男「素人なりに考えた消費税増税についての話」 (45)

■諸注意
※一市民の純粋に個人的な意見に基づくSSです。

※この文を書いた人間は現政府による消費税増税の方針に賛同しています。

※特定の個人・国家・団体を貶めたり、また賞賛する意図はありません。

※この文を書いた人間が特定の政治団体と利害を伴う関係を持った事は一度もありません。

※この文を書いた人間は本SSの主題について専門教育を受けた訳ではありません。
 間違いとかいっぱいあると思うので先に謝ります。ごめんなさい。

※作者の意見・嗜好を反映した独りよがりでキモチワルイ感じの進行となっている可能性があります。
 また、政治の要素が多分に含まれます。
 そういった傾向の作品に嫌悪感を覚える方は閲覧をご遠慮いただいた方が良いかもしれません。

※凄く長くなります。

SSWiki : http://ss.vip2ch.com/jmp/1431229592

■話のまくら。

女「消費税、上がっちゃってるね」

男「とりあえず10%にする、って政府は言ってるよ」

女「嫌だね。なんで税金なんてあるんだろう」

男「税金が無かったら道路も水道も使えなくなるし、泥棒に入られても自分で犯人を捜さないといけなくなるからね」

女「でも、こんな立て続けに消費税を上げる事はないじゃん。
  もーきっとあれだよ。政府は可哀そうな貧乏人や善良な一般市民を苛めたいから税金を上げてるんだよ。
  それでお金持ちだけ得をする仕組みを作って、政府とその仲間で山分けしてウッハウハなんだよ。酒池肉林だよ」

男「なるほど。ま、そりゃあ、誰だってお金が減るのは嫌だからね。政府がお金を搾り取る極悪人に見えるのは当然だね」

男「でも、少し考えてほしいんだけど、政府を運営する人って、どうやって選ばれるんだっけ?」

女「君、私の事馬鹿にしてる? 選挙に決まってるじゃん」

男「その通り。で、選挙権を持っている人の大多数は、『可哀そうな貧乏人』や『善良な一般市民』だよね」

女「……まあ、そうなのかな」

男「それじゃあ、『可哀そうな貧乏人』や『善良な一般市民』を苛めて、『お金持ちだけ優遇』すると、どうなる?」

女「次の選挙で落選する」

男「うん。だから、もし本当に政府が『自分とその仲間の事しか考えない』連中なら、消費税なんて上げる訳がないよね」

女「うーん……」

男「でも、政府は一年半後に消費税を増やすと言い、その判断の是非を問うために選挙をすると言っている。なぜだろう」

女「知らないよ、そんなの」

男「消費税を増やす理由。それはつまり、『自分の首を自分で締める』リスクを背負ってでもやらなきゃいけない事だと、
  政府が思ってるからじゃないかな」

女「消費税を上げる理由? 思いつかないけど」

男「誤解しちゃいけないけど、消費税増税って、目的じゃなくて手段だよね。
  増税したらはい終わり、じゃない。そのお金を『目的』の達成に使わなきゃならない」

男「じゃあ、消費税を上げることによって達成するべき目的はなんだろう?」

女「知らないって……というか、話振った私が言うのもなんだけどさ。この話、まだ続けるの? すごく面倒くさそう」

男「続けるよ。だってそういうSSだから」

女「メタ発言禁止」

■問題ある? ない?

男「さて、簡単に言うと、税金を増やすのは国の借金を返すためだ。
  政府は国の借金が問題だと思っていて、だから早く返さないといけないと思ってる」

女「えー? でもよくネットとかで『日本の借金は問題のない借金だ』って言われたりしてるじゃん」

男「確かに、そういう話はよく聞くね」

女「ならやっぱり増税する必要はないんじゃない?」

男「んー……」

男「確かに、今はまだ大丈夫かもしれない」

男「けれどもいつか、大丈夫じゃなくなる」

男「そして、その『いつか』が来た時は全部が手遅れになっている」

男「だから、『いつか』が来る前にどうにかしようっていうのが税金を上げようと思っている人たちの考え。
  僕もどちらかと言えば、その考えに賛成する」
 
女「何それ。国に苛められたいってこと?君って実はマゾだったの?」
 
男「心外だなぁ……じゃあさ、ボクのマゾ疑惑を晴らすためにも説明させて欲しいんだけど。僕の知ってる範囲の話」

女「いいよ」

男「あっさりだね」

女「だってそういうSSなんでしょ?」

男「メタ発言禁止」

■そもそも、「日本の借金は問題のない借金」理論の根拠ってなんだ。

男「ニュースで耳にタコが出来るほど言われてるから知ってると思うけど、今の日本の財政収支は真っ赤っかだ。
  国の収入――要するに税金――より、国の支出の方が圧倒的に多い」

女「火の車だね」

男「で、足りない分はどうするかというと、借金で賄っている。
  国がする借金は、国債と言う。厳密に言えば他にも借金の形はあるけど、大方は国債だ」

女「国民一人あたりの借金がうん百万、とかのやつでしょ」

男「そう、それ。で、2014年の3月末時点で日本の借金総額はだいたい1025兆円。
  これは日本のGDP(≒日本が日本国内に持っている全資産)のざっくり2.5倍から3倍だ」

