女提督「黒百合鎮守府」 (962)
提督「ん…………?」パチ
提督「……………」キョロキョロ
提督「………」
提督「………あれ?」
提督(どこだろう、ここ……)
提督(私、昨日は確か……そうだ、寝る前に加賀に一杯お茶をもらって……)
提督(もらって、飲んで……それから………それから……どうしたんだっけ…)
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目を開けてまず飛び込んできたのは、見覚えのない天井だった。普段鎮守府の私室で見ている少し黒ずんだ天井とは違う、真っ白なもの。
まだ夢現と寝ぼけているのかと思い、目を擦ろうとした時にようやく手の違和感に気付く。
「え?」
がちゃり、という金属音。そして動かない手首。
「…………」
もう一度手を動かし、感触を確かめる。疑惑が次第に確信に変わり、脳裏に嫌な光景が過る。願わくば、と考えながら視線を上に向ける。
───予感は的中していた。
ベッドの縁に繋がれた鎖と、それを結ぶ手錠。そこに両手を頭上で交差させられるように拘束されている。
「ふぅー……」
自分を落ち着かせるように、深い息を吐く。
まだ何かされたわけでもない、身体のどこかに異常があったり痛むわけでもない。まずは状況の把握が先だと自分の中でそう結論付ける。
「ここは………」
頭だけを起こし辺りを見渡す。
目の前には天井と同じ、真っ白な壁。視線を横にやると、シンプルな椅子とテーブル、その上にスタンドライト。そして今自分が縛り付けられているベッド。
「………殺風景だなぁ…」
女らしい悪態を吐きながら、もう一度天井に視線を戻す。一通り眺めた室内だったが、なにかが引っかかるような思いに駆られ再度壁に目を向ける。
「あれ……?」
そうだ、窓がない。天窓も例外ではない。
時計すらないこの部屋では時間の知りようがなかった。
段々と意識が鮮明になってくる。朝に弱い提督は、自身の覚醒の遅さから現在時刻がまだ朝のうちであることを確信した。
「………あ」
ここでまたあることに気付く。手錠と同じ重みが足にない。
つまり、足は自由だ。丁寧に掛けられた布団を唯一動かせる足で器用に折り畳むように押し退け、足に何も拘束具が着いていないことを確認する。
「…………」
しかし、足が動かせたところで肝心の手が動かせなければこの部屋を抜け出すことも出来ない。事実上の八方塞がりだった。
「…ふあぁ……」
何か起こったり誰かが来る気配もなく、ただ静寂と時間だけが流れていく。
次第に不安感も薄れていき、持ち前の能天気さからか提督はすでに寝入り始めていた。
どれほどの時間が経っただろうか。
提督は暗闇の中で目を覚ました。
「あ、あれ……?」
目に見えて浮かぶ戸惑いの表情。それもそのはず、先ほどまで自分が起きていた時間は朝だったはずなのに、もう部屋が真っ暗になっていたからだった。
いくらロングスリーパーといえど、朝から夜まで寝たことなど一度もなかった。単純に本当に夜まで眠ってしまっていたのか、それともこの部屋が光の届かない場所にあるということを示しているのか。
それを知る術は提督にはなかった。
「………うぅ……」
長い間寝ていたとはいえ、結構な時間をこの部屋で一人で過ごしていた提督。見知らぬ場所で、誰も来てくれない。そう考えるだけで心にずんずんと不安が募る。耐え難い孤独感に大声すら出そうとした、その時だった。
暗闇でよく見えないが、ドアノブを捻る音が聞こえた。その後すぐドアの閉まる音と、鍵のかけられる音。
ゆらっと影が揺れ、歩み寄って来るのが見える。警戒から身体が強張り、また手錠が音を立てて震える。
「あら。目が覚めた?」
「え………?」
聞こえたのは、意外な声だった。
「か、加賀……??」
やっと暗闇に目が慣れ、顔が見える距離まで近付いてくる。
間違いない、加賀だ。聞き慣れた穏やかな声、見慣れた優しい目に思わず安心して自然に表情が綻ぶ。
「あ…よ、よかった…」
「よかったって、なにが?」
「いや、もし知らない人にこんなところに連れて来られてたらって思うと…」
「……そう」
目線を逸らし、抑揚のない声で呟く。その表情は提督には少し悲しげに見えた。
「ねえ加賀、もしかして私をここに連れて来たのって加賀なの?」
「ええ」
「じゃあこれ、外して欲しいんだけど…」
今すぐにでも、と言わんばかりに手錠を鳴らしてアピールをする。
が、加賀は何も言わずにただ提督の目を見つめるだけ。
「………加賀?」
「……それは出来ないわ」
「え?」
予想外の返答。思わず素っ頓狂な声を挙げてしまう。驚きに目をぱちくりさせているうちに、加賀は膝をベッドに乗せ、四つん這いで覆い被さるように手を顔の横に立てる。
「ちょ…か、加賀…?どうしたの…?」
押し倒されているような体勢に、無意識に脚を擦り寄せながら尋ねる。
「………綺麗な目」
「え?目?」
「可愛い……」
そう囁かれ、手を握られるや否や
「んんっ……!!?」
唐突に唇を奪われた。
ねりゅう
全く想定していなかった出来事に、反射的に身体を跳ねさせるが手錠がかかっているため、ただ手首に鈍い痛みだけが走る。
抵抗すら叶わず、くぐもった声を挙げることしか出来ない。加賀が唇を離し、二人の間に糸が生まれる頃にはすでに提督は羞恥心で顔を真っ赤に染めていた。
「っは…はぁ……はぁ……」
「うぁ………あ、うぅ…」
お互いの吐息を吸い合うほどの距離。加賀は先ほどとは違って腕を押さえつけるように体重をかけ、じっと目を見つめ続けている。
「……っ……」
沈黙に耐え切れずに、顔を背けながら消え入るような声で呟く。
「……どうして…?」
「ずっと、見ていたわ」
間髪入れずに、加賀はいつもの無表情で答える。
淡々とした口調で、加賀は続ける。
「ずっと見ていた……真面目なあなたも、優しいあなたも、笑顔のあなたも」
そう言葉を紡ぐ度に、肩を押さえる手に力が入り始める。
「全部見ていたわ……他の子と楽しそうにしているあなたも、言い寄られても満更でもなさそうな態度を取るあなたも……誰にでも、その笑顔を見せるあなたを」
「痛っ……!」
声に怒気が孕み始めると同時に、肩と手を押さえつける両手の指の力が肌に食い込むほどに強くなる。
「ずっと………ずっと、ずっと、ずっと、ずっとずっとずっとずっと、あなただけを見ていた」
「い、痛いよ、加賀……」
「…………ごめんなさい」
そう言いながら一瞬瞳を伏せ、手を離す。しかし提督の上から退く素振りは見せなかった。
「もうやめてよ、加賀……こんなの間違ってるよ…」
心の底から振り絞るような声で呼び掛ける。が、それも無意味だった。
「………今さら戻る気なんてないわ」
吐き棄てるように言いながら、淡い黄色と白が交差するチェック柄のパジャマのボタンに指をかける。
「っ………分かってるの!?こんな事をしていたら、憲兵に見つかって壊れてるってみなされて大本営で解体されるんだよ!?」
目尻に大粒の涙を湛えながら、説得するように大声を挙げる。それは理不尽な目に遭っている怒りなどではなく、加賀の身を案ずる心配と懸念からだった。
「そう知りながら選んだ道だから」
それでも加賀は止まらない。下から順に、テンポよくボタンを外していく。肌蹴たパジャマの隙間からは、すでに臍が覗いている。
「こんなの、おかしいよ……」
ついには涙を流し、自分ではどうすることも出来ないもどかしさに唇を噛み締める。
ごはんたべりゅうううううう
人の金で食う寿司はめっちゃ美味かったずい
「………ふふっ」
「ひっ……!」
開いた腹部の裾から、少し冷えた手が侵入してくる。先ほど抵抗しようと暴れたせいか、熱くなった身体とのギャップに思わず声を挙げてしまう。
「綺麗ね…ずっと、こうしたかったわ…」
「んぁ…は、ぅ…」
お腹を滑るように優しく繰り返し撫でられ、くすぐったいような感触に声とも吐息ともとれるものを漏らす。
「あっ……!?」
不意にへそ周りを指先でなぞられ、反射的に全身をびくつかせてしまう。その反応を見ていじらしく口元を曲げる加賀の息は心なしか荒くなっているように感じられた。
「やぁ、んっ…」
ただ身体をまさぐられているだけなのに、面白いように敏感に反応してしまう。提督は、普段瑞鳳にしていたことに心から謝罪した。
程なくして、再び残りのボタンを外していく。左手はお腹を撫で続けたまま、片手で器用に。
襟元までボタンを外すと、服の裾から脇腹にかけるように両手を入れて同時にゆっくりと開く。
「ぁ……」
昼は黒い軍服、夜は少女じみたパジャマの下に隠されていた乳房が露わになる。仰向けになりながらもそのハリは良く、つんと上を向いている。年相応に育ちきったそれは形も良く、サイズは推定でもFはあるだろう。
食い入るようにそれを見つめる加賀。
「み、見ないで……」
耳まで真っ赤にしながら、せめてもの抗議をするがまるで聞き入れてくれる気配はない。
不意に手を伸ばされ、胸を触られると思い身体を強張らせる。
が、手を伸ばした先は肩と・だった。
肩と・って書いたらほおが点になったんですけどなんなんですかね(半ギレ)
「え……?」
肩先から、フェザータッチでゆっくりと腕のラインをなぞられる。上は母親が我が子を慈しむような優しい手つきで、顎先を持ち上げるように摩っていく。
「……んぅ……」
身体を触られているのに、心の底からじわりと沁み出すような暖かさを感じる。
そうだ、前に本で読んだことがある。女性はまず、心で気持ち良くなって次に身体で気持ち良くなる、と。
所謂、スローセックスというものだった。それの手順がこうなのだろうか。回らない思考で朧げに思い出す。
「ふう、っ、ん…」
暖かい。心臓ごと熱を持ったような暖かさが身体中に沁み出していく。元々、加賀に対して嫌悪感などというものはまるでなかった。が、拘束され、何をされるのか分からないという恐怖心があったためか拒絶しようとしていたのかもしれない。
現に今、その恐怖心を溶かすような優しい愛撫に身体は火照り始めていた。
そうです、頬です
これほほで変換しないと出ないんですね…
おしごとすりゅう…
しかし、それでもまだ性感帯には触れない。あくまで弱くない部分だけを撫でたり、髪に指を通して梳いたりされるだけ。
提督の声に甘い色が混じり始めても、手を握りながら頬をさする。
「はぁ……はぁ……」
次第に提督の表情は、緊張に張り詰めた固いものからより強い快感を求める、懇願めいた女の顔へと変わっていく。
「………っ…!」
いつもの、あのあどけない笑顔を見せる彼女が。
いつもの、子供のようにはしゃぐ彼女が。
いつもの、愛おしい彼女が。
誰にも見せない、雌の表情を私に見せている。
その事実だけで加賀の理性は吹き飛ぶ。悪魔に取り憑かれたような欲望に身を任せ、その柔らかい唇を奪い、舌を捩込む。
「んんっ……!!」
情欲だけが先走りしないように、心で身体を制御しつつ、優しく、優しく口内を蹂躙していく。
「はぁ…好き、好き、好き、大好き……んっ…」
軽く啄むようなバードキス。唇を離しては愛を囁き、また重ねる。続けて唇に舌を這わせ、下唇を甘噛みする。キスだけでも、声を漏らすほど反応しているのがよく分かる。
もう一度、厭らしく音を立てながら舌を啄む。唇で舌先を咥え込み、舌で舌先を転がすように絡める。
「やぁ、あ、う、んっ」
僅かに残る理性で、せめてもの抵抗をしようと舌を押し退けようとする。だが、器用に口内を滑る加賀に自分から絡める形となり、より加賀の感情を昂らせてしまう。
痛いほどに手を握り締められ、強く強く指を絡められる。もう片方の手は、『逃がさない』とも言わんばかりに後頭部を抱え込んで離さない。
「あ…ぁ、ああ、あぁっ…!」
支配される快楽に、何度も太腿を擦り合わせながらぴくぴくと震える。もはや二人の理性など、一欠片も残ってはいなかった。
おしごとおわらせてかえりゅ…
不意に胸を押し上げられる。唐突に込み上げるはっきりとした快感に目を見開き、また金属音を鳴らす。手の平で包んだり、下から持ち上げるように寄せたり、様々な形で刺激していく。
この間も、唇への愛撫は絶えない。歯の端から端まで舐め取るように舐り、舌の根元や歯肉の隙間まで余すところなく愛していく。
一際強く唇を押し当てると、唸るような声を挙げながら腰を浮かせてびくびくと大きく震えた。
「はーっ……はーっ……っん、くぁ、はぁっ…」
軽い絶頂。強く反応する部分を触らなくても、気持ちが昂ぶればここまで出来ると、提督は荒い息を吐きながら微かに残る思考力で脳に刻み込んだ。
「はぁ…ふふ…可愛い声、たくさん出てたわね…」
「!」
その一言で、はっとしたようにだらしなく開いていた口をきゅっと噤む。そのリアクションを待っていたかのように、加賀は微笑んで言う。
「我慢なんてしなくていいのに…ほら、もっと可愛い声を聞かせて?」
そう言いながら、鎖骨から胸へのラインをなぞると同時に加賀の首も胸元に下りていく。
加賀の頭で視界が塞がれていて、予測がつかなかった。
「きゃんっ!?」
不意に乳首を舌先で突かれ、また大きく口を開いてしまう。すぐさま歯を食いしばって口を閉じるが、今度は手で左の乳首を擦り上げたり、ぴんと弾いたり、右は乳房ごと咥えるように乳首を口に含む。唇に柔らかく包まれる感触と、硬い爪で掻くような断続的なタッチ。
「ん…!っふ、く、ぅ、ぃっ……!」
痺れるような甘い悦楽。声を出さずにいろと言う方が無理なほどに。提督が口を開いた一瞬の隙を見逃すことなく、すかさず指を口に侵入させる。
「あんっ!?や、りゃめ…!」
歯を合わせることが出来ないため、声を我慢するのも不可能となる。それを早々に察知した提督は口の端から涎を垂らしながら首を振るが、当然加賀がそれを受け入れるはずもなかった。
先ほどの加賀の責めにより、淡い桜色の乳首はすでに充血しきっていて、痛いほどにぷっくりと膨らんでいた。
またそれを口に含み、今度は舌の上で転がすように舐め回す。乳輪をなぞるように舌を這わせ、蕾を甘噛みし、赤子みたく吸い付いて離さない。
「ひっ、く、ああっ!んやぁ…!」
止め処なく押し寄せる快感に、背筋から足までピンと伸ばして身体を震わせる。胸だけで二回目の絶頂。
まだ触れてもすらもいないのに、その股座にはすでに大きく染みが広がっている。
「あ、ぁ…加、賀っ……」
すっかりと顔を蕩けさせ、求めるようにその名前を呼ぶ。加賀もそれに呼応して、
「提督……」
と呟きながら、秘所へと手を伸ばした。
何も思い浮かばない(死活問題)
「ひっ、う、あぁっ…!」
そっと秘唇を指でなぞるだけで、大きく身体を跳ねさせ官能的な声を漏らす。長い間焦らされたそこは、すでに受け入れられるという証である愛液で妖しく輝いていた。
淡い茂みを掻き分け、傷付けないように指先から秘裂を割いていく。じゅぷっという泡の弾けるような音に、互いの興奮がより高まる。
指を奥へ奥へと進める度に、淫らに脚を擦り合わせて加賀の手を圧迫する。が、今はそれすらも愛おしく思える。加賀は迷うことなく最奥へと指を突き入れた。
「ぁ、あっ、ああああああっ!?!いっ、っ、っ、っあ……!!」
密室に響き渡る、耳を劈くような絶叫。しかしそれはどこまでも甘く、深い愛によるものだった。
「あ、あ、あ、っ、っ」
あまりの快楽に、断続的かつ不規則な声を発しながら大きく肩を上下に揺らして息を吐いている。
それでもまだ、絶頂したわけではない。それを見抜いた加賀は休むことなく指を前後にグラインドさせ始める。
くちゅくちゅと湿った水音と共に、叩けば動く玩具のように熱量を帯びた嬌声が挙がる。
「い゛っ……!!」
一際大きく反応したところを、加賀は見逃さない。もう一度同じ箇所を探すために、激しく内部を暴れ回る。
「や、ぁっ……!」
目当ての物を見つけたように、一定の箇所でぴたりと動きを止める。そしてゆっくりと擦り上げてやるとより強く指を締め付けられた。
ここだ、間違いない。そう確信した加賀は新しい刺激を与え始める。
弱い部分を、指先で押し上げるように圧迫する。それだけで口の端から涎が垂れるのも厭わずに、大きく口を開けて声にならない声を挙げ始める。
しばらくの間圧迫し、すっと解放する。これを繰り返す度に汗が飛ぶことすら忘れ、未知の快楽に髪を振り乱して呻くような声で啼く。
「も、い、ひっ……!!」
早く気持ち良くなりたい。ただそれだけの欲望で突き動かされた舌はもはや言葉を作ることすら出来なくなっていなかった。荒い息を吐いて涙目で懇願する提督。
その唇にそっと額を寄せ、優しく口付けをすると同時に激しく指を動かし始める。
くぐもった声すら抑え込むように舌を絡め、いよいよ絶頂という瞬間に、陰核を親指の腹で擦り上げた。
「ーーーーーっ!!っ、ーーーーー!!!」
足のつま先までピンと伸ばし、背中を弓なりに反らして身体を震わせる。
どれくらいの時間が経っただろうか。加賀が唇を離す頃には、ぷっつりと事切れたように枕に頭を乗せて静かな寝息を立て始めていた。
R-18を殺した青年の睡眠
〜〜〜
提督「…………ん……」
提督「……ここ、は…」
提督「あ………」
提督(そうだ…私、昨日……)
提督(昨日……)
───『ぁ、あっ、ああああああっ!?!』
提督「っ!」ビクン
ジワッ…
提督(ああ、そうだった…加賀に…されたんだっけ…)
提督「………うぅっ…!」スリ…
提督(だ、ダメ…思い出したら、また……)
提督(なにか別のこと考えないと…)
提督(うん、別のこと、別のこと……)
提督「………」
提督(……明かりは点いてるけど…今は朝なのかなあ…)
提督(みんな、今何してるんだろう…)
提督(今鎮守府はどうなってるんだろう?私がいなくなって、みんな大騒ぎしてるのかな…寂しがってる子とか、いないかな…)
提督(ここに閉じ込められてから何日経ったんだろう…もう大本営には連絡が行ってるのかな…)
提督(だとしたら………ここが見つかったら、加賀は……)
提督(……でも、そうじゃなきゃ私はここから出られないし……)
提督(………どうすれば、いいんだろ…)
ガチャ
提督「!」ピク
加賀「ん……目が覚めたみたいね」
提督「…………」
加賀「そんなに睨みつけなくてもいいでしょう?昨日はあんなに愛し合ったのに」
提督「あれは一方的だったでしょ!?私はあんなこと望んでなかったのに!」
加賀「へえ…あれだけ大きな声を挙げておいて」
提督「ちがっ……!というか、それとこれとは関係ないじゃない!」
加賀「そう?」
提督「そうだよ!」
加賀「……まあ、なんでもいいわ」
提督「く……」
提督(ダメだダメだ、落ち着かなきゃ…)
加賀「どうかした?」
提督「はぁ………加賀…戻ろうとは思わないの?今ならまだ間に合うかもしれないからさ…」
加賀「どうあってもあなたを離すつもりはないわ」
提督「……みんな、悲しんでるかもしれないんだよ?」
加賀「前にも言ったでしょう?知って選んだ道だって」
提督「それでも…間違ってるよ…」
加賀「なら、誰が私の愛を肯定してくれるというの?」
提督「えっ…?」
加賀「あなたがこの愛を肯定してくれないのなら、永遠にこの気持ちは私の中で巡るだけ。そんなの、辛くて辛くて耐えられないわ」
提督「…………」
加賀「優しいあなたになら分かるはずよ。こうしなかったら、私がどうなっていたか」
提督「………狂ってる……」
加賀「どちらにせよ、もう戻れないわ…私も、あなたも」
提督「…………」
加賀「もう用件は済んだ?」
提督「………いいよ、もう…」
加賀「そう…なら次は私の番ね」
提督「…………」
加賀「昨日、たくさん汗をかいたでしょう?一応あなたが寝てる間に身体は拭いたのだけど…お風呂、入る?」
提督「…………」コク
加賀「…なら、鎖を外すから少し待ってて」スッ
ガチャガチャ…
提督(昨日、そんなにすごかったんだ…確かに全身がべとべとする…)
ジャラッ
加賀「……はい。念のため、手錠は着けたままだから」
提督「うん……」
加賀「鎖が長いから問題はないでしょう?」
提督「そう、だね…」
「ついてきて」
そう言うと同時に、提督の手元を掴み寄せて歩き出す。
「わっ」
長い間寝転んでいたせいか、地に足を付けるだけでバランスを崩して転びそうになる。振り返る加賀に見下ろされながら、草臥れた膝元を払いながら膝を立てる。
「…………」
引っ張ってしまったことに自責の念を抱いているのか、今度は母親が子供を連れ歩くように優しく手を引く。
「お風呂って……外にあるの?」
「外もなにも…見れば分かるわ」
今だ立ち上がれない提督を抱き起こし、急かすように歩みを進める。覚束ない足取りで、必死に後に続く。
そして、加賀がドアを開けた。
「あ……え…?」
扉が開いた瞬間、提督の頭は疑問の色で埋め尽くされた。それもそのはず、マンションの一室のように続く廊下と、何処かへと続いている複数の部屋。窓もあるが、それは朝日を思わせるように真っ白に輝いているものと、夜を思わせる真っ黒に染まっているものがあったからだった。
その光景の異様さに呆然としている提督を尻目に
、加賀は手首を強く引っ張る。
はっと現実に引き戻され、加賀の後に続くが、その視線は突き当たりにある鉄製の扉に釘付けだった。
「ほら」
がちゃり、というドアノブを捻る音。加賀に促され、縁を跨ぐとそこにはごくありふれたバスルームがあった。
提督「……そういえば、着替えは?」
加賀「抜かりないわ。あとで持ってくるから」
提督「わかった……」
加賀「…………」
提督「…………」
加賀「………どうしたの?」
提督「いや、これどうやって上脱げばいいんだろうと思って」
加賀「あ……ま、待ってて、今鍵を…」ゴソゴソ
カチャカチャ
提督(加賀ってたまにこういう抜けてるところがあるんだよね…だからと言って今抵抗しても私が力で敵うはずがないんだけど…)
加賀「……はい、もういいわ」
提督「どうも」
提督「………」
加賀「………」
提督「………」
加賀「………まだなにか?」
提督「いや、出てってもらわないと服脱げないんだけど」
加賀「どうして?」
提督「どうしてって、恥ずかしいでしょ…」
加賀「昨日嫌というほど見…」
提督「それとこれとは別なの!!いいから早く出てってよ!!」
加賀「は、はい」
ガチャ バタン
提督「もうっ……どっちが上なんだか…」
スッ パサ…
提督「はぁ……手錠なんてどこから持ってきたんだろう…」
提督「………うわ、すごい痕ついてる…」
ガチャ
加賀「もういい?」
提督「きゃっ!?ちょ、ちょっと、まだタオル巻いてないから!」
加賀「タオルぐらい別に」
提督「良くないの!!」ブンッ
ボスッ
加賀「そ、そうね…」フゴフゴ
パタン
提督「・ーっ、加賀のバカ!」
ガチャ
加賀「…………」ソー
提督「…………」シュル
加賀「…もう大丈夫そうね」
提督「わぁ!?ちょっ、まだ完全に巻けてないから!」
加賀「背筋くらいいいじゃない…」
提督「…………」ジト
加賀「な、なに?」
提督「…加賀って乙女心分かってないよね」
加賀「!?」
提督「いいよもう…ほら、早く手錠かけなよ」
加賀「え、ええ…」ススス
提督「……なんでそんなへっぴり腰なの?」
加賀「い、いえ…」カチャカチャ
提督「言いたいことがあるなら言いなよ」タンタン
加賀「ぁぅ……」
加賀「その…お、怒ってる…?」
提督「見て分からない?」
加賀「ご、ごめんなさい……」
提督「……謝るなら最初からこんなことしないでよ…」
加賀「………ごめんなさい」
提督「…………」
加賀「…それでも、私はあなたに幸せになってもらいたいだけだから…」
提督「……私の何から何まで奪ってでも?」
加賀「……ええ」
提督「………無理だよ」ボソッ
加賀「……!!」
提督「憲兵さんにここが見つかるのだって時間の問題なんだよ…?もしそうなって加賀が解体されたら、その時点で私は幸せになれないし…」
加賀「…………」
提督「たとえこんなことをされていても、加賀も鎮守府のみんなも私にとって大切な人達だから……そういう風には割り切れないよ…」
加賀「…………」
提督「…………」
提督「…………」
加賀「…………」
提督「……っくしゅ!」
加賀「! さすがにその格好だと冷えるわ…早く入って」
提督「………うん」
加賀「私は着替えを持ってくるから」
バタン
提督「…………」
ガラッ
提督「わ……結構広い…」
提督「お湯も貯められてるし…やっぱり加賀、気が利くんだよね…」
提督「………はっ、ダメダメ、甘やかしちゃダメだった…少なくとも、今は反抗しないと…」
提督「シャワーは……これかな…」
キュッ
シャアアア…
提督「あ……あーーー………」
提督「あは…あったかい…」
提督「ん……髪流さないと……」
提督「シャンプー……これかぁ」スッ
ガチッ
提督「あいたっ…もう、不便だなこれ…」
ガチャ
提督「ん……?」クル
加賀「私も入らせてもらうわ」
提督「へっ、ええええ!!??」
加賀「そんなに驚かなくても…私も汗を拭いただけだったし、さっきのあなたを見る限り心配で仕方ないわ」
提督「いやいやいや、大丈夫だから!ほんとに大丈夫だから!」
加賀「あなたに拒否権はない」
提督「……確かにそうだけど」
加賀「いいから座って、髪を流せないから」
提督(下手に抵抗してあとで何かされても困るしなぁ…ここは素直に従っておこう…)
提督「……分かったよ、好きにして」ストン
加賀「シャンプー、取ってもらえる?」
提督「……はい」スッ
加賀「ありがとう」
カシュッ
加賀「綺麗な髪ね…」スー…
提督「…どうも」
加賀「これだけ長いと手入れも大変じゃないかしら」スス…
提督「…そうでもないよ」
加賀「そう…?」シュ…
提督「んっ……」ピク
加賀「痛かった?」
提督「いや…ちょっとくすぐったい…」
加賀「くすぐったい……なら、どうすればいいの?」
提督「ん……こう、しゃかしゃかーって」
加賀「しゃかしゃかー…」
提督「んー…そうそう…」
加賀「痛くない?」
提督「気持ちいいよー…」
加賀「…………」シャカシャカ
提督「あー……」
加賀「………指が疲れてきたわ」
提督「ん…?ああ、長い髪を洗う時はコツがあってねー…」
加賀「そうなの?」
提督「うん…まずはこう、ね…」
加賀「ええ…」
〜〜〜
〜〜〜
提督「……そうそう、これで終わり」
加賀「なるほど…勉強になったわ」
提督「どうも…」
加賀「じゃあ、頭流すから」ガコン
提督「ふぁーい…」
キュッ ジャバジャバ
提督「…………」ボケー
加賀「…………」ワシャワシャ
提督「………はっ」
提督(危ない危ない、気持ち良くって流されるところだった…こんなところで心まで売り渡したら私まで戻れなくなる…)
加賀「身体は?」
提督「い、いい。自分で洗う」
加賀「そう…」
提督「よいしょっと…」
加賀「…………」ジー
提督「…………」ゴシゴシ
加賀(綺麗な肌ね……けど…)
ムニ
提督「っひぃ!?」ビク
加賀「少し無駄腹が付いてきたんじゃない?」
提督「」ピキッ
バッチィーーーーーン!!!!
チャプン…
提督「…………」ムスッ ブクブク…
加賀「…………」ヒリヒリ
提督「………はぁ……」
加賀「…………」ゴシゴシ…
提督「…………」ジッ
提督(……加賀が髪下ろしてるところ見るの、初めてかも…)
提督(なんだか新鮮、というか……大人の色気というか…)ジー
加賀「……あの、そんなに見られていると落ち着かないのだけど…」
提督「へっ?あっ、ああ、ご、ごめん」
加賀「…まだ怒ってる?」
提督「ん?そりゃそうだよ、私だって女なんだから、さすがにあれはデリカシーなさすぎるよ」
加賀「ご、ごめんなさい…」
提督「…………」
提督「……なんで謝るのさ……」
加賀「え?」
提督「普段なら笑い過ごせるようなことにわざわざ食いついて、それに怒って、少しでも加賀に嫌われようと思ってたのに…」
加賀「…どういう…」
ポタッ
加賀「!」
提督「だって…いつもみたいに優しくされたら、また、加賀のことを好きになって、そうなったら、もし…もしっ、お別れになっちゃったら、そんなの辛すぎて耐えられないよ…!」ポロポロ
加賀「あ……」
提督「もうやだよ、こんなの…加賀のこともみんなのことも大好きなのに、こんなに愛されたら、こんなに支配されたら、きっと加賀のことしか考えられなくなって…みんなのことも忘れて、自分が自分でなくなっていくのが怖くて…私、どうすればいいの…?」グスッ
加賀「っ………」ギリッ
提督「みんなで一緒に平和を掴んで幸せになろうって、そう約束したのに…どうしてこうなっちゃったの…?ねえ…」
提督「ねえ、なんで?どうして?どうして他の誰でもない私なの?私じゃなきゃダメだったの?ねえ…」
加賀「私、は…」
提督「………分かってるよ…全部、私が悪かったんだよね……そうだよ、私が…私のせいで、みんな不幸になって…私がみんなに優しくしたせいで…私のせいで……私のせいで……」
加賀「て、提督…?」
提督「あは…あはは…もうね、わかんないや……」
加賀「あの…」
提督「………もう、いっそのこと……」
加賀「!!」
パァン!
提督「……痛いよ…」
加賀「………もう一度同じことを言おうとしてみなさい、今度は歯が飛ぶわよ」
提督「ふふっ…おっかないなぁ…」
加賀「……あなたは今少し混乱してるのよ…お腹がいっぱいになれば、また普通に話せるから…」
提督「……そっか…」
加賀「………上がれる?」
提督「うん…」ザバッ
加賀「ほら、しっかり立って…身体を拭くから」
提督「…………」ボーッ
ゴシゴシ…
加賀「……はい、着替え。自分で出来る?」
提督「…………」
加賀「……ダメそうね…はい、右足を上げて」クイ
提督「ん……」
スルスル…
加賀「次は左足」
提督「…………」
スルスル…
加賀「えっと、とりあえずはこれで…あと胸当てと…シャツね」
提督「…………」
加賀「サイズは……よし、合ってる…袖、通せる?」
提督「うん……」スルッ
加賀「大丈夫?胸当て、苦しくない?」
提督「…………」
加賀「…とにかく部屋に戻りましょうか」
加賀の言う胸当てはブラのことです
なんかグダグダになってきましたね…
黒いんだったら更生の余地とか周りの人の意見聞いて考えさせられるとか一切なしでもいいんじゃ
>>81
先にコンセプトを言うと、加賀は提督と二人で幸せになろうとしてるけど提督が自分と居ることで不幸になってるからジレンマを感じてるっていう状況です
もう結末は決めてるんですけど、過程がグダッてるのが現状です…
提督「…………」
ガチャ
加賀「大丈夫?」
提督「…………」
パタン
加賀(返事がない…手錠も外しているのに、逃げようともしない…)
提督「…………」
加賀(相当衰弱してるみたいね…さっきのことで張り詰めていた気が一気に抜けたのかしら…)
加賀「提督、私が分かる?」トン
提督「うあ……?」
加賀「ご飯を食べさせてあげるから…ほら、口を開けて」
提督「…………?」
加賀(もう精神状態もまともじゃない……丸三日何も食べてないとここまで弱ってしまうのね…)
加賀(一度壊れた精神はもう元に戻らない…バラバラの破片がでたらめに組み合わされて、まるで別の人格のようになる…)
加賀(それを狙ってはいたけど、まさかこんな形になるなんて…)
加賀「………ごめんなさい」
提督「うぁ……」
加賀「……そうね。お腹、空いたわよね」
提督「…………」
加賀「ほら、口を開けて……そう、そのまま…食べて」
提督「ん………」パクッ
加賀「……ちゃんと噛まなきゃダメよ?」
提督「…………」モグモグ
加賀(精神が幼児退行してる…辛い現実に耐えられなくなった時、自衛のために自分を自分ですなくする……人の心は本当によく出来たものね…)
加賀「美味しい?」
提督「うん」
加賀「自分で食べられる?」
提督「うん」
加賀(もう立ち直り始めてる…驚くほどの回復スピードね…)
加賀(……もう、元通りにはならないだろうけど)
提督「………ふぅ」
加賀「お腹いっぱいになった?」
提督「うん……ごめんね、さっきはあんなこと言って」
加賀「…………」
ギュッ
提督「!」
加賀「怒ってなんていないわ……ただ、もうあんなことは言わないで。あなただって悲しくなるし、私だって悲しくなるから…これでも、あなただけを愛しているのよ」
提督「………うん」
加賀「約束、してくれる?」
提督「……指切り」スッ
加賀「ええ」
キュッ
提督「…………」ブルッ
加賀「どうしたの?」
提督「と、トイレ…」
加賀「あ、ああ…そうね、三日間ご無沙汰だったものね。ついてきて」
提督「う、うん」
ジャー
提督「はー…」
加賀「すっきりした?」
提督「うん、かなり」
加賀「そう…」
スタスタ
加賀「あ、ちょっと…」
提督「なに?」
加賀「いえ、どこに行くのかと…」
提督「どこって…部屋に戻るんでしょ?」
加賀「え?え、ええ」
提督「なら早く行こうよ、ほら」スタスタ
加賀(……自分から戻り始めた…?)
提督「よいしょっと……ねえ、手錠はかけないの?」
加賀「え?」
提督「私はどっちでもいいよ。ここにいるだけだし」
加賀「何を言っているの…?」
提督「だってここに居れば加賀が愛してくれるんでしょ?」
加賀「提督…?」
提督「私ね、思ったんだ。たくさんの誰かに愛されるより、一人にいっぱいいーーーっぱい愛された方があったかいって」
加賀「…………」
提督「ねえ、加賀は私を愛してくれてるんだよね?」
加賀「ええ、もちろん」
提督「ふふっ、よかった…そうだよね、私、ここに居ていいんだよね…えへへ…」
加賀「ええ……」
提督「ふあぁ……安心したらなんだか眠くなってきちゃった…」
加賀「そうね、ご飯も食べたばかりだから…少し眠った方がいいわ」
提督「うん…おやすみ…」
加賀「おやすみなさい」
加賀(……まさかここまで早く落ちてくれるとは)
加賀(時間の感覚も心も身体も支配されて、精神まで壊れて…きっと自分の世界があの部屋だけだと思い込んでるのね)
加賀(少し可哀想だけど……これも私とあの子の幸せのため)
加賀(…あともう一押しね)
加賀「ふふっ………」
提督「…………んぅ」
提督「ぁ……あれ…?私……」
提督「………そうだ、加賀に言われて寝てたんだ…」
提督「…………加賀?」
提督「…………」キョロキョロ
提督「あ、あれ……?」
提督「…………加賀ー…?」
シーン…
提督「い、いないの…?」
提督「うう…どこに行っちゃったの…」
提督「…………」ガチャガチャ
提督「動けない……」
提督「っ……!」ガチャガチャ
提督「このっ……!」ガチャッ!!
提督「外れろっ…!外れてよ…!!」ガチャガチャ
ガタッ! ガタンッ ダンッ!!
提督「会いたい、のにっ……加賀に…!」グググ
ミシ…ギチギチ
提督「痛っ……!」
ザリッ
ポタ…ポタ…
提督「はぁ……はぁ……」
提督「加賀…どこにいるの…?」
提督「お願いだから…いるなら返事してよぉ…」グスッ
提督「……………」
提督「…………加賀……」
提督「加賀……加賀……」
提督「もうやめてよこんなこと…やだよぉ……」
提督「お願いだから……私を一人にしないで…」ポロ…
提督「うっ…うっ、う、ううぅぅぅ……」ポロポロ
提督「…………」
提督「…………」
提督「………ぁ」
提督「………暗い」
提督「………怖い」
提督「一人は……」
提督「やだ……」
提督「寂しいよ………」
提督「加、賀………」
提督「…………」
〜〜〜〜〜
提督「………………」
ガチャ…
提督「…………?」ピク
スッ…
加賀「…………」
提督「…………!!か゛っ……げほっ、がはっ…!!」ガチャッ
加賀「ごめんなさい、長い間顔を見せられなくて……」スタスタ
提督「ごほっ……はっ、はっ…か、が……」ガチャガチャ
加賀「………?手錠?」
提督「こ……れ、外し………ぐっ…」ガチャッ ガタガタ
加賀「………分かったわ」カチャカチャ
カチッ…
提督「!!」ガバッ
ドサッ
加賀「うっ…?」
提督「うっ……うううぅぅ……寂し、かっ、た、よぉ…」ギュウウゥ
加賀「………ごめんなさい」ギュウ…
加賀「えと……その、とりあえず…それを片付けなくちゃいけないから、離してもらえる?」
提督「え……?」チラ
加賀「……そういうことよ」
提督「あっ、あ……」
加賀「ね?だから少し向こうで…」
提督「や…や、だ…」フルフル
加賀「……なんならすぐ近くで見てていいから」
提督「………なら、い、い」
加賀「…降りられる?」
提督「………っ」ガクッ
加賀「あ……」
提督「っご、ごめ……」
スッ グイッ
提督「ひゃ…!?」
加賀「なら、こうするしかないわ」
提督(お姫様抱っこ……///)カァ
ストン
加賀「待っててね」
提督「…………」コクコク
加賀「………はい、終わったわ」
提督「ぅ、あ……あ……」パクパク
加賀「…………」
加賀(長い間動かなかった弊害で筋肉が弱りきってる……それと栄養失調による精神の不安定化、水分不足による声帯の損傷……そしてずっと一人だったストレスで、心の依存先が私に決まった……)
加賀「……とりあえず、色々と補給をしましょう。その分だと何も話せそうにないから」
提督「ぁ………」ピクッ
加賀「分かってるわ、離れたくないんでしょう?」
提督「………」コクコク
加賀「台所まで連れて行ってあげるから…立てる?」
提督「…………」フルフル
加賀「なら、手を握ってあげるわ」スッ
提督「………!」ギュ
加賀「さ、行きましょう」クイ
提督「…………」ヨロッ フラフラ
加賀「さて…すぐに簡単なものを作るから」
提督「…………」
加賀「えっ、と…卵は…」
提督「…………」スッ
加賀「あ、ありがとう」
提督「…………」
加賀「醤油と……砂糖…」
提督「あ………」
クイクイ
加賀「?」
提督「こ…れっ…」スッ
加賀「え?……あ、ああ…塩と砂糖を間違えていたのね…ごめんなさい…」
提督「…………」ニコ
加賀「………ふふ…」
ーーーーー
ーーーーー
加賀「はい、お水」スッ
提督「ん……」
ゴク
提督「……ふぅ」
加賀「喋られる?」
提督「う、ん…げほっ、なんとか…」
加賀「大分回復したみたいね……ごめんなさい、こんなになるまで放っておいて…」
提督「……寂しかっ、たよ」
加賀「………これからは、ずっと一緒だから」
提督「ほんと…?」
加賀「ええ」
提督「…………」スッ
加賀「?」
提督「約、束……」
加賀「…子供っぽいところは変わらないわね」クス
キュ…
提督「えへ…指切りげんまん…」
提督「加賀……」チョイチョイ
加賀「……?近寄れって?」
提督「うん」
加賀「………」スス
提督「よいしょ…っと…」ギュ…
加賀「あ……」
提督「はぁ……ずっと、こう、したかった……」グッ…
加賀(腕に力がまるでこもっていない…かなり弱り切ってる…)
加賀「…………」ギュウ ナデナデ
提督「ん……ふあ…」
加賀「眠いの?」
提督「うん……」
加賀「……ならもう寝ましょう、私も一緒に寝るから」
提督「…………」
加賀(この目のクマ……私が来るまでずっと寝ていなかったのね……)
提督「……すぅ…」
加賀(安らいだ表情…完全に堕ちたみたい…)
加賀「……ふふ」
ーーーーー
提督「…………」
加賀「…………」
提督「…………」
加賀「…………」
提督「……起きてる?」
加賀「ええ」
提督「……なんか、今日一日このまま寝ていたい気分」
加賀「奇遇ね、私もよ」
提督「ん……じゃあ、このままね…」ギュウ
加賀「ええ」ギュウ
提督「…………」
加賀「…………」
〜〜〜
提督「…………」パチ
加賀「………おはよう」
提督「………おはよ」
加賀「…何か食べる?」
提督「いや、いいよ…私が作るよ」スク
加賀「あ」
ストン
提督「あうっ!?」ガクッ
加賀「ああ…」
提督「あ、あれ…足に力が入らない…?」
加賀「長い間寝ていたから、筋肉が落ちたのよ…ほら、立てる?」スッ
提督「うぅ…ごめん…」パシ
加賀「気にしないで、しっかりご飯を食べればちゃんと回復するから。喉も治ってるでしょう?」
提督「……そうだね、がんばろ」
加賀「お箸、使える?」
提督「ん〜…私は食べさせてほしいなぁ」
加賀「……じゃあ、はい」
提督「あ、そうじゃなくて…」
加賀「………?」
提督「えっと、まずは加賀が食べて…」
加賀「ああ…口移しがいいの?」
提督「うん、そういうこと」
加賀「………わかったわ」パク
モグモグ…
加賀「………ん」スッ
提督「よいしょ…」ギュ…
チュッ
加賀「………」ジュル…
提督「ん、んっ……」チュル…
加賀「………っは」
提督「ん…ふぅ…」
加賀「…どう?」
提督「えへへ…美味しい…」
加賀「なら、もう一回…」スッ
提督「あ……んっ…」
加賀「さて……もう喉の方は大丈夫みたいね」
提督「うん、全然痛まないよ」
加賀「問題はこっちね…」ググッ
提督「ん?手?」
加賀「こっちも」トントン
提督「足も?」
加賀「ええ。これじゃまともに生活出来ないでしょう?」
提督「私は加賀にお世話されるならそれでいいんだけど…」
加賀「ダメよ、いずれここを出なくちゃいけないから」
提督「え?」
加賀「さすがに私一人じゃあなたを運ぶのには無理があるわ」
提督「う、うん」
加賀「とりあえず、足を慣らすところからね…掴まって」スッ
提督「よいしょっと…」ギュ
提督「おっ…おお…」プルプル
加賀「ほら、まともに立てないでしょう?」
提督「た、立てるもん…」
加賀「……じゃあ手を離してもいい?」
提督「い、いいよ」
加賀「はい」パッ
提督「うあっ」
ストン
加賀「やっぱり」
提督「うう…こんなはずじゃ…」
加賀「数日間動かしていなかった上に何も食べていなかったから…あなたが思ってるよりも相当弱ってるのよ」
提督「はぁ……いつも当たり前にしてたことが出来ないって、なんかやだな…」
加賀「そうね、なら早く元どおりになれるように頑張りましょう」
提督「……うん」
提督「ふっ、は……く…」ヨロ…
加賀「頑張って、ここまで来られたらご褒美をあげるから」
提督「ん……!」フラッ ヨロヨロ
加賀「そう、その調子で…」
提督「ほっ……とうっ!」ダンッ
ガバッ
加賀「っと……」ギュ
提督「えへへ…頑張ったよ…」
加賀「ええ…お疲れ様」
チュッ
提督「ひゃっ」
加賀「ご褒美よ、よく頑張ったわ」ナデナデ
提督「んぅ…ふふ…」
加賀「今日はここまでにして…ご飯にしましょう」クイ
提督「うん」フラフラ
提督「ねえ加賀」
加賀「なに?」
提督「もう手錠はかけなくていいの?」
加賀「別にかけなくても逃げないでしょう?」
提督「まあそうだけど…うーん…」
加賀「悩みでもあるの?」
提督「いや…こう、手錠かけられてると加賀に支配されてるっていうか、満たされてるように感じるからさ…」
加賀「そうなの」
提督「でもやっぱり、こうして抱き合ってる時が一番好きかなー」ギュッギュ
加賀「甘えん坊ね」ナデナデ
提督「えへへぇ」
加賀「………提督」
提督「ん?」
加賀「後悔してない?」
提督「なにが?」
加賀「……ここに来たこと」
提督「してないよ、加賀が一緒だもん」
加賀「………そう」ギュウ
提督「あいたた…加賀?」
加賀「あなたを好きになって、本当に良かった」
提督「いきなりどうしたの…?」
加賀「愛してるわ」
提督「加賀…?」
加賀「……なんでもないわ、もう寝ましょう」
提督「う、うん」
ゴソゴソ
加賀「おやすみなさい」
提督「おやすみ…」
パチッ
加賀「…………」
提督「…………」パチ
提督「………んぁ…?」キョロキョロ
提督「………あれ、加賀…?」
シーン
提督「……いない…」
ゴソゴソ
提督「どこに、行ったのかな……」ストン
フラッ
提督「うっ……!」
グッ
提督「はぁ……っく…ダメ、自分の足で…」
提督「自分の足で歩かなきゃ…」ググ…
ヨロヨロ
提督「ここを開ければ…」
ガチャ
ゴンッ
提督「痛ぁ!?」
加賀「あ」
提督「いたた…」サスサス
加賀「だ、大丈夫?」
提督「う、うん…ってそうじゃなくて!もう、どこ行ってたのさ!」
加賀「いえ、そろそろ起きるだろうと思ってご飯を…」
提督「へ?あ、ほんとだ」
加賀「……食べる?」
提督「うん!」
加賀「…というか、一人でここまで歩いたのね」
提督「ん?うん、もうだいぶ楽になったよ」
加賀「そう…なら、あと少しで足は治りそうね」
提督「えへへ、すぐ治しちゃうからね!」
加賀「ええ…だから、今はそれを助けるためにも補給にしましょう」
提督「はーい」
加賀「……はい」
提督「あー……」
パクッ
提督「んー」モグモグ
加賀「美味しい?」
提督「うん!いつの間にこんなに上手になったの?」
加賀「暇を見つけては練習していたから…全部、あなたのために」
提督「えへへへ、やだなぁ、なんか恥ずかしいなぁ」テレテレ
加賀「……そういえば、お箸は持てるようになったの?」
提督「ん?どうだろう?」
加賀「やってみて」スッ
提督「ん……」カチャ
提督「………」プルプル
ポロッ
提督「あ…」
加賀「腕はまだみたいね…」
提督「うう…」
加賀「……焦る必要はないわ、まだ時間はあるから」
提督「う、うん…」
提督(時間…?)
