらきっと驚くぞ」
夢魔「ごめんなさい」
魔王「聞け!夢魔」
魔王「末端ながらもこの魔王の軍勢に属する者が認めてもらうなどと、下からへりくだってどうする?」
魔王「認めて欲しければ顔面に戦果を叩きつけ実力で認めさせろ!」
魔王「媚びるな!顔色を窺うな!腕力に物をいわせて信念を貫け!」
魔王「だいたい魔王をぶっ飛ばせと命令しておきながら
魔王「だいたい魔王をぶっ飛ばせと命令しておきながら命令が抹殺に変わったぐらいで何を騒ぐ?」
魔王「余を誰だと思ってる?」
魔王「奴隷狩りに捕まりボンクラ王子の噛ませ犬となるところを逆に咬みちぎり」
魔王「闘奴になっては数々の妨害や先代自慢の精鋭を返り討ちに」
魔王「ついには先代魔王を魔界の全住人の前で完膚なきまでに叩きのめし魔王を襲名した」
魔王「それが余だ、元奴隷のいんちき魔王だ」
魔王「辺境の街の住人が総出で殺しに来るぐらいで何をそんなに騒ぐ必要がある?」
魔王「これぐらい、いつもの事だろ?」
夢魔「うん……」
魔王は口角を吊り上げ笑う
魔王「笑え夢魔。世界征服は笑顔でやるものだ!」
夢魔「うん……うん♪」
魔王「よし!ならば二人で協力してこの場を切り抜けるぞ」
夢魔「お~」
魔王「おまえは使い魔で空から何かあったら知らせろ」
夢魔「いえっさ~♪」
魔王「ところで、おまえ今何処にいるんだ?」
夢魔「えっと…あ!」
魔王「ん?どうした?」
砲兵「勇者をコロセー!」
言霊で操られた砲兵が魔王に向けて砲弾を発射する
魔王は向かってくる砲弾と交差するように屋上から飛び降り建物の側壁をかけ降りる
夢魔「大砲が狙ってます」
魔王「ほんと、頼りになるよ」
大砲目掛け壁を蹴って墜落同然に落下。落下の衝撃で砲身をへし折る
砲兵「勇者をコロセー」
大砲に埋もれた魔王に砲兵が剣を抜いて襲いかかる
その剣が届くより速く魔王が下からアゴを蹴り上げ失神させた
魔王「くっくっくっ…」
魔王「はぁ~はっはっはぁ~!」
魔王「同情する。一番の被害者はどう考えても貴様らだ」
魔王の周囲を老若男女あらゆる職種の人間達が取り囲む
「勇者をコロセ…」
「勇者をコロセ…」
「コロセ…」「コロセ」「コロセ!」
魔王は笑い、半身を引いて構える
魔王「だが手加減はしない」
魔王「子どもが雨の中で待ってる」
魔王「余にはそいつの方が大切なんでな」
乙乙
確か85行、6000文字制限だからそれに関しては余裕で下回ってたはず。
夢魔「うっ…ひっく…うっきゅ……」
魔王「えっ?えっ?えっ?」
魔王「あ!街の人間達の標的は勇者?である俺だからおまえに危害は与えないぞ」
夢魔「まお…」
魔王「おう、どうした?」
夢魔「わたし、迷惑でした?」
魔王「あ~」
夢魔「ぐすっ…実力不足なのは知ってます」
夢魔「ひっく…大切にされてるのも知ってます」
夢魔「でも、わがまま言ってついてきたのは留守番する為じゃないんです…」
魔王「……」
夢魔「ひっく…もっと頼られたかったんです」
夢魔「だから魔王が神官さまとケンカしたって聞いて…わたしが仲直りさせたら認めてくれると思ったんです…」
夢魔「誉めて欲しかったんです…」
魔王「おまえは自分がどれだけ頼りにされてるか知ったらきっと驚くぞ」
夢魔「ごめんなさい」
魔王「聞け!夢魔」
魔王「末端ながらもこの魔王の軍勢に属する者が認めてもらうなどと、下からへりくだってどうする?」
魔王「認めて欲しければ顔面に戦果を叩きつけ実力で認めさせろ!」
魔王「媚びるな!顔色を窺うな!腕力に物をいわせて信念を貫け!」
魔王「だいたい魔王をぶっ飛ばせと命令しておきながら命令が抹殺に変わったぐらいで何を騒ぐ?」
魔王「余を誰だと思ってる?」
魔王「奴隷狩りに捕まりボンクラ王子の噛ませ犬となるところを逆に咬みちぎり」
魔王「闘奴になっては数々の妨害や先代自慢の精鋭を返り討ちに」
魔王「ついには先代魔王を魔界の全住人の前で完膚なきまでに叩きのめし魔王を襲名した」
魔王「それが余だ、元奴隷のいんちき魔王だ」
魔王「辺境の街の住人が総出で殺しに来るぐらいで何をそんなに騒ぐ必要がある?」
魔王「これぐらい、いつもの事だろ?」
夢魔「うん……」
魔王は口角を吊り上げ笑う
魔王「笑え夢魔。世界征服は笑顔でやるものだ!」
夢魔「うん……うん♪」
がんばれまおーさま!
大砲なんて怖くない!
周囲を取り囲む人間達が魔王目掛けていっせいに襲いかかる
魔王「夢魔!街中の使い魔を自分のまわりに集めろ」
魔王は襲いかかる人間達をかわしざま手首を掴むと後方の人間に叩きつける
叩きつけられ折り重なるように倒れた人間達を踏み台にして魔王は跳躍する
魔王「はやくしろ!」
夢魔「はい!」
街を覆うコウモリの大群が一点に向かって飛び立つ
魔王「夢魔はそっちか」
人間を踏み台に跳びまわっていた魔王は一羽のコウモリを掴んで着地
自警団員「勇者をコロセー」
着地の瞬間を狙って突き出された刺又をコウモリではたき落とす
夢魔「きゅっ!?」
自警団員「勇者をコロセ…」
「コロセ…」「コロセ」「コロセ!」
複数の自警団員が魔王を包囲し刺又を次々と繰り出す
魔王はそれを一歩も動く事なくコウモリで弾き落とす
夢魔「きゅっきゅっきゅ~~~!」
魔王「…痛くはないんだよな?」
夢魔「痛くはないけど不愉快です!!」
魔王「それはすまんかった」
魔王は刺又を掴んで引き寄せるとバランスを崩した自警団員の脇をすり抜け包囲網から抜け出す
夢魔「む~今のもっと早くできましたよね!」
魔王「悪かったって」
魔王は襲いかかる人間達をさばき、捕まらないよう絶えず移動する
それを屋上から猟師が銃で狙いをつける
猟師「勇者をコロセ…」
夢魔「させませんよ~!」
無数のコウモリが銃の射線を遮る
魔王「夢魔、そいつらの銃を奪っとけ」
夢魔「まかせろ~♪」
魔王「自信つけさせすぎても困るんだよな…」
魔王は壁を登り二階の窓枠に手をかけると窓を破って建物に侵入する
今日はここまでです
戦闘シーンは不評らしいけどまだまだ続くんだよな~
魔王は身体強化系ですね
イメージ的に変身できない仮面ライダーみたいな感じかな?
戦闘員には勝てるけど怪人には歯がたたないぐらいの強さ
魔王は集合住宅に侵入
部屋を駆け抜けドアを開け通路に出る
ガチャッ!
ガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャガチャ
魔王「……」
魔王がドアを開けると同時に同じ階のすべてのドアが開き中から住人達が出てくる
住人1~10「勇者をコロセ…」
10人の住人達は各自さまざまな得物を手に魔王に迫る
魔王「……」
バタン、カチャ
魔王は部屋に戻ると中から鍵をかけた
住人「勇者をコロセー」
住人達は狭い通路を押合いながら魔王が閉めたドアに殺到すると手にした武器で破壊しようとする
魔王「止めてやれ、敷金が戻らなくなる」
隣のドアが開き外から回り込んだ魔王があらわれる
住人1「勇者をコロセ」
魔王「その台詞も飽きたな」
魔王は部屋から飛び出すともっとも手近にいた住人1のみぞおちに拳をめり込ませる
崩れ落ちる住人1の手から短剣を奪い投てき
投げた短剣は住人2の足に突き刺さる
住人2「がっ!」
反射的に短剣に手を伸ばす住人2の喉元を掴んで押し飛ばし
宙を飛ぶ住人2は住人3を下敷きにして床に転がる
魔王は軽く呼吸を整えると、その背中にコウモリが抱きつく
夢魔「まお~銃あったら嬉しい?」
魔王「いらない」
夢魔「え~、せっかく奪ったんだから使ってくださいよ~~♪」
夢魔と会話中の魔王目掛け住人4がバールをしゃにむに振りまわしてくる
魔王はそれを左手で受け流し、右の掌底をわき腹に打ち込む
そのまま鼻の下の急所、人中に二発目の掌底を叩きつけ
血と唾液を撒き散らして盛大に床に倒れた住人4の脇を通りすぎる
夢魔「こんな時、銃があったら便利だと思いません?」
魔王「思わない。記念品として神官に贈ったらどうだ?」
夢魔「む~」
魔王は住人5に前蹴りを放ち、床に落ちたバールを拾いあげ
住人6が出刃包丁を振り下ろすのをバールで弾き返す
魔王「今さらだが子どもは真似するなよ」
夢魔「は~い」
魔王は住人6の手首にバールを突き刺し、反転
バールを基点に住人6を背負い投げる
魔王の頭上で銃をくわえたコウモリが様子をうかがう
夢魔「ほんとにいりませんか?」
夢魔「後で欲しがったって知らないんですからね」
魔王「銃は玩具じゃないんだ、弾を抜いて捨てろ」
夢魔「しゅん…」
夢魔「もっと喜んでくれると思ったんですが…」
魔王「あ~そうだな…なんだか急に銃が欲しくなってきたような」
気の抜けた魔王の背後から住人7が飛びかかり背中に抱きつく
夢魔「ほんと?」
魔王「ほんとほんと……すまん、ちょっと待て」
魔王は背中に抱きつかせたまま跳躍、回転すると背中から落下し住人7を押し潰す
夢魔「ふへ、ちょっとだけですよ♪」
地面に仰向けの姿勢の魔王の上から住人8が覆い被さってくるのを足で挟んで止め、顔面を殴り飛ばす
夢魔「まだ?」
魔王「もうちょっと」
反動をつけ起きあがると住人9の蹴りを防ぎ、足払いで軸足を刈り取り
尻餅をついた住人9を無造作に放り投げる
投げられた住人9を住人10が受け止め
その時には距離を詰めた魔王の回し蹴りが住人10の側頭部を蹴り飛ばした
夢魔「……」
魔王「これでこの階は全員か」
夢魔「そうやって魔王は女心を弄ぶんですね」
魔王「なんの話だ!?」
今日はここまでです
まだ戦闘員
魔王「馬鹿なこと言ってないで銃を渡せ!」
夢魔「つ~ん、そうやって甘い言葉に簡単に騙されるような安い女じゃないんですからね!」
魔王「そういう言葉どこで覚えるんだ?」
夢魔「メイドさんが言ってました。魔王は餌をまく癖に食いついたら逃げちゃうヘタレだって」
魔王「は?影でそんな事言われてんの?」
夢魔「そんなんだから神官さまも魔力封印しちゃうんです」
魔王「何故そこで神官が出てくるのかわからんのだが」
夢魔「でも、ゴブリンさんもオーガさんも魔王は気を持たせ過ぎって言ってます」
魔王「…いいから早く銃よこせ!」
夢魔「あ!何するんですか!?すけべ!変態!!」
魔王はコウモリから銃を奪うと引き金を引き、階段を昇ってきた兵士の足を撃ち抜く
兵士「がっ!」
魔王「ところで何かあったら知らせろと命じたはずだが?」
夢魔「建物に入られたら空からじゃわかんないです」
魔王「建物に入った段階で知らせろよ」
兵士「勇者をコロセー!」
魔王は押し寄せる兵士の集団に銃を乱射し足止めすると階段をかけ上がる
魔王「夢魔、まだ銃があったらあるだけよこせ」
夢魔「は、はい!」
階段の踊り場の窓を割ってコウモリが侵入する
夢魔「まお~階段の先、塞がれてます!」
魔王「誘い込まれたか…あれを見ろ」
階段下を占拠してから兵士達は襲ってくる気配はない
その中から兵士達をかき分け騎士が進み出る
騎士「勇者、コロセ…」
騎士は腰に下げた聖剣を鞘から抜くと剣先を魔王に向ける
魔王は騎士の足下を狙い、銃で撃つ
魔王「次は当てる」
しかし、騎士は威嚇に怯まず階段を上る
騎士「勇者…」
魔王「まあ、当然聞く耳もたんよな。知ってた」
魔王は宣言通りに騎士の足を狙って引き金を引き
弾切れに気づく
魔王「夢魔、銃だ」
夢魔「……」
魔王「夢魔?」
夢魔「あ、はい…」
魔王は銃を受け取り、騎士に銃口を向けるが
騎士は人間離れした跳躍力を見せつけ魔王の頭上を飛び越える
騎士「勇者…コロセ…」
騎士はそのまま階段の踊り場に着地
魔王はそれを目で追い、振り向いたところを銃身を握り取られた
魔王「………」
騎士「ふははははっ…」
騎士は笑い、銃口を自らの額に押しつける
騎士「コロセ!」
魔王「くっ」
魔王は怯み、騎士は銃身を離さぬまま聖剣を上段から斬り下ろす
騎士の斬り下ろしの斬撃を魔王は銃を手放し、横に飛んでかわすと
飛んだ勢いを利用し階段をかけ降りる
夢魔「まお~」
魔王「心配するな」
言葉とは裏腹にかわしきれずに左肩を斬られた傷が深く
左腕は力なく垂れ下がる
魔王「おまえは必ず神官の元に送り帰す」
夢魔「まお…」
魔王「大丈夫」
夢魔「わたし、魔王といっしょがいいです」
魔王「……」
魔王の口から笑みがこぼれ、上着を脱ぐと右手に巻きつける
魔王「その提案は黒幕を殴り飛ばしてから考えよう」
魔王は重心を落とし、右半身を引いた構えをとる
騎士「これは夢」
騎士「夢ならば好きにしてよく…難しく考える必要もない…」
魔王「……」
騎士は聖剣を振り上げ上段に構える
騎士「ワタシが、勇者だ」
魔王「ならばもっと胸を張れ」
魔王「おまえは今、魔王に手傷を負わせた」
目線は騎士から離さず
全ての神経を脚に集中
息を吸って
吐く。
魔王「第八十八代魔界統治者、魔王」
魔王「推して参る」
魔王は地面を蹴り、突風と化して階段を駆け上がる
勝負は一瞬
魔王の最大走力が騎士の予測を上回り
聖剣が魔王の体を切り裂くより早く魔王の右拳が騎士の胸元に叩き込まれる
騎士「ワタシが、勇者…」
魔王「いい夢だな」
魔王は一歩踏み込み全身鎧を装着した騎士の体を持ち上げ、外へと殴り飛ばす
夢魔「ふわぁぁ~!?」
窓ガラスを割り落ちてきた騎士の体を外からのぞき見ていたコウモリがとっさに下から支える
夢魔「なんてモノ落とすんですか!」
魔王「夢魔!歯食いしばれ!」
魔王は窓から身を投げ、騎士の上に飛び乗る
ただでさえ重い騎士に魔王の体重が加わり下から支えるコウモリ達から不満の声があがる
夢魔「なにするんです!潰す気ですか!」
魔王「このまま走るが落とすなよ!」
魔王は抗議の声を黙殺して周囲を飛ぶ無数のコウモリを飛び石のように次々に飛び移り
雨の中、街道にひしめく人間達の頭上高く魔王は駆け抜ける
夢魔「重い…」
魔王「このまま一気に合流する。準備しておけ」
夢魔「お~も~い~!」
魔王「文句なら合流してから聞いてやる」
夢魔「む~」
魔王の進む先、建物の影から小さな影が大きく手を振る
その様子を遠くから眺めていた術者は鼻を鳴らす
言霊使い「ふはっ♪」
言霊使い「雑魚相手に手足振り回して必死の大立ち回り」
言霊使い「まるで一見優雅に見えても水面下では必死に足掻くアヒルのようです」
この騒ぎの元凶は静かに笑う
言霊使い「それで良いんです、それが狙いなのですから」
言霊使い「あまねく弱者は自らの限界を知る時、神に頼ります」
言霊使い「女神にすがる」
言霊使い「貴公はどうです、魔王?」
言霊使いが左手を掲げるのを合図に長距離砲が魔王を狙う
言霊使い「凄いでしょう?これはね、連合軍からのプレゼント♪」
明らかに他と一線を画する世界最長の砲身を自慢気に手でなでる
言霊使い「規格外すぎて海上運送すら困難で行軍に不向きなお荷物を特例で連合軍参加から逃げたこの国に押し付けたんです」
言霊使いの左手にあわせて長距離砲は照準を魔王に向ける
言霊使い「その時の特使の皮肉がまた傑作…」
言霊使い「ああ、ちょっと失礼」
雨は激しさを増し言霊を洗い落としていく
その度、言霊使いは言葉に魔力を込めて言霊を練り直す
言霊使い「勇者をコロセ」
言霊が街中に張り巡らしされ言霊使いは満足そうにうなずく
言霊使い「えっと…何処まで話しましたか…ああ、そうそう」
言霊使い「特使はこう言いました」
言霊使い「これなら何処にいようが魔王に当たる」
精霊「つまんない話」
聖剣に宿る精霊は溜め息を吐き
長距離砲が火を吹き弾丸を吐き出す
長距離砲から放たれた弾丸は魔王の頭上を越え山腹をえぐる
夢魔「何ですか~!?」
魔王「長距離砲!そんな物まで使うのか?」
魔王「何を考えている!一歩間違えればこの街に深刻な被害が出るぞ」
精霊「それは勇者さまの心掛けしだいです」
精霊は魔王の目の前に姿を現し、自らが宿る聖剣を差し出す
精霊「魔王の沽券と赤の他人の命どちらを選びますか?」
魔王「貴様ァ!」
魔王は精霊に蹴りを放つも煙のように捕らえることはできない
精霊「無駄です。魔力を失った今の魔王では私にかすり傷一つつけられません」
魔王「すべて茶番か!」
魔王「何もかも知ったうえで余を勇者に仕立てる為だけにこの騒ぎを始めたんだな!!」
精霊「女神さまの言葉はすべて正しく。神託は絶対でなければなりません」
精霊「女神さまが黒を白と言えば私達は黒を白に塗り替えるだけです」
精霊「悪も善に、魔王も勇者に塗り替えましょう」
魔王「貴様等!!」
激昂する魔王の目前に聖剣を突きつける
精霊「さあ、時間はありませんよ」
精霊「勇者としての使命を果たせば女神さまもそれはお喜びになるでしょう」
夢魔「まお~」
魔王「・・・・」
夢魔が心配そうに見詰め、精霊は心底楽しそうに笑う
そして魔王は聖剣を掴む
精霊「さあ、新たな勇者の誕生を皆さんも拍手で祝福しましょう」
今日はここまでです
女神サイドも真っ黒
精霊「さあさあ、勇者がこの街を救おうと立ち上がってくださったんですよ?」
精霊「もっともっと盛大な拍手、は・く・しゅ♪」
パチパチパチパチパチパチ
夢魔「まお…」
魔王「そんな心配そうな声出すな。十年はやい」
魔王はコウモリのの頭を指でぐりぐり撫でてやる
夢魔「うん…」
精霊「さあ、今こそ聖剣の真の力を魅せる時!」
精霊「女神に祈りを、祈りこそ愛!」
精霊「愛こそ神の原動力!!」
精霊「心の底から湧き出る愛で、世界に平和と安定を…」
魔王「沸き上がるは怒りと殺意のみ!!」
魔王は聖剣の居合い抜きによる一閃で精霊の頭を斬り飛ばす
精霊「これが愛の力…」
魔王「断じて違う」
精霊「あら、残念」
精霊の姿が霞み、一瞬で斬られる前の姿に戻る
精霊「では、お遊びはここまでです」
夢魔「まお~!何かがそっち向かってます!」
魔王「何かって何だ!?」
夢魔「それが見えないんです…でも、とっても速いです」
コウモリの上を駆け抜ける見えない何かは一瞬で魔王に肉薄し、軽々と魔王を持ち上げる
魔王「ぬあ?」
反撃の余地なく魔王は振り回され、投げ飛ばされる
魔王「今のは、そうか…」
体を反転して建物の屋上に着地した魔王はこの時初めて顔を歪める
魔王「夢魔!おまえ何人で来た!!」
夢魔「わたしと三人のオーガさん…」
外壁を駆け上がり屋上まで登った何かは不可視の魔法を解除して姿を現す
現れたのは魔王を超える巨体
魔界の瘴気で全身の筋肉が膨張し赤銅に変異した異形の妖魔
オーガは魔王を虚ろな瞳で見つめる
魔王「よう、久しぶり」
オーガは魔王の挨拶に応えず、自らにかかった暗示を呟く
オーガ「勇者を、コロセ」
精霊「さあ、これこそ神が与えた試練!」
魔王「ふざけるな!!」
夢魔「ひやぁっ!?」
魔王「夢魔!」
魔王は後ろに飛ぶと同時にそれまで魔王がいた場所に二体目のオーガが空から急襲する
オーガ「コロセ…」
夢魔「まお~!まお~~!!」
二体目のオーガの腕の中には夢魔が捕まっており
手足をバタバタさせ何度も魔王の名を呼ぶ
魔王「危ないから動くな!」
後退した魔王の背後に姿を消した三体目のオーガが待ち伏せる
魔王「心配すんな!こいつらの攻撃パターンなら知り尽くしてんだよ!!」
その見えない三体目に向けて魔王は回し蹴りを放つ
オーガ「・・・・」パシッ
魔王の回し蹴りをオーガはあっさりと片手で掴む
魔王「ぐっ」
片足を掴まれた魔王は身動き出来ずに唸る
精霊「さあ、勇者さま。今こそ勇者としての使命を」
精霊「この街の住人を操る魔族の少女と妖魔達をあなたの手で滅ぼすのです」
魔王「そんな筋書きなぞ糞食らえ!」
精霊「強情も過ぎれば死にいたります」
オーガの裏拳が魔王の頬を打ち、顎を砕く
魔王「がっ!」
オーガの一撃に魔王は一歩、二歩体を泳がせ
その場に崩れ落ちる
オーガ「勇者、オレをコロセ…」
今日はここまでです
あと2回ぐらい更新で一区切りかな?
