【俺ガイル】比企谷八幡は変化を受け入れる (493)

なんでもない日の比企谷家のリビング。
別に興味があるわけではないが、特にすることもないので小町が見ているドラマを俺も横で眺めている。
内容は俺からしてみたらくっだらねぇリア充同士の恋愛がメインで、ジャニーズ上がりらしい主演俳優の気障ったらしさがやたらと鼻につく。
「はぁ~生田目君かっこいいなぁ~。女の子との会話も自然だしさりげない優しさもほんと見とれちゃうよ」
「アホか、そりゃドラマなんだから会話も自然なもんになるだろーがよ」
この兄以外の男に見とれるとかそんなふしだらな妹に育てた覚えはありませんよ。

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「いやいやお兄ちゃん。生田目君はドラマじゃなくたってきっとこんな感じだよたぶん。なんか話題になる女優さんとやたら熱愛発覚とか言われてるし」
「む…まぁそれはそうなのかもな…。そりゃこの顔なら自分に好意を向けてくれるし、自信も持てて自然な会話も優しさも披露出来るんだろーよ」
少しだけ卑屈っぽい言い方になる。く、悔しくなんかないんだからねっ!
「じゃあお兄ちゃんだって出来るんじゃないの?」
何を言ってるのかしらこの子は。難しい比喩とか英語とかは使ってないんだけどな。

「お兄ちゃんは顔だって悪くないし、お兄ちゃんの回りの女の子は小町が見る限りみんな好意向けてくれてるよ?」
ななな何を言ってるんだ本当に。顔が悪くないのは知っている(自称)けど回りの女の子からの好意って…。
あ、あれか。好意といっても恋愛とかそんなんじゃなくて友達としてとか部活メイトとしてのことだよな。それならわかるようん。
慌てて反論が出来ずにいると小町が続けてこう言う。
「お兄ちゃんほんとにわかんないの?昔のトラウマで臆病になってるんだろうけどさぁ…。言っとくけどねお兄ちゃん、今向けてくれてる好意がいつまでも続くものと思ってちゃだめだよ?近づこうとしてるのに振り向いてくれないのって辛いんだからね?」

耳が痛い。なんか胸も痛くなってきた。それと同時に二人の顔が浮かんで消えて、その後さらに別の三人の顔が浮かんで消えていった。その中に戸塚がナチュラルに含まれるあたり俺どうなってんだ。八幡の思考が不安で頭がフットーしちゃうよぉ。
戸塚は置いておいたとしても、本心では自覚のある、自分に好意を向ける女の子は四人いるということなんだろうか。
「好意ってアレだろ?友達としてとかだろどうせ」

「小町の見る限りでは違うけどね~。あんなにわかりやすいのってなかなかないと思うんだけど。いつまで他人の感情から目を背けてるの、そんなんじゃゴミいちゃんだよゴミいちゃん。あとこれはあんまり言いたくないんだけど、たぶん人生最後のモテ期が来てるんだと思うよ…」
おいちょっと待て、最後とか勝手に決めつけないでもらえますか。いや違うそこじゃなくてモテ期?え?あの都市伝説が俺に!?同じ値段でステーキを!?
これまで間違え続けてきたから、きっとあれもこれも勘違いに違いないと自分に言い聞かせてきた。

俺は朴念人ではない。むしろ自意識過剰な面からそういった感情には敏感に反応してしまう。過敏に反応してしまうからこそ理性とトラウマを利用することで抑えつけてきた。
「モテ期…来てる?」
少しだけ自信を持っても、前向きに考えてもいいのだろうか。
「うん、きてるきてる」
棒読みみたいに言うなよ…ただでさえない自信がなくなってくるだろうが。
「からかってんじゃねぇだろうな」
「そんなお兄ちゃんに更なるトラウマを植え付けるようなこと出来ないよ小町は…。もう十分可哀想な目に合ってるよ…」

そうだよねお兄ちゃんの過去は十分可哀想だよね。神様がもしいるならそろそろいい目を見せてくれたっていいよね。そうじゃないなら敵だな。もしくは神は死んだ。
「俺も…俺は変われると思うか?」
「出来ると思うよ、なんたって学園のアイドル小町のお兄ちゃんなんだし☆あ、今の小町的にポイント超高い」
ウインクしながらさらっと言いのける。
さりげなく自分も誉めてんじゃねぇよ。イラッとした。八幡イラッとしたなー今。
けど小町あざとかわいい!アイドルでも仕方ないね!
そう考えると比企谷のDNA的には俺もいけるのではないかという気がしてくる。

「お兄ちゃんに足りないのは自信だけじゃないかな。いや、あとは目が…なんとか出来ないかな…」
「それはなんともならねぇな…親父が悪いんだろうこれは」
知ってましたとも。顔は整ってるけど目のせいで印象が悪いんだってことは。ちくしょう親父Fuc○k!あれこれ伏せれてねぇな。
「眼鏡とかで印象変えれないかな?」
「眼鏡か…。それなら思い当たることがある」
小町はキョトンとしていたが俺はある日の買い物のことを思い出していた。

変われるのか俺は。未だ半信半疑ではある。だが小町のいうモテ期が本当ならこのままじゃもったいなさすぎる気がする。さらに小町の言う最後の、というのが本当なら今何もしないわけにはいかないという気になる。いやほんと最後じゃないですよね?一般的には人生で三回あるって言うじゃないですか…。

翌日。
由比ヶ浜との買い物で雪ノ下のブルーライトカットグラスを買ったときに行った店へ一人で出掛けて、由比ヶ浜が似合うと言ってくれたものを買って帰った。
自分で試着もしてじっくり見たがどうなんだこれは。本当に似合っているのか自信がない。あとお金ももうない。だがこんな出費で自分の何かが変われるのなら安いものだ。

「…どう?」
「………」無言かよ。放送事故だよ。
「なんか言ってくれないと困るんだが…」
小町は呆けたような顔をしているが目はキラキラしているように見える。
「意外だけど似合う…というかかっこいい…」
由比ヶ浜と似たような反応が返ってきて思わず照れ笑いが込み上げる。
「そうなのか、それならよかった。印象変わるのかこれ?」
「うん…まるでお兄ちゃんじゃないみたい…。腐った目が中和?なのかな?ちょっと鋭くて知的な印象に見えるよ。恐るべし眼鏡効果、小町も似合う眼鏡探そうかな…」

眼鏡かけただけで知的って全然知的じゃないけどもうこれは日本人の魂に刷り込まれてるんだろうか。俺も美人女教師は眼鏡あった方がいいと思うし。これは関係ないか?ないな。
「あ、お兄ちゃんちょっと…」
思い出したように小声で俺を呼ぶと壁際に向かって歩いていく。なんで頬を染めてるの小町ちゃん。
「ちょっとこっちきて、小町の顔の横に手をついてみて」
言われていることがよくわからず、言われるままにやってみてようやく気がつく。素直な八幡ちゃんかわいい。こ、これはぁーーーーー!

「壁ドンだよお兄ちゃん!キャー!」
ちげぇよ壁ドンは由比ヶ浜の誕生パーティーの時に平塚先生がやってたやつだよ!だがもはやそんなのは過去の話になって一般的にはこちらを指すらしい。テレビの力って凄いよね。
「何やらせてんだよお前は…」
「いい…いいよお兄ちゃん!これはキく!小町ですら思わず支配されたくなっちゃったもん!」
支配ってなんだそれ。赤司君の必殺技?
「どう返せばいいのかわかんねぇよ。それにこっからどうすんだよこれは…」

律儀に壁に手をついたままなんだけど傍目から見たら間抜けじゃないのかしら。ぼく不安です。こんなとこで母ちゃん帰ってきたらなんて言えばいいんだよ。親父に見られたらそのまま壁にドンされて埋められかねん。
「まずいなぁこれは…予想以上だよ…。お兄ちゃん大丈夫、自信持っていいよ、小町が保証する!」
小町は自信満々に言っているが俺にはわけがわからない。もう少し目的語をだな…。
「変われるよ、お兄ちゃんは」

真面目な表情でそう言われると、おう…というぶっきらぼうな返事しか返せなかった。でもごめんな小町、お兄ちゃんはまだ自信が持てないんだ。
理由を他人に求めるとろくなことにはならないとわかってはいるんだ。だから、理由とまではいかないまでも。もう一つだけ背中を押す何かをくれないか。
「俺が変わったら、どう思う?」
「変わっても変わらなくてもお兄ちゃんはお兄ちゃんだよ」
笑顔で即答された。今のこそ小町ポイント超高いんだけどなぁ。
「あ、変わったら小町の友達が来ても部屋から絶対出ないでねって言われずに済むと思うよ!」

なんだそりゃこの野郎。さっきの小町ポイント相殺だな。山田くん小町ポイント全部持ってってー。
けど十分背中を押してくれた。少しだけ自信が深まる。よし、やってみるかな。よく考えたら臆病になって引っ込んでたところでもともと失うだけの評判は持ってないしな。開き直りは俺の得意なところでもある。
明日はモテモテ王国の建国記念日じゃよー!

さらに翌日。
初めて眼鏡を掛けて登校している。

うわぁ…慣れないし恥ずかしいなこれ…。自分が意識しているせいか登校中の回りの生徒にこちらをチラチラと見られている気がしてくる。多額の現金を持っているときに回りがみんな暗殺者に見える心理と同じだ。そんな金持ったことないからわからんけど。
要はこれも過剰な自意識がもたらすマイナス効果だ。だが雪ノ下に言われてわかった。ほとんどの回りの人は俺のことなど気にしていないと。そしてそれは事実だ。

俺は変わるんだ。自信を持て。理性によって抑えつけれるものがあるのもわかっている。ならば見られていると感じる自意識も抑えつけれるはずだ。放て俺の理性!いや放っちゃダメだろ理性は。
よし、少し落ち着いた。気がする。たぶん。
昇降口について上履きを下駄箱から出そうとしているところで後ろから声を掛けられた。
「ヒッキー、やっはろー!」
「あー、おはよう」
振り返って挨拶すると、由比ヶ浜は挨拶のためだろう、片手を上げていたがそのままの姿勢で固まってしまった。

「………」まただよ。放送事故流行ってるのか。
「なんだよ」
何でってそれはわかってはいるが、何故そんな反応になってしまうのか。
「ヒッキー、その眼鏡…」
「あー、由比ヶ浜が意外と似合うって言ってくれたやつ。おかしいか?」
「ううん全然全然まったく!」
ようやく固まっていた片手を下げ、両手を胸の前でぶんぶん振りまくる。
由比ヶ浜に関しては一度眼鏡姿を見ているし、悪い評価ではないだろうと思ってはいたがそれでも嬉しいものだ。照れながらもつい顔が綻んでしまう。

「ありがとな」
ちょっとだけこれまでは出せなかった勇気を出して、素直な感謝の気持ちを伝える。
すると由比ヶ浜はあわあわとしか表現できないほどに狼狽え、俺の下駄箱を背にした状態で俯いてしまった。何かモゴモゴ言っているが全然聞き取れない。
そのままじっとしているのも変なので、取り合えず下駄箱から出しかけた上履きを取ろうと右手を伸ばす。内側には由比ヶ浜の顔がある。昨日の小町とのやり取りがなければ自分はなんとも思わなかっただろう。

けど今は、と思ったところで顔の横に俺の腕があるのに気が付いた由比ヶ浜が勢いよく顔を上げ、至近距離で真正面から目を合わせることになってしまった。
下駄箱ドン!うわぁ変な名前。アンパン○マンの新キャラ?いやだから伏せれてねぇって。
そんなことを落ち着いて考える余裕など全くなくなってしまった。由比ヶ浜は耳まで真っ赤になっているし相変わらず口は半開きになっている。このままじゃまずい、何か言わなければと思って口を開いたはいいが、息が詰まって途中までしか声にならなかった。

「由比…」
「結衣って…ぇぇ…ヒッキーいきなり名前…」
あああああああ!!!違う!!!馴れ馴れしすぎだろう俺!!!
右手は相変わらず下駄箱についたままだ。こいつは俺の右手じゃない。意思に反して固まってもう動かないし。寄生されたのかな?
「…ヒッキーごめん、ここじゃ恥ずかしいし…用なら…放課後でも…いい…かな…?」
「あ、ああ…いきなりごめん…また放課後な」
お互い絞り出すような声だった。俺がそこまで喋ったところで、由比ヶ浜は足早に教室へ駆けていってしまった。

はぁ…焦った…。まだ心臓がバクバク言ってるよ。
ようやく上履きに履き替えると周囲から視線を感じる。これは気のせいではない。実際に見られている。
うん、朝から壁ドンならぬ人がたくさんいる下駄箱でドン!だからね。そりゃ目立つよね。あああああああ!!!
恥ずかしさから俺も足早に教室へ向かおうとすると、進行方向からこちらをねめつけるような目で見ている亜麻色の髪の女生徒と目があった。

一色だ。顔を見ていると不思議なことに字幕が見える。幻覚だ。
「朝から何やってるんですか先輩…。てゆーかその眼鏡なんなんですかー?説明してもらえますかー?」
目は口ほどにものを言うというが。いや幻覚だ。
引き返して別の道から教室へ向かおう。そして時間ギリギリに教室へ入ろう。
そう決断して一色から目を切り、くるりときびすを返し歩き始めた。

とりあえずここまで
疲れた
みんな何百レス分もとかすげぇなぁ

各行、一行開けてくれ
見難い

見辛い
ばいばい

最初の数レス以降読む気が失せた、とりあえず改行と「。」の後に行間を入れてくれ

よくあるけど改行って必須か?
ケータイ小説のせいで文の塊読めなくなったアホちゃんなん?

いやけっこう大量投下したほうだと思うよ、おつ

そんなに見辛くはないかな

セリフ主体なら改行あった方がいい
地の文多めならあまり改行いらない

セリフと地の文の間空けるといいかも

別に改行せんでもええけど……

話は面白かったです(小並感)

おつー!
朝っぱらから下駄箱ドンとは大胆なww

改行、空行があった方が読みやすいのは確かなんで、とりあえず

句点ごとに改行
台詞の前後に空行、

とかやってみるといいかも

なんか改行とか読みにくさについてのことばかりだな…
こんなの書くの初めてなんだ、申し訳ない
次は気を付けることにする

乙です
続き期待!

春は読者様が増える季節だから

乙です!
普通に面白いから期待

メガネネタ最近多いな。
更新楽しみにしてるー

八幡+眼鏡=最強
よくわかった、乙

予定通り時間ギリギリに教室へ入り、いつものように空気となって席につくつもりだったが、先に席についていた戸塚が気づいたようでこちらに向かってきた。

「おはよう、八幡。眼鏡どうしたの?目悪かったっけ?」

無邪気で無垢なその笑顔は俺に少しばかりの前向きさを与えてくれる。

それ以外にもいろいろ与えてくれる。何とは言わないが。

「いやー、なんだその、これ度は入ってないんだよ」

我ながらはっきりしないものの言い方だな…。

いつも通りではあるが、もう少しスパッとはっきり喋れないのか。

変わるんじゃなかったのか?八幡ガンバ!

「そうなんだ。じゃあイメージチェンジってこと?」

「そうだ。似合うか?」

キリッという擬音が聞こえた気がした。いや、キラーンかな?

どっちにしろ幻聴だな。

「うん…すごく似合ってるよ八幡!かっこいいよ!」

下からこちらの顔を覗き混むようにしてはしゃぐ。

戸塚かわいいな、略してとつかわいい。さらに略してかわいい。

あれ?かわいいが戸塚を指す言葉になった。まぁ間違いじゃねぇから大丈夫だ。

「そっか、ありがと」

「よしお前ら席つけー。ん…?」

平塚先生が入ってきて俺を見るなり怪訝な表情を浮かべる。

「なんですか、似合いませんか?」

「いやそんなことはないぞ。君は腐った目が誤魔化せれば…なんだ、その、比較的まともに見えるんだな…」

なんで先生が赤面してるんですかね…。みんなから注目を集めてるし。

由比ヶ浜も見ているのだと思うと先程のことを思い出して心がムズムズする。

何と返すべきか戸惑っているうちに、ハッと我を取り戻して平塚先生が教師の顔に戻った。

「よし、授業を始める」

これで取り合えず昼まではつつがなく過ごすことができそうだ。

昼休み。

放課後なと言った手前由比ヶ浜と顔を合わせるのも若干気まずいのでいつも通りぼっち飯を敢行することにした。

まあいきなりそんな変わりはしないか。

飯は一人でも全く気にならないから別に構わないが。

自販機の前で食後のマッ缶を楽しんでいると一色がこちらに向かっててとてとと近づいてくるのが見えた。

「あー、先輩やっと見つけたー。もうどこフラフラしてるんですかぁー」

相変わらず甘ったるいしゃべり方をするなこいつは。

「いつも通りだよ。なんか用か?」

「用というかなんと言うか…朝は何してたんですか?その眼鏡なんなんですか?」

やっぱりか。幻覚の癖に朝の字幕とピッタリじゃねぇか。こぇぇよ。

何と答えようか。素直に言うべきか。

答えるまでの時間を稼ごうと一色に飲み物をすすめることにした。

「何か飲むか?奢りだ」

「いやいいですよ、悪いです」

謙虚な私アピールか本当にいらないかは判断がつかない。

「遠慮すんな。俺だけ飲んでるのもアレだし」

「じゃあ…紅茶。無糖で」

指定通りに飲み物を購入し手渡す。

その時至近距離で初めてバッチリ目が合った。

呆けた表情になった一色は呟くように、独り言のように小さな声を発した。

「はー…私実は前から思ってましたけど先輩って顔は悪くないんですよねー…」

「え、そうなの?前からとは思えないんだけど…」

「あれ今の聞こえてました?おかしいなぁ…」

くっ。あざといのか素直な反応なのかわかんねぇ!一色やっぱちょっと怖い。

予想外な褒められ方をして気恥ずかしくなり一色の背後に目を反らすと、まさに一色の立っている場所目掛けてサッカーボールが向かってきていた。

なにこれ一色への狙撃?どんだけ嫌われてんだおま…と考える間もなく体が勝手に動く。

飲みかけのマッ缶を投げ捨て、全く気づいていない一色を突然抱き締めるような形で抱え、ぐるんと俺の立ち位置を入れ換える。

ボールはそのままの勢いで俺の背中に衝撃をもたらし、ンガッと変な声が漏れる。

背後ではボールが転々と転がり、すんませーん大丈夫っすかーという謝意の全く感じられない声が近づいてくる。

俺は一色を抱き締めたまま肩に項垂れるような姿勢で未だ内に残る痛みと格闘していた。

一色ちっちゃいなー。華奢だし。なんかいい匂いもするなぁ。

ようやく痛みが収まると顔を上げ一色に声を掛ける。

「一色大丈夫か、怪我してないな?」

うわ、予想より近い!吐息がかかりそうな距離だ。

「先輩…私をかばってくれたんですか…?」

とろんとした瞳を潤ませながらこちらを見上げる。こうかはばつぐんだ!

「ああ…お前が怪我すると俺が辛いからな」

目の前で起こっていることに対し何も出来なかったというのは辛い。

「あ、あ、ありがとうございます…」

こんなに慌てている一色を見るのは初めてかもしれない。

抱き締めたままの俺を優しく突き放すように両手を突きだしてきたので、ようやく二人の体が離れる。

「先輩…みんな見てますからここじゃちょっと…」

恥ずかしそうに俯いたところで、傍目から見ると俺が物凄く大胆な行動をしていることに気が付いた。

え、ここじゃ?どこならいいんですかね…。

「あ、悪い…。まぁアレだ、一色に怪我がなくてよかった」

やだ八幡すごい恥ずかしい。笑って誤魔化そう。

自分の中で精一杯の笑顔を作って一色に向けてみた。

「………」

だから無言はやめてよね。放送免許取り上げられるよ?

「先輩バカなんですかこんな所で私を弄ぶつもりなんですかダメですよそれは私がよくやる気さくなボディタッチで男子を手玉に取るやり方じゃないですか」

おいおい本音大分漏れてるぞ。

やっぱそんなことしてるのかよお前。

やっぱ職業ジャグラーじゃねぇかやめてよねほんとそういう純情な男子の心を弄ぶの…。

「あー、悪かった」

何が悪いのかはよくわからないが女の子に捲し立てられるとつい謝ってしまう。

小町の調教は体に染み付いているようだ。

お兄ちゃん世間的に大丈夫なのかな。

「いや…その…責めてるわけじゃ…。ま、また放課後で!」

気まずさに耐えかねたのか一色は小走りで逃げるように駆け出してしまった。

残された俺は投げ出してしまったマッ缶を拾いゴミ箱に捨てると、ふと背後からの視線を感じて振り返る。

そこには青ざめた顔で口をパクパクさせながらこちらを指差してプルプルしている由比ヶ浜と、こちらを射[ピーーー]ような視線を向ける雪ノ下がいた。

「あなた…何を考えているのこんな公共の場で…」

「あ、あわ、あわわわ…」

由比ヶ浜はもはや言葉にすらなっていない。

なんで俺が言い訳をせねばならんのだと思いながらもやり過ごす言葉を考えていると、雪ノ下がさらに冷たい声音で語りかけてくる。

「いろいろ言いたいことはあるけれど…放課後、部室で」

いや怖い雪ノ下さん怖い!

やだよぅ部室いきたくないよぅ!

「由比ヶ浜さん、行きましょう」

相変わらず言葉も出せない由比ヶ浜を従えて俺の横を通過する。

すれ違いざまにもキッと音が聞こえるような視線を向ける雪ノ下ほんと抜かりない。

視線の効果:俺は死ぬ

なんか変なことになってきたぞ…。

でも俺悪くないよね?

なに眼鏡が悪いの?悪いわけないんだよなぁ…。

昼休みももうすぐ終わる。教室に戻らねば。

放課後がどんどん重いイベントになりつつあるのを感じながらトボトボと教室へ足を向けるのだった。

改行入れるようにしてみたよ
落ちてなければ続きはまた夜に
なんか思ってるより大分長くなってきた

sagaは入れよう(提案)

sagaいれようぜ

今調べた
なんのこっちゃ、sageなら入れてるぞと思ったらそんなんあんのね…
これでいいんかな
殺す

いいねー

なんか全然内容関係ないレス多いけど面白いからガンバレー

いろはすちょろす

>>61
なんかワロタ

>>61
確かめでいれてるんだろうけど
笑ってしまったw

めっちゃいい、楽しみにしてます

やー
楽しみとか言われると嬉しいもんだね
早いけどキリがいいとこまでいったので続きいきます

ついに放課後が来てしまった。

逃げちゃダメだ、逃げちゃダメだ、逃げちゃダメ?逃げてもいいよね…?

いや弱気になるな八幡。

俺は何も悪いことはしていない。

変わると決めたんだ。初日にして挫折することなんてできない。

せめて三日ぐらいは…なんて弱気なんだ俺は。

チキン八幡と蔑む権利をみんなに与えよう。ビバ博愛主義。いやただのマゾだなこれ。

トボトボと部室へ向かい、扉の前までくるとそっと聞き耳を立ててみる。

特に話し声は聞こえない。

まだ誰も来ていないのかと思い、安心して扉を開けると三人の姿があった。

いつも通り文庫本を拡げる雪ノ下、携帯を掴んだままボーッと机に項垂れる由比ヶ浜、鏡を眺めながら暇そうにしている一色だ。

もう一色が当たり前のようにいることに突っ込む気にもならない。

それは雪ノ下と由比ヶ浜も同じようだ。

それにしても三人ともいるのに話し声が聞こえなかったのはどういう了見だろう。

な、何かあったのかしら…。

「あー、先輩やっときたー。遅いですよもぅ」

「あ、ひ、ヒッキーやっはろー…」

「来たわね」

三人が思い思いの挨拶をしてくる。挨拶?