加賀「……………」
提督「よっ、ほっ…は…」
加賀「……………」
提督「ふぅ……見て見て加賀、ここまで歩けたよ!」
加賀「……………」
提督「おーい、加賀ー?」
加賀「……………」
提督「むぅ…」グッ スタッ スタッ
加賀「……………」
提督「加賀ってばー」トントン
加賀「……あ…え…なに?」
提督「さっきからずっと反応ないよ?ちゃんと寝てる?」
加賀「……ええ」
提督「ならいいけど…あ、ほら、見て!自力でここまで歩けるようになったんだよ!」
加賀「そうね…ふふ、良かったわ」
提督「えへへ、もっと頑張るよー!」
加賀「……………」
ドンッ
加賀「…………!」ビクッ
提督「う〜……ん…」トタトタ
加賀「て、提督、こっちに来て」チョイチョイ
提督「ん…なあに?」フラフラ
グイ
加賀「っ………」ギュウ…
提督「わっ……いきなりどうしたの?」
加賀「…今日は、もう寝ましょう」
提督「え?で、でも、私まだ眠く…」
加賀「お願い……だから……」ギュゥゥ
提督「……そこまで言うなら…」
加賀「ごめんなさい…」
提督「……ううん、いいんだよ、加賀の望みは私の望みだから」ナデナデ
加賀「………ありがとう…」
ーーーーーー
タンッ ストン スタスタ
加賀「ん………」ムク
タタッ クルッ
加賀「……提督?」
提督「……あ、おはよう加賀!ほら、見て!」
加賀「………?」ゴシゴシ
スタスタ タタタ ピョンピョン
加賀「あ…」
提督「もうほぼ治ったよ!痛みもないし、ふらふらもしないし!」
加賀「そうね…ふふ、よかったわ…」ニコ
提督「あと一日もすれば完全復活、だよ!すぐに治しちゃうから!」
加賀「ええ…」
ドンッ
加賀「!」ビクッ
提督「? 加賀?」
加賀「……少しここで待ってて」
提督「う、うん…?」
ガチャ
バタン
提督「……どうしちゃったんだろ」
提督「うーん……」ゴロン
提督「……………」
提督(物音に反応してたというか…怯えてた、みたいな…そんな感じだったけど…)
提督「……………」
提督「………よくわかんないや…」
提督「……………」
提督「………かーがー……」ゴロゴロ
提督「……………」
提督「……………」ゴロゴロ
提督「…まだかなぁ」
提督「……………」
バタバタ
提督「!」バッ
ガチャッ
加賀「はぁ……はぁ……」
提督「そ、そんなに息切らしてどうしたの…?大丈夫…?」
加賀「はぁ……っ……」
提督「……加賀…?」
加賀「……間に合わなかったみたい」
提督「え?」
怒号と共に、勢いよく扉が開く。
それと同時に武装した憲兵達が統率のとれた動きで次々と部屋になだれ込み、加賀を取り囲むようにフォーメーションを形成する。
一瞬のうちに部屋中が十数人の憲兵で埋め尽くされた。
長期間外界との断絶が続いた提督は状況の理解が追い付かず、目を丸くして硬直している。
「元気でね」
憲兵に肩を担がれ、提督に微笑みかけながら呟く加賀。それだけ言い残し、憲兵に背中を押され振り返らずに歩き出す。
提督はただ、詰め寄る憲兵達で塞がれる視界の奥の加賀を呆然と眺めることしか出来なかった。
──────
『………何がありました?』
提督「……………」
憲兵「……聞き方を変えましょう。あの艦娘に、何をされましたか?」
提督「……………」
憲兵「……これもダメ、か…」
提督「……………」
憲兵「あの地下室で、どういう生活を送っていましたか?ベッドに手錠と鎖がありましたが…」
提督「……………」
憲兵「………はぁ……」ポリポリ
ガチャ
女憲兵「様子はどうですか?」
憲兵「全然ダメだな……もう丸二日だんまりさ」
女憲兵「そうですか…あれ?」
憲兵「どした?」
女憲兵「いえ、その食器…まだご飯が残っていますが」
憲兵「ああ、提督さんに食べさせろって言われたんだけどさ。無理やり食べさせようとしても嫌がるから無理なんだよ」
女憲兵「なるほど…困りましたね…」
憲兵「まったくだ、俺だってこれが終わらなきゃどこにも行けないってのに」
女憲兵「まあ、とても人柄が良いお人でしたし…相当ショックを受けているのかもしれません」
憲兵「その気持ちは分かるけどなぁ…飯くらい食ってくれないとこっちが心配になるぞ」
女憲兵「ええ…早急に手を打たなければなりませんね」
憲兵「はぁ……なんか一つでも答えてくれりゃあの艦娘の処置も決められるんだけどなぁ…」
提督「……………」ピクッ
憲兵「……そういや、そっちはどうなんだ?」
女憲兵「いえ…こちらもまったく同じですよ、何も喋らないし何も食べません」
提督「………加賀」
憲兵「ん?」
提督「加賀、生きてるの……?」
女憲兵「ええ、別室の方に居ますが…」
憲兵「まだ何も状況が掴めていないので、一応事情聴取という形で話を聞き出そうとしているのですが…」
提督「………返してよ」
憲兵「え?」
提督「加賀を返して…返してよ!私の加賀を!!返してよ!!」ガッ
憲兵「うおっ!?」
女憲兵「て、提督さん!落ち着いてください!」
提督「返して!!返してよ!!ねえ!!」
憲兵「お、おい、応援を呼んでくれ!おそらく錯乱状態に陥ってる!」グググ
女憲兵「は、はい!」ガチャ
バタンッ
「くっ、少し落ち着いて…い゛っ!?」
両手を抑えられているにも関わらず、物凄い力で喉元に食らい付く。憲兵は咄嗟に身を後方へ投げ、勢いよく壁にもたれかかりながら首筋を抑える。そこには幾つもの歯型が並び、当てがわれた指先に血が滲み始めていた。
「ふーっ、ふーっ…!」
獲物を前にした獣のような息を吐きながら、先ほどまで自分が座らされていた椅子を頭上高く持ち上げる提督。
「! ま、まっ」
憲兵の制止に聞く耳など持たず、なんの躊躇いもなくそれを振り下ろした。
鈍い打撲音と共に、憲兵の帽子が弾け飛ぶ。ピンポイントに打ち下ろされた頭はピンボールのように一度下に下り、また意識に吊られて上を向く。本能的にまだ意識があると判断した提督の脳は次の命令を身体に下ろす。
容赦はするな、殺せ、と。
「返せ!!返せっ!!」
狂ったように何度も叫びながら、何度も椅子で殴りつける。足、角、複雑に伸びたパーツがすでに動かなくなった憲兵の身体を揺らし続ける。
息を切らして、痺れた腕に従って椅子を落とした頃には真っ赤に染まった憲兵の額、扉近くの壁、そして提督自身。
一人の生命が終わった瞬間だった。
「こちらです!」
外から響く声と、複数の慌ただしい足音。早々にそれを察知した提督は、憲兵のホルスターにしまわれた拳銃を目敏く見つけすぐに引き抜く。
血に塗れた憲兵を投げるように押し退け、ゆらゆらと身体を左右に揺らしながら扉を開く。
「大丈夫です………っ!?」
駆け付けた女憲兵達は、目の前の惨状に声も出なかった。ギラギラと眼を血走らせてこちらを睨む赤く染まった提督と、その後ろに横たわるモノ。
現場の異様さを理解した一同は、すぐに長銃を構える。が、それを上回る速度で提督が照準を合わせ、次々と急所を撃ち抜かれた。
額、心臓、首。三人それぞれの箇所に空けられた風穴と、背後の壁に付着した大量の血。
それに目もくれず、提督は身体を翻し、加賀を探して覚束ない足取りで走り出す。
僅かに急所を外し、最後の気力を振り絞って身体を起こす一人の憲兵にも気付かずに。
「が、あっ……!?」
何かが弾けるような音と共に、逆転する視界。
気付けば自分は床に倒れ込んでいる。すぐに起き上がろうと腕を立てて上半身を起こそうとするが、足が動かない。
何かに引っかかっているのかと視線を向けると、そこには血溜まりが広がっていた。
脳が現状を視認し、大きすぎる信号を伝える。
大きく中心に空いた穴と、そこから流れ出す血で真っ赤に染められた足。
「っあ゛……!ぐ、うぅあ……!!」
痛い。熱い。あまりの激痛に、逆に意識が鮮明になる。
なんとか壁に手を付きながら立ち上がるが、撃ち抜かれた右足はまるで動かない。脛の骨ごと砕かれたようで、足を引きずることで動くのがやっとだった。
「は、あ゛っ……はぁ、はぁ…」
それも厭わずに、また歩みを進める。加賀が生きている、それだけが提督の希望であり原動力となっていた。
「おいっ、逃げているぞ!」
「探し出せ!血痕を辿ればすぐに見つかるはずだ!」
先ほどの銃声で、すでに数多くの憲兵達が動き始めている。見つかれば、恐らく殺される。いくら病人扱いとはいえ、四人も殺していればそれは免れないだろう。
「はぁ……はぁ……」
廊下の隅でへたり込む提督。服の袖を千切っただけの簡素なものだが、それを患部に巻き付け一時的な止血は済ませていた。
しかし、すでに興奮による痛覚の緩和や意識の覚醒はすでに抜け切っていた。
少しでも気を抜けば意識は遠退き、だからといって意識を戻すと耐え難い苦痛が身体を駆け巡る。
「う……」
鉛のように重く感じられる身体と、思考を支配する絶望感。
じきに居場所もバレてしまう。
現に、続く血痕を辿って一人の憲兵達が提督の前に立ちはだかっていた。
ここまでか、と諦めかけたその時。拳銃を突きつける憲兵が、前のめりに倒れる。
「あ……あ、ああ……!」
「大丈夫?」
そこに立っていたのは、他の誰でもない。そう、加賀だった。その顔を見た途端、安心感からか自然に涙が溢れ出す。
手にしていたモップを投げ捨てながら提督のもとにしゃがみ込むと同時に、足の傷に気が付いたようで、心配そうに覗き込みながら声をかける。
「その足…」
「えへ…撃たれちゃった…」
「撃たれちゃったって……あなた…」
悟ったような顔で、そう呟く。加賀も、提督と自分自身の置かれた立場を理解した。
「……これからどうするの?」
「…どうしよっか、なんのあてもないや」
「…………」
「いたぞ!!」
号令と共に、複数の憲兵が迷いなく一斉に発砲し始めた。押し倒すように庇う加賀に塞がれ、一瞬だけ視界が真っ暗になる。
不意にのしかかる体重に目を開けると、すぐ隣には苦痛に表情を歪ませ横たわる加賀がいた。その背中にはいくつもの赤い点が作られている。
「加、賀……このぉっ!!」
再び心が黒い感情に支配され、怒りに震えながらも努めて冷静に手持ちの拳銃で四人のうち三人の急所を的確に撃ち抜いた。
残ったもう一人もすぐに狙撃しようとするが、トリガーを弾いても虚しい音が響くだけで銃弾は出ない。この拳銃には六発しか弾が装填されていなかった。
「お許しください…!」
「………!」
悲痛な表情を浮かべながら銃口を向ける憲兵。そこから放たれた鉛玉は、確かに提督の腹部を貫いた。
「ごふっ……」
内部破壊の衝撃に、堪らず口から血を吐き出す。しかしその目はまだ死んでいない。人を殺める恐怖と罪悪感に目を固く閉ざしたのが仇となり、提督にとっては功となっていた。
先に加賀が気絶させた憲兵の傍に転がっていた拳銃を素早く拾い上げ、返す刀で太腿を撃ち抜く。
呻きながら崩れ落ちる憲兵に、何発も何発も怒りをぶつけるように銃弾を撃ち込む。
狂ったように引き金を弾く提督を止めたのは加賀だった。
跳ねる拳銃に優しく手をかけ、そっと下ろしながら提督を見つめる。
それだけで提督はいつも通りの落ち着きを取り戻した。
「あはは…もうどこに行ってもダメだね、これ…」
「ふふ……そう、ね…」
息も絶え絶えになりながら、二人顔を見合わせて乾いた笑いを響かせる。
提督の腹部からも、加賀の背中からも、どくどくと流れ出す血は止まらない。そう、提督が撃ち抜かれた箇所もまた、急所。それは生命の終わりが近いことを明確に示していた。
「………ねえ」
「うん…?」
「どうせなら、誰にも邪魔されない、二人だけの場所で……」
「………うん」
言い終わる前に、全てを理解した提督。
お互いを助け合いながら、ゆっくりと身体を起こす。ついに足が限界になり、歩くことすら出来なくなった提督を担ぐように腕を回し引きずりながら歩き出す加賀。
血みどろの廊下を後に、二人が目指す場所は外だった。
薄透明のガラス扉からは、蒼く輝く海が見える。
近くに落ちていた棒切れを拾い、扉の取っ手に引っ掛ける。気休めでしかなかったが、それでも残り少ない時間とその目的を全うするには十分だった。
足を進める度により色濃くなる血痕を増やしながらも、確実に海へと歩き続ける。
「……………」
「提督………提督?」
「……………」
「……眠ってる、のね…呑気なもの、だわ…」
失血により意識を失った提督。寂しさを感じながら歩く加賀。もはや痛みすらもなくなっている。
ふと空を見上げると、キャンパスに描いたような蒼とその中心に高く登った太陽。
心の中で『お別れね』と呟きながら、顔を伏せて歩き出す。
背後からかすかに聞こえる怒声など、すでに二人にとっては何の意味も成さない。
額に汗が滲み出てくる頃、二人は沖合近くの堤防まで辿り着いた。
静かに音を立てて弾ける波。
その波に乗せて、優しく揺り起こすように声をかける。
「提督」
「ん………」
「着いたわ」
「そっか……うん、ありがと…」
自分から肩を下りる提督。弱々しく加賀の方へ手を伸ばし、加賀もそれを強く握り返す。
「……………」
「怖い?」
「ううん……加賀と一緒だから、怖くないよ」
「ええ……私も、あなたと一緒なら何も怖くないわ」
「………それじゃ、行こっか」
「………ええ」
「「二人だけの、世界へ」」
白く細やかな泡を巻き上げながら、二人同時に海へと身を落とす。
みるみるうちに遠くなる海面、そして陽の光。
潮の流れに乗って、どんどん人の手が付かない沖合まで流される。
傷口から血が流れ出し、身体の内部にまで海水が染み渡っていく。やがて肺にまで海水が侵入してくるが、苦しさなどは微塵も感じない。
それどころか、最愛の人と運命を共にするという幸福感に包まれ、むしろ心地よいような感情にすら思える。
深く、より深く、優しく海に融けるように沈んでいく二人。
固く結ばれた手が、決してお互いを離さずに繋ぎ止める。
そっと暗い海底へとその身を落ち着かせる頃には、すでに二人の命は終わりを迎えている。
しかし、その表情は何よりも安らいだものであった。
加賀編終わり
めちゃくちゃグダった…
提督「…………」カリカリ
コンコン
提督「ん……入っていいよ」
ガチャ
羽黒「し、失礼しますっ!」
提督「お疲れ様、羽黒……ってそんなに堅くならなくてもいいよ、楽にして」
羽黒「は、はい…」
提督「で、用件は?」
羽黒「あ、は、はい!作戦完了の報告書です!」スッ
提督「お、ありがと」
パラッ
提督「………ん」
羽黒「…………」ドキドキ
提督「羽黒、MVP取ったんだ!よくやったね」ガタ
羽黒「!」ピク
ナデナデ
羽黒「んぁ…えへ、えへへ…///」
提督「これからもこの調子で頑張ってね」ポンポン
羽黒「はい!司令官さんのために、頑張ります!」
提督「さてと…そのためにも、まずは傷を治して補給しないとね。ほら、行っておいで」
羽黒「はいっ!失礼します!」
ガチャ
バタン
提督「…羽黒、着任し立ての頃とは見違えるほど強くなったなあ」
提督「心も、身体も…」
提督「…………」
提督(……なら、もうそろそろいい時期かな…)
羽黒「ふふっ、うふふ……」
羽黒「司令官さんに褒められちゃった…頭まで撫でてもらって…」
羽黒「えへへ………えへへへ…」
羽黒「MVPを取ったら、また褒めてもらえるかな…」
羽黒「なら、もっと……もっと頑張らなきゃ…」
羽黒「もっと……」
羽黒「ふふっ……」
羽黒「…………」
ドーン ガンッ バンッ
那智「おいっ、羽黒!少し前に出過ぎだ!」
足柄「ちょ、ちょっと!さすがに危険よ、下がりなさい!」
羽黒「はぁ、はぁ、はぁ…」ダンッ バシュッ
妙高「………聞こえていないみたい」
イ級「ギィ…」
ドンッ
羽黒「!」
那智「羽黒!」
ドォォン
羽黒「うう……?」
妙高「大丈夫?」
羽黒「あ……妙高姉さん…」
ドンッ
イ級「グエッ」
那智「まったく…こんな弱い奴に気付かないとは、少し油断しすぎじゃないのか?」
足柄「羽黒…あなた、最近ちょっとおかしいわ…」
羽黒「………ごめんなさい…」
妙高「…終わったことはもういいから、今は早く帰りましょう」
那智「ああ…それが先決だな」
羽黒「……………」
提督「羽黒の様子がおかしい?」
足柄「ええ…あの子、気弱なはずなんだけど…最近は人が変わったみたいに好戦的になってるというか…」
提督「うーん……なにかあったのかな…」
足柄「さあ…それは分からないけど、相当無理をしてるように見えるわ…」
提督「うん……あとで言い聞かせておくよ」
足柄「よろしく頼むわね」
バンッ
金剛「テイトクゥーーーー!!!」ドドドド ガバッ
提督「うわあ!?ちょっ、金剛!?」
ドサッ
金剛「やりまシター!ワタシ、MVPデース!!」ギュゥゥゥ
提督「わ、わかったから!わかったから退きなさいってば!」グイグイ
金剛「テーイートークゥー!!」スリスリスリスリ
提督「もおおお!!」
足柄「元気ねえ…」
バタンッ
足柄「……?」
タタタ…
羽黒「なんで……なんで金剛さんと司令官さんがあんなに近くに…」
羽黒「私もあんなのしたことないのに…なんで……」
羽黒「MVP……とったら…また一番になったら、私もあんなことしていいのかな……」
羽黒「なら、もっと頑張らなきゃ…まだ…こんなのじゃ、まだ……」
羽黒「司令官さんに……司令官さんに……」
羽黒「司令官さん……」
羽黒「…………」
提督「…………」
足柄「提督!」
提督「ん、足柄……そんなに慌ててどうしたの?」
足柄「大変よ…!羽黒が、羽黒が…!」
提督「羽黒が、どうかしたの?」
足柄「羽黒が、一人で沖ノ島海域に出撃しちゃったのよ!」
提督「えっ…!?」
足柄「入渠もせずに、ボロボロの艤装を担いで…とにかくまずいわ!」
提督「わ、分かった!すぐに他の妙高型と一緒に出撃して、羽黒を追って!」
足柄「了解!」
タタタ…
提督「羽黒……」
妙高「……見つけた!」
羽黒「…………」
那智「羽黒!」
足柄「羽黒、無事だっ……!?」
羽黒「あ……姉さん……」
那智「な…なんだ、これは…」
妙高「エリートル級にフラグル級二体が……」
足柄「うそ……これ、全部羽黒がやったの…?」
羽黒「うん…えへへ、私、頑張ったから…私…司令官さんに……えへ…へ……」
フラッ
妙高「羽黒!」ガシッ
羽黒「う……」
那智「かなり危険な状態だ…とにかく戻ろう」
提督「…………」ウロウロ ソワソワ
ガチャ
提督「!」
妙高「ただいま帰投しました」
提督「ど、どうだった?羽黒は?」
足柄「今さっき休ませたところ…ずっと無理し続けて、疲労が溜まってたみたい」
那智「だが命に別状はないようだ。一日も休めば治るだろう」
提督「そ、そっか……はぁ……よかったぁ…」ヘニャ ペタン
妙高「あ、一応報告書がありますけど…」
提督「うん…もらっておくね、ありがとう。みんなもお腹空いてるでしょ?早く補給しておいで」
足柄「………ね、ねえ、もしよかったら、一緒にご飯食べない?」
提督「え?ああ…ごめんね、私報告書作らないといけないから…」
妙高「そう…ですか」
那智「残念だな…」
提督「あはは…また今度機会を作るから、今日はみんなで楽しんできて」
「「「了解」」」
〜〜〜
提督「…………」
ガチャ
羽黒「失礼、します…」
提督「………羽黒」
羽黒「……はい」
提督「呼び出された理由、分かってるよね」
羽黒「……はい」
提督「言いたいことが二つあるの」
羽黒「……はい」
提督「まずは一つ………単身での勝手な出撃。これはどういうことなの?」
羽黒「っ………」ビク
提督「上官である私の指示もなしに戦場に赴くなんて…下手したら死んでたかもしれないんだよ」
羽黒「ご、ごめんなさい…」
提督「今回は無事に帰ってきてくれたからよかったものの、次こんなことがあれば…どうなるか分かったことじゃないからね」
羽黒「はい……」
提督「………でも、まあ」
羽黒「………?」
提督「一人であれだけの戦果を挙げられるなんて、すごいものだよ」
羽黒「………!」
提督「よく頑張ったね、羽黒」
羽黒「は、はい…!」
提督「あと……」ツカツカ
羽黒「へ?」
ギュウ…
羽黒「………!??」
提督「もう、二度とこんなことはしないでね……大切な子が沈むのなんて、絶対に嫌だから……」
羽黒「は……はひ……////」
提督「………よし」パッ
羽黒「あっ……」
提督「今回の件は内密にしておくからね。ほら、演習行っておいで」
羽黒「………はい、失礼します!」
バタン
提督「………ふぅ」
那智「………いいのか?」
提督「うわぁ!?な、那智!?いつの間にいたの!?」
那智「いや、ずっと部屋の前で話を聞いていたんだが…」
提督「そ、そうなんだ…それで、いいってなにが?」
那智「羽黒のことだ。なんの処罰も与えないでいいのかと聞いている」
提督「ああ、そのことね……確かに羽黒のしたことは悪いけど、それでも頑張ってくれたから…それに、なんだか羽黒の成長が嬉しくて…」
那智「………そうか。だが、この件はどう大本営に報告するつもりだ?」
提督「問題ないよ。私もそれなりに偉い立場だし、ちょっと顔を利かせればこれぐらいは…ね」
那智「そ、そうか…」
提督「さてと、お仕事お仕事」ガタ
那智「……………」
提督「………」カリカリ
那智「……………」
提督「………」カリカリ
那智「……………」
提督「………」ピタ
那智「……………」
提督「………あのー」
那智「なんだ?」
提督「いや、いつまでそこにいるのかなーって…」
那智「あ……邪魔だったか?すまない」
提督「そういうわけじゃないんだけど……ただちょっと視線が気になって」
那智「それは悪かった…なら、私はこれで失礼させてもらうよ」ガチャ
提督「あ……」
バタン
提督「………嫌味に聞こえたかな?」
提督「…………」モグモグ
妙高「あの、提督」
提督「んぁ、妙高?どうしたの?」
妙高「もしよろしければ、ご一緒してもよろしいでしょうか?」
提督「ああうん、いいよ」
妙高「では、お隣失礼します…」ガタ
ストン
提督「珍しいね、妙高がこんな時間にご飯なんて」
妙高「ええ…少し、提督とお話がしたくて」
提督「? なんの話?」
妙高「……羽黒のことです」
提督「羽黒?」
妙高「はい…あのようなことになってしまったのは、姉である私達がしっかりと羽黒を目の届く場所に置かなかったからです。申し訳ございませんでした…」
提督「ちょ、ちょっと!今さらそんなこと気にしなくていいってば!」
提督「元はと言えば私が早く仕事を片付けなかったせいでみんなにちゃんとした指示を伝達出来なかったわけだし、そもそも艤装のロックすらしてなかった私が悪いっていうか、あの…」
妙高「…………」
提督「なんていうか……ああもう!とにかく妙高達は悪くないの!余計な心配させてごめん!」
妙高「………ふふ」
提督「……なんで笑うのさ」
妙高「いえ…提督はお優しいのですね」
提督「うぇっ?い、いきなりなに?//」
妙高「羽黒も、随分気負っていたようでしたので…提督とお話をしてからは楽な表情になっていましたから」
提督「そうなんだ…よかった…」
妙高「提督には助けられてばかりですね…本当に、いつもありがとうございます」
提督「やめてよ、恥ずかしい…//」
提督「私の方からも、ありがとうね」
妙高「えっ?」
提督「ここに着任した当時の羽黒ってば、いつもおどおどして怖がってたから…それを近くで支えて応援してくれてたのは妙高達でしょ?だから、羽黒はあんなに強い子に育ってくれたんだなあって」
妙高「そうでしょうか……いえ、そうですね」
提督「なんだかずっと手のかかっていた娘が立派に育ったみたいで…とっても嬉しいんだ」
妙高「母親みたいなことを言うのですね」
提督「そうだね……そろそろ、一人立ちさせてもいい頃だよね…」
妙高「…………」
(このスレの存在そのものを忘れていた者の顔)
専ブラってなんだよ(池沼)
なるほど…ありがとうございます
〜〜〜
コンコン
提督「入っていいよ」
ガチャ
羽黒「し、失礼します」
提督「ごめんね、急に呼び出したりして」
羽黒「い、いえ!そんな、滅相もない!」
提督「あはは…そんなに固くならなくていいよ、楽にして」
羽黒「は、はい…」ニコ
提督(自然な顔で笑えるようになったなぁ…)
羽黒「それで司令官さん、伝えたいことって…」
提督「ああ、うん…口頭でいいかな」
羽黒「は、はいっ!」
羽黒(伝えたいことってなんだろう…もしかして…も、もしかしたら…)
提督「こほん……えーっと、今後の方針の話なんだけど…」
羽黒「あ…はい…」
羽黒(やっぱり…そんなこと、あるわけないよね…)
提督「羽黒を、今日付けで第二遊撃部隊に配属させることにするね」
羽黒「……………えっ?」
提督「好きな時に出撃して、好きなだけ暴れて…まあ、他の子達との予定も組まないといけないし私の管理下にもあるから完全に自由とは言えないんだけど……」
羽黒「……………」
提督「……羽黒?聞いてる?」
羽黒「なんですか、それ」
提督「え?」
羽黒「なんなんですか、それ!?私は必要ないということですか!?」ガッ
提督「っうわ、ちょっ…!?」
羽黒「どうしてですか!?遊撃部隊なんてそんな、私は…!!」
提督「い、いや、羽黒、最近張り切ってたみたいだから、好きにさせてあげようかなって」
羽黒「そんなの嫌です!司令官さんの指揮の下で戦って、司令官さんに褒められたくて頑張ってたのに…私はもう要らないんですか!?」
提督「ちがっ、私はただ、羽黒がもう一人でも」
羽黒「やだよ…そんなの、やだ…悪い事をしたのなら謝りますから、司令官さんのためならなんでもしますから…!許してください、お願いです…!」
提督「ちょ、ちょっと落ち着いて…」
羽黒「や、やだ…!見捨てないで…!私を一人にしないで…!」ググ…
提督「痛っ…!は、羽黒…」
羽黒「いや、いや、いやっ…!離れないで、そばにいて……!!」ギュウウ…
提督「う、ぐ……」
ガチャ
響「司令官、加賀さんと瑞鶴さんが喧嘩を……あれ」
羽黒「……………」ギュゥゥ…
提督「あ、響…」
響「…何をしているのかな」
提督「ああ、えっと…ごめん、先に用件を聞かせて」
響「……加賀さんと瑞鶴さんが喧嘩をしているから、司令官に止めてもらいたいんだけど」
提督「う、うん……ちょっと待ってね。ほら、羽黒、離れて…」
羽黒「!」ビクッ
ギュウッ
提督「痛っ…!わ、わかった、わかったからもう…」
羽黒「……………」フルフル
響「………司令官?」
提督「ごめん、響…みんなでなんとかしてくれないかな…」
響「……………」クル
ガチャ
バタンッ
提督「うぅ…」
提督「…………は、羽黒」
羽黒「……………?」
提督「そ、そろそろ離れて…お仕事が…」
羽黒「え……」ジワ…
提督「ああ、もう…」
提督(お仕事出来ないのは困るけど、羽黒を泣かせるのも嫌だし…)
提督(どうしよう…)
羽黒「……………」ギュウ
提督「うっ…い、痛いよ…逃げないから、もうちょっと力弱めて…」
羽黒「嘘じゃないですよね」
提督「あ、ああ…うん…」
羽黒「……………」スッ
提督「え?」
羽黒「約束」
提督「……………」
キュッ
羽黒「ふふっ……えへ、えへへへ…///」
提督「はぁ……」
提督「……………ううっ」ブルッ
羽黒「……………」
提督「は、羽黒……羽黒っ」
羽黒「?」
提督「その……ちょ、ちょっとトイレに行きたいから、離してくれないと…」
羽黒「えっ…い、いや…」ギュゥゥ
提督「すぐ戻るから!お願いだって!」
羽黒「わ、私も行きます…」
提督「う〜、それでもいいから…も、もうダメっ…!」ダッ
羽黒「あ、ま、待ってください!」バタバタ
ガチャ
バタン
提督「うーっ……は、羽黒…」
羽黒「はい?」
提督「な、なんで同じ個室にいるのかな」
羽黒「逃げないって約束しましたよね?」
提督「それはそうだけど…でも、だからってさすがにこれは…」
羽黒「どうしてですか?」
提督「いや…は、恥ずかしいでしょ…///」
羽黒「……そんなに、私のことが嫌いですか…?」
提督「そ、そういうわけじゃ…うう…」ブルッ
羽黒「あの約束は、嘘だったんですか…?」
提督「ああ、もうっ!分かった、出て行けなんて言わないから!お願いだから、せめて向こう向いてて!」
羽黒「……はい」クル
提督「あ…う……///」ジワ…
羽黒「…………」
ジャアアア…
提督「はぁ……」
ガバッ
提督「うわっ、ちょ…羽黒…」
羽黒「…………」ギュウ
提督「そんなにくっつかれると歩きづらいんだけど…」
羽黒「…………」
提督「………ねえ、聞いてる?」
羽黒「…………」
提督「………はぁ」
提督(ずっとこのペースだと疲れてくるなあ…早く戻ってくれればいいんだけど…)
提督(……もしかして、ずっとこのままだったり…)
提督「…………」
提督(……いやいや、さすがにそれはないよね、うん…)
ガチャ
加賀「失礼しま……」
提督「あっ…か、加賀…」
羽黒「…………」ギュ
加賀「………これ、報告書」トン
提督「あ、う、うん。ありがとう」
羽黒「…………」
加賀「……で、何をしているの?」
提督「っ……!」ギクッ
羽黒「…………」
加賀「答えて。早く」
提督「え、えと、その、これは決してそういうわけじゃ…」
加賀「あなたじゃなくて、この子に聞いてるの。あなたは黙っていなさい」
羽黒「…………」
加賀「……何も言わないのね。なら私から言うわ」
提督「ちょ、ちょっと…」
加賀「退きなさい。そこはあなたの場所ではないわ」
羽黒「……嫌です」
加賀「…………」イラッ
提督「ま、待って加賀!これは私が頼んだことなの!」
加賀「………なに?」
提督「その、羽黒は人見知りするところがあるから、それを克服させようとこうして、ね?」
加賀「…………」
提督(む、無理があったかな…)
加賀「……あなたがそう言うのなら仕方がないわ」
提督「!」
羽黒「…………」
加賀「……けど、次やる時はもう少し人目に付かない場所でやることね」
提督「う、うん、そうする」
加賀「それじゃ、私は演習に戻るから」
提督「頑張ってねー…」
バタン
提督「……はああぁ…もう、羽黒…今回は何もなかったからよかったものの、次誰かに見られたら何を言われるか……」
羽黒「…………」
提督「ねえ、羽黒ってば!聞いてるの?」
羽黒「…………」
提督「………はぁ……」
羽黒「………かった」ボソ
提督「え?」
羽黒「司令官さんが、誰にも取られなくてよかった……ふふ…ふふふっ……」
提督「…………」ゾッ
羽黒「……ね?司令官さん」
提督「えっ……え、あ、う、うん…」
羽黒「えへ……約束、したから…えへへ……///」
提督「…………」
提督「…………ふぅ」
提督(結局お仕事全く進まなかった…)
提督(執務室に来た子達みんなに変な目で見られるし…)
提督「…………」チラッ
羽黒「zzz……」
提督(……羽黒は寝てるし)
提督「はぁーあ……」
提督(どうしてこうなっちゃったんだろう……)
提督「…………」クルクル
提督「………あ、もうこんな時間だ」
提督(お風呂入ろう…)
ガタ
羽黒「!」ピクッ
提督「うわっ」
羽黒「ど、どこに行くんですか?」キュッ
提督「い、いや、お風呂に入ろうと…」
羽黒「わ、私も行きます」
提督「……うん」
提督(やっぱりこうなるよね…)
提督「よいしょっと……」ガコン
羽黒「…………」
提督「…………」チラッ
羽黒「? なんでしょうか?」
提督「……ううん、なんでも」
提督(なんでこの広い脱衣所でずっと私の隣にいるかな〜…)シュル
パサッ
羽黒「…………」ジッ
提督「…………ん?」クル
羽黒「…………」
提督「…………」
提督(見られてる……わけじゃないよね、だとしたらものすごい恥ずかしいんだけど…)
羽黒「…………」
チャプン…
提督「はぁ〜………」
羽黒「はふぅ………」
提督「……………」
羽黒「……………」
提督「…………」スス
羽黒「…………」ススス
提督「…………」
羽黒「…………」
提督「……ね、ねえ羽黒」
羽黒「はい?」
提督「ここじゃなくても、別の浴槽もあるけど…」
羽黒「ここがいいです」
提督「だ、だよね…はぁ…」
提督(そろそろ暑くなってきたなあ……髪洗わなきゃ)
提督「…………」
ザバッ
羽黒「!」
ザバッ
提督「………まだ浸かっててもいいんだよ?」
羽黒「い、いえ、お背中流します」
提督「…………わかったよもう、好きにして」
羽黒「はい♪」
提督「はぁ…」
提督「シャンプー…」
羽黒「どうぞ」スッ
提督「…ど、どうも」
カシュッ
シャカシャカ…
提督(普通にいい子なんだけどなあ…なんだか、今日はいつも通りじゃないというか、ちょっと……)
提督(……ううん、いきなりあんなこと言われて少し混乱してるだけだよね。このままいけば、すぐにいつもの優しい羽黒に戻ってくれるはず…)
羽黒「あ、あの…司令官さん、タオルを…」
提督「ん……う、うん……」
スル…
羽黒「…………」
パシャッ
提督(あ……目元に泡が)
提督(目が開けられない…)
羽黒「司令官さんの髪、綺麗ですね…」
提督「あ、ああ、うん…ありがと」
羽黒「……髪だけじゃなくて、こっちも……」スッ
提督「ん……んえ?ちょ、羽黒…?」
ピト
提督「っ……!?」ビク
羽黒「綺麗な肌……」スリ…
提督「やっ……!ちょ、は、羽黒…!」
羽黒「はぁ……はぁ……」サスサス
提督「んあっ…///」
提督「ど、どこ触って……やあっ……///」ビクッ
羽黒「司令官さん……司令官さん……」スス…
提督「あ……ま、待っ……」
提督(だ、ダメ…!ここで拒絶したら、また……!)