夢魔「まお~!ま~お~~!!」
夢魔の呼び掛けにも魔王は反応せず
倒れたまま動かない
夢魔「うう…立ってください…」
夢魔「わたし、良い子になります…わがまま言ったりしませんから……」
夢魔「まお~」
魔王「夢、魔……」
夢魔「まお~!」
魔王は右手で上半身を持ち上げゆっくりと立ち上がる
聖剣で斬られた左肩と口腔内からは出血が止まらないままで笑みを見せる
魔王「オーガ三人に襲われたぐらいで、はしゃぎ過ぎだ…」
魔王「元闘技場奴隷の余にとってこれぐらい日常茶飯事だろ」
魔王「むしろ馬鹿王子を試合中 姿消したオーガと袋叩きにした事もあったな」
魔王「くっくっくっ…気付いた王子の親衛隊も乱入、大乱闘に発展したが…」
魔王「あのときの親衛隊は十人…いや十五人はいたか?」
夢魔「もっといました」
魔王「だろ?大丈夫だから心配するな」
夢魔「心配なんてしてません。信じてますから」
魔王「そうか」
夢魔「神官さまも魔王を信じてると思います」
魔王「そうかもな」
夢魔「ぜったいそうです」
魔王「夢魔…」
魔王「もうすぐ、雨が止む。その後で虹を見せよう」
夢魔「にじ?」
魔王「そう虹だ。魔界ではけして見れない太陽と雨が作る自然現象のことだ」
魔王「他にも見せたい景色や教えたい言葉がたくさんある…」
魔王は半身を引き構えると聖剣を屋上に突き刺す
魔王「その為なら胸を張って神を殺そう」
精霊「見れたらいいね」
精霊の合図でオーガは一気に距離を詰め魔王の腹に前蹴りを叩き込む
魔王「がっ!」
蹴られて屋上を転がった魔王は別のオーガに今度は蹴りあげられて屋上を跳ねる
夢魔「まお~!」
魔王「心配すんなってんだろ!」
魔王は隠し持った短剣を投げ、夢魔を捕まえていたオーガの手に突き刺す
オーガ「ぐおっ!?」
夢魔「きゃあ!」
オーガの拘束力が弱まり腕から抜け出した夢魔は魔王へと駆け寄る
夢魔「まお~!」
魔王「来い!!」
駆け寄る夢魔に魔王は手を伸ばす
精霊「その手は届かない」
精霊は夢魔に暗示をかける
夢魔「・・・・」
夢魔「ゆ~しゃ」
夢魔「勇者をコロセ」
魔王「なっ!?」
夢魔に手を差し伸べていた魔王は一瞬硬直し
停止した魔王にオーガの巨大な拳がめり込む
オーガ「コロセ」
魔王の身体は宙を舞い、屋上の縁を越え地面へと落ちる
魔王「夢魔!」
夢魔「ゆ~しゃ」
落下する魔王は夢魔の使い魔の群れの中をすり抜け
偶々、生えていた街路樹の枝に引っ掛かる
魔王「ぐっ…」
何本もの枝を折りながら落下し
偶然、それが地面に追突した衝撃を緩和した
魔王「む、ま…」
地面に叩きつけられた魔王の周囲を老若男女あらゆる職種の人間が囲み
その先頭に三人のオーガと夢魔が進み出る
そして、その場にいる全ての人間が自らにかかった命令を口にする
「魔王をコロセ」
精霊「最後の勧告です」
精霊は聖剣を魔王の前に放り投げる
精霊「聖剣を拾い、邪悪な妖魔と魔族の少女を殺しなさい」
精霊「従わなければ本当にあなたを殺します」
精霊「そして新たに選定した勇者が適当にでっち上げた魔王を倒す旅を始めるでしょう」
精霊「もともと、貴方達に勝ち目などないのです」
精霊「ですが、今ならあなただけは助けてあげましょう」
精霊は魔王に手を差し出す
精霊「この手をとって、勇者になりなさい」
すまんが生存報告だけ
忙しくて書いてる暇がないんだ
神官「さあ絶体絶命ですよ、魔王さま」
魔王軍本拠地 奥の間にて
神官は玉座の上に置かれた水晶から魔王を見守る
魔術師「姫様!辺境の国までの転送準備整いました」
ゴブリン「対魔術装備一式かき集めてきた。突撃いつでも行けるぜ!」
神官「何故?」
ゴブリン「何故って…」
神官「大丈夫、心配するな」
神官「どんな絶望的状況でも魔王さまの言葉ならすべて信じてこその忠実な家臣と言うものです」
魔術師「ですが、あの場には夢魔さまも…」
神官「確かに、女神の脚本通りに進めば命はないでしょうね…」
神官「でもね、わたしは何も心配なんかしてないの」
神官「だって、あの魔王は誰かが書いた筋書きに黙って従うような人じゃないでしょ?」
神官「最初の出逢いは教会で、先代魔王に食って掛かって三人がかりで床に押さえつけられてました」
神官「二回目は不敬罪で公開処刑の場で、見せしめとして首をはねられかけてて…」
神官「三回目は兄さまの親衛隊と乱闘騒ぎの最中、血だらけで転がっていて」
神官「でも、魔王さまはどんな時だって『いつもの事だ』って笑って乗り越えるから」
神官「笑ってる魔王さまは世界でいちばん強くて」
神官は迷いのない笑顔をその場にいる皆に向ける
神官「そんな魔王さまがわたしは世界でいちばん好きなんです」
魔王「くっくっくっ…」
魔王「はっはっはっ…はぁ~はっはっはぁ~!」
精霊「気でもおかしくなりました?」
魔王「これが笑わずにいられるか…」
魔王「口を開けば脚本脚本、まるでこれまでが脚本通りに進んでいるような口ぶりだな」
魔王「違うだろ?貴様らが用意した本当の魔王なら、半年前にこの手で倒した!」
魔王「四年の歳月をかけ準備した魔族の精鋭に魔法兵器や魔獣も全て…」
魔王「ただの奴隷だった余がすでに壊滅させた!」
魔王「どいつもこいつも手応えもない三流どまりの雑魚ばかり!」
魔王「当然だよな、魔王が強すぎて勇者が倒せないと困るんだろ?」
魔王「そのため貴様らは脚本を作り舞台を用意した!」
魔王「先代魔王を唆して地上侵略を始めさせ」
魔王「自分たちの都合でいつでも勇者で終わらせる事の出来る」
魔王「全てが女神の思い描いた通りに進む!」
魔王「魔王を倒し世界を救う勇者ごっこを見せびらかせたくて!」
魔王「それだけの為に女神は世界を分割し、魔界の住人を罪人にして、邪悪と迫害した!!」
魔王「ふざけるな!!!」
魔王「あいつらが罪人?」
魔王「断じて違う!」
魔王「余が魔界で見た人達は、光も射さない暗闇の中でも身を寄せあい毎日を必死に暮らすただの人間だった!!」
魔王「あいつらが邪悪?」
魔王「それも違う!」
魔王「何もなかった余の…」
魔王「何もなかった奴隷の俺に手を貸してくれた…」
魔王「何もなかった俺を信じて命を賭け、命を落としたあいつらが邪悪などでは絶対に違う!」
魔王「だから俺が全力で否定してやる!!」
魔王「誇りを持って魔王を名乗り!!」
魔王「誇りを持って世界を壊す!!」
魔王「神魔の時代も終わりだ!俺は魔界、地上、天界を掌握し貴様らの作った三界構造を握り潰し」
魔王「俺は俺が望む新たな世界を再構築する」
魔王「その為なら俺は人を殺せる!」
魔王「それを咎める者達からの怨嗟もすべて、この身に受ける覚悟もある!」
魔王「何故なら…」
精霊を払いのけ、魔王は立ち上がる
魔王「何故なら、俺こそが最後の魔王だからだ!!」
オーガ「そんな事は許さない」
魔王「何だ、会話出来たのか?」
操った人間達の口を動かし言霊使いは喋り出す
言霊使い「この世界は女神のモノであり女神の為の舞台なのだ」
魔王「この世界が舞台なら貴様はせいぜい裏方と言ったところか?」
魔王「演者を危険にさらす裏方など要らん!引っ込んでろ!!」
言霊使い「・・・・」
魔王「ああ…裏方と呼んだら傷付いたか?」
魔王「配役奪って悪かったな、勇者」
言霊使い「だっまぁれーーー!!!」
言霊使い「だまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれだまれー!」
魔王「急に叫ぶな、みっともない」
言霊使い「殺す!!」
言霊使い「おまえが魔王を倒したせいで女神の脚本が狂った!」
魔王「残念ながら脚本は廃案、大幅な手直しの結果 役がもらえず裏でこそこそ裏方仕事か…」
魔王「哀れだな」
言霊使い「ぶっ殺す!」
言霊使い「今まで我慢に我慢を重ねたがもう限界だ!」
言霊使い「おまえを殺し…」
言霊使いは言霊に魔力を込める
言霊使い「私が勇者だ!」
魔王「貴様じゃ無理だ」
言霊使い「うるさいうるさーい!」
言霊使い「僕は勇者になるためだけに四年かけて準備したんだ!!」
魔王「貴様が勇者?身の程を知れ」
魔王「貴様は無関係の人間を操り、巻き込み、危険にさらし」
魔王「ガキを泣かせた最低の屑だ!!」
魔王「そんな屑に勇者の資格があると思うか?傷にひびくから笑わせるな」
言霊使い「ぶち殺す!!」
魔王「貴様じゃ無理だ!俺を誰だと思っている!」
魔王「俺は女を泣かせた魔王を倒し」
魔王「人々を苦しめる神を玉座から引きずり下ろす」
魔王「魔王の名は関係ない!すべては俺の腹の底から湧き上がる感情に従い」
魔王「俺を魔王にするために支えてくれたすべての仲間に誓った!!」
魔王「いまだに勇者の名にすがりつき命令通りに動く貴様ごときとは役者が違うんだよ!!」
言霊使い「オーガアァァッ!!!」
オーガ「ガッ?」
言霊使い「魔界随一と言われるおまえの怪力で魔王を殺せ!!」
オーガ「ッ…魔王を殺せ…」
オーガは大地を蹴り、右ストレートを放つ
オーガの拳を魔王は額で受け止め笑う
魔王「貴様じゃ無理だ!魔王を倒すのはいつだって勇者だ!」
魔王「魔王は勇者にしか倒せない」
魔王「そして不本意ながら勇者とは俺のことだ」
魔王「この意味が解るか?」
言霊使い「・・・・」
精霊「・・・・」
オーガの拳を受けた魔王の額から血が流れる
魔王「俺が最強だってことだ!!」
言霊使い「オーガ!戯れ言を吐く余裕をなくせ!」
魔王「遅え!」
魔王は正拳突きから直立立ちしていたオーガの背後に回り込む
そのまま流れるように右足を振り上げオーガの登頂部目掛け踵を落とす
オーガ「グッ」
鈍い音と共に白眼を剥いたオーガが地面に倒れる
言霊使い「いい加減諦めろ!ここで終わりだ!!」
魔王「始まってもいないのに勝手に終わらすな!!」
魔王「俺の野望は、世界を征服してから始まるんだ!!」
魔王は襲ってくるオーガの蹴りをかわし、突進を押さえつけ、足を前に踏み出し夢魔を抱きしめる
魔王「夢魔!目を醒ませ!!」
魔王「言霊ぐらい抗ってみせろ!夢魔!」
夢魔「魔王を殺せ…」
夢魔の影から多量のコウモリが飛び出し魔王の全身を切り刻む
魔王「ぐっ、夢魔!」
夢魔「魔王を…殺せ……」
魔王「おまえはこんな事しなくていいんだ!」
空を飛ぶコウモリは弧を描き急降下し魔王の肉を噛み千切る
夢魔「魔王…」
魔王「こういうのは俺の仕事だ…」
魔王「おまえは……その後の……」
夢魔を抱いたまま動かなくなった魔王を前に言霊使いの中で何かがキレた
言霊使い「ひゃひゃ…魔王を倒すのはいつでも勇者…」
言霊使い「ほら見ろ、僕が勇者だぁ~~!!」
言霊使い「そうだ…どうせなら最後は魔王好みに派手にしてあげよう…」
言霊使い「銃士隊、前に!」
言霊使い「四方を取囲み、銃を構え、火蓋を切れ!」
言霊使い「目標、魔王!!」
言霊使い「魔王を殺せ!夢魔を殺せ!妖魔を殺せ!同胞を殺せ!かつて護っていた街の住人を殺せ!」
言霊使い「構わないから、おまえ達の目の前にいる者はすべて撃ち殺せ!!」
言霊使い「弾があたっても引き金を引き続けろ!」
言霊使い「所詮は名無しのその他大勢!魔王の命で釣りが出る!!」
言霊使い「僕は違う!!!」
言霊使い「僕は勇者だ!僕は特別なんだ!」
言霊使い「だが!おまえ達はそんな僕をないがしろにしてあろうことか魔王を勇者と呼んだ!」
言霊使い「赦せない…万死に値するから万回死ねぇ~~」
魔王「くっ」
魔王は弾除けになるため夢魔の上に覆い被さる
魔王「夢魔、起きろ…俺達はああいう調子乗った馬鹿をぶっ飛ばす為に地上に出たんだろ」
夢魔「魔王…」
魔王「起きろよ、そろそろ神官が泣くぞ」
言霊使い「撃てぇ~~!!」
銃士「・・・・」
しかし、言霊使いの号令に続いて、あるはずの銃弾の発射はいつまで待ってもなかった
言霊使い「何をしている撃て~!撃てったら撃てぇ~!」
言霊使い「勇者が撃てと言ったら撃つんだよ!」
銃士「・・・・」
魔王を取り囲む銃士の銃が そのことごとくが鋭利な刃物で切り刻まれたかのように細々に切断され地面に落ちる
言霊使い「これは……おまえの仕業か?」
言霊使い「応えろ、魔王!!」
夢魔「まお~」
魔王「泣くな、怒れないだろ」
夢魔「うっ…ひっく…ぐすっ……」
魔王「俺があの程度の小者に負けると思うか?」
夢魔「うんん…思いませんし……ひっく…泣いてないです……」
魔王「そうだな、偉いぞ」
夢魔「うん……」
言霊使い「おまえが…やったんだな!」
魔王「くっくっくっ…」
魔王「はぁ~はっはっはぁ~!」
魔王「あたりまえだ!俺は貴様と違って弱者の影に隠れて前口上を叫ぶほどみっともない真似はしないからな!」
言霊使い「っ…」
精霊「ちょっと待ってください!魔王は魔法が封印されてるはずでは?」
魔王「魔法じゃない、封印されてるのは魔力だ!」
魔王「だから魔力を補給しさえすれば…」
夢魔「は~い♪」
夢魔は話の途中だった魔王の口に魔石を無理やりねじ込む
魔王「まほふはふはえふ」(魔法は使える)
魔王は魔石を口に含むと奥歯で噛み砕く
魔王「さあ、気力体力は充実してるか?」
魔王「道具の用意は万端か?」
魔王「装備は装備しないと意味ないぞ?」
魔王「それじゃあ、準備はいいな?」
砕けた魔石に貯えられていた魔力が魔王の体内を巡り細胞を活性化させる
魔王「魔王の実力の一端を見せてやろう」
魔王の影は膨れ上がり、裂けた口腔を揺らして笑う
今回はここまでです
1ヶ月ぶりの更新申し訳ない
ところで大丈夫ですか?1ヶ月間空けたくせに新設定盛りだくさんですが話ついてこれますか?
独り善がりがいちばん怖いんで何か質問あったら答えられる範囲で答えますので
女神「魔王と勇者が戦い、勇者が勝つストーリーが見たい」
→人間を地上(人間)と地下(魔族)にわける
先代魔王「人間ぶっ潰す」
→女神の傀儡
魔王(元闘技場奴隷)「先代魔王ぶっ潰して、同じ人間である魔族を地下に落とした女神を神の座から引き下ろす」
女神「傀儡である先代魔王が魔王に倒された。魔王が強すぎると勇者が勝てない。
そうだ、魔王を勇者にしよう」
精霊「女神がおっしゃることであれば実行しましょう」
神官「魔王様はもう不要です」
→魔翌力封印
国王「お前(魔王)が勇者じゃ」
騎士etc.「「「勇者を捕まえろー」」」
騎士etc.「「「勇者を殺せ」」」
↑言霊使いに操られる
精霊「絶体絶命ですね。勇者になれば助かりますよ」
言霊使い「本当は俺が勇者なのに、魔王を勇者とか言いやがって。
てめぇら死んでしまえ!」
魔王「そうはさせん」
To Be Continue
でおk?
だいたいあってます
>>194
三行で
>>196
魔王「俺が勇者だ!」
女神「筋書きと違う!!」
言霊使い「本来俺が勇者の筋書きだったんだ!しね!」
皆、ちょっと勘違いしている
女神は脚本の些細な変更ぐらい気にしていない
勇者の役が変わるぐらい興味ないだろう
女神の望みはただひとつ
『愛して欲しい…』それだけだ
愛とは祈りだ
女神を祈り、願い、憧れ、すがり、泣きついて
その時、世界は愛で満たされ
女神はそれを糧に力を増す
だが、女神は同時に理解していた…
人間は平時において心から祈る事は稀だと
だから女神は魔王の枕元で繰り言を繰り返す
そうして世界征服を企む悪の魔王は誕生し
魔王は大軍を率い地上を蹂躙する
神話に登場する悪鬼羅刹の殺戮に未知の魔術、地上の論理の通じぬ異形に恐れ戦き
精霊の神託に涙し
勇者の降臨を喜び
聖遺物を崇め奉り
神に祈る
それが女神の脚本だ
所詮、魔王として出来る事は些細な変更を繰り返し有利な展開にする程度
だが安心していい…
俺がいる
だから世界を絶望で満たせ!
それを糧に力を取り戻そう!!
だが、まずは封印を解かねば
邪神の封印を解いた結果…
魔王「そこからが余と神官で意見が異なる」
魔王「実際いらんだろ?祈ってもろくにご利益もないようなら賽銭泥棒と変わらん」
俺は胸に刺さった封印が痛むのも忘れ
腹を抱えて笑った
今日はこれだけ
う~ん…思いつきで書いたけどいらんかったかもしれんな
夢魔「いっけ~まお~♪」
魔王「ああ、行っくぞ!!」
魔王の影から死神を連想させる巨大な使い魔が這い出る
精霊「こ、言霊使い…」
言霊使い「虚仮脅しだ!例え魔力が回復したとしても少量…」
言霊使い「恐れることはない!」
魔王「馬鹿が、貴様ごとき勇者のなりそこないと余を同列に語るな」
言霊使い「砲兵! 長距離砲で魔王のいる区画ごと吹き飛ばせ!!」
魔王「やってみろよ、偽勇者」
魔王「ならば余は貴様のあらゆる攻撃手段、そのことごとくを潰してやろう」
言霊使い「長距離砲…撃てぇ~~!!」
砲兵「撃てぇ~!」
ドゴォォ―ン!!
轟音と共に長距離砲から吐き出される弾丸
その弾丸を魔王の使い魔は片手で受け止め、握り潰す
魔王「ひとつ」
死神は大鎌を長距離砲めがけて叩きおろし粉砕すると衝撃波で大地を割り、周囲の住人を吹き飛ばした
魔王「そしてすべての攻撃手段を失い、恐怖でふるえる貴様にこれまでの借りを直接返してやるから覚悟しろ!!」
言霊使い「おまえ達!何をもたもたしている!!」
言霊使い「魔王を殺せぇ!!」
言霊に操られ、住人達は魔王めがけ一斉に襲い掛かる
魔王「ふたつ」
魔王は地面を蹴り、蹴った先から地面が盛り上がり強固な壁となって襲撃者を防ぐ
言霊使い「オーガアァァ!!」
オーガA「魔王を…」
オーガB「殺せ!」
言霊使いの叫びに反応して二体のオーガが壁に張り付き垂直に駆け上がり壁を飛び越える
魔王は、その、さらに上
左手で夢魔を抱きしめたまま壁の内側を駆け上がりオーガより高く跳躍していた
魔王「みっつ」
魔王は上空から降下、魔力を込めた蹴りをオーガに叩き込む
オーガ「マァッガ!!」
魔王「今までの攻撃はこれでチャラにしてにしてやる」
一撃で意識を失い落下するオーガを死神が優しく抱きしめる
魔王「下で伸びてるオーガを回収したら余の影の中に戻れ」
死神「了解(ヤー)」
魔王「それと…」
夢魔「……」ギュ-
魔王「…何でもない」
壁の上に着地した魔王は最後の一体となったオーガと対峙する
オーガ「魔王っ!」
魔王「おまえも寂しかったら抱きついて来るか?」
オーガ「魔王っ殺せえ!」
オーガは金棒を具現化させると魔王めがけ突っ込んでくる
夢魔「ひゃぅ」
魔王「どうした、怖いのか?」
オーガの振りおろす金棒を魔王の拳が殴り砕く
魔王「おまえは歴代最強の魔王にしがみついるんだぜ?」
魔王「笑え、夢魔」
魔王はオーガの顔面を鷲掴みにして壁に叩きつける
魔王「余の家臣なら壁に叩きつけようが笑ってみせる」
オーガ「ぐはっはっ」
オーガは笑い、魔王の腕を掴む
魔王「ほら見ろ〝これでこそ〟だ」
言霊使い「ようっし~よくやった!」
言霊使い「これから勇者にしか扱えぬ最強魔法の準備を始める。完成まで離すな」
魔王「最強?」
魔王「それはおまえが必死に集めてる ちんけな雷雲は無関係だよな?」
言霊使い「は?えっと…
言霊使い(関係あるんですが?)
魔王「がっかりだ。おまえは所詮用意された魔王しか倒せない勇者だって事か」
魔王「魔王を倒した魔王である余にとってその程度の規模 せいぜい中の下だ」
言霊使い「…ちゅう?僕の最大魔法がちゅうのげぇ!?」
魔王「だから言ったんだ、身の程を知れと」
言霊使い「ふふ…嘘だ…。おまえの強がりなど誰が信じるか…」
魔王「嘘かどうかすぐに分かる」
言霊使い「両腕ふさがれて何が出来る!!」
言霊使いの言霊は自然すら操り。雷雲を集める
言霊使い「もっとだ!!」
言霊使い「雷雲よ!この街を覆い尽くさんばかりに集まり、魔王を焼きつくせ!!」
夢魔「まお~まお~」ジタバタ
魔王「で?おまえは何で暴れてんだ?」
夢魔「まお、わたしを放してください」
夢魔「わたし、空飛べますから。そしたら左手が自由になります」
魔王「……」
がぶっ
夢魔「にゃあ~!?」
魔王「な~に一人前に気つかってんだ?」
がじがじがじ
夢魔「あう~はな食べるな~」
魔王「子供のうちは我が儘なぐらいで丁度良いんだ。それより提案がある」
魔王「おまえの言霊でオーガに腕を離すよう命令するんだ」
夢魔「でも…」
魔王「俺を信じろ。おまえを連れてきたのは別に伊達や酔狂、ましてや情なんかじゃない」
魔王「実力さ」
夢魔「……ほんと?」
魔王「もちろん!俺の家臣は一人残らず自慢の精鋭だ」
夢魔「えへへ…わかりました♪」
言霊使い「おい…何をする気だ?」
夢魔は言霊を練り上げオーガの耳許で囁く
夢魔「腕を離してください♪」
言霊使いも言霊を練りオーガに命令を下す
言霊使い「やめろ…離すなぁ~~!」
夢魔と言霊使い、両者の言霊がオーガの中で競り合い
その結果…
オーガ「腕を、離して…ください……」
オーガは夢魔の言霊に従い魔王を掴んだ手を離す
言霊使い「嘘だ…僕の言霊よりそんなガキのほうが上だというのか?」
魔王「貴様も気付いてたんだろ?」
魔王「この騒ぎの最初のきっかけになった夢魔の言霊」
>>100―>>101――――
夢魔「動かないでください」
言霊使い「なっ」
兵士「動けねえ」
夢魔「何です?危ないじゃないですか!」
言霊使い「くっ…」
――――――
――――
―――
魔王「許せなかったのか? 我慢出来なかったのか?」
魔王「勇者の称号をゆずったのは女神の指示」
魔王「聖剣かすめ盗られたのも女神の指示」
魔王「だが、言霊使いの癖に言霊でしくじったのはテメエのミスだ!!」
言霊使い「違う…そんな事あるはずない……」
言霊使い「おかしいだろ…だって僕は勇者として輝かしい未来が待ってるはずなんだ……」
魔王「みっともない泣き言はやめろ」
魔王「そういうのはうちの負け犬王子で飽き飽きしてんだ」
言霊使い「おまえの…おまえのせいだろおおぉぉぉ~~~~!!!!」
子供に言霊で敗れた愚か者は天に両手を掲げ呪文を唱える
言霊使い「遥か天上におわす女神よ!勇者の名のもとに
魔王「よっつ」
魔王の指先から放たれた電撃が雷雲の中に蓄えられた稲妻を貫き爆散させる
言霊使い「フヒッ」
魔王「そろそろ全部か?」
魔王「これで宣言通りすべての攻撃手段を潰したかな?」
言霊使い「ひいぃ」
魔王「覚悟はいいな?逃げても無駄だ」
「大魔王からは逃げられない」
その声は言霊使いの背後から
狼狽え、振り向いた言霊使いの首を魔王に操られた砲兵の腕が締めつける
言霊使い「ぐぇっ」
自警団長「逃がさない」
砲兵の脇をすり抜け、自警団長は手にした金属片を言霊使いの胸に突き刺した
魔王「いつつ」
言霊使い「ひやああぁぁぁ~~~~!!!!」
言霊使い「げふ、げふ…何をした……」
言霊使い「僕の言霊が使えなくなったぞ!いったい何をした!」
魔王「魔力を、封印した」
言霊使い「きっさ……ま……?」
どさっ
言霊使いの膝が痙攣し立つことすら出来ずに地面に両手をつく
言霊使い「何だこれは…吐き気がする…目眩もだ……」
魔王「当然だ。生命活動に直結する魔力まで抜ければ最後、待っているのは死だ」
言霊使い「こんな封印!」
言霊使いは胸に刺さった金属片を手にかけ…
魔王「ほう、外し方を知ってるか?」
言霊使い「あ……」
魔王の一言で抜く手が止まる
魔王「とても助かる。はやく抜いて見せてくれ」
魔王「この身に喰らえば術式を解析し、同質の封印を組む事は出来ても解呪までは無理でな」
魔王「封印を解けばとても嬉しい」
魔王「貴様の解呪を模倣すれば神官にて埋め込まれた余の封印を解く鍵になるだろう」
言霊使い「くそ……こんなモノ……」
精霊「封印を抜いてはいけません」
魔王「遠慮するな。封印を解けば魔王として全力をもって相手をしてやれる」
魔王「共にこの地を戦記に語り継ぐ決戦の地としようぞ」
魔王「さあ、はやく決めろ」
魔王「封印を解き、復活した余の全魔力をもって一方的な死を望むか」
魔王「封印を受け入れ、座して屈辱的な死を望むか」
魔王「余のおすすめは前者だ」
魔王「万が一、億が一、京が一」
魔王「例え僅かな勝率だろうが掴み取れ!」
魔王「勇者なんだろ?」
魔王「知恵と勇気で乗り越えてみせろ」
言霊使い「こんな……こんな事が許されると思っているのか!!!」
魔王「当然だ、何故なら余は魔王だからな」
言霊使い「こんな…こんな事…」
言霊使い「脚本になかった……」
魔王「残念だが時間切れだ」
いつの間にか言霊使いの周囲をこの街の住人、老若男女あらゆる職種の人間が取り囲む
言霊に操られ、虚ろな瞳の街の住人達は自らにかけられた暗示を唱える
魔王「勇者を殺せ」
今日はここまでです
兵士「勇者をコロセ…」
魔王に操られ、言霊使いの周囲を包囲した兵士達は槍の穂先を突きつける
「勇者をコロセ」
「勇者をコロセ」
「コロセ」「コロセ…」「コロセ!」
言霊使い「ふざけるなぁ~!!」
ゆっくりと縮まる包囲網を言霊使いは剣を抜くと必死に振り回す
言霊使い「誰に槍を向けてると思っているんだ!」
言霊使い「こんな事が許されると思っているのか!」
魔王「うるせえな」
魔王「魔力封印されて街中の人間に襲われるぐらいでガタガタわめくな」
弓兵「勇者を、コロセ…」
きりきりきり…… しゅぱん
弓兵の放った矢が言霊使いの背中を射抜く
言霊使い「ごふっ」
魔王「雨で精度がおちる中、夢魔以下の言霊使いが街中の人間を操れたのにはタネがある」
魔王は空中に張り巡らされた糸を指先に絡める
夢魔「いと?」
魔王「そうだ。これを街中の人間の耳殻に差し込んで言霊を直接流すことで操っていた」
夢魔「ふ~ん……まさか!!」
魔王「当然おまえが操られた時にもついてたぞ」
夢魔「しゅ~ん…不覚でした…」
魔王「くっくっくっ…夢魔に感知できないほど希釈化させる技術と街中に張り巡らせてなお衰えぬ精度は流石だが…」
魔王「楽をしようと最初に余を狙ったのは不味かった」
そう言って魔王は耳から伸びた糸を引き抜く
魔王「今どき魔王に状態異常攻撃が効かんぐらいガキでも知ってる」
言霊使い「ちっくしょ~~!!」
自警団員達はサスマタをふるい言霊使いを地面に叩きつけ押さえつける
言霊使い「クソックソックソックソックソックソックソックソックソックソックソックソッ」
夢魔「勝った?」
魔王「まさか、余にしたら失笑ものだがあれで腐っても勇者だぞ?」
夢魔「腐っても勇者はすごいんですか?」
夢魔「正直そんなにすごそうに見えないのですが…」
魔王「いいか?勇者とは、何度死のうが甦り」
魔王「経験を蓄積するだけで無限に成長し」
魔王「目的を達成するまで永遠に歳をとらない……」
言霊使い「絶対っ絶対っ絶対っ絶対っ絶対っ絶対っ絶対っ絶対っ絶対っ絶対っ絶対っ絶対っ絶対っ絶対っ」
魔王「つまりは……」
言霊使い「ゆ゙る゙ざんっ」
言霊使いの頭から股までが裂け、裂け目から純白の翼が飛び出す
魔王「人間じゃない」
言霊使い「フゥーーホオォォーーー!!!」
背中から生えた八対 計十六枚の純白の翼で押さえつけていた自警団員達を薙ぎ払い
言霊使いの肉体から封印だけを残して脱け出した〝それ〟は空に向かって飛翔を開始する
夢魔「…天使?」
魔王「ああ、そうだ。あれが我等の最後の決戦勢力」
魔王「千年前に女神と共に天界に渡った天使のうちの一人だ」
遥か上空より十六枚の翼を広げた天使は壁上の魔王を見下ろす
天使「ん゙っ…んあ…あ~あ~あ~…」
天使「んっげふん!……」
天使「こほほっ…どうだね?魔王君の封印を解く参考になったかね?」
魔王「せっかくのご好意で悪いが変態は無理だ」
天使「昇華と言いたまえ」
天使「不浄な肉体を棄て、今私は完全体とあいなった」
魔王「それで?なんて呼べばいい?」
魔王「正直、天使は何度か会ったことがあるんでな」
天使「…あまり調子に乗らないほうが身のためだよ?」
天使「私の名は言霊天使!!」
言霊天使「何故私が並み居る勇者候補から選ばれたか見せてあげよう!!!」
言霊天使は聖剣を天に掲げると桁違いな魔力による問答無用の言霊を発する
言霊天使「神 に 祈 り を 」
今日はここまでです
第二形態必殺技は言霊による強制的な祈りによる聖剣のリミッター解除みたいな感じです
言霊天使「神 に 祈 り を 」
言霊天使は自身の羽根を打ち鳴らし共鳴させることで言霊を何倍にも増幅し、放つ
夢魔「痛ぃ!」
魔王「夢魔!?」
夢魔「耳が…みみがいたいです~~」
増幅された言霊の音量に耐えきれず夢魔が苦痛に満ちた悲鳴をあげる
魔王「耐えろ!」
騎士「か、かみさま…」
砲兵「かみさま…」
ホームレス「神様」
弓兵「女神さま」
言霊に操らた人達が増幅された言霊に鼓膜を破られ、耳から血を流しながら祈りを捧げる
言霊天使「祈 り こ そ 愛 」
自警団員「あい…」
猟師「愛してます」
兵士達「「「愛してる!!」」」
幼女「勇者も」
老婦人「愛してるからね」
「頑張れ」「負けるな」「勝って!」「信じてるから」「応援してるぜ」「心配なんかしてないんだから」「倒して」「くじけちゃだめだよ」「立って」「もうちょっとじゃないか」「後ろは任せろ」「ひとりじゃないよ」「とどめを」「助けて」「好き…」「大好きだよ」「愛してる」「愛してる」
「あいしてるうううぅぅぅ」
言霊天使「ああ…感じる…
言霊天使「世界にぃ愛が満ちてます!!」
言霊天使は眼下の光景に目から涙を流す
言霊天使「魔王よ!見ろ!私は世界からこおおおおんなにも愛されているう!!!」
魔王「茶番だな」
言霊天使「私への愛を愚弄する 邪悪な魔王に鉄槌を」
言霊天使「聖剣よ!世界に満ちた愛を糧にい」
言霊天使「その真の力を解放せよ!!」
魔王の見上げるその先で
聖剣より伸びた光の柱が天高く雲を貫く
言霊天使「あっ……あっ………」
言霊天使「あっいぃ~~~~~ん」
光輝く聖剣の余波を浴び、言霊天使は恍惚の表情を浮かべる
言霊天使「すごい…すごいよ!」
言霊天使「聖剣からとってもおっきくて……あついのが わたしの、身体の、膣(なか)を…
夢魔「わ~」
魔王「うん…夢魔はちょっと横向いてようか」
夢魔「あの人なんでピクピクしてるんですか?」
魔王「帰ったら神官に聞け」
夢魔「む~そう言ってごまかす気ですね?」
言霊天使「汚ねえな」
魔王「そう言うな、情操教育は大切にせんとな」
言霊天使「話を混ぜるな!!」
言霊天使「聖剣の力で~女神と同じ領域に到達した私には~
言霊天使「魔王!あなたは、愛で満たされた純白の世界を汚す一点の黒いシミのよう!!!」
魔王「生憎、神に祈った事が無くてな」
言霊天使「それは憐れな」
魔王「もっとも強制はせんがな」
魔王「むかし…最後を見届けた年老いた妖魔が、女神に祈っていた」
魔王「病床の身で良いことなんか、これっぽっちもないような人生だったよ」
言霊天使「で?」
魔王「そいつは死ぬと女神のもとに行けると言って笑ったんだ」
言霊天使「なんと傲慢な…」
言霊天使「年老いた妖魔なんて利用価値のないゴミがそんな望み…」
言霊天使「だから邪悪だと言うのです!」
魔王「ああ、だから俺から言ってやったよ」
魔王「承認欲求こじらせた、メンヘラババアにおまえが祈る価値はないってな!!」
言霊天使「女神への侮辱は赦さないぃ~!!」
言霊天使「女神こそが!この世界でもっとも愛された、偉大な存在なんだあ~~~!!」
言霊天使は雲を貫く聖剣の光を魔王めがけ振り下ろす
魔王「いくぞ夢魔!泣いても笑っても最後のターンだ!」
夢魔「うん!」
魔王「見せてやろうぜ、魔王の武器を!!」
夢魔「まかせろ~♪」
聖剣の一撃から守るように夢魔の使い魔達が一斉に魔王のもとへと集結し始める
言霊天使「無駄だ!」
言霊天使「微弱な魔力で練り上げた、コウモリごときで防げるほど!