「お、おう」

歯切れの悪い返事しかできなかった。

だってなんか空気が重いんですもの…。それぐらいは俺だってわかる。

「なんか依頼来たのか?」

「いいえ、来ていないわ。それより…」

俺がいつもの席についたのを見計い、咳払いをして居住まいを正すと改めてこちらへ向き直る。

「その眼鏡はなんのつもりかしら」

そっちからか…。でもこれは朝から何度も聞かれたことだし、素直に答えることができる。

「ただのイメージチェンジだよ。変化を恐れて現状維持を選択するのはもうやめだ。俺は自分の変化を受け入れることにした」

昨日決意したことをそのまま伝える。

「似合わないか?」

これは純粋に興味からの質問だ。

概ね好評ではあったが雪ノ下自身がどう思うかは気になる。

あんまり酷いこと言われたら眼鏡にヒビが入るかもしれない。

どうしよう怖くなってきた。

言いにくそうにしていたが、雪ノ下が答える前に他の二人が先に口を開いた。

「いいと思いますよー。死んだ魚のような目じゃないように見えます」

「わ、私もいいと思うなー…。その、かっこよくなったというか…いや前からヒッキーはちゃんとかっこよかった…と思う…」

二人の評価は既に聞いていたが、また照れるようなことを言われるとこちらもどう反応していいか困ってしまう。

え、一色のは誉めてるんだよねそうだよね?

「私も…似合っていると思うわ…悔しいけれど…。り…凛々しく見えるわ…」

最後の方はほとんど聞き取れない声だった。

そんなに言いにくそうにされると気まずくなるじゃないか。

しかし変わると決意した俺はひと味違う。

こんなことで気まずくさせるような俺様ではない。キャー八幡サーン!

「ありがとう、雪ノ下」

さらっと言ってなるべく自然に見えるよう笑いかける。

よし、今のは上手くいっただろう。

どう見えてるのかわからんのが不安だけど鋼(鋼とは言っていない)の心でスルーする。

「………」

なんで三人ともポカーンとするんだ。

不安になってくるじゃないか…。

三人は頭を付き合わせるようにボソボソと話し始めた。

俺には全然聞こえない。なんかやらかしたの俺…。

「…ちょっと、あれはどういうことなの。あんなの比企谷君じゃないわ」

「えー、でもこっちの方がよくないですか…頭もよさそうに見えて私的には好評価ですよ?」

「だ、だよねー。でもちょっとアレだとみんなヒッキーのかっこよさに気づいちゃうような…」

「いえ、見た目もなんだけれどそうじゃなくて…。あの応対のことよ…。あんな爽やかな笑顔…見たことがないわ」

「うっ、確かに…悔しいですけど私ちょっとドキッとしましたよ…」

「え、えー、いろはちゃんまで…。でも、あんなヒッキーも、素敵、だよね」

「ええ、悔しいけれど…不愉快ではないわ…。騙されているのかしら…。でも今までの比企谷君を知ってるからか…取り繕ったような笑顔には見えないのよね…」

「あーわかりますわかります!葉山先輩のとちょっと違うんですよねー…」

「うぅ…嬉しいんだけどちょっと複雑…」

俺はどうすればいいんだ…。

相変わらず三人でボソボソやっているが何の話か全然わからない。

おいてけぼりは寂しいナー。

思いが通じたのか雪ノ下がパッと顔を上げる。

視線は相変わらず冷たい。

「ところで…昼休みでの一色さんとの情事はなんのつもりだったのかしら?堂々と不純異性交遊は感心しないわね」

情事とか不純異性交遊とかそんな言葉使わないでもらえますかね…。あなたお嬢様でしょうが。

由比ヶ浜は耳を塞ぐような仕草で俯いている。

「あー、あれはですねぇー、話してたら先輩がいきなり抱き締めてきてぇー」

俺が答えるより先に一色が普段より一オクターブ高い、いつもの三倍甘ったるい声で話し始める。

おいちょっとまて誤解を招く表現とその猫ナデ声やめろこの野郎。

いや一色から見た俺の行動はそうなるんだろうが…。

場面を一部だけ切り取って印象操作はするのはすぐにやめるんだーっ!どうなっても知らんぞーっ!

この場合どうなるかわからないのは俺だけだな。早くなんか言わないと!

「あああれは…アレだ、一色にサッカーボールが当たりそうになったから庇っただけだ」

なぜか言い訳がましく聞こえるのは気のせいか。事実なんだけどな…。

「そうなの?」

表情を変えることなく冷たいままの視線をチラリと一色の方へ向ける。

その視線を受け一瞬たじろいだ一色だが、先程と変わらぬ調子で言葉を紡ぐ。

「はい…そうなんですよー。先輩、私が傷つくと先輩自身が辛いからって、身体を張って助けてくれたんです」

一色はニコニコしながら俺の方へ目を向ける。

うぐっ。それを言ったのも事実だ…。

けどなんだかやっぱり印象が違う!

なんなの一色印象操作のプロなのマスゴミなの?

由比ヶ浜は先程まで俯いていたが今は仰け反って頭を抱えている。面白いなこの子。

いや、またなんか空気が重くなってきた。

何とかしたいけど何を言えばいいのやら…。

その空気を知ってか知らずか、またも一色が発言する。

「というかですねー、雪ノ下先輩は見てなかったと思うんですけどー、先輩、朝由比ヶ浜先輩に壁ドンしてましたよねー?あれなんだったんですかー?」

棒読みに聞こえるのはキノセイデスカソウデスカ。

「壁…ドン?何かしらそれは…。なんだかとても不穏なもののような気がするのだけれど…」

そうですよね、雪ノ下さんはそんなの知りませんよね。

「あ、あ、あれはヒッキーがいきなり…結衣とかって名前呼び捨てにして…」

あー、それも由比ヶ浜からしたら事実なんですよねー。

なんでこうも俺の印象と異なるのかなー?

雪ノ下と一色がピクッと反応した。ような気がした。

「とりあえず…壁ドンとやらを説明してもらおうかしら。比企谷君、由比ヶ浜さんにしたことを私にもやってみなさい」

何言ってんのこの人…。無知って怖い!

でもまぁ大したことじゃないよな?身体に触れるわけではないし…。

どうしたものかと迷っていると雪ノ下が歩いてきて、座っている俺を見下ろしながら凄んできた。

「やりなさいと言っているのよ。あなたはそんなに、今ここで私には出来ないようなことを由比ヶ浜さんにしたの?訴訟の準備をしたほうがいいのかしら?」

ひいい!何でこんな怖い思いをしないといけないんだ!

いいよ!やましいことはやってないよ!

やってやるさ!くらえー雪ノ下!

立ち上がって雪ノ下の手を掴むと強引に壁際まで引っ張る。

「え、何をするの、ちょっと」

雪ノ下は戸惑っているが、やれと言われたからやるだけだ。

壁に押し付けるような形に追いやると、不安げな表情を浮かべている雪ノ下の顔を正面から見据える。

こいつ、そこらの男にはそうそう負けない武力も持ってるのにこんな怯えた表情になるんだな…。

「比企谷、くん、怖いわ…」

俺が何も言わないのも怖く感じる原因なのかもしれない。

そのまま右手を、わざと音を立てるように壁に押し付けると、雪ノ下の身体がビクッと反応する。

目が泳いでいてこちらの顔を見ようとしない。

目を合わせないと、という義務感に駆られた。

いやー、雰囲気って怖いですね。

まさか自分が流されるとは思いませんでした。

俺は流されないんじゃなくてそんな雰囲気を知らなかっただけなんだな。

空いた左手で雪ノ下の顎を掴むと俺の方へ顔を向けさせる。

見つめ合う。

「雪乃…」

うわ、初めて雪ノ下の名前呼んだ。

つっても雪ノ下に雪乃も含まれてるから常に呼んでるようなもんか。

「ちょちょちょちょっと待ったー!ヒッキー!ゆきのんずるい!あたしそこまでやられてないよ!」

「せんぱーい…なんで顎クイまでやっちゃってくれてるんですか…調子乗ってるんですか?」

二人が喚くようにしているのを聞いて俺も我に返る。

あ、危ねぇ…。なんか自分の意思とは無関係に動いてた気がする…。

俺の身体やっぱり宇宙生物に寄生されてんじゃないの?

雪ノ下は朝の由比ヶ浜と同様、耳まで真っ赤になって俯いてしまった。

「比企谷君…はちまんの癖に…私の名前を呼び捨てに…こんなの初めてだわ…」

これまた同じようにボソボソ何か言っているが聞き取れない。

壁から離れ自分の椅子に戻る。

雪ノ下はまだ放心状態が抜けきらないようだ。まだボソボソ言っている。

もしかして怖がらせちゃったかな…。悪いことをしてしまったかもしれない。

「雪ノ下、今のが所謂壁ドンなんだけども…。怖かったか?ごめんな」

多少の罪悪感から謝ってしまった。

放心状態からようやく復帰した雪ノ下は顔を上げ、俺、由比ヶ浜と順に視線を向ける。

その視線にはこれまでの冷たさはもう見えない。

けど…なんなんだろうこれ。俺にはわからない、わからないんだよぉー!

「そう…比企谷君はこれを朝、由比ヶ浜さんにやったのね…」

「いやいやゆきのん!あたしは顎クイまでされてないよ…うぅ…」

雪ノ下は気を取り直したかのようにスタスタと自分の席を戻った。

また空気が重くなるかと思ったが、先程よりは落ち着いている感じはある。

口から砂糖吐くくらい素晴らしい

女子三人の間で妙な視線が飛び交っているのは気のせいだよね。

ぼく鈍感だからよくわかんなーい!

部室に夕焼けがさす時間になり、みんなの顔が朱で染まっているように見える。

誰もが目線を合わせようとはせず、部室は沈黙で満たされている。

そんなに不愉快な沈黙ではないけれど。

これ、やっぱり俺のせいなの?

そうだよなぁどう考えても。

何とかしたいという思いはあるが。

そもそも何をどうにかすればよいのかがわからない。

教えて小町ちゃん!

変わるって大変なんだな。知らなかった。

変わらないでいるってのも大変だけど、変わるのだって大変なんだな。

こうして、変わろうとした初日の部活は、終わりの時間へ向けゆっくりと、確実に、時を刻んでいくのだった。

続きは明日になるかも
疲れたー


最近あったスレとはまた違ってよかった

おつ


いいぞいいぞー

乙です
続き期待!

>>95
グロ
ブラクラ注意

おい、八幡かこいつは……

とりあえずはるのんの動揺を一瞬でもみたいけど
無理だろうなぁ……

乙!

支援
面白い

非常に素晴らしい
メガネ八幡シリーズでもかなり良質

今見返してみたら助詞間違えてるのとか追記したいとこちょくちょくあるなぁ
なんともできないのがもどかしい

短いけどキリがいいので続き
行き当たりばったりなので今後どうするのか自分でもわかりません
小町との会話想像するのは楽しい

あれから部活は何分も立たないうちに一色と由比ヶ浜が用があると先に帰ってしまったため、雪ノ下と俺の二人になってしまった。

それから間もなくして雪ノ下が今日はもう終わりにしようと告げてきたので、結局のところあれからまともに話はできないまま帰宅し今に至る。

はぁ…いつもより疲れた…。

度が入っていないとはいえ慣れない眼鏡をつけたまま一日を過ごしたこともあるのだろう。

今は眼鏡をはずしリビングのソファでダラダラしている。

「たっだいまー」

小町が帰ってきた。声色からすると機嫌は良さそうだ。

リビングに入ってきた小町に声をかける。

「おー、おかえり」

小町は俺の顔を見るなり少し落胆の表情を見せた。

「なんだよ」

何もやってないつもりなのだが。

そもそも何も問題はなかった朝から会話もしていない。

小町は黙ったまま、外してテーブルに置いてある眼鏡を指差している。

「眼鏡?眼鏡がどうかしたのか?」

眼鏡を差していた指が俺の顔へと移動する。

かければいいのか?と小町へ目で伝えるとコクコクと頷く。 なんなんだ一体…。

ほら、かけたぞと小町へ向き直ると、これ以上ないほどわかりやすくパァァァっと明るい表情へ変化した。

「ただいま、おにーちゃん」

え、これどういうこと?

試しに眼鏡を外してみる。

途端に先程の落胆した表情になる。

眼鏡をかけてみる。

「おにーいちゃん 」

いつの間にか眼鏡に人格を乗っ取られていたらしい。

かけていないと会話ができなさそうなので眼鏡をかけたまま小町に話しかける。

「おい、お兄ちゃんは眼鏡じゃないぞ」

「いやー、もう眼鏡かけたお兄ちゃんじゃないと満足できない体になっちゃったよー」

「そんなに差があるのか」

「うん、お兄ちゃんとゴミいちゃんぐらいの差だよ」

もはや理不尽だ。言葉も出ねぇ。

お前昨日は変わっても変わらなくてもお兄ちゃんはお兄ちゃんだよ☆とか言ってたじゃねぇか。

俺は眼鏡なしで妹と会話もできないのか。

だがこれは眼鏡(俺)の評価が想像以上に高いということだ。

そう前向きに捉えないと俺の精神が悲鳴を上げ病院で離乳食を食べるハメになる。

逆説的に言える俺(俺)の評価が想像以上に低いという事実は心の雨でもう見えない。

「で、どうだったの?」

心で泣いていると小町が機嫌良さそうに眼鏡(俺)に話しかけてくる。

言葉が足りてないぞ、と 目で訴えるとはぁーやれやれとばかりにアメリカナイズなオーバーアクションを見せる。

「そりゃ眼鏡のお兄ちゃんのことだよー。みんな何か反応あったでしょ?どーれ小町に聞かせてみ?」

そう聞いてくる小町は楽しそうだ。いや、嬉しそうだ。

そうだよなぁ…俺小町に学校であったことの話とかしてやった(やれた)試しがないもんなぁ…。

負の思い出ならあるけどそれは俺の話で眼鏡とは別だ。

自然に別人格受け入れちゃってるけど俺の自我は大丈夫かしら。

「あぁ、まぁ、眼鏡は概ね好評だったな」

「でしょー?!だから言ったじゃん自信持っていいって。でもそれだけ?何か急接近とか急展開とか急転直下とかなかったの? 」

急転直下は悪い意味だけど小町はいっしょくたにしているようだ。受験が不安になってくる。

「んー、ないということはなかったが…」

「もー、歯切れ悪いなぁお兄ちゃん。お兄ちゃんのお話聞かせてほしいなぁ」

そりゃあ歯切れも悪くなるというものだ。

いくら妹とはいえ兄があんなことを、いや事実はちょっと違うんだけど。

あんなこと風なことをやっていたのを聞かせるというのは若干躊躇われる。

「ほらほら、言ってみ?ん?」

この流れは少し前にも見たことがあるぞ。

前回は俺が不機嫌だったこともあり小町を怒らせた結果、仲直りするまでにかなりの時間を要した。

あの時期は俺自身荒んでいたし、他に考えなければならない問題も多かったから耐えることができた。

だが今は小町と喧嘩することを想像するだけで涙が滲む。

俺メンタル弱すぎだろ。鋼(豆腐)のメンタルだな。

「わかったよ…話すよ。話すまでやめねぇんだろどうせ。もう小町と喧嘩したくねぇし」

そう言って朝から放課後までの出来事を順に話すことにした。

最初の出来事、由比ヶ浜との衆人環視の 壁ドンもとい下駄箱ドンを聞いた小町はキャーキャーと歓喜の声を上げながら聞いていたが、続けて衆人環視の一色抱き締め事件、最後の二人に見られながら雪ノ下壁ドンと、話を続けるにつれひきつったような顔になっていった。

最後は青ざめていたような気がする。どうした小町。具合でも悪いのか?

「う、うわぁ…」

「え、何その反応。お兄ちゃんショックなんだけど…」

「いや、えー?うーん…。だいじょぶかなお兄ちゃん、最終的に刺されたりしないかな…?」

やだ何それ八幡怖い。

「それにしてもお兄ちゃん眼鏡でどれだけ変わるの…そんなことできる子じゃなかったでしょうに」

確かに、と返事をする。

渦中にいると自覚はできなかったが、今思えばよく自分があんな行動を取ったものだ。

やっぱり大いなる意思(眼鏡)に操られている、もしくは宇宙生物に寄生されているのか…?

右手に寄生したからミギーと名付けるということは、俺の本体、ヒッキーに寄生しているからヒギィか…。

いやダメだろこの名前。こんな漫画売れるわけねぇ。

「うーんとね、取り合えず…その三人は嫌そうじゃなかった? 」

「あ、ああ…雪ノ下はちょっと怖がらせちゃったかもしれないけど…。あとの二人はここじゃちょっととか言ってたな…」

あんな反応でも実は嫌がっていたとしたら…というこれまでのどうせ勘違いに違いない思考は隅へ追いやる。

「お兄ちゃんの天然ジゴロっぷりには小町ちょっと驚愕だよ…もしかしてヒモの才能ほんとにあるのかも…。専業主夫もあながち無理じゃない気がしてきたよ…」

今、俺の夢に、希望が開けた。

これよく考えなくても全然かっこよくねぇな。

「お兄ちゃん…。とにかく人の恨みは買わないように振る舞うようにしてね」

「あー、うん…」

変われそうな気はする。自信も少しずつ増してきている。

しかし変わる方向としてこれは合っているのか?

結局変わるにしても変わらないにしても、安全ルートも攻略法も誰も指し示してはくれないということか。

どちらを選んでも自分は苦労をするのであれば。

せめて他人を、あいつらを、家族を悲しませないような選択をしていくことを心掛けよう。

取り合えず衆人環視の中あんなことするのはもう避けるべきだろう。

全部事故みたいなものなんだがなぁ…。

ここまで
また朝起きてからになると思います

乙乙
ヤンデレ化はさけねば

乙です

乙です。
小栗旬みたいに流れ囁き壁ドンとかなるかもね

書いてるうちに川崎がどんどん可愛くなってきた
サキサキ可愛いよサキサキ
続き

翌日。

早めに部活を切り上げて帰ってからうたた寝を何度かしていたせいか、朝も変な時間に目が覚めてしまった。

特に意味もなく早目に家から出たものの、こんなに早い時間から学校へ行く気にもならなかった。

コーヒーでも飲みながら時間潰すか…。

学校近くの店で時間を潰しても構わないが、他の生徒の目につきやすい場所をわざわざ選ぶのも憚られた。

少し考えると、過去の記憶から適当な店が比企ぺディア検索に引っ掛かったのでそこへ向かうことに決めた。

コミュニティセンター。

会議が踊って現場でなく会議室で事件が起きていたことは、まだ記憶に新しい。

嫌なことばかりではなかったが、不愉快な時間の方が長かった。

あの会長、まだあのキャラで頑張ってんのかな…とかどうでもいいことを考えながら、コミュニティセンター近くのコーヒーショップへ入る。

ブレンドを受け取り、外が見えるガラス張りの壁際カウンター席へ座る。

砂糖とミルクをたっぷり入れてから文庫本を広げ、ふと外を眺めると知っている顔があった。

青みがかかった髪をシュシュで纏めた長いポニーテール。

山川豊さんだ。違う。性別とか全部。

同じクラスの川崎沙希である。

こちらが見ていると向こうも気づいたようで、目が合ってしまった。軽く手を振る。

数秒の間、時が止まったかのように動きを止める川崎。

そして時は動き出すと、川崎も店内でコーヒーを注文して俺の隣の席へやってきた。

俯いたまま話しかけてくる。

「お、おはよ…なんであんたがここにいるのさ」

「あー、おはよう。早く家出過ぎちゃってな、時間潰そうと思って」

「ふーん…」

川崎はだいたい何の話をしても興味があるんだかないんだかわからないような反応をする。

だからある意味気が楽だ。普段の俺で素直に接することができる。

あんまりグイグイ来られると八幡まだ困っちゃう。

何か言いたいことでもあるのか、モジモジと胸の前で指を合わせている川崎が言いにくそうに声を出す。

「あ、あのさ…あんたそんな眼鏡かけてたっけ…目悪かった?」

別にそんなに聞きにくいことではないと思うが。

「いや、これ度入ってないんだよ。ただ印象変えようと思って。昨日もかけてたんだけどな…」

やはり俺が思うほど、他人は俺を見ていないのだろう。

「し、知ってるよ。昨日は結局声掛けれなかったからさ…」

川崎は違ったようだ。まあわかりやすい変化と言えるからさすがに気がつくか。

「似合ってると思う」

これまでずっと話しにくそうにどもっていた川崎が、今の言葉は詰まることなくはっきりと告げてきた。

自分の経験から鑑みると、普段と違うこの一言はシミュレートして練習してきたものに思えた。

けど川崎がそんなことするとは思えないしさすがに自意識過剰か。自重します。

昨日から何度もあったことだけれど、やはり褒められて悪い気はしない。

違うな、僕とっても嬉しいです。感謝せねば。

「ありがとう、川崎。嬉しいよ」

ワナワナと震えるような仕草を見せたかと思うと、こちらへ背中を向けてカウンターに肘をついて肘枕の姿勢になった。

一切顔が見えなくなってしまったからどんな表情をしているのかわからないが、こちらも聞きたいことがあるので声を掛ける。

「川崎はどうしてこんなところにいたんだ?」

「ああ…京華を保育園に送ったから」

姿勢は変わらない。

「京華…けーちゃんか。そうか、保育園コミュニティセンターの横だったな」

「そゆこと」

「偉いな、お前は」

素直にそう思った。上から目線に聞こえてないかな?

少しだけ身構える。

「…別に。大事な妹だし、普通だよ」

うんうん、その気持ちはとてもよくわかります。

「そうだなぁ。けーちゃんもさーちゃんさーちゃんってすげぇなついてるもんな」

ピクッと川崎の肩が動いた。

「あ、あ、あんたがさーちゃんとか言わないでよ…」

「俺なんか八幡だからはーちゃんだぞ。沙希ならさーちゃんでいいだろ」

ギギギッと錆びた機械が音を立てるようなぎこちない動きで川崎が椅子を回転させこちらへ向き直る。

「あ、あんたもあたしのこと沙希って呼ぶつもり…?」

膝の上に置かれた両手がせわしなく動いている。

顔は若干伏せたまま、上目遣いでそんなことを言う。

こいつのは計算や打算じゃないんだろうなぁ…。

初めて見る表情に俺もどぎまぎしてしまう。

でも冷静によく考えるとちょっと待て、なんでそうなる。

「いや、妹の話してたんだけど…」

「あ、そ、そーだよね、あたし何考えてるんだろ…」

冷静になったのかカウンターの方へ向きを変え、置いていたコーヒーを控え目に啜り始めた。

「沙希」

「へ…?」

「って呼んだほうがいいか?」

川崎って名前は覚えにくいしな。いや別に普通の名前だな。

「え、ちょ、おい、コーヒー漏れてんぞ」

ボーッとした表情の川崎の口の端からコーヒーがたらーっと一滴垂れていた。

「え、あ、わああああっ!」

大慌てになった川崎は制服のポケットからハンカチを取り出し口を拭う。

「………」

そりゃ気まずいよね…。なんとかフォローせねば。

フォロ谷フォロ幡の出番だ。語呂から何から全部ダメだ。

「なんかボーッとしてるし眠いのか?起こしてやるから寝ててもいいぞ」

「あ、ああ、うん…ありがと…」

その後川崎は何も喋らず、俺も特に言うことがなくなったので、開いたままで読んでなかった文庫本に目を通していた。

日差しが暖かい。ガラス一枚隔てた向こう側では学生やサラリーマンがひっきりなしに行き来している。

横を見ると川崎は足と腕を組んだ姿勢で静かに寝息を立てていた。

スタイルいいなぁこいつ。とても絵になる。

よく観察してみると、外を行く通行人の一部はこちらをちらりと除き見るような視線を送っている。

こちらといっても見ているのは川崎だろうが。

ああ、日差しが気持ちいいなぁ…。


「比企谷っ、おい、比企谷っ」

川崎に揺さぶられて目を覚ます。

日差しの暖かさを感じていたら、いつの間にかカウンターに突っ伏して寝てしまっていたようだ。

うぇ、文庫本にヨダレ付いてるよ…最悪だ…。

「ちょっとあんた、起こしてくれるんじゃかったの…」

そうだった!八幡君ったら超ドジッ子!