提督「う……んぅ…!」ビクン
羽黒「ふふ、ふふふ……可愛い…」ムニ
提督「ひっ、あ…うう……///」
羽黒「……あむっ」
提督「やんっ…!そっ、そこ、だめ…あっ…!///」ビクッ ピクン
ーーー
ーーーーー
ーーー
ーーーーー
提督「…………」グッタリ
羽黒「えへへ……♪」
提督(結局されるがままだった…)
提督「…………」チラ
羽黒「どうしました?」
提督「………なんでもない」
提督(すごい疲労感……き、気持ちよかったけど……)
提督「………私もう上がるね」
羽黒「あ、ま、待ってください」
提督(いつまで続くんだろう、これ…)
提督(疲れた……もう寝よう……)ゴソゴソ
羽黒「あ…もう寝るんですか…?」
提督「ああ、うん……」
羽黒「…………」
提督「…………」
羽黒「…………」
提督「……入りなよ」スッ
羽黒「! はい…♪」
ゴソゴソ
提督「…………」
羽黒「えへ……暖かいですね…」
提督「…………」
羽黒「司令官さん……」
提督「…………」
羽黒「……司令官さん?」
提督「………zzz」
羽黒「あ、あれ…もう寝ちゃってる…」
提督「すー……」
羽黒「…………」
チュッ
羽黒「ふふ…ふふっ……」
チュッ
チュッ
羽黒「可愛い司令官さん……私の…」
羽黒「私だけの……」
チュッ
〜〜〜
提督「…………」パチ
羽黒「すぅ……」
提督「………うぅ…」ムクリ
提督「眼鏡……」
カチャ
提督「んん…まだ六時かあ…」
羽黒「ん……えへ…」
提督「…………」
ゴソゴソ
提督「顔洗おう…」
パタパタ
バタン
羽黒「zzz……」
提督「ふあぁ……」ゴシゴシ
バタンッ
提督「……ん?」
足柄「あっ……おっ、おはよう…」
提督「お、おはよう…足柄も早いね」
足柄「え、ええ。昨日は早く寝たから」
提督「そっか……じゃあ私、顔洗ってくるから」
足柄「あ、待って、私も行くわ」
提督「ん…うん」
ジャバジャバ
キュッ
提督「はーっ…目が覚めるねえ」
足柄「そうね、身が引き締まるわ」
提督「よーし……なにしようかな」
足柄「何も決めてないの?」
提督「だって、みんなまだ寝てるし…鳳翔さんは起きてるだろうけど」
足柄「まあそれもそうか…ところで」
提督「?」
足柄「昨日、羽黒と寝ていたの?」
提督「っ……!?な、なんでそれを…」
足柄「毎日同じ部屋で寝てるんだから知ってて当然でしょ。そんなに驚くこと?」
提督「あ、そ、そっか…そうだね、うん…」
足柄「…ねえ、あの子に何かされた?」
提督「へっ?」
足柄「いや、あの子、昨日ずっと提督と一緒にいたから…ちょっと様子もおかしいし」
提督「な、何もされてないよ。大丈夫」
足柄「そう?ならいいんだけど…ごめんなさい、あの子が迷惑かけて」
提督「いやいや、そんな!全然迷惑なんかじゃないよ、むしろ一人で寝る寂しさが紛れたし…」
足柄「……ふぅん、そう」
提督「だから、うん…たまにはいいんじゃないかな」
足柄「………なら、もしよかったら、私も…」
『うああああああああっ!?』
提督「!?」ビク
足柄「羽黒の声だわ…」
提督「ちょ、ちょっと行ってくる!」ダッ
足柄「あ………」
足柄「………ちっ…」
ガチャッ
提督「はぐ……うわあっ!?」
ガバッ
ドサッ
提督「いたた…は、羽黒…」
羽黒「ううぅ…司令官さん…」ギュウウ
提督「うぐ…く、くるし…」
羽黒「どこに行ってたんですか…!起きたら司令官さんがいなくて、一人で、怖くて…うう……」グスッ
提督「わ、分かったから…謝るから、退いて…」グイ
羽黒「やだ…」ググ
提督「もう……」
那智「………おい、いい加減にしないか」
羽黒「!?」ビクッ
提督「あ、那智…」
那智「立て。邪魔だ」グイッ
羽黒「あっ…!?ね、姉さん、離して…!」バタバタ
那智「大丈夫か?」
提督「う、うん。ありがとう」
那智「そうか、ならいい。さあ羽黒、行くぞ」
羽黒「い、いやっ…!」
提督「行くってどこに…?」
那智「昨日言っていただろう、鎮守府近海に敵哨戒部隊が集まっていると」
提督「……ああ、そうだった!ごめんね、忘れてた…」
那智「いや、いいんだ。すぐに終わらせてくるさ」
羽黒「う…ううぁ…」
提督「羽黒……ほんのちょっとだけだから、頑張ってきてくれるかな…?」
羽黒「……………」
羽黒「……分かりました」
提督「!」
羽黒「その代わり、帰ったらたくさん褒めて、ぎゅーってしてくださいね?」
提督「う、うん…わかった」
羽黒「やった、えへへ…それでは、行ってきます!」
提督「行ってらっしゃい…」
那智「現金なやつだな」
提督「あはは…そうだね…その、羽黒をよろしくね」
那智「ああ、任せてくれ。私も、上手くやった暁には何かご褒美……」
羽黒「姉さん?」
那智「………今行く」
提督「?」
那智「なんでもない。それではな」
提督「うん、気を付けてね」
那智「…………」ギリ…
ドォーン
羽黒「やった!一機撃沈です!」
妙高「…………」
足柄「あの子、ずいぶん頑張るわね…」
那智「ああ。一番になろうと必死だな」
妙高「あんなに張り切られたら、私達がMVPを取ることも出来ないものね」
足柄「………そうね」
那智「少し出しゃばりすぎ…だな」
妙高「本当に……ね」
ガシャンッ
ドォーン
提督「……え?羽黒が大破?」
妙高「はい、後方から接近していた潜水艦に気が付かずに…」
提督「そうなんだ…ごめんね」
足柄「あなたが謝る必要はないわ。はい、報告書」
提督「うん、ありがと……」
那智「……おい、大丈夫か?」
提督「え?」
妙高「顔色が悪いようですが…」
提督「あ、あー……ちょっと、頑張りすぎてるのかもね…」
足柄「少し休んだ方がいいわ」
提督「うん…ありがと」
那智「それでは私達も、補給に行ってくる」
提督「うん、お疲れ様」
バタン
提督(先の偵察隊の報告だと潜水艦は確認されてなかったはずなんだけど……)
提督(……そういうこともある…よね)
提督「…………」カチャ
カチ カタカタ
ツーッ
提督「……あ、大淀?羽黒の修復、どれくらいかかりそう?」
提督「………うん……そう…ありがと」
提督「高速修復材?……今は使わないでおいて。大規模作戦が控えてるから…」
提督「うん…お願いね。それじゃ」
ガチャン
提督「…………」
ドサッ
提督「はぁ………」ギィ
提督「…………」
提督(やっと一人になれた……)
提督(静かだなあ…羽黒のことも心配だけど…)
提督(今は……こうしててもいいよね……)ウトウト
提督「…………」
ガチャ
「失礼します……あら……?」
提督「zzz………」
「…もう、提督ったら……」
提督「……すぅ…」
「こんなところで眠っていたら、風邪を引きますよ」
ユサユサ
提督「ん……」パチ
「お目覚めですか?」
提督「あ……?ああ、鳳翔さん…」
鳳翔「ふふ、おはようございます」
提督「……あ、ごめん!なにか用事でもあった?」
鳳翔「いえ、もうすぐお昼の時間だったので一応知らせておこうと…」
提督「そっか…ありがと」
鳳翔「………あの、大丈夫でしょうか?」
提督「……え?何が?」
鳳翔「その、ずいぶんやつれた顔をしていますが…もしかして本当に風邪かなにかでは…」
提督「あ、いや、そういうのじゃないんだ、ほんとに」
鳳翔「なら、別の何かが…?」
提督「あっ……」
鳳翔「……私では力になれないかもしれませんが……話していただけますか?」
提督「………そうだね…隠す理由もないよね……」
鳳翔「よかった…では、お隣失礼しますね」
提督「うん、座って」
ギッ
鳳翔「それでは、聞かせていただいても…」
提督「えっと、どこから話そうかな……うーん……」
〜〜〜
〜〜〜
鳳翔「………なるほど、羽黒さんがおかしくなってしまったと…」
提督「ずっとくっつかれるのはいいんだけど、私のせいであの子があんなことになってしまったんだと思うと……なんだか、申し訳ないというか…罪悪感で私までおかしくなりそうで…」
鳳翔「そこまで追い詰められていたんですね……ごめんなさい、気付いてあげられなくて…」
提督「ううん、鳳翔さんの責任じゃないよ…悪いのは私だから」
ギュ…
提督「えっ…?」
鳳翔「その……人は、手を握られていると安心するそうです。信頼しあっている仲での話なので、効果があるかどうかは…」
ギュ
鳳翔「!」
提督「ふふ……ありがとう、とっても安心する…」
鳳翔「あっ、ありがとう、ございます……私達、信頼しあっている、のです、ね…///」
提督「うん……鳳翔さんの手、すごくあったかくて…ほんとに、安心、する……」
ポタッ
鳳翔「……!て、提督…!」
提督「え……あ、あれ、なんで……」ポロポロ
鳳翔「………大丈夫ですからね、今は私がついていますから…」ギュウ
提督「あ、ありがっ……うっ、ううう……!」ポロポロ
鳳翔「…………」ナデナデ
鳳翔「…………」ポンポン
提督「…………」
鳳翔「もう落ち着きました?」
提督「………うん、ありがと」スッ
鳳翔「あの、辛い事があればまたこうしてあげますから…遠慮せずに言ってくださいね」
提督「えへへ……そうするね」
グゥゥ
提督「おっと…」
鳳翔「ふふ……ご飯、食べに行きましょうか」
提督「……うん」ゴシゴシ
ガタ
〜〜〜
執務室
提督「ふぅ……お腹いっぱいになったし、仕事しなきゃ…」
提督「……………」
提督(羽黒、大丈夫かな……)
ガチャ
足柄「今、ちょっといい?」
提督「ん、足柄……どうしたの?」
足柄「あの子…羽黒のことなんだけどね」
提督「! 容態はどう?」
足柄「特に問題はないわ。ゆっくり休んでる」
提督「そっか………その、私のことで何か、言ってたりしない?」
足柄「そのことなんだけど…」
提督「?」
足柄「今日一日、あの子は私達の部屋に置いておくことにしたの」
提督「え…?で、でも、それって大丈夫なの?」
足柄「大丈夫……とは言えないけど」
提督「ならそんなこと…」
足柄「でも、あの子を放っておいたらまたあなたが迷惑するじゃない」
提督「そんな、私は迷惑だなんて…」
足柄「そうじゃなきゃあんなにやつれた顔しないでしょ?」
提督「う……」
足柄「あの子が少しおかしいのは私達も理解してるから…私達が責任を持っていつも通りにしてあげなきゃいけないの。ね?」
提督「………うん」
足柄「ふふ、分かってもらえたかしら」
提督「うん……羽黒をよろしくね」
足柄「ええ、任せて」
提督「………」
足柄「けど……もしもの話だけど」
提督「?」
足柄「最悪の場合は……あの子は、ここに居られなくなるかもしれないわ」
提督「………!!」ビク
足柄「安心して、そうならないために私達がいるから」
提督「……うん…」
足柄「絶対にそんなことにはさせないわ。約束する」
提督「………お願いね」
足柄「ええ。それじゃあね」
提督「うん、待ってるって言っておいて」
足柄「了解ー」
バタン
提督「………大丈夫、だよね」
提督「…………」カリカリ
ガチャ
加賀「失礼します」
提督「ん……どうしたの?」
加賀「いえ…今日はあの子はいないのね」
提督「ああ、うん…ちょっと今、入渠ドックにいるから」
加賀「出撃したの?」
提督「うん、鎮守府の近くに敵が集まってたみたいだからその偵察に行ってもらってたんだけどそこでね…」
加賀「そう……災難ね」
提督「あはは…まあ、ちゃんと私が作戦指揮を取らなかったせいでもあるから…」
加賀「大規模作戦が控えてるのでしょう?もっと気を引き締めなさい」
提督「はい…」
加賀「…………」
提督「………まだ何か?」
加賀「忙しそうね」
提督「え?ああ、うん」
加賀「手伝うわ」
提督「えっ、いいよ、悪いよ」
加賀「どうせ暇だから。私は構わないの」
提督「ダメだよ、ゆっくり休んでて」
加賀「これを終わらせてあなたとゆっくり休むわ」
提督「………むぅ」
加賀「いいでしょう?」
提督「…えへへ、ありがと。じゃあ、この書類お願い」
加賀「ええ」
〜〜〜
提督「……ふぅ」
加賀「ひと段落したみたいね」
提督「うん、加賀もお疲れ様」
加賀「そうね、少し休憩にしましょうか」
提督「うん……はぁ…」ギッ
加賀「……お茶を淹れてくるわ。そのまま待ってて」
提督「ありがとー」
ガチャ
バタン
提督「………なんだろ、この感じ…」
ガチャ
加賀「お待たせ」
提督「ん…ああ、ありがと…」
コト
提督「…………」
加賀「……飲まないの?」
提督「……え?あ、いや、いただくよ、うん…」
スッ
───『二人だけの、世界へ』
提督「………っ!??」ズキッ
加賀「?」
提督「うっ……!うぁ…!?」
提督(なに、これ……海の底…!?なんでこんな、頭の中がいっぱいに……!)
加賀「ちょっ……どうしたの?大丈夫!?」
提督「う……だ、大丈夫…ちょっと、頭痛がしただけ…」
加賀「薬、飲む?確かここに…」
ゴソゴソ
加賀「……あ、あったわ。ほら」
提督「あ、ありがとう……でも、ちょっと待って…」
加賀「え?」
提督「お茶より水の方が飲みやすいから…そっちで飲んでくるね」ガタ
加賀「……それもそうね、お茶は熱いものね」
提督「ごめんね、あとで飲むから」
バタン
加賀「…………」ガリッ
バタン
提督「はぁ…ごめんね、すぐ仕事に戻るから」
加賀「いいわ、今日はもう何もしないで身体を休めて」
提督「えぇ?ダメだよ、まだ終わらせてないのに」
加賀「頭が痛いんでしょう?その状態のまま無理をして風邪でも引いたらどうするの?」
提督「これくらい大丈夫だよ、風邪なんて引かないもん」
加賀「ダメ。ここは譲らないわ」
提督「………はぁ、分かったよ…」
加賀「それでいいわ」
提督「こうなった加賀は絶対譲らないもんね…ふふふ」
加賀「そうね。じゃあ、後は私がやるから」
提督「うん…」
提督「……………」ジィ
加賀「……?どうかした?」
提督「………あのね、さっき…頭が痛くなった時に、変なものを見たの」
加賀「変なもの?」
提督「ものというか光景なんだけど……その、私と加賀が二人で海の底で眠る光景……」
加賀「………心中、ということ?」
提督「うん……そう思うと、なんだか不安になっちゃって…」
加賀「ふふ……どう転んでもそんなことにはならないわ、心配しないで」
提督「……そうだよね。そもそもそんな状況、あるはずがないよね」
加賀「きっと疲れてるから変なことを考えてしまったのよ、甘いものでも食べてゆっくりしなさい」
提督「うん。じゃあ、後よろしくね」
加賀「ええ、任せて」
バタン
加賀「……心中、ね……」
提督「甘いもの甘いもの……確か食堂の棚に羊羹が入ってたよね……」
提督(加賀の言う通り、休むことも大事だし…たまにはいいかな)
提督「……………」
提督(みんな、元気だなぁ……)
提督(このままずっと、誰一人として欠けることなく……平和になればいいのになぁ…)
「物憂げな表情だな。考え事か?」
提督「ん……あ、那智…」
那智「ふふ。そんな顔をしていると、艦隊の士気が下がるぞ」
提督「あはは……うん、そうだよね、もっと気を引き締めないと」
那智「おお、いい顔になったな。好きだぞ、その表情」
提督「えあっ、やだ、いきなりなに?///」カァ
那智「本心を言っただけだ、そう赤くなるなよ」
提督「もう、那智が変なこと言うからでしょ…///」
那智「ところで、これからどこかに行くのか?」
提督「んー、ちょっとお腹空いたから食堂に」
那智「おやつの時間にしては少し遅いようだが…私もいいかな」
提督「うん、一緒に行こう」
那智「ふっ、そう来なくてはな」
そうですね、ルート分岐みたいなものです
飲んでたらまた同じ未来を辿っていましたね
提督の私室
提督(それから那智と羊羹を食べて、足柄に羽黒の修復の経過を聞いてから駆逐艦の子達と遊んで…)
提督(もうみんな寝静まったよね…)
ボフッ
提督「はぁ……」
提督(はしゃぎすぎて疲れた…)
提督「…………」
提督(……そういえば、足柄達が羽黒は部屋で寝かせるって言ってたなあ…)
提督(羽黒……明日にはいつも通りに……)
提督「…………」スゥ…
キィ…
提督「すぅ……」
「…………」
パタン
スタスタ
ギシッ…
提督「ん……」ゴロ
「ふふっ……」
ガチャンッ
提督「…んぁ……う…?」パチ
「おはようございます、司令官さん」
提督「……あ……羽黒…!?」
羽黒「司令官さんは、だめな子です」
提督「な、なにを言って…」
ガチッ
提督「……!?」
提督(なにこれ…なにかで縛られてる…!?)
羽黒「どこにも行かないって……ずっと一緒に居てくれるって言ったのに…」
提督「うっ……」
提督(動けない…!)
羽黒「約束したのに、勝手にどこかへ行っちゃうんですから…」
提督(…!なんだか、危険な匂いがする…!)
提督「は、羽黒…ちょっと、落ち着いて、話を」
羽黒「司令官さんは、だめな子です」スッ
提督「っ……!?なっ、なに、そのノコギリ…」
羽黒「ちゃんと、どこにも行かないようにしなきゃ…司令官さんはだめな子ですから…」
提督「ひっ…!」
羽黒「ふふ…ちょっと痛いかもしれませんけど…我慢してくださいね…ふふっ……」ピト
提督「ま、待って…!話を聞いて!羽黒!」
羽黒「ちゃんと…ちゃんと、私がするから…」グッ
提督「羽黒っ!!」
バァン!!
羽黒「!」ビク
憲兵「各員、あの艦娘を取り押さえろ!女だからと言って容赦はするな!!」
ドタバタ
羽黒「きゃあ!?」
憲兵「動くんじゃない!このっ…!」
羽黒「いやっ…!離して!離して!!」
提督「は、羽黒!」
足柄「提督、大丈夫!?」
提督「足柄…!?こ、これって…」
那智「もし何かあってはいけないと思って憲兵を待機させておいたんだが…」
妙高「最悪の結果、です…」
提督「えっ……ちょ、ちょっとまってよ、そんなの…」
那智「この状況であの子を庇えると思っているのか?」
提督「っ……!で、でも…!」
足柄「ノコギリに手錠……もう言い逃れは出来ないわ」
提督「そんな……」
妙高「……お別れ、です」
羽黒「やだ、やだ…!離して!」
提督「羽黒……」
羽黒「司令官さん……!た、助けてっ……」
提督「…………ごめん……」
羽黒「………!!う、うそ…」
憲兵「さあ、来い!」グイッ
羽黒「いや…いや…!司令官さん!司令官さんっ!!」ズズズ
提督「ごめん…ごめん、羽黒……」
羽黒「いやああああああっ!!」
バタンッ
提督「……………」
憲兵「……お騒がせ致しました。事情聴取のほどは、また後日ということで…本日はもうお休みください、それでは」
提督「……………」
バタン
足柄「……………」
那智「……………」
妙高「……………」
提督「………なんで…こうなっちゃったのかな……」
那智「……すまない、私達の責任だ」
足柄「絶対にこんなことにはさせないって言ったのに……ごめんなさい…」
妙高「提督……提督は悪くありませんから…」
提督「…………もう、やだよ……こんなの……」
足柄「悲しい……けど、大丈夫よ、安心して」
提督「…………?」
那智「ああ……これからは私達が傍にいる」
提督「…………」
妙高「絶対に、誰も提督を見捨てたりはしませんから」
提督「…………」
「ずっと、一緒にいるから」
「………うん」
羽黒(?)編おわり
次は青葉です、恐縮です
タタタ
サッ
「…………」
提督「…………?」
シーン
提督「…………」クル
「!」
ダッ
提督「そこだぁ!」バッ
「ひえぇ!?」
提督「やっぱり青葉かぁ…そんなにコソコソして、何か用?」
青葉「い、いやぁ〜、なにか面白いニュースでもないかなーと思いまして…」
提督「私なんて見てても何もないよ、別の人のところに行った方がいいんじゃないかな」
青葉「とは言いましても、他のところに行っても何もないんですよねえ」
提督「……まあ、確かに。平和だもんね、ここ」
青葉「青葉、退屈すぎて死にそうですよぉ…」
提督「うーん…面白い話かぁ…」
青葉「なにかないですかねぇ、こう、わーっとなるようなの」
提督「………そういえば、鳳翔さんがクマのぬいぐるみを抱いて寝てるって噂を聞いたんだよね」
青葉「なんですかそれ!?気になります!!」
提督「でしょ?ふふふ、ちょっと調べて来てくれるかな」
青葉「はい、お任せください!では!!」
タタタ…
提督「……元気だねえ」
提督「さてと、私も仕事……ん?」
ヒョイ
提督「………?」
提督(なんだろうこれ、青葉の手帳…?)
提督「…………」キョロキョロ
提督(ちょっとぐらい覗いてみてもいいよね…)
パラッ
提督「………わぁ」
提督「ふむふむ……」
提督(色んな子達に関するメモかあ…)
提督(金剛の髪の考察…大和型のバストサイズ…潜水艦の水着の由来に……うわっ、パンツの色や柄まで…!?)
提督(その横に写真も貼り付けてある…うわ、大淀ったら意外と大人……)
提督「…………」
提督(しかしこれだけ情報があるとしたら、私のこともそれなりに……)
パラパラ
提督「…………?」
提督(あれ、一つもない…?)
提督「…………」パラパラ
提督(……うん、見間違いじゃないよね…)
提督(よく青葉につけられることがあるから少しくらいあるとは思ったけど……もしかしてあんまり興味持たれてないのかな…?)
提督(……まあいいや、青葉に返しに行かなきゃ)
提督「…………」
コンコン
シーン…
提督「…………あれ?」
ガチャ
提督「お邪魔しますよ〜…」
提督「…………」キョロキョロ
提督「…やっぱり誰もいない」
スタスタ
提督(青葉の机は……これかな)
ストン
提督(ここに置いておけば分かるよね…)
提督(…さてと、やること済ませたし戻ろうかな)
提督「…………」チラッ
提督「………ん?」
提督(手帳がもう一つ……)
ガチッ
提督(鍵がついてる…)
提督「…………」ソワソワ
提督(気になって仕方ない…!)
提督(青葉がこうまでして隠したいものってなんなんだろう…気になる…気になる…!)
提督「…………っ」
ゴソゴソ
提督(鍵…どこかにあるはず…)
ガタ
提督(ここじゃない…)
ガタ
提督(ここでもない…)
ゴソゴソ
ゴソゴソ…
提督「………!」
チャリン
提督「あった…」
提督「これで開く、はず……たぶん……」
スッ
カチッ
提督「………開いた……」
提督「…………」グッ
提督(ちょっとだけ……ちょっとだけ……)
提督(青葉の秘密……)
提督「…………」ドキドキ
バッ
提督「…………」
提督「……………」
提督「…………………っ!??」
提督(なに、これ……私の写真…!?)
提督(ページ一面に…)ゾワッ
提督(どれも視線が合ってない……こんなの、いつの間に…)
パラパラ
提督(他のページもびっしり…お風呂に入ってるところまで…!)
提督(……もしかして、見てはいけないものを見てしまったんじゃ……)
提督「…………?」
提督(最後のページだけ空いてる…?)
スッ
「ふふっ♪」
提督「!!」バッ
パシャッ
青葉「あーあ…青葉、見られちゃいましたねえ…」
提督「あ、青葉…違うの、これは…」
パシャッ
青葉「いいですねえ、その怯えた表情。これもコレクションに加えなきゃ」
提督「う、うあ……」
青葉「さて……司令官、これはどういうことなんですかねえ?」
提督「ち、ちがっ…ただ、興味本位で覗いただけで、悪意があったわけじゃ…」
青葉「ふぅん?人の秘密を見ておいて言う台詞がそれですか?」
提督「ご、ごめんなさい…この事は、誰にも言わないから…許して…お願い…」
青葉「………ダメです」
提督「! そ、そんな…」
青葉「青葉も見られたくないものでしたからねえ、それなりのことをしないと気が済みません」
提督「……なにを、するの…?」
青葉「ふふっ、そうですねえ。とりあえず、誰の邪魔も入らない場所で…ゆっくり、してあげますよ」ニヤァ
提督「ひっ…」
青葉「それじゃ、行きましょうか」グイッ
提督「……っ!」
提督(怖い…何をされるんだろう…)ビクビク
〜〜〜
パシャッ
パシャッ
提督「……………」
青葉「おお〜いいですねぇ〜」
パシャッ
パシャパシャッ
提督「………あの……」
青葉「ほら、もっと笑って笑って!せっかくの可愛い顔が台無しですよ!」
提督「か、かわ……///」カァッ
青葉「はいはい、そのままピース!」v
提督「あ、い、いえーい…///」v
青葉「ああ〜エクセレント!実にいいですよー!!」
提督「……あの……」
青葉「はい?なんですか?」
提督「……なにこれ?」
青葉「なにって、撮影会ですけど」
提督「そ、そう……」
提督(なんか、普通に写真撮られてる…)
青葉「よーし、じゃあ次行きましょうか次!」
青葉「はい、これ!着てください!」
提督「着てくださいって…む、無理だよこんな、ゴスロリの…」
青葉「へえぇ、人の恥ずかしいところを勝手に見たのに自分は見せないんですかぁ?」
提督「うぐ…わ、分かったよ、もうっ…///」
青葉「はい!じゃあ着替えてください!」
提督「着替えるって…どこで?」
青葉「ここです!」
提督「……!?む、無理だよ!無理無理、そんな、恥ずかしいって!」
青葉「何度同じ事を言わせれば気が済むんですかねえ」
提督「だって、こんなの恥ずかしくて死ぬレベルだもん!目の前で着替えろだなんて…」
青葉「青葉としてはあの手帳を見られた時点で首を吊ってもおかしくないくらいには恥ずかしかったんですが」
提督「う、ううぅ……!やればいいんでしょやれば!もう覚悟は決めたもん!///」
青葉「ひゅー!それでこそ司令官です!」パチパチ
提督「……………」シュル
パサ
青葉「ほおー」
提督「あ、あんまり見ないでよ///」
パシャッ
提督「撮らないでよ!!///」
青葉「えへへぇ、下着姿の司令官なんて滅多に見られないものですから、つい」
提督「もう…///」
青葉「それに恥じらってる表情ってなんだか…こう、そそられますし」
提督「それ私に言うの?」
青葉「それもそうですね。というか早く着替えなくていいんですか?また撮っちゃいますよぉ、うひひ」
提督「え?きゃあっ!む、向こう向いててよ!///」カァ
青葉「はいはーい」
青葉「というか司令官、ムネおっきいですねえ。いくつぐらいあるんですか?」
提督「…………92」
青葉「うわあお…」
シュッ
提督「着替え終わった……んだけど、これでちゃんと着られてるのかな…?」
青葉「ん、どれどれ……ゴッファ!!!」ブシュッ
提督「きゃあ!?だだ大丈夫!?」
青葉「ら、らいびょうぶでふ、ちょっと破壊力が強すぎただけでふ」フキフキ
提督「な、ならいいけど…それにしてもこれ、すっごいふわふわしてる…」
青葉「さーて、このまま撮影いきますよー!」
提督「う、うん」
青葉「まずは傘を肩にかけて、横顔を見せるように佇んでください!」
提督「こう?」スッ
青葉「おおーいいですよお!絵になりますねえ!」
提督(こんなに言われるとくすぐったい…)///
青葉「じゃあ次はですねえ……
〜〜〜
〜〜〜
青葉「う〜ん可愛らしい…たまにはガーリッシュな服も着てみたらどうですか?」パシャッ
提督「そ、そうだね…」
提督(いつまで続くんだろうこれ…)
青葉「えーっと、次が最後ですねえ。司令官、そのまま立っててください」
提督「あ、うん」
提督(よかった…これで終わるんだ…)
青葉「よーし…」スッ
提督(立ってるだけ…何があるんだろ…?)
青葉「ポチッとな」ポチッ
バァーン!!
提督「え?」
青葉「おほっ」
提督「………きゃああああーーーーー!??!?」
青葉「おおおおおお!!いいですねえその羞恥と驚愕の表情!!興奮させてくれますねえ!!」パシャパシャ
提督「なんで服が破れるのぉ!?意味わかんないよぉ!!///」
青葉「ああーもうっ!司令官、可愛すぎますぅ!!」ガバッ
提督「きゃあ!?」
ドサッ
青葉「えへへぇ、司令官〜」ムギュウ
提督「こ、こら、くっつきすぎ!」
青葉「司令官が可愛いのがいけないんですよ!」スリスリ
提督「もぉ…青葉ってば…」
青葉「でも、ちょっと調子に乗りすぎましたかね…反省してます…」
提督「きゅ、急にそんなに改まらないでよ…元はと言えば悪いのは私だし」
青葉「それもそうですね!」
提督「切り替え早いねきみ」
青葉「いやーでも、青葉的にはいい写真がいっぱい撮れましたし大満足ですよ!」
提督「…その写真、どうするの?」
青葉「へ?これですか?」
青葉「さっきの手帳に保管します。誰にも見られないように」
提督「そんなに大事なものなの?」
青葉「むう、司令官は青葉の想いを理解してくれないんですか」
提督「いや…どれだけ想われてるのかは分かったつもりだけど」
青葉「まあ元より叶わぬ恋だって、割り切っていたんですけどね。だから…だから、これは…」
提督「?」
青葉「………司令官と青葉だけの、秘密です」ニコ
提督「!」キュン
提督(やばいかわいい…)
青葉編おわり
歪んだ一途な愛
このあと二人は幸せなうんぬん
そういえばなんで次は鳳翔さんって予言されたんですかね…
ニュータイプ兄貴こわいな〜書き溜めすとこ
……………
「ただいま戻りました」
あ………。
遠くの方から、ドアの開く音と鳳翔さんの声が聞こえる。頭だけを起こして、音の鳴った方を確認する。
………見えない。あれ、なんで?いつもならこの距離でも………
………ああ、そっか。眼鏡がないから。ここに来てからは、そうだった。
腕の力だけで身体を支え、這いずるように近寄る私をそっと抱き起こしてくれる。
「ごめんなさい、長い間一人にさせてしまって…」
そう言いながら、優しく頭を撫でてくれる。でも、その声は悲壮に満ちていて、とても辛そうだった。
「う……あ、ぁ…っ……」
ううん、そんなことないよ。って言おうと口を開くけど、声が出せない。
燃えるように喉が痛む。
ああ……そうだ、薬品か何かで喉を焼かれたんだっけ。
そんなこと、どうでもいい。
代わりに、にこっと微笑んで怒りの意思がないことを伝えると、また頭を撫でながら抱き締めてくれる。
……あったかい。鳳翔さんに、包まれてる。
そのまま、言い聞かせるように話してくれる。
「今日は……みなさんが提督のことを探していたんです」
………みんな?
みんなって、誰?
ぼんやりとした思考で、何度も脳の中で再検索をかける。
………… ………… …………
………… ………… …………
……ああ、鎮守府のみんなのことだ……
私を探してる?
なんでそんなことしてるの?
そもそも、どうしてこうなったの?
私、確か………
………… ………… …………
………そうだ、羽黒が私から離れなくなって…それを鳳翔さんに相談したら優しくされて、なんだか涙が出てきて……そのまま泣き疲れて寝ちゃって、それから……
それから………
………… ………… ………思い出せないや。
でも、今が幸せだから、そんなのどうだっていいよね。
私も鳳翔さんと目線を合わせて話したくて、足を動かそうとするけどダメ。もう、ぴくりとも動かない。
なんだっけ、これ……前に本で見たような…
筋委縮……?いや、ちょっと違う……廃用症候群……?
………なんでもいいや。鳳翔さんが優しくしてくれることには、変わりないし。
「でも安心してくださいね。ここは、誰にも分からない場所ですから」
うん…
ずっと、鳳翔さんと二人で…
ずっと、一緒に居られるんだよね…
幸せだなぁ……
………うん、ずっと一緒。
それ以外は、何も考えなくていいんだ。
鳳翔さんがいるだけで、幸せだから。
「提督……」
強く、ぎゅっと抱き締めてくれる。
私も、きゅっと抱き返す。
暖かくて優しい、鳳翔さんの手が髪を撫でる。
ふふっ。
くすぐったくて、気持ちいい。
眠気を誘うような……手触り……
………なんだか、眠くなってきちゃった。
意識がかすんで、なにかを考えるのも難しくなってくる。だんだんと思考もぼんやりとしてきて……瞼が降りてくる……
「……眠いんですか?」
うん……そう、もう今すぐにでも、眠っちゃいそう……指先も動かせない………
「大丈夫ですよ………このまま眠っても、私が傍に居ますから……」
そう言って、またぎゅって抱き締めてくれる。暖かい……私も、もっと力いっぱい抱き返したい……
………… ………… …………
………そう、だよね……眠って、起きれば……その時には、いつもと同じ……身体も自由になってるはずだから……
だから………
それまでは………
おやすみなさい。
鳳翔さん編おわり
なぎさ先輩!?まずいですよ!(元ネタ)
(何もネタが思い浮かばない…)
提督が駆逐艦達を甘やかしてたら戻れないところまで来てた、とかそういうのでふかね…いいですね…
あ!そうだ、金剛型で考えてた話があったことを思い出しました
また順次投稿します
提督「…………」
榛名「…………」
霧島「えっと……この書類は、ここ…」ゴソゴソ
比叡「…………」
金剛「〜〜♪」ズズ
提督「…………」
霧島「………?司令、なにか?」
提督「…いや、なんでも」
霧島「そうですか…」
比叡「…………」ジッ
提督「う……」
提督(はぁ……またこの時間がきた……)
提督(姉妹四人で執務室に来て…それはいいんだけど、この空気が嫌だ…)
提督(まず霧島……霧島は、書類整理のフリをして隠しカメラをセットしてる)
提督(榛名はずっと、金剛を見てる。いつ、なに、どういう動きを私に取るかを見張ってる)
提督(比叡は金剛……の向こうの私を見てる。上手く隠してるつもりなのかもしれないけど、こう何回も同じことが続くとさすがに気付くし…)
提督(金剛は……金剛だけは、いつも通り……紅茶を嗜んで、私が貸した本を読んでる…)
提督「…………」
金剛「…………?」
金剛「…………!」ピコーン
金剛(テイトク、頑張ってくださいネー!)フリフリ
提督「………!」
提督(うん……)ニコ
比叡「…………」ジロ
提督「う……」ビク
提督(はぁ……)
提督(どうしてこうなっちゃったんだろう…)
霧島「司令」
提督「…………」
霧島「司令?」
提督「………え?なに?」
霧島「そろそろ演習の時間なので、私達は失礼しますね」
提督「あ、うん…頑張ってね」
霧島「ええ、ばっちり決めてきますよ。それでは」
提督「うん……」
バタン
提督「……………」
ガタ
スタスタ
提督「確か、このあたりに……」
ガサゴソ
提督「………あった」
提督(隠しカメラ……よくこんなに小さいの…)
ポロッ
提督「…………?」ヒョイ
提督(これは……盗聴器?いつの間に…)
カチッ
提督「………?」
提督(これだけじゃ再生出来ないのかな…?パソコンに繋げば出力出来るかも…)
カチッ
提督「えーっと……お、出た出た…」
提督「再生……」カチッ
提督「……………」
提督「……………」
提督「……………」
提督「……………」
提督「////」ボッ
提督(だ、ダメだこれは、私がおな……してた時の声まで入ってる)////
提督「削除削除……///」カチッ
提督「はぁ………」
提督「……………」
提督(……それにしてもこれ、どうしようかな……やっぱりちゃんと霧島に言うべきだよね……)
提督(……帰ってきたらちゃんと言おう、うん)
ーーー
コンコン
提督「ん……入っていいよ」
ガチャ
霧島「失礼します」
提督「ああ、霧島…演習お疲れ様」
霧島「ええ。どうぞ、報告書です」
提督「あ、ありがと」
霧島「それでは、補給に行ってきますね」
提督「あっ……ま、待って、霧島」
霧島「はい?」
提督「その……言いたいことがあるんだけどさ」
霧島「? なんでしょうか」
提督「あのね……こういうことは、やめて欲しいな…」スッ
コトン
霧島「!! そ、それは…!」
提督「前から気付いてたんだけど、なかなか言い出せなくて…やっぱり、こう、監視されてると怖いっていうか……」
霧島「ち、違うんです、これは……えと、あの…」
提督「正直に言ってくれるのが、一番嬉しいんだけど……」
霧島「う……は、はい…」
提督「うん…ちゃんと聞かせて」
霧島「……その…怖くて……司令が誰かと変なことをしないか、とか…誰かに迫られたりしないか、とか……」
提督「だから監視してたの?」
霧島「はい……」
提督「……大丈夫だよ、私は」
霧島「! で、でも…」
提督「ここの子達はそんなことしないし、もし仮にそうなったらちゃんと霧島に相談するから」
霧島「…………」
提督「私は霧島を信じてるから……霧島も、私を信じてくれる?」
霧島「………はい、司令がそこまで言うなら」
ギュッ
霧島「ぴゃあ!?」
提督「うん、よかった……嬉しいよ、霧島…」
霧島「は、あ……ひゃ、ひゃい……///」カァア
提督「………よし!長いこと引き止めてごめんね、補給に行っていいよ!」パッ
霧島「あっ……は、はい。失礼します」ペコリ
ガチャ
バタン
提督「……ふぅ」
提督「……さて、報告書チェックしなきゃ…」
提督「……………」ペラッ
提督「……さすがに資材の消費がすごいなぁ…」
ペラッ
提督「ん………」
提督(榛名、MVP……)
提督(……そうだ、この前のお礼も兼ねてなにかご褒美あげなきゃ…)
提督(どうしようかな…何にしよう……)
提督「……………」ウーン
提督(……あ、間宮さんのパフェ、無料券あったんだった)
提督(今はお昼だし……もう少ししたら声かけに行こうっと)
〜〜〜
提督「あ……榛名ー!」パタパタ
榛名「へ?あ、提督…どうしました?」
提督「お疲れ様、もう補給は済ませた?」
榛名「はい!お腹いっぱいです!」
提督「そっか…報告書、見たよ。MVPなんだってね」
榛名「あ、はい!榛名、提督のために頑張りました!」
提督「それでさ、この前のお礼も兼ねて……ほら、これ」
榛名「? これは………パフェ無料券ですか?」
提督「うん、細やかだけど…ご褒美にね」
榛名「そんな…いいのでしょうか、榛名だけ…」
提督「榛名はいつも頑張ってるんだから、気にしなくていいよ」
榛名「……そうですね、たまにはいいものかもしれませんね!」
提督「うん、じゃあ行こうか」
提督「どう?おいしい?」
榛名「はい!やっぱり、甘いものは格別ですね!」
提督「ふふ、よかった」
榛名「提督も、一口どうですか?」
提督「え?いやいや、これは榛名のだから、榛名が全部食べなよ」
榛名「でも、榛名だけ食べるなんて寂しいです…」
提督「……分かったよ、一口だけね」
榛名「ふふっ、本当は食べたかったのでは?」
提督「そ、そんなことないもん」
榛名「そうですか?では……どうぞ」スッ
提督「え?」
榛名「はい、あーん」
提督「こ、これで食べるの?」
榛名「ダメでしょうか…」
提督「い、いや!大丈夫だよ、食べるよ!」
提督「あむ…」モグモグ
榛名「美味しいですか?」
提督「……うん、たまには甘いものもいいものだね」
榛名「ええ、榛名、ここのスイーツは大好きです」
提督「そう……ところでさ、ありがとうね」
榛名「へ?なんのことでしょうか?」
提督「前に榛名が、『見られてる』って教えてくれたでしょ?」
榛名「! ああ、あのことですか!もう解決したのですか?」
提督「うん、ちゃんと霧島とお話してきたから」
榛名「え?」
「Oh!テイトクも榛名も、見かけないと思ったらこんなところにいたんデスネー!」
提督「あ、金剛」
榛名「…………」
金剛「お隣、いいデスカー?」
提督「うん、いいよ」スス
金剛「えへへ、失礼しマース」ストン
榛名「あ……」
金剛「? どうしましタ?」
榛名「い、いえ…なんでも…」
提督「金剛も甘いもの食べたくなったの?」
金剛「ワタシはテイトクを探してただけデスヨ?」
提督「へ、私?何か用事でもあった?」
金剛「No!こうしたかっただけデース!」ガバッ
提督「きゃあ!もう、金剛ってば!」
金剛「テイトク〜♪」スリスリ
提督「みんな見てるのに…はぁ…」
榛名「…………」
〜〜〜
提督「ふぅ…お腹もいっぱいになったし、仕事しなきゃ………あれ?」
比叡「…………」
提督「比叡?こんなところでどうしたの?」
比叡「あ、司令……いえ、少し司令とお話がしたくて…」
提督「話?なら中でお茶でも飲みながら…」
比叡「あ、そ、そんなに長い話ではないのでここで大丈夫です」
提督「そう?…なら、聞こうか」
比叡「はい……さっき、金剛お姉様と一緒にいましたよね?」
提督「うん、榛名も一緒にいたよ」
比叡「榛名も……あの、何もされませんでしたか?」
提督「? 何もって…?」
比叡「ああ……その様子だと、まだ…」
提督「???」
比叡「……変なことを聞いてすみません、それじゃあ、また…」ダッ
提督「あ、比叡!」
提督「……行っちゃった」
提督(何の話だろう…?)
提督「……………」カリカリ
加賀「……ヒトロクマルマル。四時ね」
提督「ん、もうそんな時間なんだ…」
加賀「少し休んだら?」
提督「ううん、そろそろ遠征の子達が帰ってくるから迎えに行かなきゃ」
加賀「…そういえば、そうだったわね」
提督「加賀は休んでていいから、それじゃあ」
加賀「ええ」
パタン
〜〜〜
提督「……あ」
雷「しれーかーん!」ブンブン
提督「みんな、おかえりー」
暁「ただいま、司令官!」
提督「お疲れ様、食堂におやつ置いてあるから艤装片付けたら食べて行ってね」
雷「はーい!」
提督「採ってきたものは私が運んでおくから、みんな行っていいよー」
響「悪いね、頼んだよ」
雷「司令官、よろしくね!」
暁「一人で大丈夫?」
提督「大丈夫だよ、行っておいで」
暁「ん…分かったわ!」
パタパタ
電「…………」
提督「……あれ、電は行かないの?」
電「司令官さん、これ…」
提督「ん…?あ、高速修復材持ってきてくれたんだ!ありがとうね」
電「はい、電、頑張ったのです」
提督「うん、お疲れ様」
電「…………」スッ
提督「………?どうしたの?腕広げて」
電「が、頑張ったのです」
提督「ああ……はいはい」
ギュッ
電「あっ……///」
提督「よしよし…よく頑張ったね…」ナデナデ
電「はい……///」
提督「……?」
提督(あれは、榛名……?)
提督(金剛は一緒じゃないのかな…?)
電「………ん」パッ
提督「あ、もういいの?」
電「はい、満足なのです」
提督「そっか、ならみんなのところに戻ろう」スッ
電「はい♪」ギュ
スタスタ
食堂
提督「……ふぅ、ご馳走様」
「テイトクゥー!!」ガバッ
提督「うわっ!?あ、金剛…」
金剛「dinner、食べ終わりマシタ?」
提督「うん、そうだけど…」
金剛「なら、これから紅茶でもどうデスカー?」
提督「ああ…ごめんね、まだ仕事があるから…」
金剛「Oh!それは残念デース…」
提督「また今度時間があれば、声を掛けるから…その時はよろしくね」
金剛「Yes!待ってるネー!」
パタパタ
提督「…………」
提督(金剛だけは、いつも通り……)
〜〜〜
ボフッ
提督「はぁー……今日も疲れたなぁ……」
提督「…………」
提督(すぐ眠れそう…)
提督「…………」ウトウト
コンコン
『ちょっといい?』
提督「………はーい」パタパタ
ガチャ
加賀「ごめんなさい、夜遅くに」
提督「ううん、いいよ。何か用?」
加賀「その……言っておきたいことがあるの」
提督「? とりあえず中に…」
加賀「いえ、ここでいいわ」
提督「う、うん」
加賀「……最近、金剛型の子達とよく一緒にいるでしょう?」
提督「ん?んー…言われてみれば、確かにそうかも…」
加賀「あの子達…側から見ると不自然というか、何か隠してるように思えるわ」
提督「隠してる?」
加賀「ええ、姉妹全員で……何か、隠してるみたい」
提督「うーん……近くに居てもそんな風には思えないけど……考えすぎじゃない?」
加賀「……そうだといいけど」
提督「うん、きっとそうだよ。そんなに心配しなくても大丈夫だよ」
加賀「…………」
提督「どうしたの?」
加賀「……不安なの」
提督「え?」
加賀「ここ最近、よく夢を見るの。あなたがどこかへ…遠くへ行って、私の前からいなくなる夢…」
提督「私がいなくなる…」
加賀「いつも誰かがおかしくなって、その人とあなたがいなくなって……もし現実でもそうなると思ったら、怖くて……私……」
提督「……大丈夫だよ」
加賀「!」
提督「加賀が私を信じてくれる限り、私はどこにも行かないよ。絶対に、裏切ったりなんてしないから」
加賀「っ……」
ギュウ
提督「わぷっ……く、苦しいよ…」
加賀「……ごめんなさい……」
提督「………うん」ギュッ
提督「…………」
加賀「…………」
提督「………一緒に寝る?」
加賀「いいの?」
提督「うん、私もちょっと不安だったし」
加賀「………なら、そうするわ」
提督「うん……うぅ、寒いし早く入ろう」クイ
加賀「ええ」
パタン
「…………あの女………」
〜〜〜
チュン チュン
提督「うぁ………まぶし……」ゴロン
ムクッ
提督「んん……くあぁ…」ゴシゴシ
提督「眼鏡眼鏡……」ゴソゴソ
カチャ
提督「ん……あれ………?」キョロキョロ
提督「…………」
提督(加賀、いない……もう起きたのかな?)
ガチャ
榛名「提督、起きてますか…?」
提督「ん?どうしたの?」
榛名「………さっき、見たんです」
提督「……?何を?」
榛名「提督の部屋から…加賀さんが出てくるところを…」
提督「!」
バタン
榛名「どういうことですか?」
提督「そ、それは……」
榛名「ちゃんと説明してください、よく分かるように」
提督「っ………」
提督(ど、どうしよう……)
提督「えと、その……」
榛名「……もしかして、お二人はそういう関係なのですか?だとしたら……」
提督「ち、違う!加賀が不安そうだったから、一緒に寝てただけで、やましいことなんてそんな…」
榛名「……不安そう、だった?」
提督「え?あ、うん、昨日の夜、寝る前に加賀が言ってたことで……
ーーーーーーー
榛名「………そういうこと、だったんですね…」
提督「ごめん……それで、私も怖くなっちゃって…」
榛名「そんなに、おかしかったでしょうか……榛名達は……」
提督「………正直、異常だったよ。金剛以外、みんな何かに取り憑かれたみたいで…」
榛名「異常……やっぱり、提督にはそう………」
提督「あ………で、でも、榛名の事が嫌いになったわけじゃないからね?」
榛名「…………提督」
提督「な、なに?」
榛名『見られています』パクパク
提督「え?」
榛名「………それでは」クル
ダッ
提督「あ、ちょっ、榛名!?榛名ー!?」
パタパタ…
提督「……………」
提督(見られてる……?)
提督(誰もいない、けど……)キョロキョロ
〜〜〜
提督(うーん…見られてるってなんだろう…)モグモグ
提督(さっき、誰かが居たわけでもないし……)モグ…
提督「…………」
提督(……もしかして、霧島がまた……?)
提督(いや、そんなこと……でも、可能性は……)
バタン!