女「つまり、もし今すぐ日本が自分の家にあるモノをを全部うっぱらってお金を作って、
  その全部を借金の返済に充てても、まだ500兆円以上の借金が残るわけね」

男「実際には対外純資産なんかもあるからそう単純じゃないんだけど……ま、大まかにはそういうことだね」

男「さて、突然だけど、一つ質問。仮に、君が金貸しだったとしよう」

女「シャイロックみたいな?」

男「スクルージでもいい。とにかく君は金貸しだ」

男「さて、君の事務所に一人の男がやってきた」

女「ようこそいらっしゃいました」

男「男は金を貸してほしいという。君はまっとうな金貸しなので、男に返済能力があるかを確認する」

女「そりゃ当然だね」

男「男はこう答える。『年収は300万円ですが、支出は600万円です。足りない300万円は借金で補っています。
  ここ十数年ずっと収入より支出が多いので、借金で補ってきました。その未返済分が累計で数千万円あります。
  今回の借金も大半は借り換えに使うつもりです。今のところ元本返済のあてはありません』。さて、君はどう答える?」

女「お帰り下さい」

男「当然、そうなるだろうね。という訳で、男はまっとうな金貸しから金を借りる事が出来ない。君は男の将来をどう想像する?」

女「怪しい高翌利の闇金融から借金をするとか、自己破産するとか、首を吊るとか」

男「ま、そんなとこだろう」



男「さて、さっきの男は今の日本だ」

男「つまり、君の理論で言うと日本はとっくに高翌利貸に手をだし、首が回らなくなり、
  借金を返せず、破産して首を吊ってる必要がある」

女「……でも私、割と普通に暮らしてるよ?」

男「そう、その通り。日本は破滅していない。少なくとも、今のところ」

男「とても不思議な事に、日本は順調にお金が借りられているし、金利も物凄く低い」

男「つまり、金貸しはまだ『お帰り下さい』と言わない程度に日本を信用している」

女「なんで?」

男「この理由は、言い換えればまさしく『日本の借金は問題ない借金だ理論』の根拠にもなるんだけど」

男「端的に言えば日本の借金の9割が『家庭内借金』だから、とされている。
  つまり、日本の借金の権利は殆ど日本人が持ってるから大丈夫、ってこと」

女「……?」

男「例えば、日本の人口が突然一人になってしまったと仮定してみる」

男「その人は日本という国の財産も、日本という国の借金も、全部背負う事になる」

男「仮に過去の日本政府が1000兆円の国債を発行し、その全てを日本国内で消化していたとするなら、
  その『日本人』は日本国政府として1000兆円と利子分の金を払う義務があり、
  同時に日本国民として1000兆円と利子分の金を受け取る権利があるわけだ」

男「では、借金の返済期限が来た時に何が起こるか」

女「……何も起きない?」

男「正解。債務と債権は相殺され、『日本人』は借金を貸しても借りてもいない状態になるだけ」

男「つまり、日本国内で借金を回している限り、日本としては損も得もしないんだ。そういう意味で、『日本』の借金残高はゼロに近い」

■いきなり増税の理由がなくなってしまったけれど。

女「それじゃあ無理して借金を返すために増税する必要、ないじゃん」

男「確かに、その通り。今は」

女「今は」

男「そう。いつか必ず、家庭内借金が家庭内借金で済まなくなる時が来る。
  その時、どんな事がおこるだろうか」

女「借金をやめて身の丈に合った生活をする」

男「それが出来れば理想的だけど、今ある借金の返済も出来なくなって債務不履行になっちゃうだろうね。
  お金を返せない借金まみれの男がどんな末路を辿るかは、さっき話したと思う」

女「じゃあ、日本の国内で借金を賄えなくなったんだから、国外に頼る?」

男「順当だね。けれどもさ、外国の金貸しから見て日本がどんな奴かと言うと……」

女「年収300万円で支出は600万円。足りない300万円は借金で補てん。ここ十年くらいずっと収入より支出が多いので、借金で補ってきた。
  その未返済分が累計で数千万円。今回の借金も大半は未返済分の補てんに使うつもり、その上ついに家族から見放された憐れな男」

男「うん。つまり、『お帰り下さい』だ。そのあとは?」

女「怪しい高翌利の闇金融から借金をするとか、自己破産するとか、首を吊るとか」

男「そういうこと」

■家庭内借金が出来なくなる理由その1
 入ってくるお金のほうが多い時。

女「んー……。でもさ、今まで家庭内借金で間に合ってたんでしょ。
  ならこれからも家庭内借金で間に合わせられないの?」

男「そりゃ、今までどおりがいつまでも続けば一番いいけど」

女「……出来なくなるかもしれないって?」

男「察しが良くて助かる。ま、色々あるけど一例として。たとえば経常収支」

「経常収支とっていうのは、ものすごく単純に言うと『日本と日本国外の間で出入りする富の差額』だ。
 経常黒字なら、日本から海外に出ていく富の方が多い。経常赤字なら、海外から日本へ入ってくる富の方が多い」