慌ててスマートフォンの時刻を見る。

なんだ、まだ15分あるじゃないか。

「あー、悪い…。静かだし気持ちよくてつい寝ちゃってた…。けどまだ余裕で間に合うぞ」

「あんたは自転車だから間に合うだろうけどあたしは間に合わないよ」

「後ろ乗れよ、それなら間に合う」

そんな発想は川崎になかったのだろうか。さほど突飛なことでもないと思うのだが。

「取り合えず出よう」

二人で店から出て自転車を止めた駐輪場へ向かう。

「え、の、乗せてもらって、いいの?」

「元はと言えば俺のせいだろ。これでお前だけ遅刻するとかあり得ねぇよ。お前が遅刻するんなら俺も遅刻する。むしろ一緒にサボる」

へんじがない。ただのしかばねのようだ。

少しの間を置いて川崎が決断する。

「わかったよ、乗るよ、乗りゃいいんでしょ」

なんでそんなヤケクソみたいな言い方なんですかね…。

「荷台だからケツ痛いかもしれん。それは勘弁な」

俺が自転車に跨がると川崎は横向きになって荷台に座った。

片側に両足を揃えて置く乗り方だ。手の重みがそっと俺の肩にかかる。

「じゃあ行くぞ」

「うん…悪いね」

後ろは見ていないのでどんな表情をしているかはわからない。

気にするのをやめて、学校へ向けて自転車を漕ぎ始めた。

まだ数分しか走っていないがペダルが重い。

そしてバランスが悪くて物凄く疲れる。

あ、そういえば俺後ろに人乗せたこととかこれまで一度もなかったな…。

そりゃ知らないよ!初めての体験だよ!

「…重くない?」

「そりゃ人が乗ってるんだからいつもよりは重いが、それより…」

「それより?」

「すまん、ちょっと乗り方変えてもらえるか」

そう言って自転車を一旦止める。

「どゆこと?」

こちらの意図がわからないようで首を傾げている。

「その、今の乗り方だと片側に体重がかかるからバランス悪くてな…そうじゃなくて荷台を跨ぐ乗り方にしてくれると助かる」

要は股を開けと言っているんだ。いや違うから。

「あー、そゆこと、わかった」

すぐに伝わったようだ。体重のかかり方が左右均等になったので見なくても座り方を変えたのがわかった。

「すまん、じゃ行くぞ」

川崎の手が腰に触れる。さっき肩だったじゃん…。

そんな、バイクみたいにスピード出ないから大丈夫だぞ、と思うが口には出さずにおく。

ただ俺の愛車の比企谷号は最高出力俺次第だから、バイクを凌駕する無限のパワーを秘めている可能性はある。いやない。

さっきより漕ぎやすくなった。バランスも安定したからスピードも出せる。

無言でペダルを漕いでいると背中に触れる感触があった。

何だろう。何か張られた?イジメ?

そんな考えを押し退けると予想はできる。頭だ。おでこと言うべきか。

背中の感触は離れない。

その感触を楽しみながら、無言で学校までペダルを漕ぎ続けた。

問題なく間に合ったようだ。割とギリギリになってしまったせいか登校中の生徒はまばらである。

校門を過ぎようかというところで川崎が口を開く。

「ありがと、ここでいいよ」

「いいよもうついでだ。先生もいないし駐輪場まで行くぞ」

「…わかった」

駐輪場に着き自転車を止める。

川崎、俺と自転車を降りて鍵を掛ける。

「ありがとね、助かったよ」

川崎は鞄を背負い直すと一足先に校舎へ向けて歩き始める。

「いや全然。俺のせいだし。しかし初めて人を後ろに乗せたんだが…案外疲れるな」

「初めてか…ふふっ。そりゃ光栄だね」

川崎が振り向いてニカッと笑う。

昨日からいろんな人の、いろんな初めての表情を見ている。

これもそうだ。

この表情は、俺が変わらなければ、きっと一生見ることができなかったものなんだろう。

変化すること。

それ自体は善でも悪でもない。

変わらないことがいい場合だってきっとある。

だが、変わることで見える、新しい世界というのはとても新鮮に感じる。

俺が停滞していた時間は無駄だったとは言わないけれど。

変化を受け入れた自分も、悪くない。

校舎へ向けて歩き始めるとき視線を感じ、ふと上を見上げてみた。

そこには何とも言えない不安げな表情をした由比ヶ浜と、冷酷な指導者のような雪ノ下が窓ガラス越しにこちらを見下ろす姿があった。

なんでいるんだよ…。とっとと教室に戻りなさいよぉー!

俺は相変わらず悪いことしてない気がするんだけど、また重い時間が待っているのだろうか。

あ、よく考えたら重い時間なら変わる前にもたくさんあったな。

じゃあ大丈夫か。何がだ。

俺が変わっても変わらないものもある。

奉仕部でのあの時間が、そうであればいいなと思いつつ教室へ向かった。

ここまで
見てる人いるのか不安だ…
これからどうするかなぁ
また夜に

見てるよ
サキサキ可愛い

自転車の後ろに乗せた初めては、川崎の前に小町だろ。

まあそう突っ込むなよ
忘れてたんだろ
それにしても素晴らしい出来だなこれ

頭…?
いや、そこはおっぱいだろう

なんかサキサキが今んとこ1番ヒロインしてるなw

さきさき大好き俺氏歓喜
くっそーこのままいってくれるだけで……
まぁはるのんとさーちゃんとこまちを……ww

これssまとめ速報に出てこないと思ったら俺ガイルカテゴリに入ってないんだな
そっちで出てたらもっと早く見つけれたのに
あれ変える方法ってあるのか?

サキサキこそが正ヒロインだと最近気づいた

さーちゃんかわいい

小町で二人乗りは経験済みじゃねーの?

終わった話を蒸し返すなよ

おおぅ、小町忘れてた…
申し訳ない…
家族以外ってことでここは一つ…
そういうのだけはなるべくないように、って書いてきたのになぁ

面白いから無問題
期待支援

三浦と海老名も落とせ

たぶんこれまでの四人がメイン
どのぐらいで終わるのが適正なのかがよくわからない…

シリアスシーンは疲れますね
続き

結局遅刻ギリギリになってしまった。

川崎と急いで教室への階段を登る。

一段飛ばしで軽快に、俺の前を登っている川崎のスカートがヒラヒラとはためいているのが気になって気になってどうにも心が落ち着かない。

お前スカート短すぎだろう…。

短いスカートからスラリと伸びた均整の取れた長い足は、健全な男子生徒の心を掴んで離さない。

いやこれは健全とか男子生徒とかそんなもんではなく、全男性の心を掴むはずだ。

元寇の神風よろしく風よ吹け、出でよ風使い!と思っているうちに階段が終わり教室に着いてしまった。

朝のHRはまだ始まっていないようで、教室は喧騒に包まれていた。

前側の教室の扉から川崎に続いて入る。

その瞬間、一瞬だけではあったが先程までの喧騒が鳴りを潜めた。

皆の視線が川崎と俺に集まっているのを感じる。

おかしい…俺も川崎もこのクラスで注目されるような人間ではなかったはずだ。

あ、あれか。ぼっち同士が二人でつるんでるから珍しいと思われたのか。たぶんそうだな。

本当に一瞬だったので、思考を巡らせる間にも元の喧騒を取り戻す。

視線も既に集まってはいないが、一つだけ自分に向いたままのものがある。

今の俺は見ずともわかる。由比ヶ浜だ。

困ったような、羨むような、懇願するような目をこちらに向けている。

どうする八幡!?

脳内のコンピューター(2ビット)をフル稼働させて過去の経験から正解を探ろうと試みる。

残念!俺の経験データベースには類似例がありませんでした!

恋愛カテゴリの項目に至ってはところどころ文字化けしているし、それを引き出そうとするとハングアップする仕様らしい。

何これひどい。俺の脳はバグだらけだな。

過去からの対応は不可能と判断し、先日の笑ってごまかす作戦を決行することにした。

感じる必要はないのかもしれないが、少しだけの負い目があったため満面の笑みを繰り出すことは出来ず苦笑いのようになる。

八幡君キモくないかしら。ちょっと不安。

だが効果はあったようだ、本当によかった。

由比ヶ浜は面食らったような表情になった後、唇を尖らせながら俯きがちに目を反らしてしまった。

ほっとして前を向くと、後ろからこちらへ近づく足音がした。

左肩をちょんちょんと叩かれる。

「ヒッキー、お昼休み、ちょっとだけ、いいかな」

耳元で囁くような声だ。吐息がかかってこそばゆい。

「ああ、いいよ」

何だよとは聞かずにおいた。

「ありがと。じゃお昼にね」

柑橘系の爽やかな香りと耳への柔らかな感触を残し、由比ヶ浜は自分の席へ戻っていった。

ちょうど先生も入ってきて朝のHRが始まる。

さて、ちゃんと授業を受けようか。

眼鏡は頭がよく見える(約二倍。小町調べ)らしいから少なくとも維持はしないとな。


四限目が終わり昼休みになった。

教科書やらノートやらを片付けていると、素早く昼食の準備を整えたらしい由比ヶ浜が側にやってきた。

「ヒッキー、お待たせ。いこっか」

「ああ、でも先に購買寄っていいか?早めに行かないと食うもんなくなっちまう」

立ち上がり教室を出たところで由比ヶ浜が静かに呟く。

「今日はいいの、大丈夫だから。着いてきて」

そこにはいつぞやの決意めいたものが感じられる。

ここは黙って従おう。

校舎から出て中庭へ向かっているようだ。

「なぁ、お前いつも雪ノ下と昼一緒に食べてるんじゃないのか?」

ふとした疑問をぶつけてみる。

「今日は…断っちゃった。放課後は部活でみんな一緒だから…なかなかヒッキーと二人になれないと思って…」

「そっか…」

頬を染めながらそんなことを言われたものだから、瞬間的に心拍数が跳ねあがりぶっきらぼうな言い方になってしまった。

それ以降深くは追及せず、黙って移動する。

カースト上位の連中がたむろしている騒がしい地帯を抜けると、木陰にベンチの置いてある場所についた。

中庭の喧騒もここまでは届かないようだ。他には誰もいない。

由比ヶ浜はベンチへ座ると、横に座るよう目で俺を促す。

「ヒッキー、騒がしいの好きじゃないでしょ。だから、ここで…」

「あー、まあ騒がしいのは嫌だな…」

大人しくベンチに座ると、由比ヶ浜はスッと可愛らしい巾着袋に入った弁当を目の前に差し出す。

「お弁当、作ってきた、から…食べて…もらえるかな?」

購買が必要ないと言っていた時点でそうじゃないかとは思っていた。というかそれしかないだろ。

それはつまり、事前に覚悟は出来ていたということだ。

死にはしないだろう、たぶん…。本当にお願いします。

「ああ、食うよ」

選択肢自体もうないじゃねぇか…とは言わない。

仮にあったとしてもここで食べないなんて選択肢があるわけがない。

「でもなぁ…」

今までの由比ヶ浜を知っているだけに一抹の不安は拭えない。

「今日のは、大丈夫…だと思う…大丈夫!」

俺の不安を察してか、トーンダウンしていた語尾を無理矢理断定系に変え安心させようとしているらしい。

巾着袋を開けて弁当箱を取り出す。蓋を開けてみる。

…おぉ…?見た目は割と普通だ。

取り敢えずわかりやすく異臭を放つ物体や見るからに異物です!と主張しているものはない。

いや、見るからに異物入ってたら新手のイジメと認定するぞ俺は。

「…いただきます」

恐る恐る卵焼きに箸を付ける。若干の勇気を持って口に運ぶ。

…おぉ?なかなかおいしいぞ…。

絶品とまではいかないが、十分平均的なレベルと呼んでもいい。

なのに不安になるのは何故なんでしょうか。不思議です。

続けて唐揚げ、ポテトサラダ、お握りと食べたが、全て普通だ。

しいて言えばお握りや卵焼きの見た目が悪いことぐらいだろうか。

真剣な表情で黙々と食べていたからだろう。由比ヶ浜が不安げな声を出す。

「…どう、かな?何か言ってくれないと困る…」

「あー、ごめん。旨いよ、驚いた」

「…ホント?」

「本当だ。嘘じゃない」

満面の笑みとは今の由比ヶ浜のことを言うのだろう。こちらまで釣られて笑顔になってしまいそうだ。

「や、やったぁ!初めてヒッキーに美味しいっていってもらえたよー」

言いながら由比ヶ浜自身もようやく弁当を広げ始めた。

それからは二人で食べながら、弁当の内容についてとりとめのない会話を繰り広げた。

「ごちそうさん。旨かった、ありがとな」

キレイに平らげてしまった。完食だ。

由比ヶ浜も自分の弁当箱を片付ける。

「あのね、本当のことを言うと…さっきのお弁当、全面ママ監修の元で作ったんだ…おかずとかもほとんど手のかからないものだし…」

恥ずかしそうに言っているが、何も恥ずかしがることなどない。

人の力を借りてでも、美味しいものを食べてもらおうとしただけだ。

その過程に偽りはない、本物だ。

その頑張りは結果に関係なく、認めてもらうことで救われる。

それを俺はよく知っている。

過去の俺は自分の出した結果が最悪だったにも関わらず、由比ヶ浜に認められ、救われた。

今度は俺が返す番だ。

「それも含めて由比ヶ浜、お前の頑張りだよ。嬉しかった。ありがとう」

「ヒッキー…」

目をうるうるさせている。

「大袈裟だな、お前…」

あの時救われた俺の、何分の一かでも返せただろうか。

「だって、嬉しいんだもん…。ねぇ、ヒッキー…もう一つだけ、お願い、していいかな…」

「何でもとは言えんが…なるべく聞く」

「あの、昨日の朝みたいに、名前、呼んでほしいな…ずっと…」

昨日の朝…あれか…。

由比ヶ浜と言おうとしたのが途中で止まってゆいになったとは今更言えない雰囲気だ。

「い、いいけど、なんで?」

これまでと違う、真剣な声色に変わる。

「あのね、あたし、わかってるんだ。ヒッキー、みんなに優しいから。あたしも、ゆきのんも、いろはちゃんも、川崎さんも、ヒッキーはみんな大事にしようとしてる」

間が少しだけ空いた。

「あたし、あたしはヒッキーのことが、好き。大好きなの」

もうダメだ。ぼくの思考回路はショート寸前です。

こんなのに対する答えとか返答はまだ用意できていない。

俺が黙っているのを見越してか、由比ヶ浜は尚も話を続ける。

「でもね、それだけじゃなくて、あたしは、ゆきのんも同じくらい、奉仕部のみんなとの時間が、同じぐらい大事で、大好きなの。だから、だからね、えーと、ごめん、なんだかわかんなくなってきちゃった…」

「由比ヶ浜…」

「あの、今すぐヒッキーに答えてもらわなくても、大丈夫だよ。だけど、ちょっとだけ、みんなより、特別が欲しいの…」

「…それが、名前?」

「…うん。ヒッキー、みんな呼ぶの名字でしょ。だから、あたしだけ、とか…。ダメ、かな…」

由比ヶ浜はどこまでも優しい。

たぶん、こんなに優しい、素敵な女の子にはもう巡り会えない。

その優しさに甘えるばかりになるのはよくないことだ、と思う。

だから俺も伝えなければならないことがある。

「結衣…でいいのか」

「…うん、嬉しい…」

「あの、な。俺はこんな感じで、変わろうとしてるけど、まだまだ全然ダメで。みんなの優しさに甘えてばかりで…」

「うん…」

言葉に詰まると優しく頷いてくれる。

「自分のこともよくわかんねぇんだけど、結衣、には…これまで、沢山優しさを貰ってきたから、俺も返さなくちゃいけないんだと思う…」

「うん…」

「だから、必ず、答えを出すから…もう少し待ってくれないか」

「うん、わかったよ…ヒッキー」

昼休みはそこで終わった。

これまでの人生で最高にソワソワする。

あれでよかったのかはわからない。

けど今の俺の気持ちは伝えられた、と思う。

由比ヶ浜、は俺の答えがわかっていたのか、恥ずかしそうにしているだけでそれ以上の追及はしてこなかった。

ああ、やっぱり俺は甘えているんだな。

全く身の入らない六限目の授業が終わり、由比ヶ浜、と一緒に部活に向かう。

気まずい、というわけではないのだが、二人ともどこかぎこちない。

二人とも俯き加減で並んで歩いてる姿は傍目から見ればなんと思われるのだろうか。

部室への扉をくぐる。

「ゆきのんいろはちゃんも、やっはろー」

「うーす」

先に来ていた雪ノ下と一色が挨拶を返す。

「こんにちは、遅かったわね」

「こんにちはー、先輩」

全員が定位置に着く。

雪ノ下と一色はいつも通りだが、由比ヶ浜はどう見てもいつも通りではない。

携帯を握ったまま、チラチラとこちらに視線を向ける。

お前それバレないと思ってるのか…。ダメでした。

「んー?由比ヶ浜先輩どうしたんですか?もしかして昼間先輩と二人で中庭歩いてたのと何か関係あるんですかー?」

俺は何故全て筒抜けになるんだ…GPSとか仕込まれてねぇだろうな…。怖くなってきたよ…。

本へ目を向けていた雪ノ下の目線がゆっくり上にあがり

、やがて俺の目と合い、そのまま由比ヶ浜にも目を向ける。

「何かあったのかしら」

うう、怖い!この部屋怖いこと多すぎだろ!

そういえば由比ヶ浜は雪ノ下との昼食を断ってたんだよな…。

「いやー、お昼はね、あたしがヒッキーにお弁当作ったから、食べてもらってたの。あたし料理うまくないじゃん?だからヒッキーに食べてもらおうと思って、あはははー…」

だからってどういう意味だよ。俺なら死んでもいいのん?

お弁当、というキーワードに雪ノ下と一色が反応した。

「なるほど、お弁当ね…」

「はぁー、お弁当ですかー…」

重くなりそうな雰囲気を察してか、由比ヶ浜が慌てて口を開く。

「あ、あはは、お弁当だけだよね、ヒッキー?」

げ、こっちに振られた。スルー。はしても他に誰もいないから無理だ。

これは、あれか。確認か?いいのか?

答えを先送りにしてもらったんだ、せめてこれぐらいは答えないとな、約束したし。

「あ、ああ。弁当食べて感想言っただけだよな、結衣」

一色のこめかみに青筋が浮いたように見えた。

雪ノ下は見たら石になりそうなので見ない。

由比ヶ浜は今ので照れて下を向いてしまった。

由比ヶ浜は喜んでそうだしいいか。よくねぇ!

「え、はぁー?それ何ですか?先輩?」

「何なのかしらこの気持ちは…心の底で渦巻くものを感じるわ…」

ちょっと待て二人とも!

なんでその暗黒感情を俺だけに向けるんだ!

「え、んーとな、それはだな…」

言えるわけねぇだろ!由比ヶ浜お前も照れてないで何か誤魔化す手を考えろよ!

「あ、先輩。私のこといろはって呼んでもいいですよ?葉山先輩とか戸部先輩もそう呼びますし。一色って慣れないんですよねー」

「そうね、私のことも雪乃で良いわよ。昨日不覚にも呼ばれてしまったことだし。今更気にすることではないわ」

いいよ、って声じゃねぇだろそれ。

呼ばないとどうなるかわかってるな?ん?って副音声が聞こえたぞ。

由比ヶ浜はこの期に及んでまだ耳に入っていないようだ。

アホの子が今は羨ましい。

俺もアホの子になろうかな。ごめん由比ヶ浜それは無理だ。

あとこのプレッシャーも無理だ。

「…いろは」

何かが崩れ落ちた。

「えぇー、なんですかぁ、セ・ン・パ・イ」

わざとらしく照れながら一色は甘えた声を出す。

「え、ちょ!?ヒッキー!?」

目が覚めたか。すまんもう全ては終わってしまったんだ。

「…雪乃」

「どうしたの、八幡」

「ひ、ヒッキー!?ってゆきのん!?え!?えぇーーー!?」

由比ヶ浜はパニックになっている。

「どうしたの、由比ヶ浜さん」

「由比ヶ浜先輩、どうしたんですかー?」

この部屋は魔境になってしまったのだろうか。

まだ今日の部活は始まったばかりだ。

読んでくれる人を増やすにはどうすればいいんでしょうかね
楽しんでくれる人がいるならもう少し続けたい

読んでるから続けろください


ゆいちゃんかわいい
読者増やす正攻法はsage外し投稿だけど諸刃の剣

楽しく読んでますよ

邪魔しないために投下中は控えとるんや

レスが少ない=読み手が少ないってわけじゃないから

そうか、考えすぎかな
初めてなので勝手がわからなくて不安で…申し訳ない

結衣が好きだからもともと結衣を幸せにしようとしてたのに何故かこんなことに

楽しく読ませてもらってるよ
不安がらずに今の感じで書いてもらえると嬉しいです

面白いです
頑張って下さい

間違ってないラブコメいいね
地の文も面白い
戸塚が普通であるところも何気にポイント高い

めっちゃ読んでるから続きはよ

すげー面白いから読ませてもらってるよ
自分のペースでいいから完結してくださいな

すごいねこれ、超楽しい
完璧なifストーリーだと思う
こんな完成度のなかなかないよ
まとめ速報で出てたらもっとたくさんの人レスしにきてると思うよ

やー嬉しい、ほんと励みになります
麻薬だなこれは
続きは昼ぐらいかも

これはお金取れるよ

まとめ速報で眺めてたらこれのpvが40で他のゴミみたいなのがpv何万とかなんなんだろうね・・・
見てる人は見てるからがんばって下さい

三浦と海老名を落とす話をお願いします。

長い時間かかった割にあんま文字数多くない…
続き

俺はこの状況を眺めることしかできないのか。

いや、やれることならある。

取り敢えずは由比ヶ浜に焼き土下座だな。

由比ヶ浜は今どんな気持ちなんだろうか。自分のヘタレ具合にはほとほと嫌気が差す。

その点葉山ってすげぇよな。最後までチョコたっぷりだもん。

いやほんと葉山すげぇ。俺が変わらないと、こんな状況にならないと葉山の凄さはわからなかったんだろうな。

それとも葉山なら、そもそもこんな状況にはしなかったんだろうか。

そんな気がする。問題を問題にしないというスキル。

ヒーローは遅れてやってくる、というがそもそもそれではダメなのだ。問題は既に起こってしまっている。

本当のヒーローは問題自体を未然に防ぎ、表面化すらさせない人のことだ。

問題を力業で強引に解決するヒーローは確かに派手でかっこいい。

けど俺は、問題を顕在化させない、未然に防ぐ、地味で称賛もされない、そういう存在になりたい。

俺が心の中で決意表明をしたところで状況は何も変わっていなかった。現実は非情である。

雪ノ下と一色は機嫌も悪くなさそうだが、由比ヶ浜はパニック疲れを起こしたのか燃え尽きたジョーのようにだらんと俯いている。

いやほんとごめん…でも耐えられなかった…八幡耐えられなかったんだよぅ!

今度ちゃんとお詫びについて話さないと、と考えていると部室のドアが勢いよく開け放たれた。

「うわああああん!はちえもーーーーん!匿名のネット住人がいじめるよおおおーーー!」

うるせぇ。はちえもんとか言うな。

だが少しだけほっとした自分もいる。

こいつはいい雰囲気も悪い空気も清涼な山の空気も見境なく全てぶち壊す。

いや最後のは壊しちゃダメだな、公害か材木座は。

部室にいるメンバーはほとんど反応らしい反応を示さない。

雪ノ下は目も上げないし、由比ヶ浜は…うぅっ。

一色は斜め後ろを振り向いたがすぐに元の向きに直り、はぁーという深いため息をついた。まあいいか材木座だし…。

「む、どうした八幡、その眼鏡は」

そういやこいつは見るの初めてだな。

「あー?別にいいだろ」

「ふふふ八幡よ、我に憧れておるのは言わずともわかっているぞ。姿から真似ようとしたのだな」

うぜぇ…。何しに来たんだよ。

設定崩壊のSSでも書いて炎上でも何でもしてろ。

「だぁが八幡、敢えて言おう!貴様に眼鏡など似合わぬと!」

ちくしょう!材木座ごときに初めて否定された!