言霊天使「私の愛は軽くない!!」
魔王「笑わせる、鎖で縛られ軟禁未遂も未経験のくせに愛について語るな」
夢魔の使い魔は尚も集合、凝縮、圧縮を経て、一振りの槍へと変貌を遂げる
魔王「魔槍、変化」
魔王の手にした魔槍は炎を纏い
聖剣の光を呑み込む
言霊天使「なっ!?」
魔王「悪いがこっちは、小生意気なメイド少女のコブつき聖職者でな」
魔王「男だったらそれだけで世界征服するぐらい、価値があるってもんだ!!」
言霊天使「逝っけえぇぇ~~~!!」
言霊天使の振るう聖剣の光
それを魔王が振るう魔槍の炎がかき消す
言霊天使「逝け逝け逝け逝け逝け逝け逝け逝け逝け逝け逝け逝け逝け逝け逝け逝け逝け逝け逝け逝け逝け逝け逝っけ~」
言霊天使の光の乱れ撃ち。そのすべてを炎が防ぐ
言霊天使「気に入らねえ…気に入らねえな」
言霊天使「魔王!おまえ、守っているな!!」
言霊天使「街に被害が出ないよう防御に専念するつもりか…」
魔王「……」
言霊天使「その目が気に入らねえんだ…まるでこっちが悪者で、おまえが正義の味方みたいな感じじゃねえか…」
魔王「別に、俺も正義なんて持ち出す気はない」
言霊天使「こほっほ~、わか「ただ…
魔王「ただ、貴様らを正義だとは思わん」
言霊天使「それを決めるのはあなたではありません」
言霊天使は聖剣の光から無数の光球を派生させた
言霊天使「女神です!」
言霊天使「そして正義とは無数の犠牲の上でこそ輝くのです」
魔王「女神に勇者を解任された腹いせに暴れてる癖によく言えるな」
魔王「貴様もその犠牲の中のひとつなんじゃないのか?」
言霊天使「くふふ…解任ですって?何度も言わせないでください…」
言霊天使「わったあぁし、がぁ~ゆううううしゃだあ゛あ゛あ゛あ゛~~~!!!」
無数の光球は枝分かれし街中に降り注ぐ
夢魔「まお~」
魔王「手口変えても同じことだ!」
魔槍の炎が勢いを増し一振りごとに光球の数を減らしていく
魔王「おまえも少しは手伝え」
魔王「神官!!」
神官『はい、魔王さま♪』
魔王の頭上に巨大な魔方陣が展開する
今日はここまでです
遅くなって申し訳ありません
モンハンHR解放したのでここから本気出します
ゴブリンA「神官だと思った?」
ゴブリンB「残念、ゴブリンでした」
ゴブリンC「対魔術装備、防御結界発動!」
魔法陣から現れたゴブリン達が結界を張り光球を防ぐ
言霊天使「薄汚い妖魔が!」
ゴブリンD「そう!我らゴブリン小隊」
ゴブリンE「神官さまの命により、加勢するぜ」
ゴブリンF「来てやったんだから感謝しろよ!」
魔王「おまえな…」
ゴブリンA「文句言うなよ」
ゴブリンF「修羅場ほうり出されて文句の一つぐらいあるだろ」
オーガA「喧しいぞ、チビ」
オーガB「旦那のツレならいい加減諦めろ」
二体のオーガが魔王を魔法陣めがけ宙に投げ飛ばす
ゴブリンF「うっせえ、デカブツ」
ゴブリンC「怒ってはなりません。私たちは先代のままなら使い捨ての駒となった身…あるがままを受け止め
ゴブリンF「悟ってんじゃねえよ!」
ゴブリンD「ま、俺も来たくなかったけどね」
宙に投げ飛ばされた魔王は魔法陣の中央に着地
夢魔を片手でつまみ上げると背中に背負う
魔王「くっくっくっ…」
魔王「はぁ~はっはっはぁ~!」
魔王「余の忠実な家来どもよ、いつも通りの馬鹿騒ぎになにをあわてる事がある」
ゴブリンF「そのいつも通りがうんざりだって話だろうがバカ!」
ゴブリンA「家来だと思ってる?」
ゴブリンB「忠誠心とかないんで」
オーガA「あ、俺は神官派なんで」
オーガB「俺も!」
ゴブリンC「第三の瞳を開眼しなさい…
ゴブリンD「あの、横から電波がくるんですが…」
魔王「くっくっ、奴隷の頃から付き合いで魔王になっても敬うということを知らん」
魔王「笑えてくるだろ?戦士や僧侶に見劣りしない俺の自慢の仲間だ」
夢魔「えへへ♪」
言霊天使「余迷い事を!」
魔王は半身を引いて構えると人差し指を空に掲げる
魔王「魔王軍心得その1」
オーガC「その日の借りはその日に返せ!」
三人組だったオーガの姿を消していた最後の一人が天使の真上から襲いかかり金棒を叩きつける
オーガC「確かに返したぜ」
言霊天使「このっ!」
金棒の一撃に動じることなく言霊天使は背後のオーガに聖剣で斬りかかる
魔王「コトォダマーー!!」
天使めがけて魔王が魔槍を投げ
投げた魔槍は天使の翼に突き刺さる
言霊天使「いゃあぁぁぁ~~~!!!」
魔王「俺の仲間に手を出すのは俺が許さん」
言霊天使「よくも私の美しい羽根を~~!!」
聖剣から派生させた光球そのすべてが魔王に集中する
魔王「任せた」
光球をまるで気にする事なく、魔王は空中に展開した魔法陣を足場に言霊天使のいる高みまで一直線に駆け上がる
ゴブリン「「「任せな!!」」」
ゴブリン達が防御結界を魔王の前面に集中させて光球を防ぐ
魔王「第八十八代魔界統治者、魔王」
魔王「推して参る!」
夢魔「いっけ~まお~!」
魔王は片手で結界を押すように光球の降り注ぐ中を突き進む
言霊天使「いい加減にしろ!」
光球は勢いを増しそれを受ける結界がひび割れていく
言霊天使「そろそろ死んどけ~」
夢魔「まだです!」
夢魔は大量のコウモリを飛ばして天使の視界を封じる
言霊天使「うっぜえぇ~~!!」
言霊天使の振るう聖剣の剣圧だけで大地を斬り裂き街へと迫る
ゴブリンF「来るぞ!」
ゴブリンC「耐えるのです」
ガ チ ィ ン !!
妖魔の結界が聖剣を弾いて街を護る
ゴブリンA「あっぶねえな」
ゴブリンB「天使は物騒な奴しかいねえのかね」
言霊天使「こっの…勘違い野郎どもが…」
なに一つ上手くいかない状況に天使の顔が歪んでいく
言霊天使「てめえらはな、勇者に殺される為〝だけ〟に存在してんだよ!!」
魔王「それがどうした」
天使と同じ高みまで駆け抜けた魔王は腕を伸ばして天使の胸ぐらを掴む
魔王「例えそれが神の定めた理、全世界の人間が望もうが全力で抗おう」
魔王「それが魔王だ!!」
魔王は勢いよく頭を振ると天使の顔面に頭突きを叩き込む
言霊天使「お…お…お……」
魔王の頭突きが霊体で構成された天使の顔面をへこませる
言霊天使「くっ、まおうがあぁぁ~~!!」
衝撃から立ち直った天使は魔王めがけ聖剣を振りかぶる
魔王「遅い」
魔王の脚が天使の横っ面を蹴り飛ばす
言霊天使「ぐうっ」
体勢を崩し左に揺れる天使を再度蹴りが叩き込まれる
魔王「右頬を蹴られて左を差し出すとは殊勝な心掛けだな」
言霊天使「調子に…のるなぁ~!」
天使が聖剣を降り下ろす
その手首を魔王が掴んで止める
魔王「なあ、右頬を叩いて左を叩いたらそれからどうして欲しい?」
魔王「神はどうしろと言ってる?」
言霊天使「魔王が神の言葉を語るな゙っ…
天使の反論を鳩尾に突き刺さる拳が中断させる
魔王「とりあえず気がすむまで殴るか」
魔王の拳が天使を打つ
魔王「まだだぞ?」
言葉天使「ひ、ひぃ~~」
魔王の連打、連打、連打、魔王の両拳が振るわれる度に天使の身体が醜く歪んでいく
言霊天使「もう…や、め……」
魔王「まだだ!」
地に落ちる天使を膝蹴りで持ち上げ、拳を叩き込む
魔王「まだ、まだ、まだ、まだ、まだ、まだ!!」
休むことなく続く攻撃に魔王の拳が裂け、飛び散る血が天使を赤く染める
魔王「まだだ!!」
言霊天使「もういいだろ!!」
殴られ続け、血染めの天使は叫ぶ
魔王「まだだ!」
魔王は天使の翼に突き刺さった魔槍を翼ごともぎ取る
魔王「おまえが始めて、おまえが傷つけ、おまえが泣かせた!」
魔王「小突かれたぐらいで日和るなら、うっとうしいから喧嘩を売るな!」
言霊天使「死ね!さっさと死ね!!」
言霊天使「人びとの声が勇者を覚醒させ、魔王は聖剣の光の前に消滅する…」
言霊天使「美しい最後だ!何が不満だ!!」
魔王「下らねえ!他人の不幸の上に成り立って笑えるはずがねえだろ!」
言霊天使「魔王が!」
魔王「そうだ、背中に小さな命がしがみつき」
夢魔「へへ~♪」
魔王「足下には多くの苦楽を共にした仲間がいる」
オーガ「だとよ」
ゴブリン「おう」
魔王「それが俺だ!」
魔王「死ねんだろ?俺が世界を笑えるように変えてやる」
言霊天使「そんなことはあり得ない!!」
言霊天使「おまえはここで死ぬ」
魔王「翼をもがれ、もはや言霊も絶える」
魔王「夢は覚めるものだ」
住人「ユウシャ……」
自警団員「ユウシャサマ……」
騎士「勇者…」
兵士A「あれ?俺なにしてたっけ?」
兵士B「わかんねぇ、空にコウモリが飛んで」
「そっから夢を見たようにあやふやだな」
「お~い、知ってたら教えてくれ~」
「お~い、勇者~」
「勇者~」
「勇者さま~」
言霊天使「・・・・」
魔王「くっくっくっ…どうした?呼んでるぞ」
言霊天使「これを見ろ!」
天使は聖剣をつきだす
言霊天使「見ろ!言霊で従わせなくなっただけで聖剣の光が弱まる」
言霊天使「神も天使も敬うことを知らない。不純物だらけのくだらん存在!」
言霊天使「だからこそ、勇者が必要なんだ!」
天使が聖剣で斬りかかるのを魔王の魔槍が弾き返す
魔王「確かに敬いは知らんな」
魔王「勇者に仕立てられて早々、縄に縛られた」
魔王が前に踏み込み、聖剣に魔槍を打ち付ける
騎士「お~い」
兵士A「お~騎士さま」
兵士B「無事でしたかい」
騎士「見たか?」
兵士A「上の状況ですね…さっぱりです」
騎士「わたしが聖剣を使えたことだ!!」
兵士A「え~」
兵士B「・・・・」
騎士「夢のようにあやふやだが確かに聖剣を扱えたんだ」
兵士A「勇者をざっくり斬ったのは覚えてます」
騎士「これはもう私が勇者の資格があると思っていいんじゃないか?」
兵士B「いい加減にしねえか!!」
騎士「!!」
兵士A「うへっ」
兵士B「人を斬ってなにを喜んでいるんだ!亡くなった兄がそんなことで喜ぶと思っているんですかい」
騎士「いやその…」
兵士B「…あんまり、心配かけさせないでくれよ」
騎士「…悪かったよ」
魔王「殴る蹴るの暴行を受けた」
弾かれた聖剣に魔槍の追撃を叩きつける
自警団長「自警団を設立して三年…まさか自分が治安を乱すとは……」
自警団員A「顔を上げてくだせえ」
自警団員B「何かが操ってたんじゃないですか」
自警団長「なぐさめはいらん…例え、操られてたとしても自分で自分が許せん」
砲兵「まるで自分が一番不幸みたいな態度だな」
自警団長「え?」
砲兵「操られて山ひとつ吹き飛ばしたんですが…」
自警団員A「うわ~」
自警団員B「引くわ」
砲兵「あの、損害賠償とかどうなるんでしょう?」
自警団長「そうだな、落ち込んでてもしょうがないか!」
自警団員「団長!」
自警団員「これからもついてきます」
砲兵「あ、あの…震えが止まらない僕も励ましてくれませんかね」
魔王「食事に薬を盛られたこともある」
一点集中の魔槍の連撃に聖剣がたわむ
ホームレスA「誰も勇者の心配しないのな」
ホームレスB「仕方ねえな」
ホームレスC「おれらはしっかり応援すっぞ」
ホームレス顔役「そうすっと強欲婆さんが睡眠薬を飲ませたけど大丈夫かね」
老婦人「狡猾爺さんが飲まされた麻痺薬入りお茶の影響も心配ね」
幼女「ばあちゃ~ん!屋根穴あいてっから家住めないで~」
顔役「…孫か?」
老婦人「三女の子よ」
顔役「…そっか」
老婦人「みんな元気よ」
顔役「ん」
老婦人「だけど屋根が崩れて今晩の宿どうしようかしら?」
顔役「んとな…俺んとこは橋の下のあばら家で見てのとおりの男所帯だし風呂なんかも毎日はいらん不潔な場所でな」
老婦人「そう…」
顔役「あ、でも清潔になるよう気いつけてっし。みな気の良い連中ばかりだ」
老婦人「そうね」
顔役「んだから……」
顔役「うちに来ないか」
老婦人「そうね、ご厄介になろうかしら」
顔役「そっか」
ホームレスA「お、来い来い♪」
ホームレスB「歓迎すっべ」
ホームレスC「怖がることはねえ」
ホームレスD「なんせ勇者も一泊した由緒正しい宿だからな」
幼女「よろしくな♪」
魔王「聞こえるか?これが世界だ!!」
魔王「それぞれが勝手気ままに好きなものを好きといって集まり世界は構成される」
魔王「魔王の両手に有り余る。俺の愛した世界だ」
魔王「死んだ魚の目をして念仏唱える神の世界なぞ並べることすらおこがましい」
言霊天使「うるせえ、うるせえ、うるせえ……」
天使の構える聖剣に光も絶える
言霊天使「神に祈りを!」
言霊を増幅する翼が折られ、魔力も尽きた
天使の言葉は誰にも届かない
魔王「新たな命に祝福を」
魔王「消え行く魂に冥福を」
魔王「今を生きるすべての人々に救いを」
魔王「笑顔を」
魔王「未来を!」
魔王の持つ魔槍の炎が勢いを増し、街を明るく照らす
魔王「それが、俺の 糧だ!!」
精霊「やめろおぉ~~!!!」
聖剣と魔槍が激突
魔槍の一撃が聖剣を砕く
言霊天使「あ……」
砕かれた聖剣を見詰め天使は立ち尽くす
精霊「かっ……!」
聖剣に宿る精霊は媒体を失い消失する
言霊天使「さ……」
それを呆然と見送る天使と魔王の目が合った
言霊天使「たすけて…」
魔王「神に祈れ!!」
魔王の振るう魔槍の一撃が天使の胸を貫く
今日はここまでです
神官はこれが一段落つくまでもうちょっとお待ちください
言霊天使「ぐぇばらっ!!」
魔槍に胸を貫かれた天使は地面に墜落する
言霊天使「負け…負けたのか……」
標本の蝶のように地面に打ち付けられた天使は槍から抜け出ようと悶え、足掻く
言霊天使「否っ!」
言霊天使「断じて否っ!!例えこの場で息絶えようが、
言霊天使「私は何度でも復活しよう」
魔王「それは凄い」
槍柄の先端に降り立った魔王は天使に口角を吊り上げた微笑みを向ける
魔王「だが、残念なことにその台詞を吐いた天使を…」
言霊天使「あっ…あ、あっ……」
魔王「余は何人も殺してきた」
言霊天使「ひっ、たす……」
天使が魔王を指差し、民衆に糾弾する
言霊天使「みんな聴いてくれ! 魔王だ!」
言霊天使「こいつが魔王だ!!」
幼女「まおう?」
顔役「魔王って」
老婦人「ほんとの魔王?」
言霊天使「そうだ!この地上を征服せんと企む邪悪な魔王だ!」
兵士A「あ~そういや昨夜そんな感じのこと言ってたな」
兵士B「めんどかったんで無視したがな」
騎士「そうだったか?」
兵士A「騎士さまはそういうとこありますよね」
騎士「どういう意味?」
言霊天使「みなを騙して勇者になりすます企みを…」
言霊天使「私は阻止しようとしただけなんだ」
言霊天使「お願いだ!力及ばぬ私に代わり、あの魔王を倒して!」
ホームレス「俺らの寝床に来た時も魔王ってたで?」
自警団員A「そう言われてもな」
自警団員B「うん…」
自警団長「まあまあ、勇者にも何か反論あるだろ?」
その場にいる 一連の騒ぎに加わったすべての視線が魔王に集中する
魔王「くっくっくっ…」
魔王「はぁ~はっはっはぁ~!」
魔王「騙されるな、余の足下に転がるこの者」
魔王「こやつこそが、魔王の送り込んだ刺客だ」
言霊使い「何を言っている?」
魔王「まず手始めに小さな子供を操り目立つ行動をさせ」
夢魔「わたし?」
魔王「まるで子供が皆を操っているかのように演出することであわよくば身代わりにしようと企み」
言霊天使「何を言っている…」
魔王「それがバレたら本性を表し、聖剣を奪い。大勢の妖魔を街に招き入れた」
言霊天使「デタラメ言うな!!」
魔王(話合わせろ)
ゴブリン(りょ~かい)
ゴブリンA「うわぁ~!俺たちのボスがやられた~(棒)
夢魔「?」
ゴブリンB「なんてこった~勇者を狙って送り込んだ刺客が負けちまった~」
夢魔「ん?なに言ってんの?」
オーガ「逃~げ~ろ~~♪」
シュン!