男「もう少し突っ込んでいうと、
  経常黒字は『日本国内で生み出したお金の量が、日本国内が必要としている量より多いから、余った分を海外へ向けている』状態。
  経常赤字は『日本国内で生み出したお金の量が、日本国内が必要としている量より少ないから、足らない分を海外から迎えている』状態。
  ……ここら辺の説明は誤解を承知で物凄く噛み砕いているから、その点予めご承知おき頂きたいところだけど」

男「さて。これまで日本は、一貫して経常黒字を出す国だった。
  けれどここ最近、経常赤字を出し始めている。
  そして、少なくない人が『これからちょくちょく経常赤字が出るかもしれない』と考えている」

男「ここでもう一回、質問。金貸しが金貸しをするために絶対必要のものは?」

女「……お金?」

男「その通り。より正確に言うと、取り急ぎ使う必要のない、余っているお金だ。
  だけど、日本の金貸しの手元から余りのお金が無くなったら?」

女「お金、貸せないね」

男「正解。じゃあ、日本の金貸しの手元から余りのお金が無くなるのって、どんな時?」

女「……?」

男「簡単だよ。たとえば、『日本国内で生み出したお金の量が、日本国内が必要としている量より少ない時』」

女「あ」

男「ちなみに、そんな状態を一言で表すと、なんて言ったっけ」

女「経常赤字」

男「そういうこと」

■家庭内借金が出来なくなる理由その2
 可能性の獣が牙をむく時。

男「ちなみに、今のところ日本が安定して低金利の借金を出来る理由はほかにもある」

女「まだ?」

男「例えば国民性。日本人は貯蓄が好きだ。お金を使いたがらない。だから銀行に預ける」

女「確かに。私なんて500円玉貯金が趣味なところあるし」

男「初めて聞いたよ。まあ、とにかく。そんなわけだから銀行も貯蓄好きの日本人の好みに合わせて、派手に投資はしない」

男「とはいえ、銀行だってお金を金庫にしまったままじゃ商売にならない。それなりの利益は欲しい。
  けれども派手な投資は性に合わない。
  さて困った。どこかに金利が安定していて、今のところ貸し倒れもなさそうで、
  出来れば発行額が大きい、要するに『安定した』債権はないものか」

女「それが国債?」

男「その通り。と、言う訳で彼らの金は国債に集まるし、資金が集まれば金利は上がらない」

男「だけど、もし国債が「安定した債権」でなくなってしまったら?
  いや、そうでなくても『安定した債権じゃなくなってしまうかもしれない』と金貸しが思ったら?」


女「思ったら、って。仮定で物事をすすめちゃいけませんよ」

男「仰る通りなんだけど。金貸しに限ってはそうとも言えない。彼らはリスクと利益を秤にかけるのが商売だからね。
  『かもしれない』ってのは、つまりリスクそのものだ」

男「だからちょっとした兆候、例えば金利が少し上がってしまったり、
  国債の保有比率が海外に偏り始めたり、経常赤字が拡大したり、
  日本の人口が減ってお金の出し手が足りなくなりそうだったり、
  格付け会社が今言ったような諸々を織り込んで国債の格付けを下げたり、
  そういうのが判った途端に彼らは国債を『安定した債権』とみなさなくなるかもしれない」

女「リスクが増えて、利益に見合わなくなるから」

男「君は金貸しの才能があるね。そして当然、才能ある金貸しは利益に見合わない投資なんてしない」

■家庭内借金が出来なくなる理由その3
 信用が思い込みになってしまった時。

男「それと、国債の金利が安定しているもう一つ重要な理由。
 日本はまだ税金を上げられる国だ、と皆が思っているから」

女「うわー。何かすごくやな感じ」

男「僕もそう思う。けど、これもまた金貸しの論理だ」

女「なにそれ」

男「金貸しは、日本の税金が国際的に見てまだまだ低い、と思っている。
  だから、いざという時は税金を少し上げれば大丈夫だろう、と思っている」

女「『税金を上げて、収入が増えれば借金を返す資金が手に入るだろう。だから安心してお金が貸せる』ってわけ?」

男「やっぱり君には金貸しの才能がある」

女「そんな才能いらないよ。まっとうに生きようぜ」

男「いい心がけだね……さて、実際のところ日本はまさに消費税を上げようとしている」

男「でも。もし『税金を上げるな」』という人たちの声に押されて、国が消費税を上げる事を断念したら?
  延期ならまだいい。けど、中止します、という話になったら?」

女「しちゃえしちゃえー」

男「宜しい。まさに君のおかげで、金貸しは思うだろう。『おや? 日本はひょっとして、もう税金を上げられない国なのか?』」

男「こうなると話はだいぶ変わる」

男「今まで投資家は、税収入が将来増やせる事まで計算に入れて日本『信用』していた訳だ
  でも、奴らは『税金が増やせない』と言いだした。ならば当然、日本への『信用』はなくなる」

男「ところで君は、信用の無い相手にお金を貸したいと思うだろうか?」

女「…………いや、まあ。んー」

■家庭内借金が出来なくなる理由その4
 汚物は消毒だ~!! になりそうな時。

男「それと、直接関係ある訳じゃないけど結構重要なこと」

女「司馬遼太郎的な? 『以下、余談であるが』」

男「流石に余談の方が長くなる事はないと思う。
  さて、君も知っている通り、日本のお金は日本銀行という組織が印刷して発行している」

女「学校で習った。でもあれよくわかんないんだけどさ。銀行が勝手にお金を刷っていいの?」
  
男「実際のところ、日本銀行は『銀行』って名乗っているけど、僕らの想像する三井住友や東京三菱UFJみたいな『銀行』とは
  まったく別物。『中央銀行』っていう特殊な組織なんだ」