「は?」

驚くほど冷たい声を出したのは一色だ。やだ私ドキドキしちゃう…主に恐怖で。

「何言ってるんですか先輩眼鏡似合うじゃないですか。あなたこそ何ですかその眼鏡割って欲しいんですか?私と先輩の時間邪魔しないでもらえますか」

冷たい声で捲し立てるように罵倒する。

ふぇぇ…逃げ出したいよぅ。

材木座は思わぬ方向から反論が飛んできたせいか固まってしまう。

それよりいきなり下級生の女の子に捲し立てられるとかそりゃ固まるか。

こいつが倒錯した趣味でもない限りは、立ち直れないダメージを受けてもおかしくない。

「ふ、ふふふ…。八幡!貴様ファッションぼっちに続きファッション眼鏡まで…!ぬうううん!リア充め!死んでしまえーい!バーカバーカ!」

涙目になりながら捨て台詞を残し逃げ出してしまった。

何で俺を責めるんだよ…。

まあ材木座の出番が多くても誰も喜ばないしまあいいか。

…今度会ったときは少しだけ優しくしてやるか。

「失礼ですねーあの人。センパイ、眼鏡似合っててかっこいいのに…」

上目遣いでこちらに目を向ける。

くはー!一色あざとい可愛いあざとい!

何も言えずにいると由比ヶ浜が復活する。

「あ、あたしだって前からヒッキーかっこいいと思ってたもん!ヒッキーは眼鏡なくたってかっこいいもん!…あったほうがいいけど…」

が、ガハマさぁん!天使、天使なのか!?

「そうかしら…私はあの腐った目に好感は持てなかったのだけれど…。眼鏡があったほうがいいのは同意だわ」

「確かに私も普段の目は…それ以外はいいんですけどねー」

上げて落とされた。デスヨネー。

褒められたり貶されたりいろいろ乱高下して疲れてきた。

最近特に振り回されすぎだな俺…。

珍しく冷たくて苦いコーヒーが飲みたい。頭を冷やそう。

少し時間も空けたいので飲み物を買いに行くと席を立ち部室を後にした。

人生もコーヒーもにげぇなぁと思いながら自販機でコーヒーを飲んでいると後ろから声をかけられた。

「なんだ、ヒキオじゃん」

「比企谷くんはろはろー」

三浦と海老名さんだ。

三浦は特にだが、用もなしに俺に話しかけるとは思えない。

「おう」

な、なんの用ですかな…?

いかん、緊張している。三浦は未だに怖いんだよ…。

「あんさぁ、今日の昼結衣と出掛けてたっしょ?あれから結衣が変なんだけど、あんたなんかやった?」

あの後か。由比ヶ浜も普段通りとはいかなかったか、そりゃそうだな。だが当然全て言うわけにはいかない。

「別に…なんもねぇよ」

絶対に言ってはならないという決意と、何も知らない癖に、という怒りが出てしまった。睨むような目付きになる。

ビクッと三浦がたじろいだ。

え、そんなに驚かなくても。所詮ヒキオ君ですよ?

「そ、そんな睨まなくてもいいじゃん…」

三浦からすれば由比ヶ浜を心配しているだけなのだ。

悪いことをした。謝らないと。

「悪かった…。由比ヶ浜のこと心配してくれただけだよな。大丈夫だよ、悪いようにはしないから」

最後は笑顔で返してみる。キモ、とか二文字で返されたら立ち直れないからほんとやめてほしい。

「…そ」

一文字だった。でも傷つきはしない。文字数は関係ねぇんだな。

「結衣もちゃんと、見てたんだね…。見てなかったのはあーしの方か…」

ボソッと小声で呟いたが俺には聞こえなかった。

隣の海老名さんに何?と目で伝えると海老名さんが笑顔で話す。

「んーん、なーんもないよ。ところで比企谷君。その眼鏡似合うねー。萌えポイント爆上げだよ爆上げ!それなら攻めも受けも完璧にやれるね!」

相変わらず何を言っているんだこの人は…。

時に攻めの反対語は何?と聞かれて「受け!」って答えが出る人は確実に脳が毒されています。注意しましょう。

正解は守りです。

「そか、ありがとう」

「葉山君もさー、ボソッと「比企谷君、印象変わったな…」とか言ってたのよ…。何もう二人して、私を萌え殺す気なの!?最後の…には何て言葉が入るの!?あー、捗るわぁー」

いらない、そんな情報いらない。

「と、とにかく。結衣のこと悲しませたら承知しないからね。あの子が沈んでるとみんな元気なくなるから」

「わかった。約束する」

それは俺も一番したくないことだ。

「ヒキオと話して疲れちゃった。姫菜、いこーか。あーしは隼人でよかったわー」

「とかなんとか言っちゃってー。優美子も比企谷君の眼鏡見て…モゴッ」

三浦が海老名さんの口を塞ぐ。百合ではないな、うん。

「姫菜っ!余計なこと…っ!」

仲良さそうに見えるなぁ。

うわべだとか欺瞞だとか。本物だとか偽物だとか。

人をよく見れば見るほどわからなくなる。

今の自分は、本物へ近づけているのだろうか。

二人とも歩き出していたが、ふと海老名さんだけが振り返る。

三浦は振り返らずに立ち止まる。

「ときに比企谷君。私の趣味、どう思う?」

海老名さんの趣味、って言うまでもなくあれのことだよな。

「別に…いいんじゃねぇの。口出しできるほど偉くねぇし。そもそも他人の趣味に口出すなんて無粋な真似、俺はしねぇよ」

他人の趣味への口出しをすることほど、醜い自己満足の押し付けはないと思う。

人はそれぞれ別のことを考えているんだ。他人に迷惑をかけないのなら、趣味ぐらいは各自好きにするぐらいの自由があってもいい。

「ふーん…そっか。そっか…」

海老名さんは何を聞きたかったのだろう。

俯いたかと思うとすぐに顔を上げて手を降る。

俯いた時に何か言っていたのかもしれない。聞こえていないし見てもいないからただの想像だけど。

「じゃーねー、比企谷君」

去り際の海老名さんの顔は、またしても俺がこれまで見たことのない表情だった。

ここまで
なんかほろ苦い感じに
そうしようと思ってやってるわけではないのになってしまうのは何故だろうか…
何か別の意思が働いているのかしら

続きはまた夜に

乙!
面白いからがんばってー
ただそれぞれの呼称はちょっと気にして欲しいかも

乙です!

>>209
む…呼称間違い由比ヶ浜先輩以外にもありますかね?
あれ最初間違えちゃったから結衣呼びに変わった時点で結衣先輩に変えてごまかそうかと思ってたり…

ガハマの「アホ&メシマズ」とか、いろはすの「あざとい」といったキャラを安易にはめ込んだりせずに、
各キャラに対して丁寧に可愛く書かれているから評判が良いんだろうなー

とりあえず「暴力アラサー」や「魔王」といったキャラを雑に当てはめられることの多い二人の出番に期待。

>>211
海老名さんはヒキタニくん呼びで、
葉山はシリアスな場面以外ではヒキタニくん呼びのはず

>>213
あ、そうか
比企谷くんは自分の中でヒキタニくんだったりヒキガヤくんだったりしてた…
申し訳ないです

おつ

できたのでそんな長くないけど続き

ニヤニヤ系日常の方がすらすら気楽に書けるねやっぱり

頭も冷えたし部室に戻ることにした。

部室は冷えていないことを願いつつ扉の前へ行くと、話し声が漏れ聞こえてくる。

よかった、重い空気ではなさそうだ。

特に挨拶もせず席に着くが、三人の話は止まらない。

「卵焼きとー、鳥の唐揚げとー、ポテトサラダとー、ソーセージとー、ゆかりとたらこのお握りとー」

由比ヶ浜が割と楽しそうに話している。

どうやら昼に俺が食べた弁当についての話の様だ。

由比ヶ浜がいかに苦労をして、弁当を作ったかを身振り手振りを交え説明する。

どのように作ったかは俺も気になる。黙って聞いていると雪ノ下が話しかけてきた。

「比企谷君。いえ…八幡。体の具合は大丈夫かしら。主に胃とか」

なんてことを言うんだこいつは。てゆーか八幡て、それ本気だったのかよ。

「え?ちょ、えー!?どっちから!?」

気持ちは俺もわかるぞ、突っ込みたいところが二ヶ所あるな。

「落ち着け…」

「あ、うん…じゃあ…ゆきのん!失礼だよ!」

そっちからか。

「あら、由比ヶ浜さんの料理の腕前を知っていれば当然の心配じゃないかしら」

「そういえばイベントの時も結衣先輩にはケーキに触らせないようにしてましたねー」

「うぅ…うー!」

唸り始めた。落ち着くんだガハマさん!

「これまではそうだったかもだけど…今日のは違ったもん!ね、ヒッキー!美味しいって言ってくれたよね!?」

「可哀想に、脅されたのね…」

事実とは違うし、今ちょっと可哀想なのは由比ヶ浜のほうだ。

「違う。今日のは本当に旨かったんだよ。…実は俺も食べるまで不安だったけど…」

「ヒッキーまでー!うわーん!」

いらん一言だったか…。このままじゃ可哀想だし、暴れ出しかねないのでなだめることにした。

「いや旨かったって言ってるだろ…。凄い成長だと思うぞ、また作ってくれよ、な?」

「ひ、ヒッキー…!うん…わかった…」

素直だなぁ。またうるうるし始めた。

こいつは小型犬みたいで可愛いなぁ。動物を飼うと飼い主がその動物に似てくるのか?

「そう…由比ヶ浜さんも成長するのね…。じゃあ八幡の胃は本当に大丈夫なのね?」

「お、おぅ…」

ものすごい違和感がある。

八幡という名前以前に、雪ノ下が名前を呼び捨てにするということに違和感を覚える。

なんというか、有り体に言えばキャラが違うというか…。

先程のもう一つを思い出した由比ヶ浜がまた喚く。

「そ、そう!それ!ゆきのん!ヒッキーのこと…はち…はちまんって…」

「何かおかしいかしら?私のことを雪乃と呼ぶことを許可したのだから、私にだってそう呼ぶ権利があるはずだわ」

許可とか権利とかこいつは本当に…。

照れ隠しに理論武装してるだけだよな?

「いや、そういう問題じゃなくてだな…。お前が人の名前を呼び捨てにすることに違和感があるんだが…」

「確かにそうですねー。雪ノ下先輩らしからぬフランクさって言うんですかー?」

「わ、私も実は慣れていないわ…でも、そういうものなのでしょう?親愛を感じる相手とは気楽にファーストネームで呼び会うって、本で…」

おっと雪ノ下さん、それは俺が小学生の時に通った道ですよ?

友達の作り方、とか本で探したりしたことないんだろうなぁ。普通の人は。

けど雪ノ下の気持ちが少しわかった。

今初めて、雪ノ下自身が一歩踏み込んで親しくしようとしてくれているのだ。

その雪ノ下の行動はこれまでになかったものだ。

雪ノ下も変わろうとしている。不器用ながらも。

その気持ちが嬉しい。伝わったよ、雪ノ下。

だからと言うわけではないが、助け船を出そう。

「あのな雪ノ下、別に仲がいいからって無理矢理呼び方変えなくてもいいんだぞ」

「…でも…」

声が弱々しくなっている。自信が持てないんだとわかる。

「お前に八幡って呼ばれる方が、不自然で不安になるよ。これまで通りじゃダメか?」

これは拒絶じゃない、大丈夫だ、という気持ちを込めて伝えたつもりだ、

「…そう。わかったわ…。私も、は、八幡って呼ぶのは慣れなくて…」

「雪ノ下先輩…これはこれで強敵ですねー…」

なんか不穏なことを言っているやつがいるけど気にしないことにしよう。

「…間を取ってハチ、というのはどうかしら?」

「絶対嫌だ無理だ」

なんの間を取ったんだよ。ハチってお前俺を忠犬にしたいだけじゃないのか。

「じゃ、じゃあこれまで通り比企谷君?」

「そうね、そうするわ…でも…、いえ、なんでもないわ」

顔を伏せてしまった。横顔からは頬が染まっているように見える。

何か言いかけていたが何だったんだろう。

「私は先輩ですねー。あ、私のことはいろはでいいですからね?」

「あーはいはい、わかったよ…」

一色は唇を尖らせて俺の返事への不満にぶーぶー言っているが、雪ノ下はいきなりガバッと顔を上げる。びっくりした…。

「わた、私のことも…雪乃って呼ん…許可してもいいわよ」

何でここで上から目線になれるんだ…。

さっき言いかけたのはこれか。本当に不器用だな。

由比ヶ浜のほうを見ると困ったような笑顔で頷いてくれた。

また優しさに甘えることになってしまった。

由比ヶ浜ごめん、また別の形でお詫びするから。

言葉にしなくても伝わっている、という実感がある。

なんて心地好いことだろう。例え全体のほんの一部でも、限定したその時だけでも、わかり合えるということは。

「雪乃、って呼べばいいのか?」

「えぇ…不愉快ではないから、構わないわ」

素直な言い方はできないか。まあそれでこそ雪ノ下だな。

「お前らに一応言っておくが…慣れるまでは俺も恥ずかしいんだからな…」

いや本当に。葉山や戸部とは違うんだぞ俺は。

三人が顔を見合わせてクスクスと笑い始める。

変わることは喪失すること、と考えていた。

その考え自体は間違いではない。失ったものも確実にある。

だが、失うと同時に新しいものを手に入れている、ということから目を逸らしていたように思う。

孤独という強さ、それは確かにあって、俺はもう手放してしまったものだ。

だが、失ったと同時に俺は新しいものを手にいれた。その実感がある。

それを言葉にするととても陳腐で、耳障りがよくて、曖昧なもので、消えてしまいそうだけど。

もう少し信じてみることにしようと思う。

今の、この奉仕部の時間を過ごし、そう思えるようになった。

その後は静かに時間が流れ、下校時刻が近づいてきた。

「今日はそろそろ終わりにしましょうか」

雪ノ下…雪乃?ここではどちらがいいのか…雪ノ下でいいか。

雪ノ下の言葉を受け、各自が帰り支度を始める。

「そうそう、比企谷君。言い忘れるところだったわ」

首を傾げて続きを促す。

「明日のお昼休み、部室に来てもらえるかしら。本物の弁当を食べさせてあげるわ」

「ゆきのんひどい!?」

どこの山岡だよお前は…。美食ばかり食べてるとみんな同じようなこと言い出すの?

俺に断る理由はない。金も使わずに済むし、何より雪ノ下なら味の保証はされているも同然だ。

「俺は別に文句ないけど…悪い気がするよ、ほんとにいいのか?」

「ええ、私は構わないわ。精々楽しみにしておきなさい」

そこで邪悪な笑顔とその言葉は敵キャラのそれだけど、雪ノ下はこれでいいのか…、

「うぅ、比較されたくないなぁ…」

「あ、明日は雪ノ下先輩ですかー。じゃあ私は明後日お弁当作ってきますね」

一色まで…。また変な流れになってきた…。

って一色料理できんの?という目をしていると、一色はわざとらしくぷんぷんして自慢気に言う。

「私お菓子作りが趣味なんですよー?お弁当ぐらい作れますよぅ」

「う、ダメだぁー!二人に女子力で勝てないー!」

「え、そうなの」

知らなかった。こいつ家事とか全くしそうにないし…。

「先輩私のことどう見てたんですかー…」

雪ノ下が部室に鍵を掛けていつものように解散する。

え、明後日までは弁当確定?

俺返事してない気がするんだけど、俺の意思は…反映されないんですねきっと。

やだ八幡くんもう適応してる!いや、飼い慣らされてるって言うんじゃないかなこれは。

しかし眼鏡をかけて二日目なんだが、えらく状況が変わってきたものだ。自分でも驚きしかない。

俺に足りなかったのは変わろうとする意思だったのか。

喪失を恐れず変化を受け入れることだったのか。

答えが出る頃にはこの変化が自分のものになっているのかもしれない、とそんなことを考えつつ帰宅の途に就いた。

ここまで
ゆきのんもいろはすも可愛くなってきた
みんな可愛い

今日は疲れたので続きはたぶんまた明日です


皆かわいいは正義
ガハマさんへのフォローも期待

読み返したらすごい恥ずかしくなってきた…


ガハマさんが優位性が一瞬にして奪われてしまう

お弁当といえば一番家庭的そうなのはサキサキなんだよなぁ
兄弟の面倒見てるし

>>236
大丈夫だ、おっぱいなら勝ってる

>>235
いいじゃん
すげー面白いよ

>>237
川崎が弁当作ると茶色くなるからコンプレックスらしいで

>>240
他のヒロインが八幡に弁当を用意しているのを耳にして、焦って自分も参戦したものの、
茶色いお弁当で急に自信喪失、けれど八幡に弁当を褒められてデレる川なんとかさん・・・

至高だろうが!

>>235
原作者も照れてるから問題ない

すげー面白い
感情の揺れ動きをこんだけ描けてるの久しぶりに見たかも

川崎の弁当コンプレックスてどこ情報ですかね?見当たらなくて…

真面目な感じとほのぼのな感じ、割合は原作みたいに同居する感じでやってみます
全員ちゃんと出せるかなぁ…

続き

小町が帰ってきた。

眼鏡(俺)を装着する。

小町は俺の顔を見ると納得したように頷いて笑みをこぼす。

「たっだいまーお兄ちゃん」

「おー、おかえり」

「さてさて、早速ですが今日のイベントについて聞かせてもらいましょうか」

何て嬉しそうな顔だ。なんで女子は人の恋路が気になるのだろうか。

俺は材木座とか葉山の恋路なんか全く興味ないぞ。

小町の恋路については聞きたくない。いや、認めない。というかそんなものは存在しない。

例え恋路ではなかろうと、小町の口からあの毒虫の話題が出るだけでも殺意の波動に目覚めそうになる。

うん、このぐらい兄としてはフツーフツー。シスコンなんてとんでもない。川崎はブラコンだからどうにかしたほうがいい。

「俺にも黙秘権やプライバシーはあるんじゃないか」

「いやいやお兄ちゃん、言えないことなら言わなくてもいいよ。話せることだけでも小町はじゅーぶん嬉しいんだよ。ってゆーかそんな深いところまで話されても小町困るぅー、テレテレ」

口で言うな。小町じゃなければドン引きだぞ。

「ま、それもそうだな…」

「ほら、んでんで?」

かいつまんで説明することにした。

当然昼休みの結衣の言ったことは伏せる。

話せるのは朝に川崎と会って登校したこと、結衣の弁当を食べたこと、明日雪ノ下が弁当を作ってきてくれることだ。

適当な相づちを聞きながら順に話す。

「ほぅほぅほぅ…大志君のお姉ちゃんともフラグ立ちましたか…」

やめろ小町、その毒虫の名前を口にするな。俺を修羅に変えるつもりか。

「立ってんのかアレ…。あいつぶっきらぼうだしよくわかんねぇんだよな…」

「お兄ちゃんがそれを言いますか…ま、今はちょっと違うのかもだけどー」

「そうだぞ小町。俺はお前が自慢できる兄に近づいてるんだぞ。たぶん」

「ま、それはもういいや」

えっ。お兄ちゃん褒めてほしくて言ったのに。

「結衣さんのお弁当は大丈夫だったの?」

お前失礼なこと言うなよ。 そりゃ前は酷いもんだったけど。あいつだって頑張ってるんだぞ。

「十分食えた。結衣…ガハマ も成長するんだな」

危なかった。まだ結衣と呼ぶようにしたのがバレると恥ずかしい。そもそもほとんど呼べてないんだが。

「ほぅほぅ…それなら料理の不安も消えた、と…プラス査定」

よかったバレてない。え? 何を査定しているのかな小町ちゃん。

俺が心の中で記録している恨み辛みノートと同じようなもんかな?違うなたぶん。

「明日は雪乃さんのお弁当かー。いいなぁお兄ちゃん。絶対美味しいよー、小町も食べたい」

確かに味は文句ないんだろうな。あいつほんと料理上手いからなぁ。凝り性なんだろうか。

「余ったの持って帰ってやろうか?」

「それ本気で言ってる?そんな恥ずかしいことしたら小町怒るよ」

「いや冗談だよ。折角作ってもらったものを残すのは悪いからな」

怖かった…小町を怒らせるところだった。

「うーん、小町は最近お兄ちゃんの楽しい話をたくさん聞けて、凄く満足です」

「へいへい、そりゃよかった」

「お兄ちゃん、小町と眼鏡に感謝の気持ちは忘れないようにね」

小町には言われなくてもしている。小町に背中を押してもらったからこそ今の俺はいる。

けどおい眼鏡に感謝ってなんだよ。お前毎日パンツに感謝とかしてんの?

小町は優しいししてるのかもな。いやこの解釈は無理だ。

まあいい、寝る前に眼鏡を拭いてやることにしよう。

風呂に入って自分の部屋に戻る。

ベッドに横になったところで考える。結衣に詫びなければ。

勇気を出して伝えてくれた言葉。

それを先送りにしてもらった甘えた自分の言葉。

一つだけの些細なお願い、自分だけの特別が欲しい、と。

それはもう結衣だけの特別ではなくなってしまった。

困ったような表情で頷く結衣の顔が思い浮かび、俺の心に微かな痛みを与える。

結衣の痛みはきっと、俺よりも深い。

かつて俺がやっていた問題解決の手段は、俺だけが痛いのだと思っていた。

痛いのが俺だけなら、他の誰も傷付かない世界になると思っていた。

だが実際は全然違っていた。

俺を見てくれている人などいないと思っていたが、全然そんなことはなかった。

俺だけが痛いと思っていたら、見てくれている人も大小の差はあれど、みんな傷付いていた。

なんて傲慢なんだ。独りよがりにも程がある。

前までの俺は孤独を気取り、側にいる人たちを巻き込んでみんな傷付けていたのだろう。

だが、どんなにうまくやれたとしても、人を全く傷付けず生きるのは不可能だ。誰もが近づけば傷付け合う棘を持っている。

平塚先生にも言われた。他人を大切にしようと思うのは、他人を傷付ける覚悟をすることだと。

俺の覚悟は出来た。俺はまた誰かを傷付ける。

他人の痛みに一番鈍感だったのは、自分が与えた傷を見て見ぬふりをしていたのは、前までの俺だ。

けど今度は、自分が人に与えた傷をちゃんと見つける。必要があれば痛みを分けあったり、埋めたりする。

そうするという覚悟が、今は出来た。

だから俺は、結衣に与えた痛みを埋める努力をする必要がある。

そのために、今真剣にメールの文面を考えている。

わぁ、なんかちっちゃーい。

送られる側の気持ちを考えるなんて、純情だった中学生のあの頃以来だ。

だがあの頃の俺とは経験値が違う。別に増えてなかった。

あの頃の俺はチェリー八幡だった。今はチェリー八幡だ。変わってなかった。

あ、あれー?おかしいな…。 自分が思ったよりも成長していないことに驚く。

結衣は顔文字を使って欲しいといつも言っているが、あれ使い方がよくわかんねぇんだよな…。

無理して使うのもアレだなと思い、結局いつもと変わらない文面のメールを作成する。

[結衣、ちょっといいか?]

送ってから三十秒毎にスマホを見ている気がする。…落ち着かねぇ…。

寝転がったまま顔の真上に掲げまだかと待っていると、不意にスマホが振動したため驚いて手を離してしまった。

うごごご、鼻がいてぇ!

痛みもそこそこにメールを開く。

[どしたのヒッキー?結衣、って改めて文字でみると照れちゃうね(*´ω`*)]

なるほど、これが顔文字の効果か。

本当のところは結局わからないが、怒っていないよ、と伝えようとしているように見える。

これも言葉の裏ということだろうか。これまでは負の面しか読もうとしていなかったが、こういうのもあるのか。

[お詫びしないとと思って。何がいいかな]

結局人任せか、という気もするが、自分だけで考えてもいい答えは出てこなかった。

すぐにスマホが振動する。

[お詫びって何の( ・◇・)?]

言いにくいな…。メールは顔を見られないのが利点だな。

きっと今の俺は変な顔をしている。

[結衣だけの特別。何か考えたいから。明日帰り時間あるか?]

[うん、大丈夫だよ(о´∀`о)どこ行くのかな(´・ω・`)?]