砲兵「消えた…」
夢魔「あ~これぜんぶが嘘演ぎゅ…
魔王「くっくっくっ…、見棄てられたな」
夢魔「む~む~」ジタバタ
言霊天使「嘘だ!妖魔達と共謀して私を嵌めようとしている!」
言霊天使「私を、信じろ!!」
「・・・・」
魔王「これでどちらが正しいかは分からないと思う…」
魔王「余を信じなかろうが恨まない。報復もしない」
魔王「自らが信じる方を、自分達で選んで欲しい」
「どう思う…」
「わからん」
「でも、どちらかを信じないといけないとしたら…」
この街の老若男女あらゆる職種の住人達は魔王を囲んで各々話し合いを始め
その眼差しはやがて天使に集中する
言霊天使「なんだその目は?」
ホームレスA「正直、おれにはわからん」
ホームレスB「わかんねえが…」
自警団長「少なくとも操られた我々に、勇者が手加減したのは分かった」
老婦人「ガレキに押し潰されそうな時に助けられたわ」
幼女「バアちゃんの料理をほめてくれた」
兵士「これだけの騒ぎで死傷者がいないのは大したもんだ」
顔役「だから、俺は勇者を信じる」
言霊天使「違う、ちがう、チガーウーー!!」
言霊天使「私が、勇者だ!!」
言霊天使「女神に選ばれ、女神の脚本に従い魔王を倒す勇者の役割を与えられた、私こそが」
騎士「貴様は勇者などではない!」
兵士A「おまえは何したんだ?」
兵士B「無関係の人間を操って、自分は後ろにふんぞり返るようじゃそんな資格ないぜ?」
言霊天使「…可笑しなことを言う。天使の中で最も優れた者が」
砲兵「おまえが天使の訳ないだろ!」
弓兵「天使だったら俺たちに何してもいいって思ってんのか?」
「「「おまえが魔王の刺客だ!」」」
信じられないふうに人間達の言葉を聞いていた天使は体が震え始める
言霊天使「ちがう、わたしは……」
魔王「そうだ、貴様は魔王の刺客ではない」
魔王「貴様は無関係の人間を操り、巻き込み、危険にさらし」
魔王「ガキを泣かせた最低の屑だ!」
魔王の激昂と同時に魔槍から吹き出した炎が天使の体を包む
言霊天使「~~!」
魔王「屑は屑らしく、ゴミのように消えろ」
言霊天使「あ……あ……あ……」
炎に焼かれ炭化した体が先からくずれだす
魔王「勇者なら、死んでも生き返るだろう」
言霊天使「あ…あ……」
魔王「天使なら天へと還ることも可能なのだろう」
言霊天使「あ…」
まわりを取り囲む人間に手を伸ばすも、返ってくる冷たい視線に動きも止まる
魔王「だが、今の貴様は死ねば終わりの魔王の刺客だ」
言霊天使「かみさま…めがみさま~…」
魔王「神は救わない」
魔王『勇者が魔王の刺客を倒す』
魔王「そんな女神の脚本通りに進めるために、貴様は見捨てられる」
言霊天使「かみ…さま……」
魔王「俺も救わない。貴様はただのゴミとして、燃えて焼かれて
魔王「塵になって死ね」
炎が天使を焼きつくし、燃えかすの灰が風で散るのにあわせて
魔槍が消し去り、魔王は地面に降り立つ
魔王「誰も知らない脚本が、外れようが難癖つけれるはずもないが…」
魔王「ケチな神だと、俺も思うよ」
夢魔「ぱぱぱぱぁ~♪ぱ~ぱ~ぱっぱぱぁ~♪」
夢魔「まお~はせんと~にしょ~りした♪」ペシペシ
魔王「頭叩くな。はあ~~しんど」
魔王がその場に座りこみ周囲の人だかりが心配そうに集まる
「勇者」「勇者さま!」
「操られていたとはいえ」
「申し訳ない」
魔王「くっくっくっ、この程度の騒ぎなど余興みたいなものだ」
夢魔「らくしょ~です♪」
顔役「殺されかけて、それでも許してくれるか?」
魔王「なに、よくあることさ」
夢魔「まお~は慣れてますから気にしなくていいです♪」
「勇者さま…」
「あなたこそ真の勇者さまです!」
魔王「それより大変なのはこれからだ」
魔王「なんせ馬鹿が暴れてあっちこっち壊してしまったからな。修復には手間も金もかかる」
老婦人「あら?それについては実は私に当てがあるのよね」
自警団長「むっ?ご婦人もか」
魔王「そうか?なんか手伝うことあるなら手も貸すぞ」
「いえ、(高額賞金首は)おとなしくしてください」
操られていては到底だせない殺気をみなぎらせ
この街の住人、老若男女あらゆる職種の人間が魔王の周囲を取り囲む
魔王「ん?」
賞金に目が眩んだ人間達が魔王の周囲を武器を手にして取り囲む
ホームレス「社会復帰~」コホー
ホームレス顔役「孫との新生活~」シュコ-
老婦人「家の修繕費~」フシュ-
魔王「…うん、落ち着こう」
ゆっくりと立ち上がろうとする魔王をつき出された刺又が押し留める
自警団長「操られた失態は、ここで挽回しよう!」
自警団員「「「どこまでもついて行きます」」」
魔王「別な時にとっておけ!あの~そろそろ本気で限界なんだが…」
「勇者が弱ってる!」
「いつ捕まえる」
「今でしょ!」
魔王「肩を聖剣で斬られた傷が意外と致命傷だったり…」
「勇者を〇せ」
「勇者を〇せ」
「〇せ」「コ〇セ…」「コロセ!」
魔王「泣きたい…」
夢魔「まお~…」
魔王「そうだ夢魔!構わんからもう一度言霊でここの全員操れ!」
夢魔「眠くなってきました…」
魔王「自分に火の粉飛ばなきゃ興味なしか!!」
魔王「待て、落ち着こう」
「・・・・」
魔王「そうだ!余を捕まえたらどうなるか分かっているのか!」
「もったえつけんじゃねえぞ!」
「賞金が貰えるんだ」
「そうだそうだ!」
魔王「たった一人だけな」
「!!」
魔王「い~のか?一生遊べる金の代わりと同時に周囲からの嫉妬も一生分だ」
魔王「最悪この街には住めぬ事になるかもしれんな」
自警団長「待て、これは罠だ」
ホームレス顔役「んだ、俺たちの動揺させって逃げっ気なんだ!」
魔王「違う!余に提案がある」
魔王「どうだ一度余に賞金を預けてみぬか?」
魔王「預けた賞金で街の修復とけが人の治療にあてる基金にするのだ」
砲兵「操れて壊した損害賠償は!?」
魔王「当然、不問にさせる」
魔王「どうだ、この案なら皆が得すると思うが?」
「…いい案か?」
「まあ、このまま確実に貰えるかわからんしな…」
「のってみたほうがいいかもな」
兵士A「いい案だと思うよ」
兵士B「賞金〝出す側〟はその案じゃあ幸せになれませんがね」
魔王「あ~…」
騎士「全員突撃準備!」
魔王「全員動くな!!」
魔王は眠る夢魔に短剣をあてる
魔王「動けば年端のいかぬ少女の顔に一生残る傷ができるぞ!」
兵士B「台無しじゃねえか!!」
「卑怯もの~」
「刃物を捨てろ、少女暴漢魔」
「おとなしく捕まって賞金になれ~」
魔王「うっせえな!」
魔王「そろそろ俺もいっぱいいっぱいなんだよ!!」
夢魔「すぅ……すぅ……」
魔王「夢魔~起きろ!」
魔王「起きて騒いで動揺した隙に逃げるぞ!」
夢魔「むにぃ?……あさ?
魔王「朝じゃなく、叫べと…
夢魔「ああぁ~~!!」
魔王「そうそう」
夢魔「神官さま~~♪」
魔王「え?…がっ゙!?」
兵士B「動きが止まった?」
兵士A「今こそ好機!」
騎士「全員突撃!!」
「「「うおおおぉぉぉ~~~!!!」」」
自警団長「賞金を官憲に渡すな!」
「「「いっくぞぉぉぉ~~~!!!」」」
夢魔「神官さま~~♪」テッテッテッテッ
魔王「神官、体内の封印捻って心臓を圧迫させるの止めて~」
ホームレス顔役「数で押し潰せ!」
「「「いよっしゃあぁぁ~~~!!!」」」
街中の人が集まり誕生した人間ピラミッドが底辺にいる魔王を押し潰す
魔王「神官~~!」
夢魔「えへへ、神官さま~♪」
神官「ふふ、いつまで遊んでいるのです?」
神官「魔王に状態異常無効は常識なのでしょう?」
今日はここまでです
神官「あまりみっともない姿ばかり見せないでください…」
神官「連れて帰りたくなります」
魔王「くっくっくっ…まるで捨て犬のように簡単に言う」
魔王「だが、油断するとこの犬は咬み癖あるぞ」ガジガジ
神官「ええ…昨夜もわたしを倒そうと思えば倒せたはず」
魔王「あったりまえだ!
魔王「魔力を封じ込められた程度で女に手をあげるようでは魔王の資格はない」
神官「へぇ、そう」
瞬間、地面を突き破り、無数の鎖が魔王の周囲を薙ぎ飛ばして襲いかかる
顔役「うなっ!?」
自警団長「まさか!」
騎士「こいつも魔王の刺客か!!」
魔王「手ェ出すな!!」
叫ぶと同時に魔王は体をひるがえし鎖を一瞬で切り裂く
神官「お見事」
魔王「くっくっくっ…手品の種も見せてやるからもっと驚け」
魔王は小さな欠片を指でつまんで見せる
神官「……聖剣ですか」
魔王「ああ、砕いた時に欠片を回収した」
魔王「ここらへんの手癖の悪さは奴隷時代から治らんな」
神官「…勇者にでもなる気ですか」
魔王「それも面白いかもしれん」
魔王「なんせ魔力を失った余には聖剣の威力は魅力的だ」
神官「そうやって魔王の地位も簡単に捨てれるのでしょうね…」
魔王「さあ、〝神に仕えし神官〟よ」
魔王「神に祈らぬ勇者の代わりに祈ってくれ」
神官「頑張ったのに…」
魔王「ああ、祈る対象はどっちでもかまわん」
神官「わたしの気持ちを知ってるくせに!!」
神官から放出する魔力が上昇し、空間が歪む
魔王「 神 に 祈 り を ! ! 」
神官「神に祈りを!」
地面から石の槍が伸び、魔王に突き刺さる
ドス!ドス!ドスドス!
槍を避けることなく直撃した魔王は宙を舞い頭から地面に落ちる
魔王「ぐふっ!」
騎士「勇者さま~!」
兵士A「なにやってんだ!」
兵士B「しっかりしろや」
自警団長「勇者がやられたら誰がこの街の平和を守るんだ!」
自警団員「「そーだそーだ」」
先ほどまで魔王の周囲を取り囲んでいた人間達はいっせいに距離をあけ、物影からやじを飛ばす
魔王「貴様ら…」
魔王は聖剣の欠片を捨てて両手をあげる
魔王「いや、もう…参った。降参する」
神官「またそのような…なにを企んでいるのです?」
魔王「何も…」
魔王「ただ、そろそろ夢魔が泣く」
夢魔「泣いてないです……」
神官の腕の中で、涙を貯めた夢魔の瞳が下から見上げる
神官「ごめんな、怖かったか?」
夢魔「ほんとのほんとに…泣いてないですからね!」
夢魔は神官の服のすそを強く握りしめる
夢魔「ひっく…だって、約束したじゃないですか…」
夢魔「だから、まお~と神官さまも約束守らないとダメなんです…」
神官「夢魔ちゃん…」
夢魔「ケンカなんてしちゃ、ダメ~なんですからね!」
神官「ん、ごめんな」
夢魔「わるいのは魔王です」
魔王「なんでだよ…」
ゴブリン「いや、魔王が悪い」
オーガ「うむ!悪いのは魔王だ」
魔王「なんでだよ」
神官「……勇者さま」
魔王「ん~」
神官「子供が泣くので帰ります」
魔王「助かる」
神官「ほんとは先端を刺叉にした新型を思い付いたので試したかったのですが…」
魔王「気をつけて帰れよ」
神官「ほら、先端が開閉式だから一度捕まえたら離さない優れ物ですよ」
魔王「帰れ」
神官「あははははは♪」
夢魔「へへ♪」
神官「それじゃあ夢魔ちゃん、帰ろっか」
夢魔「はい♪」
神官の足下から転送魔方陣が浮かび上がる
神官「それでは勇者さま」
夢魔「またな♪」
神官と夢魔は魔方陣の中にあっさりと消えていった
魔王「またな……」
魔王「まあ、もう来なくていいんだけどな」
魔王はその場に座りこむ
魔王「は~疲れた」
騎士「あの~勇者さま?」
自警団長「今のは何者だったんだ?」
魔王「怖い保護者さ」
顔役「はあ?」
魔王「もう危ないことは過ぎ去ったって意味だよ」
魔王「だからもう捕まえて賞金なり何なりは勝手にしてくれ…」
魔王「余はもう…」
魔王「 限 界 で す 」
ドサッ
「勇者~~!!」
「勇者さま!!」
「これやべえぞ」
「医者連れてくべ」
「そっち足持て」
「いくぞ?」
「「「せ~~~の!!」」」
大勢の住人に抱えられて病院へと運ばれて行く魔王
魔王を中心に多くの人が付き添い、容体を気づかう
その姿は勇者のようで
こうして魔王は女神の思惑通りに勇者に仕立てられた
病院へと運ばれる一方
神官と夢魔は魔方陣で魔王軍が一時的な本拠地とする
とある貴族の別荘へと転移していた
夢魔「ただいま~」
侍女「おかえりなさいませ、夢魔さま」
魔術士「夢魔さま!怪我はな~い?」
夢魔「ないよ~」
オーガ「神官さま…」
神官「オーガさんもお疲れさま」
オーガ「お目付け役として危険にさらし、申し訳ない」
神官「だってさ、どうする?」
夢魔「え~気にしないでい~ですよ~」
夢魔「まお~がなんとかしてくれるって信じてましたから」
神官 夢魔「ね~♪」
オーガ「かたじけない」
侍女「お疲れでしょう。お茶の用意が出来ておりますが」
魔術士「それより一緒にお風呂で洗いっこしよう」ハァハァ
魔術士「汚れちゃったし念入りに洗ってあげるわ」ジュル
夢魔「いやです!」
夢魔「身の危険を感じるのでお茶にします!」
魔術士「つれない!でもそこが好き♪」
夢魔「それに入るなら神官さまとです♪」
神官「ん?じゃあ、夕食前に先入っちゃおっか」
夢魔「はい♪」
侍女「はうあ!」ガタッ
侍女「可憐な少女ふたりの浴室タ~イム」
侍女「なんとか盗撮する方法は…」●REC
オーガ「おまえ等…」
神官「なあ、夢魔ちゃん」
夢魔「なんですか?」
神官「はじめての地上の街はどうだった?」
夢魔「そうですね……」
夢魔「と~~~っても楽しかったです♪」
夢魔「まずホットケーキでしょ!クレープも美味しかったですし」
夢魔「ポップコーン食べてたら鳥さんがぶわ~って集まって…」
夢魔「あ、そうだ!」
夢魔「じゃじゃ~ん♪」
夢魔「これお土産のホットケーキミックスです」
夢魔「これさえあれば簡単にホットケーキが作れる優れものなのです♪」
夢魔「今度神官さまにごちそうしますから楽しみにしてくださいね♪」
侍女「別にホットケーキぐらい簡単に…」
魔術士「馬鹿!シッ!」
神官「そっか…」
神官「じゃあ、火は危ないから今度いっしょに作ろうな」
夢魔「へへ、約束ですよ」
神官「約束だな~」ナデナデ
侍女「そう言って全部作ることになる神官さま…」●REC
魔術士「何言ってんの!ちっちゃい子が不器用に作るから価値が生まれるんじゃない」
オーガ「はいはい、わかったから仕事戻りな」
夢魔「えへへ♪」
夢魔「ところで実は行きそびれたとこがあったんですが…」チラッ
神官「そうなのか?じゃあ、今度ふたりで行く?」
夢魔「わ~、ほんとですか?」
神官「そうだな、まだまだ街は危険がいっぱいみたいだからな」
夢魔「じゃあ、ぜったい行きましょうね♪」
夢魔「かん「甘味処ね!!」
夢魔「?」
夢魔「違いますよ~?」
神官「いや~わたしも前から気になってたんだ~」
神官「 甘 味 処 」
神官「なんでも小豆を中心としたスイーツ専門店らしいんだけど」
夢魔「…スイーツ」
神官「ぜんざいでしょ?あんみつにわらび餅って何種類もあって」
夢魔「ぜんざい…あんみつ!?」ゴキュ
神官「抹茶って飲み物でいただくらしいけど」
夢魔「まっちゃ!!」
神官「これとは違うんだっけ?」
夢魔「これです!」
夢魔「わたし、そこ行きたいです!」
夢魔「かんみどころ」
神官「よ~し、じゃあ甘味処に行こうな」
夢魔「えへへ、楽しみにしてますね♪」
夢魔「かんらくがい♪」
神官「違う!」
今日はここまでです
あと2回更新で序章が終わる予定なので
なんとか1年かかる前に序章終わらしたいです
完結まではまだまだ時間かかりそうですがお付き合いください
それと序章完結まで更新は二回と言いましたが三回に増えました(震え声)
夢魔「えへへ、やっぱり地上はいいとこです♪」
神官「甘味処は今度行こうな」
夢魔「えへへ、約束ですからね♪」
夢魔「……えっと」
神官「ん?まだ行きたい所あるのか?」
夢魔「えっと、そうじゃないんですが…」
夢魔「まお~も行きたいと思います…」
神官「…ふふ」
神官「じゃあ魔王さまも誘ってみようね」
夢魔「はい♪」
夢魔の頭をなでる神官
その和やかな空間を外からの喧騒が破る
『だから、そこを通せ!言うとろうが!』
侍女『誰も通すなとのご指示でございまして』
魔術士『あんた等なんかお呼びじゃないってさ!!』
『黙れ!小娘に話しても時間の無駄じゃ!』
魔術士『なんですって~~!』
オーガ「神官さま」
神官「構いません」
神官「そろそろ来る頃と話していたのです」
『ほら見ろ、姫さまは分かっておる』
魔術士『こっの……』
侍女『……どうぞ』
扉が開き、数人の男女が部屋へと通される
土の将「これはこれは…姫さま」
土の将「姫さまの活躍は魔界の最果てまで届いておりますよ」
夢魔「ぐるるるる…わん!わん!わん!」
風の将「キシャアァァ~~~!!!」
夢魔「あわわ、あわわ、あわわ…」
神官「夢魔ちゃん…」
水の将「お止め、風の」
水の将「お久しぶりですね、姫さま」
土の将「我等、先代魔王さまが精鋭」
水の将「四天王が三将」
土の将「恥知らずな奴隷あがりの魔王を追放したと聞き、戦列に復帰したく参上いたした」
風の将「コケッー!」
神官「そうですか…それはそれとして本当にお久しぶりです」
神官「まだ奴隷だった魔王さまにまとめて蹴散らされ」
神官「それからまったく見なくなったので心配していたのですが…」
そこで神官は渾身の笑顔で付け加える
神官「お元気そうで、なによりです♪」
水の将「ぐっ」
風の将「クッシャ~…」
土の将「それは誤解でございます!」
土の将「我等は由緒正しき家柄の出」
土の将「どこの馬の骨ともわからぬ奴隷の軍属になるなど耐えられず、領地に帰ったまで」
水の将「そうですとも!そのような根も葉もない噂…。信じてはなりません」
オーガ「あ?何言ってんだテメエ等」
ゴブリン「魔王のオヒキの俺らがキッチリ見たんだ」
ゴブリン「忘れたですませられると思ってんの?」
風の将「キッシャシャシャシャ~」
土の将「薄汚い妖魔ふぜいが何を言うかと思えば」
水の将「瘴気に触れて人間の姿を維持出来ぬ雑魚が思い上がるな!」
周囲の険悪な空気など意に介さず、四天王は話を続ける
土の将「さあ、姫さま。後は我等におまかせを」
水の将「誰も彼も先代が鍛えた強者揃い」
土の将「残りの地上支配は我等が成し遂げてご覧にいれましょう」
神官「くっくっくっ…」
夢魔「神官さま?」
オーガ「お?」
神官「はぁ~はっはっはぁ~!」
土の将「姫さま?」
神官「姫姫姫姫…先ほどからずいぶんと馴れ馴れしいですが、いい加減身の程をわきまえてくれませんか?」
風の将「コッ!」
神官「ハッキリ言わなきゃ解らないようですが…」
神官「四天王などとっくに消滅、過去の遺物。切り捨てたトカゲの尻尾」
神官「足手まといなんですよ!」
神官「それなのに領地に帰った?」
神官「誰からも引き留められない程度の存在なのだと自覚しろ!」
土の将「こ、この…小娘の神官ふぜいが!」
神官「ゴーーーレム!!」
神官の声に反応し、天井に張り付いた鉄の塊が降り落ち
土の将「へ?」
土の将を押し潰す
ゴーレム「ゴッ!」
神官「命令は2つ」
神官「痛めつけろ、但し殺すな」
ゴーレム「命令認証、コレヨリ実行スル」
風の将「コッ!コッ!コッ!ケーー!!」
風の将の掌から放った衝撃波がゴーレムの上半身を吹き飛ばす
風の将「クケッ」
ゴーレム「再生コマンド、実行」
ゴーレムの吹き飛んだ破片が逆再生のように集まり、一瞬で修復
お返しとばかりにゴーレムの腕が風の将を殴り飛ばす
風の将「グゲッ!」
風の将は文字通り殴って飛ばされ、壁に激突
一撃で意識を失う
風の将「」
水の将「舐めんじゃないよ!」
水の将は窓から飛び降り中庭に下り立ち
噴水を破壊する
水の将「上級魔族の実力、見せてやるよ!」
破壊された噴水は噴き出す水量を増し
噴き上がる水流は上空で渦を巻き、水球を作り出す
ゴーレム「対象の脅威判定、上昇」
ゴーレムは壁をえぐり体内で弾丸を精製、腕を大砲へと変形させる
キュイィィィン
ゴーレム「脅威判定、CカラBニ以降」
ドッシューン!
周囲の空気を取り込み、圧縮して発射された弾丸が
意図も容易く水球を貫いた
水の将「」
水の将「まだよ…」
弾丸に貫かれ、爆散した水球の雫が降り注ぎ
びしょ濡れになった水の将は小刻みに震える
水の将「まだ勝った気になるんじゃねぇ!」
あきらめない水の将、次の出し物は水飛沫による無数の弾丸
神官「ずいぶんと庭を水浸しにしてくれますね」
神官の言葉と同時に水飛沫の弾丸は氷つき、地面に落ちる
水の将「!?」
噴水は凍てつき、水を湧き上がるのを辞め
濡れた地面を白銀に染め付けると
水の将の首から下を氷像に変えた
水の将「姫さ…ま…」
神官「半端に腕が立つ事は、時として酷く不幸な結果を招きます」
土の将「な、なんと言うことを……」
神官「まだやります?」
土の将「そもそも、おまえさえ……」
土の将「おまえさえ加担しなければ奴隷ごときが魔王になることも゙!?
次の瞬間、オーガが土の将の腕をひねって地面に叩きつけ
ゴブリンの抜いた短剣は首に
魔術士の杖が手の甲に貫き
侍女のヒールで頬を踏まれ
土の将の台詞は途中で遮断される
オーガ「もっと発言には気をつけたほうがいい」
ゴブリン「ここの連中は大なり小なり魔王に恩義があるからな」
侍女「そもそも、今の魔王軍はそういう集団」
魔術士「過去を懐かしむなら余所でやって」
土の将「ぐぎぎぎぎ」
水の将「どうかお待ちを!」
水の将「ご無礼はあれど我等は純粋に助力しようと参上したのは事実!」
土の将「さ、さよう、いや確信いたした」
風の将「コケッ!」
動けぬ土と水の将を他所に
風の将は神官に対して臣下の礼をとる
風の将「先代魔王さまのご息女」
風の将「そして魔界のあらゆる神事を司りし巫女姫」
風の将「魔王の座にふさわしいのは貴方様でございます」
神官「・・・・」
今日はここまでです
ゴーレムはターミネーター2の液体金属ボディーとARMSの圧縮空気砲を加えた感じです
まあ、銃や大砲が出てるので多少の対抗兵器として必要かなと…
そして二章で魔王が逃げ回る相手になります
神官「くだらない」
風の将「コケッ!?」
神官「実力の伴わぬ者が肩書きのみ立派にしたところで滑稽なだけ」
神官「誇りたければ結果を示しなさい」
神官は夢魔の手を引いて玉座に進むと
玉座の左側で立ち止まる
神官「むかし…」
神官「母が死んで、それから父はすっかり変わってしまって」
神官「それが怖くて、悲しくて…毎晩のように泣いていたの」
夢魔「ん…」
神官「それが運命なんだと諦めて」
神官「すべてを受け入れたふりをしていたら」
神官「ひとりの奴隷があっさりと土台ごとひっくり返したの」
神官「だから好き」
神官「だから わたしも求められることは何でもしたの」
神官「惚れた弱味につけこまれて」
神官「誰より側にいたかったから」
オーガ「くっくっくっ」
神官「そして近くにいて気付いたの…」
神官「魔王さまの目指す理想の世界に、魔王さまが存在しない」
神官「天界、地上、魔界の三界をひとつにし」
神官「神を殺して」
神官「その罪を背負って最後に消える気でいるんです」
ゴブリン「そういや今回の天使の騒動も魔王の企み事で処理してたな」
魔術士「泣いた赤鬼にでもなる気?」
侍女「この場合は青鬼かと」
神官「それが魔王さまが考えた最善の方法なのでしょう」
神官「熟慮を重ねた結果なんだとしましょう」
夢魔「…神官さま~」
神官「でもね、身内裏切ってまで捧げた操と魔王の地位」
神官「要らなくなったで捨てられたら、ムカつくわ」
コボルト「伝令!」
コボルト「北部を探索中のコボルト中隊がエルフの森を発見!」
コボルト「おそらくは最後の邪神の封印が隠された地かと…」
神官「ご苦労」
神官「友好的に使者を送り」
神官「にこやかに潜りこみ」
神官「隙をついて破壊しろ」
コボルト「ハッ!」
神官「邪神の封印を解いた結果」
神官「今度はわたしが魔王さまの思惑を叩き潰してやるの」
神官「魔界を頂点に地上、天界までをも支配し」
神官「全世界の人間に邪神を崇拝させ」
神官「魔王を玉座に鎖でくくりつけてでも座らせてやる」
神官「甘い言葉でささやいて、女をその気にさせた責任をとらせてやる」
オーガ「神官さま」
オーガ「我々も魔王に命を救われた身、いなくなられては困る」
その場にいるすべてが神官に臣下の礼をとる
神官「オーガ」
オーガ「うむ」
神官「人数を揃えてエルフの森周辺の地形を探れ」
オーガ「了解した」
神官「ゴブリン」
ゴブリン「おう」
神官「転送用魔法陣をあらかじめ森に展開しておいて」
神官「ただし無理はしないように」
ゴブリン「わかった」
神官「魔術士」
魔術士「はい!」
神官「最低でも百体、ゴーレムを何時でも起動出来るように準備を」
魔術士「はい!」
神官「侍女さん」
侍女「なんでしょう?」
神官「お茶を」
神官「今や希少な聖王国産の茶葉を濃いめで淹れて」
侍女「かしこまりました」
神官「さあ、魔王不在の魔王軍の進撃を開始しましょう」
妖魔が歓声をあげ、魔術士が操るゴーレムが起動を開始
四天王の三人が部屋の隅に隠れるのを横目にし
神官は笑う
神官「それでは魔王さま、文句があるならお急ぎください」
神官「わたしは勇者に世界の半分を与えるほど、優しくありませんから」
夢魔「えへへ、神官さますっごい楽しそうです♪」
神官「ふふ、そうだよ。とっても楽しい」
神官「世界征服は笑ってするものだからね」
ところで一方
辺境の国のさらに辺境の山奥
魔剣士「はい、それでは皆さん。改めましてこんばんは」
魔剣士「先代魔王の息子にして神官の実の兄」
魔剣士「魔界の第一王子であり四天王筆頭…」
魔剣士「そして、その総てを過去形にされた男」
魔剣士「負け犬王子の魔剣士です」
山賊頭「お、おう」
魔剣士「みんな絶対に俺のこと忘れてる……」
山賊A「ソンナコトナイヨーー!!」
山賊B「泣くな!飲もう!いっしょ飲もう!」
山賊C「ね?面白いでしょ?」
山賊頭「だからってアジトに連れてくんなよ」
魔剣士「ごめん…ごめんな…」
魔剣士「どうせ俺なんて道端の小石ほどの価値もないのに押し掛けて」
山賊A「ソンナ、コト、ナイヨーー!」
山賊B「ほら、飲め!もっと飲め!」
魔剣士「可愛かった妹がたくましくなりすぎて、ツラい…」
山賊B「立って!強く生きて!」
今日はここまでです
魔剣士の登場が約10か月ぶりで焦る
魔剣士「むかしはね…昔は良かったの!」
魔剣士「厳しくも尊敬する父、優しい母…そして可愛い妹!」
【回想 三年前】
神官「兄さま、にぃ~さ~ま~♪」トテトテ
王子(のちの魔剣士)「なんだい?マイ、シスター」
神官「あの、お守り作ったから貰ってください」
王子「ありがとう、可愛い妹の依り代だと思って大切にするよ」
神官「依り代?それでですね…お願いがあるんですが」
王妃「神官」
神官「!!」
王妃「今日はお兄様の晴れの舞台。あまり無理を言って困らせるものではありませんよ」
神官「はい…すみません、兄さま」
先代魔王「そう神経質になることもあるまい」
神官「父さま…」
王子「父上」
先代魔王「所詮は闘技場の見せもの、ただの余興よ」
先代「反抗的な奴隷を適当に見繕ったから気楽に首を切り落とせばよい」
王子「はっ!それじゃあ、妹は心配しないでお兄ちゃんの勇姿をしっかり見ててね♪」
奴隷「くっくっくっ…」
ドグシャ!