飛龍「てっ、提督!大変!」
提督「飛龍?そ、そんなに慌ててどうしたの?」
飛龍「か……加賀さんが…」
提督「えっ、加賀に何かあったの!?」
飛龍「と、とにかく来て!」
提督「う、うん!」
桟橋
加賀「く……」
赤城「加賀さん、大丈夫ですか!?」
蒼龍「こ、これ、出撃は無理なんじゃ…」
パタパタ
飛龍「提督、こっちこっち!」
提督「あ……か、加賀!?その足、どうしたの!?」
加賀「これは……つっ!」ズキン
提督「は、話はあとでいいから!とにかく医務室まで運ばなきゃ!」グイ
加賀「ごめんなさい……」
医務室
明石「………はい、一応手当ては終わりました。少し火傷をしている程度なのですぐ治るとは思いますが…」
提督「よかった……でも、なんでこんな怪我を…」
赤城「そのことなんですが……突然、艤装が爆発したんです」
提督「艤装が、爆発…?」
飛龍「うん、水面に乗って出力を上げた途端にいきなり……」
加賀「……すぐに離れて致命傷は免れたわ」
提督「致命傷って……まさか、至近距離で当たってたら加賀の足ごと…」
加賀「…………」コクン
提督「…………」ゾッ
明石「でも、艤装が爆発するなんてそんなことはあり得ないはずですが…」
提督「うん、普段はオーバーロードを防ぐためにセーフティを付けてるし…私の指示じゃないと任意で解除するのも禁止してるよ」
蒼龍「じゃあ、そのセーフティが外れてたってことは……」
提督「…………人為的にやったことになる、ね」
飛龍「うそでしょ……」
提督「……もしかしたら、誰かのミスかもしれないから…可能性があるってだけで、まだそうと決まったわけじゃないから……」
明石「前日の確認、提督も携わってましたよね?」
提督「うん…その時にはなんの異常もなかったよ」
明石「ということは、昨日か今日の朝に誰かがやったってことになりますね…」
提督「艤装の残骸、まだ桟橋にあるよね?明石、調べられる?」
明石「ええ、お任せください!」
〜〜〜
提督「………あ」
提督(そうだ、今時間あるし…前に金剛が一緒に紅茶飲みたがってたから付き合おうかな)
金剛「…………」パタパタ
提督(あ、ちょうどいいところに…)
提督「金剛ー!」
金剛「ン?Oh、テイトク!なにかご用デスカー?」
提督「いや、金剛が一緒に紅茶飲みたがってたのを思い出してね。今、暇だからどうかなーって」
金剛「本当デスカ!?……あ!うー、sorry…今はワタシが忙しいネー…」
提督「ん、用事でもあるの?」
金剛「ハイ、そんなところデス!」
提督「ならしょうがないか…出来るだけ暇は作れるようにするから、またいつでも声かけてね」
金剛「Yes!それでは、またあとでネー!」
パタパタ
提督(用事ってなんだろ……さっき見かけた時は退屈そうに見えたんだけど……)
ガチャ
提督「加賀ー」
加賀「提督……どうかしたの?」
提督「うん、足の方はどうなったかなって思って」
加賀「そのことなら心配はいらないわ。出撃は出来ないけれど、歩くことくらいなら問題ないから」
提督「でも、万が一のことがあったらダメだから…今は安静にしててね?」
加賀「そんな、私は…」
提督「完全に治るまで動いちゃダメ、その状態で下手に動いて悪化なんてしたら、私もみんなも心配するから…」
加賀「………わかったわ」
提督「うん、ならよかった。それじゃ、またあとでご飯持ってくるから」キュ
加賀「……!」
提督「それじゃあね」
パタン
加賀「………積極的ね」
提督「ふあぁ……」
提督(まだお昼前なのにもう眠くなってきちゃった……)
提督(………あ、そうだ、明石にあの艤装の調査報告聞かなきゃ)
提督(工廠にいるかな…?)
提督(………その前に、朝榛名が言ってたこと…見られてるって……)
提督(またどこかにカメラとか設置されてるってことなのかな…?)
提督(犯人は霧島………だろうなあ……)
提督「はぁ……」
ガサゴソ…
〜〜〜
提督(なにもなかった)
提督(あれぇ……?おかしいな、部屋中調べたのに…)
提督(これ以上探す場所もないし……榛名が言ってたのってどういう意味なんだろう…?)
提督「…………」
提督「……………」プスプス
提督「」ブシュー
提督(ダメだ、全然分かんないや…)
提督(………うん、とりあえず、明石に報告もらいに行こう)
工廠
提督「明石ー、いるー?」
シーン
提督「…………あれ、おかしいな…」
提督「明石ー!」
ゴト
明石「………」
提督「あ、明石…そんなところでどうしたの?」
明石「ああ、提督ですか……はい、なんでしょう…」
提督「う、うん…?えっと、艤装の調査報告を聞きたいんだけど…」
明石「…………!!」ビクッ
提督「え…?ちょ、明石?」
明石「あ…い、いや……いや……」ブルブル
提督「…………!?明石!?明石っ!?」
バタン
提督「はぁ……」
加賀「どうしたの?」
提督「加賀……あのね、さっき明石に艤装の調査を頼んだでしょ?」
加賀「ええ、見ていたわ」
提督「それで、ちょっと目を離してたら様子がおかしくなって…今休ませたんだけど…」
加賀「様子がおかしい…?」
提督「うん……なんだか、極端に怯えてるというか…」
加賀「………誰かに脅された、とか?」
提督「ここまで来るとその可能性も大いにあるね……外部からの攻撃、というのも考えられるし…」
加賀「……もしそうだとすると、どこに危険が潜んでいるか分からないわね」
提督「うん……本格的に調査しないと、大変なことになるかも…」
ガチャッ
提督「大淀、いる?」
『はい、こちら大淀。提督、どうかしましたか?』
提督「うん……緊急の用事」
『緊急……?えっと、個線にしましょうか?』
提督「ううん、これから私が言うことを、鎮守府全体に通信して。いい?」
『はい、お任せください。どうぞ』
提督「…………」スゥ
『えー、こちら大淀です。鎮守府内のみなさんに通達します』
天津風「……?通達?」
時津風「なにかな?美味しいお菓子が見つかったとかかな?」ワクワク
天津風「まさか…」
『各々の作業や休憩など、思い思いの事をしていると思いますが…一旦手を止め、耳を傾けてください』
『……この鎮守府内に、部外者の侵入の可能性が見受けられました。これより臨時として、各員自室での待機を命じます』
「自室待機…?」
「不審者ってこと…?」
ザワザワ…
『大淀及び、提督から追って指示がない限りは部屋から出ないようにしてください。なお、この事態の危険レベルは高と推測されます。四人一組で部屋で待機しているように』
「高、って…!?」
「そんなに危ないの…!?」
ザワザワ…
『……これでよろしいでしょうか?』
提督「うん、ありがとう。大淀も、誰か他の子達の部屋に入っておいて」
『了解です。それでは』
ガチャッ
提督「………よし」
加賀「どうするの?」
提督「とにかく、鎮守府内全体を見回って危険がないか調べる他ないね…」
ガチャ
武蔵「そういうことなら、私も同行しようか」
木曾「俺もだ。手助けするぞ」
提督「二人とも……でも、危ないから…」
武蔵「それは貴様とて同じことだろう」
木曾「ああ、お前に何かあったらそれこそ大変だぞ?」
提督「…………」
加賀「私からもお願いするわ。この子を守ってあげて」
提督「加賀…」
武蔵「だ、そうだが?」
提督「…………わかった、そこまで言うなら協力してもらうね」
木曾「ああ、任せな」
加賀「頼んだわ」
提督「加賀はここから動けないし…部屋の鍵、閉めておくね。あと……」ゴソゴソ
加賀「?」
提督「……はい、これ」スッ
加賀「……!これは…」
提督「護身用の拳銃。もしもの時は、これで自衛してね」
加賀「……ええ」
提督「よし…それじゃあ、行くよ」
武蔵「ああ」
木曾「気をつけてな」
加賀「分かっているわ」
バタン
指令室
ガチャッ
大淀「………よし、そろそろ私も退避しないと…」ガタ
大淀「と……その前に、護身用になにか…」
「……………」
ガバッ
大淀「むぐっ!?」
ジジッ バチィッ!!
大淀「ぁ、が………」
ドサッ
「ふふっ……」
ズル ズル
武蔵「まずはどうする?」
提督「とりあえず……館内全体を見回って、怪しいところや怪しい人がいないかを調べよう」
木曾「よし。なら俺が先導しよう」
武蔵「では私は後ろだな」
提督「真ん中…しかないか」
木曾「守ってやれって言われたからな」
武蔵「ま、私の意思でもあるがな」
提督「……うん、頼りにしてるよ」
バタッ
提督「!」バッ
比叡「お姉さ……あ、司令!?」
提督「比叡?部屋に戻ってなきゃダメだよ?」
比叡「は、はい…それは分かっているんですけど…」
武蔵「なんだ?探し物でもあるのか?」
比叡「そんなところなんですが……その、金剛お姉様が見つからないんです」
提督「金剛が?」
比叡「はい、さっき妹達が部屋に集まったんですが、しばらくしても戻って来なかったので…」
木曾「心配で探しに来たってわけか」
提督「………さっきの放送を聞いてないってことはないよね…だとしたら、金剛は今どこに…」
「呼びマシター?」
比叡「えっ?」クル
提督「あ、金剛!?」
金剛「ハイ、金剛デース♪」
提督「今までどこに行ってたの?さっきの放送、聞こえてたよね?」
金剛「Yes、バッチリ聞いてマシタ!」
比叡「じゃあ、なんで…」
金剛「ワタシ、テイトクが心配になって探してたんデース!こんな状況で一人ぼっちだったら泣いちゃうかもしれないからネー♪」
提督「はあ……」
武蔵「まったく、人騒がせな…」
提督「いや、まあ…無事でよかったよ」
比叡「さあお姉様、そういうわけですから部屋に戻りましょう」
金剛「No!ワタシもテイトクについて行きマース!」
提督「ダメだよ、ちゃんと部屋で待機してなきゃ」
金剛「う〜……テイトクがそう言うなら仕方ないネー…」
武蔵「やけに聞き分けがいいな」
比叡「あはは…」
比叡「では司令、これで失礼させてもらいますね」
提督「うん……あ、そうだ金剛」
金剛「ハイ?」
提督「私を探してる時、なにか見なかった?怪しい人とか」
金剛「怪しい人、デスカ?………む〜……思い当たりマセンネー……」
提督「そっか………ありがと。これが終わったら、一緒に紅茶飲もうね」
金剛「Yes!お待ちしてマース!」
比叡「気をつけてくださいねー!」
パタパタ…
木曾「…………」
提督「…さて、それじゃ行こうか」
木曾「…………」
提督「………?木曾?」
木曾「………ああ、そうだな」
〜〜〜
提督「…………で」
木曾「鎮守府内全域を見回ったが」
武蔵「何もなかった、と」
提督「あれぇ〜…?おっかしいなぁ…」
加賀「本当に何もなかったの?」
木曾「ああ、怪しい影どころか物すら見つからなかった」
武蔵「人がいないことを除けば完全にいつも通りの鎮守府だったぞ」
提督「ううううん……なんでだろ……」
加賀「もう一度、艤装の残骸を調べるしかないんじゃ…」
提督「そうだね……明石がああなってる以上、本格的に鑑識の人を呼ばないといけない」
木曾「連絡は早めにしておいた方がいいんじゃないか?」
提督「うん、明日にでも見てもらわないと…」
ガチャッ
ツーーーー…
提督「………あ、どうも。こちら、狭霧です」
提督「はい、急ぎの用件で……至急、鑑識官の方を二人ほど寄越していただきたいのですが」
提督「………明日、ですか?はい、助かります。事情は追って説明しますね。それでは」
ガチャッ
提督「……よし、明日、間に合うって」
武蔵「そうか。なら安心だな」
加賀「何も危険がなかったのなら、もう指示は取り消していいんじゃない?」
提督「ん…それもそうだね」
ガチャッ
提督「えーっと……提督、です。鎮守府内に特に危険は見当たらなかったので、部屋から出ても大丈夫です」
提督「もし何か怪しいものや人を見つけた場合は、すぐに報告に来てください。それでは、よろしくお願いします」
提督「……ふぅ……」
木曾「お前の敬語、珍しいな」
提督「うん、まあ、大本営の人くらいにしか使わないからね」
武蔵「とりあえず今日はこれで落ち着いた…というところか」
提督「そうだね。大淀にも引き続きレーダーの監視とか頼まなきゃ」
ガチャッ
提督「大淀、いる?」
『………ザッ……ザザ………』
提督「………?」ビク
加賀「? どうしたの?」
提督「待って…ちょっと、静かにしてて」
提督「大淀……聞こえる…?」
『ザザ……ッ』
提督「お願い、応答して…!」
『ザ………あ…』
提督「! 大淀!?聞こえる!?」
『……てい……ザッ……く…』
提督「大淀!今どこにいるの!?何をしているの!?」
『た………すけ……』
ブツッ
提督「…………!」
木曾「お、おい…」
武蔵「今のは……」
提督「………大淀が、いなくなった……」
木曾「ま、待て。まだ本当にいなくなったとは…」
提督「ううん、大淀は退避してたはず……さっき私の通信に反応したのは、常に持ち歩くように言ってた携帯型の通信機」
加賀「ということは……」
提督「………誰かに、攫われた可能性が高いね…」
武蔵「馬鹿な…」
提督「盲点だった…大淀を一人にするべきじゃなかったんだ…」
木曾「………まずいな」
提督「……うん、明石も大淀も、うちにとって大事な役割を成しているから…この二人がいないと、大変なことに…」
武蔵「もし、これが外部…ましてや深海棲艦からの攻撃の起点になるとしたら……」
提督「………私、大淀を探してくる!まだ痕跡がどこかにあるかも…!」ダッ
加賀「! 待って!」ガシッ
提督「は、離してよ!大淀が危ないかもしれないのに!」
加賀「ダメよ、あなたが行って、もしどこかへ連れ去られたらどうするの?」
武蔵「そうだ、司令塔がいなくなれば私達はどうなる?それこそ大量の犠牲者が出るかもしれないぞ」
提督「くっ………」
木曾「辛いだろうが、分かってくれ。これも全部、一人の為を思ってのことなんだ」
提督「………わかった」
加賀「ええ、明日になれば大本営の人達が来るから。その時に大淀さんの足取りを掴むのよ」
提督「……うん」
武蔵「………よし、ならもうここには用はないな」
提督「………じゃあ、解散ね。警戒は怠らないように」
木曾「ああ、心得てる」
武蔵「一応、戦艦や空母…大人に、常に駆逐艦達のそばにいてやるように話しておこう」
木曾「そうだな、俺も協力する。それじゃあな」
ガチャ
提督「……じゃあ加賀、私も大本営に連絡しておかなきゃいけないから」
加賀「ええ……あなたも気をつけてね」
提督「うん」
バタン
加賀「……………」チラッ
明石「うっ……うっ、うっ……」ブルブル
加賀「…………あの」
明石「ひっ!?い、いや…!怖いの、やだ…!!」
加賀「……………」
その日の夜………
提督「……………」カリカリ
提督「ん……くあぁ……」ギギ…
提督「……はぁ……」
提督「……………」
提督(もう日付け変わってる…みんな寝てるだろうなぁ…)
提督(私も明日に備えて、そろそろ寝ないと…)
提督「……………」
提督(大淀……無事、だよね……)
タンッ トットットットッ…
提督「!」ピクッ
トットットットッ…
提督(走ってる音……?誰か来る……)
提督「……………」キョロキョロ
提督(! ほうき……)
パッ
提督「…………」ソーッ
ヒタ…ヒタ…
提督「……………」
バァン!!
提督「!」グッ
榛名「きゃあ!?」
提督「っ!?は、榛名!?」ポイッ
榛名「あ、て、提督…!」
提督「こんな時間にどうしたの?何かあったんじゃ…」
榛名「……!て、提督、逃げてください!」
提督「え?」
榛名「早く!」ギュ グイ
提督「ちょ、ま、待ってよ!事情がよく分からないんだけど…」
榛名「あとで説明しま……あ……!!」
スッ
バチバチ ジジジッ!!
提督「!?」
榛名「あ、ぐ……」
ドサッ
提督「あ、あ……な、なんで…」
「あれ?あー、榛名に当たっちゃったみたいデスネー」
榛名「…………」ビクッ ビクン
提督「金剛……!」
金剛「ハイ、金剛デース♪」
金剛「フー…榛名はダメな子デスネー」
提督「ど、どうしてこんなこと……」
金剛「ンー……邪魔だったから、デス」
提督「は……?」
金剛「テイトクをワタシのモノにしようと思って、色々と考えてたのにぜーんぶシスター達が邪魔しようとしたからネー。いい加減我慢の限界デス」
提督「…………!じゃ、じゃあ、霧島が部屋にカメラを置いたのも、榛名がずっと金剛を見てたのも…」
金剛「Exactly!ワタシがテイトクに何もしないように見張ってたってことデース!」
提督「……嘘、でしょ……?」
金剛「あ、あとテイトクにまとわりつく女がいたから、わざわざ艤装に火薬を仕込んだり…」
提督「………!!」
金剛「残骸を調べようとした女にも、脅しをかけたり色々とプランが狂ったんデスヨネー」
提督「……やだ…やめてよ…」
金剛「本当はこんなバイオレンスなことはしたくなかったんデスけどネー。榛名もあの女も、ちょっと深入りしすぎデース」パラッ
提督「………その髪…」
金剛「ええ、大淀のデス!」
提督「…………」
榛名「う………ていと…く……」
金剛「ン?まだ意識があったんデスカ?」
バチッ!!
榛名「」バタッ
金剛「ンー……電圧はこれくらいカナー…」
提督「…………」
金剛「………さて!テイトク、ちょっとお喋りしすぎマシタネー」
提督「…………!」ビクッ
金剛「誰かに見られると面倒デスからネー。早く二人だけの場所でたくさんお話シマショウ♪」バチッ
ザッ
提督「い、いや……来ないで…」
金剛「ノープロブレム!痛いのは一瞬だけデース!」
提督「あ…や、やだ…誰か…」ジリッ
金剛「誰にも邪魔されない場所で……幸せに暮らしましょうネー♪」
提督「いやっ……いやあああああああっ!!!」
ガッ
バチッ バチバチッ!!
榛名「その後ですか?」
榛名「はい、あっという間でしたよ」
榛名「目覚めたら金剛お姉様と提督がいなくなっていて、鎮守府のみんなで色んなところを探し回りました」
榛名「一ヶ月探して、捜索が打ち切りになったんです。それでも、比叡お姉様はずっと提督を探していました」
榛名「しばらく鎮守府を空けて、次に見つかった時はもう息なんてしていませんでした」
榛名「口に『これ以上探すな』とだけ書かれた紙を突っ込まれたまま。庭の木の下で死んでいました」
榛名「それから一週間して、霧島が「わかった」とだけ呟いて、出て行ったんです。それっきりですね」
榛名「………え?一人で大丈夫か、ですか?」
榛名「ええ、榛名は大丈夫です。榛名も、すぐにお姉様達のところに行きますから」
榛名「それでは」
カチャ
ドォン!!
金剛編おわり
余談ですが金剛と提督は生きています
秋月「はい?司令、どうしました?」
秋月「………えっ、またご馳走してくれるんですか!?」
秋月「はい、楽しみにしていますね!」
秋月「……え?リクエスト、ですか?」
秋月「んーっ………」
秋月「うう〜ん……」
秋月「………そうだ!あの、今度は司令の手料理が食べてみたいです!」
秋月「……本当ですか!?はいっ、待っていますね!」
秋月「えへへ…司令の手料理…」
秋月「わあ……これが司令の……」
秋月「あ、い、いただきますっ!」
秋月「………………」
秋月「……し、司令……これ、とっても美味しいです…!」
秋月「はあぁ………いくらでも食べられそう……でも、大切に味わって食べなきゃ……」
秋月「………………」
秋月「…………ん?」
秋月「あ……司令、これ…はい、骨、ですね」
秋月「いえ、大丈夫ですよ!司令もたまにはこんな失敗もするんですね!」
秋月「ふぅ………お腹いっぱいです…」
秋月「司令の手料理でお腹が満たされるって、なんだかとっても幸せですねえ……ふふっ…」
秋月「でも、これもあと一回しか味わえないんですね……ちょっと惜しいような気もします」
秋月「……いえ、司令のご好意を無下には出来ませんから!しっかりと噛み締めさせていただきます!」
秋月「…………さて」
秋月「次は」
秋月「左手ですね」
秋月「楽しみにしてますね?」
秋月「ふふっ♪」
秋月編おわり
秋月くんも…美味そうやな
次は翔鶴編ですが、特に話の分岐点があるわけでもないし嗜虐要素がかなり強いので閲覧注意です
提督「………う……」
提督「………?あれ、ここは……」キョロキョロ
ギチッ
提督「ん?」
ガチッ ギチッ
提督「………な、なにこれ…動けない…」
提督「んーっ……」バタバタ
提督「……外れない………」
提督「手錠……だよね、これ…」
提督「…なんでこうなったんだっけ…」
提督「……………」ムムム…
提督「……ダメだ、思い出せない……」
提督「………それにしても、なんだか涼しいような……」
提督「…………あ、え…?」
提督「な、なんで下着しかないんだろう…」
ガチャ
提督「!」ビク
スタスタ
翔鶴「あら、提督。起きてましたか」
提督「翔鶴…!?」
翔鶴「ごめんなさい、こんなところに連れてきてしまって」
提督「……えっ?ちょ、ちょっと待ってよ、どういうことなの?」
翔鶴「…………」
提督「連れて来たって…なんで?」
翔鶴「気分はどうですか?」
提督「どうって……それより、どうして私は拘束されてるの?それで、この下着だけなのは…」
翔鶴「気分はどうですか?」
提督「またそれ…?とにかく、早くこれ外してもらいたいんだけど…」
翔鶴「………分からない子ですね」スッ
提督「え?」
ボゴォッ
提督「あ、がぁっ……!?」ガクン
翔鶴「質問に答えてください。次は鳩尾にしますよ」
提督「う、あ、はっ、はっ」フルフル
翔鶴「……ちょっと強くしすぎたかしら」
翔鶴「ほら、顔上げてくださいよ」グイ
提督「う……」
翔鶴「今度はちゃんと答えてくださいよ?気分はどうですか?」
提督「く…苦しいよ…どうしてこんなことするの…」
翔鶴「今の気分を聞いたわけじゃないんですが…まあいいでしょう」
提督「はーっ……はーっ…」
翔鶴「そんなに痛かったですか?ずいぶん辛そうですけど」
提督「…っ………」コク
翔鶴「そうですよね。お腹は長い間痛みが続く上に大事なところですもの」スッ
提督「………え…?」
翔鶴「なら、外側にしましょうか」シュル
提督「……!な、なに、それ…」
翔鶴「見て分かりませんか?鞭ですよ」
提督「そ、それでどうするの…?」
翔鶴「どうもなにも、用途なんて一つに決まってるじゃないですか」
ヒュンッ
提督「!!」
鞭先が肌に触れると同時に、窓のない部屋に響く乾いた音。打たれた方はあまりの痛みと衝撃に、目を見開いて悲鳴すら発せずにただ身体を震わせている。
「わあ…いい音ですね。こうして叩いてみるのは初めてだからちょっとびっくりしてしまいました」
まるで他人事のように呟きながら、苦しみに喘ぐ提督には目もくれず鞭がちょうど良く当たる距離を測る翔鶴。
「このあたり…ですかね。今度は上手く当てられるかしら…」
両手を吊るし上げられ、脇腹を曝されたまるで拷問を受ける奴隷のような体勢。再び鞭を振り上げる翔鶴に、喚起の声を挙げようとするがそれよりも早く鞭先は柔らかく弾力のある肉を捉え、尋常とは思えない激痛と共にたまらず悲痛めいた声を漏らす。
「んん〜っ……いい声ですね。もっと聞かせてください、よっ!」
それに反応し、前の二回より強く力を込められた鞭が振られる。皮を焼かれ、肉を激しく震わせる瞬間的な痛みと、それが消えた後でも尾を引いて残り続ける痛み。
そのどちらも苦痛と呼ぶ他ないものであり、最初に打たれた箇所にはすでに赤い痕が生まれていた。
提督「……………」
翔鶴「ふぅ、ふぅ……鞭を振り続けるのって意外と疲れるんですね」
提督「……………」
翔鶴「さて……ふふっ、全身真っ赤になっちゃいましたねえ」ピト
提督「いっ……!」ビク
翔鶴「こんなに腫らして…どうですか?まだ痛みます?」ツツ…
提督「な、なぞらないで…!」
翔鶴「あは……いい反応ですね」ツン
提督「痛……い…っ…!」
翔鶴「んー……あら?」
スッ
提督「う……?」
グチュ
提督「ぁっ……!」ビクッ
翔鶴「ふふふ……これはなんですか?」スリスリ
提督「いっ、ひあっ…や、やめて…」ピク
翔鶴「どうして濡らしてるんですか?ねえ?」クチュ…
提督「やっ……!」
翔鶴「なにもしていないのに……もしかして、叩かれて興奮しちゃったんですか?」ボソ
提督「……!ち、ちがっ…そんなんじゃ、うぁ…っ!」ビクン
翔鶴「正直に言った方が楽ですよ…?ふふっ、あはっ…」ズプッ
提督「っ……!く、ぅ……!」ギリッ
翔鶴「……耐えるつもりですか?まあ、それもいいですけど」
翔鶴「それなら、こちらにも考えはあるんですよねえ」ゴソゴソ
提督「な、なにをするの……」
翔鶴「もっと後に使おうと思ってたんですが……まさか提督が痛みで興奮する変態さんとは思いませんでしたから。ちょっと予定が狂ってしまいました」
提督「う、く……///」カァッ
翔鶴「あ、ありました」スッ
グイッ
提督「………?」
提督(なに、あのボトル…水……?)
翔鶴「いひまふよー」ガシ
提督「え……あ…?」
チュッ
提督「ーーーっ!?」ビクゥ
翔鶴「んっ……ん、ふふ…」ギュウウ
提督「んむっ、うぁ…」ガシャン ガチャッ
翔鶴「ふ…んん……」チュルッ
提督「っぁ……!?」ビクッ
提督(何か流し込まれてる…!)
翔鶴「はぁ…ん、っ……」ググ…
提督「ん゛ーっ…!」
提督(ダメ、息が…飲み込むしか……)
ゴクッ
バッ
提督「っは……はぁ、はぁっ……」
翔鶴「ふふっ、ちゃんと飲んでくれましたね♪」
提督「な、何を……」
翔鶴「うーん……簡単に説明すると、媚薬、ですかね」
提督「……!?」
翔鶴「結構効くみたいですよ?まあ、評価だけなので本当かどうかは分かりませんが」
提督「そ、そんなもの飲ませて何をするつもりなの…?」
翔鶴「何って………ただ私がやりたいことをやってるだけです。目的なんて特にありません」
提督「……おかしい…おかしいよ……」
翔鶴「ええ、私自身が一番よく分かっていますよ」
提督「……………」
翔鶴「あ、そうそう」
提督「…………?」
翔鶴「その媚薬、効果がちょっと特殊で」
提督「……どういうこと…?」
翔鶴「平常時に飲んでも、まるで効果はないそうです。ただ……」
ツン
提督「ひあっ…!」
翔鶴「こんな風にある程度興奮している時に飲むと、より強く、より早く効果が表れるみたいです」
提督「な…なに、それ…っ!」ピクッ
翔鶴「そろそろ効いてきたんじゃないですか?顔が赤くなってますよ?」
提督「う、うっ…!く……///」カァッ
翔鶴「ふふっ……たくさん溢れてきましたよ」ニチャッ
提督「や…やめて…!」
翔鶴「……………」
スッ
提督「え……?」
翔鶴「ならやめてあげましょう、これでいいんですよね?」
提督「あ…う……」
翔鶴「ふふっ、どうしてそんなに切なそうな顔するんですか?本当は期待してたりとか…」
提督「ち、違う…そんなのじゃ、ない…」
翔鶴「そうですか、ならお好きに」
提督「く…」
翔鶴「今は我慢出来ても、段々効果が出てきて、疼いて耐えられなくなるかもしれませんよ?」
提督「…………」ギリ…
翔鶴「そんなに睨まないでくださいよ…歯止めが利かなくなるじゃないですか」
提督「…………」
翔鶴「まあ、時間はありますし……じっくりやりましょうか」
数分後
提督「………っは……ふぅ……」
翔鶴「…………」
提督「ぁ……っ」
翔鶴「……どうしました?息が荒いみたいですけど」
提督「な、なんでも…ない、から……」
翔鶴「そうですか。なら心配はいりませんね」ツン
提督「っ……!!」ビクッ
翔鶴「ふふっ……」
提督「うぁ……う……」フルフル
提督「ふっ…はっ……はっ……///」
翔鶴「…………」
提督「はーっ……はーっ……うっ、くぁ……///」ピクッ
翔鶴「提督」
提督「う……ふぇ…?な、なに……?」
翔鶴「…………」
提督「なん、なの……っ、ぁ……」
翔鶴「………なんでもありません」
提督「んっく…あ…はぁ…はぁ……」
翔鶴(だいぶ効いてきたみたいね…)
提督「っ……ぁ…はっ、はっ……///」ビクッ
翔鶴「…………」
提督「う…うぅ〜っ……ん…やぁ……///」スリ…
翔鶴「提督、さっきからしきりに太腿を擦り合わせてますけど………もしかして、我慢出来ないんじゃないですか?」
提督「うぁ………ちが、う……わたしはっ……///」ピクン
翔鶴「そうですか?なら効果がなくなるまで耐えてくださいね」
提督「は……え………///」
翔鶴「…………」
提督「うう……っ、んく……///」
翔鶴(ふふ…切なそうな表情……)
翔鶴(顔も真っ赤で、とっても可愛い……)
翔鶴(ああ…早く素直になっちゃえばいいのに…)
提督「うーっ………うあぁ……も、む…り…っ」カタカタ
翔鶴「ふふっ、弄ってほしいなら言ってもいいんですよ?すぐ気持ち良くなれますからね」
提督「う……はぁ…はぁ……」ジッ
翔鶴「…………」
提督「っ………!///」ブンブン
翔鶴「あら、まだ耐えるんですか?すごい精神力ですね」
提督「ふーっ……ふーっ……///」ガチガチ
翔鶴「ふうん………まあ、好きにすればいいですけれど…」
提督「ぐ……っん……!!っはぁ、はっ、はっ……///」
提督「…う………」ピクッ…
翔鶴「……あら?もう薬の効き目がなくなったみたいですね」
提督「…………」
翔鶴「まさか耐え切るとは……提督、思ったよりもすごいんですね」
提督「…………」
翔鶴「さて、今日は疲れたのでこれでおしまいにしましょうか。また明日別のことをしましょう」
提督「…………」
翔鶴「さすがにこのままじゃ眠れないでしょうし、手錠外してあげますね」カチャカチャ
ガチンッ
提督「うあ……」ドサ
翔鶴「あ、ちなみに手錠を外したところでここからは出られませんから」
提督「…………」
翔鶴「こんなところで寝たら風邪を引きますよ?」
提督「…………」
翔鶴「……一人じゃ立てませんか?なら手を貸してあげま……」スッ
バシッ
提督「っ………」キッ
翔鶴「…………ああ……」ゾクゾク
ガッ
提督「あ、ぐっ…!?」
翔鶴「ダメじゃないですか、そんな顔しちゃ…」ググ
提督(うそ…持ち上げられてる…!)
翔鶴「そんな目で見たら、止まらなくなっちゃうじゃないですか!ねえっ!!」ギリギリ
提督「う、ぐぁ……!く、くる…しいっ……」バタバタ
翔鶴「ほら、ほらぁっ!もっと抵抗してくださいよ!苦しいんでしょう!?ねえ!!」ググ
提督「や…やめ、え゛っ……」
翔鶴「ふふ、うふふっ、あははっ!!」グググ
提督(だ、ダメ…力が抜けていく……)
提督(死………ぬ……)スルッ…
パッ
ドサッ
提督「げほっ、ごほっ!がは……っぐ、ぅ……」
翔鶴「はぁ……危ない危ない、本当に殺しちゃうところでした」
ゲシッ
提督「うっ……」バタ
翔鶴「下手な真似はやめた方がいいですよ、余計に苦しみたくなければ」
提督「…………」ビク
翔鶴「それでは、また明日。身体を休めておいてくださいね」
スタスタ
バタン
提督「…………」
提督「……ううっ……」
提督「いたっ……」
提督(全身が痛い……脇腹が、真っ赤に腫れてる…)
提督(なんで…翔鶴、いつもは優しいのに…)
提督(どうしてこんなことするの……)
提督(悪い夢なら、早く覚めてほしいな……)
提督(いつもみたいに………優しい翔鶴に、戻ってほしい……)
提督「…………」グスッ
提督(身体に力入れてたせいかな……なんだか、すごく疲れた気がする……)
提督(………寝よう…今は、寝ていよう……)
提督「…………」スゥ
〜〜〜
提督「………ん…」パチ
ゴソ
提督「…あれ…毛布……?」
提督「………翔鶴が置いてくれたのかな…」
提督「……………」ゴロ
提督(あったかい……)
提督(まだ……寝てたい…)
提督「……………」
提督「……………ダメだ」
提督「ここから逃げなきゃ…いつまでもあんなことされたら、身体が持たない…」
提督「……………」キョロキョロ
提督(翔鶴はいない…よね…)
提督(今なら、外に出られる…)フラ…
ガチャ
提督「………?」
提督(廊下、だよね……でも窓がないってことは、地下……?)
提督(そっか…だから誰も助けに来られないんだ…)
提督「……………」ヨロヨロ
提督(外に出る扉は……)
「提督?」
提督「!」ビクッ
翔鶴「こんなところで何をしているんですか?」
提督「う、あ、いや…」
翔鶴「もしかして、逃げ出そうとか思ってたんじゃないですか?」
提督「ち、違うの……そういうことじゃなくて…」
翔鶴「はぁ……」
提督「」ビク
翔鶴「私、下手な真似はやめた方がいいって言いましたよね?」
提督「あ、う…」
翔鶴「余計に苦しむだけと言ったのに……まだ躾がなっていないようですね」
提督「ひっ……」
翔鶴「昨日の続きをしてあげます。ほら、部屋に戻りましょう」グイ
提督「い、痛い!髪、引っ張らないでぇ…!」
翔鶴「なら早く歩いてくださいよ」ブンッ
ドサッ
提督「うう……」
翔鶴「手を後ろに回してください」
提督「え…な、何をするの…?」
ゲシッ
提督「っ……!」
翔鶴「早く。聞こえなかったんですか?」
提督「は…はい…」フルフル
翔鶴「はい、よく出来ました」
ガチャッ
提督「こ、これ…」
翔鶴「手錠です。昨日みたいに吊り上げられてないだけ楽ですよね?」
提督「……うん……」
提督「今日は何をするの…?」
翔鶴「どうしましょうかねえ、悪い子にはまた鞭でもいいんですけれど…」
提督「ひっ…い、いや…」
翔鶴「嫌ですか?」
提督「もう、痛いのはやだ……お願いだから、痛いのだけはやめて…」
翔鶴「ふうん……なら、別のことをしてあげましょう」
ゴソゴソ
提督「……………」
翔鶴「よいしょっと…前、失礼しますね」スッ
提督「っ」ビク
翔鶴「そんなに怯えなくてもいいじゃないですか、もう痛いことはしませんよ」カチャカチャ
提督「ご、ごめん……」
翔鶴「………はい、着け終わりました」
提督(……?なにこれ、首輪…?)
翔鶴「あとは……」ペタッ
提督「ひゃう!」ビクン
翔鶴「あら、可愛い声」
提督「う……///」カァッ
翔鶴「その電極パッド、暴れて外したりしないでくださいね?まあ、提督の胸なら落ちることはないでしょうけど」
提督「電極パッドって……まさか、電流…」
翔鶴「その通りですけど、痛くはしませんから。むしろ気持ちいいです」
提督「え…?気持ちいいって、どういう…」
翔鶴「提督、昨日は満足出来ませんでしたよね?だから今日はたくさん気持ち良くなっていいんですよ」
提督「ま、待ってよ、そんなこと言われても…」
ツン
提督「ひっ!?」
ビリッ
提督「うあっ…!?な、い、今の、なに…!?」
翔鶴「その首輪、大きい声に反応して電流が流れるんです。本当は犬の躾に使うものらしいんですが、私が少し改良して気持ち良くなれるようにしました」
提督「じゃあ、この電極も…」
翔鶴「ええ、連動して流れます」
提督「……!」
翔鶴「それ、一度私も試してみましたが……凄かったですよ、もし叫んだりしてしまったら、それからはずっと電流が流れて…おかしくなるかと思いました」
提督「や、やだ…そんなの、怖いよ…」
翔鶴「ちなみに今のは弱です。……提督は甚振られるのがお好きみたいですから、強にしてあげます」カチッ
提督「う、うそでしょ…?ね、ねえ…」
翔鶴「それでは、天国にいってらっしゃい♪」
ツン
提督「ひっ」
ビリッ
提督「うあぁっ!?はっ、ああああああっ!!?」ビクン
翔鶴「ふふっ…ちゃんと止めなきゃすごいことになりますよ?」
提督「やっ、こっ、これやだぁっ!!むりだからああっ!!」ガチャッ ガチン
翔鶴「ああ、やっぱり。これだけ暴れても電極は外れませんね」
提督「っ、ぐっ、ああああああああっ!??やだやだやだああ!!これっ、止めええ゛え゛え゛!!!」ビクッ ビクン
翔鶴「ああ…いい声…///」ゾクゾク
提督「いやあああああああ!!ああああああああああああああっ!!」ビクッ ガクガク
翔鶴「…あら?もしかして、もうイっちゃいました?ふふっ」
提督「はーっ、はーっ、ふあっ、あ、あああああああ゛あ゛あ゛あ゛!!!」ガクン ガチャガチャ
翔鶴「ほら、休んでる暇なんてないですよ?」
提督「ひぐっ、おねがっ、お願いだからっ、これ、はずしっ………っあ゛ーっ!!」ブルッ
ポタポタ…
翔鶴「あら?」
提督「うっ、あっ、あっ、あ、ああ、っ」ジワ…
翔鶴「あはっ、漏らしちゃってるじゃないですか。そんなに気持ちよかったんですか?」
提督「ふっ、い、ぎああぁぁぁっ!!も、っや、やだあああああああ!!!」ビクッ ピク
翔鶴「それとも筋肉が弛緩しすぎちゃいましたか?」
提督「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!う゛あ゛あ゛あ゛!!!」ビクン ビクン
翔鶴「…って聞こえてます?そんなに叫んだら喉傷めますよ?」
提督「うあ、あ、あ……ああ……」ビクッ…ピクン…
翔鶴「………あ」
ドサッ
提督「」ピクッ ピク
翔鶴「……失神しちゃった」
バシャッ
提督「う………」
翔鶴「こんな簡単に失神しちゃダメですよ。もっと耐えてみせてください」
提督「……やぁ……」フルフル
翔鶴「嫌?何が嫌なんですか?」
提督「もうやだ…やめて…」
翔鶴「やめてと言われましても…何をやめてほしいのか、ちゃんと言ってくれないと分かりませんよ」
提督「痛いのも怖いのもいや……休ませて…」
翔鶴「……いいでしょう。けど、その前に」
提督「………?」
翔鶴「お風呂に入ってきてください、そんな全身汗だらけの状態じゃ風邪を引いてしまいますから」
提督「…………」
翔鶴「一人じゃ立てませんか?ほら、手を」スッ
提督「…………」
ギュ…
ザーッ
翔鶴「熱くないですか?」
提督「……………」
翔鶴「……………」
キュッ
翔鶴「ほら、ちゃんと湯船に浸かってください。シャワーだけじゃ風邪を引きますよ」グイッ
提督「……………」
翔鶴(すごく疲弊してるのかしら…ずっと無言ね…)
チャプン
提督「……いっ……」
翔鶴「腫れたところ、痛みます?」
提督「っ……………」ビク
翔鶴「……………」ゾク
翔鶴(ダメ……抑えなきゃ…)
翔鶴「提督、出たくなったら手を引いてくださいね」ギュ
提督「……………」
翔鶴(ちゃんと聞こえてるかしら…まあ、顔が赤くなり始めたら出してあげたらいいかな…)
翔鶴(……それにしても…)
提督「……………」
翔鶴(この……光が消えて、どこを見てるのか分からないような目…本当に、ぞくぞくするわ…)///
翔鶴(そろそろ、精神が苦痛に耐えられなくなる頃…)
提督「……………」
翔鶴(もう少し……)
翔鶴(もう少し、ね……ふふっ……)
提督「……………」
〜〜〜
提督「すー……すー……」
翔鶴「…………」ナデ
提督「ん……ぅ…」ピク
翔鶴「…………」
提督「くぅ……すー……」
翔鶴(ふふ…可愛い寝顔……)
翔鶴(こんなのもいいけど、やっぱり…提督の、苦しそうな顔が見たい……)
翔鶴(ああ…早く起きないかしら…)
翔鶴(なんなら、今からでも……)
スッ
翔鶴「…………」ピタ
翔鶴(………ダメ、ちゃんと休ませてあげなきゃ…一気にやったら、すぐに壊れてしまうから…)
翔鶴「……ふふ……」
提督「………ん…」パチ
提督「あれ…ここ、布団……?」
提督「あ……」
翔鶴「…………」スースー
提督「翔鶴………寝てる……?」
ツン
翔鶴「んん……」ゴロ
提督「…………」
提督(今のうちに、どこか……)
提督「……………」
ギュ
提督「……もう、いいや……」
提督「なんだか、疲れちゃったし……まだ…眠っていたい……」
提督「…………」
ポト…
ジュワッ
提督「うぁっ……!?」ビクッ
翔鶴「目が覚めましたか?」
提督「あ……翔、鶴…」
翔鶴「はい、翔鶴です」
提督「……それ……」
翔鶴「はい、塩酸です。少し濃度が高いですが」
提督「っ……また、痛いこと、するの……?」
翔鶴「………はい」クイ
ポタッ
提督「あ…!あ、あつ、い……」
翔鶴「提督……その反応、とても可愛いです」
提督「…………」
提督「………いや……」
翔鶴「はい?」
提督「もう…いたいのは、いや……いやなの…」フルフル
翔鶴「…………」
ポタッ
提督「あぅ……!」
翔鶴「………ダメです。私は、提督を傷付けずにはいられません」
提督「…………」
翔鶴「だから……提督が、変わらなければいけないんです」
提督「え……?」
翔鶴「痛いことは、気持ちいい。これは、私の愛なんです」
提督「……愛……」
翔鶴「そう思うことしか、提督には出来ないんです。提督に残された道はそれだけなんです」
提督「…………」
ポタッ
提督「痛くても……愛されてる……」
ポタッ
提督「痛いのは、愛されてる……」
翔鶴「そうです、痛みは愛の証拠です」
提督「愛の……証拠……」
ポタッ
提督「っ……!あはっ…」
翔鶴「どうですか?」
提督「痛いよ………けど、あったかくて、気持ちいい……ふ、ふふっ……」
翔鶴「……そうですか。なら、これからもたくさん愛してあげますね」スッ
提督「ふふ、ふふふっ…あはは…痛い……痛いのが、気持ちいい…愛されてるから……あは…あははは…」
〜〜〜
提督「……………」
翔鶴「提督」
提督「……………」
翔鶴「提督。聞こえますか?」
提督「……………」コク
翔鶴「……長い間、付き合ってくれてありがとうございました。そして、ずっと苦しませて、ごめんなさい」
提督「……………」フルフル
翔鶴「……提督は、優しいですね。こんなにボロボロになるまで私の愛を受け止めてくれて…」
ギュッ…
提督「……………」
翔鶴「……私の最後の望み…聞いてくれますか?」
提督「……………?」
翔鶴「たった一度……一度だけの提督の死に顔を、私に見せてください」スッ
提督「……………」
翔鶴「それを見た後、私もすぐに逝きます。提督のいない世界に価値なんてありませんから」
提督「……………」コクン
翔鶴「…………提督……」
提督「……………」
翔鶴「…………愛しています」
ドスッ
提督「ぅ………!」
バタッ
提督「ぁ……は……」
ギュ
翔鶴「……さようなら、提督…少しだけ、お別れです……」
提督「う…ん……」
翔鶴「……………」
翔鶴「………綺麗」
翔鶴「提督…とても、綺麗です…」
翔鶴「……はい、寂しがらせるつもりはありません」
ズッ
翔鶴「すぐ…そちらに向かいますね……」
翔鶴「…………さようなら」
「私の、愛した世界」
ドスッ
翔鶴編おわり
次は木曾か提督を予定しています
金剛「幸せに暮らしましょうネー♪」
提督「いやっ……いやあああああああっ!!!」
ガッ
「待て!!」
金剛「What!?」
提督「き、木曾…!?」
木曾「その子から離れろっ!」ドンッ
金剛「うぐっ!?」
ドサッ
金剛「く…この……」
バチバチッ!!