[決めてない。晩御飯でも食べながら話そう]

[わかったー(*´∀`)♪]

今にして思う。メールは便利だが本心を伝えるのには向かない。

言葉だけは伝えられるが、言葉だけでは伝わらないことの方が多い。

メールで告白とか何を考えていたんだ俺は…。

メールじゃなければ上手くいっていたとは全く思わないが、それでも振られた後は何か変わっていたかもしれない。

古傷が疼くような感覚に陥ってきたので布団を頭から被り、折本の顔を振り払おうとした。

「八幡、おはよー」

「おー戸塚。おはよ」

朝練を終えた戸塚と昇降口で出会った。運命に違いない。

一緒に教室へ向かいながら話す。

「八幡、なんか変わったね」

「そうか?眼鏡かけただけだぞ」

「いや見た目じゃなくてさ、見た目もなんだけど。なんて言うか、一人でいる時でも雰囲気が柔らかくなった、のかな?」

上手く説明できないのか、首を傾げきょとんとした顔になる。

かわいい(主語がなくても戸塚を指す言葉)。

「なんだそりゃ」

「言ってるの僕だけじゃないよ。前は回りを寄せ付けないような感じがあったけど、今は違う気がするよ」

最近感じる視線はこのせいなんだろうか。周囲と自分を断絶するために築いた壁の境界が曖昧になりつつあるのかもしれない。

「僕もイメージチェンジしようかなぁ」

「と、戸塚はそのままでもいいと思うぞ」

十二分にかわいいからな。だが戸塚自身はもっと男らしくなりたいと思っているのだろう。

「八幡、ちょっと眼鏡貸してくれる?」

はずして制服の袖で念入りに拭いてから手渡す。俺のかけている薄汚れた眼鏡を戸塚が…戸塚が!

「どう?」

凄まじい破壊力だ。紛争地帯を戸塚が歩くだけで世界に平和が訪れてもおかしくない。

眼鏡をかけてかわいい子というのはやはりかけなくとかわいいのだろう。

「か、似合ってるんじゃねぇか」

戸塚は窓ガラスに写った自分をいろんな角度で眺めている。

「ありがとう、でもやっぱり僕には似合わないや。八幡の方が似合ってるよ」

戸塚から眼鏡を受け取ると、つるの部分がほのかに暖かい。

戸塚の温もりを感じる。いやキモいから。自重しろ。

「ま、無理して変わらなくても戸塚は戸塚だ」

「あははっ、そうだね」

守りたい、この笑顔。

戸塚と教室に入り席につく。

教室の後ろでは結衣がいつものグループと談笑していた。

結衣と目が合ったので軽く手を振ると、向こうも控えめに小さく振り返してくれた。

三浦と海老名さんも視線を僅かにこちらへ向けたような、気がした。

昼休みを告げるチャイムが鳴った。

「ヒッキー、部室行くでしょ?」

結衣が近づいてくる。一緒に行こうということだろう。

「ああ。来いって言われてるしな…」

部室へ向けて歩き始める。俺は手ぶらのままだ。

「た、楽しみだねーゆきのんのお弁当。どんな感じなのかな、あたしのなんかと比べ物にならないんだろうな…」

声がトーンダウンしていく。

「まぁあいつ料理の腕前は本物だからな」

「だ、だよねー…」

そんな悲しい顔をしないでくれよー…。

「結衣も上達してるし、あんま気にすんなよ。お前の弁当のほうが手作り感は上だ」

「ヒッキーそれフォローのつもり?見た目がよくないって聞こえるんだけど…」

ジトっとした目でこちらを睨んでいる。

「ああ、いや、なんだ。結衣は他にいいとこいっぱいあるよ」

「むっかー!それ料理では勝てないってことじゃーん!」

地団駄を踏んで憤慨する。ちょっと可愛い。後ろから肩をバシバシ叩かれた。

「しゃあないだろそれは…勝てる未来が見えねぇよ…」

「確かにあたしもあんな風になれる気はしないなぁ…」

わかってるなら怒りをぶつけないでもらえますかね…。

部室に入ると雪ノ下と一色が座っていた。

「ゆきのんいろはちゃんやっはろー」

「こんにちは。来たわね」

「なんで一色までいるんだよ…」

「先輩、い、ろ、は」

無表情で告げる。やり直せということらしい。

「なんでいろはまでいるんだよ…」

割と素直に言えた。後輩だからだろうか。

「そりゃー雪ノ下先輩のお弁当気になりますよー。明日は私が作るんですし、参考にしないと」

こいつ一年で友達いないのかな…なんか恨みも買ってそうだし…。

みんないるところで話すことでもないし、別の機会に聞いてみるか。

結局いつもの部活の時間のように各自が席につく。

「比企谷君。これが本物のお弁当よ」

足元に置かれた袋から布に包まれた箱を取り出す。でかくね?

結ばれた布をほどき、中の箱が姿を表す。

重箱。二段。

「…お前、やっぱ常識あるけど常識ねぇな」

「どうやったらそんな一言で矛盾を起こせるの…才能かしら?」

自信満々なところ悪いが、我ながら的確な言葉だと思うぞ。

結衣といろはもドン引きしている。

「雪ノ下先輩…これはちょっと本気出しすぎじゃ…」

「え、ぇー…こんなの勝てないよ…」

「さあ、おあがりなさい」

まあ食べますけどね…。

蓋を開けると中身も異様に豪華だ。色鮮やかな見た目も食欲を一層そそる。

一段目の真ん中には伊勢海老が鎮座している。

ほんとバカじゃねぇのこいつ…そう言えば伊勢海老好きなんだったな。

「あのな…悪いんだが俺これ全部は食えねぇと思うわ…」

「そ、そう?調子に乗って作りすぎてしまったかしら…。作ってるうちに楽しくなってきちゃって…」

雪ノ下でも調子に乗ったりすることあるんだな。知らない面を見れた気がして少し嬉しくなる。

「だから、ゆ、雪乃も少し食べてくれよ。折角作ってくれたものを残したくない」

どもってしまった。やはり慣れない。結衣はどんな顔をしているだろうか。

「わかったわ…由比ヶ浜さんも一色さんも協力してもらえるかしら」

「美味しそうですし、喜んでー」

「う、うん…。でも食べるのも勿体無いぐらいだねこれ…」

全員で手をつけ始める。

雪乃の作った重箱弁当のメニューについて聞いたり話したり、話題に事欠くことはなかった。

豚の角煮とか作るのすげぇ大変なんじゃねぇのこれ…。

最後の一口を口に運び、食べ終えることができた。

「ごちそうさん。お前料理人になれるな…」

素直な感想を口にする。

「あ、ありがとう…。悪い気はしないわ…」

相変わらず素直には喜べないらしい。

「いやほんと凄かったです。雪ノ下先輩はやっぱり強敵ですね…」

そういう発言は聞こえないようにしてもらえますか。

「あたしのとは比較にならないなー、やっぱり…。もっと頑張らないと!」

結衣は落ち込みそうになっていたが、グッと気合いを入れるポーズを作って自分を鼓舞している。

「あの、雪乃。これはこれで旨いし嬉しいんだけど、もっと自分の弁当みたいな普通のでいいんじゃないか…。伊勢海老が入った学校の弁当とか、エンゲル係数どんな数字になるんだよ…」

「そ、そうね…。ちょっと調子に乗り過ぎたみたいね…反省するわ…」

雪乃は自分を恥じてか顔を背ける。

「でも、ありがとな」

顔は背けたまま、返事はない。

けど感謝の気持ちは伝わった、と思う。これだけ時間と手のかかるものを作ってもらって、嬉しくないわけがない。

「さー明日は私の番ですねー、先輩、楽しみにしてくださいね!」

「…重箱はやめとけよ」

「あんなの私には作れませんよ…悔しいけど…」

昼休みももうすぐ終わる。

「じゃあ、また放課後に」

それぞれが教室に戻る。結衣と俺は同じ教室へ。

「ゆきのんのお弁当、すごかったねやっぱり…」

「凄いけどありゃやりすぎだろ…」

「ね、ヒッキー。やっぱり、彼女にする、なら…料理うまくないと、ダメ、かな…」

詰まりながら話す結衣はどこかよそよそしい。

「…そんな発想で考えたことがないな…。上手くても困らないけど、下手だとダメってわけじゃないんじゃねぇか。下手なら俺が料理すればいいだけだしな」

「そっか…」

結衣の顔を見る。

なんでもないよ、と首を横に振った。

俺もそれから追及はせず、黙って教室へ戻った。

ここまで

小説て無駄な文をいかに削るかだと思うんだけど、
小説でもなくてただのSSだからもっと省かないとと思いながら、難しい

続きは夜で


いや、くっそくだらないこと考えまくってんのが八幡だし、今の感じでいいと思うけど
面白いし

なにこれすごい楽しい
なんでこんなにレス少ないの?

つまりもっと>>1に書けと

VIPと違って保守が必要無いし雑談過多になると自治厨が湧いてスレが荒れるから

んー、なるほど
そういう側面があるんだね
最初の方で落ちてなかったらとか書いてるの恥ずかしい
もうちょい小出しにしたほうが楽しんでもらえるんでしょーか

>>278
自分の思うように書いて欲しい
読者に合わせる必要はない

とにかく自分ペースでいいから完結させてください

なんか読んでると満足感半端なくてレスするの忘れるんだよ

おつおつー

はー、やっと書けた…
サキサキはすぐだったけどいろはすに手こずった…よくわからん…
なんか普通のラブコメになってきた
そんなつもりじゃなかったのに…

続き

帰りのHRが終わるといつものように一斉に騒がしくなる。

部活へ行く者、すぐに帰宅する者、その場でだべり始める者。

すぐに帰宅する者の中に川崎の姿があった。

自席を立って教室の扉へ向かったかと思うと急に立ち止まり、方向を変えて俺の席へ近づいてくる。

側まで来て立ち止まっているが、言葉は何もない。

「…なに?」

何か用があるのかとこちらから声をかける。

「ひゃっ…!」

何故そこで驚くんだ。

「…どしたの、お前」

こいつも本当に口下手だな…。俺に思われるって相当だぞ。

俺といいこいつといい雪乃といい、コミュニケーション能力が大分足りていない。

そんなんじゃ就活できないぞお前ら。俺もか。 最近の就活はコミュ力が全てみたいなもんだぞ。

その風潮、ほんとにどうかと思うんだけどなぁ。

新入社員諸君にも経営者目線を持って、とか舐めてるとしか思えない。

それならせめて経営者の報酬及び待遇にしてから言ってもらいたい。

それに全員が船頭を目指してどうするんだ。船頭多くして船山へ上るという名言を知らないのかよ。

いや名言じゃなくてことわざだなこれは。

はぁ、働きたくねぇなぁ。社会に出ざるを得ないなら歯車で構わないが、できれば社会に出たくないよ俺は。

俺のこの部分はたぶんこれからも変わらなそうだな…。

社会への不満を胸に渦巻かせていると、ようやく意を決したのか川崎が恐る恐る話しかけてきた。

「あ、あのさ…、今日親が出れないから、京華を迎えに行くんだけど…」

一旦区切り、息を吸い込んだ。豊かな胸元が上下する。

くっ、目が吸い寄せられるっ!なんて吸引力だ!ダイソン製か!?

大きく息を吸い込んだ割には控えめな声で続きの言葉を紡ぐ。

「…よかったら、自転車また乗せてってくんない?」

なんだ、そんなことか。余りにも慎重に言葉を選んでいるようだったから何を言われるのかと思った。

あんた、ちょっとジャンプしてみな、とかそんなの。

いやそんなわけねぇんだけどな。最初の印象こそそんな感じだったが、今はもう家族思いの優しい子だと俺は知っている。

「別にいいぞ、そのくらい」

即答する。そんなに遠くもないしな。部活で何かあるわけでもなし、少し遅れるぐらい問題ないだろう。

「あの、京華がさ、あんたのことはーちゃんはーちゃんって会いたがってて…。え、いいの?」

「自転車ならすぐだし、いいよ。行こうか」

川崎は動かない。まだ俯いて何か言いたそうに佇んでいる。

「えと、その、あり…」

「あ、すまんちょっと待ってくれ」

川崎が言いかけた言葉に口を挟む。

部室へ行くのが遅れることを伝えておかないと。教室に残っていた結衣のところへ行き声をかける。

「結衣ー、俺部室いくの少し遅れるから伝えといてくれるか。ちょっと用ができた」

「あ、うん、わかったー。ゆきのんにも言っとくね」

「助かる」

川崎の所へ戻り先程言いかけていた言葉を確認する。

「すまん、さっき何言いかけてた?」

「え、あ、いや、ありがとうって…」

川崎の言葉はたどたどしいままだ。心なしかトーンも下がっている。

「そか、どういたしまして。じゃ、行くか」

「…うん…」

消え入りそうな返事が後ろから聞こえた。

下校時刻の校門では、生徒指導の教師が帰宅する生徒に挨拶をしながら見送っていた。

二人乗りをしていると咎められるのは確実なので、川崎に先に校門から出てもらうことにした。

川崎に先に…くそっ!川崎沙紀とか紛らわしい名前しやがって!滑ってるみたいに思われるじゃないか!

俺は駐輪場へ行き自転車に跨がると、校門から出て少しだけ進む。

教師の目は届かないであろう場所に、川崎は所在なさげに立っていた。

「お待たせ」

川崎は後ろの荷台に黙って座る。

体のどこかを掴まれると思って待っていたがそれが来ない。

疑問に思い後ろを振り返ると、川崎は自分の座っている荷台を掴んでいた。

「…どしたの?」

「いや、なんでもない…。行くか」

俺の体のどこかを掴んでほしかったとは言えない。だってぼくチェリー八幡だし。

保育園へ向けてペダルを漕ぐ。

前の時と同じでお互い無言だ。無言がさほど苦にならない、この辺りも俺と川崎は似ている。

保育園までの道半ばあたりで後ろから声が聞こえた。

普段のような、興味があるんだかないんだかわからない、つまらなそうな声だ。

「ねぇ」

「ん?」

「あんたさ…由比ヶ浜と、つ、付き合ったりとか…してるの?」

ペダルを踏み外した。前もあったなこんなこと…。

べべべ別に動揺なんかしてな、ないんだからね。やだ八幡くん挙動不審っぽい。

何でこんなに動揺しているんだろう俺は。川崎からそんなことを聞かれるとは微塵も思っていなかったからだろうか。

顔がお互い見えないのが救いだ。動揺を悟られずに済む。いやもう遅いか。

冷静に、いつも通りに、と心掛けて口を開く。

「んなわけねぇだろ…そもそも彼女なんか今までいたためしがねぇよ…」

潤いの少ない生涯を送ってきました。

いや、今は全然そんなことないんだけどな。

奉仕部に入ってからは、それまでになかったようなイベントが多すぎて目が回りそうな日々を送ってきた。

何年も立った後に振り返ったときには、今の俺は何でもないと感じる、この日常ですら色づいて見えるのかもしれない。

「…そうなんだ」

腰のあたりに引っ張られるような感触があった。

少しの時間を空けて、 背中を指でなぞられるような感触が追加される。

「…くすぐったいんだが…」

「あ、ごめん…」

たぶん俺も、後ろは見ていないが、川崎も、赤くなっているんだと思う。

今の俺たちを見た人が、赤いのは夕焼けのせいだと勘違いしてくれるよう、誰にともなく少しだけ願った。

保育園に着くと川崎は自転車を降りて、待っているけーちゃんを迎えにいった。

川崎とけーちゃんを待つことしばし。二人が仲良く手を繋いでこちらへ歩いてくる。

「ほら、けーちゃん、はーちゃんだよ。挨拶」

「はーちゃん…ちがうよ?」

んん?もしかして俺もう忘れられたのか?