女「まぎわらしい」

男「三菱鉛筆が旧三菱財閥とは無関係とか、そんなもんだと思えばいいよ」

女「え、うそ。初めて知った。ロゴ同じなのに」

男「話を戻そう。誤解を承知でざっくばらんに言えば、中央銀行は『その国に流通するお金の量を調整する組織』だ。
  で、流通量を調整するための機能として、日本銀行は日本で唯一、お金を刷る権利を与えられている。
  そしてここが重要なんだけど、中央銀行は基本的に政府の指図を受けない。独自に考えてお金を刷る量を調整している」

男「さて。その日本銀行は今、日本の景気を良くするため、日本に流通する現金の量を増やそうとしている」

女「お金をたくさん刷ってるってこと?」

男「まちがい。お金を刷る量は結構厳密に決まってて、そう簡単に増やせない。
  だから、日銀は民間の金融機関が持っている債権――貸したお金を返してもらう権利――を買い取って現金化している」

女「遠回しだなぁ」

男「何でもかんでも最短距離って訳にはいかないよね」

男「さて、ここからが本題。
  日銀が買い取る債権の中には当然国債も含まれているんだけど、
  この行為を、『財政ファイナンス』じゃないかと疑う人たちがいる」

女「おー。なんかカッコイイ響きだね。財政ファイナンス。
  あれでしょ、きっと超エリートな人が『よし、ここで財政ファイナンスだ!ずばーっと!』みたくやるんでしょ」

男「……財政ファイナンスっていうのは、簡単に言えば国の赤字を中央銀行に補てんさせる事。
  例えば政府が発行した国債を、中央銀行へ命令して買わせるのは、典型的な財政ファイナンス。
  さっき『中央銀行は政府の指図を受けない』と言ったけど、そこはそれ、何事にも例外がある」

女「へー。中央銀行をお金の貸し手にする訳だ。あったまいー。それなら借金し放題じゃん」

男「そうだね。でも、世界中のほとんどの国は財政ファイナンスを事実上禁じている」

女「え、なんで?」

男「答えは簡単。財政ファイナンスをした国はほぼ例外なく破滅するから」

女「え」

男「財政ファイナンスから破滅までは凄くわかりやすい一本道だ。
  赤字に困った政府。お金を貸してくれる人がいなくなってしまった。
  仕方ないから中央銀行に助けて貰おう。
  そんなわけで、『国債を買え』と命令された中央銀行。
  命令されたからには買わなきゃいけない。
  とはいえ手元の資金には限りがあるので、すぐに国債を買い支えられなくなる。
  さあ困った。そんな時、君ならどうする?」

女「んっふっふ。閃いた!」

男「どうぞ」

女「中央銀行はお金を刷れるんでしょ。じゃあお金を刷って国債の購入資金を賄えばいい。これで安心、問題ない!」

男「君に日銀総裁の才能はないみたいだね」

女「むう」

男「結論というと、君の案は問題大ありだ。けど、同時にほとんどの中央銀行が行き着く答えでもある」

女「じゃあやっぱり正解じゃん」

男「というより、世の中には間違いと知りながら、それでも物事を進めなきゃいけない時があって、
  その中には『命令されたからお金を刷って国債を買う』っていうのも含まれるって話だね。



男「……と、こんな話をしておいてアレだけど。
  厳密に言うなら今の日銀の国債購入は『財政ファイナンス』じゃないかもしれない。というか、たぶんない。
  国に言われて無理やり買わされてるわけでもないし、お金を余分に刷って買ってるわけでもないし、
  財政赤字の補てんが目的で買い取っている訳でもないから」

女「おいおい」

男「けど、あんまり規模が大きくなると、なし崩し的に財政ファイナンスと同じ状態へ進んでしまう『かもしれない』。
  そうなったら行きつく先は、さっきも言ったように世紀末だ」

男「で、もう一度言うけど金貸しは『かもしれない』を見つけただけで、お金を貸さなくなる。
  日本が世紀末に陥る『かもしれない』なら、その前にさっさと逃げ出すだろうね。
  500円貯金をドルや宝石に変えようとした君みたいに」

男「そもそも財政ファイナンスが行われるのは、政府の財政赤字がのっぴきならない状態になるからだ。
  だから、国は疑いを晴らすために、『財政ファイナンスをしなくても大丈夫』と証明しなければならない。
  そのためには、国の信用を確保する事が必要だ。一番手っ取り早い方法は? 財政赤字を減らす」

女「……だから、増税? んー……んー」

■その5。
 数が減った時。

男「あと、一番わかりやすい理由。人口」

女「少子高翌齢化とかそういうやつ?」

男「うん。簡単な足し算だ。一人一人の収入と支出が変わらないとして、人口が一億の時と5000万の時。
  人に貸す為の『余りのお金』の量が多いのはどっちかって言えば、そりゃ一億の時だよね」