金剛「があっ…!?」
バタッ
木曾「はぁ…はぁ…」
提督「あ……」
提督「木曾、あの…」
木曾「…!逃げるぞ!」グイッ
提督「えっ!?ちょ、ちょっと待ってよ!逃げるって、どこに…」
木曾「分からないけど…どこか、遠くにだ」
提督「遠くって……失踪するってこと?そんなことしたら、ここの子達はどうなるの!?」
木曾「それも分からない…けど、今はとにかくこの女から逃げるんだ!」
提督「ダメだよ!私がいなくなったらみんなが混乱して…」
木曾「まだ分からないのか!この女は、お前がここにいるからおかしくなってしまったんだ!」
提督「え……?」
木曾「そんな異常者をこのまま放っておいたら、お前どころかこの鎮守府全体が危険にさらされることになるんだぞ…」
提督「…それ、は……」
木曾「……確かに、困惑してることも、離れたくない気持ちも分かる。けど、これは俺やお前の意思でどうこう出来る問題じゃないんだ」
提督「…………」
木曾「今は……時間が必要なんだ。分かるか?」
提督「………うん」
木曾「…なら行こう」クイ
提督「…待って、メモか何か…」
木曾「ダメだ、そんなもの残したら簡単に足取りが掴まれるぞ」
提督「じゃあ、どうやってここに…」
木曾「……機を見るか、他の誰かが探してくれるのを祈るしかない」
提督「そんな……」
木曾「……行こう、時間がない」
提督「…うん……」
ダッ
ーーー
ーーーー
ーーーーーー
ガタッ
ガタン ゴトン ガタン
木曾「……………」
提督「……………」
木曾「……………」
提督「……私達の…」
木曾「………?」
提督「…私達のいた鎮守府…どんどん遠くなっていっちゃう…」
木曾「…………ああ」
提督「……ねえ、木曾」
木曾「……なんだ?」
提督「本当に、これでよかったのかな……」
木曾「………分からない」
提督「…………」
提督(これから、どうなるんだろう……)
キィーッ…
ストン
提督「ふぅー…やっとついた…」
木曾「…………」キョロキョロ
提督「木曾?」
木曾「あ、いや。鎮守府以外の場所に来るのは新鮮で…」
提督「それもそうだね……はぁ、空気が綺麗だなぁ…」ググ
木曾「ああ…緑がいっぱいだ…」
提督「……さてと、少し歩こうか」
木曾「? 遠いのか?」
提督「うん、ちょっとだけね」
木曾「あ、荷物持つぞ」
提督「ん?大丈夫だよ、これくらい。それより木曾も長旅で疲れてない?」
木曾「俺なら平気だが…ただ…」
提督「?」
木曾「……暑いな」
提督「ああ…まあ、ずっと南に下りてきたからね…」
木曾「電車に船にバスに…俺たち、今どのあたりにいるんだ?」
提督「九州のどこか、かなあ…」
木曾「そんなに遠くまで、逃げてきたんだな…」
提督「うん…」
木曾「……でも、よかった」
提督「なにが?」
木曾「お前の元気、幾分か戻ってきたみたいだからな」
提督「そう?」
木曾「ああ、鎮守府から抜けてきた時よりよく笑うようになったぞ」
提督「そっか…うん、今は金剛がいないから、安心してるのかも」
木曾「…さすがにここまでは追って来られないだろうが、もしまた何かあったら…その時は俺が守ってやるからな」
提督「…うん」
提督「さて……着いたよ」
木曾「うお…大きいな…」
提督「今日からここが私たちの家になるんだよ」
木曾「そうか…しかしよくこんなところ見つけられたな」
提督「小さい頃、夏になるとよくこっちの家に帰省しててね。母方のおじいちゃんとおばあちゃんが亡くなってからはずっと買い手が見つからないからそのまま放置されてたんだ」
木曾「誰も買わないのか…こんな広い家なのに…」
提督「まあ、こんな田舎に来る人なんて今時いないからね…都心部から遠いってだけでも不便だし…」
「あら……あんたもしかして、古湊さんとこの…?」
提督「え?あ、おばさん!?」
おばさん「あ〜やっぱり!」
提督「うわあ、久しぶりですね!10年ぶりぐらいかな?というか、私の姓は狭霧なんですけども…」
おばさん「おお、そうだったねぇ。すまんね」
提督「あはは、相変わらず覚えてくれてないんですね」
木曾「………?」
木曾「なあ、この人は…」
提督「ん?ああ、私が小さい頃よく面倒見てもらってた人」
おばさん「んん?嬢ちゃん、その娘っ子はもしかしてあんたの子かい?」
提督「え?違う違う、そんなんじゃないってば!そもそも私、まだ独り身だし…」
おばさん「おお、そうか…そりゃすまんねえ…」
木曾(俺、そんなに子供っぽいのか…)
おばさん「ああ、そうだ…こないなところになんの用事かい?大荷物を持っとるけど」
提督「あー…まあ、色々事情があって…」
おばさん「ふむぅ…複雑な話かい?」
提督「……うん」
おばさん「なら深く聞きはせん、荷物も重いじゃろうしそろそろウチに戻りんさい」
提督「うん…あ」
おばさん「どうした?」
提督「家、掃除し直さなきゃいけないんだ…」
おばさん「そのことなら心配いらん、わしが綺麗なまんまにしとるでの」
提督「え、そうなの?」
おばさん「仏様がおる場所に埃積もらせるのも忍びないからのう、ほほほ」
提督「へー…そうだったんだ、ありがとね」
おばさん「いやいや、わしが好きでやっとることじゃ、礼なんぞいらんよ」
提督「うん…それじゃ、落ち着いたらまたお邪魔しにいくね」
おばさん「うむ、待っとる」
スタスタ
木曾「……すごい老人だな、髪が真っ白なのにまっすぐ歩いてるぞ…」
提督「私が5歳の時からあんな感じだったよ」
木曾「仙人か何かか?」
提督「さあ…どうなんだろ…」
ガラッ
提督「わあ…昔のままだ…何も変わってないや…」
木曾「とりあえずこの廊下に荷物置いていいか?」
提督「うん、一通り片したらお昼にしよっか」
〜〜〜
提督「どう?」
木曾「ん?どれも美味いぞ」
提督「ふふっ、よかった」
木曾「………なんだか、こうしてると…夫婦みたいだな」
提督「ふふ…木曾と夫婦かぁ……」
木曾「…満更でもないって感じだな」
提督「ん?うん、木曾と一緒なら楽しいもん」
木曾「………っ///」プイ
提督「?」
木曾「そ、そういうことを誰彼構わず言うからこんなことになるんだぞ」
提督「…それもそうか…」
提督「……あ、そうそう」
木曾「なんだ?」
提督「ちゃんとした服、買わないとね」
木曾「俺はこのままでもいいんだが…」
提督「ダメだよ、木曾も私もこの格好のままじゃ目立ちすぎるから」
木曾「そうか?」
提督「そうだよ、他の人はみんな洋服着てるのに私だけ軍服っておかしいでしょ?木曾もそうだけど、常にお腹出してマント羽織ってる人なんていないよ」
木曾「え…そうなのか…」
提督「だから、ご飯食べ終わって休憩したら服買いに行こう?夕方までに行けばバスはあるから」
木曾(この服カッコいいのに…)
木曾「…………」
提督「………うーん……」
木曾「…………」
提督「…………とりあえず、色々見繕ってみたけど…どう?」
木曾「ん…やっぱり、どれもしっくりこないな」
提督「似合ってはいるんだけどね。普段着てた服のせいかな」
木曾「…なんか、悪いな」
提督「いいよいいよ、これから慣れていけばいいから」
木曾「ああ」
木曾(これから、か…)
提督「そうだ木曾、先にお風呂入る?」
木曾「ん、いいのか?」
提督「うん、疲れてるでしょ?さっきおばさんが沸かしてくれたのが外にあるから、入っておいで」
木曾「そういうことなら……って、外?」
提督「? うん、ドラム缶風呂」
木曾「ドラム缶で風呂!?」
提督「この家、ガスが止まってるから…しばらくはドラム缶風呂になるかな」
木曾「そ、そうなのか…ずいぶん原始的なんだな…」
提督「そのまま入ったら熱いからこれ、底敷き」ポイ
木曾「あ、ああ」
提督「あともたれる時に熱くないように手拭い」ポイ
木曾「ああ…」
提督「それと着替えと、身体拭くタオルね」ポイ
木曾「…………」ズシッ
提督「あとは…何もないか。熱いうちに入ってきてね、ご飯作ってるから」
木曾「…ああ」
木曾(風呂だけで大荷物だな…)フラフラ
ザブン
木曾「ふぅー……お、いい湯加減……」
木曾「…………」
木曾「……そうか、ここ、丘の上だから…海が見えるのか…」
木曾「………綺麗だな……」
木曾「…………」ガタ
ジュワ
木曾「ああ゛っつ゛!!?」バシャア
木曾「あちち…そうだった、ドラム缶だからちゃんと手拭い置かないと熱いのか…」
ペタ
木曾「よし、と……ふぅ…」
木曾「…………あ」
木曾(髪、どうやって洗おう……)
提督「よいしょっと……」
ガシャン
提督(しばらくはガスコンロかな…不便だけど、仕方ないか)
提督「………さてと、とりあえず豚汁でも作ろうっと…」
ザクッ
提督(料理するのなんて、いつぶりだろう……鎮守府にいた頃は、鳳翔さんが……)
ザクッ
提督「……………」
提督(……みんな、今どうしてるんだろう…)
ザクッ
提督(誰にも、何も言わないで出てきたから…大騒ぎになってるんじゃ……)
提督(朝潮とか、夕立とか…泣いてないといいけど…)
ザクッ
提督「……………」
提督(大淀……生きてるのかな……)
ザクッ
提督(榛名に…加賀も……)
提督(ちゃんと、怪我治ってるかな…)
ザクッ
『逃げるんですか?』
提督「……………!」
『私があんなに辛い思いをしたのに』
提督「……………」
『私たちはあなたを守ろうとしたのに』
『榛名達を見捨てるのですか?』
提督「………違う……」
『何もかも捨てて』
『二人だけで、のうのうと』
提督「違うっ!!!」
ザクッ
木曾「ふぅ……上がったぞー」
提督「…あ、木曾…」
木曾「お、もう夕飯出来てたのか。さすがに早いな」
提督「うん、食べよう?」
木曾「そうだな。いただきます」カチャ
提督「…いただきます」
木曾「……うん、やっぱりお前の料理は美味いな」モグモグ
提督「そう?」
木曾「ああ、これから毎日食べられると思うと幸せだ」
提督「そっか…ふふ」
木曾「ところでお前……その手の傷、どうしたんだ?」
提督「え?ああ、これは……料理するのなんて久しぶりだったから、ちょっと切っちゃって…」
木曾「そうか…消毒はしたのか?」
提督「うん、ガーゼも貼ってる」
木曾「…………」
提督「傷は浅いから心配は…って、聞いてる?」
木曾「……ああ、聞いてるよ。早く治るといいな」
提督「ふふ、そうだね」
木曾(傷は浅い、か……それにしては血が滲みすぎているような…)
木曾「……ふぅ、ご馳走様」
提督「あ、もういいの?おかわりは?」
木曾「いや、いいよ、もう満腹だ」
木曾(ご飯三杯も食べさせておいてよく言うよ…)
提督「そっか…なら、向こうの部屋に布団敷いてあるから今日はもう休んでおいで」
木曾「え、でも」
提督「いいよ、長旅でちゃんと眠れてなかったでしょ?お皿は私が片付けておくから、ね?」
木曾「……わかった、ありがとう」
提督「うん、ゆっくり休んでね」
木曾「……なんていうか、さ」
提督「?」
木曾「俺たち……夫婦みたいだな……///」ポリポリ
提督「っ……!///」ドキン
木曾「…悪い、変なこと言ったな!お、おやすみ!」パタパタ
提督「う、うん…おやすみ…///」カァ
ボフッ
木曾「ああ……久々の布団だ……」
木曾「…………」
木曾(暖かい……もう思考する気も…起きない……)ウトウト
木曾(さすがに…疲れたな……)スゥ
木曾「………zzz…」
スー…
提督「木曾、毛布……あ」
木曾「すぅ……すぅ……」
提督(もう寝ちゃったんだ…よいしょっと…)
パサ
木曾「ん……んぅ…」
提督「…………」
提督(普段は凛々しいけど…こうしてみると、やっぱり子供らしくて可愛いなぁ……)ナデ
木曾「くぅ……」
提督(……私もそろそろ寝よう…明日はやることがいっぱいだし…)ゴソゴソ
提督「…………」
提督「…………」
提督「……違う…」
提督「私は…ただ…」
提督「……やめてよ…」
提督「違う……」
提督「違うよ…」
提督「私は……」
〜〜〜
パタパタ
チチチ…
ツン
木曾「ん………んお…」ゴロ
ピッ
パタパタ…
木曾「う……朝か……」ムク
木曾「…………?」キョロキョロ
木曾「いない…?」
木曾「…………ん、この匂いは…」
スタスタ
ガラッ
提督「…ん?」クル
木曾「やっぱり、起きてたか」
提督「あ、木曾。おはよう」
木曾「ああ、おはよう……というか、早いな」
提督「? 何が?」
木曾「いや、昨日俺より早く寝ていたのにもう起きてるからさ…ちゃんと眠れたのか?」
提督「うん、私もさっき起きたところだから大丈夫」
木曾「そうか……ならいいんだが」
提督「それよりほら、もうすぐ朝ご飯できるから向こうで待ってて」
木曾「ああ」
パタパタ
提督「…………」
コト
提督「よいしょっと…さ、食べよっか」
木曾「おお…和食って感じだな」
提督「海苔いる?」
木曾「ああ、もらうよ」
提督「はぁ……こうしてゆっくり朝ご飯を食べられるのって、なんだかいいなぁ…」
木曾「…鎮守府にいた頃は忙しかったもんな」
提督「うん……まあ、毎日忙しかったのは私だけだけど…」
木曾「……そうだな。今は、好きなだけゆっくりすればいいさ」
提督「……うん」
木曾「そういえば、今日は何をするんだ?」
提督「ん?えっと、今日は新しく服とか食材とか…日用品を揃えに行こうかなって」
木曾「また街に行くのか?」
提督「うん、大きいデパートじゃないと一度に買い揃えられないから…」
木曾「そうか、なら俺もついて行くよ。荷物とか大変だろう?」
提督「うん…助かるよ」
木曾「いつからだ?」
提督「そうだね、ご飯食べてちょっと休憩したら行こうか」
木曾「わかった、準備しておこう」
提督「木曾ー、行くよー」
「あ、待ってくれ!すぐ行く!」
バタバタ
木曾「悪い、待たせたな」
提督「うん、鍵は私が閉めるから先に出て」
木曾「ああ」
ガチャッ
提督「よし、バス停まで歩こうか」
木曾「ああ……しかし、暑いな…」
提督「もう夏だからね…仕方ないよ」
ブロロロ…
木曾「……バスの中、誰もいないな」
提督「まあ、そもそもここに住んでる人自体少ないからね…出かけるのなんて私たちくらいだよ」
木曾「そうなのか……すごい田舎だな…」
提督「…ごめんね、こんなことに巻き込んじゃって」
木曾「謝らないでくれ。俺が勝手に連れ出したんだから、責任は俺にあるんだ」
提督「…それでも私は木曾が悪いとは思ってないよ」
木曾「……そうか…ありがとう」
提督「あ…私の方こそ、ありがとうね。今さらだけど、あの時助けてくれたお礼が言えてなかったから」
木曾「いいってことさ、俺はお前のためならなんだって…」
提督「…うん。信じてる」
ビーッ
ストン
木曾「うお……さすがに街は人が多いな」
提督「車も走ってるから気をつけてね。木曾、鎮守府から出たことあったっけ?」
木曾「いや、ないな」
提督「なら危ないから、ほら」
ギュ
木曾「!」
提督「こうすれば安心でしょ?」
木曾「あ、ああ…でも、こんな…」
提督「……嫌?」
木曾「そういうわけじゃないが…」
提督「じゃあこのまま行こ、ね?」
木曾「…わかった」
提督「ふあぁ……」
木曾「……さっきからよくあくびをしているが…本当にちゃんと眠れたのか?」
提督「ん?うん、大丈夫だよ。それに明日からは特にやることもないしゆっくり休めるからね」
木曾「…それもそうだな」
提督「はい木曾、カゴ持って」スッ
木曾「あ、ああ」
提督「よいしょっと、私も……さーて、買い込むよー」
木曾「…………」ゴクリ
提督「……えーっと、石鹸と洗剤と…」
木曾「すごい量だな…」
提督「長期保存できるものは買い溜めておかないと何回も街に出ることになるからね、今のうちに買っておかなきゃ」
木曾「艤装より重いぞこれ…」
提督「ごめんね、あと少しだから…」
「ヘーイ!」
提督「っ!??」ビクッ
木曾「ん?」クル
「エート、服ハドコデ売ッテマスカネー?」
「ああはい、衣類はあちらの方に……」
木曾「……元気な外国人もいたものだな。なあ?」
提督「…………」ブルブル
木曾「………?どうかしたのか?」
提督「………え?あ、ああ…そうだね、うん…」
木曾「………?」
提督「っ……ふぅ……」
木曾「お、おい、大丈夫か?」
提督「…うん、ちょっと目眩がしただけ…」
木曾「目眩……少し休むか?向こうに椅子があるぞ」
提督「うん…ごめんね、そうする…」
木曾「よし、肩貸すぞ」グイ
提督「ありがと……」
木曾「…やっぱり、ちゃんと眠れてなかったんだな」
提督「………うん、ごめん……」
木曾「…謝らなくていい、帰ったらすぐに休めばいいさ」
提督「……うん……」
〜〜〜
木曾「ふぅ……ほら、着いたぞ」
提督「……あ……うん、すぐご飯作るから…」フラフラ
木曾「そんなことしなくていい、お前は休んでてくれ」
提督「でも……」
木曾「今のお前にはそれが必要なんだ、簡単な料理くらいなら俺でも作れるから大丈夫さ」
提督「…………」
木曾「……お前が苦しむところなんて見たくないんだ。頼む」
提督「……分かった……」
木曾「今日やれることは明日でもやれるんだ。焦らなくてもいい」
提督「……そう、だね…おやすみ……」フラフラ
バタン
木曾「……………」
木曾「……飯、か……何にしようか……」
木曾「………悩むまでもない、俺にはカレーしか作れないんだ」
木曾「久々に張り切るか…」ガチャッ
提督「……………」
提督(頭がぼーっとする……)
提督(寝たら治るかな…木曾もそう言ってたし、きっとそうだよね……)
提督(……寝よう……)
提督「……………」
提督(寝なきゃいけないのは分かってるのに……)
提督(どうして…こんなに不安なんだろう…)
ゾワ
ザワッ…
『テイトク』
提督「………う……」
『逃げる場所なんてどこにもないんデスヨ?』
提督「………っ!?」ガバッ
『いつどこで何をしていても、ワタシはずーっとテイトクを見てるネー♪』
提督「あ、あ…!うあああああっ!?」
『ほら、今もテイトクのすぐそばで……フフッ』
提督「いや…来ないで……いやあっ!!いやああああああああっ!!!」
「いやああああああああっ!!!」
木曾「……!?」ビクッ
ダダダ
バンッ
木曾「どうした!?何かあったのか!?」
提督「あ、あ、あ…ああっ…」ブルブル
木曾「え…?何に怯えて……っ!」ハッ
提督「いや、いや、いやぁ…!もうやめてよ!!どうしてこんなことするの!?」
ガシッ
木曾「落ち着け!そこには誰も居ない!それは偽物なんだ!」
提督「違う!違うっ!!私はあなたのものなんかじゃない!!」
木曾「目を覚ませ!ここには俺とお前しかいないんだぞ!」ユサユサ
提督「何も悪いことはしてないのに…なんでっ……!」
木曾「くそっ……どうすればいいんだ…!」
〜〜〜
おばさん「………ふむ」
木曾「…どうだったんだ?」
おばさん「こりゃPTSDかもしれんの」
木曾「ぴ、ぴーてぃー…??」
おばさん「あー………トラウマって言えば分かるかね?」
木曾「ああ、聞いたことはあるな」
おばさん「簡単に言うとな、今この子は心に傷を負っとるんじゃ」
木曾「心に、傷…?」
おばさん「人が死んだところを見たり、自分が死にかけたりとか……よっぽどショックなことがあったりするとなる心の病気さね」
木曾「心の…病気…」チラッ
提督「…………」ブルブル
おばさん「何があったかは分からんが、この子は相当精神が強い方じゃからのお。よほどのことがない限りこんな病気にはならんはずじゃが…それこそ信頼してた人に裏切られるとかじゃないと…」
木曾「…………!」
おばさん「なんか心当たりはあるかね?」
木曾「……ある」
おばさん「そうか……まあ、詳しくは聞かんね。そっちの方がいいじゃろ?」
木曾「ああ、ありがたい…」
おばさん「それと、症状についてじゃが………まず代表的なのは睡眠障害かね」
木曾「眠れなくなる、ということか?」
おばさん「まあこの病気の場合はそういう認識でええ、他の病気だと話は別だがの」
おばさん「あとは幻覚やら幻聴やら……この子の様子を見るとその症状が出とるのはよくわかるがね」
木曾「ああ…ずっと、何かに怯えてるみたいだ…」
おばさん「こうなっとるということは、相当傷は深いみたいだねぇ…」
木曾「…治せるのか?」
おばさん「もちろん。けど、身体の病気と違って特効薬ってもんがないから時間はかかる」
木曾「どのくらいかかるんだ?」
おばさん「うむう…わしも大人の症例は初めて見るからのお……子供は感受性が高くて数ヶ月で治ることもあれば数年かかることもあるから正直なところよくわからんのじゃ…」
木曾「そう、か……ありがとう、助かるよ」
おばさん「うむ。今はとにかく静養するのが一番じゃ、あまり動かしてやらんようにな」
木曾「ああ」
おばさん「それじゃ、わしはそろそろ戻るでの」
木曾「おう、今度はお茶でも用意しておくよ」
おばさん「ほほほ、気が利くのう……あ、そうそう」
木曾「?」
おばさん「この病気は、誰かがそばにいてくれるのが何よりの薬じゃ。だから、できるだけそばに居って、安心させてやっとくれ」
木曾「………ああ。必ず」
おばさん「……うむ、その目を見ると心配はいらんの。それじゃあな」
カラララ
ピシャッ
木曾「……言われなくたって、そうするさ」
木曾「もう、決めたんだからな」
提督「…………」フルフル
木曾「…………」
ストン
木曾「…落ち着いたか?」スッ
提督「ひっ……」ビク
木曾「あ…悪い」
提督「あ……ち、違うの…木曾、違うの……」
木曾「…ああ、分かってる。何も心配しなくていい」
提督「おかしいよ、私…金剛なんていないはずなのに、声が聞こえてくるんだよ…どうして…?」
木曾「今は……ちょっと疲れてるだけなんだ。しばらく休めば、また元気になれるさ」
提督「うん………っ」ビク
木曾「また何か聞こえるのか?」
提督「はっ…はっ、はぁ、はぁ……」ギュウゥッ
木曾「……大丈夫だ。何かあっても、必ずお前だけは俺が護るから」
提督「ふーっ……ふーっ……」コクコク
木曾(瞳孔が開いてる……それほどまでに深いトラウマに苛まれてるんだな…)
木曾(あの女のせいで………この子が………)ギリッ
〜〜〜
提督「ん……くぅ……」
木曾「……………」
提督「………う……」
木曾「……………」ピクッ
提督「う、あ……や……」
木曾「………大丈夫だ」キュ
提督「ぅ………」
木曾「俺がついてるからな…」ナデ
提督「……すぅ……」
木曾「……………」ナデナデ
提督「…………ん……」パチッ
提督「………あれ……木曾……?」
提督「…………ど、どこ…?」
提督「木曾……木曾……!」バッ
スーッ
木曾「おっ、起きてたか」
提督「……!木曾っ!」ガバッ
木曾「うおっ!?」
ギュウウッ
提督「よかった………木曾……」
木曾「お、おお…どうかしたのか…?」
提督「ずっと、怖い夢を見てたの……」
提督「でも、木曾が助けてくれて…一人じゃなくなって、怖くなくなって…」
木曾「ああ…」
提督「なのに目を覚ましたら、木曾がいなくなってて…また、怖いことになるんじゃないかって…」グスッ
木曾「そうか……それは悪かったな」ギュ
提督「…………」
木曾「もう勝手にどこかに行ったりはしないよ、お前のそばにいる」
提督「……本当…?」
木曾「ああ、本当だ。なんなら誓いのキスでもするか?」クス
提督「うん」スッ
木曾「なんて……えっ?」
チュッ
木曾「っっ…………!?」
提督「…………っは」スッ
木曾「……え、あ…あ……?」
提督「これで、一緒に居てくれるんだよね…?」
木曾「あ、ああ…///」ドキドキ
提督「えへへ………よかった……」スリスリ
木曾(柔らかかった……)ドキドキ
木曾「…………」スッ
木曾(ストレスのせいか…?あの綺麗だった髪がまるで枝みたいだ…)
提督「ん…くすぐったい…」
木曾「なあ、お風呂に入ったらどうだ?髪がボサボサだし」
提督「…そう?」
木曾「ああ、ついて行ってやるから」
提督「木曾がそう言うなら…」
木曾「シャンプーも持って行こう、桶があれば髪は流せるから」
提督「うん」
木曾「ほら、タオル」
提督「ん、ありがと」
木曾「さて、行こうか」
提督「うん」スス
木曾(……すごい密着してくる)
木曾「…………」
提督「はふぅ……」
木曾「湯加減はどうだ?」
提督「ん…ちょうどいいよぉ…」
木曾「気持ち良さそうだな」
提督「木曾も一緒に入る?」
木曾「はは、ドラム缶だと一人しか入れないだろう」
提督「それもそっか……早くガス通さないとね…」
木曾「そうだな……夜も真っ暗だしな…」
提督「真っ暗……」
木曾「あ……大丈夫だ、暗くなっても俺がそばにいるからな」
提督「……うん」
木曾(俺がすぐそばにいる時はいつも通りなんだが………あいつを連想させるようなことや暗いところはダメだな…)
提督「ふぅ………」
木曾「……そろそろ髪流してやろうか?」
提督「お願いしていい?」
木曾「ああ」
パシャッ
提督「あぁ…さっぱりする…」
木曾「熱くないか?」
提督「うん、大丈夫」
木曾「よし…じゃあ洗っていくからな、痛かったら言ってくれ」
提督「わかった」
提督「はぁ……」
木曾「どうだ?」ワシャワシャ
提督「すごく気持ちいい……」
木曾「ふっ、ならよかった」ワシャワシャ
提督「あとね……木曾に髪触られるの、とっても安心する…」
木曾「そうか…そう言ってくれると嬉しいよ」ワシャワシャ
提督「………ねえ、木曾」
木曾「ん?」ワシャワシャ
提督「こうやって髪触るのってね、ある程度仲のいい相手じゃないと不快感を覚えるんだって」
木曾「へえ」ワシャワシャ
提督「私はそんなことはないけど…触る方は内面的に『かわいい』とか、『守ってあげたい』とか考えてるそうだよ」
木曾「へえ…そうなのか」ワシャワシャ
提督「あと………髪を触るっていうスキンシップはね」
木曾「? ああ」ワシャワシャ
提督「その……せっ、…すの後にする行為らしいよ…」
木曾「はぇっ!?!?」
提督「つまり今こうして木曾が私の髪を触っているのは…」
木曾「いっ、いきなり何を言い出すんだ!それに触ると言うよりは洗ってるだけじゃないか!///」
提督「……ぷっ、くくく…かわいい反応…」
木曾「まったく…油断も隙もない…」
提督「ごめんね、ちょっと安心しすぎちゃって…木曾になら言ってもいいかなって思ったの…」
木曾「それが信頼してるという意味ならいいが……ほら、流すぞ」
提督「あ、うん…ありがと」
パシャッ
提督「…………///」
木曾「……そろそろ上がった方がいいんじゃないか?顔が赤くなってるぞ」
提督「ああ、うん…そうする…」ガタ
木曾「! ま、待った!」
提督「へ…?」
木曾「こ、これ、タオル……女同士とはいえ、さすがに丸出しはまずいだろ…//」サッ
提督「ん、ああ…ありがと」
木曾「ま、巻き終わったら言ってくれ、一緒に家まで戻るから」
提督「うん…」
シュル…
木曾(どうしてこんなにドキドキしているんだ…落ち着け…落ち着け…)
提督「……木曾、もういいよ」
木曾「あ、ああ……戻ろうか…」
提督「うん」ザバッ
提督「はぁ…あつ…///」パタパタ
木曾(しかし……本当に大きいな……)ジー
提督「……木曾?行かないの?」
木曾「……………」ジー
提督「木曾?」
木曾「………え?あ、ああ、悪い」ギュ グイ
提督「わっ……ず、ずれる…」グッ
木曾(…!す、すごい肉感…!)
提督「んしょ…ごめんね、もういいよ」
木曾「あ……ああ…///」ドキドキ
提督「…??」
木曾「後ろ、向いてるから…着替えてくれ」
提督「うん…そばにいてね?」
木曾「ああ、分かってる…」クルッ
ストン
木曾「はぁ…」
木曾(おかしい…今まで、こんなにドキドキしたことなんてなかったのに…)
スル… パサッ
木曾(今は………タオルを落としたところか…)
木曾(つまり……全裸……)
木曾「…………/////」カァアッ
木曾(何を想像してるんだ俺は!ダメだダメだ!)ブンブン
木曾「うぐうぅ……」
提督「…………?」
提督「木曾、終わったよー」
木曾「……ああ……」
提督「…どうしたの?なんだか様子が変だけ……うわっ」フラッ
ガシッ
木曾「おっと…大丈夫か?」
提督「あはは…ごめん、ちょっとのぼせちゃったみたい…」
木曾「なら、少し縁側で休もう」グイッ
提督「うん、ありがと…」
提督「……………」
木曾「……………」
提督「……もう、夕方だね…」
木曾「ああ…じきに陽が沈む」
提督「……………」
木曾「……怖いか?」
提督「………うん…」
木曾「…大丈夫だ、俺がついてる」
提督「うん…」
木曾「……ところで、いつまでこうしているんだ?飯は食べなくてもいいのか?」
提督「うん…今はいいや…」
木曾「そうか…なら、どうする?もう寝るか?」
提督「……ダメ…寝たら、また来るから…」
木曾「来る?……あいつのことか?」
提督「うん……」
木曾「……でも、寝ないとお前の体が持たなくなるぞ」
提督「………じゃあ、さ…」
木曾「……?」
提督「寝かせて……欲しい、な…」
木曾「………それって……」
提督「…うん……」
スッ
木曾「………!!」ピクッ
提督「木曾……」
木曾「ま……待て!ダメだ!」
提督「…………」ピタ
木曾「……ここじゃ、ダメだ…」
グイ ギュッ
提督「ひゃっ!」
木曾「ふ…布団に行こう…///」
提督「……うん…///」
>>600
>木曾(…!す、すごい肉感…!)
おい おい(歓喜)
ドサ…
木曾「………い、いい…のか…?」
提督「………?」
木曾「その…俺は、今からお前を汚そうとしている…」
提督「…ううん、大丈夫…私は大丈夫だから…」
木曾「だが…」
提督「…………」スッ
チュッ
木曾「っ…!?///」ドキッ
提督「こうした方が、分かりやすいかな…」
木曾「…わ、分かった……けど、今度は俺からさせてくれ…」スッ
提督「…うん」
チュッ
スリ…
提督「あっ……//」
(R-18は)ないです
〜〜〜
木曾「…………」
提督「すー……すー……」
木曾「………よしよし」ナデナデ
提督「んん……んぅ…」ギュウウ
木曾(そうか……この気持ち…)
木曾(これが、恋か…)
木曾(いつからだ?……いや、ずっと前から俺はこの子に……)
木曾(ただ、自分では気付けていなかったんだ…守ってやりたい、と思っていたから…)
提督「んぁ……きそぉ……」
木曾「ああ……お前が必要としてくれるなら、俺はいつでも…お前のそばに……」
ーーーー
ーーー
ーー
チュン チュン
チチッ
提督「ん……んん……」ゴロン
提督「んー……ん…?」パチッ
提督「…………?木曾ぉ…?」キョロキョロ
シーン
提督「……どこ行っちゃったんだろ…」
提督「えっと…眼鏡眼鏡…」
カチャ
提督「よし…」
スーッ
提督「…………」
パタン
提督「リビングにはいない…」
ガチャッ
提督「トイレにもいない…」
ガチャッ
提督「お風呂…なわけないか…」
パタパタ
提督「あれ…木曾の靴がない…」
提督「……外かな?」
ザッ
ガララ
提督「木曾ー?」
「ん?……お!」
提督「あ、いた…」
パタパタ
木曾「もう起きたのか。すまない、勝手に離れて」
提督「それはいいけど…その野菜、どうしたの?」
木曾「あ、これか?隣のあのばあさんにもらったんだ」
提督「おばさんに?」
木曾「ああ、余ってるから持っていきんさいって」
提督「そうなんだ…あとでお礼言わないと」
木曾「ほら、トマト。食べるか?」スッ
提督「あ、うん、ありがとう」
シャク
提督「……うん、すごく瑞々しくて…甘いね」
木曾「ああ、俺もさっきもらったんだ。これも一緒に」スッ
提督「…種?」
木曾「そうだ。色んな野菜のな」
提督「育てるの?」
木曾「ああ、使ってない畑があるから、それを耕して自由にしていいって」
提督「へぇ〜…お世話になるね…」
木曾「どうせやることもないんだ、一緒にどうだ?」
提督「いいね、私もやる」
木曾「そう来なくちゃな!」
木曾「昼から畑の整地をしようと思うんだが、お前もどうだ?」
提督「うん、私も付き合うね」
木曾「おっ、いいねえ」
提督「そうそう、あとで洗濯しないといけないから着替えておいて」
木曾「ああ、わかった」
提督「昨日はいっぱい汗かいたからね…ふふ」
木曾「い、言わなくていい!///」
提督「あはは、ウブだねえ」
木曾「茶化さないでくれよ…恥ずかしいんだから…」
提督「よいしょっと…」
ガコッ
提督「ふぅ…しばらくは手洗いかな…」ジャブジャブ
木曾「不便だな、洗濯機も使えないんだろう?」
提督「うん、まだ電気が通ってないから…」
木曾「だが……こういう生活も、お前と一緒なら悪くない」
提督「ふふ、そうだね」
木曾「……ゆっくり、静かに生きていけば病気も治るさ」
提督「…うん、頑張る」
ーーーーー
ーーーー
ーー
木曾「……いただきます」サク
提督「初めてケーキ焼いてみたんだけど…どうかな…?」
木曾「んん……」モグモグ
提督「……………」ドキドキ
木曾「……うん、美味い!」
提督「ほんと?よかった…」
木曾「料理だけじゃなくてお菓子作りも上手いとは…さすがだな」
提督「ふふ、ありがと…紅茶もあるからね」
木曾「ああ。お前は食べないのか?」
提督「私はいいや、今はお腹いっぱいだから紅茶だけにするね」
木曾「そうか…」
提督「…………」ズズ
木曾「……紅茶、また飲めるようになったな」
提督「うん、もうカレーも食べられるよ」
木曾「発症から一ヶ月くらいか…かなり良くなったんじゃないか?」
提督「そうだね…木曾がいてくれたおかげだよ」
木曾「よせ、当然のことだ」
提督「でも……紅茶を飲んでると…ね…」
木曾「………あいつのこと、気になるのか?」
提督「……うん…」
木曾「…優しいな、お前は」
提督「だって……普通なら、処罰を受けてるだろうし…」
木曾「…………」
提督「もしかしたら、解体されてるかもしれないし…」
木曾「…………」
提督「……ごめんね、暗い話になっちゃったね」
木曾「…お前が気にすることはないさ、死んでるわけではない」
提督「うん……そうだよね、大丈夫だよね」
木曾「ああ、きっと大淀も生きてる」
提督「……うん。ありがと」
木曾「元気になったみたいで何よりだよ」
木曾「ふあぁ……悪い、ちょっと昼寝させてもらうよ…」
提督「眠いの?」
木曾「ああ…昨日の夜、遅くまで起きててな…」
提督「あー、また深夜番組見てたでしょ」
木曾「だって…深夜ドラマって面白いし…」
提督「録画できるんだから昼に見たらいいのに…」
木曾「そうだな…今度からそうするよ…」
提督「はいはい…夕方になったら起こすからね」
木曾「ああ、頼んだ…それじゃあな」
提督「うん、おやすみ」
スタスタ
バタン
提督「さてと……洗濯物干そうっと…」
バサッ
提督「ふぅ………これで夜にはふかふかかな…」
提督(それにしても、日中は暑いなあ……もうセミも元気に鳴いてる…)
提督「さてと、服も干さないと…」ゴソ
提督「お……」スッ
提督「………木曾、結構可愛いの着けてるんだ…」
提督「ふふ…見かけによらず女の子らしいところあるなあ…」
提督「よいしょっと…」
提督「はぁ……ちょっと休憩しよっと……」
提督「……………」ポー
提督(…静かだなぁ……)
提督(あの頃もこんな感じだったなあ…)
提督(セミが鳴いてて、風が吹いてて……自然の音しか聞こえない、田舎の特権みたいな……)
提督(あの海も、昔と変わらない輝きで……)
提督「…………ん…?」ガタッ
提督「あれって……もしかして……っ!」ダッ
タタタ…
タタタ…
提督「はぁ、はぁ……あ、いた……!」
「はーっ、やっと着いたのね……」
「わあ…古い家ばかり…」
「なーんにもないところでち」
「ねえ、本当にこんなところに司令官がいるの?」
「どうでしょうか……でも、発信機はここを示していたと大淀さんが…」
「……!ねえみんな、もしかしてあの人…!」
「え?」
提督「ゴーヤ!イムヤ!イクとはっちゃんに、しおいも!あと大鯨!」
19「あーっ!?提督なのね!!」
58「てーとく!?てーとくぅーっ!」ダダダ バッ
提督「うわっ、ちょ!?」
ドザァッ
58「わ゛あ゛あ゛あ゛ん゛!!!てーとく、会いたかったでちいぃいいい!!」ギュウウウ
提督「ちょちょちょ、わかったわかった!わかったから、服砂まみれになってるから一旦離れ…」
19「提督ー!!」バッ
8「提督!」バッ
168「しれいかーん!」バッ
しおい「提督ぅうう!!」バッ
提督「ひぃ!?」
ドドドドド
大鯨「ああっ、みなさん!?」
168「司令官!司令官っ!よかったぁ!」ギュゥゥゥ
19「提督のバカ!バカバカバカ!ずっと心配してたの!」ムギュウ
8「提督…無事でよかった…!」スリスリ
しおい「うええぇ…やっと会えたよおぉ…」ギュウウ
提督「お、重い…」
58「あーもう!みんな離れて!今はゴーヤだけのてーとくでち!」
19「絶対イヤなのね!もう離さないなの!」
提督「わ、わかったからみんな一旦どいて…つ、つぶれる…」
大鯨「ほ、ほら、提督が困っていますから、ね?」
19「むぅ…そこまで言うなら…」スッ
168「仕方ないわ…」スッ
8「ごめんなさい、提督…」スッ
提督「あはは…死ぬかと思った…」パッパッ
大鯨「すみません提督…でも、この子たちは提督に会えて嬉しくなってしまっただけで…」
提督「いいよいいよ、気にしてないから、それに私も会えて嬉しいし」
58「えへへ、てーとくも、ゴーヤと同じ気持ち?」ススス ギュ
19「あー!抜け駆けは許さないの!」ガシッ
提督「と、とりあえずここじゃなんだし、私の家に戻ろっか」
168「司令官のお家?ここにあるの?」
提督「うん、向こうの丘に」
しおい「提督、行こ!ほらっ、早く早く!」グイグイ
提督「ああ、待って待って、両腕抱き着かれてるから歩きにくくて」
19「いひひー♪」
58「ふふん、ベストポジションでち」
一緒です(小声)
〜〜〜
提督「……なるほど、大淀はすぐに見つかったんだね」
大鯨「はい、提督がいなくなったその翌日にみなさん総出で鎮守府まわりを捜索したのですがそのときに物置で監禁されていた大淀さんを発見したんです」
提督「そっか…怪我とかは?」
大鯨「気絶させられたときにスタンガンを使われたので少し混乱していました。あと、しばらく何も食べていなかったせいか栄養失調で弱っていましたがすぐに回復しましたよ」
提督「ならよかった…」
大鯨「提督も、ご無事でなによりです…」
提督「あはは、これでもちょっと前までは大変だったんだけど……そうだ、私たちの位置を特定するのに時間がかかったのはどうしてなの?」
大鯨「ああ、それは…」
「提督ー!身体拭き終わったのー!」
「タオルどうすればいいのー?」
提督「カゴの中に入れといてー!」
「はーい!」
大鯨「さ、騒がしくてすみません…」
提督「あはは、懐かしい感じで楽しいよ」
ドタドタ
19「提督ー!」ガバッ
提督「はいはい…私の膝じゃなくてちゃんとケーキの前に座ろうね」グイ
19「あーん、相変わらずいけずなのね…」
8「これ、提督が作ったのですか?」
提督「うん、紅茶もあるからね」
168「司令官が作ったもの食べるなんて、久しぶり…」
しおい「いただきまーす!」
58「ゴーヤも紅茶飲みたいでち!」
提督「はいはい…あ、話が逸れたね。続けて」カチャ
大鯨「あ、はい」
大鯨「実は物置に押し込まれた衝撃で、探知機が故障してしまったようで…本来ならすぐにでも修理して提督を探そうと思っていたのですが、明石さんがあの状態だったので…」
提督「ああ、なるほど…それで結果的に捜索が遅れたんだ」
大鯨「はい…申し訳ありません…」
提督「謝らないで、勝手に出て行ったのは私たちの方だから…」
19「ほんと、心配したのね」
提督「うっ…」
8「泣いてる子もいましたねえ」
提督「うっ……」
しおい「まあまあ、こうしてまた会えたんだから…」
提督「いやあ、ほんとごめんね…わざわざこんなところまで…」
ガラッ
木曾「なんだ、やけに賑や……!?」
提督「あ、木曾。おはよう」
木曾「な……お前たち、なぜここに…」
19「発信機の反応を追ってきたのね!」
木曾「発信機?」
提督「うん、木曾、ちょっと私の軍服とってくれる?」
木曾「あ、ああ」
ゴソ
木曾「ほら」スッ
提督「ありがと…ここの階級章があるでしょ?その中に発信機が埋め込まれてて…」カチッ
木曾「ああ」
提督「このボタンを押すと、任意で信号が飛ばせるっていう仕組みになってるの」
木曾「はあ、なるほどな…」
提督「緊急用のために大淀から渡されてたんだけど、まさかほんとに役立つ時が来るとは思わなかったなあ…」
木曾「そうか、そういうことだったんだな…すまない、わざわざこんなところまで」
大鯨「いえ、私たちがやりたくてやったことですから」
提督「…そうだ、鎮守府の様子はどうなの?」
大鯨「今はかなり落ち着いていますね、明石さんが発信機を修理して提督からの信号を探知したからはひとまず提督が無事ということが確認できたので」
提督「そっか……みんなに迷惑かけちゃったな…」
木曾「姉さんたちは元気なのか?」
168「ええ、もちろん。なんなら報告ついでに電話かけてみる?」
木曾「ああ、頼む」
168「ちょっと待って、電波が遠いから時間かかるかも…」
提督「まあ、田舎だからね…」
168「えっと、球磨型の部屋の番号は…あった」ピ
プルルル プルルル
プツッ
『もしもし、球磨だクマ』
168「あ、球磨さん?司令官と木曾さん、二人とも見つけたわ」
『……!!代われるクマ?』
168「ええ、ちょっと待ってね…はい」スッ
木曾「ああ、ありがとう…もしもし?姉さ……
『バカ木曾!!今までどこ行ってたクマ!!』
木曾「──っ」ビリビリ
『球磨たちがどれだけお前を心配……っちょ、待つクマ!あとで代わってやるから今は…ああもう!』
木曾「あ、ああ…?」
『……木曾?本当に木曾なの!?』
木曾「大井姉か?俺だよ」
『よかった…生きていたのね…ううっ……』
木曾「そう簡単には死なないさ…だから泣かないでくれ」
『もう…悪いのはあなたでしょう…』
木曾「はは…すまない…」
『グスッ…北上さんに代わるわね』
木曾「ああ」
『………もしもし、木曾?』
木曾「北上姉、久しぶりだな」
『その声、やっぱり木曾だね。よかったー、安心したよ』
木曾「はは、心配してくれてたんだな」
『むっ、さては疑ってるなー?』
木曾「そんなことはない…すまなかった、ずっと心配かけて…」
『…いいんだよ、木曾が無事って分かっただけでも嬉しいんだから』
木曾「ああ、ありがとう……多摩姉は?いるのか?」
『いるよ。勝手にどっか行ったバカ妹と話すことなんてないにゃ!って言ってたけど号泣してる』
木曾「そうか、ふふ」
『提督もそっちにいるんだよね?元気?』
木曾「ああ、元気だぞ」
『代わってもらっていい?』
木曾「分かった……ほら、代わってくれと」スッ
提督「あ、うん」
スッ
提督「もしもし?」
『……ほんとに提督だ』
提督「北上?うん、私は正真正銘提督だよ」
『提督……よかった、生きててくれて…』
提督「あはは…急に出て行ってごめんね…」
『ううん、榛名さんが事情を説明してくれたから状況は掴めてたんだけど…まあ、無事が確認できてよかったよ』
提督「何も連絡する手段がなかったから…電話も逆探知とかされたら危険だったし」
『発信はできたけど、そのあと何かあった…って可能性も捨て切れなかったからね、みんな心配してたよ』
提督「そっか…」
『まあ、場所は分かったし、近いうちに顔見せに行くよ』
提督「うん、楽しみにしてる」
『ふふっ、何か美味しいものでも食べさせてね』
提督「あはは、歓迎するよ」
『そろそろ鎮守府のみんなが騒がしくなってきたら切るね。もう部屋の前に押し寄せてきてる』
提督「そ、そうなんだ…」
『提督のことはまた連絡しておくから。それじゃ』
提督「うん、またね」
プツッ
168「終わった?」
提督「うん、ありがとね」スッ
168「私からも青葉さんにメール送っておくわ、その方が情報が早いし」
提督「ねえ、私たちがいない間に鎮守府で何があったか教えてくれる?」
大鯨「えっと、そうですね…まず提督がいないと発覚してから、鎮守府中は大騒ぎでした。単身で当てもなく提督を探しに出ようとする人や、特に駆逐艦には泣きじゃくる子もいました」
提督「だよね…」
大鯨「提督からの発信があると確認してから騒ぎは鎮圧しましたが、それでも指揮などは大変でした…提督がいないことを大本営からごまかすのも、その場しのぎで資材を集めに行くのも、とても苦労したようで…」
提督「うん…何回も言うけど、本当にごめんね…」
大鯨「いえ…思えば提督は少し頑張りすぎていたんです、これくらい休むのも大切でしょう」
提督「あはは…そういえば、金剛は…?」
大鯨「ああ、そのことについてなんですが…まだ見つかっていないんです」
提督「え?」
大鯨「提督たちがいなくなったあの夜からずっとです。榛名さんがふらふらと歩く金剛さんを見たそうですが…気絶させられた後のことで記憶がはっきりしていないみたいです」
提督「そっ、か……もう鎮守府にはいないんだ…」
大鯨「提督と違ってなんの手がかりもありませんし、生きているとはとても……」
提督「………そう…だね……」
コテン
提督「ん…」
58「くぅ……」スー
提督「……疲れちゃったのかな」ナデ
大鯨「鎮守府からずっとこちらまで渡って来ましたので…提督に会えて安心しているのかもしれません」
提督「木曾、向こうの部屋に人数分の布団敷いて来てくれる?」
木曾「ああ、任せろ」
スタスタ
提督「よいしょっと…」
58「くー……」
19「すぅ…すぅ…」
しおい「んん〜…むにゃ…」
8「…………」スースー
168「…みんな寝ちゃったね」
提督「うん、相当疲れてたみたい」
168「……………」
提督「どうしたの?」
168「…ううん、司令官の顔見てると心底安心するなぁって」
提督「ふふ、そう?」
168「そうよ、やっと会えたんだもん…私、司令官に嫌われたんじゃないかって思って、怖かった…」グスッ
提督「イムヤが私のこと好いてくれるんだもん、絶対に嫌いになんてならないよ」
168「ううっ…司令官…」ガバッ ギュウ
提督「よしよし…」ギュ ナデナデ
提督「こんなところまで来てくれてありがとうね…悪いのは私たちなのに…」ポンポン
168「ううん、いいの…司令官なら許してあげるから…」
提督「……うん…」
168「…私も、眠くなってきちゃった…」
提督「うん、寝てもいいよ」
168「ええ……ちょっとだけ…」
ポフ
提督「………はい、タオルケット」パサ
168「ありがと…おやすみ、司令官…」
提督「おやすみ、イムヤ…」ナデ
168「………すー……」
提督「……………」
提督(髪留め、取ってあげなきゃ…)スッ
シュル…
提督「よし…」
スー…
大鯨「…みなさん、もう眠りましたか?」
提督「大鯨…うん、ぐっすり」
大鯨「そうですか…ふふ、微笑ましいですね…」
提督「うん…起こしちゃいけないし、部屋出ようか」
大鯨「はい」
提督「ふぅ……しばらくは寝かせてあげてていいよね」
大鯨「……はい、そうですね」
提督「それにしても、ほんとに遠いところから来てくれたんだねえ…距離から考えてまだ日が昇らないうちから鎮守府を…」
大鯨「…提督」
提督「ん、どうし……」
ヒシッ
提督「わ…っ」
大鯨「すみません…今だけは、胸を貸してください…」
提督「……うん」ギュウ
大鯨「っ、う…ひぐっ、ていとくうぅ……無事でよがっだぁぁ…っ、わああああん…!!」ギュウウ ポロポロ
提督「…大鯨も、お疲れ様」ポンポン
木曾「…………」
大鯨「zzz……」
提督「…………」
パタン
提督「ふぅ…」
木曾「寝たか?」
提督「あ、木曾…うん、大鯨も疲れちゃってたみたいだから」
木曾「そうか……」
提督「うん……」
木曾「…………」
提督「…………」
木曾「………もう、鎮守府にあの女はいないんだよな」
提督「うん……」
木曾「…戻るか?」
提督「……………」
木曾「……ゆっくり考えればいいさ」ポン
提督「……うん」
木曾「帰りたくないのなら帰らなくていいし、帰りたいのなら俺もそれに従う。お前の好きにすればいい」
提督「…うん、ありがと」ニコ
提督「木曾は…優しいね」
木曾「急にどうした?」
提督「こんなところまで私に付き合ってくれて…球磨たちと一緒にいた方がよかったんじゃ」
木曾「いや……成り行きとはいえ、お前と共に来るのは俺が選んだことなんだ。だから、誰が悪いとかそういう話じゃない」
提督「でも…」
木曾「…正直なところ、俺もあの女と同類だ」
提督「え?」
木曾「お前のことが好きで、守りたいって思えて…今日来たあいつらにさえ憎しみを覚えそうになった。自分の居場所が奪われると思って」
提督「違うよ、木曾は私を守ろうと…」
木曾「いや、それも一種の欲望だ。お前を独占しようとする俺の欲望だった」
提督「……………」
木曾「けど……お前のおかげで気付けたんだ」
木曾「お前から大切なものを奪っても、お前とは幸せになれない。誰かを不幸にした幸で、お前が幸せになれるはずもないからな」
提督「………確かに、そう…」
木曾「だから…俺はお前のためなら、なんだってやってみせる。そう決めたんだ」
提督「木曾…」
木曾「お前が望むのなら、盗みだって殺しだって…自分の首すらも斬ってみせる」チャキ
提督「………ううん。そんなこと、私は望まないよ」
木曾「……………」
提督「ただ、そばに居てくれるだけでいいから…それ以上は、何も望まないから…」
木曾「………お前を信じてよかった」
提督「…あのね、木曾」
木曾「なんだ?」
提督「私が鎮守府に戻れば、みんなのためになるんだろうけどさ」
木曾「ああ」
提督「でも…私、行きたくない…」
木曾「…帰りたくないのか?」
提督「ううん、そうじゃなくて……帰りたくないって言うよりは、ここを離れたくないの。木曾と一緒にいるこの家から…」
木曾「………そう、か…」
提督「ごめんね、わがまま言って…木曾、球磨たちに会いたいよね?」
グイ ギュッ
木曾「……無理をするな」
提督「………ありがとう…」
〜〜〜
大鯨「なるほど……つまり、今のところ鎮守府に帰られる予定はないと」
提督「うん…ごめんね」
大鯨「いえ、会おうと思えばいつでも会いに来られますから。きっと、落ち着いたらみなさんもここに来ますよ」
提督「そうだね…お詫びと言っちゃなんだけど、これ。お菓子、たくさん焼いたからみんなに持って帰ってあげて」
大鯨「はい、分かりました」
168「…そろそろ出発の時間よ」
しおい「もう帰らないといけないのかぁ…」
提督「また来たらいいよ、今度はちゃんと準備してるから」
58「次来るときは遊びに連れてってくれる?」
提督「うん、約束」
168「司令官」
提督「ん?」
168「イムヤがいなくなっても、嫌いにならないでね?」
提督「もちろん」
168「ん…なら、私も司令官のこと、ずっと好きでいる」
提督「ふふ、ありがとう」
大鯨「…それでは、帰りましょうか」
木曾「球磨姉によろしく言っといてくれ」
大鯨「ええ」
ザブンッ
19「てーとくーーー!だーーいすきなのーー!!」ブンブン
しおい「また来るからねーーー!!」
提督「またねー……」フリフリ
ドッドッドッドッ…
提督「…………」
木曾「…静かになるな」
提督「うん…」
木曾「…寂しいか?」
提督「うん…」
木曾「………俺はいつでもそばにいるからな」
提督「……うん」
〜〜〜
提督「………あれ?」ゴソゴソ
木曾「どうかしたのか?」
提督「あれれ…ハンカチがない…」
木曾「他のところは探したのか?」
提督「うん、とりあえず家中は」
木曾「なら………外じゃないか?さっき海で遊んだときに落としたんじゃ」
提督「あっ、それだ!私、ちょっと取りに行ってくる」パタパタ
木曾「ああ、じきに日が暮れるから早く帰るんだぞ」
提督「わかった!」
ガラララ
ピシャッ
木曾「……代わりに飯の準備しておくか……」
提督「うわっ…もう日があんなに…」
提督「いくら夏とはいえ、さすがにこの時間だと暗くなるかぁ…」
提督「……………」
ザワッ
提督「…大丈夫……」
提督「………よし」
提督「真っ暗にならないうちに行こう…」
パタパタ…
提督「はっ……はっ……」
ザッ
提督「ふぅ……確かこのあたりに…」キョロキョロ
提督「うー…懐中電灯かなにか持ってきたらよかったかな…」
提督「特徴的な刺繍があるから分かりやすいはず……あ!」
パタパタ
提督「あった…よかったぁ…」パサッ
提督「ふぅ…もう戻らなきゃ…」
ガサガサ
提督「……………?」
「ふ、フフッ…ふふはハハ……」
提督「…………!!!」ドキッ
提督「ど、どうして………ここにいるの…」
「あはっ…やっと、見つけマシタ…」
提督「金剛…!」
金剛「テイ……トク……」ヨロヨロ
提督「ひっ……」ビク
金剛「ワタシと………一緒、ニ……」フラッ
提督「……!?」
ドサッ
金剛「ウ………」
提督「え…こ、金剛…?金剛!?」バッ
金剛「はぁ…はぁ…」
ピト
提督「……!すごい熱……」
提督「早く運ばなきゃ……」スッ
『幸せに暮らしましょうネー♪』
提督「……!」ドキッ
提督「ちが、う…こんな、迷ってる場合じゃないのに…!」グッ
提督「はぁ……はぁ……!」
提督(また…また、あの時みたいになったら…)ガタガタ
提督「う……うううぅぅ………!!」
金剛「テイ…ト、ク……」
提督(違う…違う、違う、金剛は悪い子じゃない…!)カタカタ
提督(それに、今の私には…)カタ…
提督(木曾がいる…!)