さすがの存在感だ。自分で言って若干傷付く。

「けーちゃん、もう忘れちゃったか?はーちゃんだぞ、八幡」

「はーちゃんちがう…」

川崎と目を見合わせて首を傾けていると、もしかして、と思いあたることがあった。

眼鏡をはずしてみる。

「はーちゃんだ!」

やはりこれか。俺眼鏡でどんだけ人相変わるんだよ。

今後尾行とかするときには変装する必要ねぇな俺。する予定はないけど。

「眼鏡かけててもはーちゃんだからなー。覚えてなー」

「うんわかった!でもべつのひとみたい…」

横で川崎は声を押し殺すようにして笑っていた。ちょっと、ちゃんと教育してもらえますかこの子。

「そうだよねー、別人みたいだよねぇ、あっははっ」

我慢できなくなったのか楽しそうな笑い声が漏れる。俺なんで笑われてるの…。

川崎とけーちゃんと、しばらくの間とりとめのない会話を続けた。

「じゃあ俺そろそろ戻るわ」

「ああ、うん。ほんとにありがとね」

川崎の口は軽い。学校ではあまり聞くことができない、気さくな声だ。

妹がいることもあるのだろう、緊張はもうしていないようだ。

「またなけーちゃん、と、さーちゃん」

さっき笑われたし、軽く仕返ししてやる。 川崎ならさぞ反応してくれるだろう。

このぐらいのからかいは許されるはずだ。

「ちょっ、あんたっ、何をっ…」

予想通りすぎる川崎の反応に、くっくっと思わず笑みがこぼれてしまう。

「じゃ、また明日」

「またねー」

「ああもぅ…じゃあね、比企谷」

二人は手を繋いだまま、けーちゃんが大きく、川崎が小さく手を振る。

俺も手を振り返してから前を向き、自転車を漕ぎ始める。

タイヤが二回転した辺りだろうか。

後ろから、さーちゃんてーいたい…と聞こえた。

夕焼けの眩しさを片手で遮りながら、 そのまま振り返らずペダルを漕ぐ足に力を込めた。

学校へ戻り部室へ向かった。

扉を開けうーすと挨拶すると、二人から挨拶が返ってきた。

「こんにちは」

「ヒッキーやっはろー」

いろはがいない。ここのところ当たり前のようにずっといたから、不覚にもいないことに違和感を覚えてしまった。

しかしあいつは生徒会長兼サッカー部マネージャーなわけで、本来であればこんな場所に入り浸っている暇などないはずなのだ。

生徒会はまだ何もない時期もたくさんあるからわかるが…あいつサッカー部のマネージャーはどうしているのだろうか。

サッカー部は毎日練習してるだろうに。

「一色さんなら生徒会のほうへ行ったわ」

聞いてもないのに雪乃が答える。聞こうとしてたのも事実だから何も言わないけど。

そんなに気にするような素振りを見せていたのだろうか。

「なんかねー、年度末の予算?とか、こないだのフリーペーパーのお金の書類で不備がー、とか言ってたよ」

「ふーん…まあ生徒会のことはあいつ自身がちゃんとやらないとな」

「そうね、推した人のためにも、彼女は頑張るべきだわ」

俺のことを言っているのはわかる。

そこに雪乃自身の、生徒会長になりたかった、という思いも含まれていたかどうかはわからなかった。

「なぁ、結衣」

「んー?なに、ヒッキー」

結衣の声は普通だが、顔にはまだ少しの恥じらいが見える。

ちょっと、早く慣れてくれないと俺も恥ずかしいんだけど…。

「あいつってサッカー部のマネージャーどうしてんだ?葉山とか戸部から何か聞いてないか?」

いろは、という名前を口にするのが気恥ずかしくて、あいつという指示代名詞になってしまった。

雪乃結衣いろはとか続けざまに呼ぶには、まだ慣れとかその他もろもろが足りない。

リア充への道は遠いな。別にそんなの目指してないけど。

「ここが終わってから行ってるみたいだよ?戸部っちが部活の帰りに、いろはちゃんとどこに行ったとか話してたもん」

なんだ、いろははいろはでちゃんとやってるんだな。 余計な心配か。

「何がそんなに気になるのかしら?」

雪乃が俺に視線を向ける。言い方は冷たいが、視線に敵意のようなものは感じられない。

純粋な興味、のように思えた。

「いや、あいつここに毎日のようにいるからな。ちゃんと他のことやれてんのかと思っただけだ」

「そう。私は…、一色さんは一色さんで、大切なものを、きちんと考えているのだと思うわ」

「そうかよ…」

雪乃の言葉を少しだけ考える。

いろはの大切にしているもの。それはこの部屋にもある、と言っていたのだ。

不意に部室の扉が開いた。

「あー、いたー。せんぱーいちょっと助けてくださいよー…」

ぐったりしたいろはが項垂れて部屋に入ってくる。

「生徒会のことなら自分でやれよ…」

「あ、先輩ちょっとだけ借りてきますねー」

俺の腕を掴んでグイグイと無理矢理引っ張る。

「おい、ちょっ、話を聞け」

扉まで引っ張られたところで、いろはが耳元に顔を近づけてきた。

秘密を話すときの囁き声だ。いつもの甘ったるさはそこにない。

「せんぱーい…デートのときの飲食代が稲村さんに納得してもらえなくて、経費で落とせないんですよ…助けて下さいよ…」

「稲村さんて誰だよ…」

つられて俺も囁き声になる。

稲村ジェーンなら知ってるぞ。古いよ。あとは平塚先生も知っているはずだ。

「生徒会の会計担当の人です…わたしの言葉だけだと、ただ遊びに行っただけとしか思えないって…。先輩も取材だったって証言してくださいよー…」

正式に共犯になれと言っているのか…。

二人が怪訝な顔をしてこちらを眺めている。うーん、どうしたものか…。

「ほんとお願いしますよ…わたしの生活費の危機なんです…」

仕方ないな…。いろはから本気のお願いをされると小町のおねだりを思い出すせいか、つい甘くなってしまう。

「はぁ…わかったよ、いくよ…」

「先輩ほんと助かりますー…」

いろはの声はいつもの調子ではなく、ホッとしたような安堵のニュアンスが感じられる。本当に困っていたようだ。

この証言は確かに俺にしかできないしな。

「たぶんすぐ戻ると思うけど、ちょっと行ってくるわ」

「はぁ…。あなた、本当に甘いのね…」

「う、うんー、わかったー… 」

二人の声からは呆れと不安が感じられた。

本当にすぐ終わらせて 戻る気ではあるが、遅くなったときにわざわざ部室に戻るのも面倒なので、鞄も持っていくことにした。

帰りには結衣と約束してるし、なんとか終わらせないと。

「ほらほら先輩、急いでくださいー」

「もう引っ張らなくても行くから…」

後ろ髪を引かれる思いで奉仕部を後にすると、いろはに手を引かれて生徒会の部屋へ連行されることになった。


問題はすぐに解決した。

フリーペーパーの製作に俺も中心となって関わっていたこともあり、会計の稲村さんへの説得に時間はかからなかった。

いろはがどうも信用されていないようだ。まぁその気持ちはよくわかるな。

あいつ経費で遊び歩くとか平気でしそうだし…。

だから第三者である俺が証言する、それだけで十分だったようだ。

だったらあのとき俺の分も領収証きってもらえばよかったよ…。

ちょっとビックリしたのは稲村ジェーンのことを考えていたら、稲村さんが稲村純だったことだ。

大したことないですね、すみません。これいろはに言っても、はぁ?って言われるだけなんだろうな。

今は生徒会長室でいろはから接待を受けているところだ。

「はー、ほんとに助かりましたー。先輩ありがとうございますー」

いろはは無事経費で落とせて安堵したのか、声はいつもの調子に戻っている。

「お前まだ信用されてないんだな…」

「面目ないです…」

まだ生徒会長になって間もないから仕方がないか。性格の問題もあるだろうが。

「さあさ、先輩。ぐぐっとどうぞ」

まるで酒のように勧めてくるが、マッ缶はそんな飲み物ではない。

マッ缶を飲むときはね、 誰にも邪魔されず、 自由でなんというか救われてなきゃあダメなんだ。 独りで静かで豊かで…。

つい名言が飛び出てしまった。これは違うか?違うな。

「なぁ、もう用も済んだし戻っていいか?」

「えー、折角ですしもうちょっと話し相手になってくださいよー。わたしは書類仕事まだ残ってるんです」

こいつは人を巻き込むのが上手い。上に立つものに必要な資質の一つだと思う。

頼られる、というのも大切だが、時として頼るということもまた大切なものだ。

文化祭のときの雪乃は頼るということが出来ず苦しんでいた。

いろははいろはで、雪乃にはないものを持っているのだろう。

「なぁ、サッカー部のマネージャーってちゃんとやれてんのか?」

いろはは書類を捲りながら答える。

「はいー、まあボチボチやってますよー。最初から最後まで、とかは出れてないですけど」

「そうか、ならいいんだ」

「なんでそんなこと聞くんですか?」

なんで、か。いろはを見てると不安になるからだと思う。

回りから望まれている自分はこうだ、こうあるべきだ。

そういう思いを感じとり、自分を欺くその姿、キャラ付けをしているいろはを見ると不安になってくるからだ。

それは口には出せない。

「いや、だってお前最近ずっと奉仕部にいるし」

「…わたし、奉仕部の部屋にいると楽で、楽しいんですよねー…」

「そんな居心地いいとは思えないけどな…」

雪乃はだいたい怖いし。結衣はだいたいアホだし。 やたら空気重くなるし。

最近フォロ谷フォロ幡の出番多いんですよね。名前見ればわかる通りあんま役に立ってないけど。

「わたし、結衣先輩も、ちょっと怖いけど雪ノ下先輩も、好きですよ」

「そうか」

少しだけ間が空く。

「もちろん、先輩も」

真面目な声だ。ドクンと心音が聞こえるほど心臓が跳ね上がる。

「みんな、わたしに対しておべっか使うこともなくて、思ってること言ってくれるじゃないですか」

「あれ、すごい心地いいんですよ、わたし。先輩たちが羨ましくて、嫉妬しちゃいます」

甘えたような声は鳴りを潜めている。

これがいろはの、飾っていない、作っていない姿なのだろう。

いろはの本音が少しだけ見えて嬉しくなる。

「お前、そっちのほうがやっぱ可愛いよ」

思っていることがつい口に出てしまった。

雰囲気に流されっぱなしだ。結衣のことをバカにできないなこれじゃ…。

「あ、ありがとう、ございます…」

「今のいろはなら葉山も何か感じると思うぞ」

思ったことをそのまま口に出してしまった、という照れ隠しに口走ってしまった言葉。

しおらしく俯いていたいろはの顔が上がる。

「先輩、本気でわたしが葉山先輩のこと好きだと思ってます?」

「いや、本気じゃねぇのに告白して振られて泣いたりは普通しねぇだろ…」

嘘だ。俺はわかっている。

俺が昔、折本を好きだと思っていたのと同じようなものだ。

俺に好意を向けていると思った、だから折本のことが好きになった。

そんなことで生じた思いは、好きという感情ではないと思う。

葉山というブランドへの憧れ。優しい性格、端正な顔立ち。

他人の理想としてのいろはは、それに牽かれた。

そうあるべきだ、と。それもまたやはり、好きという感情ではないのだと思う。

「嘘です。先輩もわかってるはずです」

いろはは思ったよりもちゃんと人を見ている。

「先輩、好きです。わたしと付き合って下さい」

真剣に、まっすぐに、言葉をぶつけるいろはの姿は、とても凛として見えた。

「…お前、なんでそんなことするんだ…」

「どういう意味ですか…?」

いろははこの告白が上手くいくとは思っていない。葉山のときもそうだ。

失敗するとわかっていながら、なんで…。

「自分でもわかってるだろ…」

「わかってますよ…。先輩たちの間には入れないんだって…。じゃあ、わたしは…」

言葉が途切れる。

「どうしたらいいんですか…」

いろはの目から涙が溢れる。

「わたしも、わたしだって…」

嗚咽が混じる。

「本物が、欲しいんです…」

心の奥底からの、ただの願い。どうしようもない願望。

偽りのないいろはも、それを求めた。

「何処にあるんだろうな…」

俺もまだ見つけられない。あるのかすらもわからない。

「せんぱい…ひっく…側に…いてください…」

「…卑怯だろ、それは…」

年下の女の子の涙を無視できるわけがない。

いろはの隣に行き、そっと柔らかい髪を撫でる。

嗚咽の声が大きくなる。

俺の胸に額を押し付けて、なおも泣きじゃくる。

しばらくいろはの頭を支えていたが、やがて静かにすすり泣くような声に変わった。

いろはが突き放すように両手を伸ばし、頭が離れる。

「…すいませんでした」

「どういたしまして」

泣き止んでくれた安心から、少しだけの笑顔を返す。

「…おかしいです、こんなの」

拗ねるような顔になった。

「わたし、これまでは弄ぶほうだったのに、弄ばれちゃってます」

「人聞きの悪いこと言うなよ…」

あと弄ぶのもやめてあげてください、本当に…。

いろはという死地へ自ら赴くことになった、過去の俺の同類達の事を思うと涙を禁じ得ない。

「葉山先輩は元々手強そうだと思ってました。先輩はちょろそうだと思ってたんですけどねー…」

目元をハンカチで拭いながら失礼なことを言う。

「失敬な…」

「でも、先輩ってやっぱり騙されやすそうです」

何を言うか。俺ほど相手の心の裏を読もうとするやつはそうはいないはずだ。

「それはないな。これは自信がある」

え、もしかして今の泣いてたのが演技だとか、そんなわけないよな?

もしそうならオスカー主演女優賞どころじゃないぞ。

あれもしかしてこんなこと考える時点で騙されてる?

なんだかよくわからなくなってきたよ…。

「じゃあ、騙されやすいかどうか、心理テストをやってみましょう」

やだ、なんか怖い…。

「わたしと立ったまま背中合わせになって、二人とも目を閉じます」

いろはは楽しそうだ。気晴らしになるかもしれないし付き合ってやろう。

「目ちゃんと閉じてますか?」

「閉じてるよ」

真っ暗です。大人しく言うことを聞く八幡くん優しい。

「じゃあ、そこから両手を横に、水平に上げます」

素直に腕を上げる。

「目は閉じたままですよ?腕は上げました?」

「ああ、やってるよ」

「じゃあ最後です。そのまま頭の中で、自分の中で四番目に大切な人を思い浮かべてください」

四番目って微妙なとこだな…。とりあえず一番は小町として…。

唇に柔らかいものが触れる。

驚いて目を開き、一歩後ろに後ずさる。

目の前にははにかむような笑顔のいろはがいた。

「ほら、騙された」

………言葉もない。恥ずかしい…。

自信がある(キリッ)じゃないですよ…。

「今日はもう解放してあげます。ありがとうございました」

ペコリと頭を行儀よく下げると、グイグイと俺を部屋の外へ押し出す。

俺といろはで扉を挟むような位置関係になったところでいろはが思いを告げる。

「わかってると思いますけど、わたし、諦めてませんから」

飾り立てた、あざといいろはの笑顔がそこにあった。

扉を閉められる。

開けるようかと腕を上げたが、開けることなく腕を下ろす。

そろそろ下校時刻だ。

結衣に連絡しておこうと、胸ポケットのスマホを取り出す。

シャツの胸の辺りが、いろはの涙で湿っていた。

ここまで

ぼくらのヒッキーがどんどん変わっていく…

あ、わかる人はわかると思うけど最後のはめぞん一刻のパクリですさーせん
どっかで使いたいなとは思ってたもので…

続きはまた明日、というか今日

乙!
近年稀に見る良ss

ただ八幡がイケメン過ぎる…

まじこの八幡誰だよww

楽しみにしてる

上でもあったけどこれほんとにお金取れるぐらいの出来じゃないかなと思う
ぜひ完結させてください

八幡の「俺は変らない」とは何だったのか……

>>326
題名は「変化を受け入れる」だよ

変化がないと成長しないんだよ。
変わらないなんて言うのは酷い傲慢、中二病だよ

>>327 見ればわかる。だから言ったんだけど……ネタにマジレスされるとは。

変なネタ放り込むやつだな

おつおつ。
でもめぞん一刻に、4番目に好きな人の心理ゲーム(ひっかけ)→キスって流れあったっけ?

いろはは八神ポジか

めぞん一刻では心理ゲーム的な部分はなしです
単純すぎたのでそのままだとヒッキーは無理かなと適当にいじりました

書いてたらはぁぁぁ結衣かわいいよぉって感じになった
続き

[今どこにいる?]

生徒会長室からなかば無理矢理追い出され、昇降口へ向けて校舎を歩きながら結衣にメールを打つ。

歩きスマホいくない。が、今は校舎で誰もいないし、と自分に言い訳をする。

でもあれは本当に危ないと思う。というか俺がわからないのは、一体何を見ているのか?という点だ。

携帯電話ならスマートフォンになる前からあった。その前はPHSがあって、俺は実物を見たことがないが、ポケベルなるものがあった時代もある。

だが、世間で一般的になるほど歩き携帯や歩きポケベル、果ては歩き新聞や歩き小説、歩き参考書なんて言葉は聞いたことがない。

最後のあたりはもはや二宮金次郎状態だ。もっとも最近の二宮金次郎は座って本を読んでいるらしいが。

金ちゃん足腰弱ったのかしら…。ゆとり教育ここに極まれり。

とにかく、ずーっと歩きスマホしてる人には一体何を見ているのか一度聞いてみたいものだ。

少なくとも俺のスマホには、そんな歩きながらも見ていたいようなものや機能はない。別に妬みではない。嘘ちょっと妬んでる。

スマホが振動し、メールの着信を告げる。

[ゆきのんと今部室でたとこー(*´∀`)ノ]

ちょうど向こうも出たところか。タイミングが合ってよかった。

[駐輪場で待ってる]

俺の方が先に駐輪場に着きそうだ。雪乃と今から顔を合わせるのもアレだし、さっさと向かってよう。

どこにいくかな…なるべく落ち着いて話せるところがいいな。

だが残念な方向に片寄った俺の知識では、女の子と落ち着いて話せるような落ち着いた店などどこを探しても出てこない。

前にいろはと行ったカフェは食事も出してたっけな…。いや、ダメだろ。

今から行くには遠いからな。いやそうじゃなくて、別の女の子と行った店にまた別の女の子と行くとか、俺の罪悪感的にも常識的にもダメな気がする。

他に出てくるのは…うぐぐ…ラーメン屋とサイゼしか出てこねぇ。なんてダメな子なんだ俺は。

女っ気の全くない過去の自分が恨めしい。やはり今の自分を苦しめるのは過去の自分だ。

未来の自分を助けるためにも、もう少しやれることをやらねば。

結局考えても俺の中で答えを出すことはできなかったので、いろいろ店を選ぶことが可能なマリピンへ行くことを提案することにした。

あそこならコミュニティーセンターの近くだし、自転車ならすぐに行けるのも都合がいい。

俺はともかく結衣をあまり遅くまで連れ回すのも、あいつの親に心配かけることになるから良くない。

「おせぇな、何やってるんだ…」

つい独り言が出てしまう。いかん、最近思考がそのまま口に出ることが多くなった気がする。

このままエスカレートすると卑猥な事まで口走りかねない。

ふと雪乃の冷酷な瞳が、脳裏に明確な映像となって思い浮かび身震いする。いや、怖いけど、別にお前で卑猥な想像はしねぇからな、たぶん。

そこからもう暫くたって、結衣にもう一度メールを打とうとスマホを取り出したところで声が聞こえた。

「ヒッキー、待たせちゃってごめーん!」

校門の方から結衣が小走りでやってくる。あれ、なんで校舎から出てこないんだ?

「おせーよ、何やってたんだ?」

はぁはぁと息を切らしながら、走ったせいかほのかに上気した顔を上げ声を出す。…色っぽい。

「はぁ…ほんと、ごめんヒッキー…はぁ…。ゆきのんと駅のほうまで一回いって、戻ってきちゃったから…」

「そういうことか…」

なるほど。雪乃に用があると言い出せず、帰る振りをして別れてから戻ってきたということか。

その気持ちは俺もわかる。俺も雪乃と顔を合わせるのを躊躇っていたからだ。

「ごめんね、ヒッキー。メール送ればよかったね…」

落ち込んだ表情で俯く。結衣のそんな顔は見ていると俺も心が痛む。

「いいよ、気にすんな」

笑顔を見せる変わりに、結衣の頭をぽんと叩く。

だ、大丈夫かな、何触ってんのとか思わないかな…。

「…ありがと。えへへ…」

よかった、拒絶はされなかったみたいだ。そんなに嬉しそうにされるとぼく恥ずかしいです。

「後ろ、乗る?」

恥ずかしさから単語のみの言葉になった。ミスターポポか。

「…うん」

おずおずという調子で結衣が荷台に跨がる。跨がる際に、いつもよりあらわになった白いふとももに目が奪われ、慌てて目を背ける。

こ、こういう時は素数を考えて心を落ち着かせるんだ。

1、2、3、4、5…ダメだこれ、カウントしてるだけじゃねぇか。

「…じゃ、行くか」

自転車を漕ぎ始める。校門を出たところで結衣が話しかけてきた。

「ね、どこいくの?」

そういえば言うの忘れてたな。

「取り敢えずマリピンに向かってる。どっか行きたいとこあればそっちにするけど」

「あ、ううん。別にないからだいじょぶ…」

何か言いたげに口ごもる。どこか行きたいところがあるが言いにくいのだろうか。

「行きたいとこあるなら遠慮せず言っていいぞ」

言ってはみたが女性ばかりのシャレオツ空間はちょっと厳しい…。いや、だいぶ厳しい。緊張のあまり体中の穴という穴から変な体液が出てしまうかもしれない。うわ俺キメェ。

「や、そうじゃなくって、ほんと違うの…。ヒッキーと一緒なら、どこでもいいよって…」

うわーん結衣かわいいよおおお!こいつも自然に男を惑わすジャグラー属性持ちなのか?

でも女子のどこでもいいは全然どこでもよくないことを俺は知っている。

私の気分を察して希望する場所に連れていって!ということだ。すげぇ理不尽。なんかムカついてきたので意地の悪いことを言いたくなる。

「どこでもいいって、サイゼでもいいのかよ」

過去の痛みから自虐的な言い方になる。うわぁ、八幡くん感じわるーい。

「うん、いいよ…」

すぐに、予想していたものと違う答えが返ってきた。

あまりにも驚いてしまい、まぬけな口調で再確認する。

「え、ほんとに?」

「…うん…?」

そうだけど、なに?というイントネーションだった。

こんな女の子がいるのか。それもこんなに近くに。

だが、サイゼでも大丈夫だよ、と本気で言われてしまうと、それよりいいところへ連れていってやりたくなるのが男というものだ。

俺もそんな一般的な男子の思考は持ち合わせている。

「サイゼいくの?」

素直な質問をぶつけてくる。ほんとにもうこの子は…。

「いかねぇよ。もっと落ち着いて話せるとこ行こう…。いいとこあったら教えてくれ」

「あ、あたしもそーゆーのよく知らないから…」

「じゃあ適当なとこ探すか…」

「…うん、わかった」

俺の腰に結衣の手が絡みつき、きゅっと力がこもる。

身体を預けてきた。背中に触れる柔らかい感触に心臓が飛び出しそうになる。

自分の鼓動の早さでペダルがより一層重く感じられた。

それっきり会話らしき会話はなく、俺たちが乗った自転車はあっという間に、二人を目的地に連れていってしまうのだった。

自転車から降りると、二人で飲食店の固まったフロアへ向けて歩く。

結衣はずっと俯き加減で気恥ずかしそうな表情を浮かべている。

落ち着かない…。

気分が悪い、という類いの気まずさではないが、どうにも心がそわそわしてしまう。

無理矢理に何か喋ると墓穴を掘ってしまうのは何度も経験しているので、強引に言葉を発しようとは思わなかった。

「あー、何食べたい?」

無難な言葉を選ぶ。

「うーん…あんまり重くないものの方がいいかな…なんかあんまり喉を通らなそうだし…」

奇遇だな、俺もだ。今なりたけのギタギタなんかとても食える気がしねぇ。

「軽いものか…パスタぐらいしか俺には思いつかねぇ…」

「う、うん。いいんじゃないかな…」

「貧困な発想しかできなくて悪いな…」

「う、ううん。大丈夫…」

とてもじゃないが弾んだ会話とは言えない。いい加減最後に…のついた話し方はやめようよ!

ちょうど小洒落た感じのパスタ専門店があった。店内もそれなりの広さがあり、特別混んでもいない。

キャンドルがメインの光源のようで、薄暗いと言える店内の雰囲気も落ち着いていそうだ。

かといってフォーマルが求められるような格式高い店でもなく、ディスプレイされているパスタの値段も手頃だ。

「ここでいいか?」

「うん、いい感じ、じゃないかな」

店員に二名、と告げて席に案内される。本日のお勧めパスタとかなんとか言っていたが全然頭に入ってこなかった。

二人とも黙ってメニューを眺める。疲れてきた…。

「結衣は何にする?」

人任せじゃダメだ。この雰囲気は自分で打破せねば。八幡くんに任せろーバリバリー!いやマジックテープじゃなくてほんとよかった。

「んーとねー…あたしはこれにしようかな…きのことチーズクリームソースのフェットチーネ」

「偉いな、フェットチーネとか知ってるんだな」

頼む、いつもの反応をしてくれ。

「そ、そのぐらい知ってるし!あれでしょ、きしめんみたいなやつっしょ!?」

あんまでかい声でそんなこと言うなよ…。でもよかった、いつもの結衣の反応だ。

「まぁ、お前からしたらそんなもんだな」

「むぅー…いじわる」

ようやく少しだけ話しやすい雰囲気に戻った。

近くにいた店員を呼び、オーダーを伝える。

結衣は丁寧にメニューを読み上げていたが、俺はメニューを指差してこれ、と伝えた。あんな長ったらしい名前いちいち読んでられるか。みんなそう思っているに違いない。

「なぁ、名前の話だけど、悪かった…ごめん」

料理が届くまでの間に伝えておこうと思った。

「あ、いや…あの雰囲気じゃ仕方ないんじゃないかな…と思う」

「お詫びに何か別のことをって思ってるんだけど…何かないかな」

「え、あ、うーん…あ、あの…ペアルック、とか…」

目をそらしてボソボソと話す。そんな恥ずかしいなら言わなきゃいいのに…。

「それはちょっと勘弁…」

完全にバカップルの領域だよそれは…。俺はまだ想いを告げてもいないのに。

「あはは、だ、だよねー…。じゃあ、なんか、お揃いのものとか…みんなにはわからないような…」

「それならまぁ…。じゃあ食べたらなんか探してみるか」

「…うん」

料理が届き、二人とも食べ始める。

これおいしーとか、ヒッキーの一口ちょうだーい、とか恥ずかしいような微笑ましいようなやり取りがありつつ食事を終えた。

食後も、なにがいいかなーとか気軽に会話を続けたが、結局見ないとなんとも、ということで店を出ることにした。

「じゃあそろそろ行くか」

自然に奢ることができると格好いいのかもしれないが、そんな甲斐性はなく各自で支払いを終えた。繰り返すが俺はバリバリではないから心配はいらない。

「あら、比企谷くんじゃなーい」

店から出たところで聞き覚えある声がしたので振り向くと、そこには無邪気な微笑をたたえた陽乃さんの姿があった。

ここまで

なんか結衣がかわいすぎて八幡がムカついてきた
眼鏡だけでそんな変わるわけねーだろバーカバーカ!地獄に落ちろ!

相変わらずいきあたりばったりだけど、ようやく朧気に終わりが見えてきました
よろしければもう少しお付き合いください
楽しんで頂ければ幸いです

だんだん書くの遅くなってるので、続きは夜かまた明日に

乙乙
結衣ちゃんマジかわいいがちょい不憫


二宮金次郎が座ってるのはマネして交通事故にあわないようにするためだよ八幡!

あとバリバリのなにが悪いんじゃー!

あねのんマジストーカーってレベルじゃねえぞ

>>244
所帯じみたものしか作れないから人に自分の料理見せるの大嫌いなんやで

ほお、なるほど…。情報ありがとです

見返してたら誤字に脱字は山ほどあるし、原作事実との齟齬がまた見つかってしまった
こういう投稿って前のを直せないのがもどかしいね…

あとまとめ速報見たら人気なくて悲しくなってきた、見るんじゃなかった…

GW中の完結を目標に頑張るよ

>>360
まとめは完結させないと伸びないよ

うす、完結目指して頑張ります
続きは明日で

予想通りだけどあねのんはやっぱ苦労した…
そんな長くもないのに疲れた…

続き

「あれ。比企谷くん。どうしたの、眼鏡なんかかけちゃって」

陽乃さんと話していると俺の裏読みセンサーが針を振り切るほどに反応していまい、いつも余計な思考させられてしまう。

この人の言葉は抑揚こそきちんとつけているが、俺には、感情を込めているように聞こえるよう、意図的にそうしている、というような印象すら受ける。

興味のあるものにだけ反応し、ちょっかいを出すという快楽主義的と呼べる行動。それすら本心かどうか見えてこない。

そうした行動を取る自分を演じていると言われても、そうかそうだったのかと納得できる。

いろはのような仮面、というような言葉ではそれこそ片付けられないものを身に纏っている。

「あー、これはただのイメージチェンジです」

感情を表に出すのは雪乃も確かに苦手だ。華奢で繊細そうで、すぐに壊れそうな容姿のこともあり、たまに人形のようにも見える。

だが今ではその奥底に確かな感情を読み取ることができ、不器用ながらも感情を伝えようと、もがいているように感じる。

それは、雪乃も俺と同じように、自分に起こりつつある変化を許容した、ということなのだろうか。

流れない水は澱み、濁り、いつかは腐ってしまう。

人もまた停滞していると、そうなってしまうのだろうか。

そうなのであれば、人は変化しなければならないのだろうか。

「へぇ、似合うじゃない。意外だね」

この人の言葉、表情からは心の奥底は見えない。

「そうですか、ありがとうございます 」

だから俺は、この人のことが心底怖い。 何一つわからないから。

「あ、ガハマちゃんもいたのねー。またデート?」

横にいたのを最初からわかっていながら、今さらそんなことを言う。

結衣じゃなければ多少気分を害してもおかしくない応対だ。だが葉山の言葉を借りるなら、陽乃さんは結衣に興味がないのだろう。

故にその興味のない対象に何を思われようと、全く意に介さない。そういうことなのだろう。

「いえ、デートだなんて、そんな… 」

答えにくそうにしている結衣の言葉を引き取る。

「ちょっと相談したいことがあったから、話しがてら夕飯食べてただけですよ」

「ふーん…。あっそう。ところで雪乃ちゃんは元気?」

ダメだ。適当なところで切り上げて離れようと思っているが会話のイニシアチブが取れない。

くそ、イニシアチブとかカタカナ語をうっかり使うだけで意識高くなってないか不安になるじゃないか。玉縄は俺に酷いことをしたと自覚する必要があると思う。たぶんもう会うことはないけど。

「そうじゃないですかね。俺にはそう見えますよ」

「ふうん…なーんか、意味ありげな言い方だね」

またこの目だ。 かつて陽乃さんは俺にこう言った。

俺がいつも人の言葉や行動の裏を読もうとしていると。そしてそれは悪意に怯えているようだと。

だが俺には、それが全てそのまま陽乃さん本人にも言えるのではないかという気がする。

今もこちらの言葉の裏にある意味を読み取ろうとしていた。

とてもそうは見えないが、この人もまた、悪意に怯えているのだろうか。

「ね、ちょっとだけお話しよっか。お姉さん奢っちゃうぞ 」

はぁ?嫌だよ、怖いし…。

「やですよ…寄りたいとこありますし」

「まあま、ちょっとだけだからさーいいじゃーん。雪乃ちゃんのこと、聞かせてよ。それに、今の比企谷くん、お姉さんもっと見てみたいな」

うっ、とたじろいだ声が出た。

陽乃さんはこれまでの印象を全てひっくり返すような、年下のような甘い上目遣いで俺に懇願の目を向ける。

この人の言葉、表情からは心の奥底は見えない。

ただ一つ、たまに陽乃さん自身が自ら、その心の奥底から見せつけるように晒け出す、悪意。

それは何から怯え、何から自分を守るために、晒け出すようにしているのか。

きっとこの人の本質は、前の俺と同じなのかもしれない。

必要以上に人と関わることを拒絶するため、そうしているのではないか。そんな気がした。

「…わかりましたよ、少しだけですよ」

隠れるようにして斜め後ろにいた結衣に顔を向け、すまん、と目で伝える。

ううん、大丈夫だよ、と優しく首を振って返す。

そうしている俺たちに向け、陽乃さんはこれまでと違う、酷薄な笑みを浮かべていた。

「よーし、行くかー」

陽乃さんの後を追って歩く。

この人はやると自分で決めると、お前らついてこいとばかりに自ら進み始める。

この人は男前すぎると思う。平塚先生とウマが合いそうなのもよくわかる。

美貌を目当てに寄ってくる、そこらの軽い男では陽乃さんの本質に触れることすらできない。戸部なら陽乃さんが一睨みするだけで口から泡を吹いて卒倒し、吹き飛び爆散してしまうだろう。勝手に爆散させてごめん戸部。

