CoP「羅生門」 (13)

タイトルで想像できる通りのオマージュどころじゃないパクリです

本スレのネタがふんだんに含まれているのでご注意を

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 ある日の暮方の事である。一人のCoPが、羅生門の下で雨やみを待っていた。

 広い門の下には、この男のほかに誰もいない。ただ、所々丹塗の剥げた、大きな円柱に、蟋蟀が一匹とまっている。羅生門が、朱雀大路にある以上は、この男のほかにも、雨やみをするあやかし京娘や天衣の織姫が、もう二三人はありそうなものである。それが、この男のほかには誰もいない。

 何故かと云うと、この二三年、京都エリアには、不具合とかBANとか手動全力とか即身仏とか云う災がつづいて起った。そこで公式サークルのさびれ方は一通りではない。旧記によると、スタドリやエナドリを打砕いて、その星の飾りがついたり、赤いロゴの入ったりした瓶を、路ばたにつみ重ねて、薪の料に売っていたと云う事である。サークルがその始末であるから、羅生門の修理などは、元より誰も捨てて顧る者がなかった。するとその荒れ果てたのをよい事にして、ぴにゃこら太が棲む。うさぎが棲む。とうとうしまいには、引取り手のない爆死者を、この門へ持って来て、棄てて行くと云う習慣さえ出来た。そこで、日の目が見えなくなると、誰でも気味を悪るがって、この門の近所へは足ぶみをしない事になってしまったのである。

 その代りまた鴉がどこからか、たくさん集って来た。昼間見ると、その鴉が何羽となく輪を描いて、高い鴟尾のまわりを啼きながら、飛びまわっている。ことに門の上の空が、夕焼けであかくなる時には、それが胡麻をまいたようにはっきり見えた。鴉は、勿論、門の上にある爆死者の肉を、啄ばみに来るのである。――もっとも今日は、刻限が遅いせいか、一羽も見えない。ただ、所々、崩れかかった、そうしてその崩れ目に長い草のはえた石段の上に、鴉の糞が、点々と白くこびりついているのが見える。CoPは七段ある石段の一番上の段に、洗いざらした緑のシノビトラディションの尻を据えて、右の頬に出来た、大きな面皰を気にしながら、ぼんやり、雨のふるのを眺めていた。

 作者はさっき、「CoPが雨やみを待っていた」と書いた。しかし、CoPは雨がやんでも、格別どうしようと云う当てはない。ふだんなら、勿論、プロダクションへ帰る可き筈である。所がその社長からは、四五日前に代表に意見するってよく考えたらすごく失礼なこととして暇を出された。前にも書いたように、当時京都エリアは一通りならず衰微していた。今このCoPが、永年、使われていた社長から、暇を出されたのも、実はこの衰微の小さな余波にほかならない。だから「CoPが雨やみを待っていた」と云うよりも「雨にふりこめられたCoPが、行き所がなくて、途方にくれていた」と云う方が、適当である。その上、今日の空模様も少からず、このモバマス末期の下人の DOKIDOKIRHYTHM に影響した。申の刻こく下がりからふり出した雨は、いまだに上るけしきがない。そこで、CoPは、何をおいても差当り明日の暮しをどうにかしようとして――云わばどうにもならない事を、どうにかしようとして、とりとめもない考えをたどりながら、さっきから朱雀大路にふる雨の音を、聞くともなく聞いていたのである。

 雨は、羅生門をつつんで、遠くから、ざあっと云う音をあつめて来る。夕闇は次第に空を低くして、見上げると、門の屋根が、斜につき出した甍の先に、重たくうす暗い雲を支えている。

 どうにもならない事を、どうにかするためには、手段を選んでいる遑はない。選んでいれば、ボーダーの下か、ドリンクの山の上で、爆死をするばかりである。そうして、この門の上へ持って来て、アッキーのように棄てられてしまうばかりである。選ばないとすれば――CoPの考えは、何度も同じ道を低徊した揚句に、やっとこの局所へ逢着した。しかしこの「すれば」は、いつまでたっても、結局「すれば」であった。CoPは、手段を選ばないという事を肯定しながらも、この「すれば」のかたをつけるために、当然、その後に来る可き「盗人になるよりほかに仕方がない」と云う事を、積極的に肯定するだけの、勇気が出ずにいたのである。

 CoPは、大きな嚔をして、それから、大儀そうに立上った。夕冷えのする京都エリアは、もう茜ちゃんが欲しいほどの寒さである。風は門の柱と柱との間を、夕闇と共に遠慮なく、吹きぬける。丹塗の柱にとまっていた蟋蟀も、もうどこかへ行ってしまった。

 CoPは、頸をちぢめながら、橙のプリンツェスマイリーに重ねた、緑のシノビトラディションの肩を高くして門のまわりを見まわした。雨風の患のない、人目にかかる惧のない、一晩楽にねられそうな所があれば、そこでともかくも、夜を明かそうと思ったからである。すると、幸い門の上の楼へ上る、幅の広い、これも丹を塗った梯子が眼についた。上なら、人がいたにしても、どうせ死人ばかりである。CoPはそこで、腰にさげた蒼穹の剣が鞘走らないように気をつけながら、藁草履をはいた足を、その梯子の一番下の段へふみかけた。