グイッ
提督「金剛、頑張って…!すぐに休ませてあげるから!」ズズズ
金剛「ぁ……」
バタンッ!
木曾「ん…帰ってきたか」
スタスタ
木曾「おーい、もう夕飯ができ…」
提督「木曾!タオルと氷枕持ってきて!」
金剛「……………」グッタリ
木曾「なっ……!?な、なぜその女が…」
提督「お願い、早く!」
木曾「っ…わ、分かった。話はあとで聞く」
提督「ありがとう…!」
金剛「はぁ……はぁ…」
提督「……………」
木曾「……タオル、濡らしてきたぞ」スッ
提督「ん…ありがと…」
ペタ
提督「……………」
木曾「……いいのか?」
提督「……何が?」
木曾「その女は、お前を…」
提督「分かってる…」
木曾「だったら、なんで…」
提督「……罰なんてあとでいくらでも受けられるでしょ?何も死ぬことはないって、そう思ったから」
木曾「……………」
木曾「だが…仮にその女が回復したとして、お前に何をするか…」
提督「それは……そうだけど…」
木曾「………もう、あんなことは繰り返させない」チャキ
提督「………!ま、待ってよ!」バッ
木曾「止めるな。罪は俺が被る」
提督「殺す必要はないでしょ!?説得すればまた前みたいに戻れるかもしれないし、まだ何も…!」
木曾「何かあってからじゃ遅いんだ!!忘れたのか!?」
提督「っ……」ビク
木曾「俺は…もう、お前を失いたくないんだ…誰かに奪われるくらいなら、自分で…」
提督「………あの言葉は…嘘だったの…?」
木曾「………!」
提督「私のためならなんだってするって、言ったよね?」
木曾「それ、は…」
提督「それとも、私を騙したの…?」
木曾「ち、違う!俺はそんなこと…!」
提督「だったら、私の言うことも聞いてくれるよね?」
木曾「っ………ああ…」
提督「…もう休んでて。向こうの部屋で」
木曾「……分かった……」スッ…
提督「……………」
木曾「ただ……何かあったら、呼んでくれ………それだけは…」
提督「……………」
木曾「……………」
パタン
提督「……………」
金剛「ウウ……ぁ……」
提督「…金剛……」
「私、どうすればいいの……?」
〜〜〜
金剛「……う…」パチ
金剛「…………?」
金剛「ここ、は…」ムク
クイッ
金剛「………?」チラ
提督「すぅ……」ギュウ
金剛「…………!!」
スッ
提督「こん……ご…ぉ………」
金剛「っ」ピタ
金剛「…………」ソッ
ナデナデ
提督「んっ………んぅ…」
金剛「テイトク……」
「…………」
スッ
「……もし怪しいことでもするようなら、すぐにでもその手を切り落としていたところだったが…」
金剛「!」
木曾「杞憂だったようだな」
金剛「木曾…ナルホド、テイトクはユーと…」
木曾「その子に感謝するんだな、倒れたお前をここまで運んできたのはその子だ」
金剛「…ハイ」
金剛「……………」
木曾「……自分がしたことは覚えているか?」
金剛「……ハイ」
木曾「この子がどれほどの傷を負ったか…自覚してないとは言わせないぞ」
金剛「分かっていマス…」
木曾「ここに逃げてからしばらくは、眠れないどころか飯も食えないくらいに心を病んでたんだ」
金剛「……………」
木曾「お前が………お前のせいで……」ググ…
金剛「ワタシは…」
木曾「俺は…お前を許さない」
金剛「……………」
木曾「もし、お前がまた俺たちの前に姿を現すようなら一切容赦せずに叩き切ってやろうと思っていた……が」
金剛「………?」
木曾「お前が生きているのは、その子のおかげだ。その子がお前を助けたいと思ったから、今こうして俺と話せている」
金剛「テイトクが……?」
木曾「昨日の夜も、ずっとだ。高熱を出して苦しんでるお前を、励ますように何度も何度もタオルを変えて…定期的に汗も拭いて、氷枕だって作っていた」
金剛「…………!」
木曾「無理やりこの子を自分のものにしようとしたお前を、だ……自分を傷付けた相手なのに、それも厭わずに尽くしたんだ」
金剛「ワタシ、を………テイトク、が…助けてくれたノ…?」フルフル
木曾「そうだ。だから、勝手に死ぬだなんて言うんじゃないぞ。生きることが、この子への償いになるんだからな」
金剛「う……うううぅ……!!」ガリガリ
木曾「……………」
提督「ん……はっ」バッ
金剛「テイ、トク…」
提督「あ…!よかった、気がついたんだ…!」
金剛「…ハイ、テイトクのおかげで…」
提督「あっ………えと、その……」
金剛「……………」
木曾「…俺は向こうに行ってるよ。二人で話すこともあるだろう」スタスタ
提督「う、うん…」
バタン
提督「……………」
金剛「……………」
金剛「あノ…テイトク……」
提督「う、うん」
金剛「……ごめんナサイ、Scaryな思いをさせテ…」
提督「……うん」
金剛「ワタシ、テイトクに合わせる顔が……」
提督「…罪悪感?」
金剛「……Exactly」
提督「…ならいいよ」
金剛「え?」
提督「確かにあのときは怖かったけど…それよりも、金剛がいなくなる方がよっぽど怖いから…また会えてよかった」
金剛「許してくれるノ…?」
提督「ううん?許さないよ」
金剛「う…」
提督「無事に目が覚めて嬉しいけど…ほんとは私も怒ってるんだよ?」
金剛「ハイ…」
提督「ちょっとおでこ出して?」
金剛「……?こうデスカ?」スッ
バチンッ
金剛「いっ!」
提督「デコピン、これでおわり」
金剛「こ、これだけ?」ヒリヒリ
提督「うん、私の分はね。木曾のは別だけど」
金剛「彼女には…生きて罪を償えと言われマシタ」
提督「なら、そうして。私もそれが一番いい」
金剛「……了解、デス」
提督「もし死んだら私、もっと悲しむからね」
金剛「テイトクは……ホントに優しい人ネ」
提督「そりゃあそうでしょ、金剛だって私の大切な人なんだから…私がどうなるより、死ぬ方が怖いよ」
金剛「………あ」ポロポロ
提督「あ」
金剛「そ、ソーリー…なんだか安心して…」ゴシゴシ
提督「うん…ほら、今は身体を休めてて。疲れも出てるし、まだ熱も残ってるから」
金剛「ハイ…」
提督「お腹、空いてるでしょ?おかゆ作ってくるから、ちょっと待ってて」
金剛「ありがとうございマス…」
パタン
木曾「ん、もういいのか?」
提督「うん、ちゃんと生きて罪を償うって」
木曾「そうか…」
提督「さてと…これから色々やることがあるんだけど、付き合ってくれる?」
木曾「ああ、もちろん」
提督「じゃあまずはおかゆから作ろっか、卵割っておいて」
木曾「任せろ」
〜〜〜
提督「はい、あーん」
金剛「あー…」
パク
金剛「ン……やっぱり、テイトクの料理はDeliciousネー」
提督「ふふ、よかった」
木曾「ほら、アクエリアス」
金剛「Oh、ありがとうございマース」
提督「食べ終わったら薬も飲まなきゃダメだよ?」
金剛「うー…薬は苦手デス…」
提督「ダメ、いくら風邪とはいえちゃんと治さないと大変だからね」
金剛「ハーイ…」
金剛「フー………満腹ネ」
提督「よし、と…それじゃ、また寝ててね」
金剛「ンー…全然眠くないデス…」
提督「ならテレビでも見てていいから」
金剛「テイトクは?出掛けるのデスカー?」
提督「うん、金剛の艤装を持ってくる」
金剛「あ、そういえば…」
提督「一人だと重くて持てなくて…木曾、手伝ってね」
木曾「ああ」
提督「じゃ、ちょっと行ってくるね」
金剛「ハイ、待ってマス」
ザフッ
提督「あったあった、あれあれ」
木曾「あれか……うわ、もうボロボロだな」
提督「ずっと一人で私のこと探してたのかな…」
木曾「だろうな…」
提督「…それだけ愛されてたってこと?」
木曾「悔しいが、そうだろう」
提督「悔しい?」
木曾「…な、なんでもない!早く運ぶぞ!」ガシャ
提督「はいはい…」
ドシャッ
木曾「ぜえ…ぜえ…お、重かった…」
提督「ぐおお…さ、さすが戦艦の艤装…腰が…」サスサス
木曾「ふぅ…さて、運んだはいいがこれはどうするんだ?このままじゃとても使い物にならないぞ」
提督「んー…修理するしかないね」
木曾「修理って…できるのか?」
提督「鎮守府にいた頃は明石の手伝いでメンテナンスとかしてたから…それなりには」
木曾「そうか…なら手伝うぞ」
提督「うん、ありがと。倉庫から工具箱持ってきてくれる?」
木曾「ああ」パタパタ
〜〜〜
金剛「んーーっ……」ググ
木曾「もう動いて大丈夫なのか?」
金剛「はぁ…ハイ、三日も経てば大丈夫ネ」
木曾「そうか…」
提督「ん〜…?ここかな…」ガンッ
金剛「……………」パタパタ
木曾「……………」
提督「あ、合ってる…次はこれを繋いで…」ガシャガシャ
木曾「……ちょっといいか?」
金剛「何デショウ?」
木曾「お前は、何が目的であの子を攫おうとしたんだ?」
金剛「…誰にも邪魔されない場所で、過ごしたかったからデス」
木曾「やっぱりか…」
金剛「やっぱり…?」
木曾「俺もそうだ。誰にも邪魔されずに、あの子と一緒に過ごしていたい」
金剛「fm…」
木曾「でもな、だからと言って周りの人間を排除したら、あの子が幸せじゃなくなるんだ」
金剛「…そうデスネ」
木曾「俺はそこで踏み止まれたが…お前はそうならなかったんだ」
金剛「……ハイ」
木曾「そう考えると、俺もお前も、同類なのかもな」
金剛「……どうデショウか」
木曾「…最近になって分かったんだ、愛は二人で育んでいくものだって」
金剛「…ワタシは、ラブをテイトクに押し付けていたんデスネ…」
木曾「ああ…愛する気持ちも、一つ間違えば狂気になる…もう暴走なんてするなよ」
金剛「ハイ、約束しマス」
提督「えっと、ここを接続……うぐぐ、重いー!二人とも手伝ってー!」ブンブン
木曾「お呼びだな」
金剛「エエ、お手伝いしまショウ」
パタパタ
〜〜〜
金剛「……オッケー、準備完了ネー!」ガシャン
提督「しばらくの間お別れだね…」
金剛「そんなに悲しい顔をしないでクダサイ、また会いに来マス!ほら、スマイルスマイル!」
提督「…うん、今度は比叡たちも連れてきてね」
金剛「イエス!」
提督「鎮守府のみんなも、ちゃんと謝るなら許してくれるって言ってるから…向こうに着いてひと段落したら連絡ちょうだい」
金剛「分かりマシタ!」
提督「それじゃ…気を付けてね」
金剛「エエ!ユーも、テイトクをよろしく頼みマス!」
木曾「ああ」
金剛「では、Goodbye!」ザザザ
提督「また来てねー!」
提督「…………」
木曾「引っかかりが消えた、って顔だな」
提督「うん、もう何も心配しなくていいから」
木曾「ああ…やっと、本当に静かに暮らせる…」
提督「うん……時々騒がしくなるけどね」
木曾「……なあ、最後に聞いておくが……」
提督「なに?」
木曾「…………」
木曾「本当に、鎮守府に帰らなくていいのか?」
提督「………うん。帰ろうと思えばいつでも帰れるし、それに……」
木曾「それに?」
提督「……その、私は……木曾と二人で、ここで暮らしたいから…」
木曾「……それって…」
提督「うん………ねえ、木曾」
木曾「あ、ああ」ドキ
提督「私と、ずっと一緒に居てくれる?」
木曾「……はは」
「ーーーーああ。必ず幸せにしてみせるよ、約束する」
「幸せにしてみせる、じゃなくて二人で幸せになる、でしょ?」
「そうだな、悪い。じゃあ、改めて……」
「幸せになろう。俺たち二人で」
「………うん!」
ーーー
ーーーー
ーーーーーー
「ねえ」
「ん?」
「あのときの約束、覚えてる?」
「ああ、覚えてる」
「幸せ?」
「ああ、幸せだ」
「なら、私も」
「私たち二人だけの───」
木曾編おわり
提督がトラウマを克服できずに耐え切れなくなって首吊り自殺してるところを見て、生きる意味を失った木曾が後を追うルートも考えていたんですが、さすがに同じオチを使い回すのはまずいのでハッピーエンドにしました
望月「っていう感じのさ」
提督「うん」
望月「ヤンデレに囲まれるゲームの企画をさ」
提督「うん」
望月「秋雲や夕張さんや明石さんとやってるんだけどさ」
提督「うん」
望月「キャスティング協力してくれる?」
提督「う、うん」
望月「あと艦娘に向けたテイトクプラスっていう恋愛シミュレーションも頼むね」
提督「う、うん」
望月「たぶん台詞総数千以上になるから頑張ってね」
提督「えっ!!?」
望月編(?)おわり
提督「……………」
飛龍「提督……元気ないね…」
蒼龍「うん、相当まいってるみたい…」
加賀「無理もないわ…これでもう六人目でしょう?」
赤城「ええ…提督、特に駆逐艦の子達を可愛がっていましたから…」
瑞鶴「失踪事件、ね…」
蒼龍「………私、ちょっと声かけてくる」
パタパタ…
提督「……………」
蒼龍「ねっ、提督」
提督「…蒼龍……」
蒼龍「その…あのことは気の毒だけどさ、あんまり落ち込んでると身体に悪いよ?」
提督「……………」
蒼龍「だからさ、ご飯でも食べて一度スッキリさせた方が…」
提督「…ごめん」
蒼龍「あ…」
提督「今は…いいから…」
蒼龍「………うん…」
蒼龍「その…ちゃんと食べるときは食べてね?じゃないと、ほんとに倒れるから…」
提督「…………」
蒼龍「…………」
パタパタ…
飛龍「どうだった?」
蒼龍「ダメ…完全に塞ぎ込んでるみたい」
瑞鶴「提督さんがこうだと、私たちにまで支障が…」
加賀「早急な対策が必要ね…」
赤城「でも、どうします?」
翔鶴「まずは事態の整理からした方が良さそうですね」
瑞鶴「確か、最初は2週間くらい前だっけ」
翔鶴「ええ、そのときに電ちゃんがいなくなって…」
飛龍「それからは、立て続けに暁型の子達が消えていったと…」
蒼龍「その次は望月ちゃんと、卯月ちゃんだったね」
赤城「どの子も提督と仲がよかった子ですね…」
加賀「ええ…よく懐かれていたから、相当なショックに違いないわ…」
瑞鶴「やっぱりこれって、誘拐よね?」
翔鶴「ええ、でも疑問点はいくつもあるわ」
瑞鶴「疑問点?」
翔鶴「そう。まず一つ、いなくなったのが駆逐艦だけということ」
瑞鶴「そうね、それは知ってるわ」
翔鶴「それもまだ幼い子ばかりだし、いなくなるタイミングも不規則。悪戯や故意に行われているものとは思えないの」
飛龍「提督も悲しんでるし、そんなところ見たらすぐにやめるだろうからその線はないね」
翔鶴「そう、つまり確実に犯人がいるということ」
加賀「だとしたら、誘拐ということでいいのかしら」
翔鶴「はい、それで間違いないと思います」
瑞鶴「他の疑問点は?」
翔鶴「ええ…おそらく、これが事件解決の糸口になると思うんだけど…」
蒼龍「なに?」
翔鶴「…一人目の、電ちゃんが失踪した時点で提督が鎮守府全体に気をつけてほしいって呼びかけてたでしょう?」
瑞鶴「あのときは欠員も誰もいなかったわね」
翔鶴「二人目のときもそうだった…けど、これだけ注意喚起を促しているのに事態が収まらないということは…」
赤城「………まさか…」
加賀「この鎮守府に、誘拐を手引きしている人物がいる…」
翔鶴「…………」コクン
蒼龍「でも、そんな裏切るようなことする人…」
翔鶴「分かってる…ただ、あくまで可能性の一つというだけでまだ本当にこの鎮守府に犯人がいると決まったわけではないわ」
飛龍「……で、これからどうする?」
翔鶴「私は聞き込みをしてみようかと…何か手がかりが見つかるかもしれないし」
瑞鶴「私もそうするわ!」
加賀「今までのことを考えると、犯人がさらっていったのは駆逐艦の子だけね」
翔鶴「はい、なのでよく駆逐艦の相手をしていた人を優先的に調査してみます」
飛龍「でも、駆逐艦と遊んでた人なんて………あ」
蒼龍「……いる!」
翔鶴「ええ、行ってみましょう」
瑞鶴「ここね」
コンコン
「ん、少し待ってくれ」
ガチャ
長門「すまん、待たせたな…ん?正規空母が揃って、どうかしたのか?」
翔鶴「突然で悪いのですが、昨日の夜は何をしていました?」
長門「夜?夜は普通に眠っていたが…それがなんだ?」
瑞鶴「ほんとに?」
長門「嘘をつく必要などないと思うが…なにか疑われる余地でもあったか?」
翔鶴「実は、最近の事件に関する調査をしていて…」
長門「なるほど、そういうことか…」
陸奥「なに、どうしたの?」
長門「ああ、陸奥…なんでも、最近の事件の調査をしているらしくてな」
翔鶴「はい、それで長門さんに聞き込みを…」
陸奥「それは長門が駆逐艦に執心しているから?」
翔鶴「う…そ、そうです…」
陸奥「ふぅん…まあ確かに長門はよく駆逐艦の子達と遊んでたけど、誘拐なんてするような人じゃないわよ?昨日の夜もすぐ寝ていたし」
長門「…ということだ」
翔鶴「そうですか…すみません、疑うような真似をして…」
長門「気にするな、緊急の事態だからな…困ったときはお互い様だ」
翔鶴「ありがとうございます…それでは、なにか分かったことがあれば私たちに教えてください」
長門「ああ、私も調べておこう」
瑞鶴「うーん、さすがに違ったかぁ」
翔鶴「そうね、ダメ元で聞いてみたけど…」
飛龍「そもそも、朝にいなくなってるってことは夜にさらわれてるってことでしょ?」
蒼龍「じゃあ、夜に活発で駆逐艦好きな人……」
瑞鶴「………誰かいたっけ?」
加賀「…あの軽巡の子は?」
飛龍「それだ!前に駆逐艦の子達とお風呂入ってたし!」
翔鶴「それでは、聞きに行ってみましょうか」
コンコン
「はい、お待ちを…」
パタパタ
ガチャ
神通「すみません、お待たせいたしました」
翔鶴「神通ちゃん、川内ちゃんはいる?」
神通「え?ええ、いるにはいますが…とてもみなさんの前に出られるような状態では…」
瑞鶴「なにかあったの?」
神通「はい、提督があのようになってからずっと退屈になったそうで…妹も姉さんも、ヤケ酒を起こして今は二人とも二日酔いで寝込んでいるんです…」
飛龍「そ、そうなんだ…」
神通「だらしない姉で申し訳ございません、なにかご用があったのなら私から伝えておきますが…」
翔鶴「あ、ああ…そういうことなら大丈夫だから…」
瑞鶴「ねえ、川内ちゃんが夜のうちにどこか行ってたとかそういうのはない?」
神通「夜、ですか?夜の姉さんは騒がしいので縛り付けていますが…そういうことはないと思います」
瑞鶴「そ、そっか…」
神通「他にご用は…」
飛龍「ううん、もう大丈夫だよ。ごめんね、わざわざ」
神通「いえ、お気になさらずに」
蒼龍「それじゃあね」
神通「はい」
パタン
瑞鶴「うーん、結局手がかりはなしかぁ…」
翔鶴「どちらもはずれだったわね…」
飛龍「まだ別の可能性もあるし、とりあえず鎮守府のみんなに聞いて回ってみる?」
翔鶴「そうね、そうしましょう」
加賀「提督があのままじゃみんな何もすることがないでしょうし…やってみる価値はあるわ」
蒼龍「提督……元気になればいいけど」
飛龍「うん…」
加賀「ええ…」
提督「……………」
「あなた」
提督「……………」
「ねえ、あなた…」
提督「……あ……?」
天津風「あなた、ずっと元気ないみたいだけど…大丈夫…?」
提督「ああ、天津風……うん、大丈夫だよ…」
天津風「嘘よ、目の下にクマができてるじゃない」
提督「……………」
天津風「…眠れてないの?」
提督「……………」
天津風「あなた、ここ最近ろくに何も食べていないし…このままだと、本当に倒れちゃうわ…」
提督「……いいよ、いっそこのまま死んだ方が楽に……」
ガバッ
天津風「そんなの、嫌よ………あなたがいなくなるなんて、絶対に嫌なんだから……」ギュウウッ
提督「…………!」
天津風「あなたがいなくなったら、私は泣くわ。涙が涸れるまでわんわん泣いて、あなたの後を追うんだから…」グスッ
提督「でも、天津風…」スッ
天津風「ねえ…だから、そんなに悲しいこと言わないでよ…私、あなたが……」
提督「……うん」
ギュッ
天津風「!」
提督「ごめんね…私、ちょっと暗くなりすぎてたね…ごめん……」
天津風「ええ……」
提督「あたしも…天津風が居てくれると……」ギュウウ…
天津風「んっ…痛いわ、あなた…」
提督「ああ…ごめんね、ふふっ……」ナデナデ
〜〜〜
天津風「どう、美味しい?」
提督「うん、上手になったね」
天津風「そ、そう?ふふ///」
提督「……………」ジッ
天津風「な、なに?」
提督「ん?いや、可愛いなって思って」
天津風「な、なっ…も、もう…ばか…///」カァアア
提督「ふふ……」
天津風「…………あら?」
提督「どうしたの?」
天津風「……いえ、なんでもないわ。気にしないで」
提督「…?そう?」
〜〜〜
提督「……………」カリカリ
天津風「……………」ソワソワ
提督「………よし」キュッ
天津風「! 終わった?」
提督「うん、これで全部」
天津風「久々にお仕事して疲れちゃったんじゃない?もう寝る?」
提督「んー…そうしようかな…」
天津風「それじゃあ待ってて、枕持ってくるから」
提督「え?一緒に寝るの?」
天津風「…ダメ?」
提督「いや、そういうわけじゃないけど…」
天津風「ならいいじゃない!じゃ、すぐ取ってくるわ!」
パタパタ
提督「天津風……」
バタン
天津風「ふふっ、一緒に寝られる…」
天津風「早く戻ろっと…」パタパタ
ガタッ
天津風「………?」クルッ
天津風「…………」キョロキョロ
天津風「……気のせいね…」
スッ…
ガツッ
天津風「が、ぁっ……!?」
ドサッ
天津風「あ………な、ん…で……」
「ふふっ……」
「天津風が悪いんだよ…」
「ずっと、くっついてるから…」
「ふふ………ふふふふっ…」
ズル…ズル…
〜〜〜
提督「………………」
蒼龍「提督…もしかして、また…」
飛龍「うん…天津風ちゃんがいなくなったって…」
加賀「え?けど、昨日は提督と一緒にいたと…」
翔鶴「それが、提督が近くにいない一瞬の隙を突かれたようで…」
提督「私の……せいだ……」
蒼龍「提督は悪くないよ、悪いのはこんなことする犯人なんだから」
提督「なんで…どうしてこうなるの……?私は…私……ううっ………」ググ
飛龍「提督…」
加賀「……今はそっとしておいてあげましょう。心が不安定だから、下手なことを言えば立ち直れなくなるかもしれないわ」
飛龍「そう、ですね…」
瑞鶴「私たちも、なにかしてあげられたらいいんだけど…」
翔鶴「あとでまた情報収集の必要がありそうね…」
赤城「ええ…とにかく、演習に行きましょう」
蒼龍「はーい…提督、何かあったらすぐ呼んでね?」
提督「………………」
蒼龍「………………」
バタン
〜〜〜
パタパタ…
キィ…
提督「……………」ボー
時津風「……しれえー?」
提督「…ん?あ、時津風?」クルッ
時津風「しれぇ、もう大丈夫なの?元気、出た?」
提督「ああうん、元気だよ」ニコ
時津風「ほんと?」
提督「悩んでても仕方ないからね」
時津風「そっか…ならよかった!」
時津風「えっとね…天津風がどこに行ったかは分からないけど、きっとすぐ見つかるよ!だから元気出そう!」
提督「ふふふ…時津風はいい子だね。ほら、おいで」
時津風「うん」パタパタ
ギュ
提督「よしよし…」ナデナデ
時津風「えへへ…しれぇ〜」
提督「時津風、もう朝ご飯は食べたの?」
時津風「ううん、まだ」
提督「なら一緒に食べに行こうか、美味しいもの作ってあげるよ」ギュ
時津風「うん!」
時津風「ん〜……」モグモグ
提督「どう?美味しい?」
時津風「うん、やっぱりしれぇのご飯が一番だなぁ」
提督「そっか、ふふ」
時津風「…あれ?しれぇ、右手の指、どうしたの?」
提督「え?ああ、ちょっと切っちゃって…」
時津風「ふーん…しれぇが怪我するなんて珍しいね」
提督「そうかな?しょっちゅうやってる気がするけど」
時津風「…………?」
提督「どうかしたの?」
時津風「う〜ん…?なんか、気になるような…」
提督「??」
時津風(なんだろ、この違和感…?)
提督「お腹いっぱいになった?」
時津風「うん、美味しかった」
提督「そっかぁ、私の料理も結構人気なんだなあ」
時津風「そだよー、しれぇのご飯なら毎日食べたいもん」
提督「あはは、時津風になら毎日作ってあげてもいいんだよ?」
時津風「ほんと!?なら、今日からでもいいの!?」
提督「もちろん、あたしで良ければね」
時津風「ぃやったぁー!!」
〜〜〜
提督「……………」カリカリ
時津風「……ふぁ〜……」
時津風(しれぇ、こんな遅くまで大変そうだなぁ…)ジー
提督「……………」カリカリ
時津風「…………!」ピクッ
時津風(さっきの違和感……これって…しれぇ、左手でペン握ってる…?)
時津風「ねえ、しれぇ」
提督「ん?」ピタ
時津風「しれぇって、左利きだっけ?」
提督「え?そうだけど」
時津風「あれぇ…?」
時津風「あたしの記憶だと、しれぇはいつも右手で作業してたような…」
提督「ああ、私の話?」
時津風「うん、私もなにも今してるのはしれぇの話でしょ?」
ガタ
提督「あはは、それもそうだね。確かに私は右利きみたいだね」
時津風「……へ?何言ってんの?」
ツカツカ
提督「でも、『あたし』は左利きなんだよ」ヒュッ
ゴスッ
時津風「ぅ、ぐぁ……?」
提督「はぁ……ダメだなあ…そんなにずっと一緒にいられたら、我慢できなくなっちゃうなぁ……」
ーーー
ーーーー
カチャン…
時津風「う……」
時津風「あ……?ここは…」
ガチッ
時津風「っ…!?な、なにこれ…動けない…!」ガチャガチャ
提督「あ」
時津風「!?」ビクッ
提督「おはよう時津風、起きてたんだね」
時津風「し、しれぇ…?よかった、これ、外すの手伝ってよ…」ガチャガチャ
提督「……………」
提督「いやだよ」
時津風「!?」
提督「ここに時津風を運んだのはあたし、そして時津風とそれを繋げて動けなくしたのもあたし」
時津風「なっ……なんで…どうしてそんなことするの…?」
提督「なんでって…可愛い可愛い時津風を手放したくないからだよ」
時津風「は…??」
提督「分かるかなあ…人は夕焼けを綺麗だと思うでしょ?昼と夜にある一瞬の隙間を美しいと感じるように、時津風みたいに小さい子が可愛くて仕方ないんだよ」
時津風「な、なにを言ってるの…?」
提督「子供の可愛さは一瞬だからね…成長したらすぐにそれがなくなっちゃうから、ちゃんと手元においていつでもすぐ近くで見られるようにしなきゃ安心できないからね…」
提督「まあ、詰まる所、もう時津風はここから出られないんだよ」
時津風「……!?」
提督「さてと、今日の分のご飯だよ。お昼は食べられなかったから、しっかり食べようね」カチャ
時津風「おかしいよ!!こんなの間違ってるよ!!」
提督「あれぇ…天津風はすぐ理解してくれたのに、時津風は素直じゃないなぁ…」
時津風「!? 天津風もいるの!?」
提督「別の部屋だけどね、暁型の子達もいるよ」
時津風「……!!じゃあ、みんなを攫ってたのって…!」
提督「うん、あたし」
時津風「そん、な…」
提督「ああ…そうそう、望月と天津風と響はすぐに理解してくれて助かったなあ…今も部屋に行ったら嬉しそうな顔をするし…」
時津風「……………」
提督「雷と電は…初めは抵抗してたけど、ちょっと虐めてあげたらおとなしくなっちゃって…ふふっ、そういうのも可愛らしいなあ」
時津風「……やだ……」
提督「暁と卯月は最後まで喚いてたかな…今は二人ともあたしに懐いてくれてるけど、時津風はどうかな?」スッ
時津風「ひっ…」
提督「ちょっと喋りすぎちゃったね、今日はもうお休みする?」
時津風「やだよ…こんなのおかしいよ…!やめてよ、しれぇ…!」
提督「ん〜…あたしは普段あなたたちが知ってる、私じゃないんだよね。だからあなたが私に向けて言ったことも、今はあたしにしか届いてない。だからあたしはあなたをここから出すつもりもない」
提督「私の方は罪悪感で苦しんでるしここにも来られないみたいだけど…あはは、まあここにはあたししか来ないけどね」
時津風「やだぁ…やだよぉ…!」ポロポロ
提督「あなたはあたしのことを知らないみたいだけど、あたしは私の中からずっとあなたたちを見てたんだよ?だから、短い付き合いなんかじゃないよ、安心して」
時津風「そんなの知らないよ…しれぇを返してよぉ…」グスッ
提督「時津風が成長するまで、ちゃんとお世話してあげるからね…一応大人になる前に成長は止めるけど、そうなったときはずっとあたしが可愛がってあげるから」ナデナデ
時津風「やだやだ!こんなの、やだぁ!!」
提督「それじゃ…今日はもうお休みしよっか、ちょっと混乱してるみたいだからね」
スタスタ
時津風「いやっ………ま、待ってよ!出して!あたし、まだっ……いやあああああああっ!!!」
バタン
「出して!!出してよぉっ!!暗いのやだぁ!!しれぇっ!!」
提督「ふふ…ああ……」ゾクゾク
提督「楽しみだなぁ…強情な子も、すぐに堕ちてくれる子も…みんな、可愛いなぁ…」
「まただ……また、やっちゃった……」
「私の……せいだ……」
「私の………」
「ううっ………!!」
「違う…私じゃ、ない……」
「そうだ、私……あたし、の……」
「ふふっ……あたしの…せいだ……」
「あはっ、あははは…あはははははははっ!」
提督編おわり
なんか、書いてて思ったんですけど二重人格オチってあんまり面白くないですね…
暁→精神崩壊、提督に依存
響→司令官が愛してくれるのならそれでいい、という発言のもと軟禁状態
雷→ほぼ洗脳に近い形で脅されてしばらく提督がいないと不安で動悸が治まらない状態
電→雷と同じく、しばらく提督がいないと泣き出す
卯月→精神崩壊、自分が誰だったのかすら忘れかけて提督の存在しか認識できなくなりつつある
望月→司令官がいるならなんだっていいや、と言って自分から軟禁状態に むしろ遠征に行かなくていいし司令官に会える分前よりいい生活になったとも言っている(元々メンヘラ気味だったので今は提督と一番仲がいい)
天津風→手錠に繋がれた方があなたに束縛されているみたいで安心する、と言うレベルの依存
時津風→これから調教していく
みたいな感じですかね…
大井「提督?その指輪、誰に渡されるんですか?まさか電ちゃん…とかじゃないですよね?あんなに小さい子のどこがいいんですか?私の方がずっと大人で、結婚もできますよ?提督が好きでいてくれているのは私の方ですよね?まあ提督が人を見る目はありますし、何も言わずとも私にその指輪を渡してくれるのは分かっていますけど…ちょっと心配しすぎですか?でも他の子に浮気なんてしないか不安で仕方ないんです…提督の仕事柄そういうスキンシップも大事なのは分かりますけど、あまり度が過ぎるようならお仕置きも考えますよ…?あっ、でも安心してください!最愛の人にそんなひどいことなんてできませんから…だから、提督も私を裏切らないでくださいね?信じられませんか?…なら、愛してると言いましょうか?提督のためなら、何度でも言えますよ?ほら、愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる愛してる………ね?私の愛、分かっていただけましたか?ふふっ、私がこれだけ言ったんだから提督からも…ね?………え?どうして何も言ってくれないんですか?ああ、他の子達が嫉妬してくるのが怖いんですね?大丈夫です、提督は私が守ってあげますから。私の身は提督に捧げます。お仕事で疲れてしまったら私が慰めてあげますし、好きなものだってなんだって作ってあげられますし私の身体も提督の好きにしていいんですよ?本当は私が提督を好きにしたいんですけど、提督の好みが私の好みですから…あっそうそう、子供はどちらが産みますか?痛いのは怖いですけど、提督がくれる痛みなら私は喜んで享受しますが…提督はどうですか?怖いですか?ならやっぱり私ですね。え?女同士で子供はできない?まさかぁ!最近の科学ってすごいんですよね?大丈夫ですよ、私たちにも子供は産まれます!子供が産まれたら、どんな子に育てますか?元気なのも良いですし、大人しい子もいいかもしれませんね!あっ、これはあくまで私の願望であってさっきも言った通り提督の好きなようにしていいんですよ?ふふっ、将来が楽しみですね……私と提督、二人で家庭を築いて…提督が起きてきたら私がエプロンで朝ご飯を作っていて…どうですか?私のエプロン姿、想像してくれましたか?そのまま後ろから私に抱き付いて、朝から…その、してくれてもいいんですよ?うふふっ、そういうのも…興奮、するかも……///ああ、提督とならどんな未来でも…ふふっ、うふふふ…その指輪をもらうのは、将来の練習ですね!私は準備万端ですから、いつでもいいんですよ?提督の、好きなタイミングで、私に、指輪を」
提督「」
大井編(?)おわり
愛が重い
提督「……………」カリカリ
168「……ねえ、司令官」
提督「……………」カリカリ
168「……司令官?」
提督「……………」カリカリ
168「司令官ってば!」
提督「……え?」ピク
168「どうして何も言ってくれないの?もしかして、イムヤのこと…」
提督「あ…ち、違うよ!ただ集中して聞こえてなくて…イムヤのことが嫌いになったわけじゃないよ!」
168「ほんと…?」
提督「ほ、ほんとほんと」
168「じゃあ…ん」スッ
提督「はぁ…」
ギュ
168「……………」
提督「……………」
168「……ねえ、司令官」
提督「ん?」
168「もうイムヤには慣れてくれた?」
提督「……えっと」
168「ああ…ごめんね、ちゃんと私のこと考えてくれてるか、って意味ね」
提督「あ、ああ…うん、慣れたよ…」
提督(自分が病んでるのを自覚して言ってるのかと思った…)
168「そっか、よかった…」
168「ねえ司令官」
提督「うん」
168「イムヤのこと、嫌いじゃないよね?」
提督「うん」
168「イムヤのこと、好きだよね?」
提督「…う、うん」
168「そう…ふふ…♪」ギュ スリスリ
提督「………あの、私まだ仕事があるんだけど…」
168「え……私、邪魔だった……?」
提督「あっ……そ、そうじゃないよ!ごめん、仕事なら後でもできるね、あはは…はは…」ナデナデ
168「んっ…司令官…」
提督「はぁ……」
バタン
提督「はぁ……」
早霜「あら、司令官…ため息なんて、何か嫌なことでも…?」
提督「あ、早霜…まあ、嫌なことってほどでもないけどちょっとね…」
早霜「ふぅん…それは大変ね…司令官にそんな思いをさせるなんて…」
提督「あー…えっと、は、早霜が気にすることじゃないよ。私も少し休もうと思ってたところだし」
早霜「………そう?なら、私とお昼はどうですか?」
提督「気持ちは嬉しいんだけど…実は伊良湖ちゃんがご飯を作ってくれる約束をしてて…」
早霜「え…?私のご飯、食べてくれない、の…?」フル…
提督(あ、やばっ……)
提督「あ、あー…えっと、そう!ごめん、明日の約束だった!か、勘違いしてたよ、あははは…」
早霜「…そうなの?」
提督「う、うん」
早霜「フフ……なら、早く言ってくれればよかったのに……私、また勘違いを…フフッ」
提督「う…きょ、今日のご飯はなにかな…」
早霜「あ…ごめんなさいね、私…気持ちが先走ってしまって……今日は舞鶴仕込みの肉じゃがです」
提督「に、肉じゃがね!うん、早霜の作る肉じゃがは美味しいからね、好きだよ、うん…」
早霜「好き……だなんて、そんな…ウフフッ…照れてしまいます…///」
提督「…………」
早霜「フフ…それでは、行きましょうか…」ギュ
提督「え、ちょ…そ、そんなにくっついたら…ほら、みんな見てる…」
早霜「………何か、問題でも?」
提督「……な、なんでもないです…」
早霜「そう…変な司令官……フフ」
提督(うぅ…これじゃまるでみんなに見せつけてるみたいで…うわ、摩耶とかすっごい睨んでる…)
提督(胃が痛い…)
〜〜〜
提督「……………」モグモグ チラッ
早霜「……………」ジーッ
提督「」ビクッ
早霜「………どうですか?お味の方は…」
提督「え?あ、ああ、うん、美味しいよ、とっても…」
早霜「美味し……っっーーー」ゾクゾク
提督「え?」
早霜「っ、はぁ……フフッ、それはよかった…とても、嬉しい……////」
提督(……え?な、何この反応…)
提督「………!」
早霜「…のまま司令官の……めさんに…フフ…」ブツブツ
提督「は、早霜?」
早霜「…はい?」
提督「その指…怪我したの?」
早霜「え?……ああ、これですか…少し、包丁で切ってしまって…あ、ご心配はいりませんので…」
提督「へ、へぇー…」
提督(料理する度に切ってるような気が………いやいや、そんなことはない…はず…)
提督「……そ、それにしてもこの肉じゃが、美味しいけど…何か隠し味とかあるの?」
早霜「隠し味、ですか………ええ、ありますが…」
提督「お、教えてもらってもいいかな」
早霜「……ダメ…隠しているから、隠し味なの…」
提督「お願い!どうしても気になっちゃって…」
早霜「………どうしても?」
提督「うん、どうしても」
早霜「…………そうですね…詳しくは言えないけれど、強いて言うなら……真っ赤に燃える、愛……でしょうか…フフッ」
提督「………そ、そうなんだ!」
提督(何この意味深な発言……もしかしてほんとに……?)