王子「」
奴隷(のちの魔王)「はぁ~はっはっはぁ~!噛ませ犬に負けた気分はどうだ?」
奴隷「負け犬王子…。いや、略して貴様は今日から魔剣士だ!」
魔剣士「」
ーーーーーーー
ーーーーー
魔剣士「魔界全土に輝かしい勇姿を見せるはずが、見せたのはバックドロップで地面に刺さった俺と」
魔剣士「俺を助けるため奴隷に土下座する父」
魔剣士「それから三年良いことなんか一つもない…」
山賊「うわぁ…」
魔剣士「気がつきゃ肩書きだけの魔王軍司令で妖魔達に小突かれる毎日…」
山賊「……」
魔剣士「それでもいつかは汚名返上の機会があると信じて頑張ったよ…」
魔剣士「そしたらよ…」
魔剣士「そしたら妹に山奥に飛ばされるてぇのはどうよ!!」
山賊頭「ぐすっ…」
魔剣士「泣いてんか?」
山賊A「ソンナコトナイヨー!」
山賊B「おまえのしょぺえ叫びが目にしみやがっただけさ」
山賊頭「そうよ、オレラもお日様の下にまっとうに歩けねえ身だ」
山賊頭「そのさらに下を行く、おまえさんの負け犬人生に涙も出る」
魔剣士「負け犬言うな!!」
魔剣士「ウィ…俺の人生なんなんだろう」
山賊B「酔いが足んねえんじゃねえか」
山賊頭「気に入ったから好きなだけいな」
山賊C「まあ、悪いことばかりじゃねえ」
山賊B「そうそ、ついに勇者が出たし潮時かもよ」
魔剣士「勇者?」
山賊C「噂じゃ魔王の刺客を倒したとか倒されたとか」
魔剣士「勇者…そうか勇者か…ふっふっふっ…」
山賊C「客人?」
魔剣士「ふぁ~はっはっはぁ~!そうかわかっちまったぜ!神官ちゃん!!」
山賊A「ソンナコトナイヨ!」
魔剣士「やい!てめえら、俺様を勇者んとこまで案内しな!!」
魔剣士「勇者の首を手土産に俺様はもう一度返り咲く!!」
山賊B「よっしゃ!それでこそ漢だ!」
山賊頭「こちとら、どうせ世間のはみ出しもん…おめえに付き合ってやるぜ!」
魔剣士「ふぁ~はっはっはぁ~!行くぜ野郎共!!」
魔剣士「待ってろ勇者!見てろよ魔王!」
魔剣士「俺様こそが真の魔王だぁ!!」
第一章終わり
今日はここまでです
咬ませ臭のする魔剣士
つまりカマ、、、、おや?こんな時間に神官ちゃんかな?
>>304
魔剣士「神官ちゃんは俺のために他人に危害を与えたりしない!」
魔剣士「何故なら神官ちゃんの中で俺は存在しないことになってるからな」
母がしんで泣いてた時期を「昔は良かった」と言っちゃう魔剣士サイドも多少はね
二章の前にちょっと魔王軍の日常編
【おまけ 神官の周辺事情】
侍女「はじめまして、侍女と申します」
侍女「正確には神官専属メイド付き侍女です」
侍女「今から四年前…修道院からお戻りになった神官さまの侍女となるよう仰せつかった私に思いがけないサプライズ!」
侍女「それが修道院からついてきた夢魔さまでした」
夢魔「クッキーあったよ~♪」
オーガ「でかした!」
侍女「以降、夢魔さまが専属メイド。私はその補佐をしてます」●REC
侍女「あ、カメラはお気になさらず。立派な補佐としての業務ですので!」●REC
夢魔「チョーコ♪チョーコ♪チョーコチップ、クッキー♪」
侍女「ちっちゃくてロリロリの夢魔さまの可愛いらしい姿を後世に残す…」●REC
侍女「それ以上に重要な業務なんてあるか?」
侍女「いや、ない!!」●REC●REC●REC
ゴブリン「そろそろ本気で隔離しないとヤバいぞ」
神官「えっと…仕事は有能なんだけど…」
侍女「うっはぁ~、しあわせ~
侍女「私いま最高に幸せだわぁ~~」
夢魔「さっくさく~♪」
魔術士「夢魔さま~」ダキッ
夢魔「むわっ!?」
侍女「!!」
魔術士「ちっちゃなメイドさん、お仕事終わった私にもお茶淹れてくださいな」スリスリ
夢魔「何ですか!なれなれしくしないでください!」
魔術士「だってゴーレムの調整頑張りすぎて疲れたんだもぉ~ん」クンカクンカ
夢魔「いや~!わたしから離れてください!」
魔術士「うっはぁ~、ロリメイドさんサイコー」
侍女「シャーー!!」
魔術士「出たわね変態」
侍女「花を腐らす害虫は夢魔さまから離れていただきませんか」
魔術士「ハッ害虫?どうやらその目は蝶と蛾の区別も出来ない節穴のようね」
侍女「選別したうえでの害虫認定ですが?」
魔術士「だいたい暗いのよ!可愛い子がいたら抱きついて愛でる!」
魔術士「それがマナーってもんでしょー」
侍女「一歩引いて遠くから愛でる!それこそマナー!それこそ正道」
夢魔「むりゃ!」バッ
魔術士「ああん」
夢魔「神官さま~神官さま~!」テッテッテッ
神官「は~い、よしよし…」
夢魔「う~…」
神官「びっくりしたか?」
夢魔「ん…」
魔術士「確かに一歩引くのも大切よね~」●REC
侍女「争いなんて無意味」●REC
夢魔「う~」
神官「よしよし」ナデナデ
夢魔「ん…もっと」
神官「はいはい♪」ナデナデ
夢魔「びっくりしましたが…びっくりしただけですよ?」
夢魔「わたし、泣いてなかったですよね!」
神官「そうだな、えらいぞ♪」
夢魔「へへ、まお~今度は虹を見せてくれます♪」
夢魔「空いっぱいの星空、瘴気のない青空。食べたことのない美味しいごはん!!」
夢魔「……まあ、お魚はニガテですが」
夢魔「これまでもい~ぱい約束まもってくれました♪」
神官「そうだな」ナデナデ
夢魔「神官さま~」
神官「ん~?」
夢魔「神官さまも約束まもってますか?」
夢魔「まお~が頑張ってるのは神官さまのためなんですよ」
神官「約束だもんな…」
「俺を信じろ」
「夜は空いっぱいに広がる星を」
「朝は太陽の陽がさす青い空を」
「瘴気に怯えることも人が妖魔になる不安も俺がなくそう」
神官「そのかわり、おまえは俺に笑った顔を見せてくれ」
夢魔「えへへ~♪」
神官「最近、わたしはこれを詐欺だと思ってる」
夢魔「?」
魔王から聞かされる神官との夢自覚のろけ話で魔剣士が血を吐く展開にする予定なのに基準もあいまいなエロ規制とか止めてくれませんかね…
何のために夢魔を子供に見立てた擬似夫婦っぽくしたと(以下略)
移転基準けっこう厳しめみたいですね…
いっそエログロ展開になったら侍女秘蔵の夢魔映像に切り替えとかギャグ路線に行ってしまおうか
…投下します
【おまけ 魔王の周辺事情】
兵士「さっさと入れ!」
魔王「うおぅ!」ズシャ
ガッシャン!
魔王「おい、出せ!なぜ牢に入れられねばならんのだ!」
騎士「それでは明朝日の出と同時に仲間探しに酒場に向かいます」
魔王「だ~か~ら~!仲間なんていらんと何度も言っておるだろうが!」
騎士「何か要望があればどうぞ」
魔王「ここから出せ!」
兵士A「申し訳ないが国王の命令でな」
兵士B「ここは城内で一番奥まったとこでな、安全は保証するぜ」
魔王「数時間前まで街ぐるみで殺しに来といて、よく安全などと太鼓判おせるな!!」
魔王「なあなあ~頼むよ~暗いのと狭いのとジメジメしたとこ嫌いなんだよ~」
騎士「ふむ」
兵士A「どうします?」
兵士B「いくらなんでもやり過ぎなんじゃないですかい?」
騎士「いや、ダメだダメだ!だいたい、牢から出したら何をするか!」
魔王「余をなんだと思っているんだ!迷惑なんかかけるわけないだろ」
魔王「ちょっと、いなくなるだけだ!!」
騎士「おやすみなさい」
魔王「待って~」
魔王「なあなあ~盗った財布なくしたのは謝るからさ~」
兵士A「それについては反省しろ!」
魔王「すまん、兵士Aの財布にあった歓楽街の優待券も落としてしまった」
兵士A「ちょっ!優待券ってなんのことだか」
魔王「数回分は貯まってたな」
騎士「兵士A…おまえ……」
兵士A「いやいや!誤解ですって、やだなぁ」
魔王「なんだ?騎士は女遊びは嫌いか?」
魔王「もったいない、娼婦から好かれそうな顔してるのに」
騎士「……」
兵士A「あ~勇者さま?」
兵士B「騎士は女だぞ」
魔王「えっ?あ~そうか、へえ」
騎士「…何か問題でも?」
魔王「別に~それならそれで娼婦に需要あるんじゃないか?」
騎士「と に か く !」
騎士「不便でしょうが一晩ここにいてもらいます!」
兵士B「すまんが路地裏で死体が発見されてな~」
兵士A「それも魔王が好む 頭から股まで裂くという無惨な死体でな」
魔王「そんな愉快な猟奇趣味を持った記憶はない!」
騎士「またまた、魔王の処刑法は有名ですよ?」
兵士B「噂じゃ、魔王が通った後には身体を裂かれた無惨な死体だけが残るってな」
兵士A「魔王に抵抗する人間を捕らえては泣き叫ばせ、命乞いを聞きながら股から裂くのを楽しむってな」
魔王「うわ…その魔王こわい…」
魔王「まあ迷惑な話だよ、奴らは〝皮〟の選り好み激しい癖に」
魔王「天使の正体現すときには脱皮したてのセミ並みに脱ぎ散らかして後始末なんて考えもしないからな」
魔王「もっとこうフレンドリーに生きたいとは考えてるんだが~」
魔王「天使も無視出来んしな~」
兵士B「じゃあフレンドリーに一晩居てくれや」
騎士「見つかった死体も棺に入れて国王の間にてそろそろ復活したころでしょう」
魔王「……そうだな、奴らは殺したって死なない」
魔王「…ちょっとした好奇心で聞いてみるんだが、その事についてどう思ってるんだ?」
魔王「真面目に、冗談みたいに、荘厳な音楽流して棺から甦ったらこう言うんだろ?」
「おお勇者、死んでしまうとは情けない……」
魔王「なあ、身体を裂く魔王より」
魔王「裂けた身体のくっつく勇者の方が恐ろしいと、そう思わないか?」
騎士「いやいやいやいや…だって、それはそういうもの……」
魔王「これまで魔王に裂かれた死体も復活したが、そういうものなのか?」
魔王「聖剣を手にして焼け死んだ。貴様の兄とどう違う?」
騎士「兄さん?ニイサンは……」
兵士A「騎士さま!」
兄の名が出てふらつく騎士を、兵士Aはあわてて支え
兵士Bは魔王の胸ぐらを掴む
兵士B「なんでここで兄の話がでる!」
魔王「いいか!余がここに来たのは伊達や酔狂でも、逃げた先の偶然でなければ」
魔王「祈ったこともない邪神をあてにしたからでもない!」
魔王「ここに来たのは、天使が残した皮が棺にいれられ、ここに運ばれて来るからだ!」
魔王「運ばれた皮に中身が詰められ、所持金の半分を差し出して」
魔王「元の街に帰って行き。元の生活に戻るのを確認したからここに来た!」
魔王「もはや地上に我らの脅威となる勢力はなく」
魔王「残すは天界との最終決戦のみ…」
魔王「ならば、決戦前に一度死ねば二度と復活することのないようにしなければならない!」
魔王「さもなくば無限に復活する天使の軍勢に、魔王軍は敗れるだろう」
兵士B「……魔王だったんか」
魔王「……ああ、魔王だ」
兵士A「?、!?」
兵士B「そうか、残念だ。兵士に押し潰されてもゴミ箱の中で笑ってる」
兵士B「そんな馬鹿が少しだけ好きになれたんだがな…」
魔王「そうか?余は兵士呼び戻さずに腹を割って話し合おうとした」
魔王「お人好しが今でも好きだ」
兵士A「何の話だ?」
兵士B「黙ってろ…。何が起こってんだ?」
魔王「……言いたくない」
兵士B「そうか」
魔王「すまない」
兵士B「良いさ、何か出来ることは?」
魔王「手離せ」
魔王に言われて、兵士Bは胸元を掴んだ手を離す
兵士B「すまん」
魔王「別に気にしちゃいない。今でも好きだって、そう言ったろ?」
兵士B「ぷっ、へっへっへっ…」
魔王「くっくっくっ…」
魔王「さて、騎士の兄について聞きたい」
兵士B「兄は、物静かで…。聖剣を持ち出したなど今でも信じられん」
魔王「…女神の脚本は絶対であり。天使を通じ、あらゆる手段を駆使して実現させることが許される」
魔王「それがこの世界のルールだ」
魔王「それをくつがえすのは余といえど容易ではない…」
兵士B「…それで?」
魔王「わざわざ天使本人も欲しがる聖剣をただの人間に」
魔王「それも殺すためだけに人間に渡すとは考え難い」
兵士B「それを兄は聖剣持ち出し、焼け死んだ」
兵士B「勇者の資格無しの末路として知れ渡ったが女神にそんなことする意思はなかったってのか?」
魔王「ああ、だから教えろ!ただの人間が女神の思惑を越え聖剣を持ち出すほどに何を知り、何を悩んでいた」
魔王「この国の何を憂いていたのか」
魔王「そして誰と戦い、誰に殺されたのか」
魔王「その真相こそが女神の脚本をくつがえす鍵だ!!」
今日はここまでです
死体なんですが>>218-219で言霊使いが脱ぎ捨てた人間形態だった時の脱け殻です
過去に魔王は天使と何度か戦い、その結果
そこらじゅうに「頭から股まで裂けた死体」が残り
魔王にそういう残虐な処刑法があると勘違いされました
以上、補足
兵士B「兄の死が他殺てえんなら調べる価値ありそうだな」
魔王「助かる」
兵士B「って言ったが期待すんなよ」
兵士B「死んだ後に反逆罪かけられてな、日誌やら読んでた本からごみ箱の中身まで持ってかれた」
魔王「いや、見るべきはそこじゃないんだ」
魔王「誰が兄に反逆罪をかけるよう王に進言を?」
魔王「部屋中の物をすべて持ち去った人間でもっとも証拠隠滅に積極的だったのは?」
魔王「天使は女神の指示通り動くため突発的なアドリブに弱い」
魔王「事前に用意してなかった分どこか指揮権や現場に違和感がなかったか思い出せ」
兵士B「思い出すにはちょっと古いな……」
魔王「騎士なら何か知ってそうか?」
兵士A「あ、あ の よ!!」
魔王「ん?」
兵士B「どうした?大声出して」
兵士A「あんまり騎士さまを危険なことに巻き込まないでやって欲しい」
兵士A「今も兄上の名が出ただけで倒れて……」
兵士A「反逆罪をかけられてからずっと、大好きな兄上の不名誉を自分が挽回しようと気を張ってるんだ……」
魔王「あ~倒れたのは兄にかんする重要な記憶を魔法で封じ込めた影響だな」
兵士A「魔法?それはどうにかできないのか?」
魔王「出来る。まあ今は魔力がないので過信は出来んがな」
魔王「失敗したら生活に支障をきたすクラスの障害が出ることもあるが解こうか?」
兵士A「じゃあ頼まない」
兵士Aは騎士の腕を肩にまわして抱き上げる
兵士A「兄上の死に陰謀ありと騎士さまが知れば城中に聞いてまわるだろう」
兵士A「だから協力も無理だ」
兵士A「勇者さまは最初の予定通りに酒場で仲間集めたらこの街から出てってもらう」
魔王「……ちょいちょい」
兵士B「ほい?」
魔王「…驚いた。おまえらの感情はできの悪い子どもに対する父性的なものだとばかり思ってたんだが」ヒソヒソ
兵士B「俺はそっちで正解だろうが…いろいろとな?」ヒソヒソ
魔王「色街通いばらして悪かったかな?」ヒソ
兵士B「あ~しょせんは身分違いなんだから気にするな」ヒソ
魔王「情けない、無理と決めつけるならさっさと押し倒せ!」
兵士B「それが出来ないから優待券が貯まってくんだろ」
兵士A「兵士B!!」
兵士B「へいよ」
兵士B「じゃあな。兄のこと一晩考えてみるわ」
魔王「ああ、頼む。ところで食事は?」
兵士A「後で誰かに持ってこさせる」
魔王「それなら魚料理で」
魔王「城だと子供の好みが優先されてめったに食べられん」
兵士B「伝えとく」
兵士が去っていき。牢に残された魔王は目を閉じ、壁に耳をあてる
魔王「来たか」
今日はここまでです
コウモリ「まおーーー!!」
猛烈な勢いで窓から入ったコウモリが魔王の顔面にめり込む
魔王「あべし!」
コウモリ「まおう!まおう!まおう!」ペシペシ
魔王「この空気を読まない脱力感……」
魔王「夢魔か!?」
夢魔「そうですよ~♪」
魔王「ちょっと緊張感なくなるから待ってくれぬか?」
夢魔「まお~は甘味処って知ってます?」
魔王「聞かないか~」
夢魔「あんみつや~ぜんざいや~今まで食べたことないスイーツと~」
夢魔「まっちゃ!飲んだりするとこですよ~」
魔王「今どこにいる?」
夢魔「神官さまといっしょに魔王軍の拠点にいます」
魔王「なら良いか」
夢魔「それよりまお~は甘味処好きですか?」
魔王「えっ…甘いもんか?う~ん甘いものは……」
夢魔「えへへ♪今度神官さまが連れてってくれるです♪」
魔王「あ~好き、かな?」
夢魔「くっくっく~、神官さまと仲直りしたら~連れてってあげますよ~♪」
魔王「わー困ったーとっても悩むなー(棒)」
夢魔「そ~でしょ?そ~でしょ?いつまでも~意地はってないで~」
夢魔「神官さまにごめんなさいすればいいんです」
魔王「え~でも、こちらから一方的に謝るのもな~」
夢魔「ならば仕方ありませんね。最終手段を使いましょう……」
魔王「なんかもうだめだ。ゆるむ」
夢魔「わたしが編み出した最終手段。それは……」
夢魔「飯テロです!!」
魔王「飯テロ…」
夢魔「そ~です!わたしが~」
夢魔「晩ごはんを美味しそうにレポートしてやるです」
夢魔「そうしたら、食い意地はった魔王はお腹すいて帰って来たくなります」
魔王「異議あり!」
魔王「余に対する評価に不当性があると思われる」
夢魔「はっはっはぁ~、余裕でいられるのも今のうちです」
夢魔「今日のメニューはわたしも食べたことないご馳走」
夢魔「その名も……」
夢魔「マーボードーフ♪」
魔王「……夢魔」
夢魔「あ゙~~~」
魔王「…辛いか?」
夢魔「ゔ~~~」
魔王「辛いんだな?」
夢魔「な、何言ってるんですか?これは から旨って言うんです」
夢魔「あ~美味しいな~…ひっぐ」
夢魔「これを食べられないまお~は可愛そうです……えっぐ」
魔王「無理するな。子供用メニューもあるんだろ?」
夢魔「……あります」
魔王「ならば無理せずそれを食べればいい」
魔王「無駄にするほど食料備蓄もないしな」
夢魔「これはまお~の分なんです!」
夢魔「だから食材が無駄になるとか気にするなら帰って来たらいいんです!」
魔王「夢魔……」
夢魔「わたしは、みんないっしょにご飯食べたいんです!!」
夢魔「からいのだって甘いのだって、みんないっしょで食べるから楽しくって美味しいんです!!」
魔王「そうかも知れんな」
夢魔「う~~」
魔王「すまん、夢魔の気持ちに無神経すぎたかもしれん」
夢魔「言うあいてがちがいます…」
魔王「神官…神官、聞いているはずだ」
神官「…はい、聞いてました」
魔王「明日は魚料理にしろ」
夢魔「うわ~ん!」←魚キライ
夢魔「う~~むぐむぐ」
神官「まお~さま」
魔王「ん?」
神官「あ~ん」
魔王「あ……ん…ホットケーキか?」
神官「はい、まあ、こうなるだろうなって思って準備してました」
夢魔「くっくっく~これなら飯テロできます!」
神官「もう一口食べます?」
魔王「うむ、あ~~」
神官「はい、あ~~」
夢魔「あ~ジャム食べさせちゃダメですよ~!」
夢魔「わたしが手作りしたはじめてのジャム…」
夢魔「まお~に食べさせるのはもったいないです」
魔王「・・・・」
神官「あ、いっしょに煮詰めたぐらいで本当に夢魔ちゃんが作りました」
夢魔「あ~美味しいな~」チラッ
夢魔「ふんわりホットケーキに大粒いちごジャムがとっても美味しいな~」チラッチラッ
魔王「ふふ…」
夢魔「おっ、食べたくなりました?」
魔王「いや、こうして牢に食事を差し入れてもらうのも久しぶりだと思ってな」
夢魔「そうですね~♪」
夢魔「感謝してほしいです、昔はわたし達がいなきゃ飢えて死んじゃうんですもん」
魔王「なあ、巫女姫」
神官「はい、奴隷さま」
魔王「俺たちはここからはじまった」
魔王「胡散臭い奴隷の戯言を、信じてくれたおかげで前に進めた」
魔王「神官」
魔王は使い魔にむけて手を伸ばす
魔王「まだ俺を信じてくれるか?あの時した約束も、もうすぐ叶う」
神官「はい、もちろんです」
伸ばした手に使い魔がとまる
神官「ですが知ってますか?魔王さま…」
神官「わたしの今の望みは、みんなでいっしょにご飯を食べるぐらいです」
魔王「くっくっくっ…」
今日はここまでです
魔剣士が今回の会話内容を何らかの手段で知った場合
魔剣士は死ぬ
夢魔「にへ、イチャイチャしてますね?」
神官「そうだよ~♪イチャイチャしてたよ~♪」
魔王「……どうだろうな?」
夢魔「むっふ~♪べつに恥ずかしがらなくていいです」
夢魔「仲良くしたごほうびにジャムをつけたホットケーキをあげましょう」
夢魔「はい、あ~~ん♪」
魔王「あ~~」
夢魔「ん♪」
魔王「もぐもぐもぐ…」
夢魔「美味しい?」
魔王「美味しい」
神官「まだあるから、おかわり焼こうか?」
夢魔「いただきます!!」
魔術士「なら、食べかけ麻婆豆腐はスタッフが責任をもって処理しておくわね」
侍女「タッパーに!夢魔さま食べかけ麻婆豆腐はタッパーに未来永劫保存しましょう!」
オーガA「おまえら、止めてやれよ」
オーガB「お嬢がふるふるして今にも泣きそうじゃねえか」
ゴブリンA「だが、実際辛すぎねえか?」
コボルト「むっ、これ向こうはご主人か?」
オーガC「せやで」
ゴブリンB「今日の食事当番誰だ!?」
ゴブリンC「食事もまた試練であり苦行……」
ゴブリンD「テメエかよ!」
ゴブリンE「毒電波受信しても撒き散らすな!」
コボルトA「主人!主人!」
コボルトB「我等、エルフの森にて封印を発見!」
コボルトC「恩賞を要求!」
コボルトD「ブラッシング!」
コボルト達「「「我等、圧倒的、ブラッシング要求」」」
夢魔「まお~?」
神官「可笑しな顔して、どうしました?」
魔王「ん、ちょっとだけ帰りたくなった」
夢魔「おっ、飯テロの効果ですね!」
夢魔「いいんですよ~♪ いつ帰ります?」
夢魔「思い立ったら吉日! いま帰りましょう♪」
魔王「ちょっと待ってくれぬか?」
魔王「いま余が帰ると、入るタイミング逃して外から様子を伺ってる かわいそうな奴が」
魔王「すごくかわいそうな奴になるから」
魔王の台詞に同調するようにドアが開き、隠れた人物が牢内に入ってくる
言霊使い「ぐぎぎぎぎ……」
言霊使い「どこまでも…どこまでも僕をコケにする奴らだ!」
夢魔「また出た!」
言霊使い「当然だ!」
言霊使い「勇者とは、魔王を倒すまで何度でも戦いを挑むものだからな!!」
今日はここまでです
魔王「落ち着けよ、余が何かしたか?」
言霊使い「とぼけるな!!」
言霊使い「勇者として選ばれるべき僕に、あろうことか魔王の刺客などという汚名をつけるとは!」
言霊使い「この屈辱…どう晴らしてくれよう!!」
夢魔「知りません。興味ないです、お帰りください」
言霊使い「きいぃぃぃ!!」
魔王「まあまあ、貴重な情報源だ。あまり無下にするな」
言霊使い「ぐがあぁぁぁ!!!」
言霊使い「まるで!責任を!感じてない!」
魔王「貴様もあまり気に病むな」
魔王「余とて奴隷、魔王と来たが現在は勇者という不名誉な称号で呼ばれておる」
言霊使い「いらないなら僕にくれぇ!!」
魔王「いらないなら貴様も捨てればいい」
魔王「貴様とて地上ですごした四年間の仮の名があったのだろう?」
魔王「賞金稼ぎ」
言霊使い「…なんのことやら」
魔王「隠さずとも女神の筋書きぐらい想像できる」
魔王の後ろにまわした手の中に
夢魔がそっと聖剣の破片を手渡す
魔王「邪悪な魔王による地上侵略より半年が過ぎ……」
魔王「連合軍の壊滅した地上の人間達は女神に祈り、勇者の来訪を願う」
魔王は壁に背をもたれかかるように見せかけて、壁にあるレンガの継ぎ目に破片を指で押し込む
魔王「では勇者に選ばれる条件とは何か?」
魔王「それは天使の復活するこの辺境の国を拠点とし、聖剣を持つに相応しい人物」
魔王は言霊使いの目前まで迫ると
聖剣の破片をひとつ、後ろ手に投げる
夢魔「ぱくっ!」
夢魔の操る使い魔が、破片を口でくわえると壁の継ぎ目に突き刺す作業を引き継ぐ
夢魔「~♪」
魔王「それが貴様だ!多数の荒くれ者を相手にし、銃の前でも一歩も退かない剣の使い手!!」
魔王「そしてそれを女神の神託が後押しすれば」
魔王「誰からも文句のつけようのない勇者が誕生する」
言霊使い「ふほっ!んふふふっ♪」
その場面を想像したのか、言霊使いはうっとりとした表情を見せ
魔王の後方、死角で作業中の使い魔には気付かない
夢魔「ふむふむ、上出来ですね♪」
継ぎ目に刺さった破片が楔となり、壁に亀裂が走る
魔王「その代償があれだ!!」
右隅に放置された死体の山を魔王は指さす
魔王の指と視線に誘導され、言霊使いの視点が右に移動
作業を終えた夢魔が逆方向の左に飛ぶのを見過ごす
言霊使い「ふふふ、獄中死した罪人の死体がどうしました?」
魔王「どうしただと?」
夢魔「ふぁいと~」カチャン
魔王は鉄格子を掴むと乱暴に揺らす
ガシャン!
