【終戦70周年】テレビ小説「穂むら」【ラブライブ】 (8)

これは時代の流れに翻弄されながらも懸命に生きたある少女たちの物語である。

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[第一回] 和菓子屋”穂むら”



まだ鳥も鳴かない朝。

東京のとある区との狭間に位置する音ノ木坂と呼ばれる土地の一角。

そこに住む一世帯の長女、高坂穂乃果は今日も厨房で汗を流す。



「どうかな、お父さん」



父はその問いかけには一切答えない。

無口な父の下で和菓子づくりの修行を初めてはや数年。

いまだに「うまい」の一言も出たことはない。

穂乃果はまたダメか、と肩を落とした。

穂乃果は本来ならば学生の身分である。

日課である修行を終えるとすぐさま制服に着替え家を出るのだ。

彼女の通う音ノ木坂学院は歴史ある女学院であり、地元では知らぬ者はない有名校であった。

というのも、この時代に女子高というものは非常に珍しくあった。

ただでさえ教育の普及していないなか、唯一であったかもしれない。

穂乃果は自分がそんな学院の生徒であることが誇らしかった。



「おはよう穂乃果。今日はどうだった?」

「全然。私いつになったら認めてもらえるんだろう」



開口一番、事情を知ったように近況を尋ねるこの少女は名をヒデコと言った。

傍らにはいつものようにフミコ、ミカもいる。

このものたちは穂乃果にとってこの学校内で一番仲の良い友人であった。

これまた日課のようであるが、穂乃果は和菓子づくりの愚痴をこの三人にたれる。

それをいつも笑って聞いてくれる彼女たちが、穂乃果には救いであった。

勤勉もそこそこ、下校時刻を知らせる鐘が鳴ると穂乃果はすぐさま学び舎を離れる。

和菓子職人の見習いである彼女には店番という仕事が課せられているのだ。



「ただいま」

「あらおかえり穂乃果。じゃああとはよろしくね」



母と店番を代わり、商品の陳列する棚の手奥に佇む穂乃果。

母よりも自分が店番をしているときのほうが売上がいいのは誰にも秘密だ。

それでも、特に今日は客が少なかった。

店番をする若い少女は次第に集中を切らし、ぼんやりと商品を眺め始める。

そういえば帰ってから何も食べていなかった。

穂乃果は食い入るように和菓子を見つめた。



「あれ、これって」



そうしてようやく気がついた。いつもとは違う棚の並びに。

そう。それは今朝自分がつくった饅頭であった。

無口な父が、どうやら私の饅頭を商品として認めてくれたらいい。

穂乃果はそこが営業中の店であることを忘れて歓喜した。



「わーい! やったやった。ついにやったぞ!」

「いったい、何をやったというのですか。お嬢さん」

「あ……申し訳ありません」



客がいたことを思い出し、急に恥ずかしくなった穂乃果は粗相を詫びると押し黙った。



「恥ずことはありません。何か良いことがあったのでしょう? ぜひ私目に教えては頂けませんか」



そのものは落ち着いた口調で、穏やかな笑みを浮かべて、少女に語りかけた。

そのときから既に、その少女はこのものに対して何か特別なものを抱いていたのかもしれない。



「実は、そこに並んでいるお饅頭、私がつくったんです。

あ、私、まだまだ見習いでして。自分のつくったものが並ぶのは今日が初めてなんです」

「なるほど。それはめでたい」

「ありがとうございます」

「では、私があなたの和菓子を買った最初の客となりましょう」

「え、でも、見習いの作った饅頭ですよ」

「構いませんとも。商品であることには違いありませんとも」

そうして饅頭を手に取り銭を差し出したそのものはその場でその饅頭を頬張り始めた。

「あ、えっと……」



穂乃果はなぜだか恥ずかしくて仕方がなくなった。

まるで自分の裸を見られているような気分だった。

自分が店員で、相手が客でなければ、やめてくれと言いたいほどだった。



「ふむ。これはなかなか」

「あ、ありがとうございます……」



やっとのことで声を絞り出しお礼済ませると、穂乃果は顔を覆って後ろを向いてしまった。



「なにを。こちらを向いてください。自信を持ちなさい。この饅頭を絶品だった」

「本当に?」

「本当に」



またしても穏やかに笑うそのものは、正真正銘自分の初めての客である。

穂乃果はそのものの名前が知りたくなった。



「私、高坂穂乃果と言います。この店の長女で、跡取りです。

あなたのお名前を訪ねてもよろしいでしょうか」

「私の名は園田海未。ある武家の血筋の、あなた同様跡取りです」




つづく。

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