提督(い、いや…まさか、そんな…気のせいだよね、気のせい…)
提督「ふぅ……ごちそうさま…」
早霜「お粗末様です…」
提督「それにしても早霜、ほんとに料理上手だね」
早霜「そう…ですか?」
提督「うん、きっといいお嫁さんになるよ」
早霜「そう言われると、嬉しいです……フフッ…司令官が望むのなら、毎日でも……いいけれど…」チラ
提督「あ……あー、ごめん!私、まだお仕事があるんだった!ちょっと行ってくるね!」ガタッ
早霜「……あ……」
パタパタ…
早霜「フフ……司令官ったら、鈍感なのね……」
早霜「でも…いいわ、気付いてくれるまで…ずっと、見ているから……フフ、ウフフッ……」
提督「はぁ……危なかった…」
提督「…………」
提督「………あ!」
提督(そうだ…伊良湖ちゃんとの約束、すっぽかしたままだった…)
提督(謝りに行かないと…でも、うぅ〜…また変なことになるかも…)
提督(……ううん、悪いのは私なんだから。ちゃんと謝っておかないといけないよね)
提督(……うん、行こう)
パタパタ…
提督「ふぅ……あれ?」
シーン…
提督「………誰もいない?」
提督「…あ、厨房に明かりが点いてる…」
スタスタ
提督「伊良湖ちゃーん?」
伊良湖「…………」
提督「ああ、よかった…伊良湖ちゃん、こんなところで何を……」
伊良湖「…………」グッ
提督(!? ほ、包丁で手首を…!)
提督「だ、ダメ!」ガシッ
伊良湖「あ……」ポロッ
ガラン
提督「今…手首、切ろうとしてたよね?どうしてそんなことしてたの?」
伊良湖「……伊良湖は、いらない子ですから…」
提督「え?」
伊良湖「提督さん、伊良湖との約束に来てくれなかったから……私は、提督さんにとって必要じゃない存在なんだって…そう考えたら生きる意味なんてないんじゃないかって伊良湖は……」ブツブツ
提督「そっ、そんなことないよ!約束すっぽかした私が全部悪いから!伊良湖ちゃんは何も悪くないから!」
伊良湖「………提督さんは、伊良湖が必要ですか?」
提督「えっ…う、うん…」
伊良湖「提督さんは、伊良湖がいてくれると嬉しいですか?」
提督「そ、そう…だね、はは…」
伊良湖「じゃあ…私の作ったご飯、食べてください」
提督「えっ」
伊良湖「…食べてくれないのですか?」フッ
提督「い、いや!食べる食べる!」
伊良湖「本当ですか?では、温め直してきますね」
パタパタ
提督「……はっ…はぁぁ……」
提督(どうしてこうなっちゃうかなぁ〜…)
提督「……………」モグモグ
伊良湖「……………」
提督「……………」チラッ
伊良湖「……………」ジーッ
提督「……………」モグ…
伊良湖「……………」
提督「……………」
伊良湖「………どうしたんですか?」
提督「……いや、もうお腹いっぱいかなって…」
伊良湖「食べないんですか?」
提督「そういうことじゃなくて」
伊良湖「食べてくれないんですか?」
提督「ちが」
伊良湖「食べてくれないんですか?」
提督「……美味しいです」モグモグ
伊良湖「ふふっ」
〜〜〜
提督「うぷっ……うう…」
提督(さすがに食べ過ぎた………は、吐きそう……)
提督「う…苦し……」
提督(ちょっと横になろう…)
ボフッ
提督「……………」ゴロン
提督(…やっぱり、自分の部屋って落ち着く……)
提督(………少しだけ、寝ようかな……)
提督「…………」スヤ…
ギシ…
提督「ん……ぁ…?」パチ
168「……………」
提督「………っ」ビクッ
168「司令官、目が覚めた?」
提督「い…イムヤ、何してるの?」
168「司令官の寝顔を見てたの」
提督「そ、そう…」
168「可愛かったわ」
提督「ど、どうも…」
提督「えっと…とりあえず、退いてもらっていいかな?これじゃ動けないから…」
168「うん、でも一つ聞いていい?」
提督「な、なに?」
168「どうしてイムヤのそばに居てくれなかったの?」
提督「え?」
168「どうしてイムヤが寝てるときに一緒に居てくれなかったのかって聞いてるの」
提督「い、いや…私だって、お仕事があるから…」
168「お仕事と私、どっちが大切なの?」
提督(何回目だろう、これ…)
168「ねえ、聞いてる?」
提督「……イムヤ、よく聞いて」
168「うん」
提督「確かにイムヤのことは大切だけど、お仕事も大切なの」
168「どうして?」
提督「お仕事をしないと生活に関わるから、そうなっちゃうとイムヤにかまってもあげられなくなるんだよ」
168「私は司令官となら死んでもいいよ?」
提督「……私はイムヤと生きたいなあ」
168「……………」
提督「……………」
168「ほんと?」
提督「ほんとほんと」
168「………ふふっ……司令官がそう言うなら、そうしようかな」
提督「ああ、助かるよ。イムヤはいい子だね」ナデナデ
168「ふふ、うふふふ」
提督「それじゃ、そろそろおやつの時間だろうから…先に食堂に行っててくれるかな?」
168「うんっ、待ってるわ」
提督「私も後から行くよ」
168「絶対来てね?」ガチャ
提督「うん、わかってる」
パタパタ…
提督「……はぁ……」
響「……司令官」
提督「ん…響、どうしたの?」
響「…………」スッ
提督「……?ああ、抱っこね…はいはい」ギュ
響「ん」
グイ
提督「よいしょっと…響、重くなってきたね」
響「…セクハラ?」
提督「成長してるって意味だよ」
響「司令官…さっき、あの潜水艦が司令官の部屋から出てきてたのは…」
提督「あー…ちょっと、お話してただけだよ」
響「本当に?」
提督「うん」
響「………司令官がそう言うなら、本当なのかな…」
提督「…大丈夫だよ、勝手に響の前からいなくなったりしないから」ポンポン
響「………うん」
提督「………もうそろそろ満足した?」
響「? どこかに行くのか?」
提督「うん、イムヤにおやつ食べに行こうって誘われちゃって」
響「そうか……わかった、ありがとう。もう大丈夫だ」
提督「ん、はいはい」
ストン
提督「じゃ、私は行くけど…何かあったら言うんだよ?」
響「ああ…分かってる」
提督「うん、それじゃ」クル
響「…………司令官」
提督「?」ピタ
響「今夜は、一緒に寝てもいいかな」
提督「…うん、寝る準備ができたらおいで」
響「…ありがとう」
提督「…………」ニコ
パタパタ
ガチャ
提督「……………」
168「あ!司令官、こっちこっち!」
提督「ん…はいはい」
ストン
提督「ふぅ…あ、今日はアイスなんだ」
168「うん、司令官は食べないの?」
提督「え?ああ、私は…ちょっと、お昼食べ過ぎちゃったから」
168「そう…太らないようにね?」
提督「はい…」
168「ん〜、美味しい♪」
提督(こうしてると、いつも通りなんだけどなあ…ちょっとしたことがあれば、さっきみたいに私に執心して…)
提督(いつからこうなっちゃったんだろ…)
提督「はぁ………」
168「…司令官、どうしたの?」
提督「え?」
168「またため息ついてたわよ?」
提督「ああ…まあ、色々と悩み事が尽きなくて…」
168「ふーん…何か困ったことがあったら、相談していいからね?」
提督「う、うん…」
提督(相談できないから困ってるんだけどな…)
提督「…………」ボー
168「司令官、これからって暇?」
提督「……ん?いや、お仕事だけど」
168「そう…ならまた今度でいいわ、一緒に散歩でもしよ?」
提督「うん、いいよ」
168「それじゃ私、調べ物があるから。またね」ガタ
提督「うん」
パタパタ
提督「………ちょっとだけサボろうかな……」
提督(どこかいい場所、ないかなあ…)スタスタ
提督「………ん?あの梯子…」
ガチャ
バタン
パタパタ…
提督「もしかして……」
カン カン カン
提督「……あ、やっぱりいた」
天津風「……………」
提督「天津風ー!」
天津風「! あ…あなた…」
提督「また風を楽しんでるの?」ストン
天津風「ええ、そんなところ…ここはよく風邪が当たるから気持ちいいの」
提督「そっか」
天津風「あなたは?」
提督「私はサボり」
天津風「そう、悪い人ね」
提督「あはは…」
提督「天津風、前と比べるとずいぶん変わったね」
天津風「そうかしら」
提督「うん、会った頃は私のことも避けてたもん」
天津風「あの時は……その、ごめんなさい…」
提督「いいよいいよ、気にしてないし。前の鎮守府の事考えたら仕方ないことだもん」
天津風「…………」
提督「…まだ、火とかは駄目?」
天津風「ええ……見ただけで、身体が震えてくるわ…」
提督「そっか……」
提督「…………」
天津風「……ねえ、あなた…」
提督「うん?」
天津風「…ごめんなさい」
提督「ふふ、どうして謝るの?」
天津風「私、いつまで経っても役に立てなくて…やっとあなたを信じられて、みんなとも仲良くなったのに…私だけ、何もしてないなんて…私…」
提督「大丈夫だよ、誰も天津風のことをいらないなんて思ってないから」
天津風「でも…私、遠征にも出られなくて…本当にただの役立たずでしかないのに…」
提督「……そんなに捨てられるのが怖い?」
天津風「………!!」ビクッ
提督「誰からも必要とされないのが怖い?」
天津風「っ……や、やめて……」
ギュ
提督「大丈夫…天津風は、私にとって必要だから…天津風も、大切な子だよ」ポンポン
天津風「あ……あなた……」
提督「トラウマは簡単に乗り越えられるものじゃないから…ゆっくりでいいんだよ。ちゃんとできるようになるまで、私が守ってあげる」
天津風「………うん……」ギュ
提督(天津風、体温高いなあ…あったかくて気持ちいい…)
天津風「……はぁ」スッ
提督「ん、もういいの?」
天津風「ええ…あなた、優しいのね」
提督「ふふ、どうも」
天津風「私、頑張ってあなたの役に立てるようになるから…見守っててね?」
提督「うん…あ、そうだ」
天津風「?」
提督「もし、もしもの話ね?私が天津風を見捨てたらどうする?」
天津風「さっき見捨てないって言ったばかりなのにいきなりなんなの…」
提督「いや、興味本位で…」
天津風「そうね……」
提督「…………」
天津風「………あなたを殺して私も死ぬ、かな」
提督(やっぱり……)
天津風「まあ、実際のところは分からないけど…どちらにせよあなたがいない世界なんて考えられないし、私はすぐ後を追うと思うわ」
提督「そうですか…」
天津風「なに、その敬語」
提督「いや、なんでも…」
提督(これは天津風も相当病んでるなあ…前からそうだったけど…)
提督「じゃあ、私はお仕事があるから戻るけど…ほんと、焦らなくていいからね」
天津風「ええ、わかってるわ」
提督「じゃ」
天津風「あなたもあまり根を詰めすぎないでね」
提督「はーい」
カン カン
天津風「………いい風ね……」
〜〜〜
提督「ふあぁ……」
提督(今日も一日頑張ったなあ…)ウトウト
コンコン
提督「ん…はーい」
ガチャ
響「司令官…」
提督「ああ、響…もう寝るの?」
響「うん」
提督「そっか…じゃあおいで」ポンポン
響「…うん」
ゴソゴソ
提督「枕、持ってきてないの?」
響「駄目?」
提督「ううん、いいよ」
響「そうか…」
ボフ
提督「んっ」
響「はぁ……」
提督「もう…また人の胸を枕にして…」
提督「そんなに好きなの?」
響「うん…司令官の胸枕は、安心する…」
提督「そう…」
響「嫌?」
提督「ううん、あったかくて気持ちいい」ギュ
響「そうか…ふふ…」
提督「…私、もう眠いから寝てもいいかな…」
響「ああ…おやすみ、司令官…」
提督「おやすみ…」
提督「すー……すー……」
響「……うっ……」ピクッ
提督「んっ…」ゴロ
響「あ………ああっ…!!」
提督「んー…んん…?」
響「い、いやっ…いやだ…!一人にしないで…!」ブルブル
提督「あ…!ひ、響!」
響「うああああっ!?は、あ、あ、ああ…!!」ガタガタ
ガバッ
提督「だ、大丈夫だから!響、私がそばにいるから!ね!」ギュウウ
響「う、ううう…違う…違う、私は…裏切ってなんか…」カタカタ
提督(まただ…また怖い夢を見たんだ…)ナデナデ
響「はぁっ、はぁっ、はぁっ…」フルフル
響「…………」
提督「………響?」
響「すぅ…すぅ…」
提督(やっと寝付いた…)
提督(もう空が白んでる……今寝たら確実に起きられない…)
提督(ううー…このまま徹夜するしかないか…)
提督「はぁ……」
〜〜〜
提督「……………」ボー
鳳翔「提督」
提督「………ん…?あ、鳳翔さん…どうしたの?」ゴシゴシ
鳳翔「提督こそ、どうしました?ご飯を食べて眠くなりましたか?」クス
提督「ああ、うん…実は昨日、よく眠れなくて…」
鳳翔「あら、寝不足ですか」
提督「うん…」
鳳翔「そうですか…あの、眠気によく効くものが私のお部屋にあるのですが…どうですか?」
提督「ほんと?じゃあ、いただこうかな…」
鳳翔「はい、では行きましょうか」
ガチャ
鳳翔「どうぞ」
提督「あ、うん」
提督(鳳翔さんの部屋、いい匂い…)
鳳翔「掛けてください」
提督「うん」ストン
鳳翔「ふふ、誰かをお招きするなんて久しぶりです」ストン
提督「で…眠気に効くものって?」
鳳翔「ああ、そうでした…はい、どうぞ」ポンポン
提督「へ?」
鳳翔「眠い時は寝るのが一番です」
提督「…いや、そうだけど…」
鳳翔「不満ですか?」
提督「いや…お仕事があるから…」
鳳翔「大丈夫です、提督はいつも頑張っていますから。それに、少しくらい休まないと身体に毒ですよ?」
提督「でも…」
鳳翔「無理に働いて身体を壊せばみんな心配しますよ?」
提督「……じゃあ、ちょっとだけ…」スス
鳳翔「はい♪」
ポスン
鳳翔「提督、最近やつれているみたいですが…何かありましたか…?」
提督「……あのね、鳳翔さん…」
鳳翔「はい」
提督「実はね……イムヤや、早霜がね…ちょっと、依存してるっていうのかな…私がいないとすぐ精神が不安定になるみたいで…」
鳳翔「そうなんですか…」
提督「いつもくっついてくるから…心が休まらないっていうか…」
鳳翔「……大丈夫ですよ」ナデナデ
提督「ん…」
鳳翔「私のところに来れば、いつでもこうして休ませてあげますから…ね」
提督「……うん…」
提督「すぅ……」
鳳翔「……ふふ、可愛い寝顔…」ナデ
鳳翔「提督は、苦労されているのですね…」
鳳翔「でも、大丈夫です…」
鳳翔「あの子達が提督を苦しめるなら…私が、提督を救ってあげますから…」
鳳翔「ふふ……ふふふふ……」
メンヘラ特集おわり
イムヤの放置ボイスめっちゃ可愛い…
……………
………………
「……司令官さん、司令官さん」
ゆさゆさと、肩に触れる小さな感触が意識を覚醒させる。
寝惚け眼の視界に入ったのは、見知った電の顔だった。
「司令官さん、朝なのです」
「……んん、あぁ…ありがと…」
今だに眠気の抜けない瞼を擦りながら、身体を起こす。電が起こしに来たのは、たぶん目覚まし時計のリセットを忘れてたから。
人間が生み出した文明に感謝すると同時に、依存してしまっていることに奇妙な焦燥感も覚えてしまう。
「朝ご飯、できてますので…食堂で待ってるのです」
そう告げると、電はぱたぱたと忙しなく駆けていった。
「んっ、んんー………っはぁ……」
ぐぐーっと伸びをすると、全身の関節が音を立てて軋んだ。
……歳かな?いや、そんなことはない。
………ないはず。
そして、やっと気付いた。
のびのびとばんざいができる。
つまり、今日は手錠とかで拘束はされていない。
よかった。
まあ、されてたらされてたでなんとかしてただろうけど…寝起きに面倒ごとがあるかないかじゃ気持ちが違うよね。
電に言われた通り、食堂に行くために準備を始める。布団を退けて、少し乱れたパジャマを直して、スリッパに足を入れ……入れ………
「……………」
ない。つい昨日寝る前まであったはずなのに。
おおかた、敷波や羽黒あたりが持って行ったんでしょ。
「はぁ……」
しょうがないから、すぐ近くの戸棚を開けて予備のスリッパを出した。淡いピンクの生地と白い雪みたいなポンポンがなんとも可愛らしい。
「んしょ…」
お気に入り2号ちゃんを履いて自室を出る。
右、左、右。よし、今日は誰もいない。一直線にトイレへ。
個人的に、目を覚ますには冷たい水が一番効果的だと思う。もう何度目か分からない持論を頭の中で唱えながら顔を洗っていると、背中にずしり、と重みがのしかかった。
今日は誰だろう。額を上げて鏡を見ると、すぐ肩のあたりで小さな頭と金色の髪が揺れている。
「えへへ。おはよう、司令官」
首元に腕を回しながらにっこりと笑う皐月。可愛い。
「今日もかわいいね!」
「皐月の方がかわいいよ」
「むっ、司令官の方がかわいいもん!」
またいつも通りにくだらない冗談を言いながら、濡れた手と顔を柔らかいタオルで包む。
皐月を背負ったまま廊下を進んで、廊下へ向かう。
………途中、誰とも会わなかったのはたぶん、幸運だったと思う。
食堂の大きい扉を開けると、温かい空気が肌に触れた。外との気温差に思わず少し身震いしてしまう。
「司令官さーん!」
声のする方を見ると、電が陽気に手を振っている。その前には卵焼きと味噌汁と、湯気を立てるご飯を乗せたトレーが置かれていた。漬け物がないのがまだ子供らしい。
「皐月、朝ご飯は食べた?」
「ううん、まだ」
「そっか、なら一緒に食べよう」
「うん」
席に着くまでに、食堂全体を見回す。
…………
埋まってる席は、4割くらい。いつもよりは多い、かな……
ぎしりと音を立てる椅子に皐月を座らせ、続いて私も腰を下ろす。席に着くなり二つのコップに水を注いでくれる電はよくできた子だと思う。
皐月はすでに卵焼きと熱々のお米を頬張っている。
「電、暁たちは?」
「お姉ちゃんはもう食べたのです」
「そう…じゃあ電も寝坊したんだ?」
「う……は、はい…」
寝坊がバレたのが恥ずかしいのか、頬が赤みを帯び始める。現状、特にスケジュール通りに動かないといけないルールはない。
それでも決められた時間に起きて、行動するあたり習慣っていうものはすごいんだなと感じる。
………私?私は…ほら、前日の疲れがあったから…あはは…
「…今日はちょっとにぎやかなのです」
ぼそっと、呟いた言葉。電自身も、今の変化を痛感してるみたい。少しだけ嬉しそうで、寂しそうな電の表情に胸が痛む。
出かけた言葉を飲み込むように、味噌汁に口を付ける。朝にぴったりの、優しい白味噌の味。具材を見るに、今日は間宮さんが作ったみたい。
「間宮さんのお味噌汁も美味しいですけど…たまには、司令官さんが作ったのも飲みたいのです」
照れくさそうに頬を掻きながら、要求を口にする電。そういえばそうだった。最近、ほとんど作ってなかったっけ…さすがに間宮さんと伊良湖ちゃんが代わりがわりだと飽きるよね。
「じゃあ、明日は私が作ろうかな」
「本当ですか?えへへ、嬉しいのです」
言葉通り、嬉しそうに笑う電。本音を言えば、私は鳳翔さんのご飯が食べたいんだけど…今は、無理……だよね…
「ボクは鳳翔さんの味噌汁も飲みたいなあ」
皐月が、何気なく言った一言。本人に悪気はないんだろうけど、私には深く突き刺さる。
「…そうだね。また鳳翔さんが元気になったら、その時はお願いしようか」
「うん!」
こういう時、子供は素直だから心労がなくて済む。もしこの会話の相手が正規空母の誰かだったら………
………いや、やめよう。こんなことを考えてても、無駄でしかないんだ。もう、今さらどうにかできることじゃないから。
「鳳翔さん……まだ、目を覚まさないのですか…?」
「……………」
ずっと気にかけていたことを、ぽつりと電が呟いた。
私は、それに対して何も返す言葉を持っていない。
「鳳翔さんだけじゃない……他の子だって…また、前みたいに……一体、いつになったら……」
窄むように、声が小さくなっていく。終いには、俯いたまま何も言わなくなってしまった。
電の言葉通りだ。先の深海棲艦に総攻撃を仕掛ける大規模作戦で、私たちの鎮守府は大きな被害を被った。
作戦そのものは人類の勝利という形で終わり、あとは深海棲艦の残党を撃滅するという名目で艦娘たちは世に残されている。
けど、その犠牲はあまりにも大きすぎた。幸いにも轟沈する艦娘はいなかったものの、今だ目を覚まさない子や、身体の一部や、視力、聴覚、感情すら失った子だっている。
戦争の爪痕……ショックに苦しんで、いっそのこと死を以ってこの苦痛から解放させてあげたいと思う程の………
………そう、この鎮守府は…終末を迎えようとしている。
「……すぐよくなるよ、きっと」
「…………はい」
傷付けまいと、絞るように出した言葉。それを聞く電の目は、私を捉えていなかった。
本当は、電にも私の真意は見えているのかもしれない。それとも、電自身がこの状況に絶望してしまっているのか…だとしたら、私はなんて罪深いんだろう…
「…………」
「…………」
二人の間に、重い沈黙が漂う。
けど、それだってもう苦ではなくなった。他の子がしてくることに比べたら、この程度可愛いものだから。
朝食を済ませたあと、私は二人と別れて執務室に戻ろうとしていた。なんとなく窓の外を眺めながら、廊下の角を曲がろうとしたとき。
「うぎっ!?」
「いたっ!?」
誰かに衝突する痛みと共に、その勢いのまま尻餅をついてしまう。正面に目をやると、自分と同じ体勢で座り込んでいる最上がいた。
「ぐっ、いたたた…」
「あ……だ、大丈夫!?」
全身に伝わるほどの衝撃で倒れ込んだのか、しきりに右手をさする最上。白いギブスが痛々しい。
「うう…問題ないよ…提督も、怪我はない?」
「う、うん…私はないけど…その、ごめんね…折れてるのにぶつかっちゃって…」
「いやいや、これくらい慣れっこさ。それより、手を貸してほしいんだけど…」
「あ、うん」
一瞬右手を差し出そうとして、最上がくすりと笑った。慌てて左手を出し直すと、小馬鹿にしたようにぷぷぷと息を漏らし始める。
「ふぅ…」
身体を起こし、ぱんぱんとぎこちない動きの左手で埃を払う。右手はまだ痛むのか、動かそうとすらしていない。
「あーあ、早く治ればいいのになあ」
ぼやきながら、恨めしそうに右手を睨む。戦艦の砲弾が直撃したのに原型を留めているのは、当たりどころがよかったかららしい。
「…すぐ治るよ、ちゃんと栄養摂って安静にしてれば」
「だよね、へへっ」
楽観的な表情で笑ってみせる最上。普段なら喜ばしいことのはずなのに、今の私には苦痛になってしまう。
最上の右腕は、もう完全に治ることはない。明石にそう告げられていた。
外傷よりも内部的なダメージが激しく、帰還後に優先して治療を受けられなかったせいか症状が深刻になってしまったのが原因だった。
私に明石と同じ技術があれば、この手だってまた動かせるようになったかもしれないのに。
私が正しい指示を出していたら、こんなことにはならなかったかもしれないのに。
私に勇気があれば………この事実を、最上に伝えられるのに…私は、私は…
「それじゃ、ボクはそろそろ行くね。また三隈のお見舞いも来てあげてよ」
最上の一言で、はっと現実に意識を引き戻された。慌てて返事をすると、軽く会釈をしてそのまま廊下を歩き始める。
「はぁ……」
小さくため息を吐いて、私も歩き出す。頭の中には、毎日のように消えない雑念が渦巻いていた。
「これでよし、と……」
本日分の執務を終え、椅子に背を預ける。時計の短針は10の数字を指していた。
件の作戦が終わってからというもの、私の仕事はほとんど時間を要するものではなくなっていた。することといえば、治療の経過や資材増減の推移を報告するくらいで前のような多忙っぷりが嘘のよう。
外の喧騒に耳をすませていると、誰かがドアをノックする音が聞こえる。
「はーい」
「あの、羽黒です…」
「……入っていいよ」
「はい、失礼します…」
「どうしたの?」
「あ、えと…艤装の選別、終わりました…」
「そっか…ありがとう、お疲れ様」
労いの言葉をかけて、リストを受け取る。誰かに任せたわけではなかったけど、羽黒が率先してやってくれてたみたい。
使える艤装は……2号砲、三式弾に……3号砲は、ダメか…
「…………」
…羽黒がちらちらとこちらを見てる。話題を切り出せないみたいで、胸のあたりで手を組んでしきりに指先を合わせてる。
「…羽黒?言いたいことがあるなら言っていいんだよ?」
なかなか言い出せない羽黒に、促すように声をかける。これはずっと前から変わらないなぁ…
「は、はい……その、司令官さん……」
「その……足、治ったみたいですね」
そう言いながら、ちらりと私の足元に目を向ける。色々あって怪我をした足首は、今は不自由なく歩ける程度には回復していた。
「あはは…まだ少し痛むけどね」
これ見よがしに足をくいくいと動かしてみる。やっぱり痛みは残るけど、それを見た羽黒は安心したように笑顔を浮かべた。
「………ごめんなさい、私のせいで」
笑ったのは一瞬で、すぐに申し訳なさそうな表情になると頭を下げる。自分のしたことで私の怪我が長引いたことに負い目を感じているのか、私と顔を合わせるたびにこうして謝ってくる。
「いいよいいよ、気にしないで…私も気にしてないからさ」
この言葉も何度目だろう。それほど羽黒は罪悪感に苛まれているってことなのかな…
羽黒が自分のせいだと言うのは、直接的な怪我の原因ではない。けど、それを引き延ばしたのは事実。
私の足は、一時期松葉杖をつかなければ歩けないほどに損傷が激しかった。その間、身の回りのことは羽黒をはじめ色んな子がしてくれた。
………問題は、それからだった。骨折が治りかけた頃、その旨を羽黒に報告すると羽黒は突然動揺し始め、そして…
松葉杖を、蹴り飛ばした。
当然倒れ込んだ私の怪我は悪化し、完治までにさらに時間を要することになった。
戦争が終わる以前からも、羽黒は私を心の拠り所としていた。動けない私の世話をしていたせいか、それがいつしか私に尽くすことが羽黒の心の安寧に変化していった。
その世話がもう必要ないと感づき、動揺した羽黒は精神を病んで私を傷付けた。
……これも、私の責任だ。悪いのは羽黒じゃない…全部、私がしたことだから…
健全な一市民もいるSSで語録を用いてはいけない(戒め)
「でも…でも、違うんです……私、あの時はどうかしてて…司令官さんを傷付けたかったわけじゃ……」
………様子がおかしい。瞳は光を失い真っ黒に染まって、指先が震えている。
「う、うん…分かってるよ、羽黒が優しい子だって知ってるから…」
「本当なんです!!」
「ひっ」
唐突な怒号に、心臓が跳ねた。空を切るように胸の前で構えられた手は私の肩を捉え、強く指を食い込ませる。
「私は、私は……!ただ、司令官さんを助けてあげたかったのに!どうしてなんですか!?もう私はいらないんですか!!?」
涙を滲ませて必死に訴えかける羽黒。その細身のどこにこんな力があるのか、立てられた爪が激しく衣服にシワを作る。
「は、羽黒……ぐっ!?」
首にかかる羽黒の手。ぽろぽろと涙を零しながら笑う彼女の表情は、普段の優しい面影など欠片も残していない。
「ぐぅあ…!?」
呼吸ができない。尋常じゃない程の握力で首根を絞め上げられ、徐々に酸素を奪われていく。
このままじゃまずい……
なんとか押し退けようと手首を掴むが、力の抜けた腕ではとても敵う気配などない。酸欠で意識が朦朧としてくる。目が霞んで、指先の感覚がなくなって……このまま…本当に、羽黒に殺され……
「何をしてるんだ!」
「きゃあっ!?」
勢いよく飛び込んできた木曾が、羽黒を引き剥がした。大きくバランスを崩した彼女はそのまま尻もちをつき、呆然とへたり込んでいる。
「げほっ、げほっ…!はぁ、はぁ…」
「大丈夫か?」
揺れる私の身体を支え、介抱に回る木曾。その目はぎらぎらと琥珀色に輝いていた。
「………ふぅ…」
「落ち着いたか?」
羽黒が我に帰ったように逃げた後、私は木曾が淹れてくれたお茶でひと息ついていた。
「うん、ありがとう」
「いや、いいさ……お前が無事で何よりだ」
そう言いながら、心底安心したような表情を見せる。偶然にしろ私を助けられたのが嬉しいのかな。
「しかし…また、なんだな…」
「……うん」
憂うように呟く木曾。そう、羽黒のように癇癪を起こして暴力に走る艦娘は他にもいる。その都度傷付く私を心配してくれているのか、木曾はよく私の様子を見に来るようになった。
「………今度は、ちゃんと足も治りそうだな。よかったよ」
暗い話題を避けようと、前言を覆すように話を切り替える。手際よく湯呑みを片付ける横顔には苦笑が浮かんでいた。
「…木曾の目も早く治るといいね」
木曾の左目は軽い損傷を受けており、普段右目を隠していた眼帯を反転させて左目の治療に勤めていた。本人曰く、『見られるのは少し恥ずかしい』らしい。その違いは私には分からないが、あの金色の目は綺麗だなと思う。
「俺はいいんだ、それよりも早く元気になってもらいたい奴の方がたくさんいる」
「……うん」
「加賀さんだって……」
「…………」
「あ……」
やってしまった、というような顔をする木曾。少し慌てた様子を見せ、すぐに謝罪の言葉を口にする。なんだかそれが微笑ましくて、思わず声を漏らしてしまう。
頬を掻きながら笑う木曾に、私も安心しちゃった。やっぱり、木曾には笑っていてもらいたい。
「それじゃ、俺はそろそろ戻るよ」
「うん…あ、そうそう」
「?」
「多摩に深夜のつまみ食いはやめた方がいいって言っておいて」
「そんなことしてたのか………わかった、言い聞かせておく」
ぼやきながら、軽く手を振って部屋を出る。
再び沈黙が戻った空間は思考するのには適していた。
………………
…………
……
…木曾を安心させたくて笑ったわけじゃない。慌てる木曾が可笑しくて笑ったわけじゃない。
本当は、現実を見たくなかっただけだ。辛い事実から目を背けたくて、あの手の話題を避けただけだ。
全部、私の責任だから……みんなのことも、加賀のことも……けど……一人じゃ、重すぎる…
「……あ、提督」
「お邪魔するね」
私は、なんとなく加賀の部屋に来ていた。なんとなくっていうか、ただ顔を見たくなっただけだけど。
「いえいえ、加賀さんも喜んでいますよ」
そう言いながら視線を落とす赤城。そこにはもう見慣れてしまった光景がある。
「そっか…今日の分はもう終わったの?」
「はい、先ほど済ませておきました」
「そう…ありがとう」
「いえ…少し席を外しますね」
「……うん」
空気を察してくれたのか、会釈をしてから部屋を後にする。赤城の優しさが心に沁みる。
「加賀、おはよう」
小さく呟きながら、ベッドの隣に置かれた簡素な椅子に腰を下ろす。座り心地はとても良いとは言えない。
「……………」
解けた髪を撫でても、頬に触れても、その反応が返ってくることはない。目を閉じたまま、かすかな呼吸が指先を掠めるだけ。
こうしていると、ほんとに眠ってるみたいに見える。ちょっと長すぎるけど…いっぱい頑張ったもんね…私のために頑張ってくれたんだよね……
「加賀……」
握り締めるその左手に輝くのは、銀色の指輪。加賀は私が指輪を渡した相手だった。性能の強化じゃない、本物の愛を伝えたくて。
受け取ってくれた時は、珍しく泣いてたっけ……
………性能の強化、かぁ……これがなかったら、ほんとにあの時…沈んでたかもしれない…
「瑞鶴、前へ!加賀は下がって!」
「私はまだ…!」
「ああもう、いいから下がっててよ!翔鶴姉、一緒に連れてって!」
「ええ!」
「……ごめんなさい」
「提督さんも、こんな近くに居たら危険よ!早く逃げて!」
「ダメ!ここじゃないと迅速な指揮ができない!」
「そんな小型の船じゃすぐに沈められるのよ!?私たちだけでもやれるから、早く!」
「っ……」
「! 蒼龍、危ない!」
「え?うわっ!?」
「……!まずい、弾が逸れっ…」
「え………」
ドゴオォッ
「提督っ!!」
バシャァン
「……!!!」
「あっ、加賀さん!?駄目、危険です!加賀さん!!」
「許さない…!!」
「ちょっ…!な、なにあれ…!?」
「構えも何もない…滅茶苦茶だ…」
「違う、そうじゃない!加賀さんの目…」
「え……あ、あれって…あの青い光って…」
「まさか…深海の…」
「うああああああああっ!!!」
「あ……雨が…」
「加賀さん!撤退しますよ!もう艦載機は飛ばせません!」
「このっ…!よくも、提督を!!」
「あ…あれ、まずいよ、もうボロボロなのに…」
「加賀さん!」
「えっ!?ちょ、鳳翔さん!危ないですよ!」
「提督!提督っ!どこに…!」
「翔鶴姉!提督さんならきっと大丈夫だから、今はここから離脱を…」
ドォン
「がっ……」
「……!戦艦の砲撃をまともに…!」
「ごめん……なさ………い……」
「加賀さん!!」
…………
…………
…………
「う……」
「あ……提督!赤城さん、提督が目を覚ましました!」
私が目覚めたのは、それから二日後のことだった。視界に入ったのは見慣れた私室の天井と、顔を覗き込む翔鶴と赤城。最初はぼーっとしてたけど、徐々に意識が覚醒してくる。
「提督、私です。分かりますか?」
「……翔、鶴…」
「………!よかった…!」
私の言葉を聞くと、よほど嬉しかったのか翔鶴は顔を覆って泣き出してしまった。
身体を起こすのに腕を動かそうとすると、
「い゛っ……!?」
全身に激痛が走る。特に右足は少しでも動かせばそれだけで強く痛む。
「て、提督!まだ動いちゃダメです!」
慌てて身体を押し戻す赤城。首だけを傾け、改めて自分の腕を見ると血の滲んだ包帯が巻かれている。そこだけではなく、痛む場所のほとんどは医療用品の世話になっているのだろう。
「…私、どうなったの…?」
「はい、実は……」
聞いた話によると、私はあの後海に投げ出されたらしい。そこすらも覚えていないのは、船に飛んできた流れ弾が炸裂しその破片で強く頭を打ったからだった。
その時点で気を失い、続いて発射された魚雷が船底に命中し、弾けた鉄片が身体の至るところに突き刺さり更には右足も砕いたそうだ。
荒れる海に沈む私を助けたのは、あの艦隊に随伴していたイムヤだった。
「その……提督の足は、しばらくは動かせないと明石さんが…」
「……そっか……」
話を聞いているうちに、だんだんと記憶が戻ってくる。…そして、大切なことも思い出した。
「……加賀は?加賀はどうなったの!?」
捲したてる私に数巡戸惑う様子を見せたが、すぐに覚悟を決めた顔つきになる赤城。
「提督…落ち着いて聞いてください」
「え……」
加賀は私が気を失った後、怒りに駆られて自分の身も顧みずに突貫を始めた。飛行甲板に砲弾が直撃して艦載機が飛ばせなくなっても、空爆に曝されても、その手だけで深海棲艦を何体も葬った。
……けど、限界は近かった。ボロボロの状態で戦い続けた加賀はついに戦艦の砲撃を受け、倒れてしまう。その救助に向かった鳳翔さんも深刻な損害を負って、すぐに退避の指示が旗艦の赤城から出された。
加賀は失血に心停止が重なり、一時は生死の境を彷徨っていたそうだ。明石の尽力もあって、なんとか一命は取り留めた……けど…
「加賀さんは………次、いつ目覚めるか…」
「……え……?」
そう、加賀は昏睡状態に陥っていた。長い間呼吸をしていなかったせいで脳が深刻なダメージを負い、意識が戻らなくなってしまっている。
「嘘…でしょ…?」
「…………」
無言で首を振る赤城。計り知れない絶望と罪悪感が心を支配する。
「わ……私のせいで…加賀、が…」
「提督は悪くありません…私があのとき、すぐに退避の指示を出していれば…」
「う……っ、う、あ…」
罪の意識がぐるぐると頭の中を回る。
私が指揮のために逃げようとしなかったから
私がもっと早くに加賀を退避させていたら
私が自分の力を過信せずに離れた場所で指揮を執っていたら
私が
私が
私が
………そうだ、私があの時判断を誤っていたから…この現状があるんだ……
「うっ……ふっ、う、ぅ…」
分かっていても、こうして加賀の隣に来ると涙が溢れてしまう。もういつもみたいにお喋りできないんじゃないかって、本当は恨まれているんじゃないかって、自分の無力さを痛感させられるみたいで。
「加賀…私もみんなも、ずっと待ってるよ…もう起きてもいいんだよ…十分休んだでしょ…?」
「だから、早く……また、一緒に笑いたいよ……」
力強く握り締めた手は、微かに暖かみを帯びている。しかし、いくら涙を流してもその指先が動くことはなかった。
ーーーーー
ーーー
「ん……」
ゆっくりと意識が現実に戻っていく。
ああ…ちょっと、泣き疲れて寝ちゃってたのかな。時計は…お昼前、か…
「…あ…」
身体を起こすと、背中にかかっていた毛布がするするとずり落ちた。一度戻ってきた赤城がかけてくれてたのかな?