魔王「ここ数年、この周辺だけ凶悪犯罪が急激に増加した結果だ!!」
魔王「街には自警団ができ、兵士は取り締まりを強化するも。捕まるのは昨日まで犯罪とは無縁な善良な人ばかりだ!」
魔王は声を荒げ、鉄格子を拳で殴る
夢魔「いっぱぁ~~~つ!!」カチャカチャ
ガシャーーーン!!
その音が鎖を固定する釘を抜こうと奮闘中の夢魔が鳴らす金属音をかき消す
魔王「貴様、操ったな! 無実の人間を言霊で操り、偽りの賞金首をでっち上げた!!」
言霊使い「ふふ、ならばどうすると言うのです?」
魔王「他人を不幸にした貴様を勇者などとは、けして認めぬ!」
魔王「この世界は今を生きる人々のモノであり、彼ら自身の意思で決めるべきなのだ!!」
夢魔「じょ~ずに取れました~♪」
言霊使い「言ったはすです! この世界は女神のモノであり、女神の為の舞台だと!」
言霊使い「彼等はね、舞台をより華やかにするための小道具なんですよ」
魔王「そんな考え方だから! 何度自作自演の勇者が現れようと人心が離れて行くんだ!」
鉄格子を挟んで、魔王と言霊使いは睨みあう
夢魔「まお~」
夢魔はそんな状況はいっさい関係なく、魔王の足元には鎖を置き
魔王の手の中に釘を握らせる
夢魔「できたよ~♪」
夢魔は作業終了を告げると魔王の頭に乗っかる
夢魔「褒めて♪褒めて♪褒めて♪」
魔王「神官、余の分も褒めろ」
神官「ん、えらいぞ♪」
夢魔「にへ~♪」
言霊使い「子供が…この状況をまるで理解出来ていない」
魔王「ああ、知らぬが仏だな」
言霊使い「肉体の修復では通常、死亡時に遺失した所持品が補充されます」
言霊使い「貴方に破壊された聖剣も、この通り…」
言霊使いは聖剣を差し出す
言霊使い「そしてこれが、僕からのメッセージです」
言霊使い「酒場で仲間を集めたら。腕試しに西の塔を攻略してみたらどうだ?」
魔王「!?」
魔王「くっくっくっ…」
魔王「はぁ~はっはっはぁ~!」
夢魔「今のそんなに笑うところですか?」
魔王「笑うさ。こいつはな、本当に裏方にまわされたんだ」
言霊使い「・・・・」
夢魔「裏方?」
魔王「ああ、後世に語り継ぐ勇者の物語は滞りなく進行しなければならない」
魔王「だからこそコイツら天使は、人間社会に溶け込み不自然な点がないよう裏方しているのさ」
言霊使い「貴方はどこでそのことを知ったのです?」
魔王「この世界が女神のための舞台だろうが大多数は関係ないってことか?」
言霊使い「不敬な…」
魔王「だが事実だ」
魔王「魔王を倒す勇者に遠慮なく頼みごとをする村人がどれぐらいいると思う?」
魔王「頼みごとを叶えたぐらいで船員ごと船を貸す商人など正気じゃない」
魔王「勇者に関わり会おうとする人間は少ないが、女神の前では通じない」
魔王「女神が勇者の物語にドラマチックな展開を求めれば求めるほど必要な人手の数が増えるからな」
魔王「そこで人間の皮をかぶって天使が裏方になる必要が出てきた」
言霊使い「・・・・」
魔王「そして、こいつは…」
魔王は心の底から可笑しそうに体を折り曲げて笑う
魔王「くっくっくっ…勇者になれると信じて罪なき人々を貶めて」
魔王「はぁ~はっはっはぁ~!魔王の刺客はいやだと文句を言いながら」
魔王「結局、次の行き先教えるだけの〝村人A〟か?」
魔王「みじめすぎて腹がねじれて死にそうだ!!」
言霊使い「きえぇぇぇ~~!!」
言霊使いは奇声をあげながら聖剣を抜刀
居合いの斬撃が鉄格子を切り裂き、魔王に迫る
バチィッ!
魔王は床に伏せて斬撃をかわすと鎖をしならせ、聖剣を弾き落とす
魔王「うっせえぞ小道具!」
魔王は床を蹴って飛びかかり
言霊使いの額に釘を突き刺す
額に釘が刺さった言霊使いは鉄格子にもたれるようにして倒れる
夢魔「死んだ」
魔王「いや…」
魔王の宣言通り。額の釘が抜け、言霊使いは立ち上がる
夢魔「生きてる!?」
言霊使い「そうだよ♪」
言霊使い「だから僕は特別なんだ!特別だから勇者なんだ!!」
言霊使いの右手に魔力が凝縮、電撃へと変換させる
言霊使い「特別じゃない魔王は大人しく死んどけ!」
魔王「くっくっくっ…」
魔王は壁際まで後退
壁に体当たりすると亀裂が広がりレンガの壁が崩れる
言霊使い「!?」
驚く言霊使い
その時には崩れて出来た大穴から魔王は外へと飛び降りていた
魔王「さらばだ」
言霊使い「逃がすかぁ!!」
大穴へと駆け寄る言霊使い
それを予測し、大穴より這い上がった魔王がカウンターの一撃を打ち込む
魔王「誰が逃げるって!」
勢いに乗る魔王、よろめく言霊使いの襟首を掴んで鉄格子目掛けて投げる
ごいん!
鉄格子に跳ね返った言霊使いを魔王の前蹴りが追撃
言霊使いの身体は再度、鉄格子目掛けて吹っ飛ぶ
ごいん!
言霊使い「ちごぐぎがぐぎがぁ~!」
もはや意味をなさない言霊使いの叫びと電撃が、魔王のいない無人の牢獄に放たれる
言霊使い「ぜぇぜぇぜぇ…」
言霊使い「落ちつけ、このままでは魔王のペース」
言霊使いは崩れた壁の破片を調べ、レンガの中に混じった聖剣の破片を見つける
言霊使い「……レンガの隙間に破片を打ち込み、あらかじめ強度を低下させていたのか」
辺りを見渡す言霊使い
言霊使い「……鎖が一本ありませんね」
言霊使い「ふむ」スッ
言霊使いが穴から右手を出すと、下から投げられた鎖が右手に巻きつく
言霊使い「ふはっ!ふははははは!!」
聖剣で鎖を斬り、言霊使いも最初の勢いを取り戻す
言霊使い「勇者?魔王?ナニを恐れていたのでしょう?」
言霊使い「しょせん魔力もなければ丸腰だと言うのに!」
言霊使い「だから今の魔王は小技に頼るしかない、一、般、人!」
言霊使い「注意深く、先手を取られなければ負ける要素はありはしな~い!」
注意深く身をのりだし、大穴をのぞき込む言霊使い
その頭上、外壁にへばりついた魔王は
魔王「・・・・」
下に意識を集中する言霊使いを上から襲いかかった
言霊使い「ふわあぁぁぁぁ~~~~?!?!」
突き落とされて牢塔から落ちる言霊使い
ぐしゃ
地面に激突して首の骨を折り即死する
魔王「二回目」
魔王も地面に着地
着地した先は城の中庭。すでに人払いをすませたおかげで人影は見えない
言霊使い「ふっ!ほっお!」
そこに骨折を修復され、息を吹き返した言霊使いの声が響く
言霊使い「隙あ~~~り!」
言霊使いの右手に魔力が凝縮、電撃に変換
それを読んでいた魔王は言霊使いの右手に鎖を投げ渡す
ぼん!
鎖から逆流した電撃をあび、感電した言霊使いの身体が跳ね飛ぶ
魔王「三回目!!」
あたりに芳ばしいにおいを漂わせた言霊使いも
足が地に着いた時には蘇生し、転ぶことなく目前の魔王に聖剣で斬りかかる
ガキン!
魔王の持つ聖剣が弾き返す
言霊使い「!?」
魔王は電撃で死亡中の言霊使いから聖剣をはぎ取っていた
はぎ取られた言霊使いは蘇生中に聖剣を補充され、そのため聖剣は二本存在したのだが
言霊使いは そこまで思考が行き着かなく、何故魔王が聖剣を持っていたかわからず混乱
魔王「四回目ぇ!!」
その隙に魔王の聖剣が言霊使いの心臓を貫く
魔王「そろそろ死んどけ!!」
魔王の叫びも虚しく
言霊使いの死体は蘇生するため、聖剣を体外に押し出し始める
聖剣を体外に押し出した言霊使いは目を覚ます
勇者「無駄です!勇者とは、永遠にぃ~~~」
魔王「フォーーアチャ!!」
ゴキッ!
魔王は言霊使いの背後に回り込むと首をねじ切る
ねじ切れ垂れ下がった首に上着を巻き絞め
いまだ首の修復中の言霊使いの死体を背中に背負うと一気に持ち上げる
魔王「詰んだぞ、クソッタレ!」
ねじれた首が上着で絞められ完全に修復されず
不完全な気道は酸素を求めて言霊使いの死体が暴れる
言霊使い「ぐっ……ぐっ……ぐっが!」
言霊使い「ごれで…がっだど……」
言霊使いは絞殺からの死亡と復活を繰り返すも
やがて根負けしたのか動かなくなる
魔王「ふぅ、まったく。死んだ後まで面倒くさい奴だ」
魔王は背負った言霊使いの死体を中庭にある太い枝に吊り下げる
魔王「これで当座はしのげるかな」
夢魔「まお~~~!!」
夢魔「死体が!死体がぁ~!」
魔王「おぅ、吊り下げたからもう安心だぞ」
夢魔「違います!うえの、牢の!」
牢獄に積まれた罪人の死体が独りでに動き、地面に落ちる
べちゃ!
地に落ちた死体の骨格は弄られ、血肉が与えられ、腰に聖剣をさしたら衣類も整えよう
新たな肉体に生気を吹き込まれ
言霊使いは復活する
言霊使い「目を見開いてご覧なさい!これこそ女神の加護!!」
言霊使い「勇者は永遠にぃ~~~
言霊使い「不滅です!!」
魔王「アンデッドじゃねえか!!」
今日はここまでです
他人の死体を流用して復活する勇者がいたとして。それはアンデッドなんでしょうかね?
言霊使い「ノン!女神の加護です!」
言霊使いは魔王に迫る
魔王「チッ」
魔王は舌打ちすると聖剣を降り下ろす
ザシュ!
言霊使い「あ~はん♪」
言霊使いは肩を深く切り裂かれるが、かまわず魔王の脇をすり抜け、枝に吊るされた言霊使いを枝から落とす
枝から落ちた言霊使いは首に巻き付いた布を剥ぎ取り、息を吹き返し
もう一方の言霊使いも肩を切り裂かれた傷を修復していく
言霊使い「死ぬかと思いました」
魔王「そこは死んどけよ」
言霊使いA「ノン!私は勇者!」
言霊使いB「我々の存在には理由があり」
夢魔「まお~後ろ!後ろ~!!」
牢獄の死体は次々と飛び降り、その肉体を言霊使いのそれへと変異させていく
言霊使いC「理由からは逃げれられません、目的も否定できるはずもない」
言霊使いD「何故なら、我々は目的なしには存在し得ないからです!」
言霊使いE「目的が我々を生み出した」
言霊使いF「我々をつなげ」
言霊使いG「行動させ」
言霊使いH「駆り立て」
言霊使いI「僕を定義し」
言霊使いJ「結び付ける」
魔王の周囲を同じ顔をした無数の言霊使いが取り囲む
言霊使い×20「魔王を殺せ!!」
夢魔「まお~がもたもたしてるからまた囲まれたじゃないですか!」
夢魔「なんです?趣味なんですか!!」
魔王「……本気でへこむから言うな」
言霊使いA「魔王をコロセー!」
魔王「テメエは黙ってろ!!」
言霊使いAと魔王の聖剣同士が激突
ガキィン!
魔王の聖剣が言霊使いAの聖剣を弾き飛ばす
が、魔王の背中を言霊使いBが無言で切り裂いた
ザシュ!
夢魔「まお~!!」
今日はこれだけ
マトリックス大好き!
神官「魔王さま!」
魔王「おまえは動くな!」
魔王は背を向けたまま背後の言霊使いBに反撃
言霊使いBがかわした隙に跳躍して距離をとる
魔王「おまえが出張った瞬間、めちゃくちゃになる」
神官「でも…」
距離をとり体勢を立て直そうとした魔王の背後
言霊使いの包囲網は魔王を逃がさず、三人の言霊使いが逆手に持った聖剣の剣先を振り下ろす
魔王「チッ」
反転して聖剣をかわそうとする魔王だが、攻撃をかわしきれずに右足を斬られてしまう
ザク、ザク、ザク
言霊使い「ふほっ!それではもう、うろちょろ出来ませんね」
夢魔「神官さま~…」
神官「わかってる。ゴーレム転送準備!!」
魔術士「準備なら出来てるわ!」
魔王「絶対にダメだ!!!」
魔王は声を張り上げる
魔王「こいつらに余を殺すつもりはない!」
魔王「昼と同じだ!余が折れ、従うまでいたぶる腹積もりでいるだけだ!!」
魔王の言葉は正しい
言霊使い達は傷付けた右足を狙って電撃を発射
言霊使い「そ~ら「逃げろ「逃げろ「逃げろ「逃げろ」
威力を最小まで抑えられた電撃が魔王をかするように狙って撃たれる
魔王「心配せずともこの程度で余は折れぬ」
神官「ですが…」
絶え間無く続く電撃
傷付き血に染まった右足を酷使し電撃を避ける魔王の姿は
傍から見ればフラついているだけにしか見えない
魔王「俺を信じろ!」
魔王「奴隷時代では先代魔王に逆らって、毎回律儀に報復リンチを受けてた俺が」
魔王「このぐらいで音をあげると……」
バキッ!
傷付いた右足が動きに耐えきれず、傷口の切れ込みに従い骨ごと折れ曲がる
魔王「うお!」
言霊使い「ふほほっ~~残念でした~♪」
バランスを崩す魔王を囲んで、言霊使い二十人全員の電撃が直撃する
魔王「ぐああぁぁぁ!!!」
電撃を浴び、白煙をあげる魔王の身体から力が抜ける
魔王「まだだ!」
聖剣を杖がわりに倒れるのを拒絶する魔王
魔王「俺は…まだ戦える!」
言霊使いP「そう、まだです」
言霊使いの足が聖剣を蹴り払い、支えを失った魔王は地に倒れ、泥にまみれる
言霊使いN「こんなものでは済まさない」
魔王の襟首を掴むと壁目掛けて投げる
魔王「がっ!」
壁にぶつかる魔王を言霊使いKの前蹴りが迫る
魔王「くっ…」
魔王は壁を掴んで強引に体を持ち上げ、前蹴りをかわす
言霊使いM「粘りますね」
かわした魔王の前方をふさぐように現れた言霊使いMが裏拳をくり出す
それを魔王は左足で拳を踏み、蹴り返す反動を利用して跳びあがって逃れる
言霊使い「ほんとーーにぃっ! 粘りますね!!」
業を煮やした言霊使いがいっせいに襲い掛かる
神官「魔王さま!!」
魔王を守護するように周囲に魔法陣が展開
魔法陣から吐き出される無数の鎖が言霊使いを押し返す
言霊使い「ぬぅ……」
神官「おひとりでは無理です……」
神官「何を心配しているかは分かりませんが、ゴーレムの増援を転送します」
魔王「やめろ、神官!」
魔王「今ゴーレムを出せば戦争になる!大虐殺の引き金を引く気か!!」
神官「ぎゃくさつ?」
魔王「……こいつらが厄介なのは死体を利用して増えることじゃない」
魔王「〝死体が足りなくなれば、ためらいもせず死体を補充することだ〟」
魔王「必要と判断したら街ひとつ、眉も動かさずに皆殺しにする!」
魔王「それが勇者だ!!」
今日はここまでです
おやすみなさい
魔王「無論、余の目が黒いうちは虐殺などやらせんがな!」
魔王は拾った枝を折れた右足の添え木にすると
それを神官が鎖を巻き付けて簡単な応急措置を施す
魔王「俺を信じろ!勝算がある」
言霊使い「勝算などっ!どこにあるとぉ~!」
取り囲んだ言霊使いは聖剣で前方をふさぐ鎖を薙ぎ払うと魔王に斬りかかる
が、魔王は空から垂れた鎖を掴むと、鎖はいち早く巻き上がり
魔王を上空へと浮き上げる
神官「せめて魔力を補給してください」
魔王「それでは奴の心が折れない!」
魔王は鎖にぶら下がった状態のまま壁を走り、電撃を避けるように跳び
言霊使いの包囲網の外へと脱出する
言霊使いN「誰の心が折れるってぇぇ~~!!」
着地した魔王目掛けて襲い来る言霊使いの聖剣と
迎え討つ魔王の聖剣がぶつかり合う
ガキンッ!
魔王「重要なのは同じ土俵に立つこと」
鍔迫り、睨み合う両者ともに一歩たりとも引く気配を見せない
魔王「正々堂々、格の違いを叩きつけ」
数秒の膠着の結果、魔王の聖剣が言霊使いの聖剣を押し返す
魔王「数を増やすだけでは到底かなわぬ存在だと懇切丁寧に教えてやり」
魔王の側面から迫る言霊使いLを鎖で重量感を増した右足で蹴り飛ばし
魔王「泣くほどいたぶってお帰りいただこう」
魔王は挑発的に口角を吊り上げて笑ってみせる
言霊使い「やぁってみろぉぉぉ~~~~!!!」
電撃が使い魔を撃ち抜き
神官とを繋ぐコウモリ型使い魔は落下し消滅する
魔王「急かすなよ、この勝負どう転ぼうと……」
魔王「最後は貴様の勝ちなのだから」
言霊使い「ふほっ!「ふほっ「ふほっ「ふほっ「ふっほぉ~!」
言霊使いT「あったりまえだぁぁ!!」
言霊使いTの斬撃を魔王は聖剣で受け止め
言霊使いSが上空から襲い掛かってくるのを横に跳んでかわし
言霊使いQが横に回り込み、聖剣の刺突を首をひねって避け
言霊使いPから放たれた電撃を掴み投げた言霊使いOに誘爆させ
言霊使いNが背後に回り込もうとするのを牽制して阻止する
ひとつひとつの攻撃の致命傷は巧みに避けるが、避けきれない攻撃も徐々に増えていき
そしてそれは攻撃を受ければ受ける程その頻度は増していく
それがやがて魔王の足を鈍らせ
逃げ場のない隅へと魔王を追い詰めることになる
魔王「はぁ…はぁ…はぁ…」
言霊使いM「ふふ…、ここでひとつ訂正があります♪」
二十人の言霊使いの右手にこれまでで最大級の魔力が凝縮、電撃に変換する
言霊使いA「魔王……」
言霊使い×20「僕は貴方を殺せます!!」
言霊使いA「貴方を殺し」
言霊使いB「貴方の死体から内臓を取り除き」
言霊使いC「貴方の鼻から脳味噌を掻き出したら」
言霊使いD「残った肉体に防腐処理を施し」
言霊使いE「出来た屍を僕が着込んで」
言霊使いF「君の役目を引き継いであげるましょう」
言霊使いG「とぉっても楽しみだよ♪」
言霊使いH「酒場で仲間を集めて」
言霊使いI「今度こそ僕が冒険の旅に出るんだから♪」
言霊使いJ「なんて素晴らしいことでしょう!!」
言霊使いK「だってこれが最初の筋書き」
言霊使いL「正しい脚本」
言霊使いM「希望の星☆」
言霊使いN「私が勇者だ!」
魔王「くっくっくっ……」
魔王の体から力が抜け、背後の壁に背中をあずける
魔王「見事だ…。余も自身の敗北を認めよう」
言霊使いO「それでいい!」
言霊使いP「魔王は勇者に倒される!」
言霊使いQ「それが運命!!!」
二十人の言霊使いは電撃を放ち
中庭をまばゆい純白の光が包み込む
神官「魔王さま!!」
上空に展開した魔法陣から新しい使い魔が飛び出す
夢魔「まお~まだ生きてますか!」
光に目がくらみながらも神官達は魔王の無事を確認出来るまで何度も名を呼び続ける
オーガ「魔王!」
コボルト「ご主人!」
ゴブリン「嘘だろ…」
夢魔「まお~返事してください!!」
…やがて、光は弱まり
二十人分もの電撃を切り裂いた閃光は薄れていく
だが、聖剣は依然として力強く輝き
光輝く聖剣を手首で軽く回すと
魔王は聖剣を構える
魔王「くっくっくっ…」
魔王「はぁ~はっはっはぁ~!」
魔王「勇者よ、胸を張れ」
魔王「この勝負…。魔王の矜持を捨てさせ、聖剣を使わせた」
魔王「貴様の勝ちだ!」
今日はここまでです
神官「魔王さま!!」
上空に展開した魔法陣から新しい使い魔が飛び出す
夢魔「まお~まだ生きてますか!」
光に目がくらみながらも神官達は魔王の無事を確認出来るまで何度も名を呼び続ける
オーガ「魔王!」
コボルト「ご主人!」
ゴブリン「嘘だろ…」
夢魔「まお~返事してください!!」
…やがて、光は弱まり
二十人分もの電撃を切り裂いた閃光は薄れていく
だが、聖剣は依然として力強く輝き
光輝く聖剣を手首で軽く回すと
魔王は聖剣を構える
魔王「勇者よ、胸を張れ」
魔王「この勝負…。魔王の矜持を捨てさせ、聖剣を使わせた」
魔王「貴様の勝ちだ!」
言霊使い「勝ち!?」
二十人の言霊使いは魔王を取り囲み。光輝かない聖剣を構える
言霊使い「これを勝ちと言いましたか!」
魔王「ああ、魔王でありながら聖剣に頼るなどと魔王にあるまじき醜態」
言葉とは裏腹に口元に笑みが広がる
魔王「恥ずかしくて死にそうだ」
言霊使い「認められるかぁ~~!!」
五人の言霊使いが飛び出し五本の聖剣の五つの剣閃が魔王を襲う
しかし言霊使いの聖剣は光輝くことはなく
対象的に魔王の聖剣は輝きを増す
そして光の斬撃は五人の言霊使いを呑み込み、存在ごと消し去る
魔王「さあ、これで同じ土俵だ!宣言通り教えてやるよ」
魔王「勇者としても格が違うってことをな」
言霊使い「認められるかぁぁ~!」
言霊使いが放った電撃を、魔王は聖剣から湧き出す光を盾のように広げて防ぐ
言霊使い「返せ!」
言霊使い「聖剣になにか秘密があるんだ…そうだ、そうに違いない」
言霊使い「魔王の…その聖剣なら……」
魔王「くっくっくっ…都合悪けりゃ道具のせいか?」
魔王「だッせえな」
言霊使い「いいから返せ!!!」
ボ コ ッ!
