P「伊織とあずささんと旅行に行くだけのお話」 (18)


P「旅は良い……俺は車窓の外を流れる景色が好きなんだ。見慣れぬ街、見慣れぬ山々、見慣れぬ田園風景が次々と車窓を横切り後方へと消えて行く。徐々に傾く太陽が刻々と違った風景を映し出す……そんな光景が大好きなんだ」

あずさ「のどかな風景ですねぇ……」

P「そうでしょう、あずささん」

伊織「悦に入ってるところ悪いんだけどね、ちょっと聞いて良いかしら?ほんの些細なことなんだけど」

P「んー、何だ伊織。俺は今、この旅情溢れる車窓の風景を目に焼き付けているところだ。何が不満だ?隣にはあずささん、目の前には伊織、そして窓の外には無限に広がるかのような山々が」

伊織「そんな事聞いてんじゃないわよ!私が、今、あんたの口から聞きたいのは、ここは一体どこだって事!!」


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P「……伊織、今は車窓の外の風景を楽しもうじゃないか」

伊織「出来るわけ無いでしょ!大体なんであんたが付いていながらこんな訳のわからない田舎の鈍行列車でたっぷり3時間も揺られてるのよ!!!」

P「……旅はいいねぇ。そうは思わないかい?水瀬伊織クン」

あずさ「ごめんなさい、伊織ちゃん……」

伊織「……もうね、今更驚かないけれどもね、あのねぇ……もう、いいわ」

P「……ここ、どこなんだろうなぁ」

伊織「……駅に着くわよ、降りてみましょ」



<鹿児島中央駅>

伊織「鹿児島……って鹿児島ぁ?!九州の端の端じゃない!」

あずさ「まぁ。国内だったのねぇ」

伊織「これで国外に出てたらたまるもんですか……だとしても、鹿児島って……」

P「おお、鹿児島かぁ。いいなぁ、美味しい海産物、芋焼酎、さつま揚げ」

伊織「そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!どうすんのよ!今日は横浜で撮影の予定でしょ」

あずさ「まあ、そうだったのねぇ」

伊織「……」

P「あ、今回はだな、飛鷹削減のために俺がカメラマンだ。スタイリストはあずささん、メイクもあずささん」

伊織「あずさのメイクはどうすんの」

あずさ「あっ、伊織ちゃん。私だって大人なんですから、そのくらい自分で出来ますよー」

伊織「そういう問題じゃないわよ!」

P「まあ、そういうわけでな。ほら」スチャッ

伊織「ハンディカム?!ハンディカムで仮にも地方局とはいえテレビ局の番組を作ろうとしてるの?!アンタ馬鹿じゃないの!」

P「大丈夫大丈夫。世の中そういう番組が無いわけじゃないから」

伊織「どこの馬鹿よ!つれてきなさい!」

あずさ「まあまあ伊織ちゃん。折角ここまで来たんだから、楽しまなくっちゃ」

P「幸い向こうのディレクターさんには話がついたから、今回は大隅半島一周旅行と言う事で」

伊織「……もういいわ、好きにすれば良いじゃない」

P「よーし。それじゃあ765ぶらり旅。本日は大隅半島ぐるり一周ということで、張り切っていってみよう!」


東九州自動車道

伊織「で、今どこ向かってんの?」

P「大隅半島だ」

伊織「どこ、そこ」

P「指宿温泉とかがあるのが薩摩半島。大隅半島はその向かい側だ。その更に先端まで行くぞ」

伊織「ふぅん。何かあるの?」

あずさ「あら、日本最南端の佐多岬、内之浦宇宙空間観測所?」

伊織「何それ」

あずさ「ロケットを打ち上げる秘密基地ですって」

伊織「ロケット?ああ、うちでも納入してるわよ。今度種子島から上がるわ」

P「今回行くのはな、最近開発されたばかりの新型ロケットの基地だ」

伊織「そんなところ、いきなり言っても見せてくれないんじゃないの?」

あずさ「伊織ちゃん、ほら、桜島~」

伊織「へぇ、ホントに噴煙上がってるのねぇ」

P「こっからは更に山奥の道になる、しばらくは緑溢れる道だぞ」


志布志港付近
コンビニ駐車場

伊織「ねー、その内之浦って言うのはあとどのくらいかかるの?!」

P「んーあと一時間くらいかなぁ?」