「…………」
相変わらず加賀は眠ったまま。これ以上ここにいても仕方ないし、そろそろ戻らないと鎮守府で何があるか分からない。
お腹は…まだ空いていないし、少し散歩でもしようかな。
そう思い立って、そっと加賀の手に触れてから部屋を後にする。
「…………」
風が心地いい。悩んだ時、堤防に来る癖は今も抜けていない。キラキラと太陽の光を反射して輝く海はあの頃から変わらないままだ。
少し違うところがあるとすれば、波打ち際に鉄くずや艤装の残骸が流れ着いたり油が浮いているくらい。
……あれ、もしかして結構おかしい?感覚が麻痺してるのかな…
「よっと」
隣に座ったのは…隼鷹だ。私が堤防でこうしているとよく一緒に海を眺めに来る。
「なんか悩み事?」
「そうかも…」
「ふーん」
興味なさげにポケットに手を突っ込んで、煙草を一本取り出す。続けてマッチ箱を持ったかと思えば、
「悪い、火点けて」
箱を差し出して促す。怪訝な表情を返しながらもマッチを擦って、咥えた煙草に火を点ける。
「さんきゅ」
そう言うと、マッチ箱をしまって煙草の味を吟味し始めた。本人曰く、ライターは指が熱いらしい。
見上げる空にゆっくりと白煙が立ち上る。小々波の音と煙、視覚的にも聴覚的にも心が安らいでいく。
「お酒は飲まないの?」
「うん」
「もう禁酒してから結構経つけどいいの?」
「ん、飛鷹が元気になったら一緒に飲む」
「そっか」
飛鷹が無気力になってからというもの、隼鷹はお酒をやめて代わりに煙草を吸い始めた。あまり美味しくはないけど飲まないよりはマシらしい。
「そん時は提督も付き合ってよ」
「うん、いいよ」
煙草を揺らしながら呟くだけで、それ以上のことは何もしてこない。ああ、落ち着いた大人のお姉さんって素晴らしい…そう実感したひと時だった。
そんな落ち着いた振る舞いでも、その胸中は色々思うことがあるだろう。飛鷹のこと、これからのこと、そして自身の右腕のこと。
かつてそこにあったはずのものは残っておらず、だらんと垂れた袖口だけがある。なんとなく目を向けたのを後悔するほど痛々しいそれは、紛れもなくあの戦いが残した傷痕だった。
「…………」
「……ん?あ、これ?そんなに気になる?」
「え、あ…えっと…」
核心を突かれ、吃ってしまう。本音を言うのはやっぱり辛い。
「大丈夫だよ、思ったより不便なことって少ないからさ。周りの子も助けてくれるし」
「……うん」
「…そんな顔するなよー、元気出せって!な!」
左手を伸ばし、髪をかき上げるようにわしゃわしゃと頭を撫でる隼鷹。その表情には前みたいに優しさと余裕が宿っていた。
「……ねえ、隼鷹」
「うん?」
「もしどこかで深海棲艦の誰かと対話できたら…こんなことにはならなかったのかな…」
「……さあなー」
視線を変えずに零す隼鷹。その声には諦めの色が混じっているような気がする。
…そう、最近になってよく思う。深海棲艦の中には、拙いとはいえ言葉を話す個体もいた。何らかの方法でその子にコンタクトを取れれば誰も傷付かずに和解で済んだかもしれない。
……いや、もう過ぎたことだ。考えても仕方ないことで悩み続けるのはよくない。
「………ふー」
まだ中ほどまで巻紙が残っている煙草を指で弾き、海に投げる。
「まだ吸えるよ?」
「あれは妖精さんたちの分」
「……そう」
隼鷹と別れたあと、私は引き続き散歩をしていた。途中、物置の屋根で多摩が昼寝をしていたが気に留めるほどのことでもないだろう。
降りるための梯子だけを固定し、そのまま庭を後にする。
「………あっ」
そういえば、もう昼を過ぎるというのにまだ着替えていないことに気付いた。別にパジャマのままでも咎める子はいないけど、根が真面目な方に張っているせいかすごい違和感を覚えてしまう。
早足で私室に戻り、扉の前に来てもう一つのことに気付く。
「……あっ」
部屋の鍵が開いている。朝の記憶を辿ると、これは誰かに開けられたわけじゃなくてただ私が鍵を掛け忘れただけ。
音を立てないようにそーっとノブを捻り、部屋に入ると……
「すーーっ……はぁー……」
「……………」
衣服の波の中で深呼吸をしている大井がいた。主に下着を集めて。
「………大井」
「はえぇっ!!??」
声をかけると身体を跳ねさせて驚いた。まさか、といった表情でこちらを見つめている。
「何してるの」
「く……訓練」
「んなわけあるか」
頭にかぶっていた桜色のブラと、手に持っていた同じ色のショーツを半ば強引に引っぺがす。
……これ、昨日着けてたやつだ。もしかしてそうと知っていながらこんな行為をしていた?だとしたら変態的すぎる。
…いや、大井に関しては前々からこうだったような。もう慣れっこかも。
「もう…私だからいいけど、他の子にこんなことしたら一瞬で嫌われるよ?」
「あっ、て、提督以外にはこんなことしませんよ?うふふ」
そういう問題じゃない。と言いながら額を小突く。てへへと笑いながら舌を出す彼女は見た目相応に可愛らしい。
いやほんと、こうしてると普通に可愛いのになんでこんな変態なんだろ。神は二物を与えないってほんとなのかな?
大井を部屋に返し、改めてベッドにかけてあった軍服を手に取る。
……少し汚れが染み付いてきてるかな?今度クリーニングに出そうっと…
「ふぅ」
いつものシャツを着て、厚手の軍服に袖を通すとなんだか身が引き締まるような思いになる。厳格というかなんというか、真っ黒だから真面目な印象に思えるんだろうか。
鏡の前で軍帽を整えて、きりっとした顔をしてみる。
「……………」
やっぱり、いつまで経っても母さんみたいな凛々しい顔にはなれないなぁ…
……それはそうと、堅苦しい雰囲気に見えるこの軍服だけど、私は割と気に入ってる。
別に着心地が良いとかそういうものでは決してないんだけど、肌を見せなくて済むし帽子で表情を隠せるから。小さい頃から母さんに「女性は肌を見せることを厭うもの」と教わったからか、人前で身体の半分以上が見えていると恥ずかしいと思ってしまう。
…まあ、現代だと時代遅れもいいとこなんだろうけど。
「さてと……」
着替えたはいいものの、やることがない。大本営からの書類はもう完成させた。まだお腹も微妙に空いていない。
「…………」
そうだ、明石のところに行こう。あそこは色んなものがあるから時間を潰すには適している。そう決めた私は、着替える直前に見つけた隠しカメラをクジラのぬいぐるみの前に置いて部屋を後にした。
「明石ー」
堤防付近の正面入口を無視して、裏口から入る。だってあの扉艦娘にしか開けられないぐらい重いもん。
………返事がない。この時間なら必ずいるはずなんだけど…
「明石ー?」
再度呼びかけても返事はない。不審に思いながらも工廠内を探してみると、何やら物々しい機械を弄る明石とそのそばで腰を下ろしている吹雪がいた。
「あ、司令官……」
「おはよう吹雪。何をしてるの?」
「えっと…」
吹雪が明石の方に目を向ける。明石が何か言うのかと思いきや、口元に手を当てたまま動かない。
「……………」
「……………」
「……………」
三人の間に沈黙が流れる。私は吹雪と顔を見合わせる。明石は艤装を見つめている。
なんだろうこれ。
しばらく明石の見ている艤装を眺めていると、突然大きな音を立てて艤装が跳ねた。同時に私と吹雪の身体も跳ねた。
「やった!成功です!」
「うぇ…?せ、成功って何が…?」
「ほら!見てください、これ!」
嬉しそうに言いながら艤装の接続部を指差す。
………一応そこに目を向けてみるけど、私にはなんのことやら分かりもしない。
「う、うん…よく分からないんだけど…」
「もっと近くで!ほら!」
「んん…?」
促されるままに顔を近付けてみる。
………あれ?この接続部、いつも見るのとは違うような…
「これって…」
「そうです!深海棲艦の艤装と私たちの艤装が結合するんですよ!」
結合するんですよ!って言われても。専門的なことは全く分からないし、これがどういう意味を成すかも分からない。私が首を傾げた方向に吹雪も首を傾げた。ぶつかった。
痛い。
「あー…つまり、どういうこと?」
頭をさすりながら尋ねる。今私たちの上には二つの疑問符が浮かんでいる。
「あれ?提督には説明してませんでしたっけ、深海棲艦の艤装の研究してること」
聞いてない聞いてない。どこのマッドサイエンティストですか?
「ちょっと前に艤装を拾い上げたんですけど…それがこれです」
「はあ」
明石が取り出したのは、タンブラーほどのサイズのカプセルだった。その中には透明な液体…おそらく海水と、青く発光する鉄片が浮かんでいる。
「この艤装…実は、再生するんです」
「再生ぃ?」
「はい、百聞は一見に如かずですね。やってみましょうか」
そう言うと明石はカプセルから艤装を取り出し、それを刃物で切り砕いた。そのナイフがどういう素材でできてるのかも気になるけど、まあそれは聞かないでおこう。
「「…………」」
食い入るように切り砕かれた破片を見る私と吹雪。しかし、その欠片にはなんの動きもない。
「……何も起こらないけど」
「この反応、結構時間がかかるんですよね。ちょうどお腹も空いてきましたし、先にお昼をいただきましょうか」
早くそれを言ってほしかったな。吹雪があからさまに呆れた顔をしてる。明石は無視してドレッシングルームに入ってるし。…一応タオルは出しておこうかな…顔が汚れだらけだったし…
「じゃあ、私たちは先に食堂に行ってようか」
「そうですね」
「立てる?」
「大丈夫ですよ」
松葉杖をついて吹雪が立ち上がる。やっぱり片足がないとバランスはとりづらいのかな。見ていられなくなって、腕の下から身体を通して肩を貸す。
「あ…ありがとうございます」
嬉しそうに笑う吹雪。気にしないで、元はと言えば私のせいだから。そう言うと吹雪が怒るのは知っていたから、相槌だけを返して歩き出す。
………松葉杖持ちながら人運ぶのってすごいやりづらい。つらい。
「むぐ、もぐっ…んぐぐ、はぐはぐ…」
「…………」
「…………」
目の前に並べられたいくつかの皿に箸を伸ばしては口の中にかき込み、ほとんど噛まずに飲み込んでは頬張ってを繰り返す。食事を楽しむというよりは、ただお腹に入れるという風な下品っぷりに私も吹雪も若干引いていた。
「……すごい食べっぷりだね」
皮肉交じりに言った言葉。たぶん、私の顔には苦笑が浮かんでいる。
「ほうなんれふよ!」
「うん…とりあえず飲み込んでから喋ろうね…」
指摘されてはっとしたのか、すぐに手元にあった水を飲んで口の中をすっきりとさせる。
「いやー、さすがに丸二日何も食べてないときついですねえ」
「二日!?二日も食べてなかったの!?」
衝撃の事実。どこのマッドサイエンティストですか?
「えへへ、ずっとあの艤装の研究をしてたもので」
そんなに熱中するほどのものなんだろうか。そういえばまだあの艤装の残骸について何も説明をしてもらっていない。落ち着いたみたいだし、聞けばなにか答えてくれるはず…
「で…明石、結局あの艤装で何ができるの?」
「あれ、まだ説明してませんでした?」
してないです。研究以外のことが頭から抜け落ちてるあたり、本当にマッドサイエンティストとしての才があるんじゃないかな。
「まあ…そうですね、分かりやすく言うと再生医療ができるんですよ」
「再生医療?」
「はい。あの艤装、実は深海棲艦の細胞を元にできているみたいで。おそらく艤装も身体の一部なんでしょう」
へー…現代科学で一番深海棲艦に詳しいのって明石なんじゃ…
「さっき見てもらった通り、私たちの艤装ともあの細胞は結合するんです」
「……つまり?」
「つまり、義手や義足を作ることができるんです。私たちのように何不自由なく、自由に動かせるものが」
「!!」
自然に笑みがこぼれた。ただひたすらに嬉しいという気持ちが心を満たして、箸を握る手に力が入る。
隣に座っていた吹雪も驚いたような表情をしたが、すぐに私を顔を見合わせるとにっこりと笑った。
「ただ、問題点があって…」
「え?」
「まだその技術が確立できていないんです…何分、私一人で調べていたことなので…」
申し訳なさそうに顔を伏せる明石。
ああ…そうだ、明石も、戦ってみんなの役に立てなかったことに引け目を感じているんだ。だから、せめてもの努力をしていたんだろう。
「…ううん、明石は頑張ってるよ。何か困ったことがあったら言って、私にできることならなんでもするから」
「じゃあ一発抱かせてくれません?」
なんてことを言うんだ。せっかくいい雰囲気になってたのにぶち壊しだよ。申し訳ないけど丁重にお断りさせていただきます。
「ちぇっ、残念…あー…寝てないから変なこと口走っちゃった」
……おそらく丸二日だろう。さっきから頻りに目をこすっているのはそういうことだったんだ。
「眠いなら寝なよ…工廠に布団あるでしょ」
「そうさせてもらいまーす…」
あくびをしながら明石が立ち上がる。
…明石も、頑張ってくれてたんだ。みんなのために…
「……明石!」
「はい?」
「…ありがとう」
「……はい」
そっか…治るかもしれないんだ…吹雪の足も、隼鷹の腕も…しっかりと技術が確立すれば、視力も聴力も戻るかもしれない。
……よし、忘れないうちに報告書をまとめておこう。そうと決まれば早速執務室に戻るしかない。
廊下を早足で駆けて、執務室の扉を開ける。浮かれ気分で身を乗り出した瞬間、横から飛び出してきた影に背後を取られてしまった。
「むぐっ!?」
驚きのあまり声を出そうと開いた口に布か何かを噛まされる。口元に当てられた手を引き剥がそうとしても、まるで動く気配はない。
後ろにいるのは、おそらく艤装を付けた艦娘の誰か。
そしてこの匂いは…明石が使っていた吸入性の麻酔薬が、確かこんな匂い…で……
誰かが…これを持ち出したんだ……だとしたら…だ、め………意識が………
「……ふふっ」
「……う…」
意識が覚醒すると同時に、軽い頭痛と吐き気に見舞われる。たぶん、自分の意思じゃない何かに脳が睡眠をもたらされたから。
そして、目を開けているのに視界は黒く塗り潰されたまま何も見えないのは目隠しか何かをされている。
相変わらず布は噛まされたままで、手も固く拘束されて何一つ自由が利かない。
「…………」
少し前の自分では信じられないだろうが、実はこういった状況には慣れっこだった。それが良いのか悪いのかは分からないけど。
私の腕時計には発信機が仕込まれていて、あるボタンを押し込むと大淀の受信機に信号が届く仕組みになっている。それが要救助の意味も兼ねてるから、誰かに監禁されても時間があれば助けに来られるということだった。
だから、指先までがっちりと固定されない限りはほとんど焦ることもない。もし仮にそうされても、私の姿が見えないと大淀の方から探知してくれるだろうけど。
体勢的に少し辛いけど、なんとか指は届く。ボタンは押し込んだし、あとは待っていれば大淀が助けに来てくれるだろう。あれからどれだけ経ったかは分からないけど、そう遠くない場所にいるはず。
ところで、ここはどこなんだろう…寝転ばされているのがベッドの上ということは分かるけど、それ以外の情報は何もない…
「んんっ!?」
唐突に内腿をなぞり上げられ、くぐもった声が漏れる。くすぐったがりな性分と、目隠しで触覚が鋭敏になっているのも相まって触れられただけでも反応してしまう。
「ふふ…」
「!」
この声……この、優しく落ち着かせてくれるような低い声は…
「提督…僕だ。初月だ」
やっぱり…!
「提督…一人で怖かっただろう?」
初月の息が首筋にかかる。どうやらかなり近い距離で話しているらしい。
「でも、もう大丈夫だからな…ここなら誰にも見つからない。僕がずっと守ってやる」
そう言って私を監禁しようとした子は何人かいたけど、結局全部失敗に終わったんだよね。もうそろそろ大淀も捜索を始めてると思うし。
「んんー」
「なんだ…そんなに怖かったのか?よしよし…」
違います。
初月が病んだ原因ってなんだっけ?
ああ、そうだ。前々から初月は私に対する庇護欲がすごかったというか、守ってやるって言ってくれてたんだよね。で、私が鳥海に連れ込まれそうになったのを見て以来こうなったというか…私が常に怯えてるように見えるみたい。
本当は全然そんなことないんだけど。
「んー」
「そうか…僕がそばにいるからな…大丈夫だ…」
あ、ダメだこれ。完全に意思疎通ができてないや。
うーん、どうしたものか…頭を撫でられるのは気持ちいいし、なんとなく安心はするんだけど…状況が状況だからなあ…
「…………」
というか、匿うだけなら拘束も目隠しも口封じも要らないんじゃ…さっきからなんだか手付きも怪しいし息も荒いし。
「ふ、ふふ……」
……なに、その不吉な笑い声は。いや、すでに私の身体を撫でる手が完全に情事の時にするそれに変わってるんだけど。
「それにしても…お前は本当に可愛いな…ふふふ…」
「んんっ…」
不意に手が胸に触れて、思わず声が漏れてしまった。
え?というかこの感触、もう脱がされてる?いつの間にボタンを外してたんだろう…全然気が付かなかった…
「可愛い…可愛いからな…少しくらい、いいだろう…」
全然理由になってないからそれ!とは言っても、それを伝える手段もなければ抵抗することもままならない。
あ、ちょっ、下も脱がされ……
………………
…………
「ふーっ……ふーっ……」
「はぁ…可愛かったぞ、提督…」
息苦しい。身体が熱い。少しってなんだろう…がっつりいかれた気がするんだけど…艦娘の体力ってすごい…
というか、口塞いでる状態でこんなことするって正気の沙汰じゃない…
……正気じゃなかった。
「提督!」
「!?」
あ、大淀の声だ。
……え?正面から突入してきたの?いや、大淀のことだから何か策があるはず。
「ボンバータックル!!」
「ぐあ!?」
タックルとか聞こえたんだけど?まさかの脳筋だった。
「提督、無事……あっ」
まあ、そういう反応しますよね…できればあまり見ないでもらいたいんだけど…
「……………」
無言で目隠しと口元の布と手首の拘束を解いてくれる。何か喋ってくれないと逆に気まずい。
「ぷはっ……はー、ありがとう、大淀…」
にこっと笑顔を返す大淀。ふとその横に目をやると、初月がのびている。
「いえ、気にしないでください。立てますか?」
……ダメだ。まだ腰が抜けて足に力が入らない。結構激しくされたからかな…
「そうですか…では、失礼しまして」
膝の下と、背中に手を回し、ぐいっと持ち上げられる。私も落ちないように首の後ろに手を回す。ちょっと恥ずかしいけど、割と慣れたもの。
さすがにあの状態を見られるのは慣れないけど。
「無事みたいでよかったです」
「うん…ところで、ここ…どこ?」
「鎮守府の地下室ですよ」
「そっか…」
私だって大人だし、軽くはないはずなのにやすやすと運べるのは身体のどこかに艤装を付けているからだろう。
…ゆらゆら揺れるのがゆりかごみたいで気持ちいい。抜けきらない脱力感と一緒に、眠気も出てきた…ちょっとだけ寝ようかな…
ーーーーー
ーーー
その日は、風ひとつない静かな夜だった。
窓辺から雲のない空を見上げると、ぶちまけられた黒いインクに無数の宝石が散りばめられている───なんて、今時詩人でもこんな詩は考えないかな。
加賀の様子を見て、大淀に助けられて、(そこはいつも通りじゃないけど) お風呂を済ませて。それを終えれば寝るだけの単調な生活。
小気味良いリズムで、ノックが刻まれた。返事をすると、廊下の光を遮るように萩風が部屋に入ってくる。
「…………」
ドアノブを後ろ手に、無言で立ち尽くす萩風。けど、言葉はなくてもその目的は分かっていた。
窓際に置かれた椅子から立ち、ベッドに腰を下ろす。そのまま視線をやると、萩風もこちらに近付いてきた。
「司令……」
肩を押され、身体が後方へ仰け反る。抵抗はしない。部屋に入った時から顔が赤かったのは、つまり、そういうことだろう。
頭と背中に柔らかいものが触れ、視界は見慣れた天井をとらえる。正面からも、感触は違えど同じ柔らかいものが乗せられた。
「…………」
ふわり、と垂れ落ちた髪の匂いが鼻をくすぐる。女の子らしい優しくて暖かい香りと、ミルクのようなシャンプーの匂い。全身を包むように広がるそれは、より近くに寄せられた肌も相まって安心感を与えてくれるものだった。
その形を崩して、穂先を落としたようにサイドテールが私の髪と混ざり合う。束ねられた一房の髪は………そう、私の最愛の人のそれを思わせて。どくんと高鳴る胸と、ボタンを外される音が妙に騒がしく感じた。
萩風は夜が怖くて、私に安心を求めてきた。彼女だけではなく、他にも心の安寧を求めて私の身体を欲しがる子はいる。
私は甘んじてそれを受け入れて───
………いや、違う。素直に気持ちを吐き出すなら、それは私とて同じことだった。こうして誰かに抱いてもらわない夜は、無機質な冷たさと静寂だけがその身を貫いて、夢の中でみんなが私を責め続けて。
………ただ自責の念から逃れたくて。今日も私は、一方通行な愛を受け容れる。
〜〜〜
「…………」
……暑い。
「ねえ、嵐」
「いやだ」
「いやだって言っても、もう1時間もこのままだし」
「いやだ」
「はぁ…」
背後から抱き締める嵐の熱が私の身体にも伝わってくる。少なくとも額に汗が滲むくらいには暑い。
どうやら、昨日萩風が私を抱いていたことに気付いたみたい。というのも、朝方部屋を抜け出した萩風が嵐に目撃されてたからなんだけど。もう少し警戒心を持ってください、お願いします。
そしてヤキモチを妬いた嵐が今こうして談話室で私を捕まえている、と。意味合いは違えど抱かれていることには変わりないし、これで五分五分…なのかな?それよりも、周りの視線が痛い。
……主に早霜とか…金剛に至っては露骨に爪を噛んでるし。
「司令の髪、いい匂いだなー」
そう言いながら私の髪に顔を埋める嵐。嵐は今の鎮守府でも比較的危険性のない子というか、戦いが終わる前と同じような安定性を持っていた。
だからこうしたスキンシップも含みのあるものではなくて、単純に彼女の好意からくる行動なんだろう。
……とはいえ、こうして人前で抱き締めるような体勢になるのは周りの目がこわい。だってほら、金剛なんてもう露骨に身体揺すってるし。早霜なんて目力だけで人殺せそうなぐらいこっちを見てるし。
嵐が私と同じ立場で働いていたらこんな状況になったのでは…
「へへへ、サラサラで綺麗だ」
髪を触られるのは気持ちいいけど、それは恋人同士がすることだから。私は嫌じゃないけど、周りの方々がお怒りになりますから。気付いてください嵐さん、お願いします。
「はぁ…」
胃が痛い…
満足した嵐がどこかに行った後、ずっとそれを遠巻きに見ていた早霜に無言で詰め寄られるし、摩耶はデコピンをして去っていったし、敷波は目も合わせてくれないし。
この埋め合わせをしなきゃいけないと考えると、胃が痛い。そろそろ胃に穴が空いてもおかしくないんじゃないかな、私。
人がたくさんいる場所でああいう過剰なスキンシップは、こういう事態を招くからできるだけしないようにしてるんだけど向こうからしてくる場合、私の意思は関係ない。
本能的にそれを避けたくなったのか、ふらふらとした私の足は工廠へと向かっていた。
「……………」
音を立てないように裏口の戸を開ける。
足音を消して少し歩くとーーー
「zzz……」
やっぱり。明石、まだ寝てた。
鉄骨とフックに引っかけたハンモックの上でぐっすりだ。……工廠で生活するのって思いの外快適なのでは?年中暖かいし、静かだし。
いや、まあ、それはいいとしてなんで下着姿で寝てるんだろう?女の子としてみっともないったらありゃしない。
パジャマは買ってあげてるのに着ないってことは、本人の好みによるところが大きいのかな。全裸で寝るって人もいるみたいだし、私がどうこう言う問題ではないけど…とりあえず、風邪だけ引かないように毛布はかけておいてあげよう。
「これでよし、と…」
昨日からずっと寝てるんだろうか。丸二日寝ていなかったし、仕方ないといえば仕方ないか。
明石のそばを抜けて、ドックの方に向かうと壁にもたれかかる吹雪がいた。
見上げた目線の先には特に目移りするものはなく、ただぼーっとしているだけらしい。
一人で暇を潰すのも忍びないし、近付いてみると足音に反応してこちらに気付いたようだ。
「あ、司令官…」
「おはよう、吹雪」
「はい、おはようございます」
相変わらず礼儀正しい子だ。けど、その挨拶に昔のような元気は込もっていない。
「こんなところでどうしたの?」
「あ、いえ…ただ、なんとなくここが落ち着くので…」
質問されたことに、困惑するようなたどたどしい口調だった。私もどうしてここに来たのかと聞かれれば、同じような答えをしたと思う。
「そっか…」
独り言のように呟きながら、私も壁に背を預ける。
「…さっき、落ち着くって言いましたね」
「ん?うん」
「その…司令官が隣にいると、もっと落ち着くというか…安心します」
「……そっか」
嬉しいことを言ってくれる。そばにいるだけで安心してくれるなら、手間がかからなくていいことだ。
「…昨日、明石さんが言ってたじゃないですか。私の足が治るかもしれないって」
「うん」
「また、司令官と一緒に歩けるって…そう考えると、なんだか嬉しくなっちゃって…」
てへへ、と笑う吹雪。まだあどけなさが抜け切らない表情と、付け根から先のない足が現実との対比のように見えてーーー
「それは嬉しいんですけど…やっぱり、失敗する可能性も…ある、かもしれないじゃないですか」
「うん…」
「もし…もし、ですよ?私の足が治らなかったら…」
吹雪は、俯きながら呟いた。髪が降りて目元は見えないが、声のトーンが明らかに落ちている。
「司令官は……責任を取ってくれますか…?」
「………!」
そう言いながら向けられた瞳に、光はなかった。
いつの間にか正面に回った吹雪は壁に手を付き、逃げ道を塞ぐ。いや、本当は押し退けようとすれば簡単にできるんだけど。できるはずなのに、私を見上げる瞳は真っ黒な光で吸い込むように視線を捉えて離さない。
その中に渦巻くいくつもの負の感情に縛り付けられ、見えない拘束具でもあるかのように身動き一つ取れなくなってしまう。
「私……この戦争が終わったら…いっぱいお洒落して、美味しいものを食べて、楽しいことをして…たくさん友達を作って、街の女の子と同じように遊びたかったのに…」
始まった吹雪の独白。私は言葉も発せずにただそれを聴いている。
「私から全部奪ったのは、司令官なんですよ?」
それは私の心に深く突き刺さった。
そうだ。いくら艦娘と言えど、戦いが終われば普通の女の子と何ら変わりない。ましてや吹雪なんて人間の年齢に換算すればせいぜい中学生程度の年代だろう。私はそんな子供の将来を奪ってしまったんだ。
「私にはもう…司令官しかいないんですよ…?」
吹雪の細い腕が、首の裏に回される。少し背伸びをしているみたいで、うなじには等身大の体重がかかっていた。
「受け容れて……くれますよね……」
唇が近付いてくる。
ああ、そういうことか。私はそれを
───拒めなかった。
唇が触れた瞬間、するりと温かい舌が入り込んでくる。…どこでこんなこと覚えたんだろう。最近の子はませてるなぁ…
「んっ…ふ…」
少し苦しそうに息を継いだあと、またうっとりとした表情で唇を押し付けてくる。首元に回されていた手はいつの間にか肩を掴み、逃がさないようにぎゅっと指先に力を込めている。
ああ、あの真面目な吹雪がこんなことをするまでに堕ちてしまった。こうして肉欲に溺れるのは吹雪だけじゃない。何を頼りにして、何を心の安寧にすればいいのか分からない子がたくさんいる。
その理由は言わずもがな、指示すべきである私が迷っているからだろう。………迷ってる?何を自惚れたことを。
私はすでに追い詰められた。考えることを捨てて、この辛い現実から逃れようとしているだけの無責任な臆病者だ。そんなことをすれば、今まで戦うことしかできなかったこの子たちはどうなる?これから先どうあの子たちを導いていけばいい?
この責任は私一人には重すぎる。だからこうして歪んだ形で心を触れ合わせてきても、それを逃げ道にしてしまうのだろう。
どこに行ったってどうせこの状況をどうにかできるはずなんてないのに。……あはは、自己嫌悪でここまで気持ち悪くなれるなんて。吹雪がいなかったらすぐにでも吐いてたかも。
「お盛んなのはいいですけど、よそでやってくれませんかねえ」
「!」
吹雪が顔を離すと同時に、二人同じ方を向いた。そこにはあくびをしながらティーカップを準備する明石がいた。
「ごっ、ごめんなさい」
みるみるうちに頬を染める吹雪。さすがに見られていたのは恥ずかしかったらしく、気まずそうにこちらをちらちら見ている。
「ひゃっ…」
無言で頭に手を乗せると胸の前で指を組んだまま動かなくなってしまった。よく見ると目に光が戻っているけど、そういうトリガーでもあるのかな。
「まあいいですけど…ほら、終わったんなら出て行ってくださいよ。しっしっ」
どうやら寝覚めの機嫌はあまり良くないらしく、手を折ってそれをぱたぱたさせている。
「…行こうか」
「は、はい…」
「……あの、司令官」
廊下を歩いている間、ずっと黙りこくっていた吹雪がやっと口を開いた。
「本当に、すみませんでした…」
深々と頭を下げて謝る吹雪。その声は暗く沈んでいて、いつものような元気は感じられない。
「いいよ、慣れたことだから」
「慣れた!?そ、それって…」
「吹雪だけじゃないよ。他の子もしてくる」
「そ、そうなんですか…それは…むう……」
……なぜ頬を膨らませているのか。いや、まあ、吹雪の気持ちに気付いていないわけじゃないけど、一過性のものと信じたい。
「…やっぱり、私だけじゃなかったんですね…みんな司令官のことが好きだから…」
「…………」
「……ごめんなさい、私…ちょっと、迷ってて…司令官ならこの気持ちを受け止めてくれるんじゃないかって…っ!」
罪悪感に耐え切れなくなったのか、吹雪は走り去ってしまった。私はその影を追おうともしない。
迷ってた、ね。はは、よくも私の前でそんなことが言えたね。子供はいいなあ、頼れる存在がいて。私なんてもう袋小路にたどり着いたのに…まだ夢を見てるなんて、馬鹿みたい…
……ああ、どうしてこんなこと考えてしまうの?吹雪だって大切な仲間なのに、ずっと私のために戦ってくれてたのに。蔑むような気持ちになるなんて。
私、最低の人間だ。いっそのこと、死ねば楽になる?
ほんとだ、なんで走り去るって書いたんですかね
たぶん頭がおかしくなってたので脳内補完してください(投げやり)
「……………」
その日は眩しいほどの快晴だった。カーテンの隙間から漏れる光がそれを物語っている。
目なんてとっくに覚めているのに、身体を起こす気力すら湧いてこない。誰かと一緒に過ごさない夜はいつもこうだ。自己嫌悪と罪悪感がひたすら自分の中をぐるぐる回って、それを逃がす場所なんてどこにもなくて。ここ最近はずっとこんな調子だ…吹雪に言われたことが頭の中で何度も再生されて…そろそろおかしくなりそう。
………もう、いいよね。もう疲れた…
後のことは全部大淀や明石に任せよう。私がいなくなっても誰も悲しまないはずだ。「提督は悪くない」なんて言ってもどうせ心の中では私を恨んでるだろうし、私が死ねばせいせいするに違いない。
きっとそうだ、なんでこんな簡単なことに気が付かなかったんだろう?こんな苦しい世界で生き続ける理由なんてどこにあったの?さっさと楽になれば罪滅ぼしなんて考えなくて済んだのにね、私ってほんと馬鹿。
一番下の引き出しを開ければ出てくるのは護身用の拳銃だった。今まで使ったことはないけど…まさか、最初の犠牲者が私になるとは思いもしなかった。銃口をこめかみに当てて、引き金に指を添えて、あとはこれを引くだけ。
…この口径なら即死のはず。死体の損傷は激しくなるだろうけど…まあ、死んだ後のことなんて考えてもしょうがないか。
「…………っ」
あと少しで楽になれるはずなのに指が動かない。やり残したこと?そんなものはない。後悔?さっき諦めはついたはずだ。死ねば楽になる。あと少しなんだ。動け、動け、動け
動け動け動け動け動け動け動け──────
「おーい、いつまで寝て………なっ…!?」
───
──────
我に返ったのは、激しい銃声の後だった。
……あれ?どうして銃声が聞こえたんだろう?おかしいな、死んだあとに音なんて聞こえないものだと思ってたけど。
「っ……馬鹿野郎!!何を考えてるんだ!!」
耳を劈くような怒号に思わず身体が跳ねる。見開かれた視界には木曾がいた。
え?どうして?状況が飲み込めない。締め付けられる手を見ると、硝煙の立ち上る拳銃とその先の天井に弾痕が残っている。
……ああ、そういうことね。やっと理解が追いついた。偶然部屋に入ってきた木曾が私を見て止めに入ったんだろう。あの弾痕はその時の反動でできたものだ。
「……離して」
「離すわけないだろ!お前を死なせてたまるか!」
「…まあ落ち着いてよ」
「落ち着くのはお前だ!まず話をしろ!」
私は落ち着いてるんだけどね。しょうがない、ここは話を聞いておこう。もし銃を取り上げられても死ぬ手段なんていくらでもある。
せっかく死ぬには良い日だったのに、嫌な気分だ。苛立ちすら感じるよ。まあ、私より明確にイライラしてるのは目の前の子なんだけど…
「……死ぬつもりだったろ」
「……………」
「答えろ」
態度は努めて冷静だけど、声に怒気が孕まれているよくわかる。はは、相変わらず怒りを抑えるのが下手だなぁ。
「……そうだよ、もう少しで死ねるところだったのに。どうして邪魔をするの?」
自分でも予期しないくらい煽るような言い方になった。当然怒りは増すだろうし、歯を軋る音も聞こえた。
部屋に乾いた音が響く。
「つっ……」
「もういっぺん同じこと言ってみろ…次は本気だからな…」
………ふっ、頬を叩かれるのは予想外だったかな。手のひらの当たった箇所がヒリヒリする。
「死ぬなんて軽々しく言うな…みんなが悲しむだろ…」
…悲しむ?何を言ってるの、この子は?人の苦労も知らないで自分の都合を押し付けて。知ったような口を聞いて。そういうのって…すごく、イライラする。
「……なら…」
「………?」
「ならどうしろって言うの!?私のことなんて何も分かってないくせに!!」
心底驚いたような顔をする木曾。普段物静かな私が声を荒げたのが相当珍しかったのか、掴みかかられた手を振りほどくことなく呆然としている。
ーーーあれ、私、どうしてこんなことしてるの?私を想っての行動をしてくれているはずなのに、なんで?…自分でもよく分からない。意識だけ別の場所にあるみたいに勝手に身体が、口が動く。
「罪滅ぼしのために生きればいいの?それともまだ私にあなたたちの面倒を見ろって言うの!?恋人も何もかも失った世界でこれ以上私に何を求めるの!?贖罪なんて、もう…!」
「お前……」
「もう……私、分からないよ……」
「…………」
気付けば、頬を温かいものが伝っていた。憎しみとか怒りとか罪悪感とか、暗い感情が混ぜこぜになって、さっきまで怒ってたはずなのに今度は泣いている。自分でもよく分からない。
「うっ…うっ、うあぁ…」
木曾は、嗚咽に震える肩をただ何も言わずに抱いてくれた。やめて、私はそんなことをしてもらう資格なんてない。あんなにひどいことを言ったのに優しくされる資格なんて。
「…大丈夫だ…お前は一人じゃない」
ありふれた言葉なのに、こんな時に掛けられるとまた涙が溢れてくる。背中をさすってくれるのがなんだかやけに安心感を覚えて、涙は止まらないのにすごく落ち着いてくる。
「……落ち着いたか?」
「………うん…」
「…なら、少し話を聞いてくれ」
「……うん」
「お前は俺たちの面倒がどうだ、と言ってたが…確かに俺たちは艦娘という兵器で、外の世界で生きる術なんて何もわからない」
「…………」
「だから…面倒を見ろとは言わない、お前は道を示してくれるだけでいい。もうみんな子供じゃないさ、手を取り合って生きることだってできる」
「……うん」
「あと、何もかも全部お前が抱え込む必要はない…辛い時は誰かを頼れ。お前に頼られて困るやつなんていないからな」
「………うん」
「最後にひとつ」
「…………?」
「お前が背負うべきなのは、罪なんかじゃない。俺たちの未来だ」
「あ……」
「お前が死ねばみんなも死ぬ。悲しみで自殺するやつもいれば、必死に生きようとして苦しんで野垂れ死ぬやつもいるだろうな」
「うん…」
「道連れも同然だからな。そんなの悲しすぎるだろ?」
「………うん」
「だから…そうならないように、生きてくれ。今は希望が見えなくても、諦めなければ必ず光は見えてくる。先の大戦だって、お前がいなきゃ俺たちも諦めてたかもしれないからな」
「……………」
「お前は…ここにいなきゃいけないんだ。俺たちにはお前が必要だ。だから、生きてくれ」
「………うん」
「未来……かぁ…」
そうだ。私、いつの間にか全部一人で抱え込んで、誰かに頼るのを忘れてたんだ。あの子たちだってもう子供じゃない。今を生きようと精いっぱい頑張ってる…少しだけでもいい、私が道を示してあげなきゃ。
あの張り手で目が覚めたのかな、さっきまで沈んでた気分が一気に楽になった気がする。
「…私…もう少しだけ、頑張ってみようかな…」
「……ね、加賀…」
独り言じゃなく、言い聞かせるように呟きながら手を握る。……暖かい。勇気をくれるような温もりだ。本当は言葉も一緒に欲しかったけど…ううん、今は贅沢を言っちゃ駄目。ゆっくりでもいいから、自分にできることをするんだ。
「……また来るね」
頬を撫でて、席を立つ。ここに来るときはいつも泣いていて、部屋を出る時も決して明るい気持ちになれなかったのになんだか今は不思議とやる気が湧いてきてる。…よし、頑張ろう。
ーーーその時。
部屋には私と加賀の二人しかいないはずなのに、背後から微かに布の擦れる音が聞こえた。……まさか。そんなこと、あるはずがない。いや、でも、もしかしたら?
諦めと希望を半分ずつに振り返ると、
「────」
「……………」
「……え………?」
その眼は、確かに開いていた。
光る琥珀色が、確かに私を見つめていた。
もう、開くことのないと思っていた眼が、最愛の人が、私の視線を捉えていた。
「……てい…と……」
「っっ」
思考より先に身体が動く。たぶん秒もなかったと思う、気付けばその肩を抱き締めていた。
「加賀…!加賀ぁっ…!」
「………痛いわ…」
怪我してるのなんて分かってる。分かってるけど、力いっぱい抱き締めずにはいられなかった。
「よかったあぁぁ…もう、目覚めないんじゃないかって…ずっと心配してたんだからぁ……!」
「……ごめんなさい…」
弱々しいけど、握られた手には力がこもっていた。ずっと…ずっと、求めていたこの感触…
……ああ、なんて言えばいいんだろう。心に花が咲いたような
いや、そんなものじゃ表現しきれない。とにかく…こう、嬉しい気持ちがいっぱいで…もうたまらなくて…
あ…
せっかく泣いてなかったのに、涙が……
…ううん、これで最後。だから…今は泣いてていいよね…
「加賀、覚えてる?自分がどうなったのか」
「……私、確か…」
「私が海に落ちたあと、怒り狂って敵に突っ込んで…ボロボロになって、二ヶ月以上眠ってたんだよ」
「…ああ…思い出してきたわ…」
「そっか…ゆっくりでいいからね」
「ええ……」
「……え?二ヶ月?」
「ん?うん」
「…戦争はどうなったの?深海棲艦は…」
「終わったよ。私たちの勝ち」
「………そう…なら、よかった…」
「終わった…のね…」
「うん…もう、戦わなくていいんだよ」
「………私、あなたを見ていたの」
「え?」
「声の届かないどこかで…私が眠っている時も、そばに居てくれたのも…暗闇の中で見ていたわ」
「…………」
「……けど…あなた、ずっと泣いてた…」
「あ…」
「もしかしたら…あなたが笑ってくれるのを、待っていたのかもしれないわ…」
「……うん…遅くなって、ごめんね…」
「…私も、ずっと一人で待たせてしまって…ごめんなさい…」
「……ねえ、加賀」
「なに?」
「私ね…今日、自殺しようとしたの」
「…………」
「でも、死ななくてよかった…また、こうして会えたから…」
「……ええ…これからは私も一緒にいるわ…」
「…うん。まずはリハビリからね」
「…それより先に、あなたの手料理が食べたいわ…」
「あはは…相変わらずだね…」
「提督、そろそろお昼に…」
「あっ、赤城!聞いて!」
「………えっ!?か、加賀さんが!?」
「〜〜………」
「〜〜〜〜」
〜〜〜
「……あ、いたいた」
「ん?おう、どうした?」
「あー…なんていうか、その…」
「なんだ、水くさいな。はっきり言えよ」
「……ありがとうね」
「何がだ?」
「いや、木曾がいなかったら私も加賀もどうなってたことかって思って…」
「まあ、手足が動かせるようになったら後追い自殺だったろうな」
「う…」
「……よかったよ、お前が元気になったみたいで」
「……うん。あのね、木曾」
「ん?なん……っ!?」
「………これくらいしかできないけど…お礼ね」
「っは…お、お前なあ…」
「ふふふ、それじゃ、またね」
「はぁ……そんなことされたら、諦めきれなくなるだろうが…」
それから数週間後………
「………というわけで、尋常じゃないほどの痛みを伴うんですよ」
「そうなんだ…」
私は明石の再生医療の説明に立ち会っていた。技術が確立できたのはいいが、こればっかりはどうしようもないらしい。
「なんせ生きた神経を切り落として、そこにさらに無理やり神経と細胞の接続を行うわけですから…」
「麻酔は使えないの?」
「使えないことはないのですが…あくまで余計な部分を切り落とす時の痛みをなくすだけで、接続は麻酔なしで行わないと術後の正確な動作が保証できないんです」
「そっか……」
「…………」
隣でその話を聞いていた隼鷹も吹雪も、痛みが怖いのかずっと黙りこくっている。
「あまりの痛みにショック死することだって考えられます…本当にこの改装を施しますか?」
「……あたしはもう覚悟してるつもりなんだけどね」
「隼鷹…いいの?」
「ああ、むしろ諦めてたこの腕が戻ってくるのが嬉しいよ。今すぐにでも受けたい気分だね」
「…………」
そう言い捨てた表情に、楽の感情はなかった。それはそうだ、痛いのなんて誰でも怖いに決まってる。それこそ死ぬかもしれないほどの痛みなんて…
「……吹雪は?」
「私は…」
「…嫌なら、無理はしない方が…」
「…………」
「………いいえ、受けさせてください」
「吹雪…」
まっすぐに明石を見据える瞳は、強い光を宿していた。明石もそれを真剣な眼差しで見つめている。
「私も、もう諦めていました。けど…また、この地に両足を付けて、司令官と歩けるようになるって…そう思ったら、痛いのなんて怖くなくなりました」
「……はは。すごい勇気だねえ…」
後頭部を掻きながら苦笑を零す隼鷹。けど、少なからず隣にいる吹雪に勇気づけられたような…そんな雰囲気。
「私以外にも、手や足を失った子だっている…その子達に希望を見せてあげたいんです」
「…うん、吹雪ちゃんの気持ちはわかったわ。私も全力を尽くすから」
「……はい!よろしくお願いします!」
それから吹雪と隼鷹が部屋を出て、明石に手術の時刻を言い渡される。
フタフタマルマル。
………私のやることが片付いた後だ。しっかりと準備をしよう…
このSSまとめへのコメント
泣いた。・゚・(ノД`)・゚・。
加賀編泣けた……
加賀編は号泣しながら拝見させていただいてました
これからも頑張ってください
木曾かっこよすぎ
提督編の響Ver書いて欲しかったなぁ…