突如として中庭の地面がひび割れ
地中に埋もれていた亡者は腕を突きだす
魔王「!??」
亡者の腕が魔王の足を掴もうとするのを
魔王は高く跳躍して空中の魔法陣に掴まり亡者の腕から逃れる
亡者「か゛え゛せ゛ぇ゛」
地中から這い出た亡者は単独ではなく複数
埋まった時期は異なるようで腐りきった者から死にたてまで様々な亡者達は
みな等しく
言霊使いに姿を変える
言霊使い『返せ!』
中庭の地中に埋められていた亡者達は
地上に這い上がり言霊使いとなって中庭を埋める
言霊使い×200『私が勇者だ!!』
魔王「神官!城内に退避だ!」
神官「はい!」
神官は魔王の意図を瞬時に理解し魔法陣で城内までの道を作る
魔王は魔法陣の上を走り抜け
窓ガラスを割って城内に侵入する
ガッシャーーン!
ガッシャーーン!
窓ガラスを割って城内に侵入した魔王は床を転がり片膝をつく
衛兵A「勇者さま!?」
衛兵B「今の音は何事ですか~?」
衛兵がガラスの割れる音を聞きつけ、通路奥から飛び出して来る
魔王「取り込み中だ!こっちくんな!」
衛兵AB「「知ってま~~す!」」
中庭を警戒中の魔王目掛けて
衛兵ふたりは背後から槍を突き刺す
ザンッ!
魔王「!?!??」
殺気を感じ背後からの槍を寸前でかわす魔王
衛兵は槍を寸前でかわされ
先ほどまで生前と変わらない生活を続けてきた〝衛兵の死体〟は
言霊使いとなって魔王に襲い掛かる
ザンッ!ドスドス!
言霊使い「びっくりしました?」
魔王「いいや、昼の騒ぎに城の人間が無関心だった時から予感はあった」
言霊使い「おやおや?それじゃあ出し惜しみは無しで」
ト゛ト゛ト゛ト゛ト゛ト゛ト゛ト゛ト゛
多勢大勢の靴音が鳴り響き
城内に詰めている死体達が魔王を目指して大移動を開始する
ト゛ト゛ト゛ト゛ト゛ト゛ト゛ト゛ト゛
城内に残る衛兵、その全てが死者であり
死者たる衛兵は地響きを鳴らして魔王の許へと押し寄せる
衛兵「勇者さまーー!!」
魔王「また悪趣味な…」
魔王は呆れたように呟くと、聖剣を腰だめに構えて濁流と化した衛兵の群れを目掛けて投げつける
スパ、スパ、スパッ!
投げた聖剣は何人かの衛兵を切り裂くが。押し寄せる大量の衛兵の前では焼け石に水、衛兵の突撃を止めることは出来ない
言霊使い「勇者さまーー!!」
勢いに乗る衛兵は言霊使いに姿を変え、さらにその勢いを増す
魔王「チッ…面倒なことになった」
神官「魔王さまがむやみにケンカを売るからです」
魔王「何を言うかと思えば、余ほど荒事と無縁でありたいと願う人間は珍しいと言うのに」
ふたりの言霊使いが聖剣で斬りかかるのを魔王はその手首を掴み
言霊使いを振り回してから濁流目掛けて放り投げ、奪い取った二本の聖剣を両手に一本ずつ構える
魔王「だが、これだけ見事に買われたら、買ったことを後悔させてやりたいと思って当然だよな?」
神官「売った自覚はあるんですね…」
魔王「くっくっ、まあな」
魔王は言霊使いの濁流の中に飛び込む
魔王「はあぁぁぁぁ!!!」
ザバッシュ!!
魔王の持つ聖剣から光の斬撃が伸び言霊使いの濁流をふたつに割る
言霊使い「!!??」
魔王「でやあぁぁぁぁ!!!」
二太刀目の斬撃が縦から横へ
言霊使いの群れを四分割する
言霊使い「それがどうしたぁ!」
斬り損ねた言霊使いは依然として多く、魔王に襲い掛かる
言霊使い「こっちもいるぞぉ!」
中庭から城内に入り込んだ言霊使いも合流する
言霊使い「まだまだいるぞぉ!」
通路奥から続々と集まる言霊使いも延々と混ざり込む
言霊使い「まだまだまだまだ」
魔王は巧みに二刀の聖剣を奮い、独楽のように回転し周囲を埋め尽くす言霊使い達を次々と斬り倒していく
魔王「どんだけいるんだ!?」
斬られて無惨な屍をさらす言霊使いの残骸
その残骸、骨肉片の一掴み分さえあれば言霊使いは完全に復元し、戦列に復帰する
言霊使い「そうっれ!!」
言霊使い「まだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだまだ」
言霊使い「まだです!」
魔王目掛けて飛びかかる言霊使い
ザン!
魔王の斬撃がその下半身を吹き飛ばし
残りの上半身は地面に落下
言霊使い「しゅたっ!」
言霊使いの千切れた上半身に新たに生えた足で着地すると、再度魔王目掛けて飛びかかる
言霊使い「まだ絶望してはいけません」
魔王「絶望する前提で話すの止めろ!」
魔王は回転速度を増やし光の渦が言霊使いを切り刻む
言霊使い「そろそろ見せていただけますか?勇者としての格の違いとやらをね!!」
魔王「なんだ?気にしてたのか」
魔王は聖剣を縦横無尽に奮い、天井を斬り裂く
…ガコッ!
切れ目の入った天井は崩落し、言霊使いの頭上に落ちる
言霊使い「この程度!」
言霊使いは魔王への攻撃を中断し、電撃で瓦礫を吹き飛ばす
言霊使い「見たか、勇者にしか扱うことを赦されない電撃魔法のこの威力!」
魔王「そうだな、貴様にも勇者の見込みはちゃんとある」
魔王は二本の聖剣を床に突き刺す
魔王「多勢に無勢を恥とも思わない姿勢とかな」
言霊使い「黙らっしゃい!!」
広い通路に詰めこんだ多勢の言霊使いは無勢な魔王への攻撃を再開し、襲い掛かる
だが、すでに遅い
多勢で無能な言霊使いは魔王の狙い通りに攻撃を中断して
結果、一手遅れる
魔王「くっくっくっ…」
魔王は床に二本の聖剣を突き刺したまま回転
厚みのある床を切り抜き、くり貫いた床ごと地下に落下
言霊使い「うおおぉぉぉぉ!!!」
魔王のあけた穴へ追いすがるように言霊使いが殺到
言霊使い「逃ぃ~が~す~かぁぁぁ~~~!!」
我先にと小さな穴に突進して数十人が肉体を潰しあいながら奥に潜る
言霊使い「おっ?おっ?これは…」
無能は穴に潜ったまま詰まって動けなくなる
言霊使い「これで逃げられると思うな、魔王!」
言霊使い「おまえは逃げた先で我等の真の恐怖を知ることになる!!」
魔王「さて、とりあえず難は逃れたがどうするか」
床をくり貫き地下へと落ちた先は通路になっているが、それ以上は暗闇の中ではわからない
魔王「神官、明かりをくれ」
魔王の頭に白ネズミの使い魔が乗っかる
白ネズミ「わかったチュ♪」
魔王の足下に小さな魔法陣が浮き、その中から白ネズミの使い魔が続々と駆け出し
白ネズミの背に塗られた光ゴケが地下通路を仄かに照らす
魔王「思ったよりかなり広いな…。使い魔で出口探すの協力してくれ」
白ネズミ「探索ちゅうっチュ♪」
魔王「貯蔵庫…、ではないか。普段は何に使ってるんだ?」
白ネズミ「知らないチュ~♪」
魔王「……神官さん?」
神官「あ、いえ…お疲れのようでしたので明るくしたら元気でるかなって……」
神官「変、ですか?」
魔王「あ~…うん、まあ、いいんじゃないか?」
白ネズミ「えへへ~チュッチュッチュ~♪」ペチペチ
魔王「頭を叩くな」
コウモリ「まお~!どこですか~?」
コウモリ「まお~!まおまお~!」パタパタ
魔王「あれ、夢魔の使い魔だよな?」
神官「ええ、さっき夢魔ちゃんが地上から入り口見つけたんですよ」
魔王「どこだ?」
神官「ふふ、夢魔ちゃんから直接聞いてあげてください」
魔王「それもそうか……、お~~い夢魔!」
コウモリ「あっ魔王♪」
魔王「こっちだこっち!」
コウモリ「まお~♪」パタパタ
魔王「は~い♪」
コウモリ「羽アターーック!!」
ベチーン!
魔王「うぶぁ!」
夢魔「う~う~う~!」
魔王「え?え?何故に羽ビンタ?」
夢魔「なんで置いてくんですか~!」
夢魔「あいつら殺気だってて怖かったんですからね!」ベチベチ
魔王「ただの使い捨ての使い魔に感情移入しすぎだろ」
夢魔「見つからないよう物影に隠れてじっとして~!」
神官「ちなみに、夢魔ちゃん本人はわたしの膝の上にいます」
魔王「だよな!怖いなら使い魔放棄しろよ」
夢魔「謝って!」
魔王「はぁ?」
夢魔「置いてきぼりしてごめんなさいは?」ペシペシ
神官「そ~だそ~だ♪怖いけど頑張って入り口探したんだぞ~」ペシペシ
魔王「はぁ…、頭を叩くな…」
魔王「ふん、アホらしい。出口ぐらい自分で探せる」
夢魔「あっ!そこ穴になってますから気をつけてくださいね」
魔王「え?」
夢魔の言葉通り、通路を抜けた先は巨大な空洞がぽっかりと開いていた
魔王「でかいな…」
幅広い縦穴の底は深く、地下五階相当の縦穴に魔王が歩いてきた通路と同様の横穴が無数にある
魔王「この広さ…。中庭の下がそのまま空洞になってるのか?」
神官「そうですね。底まで送った使い魔が調べてみましたが現在も拡張中のようです」
魔王「何の為に?」
神官「さあ?」
夢魔「くっくっく~!この中のどれかが出口ですけど~」
夢魔「自力で探せるんですよね~♪」
魔王「わかった。降参だ」
夢魔「つ~ん! せーしんせーい謝らないと教えてあげません」
魔王「置き去りにしてすみませんでした」
夢魔「反省してます?」
魔王「反省してます」
夢魔「もうかってにどっかいっちゃだめですからね?」
魔王「わかりました」
夢魔「もっとちゃんと言葉にしてください!」
魔王「もうこれからは独りにしません」
夢魔「録画しました」●REC
魔王「おい!?」
神官「良くできました」
魔王「おい!言質とか言うんじゃないだろうな!!」
神官「言うよ?」
神官「目の前で何度も再生して勝手な行動したらその度に鎖で縛りつけるよ?」
魔王「怖い怖い怖い怖い!!」
魔王「怖いからここからはやく出ましょう」
夢魔「出口は穴をぐるって回った反対側です」
魔王「はぁ…、けっこう歩くな」
夢魔「もしかして、歩くのつらい?折れた足痛いんですか?」
魔王「心配するな。足ならとっくに治った」
夢魔「まお~の『心配するな』は やせ我慢してるだけです」
魔王「・・・・」
夢魔「ん?急に黙ってどうしました?」
魔王「いや、おまえは可愛いやつだよ、実際な」ナデナデ
夢魔「お?お~…えへへ」
魔王「くっくっ、見てみろ。骨もくっついたし足に傷跡すら残ってない」
夢魔「……相変わらずやけに頑丈ですね」
魔王「邪神の加護ってやつだろうな…」
魔王「結局……」
魔王は手にした聖剣に目線を落とす
魔王「今日の収穫は邪神の力でも聖剣が使えたってことか」
夢魔「大収穫じゃないですか!!」
夢魔「まお~も首切られても生えてくるんです?」
魔王「そんな期待に満ちた声で言われても困るが」
魔王「無理だからな!」
夢魔「え~」
魔王「ただの自己治癒力の強化だ」
魔王「首どころか手足も生えん」
夢魔「きっと信仰心が足りないんです!」
夢魔「神官さまに礼拝誘われたのに無視してるからです!」
魔王「俺が神に祈ることはないよ、絶対な」
夢魔「そんなのダメです!」
夢魔「なんと言ったって祈りが神さまの力の源なんですから」
魔王「あ~はいはい、こっから出たらな」
夢魔「絶対?」
魔王「これから出て、覚えてたらな」
夢魔「くっくっく~ならちょうどいいです」
魔王「どういう意味だ?」
夢魔「入り口あったの礼拝堂なんです♪」
魔王「そうか、礼拝堂にな…。よく見つけたな」
夢魔「えへへ~♪ でも気を引き締めてくださいね、言霊使いでいっぱいです」
魔王「あ~そっか~うえ、礼拝堂か~」
夢魔「どうやら鍵なくしちゃて礼拝堂に入れないみたいですから、今のうちに行きましょう」
魔王「はぁ…」
夢魔「どうしました?お祈り、そんなイヤ?」
魔王「祈りはともかく」
魔王「ここが〝アレ〟だと気付いてな」
夢魔「まお~はここが何かわかったんです?」
魔王「食料庫でいいと思う」
夢魔「通路に並んだ長い箱の中食べ物なんです?」
魔王「そう備蓄食料な」
夢魔「開けていい?」
魔王「夢に出るから止めとけ」
神官「魔王さま…わたしも分かりました」
夢魔「わかったんです?じゃあじゃあ」
夢魔「なんでこの箱には名前書いてあるんです?」
魔王「生産者だな」
神官「確かに生産者ですが…」
夢魔「じゃあ、この数字なんです?ふたつありますけど」
魔王「製造年数と消費期限」
神官「これなんか千年前に製造したものになりますね」
夢魔「腐っちゃってます!!」
魔王「品質管理がずさんなんだろ」
神官「魔王さま…」
魔王「なんだよ!現実逃避ぐらいしたっていいだろ!」
魔王「そ~だよ、ここは……」
魔王「〝地下墓地〟だよ!文句あっか!!」
そう、ここは地下墓地
この地で最期を迎えた人間を、千年かけて集めた場所
納めきれなくなるたび掘り直した為に底は深く
無数に枝分かれした通路には敷き詰めるように棺が安置される
言霊使い「その数、八百万」
八百万の棺に眠れし死者が肉体を変え
言霊使いは内側から蓋をこじ開ける
魔王「神官!どう考えても不味い、最短ルートで突っ切るぞ!」
神官「わかりました!」
魔王は縦穴に飛び込み、魔法陣の足場を突き進む
それを遠巻きに見つめる多勢の視線
言霊使い「おはようございま~す」
棺から起き上がった言霊使いは鞘から聖剣を抜き
言霊使い「さ~それでは元気にさっそく!」
ザクッ
言霊使いは自らの首を切り落とし
残った胴体が自らの生首を魔王めがけて投げつける
神官「魔王さま!うしろ!!」
魔王「わかってるよ!」
空を飛ぶ生首に魔王がまわし蹴りを叩き込む
言霊使い「キャッチ、ユー」
生首から生えた言霊使いの腕が、脚が、胴体が魔王の蹴り足に絡みつく
魔王「き、きめ~え!!」
両者はもつれ合い、魔法陣から足を踏み外して縦穴を落下
縦穴の中間、三階の通路にしがみつく
魔王「夢魔!祈りはやっぱり無しだ!」
魔王「俺もまだ、人間辞めたくないんでな!!」
絡みつく言霊使いを引き剥がし
言霊使いめがけて聖剣を振り下ろす
ガ キ ン !!
魔王の斬撃を、言霊使いの電撃の魔法剣が真っ向から受け止める
言霊使い「我らが守りし聖殿へようこそ」
言霊使い「魔王、あなたの来訪により我らも第二フェイズへと移行する」
今日はここまでです
二章開始前のおまけなのに風呂敷広げすぎた気がする
生存報告です
シンゴジラ良かったから最終進化した言霊使いは熱線出させる!
地下墓地に眠りし死者は次々と目を覚まし
息を吹きかえした亡者は棺の中で息を殺す
死者「第二フェイズ!」
亡者「第二フェイズ?」
言霊使い「第二フェ~イズ」
青白い電光を発する言霊使いの聖剣
対する魔王の聖剣は純白に光り輝き
激しくぶつかる二本の聖剣を挟んで、ふたりの勇者は対峙する
言霊使い「警告も、注意も、助言も、懇願もすでにしたはず」
ガシャン!
力比べは言霊使いが少しだけ押し始め
言霊使い「この世界は女神のための舞台であり」
言霊使い「まさにいま!勇者が魔王を倒す英雄譚が演じられている」
ガシャン!
魔王「くっ!」
耐えきれない魔王は遂に膝をつく
言霊使い「奴隷あがりの魔王なんぞお呼びじゃないんだよ」
言霊使い「人畜無害な魔王軍とか冗談じゃない!」
ガシャン!
さらに押された魔王の肩に聖剣がめり込む
言霊使い「偉大な勇者にはそれに匹敵する巨大な魔王こそが相応しい」
だから我々は何度でも用意する
言霊使い「二千万の魔獣を率いた聖王国」
言霊使い「大地をも喰い荒らした軍事国家」
言霊使い「あなたが滅ぼしたふたつの国を遥かに凌駕する魔王をこの地に」
言霊使い「〝第四〟に至りて」
言霊使い「最強最悪の魔王をこの地に!!」
言霊使い「稲穂のように生者を刈り取り」
言霊使い「おが屑のように限りない不死者の軍勢を率いる魔王を」
ガシャン!
魔王「ぐう…」
めり込んだ刃が魔王の鎖骨を砕き、肉をも切り裂く
夢魔「まお~!」
言霊使い「森羅万象言霊より誕生する」
神官「魔王さま!」
言霊使い「だからお探しの天使の名前を教えましょう」
言霊使い「勇者が旅立つに相応しい、世界を滅ぼす魔王の名前を教えましょう」
この世は舞台
この物語の主役は自分だと、疑問も持たずに見得を切る
言霊使い「その名は〝屍人使い〟」
今日はここまでです
聖王国、軍事国家は>>14-15でさらっと伏線はっとりました
熱線は半分冗談です
言霊使いは電撃系なんでゾイドの荷電粒子砲とか好きですぬ
保守
~ 半年前 聖王国 ~
ここは魔王の侵攻により最初に滅んだとされる国
聖王「やべえよ、ほんとやべえよ」
大臣「聖王さま、少し落ちつかれては」
聖王「あん?どうやって落ちつけって!」
その日、聖王は夢の中に現れた天使より神託を受け
聖王より神託を伝え聞いた信徒達は列をなして詰めかけていた
聖王「出てこいや!日がくれっぞ! くそ天使さんよ!!」
聖王「これじゃ俺様 赤っ恥じゃねえか!」
大臣「やはり…。ただの夢だったのでは?」
聖王「あぁん! てめえも珍しく乗り気だった癖によ!」
大臣「では、もしもの時はわたくしにすべてお任せください」
聖王「マジか!やっぱ頼りんなるわ」
聖王兵「せ、せ、せ、聖王さま!!」
聖王「来たか!」
聖王兵「はっ! 城門広場上空にて天使がお出でになられました!」
大臣「ふぁ!?それじゃあ聖王の責任問題からの政治の実権握る計画まる潰れじゃん!」
聖王「は?」
大臣「嘘だ!この目で見るまで信じぬ」バッ
聖王「おい!反逆者だ捕まえろ!」
魔王の侵攻によりひとりの生存者を残さず滅んだ国
聖王国に集まった信徒は天使の降臨に熱狂し
天使はその様子を上空より見下ろす
天使「重畳、重畳。思ったよりも多いな」
信徒A「おお、天使さまだ」
信徒B「嘘だと思ったら本当に来やがった」
信徒C「あぁ…私たちを導いてくださいませ」
聖王「見たか見たか?俺様はいつも正しい」
大臣「ぐぬぬ」
天使「おお、聖王よ。よくぞこれだけの人数をそろえた」
大臣「よし、だめだ逃げよう」
聖王「へっへ~♪逃がすかよ」
天使「これはもしもの時の保険であったが、この人数であれば存分に面目も立つと言うもの」
聖王「あ?保険?」
天使「さよう、脚本に狂いが出ては申し訳ないからな」
聖王「何言ってんだ?」
聖王の問いに天使は応えず、眼下の信徒の群れに告げる
天使「聴け!この場に集いし殉教者達よ!!」
天使「不幸にも地上を支配しようとした魔王は名もなき奴隷に破れた!」
天使「四年の歳月をかけ編成された魔王の軍勢は壊滅」
天使「最早、地上侵攻は実現不可能にいたった」
聖王兵「えっと…」
大臣「それは良いことでは?」
聖王「天使よ、何を言っている?」
天使「だが安心してくれ言霊使い」
地表がひび割れ、そこから瘴気が噴き出す
天使「魔王の代役は、私が立派に果してみせよう」
噴き出す瘴気は聖王国を満たしていき
吸い込んだ信徒の中から次々と異変を訴える声が出始める
信徒A「嘘だろ?」
信徒B「俺の腕が!」
信徒C「いやぁ~バケモノ!!」
信徒はその姿を次々と魔獣にと変わる
天使「我が二つ名は〝魔獣使い〟」
魔獣使い「現在、第二フェイズを完了」
魔獣使い「まもなく二千万からの魔獣を主軸とした新しい魔王軍が誕生する」
聖王「天使よ、どういうことだ!」
魔獣使い「おお、聖王よ。重て感謝しよう」
魔獣使い「突発的なアクシデントだったが、無事に穴埋め出来た」
聖王「ちったぁ、説明しろや!」
大臣「どけ!聖王!」
聖王兵A「撃ちまくれ!!」
聖王兵B「前、黒い霧で見えねえ!」
聖王「かまわねえから撃っちまえ」
魔獣使い「愚かな」
銃座を構える聖王兵達に向かって、瘴気の中から魔獣が襲いかかる
魔獣「逃げてぇ~~!!」
グチャ、ペチャ、クチャクチャ
「あ、あたし人を食べてる…」
魔獣使い「くれぐれも殺すんじゃないぞ」
魔獣使い「そいつらもじきに魔獣に変わる」
「体が勝手に動いて止められない」
「せめて意識を失えば楽になるのに…」
「どうして?どうして心だけヒトとしての意思を残したの!」
魔獣使い「それは、天意である」
魔獣(元聖王)「天意だと?」
魔獣使い「神は、自らに届く祈りの声が減るのを好まれぬ」
魔獣使い「怨むなかれ」「憎むなかれ」「呪うなかれ」
魔獣使い「 神 に 祈 り を !!」
魔獣使い「祈りこそ、愛!!」
魔獣使い「我が声に応え、集いし気高き殉教者達よ!信仰を絶やすなかれ」
魔獣使い「村町国を襲い、田畑を焼き、人肉を食い散らかしてなお」
魔獣使い「変わらぬ愛を!」
魔獣使い「これより第三フェイズ『魔王の侵攻』を開始する!!」
「いやぁ~」「許してくれぇ」「助けて」「お慈悲を」
魔獣使い「未来永劫に続く阿鼻叫喚、断末魔の祈りを女神に」
魔獣使い「お聞きください!」
魔獣使いは空を見上げ、両手を拡げる
魔獣使い「世界は愛で満ちてます!!」
「聞くだけか?」
魔獣使い「なに?」
見上げた空から落ちて来た魔槍が、魔獣使いの顔面を貫く
魔獣使い「ぐおぉぉぉ!!!」
奴隷(のちの魔王)「叶えてやれよ、ケチ臭い」
奴隷「よう天使、ずいぶん楽しそうじゃないか」
魔獣使い「この、奴隷ふぜいが!!」
奴隷「俺も晴れて自由の身だ。いつまでも奴隷と呼ぶな」
魔獣使い「魔獣ども、八つ裂きにしろ!!」
魔獣使いの号令のもと、魔獣が一斉に襲いかかる
奴隷「ゴーレーム!」
それを、空から降ってきた鉄塊が押し潰す
グシャ!