 それから、何分かの後である。羅生門の楼の上へ出る、幅の広い梯子の中段に、一人の男が、猫のように身をちぢめて、息を殺しながら、上の容子を窺っていた。楼の上からさす火の光が、かすかに、その男の右の頬をぬらしている。短い鬚の中に、赤く膿を持った面皰のある頬である。CoPは、始めから、この上にいる者は、死人ばかりだと高を括っていた。それが、梯子を二三段上って見ると、上では誰か火をとぼして、しかもその火をそこここと動かしているらしい。これは、その濁った、黄いろい光が、隅々に蜘蛛の巣をかけた天井裏に、揺れながら映ったので、すぐにそれと知れたのである。この雨の夜に、この羅生門の上で、火をともしているからは、どうせただの者ではない。

 CoPは、守宮のように足音をぬすんで、やっと急な梯子を、一番上の段まで這うようにして上りつめた。そうして体を出来るだけ、平にしながら、頸を出来るだけ、前へ出して、恐る恐る、楼の内を覗いて見た。

 見ると、楼の内には、噂に聞いた通り、幾つかの死骸が、無造作に棄ててあるが、火の光の及ぶ範囲が、思ったより狭いので、数は幾つともわからない。ただ、おぼろげながら、知れるのは、その中に裸の死骸と、衣装を着た死骸とがあるという事である。勿論、中にはPもデュンヌもまじっているらしい。そうして、その死骸は皆、それが、かつて、生きていた人間だと云う事実さえ疑われるほど、土を捏こねて造った人形のように、口を開あいたり手を延ばしたりして、ごろごろ床の上にころがっていた。しかも、肩とか胸とかの高くなっている部分に、ぼんやりした火の光をうけて、低くなっている部分の影を一層暗くしながら、永久に唖の如く黙っていた。

 CoPは、それらの死骸の腐爛した臭気に思わず、鼻を掩った。しかし、その手は、次の瞬間には、もう鼻を掩う事を忘れていた。ある強い感情が、ほとんどことごとくこの男の嗅覚を奪ってしまったからだ。

 CoPの眼は、その時、はじめてその死骸の中に蹲っている人間を見た。紫の着物を着た、背の低い、痩やせた、白髪頭しらがあたまの、猿のようなCuPである。そのCuPは、右の手に火をともした松の木片を持って、その死骸の一つの顔を覗きこむように眺めていた。

 CoPは、六分の恐怖と四分の好奇心とに動かされて、暫時は呼吸をするのさえ忘れていた。旧記の記者の語を借りれば、「頭身の毛も太る」ように感じたのである。するとCuPは、松の木片を、床板の間に挿して、それから、今まで眺めていた死骸の首に両手をかけると、丁度、猿の親が猿の子の虱しらみをとるように、その乏しい髪の毛を一本ずつ抜きはじめた。髪は手に従って抜けるらしい。

その髪の毛が、一本ずつ抜けるのに従って、CoPの心からは、恐怖が少しずつ消えて行った。そうして、それと同時に、このCuPに対するはげしい憎悪が、少しずつ動いて来た。――いや、このCuPに対すると云っては、語弊があるかも知れない。むしろ、あらゆる悪に対する反感が、一分毎に強さを増して来たのである。この時、誰かがこのCuPに、さっき門の下でこの男が考えていた、爆死をするか盗人になるかと云う問題を、改めて持出したら、恐らくCoPは、何の未練もなく、爆死を選んだ事であろう。それほど、この男の悪を憎む心は、CuPの床に挿した松の木片きぎれのように、勢いよく燃え上り出していたのである。

 CoPには、勿論、何故CuPが死人の髪の毛を抜くかわからなかった。従って、合理的には、それを善悪のいずれに片づけてよいか知らなかった。しかし下人にとっては、この雨の夜に、この羅生門の上で、死人の髪の毛を抜くと云う事が、それだけで既に許すべからざる悪であった。勿論、下人は、さっきまで自分が、盗人になる気でいた事なぞは、とうに忘れていたのである。

 そこで、CoPは、両足に力を入れて、いきなり、梯子から上へ飛び上った。そうして蒼穹の剣に手をかけながら、大股にCuPの前へ歩みよった。CuPが驚いたのは云うまでもない。

 CuPは、一目CoPを見ると、まるで弩にでも弾かれたように、飛び上った。

「おのれ、どこへ行く。」

 CoPは、CuPが死骸につまずきながら、慌てふためいて逃げようとする行手を塞いで、こう罵った。CuPは、それでもCoPをつきのけて行こうとする。CoPはまた、それを行かすまいとして、押しもどす。二人は死骸の中で、しばらく、無言のまま、つかみ合った。しかし勝敗は、はじめからわかっている。CoPはとうとう、CuPの腕をつかんで、無理にそこへねじ倒した。丁度、鶏の脚のような、骨と皮ばかりの腕である。