伊織「そんなに?!まだこんな山道を行くの?!」

あずさ「自然がいっぱいですねぇ。私、こういうのどかなところも好きです~」

伊織「あんたは気楽でいいわねぇ、あずさ……志布志市志布志町志布志、ね」

P「うむ。志高くという願いが込められた地名だな」

伊織「ホントに?」

P「いや、適当に言ってみた」

伊織「あんたホンッッとに馬鹿ね……大体ね、カメラを私に持たせて運転してるアンタとあずさを撮ってるっての、ホントどうすんのよ」

P「俺の所は編集で抜いて貰うから」

伊織「あ・た・し・は!!!」

P「大丈夫大丈夫。伊織の可愛い声はばっちり入ってるって」

伊織「声だけじゃ不満よ!」

あずさ「あら……じゃあ伊織ちゃん、私がカメラ、変わりましょうか?」

伊織「アンタが持つとね、すっかり違うところ映してそうなのよね……いいわ、この後幾らでも映してもらうんだからね」

P「よーし、休憩すんだし、行くかぁ」




国道448号線

あずさ「わぁ、ほら見て伊織ちゃん~、綺麗な海よ~」

伊織「さっきから見えてるわよぉ……いつまで続くのー?この山道……」

P「もう少しだ……次のカーブ!」

あずさ「……まあ!」

伊織「……何、あのでっかいパラボラアンテナ」

P「そう、あれが今回の目的地。内之浦宇宙空間観測所だ」

伊織「へえ。でもこんだけ離れてんのに、あんなに大きく見えるのねぇ」

P「さああともうひと踏ん張りだ」

あずさ「のどかな町なんですねぇ」

P「漁村ですからねぇ」

伊織「何か食べてかないの?」

P「さっき食ったじゃないか」

伊織「こんなスーパーアイドルを連れ出して置いて、まさかコンビニのおにぎりで済ませる心算じゃないでしょうねぇ」

P「……」

伊織「心算だったのね……」


内之浦宇宙空間観測所前

伊織「えー、とね、うちのあのバカプロデューサー、今取材許可取りに行ってるわ」

あずさ「入れて貰えるのかしら?」

伊織「ほんとねぇ……」

P「オッケーだってさ!」

伊織「ホントに?」

P「ほら、そこは俺のここだよ、ここ」

伊織「腕よりまずは頭の中を何とかしてほしいわね」

P「きついなぁ。さ、降りた降りた、まずはそこの資料館に行くぞ!」


宇宙科学資料館

P「これはこれは……」

伊織「へー、何かまあ、年季が入っているというか」

あずさ「これは何なのでしょう……」

P「昔のロケットですなぁ、M-3S型かなぁ。うわ!こっちはほら、おおすみの実物大模型ですよ!」

あずさ「ふふっ、プロデューサーさん楽しそうです」

伊織「子供ねぇ……」

P「おおおお!これは!凄い!凄すぎる!」

伊織「ほらー、あんた他にお客さんいないからってはしゃぎ過ぎよー」



内之浦宇宙空間観測所
構内

P「いやぁすまんすまん」

伊織「しっかりしてよね」

あずさ「でも、こんな所にカメラ持って入れるんですねぇ」

P「今はロケットの打ち上げも控えてないし、一般見学ルートだったらいいよという事でした」

伊織「……それにしても、前お父様に連れて行ってもらったロケットの打ち上げ基地って、もっとだだっ広かったわ」

P「へー、どこ行ったんだ?」

伊織「ギアナのクール―」

P「ほう、アリアンか」

伊織「バカンスだっていうからついて行ったらね」

P「いいなぁ。765プロにもそう言う仕事来ないかなぁ」

伊織「公私混同するんじゃないわよ」

P「っと、一度ここから見てみるか……」

あずさ「わぁ……凄いですねぇ、何だか秘密基地見たいです」

伊織「呆れた、こんな所に打ち上げ場作るなんて」

P「いいなぁ……浪漫だなぁ……」

伊織「……ま、綺麗なのは認めるけどね。海も見えるし」

あずさ「……ここからロケットが飛んでいくんですねぇ」

伊織「不思議な感じねぇ」

P「もっと不思議なのはさ、ほら」

あずさ「アンテナが動いてます~」

伊織「大きいわねぇ」

P「32mアンテナ。今、このアンテナの先、数百キロってところを人工衛星が飛んでるんだ」

伊織「……遥か空の彼方、ねぇ」

P「……不思議だなぁ、こうして目を凝らしても見えないのに」