魔獣「ありがとう…」
奴隷「・・・・」
神官『奴隷さま?』
奴隷「神官、ゴーレムをすべて投下しろ。魔獣一体も逃がすな!」
神官『は、はい!』
奴隷「頼むぞ、こうなっては戻れないまでも人を殺める前に死なせてやれ」
神官『奴隷さまはどうするつもりですか?』
奴隷「俺か?」
ゴーレムの攻撃をすり抜けた魔獣が襲い来るのを
影から伸ばした使い魔の腕が捕縛し、影の中に強引に引きづりこむ
奴隷「ちょっとそこまで宣戦布告してくる」
具現化した魔槍で襲いかかる魔獣を切り伏せ
魔獣使いと対峙
魔獣使い「この、魔獣の群れが誰のせいか解るか?」
魔獣使い「これはすべて、貴様が脚本通りに進行しなかったせいだ」
奴隷「何を言う。クソつまらん脚本を変えてやった、この親切心が分からんか?」
魔獣使い「奴隷ごときが! 勇者の脚本に不服を言うな!!」
魔獣使いは鞭をとりだし、空高い上空から地面に打ちつける
奴隷「だから、奴隷と呼ぶなと言ったはずだ」
蛇のようにうねる鞭を片手で掴み、跳躍
魔獣使いまで一気に距離をつめる
魔獣使い「お?」
呆ける魔獣使いの腹に魔槍を突き刺し、
つけたばかりの新たな名を教えてやる
魔王「俺が魔王だ!」
それから半年…
聖王国の滅亡より半年、辺境の薄暗い地下墓地で
肩にめり込む聖剣を押し返し、魔王は叫ぶ
魔王「俺が魔王だ!」
言霊使いの胸に魔王は聖剣を突き刺さす
言霊使い「いいぞ、私ごと射て」
奥からのぞきこむ無数の言霊使いが魔力を電撃に変換
避けようとした魔王の腕を、聖剣を刺された言霊使いが掴む
言霊使い「ふほっ、魔王と言えども数には勝てない」
魔王「そうか?質が悪いとたいへんだな」
言霊使い「死ね!」
無数の言霊使いが魔王を取り囲み、一斉に電撃を放つ
魔王「質は大切だぞ」
電撃は魔王に当たる直前で霧散
魔王が電撃を強制的に魔力に再変換し、霧散した魔力を利用して火球を作り出す
魔王「な? 大切だろ?」
言霊使い「くわっ!?」
放たれた火球が言霊使いを焼き、爆風に地下墓地が震える
爆風に吹き飛ばされた魔王は縦穴内を落下
神官の展開した魔法陣を足場に出口を目指す
魔王「神官! 上で動きがあれば、こちらは気にせずゴーレムを投下しろ!」
神官「それでは戦争になると…」
魔王「だからさ、魔王の侵攻は」
魔王「全力で阻止する!!」
夢魔「あぶない!!」
火球で焦がれた屍人は死屍累々と連結し、触手になって魔王を襲う
言霊使い「 第 三 フ ェ イ ズ !」
伸びた触手は魔王を捕まえ、縦穴を突っ切り壁に魔王を叩きつける
魔王「がはっ!」
地下墓地に掘られた墓穴代わりの横穴から無数の触手が飛び出し
その鋭利な先端を魔王へと向ける
言霊使い「これより『魔王の侵攻』を開始する」
今日はここまでです
いきなり場面が変わって分かりづらくて申し訳ない
最悪はこうなるというのを見せないと伝わらないと思っていれました
魔王「させるか!」
魔王は触手を切り落とし自由になると
頭に乗っかった白ネズミを掴む
魔王「神官」
白ネズミ「チュ?」
神官の使い魔は雑な扱いにも不平をもらさず
魔王「行ってこい!」
襲いかかる触手めがけて投げられる
白ネズミ「チュ~~!!」
放り投げられたネズミは破裂すると白い冷気をあたりに放出
冷気を浴びた触手が一瞬で凍りつく
魔王「よし、効いた!」
魔王は凍りついた触手に飛び乗り、一気に駆け上がる
魔王「夢魔! ここを出るから案内しろ!」
夢魔「なにか企んでません?」
魔王「人聞きの悪い。 国王からの頼まれ事をやりに行くだけだ」
凍った触手を叩き割り、抜き取った鞘を腰にさす
魔王「邪悪な魔王に聖剣突き刺し」
魔王「世界を平和にしてくれってさ!」
言霊使い「させるかぁ!!」
言霊使いは触手に電撃を流し、その熱で氷を溶かす
言霊使い「それは、僕の役目だ!」
触手は魔王を空中に投げ出し、再び狙いを魔王に定める
魔王「ずいぶんイカした姿だな! いっかい皆にも見せてやれ!」
言霊使い「そうだ!僕は勇者!!」
触手の根本から言霊使いが蟻のように群がり
触手はさらに太くなる
触手「人間ふぜいはありがたがってりゃいいんだよ!!」
再び触手の襲撃
魔王「残念だが、俺は人間じゃない」
魔王は聖剣を鞘に納め
体を丸めると、居合いの動作から繰り出した斬撃が触手を事もなく寸断する
夢魔「まお~」
魔王「ん?どうした?」
夢魔「ん…」
いくら待っても夢魔の言葉は続かず、その様子に魔王は笑う
魔王「大丈夫、心配するな」
寸断された触手がほどけて空中に散らばるのを
魔王は、まとめて聖剣で切り裂く
魔王「俺は生きた人間を頭から股まで切り裂く残虐な魔王だ」
魔王「俺の通った後には無惨な死体だけが残ることになる」
魔王「これぐらい、いつものことだろ?」
魔王は向かって来る触手を片手でさばき、背中を蹴ると通路に着地
夢魔「え~…でも~、まお~はいっつもそう言うじゃないですか~♪」
魔王「あったりまえだ!」
魔王は通路を疾走。加速すると触手の追撃を振り切り
壁を斜めに駆け抜け出口を目指す
魔王「祈りを叶える側が泣き言言ってりゃ、世話ないだろ」
夢魔「へへ~」
夢魔「じゃあ神官さまと仲直りして~って祈ったら♪」
魔王「それは無理」
夢魔「え~」
言霊使い「なにを、こそこそ……」
地下墓地の底は言霊使いが詰まるほどに充満
集積した地層から触手が屹立
それはさらに固く、ふとましく
言霊使い「ぼくを交ぜろ!!」
隆起した触手はさらにさらに言霊使いを取り込み
大蛇の様相で聖剣の牙を剥く
大蛇「逃がさん!!」
大蛇は這うように壁を登り、魔王を通りすぎ出口に頭から突っ込む
ドガッ!!
ガラガラガラ!!!
大蛇の体当たりで天井が崩れ、瓦礫で出口が埋まる
大蛇「これでもう逃げられない」
魔王「逃げる?」
魔王「逃げるのは勇者と相場は決まっているだろ?」
魔王は首をかしげる
魔王「状況をのみ込めてないようなので説明してやろう」
魔王「余はこれから城の奥深くに潜む 敵の首魁、屍人使いを討ち取り」
魔王「立ちはだかる不死者の軍勢を土へと返す」
魔王「貴様に言われるまでもなく、すでに魔王の侵攻は始まっているものと知れ」
夢魔「勇者なの?」
魔王「勇者なら目の前だ」
魔王は底から這い寄る大蛇の二つの首を指さす
魔王「さあ、出番だ勇者よ」
魔王「貴様が阻むべき魔王がここにいる」
魔王は光輝く聖剣を構える
魔王「勇者ならば今こそ使命をはたす時と心得よ」
二つ首「その挑戦、受けてたとう」
聖剣を向けられた大蛇の牙から電撃が流れ
チラリと光る電流が舌のように伸びる
今朝みたコウノトリ大作戦という映画のCMで、オオカミが組体操で潜水艦作ってたんですね
ちょうど、言霊使いが作った大蛇や触手もあんな感じで重なってできてます
イメージの参考までに
大蛇は口腔を十字に開く
二つ首「畏れよ」
魔王「ずいぶんと凝ってるな、練習したか?」
大蛇「お、そ、れ、よ!!」
大蛇の叫びと共に限界まで開いた口腔が魔王に迫る
魔王「その必要はない」
ドスッ!
魔王は向かって来る大蛇の喉元に聖剣を突き刺し軌道をずらし
大蛇の勢いをそのまま利用して壁に叩きつける
白ネズミ「まお~♪」
魔王「おぅ!」
魔王は白ネズミをすくい投げ、下から登ってきた三つ首めを凍らす
魔王「三つ!」
四つ首「シャアアァァァッ!!」
凍った首を通りすぎ、速度を増した四つめの大蛇が真下から床板を割り。
魔王の足場を破壊
だが、大蛇の追撃はそこまで
魔王「四つ!」
魔王は大蛇の下に潜り込み、腹部を聖剣で斬り裂く
夢魔「いくつあるんですか?」
魔王「まだまだ、もっと増えるさ」
魔王は五つめの大蛇を踏みつけ、跳んで
投げた聖剣を天井に突き立てる
天井に刺さる聖剣を見上げる魔王に
新たな大蛇が声をかける
六つ首「そろそろ、足掻いても無駄なことと気付きませんか?」
六つ首は魔王の正面から相対
五つ首は魔王の背後をふさぎ
四つ首は裂かれた腹を繕い
三つ首はその身の氷を溶かし
二つ首は壁から首を持ち上げ
一つ首は勝利を確信する
一つ首「大蛇の首は何度でも再生可能」
二つ首「この地下墓地に逃げた時点で勝負はついた」
三つ首「あとは逃がさず疲れるのを待つのみ」
四つ首「うわばみの蛇は獲物を呑み込み溶かす」
五つ首「ならばこそ」
六つ首「唯一の武器を手離すな!!」
魔王「武器ならあるさ」
魔王は広げた両手を大蛇に伸ばす
魔王「来いッ!!」
魔王「来いッ!!」
魔王の言葉に呼応して聖剣が動きだす
カタッ
言霊使い「ん?」
だが、それは天井に刺さる聖剣のことではなく
カタカタカタカタ
大蛇「聖剣が…」
大蛇の姿を形作る多数の言霊使いの腰に携えた聖剣のこと
魔王「武器ならそこに腐るほどある」
言霊使い「嘘だろ…」
ガタッ
重なった音がひとつに聴こえるほど聖剣はいっせいに
言霊使いの腰から魔王の元へと飛び立つ
大蛇の首「「「ぬあ!」」」
大蛇を構成する言霊使いの腰から次々と聖剣は逃げだし
真の所有者だと誇示するかのように魔王の元へと結集する
魔王「いや、この場合は錆びるほどあるが正しいか」
言霊使い「がっがっがっがっがっがっがっぎっぎっぎっぎっぎっ!!」
もはや意味を持った言葉を話せない言霊使いに魔王は笑顔を向ける
魔王「よかったな。いまの顔、ちょっと恐いぞ」
魔王の号令のもと、六つの大蛇の首に聖剣が降りそそぐ
大蛇「ぐおおぉぉぉぉ!!!」
聖剣に貫かれた大蛇は苦しみに身をよじらせ
言霊使いがばらばら落ちる
言霊使い「堪えろ!堪えるのです!!」
言霊使いは胸に刺さる聖剣を引き抜き復活
言霊使い「あきらめずに何度でも挑戦すれば」
言霊使い「最後に勝つのは僕らだ!」
魔王「いいや、貴様の言葉は正しい」
魔王は天井に突き刺さった聖剣をつかむ
魔王「地下墓地に逃げた時点で勝負はついていた」
そして、魔王は何度も殺した屍人を前に
こう叫ぶ
魔王「必 殺 !」
今日はここまでです
長い「おまけ」になったものですよ…
夢魔「ゴーレーム…」クルクル
魔王の頭上にしがみついたコウモリ型の使い魔がくるりと踊り
夢魔「インパクト!!!」ズビッシ!
使い魔がポーズを決めれば
それと同時に街の上空に浮かび上がった魔方陣からゴーレムが続々と投下される
ヒュゥゥゥゥ……
ドシァン!ボチャン!ドボン!ドッボーン!
魔王「神官、もっと静かに落とせ。近所迷惑だ」
夢魔「それから?これから?」ペチペチ
魔王「くっくっくっ…。この国は水が豊富だ」
ゴーレムの落下地点は水堀、河川、用水路に溜め池
金属でできたゴーレムは水中に沈む
魔王「だから地下墓地と重なる水場を調べさせた」
水底までたどり着いたゴーレムは魔力で固めた拳を振り上げ
言霊使い「ま、さ、か…」
魔王「これほどの死体だ。集めるだけでも語り尽くせぬ苦労もあったろうが…」
魔王「天井はもうちょっと厚くしたほうがよかった」
言霊使い「やっめぇ~ろぉ~~!!」
ゴーレム「ごっ!」
ゴーレムの拳が水底を割り、地下墓地の天井に穴をあける
ボゴォォォン!!!
ゴーレムに穴を開けられ、地下墓地に大量の水が流れ込む
ドザザアァァァ!!!
言霊使い「とめろぉー!」
「穴に体を突っ込んでふさげば!」
「む…無理だ~!」
大蛇「どっけえぇ~!」
大蛇が頭から突っ込み懸命に穴をふさぐ
が、
大蛇「ぐ、ぐ…」
大蛇「ぐわわあぁぁぁ~~!!」
流れ込む濁流を頭から浴びた大蛇が悲鳴と共に分解
ぼろぼろと流される言霊使いを横目に
ゴーレムによる浸水は二ヵ所、三ヵ所と数を増やす
大蛇「あ、あ、あ…」ぐらっ
大蛇「む…なん…だ?」
大蛇はその身を揺らし
大蛇「お…おい、揺れてるぞ! しっかりささえ……ろ?」
言霊使い「ごぼぼぼぼぼ」
大蛇は下をのぞけば下層は水没
組み合わせて大蛇を作り上げた言霊使いの土台は水に沈み
沈没した言霊使いが上に潰され、浮かぶことすらもできずに溺れ死ぬ
魔王「呼吸の必要ない死体ならば平気だったな」
魔王「まあ、あれだ、成仏してくれ」
そして、大蛇の崩壊が始まる
言霊使い「うわあぁぁぁ」
崩壊した大蛇から言霊使いが水面に落ちる
魔王「神官、ここを水で満たしたら出入口を氷らせろ。一人として逃がすんじゃないぞ」
言霊使い「なんという…なんという事を!!」
水面に浮かんだ言霊使いは多数の溺死体を踏み台に魔王を睨みつける
言霊使い「せんねんだ!!」
言霊使い「埋葬された死体を掘り返し集めた苦労!」
言霊使い「それがたった一瞬で台無しになったのだ!!」
言霊使いの糾弾している最中も水は流入し、墓地の半分までを水没させた
魔王「世知辛いな」
魔王「どうだ、奴隷あがりの魔王もなかなかやるだろ?」
言霊使い「ふ、ざ、け、ん、な!!」
水面に残った言霊使いは中央に集まり
七つめの大蛇を作り出す
七つ首「もう、死体なんか必要ない……」
七つめの大蛇は底に沈んだ溺死体の魔力を吸いとり発光を開始
七つ首「地下墓地もろともぶっ飛べ!」
魔王「自爆する気か!」
夢魔「まお~!」
魔王「大丈夫、
夢魔「心配してません!!」
魔王「上等だ!!」
魔王は天井を蹴ると大蛇に向かって飛びかかる
言霊使い「神 に 祈 り を!」
言霊使いの祈りは地下墓地に反響
七つ首に飛びかかる魔王に触手が襲いかかる
魔王「今更こんなもの!」
魔王は聖剣をふるい触手を乱斬りにする
言霊使い「祈りこそ愛!」
七つめの大蛇は先端を多弁の花びらのように咲かせ
そこに集めた魔力からプラズマ球体を作り出す
言霊使い「世界を愛で満たすのです!!!」
魔王「チェンジ」
ドスッ!
聖剣の剣先が球体を貫き
プラズマ球体を魔王の聖剣が吸収する
魔王「惚れた女ぐらい、自分で決める」
魔王の聖剣に雷光の輝きが加わり、地下墓地を光で照らす
言霊使い「う…う……」
最後の手段を簡単に潰され、打つ手のなくなった言霊使いの叫びが地下墓地に響く
言霊使い「うわわあぁぁぁ!!!!」
魔王「武器が折れ、万策つき、体の震えが止まらずとも恥ではない」
魔王「刻みつけろ」
魔王「それが、格の違いだ!!」
振り下ろした聖剣が溜まった地下水に漏電し地下墓地を白く染める
カッ!
バシュ!
地下墓地の爆発がゴーレムのあけた穴から魔王を地上まで一気に吹き飛ばす
ぐしゃ!
魔王「・・・・」
夢魔「まお~! すごい音しましたけど生きてますか~」
魔王「ん…なんとか……」
魔王「はは、びっくりしたな」
神官「魔王さま…」
魔王「心配そうな声をだすな、あとのことなら仲間に任せておけ」
夢魔「仲間?」
魔王「頼りの仲間さ」
夢魔「だれ?」
魔王「神官」
神官「は、はい!」
魔王「貯蔵庫に酒樽残ってたら一樽くれ」
神官「あります…けど、樽ひとつ分も飲むんですか?」
魔王「まさか、手土産だよ」
ホームレスA「お~!勇者じゃねえか!」
ホームレスB「お~勇者~ま~た川から流れて来たんか?」
魔王「魔王だって言ったろ」
魔王「勇者なら水の底で万単位でばっしゃばっしゃ水遊びしてる」
ホームレスC「なんだ?だっらしねえな」
魔王「本番は明日さ」
ホームレス顔役「魔王か?」
魔王「よっ! また泊めてくれ」
老婦人「あらあら、勇者さま?」
幼女「ゆ~しゃ」
魔王「より戻したんだな」
幼女「うん♪」
魔王「なんかあったら余に言え、一食分殴ってやる」
老婦人「ふふふ」
ホームレス顔役「魔王、女房から聞いた」
ホームレス顔役「あ~その、それでな…」
魔王「あ~やめやめ、気にするな」
ホームレスA「そうは言ってもな」
魔王「水に流れてずぶ濡れの人間に、蒸し返すより言うことあるだろ」
ホームレスB「あがって来いな!」
ホームレスC「風邪ひくっから火にあたんな!」
魔王「じゃまするぞ」
自警団員A「あ……」
自警団員B「勇者だ」
魔王「ん? なんでいるんだ?」
自警団員A「あれ…」
自警団長「」ズーン
魔王「うお!?」
自警団長「私は役立たずです…」
自警団員A「団長、勇者襲ったの気にしちゃって」
自警団員B「団長のばあ様に慰めてもらおうと引っ張ってきた」
魔王「ばあ様?」
老婦人「私の長男の子なのよ」
老婦人「責任感強くてまとめ役をかってでたりするんだけど心臓がノミで一度つまずくと長引くのよね~」
ホームレス顔役「お、そうか」
ホームレスC「血筋やな~」
ホームレスD「受け継がれっとっど」
ホームレス顔役「」
ホームレスA「そろそろ顔役もまっとうな生活に戻らんとな」
ホームレス顔役「………てめえら置いていけっか」
ホームレスA「やっぱ血筋だ~」
魔王「くっくっくっ…」
魔王「はぁ~はっはっはぁ~!」
夢魔「まお~ご機嫌?」
魔王「まあな」
魔王「決めたぞ、神官! この国は余が支配する」
魔王「準備しろ!」
魔王「早朝、日の出と同時に総攻撃を開始する!」
今日はここまでです
充実させろと言われましたが、勇者パーティー1人目しか紹介してないですし大丈夫じゃないかな?
城の片隅にある礼拝堂の女神像
その足下に隠された階段は地下墓地に続き
言霊使い「がはっ!」バシャ!
言霊使いはたった独り、ふらつく足で水没した地下墓地から這い上がった
言霊使い「屍人つかい…」
誰もいない礼拝堂で言霊使いは叫ぶ
言霊使い「な、に、を、し、て、い、る!!」
言霊使い「衛兵に街を襲わせ死体の山を積み上げろ!」
言霊使い「充分な量を補充したらすぐに魔王と一戦再開する」
言霊使い「すでに魔王の底は見えた。次こそは倒せるはず」
?「ダメです!!」
言霊使い「あ゙?」
?「ひっ!あの、そう、神が言ってます…」
言霊使い「口答えとは偉くなったなぁ!!」
言霊使いは血走った目を声の主に向ける
言霊使い「僧侶!!」
僧侶「ひぃ!」
今にも僧侶に掴みかかろうとする言霊使い
それから庇うように横から割って入た人影が蹴り飛ばす
言霊使い「ぎゃいん!」
言霊使い「てめ…この……ブドウかぁ」
武道家「……」
僧侶「ありがとうございます」
女遊び人「あ~ラブラブ~♪」
男遊び人「にゅにゅにゅ、青春ですぞ」
ふたりの遊び人は壁際まで吹き飛んだ言霊使いの後ろをすり抜け
踊るその手に聖剣を忍ばせる
言霊使い「あっ、何をするか!返せ!それは…」
聖剣を奪われ手を伸ばすが、その先にたたずむローブ姿の老人を確認して声を詰まらせる
魔法使い「それは?」
言霊使い「ちがう、待ってくれ、僕は悪くない。悪くないんだ!」
魔法使い「……話にならんな」
魔法使いは背を向け
それに代わるように勇者パーティー最後のひとりが前に進む
戦士「やっぱ、ごますり野郎に勇者は荷が重いか」
戦士「ま、もともと期待もしちゃいないがな」
言霊使いと距離をつめる戦士の歩幅は一定で
まるで警戒する必要がないようなその態度に言霊使いの勇者としての自尊心が反発する
言霊使い「ナメるな!僕は厳正な選考のすえに選ばれた、正統な勇者だ!」
言霊使いの右手は電撃を帯びて
仲間に向けるその手はしかし、容易く〝戦士の聖剣〟で斬り落とされた
ぼとっ…
戦士(先代勇者)「わりい、俺様も勇者なんだわ」
言霊使い「」
戦士「前回の舞台で勇者を演じた主役は次回は仲間に混じって勇者をサポートする決まりになってんだわ」
言霊使い「」
戦士「だからさっさと新しい勇者(魔王)を酒場によこせって言ってんのに」
魔法使い「まったく…。いつまでも勇者気分でいおって」
女遊び人「け~っか、新しい勇者さまに手の内見せちゃって」
男遊び人「大切な地下墓地も水浸し」
女遊び人「そんな無能は勇者と言えるの?」
男遊び人「はい、言えません!」
女遊び人「きゃはは♪★大★正★解★」
言霊使い「」
女遊び人「おやおや~? お~い?」
男遊び人「返事がない、ただの屍のようだ」
武道家「……」
僧侶「武道家さんは生きてますよ」
魔法使い「それでは、皆の衆」
魔法使い「帰って酒場で勇者を待とうか」
女遊び人「でも来るかな~?」
女遊び人「あっちはあっちでいつまでも魔王気分でいるじゃない?」
戦士「来る、むしろ来させる」
武道家「……ま」
僧侶「武道家さんが期限をもうけてはどうかと」
武道家「……」
魔法使い「なるほどのう、ならば聞こう」
魔法使い「地下墓地の水が引くのは何時じゃ?」
僧侶「そうですね、生き残りの屍人が言うには全力で掻き出したとしておそらく…」
僧侶「〝正午〟」
戦士「んじゃ決まり」
魔法使い「我等勇者一行、行動に移すは正午より」
魔法使い「地下墓地総数800万の死者を率い勇者をお迎えに馳せ参じようぞ」
魔法使い「正午より、第三フェイズを開始する」
今日はここまで、おまけも今日の分で終わりです
おまけの要点を3行で解説
①屍人使いがいる限り勇者パーティーは無限に再生、周囲の死体を利用して増殖可能
②正午になったら地下墓地の総数800万の屍人が街を襲ってさらに膨れ上がります
③なのでその前に屍人使いを探し出して倒しましょう
以上、おやすみなさい
【おまけ 夢魔の周辺事情】
魔王の拠点にて
夢魔「はぁ~はっはっはぁ~! 待て待て~!」
コボルト「キャイン!キャイン!」
夢魔「はっはぁ~! どこに逃げようというのか~」
兵士A「……」
兵士B「……」
夢魔「キサマラ、要求、ブラッシング承認!」ガシッ!
コボルトA「キャイン!」
コボルトA「否ッ!」
コボルトB「我等、ブラッシング、奥方に要求」
コボルトC「応っ!お嬢のブラシは荒い」
夢魔「くっくっくっ~、嫌がるのはこの卓越したブラッシングテクニックを味わってからにしろ」
ゴスッ!
コボルトA「ギャン!」
コボルトB「アオーン!奥方!奥方!我等、救援要請!!」
神官「頑張って~♪」
コボルト達「「「奥方~!!!」」」
夢魔「あばれるから柄があたっただけです…」
夢魔「ほんとです」
兵士A「……なあ」
兵士B「……ん?」
兵士A「俺達なんでこんなとこいるんだ?」
兵士B「わからん」
侍女「もし」
兵士AB「はっ、はいっ!!」
侍女「気を失っていた騎士さまを寝室にお連れしました」
侍女「お二人も客間の用意は出来ておりますので今夜はそちらでお休みください」
兵士A「あ、はい…」
兵士B「いや、何から何までどうも」
侍女「仕事ですのでお気になさらず」
兵士A(は~えらい美人だな)
兵士B(好みだ)
侍女「じ~~」
夢魔「余の本気を受けてみろ~!」フワッサッ
コボルトA「むっ……」
コボルトA「♪」
夢魔「くっくっくっ~、どうやら理解したようだな~」
夢魔「ブラッシングしてほしくば、すべての妖魔は我のまえにひざまずけ~」
侍女(あ~今日も夢魔さま可愛いわ~)●REC
侍女(あ~ブラッシングした~い)●REC
侍女(全身あますとこなくナデナデしてあげたいわ~)●REC
夢魔「ふわぁぁぁ!! きゅうに悪寒が!」
魔術師「うふ♪」
魔術師「夢魔さま♪」ダキッ!
夢魔「ぎゃ~~!」ブチブチブチ
コボルトA「ギャーーン!!」
コボルト達「「「え~~!!」」」
魔術師「あたしもブラッシングして~♪」
魔術師「そしたらあたしも夢魔さまをブラッシングしてあげるから」
夢魔「あわわ…あわわ…」ブチッブチッブチッ
コボルトA「」
コボルトB「ウ~!」
コボルトC「グルル」
コボルトD「ガウッ!ガウッ!」
魔術師「あら? なんの騒ぎ?」
侍女「セイヤー!!」ブオン
魔術師「なんの!」ガキン
侍女「しゅた!!」
魔術師「出たわね、変態ストーカー」
侍女「YESロリータ、Noタッチ」
侍女「それが守れない不埒者にロリに近づく資格はない!」ダキッ!
夢魔「うわ~ん! はなしてくださ~い!」
侍女「くんかくんか」
魔術師「くっ、どうやら夢魔さまのブラッシングを賭けて勝負する必要があるみたいね」
侍女「よろしい、こちらとしても望むところです」
夢魔「ちっとも望むところじゃね~ですよ~」
兵士A「」
兵士B「」
オーガ「騒がしくてびっくりしたか?」ヌッ
兵士A「うわあ!」
兵士B「くっ」スカッ
兵士B「あれ?剣は?」
ゴブリン「武器なら預からしてもらったぜ」
兵士B「いつの間に」
ゴブリン「魔王の命令なんで助けたがこっちも信用したわけじゃねえ」
ゴブリン「俺ら妖魔に偏見もあるだろうしな」
オーガ「とはいえ、城内で言霊使いに追われていたとこを助けてやったんだから話ぐらい聞いてもらんとな」
兵士B「わ~った、おとなしく聞くわ」
今日はここまで
あけましておめでとうございます
年末年始は多忙なため、もう少しお待ちください
このSSまとめへのコメント
語彙が少なすぎる&言い回しがワンパターン
小学生か?