目が覚めると犬が死んでいて、手には指輪があった (9)

目が覚めると、昨日拾った犬が冷たくなっていた。

良く晴れた日の朝の事。


犬は私の隣で眠っているようで、堅くなったその身体はもう鼓動を打てなかった。

こんな犬なんの愛着もないのに何故だか涙が止まらなくて、わんわん泣いて、眼がすももみたいに晴れ上がったところで大学を休む決意をした。


私は指輪をしていた。

それまでしていなかった訳ではないけれど、見慣れないものが左手の小指にひとつ。

金のメビウス型に不思議な幾何学模様が描いてあって、見ているだけで落ち着く。


昨日拾った犬を思い出した。

横を見ると犬の亡骸はなかった。


代わりに元気に尻尾を振っている犬が側にいて、息も荒く舌を出す。


あれ、


と思いながらも生きていたことに安堵した。


おいで。


手を広げると犬は駆け寄ってきて、でも、私の前で煙のように消えてしまった。


横を見れば犬は変わらない姿で私を見ていた。

元気に舌を出して、尻尾を振って。

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おいで、ともう一度手を広げると、さっきと同じように犬は消えた。

そうか触れられないのか。


まぁ、そこまでの弊害はない。

あの毛皮に顔を埋めたりできないのは残念極まりないが、可愛いことに変わりはない。

素直だし。


犬を連れて外に出てみた。

見かけによらず賢いようで、首輪などはつけなくても私の後をひょこひょこついてくる。

健気な姿にたまらない愛おしさを感じる。


愛着もないと思っていた犬に対して、現金な奴だと自分でも思う。


道を行くと友達に出会った。


可愛い犬、というのででしょう、と自慢してやった。

犬は大人しく友達に撫でられていた。


羨ましいい奴め、飼い主である私でさえ触ったことないのに。

まぁ触れない訳だが。


あ、そうだ今度あっちの方にあるアイス食べ行こうよ!


そういって友達の肩を叩こうとすると、友達が消えた。


え。

掌を見た。

指輪はなかった。


代わりに頭の上がとても眩しく光っていて、大きくなった天輪が煌めいていた。


犬も友達も私が離れればそのままだった。


案外呆気ないものだ、と思った。

そのまま何も考えないようにしたら自然と意識を失っていった。

以上

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