チェーン系列店のカフェの前で足を止める。MacBookを抱えた大学生がいるところではなく、もう少し落ち着いたカフェだ。

「ここでいいよね?」

聞いてはくるがこちらが返事をする前に店内に入っている。

奥まった席に案内されると、当然のように奥側を陣取る。それを見て正面に俺、隣に結衣が座る。

水を運んできたウェイターに三人が飲み物を注文し、陽乃さんが会話の口火を切った。

「にしても比企谷くん、眼鏡で随分印象変わったねぇ」

「そっすね…幼稚園児から見たら別人に見えるみたいですからね」

「なにそれ」

陽乃さんはふふっと軽い笑顔を見せる。

「いや、俺のクラスのやつの妹と面識があってですね…眼鏡かけてたら俺とは認識されなかったんですよ」

「あっはは、幼児は正直だねぇ」

「それって、川崎さんのこと?」

横の結衣が疑問を口に出す。

「おお、そうそう。けーちゃんな」

「そ、そんなこと言われてもあたしは知らないし…」

拗ねるように目をそらす。何かまずいこと言ったかな…。

「おぉ…?ふーん…」

陽乃さんが興味深そうに小さな声をあげる。

「ねぇ、二人は付き合ってるのかな?」

「どこを見てそう思うんですか…違いますよ」

動揺を悟られないように、と冷静さを装う。

「あら、そうなの。じゃあまだ雪乃ちゃんは振られたわけじゃないんだね」

「振るも振らないも、そもそも…」

何を言っていいかわからなくなり、最後は言葉にならなかった。

結衣は口を開かない。…俺は何を期待しているんだろうか。

「比企谷くんは見た目の印象は変わったけど、本質はやっぱり変わってないんだねぇ」

胸に針が刺さったような痛みを感じた。わかってはいたことなのに、何故だろう。

俺は自分の変化を受け入れた。変わろうとする意思も持った。自信も少しだけついてきている。

だが本質は変わっていない。

今ここで問われている俺の本質。それは何だ。

問題を問題として捉えることができたとき、決断を迫られたとき、先送りにして、うやむやにして、風化させて、最終的に台無しにしてしまうことだ。

もちろん俺は風化させるつもりも、台無しにするつもりもない。 だが結果的にそうなってしまう。その可能性は俺自身もわかっている。

わかっていながら、またその選択をした。

それを今、咎められている気がして。俺は一丁前にも痛みを感じている。

酷い。甘えるな。自分で選んだことだ。いや、実のところ選んですらいない。選択肢を自ら削り、選べない状況を作り上げて言い訳しているだけだ。選べなかった、と。

「どしたの二人とも、黙っちゃって」

「あ、いえ、なんでも」

どのぐらい黙っていたのだろうか。陽乃さんの声で現実に引き戻された。

「わたし雪乃ちゃんに嫌われちゃってるから何も教えてくれないのよー。何でもいいから何かないのー? 」

陽乃さんはつまらなそうに肘をつき、頭を乗せて話す。

「前も言ったかもしれませんけど、そうやって何でも知ろうとするから嫌われるんじゃないですか」

「まぁいいじゃないのー。姉としての優しい心遣いよ」

「そうは思えませんけどね…」

そのとき結衣の携帯から着信音が響いた。

「あれ、なんだろ。パパからだ…はいもしもし」

俺と陽乃さんも話すのをやめ、電話する結衣の姿を眺める。

数回頷いたところで結衣の顔が青ざめたように見えた。

「…うん、わかった。今からすぐ行く」

電話を切ると同時に鞄を掴み、立ち上がる。

「ごめんヒッキー…と陽乃さん。ママが倒れて入院したらしいから、すぐ病院行かないと」

「あら、心配ね。すぐに行ってあげなさい」

「…ですね。気にしないでいいから早く行ってやれ」

「ごめんなさい、また」

そう言って素早く振り向いていこうとする結衣を少しだけ呼び止める。

「結衣!」

振り返るのを待ってから伝える。

「また、メールする」

結衣は柔らかく悲しげな微笑みを一瞬だけ見せ、足早に立ち去っていった。

店には俺と陽乃さんが残された。どちらからともなく飲み物を持ち上げ、口に運ぶ。

「お母さんか…心配でしょうね」

「そうですね…」

陽乃さんの言い方に僅かな引っ掛かりを感じるが、何かはわからなかった。

「まあ、俺に何かできることがあるわけでもないですし」

「いくらでもあるじゃない…支えてあげるとか」

「それは、まぁ…」

「ねぇ比企谷くん。本物は見つかった?」

突然話が変わる。陽乃さんからすると繋がっているのかもしれないが、その思考は俺にはトレースできない。

「…いえ。あるのかもわからないですけど…」

「けど?」

「必死に、見つけようと醜く足掻いてはいますよ。多分、雪乃も」

言ってからしまったと思った。

「あら、雪乃かぁー…ふぅん…へぇー」

ニヤニヤしながらこちらを見つめる。恥ずかしいのでやめてください。

「君たちは、いろいろ変わってきてるのかしらねー」

君たちは、という言葉が強調されていたように聞こえた。

「事情も環境も、何も知らないで言いますけど…陽乃さんも、まだ諦めることないと思いますけどね」

呆けたような表情で目を見開く。初めて感情の動きを感じ取れたような気がした。

「君は…なんなんだろうね。人を巻き込んで変えちゃう力があるのかな」

「俺はそんな影響力のある人間じゃないですよ」

「そうだね、比企谷くん自身が影響するってわけじゃなくて…君を見てると、変わらなきゃって気になるのかも」

「俺はみんなの反面教師ってことですか」

「あはは、そんな感じそんな感じ」

その笑顔に酷薄さは感じなかった。続けて表情が変わり、静かに呟く。

「…もう少し早く君みたいな子に会えてたら、わたしも違ったのかもね…」

「…なんですかそれ。そういえば葉山にも同じようなこと言われましたよ」

「そう、隼人も…そっか、ふーん…」

その顔はとても寂しそうに、見えた。

「じゃ、そろそろわたしは行くね、ありがと」

さっと立ち上がり伝票をひらひらさせながら一人で店を出ていく。

一緒に出たところでこれ以上特に話すことがあるとは思えなかったので、俺は席を立たなかった。

結局雪乃のことなんかほとんど話してないな、と思いつつ残ったコーヒーに口をつけ、陽乃さんが離れるまでの少しの時間を稼いだ。

席を立ち店を出る。

帰りにマリピン内のちょっとした店で買い物をし、外に出ると小雨が降っていた。

「マジかよ、めんどくせぇ…」

間の悪い自分を呪う愚痴を言いながら自転車に乗る。

俺が濡れるのはさほど気にならないが、不安な心持ちであろう結衣の体が雨に晒されることを思うと、しくしくと心に痛みを感じた。

ここまで

ほとんどヒッキーの自問自答な上に話はほとんど進んでないからつまんないかも
GW中にとか思ってたけど絶対無理だ

ではまた明日か明後日あたりに


原作読んでるような気になってくるなこれ
完成したらきっと評価されるからがんばって

あねのん怖いねー

八幡が偽物である限り、本物は手に入らない。

先約があるのに後からきた女を優先するとはナチュラルにクズいなヒッキー

母親が倒れて入院すんのに随分淡白だな

言われてみればそうだけど
でも由比ヶ浜って本当に大変なときは落ち着いてそうな気もするね

面白いぞ

>>391
犬逃げたときとか八幡轢かれたときのこと思うととてもそういう子には見えないのだが

それもそうだな
なんかフォローするかもね

ええい、次はまだなのか

遅くなったー…仕事なんか嫌いだ

続き

いつもより遅い帰宅になったせいか、家に帰ったときには小町はもう部屋に戻っていた。勉強をしているのだろうか。しているはずだ。してるよね?

小町の受験ももうすぐに迫っている。俺は小町と同じ高校に通えることを楽しみにしているんだから、頼むぞ本当に。俺の妹だから信頼はしているが。

小町と顔を合わせないということは、ここのところ連日となった学校でのイベント報告をしなくて済むということで、正直今日はその方が有難い。

俺もいろいろと思うところがあるし、話すには内容が重すぎる。本当に今日だけでもいろいろあった。

心を揺さぶられる出来事ばかりでクタクタに疲れている。俺がぼっちの間、そうじゃない普通の人はこんな毎日を送っていたのか?そんなことはないと思うんだけどな…。

風呂から上がってソファで横になっていると、ふと心配そうな表情の結衣の顔が浮かぶ。今ならメールしても大丈夫だろうか。

だがもし、結衣の母親の容態が思っていたより悪かったなら。それについては何も言っていなかったが、容態が全く不明であったなら結衣はもっと慌てていてもおかしくなかった気はする。

あの様子であればさほど深刻ではなさそうだが…確信は持てない。そう考えると気楽にメールしようという気にはならなかった。

逡巡しながらうーんうーんと唸っていると、スマホが振動してメールの着信を知らせる。

もしかして結衣か?と思ってメールを見ると知らないアドレスからだった。

なんだよ紛らわしいタイミングで。スパムか、と思ったがタイトルを見ると[いろはです]と書いてある。

[センパイ、明日のお昼もちゃんと部室来てくださいね☆ ]

ちょっと待て俺アドレス教えた覚えはねぇぞ。

[何で俺のアドレス知ってんの?]

送信してスマホを置き、疲れた体をほぐすため伸びをするとスマホがまた振動する。返信早すぎだろどうなってんだ。

[ヒッキー、今大丈夫?]

結衣からだった。俺からメールすると言ったのに。

結衣のことだから先程の俺の逡巡に思い至り、俺からは送りにくいだろうとメールしてくれたのかもしれない。

[大丈夫。どうした?]

簡潔な文面を作成し送信する。やはり俺から結衣の母親の容態について尋ねるのは気が引けてしまう。結衣のほうから何か話してくれるまで待つべきだろう。

[一昨日に結衣先輩から教えてもらいました♪まずかったですか?]

今度はいろはからのメールだ。目覚まし以外でこんなに揺れてる俺のスマホは見たことねぇぞ。パンチドランカーの手並に揺れてるな。ソースははじめの一歩。

[いや、別にいい。昼に部室ってなんで?]

リア充ともなるとこんなメールのやり取りは日常茶飯事なんだろうか。いや、最近はLineとか使ってるほうが多いか。俺は興味ないからよく知らないけど。グループとかなにそれ怖い。スマホでまで拘束されたくねぇよ俺は。

[ママなんだけど、そんなに大したことなかったよ(о´∀`о) てゆーか超元気だった(*´ー`*)

ただちょっと安静にってことみたい。

それで明日から放課後は病院に行かないとだから、ちょっと部活は出れなくなるかも(ノд<)]

メールの文面を見て安心し、ほっと息を吐く。杞憂に終わって心からよかったと感じる。

[そうか、本当によかった。部活は気にしなくていいから、側にいてあげるようにしてくれ]

胸のつっかえが取れた気がして体の力が抜ける。またメールが届く。

[なんでって、お弁当ですよ!忘れてましたもしかして?]

さっきからなんで交互に来るんだ…。くれぐれも返信内容と相手を間違えないように、気を遣いながらメールを送る。

[すまん、いろいろあって忘れてた…。部室だな、わかった]

八幡くんは嘘がつけないバカ正直なのである。もうちょっと器用ならさらりと嘘をついて上手くやれるのだろうか。

[うん、ありがと。ゆきのんにも連絡しとくね(*´∀`)じゃあまた学校でヽ(´▽`)/]

