大原みちる「おおはらベーカリーのパンですよ!」【モバマス】 (13)


※モバマス 大原みちるのSSです。

※大原みちる おおはらベーカリーの看板娘
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●01 【されどパンなくして人は生くものにあらず】

みちる「フゴフゴ、モキュモキュッ!」

ちひろ「…………」

みちる「ザクザク、パリパリパリッ!」

ちひろ「…………」

みちる「んぐんぐんぐ……ごっくん! ふー、レッスンのあとのパンは格別ですね!」



ちひろ「みちるちゃん……そのパン、一人で全部食べるの?」

みちる「そうですね! あ、でもちひろさん、お腹空いてませんか?
    空いてるなら、おひとついかがでしょう!」

ちひろ(お昼、食べたはずなんだけど、みちるちゃんが食べてるのを見ると、お腹が減ってくる気が……)



蘭子「や……やみに、のまれよ……」

ちひろ「蘭子ちゃん、お疲れ様――なんだか元気無さそうだけど、どうかしたの?」

蘭子「闇の力が……浅ましき我がはらわたに食われて、枯渇しているのだ……」

みちる「あ、蘭子ちゃんお疲れ!」



蘭子「っ! そ、其れは……メシアより頒(わか)たれた聖体……!?」

みちる「……? これは、おおはらベーカリー謹製のパンだよ。おいしいよ!」

蘭子「…………」

みちる「蘭子ちゃん! さっきちひろさんにも聞いたんだけど、お腹空いてない?
    もし空いてたら、おひとついかが?」

蘭子「…………うっ」

ちひろ(あ、熊本弁がイマイチ通じてなくて蘭子ちゃん凹んでる……)




蘭子「き、気遣いは無用だ……我は、聖餅に与(あずか)れぬ身ゆえ……」

みちる「バリっバリっ、んぐんぐ――えっ、食べないの? 蘭子ちゃんもレッスン上がりだよね?
    レッスンで疲れた体には、栄養補給が必要だと思うな!」

ちひろ(蘭子ちゃん、本当は食べたいんだろうに……通じてないから、意地になってるのかな?)



みちる「ホラ、事務所のレンジで軽くあっためたら、やさしくてあまいニオイがするでしょ?」

蘭子「わ……我は堕天使っ! パンのみにて生くるにあらず!」

ちひろ(堕天使が聖書の言葉を引用していいんでしょうかねぇ……)

みちる「外はサクサク、中はもちもちだぞー。おーいしーぞー? ほらほらっ!」

蘭子「しっ……鎮まれ! 鎮まれ我がはらわたぁああっ!」



ちひろ(このすぐあと、蘭子ちゃんは食欲に屈しました)




●02 【一緒にパンを食べる人】

かな子「はうぅうっ! こ、この芳しい小麦の香りは……っ!」

ちひろ「かな子ちゃん、お疲れ様」

蘭子「ククク……我が魂が、芳醇なる糧で満たされていくわ!」



みちる「あ、かな子さんお疲れ様です! お一ついかがですか?」

かな子「んぐううっ……! たいへん、その、ありがたい申し出なんだけど、その、あの……」

ちひろ(ああ、トレーナーさんに体を絞るように言われて、節制中なのかな?)



みちる「あ、惣菜パンだけじゃないですよ! 甘いのも持ってきてるんですよ?」

蘭子「もふっ、もふもふ、もふっ……ごくんっ。嗚呼……至福なる哉……っ!」

かな子「ああうううっ……! ふあ、あっ、ううぅうー……っ!」

ちひろ(無垢は、時として悪意より残酷ね……)



みちる「そういえば、かな子さん知ってます? あたし、お父さんから教えてもらったんですけど……」

かな子「……な、なにかな?」



みちる「英語で、一緒に(com)パンを食べる人(pany)……って書くと――」

みちる「――仲間(company)って読むんですよ! さぁ、仲間になりませんか?」

蘭子「我ら、盟約の聖餅を掲げんっ!」



かな子「……あっ、わ、わたし……なかまっ、仲間になるっ!」



ちひろ(後日、案の定かな子ちゃんはトレーナーさんから地獄の特別レッスン行きを言い渡されたそうです)



蘭子「七つの大罪の一角を犯し、囚われたるか……哀れな」

かな子「な、何で私だけ……」

みちる「あたし、食べても全然太らないんです! 不思議ですね、あははー!」

かな子「そんなぁ、二人とも……仲間だと思ってたのにぃぃぃ……っ」


●03 【幸せにしてみせます! パンで!】

みちる「はぐっ! モグモグ、ごっくん! はーっ、今日もパンがおいしくて幸せですっ」

泰葉「みちるさんは、おうちがパン屋さんやってるんですよね?」

みちる「はいっ! あたし、小さい頃からうちのパンでここまで育ってます!」

泰葉「自分で、パンを焼いたりもするんですか?」

みちる「そうですね! あたしも練習させてもらって……
    あたし、パンが好きだから、やっぱり自分でもおいしいパンを焼けたらな、って思って」



泰葉「みちるさんは……パン屋さんになろう、とは思わなかったんですか?」

みちる「フゴッ!? んぐぐぐっ、もぐもぐっ――ごくんっ!
    あ、いや、その……今は、訳あってアイドルやってるっていいますか……」

泰葉「訳、ですか。私は、正直芸能界に入った時のこともあまり覚えていないのですが……」

泰葉「よろしければ、その訳というのを聞かせていただけませんか?」

みちる(や、泰葉さんの真剣な眼差し……まさかここで、あたしが売り物のパンを食べ過ぎて、
    お店に出るなと言われたところをスカウトされたから、なんて言えない……)