女「つまり、人口が減るっていうのは『財布に入ってくるお金』が減るってことだよね」

男「国民を財布に入ってくるお金扱いとは、ひどい女だね。まあその通りなんだけど」 



男「と、いう訳で。これまで言った五つの『理由』は、どれも悪化こそすれ急激な改善は期待できない。
  政府や僕が『いつか大丈夫じゃなくなる』、と思ってるのは、それが理由」


■法人減税は企業のためならず。

女「……というか、思い出したんだけどさ」

男「はい」

女「仮に税金を上げるとしても、おかしいじゃん。
  国は消費税を上げる代わりに、企業が支払う税金、つまり法人税は減らすと言ってるって聞いたよ?」

男「そうだね」

女「ほーらやっぱり。つまり借金返済とか言いながら、国は金持ちばっかり助けるんだ。
  借金は一般市民の返させて、お金持ちは減税!こりゃあいけないよ君!語るに落ちたね!はい論破!」

男「なるほど。ちなみに、日本の企業って誰が運営しているんだっけ?」

女「え? 誰って……社長?」

男「社長。その部下の従業員。株主。そんな感じかな。ところで、日本の企業の社長ってどこの国の人だろう」

女「え? 日本人じゃないの?」

男「そうだね。例外は当然あるけど、まあ大方は日本人だ。そしてその部下も、そのまた部下も、
  その下の部下や、派遣社員や、バイトやパート。大企業も中小企業も、株式会社も合資会社も、
  従業員数万人の自動車メーカーも、おじさんおばさん息子さんで経営する小さな町工場も。
  日本企業の外国人持ち株比率は今年3月でざっくり3割位だから、株主の70%も日本人だ」

男「日本人ということは、つまり君たちの父親や母親や将来の君自身だ。
  なら、日本の企業が潤うという事は、日本の国民が潤う事じゃないかな。
  君たちの父親や母親や君自身が潤うことじゃないのかな」

男「なのに、なんで法人税を減らす事が『金持ちをもうけさせる行為』なんだろう。
  企業に勤めているのは、君たちの父親や母親や将来の君自身なのに。
  いや、君が金持ちなら別だけど」

女「……ごくごく普通の中産階級です」

男「要するに、あくまで国民への還元方法の違いだと、考えないのはなぜだろう。
  国民が潤えば経済も発展するし、結果として税収入も増える。
  消費税を気にしなくてもいいほど景気が良くなれば万々歳なのに」

女「……でもさ、本当にちゃんと儲けが社員に還元されてるかなんて、信用できないじゃん」

男「もちろん、企業が減税や好景気で潤っても、それが正しく社員に還元されなきゃ意味がない。
  企業が儲けているのに給料が増えなかったり、人を雇わなかったりしたら問題だ。
  ブラック企業なんていうのは言語道断だ」

男「だから今、政府は企業が給料を上げやすくなるよう、人が雇いやすくなるよう、
  企業が従業員を乱暴に扱わないよう、色々と制度を作っている」

男「それなら、国民がするべきは
 『消費税の増税なんて嫌だ!企業から搾り取ればいいじゃないか!俺の金は俺のものだ!』と叫ぶことだろうか。
  むしろ消費税の増税や法人税の減税も含めた国の全体の枠組みを見て、それがきちんと大多数の国民の将来的な利益になるか、
  しっかり監視する事のほうが重要じゃないだろうか」

男「利益になっていないと思ったら、その時こそ声を上げて、こうして欲しいと主張して、国民が潤うように制度を手直ししてもらう。
  そっちのほうがよほど建設的だし有意義じゃなかろうか」

女「……いや、んー、そう、なのか?」

■天秤の重りをどう調整するか。

女「でも、全体の枠組みとか言うならさ。消費税を下げて法人税を上げるのでもいいんじゃないの?」

男「それも一つの方向性ではあるね。じゃあ考えてみよう。法人税を上げて、消費税を下げた場合」

男「消費税を1%上げた場合、現行の税収から単純計算して2兆円の税収増と言われている。諸説あるけどね。
  仮に消費税を無くし、その分の負担を企業に求めるなら、毎年8兆円分の法人税増税だ。
  13年度の法人税が10兆円だか11兆円だかなので、二倍弱の負担になる」

女「企業なら払えるでしょ? いっぱい稼いでるんだし」

男「そうだね。大きな企業なら、払えと言われたら払えるだろうね。
  だから一時的には国が潤うかもしれない。国民一人一人の負担は減るかもしれない」

女「ほら解決」

男「けど、数年経った時にどうなってるだろう。
  企業がずっと高い税金を払い続けられる可能性はどれだけあるだろう」

男「上がった税金の負担に耐えられない中小企業が潰れたり。
  国際競争に晒される大企業が税金の安い国に移動してしまったり。
  企業が潰れたり海外に移動しちゃったら、お給料が出なくなる。仕事がなくなる。その煽りを受けるのは国民の懐だ。
  国民の収入が減れば景気は悪くなる。税収も減る。
  その影響を国はもろに受ける。お金が足りなくなり、借金が増える」

男「足りない分を穴埋めし、借金を返すために、どこからか新たな財源を探さなければいけない。
  ちなみに日本の主な税収入は三つあって、所得税、法人税、そして消費税だ。
  法人税が当てにできなくなったのなら、残りを上げるしかないよね。つまり?」