あずさ「……見えない、ですねぇ。私達が目指すトップアイドルって言う目標も、こんな感じなのでしょうか」

伊織「あずさ……」

あずさ「なんて、ちょっと詩的ですか?」

伊織「……安心なさい、あずさ。いつかきっと、ううん、今にロケットみたいに一気に上り詰めてやるんだから」

あずさ「伊織ちゃん……!」

P「良い事言うなぁ、伊織」

伊織「アンタは感心してないで、ちゃんと私達が飛べるようにしなさいよね!」

P「任せとけ」



伊織「という事で内之浦を後にしたわけだけど……ねぇプロデューサー、一つ聞きたかったんだけど」

P「んー」

伊織「今晩、宿、ってどうするの?」

P「……ヤド?」

伊織「ええ、ヤド」

P「……」

あずさ「……あら」

P「そ、そういえばな、ここからさらに走るとだな!温泉があるんだよ!」

伊織「ふぅん……それで誤魔化したつもり?」

P「ナンノコトカナ」


志布志市
蓬の郷

伊織「ふぅん。良い所じゃない」

あずさ「温泉楽しみですねぇ」

P「出たら晩飯でも食べよう。何か定食とかも色々あるみたいだしな」

あずさ「うふふっ、伊織ちゃ~ん、行くわよ~」

伊織「あっ!待ってよあずさ!」




男湯

「そこのおあにょさん。はんはどこからいらっしゃったんじゃっか?」

P「は?えーと東京からです」

「ごわんどか、東京じゃっか。遠くからよく来やったね」

P「はははっ、いや、いいとこですねぇ志布志」


女湯

伊織「あのプロデューサーはよろしくやってるのかしら……それにしても、いい湯だわぁ」

あずさ「そうねぇ……ねえ、伊織ちゃん」

伊織「何、あずさ」

あずさ「……ううん、なんでもない、一緒にがんばりましょうね!」

伊織「……そうね」


食堂

伊織「ふぅん、中々色々あるじゃない!」

あずさ「目移りしちゃいますねぇ」

P「俺うなぎ!うなぎ食べたい!」

伊織「はいはい。じゃあ私はこのお刺身定食で」

あずさ「じゃあ、私も」

P「しかしまあ、どうだ伊織。旅ってのは良いもんだろう?」

伊織「そうねぇ……そうね。偶には、悪くないわね」

P「だろう?」

伊織「しいて言うなら、突然仕事だと思ったら連れ回されるとかそうでなければより良い度になると思うの、ねえプロデューサー」

P「ういっす」

「おまちどうさまですー」

P「おお、来た来た!」

あずさ「流石は鹿児島県、美味しそうですねぇ」

伊織「ん……素材が良いと美味しいわねぇ」

P「いやぁー美味しいなぁ、ここまで来たかいがあったなぁ」

伊織「……で、宿は?」

P「あー、実は……その……なんだ……」

伊織「もう、しょうがないわね……新堂」


新堂「はい、お嬢様」

P「?!!!!!!」

あずさ「まあ?!」

P「い、いつからそこに?!」

新堂「お嬢様から何時お呼びがかかるかと思っていましたが、存外長く待たされました」

伊織「折角だったからね……プロデューサー、あんたねぇ、遠出するなら宿位確保してからになさい」

P「はい……」

伊織「ほら、ご飯食べたら帰るわよ」

新堂「裏手にヘリを待たせてあります。空港にチャーター機が居ますので、本日中には東京に戻れます」

伊織「ありがと、新堂」

P「そうか、これなら遠くのロケでも宿なしで行けるのか」

伊織「馬鹿!そんな訳無いでしょう!……ま、楽しかったわよ、ありがと」

あずさ「私も楽しかったです~」



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伊織「というのが1ヶ月前、まさか本当にオンエアされるとは……しかも私が殆ど映ってないし!下手したら新堂の方が映ってるじゃないの!」

あずさ「あらあら……」

P「伊織!何かこの前の放映で向こうのディレクターが、伊織をカメラマンにしていろんな秘境に向かわせるとか言う企画を思いついたらしい、チャンスだぞ!」

伊織「あー!もう知らない!」





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