みちる「……これを」

泰葉「これは……パン、ですよね。おうちのパンでしょうか?」

みちる「まっ、まずはこれ食べてみてくださいっ……あ、もしダイエット中とか、そういう事情があるなら、ムリにとは言いませんが……」

泰葉「そうですか。それでは遠慮無く、いただきます……もふっ、もふもふっ」

みちる(……泰葉さんがパン食べてる間に、何かそれらしい理由を考えなきゃ……っ!)



泰葉「ふーっ……ごちそうさまでした。とってもおいしかったですよ。
   こんなにおいしいなら、皆さんが分けてもらいたがるのも当然ですね」

みちる「お、お褒めにあずかり恐縮です……お父さんに教えたら、きっと喜びます」

泰葉「それで、みちるさんはどうしてアイドルに?」

みちる「それは、その、あの……」



みちる「ぱ、パン屋さんとアイドルには、一つ、大事な共通点があるんです……」

泰葉「……? その、心は……」

みちる「……どちらも、人を喜ばせる仕事だってことです!」

みちる「パン屋さんもアイドルも、仕事として大事なところに変わりはないと思いますっ!」

みちる「だからあたしは、パンが一番好きだけど、アイドル頑張ってます!」

泰葉「…………っ!」

みちる(う、う……納得、してくれたかな……?)



泰葉「……みちるさん」

みちる「は、はいっ!?」

泰葉「もしよろしければ、なんですけど……今度、パン作りを手伝わせていただけませんか?」

みちる「え? か、構いませんけど……けっこうな力仕事で、時間もかかりますよ?」

泰葉「私は……今まで、芸能界が、ほかの業界と違う特殊なところだと思っていました……けれど、
   今あなたが仰られた『仕事として大事なところに変わりはない』……まさしく、そうだと思います!」

みちる(な、なんか苦し紛れ言ったらすごく感銘受けちゃってるー!?)

●04 【ライ麦パン その1】

美波「あの、みちるちゃん。ちょっと、相談に乗って欲しいことがあるの……」

みちる(み、美波さんが相談……? な、なんだろ……)

美波「パンのことで、ちょっと教えてほしいことが――」

みちる「はいっ! パンのことなら! おおはらベーカリーにお任せあれっ!」



みちる「――ロシアの黒パン、ですか」

美波「ええ……アーニャから、昔お父さんが黒パンを切って食べさせてくれた、って思い出話を聞いたの。
   私たち、仕事が忙しいから、なかなか家族に会えないけど……」

みちる「せめて、家族の味だけでも食べさせてあげたい、ってことですか」

みちる「日本でも黒パン売ってますけど、お父さんがあれは日本人向けだって言ってました。
    それならいっそ、あたしたちでアーニャちゃんの思い出の味を再現しちゃいましょう!」



みちる「……しかし、アーニャちゃんのお父さんって、ロシアのどのあたりの出身なんでしょう?
    ロシアって、確かものすごく広いですよね。きっと、パンもいろいろありますよ」

美波「……そういえば、そこまでは聞いてなかったわ。
   サンクト・ペテルブルグもウラジオストクも、同じロシアだし……」

みちる「ロシアといったらライ麦ですけど、大麦やオート麦って可能性も……」

美波「うーん……どうやって作ればいいのかしら……」



泰葉「話は聞かせてもらいました!」

美波「わっ!? や、泰葉ちゃん……」(どこから出てきたの……?)

みなみ「ああ、美波さん……最近、泰葉さんがパン作りにハマってて、
    あたしも、よく手伝ってもらってるんです」

泰葉「考えてても仕方ありません。とりあえず、作ってみましょう。
   違うって言われちゃったら、また作りなおせばいいんです!
   最悪、味に気をつければ無駄にはなりませんし」

美波「……そうね。正直、私も本格的なパンを焼いた経験は少ないし……
   練習だと思って、まず一回生地を作って焼きましょうか」


●05 【ライ麦パン その2】

みちる「と――いうわけで、黒パンのなかで一番メジャーっぽいライ麦パンを焼いてみました!」

美波「本当に、小麦粉とぜんぜん色が違うのね……」(事務所にオーブンなんてあったんだ……)

泰葉「レシピだけを頼りに作りましたが……外側がパリっとしてて、いい感じに焼けてます!」

みちる「で、では……実食、と行きましょうか」



みちる「む、む……これは……外は、パリっと焼けてるけど……」

美波「生地が……なかが、にちゃにちゃしてて……」

泰葉「に、ニオイはおいしそうだったのに、口に入れると……」



みちる・美波・泰葉(これ……マズイ……)