それからもう暫くの間はいろはとメールのやり取りを続けていたが、気がつくといつの間にか深い眠りに落ちていた。

変な体勢のままソファで寝たせいか体が痛い。バキバキの体をほぐしながら学校へ向かう。

教室へ入ると結衣が近くにやってきた。

「やっはろーヒッキー。昨日は急にごめんね」

結衣は俺が思っていたよりもずっと元気そうだ。

「おお、おはよ。お母さんは大丈夫なのか?」

「うん、もうピンピンしてたよ。パパも電話で大したことないとは言ってたけどさー。あそこまで元気とは思わなかったよー」

なるほど。電話の時点である程度聞いていたのか。

「そうか、ならよかった。でも入院してるんだし、なるべくお母さんの側にいてやれよ」

「う、うん…。着替え持っていったりしなきゃだし、そうする。…ヒッキーにお母さんって言われると、なんか、変な感じだね…」

「そんな意味じゃないが…」

頬を赤く染めながら視線をそらす。だからそういうの照れるかはほんとやめてくださいよ…。

「じゃあ、またお昼にね、ヒッキー」


昼休みになった。結衣と部室に移動する。

ふと横を歩く結衣の手を見ると、いつものような弁当が入った袋でなくビニール袋を持っている。

「あれ、弁当じゃないのか?」

「え、あ、うん…」

なんでもないことだと思って聞いたのだが、予想外に返事に躊躇している様子だ。しばらく悩んでから小さく呟く。

「あのね、ママがいないからお弁当自分で作ろうとしたんだけど、一人じゃ全然うまくいかなくて…」

最後のほうは悔しさなのか、情けなさなのか、言葉にならなかったようだ。よく考えたらあれだけの腕前だったのが、急に一人でできるほど上達はしないだろう。

「気にすんなよ。まだ時間はこれからいくらでもあるんだ」

こんな言葉でちゃんと伝わるだろうか。

「…うん、ありがとう」

少し前向きさを取り戻した結衣の顔を見て、俺も自然な笑顔を返すことができた。

部室では雪乃といろはが既に待ち構えていた。

「来ましたねー、センパイ。ふっふっふ、これがわたしのお弁当です」

いろはは自信満々に弁当を差し出す。昨日あんなことがあったのに、何故こんなに普通でいられるのだろう。

そんないろはを見ていると、先輩も気にしないでください、と言われているような気がしてくる。

「よく味わってくださいね、センパイ」

両肘を机について手の平にあごを乗せた格好で、にこやかに微笑みをこちらに向ける。

「あんまりじっくり見られると食べにくいんだが…」

弁当箱の蓋を開ける。中身は美しく彩られたご飯とおかずがところ狭しと敷き詰められた、実に女の子らしいと表現できるものだった。

「おぉ…」

思わず感嘆の声が漏れてしまった。いろははそれを聞いてうんうんと満足げに頷いている。

雪乃と結衣も後ろに立って弁当を覗き込む。

「見た目はまあまあね…。けど、味のほうはどうかしら?」

相変わらずの負けず嫌い精神を存分に発揮しているご様子だ。

「ううっ…負けたぁー…」

結衣はガックリと肩を落とし椅子に座ると、もそもそとサンドイッチをかじり始めた。敗北宣言早いなおい。

「…いただきます」

三様の反応を示す三人を尻目に箸をつける。

鶏そぼろ、炒り卵、高菜の三色で彩られたご飯、アスパラガスのベーコン巻き…どれも見た目に負けず劣らずとても旨い。

「お前ほんとに料理できたんだな…」

「ふっふーん、どうですかどうですか。見直しましたか?」

「ああ、見直した…。子供もすごい喜びそうだな、これ」

変なことを言ったつもりは全くないが、何故かいろはが顔を赤らめもじもじし始めた。

「やだ…センパイ…。子供はまだ気が早いですよぅ…」

なんでそうなるんだ…。あとここでそんなこと言うとまた…遅かった。

「…比企谷君。卑猥な想像は今すぐに止めなさい」

してねぇよなんで俺怒られてんだよ。

「ヒッキー、最低だよ…」

結衣ータスお前もか。うかつにしゃべれなくなるじゃねぇか…食事はもっと楽しくしたほうがいいって八幡くん思うな。

何が地雷になるかわからなくなってしまったので無言で食べることにした。

三人は食べながら楽しくお喋りしている。疎外感なんか感じないぞ。俺は強い子だからな。嘘ちょっと寂しい。というか理不尽。

「そうそう、昨日ゆきのんにもメールしたけどさ、あたし今日からちょっと部活出れなくなるの」

「ええ、聞いたわ。こっちのことは気にしないで大丈夫よ」

「あれー、結衣先輩もですかー。わたしも生徒会とサッカー部がちょっと忙しくなるので、来れなくなるかもです」

「あなたは部員ではないのだし、好きにするといいわ」

「むぅー、雪ノ下先輩つーめーたーいー」

結衣もいろはもしばらく来れないのか、と思っているうちに弁当を食べ終わった。

「ごちそうさん。すげぇ上手かったよいろは。ありがとな」

「いえいえー、どういたしまして。言ってくれればいつでも作りますからね。なんなら毎日でもいいですよー?」

「いやそりゃさすがに…」

言いかけたところで雪乃と結衣から同時に声が飛んでくる。

「それは許されないわ」

「そんなのダメー!」

仲いいね君たち。でも空気を重くしないでくれると僕もう少し助かるな。

三人の視線が交錯する。わずかな時間を置いて、視線がキッという勢いで一斉に俺に向く。うわぁ…。

「誰のお弁当が一番美味しかったのか聞かせてもらえるかしら」

冷たい目ではあるが、そこには自信も感じられる。

「わたしですよねー、センパイ?」

目は笑っているが声は笑っていない。怖いよぉ…。

「ヒッキー…」

自信がないのだろう、ただ懇願するような目を向ける。

何か…何か言わなければ…。何も言わずに済ますということはできる気がしない雰囲気だ。

「味は…雪乃だ」

雪乃は勝ち誇ったように長い髪を払う。

「弁当としての見た目は…いろはだ」

いろはは複雑な顔をして頷く。

「手作り感は…結衣だ」

結衣は肩を落とす。え、褒めたはずなのに。

「ちょっとヒッキー!あたしをオチに使わないでよ!それ全然褒めてないから!うわーん!」

俺と結衣のやり取りを見て、雪乃といろはが目を細めて笑う。

「先輩なら、そんなもんですかねー」

「相変わらず煮え切らない男ね…。けど、言いたいことはちゃんと伝わったわ」

二人とも声とは裏腹に楽しそうにしている。

意図せず始まった至高のお弁当対決、ここに決着。

俺は正解を出せたんだろうか。いや、きっと違う。

また選べなかった俺を、半ば呆れられつつ許してもらっただけだ。

こんなことはこれで最後にしよう。

今回は弁当のことだから、選べないことも許せてもらえた。

しかし、人の想いに関して俺はもう、選べないという選択は許されない。

先送りにしてきた答え。今度こそ、風化させてなるものか。

ここまで

途中から最後を考え始めてここまで予定通り
ほのぼの的なのはこれで終わり、たぶん
ラストあと三回ぐらい、日曜で終われるといいなという感じ

ではまた今日か明日

乙でございます



相変わらず素晴らしすぎる

これでいいのか、俺は…

続き

部室から教室へ戻る途中、回りに人がいなくなったタイミングを見計らって結衣に話しかける。

「なぁ、昨日の話なんだけど」

「昨日?」

結衣はきょとんとして首を傾げる。

「あー、うん。お揃いのとか言ってたやつ」

「あ、あはは。結局昨日は探せなかったね、ごめんね」

「それなんだけどな、あれから…」

「待ってヒッキー。あれなんだけど…やっぱ、なしにできないかな…」

喋りかけた俺を遮るように結衣が否定する。

「え…?」

言おうとしていた言葉も、動こうとしていた手も止まる。

「よく考えたんだけどさ、ちゃんと答えももらってないのに、そういうのはやっぱちょっと変かなって…あたしから言い出したのに、ほんとごめん…」

何も言葉を発することができない。

「秘密の共有みたいで、ドキドキするのも楽しいのかもだけど…。コソコソしてるのは、あたしもだけど、ヒッキーも嫌かなって…」

ようやく思考を取り戻す。

よく考えれば、いやよく考えなくても当然だ。

宙ぶらりんのまま想いを放置されて、恋人擬きのような真似をしたところで、心から喜べる筈もない。

俺はまだ結衣の気持ちに応えていない。

「あ、ああ。そうだよな、それもそうだな…」

負け惜しみのように情けない言葉を吐く。

「だからね、ちゃんと答えが出て、またその機会があったら…。見つけたい…かな。あたしの特別」

「そうか…」

ポケットの中にある、渡そうと思っていたものを強く握り絞め、紙袋がくしゃくしゃと音を立てる感触が手に広がる。

悔しいのか、俺は。

違う。この期に及んでまだはっきりしない自分に呆れを通り越して怒りを覚えているのだ。

「だから、ヒッキー、またね」

立ち止まる俺を置いて結衣が立ち去ろうとする。

まだ手に入れていないのに、失ってしまうような気がした。

思わず結衣の手を掴んで引き留めてしまう。

「あ、その…俺は…」

何を言おうとしているんだ、俺は。

結衣は言い澱んでいる俺の目を慈しむように見つめ、そっと優しく手を振りほどく。

「今は、ダメだよ。きっと、ちゃんと考えれてないから…。ヒッキー、もう一度ちゃんと、考えて」

ゆっくり首を振りながら、俺を諭すように言葉を紡ぐ。

俺は自分の考えていることを、言おうとしていることを全て見透かされているような気がして、俯くことしかできなかった。

振りほどかれた手が力なくだらんと下に落ちる。

それが合図だったかのように結衣は振り向くと、ゆっくり歩いて俺の視界から消えていった。

ポケットにあるくしゃくしゃになった紙袋を、思わず床に叩きつけそうになったが踏み留まる。

気持ちの整理など依然できていない。俺は何を望んでいるのかもはっきりしなくなってしまった。

だが、俺は自分の、人の想いときちんと向き合わなければならない。

選ばないという選択肢は、もはやない。


放課後になると結衣は短い挨拶を残して病院へ行ってしまった。 

一人で部室へ向かい、静かに扉を開く。 
柔らかい風が部室の中を駆け抜け、中にいる部屋の主の髪を揺らす。 

斜陽の中、片手で髪を抑えながら本を読むその姿は、最初の出会いから何一つ変わらない美しさを誇り、俺の目を何度でも奪う。 

今日は結衣といろはは来ない。 

「…こんにちは」 

「…うす」

指定席につき、いつものように本を広げる。それから本に目を通してはいるのだが、全く頭に入らない。

ちょっと待て、いつの間に犯人自白したんだよ…。俺の記憶だとまだ探偵がみんなを集めたところだったぞ。

全く頭に入らない本に目を通すのを止め、同じように本を読んでいる雪乃の顔を見る。

集中しているのか雪乃の顔は動かない。

しばらく眺めていたが何か変だ。ページを繰る音がさっきから全くしない。それによく見ると目も動いておらず、本のある一点を凝視しているような気がする。

なんなんだ一体…。

「ねぇ」

全く動きのないまま声が聞こえたので、あまりに驚いて椅子から落ちそうになった。

「何をやっているの、一体…」

椅子に座り直しながら返事をする。

「そりゃこっちの台詞だ…。お前さっき本全然読んでなかったろ」

「そ、そうね。少しボーッとしていたかもしれないわ…」

「いや、そんなもんじゃなかったろ…。あまりにも動かないから人形かと思ったぞ」

「あ、あなただって私のことをボーッと見ていただけじゃない」

「気付いてたのかよ…」

「気付くわよ、あんなに見られれば…」

二人とも恥ずかしくなって顔を背ける。

不快なわけではないけど何この気まずい空間…。雪乃と二人でこんな空気になるなんてな。

ふと最初の出会いを思い出す。

「なぁ、覚えてるか。俺が最初にここに来たときのこと」

雪乃は気を取り直したように長い黒髪をかき上げた。

「覚えてるわよ…忘れるわけないじゃない、あんなの…。あなたは初対面なのに、私のことを変な女とか言ってきて、深く傷付いたものだわ…」

「自分のことを棚に上げてよく言うよ…。言っとくが俺はその千倍ぐらい罵詈雑言を受けたんだからな」

「そうだったかしら?」

わざとらしく小首を捻ってキョトンとした表情を作る。

ああ、とても懐かしい。これは私に好意を持っているんじゃないの、と話した時の顔だ。

奉仕部に二人しかいなかった短い時間。

その短い時間の中で、たくさんのことを話した。

今のように、ではないが、本音に近いこともたくさんぶつけあった。

あの頃のことを思うと、俺も、雪乃も、全然変わってしまっている。

それは個人だけでなく、俺と雪乃の関係も。

「突然黙って…どうしたの」

「いや、俺たち、変わったよなと思って」

「私が変わったのは、あなたのせいよ」

「俺は反面教師か?」

「そうね、そんなものね…」

雪乃は過去を懐かしむように、愛おしむように遠くへ目線を向ける。

部屋に夕焼けが差し赤く染まる。

「あなたは、比企谷君は、とても変わったわ…」

「今は眼鏡も掛けてるしな」

「いえ、見た目のことではなくて…。それもあるのだけれど…。あなた、最初に言った言葉、覚えていないの?」

「いろいろ話したからな、どれのことだか」

「私が変わらなければ前に進めない、と言ったらあなたは、変わるなんて現状から逃げるためだ、俺は逃げないから変わらないで踏ん張る、と言ったのよ」

思い出す。確かに言ったな、そんなこと…。

「よく覚えてるな…けど俺も覚えてる。お前はそれじゃあ誰も救われないって言ったな」

「ええ…。でも実際は、私は変われなくて、あなたは先に変わってしまった。そんな比企谷君を見ると、私も変わらないとと思ったのよ」

「俺は…変わって何かを救えたのかね…」

「私は…」

言葉に詰まって黙りこむ。俺は何も言わずに続きを待つ。

「…私は、あなたに救われたわ」

「雪乃が?」

「私はもう、理由やきっかけを他人に求めていない。私は、自分で動くことができる」

理由を与えられないと動けない。

それは少し前の俺と、雪乃だ。

「もう姉さんも、あなたのことも、追いかけていない…つもり。私は今、自分の意思で…」

雪乃が黙り込み、部室に静寂が訪れる。俯きがちな雪乃の顔は逆光でよく見えない。

「…あなたとの距離を、縮めたいと思っているわ」

好きとは言えない。

それを素直に言えるようになるには、時間が足りないから。

それを理解するには、精神があまりにも幼稚だから。

それを理解できなければ言葉にしてはならないと信じているほど、純粋だから。

それを理屈付けて自分を納得させないと動けないほど、俺は捻くれていて、雪乃は真っ直ぐだから。

真逆と言える性質だけれども、辿る思考は違えども、結局遠回りを繰り返す。

雪乃が縮めたいと言った、俺と雪乃の距離。

俺と雪乃は変わった。僅かずつだが、その距離は縮まってきている。

俺は雪乃をどう考え、どうしたいのか。

初めて選択肢がある。選ぶことができる。

選ばないこと、選べないこと、それはもうどちらも許されない。

選べ、選択しろ。比企谷八幡。

俺が欲するもの。

俺は雪乃に伝えられていない、続きを言いたかった言葉がある。

雪乃から改めて返事をもらいたいと思っていることがある。

それならば、俺の選択は。

「俺は…雪乃に言いかけて、返事を貰っていないことがあるんだ」

「…何かしら」

「そういうものなのか、知らないからよくわかんねぇんだけど…俺と雪乃はまだ、何も始まってないんじゃねぇかな…」

「どういうこと?」

「俺がお前と最初に出会って、二日目だったか」

今も鮮明に思い出すことができる。俺は雪乃に同調した。

全然似ていないのに、似ていると錯覚した。

嘘をつかず、常に真っ直ぐでいようとするその姿勢に憧れて、少しでも近づこうとして、言おうとしたが遮られた言葉。

「俺と、友達になってくれるか。雪乃」

「………そうね、今なら、構わないわ…」

雪乃は何かを諦めたかのように、ふっと笑う。

「私は今、きっと振られたのね…」

何も言い返せない。

詭弁と呼ばれても仕方がないと思っていた。

だが、忌み嫌う詭弁を使ってでも守りたいもの、手に入れたいものができてしまった。

「気にしなくていいわ。私自身が、好き、だとか…よくわかって、ないの…」

突然声が掠れるようなものになり、驚いて雪乃を見る。

頬を一筋の涙が伝っていた。

「何なのかしら、これは…」

拭いてもまた出てくる涙に雪乃が戸惑っている。

「無責任なこと言うぞ」

「あなたはいつだって無責任だわ…人のことを勝手に変えておいて…」

「俺も、雪乃も、結衣も、ついでにいろはも、奉仕部も…まだ、いくらでも変われるんだと思う」

返事はない。

涙の止まった雪乃が、目を細めて柔らかな微笑をたたえ、見つめる。

「比企谷君」

不意に雪乃が俺の名前を呼ぶ。

「私は…あと一年、奉仕部をちゃんと守るわ」

少しだけ泣き出しそうに、少女らしく微笑む。

「私と、あなたの…大切な居場所だもの」

それからは無言のまま時間が流れ、今日の部活は終了した。

扉に鍵を掛け、別れる間際に一言だけ挨拶を交わす。

「それじゃあ比企谷君、月曜日にまた…ここで」

またここで。

俺はまだ奉仕部に居られる。

胸に込み上げる想いが何らかの言葉になることはなく、無愛想な挨拶をして雪乃と別れた。

明日は土曜日だ。

月曜にまた、俺は決断し選択をする。

まだ、伝えなければならない言葉がある。

ここまで

先は見えてるので今日中に次いけそう
で、次で終わり
寂しい
ではまた

乙でございます

できたー
ううっ、人がいないっ…

続き

土日を挟んで月曜日。

休みの間もずっといろんなことを考えていた。

もう考えすぎて疲れてきたよ…。哲学者になったような気分だ。禅問答に近いとも言える。

好きってなんだ。俺は過去の告白を本物じゃないとか思ったけど、本当にそうなのか。

ほら、やっぱり哲学だよ!愛とは何か、とかそんなの知らねーよバーカバーカ!

もう知らねぇ。こんなこといくら考えてもわからないものはわからない。心の声に従うのみだ。

考えて考えて、最後に残ったもの。
俺は、俺に素直になる。

昼休みに結衣を呼び出した。

以前に結衣が俺に想いを伝えてくれた、中庭を過ぎた場所にある静かな木陰のベンチだ。

ここに来るまでの間は二人とも無言だった。

結衣も何の話かはわかっているだろうが、どんなことを言われるかはわからないからだろう。緊張している面持ちで、こちらにもそれが伝わってくる。

いや、伝わらなくても俺自身が既に緊張しまくっている。

二人並んでベンチに座る。

俺が呼び出したんだ、ちゃんと、きちんと、話さないと。

「いきなりすまん、結衣…」

「う、ううん…。なんか怖い顔してるけど、なに…かな…」

「そ、そうか。怖い顔してるか…いや、緊張してるんだ…」

結衣は怯えるような表情を見せる。

違う。俺はこんな顔させたいわけじゃない。

あと一歩、勇気を。

きっかけは些細なものだったけど、変われる、変わるんだ。

「あのな、結衣…」

「うん…」

「俺、すげぇ考えたんだけど、好きってのがなんなのか結局よくわかんなくて…」 

「この好きって気持ちが本物なのかとか、偽物なのかとか、考えれば考えるほどわからなくなって…」 

「うん…」 

何を言っているのかよくわからなくなってくる。こんなにも情けない俺にも、まだ結衣は優しく頷いてくれる。 

ちゃんと言うんだ。伝えるんだ。 

「でも、俺は嫌いなものならすぐにわかった。俺は、結衣を悲しませるもの全てが嫌いだ。結衣の悲しむ顔は見たくない。俺の知らないところで悲しむ結衣のことなんて、考えたくない」 

息が苦しい。でも、もう少しだ。 

「俺は結衣を、悲しませたくないけど、自覚なしに悲しませることも、きっとある。だから、せめて、俺の傍で悲しんでくれ。俺の傍に、ずっといて欲しいんだ」 

息を吸い込む。

「だから、結衣。これからも、俺の傍に…俺の彼女になってくれ」 

言っていることの論理も、言葉の使い方も、何もかも滅茶苦茶だ。追い詰められると俺は願望しか出てこない。まるで駄々をこねる子供のようだ。
 
「ヒッキー、ありがとう…ちゃんと言ってくれて…」 

情けなくて挫けそうな俺に向けて、感謝の言葉を与えてくれる。結衣の両目からは涙が溢れていた。 

結衣は制服の袖で涙を拭い、真剣なまなざしで俺を見つめ直す。 

「…あたしも、もう一回、ちゃんと言わなきゃ…」 

今のは多分、結衣が自分へ向けて言った言葉。

意を決したように、静かに深呼吸をする。

「あたし、由比ヶ浜結衣は…ずっと前から、比企谷八幡君のことを見ていました。もし、よかったら…彼女に、してもらえますか」 

一瞬の間を置いて放たれた結衣の言葉は、柔らかくて、力強くて、そしてどこまでも優しかった。 

返事になっているような、なっていないような言葉。 

お互いが、言いたいことをぶつけあっただけのような、会話とも呼べないような、短い対話。 

なのに、通じ合っていると感じる。言葉は、たまに不思議だ。 

どちらからともなく手を伸ばす。 

指先が触れ合う。 

女の子特有の、冷たくて、柔らかくて、細い指が俺の指と絡み合う。 

「ヒッキーの手、あったかいね…」 

なんでもない言葉なのに、急に恥ずかしくなって話題をそらす。 

「なぁ、今のであってんのか…その、告白は…。お互いちゃんと返事してない気がするんだが…」 

「いいの、たぶん、あれで…。だって、わかってる。あたしも、ヒッキーも… 」 

「そっか…」 

「ヒッキーはさ、だいたい一人で頭の中でいっぱい考えて、思ってることと違うことやったり、言ったりだから…」 

結衣は体ごと顔をこちらへ向ける。手は繋がったまま。

「ヒッキーの望んでること聞けて、嬉しいよ。たまにはそれで、いいんだよ。言いたいこととか、思ってることを、そのままあたしに聞かせて欲しいな…」 

ああ、やはりこいつには敵わない。

俺が理屈をこねくり回して作り上げた論理などやすやすと飛び越える。

心から絞り出す、純粋な感情。

それは理屈よりも論理よりも何よりも、人の、俺の心を打つ。

涙が出そうだ。みっともないところを見せたくなくて、強く歯をくいしばる。

それでも耐えられそうになくて、顔が見えないように結衣の体を抱き寄せた。

右手は繋がったまま、左手で強く抱き締める。

「俺は、今度こそ、答えを出せたのかな…」

結衣の顔がすぐ横にある。耳のすぐ近くから小さな声が聞こえる。

「うん…。正解とか、本物とか、よくわかんないけど…」

「俺は、今度こそ、ちゃんと選べたのかな…」

「うん…。ちゃんと、伝わったよ」

「そっか…」

結衣の顔が僅かに傾き、俺の耳に口を近づける。

呼吸の息遣いも聞こえる。吐息がかかってくすぐったい。

小さく、静かに、息を吐くような声で囁く。

「あたしは、今、すっごく幸せだよ」

俺もだ、と伝える代わりに俺は顔の向きを変え、結衣と最初のキスをした。

少しだけ季節は進み、三月ももうすぐ終わろうとしている。

四月から俺たちは三年生になり、新入生も入ってくる。

そしてその中には小町も、ついでに忌々しい毒虫も含まれている。

そう、小町は無事うちの高校に合格したのだ。

その時の俺の反応は…それはもう凄かったらしい。

我ながらドン引きするほどに号泣してしまったことは覚えている。

小町の合格祝いということで奉仕部その他メンバーでパーティーのようなものをやったのだが、そこでも感極まるあまり妹との一線を越えかねないような喜び方をしていたようだ。非常に残念ながら俺にその自覚はない。

それから暫くの間、みんなの目が冷たかったり蔑んでいたり軽蔑していたり、それはそれは辛かった。いやなんだよあいつらの目…猛獣か暗殺者じゃないのあいつら。

奉仕部はと言えば、特に何も変わらない。いや、不思議なほどに変わっていない。

俺が結衣と付き合っていることは取り立てて隠したりはいないが、特に報告もしていない。

僕たち、私たち付き合ってます!みたいな恥ずかしい報告はちょっと無理だし勘弁してほしい。

俺と結衣の学校での振る舞いはこれまでと特に変わらず、どちらかというとこれまでより自然になった、と思っている。たぶん…。イチャイチャしやがってあいつら…みたいに思われるほど学校ではくっついてはいない。

つまり学校以外では結構イチャイチャしてるんですけどね!やだー何言わせるんですかーもー。キモいからもう止める。

奉仕部にいる雪乃といろはは、言わずとも気が付いている。

この前などはいろはがもろに「結衣先輩のどこに惹かれたんですか?」とか聞いてきた。

真面目に答えるのも恥ずかしくて困窮してしまった俺が、「ぼ、母性的なところ?」と疑問系で割と無難な答えを述べると、結衣は「ヒッキーのエッチ!」とか訳のわからんことを言って胸を隠していた。

それを見て雪乃といろはは、ぐむむ…と言わんばかりに自分の胸を睨んでいた。あいつら気にしてたんだな…今度から紅茶にそっと牛乳を混ぜてやるか。いや確実に殴られるから止めておこう。

つーかそんなんで選んでないからね俺は。もっと純粋な…嘘ですちょっとだけあります。だって男子高校生だし。言わないけど。大は小を兼ねる、なんて素晴らしい言葉なんだ。

それがわかっている上で、今までの様に雪乃はみんなと接しているし、いろはは相変わらずちょっかいを出してくる。

多少気を遣われているのかも、という感はある。

欺瞞だの、本物だのと言ってはいたがなんのことはない。自分がその中に放り込まれてしまうと、その柔らかい気遣いがありがたく感じるものだ。奉仕部の関係は回りと少し違うのかもしれないけれど。

間違っているのかいないのか、それは誰も教えてくれないが、俺は今青春ラブコメの真っ只中にいるのだろうと思う。

俺が眺めている箱はもう空っぽじゃない。同じところからではなくて、みんなそれぞれいろんな角度から見ているけれど、同じものを見ている人がいる。それだけで十分だ。

俺と、俺だけじゃなく彼女達の変化と行動によって、人間関係にも随分変化があったように思う。

人間関係は化学変化のようなものである、と誰かが言った。 

要素同士が複雑に絡み合い、捻れ合い、作用し合う。 

そして、作用し合って一度変化してしまうと、もう二度と元には戻らない。 

まさにその通りだ。俺たちの関係もまた、何度も互いに作用し合い、その数だけ変化して、決して元には戻れない。 

それはきっと、悲しいことではあるけれど。決してそれだけじゃない。 

変化した先でも何かを見つけられる。失うことがあっても、新たなものを手にすることができる。 

無変化は、緩やかな退化だ。 

ならば進化とは、変化するということで、新たに何かを手にいれることを指すだけでなく、失うことも含めているのだろう。 

ある日のなんでもない小町との会話で受け入れることにした自分の変化。 
それは俺がかつて大事に抱えていたものを失わせ、代わりに別のものを与えてくれた。 

新しく手に入れた別のものは、どれも今の俺にとってかけがえのない大切なものとなった。 

絶対に失いたくない、と思う。 

だが、いつかは失うのかもしれない。俺たちは時に、変化することを受け入れなければならないから。 

例えば俺と雪乃。雪乃と結衣。いろはと奉仕部。そして奉仕部自体の有り様。 

それらは全てちょっとしたきっかけで変化し、姿を変えてしまうかもしれない。 

だがもし離れても、また違う形で結びつける。 

壊れても、形を変えてまた繋がれる。
もしそうだとしたら、ここに居れば大丈夫かもしれない、と根拠なく思える。

理屈では説明しきれないことをそういうものだ、と受け入れることができるとこんなに楽になるんだな。知らなかった。

長い間特別なイベントはなかった奉仕部だが、実は先日からちょっとした問題が発生していた。

部屋を占拠して部として活動しているのなら、正式な部活動として登録し、新入生の勧誘を行いなさいと平塚先生に上からお達しがあったらしいのだ。

だが、なんだかんだ言っても平塚先生はこの隔離施設に自分以外の意思を反映させたくないらしい。

同じように、他人がズカズカとこの奉仕部へ入ることをあまり良くは思わない俺たちと方向性が一致した。

その結果、平塚先生の根回しと、部長である雪乃の答弁(詭弁)が功を奏し、正式な部活動になることはなく奉仕部が継続することが決定した。

雪乃はたった今その会議を終えて部室に戻ってきたところだ。

雪乃は宣言通り、奉仕部を守ってくれたようだ。ありがとな、と心の中で感謝する。

居るのはいつもの四人。今日もいつものように奉仕部の時間が過ぎてゆく。

「ね、ヒッキー。ちゃんとした部活になることはなくなっちゃったけどさ、もしほんとに部活紹介しないといけなくなったらなんて説明するの?」 

「あ、それわたしも気になります。なんの部活なんですかここ? 」 

今さらかよ…。なんだと思って頼み事をしに来ていたんだ。 

「そもそもあなたは部員ではないから関係ないのだけれど…。そうね、比企谷君はこの部活をどう思っているのかしら」 

「えー、わたしももう部員みたいなもんじゃないんですかー?雪ノ下先輩冷たいですよぅ」 

また騒がしくなった三人を見ながら考える。 

奉仕部の説明か、考えたこともなかった。まあ俺が考えなくても、活動内容についての説明は雪乃に任せるのがいいな。それで、最後に一言付け加えるぐらいにしよう。 

俺が奉仕部に入ってから、いろんなことがあった。そして後一年、これからもいろいろなことがあるはずだ。 

もしかすると他にも、誰か新しく奉仕部に送り込まれるかもしれない。小町も顔を出すだろう。そうなると、 俺を含めこれだけ変な個性を持った面々が顔を揃えているこの部で、何も起こらないわけがない。 

ただ、もしこの部屋に新しく住人が増えるとしたら、どうせ何かを抱えていてどこか歪んでいる人間に違いない。 

それなら─── 

「今までそんなの考えたこともなかったけど、そうだな。俺なら…」 

───ちょっと変な部員達と間違った青春ラブコメを満喫できるかもしれない部活です、とでも付け加えておくかな。 

おわったー

言いたいことはいろいろあるけど人いないとこで長々書いても恥ずかしいのでちょっとだけ
読んでレスしてくれた方にはほんとに感謝です
レスなかったら絶対投げ出してた
最初に読みづらいバイバイとか言った人絶対許さない
嘘です、お陰で改行入れるようにしました超感謝

とりあえず誤字とか間違いを訂正したい場合どうすればよいか教えて下さい
それではー

おつ

お疲れ様でしたー
むちゃくちゃ面白かったです

>>○○ 訂正
なんとかかんとか

みたいな感じでいいんじゃ

おお、ありがとうございます
そうしてみます

以下訂正

>>131
> あ、そういえば俺後ろに人乗せたこととかこれまで一度もなかったな…。
→そういやこんな女の子みたいな乗り方されるの初めてだな…。

> そりゃ知らないよ!初めての体験だよ!
→削除


>>134
> 「いや全然。俺のせいだし。しかし初めて人を後ろに乗せたんだが…案外疲れるな」
→「いや全然。俺のせいだし。…初めて妹以外の女子を乗せたんだが、すげぇ緊張するな…」


>>321
> 開けるようかと腕を上げたが、開けることなく腕を下ろす。
→開けようかと腕を上げたが、結局開けることなく腕を下ろす。

他にも漢字とか呼称とか直したいとこ山ほどあるけどとりあえずはこれで…

おつかれさま~

そうだ忘れてた

>>55
のピーは殺すです

お疲れさまほんと嬉しいっす愛してます

乙~
人が少ないこと気にしてたみたいだけど、その場合はメール欄のsageを外せばだいぶ違うと思うよ
まあ変なのに目をつけられる可能性も増えるけど

乙乙
よかったよー

乙です

乙!

おつ

ほんと嬉しい
調子に乗って次書いちゃいそうなぐらい

ここまで魅せる人の作品なんてぜひ読みたいです

乙乙
凄く読了感が良かった
大体乙レス一つにつきROMが5~50人はいると思う

かなり面白かった

ガハマエンド含めて素晴らしい出来でした。
ただ、もう少しサキサキを絡ませてあげて欲しかった・・・

ガハマさんが報われるssってあまり見ないんだよね
すげえよかった

乙!

結衣が好きすぎて頭おかしくなってるんでそれ以外できなかったよ…
サキサキも書いててどんどん好きになってったけど
あまりにも長くなるとあれだし収拾つかなくなると思って…
さーちゃんてーいたいのとこで振り返ればサキサキで、
いろはの扉開いたらいろはになるような想像はしてた

ご馳走さま

乙でございます

>>483
その想像を想像のままで終わらすのはMOTTAINAI。
IFルートでも良いし、別の話でも良いからまたその内書いてくれ。

ほー、そういうのもありなんですかね
ではまたの機会に…

今回の反省
・このままのヒッキーじゃ楽しいラブコメにならんなぁと思ってちょっとイケメン寄りにするか、と思ったらやり過ぎて誰こいつってなった
・全員出してからそれなりの長さで納めて結衣が幸せになるようにしようと思ったら、割と適当なとこで精算せざるを得なかった
・そもそもssというのがどういうものかよくわかってなくて、楽しいラブコメみたいなのじゃないとダメなのかと最初思ってた

眼鏡ネタ多いなとか言われたけど他の人のはほんとまるっきり読んだことないですすいません
台本みたいなのはかけないし…
自分が思い付くようなのは誰か先に考えてるてことですね
以上を踏まえてダメかと思ってた割と真面目なやつを書き始めた
また誰かやってるようなやつかもしれないけど気にしない
そしてまたも結衣メイン

おっつー、よかったん

あとそういう反省みたいな後書きは嫌われるから気をつけて

とりあえず酉つけたら?
次回作の予定あるなら検索用に欲しいわ

ぬ、見てないうちに嬉しいレスが
反省はやめときますさーせん

由比ヶ浜結衣はまた恋をするってのが今日終わりました

あと息抜きに
いろは「おかえりなさい、せんぱい」八幡「いい加減先輩ってのは……」
ってゆー台本のやつ進行中

次は八幡人称のふざけた話書きますたぶん

酉はなんかあれなんですよ
やったことないってのと、自意識過剰感があってなんだかなんだか…

酉よりその長ったらしいレスのほうが反感買うからやめといたほうがいい

おつおつ
今更見つけて読み終わったわ
いろいろ意見あるけど是非これからも続けてほしい

このSSまとめへのコメント

1 :  SS好きの774さん   2015年05月06日 (水) 18:59:44   ID: 8j6m_z2X

なんでこんなの書けるの
すごいよこれ
にしてもまとめフィルタ全然拾えてないねこれ
読む人は解除したほうがいいよ

2 :  SS好きの774さん   2015年05月08日 (金) 07:06:45   ID: Qby8B8F9

超期待
めっちゃ楽しみ

3 :  SS好きの774さん   2015年05月08日 (金) 13:48:28   ID: ZLVXJrW6

キャラの感じが良すぎ!

4 :  SS好きの774さん   2015年05月09日 (土) 23:49:38   ID: JrtdrB_H

続き待ってます!

5 :  SS好きの774さん   2015年05月10日 (日) 00:53:55   ID: tDpubsnB

もう終わってるよ
フィルタ全然拾えてないから解除しないと見れないね

6 :  SS好きの774さん   2015年05月10日 (日) 13:36:24   ID: -dZYRrlH

このss完結済みだね

一週間程前から取得が止まってる

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