「何をしていた。云え。云わぬと、これだぞよ。」

 CoPは、CuPをつき放すと、いきなり、剣の鞘を払って、蒼い鋼の色をその眼の前へつきつけた。けれども、CuPは黙っている。両手をわなわなふるわせて、肩で息を切りながら、眼を、眼球がまぶたの外へ出そうになるほど、見開いて、唖のように執拗ねく黙っている。これを見ると、CoPは始めて明白にこのCuPの生死が、全然、自分の意志に支配されていると云う事を意識した。そうしてこの意識は、今までけわしく燃えていた憎悪の心を、いつの間にか冷ましてしまった。後あとに残ったのは、ただ、ある仕事をして、それが円満に成就した時の、安らかな得意と満足とがあるばかりである。そこで、CoPは、CuPを見下しながら、少し声を柔らげてこう云った。

「己はアイマス検非違使の庁の役人などではない。今し方この門の下を通りかかった旅の者だ。だからお前に縄をかけて、どうしようと云うような事はない。ただ、今時分この門の上で、何をして居たのだか、それを己に話しさえすればいいのだ。」

 すると、CuPは、見開いていた眼を、一層大きくして、じっとその下人の顔を見守った。まぶたの赤くなった、肉食鳥のような、鋭い眼で見たのである。それから、皺で、ほとんど、鼻と一つになった唇を、何か物でも噛んでいるように動かした。細い喉で、尖った喉仏の動いているのが見える。その時、その喉から、鴉の啼くような声が、喘あえぎ喘ぎ、CoPの耳へ伝わって来た。

「この髪を抜いてな、この髪を抜いてな、鬘にしようと思うたのじゃ。」

 CoPは、CuPの答が存外、平凡なのに失望した。そうして失望すると同時に、また前の憎悪が、冷やかな侮蔑と一しょに、心の中へはいって来た。すると、その気色が、先方へも通じたのであろう。CuPは、片手に、まだ死骸の頭から奪った短い抜け毛を持ったなり、蟇のつぶやくような声で、口ごもりながら、こんな事を云った。

「成程な、PaPの髪の毛を抜くと云う事は、何ぼう悪い事かも知れぬ。じゃが、ここにいる死人どもは、皆、そのくらいな事を、されてもいいPばかりだぞよ。現在、わしが今、髪を抜いたPaPなどはな、非MMのSRを、MM特訓だと云うて、アニメ新参へ売りに往いんだわ。フェスにかかって死ななんだら、今でも売りに往んでいた事であろ。それもよ、このPの売るアイドルは、値が安いと云うて、新規どもが、欠かさずフロントに買っていたそうな。わしは、このハゲのした事が悪いとは思うていぬ。せねば、爆死をするのじゃて、仕方がなくした事であろ。されば、今また、わしのしていた事も悪い事とは思わぬぞよ。これとてもやはりせねば、爆死をするじゃて、仕方がなくする事じゃわいの。じゃて、その仕方がない事を、よく知っていたこのPは、大方わしのする事も大目に見てくれるであろ。」

 CuPは、大体こんな意味の事を云った。

 CuPは、剣を鞘におさめて、その柄を左の手でおさえながら、冷然として、この話を聞いていた。勿論、右の手では、赤く頬に膿を持った大きな面皰を気にしながら、聞いているのである。しかし、これを聞いている中に、CoPの心には、ある勇気が生まれて来た。それは、さっき門の下で、この男には欠けていた勇気である。そうして、またさっきこの門の上へ上って、このCuPを捕えた時の勇気とは、全然、反対な方向に動こうとする勇気である。CoPは、爆死をするか盗人になるかに、迷わなかったばかりではない。その時のこの男の心もちから云えば、爆死などと云う事は、ほとんど、考える事さえ出来ないほど、意識の外に追い出されていた。

「きっと、そうか。」

 CuPの話が完ると、CoPは嘲るような声で念を押した。そうして、一足前へ出ると、不意に右の手を面皰から離して、CuPの襟上をつかみながら、噛みつくようにこう云った。

「では、己が引剥をしようと恨むまいな。己もそうしなければ、爆死をする体なのだ。」

 CuPは、すばやく、CuPの衣装を剥ぎとった。それから、足にしがみつこうとするCuPを、手荒く死骸の上へ蹴倒した。梯子の口までは、僅に五歩を数えるばかりである。CoPは、剥ぎとった黄色のシノビトラディションをわきにかかえて、またたく間に急な梯子を夜の底へかけ下りた。

 しばらく、死んだように倒れていたCuPが、死骸の中から、その裸の体を起したのは、それから間もなくの事である。CuPはつぶやくような、うめくような声を立てながら、まだ燃えている火の光をたよりに、梯子の口まで、這って行った。そうして、そこから、短い白髪を倒さかさまにして、門の下を覗きこんだ。外には、ただ、黒洞々たる夜があるばかりである。
 










 鍵クロの行方は、誰も知らない。

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