アーニャ「ドーブラエ ウートラ! あっ……皆さん……それ、もしかして、黒いパン……?」

美波「あっアーニャ!? おはよう……オーブン、借りて、焼いてたのよ、うふふっ」

アーニャ「このパンは……粉を……どんな混ぜ方、したですか?」

美波「粉? えーと……ああ、配分かしら。rye flour(ライ麦粉)は、3/4ぐらいで、あとは小麦粉よ」

アーニャ「そうですか。じゃあ、しあさってあたりが楽しみです」



みちる・美波・泰葉「……えっ」



アーニャ「黒いパンは、焼きたては食べません。おいしくないです。お腹にも悪いです。
     3日ぐらい、そのまま置いておきます」

みちる「そんな……あたしとしたことが、これに気づかないなんて……っ」

アーニャ「……食べちゃったですか? お、お大事に……」

泰葉「え、それどういう――」



ちひろ「パンを焼いてた3人、全員具合が悪いって聞いたけど……失敗しちゃったの?」

アーニャ「ニェート! 失敗じゃありません……だから、このパン、このままにしておいてください」

ちひろ(そう言って、アーニャちゃんは大きくて黒いパンをキッチンペーパーに包むと、
    その上に「アーニャ」「みなみ」「みちる」「やすは」と書いた付箋を貼っていました)

アーニャ「……私は、ジャム、作りますか。黒いパンは、白パンと違って酸っぱいから、
     ジャムは、甘いのがいいかな……?」

●06 【福井のラ・フォルナリーナ】

フレデリカ「ねーねー、みちるちゃんって、パン屋の娘さんなんだよね?」

みちる「はい! おおはらベーカリーの看板娘なんですよ!」

フレデリカ「へー、じゃあこーゆー話知ってる?」

フレデリカ「昔パリにね、すごいイケメンでアタマが良くて腕前もバツグンの、若い画家がいたんだって。
      で、当然モテにモテたらしいんだけど、その画家の心を射止めたのは、街のパン屋の娘さんだったんだよ!」

みちる「知りませんでしたけど……素敵ですね!」



千夏(……パリに、そんな画家いたかしら? でも、パリ育ちが言ってるんだから……)



フレデリカ「でも、その画家とパン屋の娘は身分が違いすぎて、結ばれないまま……」

みちる「えー!? それじゃダメじゃないですかっ」

フレデリカ「その画家はパン屋の娘さんの肖像画を描いて――確か名前は、ふぉ……ふぉ……フォルラン?」



晴(……セレッソのFWが、どうかしたのか?)



みちる「フォルラン……ですか?」

フレデリカ「そー。絵にそんな名前つけて、死ぬまで手放さなかったそうよ。未練タラタラだねー」



頼子(もしかしてフレちゃんが言ってるのは、パリじゃなくてローマの……)



みちる「つまり、娘さんは画家さんの心を、胃袋ごとパンで掴んじゃったんですね!」

千夏・晴・頼子「それはきっと違う(わ)」



●07 【涙とともに食べるパン】

かな子「うう……かな子は、もう動けません……」

蘭子「地獄よりの生還者……」



みちる「あ! かな子さん、蘭子ちゃん、お疲れ様です!」

蘭子「その香りは……! フォルナリーナよ、闇に飲まれよ!」

かな子「お……お、つ、おつかれ……」



かな子「私さ……この間のことで、自分が心底情けなくなっちゃったんだ……」

かな子「私は……小麦の誘惑に対して弱すぎるんだ……」

かな子「それは自業自得なのに、みちるちゃんや蘭子ちゃんに当たっちゃって……あーあ……」

蘭子「地獄で負った爪痕が、まだ癒えぬか……」



みちる「……かな子さん。パンにまつわる、こういう話があるんです」

みちる「パンに使う麦は、小麦もライ麦も、厳しいヨーロッパの冬の夜に育つんです」

みちる「そして、雪の下から緑の芽を吹いて、春になって、冬の寒さに育てられたことを気づくんです」

かな子「……みちるちゃん……」

みちる「おいしいパンを作る麦は、辛い夜を乗り越えて育つんです。だから、アイドルもきっと」

かな子「ううっ、今そんなこと言われたら、私、泣いちゃいそうだよ……」



みちる「ついでなんて……このパンをあげます。ライ麦で作った黒パンです」

みちる「ビタミンとか、ミネラルとか、食物繊維とか、小麦の白パンよりいっぱい入ってて栄養豊富です。
    それでいて(白パンに比べれば)カロリー控えめで、ダイエットの味方ですよ」

かな子「わ……私、食べても、いいの……?」

みちる「……固くてアゴが疲れますけど、よろしければ」



かな子「んぐ、か……カタイ、ね? なんとも言えない酸っぱさも……こんなの初めて。
    でも、なんか今の私には、この食感と味がぴったりくる気がする……」

みちる「よかった……」

蘭子「酸いと甘い……まさしく、人生の味……!」


(おしまい)


読んでくれてどうも

みちるはいつも小麦のかぐわしいにおいを振りまいてて
一部の人を悶絶させてそう

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