女「所得税と……消費税」

男「そう。ところで、何で消費税を上げなければいけなくなったんだっけ」

女「消費税を下げたから」

男「と、そうならないためにバランスを取ろうっていうのが、今の日本の考えている税制の枠組み。
  消費税は上げる。けど、その分法人税や他の税を下げる。企業が潤った分を国民に還元する。
  それが趣旨」

女「……なーんか言い訳っつーか、屁理屈じみて聞こえるけどなあ」

男「受け取り方は人それぞれだね」

■各員がその義務を果たすことをどこまで期待するか。

女「でも、税金を上げる前にやることがあるはずでしょ。ほら、政府のやる事って無駄が多いって言うじゃん」

男「それはおっしゃる通り。無駄は頑張って減らす必要があるね。でも、たとえばどんな無駄があるだろう?」

女「公務員。よく仕事しないとか怠け者とか言われてるじゃん。その人たちの給料減らせば結構な金額になるんじゃない?」

男「うん。たしかに君の言った公務員の給料や人数や業務効率には改善が必要な部分も多いと思う。
  でも、公務員の人たちに責任を負わせるだけで、万事解決できるだろうか?」

女「いや、別に責任を負わせるとかじゃなくてさ。適正な金額にしようってだけの話だよ」

男「なるほど。でも、適正ってどういう事だろう。少し考えてみたほうがいいかもしれないよ」

女「あ、なんか屁理屈で丸め込まれるパターンになりそう」

男「屁理屈かどうかは君が判断する事だ。まずは話をさせてほしいな」

女「あーあーきこえなーい」

男「……例えば、ちょっと前に『公務員の人件費は年間60兆円』なんてある政党の国会議員さんが言った。
  当時野党だったこの政党の国会議員さんは、与党の無駄遣いを批判する趣旨で60兆円という数字を出したんだけれども、
  おそらくこの額、いろんな数字を盛りに盛って最大限より更に大きく見積もっている」

女「うわーてきとー」

男「とにかく、そういうちょっと不正確な数字だけど、あえて鵜呑みにしてみよう。
  この給料を、思い切って一律三分の二にカットしてみる。年間22兆円の節約。消費税換算でどれくらいになるかというと、
  11%分。日本の消費税を20%、フランスやドイツとかと同水準にまで上げるのと同じ効果がある」

女「なんだ、問題解決じゃん。税金増やさず借金減らせて三方一両得。はい解決!」

男「でも。いきなり給料の3割減って、公務員は今まで通りの仕事をしてくれるだろうか」

女「もともと仕事してないんだから、問題ないっしょ」

男「本当にそうかな。今の日本の行政サービスの質はそれほど低くないと思うけど。
  基本的に賄賂は取らないし、道路や水道などの公共サービスはよく整備されているし、
  医療も教育制度も基本的には機能している。災害時の対応だってまあ程々に迅速だ。
  世界に誇れる治安の良さや、評価の高い文化財の保護だって、その担い手は公務員だよ」

女「中には働いている人もいるかもしれないけどさ。サボってる奴だっていっぱいいるはずじゃん。そういうのが許せないの」

男「それはどんな組織にも言えるし、人間だから常に完璧とは言えないさ。君だって学校の授業で爆睡した経験、あるでしょ」

女「うるさい」

男「そしてまた、どんな組織や人間もそうであるように、公務員だって給料が出るからこそ真面目に仕事をやる。
  だから、『明日から五十年間給料三分の一カットだけど、仕事の量は変わらないからちょっと増えるからよろしくね』
  なんて言われたら、大なり小なりやる気を削がれるのは不思議じゃないんじゃないかな」

「えー。そんなの知らないよ。税金で食ってるんだから文句言うなって話でしょ」

男「じゃあ仮に君のお父さんが公務員で、家の収入がしっかり三分の二になったら?」

女「公務員給料カット反対! 国家の横暴を許すな! 燃やすぞ!」

男「と、まあ。そんなもんだよね。公務員だって普通の人間だし、家族がいる。
  給料が三分の二に下がれば、モチベーションに影響する。
  燃やすかどうかは別として」

男「そういう訳で、低くなった給料がやる気のない公務員、質の低い公務員を引き寄せれるかもしれない。
  あるいは公務員のなり手が減って、必要な人出が確保できなくなるかもしれない。
  彼らの仕事が水道水を雑菌だらけにし、道路を崩落させ、災害の死者を増やしたとしても、不思議じゃない。
  借金は確かに返さないといけないけど、そのために茶色い水を飲むのは、流石に嫌だよね」

女「なんかさー。いちいち話が極端すぎるっていうかさー」




男「誤解のないようにもう一度言うけど、今の彼らの給与や業務効率が完全に適正な水準かといえば
  絶対にそんなことはないと思うし、借金を返すために、ある程度の痛みは味わってもらわないといけない。
  けれども、少なくとも、日本の公務員は、問答無用で給料の3割を減らさなければいけないほどの怠け者や無能では、ない」


※念のため言っておくと、この文を書いている人間は、安月給で働いている民間企業勤めのサラリーマンです。
 三親等以内の親類縁者にも、近しい友人にも、税金で食ってる人は一人しかいません。
 その一人も、民間委託運営の某公共施設でアルバイトをしてるだけです。
 他に公務員との関わりがある時といったら、住民票を取る時か、免許の更新をするとき位。



■どこまでが無駄なのか。

女「……んー。でもさ。公務員とかは別にしても、まず消費税云々する前に無駄を減らそうって考え方は間違ってないと思うんだけど。
  そんな簡単な事もせずに負担増って言われるのも納得いかないっていうか」

男「その感覚は僕も良く理解できる。必要ないのに使われているお金はあると思うし、探し出して潰さなければいけない」

男「けど。それは『簡単な事』なんだろうか。実際のところ、本当の『無駄』を見分ける事って、結構難しいんじゃないだろうか」

女「簡単でしょ。お金の使い道をチェックして、必要あるかないか誰かが見分ければいいんだから」

男「そうかな。一見無駄とか利権とか言われているものにも、どこかに何がしかの正当性があるもんだよ。
 一概に不必要と断言するのはとても難しい。
 本当になくしていいものなのか、じっくり調べないと後々で大変な事になる。
 一度途切れた紐を結び直すのはとても難しいから」

女「言ってることはわからないでもないんだけどさー、具体性がないよね。煙に巻かれてる気分」

男「じゃあ、実例を挙げようか。切り捨てられた『無駄』が実は『無駄』ではなくて、大変な事になっちゃった話。
  1960年代の英国。『ビーチングの斧』の話」

女「あ、なんか長くなりそう」

男「わかってきたじゃない」

男「さて、舞台はイギリス国鉄。
  彼らはビーチングさんという人に赤字の削減方法を考えてほしいと依頼した。

男「依頼を受けたビーチングさんはイギリス国鉄の状況を調べ、こう結論付けた。
  利用者数の少ない不採算の路線は『無駄』だ。
  無駄』な路線が赤字の原因であり、『無駄』を廃止すれば、採算は改善する。

女「おー、いいじゃん、大胆。それくらいやってもらわないと」

男「もちろん、反対する人も沢山いて、彼らは言った。
 『無駄とされている路線の中には、廃止するべきでないものも多い。一概に判断するのは問題だ』」

女「うわー。昔っからいるんだね、利権屋とか抵抗勢力とか。かーっ、やだやだ」

男「ビーチングさんも、君と同じような事を言った。
  『無駄かどうかの判断は簡単な事だ。間違いはない。抵抗するのは利権者だ』、という訳だね。
  そんな彼の提言を受け入れたイギリス国鉄は、全路線の実に三割以上を『無駄』に分類し廃止した」

女「素晴らしい! そう来なくっちゃ! で、結果は?」

男「大失敗」

女「え」

男「廃止された不採算路線の多くはいわゆる支線だったんだだけど、
  実際のところ、支線は基幹路線への誘導路の役割を担ってたんだ」

男「その誘導路が撤廃され、基幹路線へのアクセスを失った英国民の多くは車の利用へシフト。
  結果、残った路線の採算は支線廃止前よりも大幅に悪化、イギリス国鉄の財政は回復不可能に近い打撃を受けた」

男「そもそも、『無駄』かどうかを判断するのに用いられた指標にも問題があったと言われている。
  ビーチングさんが簡単だと思っていた計算の裏には、表に出てこない隠れた変数が沢山あったんだ」

男「その後の再評価で、『無駄』とされた廃止路線や駅の多くが『やっぱり必要』とされ、
  多額のお金をつぎ込んで再開された。中には英国の鉄道網を支える大幹線に育つ可能性があるのに、
  再建設にお金がかかりすぎるため、未だ再開できていない区間だってある
  廃止路線の対象となっていたけれどいろんな理由で最終的に首の皮一枚繋がった路線の中には、
  現在英国屈指の高採算路線に育っているものもある」

男「結局のところビーチングさんは、夕飯に肉のスープが欲しいからと、
  金の卵を生み出す鶏を縊り殺してしまった訳だね」

女「むぅ、むーーーん……」

「ビーチングの斧が切った紐は、今に至るまで結びなおせていない。
  英国の鉄道網は大陸欧州に比べ、悲しいくらいに貧弱なまま。
  50年前にビーチングさんが下した『無駄』の判断が、50年後の未来を破壊したんだ」

男「さて。それでもやっぱり君は、
  無駄かどうかを判断するのは難しいという主張を、全て言い訳だと思うかな」

女「いやーだからさぁーそーいう極端な例だけ持ち出されてもさー……なんだかなぁー」

男「誤解の無い様にもう一度言うけど、無駄のカットは絶対に必要だ。
  けれど。本当にカットできる無駄は案外多くないし、
  仮にその無駄を全部削減できたって、結局焼け石に水だったり、
  場合によってはかえってお金がかかる」

男「増税幅を減らす理由にはなるかもしれないけど、増税しなくていい理由には、まずならない。
  僕がしたいのは、そういう話」

■結びに向けて。

女「つーかさ!つーかさ!それっぽいこと言ってるけどさ!
  ぶっちゃけ適当な理由をつけて、税金を上げたいだけじゃないの!?」

男「んなわきゃない。税金なんて高いより低い方がいいに決まってる」

女「とてもそーは思えないんだけど!」

男「そもそも、最初も言った通り増税は目的じゃなくて手段だ。
  もし増税をせずに借金を減らせる魔法のような方法があれば、誰だってそっちを選ぶ。
  だから、そんな妙案を君たちの誰かが持っているのなら、是非その実施と消費増税の凍結を公約に政党を旗揚げし、
  国政選挙へうって出てほしい。約束しよう。僕は絶対に君の党へ投票する」

男「でも、残念ながら今のところそんな政党を僕は知らない。だからベストではないけどベター、あるいはワーストではないけどワースだと思って増税の意見に賛成してる」

女「ぐぬぬぬぬ……」

何がしたいの?
まとめられたいの?


女「けどさ、けどさ! 結局そんなのって学者がこねくり回しているだけの空論でしょ? 
  大げさに騒ぎ立てているだけで、実際事が起こったら問題ないなんてよくある話だし!」

男「それはその通り。未来は誰にもわからない。大丈夫かもしれないし、大丈夫じゃないかもしれない。
  可能性は五分五分だ」

男「だから、博打に負けて結局大丈夫じゃなかったとき。黙って破滅を受け入れて、
  『自分が選んだ道なんだから仕方ない。どんなに辛くたって耐えよう』と言えるなら。
  つらい現実に耐えられなくてヒィヒィ泣いて、
  『おまえのせいだ!あの時おまえが対策しなかったからこうなった!俺は悪くない!おまえが悪い!責任を取れ!』
  なんて絶対言わないと約束できるなら、負担は受け入れないで良い。
  単に、僕や政府は、そんな最高に男らしい度胸を持ち合わせていないというだけの話」

女「……なんか、そういう言い方、ずるい」

男「でも、そんなもんでしょ」

■最後に。

女「……でもさー! 財政赤字って結局のところ、年寄りたちがこさえた借金っしょ!?
  その借金を俺たちの税金で賄うのは、納得できないし、ずるいじゃんか!!」

男「まったく、本当に、その通り。君は正しい」

女「ほらまた屁理屈……え?」

男「この点について、日本政府や老人たちは、若者にはっきり謝罪をしなければならないと僕は思ってる。
  連中はいつか問題が起きると知っていて、それでも、負担を背負いたくなかったから、
  いろんなことから目をそむけてきた。
  まだいいやと、俺が背負わなくても、誰かが背負うだろうと言って問題を先送りにしていた」

男「そして今彼らは、先送りした負担の担い手が間違いなく受けられないだろう待遇を
  当たり前のように受けている。
 もう一度言うけど、責任は連中にあるんだ」

女「な、なに。妙に物分り良いじゃん。そーだよ、私らには責任ないんだからさ、私らが苦労する必要は……」

男「でも。じゃあ、僕たちもそれでいいのだろうか。
  君たちがずるいという老人たちと同じことを、君たちもするつもりなのだろうか」

女「え」

男「増税に反対するという事は、負担を先送りする事だ。
  もしそうなら、君たちに連中を批判する資格はない。
  だって、君たちは連中の仲間入りをするんだから」

女「それは……」

男「君たちは君たちの子供に批判され、後ろ指をさされ、石を投げつけられ、大悪人だとなじられ、
  卑怯者で自分勝手だと罵られなければいけないし、それを黙って受け入れなければならない。
  今、君が老人たちにそうしているように。違うかい?」

女「……違うかどうかと言われたら、まあ、その」

男「これから、税金の負担は増えるだろう。今の老人たちのように堕落した生活は出来ないだろう。
  でも、少し頑張れば、僕の世代でこの苦労を終わらせることが出来る」

男「勿論、すり傷を受けたり、筋肉痛でつらい思いをすることもあるだろう。
  けど、今それをしなければ、将来、君や君の子供が腕を切り落としたり、目玉をくりぬく必要があるかもしれない」

男「だから。そうならないために、少し頑張って、体に傷を付けてもいいんじゃないか。
  そして、その傷を他の世代に見せつけたっていいんじゃないだろうか」

男「子供には『君たちの未来の為に、俺たちが頑張った証だ』と自慢をし、尊敬されてもいいんじゃないか。
  老人には『怠け者のお前たちがしなかった事を、俺たちがした証拠だ』と突きつけ、反省させてもいいんじゃないか。
  それが、僕たちのするべき事じゃなかろうか」

女「……もう、よくわかんないや」

男「うん。正直僕も、よくわかってない部分は沢山ある。勘違いしていることも多いと思う」

男「だけどさ。脊髄反射で良い悪いを論じたり、犯人捜しをするよりはなんぼかマシじゃないかな。
  まずは落ち着いて、きちんと冷静に調べて。何が一番自分たちにとって良いのか考えて。
  それから、建設的な議論をしていこうよ」

男「っていう、僕の意見」

>>33
最初は特に投稿するつもりも無く、
自分なりに考えたことを文字に起して整理していたのですが、
どうせなら自分以外の人とも意見交換をしたいと思い、
こういった形で投稿して見ました。ご不快に思われたのであればごめんなさい。

以上です。HTML化の依頼をしてきます。

このSSまとめへのコメント

このSSまとめにはまだコメントがありません

名前:
コメント:


未完結のSSにコメントをする時は、まだSSの更新がある可能性を考慮してコメントしてください

ScrollBottom